(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022034684
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】リニアロッククラッチ
(51)【国際特許分類】
F16H 35/00 20060101AFI20220225BHJP
【FI】
F16H35/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020138497
(22)【出願日】2020-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健
(57)【要約】
【課題】部品点数を削減しつつ構造をシンプルなものとするリニアロッククラッチを提供すること。
【解決手段】リニアロッククラッチ(1)は、ハウジング(10)と、ハウジングの内壁(15)に沿って摺動する第1摺動部(110)、第2摺動部(120)、及び第1摺動部と第2摺動部とを連結する連結部(130)を有する入力軸(100)と、第1摺動部に当接可能な第1伝達面(215)、及び第2摺動部に当接可能な第2伝達面(225)を備える動力伝達部(210,220)を有する出力軸(200)と、動力伝達部上に形成される第1傾斜表面(217)と内壁との間に挟まれて配置され第1摺動部に当接可能な第1係合子(300)と、第1係合子を付勢する第1付勢部材(400)と、動力伝達部に形成される第2傾斜表面(227)と内壁との間に挟まれて配置され第2摺動部に当接可能な第2係合子(500)と、第2係合子を付勢する第2付勢部材(600)と、を具備する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面矩形状のハウジングと、
前記ハウジングの内壁に沿って摺動する第1摺動部、前記ハウジングの前記内壁に沿って摺動し且つ前記第1摺動部に対して軸方向に離隔される位置に形成される第2摺動部、及び、前記第1摺動部と前記第2摺動部とを連結する連結部、を有し、動力が入力される入力軸と、
前記第1摺動部、前記第2摺動部、及び前記内壁によって囲まれる包囲領域に収容され、前記第1摺動部に当接可能な第1伝達面、及び、前記第2摺動部に当接可能な第2伝達面を備える動力伝達部を有し、前記動力が前記入力軸から伝達される出力軸と、
前記動力伝達部上に形成される第1傾斜表面と前記内壁との間に挟まれて配置され、前記第1摺動部に当接可能な第1係合子と、
前記第2摺動部と前記第1係合子との間に配置され、前記第1係合子を前記第1摺動部に向かう方向に付勢する第1付勢部材と、
前記動力伝達部上であって、前記第1傾斜表面が形成される場所とは異なる位置に形成される第2傾斜表面と前記内壁との間に挟まれて配置され、前記第2摺動部に当接可能な第2係合子と、
前記第1摺動部と前記第2係合子との間に配置され、前記第2係合子を前記第2摺動部に向かう方向に付勢する第2付勢部材と、
を具備し、
前記第1傾斜表面は、前記軸方向において、前記第1摺動部に近づくにつれて前記内壁との離間距離が次第に小さくなる傾斜形状を有し、
前記第2傾斜表面は、前記軸方向において、前記第2摺動部に近づくにつれて前記内壁との離間距離が次第に小さくなる傾斜形状を有する、
リニアロッククラッチ。
【請求項2】
前記出力軸における前記動力伝達部は、前記第1摺動部、前記第2摺動部、及び前記内壁によって囲まれる第1包囲領域に収容され、前記第1伝達面を備える第1動力伝達部と、前記第1摺動部、前記第2摺動部、及び前記内壁によって囲まれ、前記第1包囲領域とは異なる位置に形成される第2包囲領域に収容され、前記第2伝達面を備える第2動力伝達部と、を備え、
前記第1傾斜表面は、前記第1動力伝達部上に形成され、
前記第2傾斜表面は、前記第2動力伝達部上に形成される、請求項1に記載のリニアロッククラッチ。
【請求項3】
前記第1包囲領域及び前記第2包囲領域は、前記ハウジング内において、前記連結部を中心にして対称となる位置に形成される、請求項2に記載のリニアロッククラッチ。
【請求項4】
前記第1係合子は、ローラ形状又は球状である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のリニアロッククラッチ。
【請求項5】
前記第1摺動部及び前記第2摺動部の少なくともいずれか一方は、前記内壁に当接するガイドローラを有し、前記ガイドローラを介して前記内壁に沿って摺動する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のリニアロッククラッチ。
【請求項6】
前記ハウジングは、本体部と、前記本体部と別体に設けられ前記内壁を兼ねる別体プレートと、前記別体プレートを前記第1摺動部及び前記第2摺動部に当接する位置に位置決めする位置決め部材と、を含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のリニアロッククラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願において開示された技術は、リニアロッククラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車両等において用いられる従来から知られるクラッチは、一般に、駆動部材から被駆動部材への回転動力の伝達又は遮断を実行するものとして利用されている。他方、車両の電動化、バイワイヤ化の進展に伴って、駆動部材の直線運動を被駆動部材へ伝達しつつ、被駆動部材の直線運動の駆動部材への伝達を遮断する、いわゆるリニアロッククラッチのニーズも高まっている。
【0003】
特許文献1には、直線運動の伝達、遮断を行うことが可能なリニアクラッチ(リニアロッククラッチ)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されるリニアロッククラッチにおいては、断面円形の外輪を用いつつ、その内側にカムブロック(参照符号10)を設けてカム面(参照符号11)を形成する等、部品点数が多く構造が複雑であるという課題がある。
【0006】
そこで、様々な実施形態により、部品点数を削減しつつ構造をシンプルなものとするリニアロッククラッチを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様に係るリニアロッククラッチは、断面矩形状のハウジングと、前記ハウジングの内壁に沿って摺動する第1摺動部、前記ハウジングの前記内壁に沿って摺動し且つ前記第1摺動部に対して軸方向に離隔される位置に形成される第2摺動部、及び、前記第1摺動部と前記第2摺動部とを連結する連結部、を有し、動力が入力される入力軸と、前記第1摺動部、前記第2摺動部、及び前記内壁によって囲まれる包囲領域に収容され、前記第1摺動部に当接可能な第1伝達面、及び、前記第2摺動部に当接可能な第2伝達面を備える動力伝達部を有し、前記動力が前記入力軸から伝達される出力軸と、前記動力伝達部上に形成される第1傾斜表面と前記内壁との間に挟まれて配置され、前記第1摺動部に当接可能な第1係合子と、前記第2摺動部と前記第1係合子との間に配置され、前記第1係合子を前記第1摺動部に向かう方向に付勢する第1付勢部材と、前記動力伝達部上であって、前記第1傾斜表面が形成される場所とは異なる位置に形成される第2傾斜表面と前記内壁との間に挟まれて配置され、前記第2摺動部に当接可能な第2係合子と、前記第1摺動部と前記第2係合子との間に配置され、前記第2係合子を前記第2摺動部に向かう方向に付勢する第2付勢部材と、を具備し、前記第1傾斜表面は、前記軸方向において、前記第1摺動部に近づくにつれて前記内壁との離間距離が次第に小さくなる傾斜形状を有し、前記第2傾斜表面は、前記軸方向において、前記第2摺動部に近づくにつれて前記内壁との離間距離が次第に小さくなる傾斜形状を有する。
【0008】
この構成のリニアロッククラッチによれば、従来に比して、部品点数を削減しつつ構造をシンプルなものとすることができる。
【0009】
また、一態様に係る前記リニアロッククラッチにおいて、前記出力軸における前記動力伝達部は、前記第1摺動部、前記第2摺動部、及び前記内壁によって囲まれる第1包囲領域に収容され、前記第1伝達面を備える第1動力伝達部と、前記第1摺動部、前記第2摺動部、及び前記内壁によって囲まれ、前記第1包囲領域とは異なる位置に形成される第2包囲領域に収容され、前記第2伝達面を備える第2動力伝達部と、を備え、前記第1傾斜表面は、前記第1動力伝達部上に形成され、前記第2傾斜表面は、前記第2動力伝達部上に形成される。
【0010】
この構成によれば、動力伝達部を第1動力伝達部と第2動力伝達部に分割することで、第1摺動部と第1伝達面との当接関係に基づく入力軸から出力軸への動力伝達、及び第2摺動部と第2伝達面との当接関係に基づく入力軸から出力軸への動力伝達を、正確且つ確実に実行させることができる。
【0011】
また、一態様に係る前記リニアロッククラッチにおいて、前記第1包囲領域及び前記第2包囲領域は、前記ハウジング内において、前記連結部を中心にして対称となる位置に形成される。
【0012】
この構成によれば、リニアロッククラッチにおけるハウジング内の各構成要素の搭載バランス(重量バランス)を担保することができる。
【0013】
また、一態様に係る前記リニアロッククラッチにおいて、前記第1係合子は、ローラ形状又は球状である。
【0014】
この構成とすることによって、一態様に係るリニアロッククラッチにおいて、第1係合子はハウジングの内壁に当接することで、入力軸から出力軸への動力伝達を許容しつつ、出力軸から入力軸への動力伝達を効率的に遮断することが可能となる。
【0015】
また、一態様に係る前記リニアロッククラッチにおいて、前記第1摺動部及び前記第2摺動部の少なくともいずれか一方は、前記内壁に当接するガイドローラを有し、前記ガイドローラを介して前記内壁に沿って摺動する。
【0016】
この構成とすることによって、ハウジングの内壁に対する入力軸の摺動運動を円滑なものとすることができる。
【0017】
また、一態様に係る前記リニアロッククラッチにおいて、前記ハウジングは、本体部と、前記本体部と別体に設けられ前記内壁を兼ねる別体プレートと、前記別体プレートを前記第1摺動部及び前記第2摺動部に当接する位置に位置決めする位置決め部材と、を含む。
【0018】
この構成とすることによって、製造上の誤差等が生じる場合であっても、ハウジングの内壁と第1係合子、ハウジングの内壁と第2係合子、及びハウジングの内壁とガイドローラとが確実に当接することが可能となり、リニアロッククラッチとして求められる機能(入力軸から出力軸への動力伝達機能、及び出力軸から入力軸への動力伝達の遮断機能)を確実に発現することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
様々な実施形態によれば、部品点数を削減しつつ構造をシンプルなものとするリニアロッククラッチを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】一実施形態に係るリニアロッククラッチの構成を模式的に示す概略平面図である。
【
図2】一実施形態に係るリニアロッククラッチの構成を模式的に示す第2包囲領域P2側の概略側面図である。
【
図3】
図1に示したリニアロッククラッチにおいて、入力軸にR方向の動力が入力される場合の様子を模式的に示す概略平面図である。
【
図4】
図1に示したリニアロッククラッチにおいて、入力軸にL方向の動力が入力される場合の様子を模式的に示す概略平面図である。
【
図5】
図4中の点線で囲った部分を拡大して示す概略平面図である。
【
図6】第2実施形態に係るリニアロッククラッチの構成を模式的に示す概略平面図である。
【
図7】第3実施形態に係るリニアロッククラッチの構成を模式的に示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して本発明の様々な実施形態を説明する。なお、図面において共通した構成要件には同一の参照符号が付されている。また、或る図面に表現された構成要素が、説明の便宜上、別の図面においては省略されていることがある点に留意されたい。さらにまた、添付した図面が必ずしも正確な縮尺で記載されている訳ではないということに注意されたい。
【0022】
1.リニアロッククラッチの構成
一実施形態に係るリニアロッククラッチの全体構成の概要について、
図1乃至
図5を参照しつつ説明する。
図1は、一実施形態に係るリニアロッククラッチ1の構成を模式的に示す概略平面図である。
図2は、一実施形態に係るリニアロッククラッチ1の構成を模式的に示す第2包囲領域P2側の概略側面図である。
図3は、
図1に示したリニアロッククラッチ1において、入力軸100にR方向の動力が入力される場合の様子を模式的に示す概略平面図である。
図4は、
図1に示したリニアロッククラッチ1において、入力軸100にL方向の動力が入力される場合の様子を模式的に示す概略平面図である。
図5は、
図4中の点線で囲った部分を拡大して示す概略平面図である。なお、本明細書において、軸方向とは、入力軸100(及び出力軸200)が直線運動する方向(例えば、
図1及び
図2においては、紙面左方向「L方向」又は右方向「R方向」)を意味する。
【0023】
一実施形態に係るリニアロッククラッチ1は、直線運動する入力軸100から出力軸200への動力伝達を許容しつつ、出力軸200から入力軸100への伝達を遮断するものであって、例えば、車両等の動力伝達機構(ドライブトレーン)等様々な装置に適用されうる。
【0024】
一実施形態に係るリニアロッククラッチ1は、主に、ハウジング10と、入力軸100と、出力軸200と、第1係合子300と、第1付勢部材400と、第2係合子500と、第2付勢部材600と、を構成要素として含む。以下、一実施形態に係るリニアロッククラッチ1の各構成要素の詳細を説明する。
【0025】
1-1.ハウジング10
ハウジング10は、
図1に示すように、断面矩形状を呈し、後述する入力軸100(の少なくとも一部)、出力軸200(の少なくとも一部)、第1係合子300と、第1付勢部材400と、第2係合子500と、及び第2付勢部材600等を内部に収容する。
【0026】
ハウジング10の内部11を画定する内壁15は、入力軸100(及び出力軸200)の軸方向の直線運動をガイドするガイド面として機能している。また、ハウジング10の内壁15は、後述する第1係合子300及び第2係合子500とも当接可能とされている。
【0027】
1-2.入力軸100
入力軸100は、動力源に接続される駆動部材(図示せず)に連結して、軸方向に直線運動することが可能となっている。入力軸100は、
図1及び
図2に示すように、少なくとも一部が、ハウジング10の内部11に収容される。
【0028】
入力軸100は、軸方向に延在して駆動部材に連結される入力基部101と、ハウジング10の内壁15に当接する第1摺動部110と、ハウジング10の内壁15に当接し且つ第1摺動部110に対して軸方向に所定距離離隔される位置に形成される第2摺動部120と、第1摺動部110と第2摺動部120とを連結する連結部130と、を有することができる。
【0029】
第1摺動部110及び第2摺動部120は、ハウジング10の内部11の内径r1(軸方向と直交する幅方向における内径r1)と実質的に同一の外径を有し、幅方向においてハウジング10の内壁15に当接する。これにより、入力軸100は、ハウジング10の内壁15に沿って、軸方向において正確且つ確実に直線運動することが可能となっている。
【0030】
また、第1摺動部110及び第2摺動部120は、幅方向だけでなく、軸方向と直交する高さ方向においても、ハウジング10の内壁15に当接してもよい。これにより、入力軸100は、ハウジング10の内壁15に確実にガイドされることにより、正確に直線運動することができる。
【0031】
第1摺動部110及び第2摺動部120は、ハウジング10の内壁15とともに、後述する第1包囲領域P1及び第2包囲領域P2を形成している。また、第1摺動部110において、第1包囲領域P1の一部を画定し、且つ後述する第1係合子300と対向する部分には、
図1に示すように、第1係合子300と当接する第1突設部115が形成されてもよい。同様に、第2摺動部120において、第2包囲領域P2の一部を画定し、且つ後述する第2係合子500と対向する部分には、
図1に示すように、第2係合子500と当接する第2突設部125が形成されてもよい。
【0032】
1-3.出力軸200
出力軸200は、入力軸100から動力から伝達されることで、入力軸100とともに軸方向に直線運動することが可能となるように形成され、
図1及び
図2に示すように、少なくとも一部が、ハウジング10の内部11に収容される。
【0033】
具体的には、出力軸200は、
図1に示すように、軸方向に延在する出力基部201と、入力軸100における第1摺動部110、第2摺動部120、及びハウジング10の内壁15によって囲まれる第1包囲領域P1に収容され第1摺動部110に当接可能な第1伝達面215を備える第1動力伝達部210と、入力軸100における第1摺動部110、第2摺動部120、及びハウジング10の内壁15によって囲まれる第2包囲領域P2に収容され第2摺動部120に当接可能な第2伝達面225を備える第2動力伝達部220と、を有することができる。ここで、第1包囲領域P1と第2包囲領域P2は、入力軸100における連結部130を中心にして対称となる位置に形成されている。
【0034】
出力基部201は、例えば、
図1に示すように、ハウジング10の外部から第1摺動部110を貫通するようにハウジング10の内部に渡って延在するように配置することができる。なお、第1摺動部110と出力基部201との関係は、例えば、第1摺動部110に出力基部201を貫通させることができる貫通孔(図示せず)を設けておき、出力基部201が当該貫通孔を通って挿通されるような構成のものを採用することができるが、この構成に限定されるものではない。一実施形態に係るリニアロッククラッチ1における入力軸100から出力軸200への動力伝達は、第1摺動部110と出力基部201との当接関係に基づいて実行されることを必須とするものではないことから、両者は必ずしも当接している必要はない。
【0035】
第1動力伝達部210及び第2動力伝達部220は、
図1に示すように、例えば、軸方向と直交するハウジング10の高さ方向又は幅方向に対して出力基部201から延在するように形成されるものを採用することができる。したがって、第1動力伝達部210及び第2動力伝達部220は、
図1に示すように、軸方向において互いに平行となるように形成される。
【0036】
第1動力伝達部210における第1伝達面215は、入力軸100に動力が伝達されていない状態(無負荷状態)の際には、
図1に示すように、第1摺動部110との間に所定のクリアランスC1を有して第1摺動部110に対向している。一方、入力軸100にL方向の直線運動が入力されると、第1摺動部110は、前述の所定のクリアランスC1を埋めるようにL方向に移動することで、まず第1係合子300に当接する。さらに、第1摺動部110は、第1係合子300を押しながら後述する第1付勢部材400の付勢力に抗してさらにL方向に移動する。そうすると、第1摺動部110は第1伝達面215に当接することとなる(
図4及び
図5参照)。これにより、入力軸100のL方向の直線運動が出力軸200へと伝達される。
【0037】
同様に、第2動力伝達部220における第2伝達面225は、入力軸100に動力が伝達されていない状態(無負荷状態)においては、
図1に示すように、第2摺動部120との間に所定のクリアランスC2を有して第2摺動部120に対向している。一方、入力軸100にR方向の直線運動が入力されると、第2摺動部120は、前述の所定のクリアランスC2を埋めるようにR方向に移動することで、まず第2係合子500に当接する。さらに、第2摺動部120は、第2係合子500を押しながら後述する第2付勢部材600の付勢力に抗してさらにR方向に移動する。そうすると、第2摺動部120は第2伝達面225に当接することとなる(
図3参照)。これにより、入力軸100のR方向の直線運動が出力軸200へと伝達される。
【0038】
なお、第1動力伝達部210と第2摺動部120との間には、軸方向に所定のクリアランスC3が形成されるように、第1動力伝達部210は設計される。ここで、軸方向のクリアランスC3は、前述のクリアランスC2との関係において「C3≧C2」となるように設計される。これにより、入力軸100が、前述のとおり、クリアランスC2を埋めるようにR方向に移動することを確実なものとすることができる。
【0039】
同様に、第2動力伝達部220と第1摺動部110との間には、軸方向に所定のクリアランスC4が形成されるように、第2動力伝達部220は設計される。ここで、軸方向のクリアランスC4は、前述のクリアランスC1との関係において「C4≧C1」となるように設計される。これにより、入力軸100が、前述のとおり、クリアランスC1を埋めるようにL方向に移動することを確実なものとすることができる。
【0040】
また、第1動力伝達部210の表面上には、
図1に示すように、軸方向において、第1摺動部110に近づくにつれて、ハウジング10の内壁15との離間距離(軸方向に直交する方向であって、例えば高さ方向の離間距離)が次第に小さくなる傾斜形状を有する第1傾斜表面217が形成されている。この第1傾斜表面217上には、後述する第1係合子300が配置される。
【0041】
また、第2動力伝達部220の表面上には、
図1に示すように、軸方向において、第2摺動部120に近づくにつれて、ハウジング10の内壁15との離間距離(軸方向に直交する方向であって、例えば高さ方向の離間距離)が次第に小さくなる傾斜形状を有する第2傾斜表面227が形成されている。この第2傾斜表面227上には、後述する第2係合子500が配置される。
【0042】
なお、出力軸200には、ハウジング10の内壁15に当接することで、出力軸200の軸方向の直線運動(入力軸100から伝達される直線運動)をガイドする目的で、
図1に示すような、第3摺動部230が形成されてもよい。
【0043】
1-4.第1係合子300
第1係合子300は、
図1に示すように、第1包囲領域P1内において、第1動力伝達部210における第1傾斜表面217と、ハウジング10の内壁15に挟まれる位置に配置される。
【0044】
第1係合子300は、入力軸100に動力が伝達されていない状態(無負荷状態)においては、
図1に示すように、軸方向において第1摺動部110(の第1突設部115)との間に僅かなクリアランスを形成して第1摺動部110に対向している。また、この無負荷状態において、第1係合子300は、後述する第1付勢部材400によって第1摺動部110に近づく方向に付勢されている。しかしながら、無負荷状態において、第1係合子300は、第1傾斜表面217及びハウジング10の内壁15の両方に当接しており(且つ第1傾斜表面217の形状が、
図1に示すように、第1摺動部110に近づくにつれて内壁15との離間距離が次第に小さくなるように形成されているため)、R方向への移動が規制された状態とされている。
【0045】
次に、入力軸100にL方向の直線運動が入力されると、第1係合子300は、前述のとおり、クリアランスC1を埋めるようにL方向に移動した第1摺動部110と当接する。これにより、第1摺動部110のL方向の直線運動が第1係合子300に伝達される。そうすると、第1係合子300は、第1摺動部110によってL方向に押されることとなる。これにより、第1係合子300と第1傾斜表面217との間の当接関係が解除される(
図5参照)。こうして、第1係合子300は、第1摺動部110とともに、L方向に第1付勢部材400の付勢力に抗して、L方向に移動することが可能となる。
【0046】
なお、入力軸100が、第1付勢部材400の付勢力に抗して、第1摺動部110を介して第1係合子300をL方向に移動させることによって、第1摺動部110が出力軸200の第1伝達面215に当接することで、前述のとおり、入力軸100のL方向の直線運動が出力軸200へと伝達されることとなる。
【0047】
ところで、入力軸100の直線運動に基づいて出力軸200がL方向に移動することは、第2係合子500、第2傾斜表面227、ハウジング10の内壁15の関係に基づいて阻害されることはない。第2係合子500は、無負荷状態においては、
図1に示すように、第2傾斜表面227及びハウジング10の内壁15の両方に当接して、L方向への移動が規制された状態となっている。ここで、出力軸200がL方向に移動する場合、第2係合子500は、出力軸200に対して相対的にR方向に移動することと同義であり、そのR方向への移動は規制されていない。したがって、出力軸200は、第2係合子500等によって、そのL方向への移動が規制・阻害されることはない。
【0048】
次に、出力軸200にL方向の直線運動が入力される場合に着目する。まず、無負荷状態において、第1係合子300は、前述のとおり、第1傾斜表面217及びハウジング10の内壁15の両方に当接して、R方向への移動が規制されている。この状態で、出力軸200にL方向の直線運動が入力されると、第1係合子300は、出力軸200に対して相対的にR方向に移動しようとする。しかしながら、前述のとおり、第1係合子300のR方向への移動は、第1傾斜表面217及び内壁15によって規制されているので、出力軸200に入力されたL方向の直線運動は、入力軸100には伝達されることはない。
【0049】
以上のとおり、第1係合子300は、第1傾斜表面217及びハウジング10の内壁15と協調して、入力軸100から出力軸200へのL方向の直線運動の動力伝達を許容させつつ、出力軸200から入力軸100へのL方向の直線運動の動力伝達を遮断させることを可能せしめている。
【0050】
ところで、第1係合子300は、ローラ形状又は球状のものを用いることができる。これにより、前述した入力軸100から出力軸200へのL方向の直線運動の動力伝達をスムーズに実行させつつ、出力軸200から入力軸100へのL方向の直線運動の動力伝達を確実に遮断させることができる。
【0051】
1-5.第1付勢部材400
第1付勢部材400は、
図1に示すように、軸方向に沿って、第2摺動部120と第1係合子300との間に配置される。つまり、第1付勢部材400の一端は、第2摺動部120に支持され、第1付勢部材400の他端は、第1係合子300に当接して所定程度に予圧縮された状態で配置される。これにより、第1付勢部材400は、第1係合子300を第1摺動部材110に近づく方向に付勢している。
【0052】
第1付勢部材400としては、一般的に知られるコイルスプリング等を用いることができる。
【0053】
1-6.第2係合子500
第2係合子500は、
図1及び
図2に示すように、第2包囲領域P2内において、第2動力伝達部220における第2傾斜表面227と、ハウジング10の内壁15に挟まれる位置に配置される。
【0054】
第2係合子500は、入力軸100に動力が伝達されていない状態(無負荷状態)においては、
図1に示すように、軸方向において第2摺動部120(の第2突設部125)との間に僅かなクリアランスを形成して第2摺動部120に対向している。また、この無負荷状態において、第2係合子500は、後述する第2付勢部材600によって第2摺動部120に近づく方向に付勢されている。しかしながら、無負荷状態において、第2係合子500は、第2傾斜表面227及びハウジング10の内壁15の両方に当接しており(且つ第2傾斜表面217の形状が、
図1に示すように、第2摺動部120に近づくにつれて内壁15との離間距離が次第に小さくなるように形成されているため)、L方向への移動が規制された状態とされている。
【0055】
次に、入力軸100にR方向の直線運動が入力されると、第2係合子500は、前述のとおり、クリアランスC2を埋めるようにR方向に移動した第2摺動部120と当接する。これにより、第2摺動部120のR方向の直線運動が第2係合子500に伝達される。そうすると、
図5を参照しつつ前述のとおり説明した、第1係合子300においてL方向の直線運動が伝達される場合と同様に、第2係合子500は、第2摺動部120によってR方向に押されることとなる。これにより、第2係合子500と第2傾斜表面227との間の当接関係が解除される。こうして、第2係合子500は、第2摺動部120とともに、R方向に第2付勢部材600の付勢力に抗して、R方向に移動することが可能となる。
【0056】
なお、入力軸100が、第2付勢部材600の付勢力に抗して、第2摺動部120を介して第2係合子500をR方向に移動させることによって、第2摺動部120が出力軸200の第2伝達面225に当接することで、前述のとおり、入力軸100のR方向の直線運動が出力軸200へと伝達されることとなる。
【0057】
ところで、入力軸100の直線運動に基づいて出力軸200がR方向に移動することは、第1係合子300、第1傾斜表面217、ハウジング10の内壁15の関係に基づいて阻害されることはない。第1係合子300は、無負荷状態においては、
図1に示すように、第1傾斜表面217及びハウジング10の内壁15の両方に当接して、R方向への移動が規制された状態となっている。ここで、出力軸200がR方向に移動する場合、第1係合子300は、出力軸200に対して相対的にL方向に移動することと同義であり、そのL方向への移動は規制されていない。したがって、出力軸200は、第1係合子300等によって、そのR方向への移動が規制・阻害されることはない。
【0058】
次に、出力軸200にR方向の直線運動が入力される場合に着目する。まず、無負荷状態において、第2係合子500は、前述のとおり、第2傾斜表面227及びハウジング10の内壁15の両方に当接して、L方向への移動が規制されている。この状態で、出力軸200にR方向の直線運動が入力されると、第2係合子500は、出力軸200に対して相対的にL方向に移動しようとする。しかしながら、前述のとおり、第2係合子500のL方向への移動は、第2傾斜表面227及び内壁15によって規制されているので、出力軸200に入力されたR方向の直線運動は、入力軸100には伝達されることはない。
【0059】
以上のとおり、第2係合子500は、第2傾斜表面227及びハウジング10の内壁15と協調して、入力軸100から出力軸200へのR方向の直線運動の動力伝達を許容させつつ、出力軸200から入力軸100へのR方向の直線運動の動力伝達を遮断させることを可能せしめている。
【0060】
ところで、第2係合子500も、第1係合子300と同様、ローラ形状又は球状のものを用いることができる。これにより、前述した入力軸100から出力軸200へのR方向の直線運動の動力伝達をスムーズに実行させつつ、出力軸200から入力軸100へのR方向の直線運動の動力伝達を確実に遮断させることができる。
【0061】
1-7.第2付勢部材600
第2付勢部材600は、
図1及び
図2に示すように、軸方向に沿って、第1摺動部110と第2係合子500との間に配置される。つまり、第2付勢部材600の一端は、第1摺動部110に支持され、第2付勢部材600の他端は、第2係合子500に当接して所定程度に予圧縮された状態で配置される。これにより、第2付勢部材600は、第2係合子500を第2摺動部材120に近づく方向に付勢している。
【0062】
第2付勢部材600としては、第1付勢部材400と同様、一般的に知られるコイルスプリング等を用いることができる。
【0063】
以上のとおり、一実施形態に係るリニアロッククラッチ1は、入力軸100に入力されるL方向及びR方向の直線運動を出力軸200に伝達しつつ、出力軸200に入力されるL方向の直線運動が入力軸100に伝達されることを、第1係合子300、第1傾斜表面217、及びハウジング10の内壁15によって規制し、出力軸200に入力されるR方向の直線運動が入力軸100に伝達されることを、第2係合子500、第2傾斜表面227、及びハウジング10の内壁15によって規制することができる。
【0064】
なお、入力軸100に入力されるL方向の直線運動を出力軸200に伝達するに際し、入力軸100の第1摺動部110は、前述のとおり、第1付勢部材400の付勢力に抗してL方向に移動する。ここで、第2付勢部材600の付勢力に着目すると、第2付勢部材600は、前述のとおり、第2係合子500を第2摺動部120に近づく方向(L方向)に付勢している。この第2付勢部材600の第2係合子500に対するL方向の付勢力の一部は、第2傾斜表面227を介して出力軸200にも伝達される。したがって、少なくとも、出力軸200がL方向に移動し始める際に、この第2付勢部材600に由来するL方向の付勢力は、出力軸200のL方向の移動(静摩擦係数に抗するL方向の移動)をアシストすることとなる。これにより、出力軸200のL方向の初期移動を円滑なものとすることができる。
【0065】
同様に、入力軸100に入力されるR方向の直線運動を出力軸200に伝達するに際し、入力軸100の第2摺動部120は、前述のとおり、第2付勢部材600の付勢力に抗してR方向に移動する。ここで、第1付勢部材400の付勢力に着目すると、第1付勢部材400は、前述のとおり、第1係合子300を第1摺動部110に近づく方向(R方向)に付勢している。この第1付勢部材400の第1係合子300に対するR方向の付勢力の一部は、第1傾斜表面217を介して出力軸200にも伝達される。したがって、少なくとも、出力軸200がR方向に移動し始める際に、この第1付勢部材400に由来するR方向の付勢力は、出力軸200のR方向の移動(静摩擦係数に抗するR方向の移動)をアシストすることとなる。これにより、出力軸200のR方向の初期移動を円滑なものとすることができる。
【0066】
2.変形例
次に、別の実施形態に係るリニアロッククラッチ1の構成について、
図6及び
図7を参照しつ説明する。
図6は、第2実施形態に係るリニアロッククラッチ1の構成を模式的に示す概略平面図である。
図7は、第3実施形態に係るリニアロッククラッチ1の構成を模式的に示す概略平面図である。
【0067】
2-1.第2実施形態
第2実施形態に係るリニアロッククラッチ1は、
図6に示すように、前述した一実施形態に係るリニアロッククラッチ1と概ね同様の構成であるが、一実施形態の構成に加えて、第1摺動部110及び第2摺動部120は、ハウジング10の内壁15に当接するガイドローラ700を有し、このガイドローラ700を介して内壁15に沿って摺動するように構成されている。この構成とすることによって、ハウジング10の内壁15に対する入力軸100の摺動運動を、より円滑なものとすることができる。
【0068】
2-2.第3実施形態
第3実施形態に係るリニアロッククラッチ1は、
図7に示すように、前述した一実施形態に係るリニアロッククラッチ1と概ね同様の構成であるが(
図7においては、第2実施形態に係るガイドローラ700も示されているが、第3実施形態においては、ガイドローラ700は設けられていなくてもよい)、一実施形態に係るハウジング10が、本体部17と、本体部17と別体に設けられる別体プレート18と、に分割されている。別体プレート18は、ハウジング10の内壁15を兼ねる部材として用いられる。
【0069】
別体プレート18は、
図7に示すように、位置決め部材としてのナット30等に接続されて、軸方向と直交する方向(例えば、
図7においては幅方向であって、
図7における紙面上下方向)に調整可能に設けられる。このような構成とすることにより、リニアロッククラッチ1の製造上の誤差や、長期間の使用による摩耗等に起因して、第1摺動部110と内壁15との当接関係、及び第2摺動部120と内壁15との当接関係の少なくともいずれか一方に不備が生じた場合においても、別体プレート18の位置(高さ方向の位置)をナット30で調整することで、第1摺動部110及び第2摺動部120を、内壁15に確実に当接させることが可能となる。その結果、入力軸100の軸方向の移動を、確実なものとすることができる。
【0070】
以上、前述の通り、様々な実施形態を例示したが、上記実施形態はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数等は適宜変更して実施することができる。なお、本明細書において、「高さ方向」と「幅方向」は、視点が変われば入れ替わる点に留意されたい。
【符号の説明】
【0071】
1 リニアロッククラッチ
10 ハウジング
11 ハウジングの内部
15 内壁
17 本体部
18 別体プレート
30 位置決め部材
100 入力軸
110 第1摺動部
120 第2摺動部
130 連結部
200 出力軸
210 第1動力伝達部
215 第1伝達面
217 第1傾斜表面
220 第2動力伝達部
225 第2伝達面
227 第2傾斜表面
300 第1係合子
400 第1付勢部材
500 第2係合子
600 第2付勢部材
700 ガイドローラ
P1 第1包囲領域
P2 第2包囲領域