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特開2022-34912外耳道温度センサ及び動物の健康状態の変化の検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022034912
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】外耳道温度センサ及び動物の健康状態の変化の検出方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 29/00 20060101AFI20220225BHJP
   A01K 67/00 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
A01K29/00
A01K67/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020138850
(22)【出願日】2020-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】鍋西 久
(57)【要約】
【課題】動物の健康状態の変化をより簡便に検出する技術を提供する。
【解決手段】動物の耳を貫通することが可能な雄軸部又はこの雄軸部が嵌合される雌軸部が配置されたプレートと、前記プレートに配置され、動物の外耳道に挿入される棒状部と、前記棒状部のうち、動物の外耳道の内部に配置される位置に設けられた温度センサと、を備え、前記棒状部は、その一部が前記雄軸部又は前記雌軸部に隣接するように、前記プレートに配置されている、外耳道温度センサ。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の耳を貫通することが可能な雄軸部又はこの雄軸部が嵌合される雌軸部が配置されたプレートと、
前記プレートに配置され、動物の外耳道に挿入される棒状部と、
前記棒状部のうち、動物の外耳道の内部に配置される位置に設けられた温度センサと、を備え、
前記棒状部は、その一部が前記雄軸部又は前記雌軸部に隣接するように、前記プレートに配置されている、外耳道温度センサ。
【請求項2】
動物の外耳道温度を経時的に測定する工程を含み、
前記外耳道温度の変化が、前記動物の健康状態の変化に対応する、前記動物の健康状態の変化の検出方法。
【請求項3】
前記外耳道温度の変化が、前記外耳道温度の低下であり、
前記動物の健康状態の変化が、前記動物の分娩時期が近いことである、請求項2に記載の検出方法。
【請求項4】
動物の外耳道温度の経時的な測定が、請求項1に記載の外耳道温度センサにより行われる、請求項2又は3に記載の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外耳道温度センサ及び動物の健康状態の変化の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本における肉用牛の飼養農家戸数と飼養頭数は減少傾向で推移している。このことが、慢性的な子牛不足と子牛価格の高騰の要因となっており、繁殖基盤の強化が喫緊の課題である。このためには、子牛の生産効率を高めることが必要であり、母牛の繁殖成績を改善することと併せて、事故なく子牛を産ませ健康に育成させることが求められる。
【0003】
母牛の繁殖成績を改善することに関しては、受胎を確認した母牛に対する飼養管理技術の効率化について、未だ検討の余地が残されている。特に、分娩時の死廃事故は経済的損失や精神的ダメージをもたらす重要な問題であるが、肉用牛における分娩事故の発生率が5%にも達するとの報告もある。したがって、分娩事故を低減するための対策技術として、監視カメラによる分娩監視の効率化や分娩前の体温変化に着目した分娩予測の取り組みが進められている。
【0004】
分娩前の牛では体温が低下することが知られており、例えば、特許文献1には、分娩時期の予測技術として、腟内に挿入した温度センサで測定した体温データを活用するシステムが記載されている。
【0005】
また、子牛の生産効率を高めるためには、出生した子牛を健康に育成することも重要な課題である。生後間もない子牛は環境要因の影響を受け易く、発熱等の疾病を発症し易い状況にある。牛の健康管理を行ううえで、体温の測定は最も基本的で重要な項目であるが、従来行われている直腸温の測定は1頭ずつ行わなければならず、保定や測定作業に多くの労力を要する。このため、健康管理の一環で牛群における個々の体温を継続的に測定することは困難な状況にある。結果的に、何らかの症状が現れた牛に対する事後処置となっているケースが多いのではないかと考えられる。そのため、省力的に効率良く牛の体温を継続的にモニタリングできる技術が強く望まれている。
【0006】
非侵襲的な体温評価法として、例えば、特許文献2には、サーモグラフィーカメラを用いる方法が記載されている。また、特許文献3には、ウシの尾根部腹側に装着したセンサで温度変化を検出する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5035861号公報
【特許文献2】特許第6644311号公報
【特許文献3】特開2018-113904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、センサを腟内に挿入する必要があるため、衛生上の問題や手技の煩雑さ、牛に対する負担を考慮して、導入に抵抗感を示す農家も少なくない。また、特許文献2に記載された方法は、設備費が高額となる場合がある。また、特許文献3に記載された方法も、現時点において生産現場で広く普及できる段階には至っていない。
【0009】
そこで、本発明は、動物の健康状態の変化をより簡便に検出する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の態様を含む。
[1]動物の耳を貫通することが可能な雄軸部又はこの雄軸部が嵌合される雌軸部が配置されたプレートと、前記プレートに配置され、動物の外耳道に挿入される棒状部と、前記棒状部のうち、動物の外耳道の内部に配置される位置に設けられた温度センサと、を備え、前記棒状部は、その一部が前記雄軸部又は前記雌軸部に隣接するように、前記プレートに配置されている、外耳道温度センサ。
[2]動物の外耳道温度を経時的に測定する工程を含み、前記外耳道温度の変化が、前記動物の健康状態の変化に対応する、前記動物の健康状態の変化の検出方法。
[3]前記外耳道温度の変化が、前記外耳道温度の低下であり、前記動物の健康状態の変化が、前記動物の分娩時期が近いことである、[2]に記載の検出方法。
[4]動物の外耳道温度の経時的な測定が、[1]に記載の外耳道温度センサにより行われる、[2]又は[3]に記載の検出方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、動物の健康状態の変化をより簡便に検出する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(a)~(c)は、外耳道温度センサの一例を示す模式図である。
図2】(a)~(c)は、外耳道温度センサの一例を示す模式図である。
図3】(a)~(c)は、外耳道温度センサの一例を示す模式図である。
図4】(a)~(c)は、外耳道温度センサの一例を示す模式図である。
図5】実験例1で測定した、子牛の外耳道温度と直腸温度との関係を示すグラフである。
図6】実験例1における、直腸温度が40.0℃以上で推移した子牛と39.0℃以下の子牛の外耳道温度を示すグラフである。
図7】(a)及び(b)は、実験例2で作製した外耳道温度センサの写真である。
図8】(a)及び(b)は、実験例2において、外耳道温度センサを牛に装着した状態を示す写真である。
図9】実験例3において、外耳道温度と環境温度を経時的に測定した結果を示すグラフである。
図10】実験例3において、外耳道温度と環境温度を経時的に測定した結果を示すグラフである。
図11】実験例4において、外耳道温度センサを繁殖雌牛に装着した状態を示す写真である。
図12】実験例4で測定した、腟内温度と外耳道温度を経時的に測定した結果を示すグラフである。
図13】(a)は、実験例4において、腟内温度の日内変動を比較したグラフである。(b)は、実験例4において、外耳道温度の日内変動を比較したグラフである。
図14】実験例4で測定した、分娩前3日間における腟内温度と外耳道温度の前日同時刻との温度差の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一又は対応する符号を付し、重複する説明は省略する。なお、各図における寸法比は、説明のため誇張している部分があり、必ずしも実際の寸法比とは一致しない。
【0014】
[外耳道温度センサ]
1実施形態において、本発明は、動物の耳を貫通することが可能な雄軸部又はこの雄軸部が嵌合される雌軸部が配置されたプレートと、前記プレートに配置され、動物の外耳道に挿入される棒状部と、前記棒状部のうち、動物の外耳道の内部に配置される位置に設けられた温度センサと、を備え、前記棒状部は、その一部が前記雄軸部又は前記雌軸部に隣接するように、前記プレートに配置されている、外耳道温度センサを提供する。本実施形態の外耳道温度センサは、外耳道温度を測定中に動物の外耳道から抜けることがなく、経時的な外耳道温度の測定に適している。
【0015】
図1(a)~(c)は、本実施形態の外耳道温度センサの構造の一例を示す模式図である。図1(a)及び(c)は平面図であり、図1(b)は側面図である。
【0016】
図1(a)~(c)に示す外耳道温度センサ100は、動物の耳を貫通することが可能な雄軸部110が嵌合される雌軸部120が配置されたプレート130と、前記プレート130に配置され、動物の外耳道に挿入される棒状部140と、前記棒状部140のうち、動物の外耳道の内部に配置される位置に設けられた温度センサ150と、を備え、前記棒状部140は、その一部が前記雌軸部120に隣接するように、前記プレートに配置されている。図1(a)~(c)の例では、雄軸部110はプレート130とは別体となっており、プレート115に配置されて固定具100’を構成している。
【0017】
図1(a)~(c)の例では、外耳道温度センサ100を動物の耳に装着する場合、外耳道温度センサ100を固定具100’とセットで用いる。まず、棒状部140を動物の外耳道に挿入し、専用の器具を用いて雄軸部110に動物の耳を貫通させ、動物の耳を貫通した雄軸部100を雌軸部120に嵌合させる。この結果、外耳道温度センサ100が動物の耳に装着され、温度センサ150が動物の外耳道の内部に安定に配置される。
【0018】
棒状部140は、プレート130に接して配置されていてもよいし、棒状部140とプレート130とが一体に形成されていてもよい。
【0019】
棒状部140の一部が雌軸部120に隣接するとは、棒状部140の軸線の一部が雌軸部120の軸線の近傍に位置することを意味する。ここで、近傍とは、例えば雌軸部120に設けられた、雄軸部110が篏合される貫通孔の直径の5倍以下、例えば、4倍以下、例えば3倍以下、例えば2倍以下の距離であることを意味する。
【0020】
棒状部140のうち動物の外耳道の内部に配置される位置とは、例えば、棒状部140のうち、プレート130から離れた方の端部の近傍であることが好ましい。
【0021】
実施例において後述するように、発明者らは、棒状部140の一部を雌軸部120に隣接させることにより、外耳道温度センサが動物の外耳道から抜けにくくなることを見出した。
【0022】
(変形例)
図2(a)~(c)は、外耳道温度センサの変形例を示す模式図である。図2(a)及び(c)は平面図であり、図2(b)は側面図である。
【0023】
図2(a)~(c)に示す外耳道温度センサ200は、図1(a)~(c)に示す外耳道温度センサ100と比較して、プレート130と固定具100’のプレート115とが連結して一体になっている点、棒状部140が、プレート130とプレート115’との間に配置されている点が主に異なっている。外耳道温度センサ200も動物の外耳道から抜けることがなく、経時的な外耳道温度の測定に適している。
【0024】
図3(a)~(c)は、外耳道温度センサの別の変形例を示す模式図である。図3(a)及び(c)は平面図であり、図3(b)は側面図である。図3(a)~(c)に示す外耳道温度センサ300は、図1(a)~(c)に示す外耳道温度センサ100と比較して、雄軸部110と雌軸部120が入れ替わった形状をしている点が主に異なっている。外耳道温度センサ300も動物の外耳道から抜けることがなく、経時的な外耳道温度の測定に適している。
【0025】
図4(a)~(c)は、外耳道温度センサの別の変形例を示す模式図である。図4(a)及び(c)は平面図であり、図4(b)は側面図である。図4(a)~(c)に示す外耳道温度センサ400は、図2(a)~(c)に示す外耳道温度センサ200と比較して、雄軸部110と雌軸部120が入れ替わった形状をしている点が主に異なっている。外耳道温度センサ400も動物の外耳道から抜けることがなく、経時的な外耳道温度の測定に適している。
【0026】
外耳道温度センサ200を構成するプレート130、プレート115、プレート115’、棒状部140等の材質は、通常動物の耳標に用いられるものを用いることができる。より具体的には、例えば、熱可塑性ポリウレタン(TPU)樹脂、ポリエチレン樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0027】
温度センサ150は、外耳道温度を測定することができ、棒状部140に配置して外耳道に挿入することができるものであれば特に限定されない。温度センサ150は、測定した温度等の情報を無線で外部に送信する機能を有していることが好ましい。
【0028】
[動物の健康状態の変化の検出方法]
1実施形態において、本発明は、動物の外耳道温度を経時的に測定する工程を含み、前記外耳道温度の変化が、前記動物の健康状態の変化に対応する、前記動物の健康状態の変化の検出方法を提供する。
【0029】
実施例において後述するように、本実施形態の方法によれば、動物の健康状態の変化を簡便に検出することができる。動物としては、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタ等の家畜が挙げられ、特にウシが好ましい。例えば、子牛の外耳道温度が高いことは、子牛が病気に罹患している可能性を示す。
【0030】
本実施形態の方法において、外耳道温度の変化が外耳道温度の低下であり、動物の健康状態の変化が、動物の分娩時期が近いことであってもよい。実施例において後述するように、分娩が近い動物の外耳道温度の低下を検出することにより、動物の分娩時期を検出することができる。
【0031】
本実施形態の方法において、動物の外耳道温度の経時的な測定は、上述した外耳道温度センサにより行われてもよい。上述した外耳道温度センサは、外耳道温度を測定中に動物の外耳道から抜けることがなく、経時的な外耳道温度の測定に適している。
【実施例0032】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
[実験例1]
(外耳道温度の活用による子牛の健康管理効率化の可能性の検討)
子牛の外耳道温度と直腸温度との関連について検討し、子牛の健康管理を効率化するうえで外耳道温度が活用可能か検討した。
【0034】
調査期間は2019年5月~6月であった。供試牛は生後50日齢の交雑種子牛8頭であった。調査環境は次の通りであった。供試動物はカーフハッチにて個別に飼育し、代用乳を1日2回(午前8時及び午後3時30分)給与した。水と濃厚飼料は自由摂取とし、乾草は飽食とした。調査項目としては、温度センサ(製品名「おんどとりJr.」、T&D Corporation)を用いて、外耳道温度(10分間)、直腸温度(10分間)、牛舎環境温度を測定した。
【0035】
子牛の外耳道温度と直腸温度との関係を図5に示す。両者には、有意な正の相関が認められ(P<0.05)、直腸温度が高い場合には外耳道温度も高く推移することが明らかとなった。
【0036】
試験期間において、直腸温度が40.0℃以上で推移した子牛の外耳道温度を、直腸温度39.0℃以下の子牛の外耳道温度と比較した。その結果、図6に示すように、直腸温度が40.0℃以上で推移した子牛では、39.0℃以下の子牛と比較して外耳道温度が有意に高かった(P<0.05)。
【0037】
以上のことから、子牛において外耳道温度は直腸温度を反映することが明らかとなり、外耳道温度をモニタリングすることによって、発熱を検知できる可能性が示唆された。
【0038】
[実験例2]
(外耳道温度センサの作製)
実験例1において、子牛の健康管理(発熱検知)の指標として、外耳道温度活用の可能性が示唆されたことから、外耳道温度の連続モニタリングを行うための耳標型の外耳道温度センサを作製した。
【0039】
市販のBluetooth(登録商標)対応無線温度センサを、耳標(オールフレックス社製)に接着して、外耳道温度センサを作製した。外耳道温度センサの形状に関しては、実際に多くの子牛を供試し、耳標サイズ、向き、センサ強度やセンサ取り付け位置等、種々の試行錯誤を経て、最終的にセンサの脱落や測定温度のバラツキの少ない図7(a)に写真を示す形状とした。図7(a)の外耳道温度センサは、図1(a)~(c)に示す外耳道温度センサと同様の構造を有していた。
【0040】
図7(a)に示すように、外耳道に挿入する棒状部はシリコンチューブで作製した。子牛用の温度センサの棒状部の長さは6cmとし、母牛用の温度センサの棒状部の長さは10cmとした。また、棒状部の先端に温度センサを配置した。温度センサは、シリコンチューブとシリコンコーキング剤で保護した。
【0041】
図7(b)は、作製した別の構造の外耳道温度センサの一例を示す写真である。図7(b)に示す外耳道温度センサは、棒状部が雌軸部に隣接していない。
【0042】
図8(a)は、図7(a)に示す形状の外耳道温度センサを牛に装着した状態を示す写真である。また、図8(b)は、図7(b)に示す形状の外耳道温度センサを牛に装着した状態を示す写真である。
【0043】
図8(a)に示すように、図7(a)に示す形状の外耳道温度センサは、牛に装着した場合に外耳道から抜けることがなく、経時的な外耳道温度の測定に適していた。これに対し、図8(b)に示すように、図7(b)に示す形状の外耳道温度センサは、牛に装着した場合に外耳道から脱落しやすいことが明らかとなった。
【0044】
[実験例3]
(外耳道温度の連続モニタリングの検討)
実験例2で作製した、図7(a)に写真を示す外耳道温度センサを使用して、子牛の外耳道温度の連続モニタリングを試みた。調査期間は2019年11月及び2020年2月であった。供試牛として、生後50日齢の交雑種子牛8頭を使用した。
【0045】
調査環境は次の通りであった。供試動物はカーフハッチにて個別に飼育し、代用乳を1日2回(午前8時及び午後3時30分)給与した。水と濃厚飼料は自由摂取とし、乾草は飽食とした。
【0046】
外耳道温度センサは、図8(a)に示す写真と同様に供試動物の右耳の耳殻に装着した。外耳道温度を10分毎に経時的に測定した。また、牛舎環境温度も測定した。
【0047】
図9は、2019年11月に、子牛A~Dの4頭の子牛の外耳道温度と環境温度を経時的に測定した結果を示すグラフである。その結果、外耳道温度は朝8時頃に低くなり、日中に向かって高くなる明瞭な体温の慨日リズムが認められた。また、外耳道温度が極端に低くなっている子牛Cは、温度センサの挿入部位が浅いことが原因で温度センサの位置がずれていたことによるものであることが分かった。
【0048】
続いて、寒冷環境下における外耳道温度の推移を検討するため、最も気温が低くなる2月に、外耳道温度センサを用いた外耳道温度の連続モニタリングを実施した。図10は、2020年2月に、2週間にわたって子牛A~Dの4頭の子牛の外耳道温度と環境温度を経時的に測定した結果を示すグラフである。牛舎環境温度は-2.2~11.9℃であった。牛舎内温度が著しく低かったため、子牛用の保温ジャケットを着用させた状態で試験を実施した。
【0049】
その結果、4頭の子牛の外耳道温度は、装着部位の違いによってばらつきはあるものの、環境温度とは独立した明瞭な概日リズムが観察された。子牛Dでは、試験の途中で、温度センサの脱落による温度の低下が認められた。試験期間中において発熱を呈した子牛は認められなかった。
【0050】
外耳道温度への環境温度の影響も懸念されたが、試験期間中においては、外耳道温度と環境温度との関連性は認められなかった。この結果は、外耳道温度センサにより、子牛の深部体温を推測できることを示す。
【0051】
以上の結果は、外耳道温度センサを用いて、外耳道温度の連続モニタリングによる健康管理を行うことができることを示す。
【0052】
[実験例4]
(外耳道温度モニタリングによる分娩予測の検討)
実験例2で作製した、図7(a)に写真を示すものと同様の外耳道温度センサを使用した外耳道温度モニタリングによって、分娩予測が可能か否かを検討した。供試牛として、実証農場で2019年11月から2020年2月までに分娩した黒毛和種繁殖雌牛12頭を用いた。
【0053】
外耳道温度センサは、供試動物の右耳の耳殻に装着した。図11は、外耳道温度センサを繁殖雌牛に装着した状態を示す写真である。
【0054】
分娩3日前から分娩当日までの外耳道温度を5分間隔で測定した。また、腟内留置型温度センサ(商品名「牛温恵」、株式会社リモート製)を用いて腟内温度を測定し、外耳道温度推移と比較した。
【0055】
図12は、腟内温度と外耳道温度を経時的に測定した結果を示すグラフである。その結果、外耳道温度は腟内温度よりも1℃程度低いものの、膣内温度とほぼ同様の推移を示すことが明らかとなった。また、分娩前約24時間においては、外耳道温度及び腟内温度のいずれも、通常よりも低い傾向が認められた。
【0056】
図13(a)及び(b)は、分娩前3日間における、腟内温度と外耳道温度の日内変動を比較したグラフである。図13(a)は腟内温度の結果を示し、図13(b)は外耳道温度の結果を示す。図13(a)及び(b)中、「-2日」は分娩前2日の結果であることを示し、「-1日」は分娩前1日の結果であることを示し、「0日」は分娩当日の結果であることを示す。
【0057】
その結果、腟内温度、外耳道温度ともに、分娩前2日及び分娩前1日には明瞭な概日リズムが認められた。これに対し、分娩当日には異なる変動となり、通常よりも温度が低い傾向が認められた。
【0058】
図14は、分娩前3日間における腟内温度と外耳道温度の前日同時刻との温度差の推移を示すグラフである。その結果、分娩前48時間~27時間では、腟内温度も外耳道温度も大きな温度差は認められなかった。これに対し、分娩前約26時間から、腟内温度、外耳道温度ともに温度差が大きくなる同様の推移を示した。なお、外耳道温度については、分娩直前に温度差が小さくなったが、これは、分娩直前の行動量の増加に伴うものではないかと考えられた。
【0059】
以上の結果から、外耳道温度センサで分娩予定牛の外耳道温度を測定することにより、分娩予測が可能であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明により、動物の健康状態の変化をより簡便に検出する技術を提供することができる。
【符号の説明】
【0061】
100…外耳道温度センサ、100’…固定具、110…雄軸部、120…雌軸部、115,130…プレート、140…棒状部、150…温度センサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14