(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022034300
(43)【公開日】2022-03-03
(54)【発明の名称】パワー半導体モジュールおよび電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H01L 25/07 20060101AFI20220224BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20220224BHJP
【FI】
H01L25/04 C
H02M7/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020138037
(22)【出願日】2020-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】000233273
【氏名又は名称】株式会社 日立パワーデバイス
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】増田 徹
(72)【発明者】
【氏名】早川 誠一
(72)【発明者】
【氏名】高柳 雄治
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA21
5H770BA02
5H770BA03
5H770BA20
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA41
5H770JA10X
5H770JA19X
5H770QA01
5H770QA02
5H770QA04
5H770QA05
5H770QA06
5H770QA08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】基板上のチップ配置面積を低減しつつ、モジュール内の配線インダクタンスを低減可能なパワー半導体モジュールを提供する。
【解決手段】パワー半導体モジュール1は、第1の絶縁基板10上に配置された複数の半導体スイッチング素子5と、複数の半導体スイッチング素子を挟んで、第1の絶縁基板と対向して配置された第2の絶縁基板20とを備える。複数の半導体スイッチング素子の各々は、第1の電極6と、第1の電極の反対側に設けられた第2の電極7及び制御電極8を有する。第1の電極は、第1の絶縁基板上に設けられた第1の導体層11と電気的に接続する。第2の電極は、第1のスペーサ導体31を介して第2の絶縁基板上に設けられた第2の導体層23と電気的に接続する。制御電極は、第2のスペーサ導体及びスペーサ導体間配線部33により互いに電気的に接続する。スペーサ導体間配線部は、第2の導体層と所定の距離を有して対向して配置される。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の絶縁基板と、
前記第1の絶縁基板上に配置された複数の半導体スイッチング素子と、
前記複数の半導体スイッチング素子を挟んで、前記第1の絶縁基板と対向して配置された第2の絶縁基板と、
前記複数の半導体スイッチング素子と前記第2の絶縁基板との間に配置され、前記複数の半導体スイッチング素子と前記第2の絶縁基板との間のスペーサとなる複数の第1のスペーサ導体および複数の第2のスペーサ導体と、
前記複数の第2のスペーサ導体と一体に形成され、前記複数の第2のスペーサ導体の各々を電気的に接続するスペーサ導体間配線部と、を備え、
前記複数の半導体スイッチング素子の各々は、第1の電極と、前記第1の電極の反対側に設けられた第2の電極および制御電極を有し、
前記第1の電極は、前記第1の絶縁基板上に設けられた第1の導体層に電気的に接続され、
前記第2の電極は、前記第1のスペーサ導体を介して前記第2の絶縁基板上に設けられた第2の導体層に電気的に接続され、
前記制御電極は、前記第2のスペーサ導体および前記スペーサ導体間配線部により互いに電気的に接続され、
前記スペーサ導体間配線部は、前記第2の導体層と所定の距離を有して対向して配置されていることを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載のパワー半導体モジュールにおいて、
前記制御電極は、前記第2のスペーサ導体および前記スペーサ導体間配線部により互いに電気的に接続されると共に、前記第2のスペーサ導体を介して前記第2の絶縁基板上に設けられた第3の導体層に電気的に接続されることを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項3】
請求項1に記載のパワー半導体モジュールにおいて、
前記複数の第2のスペーサ導体と前記第2の導体層の間に、前記複数の第2のスペーサ導体と共に、前記複数の半導体スイッチング素子と前記第2の絶縁基板との間のスペーサとなる絶縁層を有することを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項4】
請求項1に記載のパワー半導体モジュールにおいて、
前記所定の距離は、前記スペーサ導体間配線部と前記第2の導体層の電気的な絶縁が可能な絶縁距離であることを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項5】
請求項1に記載のパワー半導体モジュールにおいて、
前記制御電極は、ボンディングワイヤを介して、前記第2のスペーサ導体に電気的に接続されることを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項6】
請求項1に記載のパワー半導体モジュールにおいて、
前記スペーサ導体間配線部は、前記第2の導体層との間に負性の結合係数によって決定される配線間の相互インダクタンスを形成することを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項7】
請求項6に記載のパワー半導体モジュールにおいて、
前記スペーサ導体間配線部と前記第2の導体層との間の結合係数は、-1.0以上、-0.8以下であることを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項8】
請求項1に記載のパワー半導体モジュールにおいて、
前記複数の半導体スイッチング素子は、MOSFET型の素子であり、
前記第1の電極はドレイン電極、前記第2の電極はソース電極、前記制御電極はゲート電極であることを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項9】
請求項8に記載のパワー半導体モジュールにおいて、
前記複数の半導体スイッチング素子は、SiC-MOSFETであることを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項10】
一対以上の上下アームを有する主回路と、
前記上下アームを駆動する駆動回路と、を備える電力変換装置において、
前記上下アームは、請求項1から9のいずれか1項に記載のパワー半導体モジュールを有することを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワー半導体モジュールの構造に係り、特に、同一基板上に配置された複数のパワー半導体チップを多並列接続して構成するパワー半導体モジュールに適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
産業機器や電気鉄道車両、自動車、家電などの電力制御やモータ制御に、パワーMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のスイッチング素子、フリーホイールダイオード等の半導体素子を複数個用いて一つのモジュールに搭載したパワー半導体モジュールが使用されている。
【0003】
近年では、パワー半導体チップの材料にGaN(窒化ガリウム)やSiC(炭化珪素)が用いられ、Si(シリコン)を用いた半導体素子に比較してスイッチング速度の高速性や動作温度の高温性などの利点を活用しつつある。現状では、GaNやSiCの素子は素子サイズが小さいため、所定の電流容量を満足するパワー半導体モジュールを構成するためには複数のパワー半導体チップを並列接続してモジュール内の絶縁基板に実装する必要がある。
【0004】
本技術分野の背景技術として、例えば、特許文献1のような技術がある。特許文献1には、複数の半導体素子をパワー半導体モジュール内の絶縁基板上に並列実装する技術として、1つの基板上に電位の異なる複数の導電パターンを配置し、前記導電パターンの形状を鏡像の形状にするパワーモジュールが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、複数のパワー半導体素子を一対(2つ)のモジュール基板(絶縁基板)で挟み、モジュール基板の導電層を用いて複数のパワー半導体素子の電極同士を電気的に接続するパワーモジュールが開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、複数の半導体素子の例えばゲート電極をリードフレームで共通接続し、そのリードフレームからビアホールを経てゲート配線を長く配線する複数の半導体素子を含むパッケージが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-208547号公報
【特許文献2】国際公開第2015/128975号
【特許文献3】米国特許出願公開第2019/0122970号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1の
図1を参照すると、ハーフブリッジの回路を構成するチップ配置が示されており、半導体スイッチのチップのゲートを並列して配線する内側ゲート接触領域46と外側ゲート接触領域48が、チップのドレインを接続する内側金属化領域16、中間金属化領域18、外側金属化領域20と同一平面上に配置されている。
【0009】
また、上記特許文献2の
図1及び
図2を参照すると、下部基板2の上に複数の半導体チップ6が配置され、半導体チップ6の上面には電極端子11とソース電極36が形成されている。複数の半導体チップ6の電極端子11を共通に接続するために接続部材9が設けられ、複数の半導体チップ6のソース電極36を共通に接続するために接続部材10が設けられる。
【0010】
そして、接続部材9は、複数の半導体チップ6のゲート電極間の中央位置にもうけたチップ群入力端子8からモジュール入力端子5への配線長に留意することで、複数の半導体チップのゲート入力信号の遅延時間を揃えることができ、ゲート入力信号の乱れを抑える効果があると述べられている。
【0011】
また、上記特許文献3のFIG.1A及びFIG.1Bを参照すると、複数の半導体チップ(ダイ)10は図面下方向にゲート電極GAとGBが向くよう配置され、ゲート電極GAとGBにはリードフレーム130-2が共通に接続されている。さらにビア配線126を介してリードフレーム130-2とゲート引き回し配線124が接続されている。ゲート引き回し配線124は、2つの半導体チップ群(10A,10B)から引き出され、外部との接続に用いられる。リードフレーム130-2の横方向には、複数の半導体チップ10のソース電極に接続するリードフレーム130-3が配置され、空隙を配置することにより、リードフレーム130-2と130-3との絶縁が確保されている。複数の半導体チップ10のドレイン電極はスペーサ15を介して外部と接続されている。
【0012】
この構造をとることにより、ゲート引き回し配線124とソース用リードフレーム130-3とドレイン用スペーサ15をインターフェイスとするサブモジュール100を構成することができ、モジュールの内部に複数のサブモジュールを簡便に配置することができる。
【0013】
しかしながら、パワー半導体モジュールの内部構造の一例として、特許文献3の配線パターンは、異なる二つのパターン間の距離が絶縁耐電圧の仕様によって数mm(例えば1.5mm)のスペースを介して分離されることが多い。特許文献1の内側ゲート接触領域46や外側ゲート接触領域48はこの典型例である。
【0014】
このため、配線パターンとして機能する絶縁基板上の配線層は隣接する複数の配線パターンとの間にスペースを配置することになり、基板の面積が大きくなってしまう。特に、GaNやSiCの半導体チップであれば、チップ面積が小さいために多くの並列配線が必要となるため、配線パターン間のスペース確保に割り当ている面積が増大し、基板の面積が大きくなる。
【0015】
さらに、特許文献1から特許文献3で示されるゲート配線は、ソースやドレインなどの他の配線やその経路にあるリードフレームやスペーサとは磁気的結合が低いまま引き回されている。つまり、ゲート配線には経路の長さに比例したインダクタンスが発生し、ゲート電流のリターン経路となるソース配線との磁気的結合が少ない構造である。そのため、ゲート配線に生じるインダクタンス値が増大し、パワー半導体チップをスイッチング制御する際に、ゲート波形に不安定動作が発生しやすい。
【0016】
上記特許文献2及び特許文献3で例示したように、2枚のモジュール基板(絶縁基板)で複数のパワー半導体チップを挟む構造において、パワー半導体チップのゲート配線の等長化やサブモジュール構造による組み立て容易化の方策は明らかであるものの、同時に、モジュール基板の面積を低減する施策については言及されていない。
【0017】
さらに、ゲート配線の経路上に発生するインダクタンスを低減する施策についても触れられていない。
【0018】
そこで、本発明の目的は、同一基板上に配置された複数のパワー半導体チップを多並列接続して構成するパワー半導体モジュールにおいて、基板上のチップ配置面積を低減しつつ、モジュール内の配線インダクタンスを低減可能なパワー半導体モジュール及びそれを用いた電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために、本発明は、第1の絶縁基板と、前記第1の絶縁基板上に配置された複数の半導体スイッチング素子と、前記複数の半導体スイッチング素子を挟んで、前記第1の絶縁基板と対向して配置された第2の絶縁基板と、前記複数の半導体スイッチング素子と前記第2の絶縁基板との間に配置され、前記複数の半導体スイッチング素子と前記第2の絶縁基板との間のスペーサとなる複数の第1のスペーサ導体および複数の第2のスペーサ導体と、前記複数の第2のスペーサ導体と一体に形成され、前記複数の第2のスペーサ導体の各々を電気的に接続するスペーサ導体間配線部と、を備え、前記複数の半導体スイッチング素子の各々は、第1の電極と、前記第1の電極の反対側に設けられた第2の電極および制御電極を有し、前記第1の電極は、前記第1の絶縁基板上に設けられた第1の導体層に電気的に接続され、前記第2の電極は、前記第1のスペーサ導体を介して前記第2の絶縁基板上に設けられた第2の導体層に電気的に接続され、前記制御電極は、前記第2のスペーサ導体および前記スペーサ導体間配線部により互いに電気的に接続され、前記スペーサ導体間配線部は、前記第2の導体層と所定の距離を有して対向して配置されていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、一対以上の上下アームを有する主回路と、前記上下アームを駆動する駆動回路と、を備える電力変換装置において、前記上下アームは、上記の特徴を有するパワー半導体モジュールを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、同一基板上に配置された複数のパワー半導体チップを多並列接続して構成するパワー半導体モジュールにおいて、基板上のチップ配置面積を低減しつつ、モジュール内の配線インダクタンスを低減可能なパワー半導体モジュール及びそれを用いた電力変換装置を実現することができる。
【0022】
これにより、パワー半導体モジュール及びそれを用いた電力変換装置の小型化及び高性能化、高信頼化が図れる。
【0023】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1A】本発明の実施例1に係るパワー半導体モジュールの平面図及び断面図である。
【
図2A】従来のパワー半導体モジュールの平面図である。
【
図3A】従来のパワー半導体モジュールの平面図及び断面図である。
【
図5A】本発明の実施例1に係るパワー半導体モジュールの作用効果を概念的に示す図である。
【
図5B】従来のパワー半導体モジュールの作用を概念的に示す図である。
【
図6A】本発明の実施例2に係るパワー半導体モジュールの平面図及び断面図である。
【
図7A】本発明の実施例3に係るパワー半導体モジュールの平面図及び断面図である。
【
図8】本発明の実施例4に係る電力変換装置の回路構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお、各図面において同一の構成或いは類似の機能を備えた構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【実施例0026】
図1Aから
図5Bを参照して、本発明の実施例1のパワー半導体モジュールについて説明する。本実施例では、2枚の絶縁基板を用いて構成するパワー半導体モジュールの大きさ、すなわち占有面積を低減するための方策を示すとともに、モジュール内部のゲート配線に発生するインダクタンスを低減してゲート制御性を安定にできる効果について説明する。
【0027】
≪概略構成≫
図1Aに、本実施例のパワー半導体モジュール1の概略構成を示す。なお、
図1Aでは、本来見えない下層の部品配置について、便宜上点線でその配置を明示することを、予め述べておく。
図1Aは、パワー半導体モジュール1を上方からみた平面図と、平面図に記載した断面線A-A’、及び断面線B-B’における2つの断面構造図を示している。
【0028】
≪断面構造≫
本実施例のパワー半導体モジュール1は、上下に配置された2枚の絶縁基板10,20を用いて構成する。
【0029】
断面A-A’図を用いてその構造を説明する。部品を図示しない空隙は、絶縁性を有する樹脂で充填される。以降の説明では、空隙については特に必要がない限り説明を割愛する。
【0030】
パワー半導体モジュール1の下側に配置する絶縁基板10は、絶縁層12の上面に導体層11、下面に導体層13を有し、パワー半導体モジュール1の上側に配置する絶縁基板20は、絶縁層22の上面に導体層21、下面に導体層23を有する。絶縁基板20は、複数の半導体スイッチング素子5を挟んで絶縁基板10と対向して配置される。
【0031】
半導体スイッチング素子5は、一方の平面上に電極6を、他方の平面上に電極7と制御電極8を配置し、電極6から電極7の縦方向に向かって電流が流れる。電流のオン・オフは電極7の電位を基準に、制御電極8に印加される電圧によって制御される。半導体スイッチング素子5がMOSFET型の素子である場合には、電極6はドレイン電極、電極7はソース電極、制御電極8はゲート電極である。
【0032】
パワー半導体モジュール1の所定の定格電流を満足するために、半導体スイッチング素子5は複数個備えられ、絶縁基板10の導体層11に電極6を電気的に接続するよう配置される。
【0033】
スペーサ導体31は、絶縁基板10の平面に垂直方向に高さを有する導体形状を有し、半導体スイッチング素子5の電極7と絶縁基板20の下面の導体層23との間を電気的に接続する。スペーサ導体31は、機械的なスペーサとして半導体スイッチング素子5の電極7から絶縁基板20の下面の導体層23との間隙の距離を決める。スペーサ導体31と電極7および導体層23との電気的接続には、半田や焼結材料を用いた接合技術を用いる。後述するスペーサ導体32についても同様である。
【0034】
スペーサ導体32は、スペーサ導体31と同様に、絶縁基板10の平面に垂直方向に高さを有する導体形状を有し、半導体スイッチング素子5の制御電極8と絶縁基板20の下面の導体層23との間を電気的に接続する。
【0035】
スペーサ導体31とスペーサ導体32が接続される導体層23の導体パターンは別個であり、機械的に分離され、電気的にも絶縁される。ここで、スペーサ導体31が接続される導体層23の導体パターンを23a、スペーサ導体32が接続される導体層23の導体パターンを23bとする。スペーサ導体32も、機械的なスペーサとして半導体スイッチング素子5の制御電極8から絶縁基板20の下面の導体層23との間隙の距離を決める。
【0036】
≪絶縁距離のとり方≫
図1Aに示すように、パワー半導体モジュール1は、スペーサ導体32を複数個備え、複数のスペーサ導体32の間をスペーサ導体間配線部33によって接続する。スペーサ導体間配線部33は、導体パターン23aと対向して配置され、導体パターン23aとの間に、絶縁基板20の平面に垂直の方向に向かって所定の絶縁距離をもって分離される。スペーサ導体間配線部33は、半導体スイッチング素子5の電極7についても、絶縁基板20の平面に垂直の方向に向かって、所定の絶縁距離をもって分離される。
【0037】
さらに、スペーサ導体31とスペーサ導体32との間も、絶縁基板20の平面方向に向かって所定の絶縁距離をもって分離される。前述の絶縁距離を確保する都合上、スペーサ導体間配線部33は、スペーサ導体32の高さ(絶縁基板20の平面に垂直方向の長さ)のうち、下限や上限ではなく中間の高さより配線部を引き出す。
【0038】
制御電極8の電位は、電極7の電位を基準電位としてスイッチング制御し、制御電極8と電極7の間の最大電位差は数十Vに制限されるために、その電極間および配線間の絶縁距離は小さく設定して良い。この特徴から、スペーサ導体間配線部33は、スペーサ導体32が有する高さ(絶縁基板20の平面方向に垂直な方向の長さ)のうち、電極7と電気的に接続されている導体パターン23aに近接する上方(絶縁基板10より、絶縁基板20に近い部位)から配線部33を引き出す。
【0039】
これによって、スペーサ導体間配線部33と導体パターン23aとの間の磁気的結合の係数の絶対値を大きく設定することができる。別の言い方をすれば、制御電極8に電気的に接続する配線と、電極7に電気的に接続する配線との磁気的結合が大きい構造とすることができる。
【0040】
≪平面構成≫
図1Aの平面図は、パワー半導体モジュール1を上方から平面視した図である。説明の都合上、絶縁基板20を図示しない。また、絶縁基板10のうち、絶縁層12とその下面の導体層13も図示しない。
【0041】
図1Aでは、複数の半導体スイッチング素子5の配置例として、合計16個の素子を配置している。4つの半導体スイッチング素子5をそれぞれの制御電極8が配置の中央となる向きに配置したスイッチング素子群9を構成し、合計4つのスイッチング素子群9a,9b,9c,9dを絶縁基板10の導体層11上に配置した例である。
【0042】
スペーサ導体31は、4つの半導体スイッチング素子5の電極7の外形を結んだ範囲に収まる形状を有する。なお、図示した例は、4つの半導体スイッチング素子5の電極7を1つのスペーサ導体31で接続した例だが、各々の半導体スイッチング素子5毎に単独のスペーサ導体31を設けても良い。
【0043】
スペーサ導体32は、4つの半導体スイッチング素子5の制御電極8にまたがる導体形状を有する。さらに、絶縁基板20の下面に設けた導体パターン23bに接続し、スペーサとしての機械的な機能を果たす。
【0044】
導体パターン23bは、半田や焼結材料を介してスペーサ導体32と機械的に接続する導体パターンである。パワー半導体モジュール1の外部から制御電圧が印加され、スペーサ導体間配線部33を介してスペーサ導体32に到達し、その後、半導体スイッチング素子5の制御電極8へと制御電圧が伝達される。制御電流(MOSFETの場合には、ゲート電流)も同じ経路で半導体スイッチング素子5の制御電極8へと流入出する。
【0045】
前述のように、半導体スイッチング素子5がMOSFETの場合、導体パターン23aはソース電極(電極7)と同電位を有し、導体パターン23bはゲート電極(制御電極8)と同電位を有し、これらの異なる電位の導体パターン間は、機械的に分離、電気的に絶縁される。
【0046】
導体パターン23に限定した配置図を
図1Bに示す。4つのスイッチング素子群9(9a,9b,9c,9d)の配置位置に従って、スペーサ導体32を接続する導体パターン23bを島状に配置する。導体パターン23aは、導体パターン23bに絶縁距離の間隙を保った形状をとる。導体パターン23bが島状に抜けているものの、導体パターン23aは分断されることなく幅の広いパターンが得られる。導体パターン23aと23bに対応するスペーサ導体32とスペーサ導体間配線部33の形状を破線で示している。なお、
図1Bの符号51は、本発明による制御配線(ゲート配線)の引き回し構造部を示しており、その断面構造については
図5Aを用いて後述する。
【0047】
以上説明したように、本実施例のパワー半導体モジュール1では、半導体スイッチング素子5の電極6(ドレイン電極:第1の電極)は、前述の絶縁基板10の導体層11の導体パターンに半田やメタルボンディング、焼結結合等の接合手段を用いて接続し、電極7(ソース電極:第2の電極)は、前述の絶縁基板20の導体層23の導体パターン23aに同様の接続手段を用いて接続し、制御端子8(ゲート電極)は、前述のスペーサ導体間配線部33に同様の接続手段を用いて接続する。制御端子8(ゲート電極)については、例えば、ゲート引き出し部4のような絶縁基板10,20の辺縁付近の導体パターンに端子を接続する。
【0048】
≪効果≫
本実施例によって得られる2つの効果について説明する。
【0049】
スペーサ導体32を導入して制御電極8に対する配線経路を構成し、スペーサ導体間配線部33を上下に配置した2つの絶縁基板10,20の中間位置に配置することにより、スペーサ導体間配線部33を引き回すために必要な周囲導体(導体パターン23a,半導体スイッチング素子5の電極7,導体層11)との絶縁距離を絶縁基板10,20の平面方向に対して垂直方向に確保にできる。
【0050】
この配置構成により、絶縁基板10,20の平面方向の絶縁距離(半導体スイッチング素子5間の距離)を必要最小限(例えば半導体スイッチング素子5間の最小スペース)にすることができる。その結果、所定の数の半導体スイッチング素子5が占有する絶縁基板10,20の面積を小さく設計することが可能となる。これにより、パワー半導体モジュール自体の大きさ(面積)を小さくすることができる。
【0051】
【0052】
図2A及び
図2Bは、制御電極8に接続する絶縁基板上の配線を、特許文献1を参照して作図したものである。なお、
図2Bは、導体層23及び導体パターン11a,11bに限定した配置図を示している。
【0053】
図2Aは、半導体スイッチング素子5を16個並列配置する配置図である。各半導体スイッチング素子5の制御電極(ゲート電極)8は、ボンディングワイヤ35を介して絶縁基板10の導体パターン11bに接続される。半導体スイッチング素子5の電極6(ドレイン電極:第1の電極)は、絶縁基板10の導体パターン11aに接続され、半導体スイッチング素子5の電極7(ソース電極:第2の電極)は、絶縁基板20の導体層23に接続される。
【0054】
図2A及び
図2Bから明らかなように、導体パターン11は導体パターン11aと11b自身の面積と、異なった電位である導体パターン11aと11bの間に平面的にスペースをとり絶縁距離を確保する都合から、導体パターン11(11aと11bとそのスペース)に必要な面積は、
図1に示した本実施例より大きいことがわかる。
【0055】
例えば、半導体スイッチング素子5がMOSFET型の素子である場合には、電極6はドレイン電極、電極7はソース電極、制御電極8はゲート電極である。すなわち、導体パターン11aはドレイン電極の高電位が印加され、導体パターン11bは比較的低電位のゲート電極の電位が印加されることから、導体パターン11aと導体パターン11bの間のスペースは、絶縁特性確保の観点から所定の距離を設ける必要がある。その周囲を絶縁体で充填した場合に、例えば、最大1.2kVの電位差に対して、1.0mm以上のスペースが必要である。
【0056】
図3Aは、2枚の絶縁基板10,20を用いてパワー半導体モジュールを構成した場合において、
図1A及び
図1Bに示すようなスペーサ導体を導入せずに、絶縁基板の導体層を用いて、16個の半導体スイッチング素子5を配置した場合の配線構造の一例を示したものである。その配線構造は、特許文献2を参照して作図したものである。
図3A及び
図3Bの符号は、
図1A及び
図1Bと共通である。
【0057】
図3Aでは、半導体スイッチング素子5の電極7(ソース電極:第2の電極)と制御電極(ゲート電極)8を、絶縁基板20の導体層23を用いて接続する。同じ導体層23を分割して、前述の電極7(ソース電極:第2の電極)には導体パターン23aを、制御電極(ゲート電極)8には導体パターン23bを割当てる。制御電極(ゲート電極)8に電気的に接続した配線を引き回すためには、
図3Aに示すように、半導体スイッチング素子5の電極7(ソース電極:第2の電極)との絶縁距離を基板の平面方向に確保する必要がある。これは、導体パターン23bの下面と、半導体スイッチング素子5の電極7(ソース電極:第2の電極)の上面の高さが等しいので、導体パターン23aと導体パターン23bの距離が近いと、接触するか、もしくは絶縁距離が不足するためである。
【0058】
絶縁基板の垂直方向に絶縁距離を確保するスペースが無いために、絶縁基板の平面方向に絶縁距離を確保する。従って、16個の半導体スイッチング素子5のうち、一部の半導体スイッチング素子5の間隔が広くならざるを得ない。従って、
図3Aに示す絶縁基板に必要な面積は、
図1に示した本実施例より大きいことがわかる。
【0059】
図3Bに導体層23の導体パターンの形状を示す。半導体スイッチング素子5の電極7(ソース電極:第2の電極)に導体パターン23aを、制御電極(ゲート電極)8に導体パターン23bを分割して割当てた結果、導体パターン23aは導体パターン23bによって大きく分断されてしまう。
【0060】
このため、複数の半導体スイッチング素子5の電極7(ソース電極:第2の電極)が、分断されて自己インダクタンスが増した導体パターン23aを介して電気的に接続されることから、複数の半導体スイッチング素子5間の動作タイミングにずれが生じ、例えば、スイッチングをした場合には各々の半導体スイッチング素子5のスイッチング電流のアンバランスが発生する不具合が生じる。
【0061】
図1A及び
図1Bに示した本実施例の効果の1つを、
図4に示す。
図4は、16個の半導体スイッチング素子5を同じ配置条件で配置し、その半導体スイッチング素子5(チップ)の占有面積の大小を比率で纏めたものである。
【0062】
配置条件は、半導体スイッチング素子5のチップサイズは5mm角、チップ間の配置スペースは1mm、制御配線の引き回し線の幅は1mm幅、絶縁距離は1mm、半導体スイッチング素子5に接続する導体パターンの被り距離は0.5mmとした。
【0063】
図1A及び
図1Bに示す本実施例の配置を「本発明」、
図2A及び
図2Bの配置概念を「従来1」、
図3A及び
図3Bの配置概念を「従来2」とする。チップ占有平面の面積比は、「従来1」を100%の基準とすると、「従来2」では102%とほぼ変わらないのに対して、「本発明」では80%と、20%の面積低減が可能となる。
【0064】
以上が定量検討の1例である。本実施例で明らかにする本発明の効果は、スペーサ導体間配線部33を引き回すために必要な周囲導体との絶縁距離を垂直方向に確保にできる特徴から、半導体スイッチング素子5とその配線構造を備える絶縁基板の平面面積を低減できることである。
【0065】
図5A及び
図5Bは、本実施例のもう一つの効果を説明するための図である。
図5Aは、本実施例のスペーサ導体間配線部33とその周囲に配置される導体パターン23a、導体層11の配置を斜視図で示したものである。
図1Bの領域51の断面構造のうち、主要部分を示している。スペーサ導体間配線部33は、スペーサ導体32を介して半導体スイッチング素子5の制御電極(ゲート電極)8に接続する配線部である。半導体スイッチング素子5がMOSFETである場合、ゲート配線部となる。
【0066】
また、導体パターン23aは、前述のスペーサ導体31を介して半導体スイッチング素子5の電極7(第2の電極)、すなわちソース電極と電気的に接続する配線である。従って、ゲート駆動電流の主配線(A)とリターン電流配線(B)の関係にあることが明らかである。
【0067】
ゲート配線とソース配線との間の電位差は、最大数十V以内であるために、配線間の絶縁距離を短くすることができる。配線の周囲が絶縁体によって封止される場合に、その絶縁距離は0.3mm程度と小さくすることができる。スペーサ導体32の高さのうち任意の部位からスペーサ導体間配線部33を引き出することができる。そのため、導体パターン23aに対して、スペーサ導体間配線部33を絶縁距離が確保できる最小距離に配置できることから、これら配線間の磁気的結合を大きく効かせることができる。
【0068】
相互インダクタンス値は、自己インダクタンス値に結合係数Kを乗じて算出できることから、結合係数を計算すると、KA-B=-0.83であった。相互インダクタンスの絶対値の計算条件は、スペーサ導体間配線部33と導体パターン23aとのスペース=0.8mm、スペーサ導体間配線部33の幅=1mm、スペーサ導体間配線部33の厚み=0.4mmとした。
【0069】
図5Bは、
図3A及び
図3Bに示した従来の配置概念のうち、
図3Bに示した制御電極(ゲート電極)8を接続する配線部23b(配線A’)と、電極7(ソース電極:第2の電極)を接続する配線部23a(配線B’)に着目した斜視図である。
図3Bの領域52の断面構造のうち、主要部分を示している。ゲート配線部となる導体パターン23bに対し、平面方向に絶縁スペースを介してソース配線部となる導体パターン23aが両隣に並ぶ構造である。
【0070】
計算条件は、導体パターン23aと導体パターン23bとのスペース=1mm、導体パターン23bの幅=1mm、導体パターン23bの厚み=0.3mmとした。この場合も結合係数を計算すると、同じ計算条件を適用した場合に、KA’-B’=-0.68であった。従って、本実施例の構造(
図5A)のほうが、結合係数の絶対値が大きく、かつ負性であることから、相互インダクタンスを大きく発生させて、ゲート配線経路のループインダクタンスを小さく設定できる利点があることがわかる。
【0071】
以上説明したように、本実施例のパワー半導体モジュールは、第1の絶縁基板10と、第1の絶縁基板10上に配置された複数の半導体スイッチング素子5と、複数の半導体スイッチング素子5を挟んで、第1の絶縁基板10と対向して配置された第2の絶縁基板20と、複数の半導体スイッチング素子5と第2の絶縁基板20との間に配置され、複数の半導体スイッチング素子5と第2の絶縁基板20との間のスペーサとなる複数の第1のスペーサ導体31および複数の第2のスペーサ導体32と、複数の第2のスペーサ導体32と一体に形成され、複数の第2のスペーサ導体32の各々を電気的に接続するスペーサ導体間配線部33を備えており、複数の半導体スイッチング素子5の各々は、第1の電極6と、第1の電極6の反対側に設けられた第2の電極7および制御電極8を有し、第1の電極6は、第1の絶縁基板10上に設けられた第1の導体層11に電気的に接続され、第2の電極7は、第1のスペーサ導体31を介して第2の絶縁基板20上に設けられた第2の導体層23aに電気的に接続され、制御電極8は、第2のスペーサ導体32およびスペーサ導体間配線部33により互いに電気的に接続され、スペーサ導体間配線部33は、第2の導体層23aと所定の距離を有して対向して配置されている。
【0072】
また、制御電極8は、第2のスペーサ導体32およびスペーサ導体間配線部33により互いに電気的に接続されると共に、第2のスペーサ導体32を介して第2の絶縁基板20上に設けられた第3の導体層23bに電気的に接続されている。
【0073】
そして、上記の所定の距離は、スペーサ導体間配線部33と第2の導体層23aの電気的な絶縁が可能な絶縁距離である。
【0074】
また、スペーサ導体間配線部33は、第2の導体層23aとの間に負性の結合係数によって決定される配線間の相互インダクタンスを形成する。
【0075】
そして、スペーサ導体間配線部33と第2の導体層23aとの間の結合係数は、-1.0以上、-0.8以下となるようにスペーサ導体間配線部33と第2の導体層23aを配置する。
【0076】
これにより、
(1)半導体スイッチング素子の面実装効率を向上できる
(2)パワー半導体モジュール内の制御配線(ゲート配線)のインダクタンスを低減できる、という2つの特長を有する。
【0077】
従って、小型でゲート制御の安定性に優れたパワー半導体モジュールを提供することが可能となる。
【0078】
なお、半導体スイッチング素子5にMOSFET型のSiC素子(SiC-MOSFET)を用いる場合、上述したようにチップ面積が小さいため、パワー半導体モジュールの定格電流を確保するには半導体スイッチング素子5の多並列接続が必要となるが、本実施例の制御配線(ゲート配線)の引き回し構造を採用することで、パワー半導体モジュールの所望の定格電流を確保しつつ、小型化を図ることができるため、特に有効である。
本実施例は、複数の半導体スイッチング素子5の制御電極8同士を複数のスペーサ導体32で接続し、さらにスペーサ導体間配線部33によって制御電極8からの配線を引き回す構造である。実施例1との相違点は、前述のスペーサ導体32を低背にし、スペーサ導体32と絶縁基板20の下側の導体層23との間に、絶縁体34を配置していることである。
第2の効果は、モジュールの組み立ての容易性が向上することである。実施例1では、導体層23に関して、スペーサ導体32と、導体パター23bとの位置合わせが必須である。また、半田や焼結材などの意図しないはみ出しによって、絶縁不良が発生する可能性がある。本実施例では、スペーサ導体32と導体層23との位置合わせは不要な構造であるために、組み立て不良の可能性が減り、モジュール製造歩留まりが向上する利点がある。
従って、小型で制御安定性に優れる以外に、大電流が流れる経路のインダクタンスを低減し、かつ製造歩留まりが高いパワー半導体モジュールを提供することが可能となる。