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特開2022-34602インスタント紅茶飲料及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022034602
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】インスタント紅茶飲料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23F 3/16 20060101AFI20220225BHJP
【FI】
A23F3/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020138359
(22)【出願日】2020-08-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り [刊行物1]2019年8月20日に三井農林株式会社のウェブサイトで公開 [刊行物2]2019年8月20日に三井農林株式会社のウェブサイトで公開 [刊行物3]2019年8月26日に株式会社PRTIMESのウェブサイトで公開 [刊行物4]2019年8月26日に株式会社PRTIMESのウェブサイトで公開 [刊行物5]2019年9月に三井農林株式会社のパンフレット「2019AUTUMN商品案内」で公開 [刊行物6]2019年8月26日に三井農林株式会社が全国販売したことで公開 [刊行物7]2019年8月26日に三井農林株式会社のウェブサイト日東紅茶商品情報で公開 [刊行物8]2019年8月26日に三井農林株式会社のウェブサイト日東紅茶商品情報で公開 [刊行物9]2019年10月24日発行の食品産業新聞で公開 [刊行物10]2019年9月9日発行の食品新聞で公開
(71)【出願人】
【識別番号】303044712
【氏名又は名称】三井農林株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕子
(72)【発明者】
【氏名】松田 政徳
(72)【発明者】
【氏名】清水 綾子
(72)【発明者】
【氏名】山西 涼太
(72)【発明者】
【氏名】前田 壮矢
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 美砂子
【テーマコード(参考)】
4B027
【Fターム(参考)】
4B027FB08
4B027FB11
4B027FC10
4B027FE02
4B027FK02
4B027FK03
4B027FK04
4B027FK15
4B027FK20
4B027FP72
(57)【要約】
【課題】酸性条件下となりうる酸味料を含むインスタント紅茶飲料において、冷水で溶解する時にも、茶ポリフェノールが十分に溶解し、さらに濁りがなく好ましい水色を呈するインスタント紅茶飲料の提供することにある
【解決手段】酸味料を含有するインスタント紅茶飲料において、
下記(A)~(E)を満たす紅茶抽出物を0.1~50.0質量%を配合し、
(A)カテキン類
(B)カフェイン 4.0質量%以下
(C)没食子酸
(D)茶ポリフェノール 50質量%以下
(E)テアフラビン類 0.01~3.0質量%
さらに、前記インスタント紅茶飲料を飲用濃度で水に溶かした際のpHが2~4であって、
熱水溶解時の茶ポリフェノール量(mg/100mL)に対する冷水溶解時の茶ポリフェノール量(mg/100mL)の比率が0.7以上であることを特徴とするインスタント紅茶飲料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸味料を含有するインスタント紅茶飲料において、
下記(A)~(E)を満たす紅茶抽出物を0.1~50.0質量%を配合し、
(A)カテキン類
(B)カフェイン 4.0質量%以下
(C)没食子酸
(D)茶ポリフェノール 50質量%以下
(E)テアフラビン類 0.01~3.0質量%
さらに、前記インスタント紅茶飲料を飲用濃度で水に溶かした際のpHが2~4であって、
熱水溶解時の茶ポリフェノール量(mg/100mL)に対する冷水溶解時の茶ポリフェノール量(mg/100mL)の比率が0.7以上であることを特徴とするインスタント紅茶飲料。
【請求項2】
紅茶抽出物が、 [(D)茶ポリフェノール-((A)カテキン+(C)没食子酸+(E)テアフラビン類)]/(D)茶ポリフェノール≧0.82であることを満たす請求項1に記載のインスタント紅茶飲料。
【請求項3】
さらに粉末果汁を配合することを特徴とする請求項1または2に記載のインスタント紅茶飲料。
【請求項4】
酸味料がクエン酸および/またはリンゴ酸であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のインスタント紅茶飲料。
【請求項5】
酸味料を配合するインスタント紅茶飲料の製造方法において、
下記(A)~(E)に調整された紅茶抽出物を0.1~50.0質量%となるよう添加し
(A)カテキン類
(B)カフェイン 4.0質量%以下
(C)没食子酸
(D)茶ポリフェノール 50質量%以下
(E)テアフラビン類 0.01~3.0質量%
さらに、前記酸味料がクエン酸および/またはリンゴ酸であり、
前記インスタント紅茶飲料を飲用濃度で水に溶かした際のpHが2~4であって、
熱水溶解時の茶ポリフェノール量(mg/100mL)に対する冷水溶解時の茶ポリフェノール量(mg/100mL)の比率が0.7以上であることを特徴とするインスタント紅茶飲料の製造方法。
【請求項6】
紅茶抽出物が、[(D)茶ポリフェノール-((A)カテキン+(C)没食子酸+(E)テアフラビン類)]/(D)茶ポリフェノール≧0.82に調整することを特徴とする請求項5に記載のインスタント紅茶飲料の製造方法。
【請求項7】
さらに粉末果汁を添加することを特徴とする請求項5または6に記載のインスタント紅茶飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸味料が配合されたインスタント紅茶飲料(インスタントティー)とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インスタント紅茶飲料は粉末を熱水等に溶解させるだけで手軽に複雑な味の飲料を摂取することができ、消費者のし好の多様化に伴い、様々な果汁や果汁フレーバーを配合したインスタント紅茶飲料が数多く上市されている。
【0003】
インスタント紅茶飲料のなかでも、フルーツティーは、果汁の粉末や果皮を配合するか、さらにフルーツフレーバーを配合して製造されている。なかでも粉末状の果汁を配合することが一般的であり、その際に、より果実らしい味、特に酸味を付与するために果汁由来以外の酸味成分以外にもクエン酸等の酸味料を配合する場合が多い。
【0004】
またインスタント紅茶飲料は粉末を冷水又は熱水に溶解させることから、溶解性が何よりも求められる。特にアイスで飲用する場合は、インスタント紅茶飲料をいったんお湯で溶かしてから氷又は冷水を加える方法もあるが、冷水を直接加えて溶解させるほうがより簡便であることから冷水での溶解性が課題となっている。
さらに、インスタント紅茶飲料に含まれる紅茶成分(茶ポリフェノール)は溶解性が悪く、他成分と反応してダマや沈殿が生じるため、溶解性の改善が必要となる。冷水で溶解する場合は、より顕著に水色が濁り、沈殿も生じやすい。
特に酸性条件下、すなわち酸味料を配合したインスタント紅茶飲料をアイスで飲用するシーンでは、インスタント紅茶飲料中の紅茶成分が十分に溶けにくく、または水色が濁るという問題がより生じやすくなる。さらに、紅茶由来の成分が溶け残ることから、飲用時にざらつきも感じやすくなる。
【0005】
これまで、インスタント紅茶飲料の冷水での溶解性を高める方法として、紅茶抽出物中のカテキン、カフェイン、没食子酸、ポリフェノール、テアフラビンの含有量および含有質量比率をある一定の範囲内に調整することによって、クリームダウンが生じにくく、溶解性に優れた紅茶抽出物(特許文献1)、紅茶葉を熱水抽出し、不溶性クリームを形成させたのちに茶クリームを紅茶葉と混合、抽出液を得、この抽出液と最初の抽出液と混合し、濃縮乾燥する方法(特許文献2)、紅茶と緑茶の葉の混合物を1~2大気圧下で熱水により共抽出し、得た抽出液を濃縮乾燥して、冷水可溶性茶粉末を得る方法(特許文献3)などの技術が開示されている。しかしこれらはどれも紅茶ポリフェノールとカフェインの結合による、クリームダウンと呼ばれる混濁物の生成を抑制するための手段であり、酸性条件下でのインスタント紅茶飲料の溶解性(沈殿物がなく、水色に濁りがない)改善方法については何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-159833号公報
【特許文献2】特開平8-80158号公報
【特許文献3】特開平7-194303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
紅茶抽出物を粉末状のインスタント紅茶飲料に利用する場合、熱水に対しては良好な溶解性が得られるものの、酸性条件下では溶解性が低下し、特に冷水への溶解性はその低下が著しく、濁りや不溶物が発生によって嗜好性が低下する原因となってしまう。濁りや不溶物は紅茶中に含まれるポリフェノールの不溶化に由来するため、紅茶特有の渋みが感じられにくくなるばかりか、紅茶ポリフェノールの優れた生理機能性を安定的に享受する上での大きな障害となってしまう。したがって、冷水や酸性条件下での溶解性を改善することは、紅茶抽出物を含有する幅広い飲料を提供するための課題となっている。
そこで本発明の課題は、酸性条件下となりうる酸味料を含むインスタント紅茶飲料において、冷水で溶解する時にも、茶ポリフェノールが十分に溶解し、さらに濁りがなく好ましい水色を呈するインスタント紅茶飲料の提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果で、紅茶抽出物の組成である、カテキン類、テアフラビン類、カフェイン、茶ポリフェノールおよび没食子酸の含有量、あるいは含有比率を一定の範囲内に調整した紅茶抽出物を配合することによって、酸性条件下において、冷水での溶解性の改善に寄与し得ることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 酸味料を含有するインスタント紅茶飲料において、
下記(A)~(E)を満たす紅茶抽出物を0.1~50.0質量%を配合し、
(A)カテキン類
(B)カフェイン 4.0質量%以下
(C)没食子酸
(D)茶ポリフェノール 50質量%以下
(E)テアフラビン類 0.01~3.0質量%
さらに、前記インスタント紅茶飲料を飲用濃度で水に溶かした際のpHが2~4であって、
熱水溶解時の茶ポリフェノール量(mg/100mL)に対する冷水溶解時の茶ポリフェノール量(mg/100mL)の比率が0.7以上であることを特徴とするインスタント紅茶飲料。
[2] 紅茶抽出物が、 [(D)茶ポリフェノール-((A)カテキン+(C)没食子酸+(E)テアフラビン類)]/(D)茶ポリフェノール≧0.82であることを満たす請求項1に記載のインスタント紅茶飲料。
[3] さらに粉末果汁を配合することを特徴とする請求項1または2に記載のインスタント紅茶飲料。
[4] 酸味料がクエン酸および/またはリンゴ酸であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のインスタント紅茶飲料。
[5] 酸味料を配合するインスタント紅茶飲料の製造方法において、
下記(A)~(E)に調整された紅茶抽出物を0.1~50.0質量%となるよう添加し
(A)カテキン類
(B)カフェイン 4.0質量%以下
(C)没食子酸
(D)茶ポリフェノール 50質量%以下
(E)テアフラビン類 0.01~3.0質量%
さらに、前記酸味料がクエン酸および/またはリンゴ酸であり、
前記インスタント紅茶飲料を飲用濃度で水に溶かした際のpHが2~4であって、
熱水溶解時の茶ポリフェノール量(mg/100mL)に対する冷水溶解時の茶ポリフェノール量(mg/100mL)の比率が0.7以上であることを特徴とするインスタント紅茶飲料の製造方法。
[6] 紅茶抽出物が、[(D)茶ポリフェノール-((A)カテキン+(C)没食子酸+(E)テアフラビン類)]/(D)茶ポリフェノール≧0.82に調整することを特徴とする請求項5に記載のインスタント紅茶飲料の製造方法。
[7] さらに粉末果汁を添加することを特徴とする請求項5または6に記載のインスタント紅茶飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酸性条件下でしかも冷水への溶解を高めることができるため、より手軽に茶ポリフェノールを摂取するのに適したインスタント紅茶飲料の提供が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、以下特に断らない限り、「%」は質量%を意味する。
【0012】
本発明において、インスタント紅茶飲料とは、水、湯、炭酸水など水性媒体を用いて液体状に溶解して飲用する飲料において、溶解前の粉末状の飲料を意味する。また、インスタント紅茶飲料配合液体飲料とは、上記インスタント紅茶飲料を水性媒体に溶解した液体状飲料を意味する。
本発明のインスタント紅茶飲料は前記紅茶抽出物の他、後述する他の成分、例えば糖類、酸味料、粉末果汁等と混合して均一化して得られるが、本発明のインスタント紅茶飲料を製造するのに適した公知手法、例えばリボンミキサーによる撹拌混合や、ターンブレンダーによる転動式混合、流動層造粒などを適宜選択することが可能であり、これらに限定はされない。また、流動層造粒手段等により顆粒化しても良い。
【0013】
本発明のインスタント紅茶飲料は、(A)カテキン類、(B)カフェイン 4.0質量%以下、(C)没食子酸、(D)茶ポリフェノール 50質量%以下、(E)テアフラビン類 0.01~3.0質量% である紅茶抽出物0.1~5.0質量%を配合することによって、前記インスタント紅茶飲料を飲用濃度で水に溶かした際のpHが2~4のとき、熱水溶解時の茶ポリフェノール量(mg/100mL)に対する冷水溶解時の茶ポリフェノール量(mg/100mL)の比率が0.7以上であることを特徴とする。
ここで、溶解時の温度における熱水とは温度が90℃~100℃であり、冷水とは、温度が0~10℃である。
本発明の溶解量の比率を算出する場合、熱水では沈殿が見られず、溶解していることが前提となる。ここで、溶解していることとは、インスタント紅茶飲料5~10gを容器にいれ、そこに熱水100mLを加え、20秒間撹拌し、目視で沈殿物がなく、水色に混濁がないことをいう。実際の茶ポリフェノール溶解量の測定する場合は、溶解直後の溶液を一部取り出し、0.45μmのフィルターでろ過後ろ液中の茶ポリフェノールの濃度を測定し、溶解量とした。
本発明における熱水溶解時の茶ポリフェノール量(mg/100mL)に対する冷水溶解時の茶ポリフェノール量(mg/100mL)の比率は0.7以上であり、より好ましくは0.9以上であり、より好ましくは0.95以上である。また、0.7未満では飲用時のざらつきの原因になってしまう。
また、インスタント紅茶飲料配合液体飲料は、飲用時の溶液中における茶ポリフェノール濃度は、10~150mg/100mLであることが好ましく、20~100mg/100mLであることがより好ましい。
【0014】
本発明のインスタント紅茶飲料の飲用時のpHとは、インスタント紅茶飲料5~10gを水100mLに溶解した際の室温におけるpHであり、pHが2~4が好ましく、2.5~3.5がより好ましい。pHは、後述の酸味料又はその塩を適宜添加して調整することで所定のpHに調整することができる。
【0015】
本発明のインスタント紅茶飲料は、紅茶葉の抽出物(いわゆる紅茶エキス)を主たる原料として、その他に糖類、酸味料、粉末果汁を混合して得られる粉末状の紅茶のことである。
本発明のインスタント紅茶飲料に使用する紅茶抽出物は、1種または2種以上の紅茶葉を温水又は熱水で抽出して得られた抽出液を粉末状に乾燥したものである。
たとえば、特許文献1に記載の紅茶抽出物を適宜用いてもよい。
【0016】
本発明における紅茶抽出物は、紅茶葉から、水、熱水、有機溶媒、含水有機溶媒等により抽出された紅茶抽出液、あるいはこれを必要に応じて濃縮または乾燥させたものであって、インスタント粉末飲料中の紅茶抽出物の配合量は、0.1~50.0質量%であって、0.2~30.0質量%が好ましく、0.4~10.0質量%がより好まく、0.5~5.0質量%がさらに好ましい。
また、紅茶抽出物中の(A)カテキン類、(B)カフェイン、(C)没食子酸、(D)茶ポリフェノール及び(E)テアフラビン類を含有し、(B)カフェイン 4.0質量%以下、(D)茶ポリフェノール 50質量%以下、(E)テアフラビン類 0.01~3.0質量%であって、[(D)茶ポリフェノール-((A)カテキン+(C)没食子酸+(E)テアフラビン類)]/(D)茶ポリフェノールが0.82以上であり、0.85以上がより好ましい。また0.95以下であることが好ましく、0.85以上0.90以下であることがさらに好ましい。
【0017】
紅茶抽出物中の(A)カテキン類は、(±)-カテキン、(-)-エピカテキン、(-)-エピガロカテキン、(±)-ガロカテキン、(-)-エピカテキンガレート、(-)-カテキンガレート、(-)-エピガロカテキンガレート、(-)-ガロカテキンガレートであって、カテキン類の含有量はこれらの総和であって、3質量%以下が好ましく、0.01~2.8質量%がより好ましく、0.05~2.1質量%がさらに好ましい。
紅茶抽出物中の(B)カフェイン濃度は、4.0質量%以下であって、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下、さらに好ましくは0.01質量以下である。
紅茶抽出物中の(C)没食子酸濃度は、0.1~1.0質量%であって、0.1~0.5質量%が好ましい。
紅茶抽出物中の(D)茶ポリフェノール濃度は、50質量%以下が好ましく、さらに10.0%以上40.0質量%以下が好ましく、15.0~30.0質量%がより好ましい。ここで茶ポリフェノールとは、茶の生葉などに存在するカテキン類((±)-カテキン(C)、(-)-エピカテキン(EC)、(-)-エピガロカテキン(EGC)、(±)-ガロカテキン(GC)、(-)-エピカテキンガレート(ECg)、(-)-カテキンガレート(Cg)、(-)-エピガロカテキンガレート(EGCg)、(-)-ガロカテキンガレート)(GCg)、これらが酸化酵素であるポリフェノールオキシダーゼの発酵作用によって酸化重合することで形成されたオリゴマー(テアシネンシン類、テアフラビン類、テアルビジン類等)、さらに発酵が進むにつれこれら成分が複雑に重合した構造の定かではない化合物も含まれる。
紅茶抽出物中の(E)テアフラビン類は、0.001~3質量%であり、より好ましくは0.01~2.0質量%、さらに好ましくは0.05~1.0質量%である。ここでテアフラビン類とは、茶の発酵過程でカテキン類から生成する赤色色素成分であり、テアフラビン1(テアフラビン、TF1)、テアフラビン2A(テアフラビン‐3‐ガレート、TF2A)、テアフラビン2B(テアフラビン‐3’ ‐ガレート、TF2B)、テアフラビン3(テアフラビン‐3,3’ ‐ジガレート、TF3)の4種が主なテアフラビンであり、本発明のテアフラビン類含有重量はこれらをHPLCによって定量した総和で求めることができる。
【0018】
原料として使用する紅茶葉は、ツバキ目ツバキ科ツバキ属の常緑樹である「チャノキ」であるCamellia sinensisの中国種(var.sinensis)やアッサム種(var.assamica)又はそれらの雑種から得られる葉や茎から発酵工程を経て製茶されたものが挙げられる。例えば、インド産、スリランカ産、インドネシア産、ケニア産、中国産、その他いずれの産地であってもよいし、リーフグレイド、ブロークングレイド、その他の茶葉等級のいずれであってもよい。なお、製造時に茶葉を直接的な原料とせず、市販の紅茶抽出物を用いて前記(A)~(E)の成分含有重量が所望の値となるように調整したものについても、そもそもの出発原料が茶葉である点で、本発明の紅茶抽出物として扱う。
【0019】
本発明における紅茶抽出物の製造方法は、原料茶葉の抽出方法としては、ニーダーや抽出用タンクなどを用いたバッチ式抽出法や抽出塔などを用いたカラム式抽出法などの公知の方法が挙げられる。抽出の条件は原料茶葉の種類、抽出機の種類、風味などにより適宜選択されるものであるが、例えば原料茶葉1質量部に対して3~50質量部の抽出溶媒を用いれば良く、4~30質量部が抽出効率、製造コストおよび品質などの点で好ましい。抽出溶媒は水を用いるのが、安全上問題が無く好ましい。
【0020】
紅茶葉の抽出温度は特に制限されないが、60~100℃が好ましく、80~100℃がより好ましい。抽出時間は抽出溶媒の量や抽出温度にも依存するが、30秒~6時間、好ましくは3分~3時間、さらに好ましくは4分~1時間が良い。抽出工程中は必要に応じて撹拌を行い、上記抽出工程の後にカートリッジフィルターやネル、ろ過板、ろ紙、ろ過助剤を併用したフィルタープレスなどのろ過や遠心分離などにより固液分離して茶抽出液を得るようにすれば良い。また、抽出工程においては茶抽出液の酸化を抑制するために酸化防止剤を添加しても良い。酸化防止剤としては、食品添加物として認められているアスコルビン酸、エリソルビン酸またはそれらの金属塩などが挙げられる。また、得られた茶抽出液を濃縮したものや市販の茶エキスを溶解したものについても、そもそもの出発原料が茶葉である点で茶抽出液として利用することができる。その他、抽出液に対して渋みの調製や保存安定性を高めるためにタンナーゼで処理することもできる。この処理により渋みが抑えられ、保存中の沈殿物や濁りの発生が抑制される。タンナーゼ処理の条件は従来知られた公知の方法を用いればよい。
【0021】
また、本発明のインスタント紅茶飲料に使用する紅茶抽出物は、市販の紅茶抽出物を利用してもよく、例えば、三井農林(株)製「インスタントティーRX-100」、佐藤食品工業(株)製「紅茶エキスパウダー」等が挙げられ、これらをさらに精製して利用してもよい。前記紅茶成分が範囲内になるように、それぞれの紅茶抽出物あるいは精製品を混合して使用することもできる。
【0022】
本発明の紅茶抽出物は、上記の紅茶抽出物を発明の効果を得るものとして、さらに精製してもよい。
紅茶由来の各成分含量をコントロールするための精製手段としてはいくつかの方法があり、それらを適宜選択して用いることができる。例えば、鉱物類(活性白土、珪藻土など)や活性炭、合成吸着樹脂などの吸着剤を利用した公知の精製処理手段が挙げられる。本発明においては、紅茶本来の風味を保つ観点から特に、活性炭を用いて精製処理するのが好ましい。
活性炭を用いて精製処理する場合、活性炭としては、例えば、粒状炭、粉末炭、顆粒炭、破砕炭等を使用することができ、その種類を問わない。活性炭の使用量は特に制限されないが、抽出液に対し0.5~10質量%添加するのが好ましく、1~5質量%がより好ましい。また、活性炭との接触温度に特に制限はないが、30~80℃が好ましく、35~60℃がより好ましく、40~45℃がさらに好ましい。活性炭との接触時間は特に制限されないが、30~60分程度行うのがよい。
合成吸着剤を用いて精製処理する場合、合成吸着剤としては、その母体がスチレン系、スチレンジビニルベンゼン系、アクリル系、メタクリル系、アクリル酸エステル系、アミド系、デキストラン系、セルロース系、ポリビニル系等を使用することができ、その種類を問わない。なお、合成吸着剤を用いて精製処理する場合は、アルカリ処理した紅茶抽出物をそのまま用いればよい。
また、このような市販品としては、三井農林(株)製紅茶エキスパウダーBCLが挙げられ、紅茶成分が範囲内になるように、上記精製品に添加して利用することもできる。
【0023】
また、粉末化する方法としては、上記の方法で調製した調合液を必要に応じて濃縮などを行い、前記濃縮液に賦形剤としてデキストリンなどを加えた後に、噴霧乾燥などの手段を用いて粉末化することができる。
【0024】
本発明のインスタント紅茶飲料における茶ポリフェノールは、0.1~1.3質量%であることが好ましい。本発明における茶ポリフェノール量とは酒石酸鉄法によって定量されるポリフェノール類を意味する。たとえば「七訂 日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアル・解説」(文部科学省監修、建帛社、2016年2月発行)に記載の酒石酸鉄吸光光度法を採用して測定することができる。本発明のインスタント紅茶飲料には主に茶葉や果実に由来するポリフェノール類が含まれる。
【0025】
また、本発明のインスタント紅茶飲料における茶ポリフェノール以外の成分では、
カテキン類は、0.001~0.05質量%、 カフェインは、0.2質量%以下、 没食子酸は0.0001~0.005質量%、 テアフラビン類は0.000005~0.05質量%であることが好ましい。
【0026】
本発明のインスタント紅茶飲料に配合することのできる果汁は特に限定されず、リンゴ、梨、梅、桃、グレープフルーツ、レモン、オレンジ、その他ベリー類やぶどうなど様々な果実の粉末果汁を使用することができ、これらは単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。特に、本発明においては粉末リンゴ果汁が好ましい。
また、果汁を粉末化する方法は、公知手法を適宜選択することが可能であり、例えばスプレードライ、フリーズドライ等により粉末状にすることができる。また、賦形剤としてデキストリン等を配合することができる。
【0027】
本発明のインスタント紅茶飲料に配合することのできる粉末果汁の配合率は特に限定されないが、0.1~15質量%が好ましく、0.5~10質量%がより好ましく、1.0~7質量%がさらに好ましい。水に溶解した際の飲用時濃度では、0.1~3質量%が好ましく、0.2~1.2質量%がより好ましく、0.3~0.8質量%がさらに好ましい。果汁の配合率が0.1質量%未満では配合した果汁の効果が感じられにくく、5質量%を超える場合では果汁の比率が高すぎて紅茶感に欠いてしまう。果汁の配合率は果汁の有する力価や性質により適宜調整するのが好ましい。
【0028】
本発明において酸味料とは、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、アスコルビン酸、酢酸、蟻酸などの有機酸(その塩を含む)が挙げられ、選択される果汁の香味に合わせて、いずれか1種または2種以上を選択することが可能である。この中でも、クエン酸および/またはリンゴ酸(その塩を含む)を配合することがより好ましい。
【0029】
本発明のインスタント紅茶飲料に配合することのできる酸味料の配合率は特に限定されないが、0.1~5質量%が好ましく、0.5~0.3質量%がより好ましい。水に溶解した際の飲用時の濃度では、0.01%~0.5%が好ましく、0.05~0.3%がより好ましく、0.08~0.2%がさらに好ましい。また、果汁由来の酸味料を加算してもよい。
【0030】
本発明のインスタント紅茶飲料に配合する糖類は、風味の観点から粉末状の飲料全体に対し、50質量%以上、好ましくは60質量%以上の糖類を含有することが好ましい。上限は通常98質量%である。ここで、糖類とはブドウ糖・果糖などの単糖類、ショ糖・麦芽糖・乳糖などの二糖類、グラニュー糖、パラチノース、トレハロース、オリゴ糖類、糖アルコール類等の甘味を示す水溶性成分が挙げられる。
【0031】
また、本発明のインスタント紅茶飲料は、香料を添加することができる。本発明に使用できる香料は液体でも、粉末状のものを用いてもよく、特に粉末香料が好適である。また、果物の香りの香料が好ましく、特にレモン、オレンジ、アップル、ピーチ等のフルーツ系フレーバー等の香料があげられ、2種類以上の香料を混合したものを用いてもよい。
【0032】
さらに本発明のインスタント紅茶飲料には、調合時に所望により、消泡剤、増粘多糖類、糖質(デキストリン等)、炭酸ガス、香料、着色料、食物繊維、コラーゲン、ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸、安定剤、高甘味度甘味料(人工甘味料)、食塩等の食品上許容される任意成分を含有してもよい。これら任意成分を適宜選択することで、嗜好性の幅を広げることができる。
【0033】
本発明のインスタント紅茶飲料の包装形態は、特に制限はなく、紙、プラスチック、アルミなどからなる袋、瓶、缶、プラスチックボトル等の容器に大容量が詰められ、スプーンで計量するタイプの形態を用いても良い。また、一杯分ずつ分包タイプのものでもよい。包装品の材質は酸素・湿度透過性の低いものの方がインスタント紅茶飲料の品質を維持する上で好ましく、窒素ガスを充填するとより好ましい。アルミ袋などの大容量に詰められた粉末飲食品をカップ式自動販売機やディスペンサー等で使用することも可能である。
【0034】
本発明のインスタント紅茶飲料を飲用する際には、インスタント紅茶飲料を熱水(例えば80~95℃)100mL~150mLに溶かすことが推奨されているが、冷水に溶かしても十分に溶解することができる。 使用する冷水は、水道水でもよく、市販のミネラルウォーターやウォーターサーバーの冷水をそのまま利用することができる。冷水の温度は10℃以下であり、5℃以下でも溶解性を維持することができる。また、溶解後に氷を加えてもよく、水色が濁ることや、再凝集(沈殿)が生じることがなく、澄明な水色を保つことができる。
【実施例0035】
以下に本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0036】
<参考例>
市販の紅茶熱水抽出物(製品名:インスタントティーRX-100、茶ポリフェノール濃度:28.3%、メーカー:三井農林)について、溶解時の温度とpHの影響を検討した。溶解時の温度は熱水(溶解時の温度は凡そ95℃)と冷水(溶解時の温度は凡そ5℃)とし、それぞれ無水クエン酸(製品名:くえん酸(無水)、メーカー:関東化学)と混合し、溶解時のpHが3前後になるように調整したインスタント紅茶飲料を調製した。 なお、溶解作業は、スパーテルで20秒間(1秒間に2回)撹拌した。また、クエン酸無添加の場合のインスタント紅茶飲料について、表1に示す条件にて比較評価した。評価においては、以下に示した評価基準を用いて専門パネラー5名により沈殿や濁りの発生状況について官能評価した。また、溶解直後の茶ポリフェノールの溶解状況について以下に示した方法により確認した。pHの確認は室温で行った。これらの評価を総合評価し、◎:優、〇:良、△:可、×:不可、として表した。溶解時の条件、分析結果、評価結果を合わせて表2に示した。
【0037】
<官能評価による溶解性の確認方法>
官能評価における評価は、表1に示した基準に基づき、香味や異物異臭についての識別やそれらの濃度識別についてトレーニングされた専門パネラー5名により、目視評価にて実施した。パネラー5名の評価点は平均化し、その結果を表2に示した。
【0038】
【表1】
【0039】
<茶ポリフェノールの溶解性確認方法>
溶解直後の溶液を一部取り出し、ディスクフィルター(型番:HP045AN、メーカー:アドバンテック東洋)でろ過してろ液を回収した。このろ液を適宜希釈し、最終的なメタノール濃度が32%となるようにメタノールを混合したサンプル液について、「日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアル・解説」(文部科学省監修、建帛社、2016年2月)の242~243ページに記載の酒石酸鉄吸光光度法により溶解液中の茶ポリフェノール濃度を測定した。また、得られた結果に基づき、pH無調整の熱水溶解条件での茶ポリフェノール濃度を基準とした茶ポリフェノールの溶解量についての比率(茶ポリフェノール溶解比)を確認した。
【0040】
【表2】
【0041】
表2の結果に示されたとおり、一般的に用いられる紅茶熱水抽出物においては、酸性条件下と冷水溶解条件下では沈殿や濁りが発生し、特に酸性下での冷水溶解条件では溶解性は著しく低下しており、溶け残りによる明らかな沈殿物が目立っていた。また、沈殿物量は紅茶抽出物の配合量が多い溶液(参考例8、参考例12)において特に目立っていたが、茶ポリフェノールの溶解比に注目すると、配合量の少ない溶液(参考例4)で低い値を示しており、目視で確認し難い大きさの沈殿物となって茶ポリフェノールが不溶化していることが確認された。これら結果から、紅茶抽出物の配合量によらず、広い濃度範囲において酸性条件、冷水条件での溶解性に関する課題があることが認められた。
【0042】
<試験例1>
各種の紅茶抽出物について、参考例と同様にクエン酸を配合したインスタント紅茶飲料を調製し、酸性条件、冷水条件での溶解性について参考例と同様の方法と基準によって評価した。本試験に用いた紅茶抽出物の内容は以下に示した。各試験群のポリフェノール濃度は凡そ同一となるように配合量を調製し、3濃度域(低濃度:茶ポリフェノール10mg/100mL、中濃度:茶ポリフェノール50mg/100mL、高濃度:茶ポリフェノール100mg/100mL)で設定した。その他、紅茶抽出物中の成分は以下に示す方法にて測定した。低濃度の試験内容と結果を表3に、中濃度の試験内容と結果を表4に、高濃度の試験内容と結果を表5に示した。
表中で、(I)茶ポリフェノールとは、pH無調整(クエン酸無添加)の熱水溶解時の茶ポリフェノール、(II)茶ポリフェノールとは、酸性条件下(クエン酸添加)の熱水溶解時の茶ポリフェノール、(III)茶ポリフェノールとは、酸性条件下(クエン酸添加)の冷水溶解時の茶ポリフェノールである。
【0043】
<紅茶抽出物>
・紅茶熱水抽出物(製品名:インスタントティーRX-100、茶ポリフェノール濃度:28.3%、メーカー:三井農林)、表中の記載:RX-100
・紅茶抽出物CWS(茶ポリフェノール濃度:15.6%、インド産)、紅茶熱水抽出物をアルカリ処理して冷水可溶性を高めたもの、表中の記載:CWS
・紅茶抽出物のテアフラビン高純度精製品(製品名:TF40、茶ポリフェノール濃度:66.0%、メーカー:焼津水産化学)、表中の記載:TF40
・紅茶抽出物の低カフェイン処理品(紅茶エキスパウダーBCL、茶ポリフェノール濃度:25.2%、メーカー:三井農林)、表中の記載:BCL
・紅茶抽出物の低カフェイン処理品(紅茶抽出物、茶ポリフェノール濃度:23.9%、特開2009-159833号公報記載の方法で作製、活性炭処理紅茶抽出物)、表中の記載:BTP
【0044】
<カテキン、カフェイン、没食子酸(HPLC法)>
・標準物質:カテキン類(EGCg、ECg、GCg、Cg、EGC、EC、GC、C、いずれも三井農林の自社調製品)、没食子酸(関東化学)、caffeine(関東化学)
・装置:Alliance HPLCシステム(ウォーターズ社)
・カラム:Poroshell 120 EC-C18(4.6×100mm、粒子径2.7μm、アジレント社製)
・カラム温度:40℃
・移動相:(A)0.05%リン酸水/アセトニトリル=1000/25(体積比),(B)メタノール
・グラジエント条件:0~1分;(B)0%、1~11分;(B) 0~33%、11~11.25分;(B) 33~95%、11.25~13.25分;(B) 95%、13.25~13.5分;(B) 95~0%、13.5~15.5分;(B) 0%
・流速:1.5mL/min
・検出:UV 230nm(カテキン類),275nm(没食子酸、カフェイン)
・注入量:10μL
【0045】
<テアフラビンの測定条件(HPLC法)>
・標準品:TF1、TF2A、TF2BおよびTF3(いずれも三井農林の自社調製品)
・装置:Alliance HPLCシステム(ウォーターズ社)
・カラム:CAPCELL PAK UG120 4.6mmI.D.×100mm(粒子径3μm、SHISEIDO)
・カラム温度:25℃
・移動相:(A)超純水/リン酸=100/0.05(B)アセトニトリル/酢酸エチル=98.5/1.5
・グラジエント条件:0~13.3分;(B)19%、13.3~26.6分;(B)19%~23%、26.6~29.6分;(B)50%、29.6分~34.6;(B)19%
・流速:1.5mL/min
・検出波長:280nm
・注入量:20μL
【0046】
<茶ポリフェノールの測定方法(酒石酸鉄吸光光度法)>
茶ポリフェノールは「日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアル・解説」(文部科学省監修、建帛社、2016年2月)の242~243ページ)に記載の方法で測定した。
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
【表5】
【0050】
表3~5の結果に示されたとおり、一般的な紅茶抽出物(比較例7:熱水抽出物、RX-100)以外にも、紅茶の冷水可溶抽出物(比較例8:CWS)やテアフラビン高純度精製品(比較例9:TF40)では、酸性条件下の冷水溶解条件において濁りまたは沈殿の少なくともいずれかが発生することが確認された。一方、本発明の特定事項を満たす紅茶抽出物の精製品(実施例5:BCL、実施例6:BTP)では、低濃度から高濃度にわたり、酸性条件下の冷水溶解条件においても濁りや沈殿の発生が無い、またはごく僅かであることが確認された。また、熱水に対する冷水の溶解比(表中の茶ポリフェノール溶解比(III)/(II))が0.7以上を示し、冷水でも茶ポリフェノールが十分に溶解していることが確認できた。
また、酸性条件下での冷水溶解において濁りや沈殿が発生しなかった場合には、pH無調整の熱水溶解条件での茶ポリフェノール濃度を基準とした茶ポリフェノールの溶解量の比率は、0.62~0.79となり、目視では確認できない茶ポリフェノールの不溶化も少量であることが確認された。
【0051】
<試験例2>
試験例1で用いた紅茶熱水抽出物インスタントティーRX-100および紅茶抽出物の低カフェイン処理品BTPの混合物について、参考例と同様にクエン酸を配合したインスタント紅茶飲料を調製し、酸性条件、冷水条件での溶解性について参考例と同様の方法と基準によって評価した。本試験に用いた紅茶抽出物の配合割合は以下に示した。各試験群のポリフェノール濃度は中濃度(茶ポリフェノール50mg/100mL)となるように配合量を調整した。その他、紅茶抽出物中の成分は試験例1に示す方法にて測定した。試験内容と結果を表6に示した。
【0052】
【表6】
【0053】
表6の結果に示されたとおり、酸性条件下での冷水溶解において沈殿が発生した難溶性の紅茶熱水抽出物インスタントティーRX-100に対し、同条件下で易溶性を示したBTPを併用した場合、本発明の特定事項を満たす成分含有率では濁りが少なく、かつ沈殿の発生量が少なくなることが確認された。また、易溶性の紅茶抽出物を併用した場合にはpH無調整の熱水溶解条件での茶ポリフェノール濃度を基準とした茶ポリフェノールの溶解量の比率が0.7以上となり、また、冷水と熱水の溶解比は0.8以上となり、酸性条件下での冷水溶解時の茶ポリフェノールの不溶化が改善されることが示された。
【0054】
<製造例>粉末リンゴ果汁配合インスタント紅茶飲料の製造例を下記に示す。
実施例2で使用した紅茶抽出物BTP1質量%、ショ糖92質量%、酸味料(クエン酸及びリンゴ酸)1質量%、粉末リンゴ果汁5質量%、香料1%を混合し、インスタント紅茶飲料を製造した。得られたインスタント紅茶飲料9gを100mLの冷水(5℃)に溶解し、参考例と同様に溶解性を確認したところ、沈殿物がなく、水色に濁りがない液体飲料が得られた。