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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022034389
(43)【公開日】2022-03-03
(54)【発明の名称】殺菌消臭性等に優れたアルカリ水溶液
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/06 20060101AFI20220224BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20220224BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20220224BHJP
   A61L 2/18 20060101ALI20220224BHJP
   A61L 101/02 20060101ALN20220224BHJP
【FI】
A01N59/06 Z
A01P3/00
A61L9/01 B
A61L2/18
A61L101:02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020138155
(22)【出願日】2020-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】518353038
【氏名又は名称】株式会社プラスラボ
(71)【出願人】
【識別番号】518353049
【氏名又は名称】有限会社エルシオン
(71)【出願人】
【識別番号】519080078
【氏名又は名称】株式会社アイ・ティー・サポート
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】沢田 新一
【テーマコード(参考)】
4C058
4C180
4H011
【Fターム(参考)】
4C058AA29
4C058BB07
4C058JJ07
4C058JJ24
4C058JJ30
4C180AA07
4C180BB14
4C180CB01
4C180EA24X
4C180GG06
4C180MM01
4C180MM02
4H011AA02
4H011BB18
4H011DA13
(57)【要約】
【課題】 従来焼成カルシウム素材を用いた場合と比較し、遥かに優れた殺菌消臭性に優れており、且つ、生体安全性に優れた液を提供する。
【解決手段】 特定の製法にて得られた酸化カルシウム含有焼成物を水に溶解してなるアルカリ水溶液。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウム及び/又は水酸化カルシウムを含有する開始材料を焼成して一次焼成物を得る一次焼成工程と、
一次焼成物を微粉砕する微粉砕工程と、
一次焼成物を再度焼成して二次焼成物を得る二次焼成工程と、
二次焼成物を真空雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下にて外気温まで冷却させる二次冷却工程と、
により得られた酸化カルシウム含有焼成物を水に溶解してなる、pHが12以上のアルカリ水溶液であって、
25℃の空気下で前記アルカリ水溶液をビーカー内で回転数100rpm以上700rpm以下で1時間攪拌すると白濁し、25℃の空気下で24時間攪拌するとpHが10以下の安全域に低下し、25℃の雰囲気下で金属、プラスチック、木材、紙に噴霧すると20分以内に表面pHが10以下の安全域に低下し、且つ、前記白濁及びpH低下の原因物質は炭酸カルシウムである
ことを特徴とするアルカリ水溶液。
【請求項2】
前記開始材料が貝殻である、請求項1記載のアルカリ水溶液。
【請求項3】
前記貝殻がホタテ貝殻又はカキ貝殻である、請求項2記載のアルカリ水溶液。
【請求項4】
繭状の緻密な粒子表面構造を有し、
示差熱熱重量分析(TG-DTA)で測定される酸化カルシウム含有率が95重量%以上であり、また水酸化カルシウム含有率が5重量%以下であり、
蛍光X線分析法(XRF)で測定されるカルシウム元素含有率が95atom%以上であり、
X線回折分析法(XRD)で測定される酸化カルシウム含有率が95質量%以上であり、
平均粒径が20μm以下であり、
BET比表面積が0.5m/g以上3.0m/g以下である、貝殻を焼成して得られた酸化カルシウム含有焼成物を水に溶解してなる、pHが12以上のアルカリ水溶液であって、
25℃の空気下で前記アルカリ水溶液をビーカー内で回転数100rpm以上700rpm以下で1時間攪拌すると白濁し、25℃の空気下で24時間攪拌するとpHが10以下の安全域に低下し、25℃の空気下で金属、プラスチック、木材、紙に噴霧すると20分以内に表面pHが10以下の安全域に低下し、且つ、前記白濁及びpH低下原因物質は炭酸カルシウムである
ことを特徴とするアルカリ水溶液。
【請求項5】
前記貝殻がホタテ貝殻又はカキ貝殻である、請求項4記載のアルカリ水溶液。
【請求項6】
消毒剤、殺菌剤又は消臭剤である、請求項1~5のいずれか一項記載のアルカリ水溶液。
【請求項7】
適用対象が、手指、皮膚又は口腔である、請求項6記載のアルカリ水溶液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌消臭性等に優れたアルカリ水溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、一般社会における衛生観念の向上から、殺菌又は消臭商品の需要が大幅に高まっている。また、病院内感染をはじめとする、細菌やウイルスによる疾病等が大きな社会問題となっている。このため、各種の殺菌・消臭製品が市場に供給され、また、多種多様な殺菌・消臭剤が多く出回っている。
【0003】
ここで、これらの殺菌・消臭剤として、ホタテ貝を高温焼成したものを用いた、天然素材由来のものが提案されている。例えば、特許文献1には、荒潰ししたホタテ貝殻を1000℃~1100℃で2~4時間焼成し、湿式ビーズミル粉砕機等の粉砕装置を用いて平均粒径0.5~3μmにした微細焼成粉砕物の抗ウイルス効果が開示されている。特許文献2には、洗浄ホタテ貝殻を1100℃で2時間焼成して得られた100~500nmの焼成ナノ粉末混合物の上清について抗ウイルス剤としての適用が開示されている。
【先行特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-179555号公報
【特許文献2】特開2012-066257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本発明者らは、前記特許文献を含め、様々な天然カルシウム素材を焼成し、これを水溶液化したものについて、殺菌消臭効果の検証試験を実施した。しかしながら、単純に焼成した従来品では十分な殺菌消臭効果が得られないとの知見を得た。そこで、本発明は、従来焼成カルシウム素材を用いた場合と比較し、遥かに優れた殺菌消臭性を有するアルカリ水溶液を提供することを課題とする。加えて、本発明は、強アルカリの障害性にもかかわらず、消毒・殺菌剤として人体に適用しても安全な液を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明(1)は、
炭酸カルシウム及び/又は水酸化カルシウムを含有する開始材料を焼成して一次焼成物を得る一次焼成工程と、
一次焼成物を微粉砕する微粉砕工程と、
一次焼成物を再度焼成して二次焼成物を得る二次焼成工程と、
二次焼成物を真空雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下にて外気温まで冷却させる二次冷却工程と、
により得られた酸化カルシウム含有焼成物を水に溶解してなる、pHが12以上のアルカリ水溶液であって、
25℃の空気下で前記アルカリ水溶液をビーカー内で回転数100rpm以上700rpm以下で1時間攪拌すると白濁し、25℃の空気下で24時間攪拌するとpHが10以下の安全域に低下し、且つ、前記白濁及びpH低下の原因物質は炭酸カルシウムである
ことを特徴とするアルカリ水溶液である。ここで、当該アルカリ水溶液は、25℃の空気下で金属、プラスチック、木材、紙に噴霧すると20分以内に表面pHが10以下の安全域に低下することが好適である。
本発明(2)は、
前記開始材料が貝殻である、前記発明(1)のアルカリ水溶液である。
本発明(3)は、
前記貝殻がホタテ貝殻又はカキ貝殻である、前記発明(2)のアルカリ水溶液である。
本発明(4)は、
繭状の緻密な粒子表面構造を有し、
示差熱熱重量分析(TG-DTA)で測定される酸化カルシウム含有率が95重量%以上であり、また水酸化カルシウム含有率が5重量%以下であり、
蛍光X線分析法(XRF)で測定されるカルシウム元素含有率が95atom%以上であり、
X線回折分析法(XRD)で測定される酸化カルシウム含有率が95質量%以上であり、
平均粒径が20μm以下であり、
BET比表面積が0.5m/g以上3.0m/g以下である、貝殻を焼成して得られた酸化カルシウム含有焼成物を水に溶解してなる、pHが12以上のアルカリ水溶液であって、
25℃の空気下で前記アルカリ水溶液をビーカー内で回転数100rpm以上700rpm以下で1時間攪拌すると白濁し、25℃の空気下で24時間攪拌するとpHが10以下の安全域に低下し、
且つ、前記白濁及びpH低下の原因物質は炭酸カルシウムである
ことを特徴とするアルカリ水溶液である。ここで、当該アルカリ水溶液は、25℃の空気接触下で金属、プラスチック、木材、紙に噴霧すると20分以内に表面pHが10以下の安全域に低下することが好適である。
本発明(5)は、
前記貝殻がホタテ貝殻又はカキ貝殻である、前記発明(4)のアルカリ水溶液である。
本発明(6)は、
消毒剤、殺菌剤又は消臭剤である、前記発明(1)~(5)のいずれか一つのアルカリ水溶液である。
本発明(7)は、適用対象が、手指、皮膚又は口腔である、前記発明(6)のアルカリ水溶液である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、特殊な焼成カルシウム素材を用いることにより、従来の焼成カルシウム素材を用いた場合との比較において遥かに殺菌消臭性に優れたアルカリを提供することができる。更に、本発明によれば、強アルカリの障害性にもかかわらず、消毒・殺菌剤として人体に適用しても安全なアルカリ水溶液を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】例1のSEM写真である。
図2】実施例の消臭試験結果である。
図3】実施例・比較例の殺菌試験結果である。
図4】実施例品をマスク表面に付着させた際の除菌試験結果である。
図5】実施例に係るアルカリ水溶液の冷凍-SEM画像とアルカリ水溶液の乾燥のSEM画像と元素マッピングである。具体的には、12,000倍の倍率(上段)での製造後2週間目の液中ナノ粒子および7,000倍の倍率(下段)でのアルカリ水溶液の乾燥の粒子表面構造を、電界分解型走査電子顕微鏡で撮影したSEM画像で観察したものである。右上写真は炭素、左下写真は酸素、右下写真はカルシウムの元素マッピングを示している。
図6】乾燥したアルカリ水溶液から生じた白色粉におけるCaCO3の内容量を示したX線解析の結果である。
図7】強アルカリのアルカリ水溶液 (pH = 12.8) を攪拌により十分に空気を触れさせるとpH は24時間後には約10に減少することを示した図である。
図8】アルカリ水溶液の物質表面へスプレーした時のpH 変化を示した図である。スプレーした直後の各物質表面のpHは約12.45 で元のアルカリ水溶液 (pH = 12.8) より明らかに下がっており、その後もpH は経時的に急速に減少したことが示されている。
図9】アルカリ水溶液を手のひらへスプレーした時および口を濯いだ時のpH 変化を示した図である。スプレーした直後の手のひらのpHは約12.45 で元のアルカリ水溶液より明らかに下がっており、その後も1、3および5分後のpH はそれぞれ12、11及び10で経時的に急速に減少したことを示している。また、口に含んだ直後のpHは約12.3 で、その後も1、3および5分後のpH はそれぞれ11.5、10.6及び10以下でありpHは経時的に急速に減少したことを示している。
図10】汚染水に対する試験サンプルの殺菌効果を示した図である。
図11】汚染木片に対する試験サンプルの殺菌効果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係るアルカリ水溶液は、特定の酸化カルシウム焼成物を水に溶解することにより得られる。以下、当該焼成物、当該焼成物の製造方法、当該アルカリ水溶液の製造方法、当該アルカリ水溶液の用途(殺菌消臭剤)、の順で説明する。
【0010】
≪焼成物≫
本発明に係る焼成物を製造する開始材料は、貝殻である。貝殻とは、一般に貝と呼称される生物やこれに類する生物(多くは貝殻亜門に属する)が外殻として形成する、炭酸カルシウムを含む材料を指す。
【0011】
貝は、一般的に一枚貝、二枚貝、巻貝といった分類に分けられる。一枚貝としては、アワビ、トコブシ等が挙げられ、二枚貝としては、ホタテ、カキ、シジミ、ハマグリ、アサリ等が挙げられ、巻貝としては、サザエ、ツブ、カタツムリ等が挙げられる。いずれの貝の貝殻も開始材料として使用可能であるが、洗浄が容易で不純物の混入リスクを低減できることから二枚貝の貝殻が好ましい。二枚貝の貝殻の中でもホタテ貝殻とカキ貝殻がより好ましく、ホタテ貝殻が特に好ましい。
【0012】
本発明に係る焼成物の平均粒径は、好適には、20.0μm以下、15.0μm以下、10.0μm以下、8.0μm以下、6.0μm以下、5.0μm以下、又は2.0μm以下である。
【0013】
本発明に係る焼成物の平均粒径は、粒度分布測定装置を用いて測定すればよい。このような装置として、例えば、CILAS(株式会社アイシンナノテクノロジーズ)が挙げられる。また、本発明の焼成物の形状や表面構造は、2000倍~10000倍の任意の倍率のSEM画像から求めることができる。
【0014】
焼成物の波長分散型の蛍光X線分析法(XRF)によって測定可能な元素に占めるカルシウム元素の割合は、90atom%以上、91atom%以上、92atom%以上、93atom%以上、94atom%以上、95atom%以上、96atom%以上、97atom%以上、98atom%以上、99atom%以上としてもよい。
【0015】
蛍光X線分析(XRF)により、カルシウム以外にもカリウム、硫黄、リン、マグネシウム、ナトリウム、アルミニウム、ケイ素、ストロンチウム等の微量な含有率も測定できる。尚、波長分散型の蛍光X線分析法(XRF)では炭素や酸素は測定されない。
【0016】
波長分散型蛍光X線分析法(XRF)の装置として、RIX3100(理学電機工業株式会社製)が挙げられる。
【0017】
本発明に係る焼成物の酸化カルシウム、水酸化カルシウム、及び炭酸カルシウム含有割合は、示差熱熱量重量分析装置を用いて推定される。示差熱熱量重量分析により、300℃前後の重量変化から水分の含有を推定し、350℃前後の重量変化から水酸化カルシウムの含量を推定し、600℃前後の重量変化から炭酸カルシウムの含量を推定できる。
【0018】
本発明に係る焼成物の示差熱熱量重量分析(TG-DTA)によって測定される30~1000℃における重量維持割合(酸化カルシウム含有割合とも表現する)は、好適には、75.0重量%以上、80.0重量%以上、85.0重量%以上、90.0重量%以上、95.0重量%以上、99.0重量%以上、99.3重量%以上、又は99.5重量%以上である。重量維持割合とは、30℃時点における重量に対する1000℃時点における重量の百分率である。
【0019】
示差熱熱重量分析(TG-DTA)の装置として、例えば、TGA851e(メトラー・トレド社製)が挙げられる。示差熱熱重量分析の測定は、窒素100mL/min気流中、10℃/分の昇温速度にて30℃から1000℃まで昇温して行う。
【0020】
本発明に係る焼成物のX線回折分析法(XRD)によって測定される純度は、好適には、90.0質量%以上、92質量%以上、94質量%以上、96質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、又は99.5質量%以上である。
【0021】
X線回折分析法(XRD)の装置として、例えば、X’Pert-PRO(Philips)が挙げられる。
【0022】
本発明に係る焼成物のBET比表面積は、好適には、0.2m/g以上、0.3m/g以上、0.4m/g以上、0.5m/g以上、0.6m/g以上、0.7m/g以上、0.8m/g以上、0.9m/g以上、又は1.0m/g以上である。他方、好適には、3.0m/g以下、2.8m/g以下、2.6m/g以下、2.4m/g以下、2.2m/g以下、又は2.0m/g以下である。
【0023】
BET比表面積を解析する装置として、例えば、Quantachrome社製ChemBET3000が挙げられる。BET比表面積の測定方法は特に制限されず通常使用される条件で測定してよい。
【0024】
本発明に係る焼成物を水蒸気等と水和反応させると、表面化から水酸化カルシウムの形成による結晶の微細化、裂け目と細孔の形成による表面構造の変化が生じ、親水性が向上した特性変化が生じる。実際に、X線回折分析法(XRD)で測定される酸化カルシウム含有率が99%以上、平均粒径が5μm以下の貝殻焼成物は、X線回折分析法(XRD)で測定される酸化カルシウム含有率が75~95%、水酸化カルシウム含有率が5~20%、平均粒径が5μm以下である貝殻焼成物と比べ、水を添加した当初は親水性、水懸濁性が悪く、より多量の沈殿を生じる。
【0025】
≪焼成物の製造方法≫
上述の焼成物を製造するための方法の1例を以下説明する。当然のことながら、以下の方法を改変した方法や全く異なる方法によって上述の焼成物を製造してもよい。
【0026】
当該製造方法は、以下の工程(1)~(6)を記載した順に実行する。
(1)貝殻を焼成する一次焼成工程、
(2)焼成された一次焼成物を外気温まで自然冷却させる工程、
(3)一次焼成物を各フィルター(エアフィルター、マイクロミストフィルター、活性炭フィルター)を通して不純物を除去し、乾式超微粉砕システム(ナノジェットマイザー)及び/又はバグ又はサイクロン集塵装置により、高圧ガスとして大気を乾燥させた空気の他、不活性ガスの窒素ガスやアルゴンガスを注入して二酸化炭素及び水蒸気を置換除去しながら均一微粉砕化及び集塵する工程、
(4)一次焼成物を二次焼成する二次焼成工程、
(5)二次焼成物を気圧10Pa以下の低気圧条件下、及び/又は、不活性ガス雰囲気条件下で外気温まで自然冷却させる工程、
(6)焼成炉開閉扉を窒素ガス又はアルゴンガス雰囲気下内(焼成炉開閉扉の外側もアルゴンガス雰囲気下にする。)で冷却焼成物を搬出し、真空及び/又は窒素ガス又はアルゴンガス充填包装する工程
【0027】
以下、各工程について、貝殻としてホタテ貝を用いた場合を例に採り説明する。
【0028】
尚、本発明において「外気温」とは、焼成を行う装置(焼成炉)が置かれている周囲環境の気温を意味する。焼成炉が配される地域や場所並びに時刻や季節によって周囲環境の気温は変動するものであり、一律に定義することはできないが、100℃未満、80℃未満、60℃未満又は50℃未満の温度と解釈してもよい。
【0029】
工程(1)は、開始材料を一次焼成する工程である。この焼成において開始材料に含まれるタンパク質等に由来する炭素や水素が放出され、主成分の炭酸カルシウムは酸化カルシウムへと変質する。
【0030】
焼成温度は、好適には、1200℃以上、1400℃以上、又は1600℃以上である。これら温度以上にすることで充分に有機物を除去でき酸化カルシウムの純度が高くなる。他方、焼成温度の上限については酸化カルシウムの融点(約2600℃)以下であれば特に制限はないが、焼成炉への負荷やエネルギーコストの観点から、1650℃以下、1600℃以下、1550℃以下、又は1500℃以下が好ましい。当然のことながら、焼成工程に亘って、上記範囲内である限り、焼成温度は一定でも変動してもよい。
【0031】
焼成時間は、好適には、3時間以上、4時間以上、又は5時間以上である。他方、焼成時間の上限は8時間以下、7.5時間以下、7時間以下、又は6.5時間以下が好ましい。
【0032】
工程(1)は有機物の除去を行うため酸素含有雰囲気下(通常は大気雰囲気下)で実行する。タンパク質等に含まれる炭素や水素は酸素と反応し、二酸化炭素や水となって開始材料から遊離する。
【0033】
外気温から先の焼成温度に昇温する速度に特に制限はないが、通常は100~500℃/時間、150~450℃/時間、200~400℃/時間又は250~350℃/時間である。
【0034】
工程(2)は、工程(1)によって焼成された一次焼成物を冷却する工程である。積極的に冷却させるのではなく、加熱を停止させ放熱によって外気温まで自然冷却させる。工程(2)に要する時間は外気温の温度や開始材料によって左右されると考えられるが、凡そ、10時間以上、15時間以上、20時間以上である。
【0035】
工程(2)は、任意の雰囲気下で行ってよい。例えば、不活性ガス(ヘリウムや窒素ガス等)雰囲気下でもよいし、大気雰囲気下でもよい。また工程(1)の雰囲気下と同じでも異なっていてもよい。水和反応を防ぐため、低湿度環境で冷却することが好ましい。
【0036】
緩やかに自然冷却させる過程において、酸化カルシウムが高い結晶性を維持したまま冷却されるものと解される。
【0037】
工程(3)において、粉末状態になった焼成物をエアフィルター、マイクロミストフィルター、活性炭フィルター等のフィルターを通じて不純物を除去し、特殊コンプレッサーで非常に乾燥された高圧ガスエネルギーで粒子を加速し、粒子衝突により超微粉砕を実現できる装置(ナノジェットマイザー;NJ-300-D)を使用して微粉砕する。高圧ガスとして大気を乾燥させた空気の他、不活性ガスの窒素ガスやアルゴンガスの使用も可能である。
【0038】
工程(4)は、焼成物を更に焼成する二次焼成工程である。一次焼成物焼成後において、大気中の水蒸気や焼成による生成ガスである二酸化炭素と反応することにより酸化カルシウムの割合が減少すると考えられる。このため、酸化カルシウムの純度を維持、向上させるため、再焼成を行う。
【0039】
二次焼成工程の焼成温度は、好適には、600℃以上、700℃以上、800℃以上、850℃以上、900℃以上、950℃以上である。これら温度以上で焼成することで充分に炭酸カルシウム、水酸化カルシウムを酸化カルシウムへと変化させることができる。二次焼成工程の焼成温度は、約2600℃(酸化カルシウムの融点)以下であり、通常1500℃以下、1200℃以下、1000℃以下である。
【0040】
二次焼成工程の焼成時間は、好適には、1時間以上、1.5時間以上又は2時間以上である。他方、焼成炉への負荷やエネルギーコストの観点から7時間以下、6時間以下、5時間以下、4時間以下、3時間以下が好ましい。
【0041】
工程(5)は、二次焼成後の冷却工程である。気圧10Pa以下の低気圧条件下、及び/又は、不活性ガス条件下で自然冷却を行う。
【0042】
工程(6)では、焼成炉内に不活性ガスを注入し、焼成炉開閉扉を行う。この場合は観音開き状態の扉ではなく、引き戸の扉が望ましい。不活性ガス雰囲気下内状態のカバーが容易である。更にこの不活性ガス雰囲気下で焼成物を真空包装する。
【0043】
本発明における不活性ガスとしては、酸化カルシウムと反応性を有しないガスであれば特に制限はなく、例えばヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガス、酸素ガスが挙げられる。
【0044】
尚、上述したものはあくまで1例であり、例えば、工程(5)は、工程(2)に代えて実行してもよい。工程(5)は省略して、工程(3)そして工程(6)を引き続いて実行してもよい。
【0045】
≪アルカリ水溶液の製法≫
本発明に係るアルカリ水溶液は、該酸化カルシウム含有焼成物を水に溶解させることにより得ることができる。この際、水が沸騰しないように、例えば、水を攪拌しながら徐々に該酸化カルシウム含有焼成物を投入することが、殺菌・消臭効果をより高める観点から好適である。尚、該アルカリ水溶液は、他の成分を含有していてもよい。例えば、エタノールを添加することで、揮発性や殺菌性活性の向上等が期待できる。
【0046】
ここで、当該酸化カルシウム含有焼成物の添加量は、水溶液の全質量を基準として、0.5質量%以上であることが好適であり、3質量%以上であることがより好適であり、10質量%以上であることが更に好適であり、15質量%以上であることが特に好適である。上限値は特に限定されず、例えば、30質量%である。更に、上記生成した沈殿物に同質量%になるように水を加える操作からなる水溶液の強アルカリ性を維持したまま50回以上、100回以上、さらに200回以上繰り返すことができる。
【0047】
また、アルカリ水溶液は、低温度(<10℃、下限は例えば0℃)で実質的に空気非接触状態下で製造することが好適である。尚、ここでの「実質的に空気非接触状態」とは、例えば、減圧下又は窒素や不活性ガス(例えばアルゴン)等を導入することで、系内の空気を低減(例えば、系の容積を基準として、10容量%以下、5容量%以下、1容量%以下)させた状態を指す。また、濾過工程を含む場合、当該濾過は、圧力濾過又は真空濾過が好適である。この場合、圧力濾過の場合、窒素や不活性ガス(例えばアルゴン)にて加圧することが好適である。
【0048】
≪アルカリ水溶液の物性≫
本発明に係るアルカリ水溶液のpHは、12.0以上13.5以下であることが好適であり、12.5以上12.9以下であることがより好適である。ここで、pHは、温度25℃下にてpHメーターで測定した値である(例えば、株式会社モノタロウ社 防水ハンディーpH計 PH-6011A-OM)。
【0049】
また、本発明に係るアルカリ水溶液は、25℃の空気下で当該アルカリ水溶液を1時間攪拌すると白濁し、更に24時間後にはpHが1以上(例えば、1.25以上、1.5以上、1.75以上;例えば、5以下、4以下、3以下、2以下)低下する(例えば、pHが11以下、10.5以下、10.25以下、10以下)性質を有する(下限は特に限定されず、例えば、7.0以上、8.0以上)。ここで、該アルカリ水溶液は、25℃の空気下で金属、プラスチック、木材、紙に噴霧すると20分以内に表面pHが10以下の安全域に低下することが好適である。ここで、「金属」、「プラスチック」、「木材」及び「紙」は、25℃の当該アルカリ水を20分適用した際、表面pHが10以下となる素材である。また、本明細書及び本特許請求の範囲にいう「攪拌」は、例えば、撹拌はCorning Digital Stirrer/Hotplateで室温(約25℃)回転数500rpm、アズワン撹拌子(直径5mmX50mm)で撹拌することである。ここで、前記白濁及びpH低下の原因物質は炭酸カルシウムである。このような性質は、下記観点から生体安全性に優れているといえる。まず、本発明に係るアルカリ水溶液を様々な素材や手のひらの表面に噴霧したり、本発明に係るアルカリ水溶液を口に入れて口腔内を洗浄しても、元のアルカリ水溶液の強アルカリにもかかわらず、アルカリ水溶液中に存在すると推定されるCa2+(以下、実施例参照)と空気中のCOとの反応によって炭酸カルシウムを生成することで、短時間で安全なpH領域に下がり安全であることを示唆している。因みに、生成した炭酸カルシウムは、胃制酸薬等として使われており、飲み込んでも少量であれば安全である。また吸い込んでも、更に反応して可溶性の炭酸水素カルシウムを形成するので危険性はないと推定される。
【0050】
≪アルカリ水溶液の使用方法・用途≫
本発明に係るアルカリ水溶液は、例えば、殺菌剤や消臭剤として、スプレー剤、泡状、高圧ミスト噴射等の形態にて使用可能である。本発明に係るアルカリ水溶液を使用して殺菌する対象は特に限定されず、任意の病原体に使用できる。より具体的には、真正細菌、古細菌、真菌、ウイルスに使用できる。真正細菌としては、例えば、大腸菌、緑膿菌、サルモネラ菌等のグラム陰性菌、ブドウ球菌等のグラム陽性菌が挙げられる。真菌としては、例えば、白癬菌、カンジダ菌等が挙げられる。ウイルスとしては、例えば、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、コロナウイルス等が挙げられる。更には、人体に適用しても安全なことから、 適用対象が手指、皮膚又は口腔である殺菌剤等であってもよい。尚、本特許請求の範囲及び本明細書においては、ウイルスの無毒化(抗ウイルス活性)もまとめて「殺菌」と呼称する。また、本発明において殺菌とは、対象物を完全に又はほぼ完全に無毒化/除去することを意味するだけでなく、対象物の増殖を低減させる「静菌」も含まれる概念である。このように、本発明に係るアルカリ水溶液は、一般生活空間及び生活用品のウイルス除去・除菌・消臭に利用可能である。例えば、手洗・玄関・トイレ・浴室・洗面所・キッチン(洗剤洗浄後の食器洗浄やスポンジの除菌等々)・食卓テーブル・生ごみ、ごみ箱の除菌消臭・加湿器用水・ペット用品の除菌消臭・うがい・口の濯ぎ等に使用可能である。
【実施例0051】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
≪酸化カルシウム焼成体の製造≫
(例1)
ホタテ貝殻を1450℃で6時間焼成し、外気温まで自然冷却させた。これをエアフィルター、マイクロミストフィルター、活性炭フィルターを通して不純物を除去し、乾式超微粉砕システム(ナノジェットマイザー)により微粉砕した。その後、950℃で2時間焼成した。この二次焼成物を低気圧条件下(10-4Pa以下)にて外気温まで自然冷却させた。
【0053】
(例2)
ホタテ貝殻を1450℃で6時間焼成し、外気温まで自然冷却させた。これをエアフィルター、マイクロミストフィルター、活性炭フィルターを通して不純物を除去し、乾式超微粉砕システム(ナノジェットマイザー)により不活性ガスの窒素ガスやアルゴンガスを注入して二酸化炭素及び水蒸気を置換除去しながら微粉砕した。
【0054】
(例3)
ホタテ貝殻を1100℃で4時間焼成し、外気温まで自然冷却させた。
【0055】
(平均粒径)
各粉体の平均粒径は、粒度分布測定装置(CILAS;株式会社アイシンナノテクノロジーズ)を用いて測定した。
【0056】
(カルシウム元素含有割合)
各粉体のカルシウム元素含有割合は、蛍光X線分析装置(RIX3100;理学電機株式会社製)を用いて測定した。
【0057】
(酸化カルシウム含有割合)
各粉体の酸化カルシウム含有割合及び水酸化カルシウム含有割合は、示差熱熱量重量分析装置(TGA851e;メトラー・トレド社)及びX線回折装置(X’Pert-PRO(Philips))を用いて測定した。
【0058】
(BET比表面積)
例1~例3のBET比表面積は、Quantachrome社製ChemBET3000を用いて測定した。
【0059】
【表1】
【0060】
(電子顕微鏡観察)
上記焼成物について、ネオオスミウムコータ(Neoc-STB;メイワフォーシス株式会社、東京)でオスミウム金属被覆後、電界解放射型走査電子顕微鏡(JSM-6340F;日本電子株式会社、東京)を用いた3000倍、10000倍のSEM画像に基づいて乾燥粉末状態の表面形状を解析した。
【0061】
例1及び2は、皆繭状の緻密な表面構造が観察されており、そのBET比面積は、粉末の平均粒径と反比例の関係が観察された。また、例1及び例2に係る焼成物は、隣接する粒子同士が固く融着し、繭状の緻密な結晶及び粒子が成長し、細孔の閉塞により反応界面積が減少している様子が観察された(図1)。
【0062】
≪実施例に係るアルカリ水溶液の調製≫
例1で製造された酸化カルシウム含有焼成物200gを水1リットルに投入した。この投入時には、水が沸騰しないよう、水を攪拌しながら該酸化カルシウム含有焼成物を徐々に投入し、アルカリ水溶液(BiSCaO Water)を調製した。
【0063】
≪BiSCaO Waterの消臭効果≫
風呂残り湯に1wt%のブレインハートインヒュージョンブイヨン(日水製薬)を入れ、37℃で24時間培養した。この時点での一般生菌及び大腸菌群は、それぞれ7×10/mL及び大腸菌群は9×10/mLであり、強い腐乱臭を発生する消臭対象として準備した。BiSCaO Waterの消臭効果についての実験のため、キャップ付チューブ(50 mL)内に25mLの上記汚染水に25mLのBiSCaO Water(原液、2倍、4倍希釈液)を添加し、キャップを閉めて室温(23-27℃)で1時間培養した。添加後の消臭対象に対する消臭効果は、臭度計(Handheld Odor Meter、OMX-SR、神栄テクノロジー株式会社製)を用い、臭度を測定・評価した。この消臭対象に対する消臭効果は、すべての消臭剤が消臭活性を有していた。特にCaO Water(原液)の消臭効果は優れていた(図2)。
【0064】
≪BiSCaO Waterの殺菌効果≫
風呂残り湯に1w%のブレインハートインヒュージョンブイヨン(日水製薬)を入れ、37℃で24時間培養した。この時点での一般生菌及び大腸菌群は、それぞれ約8×10/mL及び約7×10/mLであり、腐乱臭を発生する高度有機環境汚染水として準備した。BiSCaO等の殺菌効果についての実験のため、キャップ付チューブ(50 mL)内に25mLの上記高度汚染水に25mLのBiSCaO Water(原液、2倍、4倍希釈液)、イソジン(0.05wt%、0.2wt%、0.8wt%溶液)を添加し、キャップを閉めて室温(23-27℃)で1時間培養した。それぞれのサンプルについて、一般生菌群及び大腸群数測定用培地キット(それぞれコンパクトドライ「ニッスイ」TC及びCF、日水製薬株式会社製)を用いて、一般生菌数及び大腸菌群数(図3)を測定した。この殺菌対象に対する殺菌効果は、試験したすべての殺菌剤が殺菌活性を有していた。特にBiSCaO Water(原液、2倍希釈)は、一般生菌及び大腸菌群ともに検出限界以下に除菌した。
【0065】
≪マスク表面へのBiSCaO Waterスプレイによる除菌効果≫
風呂残り湯に1w%のブレインハートインヒュージョンブイヨン(日水製薬)を入れ、37℃で24時間培養した。この時点での一般生菌及び大腸菌群は、それぞれ約8×10/mL及び約7×10/mLであり、腐乱臭を発生する高度有機環境汚染水として準備した。スパチュラを用いて医療用マスク(シンガーサージカルマスクST、宇都宮製作株式会社)に表側表面に100 μL高度汚染水を塗布し、1時間室温下放置した(スプレーなし)。汚染水塗布前に1mLBiSCaO Water原液を塗布部に噴霧し、30分間室温放置し乾燥させた後、100μL高度汚染水を塗布し、30分間室温下放置した(事前スプレー)。100μL高度汚染水を塗布し、30分間室温下放置後、1mLBiSCaO Water原液を塗布部に噴霧し、30分間室温放置し乾燥させた(事後スプレー)。汚染水塗布前に1mLBiSCaO Water原液を塗布部に噴霧し、30分間室温放置し乾燥させた後、100μL高度汚染水を塗布し、30分間室温下放置した。その後、さらに汚染水塗布前に1mLBiSCaO Water原液を塗布部に噴霧し、30分間室温放置し乾燥させた後、100 μL高度汚染水を塗布し、30分間室温下放置した(事前・事後スプレー)。それぞれの部位をハサミで切り取り、10mLの純水を加えて、1分間強く撹拌した。それぞれのサンプルについて、一般生菌群及び大腸群数測定用培地キット(それぞれコンパクトドライ「ニッスイ」TC及びCF、日水製薬株式会社製)を用いて、一般生菌数及び大腸菌群数(図4)を測定した。この結果は、事後スプレーはほぼ完全な除菌効果が観察された。汚染されたマスクもBiSCaO Waterのスプレーでほぼ完全な除菌が可能であり、使い捨てマスクの再利用の可能性が示唆される。
【0066】
≪安全性検証≫
<BiSCaO Waterの調製>
例1に係る酸化カルシウム焼成体100gを1100mLの冷水(< 10℃)に加え、穏やかに混合し、30分間放置することで調製した。上清(1000 mL)を収集し、100Lの水タンクに移した。別の冷やした1000 mLのきれいな水を静かに注いで、残りの酸化カルシウム焼成体沈殿物に混ぜ、上澄みをタンクに収集した。このプロセスは50回以上繰り返した。生成された酸化カルシウム焼成体(合計100L)は無色透明で、pHは約12.8であった。
【0067】
<試験方法>
(SEM、元素マッピング試験及びCaCO含有量試験)
上記のBiSCaO Water及びの乾燥粉末についての冷凍SEM及び元素マッピング試験を実施した。簡単に説明すると、上記のBiSCaO Waterを液体窒素で凍結し、せん断、JEOL JSM 7100F SEMを用いて、-90℃の真空下で観察した。加速電圧は10 KVであり、検出シグナルは反射電子イメージが使われた。元素マッピングもJEOL JSM 7100F SEM-EM装置を用いて行われた。また、上記BiSCaO Waterの乾燥粉末におけるCaCO含有量試験は、X線解析装置(Phillips X‘Pert-PRO; Phillips Japan, Ltd. Japan)を用いて実施した。
【0068】
(空気下での攪拌におけるBiSCaO WaterのpH変化試験)
200 mLの上記BiSCaO Waterを500mLビーカーに入れて、回転数350rpmで24時間、室温で攪拌した。0,1,2,4,8,12 and 24hの攪拌後、それぞれのpHを卓上メーター(F-52, HORIBA,Ltd., Kyoto, Japan)を用いて測定した。
【0069】
(適用対象にスプレーしたBiSCaO WaterのpHの変化試験)
上記BiSCaO Water(約2mL)をカルチャープレート、鉄プレート、木片及び紙{キムワイプ(商標)}(約5X5cm)の表面にスプレーした。それぞれの濡れた表面のpHを、1分ごとに20分間、強耐性マイクロ電極(9618S-10D;HORIBA, Ltd.)を装着した卓上メーター(LAQUA pH meter, F-74, HORIBA, Ltd., Kyoto,Japan)を用いて測定した。同様に、手のひらに上記BiSCaO Water(約1mLづつ)をスプレーし皮膚表面のpH を1分ごとに5分間測定した。更に、2倍希釈した上記BiSCaO Water(約7mL)を3名の口に含んで5分間口を濯いだ。一分毎に少量(約0.5mL)を吐き出し、そのpHを上記のように強耐性マイクロ電極を装着した卓上メーターを用いて測定した。
【0070】
(殺微生物活性試験)
希釈した上記BiSCaO Water、12時間攪拌して空気と接触させた希釈BiSCaO Waterの高度汚染液及び汚染木片における大腸菌群(CF)及び一般生菌(TC)に対する殺微生物活性を比較検討した。等量の試験サンプルと高度汚染水を混合し、室温で15分間インキュベートした後、コロニー形成単位(CFU/mL)を測定した。汚染された木材片の消毒アッセイでは、10mLの各消毒剤に木材片を加え、15分間穏やかにボルテックスし、その後2分間激しくボルテックスすることにより、汚染された木材片から10mLのきれいな水でTCとCFを放出した。最小コロニー形成単位(CFU)の数をカウントするために、各混合物の1mLを、TCまたはCF簡易ドライ培地プレート(ニッスイファーマシューティカルCo.Ltd. 、東京、日本)に添加し、プレートを37℃のインキュベーター(A1201;生田産業株式会社、長野県上田)で24時間インキュベートした。播種とカウントは、4つの技術的複製のセットとして実施した(N=4)。
【0071】
<結果>
(SEM、元素マッピング試験及びCaCO含有量試験)
無色透明なpH約 12.8の上記BiSCaO Waterを滑らかな金属、プラスチック、木材の表面にスプレーして乾燥させると、白い微粉末が得られた。製造当初の上記BiSCaO Waterはチンダール現象が観察されず、冷凍-SEMでも、上記BiSCaO Water中にナノ粒子は存在しない。上記BiSCaO Waterはその後1週間以上にわたり空気と触れることで上記BiSCaO Water中にナノ粒子(100-200nm)が現れてそれらは凝集し、より大きな微粒子(400-800nm)生成していた(図5.上段写真)。さらに乾燥すると微粒子は多数凝集して存在する(図5.下段写真)。元素マッピングの結果、両方の微粒子は主としてカルシウム、酸素、炭素からなることがわかった。乾燥粉末を純水に懸濁すると、粉末は不溶性であり、上澄みのpHは10.0未満であり、微粒子がCa2+とCOの相互作用によって生成された炭酸カルシウムであることを示唆した。さらに乾燥BiSCaO Waterに生じた白い微粉末のほとんどは、X線解析システムにより炭酸カルシウム (CaCO)であることが認められた(図6)。
【0072】
(空気下での攪拌におけるBiSCaO WaterのpH変化試験)
ビーカーに入れた上記BiSCaO Waterを攪拌して空気と触れさせると、一時間後には濁りが発生して、経時的に濁りが発生し、図7のようにpHが12.8から経時的に下がり始めた。24時間後にはpHは10.1となった。乾燥粉末は不溶性であり、上澄みのpHは9.6であり、微粒子がCa2+とCOの相互作用によって生成された炭酸カルシウム(CaCO)であることが示唆された。
【0073】
(適用対象にスプレーしたBiSCaO WaterのpHの変化試験)
上記BiSCaO Waterをプラスチック板、鉄板、材木、紙{キムワイプ(商標)}の表面に噴霧し、そのpHの変化を測定した(図8)。pHはマイクロTough pH電極装着卓上型pHメーターを用いて測定した。全ての表面で噴霧直後のpHは12.62± 0.2で明らかに原液(=12.8)よりもpHは減少し、さらに3分後にはpHは12を大きく下回っている。10分後には全ての表面でpHは11を大きく下回った。さらに17分後には、すべて表面においてpHは10を下回った。同様に手のひらにBiSCaO Waterの原液を2mLをスプレーし、その直後から1分毎に5分間、pHはマイクロTouph電極装着卓上型pHメーターを用いて測定した。噴霧直後のpHは12.45で明らかに原液よりもpHは減少し、さらに1分後にはpHは12になっている。3分後にはpHは約11、5分後には、pHは10になった(図9、左)。このように、BiSCaO Waterの原液を手のひらに噴霧した場合、pHが12を超える強アルカリ性を示すのは当初の1分間のみであり、その後は乾燥前の湿った状態であっても危険性が大きく軽減したアルカリ水となることが明らかになった。尚、モニターに手の消毒のためBiSCaO Waterの原液を使用した結果、肌が荒れるなどの副作用は全く報告されていない。更に、水道水で2倍に薄めたBiSCaO Water(pH12.5)を7mLを口に含み、その直後から1分毎に一部(約1mL)を取り出し、そのpHはマイクロTouph電極装着卓上型pHメーターを用いて測定した。口に含んだ直後のpHは12.3で明らかに原液よりもpHは減少し、さらに1分後にはpHは11.5になっている。3分後にはpHは10.6、5分後には、pHは10以下になった(図9、右)。
【0074】
(殺微生物活性試験)
お風呂残り湯を10%DMEM+BSA(0.1wt%)で24時間37℃で培養するとTCとCFはそれぞれ80±11CFU/mLと32±7CFU/mLから9.8±3.1(×10)CFU/mLと2.1±0.5(×10)CFU/mLに増加した汚染水が得られた。非希釈及び2倍希釈(最終的にそれぞれ2倍希釈及び4倍希釈)BiSCaO Waterによる汚染水の除菌により検出限界以下に激減した。しかるに、4倍希釈(最終的に8倍希釈)のBiSCaO Waterによる汚染水の除菌により、それぞれ弱い除菌能力を示すもののかなり多くのの生育TC及びCFを残した(図10)。対照的に、12時間攪拌して空気と接触させたBiSCaO Waterは、非希釈(最終的には2倍希釈)であっても除菌能力を示すもののかなり多くのの生育TC及びCFを残した(図10)。尚、カウントは、4つの技術的複製のセットとして実施した(n=4)。更に、汚染木片から放出したTCとCFはそれぞれ2.5±0.6(×10)CFU/mLと2.9±1.4(×10)CFU/mLであった。非希釈及び2倍希釈(最終的にそれぞれ2倍希釈及び4倍希釈)BiSCaO Waterによる汚染木片の除菌により、それぞれ除菌能力を示すものの僅かな生育TC及びCFを残した(図11)。対照的に、12時間攪拌して空気と接触させたBiSCaO Waterは、非希釈(最終的には2倍希釈)であっても除菌能力を示すもののかなり多くのの生育TC及びCFを残した(図11)。尚、カウントは、4つの技術的複製のセットとして実施した(n=4)。
【0075】
≪総括(安全性)≫
以上を整理すると、BiSCaO Waterは無色透明で、pH=12.8である。金属またはプラスチックの滑らかな表面にスプレーして乾燥させ、白色の粉体塗装を施すことができる。 BiSCaO Waterの乾燥の走査型電子顕微鏡(SEM)画像は、互いに微粒子(1-2μm)が互いに凝集している像を示した。冷凍-SEM観察は、CaOナノ粒子(100-200nm)が凝集して、BiSCaO Water中でより大きな粒子(400-800nm)を生成することを示した。また、元素マッピング法により、空気に触れたBiSCaO Water中の生成したマイクロ/ナノ粒子や自然乾燥させた時に生じる白色微粉末の組成は酸素、炭素およびカルシウムから構成されており、炭酸カルシウムであることが示唆された(図5)。さらにこの白色微粉末は不溶性であるが、純水懸濁液はpH<10であり、X線解析分析の結果からも炭酸カルシウムであることが示された(図6)。BiSCaO Waterは、撹拌して十分に空気に触れさせると、一時間で白濁する。さらに24時間後にはpHは約10に下がってしまう(図7)。この結果は、生成した不溶性微粒子は、BiSCaO Water中のCa2+と空気中のCOの反応によって生成する炭酸カルシウム(CaCO)であることを示すものである。また、BiSCaO Waterの生体適用における重要な懸念は、pHは12.7を超える強アルカリ性である。BiSCaO Waterをプラスチック板、鉄板、材木や紙などの素材表面に噴霧し、湿った表面のpHについてマイクロタフ電極を用いた卓上pHメーターで測定した。噴霧直後の表面のpHは全表面で12.6±0.02であり、元のBiSCaO WaterのpH(12.8)よりも大きく下回っている。また、3分後および10分後にはpHはそれぞれ12および11を下回り、20分後には全表面で10を下回っている(図8)。同様に、BiSCaO Waterを手のひらに噴霧した時も1分後には約12となり、元のBiSCaO WaterのpH(12.8)よりも大きく下回った(図9、左)。そして、5分後にはpHは10に下がった。また、水道水で2倍にBiSCaO Water(pH=12.3)を口に含み、口を濯ぐとき1分、3分そして5分後にはpHはそれぞれ11.5、10.6そして10以下の減少した(図9、右)。この実験で、手や口に副作用となる障害は観察されていない。この結果は、BiSCaO Waterを様々な素材や手のひらの表面に噴霧したり、口に入れて口腔内を洗浄しても、元のBiSCaO Waterの強アルカリにもかかわらず、効率的にBiSCaO Water中のCa2+と空気中のCOの反応によって炭酸カルシウムを生成することで、短時間で安全なpH領域に下がり安全であることを示唆している。さらに生成した炭酸カルシウムは、炭酸カルシウム粉末は、胃制酸薬等として使われており、飲み込んでも少量であれば安全である。また吸い込んでも、さらに反応して可溶性の炭酸水素カルシウムを形成するので危険性はないと理解される。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11