(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022034368
(43)【公開日】2022-03-03
(54)【発明の名称】熱転写フィルム
(51)【国際特許分類】
B44C 1/17 20060101AFI20220224BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20220224BHJP
B41M 5/395 20060101ALI20220224BHJP
B41M 5/385 20060101ALI20220224BHJP
B41M 5/392 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
B44C1/17 E
B29C45/14
B41M5/395 300
B41M5/395 400
B41M5/385 300
B41M5/385 400
B41M5/392 300
B41M5/392 400
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020138127
(22)【出願日】2020-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】田辺 淳也
(72)【発明者】
【氏名】正田 亮
(72)【発明者】
【氏名】戸出 良平
(72)【発明者】
【氏名】山嵜 司
【テーマコード(参考)】
2H111
3B005
4F206
【Fターム(参考)】
2H111AA26
2H111AA33
2H111BA03
2H111BA32
2H111BA61
2H111BB06
3B005EB01
3B005EC01
3B005FA04
3B005FB23
3B005FB25
3B005FC07Z
3B005FE04
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3B005FG04X
3B005GA02
3B005GB03
4F206AA24
4F206AA39
4F206AB17
4F206AD08
4F206AD09
4F206JA07
4F206JB19
4F206JL02
(57)【要約】
【課題】優れた転写性を有し、転写後の被転写体の温度上昇を抑えることが可能な熱転写フィルムを提供する。
【解決手段】印刷層と、基材層と、を有する熱転写フィルムであって、印刷層が、樹脂バインダーと、顔料と、を含有し、樹脂バインダーは、厚さ10μmのフィルムとした際に、波長980~1580nmの赤外線の最大吸収率が5%以下であり、印刷層は、厚さ4.5μmのポリエチレンテレフタレートフィルムと積層して積層体とした際に、当該積層体が下記要件(1)~(3)を満たす、熱転写フィルム。
(1)D65光源の光透過率が35%以下である。
(2)波長980~1580nmの赤外線の最小反射率が20%以上である。
(3)波長980~1580nmの赤外線の最大吸収率が30%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷層と、基材層と、を有する熱転写フィルムであって、
前記印刷層が、樹脂バインダーと、顔料と、を含有し、
前記樹脂バインダーは、厚さ10μmのフィルムとした際に、波長980~1580nmの赤外線の最大吸収率が5%以下であり、
前記印刷層は、厚さ4.5μmのポリエチレンテレフタレートフィルムと積層して積層体とした際に、当該積層体が下記要件(1)~(3)を満たす、熱転写フィルム。
(1)D65光源の光透過率が35%以下である。
(2)波長980~1580nmの赤外線の最小反射率が20%以上である。
(3)波長980~1580nmの赤外線の最大吸収率が30%以下である。
【請求項2】
前記顔料が、無機複合酸化物を含む、請求項1に記載の熱転写フィルム。
【請求項3】
前記顔料が、黒色顔料である、請求項1又は2に記載の熱転写フィルム。
【請求項4】
前記顔料の含有量が、前記印刷層の全量を基準として10~70質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱転写フィルム。
【請求項5】
前記樹脂バインダーが、エポキシ樹脂を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱転写フィルム。
【請求項6】
平均粒子径が300nm以下であるシリカを更に含有し、
前記シリカの含有量が、前記印刷層の全量を基準として0.1~20質量%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱転写フィルム。
【請求項7】
前記要件(1)における前記光透過率が10%以下であり、前記要件(2)における前記最小反射率が40%以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の熱転写フィルム。
【請求項8】
前記印刷層の厚さが4μm以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の熱転写フィルム。
【請求項9】
インモールド成形用又はTOM成形用である、請求項1~8のいずれか一項に記載の熱転写フィルム。
【請求項10】
サーマルヘッドプリンタ用である、請求項1~8のいずれか一項に記載の熱転写フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱転写フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の内装部品及び外装部品の加飾は、車体の軽量化や製造ラインでの工数削減の観点から、塗装レス・メッキレスの加飾が注目されている。塗装レス・メッキレスの加飾方法としては、加飾フィルムの加飾層を熱転写することで部品を加飾する方法が知られている。加飾フィルムを用いた加飾方法としては、例えば、TOM成形(Three dimension Overlay Method:3次元表面被覆成形)が知られており、様々な素材に対して加飾層が形成された立体成形体を得ることが可能である。その際、素材となる樹脂等が持つ色味を隠蔽し、加飾の意匠性を十分に発現させるために、加飾層の下地層として黒色等の印刷層が形成される。
【0003】
黒色の印刷層を有する加飾フィルムとしては、例えば、カーボンブラックを含む黒色層を備えた加飾フィルムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような加飾フィルムにより部品を加飾すると、カーボンブラックを含む黒色層が形成された部品が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、自動車等の車内空間には高い快適性が求められている。しかしながら、炎天下に駐車した自動車の車内温度は急激に上昇し易く、気温35℃の炎天下における車内の熱中症指数は、窓を閉め切った状態でエンジン停止後、わずか15分で人体にとって危険なレベルに達するという報告もなされている。温暖化の影響もあり車内の温度環境は悪化しているが、温度環境改善のためにエアコンを使用して快適な空間を作り出す場合、多くのエネルギーを消費し、CO2の排出量を増加させ、温暖化をさらに加速させるという悪循環が生まれることとなる。
【0006】
そのため、自動車等の車両の内装部品及び外装部品には、太陽光等に曝された場合であっても温度上昇し難いことが望まれる。しかしながら、上記特許文献1に記載されたような加飾フィルムにより加飾された部品は、黒色層が光を吸収することで温度上昇し易い傾向がある。そのため、このような部品を自動車の内装部品又は外装部品として用いた場合、車内の温度が上昇し易く、快適な空間を維持することが困難となる。
【0007】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた転写性を有し、転写後の被転写体の温度上昇を抑えることが可能な熱転写フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本開示は、印刷層と、基材層と、を有する熱転写フィルムであって、上記印刷層が、樹脂バインダーと、顔料と、を含有し、上記樹脂バインダーは、厚さ10μmのフィルムとした際に、波長980~1580nmの赤外線の最大吸収率が5%以下であり、上記印刷層は、厚さ4.5μmのポリエチレンテレフタレートフィルムと積層して積層体とした際に、当該積層体が下記要件(1)~(3)を満たす、熱転写フィルムを提供する。
(1)D65光源の光透過率が35%以下である。
(2)波長980~1580nmの赤外線の最小反射率が20%以上である。
(3)波長980~1580nmの赤外線の最大吸収率が30%以下である。
【0009】
上記熱転写フィルムによれば、優れた転写性を有しつつ、更に印刷層が、厚さ10μmのフィルムとした際に、波長980~1580nmの赤外線の最大吸収率が5%以下である樹脂バインダーと、顔料とを含み、厚さ4.5μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに当該印刷層を積層して積層体とした際に、当該積層体が上記要件(1)~(3)を満たすことにより、転写後の被転写体の温度上昇を抑えることが可能となる。そして、このような熱転写フィルムを用いて自動車等の内装部品又は外装部品を加飾することで、部品が太陽光等に曝された場合に、赤外波長の光線吸収による発熱を抑え、車内の温度上昇を抑制して快適な空間の実現に貢献することができると共に、印刷層が下地層となることで加飾による意匠性を向上させることが可能となる。更に、上記熱転写フィルムによれば、自動車等の車内温度環境を改善できることから、エアコンの使用エネルギーを削減し、CO2の排出量を減少させ、地球温暖化への対策として貢献することが可能となる。
【0010】
上記熱転写フィルムにおいて、上記顔料が、無機複合酸化物を含むことが好ましい。顔料が無機複合酸化物を含むことで、転写前の被転写体が持つ色味を印刷層により十分に隠蔽することができ、加飾の意匠性をより向上できると共に、被転写体の温度上昇をより抑制することができる。
【0011】
上記熱転写フィルムにおいて、上記顔料が、黒色顔料であることが好ましい。顔料が黒色顔料であることで、転写後の被転写体に黒色の印刷層を形成することができる。黒色の印刷層は、白色の印刷層に比べて可視光の反射率が低いため、被転写体の意匠性を向上させることができる。特に、上記黒色の印刷層を備える熱転写フィルムにより自動車等の内装部品を加飾した場合、明るさが抑えられた落ち着いた車内空間を実現し易い。
【0012】
上記熱転写フィルムにおいて、上記顔料の含有量が、上記印刷層の全量を基準として10~70質量%であることが好ましい。顔料の含有量が上記範囲内であることにより、転写後の被転写体の温度上昇をより抑えることができる。
【0013】
上記熱転写フィルムにおいて、上記樹脂バインダーが、エポキシ樹脂を含むことが好ましい。樹脂バインダーが、エポキシ樹脂を含むことで、熱転写フィルムの転写性がより向上する。
【0014】
上記熱転写フィルムにおいて、上記印刷層が、平均粒子径が300nm以下であるシリカを更に含有し、シリカの含有量が、上記印刷層の全量を基準として0.1~20質量%であることが好ましい。印刷層がシリカを含むことにより、熱転写フィルムの印刷層の厚さが大きい場合でも、優れた転写性を維持できる。
【0015】
上記熱転写フィルムにおいて、上記要件(1)における上記光透過率が10%以下であり、上記要件(2)における上記最小反射率が40%以上であることが好ましい。光透過率が10%以下であり、赤外線の最小反射率が40%以上であることで、転写後の被転写体の温度上昇を抑えつつ、印刷層が下地層となることで加飾による意匠性をより向上させることができる。
【0016】
上記熱転写フィルムにおいて、上記印刷層の厚さが4μm以下であることが好ましい。印刷層の厚さが4μm以下であることで、熱転写性をより向上することができる。
【0017】
上記熱転写フィルムがインモールド成形用又はTOM成形用であってよい。また、上記熱転写フィルムがサーマルヘッドプリンタ用であってよい。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、優れた転写性を有し、転写後の被転写体の温度上昇を抑えることが可能な熱転写フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本開示の熱転写フィルムの一実施形態を示す模式断面図である。
【
図2】本開示の熱転写フィルムの一実施形態を示す模式断面図である。
【
図3】本開示の熱転写フィルムの一実施形態を示す模式断面図である。
【
図4】本開示の熱転写フィルムの一実施形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、場合により図面を参照しつつ本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0021】
本実施形態に係る熱転写フィルムは、
図1に示すように、印刷層10と、基材層20とが積層された構造を有する。また、本実施形態に係る熱転写フィルムは、
図2に示すように、印刷層10と、離型層30と、基材層20とがこの順で積層された構造を有していてもよい。また、本実施形態に係る熱転写フィルムは、
図3に示すように、接着層40と、印刷層10と、離型層30と、基材層20とがこの順で積層された構造を有していてもよい。更に、本実施形態に係る熱転写フィルムは、
図4に示すように、接着層40と、印刷層10と、加飾層50と、表面保護層60と、離型層30と、基材層20とがこの順で積層された構造を有していてもよい。以下、
図1~
図4に示した熱転写フィルム100,200,300,400を構成する各層について説明する。
【0022】
[印刷層10]
本開示の熱転写フィルムにおける印刷層は、樹脂バインダーと、顔料とを含有する。樹脂バインダーは、厚さ10μmのフィルムとした際に、波長980~1580nmの赤外線の最大吸収率が5%以下である。以下、各成分について詳細に説明する。
【0023】
(樹脂バインダー)
樹脂バインダーとしては、例えば、ブチラール樹脂;ポリアミド樹脂;ポリエチレンイミン樹脂;スルホンアミド樹脂;ポリエステルポリオール樹脂;石油系樹脂;エポキシ樹脂;スチレン樹脂;スチレン及びその誘導体、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ヒドロキシメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類及びメタクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル、塩化ビニル、酢酸ビニル等のビニル系単量体の単独又は共重合体を用いることができる。これらの樹脂は1種類又は2種類以上混合して用いることもできる。樹脂バインダーは、エポキシ樹脂を含むことが好ましい。
【0024】
樹脂バインダーの波長980~1580nmの赤外線の最大吸収率は5%以下である。樹脂バインダーの波長980~1580nmの赤外線の最大吸収率が5%以下であることで、転写後の被転写体の温度上昇を抑えることができる。
【0025】
樹脂バインダーの波長980~1580nmの赤外線の最大吸収率は、樹脂バインダーを基材フィルム上に厚さ10μmとなるように塗布してフィルムを形成した後に紫外可視近赤外分光光度計(島津製作所製、UV-3600)を用いて波長980~1580nmの波長範囲における反射率及び透過率を測定し、当該波長範囲内における反射率の最小値(最小反射率)及び透過率の最大値(最大透過率)から、吸収率(%)=100-(透過率(%)+反射率(%))として最大吸収率を求めることができる。赤外線の最大吸収率の測定において、用いる基材フィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムであってよい。基材フィルムは、基材フィルムのみの波長980~1580nmの赤外線の最大吸収率が10%以下のものを用いることができる。樹脂バインダーは、グラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷等の印刷法により基材フィルム上に形成することができる。
【0026】
樹脂バインダーは、転写後の被転写体の温度上昇をより抑えることができる観点から、厚さ10μmのフィルムとした際に、波長980~1580nmの赤外線の最大吸収率が5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましい。
【0027】
樹脂バインダーがエポキシ樹脂を含む場合、エポキシ樹脂の重量平均分子量は、800~5000が好ましく、重量平均分子量が800以上であると、転写した画像に尾引が発生しにくい傾向があり、5000以下であると、熱転写に必要な熱エネルギー(熱量)を減らせることから、転写の効率が良くなる傾向がある。なお、本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定し、標準ポリスチレンを用いた検量線により換算することで求めたものである。
【0028】
印刷層における樹脂バインダーの含有量は、印刷層の全量を基準として、30~90質量%であってよく、35~75質量%であってよく、40~60質量%であってよい。
【0029】
樹脂バインダーにおけるエポキシ樹脂の含有量は、樹脂バインダーの全量を基準として、40~100質量%であってよく、60~100質量%であってよく、80~100質量%であってよい。
【0030】
(顔料)
顔料としては、無機顔料、有機顔料等が挙げられる。これらの中でも、顔料は、赤外光線を吸収しにくい観点から、無機顔料であってよく、炭素原子を含まない顔料(カーボンブラックや黒鉛等の炭素原子を含む顔料以外の顔料)であってよい。顔料は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
顔料としては、無機複合酸化物を含むことが好ましい。顔料が無機複合酸化物を含むことにより、転写前の被転写体が持つ色味を印刷層により十分に隠蔽することができ、加飾の意匠性をより向上できると共に、被転写体の温度上昇をより抑制することができる。無機複合酸化物としては、例えば、Zn、Fe、Co、Cr、Al、Mn、Ca及びTi等の金属酸化物が挙げられる。
【0032】
顔料は、黒色顔料であることが好ましい。顔料が黒色顔料であることで、転写後の被転写体に黒色の印刷層が形成することができる。黒色の印刷層は、白色の印刷層に比べて可視光の反射率が低いため、被転写体の意匠性を向上できる。
【0033】
黒色顔料は、赤外線を反射する性質を有する赤外線反射黒色顔料が好ましい。赤外線反射黒色顔料とは、波長980~1580nmの光反射率が20%以上のものを意味する。赤外線反射黒色顔料としては、SG-101(石原産業株式会社製)42-703A、42-706A(いずれも東罐マテリアル・テクノロジー株式会社製)、AG235ブラック(川村化学株式会社製)等が挙げられる。
【0034】
顔料はカーボンブラックを含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。印刷層におけるカーボンブラックの含有量は、転写後の被転写体の温度上昇をより抑えることができる観点から、印刷層の全量を基準として、20質量%以下が好ましく、15質量%未満がより好ましく、10質量%以下が更に好ましく、5質量%未満が特に好ましく、3質量%未満が非常に好ましい。印刷層は、カーボンブラックが実質的に含まれていないものであってよい。
【0035】
顔料は炭素原子を含む顔料を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。印刷層における炭素原子を含む顔料の含有量は、転写後の被転写体の温度上昇をより抑えることができる観点から、印刷層の全量を基準として、20質量%以下が好ましく、15質量%未満がより好ましく、10質量%以下が更に好ましく、5質量%未満が特に好ましく、3質量%未満が非常に好ましい。印刷層は、炭素原子を含む顔料が実質的に含まれていないものであってよい。
【0036】
印刷層における顔料の含有量は、印刷層の全量を基準として、10~70質量%であってよく、25~65質量%であってよく、40~60質量%であってよい。
【0037】
(シリカ)
印刷層は、シリカを含むものであってよい。印刷層がシリカを含むことにより、熱転写フィルムの印刷層の厚さが大きい場合でも、優れた転写性を維持できる。シリカの平均粒子径は300nm以下であってよく、250nm以下であってよく、200nm以下であってよく、100nm以下であってよい。
【0038】
印刷層におけるシリカの含有量は、印刷層の全量を基準として、0.1~20質量%であってよく、0.5~15質量%であってよく、1~10質量%であってよい。
【0039】
(その他成分)
印刷層は、上記成分の他に、ワックス、離型剤、軟化剤、界面活性剤等の添加剤を含有してもよい。
【0040】
印刷層におけるワックスの含有量は、転写した画像の定着強度が優れ、インキの滲みを抑制することで転写後の意匠性が優れる観点から、印刷層の全量を基準として、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。印刷層は、ワックスが実質的に含まれていないものであってよい。
【0041】
印刷層は、厚さ4.5μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムと積層して積層体とした際に、要件(1)D65光源の光透過率が35%以下、(2)波長980~1580nmの赤外線の最小反射率が20%以上、(3)波長980~1580nmの赤外線の最大吸収率が30%以下、を全て満たすものである。
【0042】
D65光源とは、国際照明委員会(CIE)により定義された標準光源を意味する。D65光源の光透過率は、D65光源の光をPETフィルム上の印刷層に照射し、ヘーズメーターにより測定することができる。具体的には、後述の実施例の方法で測定することができる。
【0043】
上記積層体のD65光源の光透過率が35%以下であることで、転写後の被転写体が持つ色味を遮蔽することができる。D65光源の光透過率は、転写後の被転写体が持つ色味をより遮蔽することができる観点から、30%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、10%以下が更に好ましい。
【0044】
波長980~1580nmの赤外線の最小反射率とは、波長980~1580nmの範囲内における赤外線反射率の最小値を意味する。波長980~1580nmの赤外線の最大吸収率とは、波長980~1580nmの範囲内における赤外線吸収率の最大値を意味する。
【0045】
波長980~1580nmの赤外線の最小反射率及び最大吸収率は、赤外線をPETフィルム上の印刷層に照射し、紫外可視近赤外分光光度計により測定することができる。具体的には、後述の実施例の方法で測定することができる。
【0046】
上記積層体の波長980~1580nmの赤外線の最小反射率が20%以上であることで、転写後の被転写体の温度上昇を抑えることができる。波長980~1580nmの赤外線の最小反射率は、転写後の被転写体の温度上昇をより抑えることができる観点から、30%以上が好ましく、40%以上がより好ましい。
【0047】
上記積層体の波長980~1580nmの赤外線の最大吸収率が30%以下であることで、転写後の被転写体の温度上昇を抑えることができる。波長980~1580nmの赤外線の最大吸収率は、転写後の被転写体の温度上昇をより抑えることができる観点から、25%以下が好ましく、20%以下がより好ましい。
【0048】
印刷層は、上述した樹脂バインダー、顔料等を含む溶液を基材層上に塗布し、乾燥硬化させることで形成することができる。印刷層は、グラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷等の印刷法により形成することができる。
【0049】
印刷層の厚さは、熱転写フィルムの転写性がより向上する観点から、5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましい。印刷層の厚さの下限値としては、1μm以上であってよい。
【0050】
[基材層20]
基材層は、高分子フィルムを用いることができる。高分子フィルムの材質としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン等のポリアミド;ポリプロピレン及びシクロオレフィン等のポリオレフィン;ポリカーボネート;並びにトリアセチルセルロース等が挙げられるが、これらに限定されない。高分子フィルムはポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム又はポリオレフィンフィルムであることが好ましく、ポリエステルフィルム又はポリアミドフィルムであることがより好ましく、ポリエチレンテレフタレートフィルムであることが更に好ましい。ポリエチレンテレフタレートフィルムは、透明性、加工適性及び密着性の観点から望ましい。
【0051】
基材層の厚さは、2~50μmの範囲内とすることが好ましく、2~25μmの範囲内とすることがより好ましい。厚さが2μm以上であると基材が充分な強度を有し、転写不良が生じにくく、50μm以下であると充分な熱転写性を有するため、熱転写の感度が優れる。
【0052】
[離型層30]
熱転写フィルムは、離型層を有してもよい。離型層は、基材層の印刷層側の表面に形成される層である。熱転写フィルムが離型層を有することで、転写性をより向上させることができる。離型層は、例えば、シリコーン系離型剤、フッ素系離型剤、長鎖アルキル系離型剤から選択される離型剤を用いて形成することができる。離型層は、上述した離型剤を単独で用いて、又は上述した離型剤を2種類以上組み合わせて用いて、形成することができる。
【0053】
離型層は、上述した離型剤を含む溶液を基材層上に塗布し、乾燥硬化させることで形成することができる。離型層は、グラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷等の印刷法により形成することができる。
【0054】
離型層の厚さは、0.01~10μmの範囲内とすることが好ましく、0.05~1μmの範囲内とすることがより好ましい。厚さが0.01μm以上であると基材層上に離型層を均一に形成しやすく、10μm以下であると塗布量を減らせるためコストを抑えることができる。
【0055】
[接着層40]
熱転写フィルムは、接着層を有してもよい。接着層は、被転写体と印刷層とを接着する層である。例えば、ポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、変性スチレン樹脂、変性シリコーン樹脂又はアルキルチタネートから選択された樹脂を用いて形成することができる。接着層は、上述した樹脂を単独で用いて、又は上述した樹脂を2種類以上組み合わせた複合樹脂を用いて、形成することができる。
【0056】
接着層は、上述した樹脂を含む溶液を印刷層上に塗布し、乾燥硬化させることで形成することができる。接着層は、グラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷等の印刷法により形成することができる。
【0057】
接着層の厚さは、1~50μmの範囲内とすることが好ましく、5~40μmの範囲内とすることがより好ましい。厚さが1μm以上であると被転写体と充分に接着することができ、50μm以下であると接着層の表面平坦性が優れ、良好な平坦面が得られる。
【0058】
[加飾層50]
熱転写フィルムは、加飾層を有してもよい。加飾層は、被転写体に意匠性を付与する層である。加飾層は、例えば、着色剤(顔料及び/又は染料)、及びバインダー樹脂を用いて形成することができる。加飾層は、着色剤を1種単独、又は2種類以上を組み合わせて用いてよい。
【0059】
バインダー樹脂としては、例えば、ブチラール樹脂;ポリアミド樹脂;ポリエチレンイミン樹脂;スルホンアミド樹脂;ポリエステルポリオール樹脂;石油系樹脂;エポキシ樹脂;スチレン樹脂;スチレン及びその誘導体、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ヒドロキシメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類及びメタクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル、塩化ビニル、酢酸ビニル等のビニル系単量体の単独又は共重合体を用いることができる。これらの樹脂は1種類又は2種類以上混合して用いることもできる。樹脂バインダーは、エポキシ樹脂を含むことが好ましい。
【0060】
加飾層は、上述した樹脂を含む溶液をグラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、熱転写印刷等の印刷法により形成することができる。
【0061】
加飾層は、更に金属薄膜層を備えてよい。金属薄膜層は、アルミニウム、酸化ケイ素、アルミナ、スズ等の金属を含む層であってよい。
【0062】
加飾層の厚さは、0.5~50μmの範囲内とすることが好ましく、1~40μmの範囲内とすることがより好ましい。厚さが0.5μm以上であると所望する色合いを有することから、被転写体に充分な意匠性を付与でき、50μm以下であると加飾層の表面平坦性が得られるとともに、熱転写性も優れる。
【0063】
[表面保護層60]
熱転写フィルムは、表面保護層を有してもよい。表面保護層は、転写後に被転写体の最表面となる層である。表面保護層は、耐摩耗性や耐薬品性などといった表面硬度に係る性能を有することが望ましい。表面保護層は、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等の樹脂を用いて形成することができ、例えば、エポキシ樹脂、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ヒドロキシメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類及びメタクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステルから選択された樹脂を用いて形成することができる。表面保護層は、上述した樹脂を単独で用いて、又は上述した樹脂を2種類以上組み合わせた複合樹脂を用いて、形成することができる。
【0064】
表面保護層は、表面硬度を補うために、シリカ粒子を含有してもよい。シリカ粒子は、平均粒子径が0.01~0.5μmの範囲内のものを用いてもよい。また、表面保護層の耐摩耗性を補うために、滑剤としてポリテトラフルオロエチレンパウダーやポリエチレンワックス、金属石鹸等を少量添加してもよい。
【0065】
表面保護層は、上述した樹脂を含む溶液を基材層上に塗布し、乾燥硬化させることで形成することができる。表面保護層は、グラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷等の印刷法により形成することができる。
【0066】
表面保護層の厚さは、3~50μmの範囲内とすることが好ましく、5~40μmの範囲内とすることがより好ましい。厚さが3μm以上であると表面保護層の特性を充分に発現させることができ、50μm以下であると表面の平坦性が良好となり、表面保護層上に加飾層を形成しやすくなる。
【0067】
熱転写フィルムは、熱により被転写体に、少なくとも印刷層を含む転写部を転写することで、被転写体を加飾するものである。熱転写フィルムは、サーマルヘッドプリンタ用であってよい。転写部の転写は、赤外線ヒーターやハロゲンヒーター等を用いて熱転写フィルムを加熱することで行ってもよい。また、転写部は、サーマルヘッドプリンタを使用して感熱転写してもよい。ここで、転写部は、
図1及び
図2の熱転写フィルム100,200においては印刷層10であり、
図3の熱転写フィルム300においては接着層40及び印刷層10であり、
図4の熱転写フィルム400においては接着層40、印刷層10、加飾層50及び表面保護層60である。なお、
図2~
図4に示した熱転写フィルム200,300,400において、転写部には離型層30の一部又は全部が含まれていてもよい。
【0068】
また、熱転写フィルムは、インモールド成形用又はTOM(Three dimension Overlay Method)成形用であってよい。インモールド成形とは、真空成形による被転写体の作製から射出成形による形成及び熱転写フィルムとの一体化までを同じ金型内で行う成形方法である。TOM成形とは、熱転写フィルムで上下に隔離した気密空間の気圧差を利用して、被転写体と熱転写フィルムとを一体化する成形方法である。
【0069】
上述した本実施形態の熱転写フィルムは、例えば自動車等の内装部品又は外装部品を加飾する目的で使用することができる。熱転写フィルムで加飾する方法としては、上述した方法により部品に転写部を転写することができる。本実施形態の熱転写フィルムは、自動車等の内装部品又は外装部品のラッピングフィルムとして使用することもできる。
【0070】
[熱転写フィルムの製造方法]
上述した熱転写フィルムの製造方法は、基材層上に、加飾層を形成する工程を備える。熱転写フィルムの製造方法は、離型層、表面保護層、加飾層、印刷層、及び接着層からなる群より選ばれる少なくとも1つを更に形成する工程を備えてよい。各層の形成方法としては、例えば、塗工ユニットを有する印刷機により形成することができる。各層の形成は、複数の塗工ユニットを持つ印刷機によって連続で形成してよく、各層を1層ずつ形成してもよい。
【実施例0071】
以下、実施例及び比較例に基づいて本開示をより具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0072】
(実施例1)
<熱転写フィルムの作製>
顔料(石原産業社製、商品名:SG-101、黒色顔料)15質量部と、樹脂バインダー(東洋インキ社製、商品名:K468EPワニス、エポキシ樹脂)26質量部(固形分の質量)と、酢酸エチル59質量部とを混合し、印刷層形成用組成物を調製した。用いた樹脂バインダーは、厚さ10μmのフィルムとして形成した際の波長980~1580nmの赤外線の最大吸収率が2.1%であった。上記波長範囲内での最大吸収率の測定は、紫外可視近赤外分光光度計(島津製作所製、UV-3600)を用いて行った。
【0073】
得られた印刷層形成用組成物を厚さ4.5μmのPETフィルム上に塗布し、乾燥させて、厚さ1μmの印刷層を有する熱転写フィルムを作製した。
【0074】
<光透過率の測定>
作製した熱転写フィルムの印刷層側の面にD65光源の光を照射したときの光透過率(全光線透過率)をヘーズメーター(日本電色工業社製、NDH2000)により測定した。測定結果を表1に示す。
【0075】
<赤外線反射率及び赤外線吸収率の測定>
また、作製した熱転写フィルムの印刷層に波長980~1580nmの赤外線を照射し、上記波長範囲内における反射率及び透過率を測定し、測定した波長範囲内における反射率の最小値(最小反射率)及び上記波長範囲内における吸収率の最大値(最大吸収率)を算出した。吸収率は、「吸収率(%)=100-(透過率(%)+反射率(%))」により算出した。測定には、紫外可視近赤外分光光度計(島津製作所製、UV-3600)により測定した。測定結果を表1に示す。
【0076】
<転写性の評価>
作製した熱転写フィルムの印刷層側を厚さ12μmのPETフィルムと重ね合わせ、サーマルヘッドを用いて印刷層からなる0.5mm幅の細線をPETフィルム上に熱転写した。転写した細線を観察し、転写性を以下の判定基準に基づいて評価した。評価結果を表1に示す。評価結果がA又はBであれば合格である。
A:細線が鮮明に且つ正確に転写されており、10倍のルーペで観察してもエッジカスレが確認できない。
B:細線は鮮明に且つ正確に転写されているが、10倍のルーペで観察した際に若干のエッジカスレが確認できる。
C:細線は転写されているものの、カスレが目視で確認できる。
D:細線の一部又は全部が転写されていない。
【0077】
<温度上昇の評価>
作製した熱転写フィルムの印刷層の表面温度と、印刷層の周囲の空間の温度及び相対湿度を測定した。印刷層の表面温度は22℃であり、印刷層の周囲の空間の温度及び相対湿度はそれぞれ、22℃、45%であった。印刷層の表面に対して垂直方向に300mmの位置に投光器(トラスコ中山株式会社製、TRUSCO リフレター投光器、レフランプ:200W型/180W、型番:RT-200)の表面がくるように配置し、投光器を用いて照度4647mW/m2の光を印刷層の表面に照射した。照射開始から60秒後の印刷層の表面温度を測定し、照射開始前の印刷層の表面温度からの温度上昇を算出した。
【0078】
(実施例2)
印刷層を厚さが2μmとなるように形成したこと以外は実施例1と同様にして熱転写フィルムを作製し、各測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0079】
(実施例3)
印刷層を厚さが4μmとなるように形成したこと以外は実施例1と同様にして熱転写フィルムを作製し、各測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
(実施例4)
顔料(SG-101)15質量部と、樹脂バインダー(K468EPワニス)26質量部(固形分の質量)と、シリカ(AEROSIL社製、商品名:R972、(1次粒子の平均径16nm)3質量部と、酢酸エチル56質量部とを混合し、印刷層形成用組成物を調製した。この印刷層形成用組成物を用いて、印刷層を厚さが4μmとなるように形成したこと以外は実施例1と同様にして熱転写フィルムを作製し、各測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0080】
(比較例1)
樹脂バインダー(K468EPワニス)45質量部(固形分の質量)と、酢酸エチル55質量部とを混合し、印刷層形成用組成物を調製し、印刷層を厚さ4μmとなるように形成したこと以外は実施例1と同様にして熱転写フィルムを作製し、各測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
(比較例2)
顔料をカーボンブラック(三菱ケミカル社製、商品名:MA-100)に変更して、印刷層形成用組成物を調製したこと以外は実施例1と同様にして熱転写フィルムを作製し、各測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
(比較例3)
顔料を酸化チタン(石原産業社製、商品名:TTO-55)に変更して、印刷層形成用組成物を調製し、印刷層を厚さが10μmとなるように形成したこと以外は実施例1と同様にして熱転写フィルムを作製し、各測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】