(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022034794
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】円すいころ軸受用樹脂製保持器および円すいころ軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/46 20060101AFI20220225BHJP
F16C 19/36 20060101ALI20220225BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
F16C33/46
F16C19/36
F16C33/66
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020138667
(22)【出願日】2020-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤掛 泰人
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA13
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA34
3J701BA44
3J701BA49
3J701CA08
3J701CA14
3J701EA36
3J701EA67
3J701EA76
3J701EA80
3J701FA13
3J701FA32
3J701FA33
3J701FA44
3J701GA01
3J701GA11
3J701XB03
3J701XB19
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】円すいころ軸受が始動するときに、円すいころの大端面と内輪の大鍔の間に急昇温が生じにくく、かつ、成形性に優れた円すいころ軸受用樹脂製保持器を提供する。
【解決手段】大径側リム部13と小径側リム部14と複数の柱部15が樹脂組成物で一体に成形される円すいころ軸受用樹脂製保持器において、大径側リム内周面23は、円すいころ6の大端面11から保持器軸方向に遠ざかるにつれて内径が次第に大きくなるテーパ状に傾斜して形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持器周方向に間隔をおいて配置される複数の円すいころ(6)の大端面(11)に沿って保持器周方向に延びる大径側リム部(13)と、
前記複数の円すいころ(6)の小端面(10)に沿って保持器周方向に延びる小径側リム部(14)と、
保持器周方向に隣り合う前記円すいころ(6)の間を通って前記大径側リム部(13)と前記小径側リム部(14)を連結する複数の柱部(15)とを有し、
前記大径側リム部(13)と前記小径側リム部(14)と前記複数の柱部(15)は、前記複数の円すいころ(6)をそれぞれ収容する複数のポケット(16)を区画し、
前記大径側リム部(13)と前記小径側リム部(14)と前記複数の柱部(15)が樹脂組成物で一体に成形され、
前記大径側リム部(13)は、前記各円すいころ(6)の大端面(11)に対向する大径側ポケット面(17)と、前記大径側ポケット面(17)の保持器径方向内端から、前記円すいころ(6)の大端面(11)から遠ざかる方向に延び、保持器径方向内側を向く大径側リム内周面(23)と、前記大径側ポケット面(17)と前記大径側リム内周面(23)との間にまたがって開口する保油凹部(24)とを有する円すいころ軸受用樹脂製保持器において、
前記大径側リム内周面(23)は、前記円すいころ(6)の大端面(11)から保持器軸方向に遠ざかるにつれて内径が次第に大きくなるテーパ状に傾斜して形成されていることを特徴とする円すいころ軸受用樹脂製保持器。
【請求項2】
前記大径側リム内周面(23)の保持器軸方向に対する傾斜角度θが、0°<θ≦10°の範囲に設定されている請求項1に記載の円すいころ軸受用樹脂製保持器。
【請求項3】
前記保油凹部(24)は、保持器周方向に直交する断面において、前記保油凹部(24)の内面が、前記大径側ポケット面(17)の保持器径方向の中間位置と、前記大径側リム内周面(23)の保持器軸方向の中間位置との間を折れ曲がって接続する断面L字状を呈するように形成されている請求項1または2に記載の円すいころ軸受用樹脂製保持器。
【請求項4】
前記大径側リム内周面(23)には、前記保油凹部(24)の内面が前記大径側リム内周面(23)に接続する位置に対して、前記円すいころ(6)の大端面(11)から遠い側に、保持器周方向に全周にわたって連続して延びる凸部(31)が形成されている請求項3に記載の円すいころ軸受用樹脂製保持器。
【請求項5】
前記凸部(31)の前記円すいころ(6)の大端面(11)に近い側の根元に対する前記凸部(31)の保持器径方向の高さ(h)が、1.0mm以下に設定されている請求項4に記載の円すいころ軸受用樹脂製保持器。
【請求項6】
前記凸部(31)は、保持器周方向に直交する断面形状が円弧状となるように形成されている請求項4または5に記載の円すいころ軸受用樹脂製保持器。
【請求項7】
前記樹脂組成物は、樹脂材にエラストマーを添加したものである請求項1から6のいずれかに記載の円すいころ軸受用樹脂製保持器。
【請求項8】
前記樹脂材に、さらに繊維強化材を添加した請求項7に記載の円すいころ軸受用樹脂製保持器。
【請求項9】
円すい状の外輪軌道面(2)を内周にもつ外輪(3)と、
前記外輪軌道面(2)の内径側に対向する円すい状の内輪軌道面(4)を外周にもつ内輪(5)と、
前記外輪軌道面(2)と前記内輪軌道面(4)の間に周方向に間隔をおいて組み込まれた複数の円すいころ(6)と、
前記複数の円すいころ(6)の周方向の間隔を保持する請求項1から8のいずれかに記載の円すいころ軸受用樹脂製保持器(1)と、を備え、
前記内輪(5)は、前記各円すいころ(6)の大端面(11)に接触する大鍔(8)を有する円すいころ軸受。
【請求項10】
前記保油凹部(24)は、前記大径側ポケット面(17)の、前記円すいころ(6)の大端面(11)と対向する領域から外側にはみ出ないように前記円すいころ(6)の大端面(11)と対向する領域内に収まって配置されている請求項9に記載の円すいころ軸受。
【請求項11】
前記円すいころ(6)は、前記大端面(11)の中央に円形凹部(12)を有し、前記保油凹部(24)は、1つの前記ポケット(16)につき、前記円形凹部(12)を挟む保持器周方向の両側に2つ設けられている請求項9または10に記載の円すいころ軸受。
【請求項12】
前記保油凹部(24)の前記大径側ポケット面(17)側の開口のうち、前記各円すいころ(6)の大端面(11)のうちの前記円形凹部(12)を除いた環状部分と対向する開口面積が、前記保油凹部(24)の前記大径側ポケット面(17)側の開口面積の50%以上である請求項11に記載の円すいころ軸受。
【請求項13】
前記円形凹部(12)を挟む保持器周方向の両側の2つの前記保油凹部(24)は、それぞれ、保持器軸方向に見て、保油凹部(24)の隣り合う内面同士が交わる隅角部(28)を2つ以上有する多角形状に形成されている請求項11または12に記載の円すいころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、円すいころ軸受用樹脂製保持器およびその円すいころ軸受用樹脂製保持器を用いた円すいころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のトランスミッションやディファレンシャル機構には、ラジアル荷重とアキシアル荷重を同時に支持することが可能な軸受である円すいころ軸受が多く用いられる(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1の円すいころ軸受は、円すい状の外輪軌道面を内周にもつ外輪と、外輪軌道面の内径側に対向する円すい状の内輪軌道面を外周にもつ内輪と、外輪軌道面と内輪軌道面の間に周方向に間隔をおいて組み込まれた複数の円すいころと、その複数の円すいころの周方向の間隔を保持する環状の保持器とを有する。内輪の外周には、円すいころの大端面を案内する大鍔が形成されている。軸受回転時、円すいころの大端面と内輪の大鍔は、滑りを伴う接触によりアキシアル荷重の一部を支持する。
【0004】
上記円すいころ軸受の潤滑は、ギヤの回転により跳ね上げられる潤滑油の飛沫により軸受を潤滑する跳ね掛け潤滑方式や、オイルポンプから圧送される潤滑油を直接軸受に供給する圧送潤滑方式や、オイルバスに溜められた潤滑油に軸受の一部を漬けた状態で軸受を使用する油浴潤滑方式などによって行なわれる。ここで、軸受が回転しているときは、外部から円すいころ軸受に潤滑油が継続して供給されるが、軸受が停止しているときは、外部から円すいころ軸受への潤滑油の供給が停止する。そのため、円すいころ軸受が長時間にわたって停止すると、円すいころ軸受に付着していた潤滑油の多くが流れ落ち、その後、円すいころ軸受が始動するときに、潤滑不足が生じやすい。
【0005】
特に、近年、潤滑油の攪拌抵抗により発生するエネルギー損失を抑えるため、自動車のトランスミッションやディファレンシャル機構において低粘度の潤滑油を使用したり、潤滑油の量を少なくしたりする傾向にある。そのため、円すいころ軸受が長時間にわたって停止したときに、円すいころ軸受に残存する潤滑油の量が過少となりやすく、その後、円すいころ軸受が始動するときに、円すいころの大端面と内輪の大鍔との間が急昇温するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-024168号公報
【特許文献2】国際公開第2011/062188号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、外部から円すいころ軸受への潤滑油の供給が停止したときにも、円すいころの大端面と内輪の大鍔の間を潤滑可能とした円すいころ軸受用保持器として、特許文献2の
図5や
図11に記載のものが知られている。
【0008】
特許文献2の
図5や
図11の円すいころ軸受用保持器は、保持器周方向に間隔をおいて配置される複数の円すいころの大端面に沿って保持器周方向に延びる大径側リム部と、複数の円すいころの小端面に沿って保持器周方向に延びる小径側リム部と、保持器周方向に隣り合う円すいころの間を通って大径側リム部と小径側リム部を連結する複数の柱部とを有し、大径側リム部と小径側リム部と複数の柱部は、複数の円すいころをそれぞれ収容する複数のポケットを区画している。そして、大径側リム部は、各円すいころの大端面に対向する大径側ポケット面と、大径側ポケット面の保持器径方向内端から、円すいころの大端面から遠ざかる方向に延び、保持器径方向内側を向く大径側リム内周面と、大径側ポケット面と大径側リム内周面との間にまたがって開口する保油凹部とを有する。
【0009】
この円すいころ軸受用保持器は、円すいころ軸受が回転しているときは、軸受の内部を流れる潤滑油の一部を、保持器の大径側リム部に形成した保油凹部に溜め、その後、軸受がいったん停止し、ふたたび軸受が回転を開始したときは、保油凹部から流出する潤滑油で、円すいころの大端面と内輪の大鍔との間を潤滑する。
【0010】
ところで、特許文献2の
図5や
図11の円すいころ軸受用保持器においては、大径側リム部の保持器径方向内側を向く大径側リム内周面が、保持器軸方向と平行な円筒状に形成されているか、または、大径側リム内周面の表面に付着した潤滑油を、円すいころの大端面に向けて誘導するために、円すいころの大端面から保持器軸方向に遠ざかるにつれて内径が次第に小さくなるテーパ状に傾斜して形成されている。
【0011】
ここで、本願の発明者は、特許文献2の
図5や
図11のような円すいころ軸受用保持器を、金型を用いた樹脂成形によって製造しようとしたときに、以下の問題に気付いた。
【0012】
すなわち、円すいころ軸受用保持器は、小径側リム部の側を小径側とし、大径側リム部の側を大径側とする円すい台状であるため、この円すいころ軸受用保持器を、金型を用いた樹脂成形によって製造する場合、テーパ状のキャビティをもつメス型と、テーパ状のコアをもつオス型とを用いることになる。ここで、特許文献2の
図5や
図11のように、大径側リム内周面を、保持器軸方向と平行な円筒状や、円すいころの大端面から遠ざかるにつれて内径が小さくなるテーパ状とした場合、成形品からオス型が離型しにくく、特に、大径側リム内周面を、円すいころの大端面から遠ざかるにつれて内径が小さくなるテーパ状とした場合は、いわゆる無理抜きの状態となるため、成形性が悪くなるという問題があることに気付いた。
【0013】
この発明が解決しようとする課題は、円すいころ軸受が始動するときに、円すいころの大端面と内輪の大鍔の間に急昇温が生じにくく、かつ、成形性に優れた円すいころ軸受用樹脂製保持器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するため、この発明では、以下の構成の円すいころ軸受用樹脂製保持器を提供する。
保持器周方向に間隔をおいて配置される複数の円すいころの大端面に沿って保持器周方向に延びる大径側リム部と、
前記複数の円すいころの小端面に沿って保持器周方向に延びる小径側リム部と、
保持器周方向に隣り合う前記円すいころの間を通って前記大径側リム部と前記小径側リム部を連結する複数の柱部とを有し、
前記大径側リム部と前記小径側リム部と前記複数の柱部は、前記複数の円すいころをそれぞれ収容する複数のポケットを区画し、
前記大径側リム部と前記小径側リム部と前記複数の柱部が樹脂組成物で一体に成形され、
前記大径側リム部は、前記各円すいころの大端面に対向する大径側ポケット面と、前記大径側ポケット面の保持器径方向内端から、前記円すいころの大端面から遠ざかる方向に延び、保持器径方向内側を向く大径側リム内周面と、前記大径側ポケット面と前記大径側リム内周面との間にまたがって開口する保油凹部とを有する円すいころ軸受用樹脂製保持器において、
前記大径側リム内周面は、前記円すいころの大端面から保持器軸方向に遠ざかるにつれて内径が次第に大きくなるテーパ状に傾斜して形成されていることを特徴とする円すいころ軸受用樹脂製保持器。
【0015】
このようにすると、大径側リム内周面が、円すいころの大端面から保持器軸方向に遠ざかるにつれて内径が次第に大きくなるテーパ状に傾斜して形成されているので、テーパ状のキャビティをもつメス型と、テーパ状のコアをもつオス型とを用いて円すいころ軸受用樹脂製保持器を樹脂成形するときに、円すいころ軸受用樹脂製保持器からオス型が離型しやすく、成形性に優れている。
【0016】
また、円すいころ軸受が回転しているときに、軸受の内部を流れる潤滑油の一部を、円すいころ軸受用樹脂製保持器の大径側リム部に形成した保油凹部に溜め、その後、軸受がいったん停止し、ふたたび軸受が回転を開始したときは、保油凹部から流出する潤滑油で、円すいころの大端面と内輪の大鍔との間を潤滑することができる。そのため、円すいころ軸受が始動するときに、円すいころの大端面と内輪の大鍔の間に急昇温が生じにくい。
【0017】
前記大径側リム内周面の保持器軸方向に対する傾斜角度θは、0°<θ≦10°の範囲に設定すると好ましい。
【0018】
傾斜角度θを10°以下に設定すると、テーパ状のキャビティをもつメス型と、テーパ状のコアをもつオス型とを用いて円すいころ軸受用樹脂製保持器を樹脂成形し、円すいころ軸受用樹脂製保持器からオス型とメス型を離型するときに、円すいころ軸受用樹脂製保持器がメス型に張り付く事態を防止することができる。また、傾斜角度θを0°よりも大きく設定すると、優れた成形性を確保することができる。
【0019】
前記保油凹部は、保持器周方向に直交する断面において、前記保油凹部の内面が、前記大径側ポケット面の保持器径方向の中間位置と、前記大径側リム内周面の保持器軸方向の中間位置との間を折れ曲がって接続する断面L字状を呈するように形成すると好ましい。
【0020】
このようにすると、保油凹部が、保持器軸方向に非貫通の構成となるので、軸受回転中のポンプ作用により軸受の内部を小径側から大径側に流れる潤滑油を、円すいころ軸受用樹脂製保持器の大径側リム部に形成した保油凹部に確実に溜めることが可能となる。そのため、円すいころ軸受が始動するときに、円すいころの大端面と内輪の大鍔の間を効果的に潤滑することができる。
【0021】
前記大径側リム内周面には、前記保油凹部の内面が前記大径側リム内周面に接続する位置に対して、前記円すいころの大端面から遠い側に、保持器周方向に全周にわたって連続して延びる凸部を形成すると好ましい。
【0022】
このようにすると、テーパ状のキャビティをもつメス型と、テーパ状のコアをもつオス型とを用いて円すいころ軸受用樹脂製保持器を樹脂成形し、円すいころ軸受用樹脂製保持器からオス型とメス型を離型するときに、オス型が大径側リム内周面の凸部に引っ掛かり、円すいころ軸受用樹脂製保持器を保持器軸方向に引っ張るので、円すいころ軸受用樹脂製保持器がメス型に張り付く事態を防止することができる。
【0023】
また、凸部は、保油凹部の内面が大径側リム内周面に接続する位置に対して、円すいころの大端面から遠い側に位置し、かつ、保持器周方向に全周にわたって連続して延びているので、軸受回転中のポンプ作用により軸受の内部を小径側から大径側に流れる潤滑油を保油凹部に受け入れる際に、保油凹部から溢れ出た潤滑油を凸部で堰き止め、大径側リム内周面に保持することができる。そのため、円すいころ軸受が始動するときに、円すいころの大端面と内輪の大鍔の間を特に効果的に潤滑することが可能となる。
【0024】
前記凸部の前記円すいころの大端面に近い側の根元に対する前記凸部の保持器径方向の高さを、1.0mm以下に設定すると好ましい。
【0025】
このようにすると、テーパ状のキャビティをもつメス型と、テーパ状のコアをもつオス型とを用いて円すいころ軸受用樹脂製保持器を樹脂成形するときに、オス型を円すいころ軸受用樹脂製保持器から確実に離型させることが可能となる。
【0026】
前記凸部は、保持器周方向に直交する断面形状が円弧状となるように形成すると好ましい。
【0027】
このようにすると、テーパ状のキャビティをもつメス型と、テーパ状のコアをもつオス型とを用いて円すいころ軸受用樹脂製保持器を樹脂成形するときに、オス型を円すいころ軸受用樹脂製保持器から円滑に離型させることが可能となる。
【0028】
前記樹脂組成物として、樹脂材にエラストマーを添加したものを採用すると好ましい。
【0029】
このようにすると、円すいころ軸受用樹脂製保持器の柔軟性が上がるので、テーパ状のキャビティをもつメス型と、テーパ状のコアをもつオス型とを用いて円すいころ軸受用樹脂製保持器を樹脂成形し、円すいころ軸受用樹脂製保持器からオス型とメス型を離型するときに、円滑に離型することができる。また、軸受組立時は、保持器を拡径させながら組み込むため、柔軟性が上がることで組立性も向上する。
【0030】
前記樹脂材に、さらに繊維強化材を添加すると好ましい。
【0031】
このようにすると、樹脂材にエラストマーを添加することによる円すいころ軸受用樹脂製保持器の強度低下を、繊維強化材で補うことができる。そのため、円すいころ軸受用樹脂製保持器の成形性および組立性と円すいころ軸受用樹脂製保持器の強度とを実現することが可能となる。
【0032】
また、この発明では、上記の円すいころ軸受用樹脂製保持器を用いた円すいころ軸受として、次の構成のものを併せて提供する。
円すい状の外輪軌道面を内周にもつ外輪と、
前記外輪軌道面の内径側に対向する円すい状の内輪軌道面を外周にもつ内輪と、
前記外輪軌道面と前記内輪軌道面の間に周方向に間隔をおいて組み込まれた複数の円すいころと、
前記複数の円すいころの周方向の間隔を保持する上記の円すいころ軸受用樹脂製保持器と、を備え、
前記内輪は、前記各円すいころの大端面に接触する大鍔を有する円すいころ軸受。
【0033】
前記保油凹部は、前記大径側ポケット面の、前記円すいころの大端面と対向する領域から外側にはみ出ないように前記円すいころの大端面と対向する領域内に収まって配置すると好ましい。
【0034】
このようにすると、保油凹部に溜まった潤滑油が、円すいころの大端面よりも外側から落下して流失するのを防止することができるので、円すいころの大端面と大径側リム部の保油凹部との間に潤滑油を効果的に保持することが可能となる。
【0035】
前記円すいころが、前記大端面の中央に円形凹部を有する場合、前記保油凹部は、1つの前記ポケットにつき、前記円形凹部を挟む保持器周方向の両側に2つ設けると好ましい。
【0036】
このようにすると、保油凹部が、円形凹部を挟む保持器周方向の両側に配置されているので、保油凹部に溜まった潤滑油が、大径側リム部の大径側ポケット面と円すいころの大端面の円形凹部との間から落下して流失するのを防止することができる。そのため、円すいころの大端面と大径側リム部の保油凹部との間に潤滑油を効果的に保持することが可能となる。
【0037】
前記保油凹部の前記大径側ポケット面側の開口のうち、前記各円すいころの大端面のうちの前記円形凹部を除いた環状部分と対向する開口面積が、前記保油凹部の前記大径側ポケット面側の開口面積の50%以上となるようにすると好ましい。
【0038】
このようにすると、保油凹部に溜まった潤滑油が、大径側リム部の大径側ポケット面と円すいころの大端面の円形凹部との間から落下して流失するのを効果的に防止することができる。
【0039】
前記円形凹部を挟む保持器周方向の両側の2つの前記保油凹部は、それぞれ、保持器軸方向に見て、保油凹部の隣り合う内面同士が交わる隅角部を2つ以上有する多角形状に形成すると好ましい。
【0040】
このようにすると、保油凹部の隅角部では、潤滑油が保油凹部の隣り合う内面のそれぞれに接触するので、潤滑油の表面張力によって、潤滑油が保油凹部内に保持されやすくなる。そのため、隅角部を2つ以上有する多角形状の保油凹部を採用すると、軸受停止中に、保油凹部内の潤滑油がその自重によって保油凹部から流出するのを抑制し、軸受が長期にわたって停止したときにも、確実に潤滑油を保油凹部内に保つことができる。その結果、円すいころ軸受が始動するときに、円すいころの大端面と内輪の大鍔の間を確実に潤滑することが可能となる。
【発明の効果】
【0041】
この発明の円すいころ軸受用樹脂製保持器は、大径側リム内周面が、円すいころの大端面から保持器軸方向に遠ざかるにつれて内径が次第に大きくなるテーパ状に傾斜して形成されているので、テーパ状のキャビティをもつメス型と、テーパ状のコアをもつオス型とを用いて円すいころ軸受用樹脂製保持器を樹脂成形するときに、円すいころ軸受用樹脂製保持器からオス型が離型しやすく、成形性に優れている。また、円すいころ軸受が回転しているときに、軸受の内部を流れる潤滑油の一部を、円すいころ軸受用樹脂製保持器の大径側リム部に形成した保油凹部に溜め、その後、軸受がいったん停止し、ふたたび軸受が回転を開始したときは、保油凹部から流出する潤滑油で、円すいころの大端面と内輪の大鍔との間を潤滑することができる。そのため、円すいころ軸受が始動するときに、円すいころの大端面と内輪の大鍔の間に急昇温が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】この発明の第1実施形態の円すいころ軸受用樹脂製保持器を組み込んだ円すいころ軸受のアキシアル平面に沿った断面図
【
図3】
図1に示す円すいころ軸受用樹脂製保持器を小径側から見た斜視図
【
図4】
図1に示す円すいころ軸受用樹脂製保持器を小径側から保持器軸方向に見た斜視図
【
図5】
図4に示す円すいころ軸受用樹脂製保持器の保油凹部を1つに減らした変形例を示す図
【
図6】
図4に示す円すいころ軸受用樹脂製保持器の保油凹部の隅角部に潤滑油が保持された状態を示す図
【
図7】
図1に示す円すいころ軸受用樹脂製保持器を射出成形するオス型とメス型を閉じた状態を示す図
【
図8】
図7に示すオス型とメス型を開き、円すいころ軸受用樹脂製保持器からオス型とメス型を離型させた状態を示す図
【
図9】この発明の第2実施形態の円すいころ軸受用樹脂製保持器を、
図2に対応して示す図
【
図10】(a)は、
図9に示す凸部の変形例を示す図、(b)は、
図9に示す凸部の他の変形例を示す図
【
図11】
図9に示す円すいころ軸受用樹脂製保持器を射出成形するオス型とメス型を閉じた状態を示す図
【
図12】
図11に示すメス型を円すいころ軸受用樹脂製保持器から離型させた状態を示す図
【
図13】保油凹部を1つのポケットにつき1つ設けた場合の、軸受停止時の保油凹部の保油量の解析結果を示す図
【
図14】保油凹部を1つのポケットにつき2つ設けた場合の、軸受停止時の保油凹部の保油量の解析結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0043】
図1に、この発明の第1実施形態の円すいころ軸受用樹脂製保持器1を用いた円すいころ軸受を示す。この円すいころ軸受は、円すい状の外輪軌道面2を内周にもつ外輪3と、円すい状の内輪軌道面4を外周にもつ内輪5と、外輪軌道面2と内輪軌道面4の間に周方向に間隔をおいて組み込まれた複数の円すいころ6と、その複数の円すいころ6の間隔を保持する円すいころ軸受用樹脂製保持器1(以下、単に「樹脂保持器1」という)とを有する。
【0044】
内輪5は、外輪3の内側に同軸に配置されている。内輪5の外周には、内輪軌道面4と、内輪軌道面4の小径側に位置する小鍔7と、内輪軌道面4の大径側に位置する大鍔8とが形成されている。内輪軌道面4は、外輪軌道面2の内径側に対向している。円すいころ6は、外輪軌道面2と内輪軌道面4に転がり接触している。軸受回転時、各円すいころ6は、自転しながら、外輪軌道面2と内輪軌道面4の間を、内輪5の軸線(すなわち樹脂保持器1の軸線)回りに公転する。
【0045】
複数の円すいころ6は、樹脂保持器1の周方向に間隔をおいて、環状の樹脂保持器1の軸線を中心とする仮想の円すい面(ピッチ円すい)上に各円すいころ6の中心線(図示せず)が位置する状態で配置されている。円すいころ6は、円すい状の転動面9と、転動面9の小径側に連なる小端面10と、転動面9の大径側に連なる大端面11とを有する。大端面11の中央には円形凹部12(
図4参照)が形成されている。転動面9は、円すいころ6の表面のうちの外輪軌道面2に転がり接触する部分である。
【0046】
小鍔7は、円すいころ6の小端面10と対向するように内輪軌道面4から径方向外側に突出して形成されている。小鍔7は、円すいころ6が小径側に移動するのを規制し、円すいころ6が内輪軌道面4から脱落するのを防止する。大鍔8は、円すいころ6の大端面11に対向するように内輪軌道面4から径方向外側に突出して形成されている。軸受回転時、円すいころ6の大端面11と内輪5の大鍔8は、滑りを伴う接触により、アキシアル荷重の一部を支持する。
【0047】
樹脂保持器1は、各円すいころ6の大端面11に沿って保持器周方向に延びる大径側リム部13と、各円すいころ6の小端面10に沿って保持器周方向に延びる小径側リム部14と、保持器周方向に隣り合う円すいころ6の間を通って大径側リム部13と小径側リム部14を連結する複数の柱部15とを有する。
【0048】
大径側リム部13と小径側リム部14と複数の柱部15は、複数の円すいころ6をそれぞれ収容する複数のポケット16を区画している。ここで、大径側リム部13と小径側リム部14はポケット16の保持器軸方向の両端を区画し、柱部15はポケット16の保持器周方向の両端を区画している。大径側リム部13には、円すいころ6の大端面11に対向する大径側ポケット面17が形成され、小径側リム部14には、円すいころ6の小端面10に対向する小径側ポケット面18が形成されている。
【0049】
大径側ポケット面17は、円すいころ6の大端面11と平行に向き合うように保持器径方向(図の上下方向)に対して傾斜して形成されている。小径側ポケット面18も、円すいころ6の小端面10と平行に向き合うように保持器径方向(図の上下方向)に対して傾斜して形成されている。
【0050】
柱部15には、円すいころ6の外周の転動面9を案内するころ案内面19と、柱部15の大径側リム部13の側の端部に位置する三角凹部20とが形成されている。三角凹部20は、ころ案内面19に対して保持器周方向に窪んだ凹部である。三角凹部20は、
図7、
図8に示すように、オス型21とメス型22を用いて樹脂保持器1を樹脂成形するときに、メス型22の、大径側ポケット面17を成形する部位が通過する部分である。
【0051】
図1に示すように、三角凹部20は、樹脂保持器1の周方向に見て、大径側ポケット面17と柱部15とが交差する隅部を一辺とし、その一辺から小径側リム部14に近づくにしたがって保持器径方向の幅が次第に小さくなる三角形状の凹部である。樹脂保持器1の周方向に見て、三角凹部20の保持器径方向外側の一辺は、樹脂保持器1の外周に一致し、三角凹部20の保持器周方向内側の一辺は、保持器軸方向と平行か、保持器軸方向に大径側から小径側に向かって保持器の軸線に次第に近づく方向に傾斜して延びている。
【0052】
保持器を構成する大径側リム部13と小径側リム部14と複数の柱部15は、樹脂組成物で継ぎ目のない一体に成形されている。保持器を形成する樹脂組成物は、樹脂材のみからなるものを使用することも可能であるが、ここでは、樹脂材にエラストマーと繊維強化材とを添加したものが使用されている。
【0053】
樹脂組成物のベースとなる樹脂材としては、ポリアミド(PA)またはスーパーエンジニアリングプラスチックを採用することができる。ポリアミドとしては、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド46(PA46)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(PA9T)等を使用することができる。また、スーパーエンジニアリングプラスチックとしては、ポリフェニレンサルファイド(PPS)を採用することができる。樹脂保持器1を形成する樹脂組成物のベースとなる樹脂材にPPSを採用すると、PPSは、耐熱性、耐油性、低吸水性に優れているので好ましい。樹脂材に添加するエラストマーは、例えば、熱可塑性エラストマーである。
【0054】
樹脂材に添加する繊維強化材としては、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維等を採用することができる。繊維強化材としてガラス繊維を採用する場合、繊維強化材に占めるガラス繊維の含有率は、10~50重量%(好ましくは20~40重量%、より好ましくは25~35重量%)とすることができる。なお、樹脂材、エラストマー、繊維強化材の種類の組み合わせは適宜自由に選択可能である。
【0055】
小径側リム部14は、柱部15との接続位置からピッチ円すいと交差して保持器径方向内方に延びる内向きのフランジ形状とされている。ピッチ円すいは、円すいころ6が外輪3と内輪5の間を自転しながら公転するときの円すいころ6の自転軸の通過する軌跡からなる仮想の円すい面である。
【0056】
図2に示すように、大径側リム部13は、大径側ポケット面17と、大径側ポケット面17の保持器径方向内端から、円すいころ6の大端面11から遠ざかる方向に延びる大径側リム内周面23と、大径側ポケット面17と大径側リム内周面23との間にまたがって開口する保油凹部24とを有する。大径側リム内周面23は、大径側リム部13の表面のうち、保持器径方向内側を向く面である。大径側リム内周面23は、大鍔8の外周面と保持器径方向に対向している。
【0057】
大径側リム内周面23は、円すいころ6の大端面11から保持器軸方向に遠ざかるにつれて内径が次第に大きくなるテーパ状に傾斜して形成されている。大径側リム内周面23の保持器軸方向に対する傾斜角度θは、0°<θ≦10°(少なくとも0°<θ≦20°)の範囲に設定されている。大径側リム内周面23は、保持器周方向に直交する断面において直線状に延びる円すい面である。大径側リム内周面23の円すいころ6の大端面11に近い側の端部は、柱部15の三角凹部20の保持器周方向内側の一辺の大径側リム部13に近い側の端部と、保持器径方向に揃った位置にある。
【0058】
保油凹部24は、
図2に示すように、保持器周方向に直交する断面において、保油凹部24の内面が、大径側ポケット面17の保持器径方向の中間位置と、大径側リム内周面23の保持器軸方向の中間位置との間を折れ曲がって接続する断面L字状を呈するように形成されている。保油凹部24の内面は、保持器径方向内側を向く内底面25と、内底面25の、保持器軸方向に円すいころ6の大端面11から遠い側の端部から保持器径方向内方に立ち上がって大径側リム内周面23に至る内壁面26とを有する。内底面25は、図では保持器軸方向と平行に延びているが、保持器軸方向に対して10°以下の傾斜角をもって傾斜させてもよい。内壁面26は、保持器径方向と平行に延びている。
【0059】
図3に示すように、保油凹部24は、1つのポケット16につき、保持器周方向に離れて2つずつ設けられている。この保油凹部24内に潤滑油を受け入れたとき、潤滑油の表面張力によって、保油凹部24内の潤滑油には、重力等の外力が作用しても保油凹部24内にとどまろうとする力(以下保持力F1と称する)が作用する。その保持力F1が、潤滑油に作用する重力F2よりも大きい場合に、保油凹部24内に潤滑油が効果的に保持される。保持力F1は、以下の計算式により算出される。
F1=γ×L×cosθ
ここで、Lは、ぬれぶち長さ(潤滑油に接している保油凹部24の内面の総長さ)、θは、樹脂保持器1を構成する樹脂組成物に対する潤滑油の接触角である。
一方、潤滑油に作用する重力F2は、以下の計算式により算出される。
F2=g×ρ×V
ここで、gは、重力加速度(自由落下の標準加速度)であり、ρは、潤滑油の密度であり、Vは、潤滑油の体積である。
例えば、潤滑油の表面張力γ=30(mN/m)、接触角θ=18.5(°)、ぬれぶち長さL=2.8×10
-3(m)、潤滑油密度ρ=0.850(g/cm
3)、潤滑油体積V=0.49(mm
3)である場合、F1=8.0×10
-5Nとなる。このとき、潤滑油に作用する重力F2は、F2=4.0×10
-6Nとなる。このため、F1≧F2となり、保油凹部24内の潤滑油は、表面張力によって保油凹部24内に保持される。保油凹部24は、保油凹部24の1つあたりの容積が3.00(mm
3)以下となるように形成することができる。
【0060】
図4に示すように、2つの保油凹部24は、いずれも、大径側ポケット面17の、円すいころ6の大端面11と対向する領域(図に鎖線で示す円すいころ6の大端面11よりも内側の領域)から外側にはみ出ないように円すいころ6の大端面11と対向する領域内に収まって配置されている。ここで、大端面11は、円すいころ6の大径側の端部外周の面取り部27(
図2参照)を含む面である。
【0061】
また、2つの保油凹部24は、2つの保油凹部24の間に円形凹部12を挟むように、円形凹部12に対して保持器周方向の両側に配置されている。円形凹部12は、大端面11の環状の平面状部分から内径側に向かって窪む部分(円形凹部12の周縁に沿って形成される面取り状の部分を含む)の全体である。
【0062】
保油凹部24の大径側ポケット面17側の開口のうち、各円すいころ6の大端面11のうちの円形凹部12を除いた環状部分(図に鎖線で示す外側の円よりも内側かつ内側の円よりも外側の部分)と対向する開口面積が、保油凹部24の大径側ポケット面17側の開口面積の50%以上(好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上。図では100%)となっている。図では、2つの保油凹部24は、大径側ポケット面17の、円形凹部12と対向する領域(図に鎖線で示す内側の円の部分)内に入り込む部分が存在しないように配置されている。
【0063】
円形凹部12を挟む保持器周方向の両側の2つの保油凹部24は、それぞれ、
図4に示すように、保持器軸方向に見て、保油凹部24の隣り合う内面同士が交わる隅角部28を2つ以上(図では2つ)有する多角形状(図では四角形状)に形成されている。
【0064】
図7、
図8に示すように、樹脂保持器1は、保持器軸方向に分離できるオス型21とメス型22とを用いた樹脂成形によって製造することができる。オス型21は、樹脂保持器1の柱部15の保持器径方向内側を向く面を成形するテーパ状のコア29をもつ金型であり、メス型22は、樹脂保持器1の柱部15の保持器径方向外側を向く面を成形するテーパ状のキャビティ30をもつ金型である。ここで、
図1に示す樹脂保持器1の小径側ポケット面18ところ案内面19は、オス型21で成形され、
図2に示す大径側リム内周面23も、オス型21で成形される。一方、
図1に示す樹脂保持器1の大径側ポケット面17と三角凹部20は、メス型22で成形される。
【0065】
近年、潤滑油の攪拌抵抗により発生するエネルギー損失を抑えるため、自動車のトランスミッションやディファレンシャル機構において低粘度の潤滑油を使用したり、潤滑油の量を少なくしたりする傾向にある。そのため、自動車のトランスミッションやディファレンシャル機構に円すいころ軸受を使用する場合、円すいころ軸受が長時間にわたって停止したときに、円すいころ軸受に残存する潤滑油の量が過少となりやすく、その後、円すいころ軸受が始動するときに、
図1に示す円すいころ6の大端面11と内輪5の大鍔8との間が急昇温するおそれがある。
【0066】
この問題に対し、この実施形態の円すいころ軸受は、円すいころ軸受が回転しているときに、軸受の内部を流れる潤滑油の一部を、樹脂保持器1の大径側リム部13に形成した保油凹部24に溜め、その後、軸受がいったん停止し、ふたたび軸受が回転を開始したときは、保油凹部24から流出する潤滑油で、円すいころ6の大端面11と内輪5の大鍔8との間を潤滑することができる。そのため、円すいころ軸受が始動するときに、円すいころ6の大端面11と内輪5の大鍔8の間に急昇温が生じにくい。
【0067】
また、樹脂保持器1は、大径側リム内周面23が、円すいころ6の大端面11から保持器軸方向に遠ざかるにつれて内径が次第に大きくなるテーパ状に傾斜して形成されているので、
図7、
図8に示すように、メス型22とオス型21とを用いて樹脂保持器1を樹脂成形するときに、樹脂保持器1からオス型21が離型しやすく、成形性に優れている。
【0068】
また、この樹脂保持器1は、
図2に示すように、大径側リム内周面23の保持器軸方向に対する傾斜角度θを10°以下(少なくとも20°以下)に設定しているので、
図7、
図8に示すように、メス型22とオス型21とを用いて樹脂保持器1を樹脂成形し、樹脂保持器1からオス型21とメス型22を離型するときに、樹脂保持器1がメス型22に張り付く事態を防止することが可能である。
【0069】
また、この樹脂保持器1は、
図2に示すように、保持器周方向に直交する断面において断面L字状を呈するように保油凹部24を形成し、保油凹部24が、保持器軸方向に非貫通の構成となっているので、軸受回転中のポンプ作用により軸受の内部を小径側から大径側に流れる潤滑油を、樹脂保持器1の大径側リム部13に形成した保油凹部24に確実に受け止めて溜めることが可能である。そのため、円すいころ軸受が始動するときに、円すいころ6の大端面11と内輪5の大鍔8の間を効果的に潤滑することができる。
【0070】
また、この樹脂保持器1は、樹脂材にエラストマーを添加した樹脂組成物で形成しているので、樹脂保持器1の柔軟性が高い。そのため、メス型22とオス型21を用いて樹脂保持器1を樹脂成形し、樹脂保持器1からオス型21とメス型22を離型するときに、円滑に離型することができる。
【0071】
さらに、この樹脂保持器1は、樹脂材にさらに繊維強化材を添加しているので、樹脂材にエラストマーを添加することによる樹脂保持器1の強度低下を、繊維強化材で補うことが可能である。そのため、樹脂保持器1の成形性および組立性と樹脂保持器1の強度とを実現することが可能である。
【0072】
また、上記の円すいころ軸受は、
図4に示すように、大径側ポケット面17の、円すいころ6の大端面11と対向する領域から外側にはみ出ないように円すいころ6の大端面11と対向する領域内に収まって保油凹部24を配置しているので、保油凹部24に溜まった潤滑油が、円すいころ6の大端面11よりも外側から落下して流失するのを防止することができる。そのため、円すいころ6の大端面11と大径側リム部13の保油凹部24との間に潤滑油を効果的に保持することが可能である。
【0073】
また、上記の円すいころ軸受は、
図4に示すように、1つのポケット16につき、円形凹部12を挟む保持器周方向の両側に保油凹部24を2つ設けているので、保油凹部24に溜まった潤滑油が、大径側リム部13の大径側ポケット面17と円すいころ6の大端面11の円形凹部12との間から落下して流失するのを防止することができる。そのため、円すいころ6の大端面11と大径側リム部13の保油凹部24との間に潤滑油を効果的に保持することが可能である。
【0074】
また、上記の円すいころ軸受は、
図4に示すように、保油凹部24の大径側ポケット面17側の開口のうち、各円すいころ6の大端面11のうちの円形凹部12を除いた環状部分と対向する開口面積を、保油凹部24の大径側ポケット面17側の開口面積の50%以上(好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上。
図4では100%)としているので、保油凹部24に溜まった潤滑油が、大径側リム部13の大径側ポケット面17と円すいころ6の大端面11の円形凹部12との間から落下して流失するのを効果的に防止することができる。
【0075】
また、上記の円すいころ軸受は、
図6に示すように、円形凹部12を挟む保持器周方向の両側の2つの保油凹部24が、それぞれ、保持器軸方向に見て、保油凹部24の隣り合う内面同士が交わる隅角部28を2つ以上有する多角形状に形成されているので、保油凹部24への潤滑油の保持力が高いものとなっている。
【0076】
すなわち、保油凹部24の隅角部28では、潤滑油が保油凹部24の隣り合う内面のそれぞれに接触するので、潤滑油の表面張力によって、潤滑油が保油凹部24内に保持されやすくなる。そのため、
図6に示すように、隅角部28を2つ以上有する多角形状の保油凹部24を採用すると、軸受停止中に、保油凹部24内の潤滑油がその自重によって保油凹部から流出するのを抑制し、軸受が長期にわたって停止したときにも、確実に潤滑油を保油凹部24内に保つことができる。その結果、円すいころ軸受が始動するときに、円すいころ6の大端面11と内輪5の大鍔8の間を確実に潤滑することが可能となる。例えば、
図5に示すように、1つのポケット16につき1つの保油凹部24しか無ければ、1つのポケット16につき隅角部28が2つしかないのに対し、
図6に示すように、1つのポケット16につき2つの保油凹部24があると、1つのポケット16につき4つの隅角部28を確保することができるので、1つのポケット16あたりの保油凹部24に保持する潤滑油の総量を大きくすることが可能となる。
【0077】
図9に第2実施形態の樹脂保持器1を示す。第1実施形態に比べて凸部31が追加されている点のみが異なり、その他の構成は第1実施形態と同一である。そのため、第1実施形態に対応する部分は同一の符号を付して説明を省略する。
【0078】
大径側リム内周面23には、保油凹部24の内面が大径側リム内周面23に接続する位置に対して、円すいころ6の大端面11から遠い側に、保持器周方向に全周にわたって連続して延びる凸部31が形成されている。
【0079】
凸部31の円すいころ6の大端面11に近い側の根元に対する凸部31の保持器径方向の高さhは、1.0mm以下(少なくとも2.0mm以下)に設定されている。
【0080】
凸部31は、保持器周方向に直交する断面形状が円弧状となるように形成されている。
【0081】
この樹脂保持器1は、
図11、
図12に示すように、メス型22とオス型21を用いて樹脂保持器1を樹脂成形し、樹脂保持器1からオス型21とメス型22を離型するときに、オス型21が大径側リム内周面23の凸部31に引っ掛かり、樹脂保持器1を保持器軸方向に引っ張るので、樹脂保持器1がメス型22に張り付く事態を防止することができる。なお、
図12に示す樹脂保持器1は、オス型21に組み込んだ図示しない押出しピンを用いてオス型21から離型される。
【0082】
また、この樹脂保持器1は、凸部31は、保油凹部24の内面が大径側リム内周面23に接続する位置に対して、円すいころ6の大端面11から遠い側に位置し、かつ、保持器周方向に全周にわたって連続して延びているので、軸受回転中のポンプ作用により軸受の内部を小径側から大径側に流れる潤滑油を保油凹部24に受け入れる際に、保油凹部24から溢れ出た潤滑油を凸部31で堰き止め、大径側リム内周面23に保持することができる。そのため、円すいころ軸受が始動するときに、円すいころ6の大端面11と内輪5の大鍔8の間を特に効果的に潤滑することが可能である。
【0083】
また、この樹脂保持器1は、凸部31の保持器径方向の高さhを1.0mm以下に設定しているので、
図11、
図12に示すように、メス型22とオス型21とを用いて樹脂保持器1を樹脂成形するときに、オス型21を樹脂保持器1から確実に離型させることが可能である。
【0084】
凸部31は、
図10(a)に示すように、断面形状が長方形状のものや、
図10(b)に示すように、断面形状が台形状のものを採用してもよいが、
図9に示すように、断面形状が円弧状のものを採用すると、
図11、
図12に示すように、メス型22とオス型21とを用いて樹脂保持器1を樹脂成形するときに、オス型21を樹脂保持器1から円滑に離型させることが可能である。
【0085】
保油凹部24を1つのポケット16につき1つ設ける場合と比較して、上記実施形態のように、保油凹部24を1つのポケット16につき2つ設けた場合の方が、効果的に潤滑油を保持することができることを確認するため、以下の解析を行なった。
【0086】
<解析条件>
混相流れ(VOF)による非定常流体解析
軸受サイズ:φ34mm×φ62mm×16mm
軸受回転数:6000rpm
温度:120℃一定
潤滑油:ATF(120℃での動粘度が3.90mm2/秒のもの)
流入条件:油供給量:100mL/分(外輪小径側端面の側から油が流入)
外輪小径側端面から9.6mm~49.6mmが油で満たされている。
流出条件:圧力出口
初期条件:空気、0m/s、0MPa(ゲージ圧)
【0087】
<解析内容>
1.軸受を回転させ潤滑油を流入させる。
2.回転を開始してから0.5秒後、軸受の回転を停止させ、潤滑油の流動がなくなる定常状態まで経過させる。
3.潤滑油の流動が完成に停止した定常状態において、保油凹部の残存油量を確認する(2.5秒後)。
【0088】
<解析結果>
図5に示すように保油凹部24を1つのポケット16につき1つ設けた場合の解析結果を
図13に示し、
図6に示すように保油凹部24を1つのポケット16につき2つ設けた場合の解析結果を
図14に示す。これらの解析結果から、潤滑油の流動がなくなる定常状態では、保油凹部24の隅角部28に潤滑油が多く残存することがわかる。また、保油凹部24を1つのポケット16につき2つ設けた場合、
図14に示す解析結果において、2つの保油凹部の残存油量の合計は0.248mm
3となった。この残存油量は、保油凹部24を1つのポケット16につき1つ設けた場合の
図13に示す解析結果の残存油量のおよそ2倍であった。これらの解析結果より、保油凹部24を1つのポケット16につき1つ設ける場合と比較して、上記実施形態のように、保油凹部24を1つのポケット16につき2つ設けた場合の方が、保油凹部24の隅角部28の数が多いため、1つのポケット16あたりの保油凹部24に効果的に潤滑油を保持することができることを確認することができる。
【0089】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0090】
1 円すいころ軸受用樹脂製保持器
2 外輪軌道面
3 外輪
4 内輪軌道面
5 内輪
6 円すいころ
8 大鍔
10 小端面
11 大端面
12 円形凹部
13 大径側リム部
14 小径側リム部
15 柱部
16 ポケット
17 大径側ポケット面
23 大径側リム内周面
24 保油凹部
28 隅角部
31 凸部
θ 傾斜角度
h 高さ