IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ツチヨシ産業の特許一覧 ▶ 山▲東▼金璞新材料有限公司の特許一覧

<>
  • 特開-溶融風砕法人工砂及びその製造方法 図1
  • 特開-溶融風砕法人工砂及びその製造方法 図2
  • 特開-溶融風砕法人工砂及びその製造方法 図3
  • 特開-溶融風砕法人工砂及びその製造方法 図4
  • 特開-溶融風砕法人工砂及びその製造方法 図5
  • 特開-溶融風砕法人工砂及びその製造方法 図6
  • 特開-溶融風砕法人工砂及びその製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022034503
(43)【公開日】2022-03-03
(54)【発明の名称】溶融風砕法人工砂及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22C 1/00 20060101AFI20220224BHJP
   B22C 9/02 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
B22C1/00 B
B22C9/02 103C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021036708
(22)【出願日】2021-03-08
(62)【分割の表示】P 2020138088の分割
【原出願日】2020-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】503070672
【氏名又は名称】株式会社ツチヨシ産業
(71)【出願人】
【識別番号】517393673
【氏名又は名称】山▲東▼金璞新材料有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100086346
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 武信
(72)【発明者】
【氏名】朴 学哲
(72)【発明者】
【氏名】黄 子争
(72)【発明者】
【氏名】黒川 豊
(72)【発明者】
【氏名】趙 華星
【テーマコード(参考)】
4E092
【Fターム(参考)】
4E092AA02
4E092AA03
4E092AA04
4E092AA18
4E092BA04
(57)【要約】
【課題】
鋳造産業において、鋳造工程の中で受ける応力によって破砕することなく、半永久的に使用できる粒子強度の高い溶融風砕法人工砂を鋳物砂としての提供を図る。
【解決手段】
粒子強度を高くするために、セラミックである人工砂の破壊は、内部のマクロ的な気泡欠陥やミクロ的な組織の不均質に支配されることから、これらを制御した。初晶がムライトであるSiO2-Al2O3系平衡状態図の組成を有する人工砂に対して、マクロ的には、人工砂の断面において10μm以上の気泡欠陥の含まれる粒子数を25%以下に制御した。また、ミクロ的には、結晶粒界や1μm以上の間隙が認められないマトリックスとした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
初晶がムライトであるSiO2-Al2O3系平衡状態図の組成を有する溶融風砕法人工砂において、粒子断面に10μm以上の気泡欠陥のある粒子の存在が25%以下である鋳物砂。
【請求項2】
前記粒子断面において、前記気泡欠陥の存在しない視野を10000倍で観察した際に、結晶粒界及び1μm以上の間隙が認められない請求項1記載の溶融風砕法人工砂。
【請求項3】
前記気泡欠陥が少ないことにより、粒子強度の平均が2500MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の溶融風砕法人工砂。
【請求項4】
前記気泡欠陥が少ないことに加えて、前記結晶粒界及び前記間隙が認められないことにより、粒子強度の平均が2500MPa以上であることを特徴とする請求項2に記載の溶融風砕法人工砂。
【請求項5】
アスペクト比が0.90以上あることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の溶融風砕法人工砂。
【請求項6】
初晶がムライトであり、SiO2-Al2O3 系平衡状態図の組成を有する溶融風砕法人工砂において、前記SiO2-Al2O3 系平衡状態図において、Al2O3 が50~70質量%であり、粒子断面に10μm 以上の気泡欠陥のある粒子の存在が 25% 以下であり、前記粒子断面において、気泡欠陥の存在しない視野を10000 倍で観察した際に、結晶粒界や 1μm 以上の間隙が認められない粒子内部のマトリックスの均質性を備え、粒子強度の平均が2500MPa 以上であり、アスペクト比が0.90以上あることを特徴とする溶融風砕法人工砂。
【請求項7】
請求項1~6の何れかに記載の溶融風砕法人工砂を含有する鋳型砂。
【請求項8】
請求項1~6の何れかに記載の溶融風砕法人工砂を含有する鋳型。
【請求項9】
初晶がムライトであるSiO2-Al2O3系平衡状態図の組成を含む原料を溶融し、風砕により溶融風砕法人工砂を製造する方法において、風砕工程中に冷却の制御を行うと共に、必要に応じて焼き戻しを行うことで、気泡欠陥減少やミクロオーダーの不均質、更にはアスペクト比や粒子表面を改善する溶融風砕法人工砂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋳造製品の製造に用いられる鋳物砂である溶融風砕法人工砂の製造方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
鋳造製品は世界で約1億t/年製造され、日本では約500万t/年製造されている。鋳造製品の大部分は鉄系鋳物であり、次いでアルミニウム合金鋳物である。鋳物砂に粘結剤などを添加した鋳型砂は、鋳造製品を製造するために鉄系鋳物では3~10倍の量が必要であり、アルミニウム合金鋳物では中子用などにおよそ等倍の量が必要である。鋳型砂は再生して繰り返し使用するが、鋳仕上げ工程で製品に付着したものがショット処理で粉砕されたり、鋳型砂の粘結剤を除去する再生工程で破砕されたりして、造型プロセスにより5~30%がダストとなる。これらは産業廃棄物として廃棄される。破砕が原因の産業廃棄物発生を低減するために、従来、使用されている石英(モース硬度7)が主成分の硅砂から、破砕されにくいムライト(モース硬度7.5)系やコランダム(モース硬度9)系の人工砂(セラミックサンドとも呼ばれている)が開発されてきた。
しかしながら、人工砂はセラミックスの製法によるもので、セラミックスは内部に欠陥や不均質があるとその部位が破壊の起点となり、破砕されやすいものとなる。既に上市されている人工砂は、これらの欠陥や不均質が多く必ずしも硅砂より硬いとは限らない。そこで、これらの内部欠陥や不均質を改善することが鋳造業界では急務の課題となっている。
【0003】
鋳物砂は粒子集合体であることから任意の形状である鋳型に成型できること、溶湯を鋳型に注湯する際に鋳型内の空気やガスを排出する通気性を有すること、溶湯の熱に耐えうる耐火度を有すること、各種の溶湯成分に対して化学反応による焼付き欠陥が生じないこと、鋳物砂を鋳型とするための粘結剤量が少なくできる粒形(真球が望ましい)などの特性を有すること、繰り返し再生して使用して環境負荷を低減できる粒子強度であること、鋳造時に鋳型の膨張が低く変形の問題が生じないこと、鋳型から鋳造製品の取り出しが容易なこと、などの特性が鋳物砂には必要である。
【0004】
鋳型は金型と砂型に大別され、鋳物砂は砂型用である。鋳鋼、鋳鉄、銅合金などの高融点金属の鋳造は鋳物砂による砂型が殆どである。鋳造製品の大部分は砂型で生産されている。低融点合金であるアルミニウム合金ではダイカストや重力鋳造と称される金型鋳造で主であるが、砂型である中子が使用される。
【0005】
本発明は生産量が大規模である砂型用の鋳物砂に係わる。鋳物砂は、砂型の名称の由来である硅砂が最も多く使用される。硅砂は石英(シリカ、SiO2)が主な鉱物組成である。二次鉱物組成として、Al2O3-SiO2系の鉱物である長石、雲母、粘土鉱物など)である。その他、硅砂以外の鋳物砂として、オリビンサンド、ジルコンサンド、クロマイトサンド、アルミナサンド(粉砕タイプ)、カーボンサンド、鉄鋼ショット玉、炭化珪素砂、スラグサンド(フェロニッケル系、フェロクロム系、高炉スラグ系、など)、最近開発された人工砂(ムライト系、アルミナ系、ジルコンミックス系、など)などが使用されている。
【0006】
鋳物砂は鋳造品を製造するための鋳型材料であり、機能として鋳造時に鋳造欠陥がなく、その結果、鋳造留まりが高くなる特性が要求される。鋳造欠陥は代表的なものが3つあり、ガス欠陥、膨張系欠陥、焼付き欠陥である。1990年頃に人工砂が開発され、石英系の硅砂と比較して、これらの欠陥は解消されてきた。すなわち、人工砂の粒形改善により粘結剤が低減でき、鋳型砂からのガス発生量が下がることで、ガス欠陥は減少した。人工砂は線膨張係数が低いことから、鋳型砂の膨張が極めて低く、膨張系欠陥は減少した。人工砂は溶湯との反応性が硅砂より低い場合が多く、焼付き欠陥は減少した。
また、環境適応型の社会実現が急務なことから、省資源性が高いことが望まれる。鋳造工程、後処理工程、砂回収処理工程などで、鋳物砂が破砕することなく、繰り返し永久的に使用できる高強度粒子の鋳物砂が望まれ、これに応えて人工砂が開発された。
更には、石英が含まれる硅砂使用に伴う人体に悪影響な遊離珪酸の発生が生じないことも望まれ、これに応えて石英の含まれない人工砂が開発された。
【0007】
特許文献1では、「[請求項1]非晶化度が70~100%であり、且つ表面の粗さRaが0.20以下である鋳物砂。[請求項2]球形度が0.95以上である請求項1 記載の鋳物砂。[請求項3]Al2O3およびSiO2を主成分として含有してなり、Al2O3/SiO2重量比率が1~15である請求項1又は2 項記載の鋳物砂。」と記載されている。本発明では非晶化度については重要な要素ではなく、特に言及していないが、「非晶化度が70~100%」については、本発明の冷却の制御のみの場合は該当する場合がある。ところが、本発明に係る鋳物砂の製造過程中に冷却の制御に加えて、焼き戻しを行うことで、該当しないものになると考える。
また、特許文献1では明細書段落0032において、「冷却方法は、空冷や水冷によって行うことができ、急冷することが好ましい。冷却速度は、鋳物砂の組成や粒径によって異なるので、それぞれの処方について鋳物砂の非晶化度が50~100%になるよう適宜調整される。」との記載がある。本発明の冷却の制御に近い考えであるが、具体的な冷却開始温度や冷却開始時の粒子の状態については記載がない。
更に、特許文献1においては、粒子強度を高くするための気泡欠陥の抑制、マトリックスの均質化の概念が存在しない。従って、本発明の要旨となる技術思想が欠落しており、本発明とは異なる発想に基づく発明であることが明らかである。
【0008】
特許文献2では、請求項4において「前記球状砂が、1600~2200℃の溶融温度及び80~120m/secのエアー速度の条件下で、原料の溶融物にエアーを吹き付けることにより得られた砂である・・・」との記載がある。特許文献2は、本発明と同様な溶融風砕法である。
ところが特許文献2では、吹き付けるエアーについては詳細な記述があるが、具体的な冷却開始温度や冷却開始時の粒子の状態については記載がない。
更に、特許文献2においては、粒子強度を高くするための気泡欠陥の抑制、マトリックスの均質化の概念が存在しない。従って、本発明の要旨となる技術思想が欠落しており、本発明とは異なる発想に基づく発明であることが明らかである。
【0009】
特許文献3では、その明細書段落0025に「この実施形態では、高圧空気で飛散された溶融物が大気中を移動する間に自然冷却するように構成してあるが、上記の鋳型砂製造装置(1)は、冷却水などを用いた強制冷却手段を備えていてもよい。」との記載がある。特許文献3は、本発明と同様な溶融風砕法である。
ところが、特許文献3では、溶融物の冷却法については記述があるが、具体的な冷却開始温度や冷却開始時の粒子の状態については記載がない。
更に、特許文献3においては、粒子強度を高くするための気泡欠陥の抑制、マトリックスの均質化の概念が存在しない。従って、本発明の要旨となる技術思想が欠落しており、本発明とは異なる発想に基づく発明であることが明らかである。
【0010】
特許文献4では、その請求項1において「Al2O3とSiO2とを原料として含み、前記原料中の夾雑物として含有される低融点組成とを含有した焼結人工砂において、Al2O3-SiO2系相平衡状態図において、初晶としてムライト結晶が晶出する組成において、前記低融点組成としてのK2Oが0.20%以下であり、前記ムライト結晶の間に結晶の重なり合いの隙間が存する結晶間構造を備え、かさ比重1.6g/cm3未満、アスペクト比が0.85以上であり、Al2O3-SiO2系相平衡状態図において液相線よりマイナス50℃以内の耐火度を示すものであることを特徴とする焼結人工砂。」と記載されている。「Al2O3-SiO2系相平衡状態図において、初晶としてムライト結晶が晶出する組成」については、本発明と同一の組成である。
しかしながら、特許文献4では、「ムライト結晶の間に結晶の重なり合いの隙間が存する結晶間構造」としているが、本発明は緻密構造であり、結晶間に隙間は存在しないことから、本特許とは明らかに異なる発明であると認められる。
【0011】
特許文献5では、その請求項9において「請求項1~8のいずれかに記載の鋳型用骨材粒子を溶融物から粒子化して製造することを特徴とする鋳型用骨材粒子の製造方法。」との記載がある。また、明細書段落0053では「圧縮空気と共に一定量の水をノズルに同時に流し込むことによって、高圧水を作り、圧縮エアーと同時に吹付けると、細粒化と同時に粒子の温度を低下し、その後の取り扱いを容易にするため好ましい。充分に粒子を冷却するために、冷却水量は1L/分以上が好ましく、2L/分以上が更に好ましい。」とも記載されている。特許文献5に係る鋳物砂は、Al2O3、ZrO2、SiO2系組成であることから、本発明に係る鋳物砂とは組成が異なる。ただし、溶融物を圧縮空気で風砕するところは同一である。
しかしながら、特許文献5においては、高圧水と共に圧縮エアーで風砕するのみであり、本発明における冷却開始温度や冷却開始時の粒子の状態についての制御の概念がない。更に、更に、特許文献5においては、粒子強度を高くするための気泡欠陥の抑制、マトリックスの均質化の概念が存在しない。従って、本発明とは明らかに異なる発明であると認められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第4615370号公報
【特許文献2】特許第3878496号公報
【特許文献3】特許第4448945号公報
【特許文献4】特許第6367451号公報
【特許文献5】特許第5507262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、初晶がムライトであるSiO2-Al2O3系平衡状態図の組成とした溶融風砕法人工砂において、製法に由来する気泡欠陥を僅かとし、かつ、粒子内部のマトリックスを均質とすることで、粒子強度を高くし、鋳造業界で半永久的に使用できる鋳物砂を提供することを課題とする。また、溶融風砕法人工砂としては軽量であり、粒形も良い鋳物砂を提供することを課題とする。
【0014】
本発明は、更に他の目的は、粒形を良くすることで、粘結剤の添加量を低減させ、環境適応、省資源、鋳造欠陥低減を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、初晶がムライトであるSiO2-Al2O3系平衡状態図の組成を有する溶融風砕法人工砂において、粒子断面に、内部に最大長さ10μm以上の気泡欠陥のある粒子の存在が25%以下である鋳物砂を提供する。
本発明の実施の形態に係る溶融風砕法人工砂によれば、前記粒子断面において、前記気泡欠陥の存在しない視野を10000倍で観察した際に、結晶粒界及び内部に最大長さ1μm以上の間隙が認められない。前期の気泡欠陥が少ないことに加えて、結晶粒界及び1μm以上間隙が認められないことにより、粒子強度の平均が2500MPa以上である。
また、アスペクト比は0.90以上あることが適当である。
本発明は、上記の溶融風砕法人工砂を含有する鋳物砂を提供する。
また、本発明は、上記の溶融風砕法人工砂を含有する鋳型を提供する。
また、本発明は、溶融風砕法人工砂を製造する方法を提供するもので、その要旨とするところは、初晶がムライトであるSiO2-Al2O3系平衡状態図の組成を含む原料を溶融し、風砕により溶融風砕法人工砂を製造する方法において、風砕工程中に冷却の制御を行うと共に、必要により焼き戻しを行うことで、気泡欠陥減少やミクロオーダーの不均質、更にはアスペクト比や粒子表面を改善する製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、人工砂の中でも人工砂の内部に欠陥や不均質が存在しない極めて硬い球状の溶融風砕法人工砂を提供することができたものである。また、粒形が良く、その表面がなだらかである。更に、溶融風砕法人工砂としては軽量である。具体的には、SiO2-Al2O3系平衡状態図において、初晶がムライトである組成を溶解後に風砕する。風砕の時間は、溶融物がその粒子が表面張力により球状となる時までに制御し、球状であり、かつ、良好な粒子表面となった時点で急冷して、その形状を保持したまま凝固させる。
これにより、鋳造工程で発生する応力では、破砕することなく、繰り返し用できるものであり、いわば半永久的に使用することが可能となる。
また、粘結剤の添加量を低減できることで、省資源となり、鋳造欠陥が減少する。
【0017】
よって本発明は、省資源性が高い鋳物砂であると共に、鋳物を製造する際に消費されるエネルギーを削減することができるものである。
更に、本発明は、上記のように高い耐破砕性や良好な粒形や粒子表面形状を有することは勿論、その比重が比較的小さな溶融人工砂であり、ハンドリング性に優れ、重筋作業を低減できる溶融人工砂を提供することができたものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】SiO2-Al2O3系平衡状態図と人工砂(実施例、比較例)
図2】粒子空隙率と粒子強度の関係を示すグラフ
図3】人工砂のアスペクト比の比較を示すグラフ
図4】人工砂のかさ比重の比較を示すグラフ
図5】粒子強度測定方法の概念図
図6】実施例、比較例の基準化応力の確率密度曲線を示すグラフ
図7】鋳物砂の微粉化率を表す面積に係るグラフ
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の課題を解決するためには、以下の4点に対して検討を加える必要がある。
(1)粘結剤の添加量の要因となる鋳物砂の比重
(2)粒子強度を低下させる要因となる人工砂内部の気泡欠陥
(3)粒子強度を低下させる要因となる人工砂内部のマトリックス不均質
(4)鋳型強度を律する人工砂の粒形及びその粒子表面の滑らかさ
SiO2-Al2O3系平衡状態図による溶融風砕法人工砂の比重低減については、SiO2は比重が2.65であり、Al2O3は比重が3.98であることから、SiO2側で製造すれば良いと言える。しかしながら、本発明では鋳物砂として使用するためには、粒形を球状とする必要がある。SiO2-Al2O3系では、それぞれの組成の溶融粘度の違いから、風砕した際にSiO2側ではファイバー状となりやすく、Al2O3側では球状となりやすい。これは溶融粘度がSiO2は高く、Al2O3は低いための現象である。ファイバー状は鋳物砂としては使用できない。
図1に、SiO2-Al2O3系平衡状態図と、その組成で製造された人工砂(実施例、比較例)で示す。Al2O3側の実施例1~3、比較例3及び5が溶融風砕法で製造された球状人工砂である。SiO2側の比較例6~8は、造粒・焼結法で製造された球状人工砂である。造粒・焼結法は、事前に微粉末とした原料を造粒して球状とし、その後に焼成してセラミックスとする製造法である。本発明の溶融風砕法は、原料をアーク炉などで溶融し、風砕により、溶融物の表面張力で球状とする製法である。
溶融風砕法では、ファイバー状と球状が組成によって、ある比率で発生する。たとえ、SiO2が100%近くの組成であっても球状のものは得られるが、ほとんどがファイバーであり、鋳物砂用としては歩留まりが悪い。図1の実施例、比較例は鋳物砂向けに製造されたものであるので、歩留まりを考慮した上で、工業的に成り立つ組成である。図1の組成を見ると、溶融風砕法はAl2O3約60%が歩留まり的には適当である限界であると言える。
本発明では、Al2O3が多くなると、比重が重くなることから、初晶がムライトとなるAl2O3約75%を限界としている。また、下限は歩留まりが著しく悪くなる、初晶シリカの組成は除いた初晶ムライトの晶出するAl2O3値を下限としている。
【0020】
溶融風砕法人工砂の気泡欠陥とは、風砕時に原料中の揮発分がガスして気泡となったり、エアーが巻き込まれて気泡やキズとなったりしたものである。気泡欠陥を防止するためには、溶解中に十分に脱ガスを行うことと、風砕中のガス巻き込みを防止することを工程に組み込む必要がある。具体的には、本発明ではアーク炉中で、1時間以上の時間をかけてて溶解し、高温保持して脱気している。また、風砕時間が長いとガス巻き込みを生じることから、溶融物が球状となり表面が凝固した半凝固の時点で急冷することで、ガス巻き込みを防止している。
なお、造粒・焼結法人工砂においても気泡欠陥が存在し、これは主には微粉末を造粒した際の微粉末間隙のエアーが焼成時に抜けきらなかったものである。
表1に人工砂のSEM(走査型電子顕微鏡)及びFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)での断面観察結果と、人工砂の粒子強度、アスペクト比、かさ比重の測定結果を示す。
【0021】
【表1】
表1 人工砂のSEM及びFE-SEM断面観察と、粒子強度、アスペクト比、かさ比重
【0022】
図2に、粒子空隙率と粒子強度の関係を図示した。粒子空隙率が大きくなるほど、粒子強度が低下する傾向が認められ、図中に示す対数曲線で近似できる。セラミックスの破壊は内部欠陥に律されることが知られているが、同様な結果が得られている。しかしながら、図2中に、実線の丸で囲った3点は空隙率が低いにもかかわらず粒子強度が低い傾向にある。これは比較例-1、比較例-3、比較例-4である。また、破線の丸で囲った1点は粒子空隙率が高いにもかかわらず粒子強度が高い。これは比較例-5である。
【0023】
表1の粒子断面のFE-SEM観察では、10000倍で粒子の基地(マトリックス)を観察している。これにより、μmオーダーやサブμmのマトリックスを調べることができる。これによると、空隙率が低いにもかかわらず粒子強度の低い比較例-1、比較例-3、比較例-4では、それぞれ、μmオーダーの間隙がある、樹枝状晶が明瞭に晶出している、1μm前後の微細な結晶があって組成像にコントラスト(元素分布が不均一)である。従って、これらの粒子はマトリックスが不均質であると言え、これにより粒子強度が低下していると考えられる。
これに対して、空隙率は高いが粒子強度の高い比較例-5では、空隙率が低く粒子強度の高い実施例-1~4と同様にマトリックスは均質であると言える。従って、比較例-5では空隙率が高いにもかかわらず、マトリックスの均質により粒子強度が比較的高くなっていると言える。
また、上記以外である比較例-2はμmオーダーのスジや空洞、比較例-6、7はμmオーダーの丸みを帯びた隙間、比較例-9、10では粗大なムライト結晶の晶出が認められ、不均質であるので、粒子強度が低下していると考えられる。
【0024】
[鋳型強度とアスペクト比]
[アスペクト比]
表1中のアスペクト比(短径/長径)を各人工砂ごとに対比して図3に示す。実施例-1~4、比較例-1~5が溶融法である。比較例-6~10は焼結法である。溶融法は焼結法と比較してアスペクト比が1に近く、粒形が良いと言える。実施例-1~4は溶融法の中でもアスペクト比が良好である。
風砕時に溶融物は次第にその表面張力により球となるが、風砕時間(溶融物が空気中を移動する時間)が長いと球が崩れていく。そこで、本発明では風砕時間を制御し、かつ、球となった時点でその形状が保たれるように冷却を開始している。また、冷却速度も急冷となるように制御している。その方法は、熱伝導性の良いステンレス製の板、ベルトや円筒など(以下、ステンレス容器)に粒子を接触させることによる急冷である。ステンレス容器に放熱板を付けたり、水冷ジャケットを付けても良い。なお、水焼き入れでも良いが、水と接触して割れる粒子が発生し、歩留まりは悪化する。これを避けるために水を噴霧して冷却しても良い。これらの風砕時間や冷却の制御が、実施例-1~4でアスペクト比の良い理由である。
【0025】
[粒子表面の滑らかさ]
上記の風砕時間を制御した結果として、表2に示すように粒子表面が滑らかとなる効果が認められる。表2では、実施例-2、比較例-3、比較例-5を抜粋して示した。実施例-2では風砕時間を制御している。比較例-3は制御しておらず、放物線を描いて空気中を移動し、その間に冷却して固体となった後に落下する。比較例-5は火炎内溶融法であり、下向きの火炎であることから溶融物は重力方向に冷却しながら落下する。
風砕時間を制御した結果、実施例-2の粒子表面は滑らかになっているが、比較例-3では空気の抵抗により生じた凹みや、空気中で冷却したために晶出した結晶が粒子表面に現れ、粒子表面が滑らかではなくなっている。また、比較例-5では滑らかな粒子と、粒子表面に晶出した結晶のために滑らかでは無い粒子とが混在している。
【0026】
【表2】
表2 粒子の表面状態
【0027】
[かさ比重]
図4に人工砂のかさ比重の比較を示す。実施例-1~4は溶融法人工砂としては、かさ比重が軽い特徴がある。前述した様に、焼結法は比重の軽いSiO2の比率を増やすことで、かさ比重を軽くすることができる。しかし、溶融法ではSiO2を増やすとファイバー状となる。本発明では球状の状態で冷却を開始すし、形状を球に留めているので、SiO2を増加することができる。その結果、溶融法人工砂の中では軽量となる。
【0028】
(粒子強度の必要性)
鉱物は物質毎にモース硬度で表される硬さの指標を持っている。例えば、鋳物砂の代表的な鉱物を以下に挙げる。正長石KAlSi3O8(モース硬度6前後)、酸化鉄Fe2O3(モース硬度6前後)、酸化マグネシウムMgO (モース硬度6.5前後)、酸化クロムCr2O3 (モース硬度6~7)、酸化ジルコニウムZrO2 (モース硬度6~7)、石英SiO2(モース硬度7前後)、溶融石英SiO2(モース硬度7前後)、ムライト3Al2O3・2SiO2(モース硬度7.5)、アルミナ・コランダムAl2O3(モース硬度8~9)である。
【0029】
代表的な鋳物砂は硅砂であり、石英と長石からなることから、モース硬度は6前後~7前後である。酸化ジルコンからなるジルコンサンド、酸化クロムからなるクロマイトサンドは、鋳造業界では硅砂と比較して、硬いとされているが、モース硬度は石英よりも低い。また人工砂の代表的なムライトは石英より硬くモース硬度7.5程度であり、アルミナはモース硬度8~9であり、更に石英より硬い。ムライトやアルミナは鋳造の製造時に鋳物砂が受ける応力よりも粒子強度が高いことから、破砕し難い鋳物砂であり環境適応型と言える。一方、硅砂は、再生工程での歩留まりから5%~30%は破砕すると考えられ、環境適応型ではない。
【0030】
このように、ムライトやアルミナは、SiO2-Al2O3系平衡状態図に含まれることから、この状態図に従って人工砂を製造することで、破砕されにくい環境適応型の人工砂とすることができる。
【0031】
ただし、鉱物の内部に欠陥などがあり、均質で無いと上記のモース硬度とはならない。例え、ムライトやアルミナであっても欠陥があると、そこを起点に破壊が生じるので、本来のモース硬度とならず、硅砂を下回ることもある。そこで本発明では、欠陥の無いムライト系人工砂を提供するものである。
【0032】
(人工砂の製法)
表3に人工砂の製法について示す。
【0033】
【表3】
表3 鋳造用人工砂の製法と主な鉱物成分
【0034】
(1)造粒焼結法
およそ5万t/年の生産量で、日本とアメリカで生産されているムライト系人工砂の製法である。燃料バーナーによりロータリーキルン内を1400℃~1700℃に加熱する。加熱温度は組成により異なる。夾雑物のアルカリ成分を少なくしたSiO2とAl2O3原料をムライト化する比率(3Al2O3・2SiO2で配合し、微粉末とした粒子を鋳物砂のサイズに造粒したものをロータリーキルン内で焼結する。造粒方法は表3に示す様に3種類あり、それぞれ粒子の緻密性や表面状態が異なる。ロータリーキルン中ではムライトの融点(約1850℃)以下でムライトを合成する。工業的な制約のために、合成時に原料の全てがムライトにはならず非晶質として存在する。メーカによりムライトの含有量やその他の成分や非晶質の量が異なる。ムライトを85%以上とすることと、緻密な粒子とすることが望ましい。
焼結法では、造粒した粒子からムライト結晶を析出させる。析出させる温度はムライトの融点以下である。
焼結する際に、原料中の揮発分や原料中の空気がガスとなり空洞が生じやすい。また、結晶が析出する際に、結晶に隙間が生じやすい。
【0035】
(2)溶融風砕法
溶融風砕法の黒鉛電極接触溶融法は最も生産量の多い人工砂の製法である。溶融風砕法は単に溶融法とも呼ばれる。現在約10万t/年が主に中国で製造されている。この鉱物組成はムライト+コランダムである。溶融法であることから、図1における液層温度で原料を溶解する必要があり、高温度が得られるアーク炉を用いている。ばん土けつ岩(Alum Shale :Al2O3を75%前後含む中国産ボーキサイト)が原料である。原料を黒鉛電極の上に投入し、ジュール熱により溶解する。また、プラズマアークも発生しているのでこのアーク熱によっても原料は溶解される。溶融温度は2000℃以上である。溶湯は黒鉛電極の下方に流れ落ち、オリフィスから排出され、直後に風砕し、放物線を描き、空中にて液体の表面張力により球状粒子となり、大気中で冷却され、土間などに落下し、自然冷却されて人工砂となる。
風砕時に空気を巻き込んで、気泡欠陥が生じやすい。また、結晶が析出する際に、粒界や転移による不均質が生じやすい。
【0036】
アーク炉溶融法は炉中に原料をチャージし、黒鉛電極間のアーク放電によるアーク熱で原料を溶解して溶湯とする。出湯の直後に風砕し、粒子は放物線を描き、空冷されて人工砂粒子となる。炉の耐火物はセルフライニングとすることが多く、耐火物の融点の影響を受けず高耐火度原料が溶解可能である。炉中で成分調整が可能であることから、Al2O3が80%、ZrO2が10%と言った高耐火度人工砂の製法に用いられる。既に上市されているものは、中国で製造されており、生産量は約0.5万t/年と思われる。なお、この上市されているものは、冷却速度は制御しておらず、自然冷却である。
本発明は、このアーク炉溶解法を用いており、初晶がムライトとなる原料をアーク炉中で溶湯成分した後に、風砕し、放物線を描き、冷却開始温度並びに冷却速度を制御したものである。また、必要により、焼き戻しなどの熱処理を行って、粒子の結晶構造を制御している。これにより、空気の巻き込みの防止、マトリックスの均質化を図っている。
【0037】
(3)火炎内溶融法
これも主に中国で生産されており、生産量は約0.5万t/年と思われる。火炎内溶融法は、溶融風砕法同様に単に溶融法とも呼ばれる。純酸素燃焼バーナーを用いおよそ3000℃の火炎の中に、あらかじめ造粒あるいは所定のサイズに粉砕した原料粒子を燃料噴霧方向から火炎中に投入し、火炎内で粒子を溶融させて表面張力により球状粒子とし、火炎通過後の冷却中に結晶化させて球状人工砂とする製造方法である。ムライト、アルミナ、ムライト+クリストバライトなどの人工砂が製造されている。火炎の中の滞留状態や通過後の冷却状態などにより、結晶化や非晶質化が異なる。上市されているものは重力方向に噴霧しており、大気中での冷却時間が短いことから、どちらかと言うと非晶質が多い。これを利用して、耐火度の高く安定相である非晶質シリカを製造することもできる。
火炎内を噴霧するために、エアーの巻き込みで気泡が生じやすいが、重力方向への風砕であるために風砕時間が短く、この結果、凝固開始が速くなることで冷却速度が上り、マトリックスが均質化している。
【0038】
(粒子の粒度調整)
本発明は鋳物砂に係わるものであることから、20から1200μmの粒子径からなる粒度範囲の粒子に調整することが望ましい。一般的に、106~600μmが鋳物砂として使用される。生型で生産される比較的小物の量産鋳物は150~300μmの鋳物砂が主体である。自硬性鋳型などで生産される比較的大物鋳物は300~600μmの鋳物砂が主体である。Vプロセスは106μm前後である。なお、20~106μmは微砂と称して鋳物砂の補助的な粒度調整などの添加剤として使用される。850~1200μmはバックアップ用や裏砂として使用される。この様に鋳物砂は造型プロセスにより使用する粒度が異なる。
【0039】
(鋳物砂と鋳型)
本発明に係る焼結人工砂は鋳造用に使用される鋳物砂であり、粘結剤などの他の物質を常法に従って添加することにより鋳型砂を得ることができる。そして、得られた鋳型砂を造型して鋳型を製造することができ、種々の金属の鋳造に使用される。例外的に減圧や凍結などの粘結剤を添加しない鋳型砂及び鋳型もあるが、これらにも本発明に係る焼結人工砂は適用することができる。
【0040】
(気泡粒子率の測定方法)
人工砂を篩い分け、目開き212μm(70mesh)の単一粒子とする。この粒子を水平面に並べ、樹脂埋めする。湿式研磨機を用いて、この水平面より106μmまで研磨(最終は鏡面研磨)して、粒子を断面とする。断面を清浄に洗浄・乾燥してSEM観察用試験片とする。試料は非導電性であり、これが観察できる低真空モードでSEM観察した。
40倍で粒子の断面を撮影し、目視で認められる気泡やキズのある粒子をカウントし、全体の個数で除して百分率とし、気泡粒子率(A)とする。
(空隙率の測定方法)
空隙率とは、粒子の中から平均的なものを選び、その粒子を250倍から300倍で観察視野にその粒子のみが入るように表示し、その画像を白黒の二値化処理を行い、粒子断面積の中の気泡やキズである黒色部の面積を体積百分率(B)としたものである。空隙率とは、平均的な粒子断面の空隙の体積百分率である。
(粒子空隙率の測定方法)
これらA,Bを用いて、全ての粒子の空隙率をA×B/100により推定し、これを粒子空隙率とした。粒子空隙率とは、全ての粒子に存在する空隙率の平均である。
(マトリックスの状態の判定方法)
FE-SEMはSEMよりも高倍率で高解像度の画像が得られるので、10000倍で、粒子断面のマトリックスの状態を観察した。試料はシングルμm単位での凹凸を観察するためにナイタール溶液で20分腐食して粒界が観察しやすいようにした。その後、洗浄・乾燥した後に、高解像度観察できるように白金蒸着を行ってFE-SEM観察用試料とした。可能な限り気泡やキズ部を避けて、代表的な箇所を選び分析視野とした。分析後に得られたSEM像は、全般的にコントラストが同様で粒界などは、薄く写っていたので、画像処理の平滑化を行った。ここで行った平滑化は、画像のコントラストを程良く強調して今まで見えづらかった部分を明瞭にする画像処理である。
【0041】
(粒子強度の測定方法)
図5に微小強度試験機の外観と粒子強度測定の概念図を示す。用いた試験機は電磁力式微小強度試験機(以下、微小強度試験機)である。最大荷重容量が50Nであり、一定変位速度1mm/分の条件で負荷を加えた。粒子強度は試料一粒毎に顕微鏡で撮影して長径と短径を求めた後、微小強度試験機を用いて最大破壊荷重を測定した。
【0042】
(粒子強度の測定方法)
人工砂の粒子の圧縮強度は、図5に示す電磁力式微小強度試験機を用い、粒子1粒ごとに破壊試験を行い、最大破壊荷重を求めた。
最大破壊荷重から粒子強度を求めるには試料粒子の断面積を知る必要である。ここで言う断面積とは圧縮試験時の加圧板と試料粒子の接触面積である。しかしながら、試料粒子は不整形粒子であるためにその接触面積は必ずしも一定で無い。そこで、不整形粒子の圧縮強度計算式として、幾つか提案されている中から、以下の福本の計算式を用いて、圧縮強度を測定した。
圧縮強度(Pa)の算出
Pa=P/(A×B/8)
ここに,P:最大破壊荷重、A:試料長径、B:試料短径
文献) 福本武明,原健夫:土木工学会論文集,596/III-43(1996),91
【0043】
(アスペクト比の測定方法)
アスペクト比は長径と短径から計算されるが、業界によって長径/短径であったり、短径/長径であったりする。本発明では、短径/長径で測定している。すなわち、本発明におけるアスペクト比は1以下であり、1に近いほど真円に近くなる。
アスペクト比は産業会で一般に使用され、現在は長径/短径が主流となっている。しかし、鋳造業界においては、長径/短径の比率は粒形係数として定義されている。これは、日本鋳物協会東海支部無機砂型研究部会が1982年に定めたTIKS-302「生型用けい砂の粒形試験方法」に記載されている。このために、アスペクト比を長径/短径の比率とすると、粒形係数と同義となることから、アスペクト比を短径/長径とすることが鋳造業界でこの時より永らく広まっている。
文献) 日本鋳物協会東海支部無機砂型研究部会:日本鋳物協会東海支部無機砂型研究部会報告書(II)(日本鋳物協会東海支部)(1982)95-176
【0044】
(かさ比重の測定方法)
かさ比重の測定は、中小企業事業団が平成11年5月に発行した「鋳型および鋳型材料に関する試験方法」に規定される「S-10鋳物砂の充填性(かさ比重)試験法」に準じて測定した。異なる点は投入容器であり、これは「S-5鋳物砂の流動度試験法」に定められたフォードカップ♯4を用いた。つまり、かさ比重と流動度の同時測定である。
かさ比重にあっては、空隙の構造とは無関係に結晶構造由来の隙間と焼結時の空隙の両者を含む空隙が多いほど、かさ比重が小さくなる傾向を示す。
【0045】
(気泡のある粒子の比率,粒子の空隙率, マトリックスの状態, 粒子強度,アスペクト比,かさ比重)
本発明の溶融風砕法人工砂が他の人工砂と比較して、粒子強度が高く良好なこと、アスペクト比が1に近く真円に近いこと、かさ比重が溶融法人工砂の中では軽量であることを表1より述べる。
【実施例0046】
本発明の実施の形態に係る溶融風砕法人工砂は、粒子内部に気泡欠陥が無く、マトリックスが均質であり、粒形や粒子表面が良好である。これにより、粒子が破砕することなく産業廃棄物が減でき、粘結剤を低減することによる鋳造欠陥が減少することから製品歩留りが向上し、粘結剤の分解が少なくなることで環境適合となり、軽量であることから重筋作業の低減、などの種々の利点を有するものであり、これを本発明の実施例と比較例とを挙げて以下説明するが、本発明はこれらの実施例に限定して理解されるべきではない。
【0047】
(実施例-1)
実施例-1は、原料はシリカ源とアルミナ源であり、これらをアーク炉に投入し、およそ2100℃で溶解した。炉体を傾斜して出湯し、圧力を調整したエアーをノズルから流れ落ちる溶湯に吹き付け、放物線を描くように風砕した。風砕時に球状となった時点でステンレス容器に受けて冷却を開始させ、乾燥後に篩い分けを行い、製品とした。実施例-1の主な化学成分はSiO2:40.3%、Al2O3:53.6%であり、他はTiO2、Fe2O3、Na2O、MgO、K2O、CaOなどからなる。粒子を冷却させる温度は、図1中の初晶がムライトとなる液相線温度から共晶温度1587℃±10℃付近の範囲としている。「付近」と記したのは高温から低温に移行する際の反応は、目的の温度を下回ることが反応論的には一般である。つまり、急激に温度が低下する場合は、共晶温度の1587℃±10℃以下の温度においても効果がある。ただし、共晶温度である1587℃±10℃を大きく下回ると本発明の効果は無い。
実施例-1は、気泡粒子率は19.4%、空隙率は0.01vol%であることから、粒子空隙率は0.002vol%である。また、マトリックスの状態は均質である。この結果、粒子強度は3263MPaであり、本発明が目的としている2500MPaを超えている。また、アスペクト比は0.956であり、上市されている比較例-3~10の0.820~0.941を上回っている。更には、かさ比重は1.656g/cm3であり、上市されている溶融法人工砂である比較例-3~5の1.680~1.942g/cm3より軽量である。
【0048】
(実施例-2)
実施例-2は、実施例-1と同様な製法で成分が異なる。実施例-2の主な化学成分はSiO2:34.9%、Al2O3:55.7%であり、他の成分はTiO2、Fe2O3、Na2O、MgO、K2O、CaOなどからなる。
実施例-2は、気泡粒子率は21.1%、空隙率は0.01vol%であることから、粒子空隙率は0.002vol%である。また、マトリックスの状態は均質である。この結果、粒子強度は2732MPaであり、本発明が目的としている2500MPaを超えている。また、アスペクト比は0.965であり、上市されている比較例-3~10の0.820~0.941を上回っている。更には、かさ比重は1.662g/cm3であり、上市されている溶融法人工砂である比較例-3~5の1.680~1.942g/cm3より軽量である。
【0049】
(実施例-3)
実施例-3は、実施例-1、2と同様な製法で成分が異なる。実施例-3の主な化学成分はSiO2:29.8%、Al2O3:61.8%であり、他の成分はTiO2、Fe2O3、Na2O、MgO、K2O、CaOなどからなる。
実施例-3は、気泡粒子率は16.3%、空隙率は0.08vol%であることから、粒子空隙率は0.013vol%である。また、マトリックスの状態は均質である。この結果、粒子強度は2716MPaであり、本発明が目的としている2500MPaを超えている。また、アスペクト比は0.959であり、上市されている比較例-3~10の0.820~0.941を上回っている。更には、かさ比重は1.760g/cm3であり、上市されている溶融法人工砂である比較例-3~5の1.680~1.942g/cm3比較すると、これらの中では軽量側である。
【0050】
(実施例-4)
実施例-4は、実施例-1と原料配合が同一であり、同様に製造した後に、およそ1200℃で1時間、焼き戻しを行った。この焼き戻し温度は図1中のシリカとムライトの共晶温度である1587℃±10℃以下であれば良く、温度が下がるにしたがって、焼き戻し時間を長くする必要がある。実施例-4の化学成分はSiO2:39.6%、Al2O3:51.4%であり、他の成分はTiO2、Fe2O3、Na2O、MgO、K2O、CaOなどからなる。
実施例-4は、気泡粒子率は11.4%、空隙率は0.04vol%であることから、粒子空隙率は0.005vol%である。また、マトリックスの状態は均質である。この結果、粒子強度は4074MPaであり、本発明が目的としている2500MPaを超えている。また、アスペクト比は0.968であり、上市されている比較例-3~10の0.820~0.941を上回っている。更には、かさ比重は1.749g/cm3であり、上市されている溶融法人工砂である比較例-3~5の1.680~1.942g/cm3比較すると、これらの中では軽量側である。
実施例-4は実施例-1を焼き戻ししたが、粒子強度は実施例-1の3263MPaから4074MPaに増加している。これは、実施例-4はSiO2が相対的に多い配合であることから、焼き戻し時に析出するシリカ(SiO2比重2.65)とムライト(3Al2O3・2SiO2比重3.16)の2種の鉱物の内、比重の軽いシリカが多く析出することで、粒子内部のnm単位で存在する隙間を埋めて緻密な粒子になることが理由である。
【0051】
(比較例-1、2)
比較例-1は、実施例-2と原料配合が同一であり、同様に製造した後に、およそ1200℃で1時間、焼き戻しを行った。比較例-1の化学成分はSiO2:30.3%、Al2O3:57.8%であり、他の成分はTiO2、Fe2O3、Na2O、MgO、K2O、CaOなどからなる。
比較例-1は、実施例-4と同様に焼き戻しを行ったが、実施例-4と比較するとAl2O3の多い成分である。
比較例-1は、気泡粒子率は38.5%、空隙率は1.01vol%であることから、粒子空隙率は0.39vol%である。マトリックスの状態は不均質であり、μmオーダーのスジ状の隙間が存在する。この結果、粒子強度は1472MPaであり、本発明が目的としている2500MPaを超えていない。
実施例-2は本発明の目的を満たしていたが、焼き戻しした比較例-1は満たしていない。また、同様に焼き戻しした実施例-4は粒子強度が更に増加したが、比較例-1では低下している。これらの理由は、比較例-1は焼き戻し時に析出する鉱物は比重の重いムライトが相対的に多いためであると考えられる。その結果、粒子内部に隙間が生じ、マクロ的には気泡粒子率が増加し、ミクロ的にはマトリックスにスジが生成したために、粒子の構造が弱くなったためであると考えられる。
【0052】
比較例-2は、実施例-3と原料配合が同一であり、同様に製造した後に、およそ1200℃で1時間、焼き戻しを行った。比較例-2の化学成分はSiO2:29.2%、Al2O3:61.0%であり、他の成分はTiO2、Fe2O3、Na2O、MgO、K2O、CaOなどからなる。
比較例-2は、実施例-4と同様に焼き戻しを行ったが、実施例-4及び比較例-2と比較するとAl2O3の多い成分である。
比較例-2は、気泡粒子率は31.2%、空隙率は9.72vol%であることから、粒子空隙率は3.03vol%である。マトリックスの状態は不均質であり、μmオーダーのスジ状の隙間や空洞が存在する。この結果、粒子強度は1329MPaであり、本発明が目的としている2500MPaを超えていない。焼き戻しにより、粒子強度が低下した理由は、比較例-1と同様である。なお、比較例-2はAl2O3が更に多いのでムライトが多く析出し、粒子内の空洞を大きくすることで、粒子強度を更に低下させている。
【0053】
(比較例-3、4)
比較例-3は、上市されている溶融風砕法(黒鉛電極接触溶融法)で製造されたムライト+アルミナ系溶融人工砂である。原料を黒鉛電極に接触して、瞬時に溶解して溶け落ちた溶湯にエアーをノズルで吹き付け、放物線を描くように風砕し、土間などに落下した粒子を自然冷却して製品としたものである。比較例-3の化学成分はSiO2:29.8%、Al2O3:61.8%である。他の成分はTiO2、Fe2O3、Na2O、MgO、K2O、CaOなどからなる。
比較例-3は、気泡粒子率は46.2%、空隙率は0.05vol%であることから、粒子空隙率は0.024vol%である。マトリックスの状態は不均質であり、樹枝状晶が認められる。この結果、粒子強度は1433MPaであり、本発明が目的としている2500MPaを超えていない。気泡粒子数が高いのと、マトリックスに樹枝状晶が存在することが、粒子強度低下の原因であろう。
【0054】
比較例-4は、比較例-3と同一の製法で製造された上市されている溶融風砕法(黒鉛電極接触溶融法)人工砂である。比較例-3より夾雑物が多い。化学成分はSiO2:18.4%、Al2O3:68.6%である。SiO2とAl2O3の合計が比較例-3では90.5%に対して、比較例-4では87.0%である。
比較例-4は、気泡粒子率は35.2%、空隙率は0.01vol%であることから、粒子空隙率は0.004vol%である。マトリックスの状態は均質である。この結果、粒子強度は1425MPaであり、本発明が目的としている2500MPaを超えていない。気泡粒子率が高いことが粒子強度を阻害している原因であろう。
【0055】
(比較例-5)
比較例-5は、上市されている火炎内溶融法で製造されたムライト系溶融人工砂である。下方に火炎が向けられた酸素バーナーに、予め鋳物砂のサイズに粉砕した原料粒子を火炎に沿って投入し、火炎の熱で粒子を溶解し、落下する際に球状とし、自然冷却したものである。化学成分はSiO2:33.1%、Al2O3:58.9%である。他の成分はTiO2、Fe2O3、Na2O、MgO、K2O、CaOなどからなる。
比較例-5は、気泡粒子率は63.9%、空隙率は7.30vol%であることから、粒子空隙率は4.67vol%である。マトリックスの状態は均質である。この結果、粒子強度は1425MPaであり、本発明が目的としている2500MPaを超えていない。気泡粒子率が高いことが粒子強度を阻害している原因であろう。
【0056】
(比較例-6, 7)
比較例-6は、上市されている焼結法(パンミキサ造粒法)で製造されたムライト系人工砂である。化学成分はSiO2:51.4%、Al2O3:40.7%である。他の成分はTiO2、Fe2O3、Na2O、MgO、K2O、CaOなどからなる。
比較例-6は、気泡粒子率は76.9%、空隙率は2.60vol%であることから、粒子空隙率は2.00vol%である。マトリックスの状態は不均質であり、μmオーダーの丸みを帯びた凹凸がある。この結果、粒子強度は1565MPaであり、本発明が目的としている2500MPaを超えていない。気泡粒子率が高いことや不均質なマトリックスが粒子強度を阻害している原因であろう。
【0057】
比較例-7は、上市されている焼結法(パンミキサ造粒法)で製造されたムライト系人工砂である。化学成分はSiO2:44.3%、Al2O3:49.8%である。他の成分はTiO2、Fe2O3、Na2O、MgO、K2O、CaOなどからなる。
比較例-7は、気泡粒子率は78.6%、空隙率は2.10vol%であることから、粒子空隙率は1.65vol%である。マトリックスの状態は不均質であり、μmオーダーの丸みを帯びた凹凸がある。この結果、粒子強度は1671MPaであり、本発明が目的としている2500MPaを超えていない。気泡粒子率が高いことや不均質なマトリックスが粒子強度を阻害している原因であろう。
【0058】
(比較例-8~10)
比較例-8は、上市されている焼結法(スプレードライヤ造粒法)で製造されたムライト系人工砂である。化学成分はSiO2:37.5%、Al2O3:55.8%である。他の成分はTiO2、Fe2O3、Na2O、MgO、K2O、CaOなどからなる。
比較例-8は、気泡粒子率は100.0%、空隙率は16.70vol%であることから、粒子空隙率は16.70vol%である。マトリックスの状態は不均質であり、粗大なムライト結晶が析出しており、粒界により不連続となっている。この結果、粒子強度は955MPaであり、本発明が目的としている2500MPaを超えていない。気泡粒子率が極めて高いことや不均質なマトリックスが粒子強度を阻害している原因であろう。
【0059】
比較例-9は、上市されている焼結法(スプレードライヤ造粒法)で製造されたムライト系人工砂である。比較例-8と同様な製造工程を経て、最終工程で磨鉱工程を追加して、粒形などを改善したものである。化学成分はSiO2:37.0%、Al2O3:56.3%である。他の成分はTiO2、Fe2O3、Na2O、MgO、K2O、CaOなどからなる。
比較例-9は、気泡粒子率は100.0%、空隙率は9.80vol%であることから、粒子空隙率は9.80vol%である。マトリックスの状態は不均質であり、粗大なムライト結晶が析出しており、粒界により不連続となっている。この結果、粒子強度は836MPaであり、本発明が目的としている2500MPaを超えていない。気泡粒子率が極めて高いことや不均質なマトリックスが粒子強度を阻害している原因であろう。
【0060】
比較例-10は、上市されている焼結法(スプレードライヤ造粒法)で製造されたムライト系人工砂である。比較例-8と同様な製造工程を経て、最終工程で比較例-9と異なる磨鉱工程を追加して、粒形などを改善したものである。化学成分はSiO2:39.8%、Al2O3:57.8%である。他の成分はTiO2、Fe2O3、Na2O、MgO、K2O、CaOなどからなる。
比較例-10は、気泡粒子率は100.0%、空隙率は9.60vol%であることから、粒子空隙率は9.60vol%である。マトリックスの状態は不均質であり、粗大なムライト結晶が析出しており、粒界により不連続となっている。この結果、粒子強度は1124MPaであり、本発明が目的としている2500MPaを超えていない。気泡粒子率が極めて高いことや不均質なマトリックスが粒子強度を阻害している原因であろう。
【0061】
(微粉化率での実施例、比較例の評価)
実施例、比較例の粒子強度について述べたが、鋳造ラインにおいて、これらの強度差がどのように影響するかについて、粒子の微粉化率を求めて比較する。微粉化率の計算方法は、以下の平田や黒川らの文献に示されている。
文献)
平田英之,森本宏,黒川豊,上林仁司:JISSAR2003論文集(2003),149
平田英之,森本宏,黒川豊,上林仁司:日本材料学会第53期学術講演会講演論文集(2004),417
H.Ameku,H.Kambayashi,Y.Kurokawa,H.Hirata,H.Miyake:AFS.Trans.114(2006),paper06-045(04),pdf,1-10
【0062】
最初に、鋳造プロセスで粒子が受ける応力分布を知る必要がある。動的シミュレーション(ANSYS-LS-DYNATM)を用い、鋳造プロセスで粒子が衝突する条件を設定し、その際に発生する応力分布を得る。条件は5m/s、3m/s、1m/sの粒子の速度と上記文献では設定している。これは鋳造プロセスの中で、粒子が最も応力を受ける再生工程の中での粒子速度である。これらの速度で粒子が衝突すると仮定している。これを「鋳造時の応力分布」とする。
次いで,この鋳造時の応力分布と、本発明で得た粒子の圧縮強度分布から求まる基準化応力とから微粉化率を算出する。基準化応力とは、セラミックスである人工砂では粒子サイズが大きくなるに従って、圧縮強度が低下する。これはセラミックサンドの強度は体積に依存するためである。そこで、有効体積により基準化し、これを基準化応力とする。
鋳造時の応力分布と基準化応力はともに平均、偏差が求まる。そこで、平均、偏差から確率密度曲線を計算し、図6に示す。確率密度曲線の積分値は1である。
図7に示すように、鋳造時の応力分布と基準化応力の確率密度曲線の重なる箇所は、粒子が破壊される箇所であり、これを百分率としたものが微粉化率である。
表4に、実施例-1~4と比較例-1~10の微粉化率をまとめて示す。実施例では微粉化率が一桁の値であるのに対して、比較例は全て二桁の値である。
【0063】
【表4】
表4 実施例と比較例の微粉化率
【0064】
(シェル鋳型、フラン鋳型、アルカリフェノール鋳型での特性評価)
【0065】
(シェル鋳型)
表5に本発明の溶融風砕法人工砂のシェル鋳型の特性を示す。実施例1~4と、比較例の中から比較例-1~3を対比して示す。それぞれの人工砂に対して、重量比で高分子系のフェノール樹脂を1.2%加え、ヘキサメチレンテトラミンを樹脂に対して15%、ステアリン酸カルシウムを人工砂に対して0.1%添加してレジンコーテットサンドとした。280℃で加熱して試験片を作製し、曲げ強度、試験片密度を測定した。その他に、一般的に測定する温時強度、280℃肉厚、1000℃最大膨張量を測定している。
実施例-1~4の曲げ強度は比較例-1~3よりも高い値である。比較例-3が上市されていることから、本発明は市場で販売されている人工砂以上の強度特性である。
なお、粘結剤を砂重量に対して添加したが、かさ比重に依存する試験片密度がそれぞれ異なることから、体積当たりで樹脂を添加した際に換算した曲げ強度データも付けている。鋳造現場では鋳型の体積は一定であることから、体積当たりの樹脂量を一定とすることが合理的である。これによると、本発明は上市されている比較例-3と比較して、1.25倍から1.40倍の曲げ強度であり、十分な強度を有していることが分かる。従って、本発明品はシェル鋳型においては上市されているものよりも優位であると言える。
【0066】
【表5】
表5 シェル鋳型特性
【0067】
(フラン鋳型)
表6に本発明の溶融風砕法人工砂のフラン鋳型の特性を示す。実施例1~4と、比較例の中から比較例-1~3を対比して示す。それぞれの人工砂に対して、重量比で汎用系フラン樹脂を1.2%加え、スルフォン酸系硬化剤を樹脂に対して40%添加して混練した。混練後、直ぐに直径28mm×高さ50mmの試験片を造型し、24時間後までの圧縮強度を測定した。
実施例-1~4の24時間後の圧縮強度は、上市されている比較例-3よりも高い値を示した。また、体積当たりで樹脂添加に換算した24時間後の圧縮強度では、実施例1~4は、比較例-1~3よりも圧縮強度が高い結果であった。従って、本発明品はフラン鋳型においては上市されているものよりも優位であると言える。
【0068】
【表6】
表6 フラン鋳型特性
【0069】
(アルカリフェノール鋳型)
表7に本発明の溶融風砕法人工砂のアルカリフェノール鋳型の特性を示す。実施例1~4と、比較例の中から比較例-1~3を対比して示す。それぞれの人工砂に対して、重量比でアルカリフェノール樹脂を1.5%加え、エステル有機酸を樹脂に対して20%添加して混練した。混練後、直ぐに直径28mm×高さ50mmの試験片を造型し、24時間後までの圧縮強度を測定した。
実施例-1~4の24時間後の圧縮強度は、上市されている比較例-3とほぼ同程度である。また、体積当たりで樹脂添加に換算した24時間後の圧縮強度では、実施例1~4は、比較例-1~3とほぼ同程度の圧縮強度である。従って、本発明品は上市されているものと同程度であることから、使用可能であると言える。
【0070】
【表7】
表7 アルカリフェノール鋳型特性
【0071】
(コールドボックス鋳型)
表8に本発明の溶融風砕法人工砂のコールドボックス鋳型の特性を示す。実施例1~4と、比較例の中から比較例-1~3を対比して示す。それぞれの人工砂に対して、重量比でフェノール樹脂を0.3%、イソシアネート樹脂を0.3%添加して混練し、アミンを触媒として硬化させた。試験片は直径28mm×高さ50mmの試験片を造型し、24時間後までの圧縮強度を測定した。
実施例-1~4の24時間後の圧縮強度は、上市されている比較例-3よりも高い値を示した。また、体積当たりで樹脂添加に換算した24時間後の圧縮強度では、実施例1~4は、比較例-1~3よりも圧縮強度が高い結果であった。従って、本発明品はコールドボックス鋳型においては上市されているものよりも優位であると言える。
【0072】
【表8】
表8 コールドボックス鋳型特性
【産業上の利用可能性】
【0073】
鋳造用の鋳型(砂型)として繰り返し回収して使用される鋳物砂に対して利用可能である。例えば、自硬性鋳型のフラン鋳型やアルカリフェノール鋳型などに使用可能である。中子用のシェル鋳型、コールドボックス鋳型などに使用可能である。上記の造型法よりも粘結剤の添加量が多いために粘結剤の影響を受けにくい生型などには当然、使用可能である。また、粘結剤を添加しない造型法であるVプロセス、消失模型鋳造法などの鋳物砂としても使用可能である。
これらの鋳物砂を用いて、鋳鉄、鋳鋼物、銅合金、アルミニウム合金、その他の金属を鋳造するのに適している。
粒子強度が高いことから、鋳造工程の中で受ける応力に対して、破砕することなく半永久的に使用できる。これにより、鋳物砂原料の省資源が達成されるとともに、産業廃棄物がなくなることで、鋳造業界は環境適合型の業種となる。
また、粒形や粒子表面が良好であることから粘結剤量が低減できること、また、溶融法人工砂としては軽量であるため体積比で粘結剤添加量が少ないことから、粘結剤を低減することによるメリットを受けることができる。低減メリットとは、ガス欠陥の低下による鋳造歩留まり改善、鋳造時の分解ガスの低下による環境汚染の改善、粘結剤量低下による省資源、鋳型砂の粘性低下による鋳型充填性改善と高寸法鋳造品の製造、鋳造製品の製造原価低減、などである。
更に、鋳物砂が軽量となることで、作業者は重筋作業から解放される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7