(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022034751
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】エレベーターの検査方法および装置
(51)【国際特許分類】
B66B 5/00 20060101AFI20220225BHJP
B66B 7/12 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
B66B5/00 D
B66B7/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020138601
(22)【出願日】2020-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】松本 俊昭
(72)【発明者】
【氏名】大西 友治
(72)【発明者】
【氏名】小平 法美
【テーマコード(参考)】
3F304
3F305
【Fターム(参考)】
3F304BA08
3F304BA26
3F305BB02
3F305BC07
3F305BC36
(57)【要約】
【課題】
エレベーターの主ロープの劣化は、最も張力の高いロープから進行するが、各々のロープ張力計測ができないと、最も劣化の進んだロープを推定し検査することが困難である。
【解決手段】
上記の課題を解決するため、本発明は、エレベーターの乗かご1走行中に、複数ある主ロープ3a~3dの張力を計測し制御盤10からかご位置を取得し、乗かご1のかご位置ごとの稼働回数を取得し、かご位置ごとの稼働回数データと対応する張力データから、かご位置ごとに主ロープ3a~3dの劣化度を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査装置を用いたエレベーターの検査方法において、
前記検査装置の張力取得部が、前記エレベーターのかごの移動位置を示す稼働状況に応じた複数の主ロープそれぞれの張力を示す張力データを取得し、
前記検査装置の屈曲回数取得部が、前記稼働状況に応じた前記複数の主ロープでの屈曲が生じた位置を示す劣化位置および屈曲回数を含む屈曲回数データを取得し、
前記検査装置の劣化度算出部が、前記張力データおよび前記屈曲回数データを用いて、前記複数の主ロープそれぞれにおける前記劣化位置での劣化の程度を示す劣化度を算出し、
前記検査装置の検査結果作成部が、前記劣化度に応じた検査結果を作成し、当該検査結果を出力するエレベーターの検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載のエレベーターの検査方法において、
さらに、前記検査装置の残寿命算出部が、予め定められた劣化規定値および前記劣化度を用いて、前記複数の主ロープのいずれかにおける交換時期を示す残寿命を算出するエレベーターの検査方法。
【請求項3】
請求項2に記載のエレベーターの検査方法において、
前記残寿命算出部が、
前記複数の主ロープにおける、最も劣化が進んだ主ロープの劣化位置を取得し、
取得された前記主ロープに対する前記残寿命を算出するエレベーターの検査方法。
【請求項4】
請求項3に記載のエレベーターの検査方法において、
前記残寿命算出部が、前記稼働状況に基づいて、前記最も劣化が進んだ主ロープの劣化位置を特定するエレベーターの検査方法。
【請求項5】
請求項4に記載のエレベーターの検査方法において、
前記検査結果作成部は、
前記前記最も劣化が進んだ主ロープを特定する情報および前記最も劣化が進んだ主ロープの劣化位置を含む劣化状況を、前記検査装置のインターフェース部に出力し、
前記最も劣化が進んだ主ロープの劣化位置を、前記エレベーターのトラクションシーブを基準とした位置を用いて前記複数の主ロープを駆動するための制御盤に出力することで、当該制御盤の制御により、前記最も劣化が進んだ主ロープの劣化位置が、前記エレベーターの作業員が確認できる位置になるよう、前記複数の主ロープを駆動するエレベーターの検査方法。
【請求項6】
エレベーターの検査装置において、
前記エレベーターのかごかごの移動位置を示す稼働状況に応じた複数の主ロープそれぞれの張力を示す張力データを取得する張力取得部と、
前記稼働状況に応じた前記複数の主ロープでの屈曲が生じた位置を示す劣化位置および屈曲回数を含む屈曲回数データを取得する屈曲回数データ取得部と、
前記張力データおよび前記屈曲回数データを用いて、前記複数の主ロープそれぞれにおける前記劣化位置での劣化の程度を示す劣化度を算出する劣化度算出部と、
前記劣化度に応じた検査結果を作成し、当該検査結果を出力する検査結果作成部とを有するエレベーターの検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーター(昇降機)を含む機械設備の検査、特に、その移動に係わるロープを検査するための技術に関する。この検査には、エレベーターの主ロープへの探傷を行い、劣化の程度を把握することが含まれる。
【背景技術】
【0002】
一般に、クレーン、ホイスト、リフト、ケーブルカーやエレベーターなど機械設備では、主ロープを用いて、かごや荷物などの移動を行っている。例えば、エレベーターのかごとつり合い重りを吊り下げる主ロープには鋼製のワイヤロープが用いられる。ワイヤロープはストランドと呼ばれる複数本の鋼線を撚ったものを、さらに複数撚り合わせて構成されたものである。このようなワイヤロープでは、疲労や摩耗によりワイヤロープを構成する鋼線が少しずつ破断していく。鋼線の破断数は経年的に増加する。そこで、定期的に探傷を行い、破断数が基準値を超えると、ワイヤロープは寿命に至ったと判断されて交換されることになる。
【0003】
エレベーターは、一般に、乗かご、つり合い重り、主ロープ、ロープソケット、シンブルロッド、支持ばね及びナットを備えている。主ロープは乗かごとつり合い重りを懸架し、複数備えられる。ロープソケットは、これらの主ロープの両端に取り付けられ、同じく複数備えられる。シンブルロッドはロープソケットを固定するためのものである。ばねはシンブルロッドを介して主ロープを支持する。ナットはシンブルロッドに螺合して前記ばねの伸縮量を決定する。
【0004】
このような複数の主ロープの疲労や摩耗は、シーブを通過する際の摩擦と屈曲によって発生し、その際に受ける荷重(ロープの張力)に比例し進行する。そこで、主ロープにかかる荷重とシーブ通過回数を算出し、最も劣化する部位(位置)を検出するためのシステムとして、特許文献1に記載された技術が知られている。
【0005】
特許文献1には、「主ロープの曲げ回数を、各かご位置毎での各主ロープ位置に対してシーブを通過する回数から各主ロープ位置における曲げ回数を正確に求めて曲げによる寿命回数を正確に推定することおよびかご質量と釣合い錘の質量バランスによる発生張力比によるシーブ部での主ロープ磨耗劣化を考慮した主ロープ劣化位置を特定するエレベーターの主ロープ診断装置」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この特許文献1では、エレベーター走行中の加減速やかご積載量による荷重変化を計測し主ロープの張力を算出しているが、複数本ある各々の主ロープの張力を算出していない。ここで、主ロープの劣化は、最も張力の高いロープから進行する。このため、主ロープの劣化を検査するには、その張力を考慮する必要がある。これに対して、特許文献1では各々のロープの張力については考慮されていない、との課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明は、検査装置を用いたエレベーターの検査方法において、前記検査装置の張力取得部が、前記エレベーターのかごの移動位置を示す稼働状況に応じた複数の主ロープそれぞれの張力を示す張力データを取得し、前記検査装置の屈曲回数取得部が、前記稼働状況に応じた前記複数の主ロープでの屈曲が生じた位置を示す劣化位置および屈曲回数を含む屈曲回数データを取得し、前記検査装置の劣化度算出部が、前記張力データおよび前記屈曲回数データを用いて、前記複数の主ロープそれぞれにおける前記劣化位置での劣化の程度を示す劣化度を算出し、前記検査装置の検査結果作成部が、前記劣化度に応じた検査結果を作成し、当該検査結果を出力するエレベーターの検査方法である。
【0009】
また、本発明には、このエレベーターの検査方法を実行するエレベーターの検査装置も含まれる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、各々の主ロープの劣化の程度を、その張力を考慮して把握することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施例におけるシステム構成を示す図
【
図2A】本発明の一実施例における作業用端末装置の外観を示す図。
【
図2B】本発明の一実施例における作業用端末装置の構成を示すブロック図。
【
図3】本発明の一実施例における光学式張力センサを用いた張力計測を説明する図。
【
図4】本発明の一実施例における張力データの一例を示す図。
【
図5】本発明の一実施例における屈曲回数データの一例を示す図。
【
図6】本発明の一実施例における劣化度および残寿命を算出するフローチャート。
【
図7】本発明の一実施例における劣化度を表示する表示画面の一例を示す図。
【
図8】本発明の一実施例における変位センサ式張力センサを用いた張力計測を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて、本発明をエレベーター主ロープの異常検査に適用した実施例を説明する。なお、本発明の実施例においては、エレベーターの主ロープテンション計測や主ロープの探傷を行う。さらに詳しくは、エレベーターの乗かごとつり合い重りを吊り下げる複数の主ロープのロープテンションを計測し、エレベーターの稼働状態とロープテンション計測結果から、主ロープの探傷を行う。
【0013】
本実施例は、エレベーターの主ロープの探傷のために、その検査を行う。実施例1では、エレベーターの主ロープの張力と、主ロープ全長のそれぞれの位置での稼働回数から、主ロープの劣化の程度を示す劣化度の算出方法を示す。本検査を行うためのシステム構成を
図1に示す。
【0014】
図1では、2:1ローピングのエレベーターに張力センサとして光学式張力センサ11を設置した場合を想定している。なお、後述するように、張力センサは光学式張力センサ11に限定されない。
図1に示すシステム構成おいては、2:1ローピングのエレベーターは乗かご1、つり合い重り2、主ロープ3、トラクションシーブ4、そらせ5、ロープソケット6、シンブルロッド7、支持ばね8及びナット9、制御盤10を備えている。主ロープ3は、乗かご1とつり合い重り2を懸架し、複数備えられる。ロープソケット6は、これらの主ロープ3の両端に取り付けられ、同じく複数備えられる。つまり、シンブルロッド7はロープソケット6を固定するためのものである。支持ばね8はシンブルロッド7を介して主ロープ3を支持する。ナット9はシンブルロッド7に螺合して支持ばね8の伸縮量を決定する。
【0015】
なお、
図1では、主ロープ3、ロープソケット6、シンブルロッド7、支持ばね8及びナット9がそれぞれ1つずつ設けられているように見えるが、それぞれ複数設置されている。また、本実施例は、2:1ローピングのエレベーター以外の各種エレベーターへ適用可能である。
【0016】
ここで、複数の主ロープ3のロープ張力(以下、単に張力)はばらつきがあり、それぞれかご1の走行位置によって変化、主ロープ3に取付けられた支持ばね8の伸縮量に表れる。光学式張力センサ11は、制御盤10により動作するエレベーター走行中の支持ばね8の伸縮量を計測し、計測した伸縮量を、エレベーターの検査を行うための作業用端末装置12(例えばキャリコン)に送信する。計測の際には、作業用端末装置12に制御盤10に記録された、エレベーターの稼働状況、つまり、乗かご1の移動位置の時系列データが送信される。このように、本実施例においては、作業用端末装置12を、エレベーターの検査装置として用いられる。
【0017】
また、作業用端末装置12は、計測した複数の支持ばね8の伸縮量を示すL1~L4からそれぞれの主ロープ3の張力データを取得する。そして、作業用端末装置12は、この張力データとエレベーターの稼働状況で特定されるかご位置ごとの主ロープ屈曲回数を示す屈曲回数データとを用いて、劣化度を算出する。この算出の際、作業用端末装置12は、さらに係数を乗算することで劣化度を算出してもよい。また、作業用端末装置12では、劣化度を用いて、主ロープ3の交換時期を含む残寿命を算出することが望ましい。なお、作業用端末装置12の詳細については、後述する。
【0018】
また、作業用端末装置12は、ネットワーク14を介して、センター装置13と接続される。ここで、センター装置13は、いわゆるコンピュータで実現でき、作業用端末装置12から劣化度や残寿命などの情報を受信する。そして、センター装置13は、これらの情報を用いて、点検、交換等のためのメンテナンススケジュールを作成する。センター装置13は、この結果を、ネットワーク14を介して、他の作業用端末装置12や管理者端末15などに通知することが可能である。ここで、管理者端末15は、ノートPC等のコンピュータで実現できる。
【0019】
また、ネットワーク14は、情報の通信ができればよく、インターネット等で実現できる。さらに、ネットワーク14は、有線、無線などその通信形式は問わない。
【0020】
次に、
図2Aおよび
図2Bを用いて、本実施例において、劣化度や残寿命を算出する作業用端末装置12を説明する。まず、
図2Aに、作業用端末装置12の外観を示す。作業用端末装置12は、作業員、つまり、利用者からの入力を受け付けたり、情報を出力したりするインターフェース部123を備える。例えば、作業用端末装置12は、いわゆるタブレット端末で実現でき、インターフェース部123はタッチパネルで実現できる。但し、作業用端末装置12は、タブレット端末以外のノートPC等の携帯用端末装置で実現してもよい。このため、インターフェース部123を、入力部と出力部に分けて実装してもよい。
【0021】
また、作業用端末装置12は、無線などでネットワーク14と接続する。さらに、制御盤10や光学式張力センサ11等の張力センサとも接続される。次に、これら接続のための機能を含む、作業用端末装置12の構成について、
図2Bを用いて説明する。
【0022】
図2Bは、作業用端末装置12の構成を示すブロック図である。作業用端末装置12は、処理部121、メモリ部122、インターフェース部123、データ入出力部124、記憶部125および通信部126を有する。
【0023】
処理部121は、各種情報処理を実行する。このために、処理部121は、張力取得部1211、屈曲回数取得部1212、劣化度算出部1213、残寿命算出部1214および検査結果作成部1215を有する。なお、処理部121の構成は、処理部単体で各種情報処理を実行してもよいし、各部が独立して構成してもよい。また、処理部121は、Y例えば、CPUのように、プログラムに従って各部の処理を実行してもよい。
【0024】
また、インターフェース部123は、上述のように、例えばタッチパネルで実現できる。また、データ入出力部124は、制御盤10や光学式張力センサ11等の張力センサと接続し、これらと情報を送受信する。また、記憶部125は、後述する各処理で用いられる各種情報やこれらで特定される情報を記憶する。その具体的な内容は、後述する。
【0025】
さらに、通信部126は、ネットワーク14と接続する機能を有し、センター装置13などに劣化度など各種情報を送信する。また、通信部126は、センター装置13や他の作業用端末装置12などからの情報を受信する。
【0026】
次に、
図3を用いて、光学式張力センサ11を用いた、主ロープ3の張力の計測について説明する。
図3において、主ロープ3が4本であるエレベーターの例である。
図3には4本の主ロープ3のそれぞれ(3a~3d)に対して、支持ばね8a~8dが設けられている。また、各支持ばね8a~8dには、それぞれシンブルロッド7a~7dおよびナット9a~9dが設けられている。以下、支持ばね8a~8d、シンブルロッド7a~7d、ナット9a~9dおよびこれらが設けられた主ロープ3a~3dの部分をまとめて、「端部」と称する。
【0027】
また、光学式張力センサ11は、端部、特に、支持ばね8a~8dが撮影されように設置される。そして、光学式張力センサ11は、エレベーター稼働中に、端部を撮影し、この撮影内容に応じて、支持ばね8a~8dのバネ長さL1~L4を検出し作業用端末装置12へ送信する。光学式張力センサ11は図面での説明の都合上、主ロープ3dのみを撮影する図面になっているが、1台の光学式張力センサ11で4本の主ロープ全てを撮影できる位置に設置することは言うまでもない。
【0028】
ここで、光学式張力センサ11は、バネ長さL1~L4とその検出した時間情報を対応付けて、作業用端末装置12へ送信することが望ましい。また、光学式張力センサ11は、バネ長さL1~L4とその際の乗かご1のかご位置情報を対応付けてもよい。
【0029】
次に、作業用端末装置12は、受信したバネ長L1~L4から、主ロープ3a~3dそれぞれの張力を算出する。そして、作業用端末装置12は、この張力と制御盤10から取得した対応するかご位置情報を付加する。この際、作業用端末装置12は、光学式張力センサ11から受信した時間情報と、制御盤10からのかご位置情報に対応する時間情報を突き合せることで、対応するかご位置情報を付加することになる。また、光学式張力センサ11からかご位置情報を受信する場合は、作業用端末装置12は、制御盤10からのかご位置情報の受信を省略できる。
【0030】
このことで、作業用端末装置12は、かご位置に対応した主ロープ3a~3dそれぞれの張力データT1~T4を取得することになる。そして、作業用端末装置12は、この張力データT1~T4を記憶部125に格納する。なお、作業用端末装置12は、
図3の端部の拡大である吹き出し部分(L1~L4)を、インターフェース部123に表示させてもよい。この場合、
図3のように、光学式張力センサ11の撮影画像および各バネ長L1~L4を重畳して表示してもよいし、バネ長L1~L4の数字を表示してもよい。
【0031】
次に、この張力データT1~T4の一例を
図4に示す。
図4において、4本の主ロープ3a~3dそれぞれに対して、乗かご1のかご位置(t)ごとの張力を示す張力データが以下のように算出されているものとする。
図4において、1本目の主ロープ3aの張力データT1(t)、2本目の主ロープ3bの張力データT2(t)および3本目の主ロープ3cの張力データT3(t)は、かご位置が下階ほど張力は増加する傾向を示す。但し、そのそれぞれの張力の値は異なり、増加度合もそれぞれの主ロープで異なっている。また、4本目の主ロープ3dの張力データT4(t)は、逆に下階ほど張力T4(t)が減少する傾向を示す。なお、記憶部125に格納される張力データT1~T4は、表形式であってもよい。
【0032】
また、制御盤10は、エレベーター運行状態を記録しており、かご位置ごとのロープ屈曲回数の累積を示す屈曲回数データが記録されている。この屈曲回数データの一例を、
図5に示す。
図5に示すように、屈曲回数データN(t)はエレベーターの乗かご1の移動位置を示す稼働状況により定まる。つまり、乗りかご1が移動するかご位置の移動頻度により、屈曲回数N(t)が特定できる。
図5に示す例は、最下階が他よりも利用頻度の高いエレベーターでの屈曲回数データN(t)の一例である。ここで、この屈曲回数データN(t)には、主ロープ3a~3dそれぞれにおける屈曲箇所も含まれている。
【0033】
なお、屈曲回数は、主ロープ3a~3dそれぞれで同じもしくは略同じであり、本実施例ではこれらの屈曲回数データN(t)をまとめて扱う。但し、屈曲回数データN(t)も、張力データT1~T4と同様に、主ロープ3a~3dそれぞれについて設けてもよい。さらに、屈曲回数データN(t)表形式であってもよい。また、作業用端末装置12は、上述するように、制御盤10から屈曲回数データN(t)を受信し、記憶部125に格納する。
【0034】
以下、作業用端末装置12による主ロープ3の劣化度および残寿命の算出について説明する。
【0035】
まず、作業用端末装置12の処理の前に、光学式張力センサ11が、乗りかご1が1往復する際における各主ロープ3a~3dの端部におけるバネ長さL1~L4を検出し、検出した時間情報と対応付けて、作業用端末装置12へ送信する。つまり、光学式張力センサ11は、バネ長さL1~L4の時系列データを作業用端末装置12に送信する。ここで、光学式張力センサ11は、検査対象のエレベーターに常設して、バネ長さL1~L4を検出してもよいし、周期的な点検作業時に作業員が光学式張力センサ11を設置して検出を行ってもよい。
【0036】
そして、ステップS1において、張力取得部1211は、バネ長さL1~L4の時系列データを用いて、張力データT1(t)~T4(t)を取得する。つまり、張力取得部1211は、乗かご1の稼働状況に応じた張力を示す張力データT1(t)~T4(t)を取得する。
【0037】
このために、まず、張力取得部1211は、バネ長さL1~L4の時系列データを、光学式張力センサ11からデータ入出力部124を介して受信する。次に、張力取得部1211は、バネ長さL1~L4の時系列データから張力T1~T4の時系列データを求める。そして、張力取得部1211は、制御盤10からデータ入出力部124を介して受信した乗かご1の移動位置の時系列データと、張力T1~T4の時系列データを突き合せることで、乗かご1のかご位置ごとの張力を示す張力データT1(t)~T4(t)を取得する。
【0038】
また、ステップS2において、屈曲回数取得部1212は、かご位置ごとのロープ屈曲回数を示す屈曲回数データN(t)を、制御盤10からデータ入出力部124を介して読み出す。なお、制御盤10でなく、作業用端末装置12が、屈曲回数データN(t)を特定ないし記憶してもよい。
【0039】
また、ステップS3において、劣化度算出部1213は、各主ロープ3a~3dの張力データT1(t)~T4(t)に、記憶部125に格納されている張力影響係数Aを乗算し、張力指標(A×Tn(t))を算出する。なお、張力影響係数Aの利用は省略してもよい。
【0040】
また、ステップS4において、劣化度算出部1213は、屈曲回数データN(t)に、記憶部125に格納されている屈曲回数影響係数Bを乗算し、屈曲回数指標(B×N(t))を算出する。なお、屈曲回数影響係数Bの利用は省略してもよい。
【0041】
次に、ステップS5において、劣化度算出部1213は、主ロープ3a~3dそれぞれの劣化度を算出する。このために、劣化度算出部1213は、各主ロープ3a~3dそれぞれの張力指標、屈曲回数指標および記憶部125に予め格納されている劣化起因係数Cを乗算することで、主ロープ3a~3dそれぞれの劣化度Wを算出する。ここで、屈曲回数データN(t)には、その屈曲箇所も含まれる。このため、劣化度算出部1213は、主ロープ3a~3dのうち、屈曲が生じた位置ごとに劣化度を算出することになる。この屈曲が生じた位置を劣化位置と呼ぶ。
【0042】
ここで、検査結果作成部1215が、算出された劣化度に応じた検査結果を作成し、インターフェース部123に出力する。そして、インターフェース部123がこれを表示することが望ましい。検査結果には、劣化度の他、主ロープを特定する情報などが含まれる。この表示画面の一例を
図7に示す。
図7に示すように、表示内容には、検査対象のエレベーターが設置されるビルを特定するビル名、そのビルでのエレベーターの号機および主ロープを特定する主ロープNoが含まれる。さらに、主ロープごとに、その劣化の状況を示す位置および劣化度が表示される。このように、当該表示画面では、検査対象の主ロープを特定する情報と、特定された主ロープの劣化の状況を示す情報が表示される。
【0043】
なお、本実施例では、検査結果作成部1215は、劣化位置および劣化度として、主ロープ3a~3dごとにその最も劣化度が大きな位置と劣化度を特定して、インターフェース部123に表示する。そして、その劣化度のうち最も劣化度が大きな(劣化が進んだ)主ロープNo、劣化位置および劣化度を他と区別して表示する。例えば、
図7に示すように、文字の太さ、大きさを変えたり、色を変えたりしてもよい。この際、主ロープNo、劣化位置および劣化度のうち、少なくとも1つを他と区別して表示してもよい。
【0044】
また、検査結果作成部1215は、最も劣化度が大きな主ロープNo(
図7の3d)を特定し、この主ロープ情報を限定的に表示してもよい。さらに、検査結果作成部1215は、各主ロープの屈曲が発生箇所それぞれについて出力を行ってもよい。ここで、劣化位置は、トラクションシーブ4を基準とした位置もしくは乗かご1の移動時間で示すことが好適である。
【0045】
さらに、検査結果作成部1215は、劣化位置を特定する情報を、データ入出力部124を介して制御盤10に送信する。そして、制御盤10は、該当の主ロープにおける劣化位置を、作業員が確認できる位置に移動するように、主ロープを駆動(乗りかご1を移動)させる。
【0046】
なお、検査結果作成部1215は、
図7に示す劣化度情報を、通信部126を用いてネットワーク14を介して、センター装置13に送信してもよい。この場合、他の作業用端末装置12や管理者端末15に、
図7に示す表示画面を表示することが可能になる。
【0047】
このことにより、作業用端末装置12や管理者端末15の利用者は、複数本ある主ロープ全長の中で、最も劣化した劣化位置を判断することが可能となる。以上のステップS5までで処理を終了してもよいが、より望ましくは、作業用端末装置12はステップS6を実行する。ステップS6において、残寿命算出部1214は、交換時期を示す残寿命を算出する。複数の主ロープ3a~3dのうち、最も劣化が進んだ主ロープの残寿命が、検査対象のエレベーターにおける残寿命になる。このため、本実施例では劣化が進んだ主ロープに絞って残寿命を算出するが、主ロープ3a~3dそれぞれに対して、残寿命を算出してもよい。
【0048】
残寿命の算出のために、残寿命算出部1214は、主ロープ3a~3dのうち最も劣化が進んだ(劣化度が大きな)主ロープを特定する。
図7の例では、主ロープ3dが特定される。次に、残寿命算出部1214は、特定された主ロープの劣化度Ww(
図7の例では30)を求める。また、残寿命算出部1214は、劣化度Wwに該当する張力Twを張力データから特定する。さらに、残寿命算出部1214は、記憶部125に格納された検査対象のエレベーターもしくは主ロープの種類ごとに定められる劣化規定値Dを読み出す。
【0049】
そして、残寿命算出部1214は、その主ロープがどの程度屈曲回数に耐えられるかを示す残寿命を、劣化度Ww、張力Twおよび劣化規定値Dを用いて算出する。具体的には、残寿命算出部1214は、α×(D-Ww)/Wwの計算を実行する(ここで、αは記憶部125に格納される屈曲回数計数)。さらに、残寿命算出部1214は、算出された残寿命(屈曲回数)に、屈曲回数1回あたりの寿命を掛けて、その交換ないし保守の時期を算出してもよい。
【0050】
この例では4本の主ロープは同じ時期に設置されたという前提で説明しているが、保守の都合で特定の1本のみを交換した場合は交換時期をセンター装置13等に記憶し、交換時期を加味した残寿命を計算する必要がある。
【0051】
なお、検査結果作成部1215が、この結果を、
図7に追加して、もしくは、単独でインターフェース部123に表示することが望ましい。また、劣化度と同様に、通信部126を用いて、ネットワーク14を介して、センター装置13に送信してもよい。このことにより、他の作業用端末装置12や管理者端末15に、
図7に示す表示画面を表示することが可能になる。
【0052】
以上の処理により、劣化度が規定値に達した主ロープについて、交換基準の劣化度に達するまでの残寿命を算出し推定することが可能になる。
【0053】
以上で、本実施例の処理の説明を終了するが、本実施例では以下の示すような変形例でも適用可能である。
【0054】
まず、張力センサとして、変位センサ式ロープ張力センサ16を用いる例を説明する。
図8は、変位センサ式ロープ張力センサ16を用いた張力計測を説明する図である。本図は、
図3と同様のものであり、光学式張力センサ11の代わりに、変位センサ式ロープ張力センサ16が設けられている。この変位センサ式ロープ張力センサ16は、端部に配置された支持ばね8a~8dの鉛直方向に設置され、エレベーター稼働中の支持ばね8a~8dそれぞれの寸法変化(L1~L4の変化)を検知する
なお、張力の計測は、これら張力センサの代わりに、主ロープ3a~3dやシンブルロッド7にひずみゲージを取付けて計測することも可能である。つまり、ひずみゲージで検出されるひずみ量を用いて、張力を計測してもよい。
【0055】
またさらに、
図6に示すフローチャートの処理は、作業用端末装置12で行っているが、少なくともその一部を、センター装置13で実行してもよい。この場合、センター装置13は、上述の張力取得部1211、屈曲回数取得部1212、劣化度算出部1213、残寿命算出部1214および検査結果作成部1215と同様の機能を有し、上述の各処理を実行する。この場合、センター装置13と作業用端末装置12は、互いにその処理に必要なデータを送受信する。この必要なデータとしては、
図6で例示したデータが含まれる。また、センター装置13で
図6の少なくとも一部の処理を実行する場合でも、センター装置13もしくは作業用端末装置12から、作業用端末装置12や管理者端末15に劣化度情報や残寿命を送信し、これらでその情報を表示することが可能である。
【0056】
以上の実施例によれば、複数の主ロープそれぞれについて、劣化の程度を把握できる。このため、エレベーターで複数存在する主ロープの中から、詳細な検査が必要な主ロープを絞り込むことが可能で、検査作業時間を低減することが可能になる。
【符号の説明】
【0057】
1 乗りかご、2 つり合い重り、3 主ロープ、4 トラクションシーブ、5 そらせ、6 ロープソケット、7 シンブルロッド、8 支持ばね、9 ナット、10 制御盤、11 光学式張力センサ、12 作業用端末装置、13 センター装置、14 ネットワーク、15 管理者端末、16 変位センサ式ロープ張力センサ