(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022034359
(43)【公開日】2022-03-03
(54)【発明の名称】圧力調整弁装置
(51)【国際特許分類】
F16K 17/04 20060101AFI20220224BHJP
F16K 1/00 20060101ALI20220224BHJP
F02M 55/02 20060101ALI20220224BHJP
F02M 37/00 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
F16K17/04 F
F16K1/00 Q
F02M55/02 360G
F02M37/00 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020138116
(22)【出願日】2020-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】000143307
【氏名又は名称】株式会社荒井製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100183357
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義美
(72)【発明者】
【氏名】橋本 修司
(72)【発明者】
【氏名】坂枝 怜
【テーマコード(参考)】
3G066
3H052
3H059
【Fターム(参考)】
3G066BA32
3G066CB07S
3G066CD17
3H052AA01
3H052BA26
3H052CA22
3H052CA33
3H052CC03
3H059AA04
3H059BB30
3H059CA27
3H059CD05
3H059EE01
3H059FF13
(57)【要約】
【課題】弁体におけるシール面側に、ゲートカット後のエグレやバリなどが生じず、従来技術の抱えていた不具合を解消し得る圧力調整弁装置を提供する。
【解決手段】ハウジング内に、燃料流路領域と、弁体を配するシール領域と、付勢手段を配する付勢手段領域と、を備えて構成された圧力調整弁装置であって、弁体9は、コイルスプリング21を受ける受け面13aとシール部17を固着する固着面13bとを有する金属製のベース部11と、ベース部11の固着面13bに固着されるシール部17と、で構成されており、ベース部11は、受け面13aから固着面13bにわたって貫通した連通路15を有し、シール部17は、ベース部11の固着面13bに固着されるシール部本体17aと、連通路15内に充填されて配設されるとともにシール部本体17aと一体成形されてなる連結強化部17bと、を含んでいる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内に、燃料流路領域と、弁体を配するシール領域と、付勢手段を配する付勢手段領域と、を備えて構成され、燃料圧力が付勢手段の付勢力よりも強くなると弁体が弁座から離れ、燃料通路が連通して適切な燃料圧力を維持する圧力調整弁装置であって、
前記弁体は、硬質材からなり、一方の面が付勢手段を受ける受け面で、前記受け面と背中合わせ状に位置する他方の面部がシール部を固着する固着面であるベース部と、
軟質材からなり、前記ベース部の固着面に固着されるシール部と、で構成されており、
前記ベース部は、前記固着面以外の面部から前記固着面にわたって貫通した連通路を有し、
前記シール部は、前記ベース部の固着面に固着されるシール部本体と、
前記連通路内に充填されて配設されるとともに前記シール部本体と一体成形されてなる連結強化部と、を含むことを特徴とする圧力調整弁装置。
【請求項2】
前記連通路は、前記ベース部の前記受け面側から前記固着面側にわたって貫通して形成され、前記受け面側に位置する開口が、軟質材を射出するゲート部が当接する流入口として機能することを特徴とする請求項1に記載の圧力調整弁装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量増加に伴う圧力上昇を最小限に抑える圧力調整弁装置における弁体の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば内燃式燃料噴射システムは、通常、インジェクタで適切な燃料圧力を維持するために、圧力調整弁装置を備えている。
【0003】
特許文献1には、所定の筒形状を有するハウジング1内に、燃料流路領域A1と、弁体9を配するシール領域A2と、コイルスプリングなどの付勢手段21を配する付勢手段領域A3と、を備えて構成された圧力調整弁装置が開示されている(
図5参照。)。
この圧力調整弁装置にあっては、コイルスプリング21の付勢力によってシール領域A2内にて弁体9が弁座19に圧接されてシールしているが、燃料圧力がコイルスプリング21の付勢力よりも強くなると弁体9が弁座19から離れ、流入口3から流出口5まで燃料通路7が連通する(
図5参照。)。
【0004】
この種の圧力調整弁装置に用いられている弁体9は、金属製のベース部11の一方の面部、すなわちコイルスプリング21を受ける面部(受け面)13aと反対側で、弁座19と対向する側の面部(固着面)13bにゴム製のシール部17を一体に備えて構成されている(
図6参照。)。
特許文献1をはじめ、従来のこの種の圧力調整弁装置に用いられている弁体9は、弁座19に対向する側のベース部11の面部(固着面)13bに向けてゲート部23からゴム材を直接射出注入してシール部17を一体成形している(
図6(a)(b)参照。)。
【0005】
しかし、弁座19と対向する側のベース部11の面部(固着面)13bに向けて、ダイレクトゲート方式によってゲート部23からゴム材を射出注入してシール部17を一体成形しているものであったため、ゲートカット後、シール部17の表面、すなわちシール面17a´側には、エグレ跡(凹み)E1やバリB1などが形成される(
図6(b)参照。)。
シール部17と弁座19との当接形態は、
図5に示す形態以外も多々あり、例えば、シール面17aの中心領域であったり、シール面17aの全域であったりとするものもあったため、このエグレ跡E1やバリB1などをそのままにしておくとシール性を損なう虞があった。この不都合を解消するため、所定の治具を使用してカット仕上げ(仕上げ加工)などをする必要があった。
このように従来技術では、別途仕上げ加工などの作業が必要となり、手続が面倒かつ煩雑であるばかりか作業時間ロスをも招いていた。
【0006】
また、仕上げ加工した後の除去ゴミ(カットゴミ)などがシール部17の表面17a´に多少でも付着していた場合には、弁体9のシール性を損なう虞を有していたため、仕上げ加工後のチェック作業が必要でさらなる作業時間のロスを招いていた。
さらに、金属製のベース部11とゴム製のシール部17とは、所定の接着剤を介して一体化していたが、金属とゴムとの接着性があまり良くないことからこの点の改良も望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためになされており、その目的とするところは、弁体におけるシール面側に、ゲートカット後のエグレやバリなどが生じず、かつベース部との良好な一体化を得ることができ、従来技術の抱えていた不具合を解消し得る圧力調整弁装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するために、第1の本発明は、ハウジング内に、燃料流路領域と、弁体を配するシール領域と、付勢手段を配する付勢手段領域と、を備えて構成され、燃料圧力が付勢手段の付勢力よりも強くなると弁体が弁座から離れ、燃料通路が連通して適切な燃料圧力を維持する圧力調整弁装置であって、
前記弁体は、硬質材からなり、一方の面が付勢手段を受ける受け面で、前記受け面と背中合わせ状に位置する他方の面部がシール部を固着する固着面であるベース部と、
軟質材からなり、前記ベース部の固着面に固着されるシール部と、で構成されており、
前記ベース部は、前記固着面以外の面部から前記固着面にわたって貫通した連通路を有し、
前記シール部は、前記ベース部の固着面に固着されるシール部本体と、
前記連通路内に充填されて配設されるとともに前記シール部本体と一体成形されてなる連結強化部と、を含むことを特徴とする圧力調整弁装置としたことである。
【0010】
第2の本発明は、第1の本発明において、前記連通路は、前記ベース部の前記受け面側から前記固着面側にわたって貫通して形成され、前記受け面側に位置する開口が、軟質材を射出するゲート部が当接する流入口として機能することを特徴とする圧力調整弁装置としたことである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、弁体におけるシール面側に、ゲートカット後のエグレやバリなどが生じず、従来技術の抱えていた不具合を解消し得る圧力調整弁装置を提供することができる。すなわち、本発明によれば、ベース部の受け面側に位置する開口にゲート部を当接するとともに、ベース部内を貫通して形成した連通路を介してベース部の固着面側にシール部を射出成形するものであるため、シール部のシール面(弁座対向面)側に、ゲートカット後のエグレやバリなどが生じてしまう不都合もない。また、そのエグレやバリなどを処理する仕上げ工程も不要となるため、作業者の労力軽減及び作業コストの軽減に寄与する。
また、仕上げ工程が不要であるため、バリなどの除去くずがシール面に残ってしまうこともない。従って、シール性を損なうといった不都合も解消される。また、仕上げ加工後のチェック作業も不要となり作業時間の軽減ともなる。
さらに、ベース部の受け面側から固着面側にわたって貫通成形されている連通路内に、シール部本体と一体成形される連結強化部が形成されているため、金属などの硬質材からなるベース部とゴムなどの軟質材からなるシール部との良好な一体化を図ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明圧力調整弁装置の一実施形態を示す概略断面図で、弁体による燃料流路のシール状態を示す。
【
図2】本発明の一実施形態を示す概略断面図で、燃料流路の連通状態を示す。
【
図3】(a)は本発明を構成する弁体の一実施形態を示す概略断面図で、(b)は弁体の他の実施の一形態を示す概略断面図である。
【
図4】本実施形態の弁体の製造方法の一例を示す概略断面図である。
【
図6】従来の圧力調整弁装置を構成する弁体の製造方法の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
なお、本実施形態は本発明の一例にすぎずなんらこれに限定解釈されるものではなく、本発明の範囲内で設計変更可能である。
【0014】
本実施形態では、本発明の一例として、内燃式燃料噴射システムに備えられる圧力調整弁装置を想定する。
【0015】
本実施形態の圧力調整弁装置は、所定の筒形状を有するハウジング1内に、燃料流路領域A1と、弁体9を配するシール領域A2と、コイルスプリングなどの付勢手段21を配する付勢手段領域A3と、を備えて構成され、燃料圧力がコイルスプリング21の付勢力よりも強くなると弁体9が弁座19から離れ、燃料通路7が連通して適切な燃料圧力を維持する圧力調整弁装置の一例を示す(
図1及び
図2参照。)。図中、符号3は流入口、5は流出口、7は燃料流路を示す。
図1は、コイルスプリング21の付勢力によってシール領域A2内にて弁体9が弁座19に圧接されてシールしている状態を示し、
図2は、燃料圧力がコイルスプリング21の付勢力よりも強くなり、弁体9が弁座19から離れ、流入口3から流出口5まで燃料通路7が連通している状態を示す。
なお、本発明は弁体9の構造に特徴を有するものであり、弁体9以外の構造にあっては
図5に示す従来周知の構造がそのまま採用可能であるため、従来技術の構造をそのまま援用し、本明細書における詳細な説明は省略する。
また、付勢手段21は、コイルスプリングに限定解釈されず、従来周知の付勢手段が本発明の範囲内で適宜設計変更可能である。
【0016】
弁体9は、金属などの硬質材からなるベース部11と、ゴムなどの軟質材からなるシール部17と、で構成されており、本発明では、ベース部11の受け面13a側からゴム材を射出注入してベース部11の固着面13b側にシール部17を一体成形することに特徴を有している(
図3(a)参照。)。
【0017】
ベース部11は、ハウジング1の付勢手段領域A3を構成する円筒状のスプリング収納空間の内壁に、側面13cの下端外周面が摺接可能な短尺円筒状に形成された本体13と、本体13の受け面13aから固着面13bにわたって貫通する所定径の連通路15と、で構成されている(
図1乃至
図3参照。)。本実施形態では、本体13の軸中心位置に連通路15が直管状に貫通成形されている。
ベース部11は樹脂材を採用することも本発明の範囲内である。
【0018】
シール部17は、ゴム材からなり、ベース部11の固着面13b側にて、所定厚みの平坦円板状に形成されるとともに、その外周縁に円環状にリップ部17cが連続して突設されたシール部本体17aと、シール部本体17aのシール面17a´側(弁座と対向する面側)と反対側の面部、すなわち、固着面対向側の面部17a´´の軸中心位置から、ベース部11の連通路15内に連続して連結強化部17bが形成されている(
図1乃至
図3参照。)。リップ部17cは、弁座19と対向する位置に突設されている。
本実施形態においてシール部本体17aは、
図3(a)に示すように、ベース部11の外径よりも小径に形成されている。また、シール部本体17aの厚みは任意である。
シール部17は樹脂材を採用することも本発明の範囲内である。
【0019】
連結強化部17bは、連通路15内に充填されて固着されたゴム材であってシール部本体17aと一体で円柱状に形成されている(
図3(a)参照。)。
連結強化部17bの長さ及び太さ(径)は任意であって本発明の範囲内で設計変更可能である。
【0020】
ここで本実施形態の圧力調整弁装置における弁体の製造方法の一例を
図4に示す概略図をもって説明する。
【0021】
まず、射出成形金型のキャビティ(空洞)内にベース部11をインサートする(
図4(a))。
そして、ベース部11の受け面13a側に位置する連通路15の開口15aにゲート部23を当接させる(
図4(a))。
このとき、受け面13a側に位置する連通路15の開口15aがゴム流入口として機能する。
そして、ゲート部23から開口15aを介して連通路15内にゴム材を射出注入する(
図4(b))。
このとき、連通路15a自体がランナとして機能する。
連通路15内に射出注入されたゴム材は、ベース部11の固着面13b側に位置する開口(ゴム流出口)15bから、ベース部11の固着面13b側に形成されている所定形状のキャビティ(空洞)に注入されてシール部本体17a及びリップ部17cを固着面13b側に一体成形する(
図4(b))。このとき、連通路15内に充填されたゴム材はシール部本体17aと一体に成形されて連結強化部17bが形成される。
そして、ゲートカット後、ベース部11の受け面13a側に位置する連通路15の開口15aには、連結強化部17bの端部にエグレ部E1が形成される場合もある(
図4(c))が、シール面側ではないため本装置のシール性には影響がない。また、エグレ部E1が形成されたとしても、エグレ部E1に対するカット仕上げをする必要もない。
【0022】
本実施形態によれば、ベース部11の受け面13a側に位置する開口15aにゲート部23を当接するとともに、ベース部11内を貫通して形成した連通路15を介してベース部11の固着面13b側にシール部17を射出成形するものであるため、シール部17のシール面(弁座対向面)17a´側に、ゲートカット後のエグレ跡やバリなどが生じてしまう不都合もない。
また、そのエグレ跡やバリなどを処理する仕上げ工程も不要となるため、作業者の労力軽減及び作業コストの軽減に寄与する。
また、仕上げ工程が不要であるため、バリなどの除去くずがシール面17a´に残ってしまうこともない。従って、シール性を損なうといった不都合も解消される。
さらに、ベース部11の受け面13a側から固着面13b側にわたって貫通成形されている連通路15内に、シール部本体17aと一体成形される連結強化部17bが形成されているため、金属などの硬質材からなるベース部11とゴムなどの軟質材からなるシール部17との良好な一体化を図ることができた。
【0023】
本実施形態においてベース部11は固着面13bを平坦な面部としているが、シール部本体17aとの強固な固着(接着)を図るために所定の凹凸面とすることも本発明の範囲内である。例えば、固着面13aに多数の凹部を設けたり、梨地面形状としたりすることが想定可能である。
【0024】
本実施形態において連結強化部17bは単数でもって説明したが、これに何等限定解釈されるものではなく、ベース部11の強度を低下させない範囲において連通路15を複数設けることによって、連結強化部17bを複数形成することも可能で本発明の範囲内である。連結強化部17bを複数設けることとすれば、ベース部11とシール部17との一体化を向上させることもできる。
【0025】
連結強化部17bは、錐状に形成される場合も本発明の範囲内である。
例えば、受け面13a側から固着面13b側に行くにしたがって径が小さくなる円錐状に形成する。この場合、ベース部11の連通路15を、受け面13a側の開口(ゴム流入口)15aから固着面13b側の開口(ゴム流出口)15bに行くにしたがって径が小さくなる円錐状に形成すれば上記した円錐状の連結強化部17bが形成される(
図3(b)参照)。
このような形態に連結強化部17bを形成することにより、連結強化部17bが連通路15内から抜け落ちてしまう虞もないため、シール部17とベース部11の一体化(接着性)を向上することとなる。
また、ベース部11の連通路15を蛇行状に形成することにより蛇行状の連結強化部17bを提供することも可能で、これによってもベース部11とシール部17との一体化に寄与する。
【0026】
また、連通路15は、本実施形態では、ベース部11の受け面13a側から固着面13b側にわたって貫通して形成されているが、これに限定解釈されるものではなく、ベース部11の受け面13a以外の面部からベース部11の固着面13bにわたって貫通して形成されるものであれば本発明の範囲内である。
例えば、ベース部11の側面13cの所定位置から固着面13bにわたって貫通する連通路15とすることも可能である。この場合にあっては、側面13cに位置する連通路15の開口がゲート部23の当接するゴム流入口として機能することとなる。また、これらの連通路を複数組み合わせることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、種々の圧力調整弁装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 ハウジング
3 流入口
5 流出口
7 燃料流路
9 弁体
11 ベース部
13 本体
13a 受け面
13b 固着面
15 連通路
17 シール部
17a シール部本体
17a´ シール面
17b 連結強化部
19 弁座
21 付勢手段(コイルスプリング)
23 ゲート部