(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022034967
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】検出装置、検出方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0245 20060101AFI20220225BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20220225BHJP
A61B 5/16 20060101ALI20220225BHJP
A61B 5/02 20060101ALI20220225BHJP
A61B 5/352 20210101ALI20220225BHJP
【FI】
A61B5/0245 100D
A61B5/11 200
A61B5/16 130
A61B5/02 310F
A61B5/04 312R
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020138942
(22)【出願日】2020-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000108085
【氏名又は名称】セコム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(71)【出願人】
【識別番号】509111744
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100180806
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100207778
【弁理士】
【氏名又は名称】阿形 直起
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 孝之
(72)【発明者】
【氏名】石川 譲治
(72)【発明者】
【氏名】原田 和昌
(72)【発明者】
【氏名】絹川 弘一郎
(72)【発明者】
【氏名】波多野 将
【テーマコード(参考)】
4C017
4C038
4C127
【Fターム(参考)】
4C017AA09
4C017AA19
4C017AB04
4C017AC16
4C017BB12
4C017BC11
4C017BC23
4C017BD06
4C017FF05
4C017FF17
4C038PP05
4C038PQ06
4C038VA04
4C038VA15
4C038VB32
4C038VC20
4C127AA02
4C127BB03
4C127GG02
4C127GG05
4C127GG13
4C127GG16
(57)【要約】
【課題】心不全の再発の兆候となる心拍異常を適切に検出する。
【解決手段】検出装置は、疾患が治癒した患者の脈波情報と、脈波情報の計測日時とを取得する取得手段と、疾患が治癒した治癒日時を取得して、治癒日時の近傍に安定期間を設定するとともに、安定期間の後に対象期間を設定する設定手段と、計測日時が安定期間に含まれる脈波情報に基づいて第1の特徴量を算出する第1算出手段と、計測日時が対象期間に含まれる脈波情報に基づいて第2の特徴量を算出する第2算出手段と、第1の特徴量と第2の特徴量との間の距離に基づいて患者の異常を検出する検出手段と、検出の結果を出力する出力手段と、を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疾患が治癒した患者の脈波情報と、前記脈波情報の計測日時とを取得する取得手段と、
前記疾患が治癒した治癒日時を取得して、前記治癒日時の近傍に安定期間を設定するとともに、前記安定期間の後に対象期間を設定する設定手段と、
前記計測日時が前記安定期間に含まれる脈波情報に基づいて第1の特徴量を算出する第1算出手段と、
前記計測日時が前記対象期間に含まれる脈波情報に基づいて第2の特徴量を算出する第2算出手段と、
前記第1の特徴量と前記第2の特徴量との間の距離に基づいて前記患者の異常を検出する検出手段と、
前記検出の結果を出力する出力手段と、
を有することを特徴とする検出装置。
【請求項2】
前記設定手段は、複数の前記安定期間を設定し、
前記第1算出手段は、前記複数の安定期間のそれぞれについて前記第1の特徴量を算出し、
前記検出手段は、前記複数の第1の特徴量からなる特徴量群と前記第2の特徴量との間の距離に基づいて前記患者の異常を検出する、
請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記設定手段は、複数の前記対象期間を設定し、
前記第2算出手段は、前記複数の対象期間のそれぞれについて前記第2の特徴量を算出し、
前記検出手段は、前記第2の特徴量のうち、前記第1の特徴量との間の距離が所定値以上である第2の特徴量の数に基づいて前記患者の異常を検出する、
請求項1又は2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記安定期間及び前記複数の対象期間における前記患者の運動状態を取得する運動状態取得手段と、
前記複数の対象期間のうちから、前記安定期間と類似する運動状態が取得された対象期間を抽出する抽出手段と、をさらに有し、
前記検出手段は、前記抽出した対象期間について算出された第2の特徴量のうち、前記第1の特徴量との距離が所定値以上である第2の特徴量の数に基づいて前記患者の異常を検出する、
請求項3に記載の検出装置。
【請求項5】
前記患者が睡眠中であるか否かを示す睡眠状態を取得する睡眠状態取得手段をさらに有し、
前記設定手段は、前記安定期間及び前記対象期間を、前記患者が睡眠中である時間に含まれるように設定する、
請求項1-4の何れか一項に記載の検出装置。
【請求項6】
前記取得手段は、前記患者の心電波形を前記脈波情報として取得し、
前記設定手段は、前記患者の退院日時を前記治癒日時として取得し、
前記第1算出手段及び前記第2算出手段は、前記心電波形のRR間隔をローレンツプロットして得られる2次元データの分布のパラメータを、前記第1の特徴量及び前記第2の特徴量として算出する、
請求項1-5の何れか一項に記載の検出装置。
【請求項7】
コンピュータによって実行される検出方法であって、
疾患が治癒した患者の脈波情報と、前記脈波情報の計測日時とを取得し、
前記疾患が治癒した治癒日時を取得して、前記治癒日時の近傍に安定期間を設定するとともに、前記安定期間の後に対象期間を設定し、
前記計測日時が前記安定期間に含まれる脈波情報に基づいて第1の特徴量を算出し、
前記計測日時が前記対象期間に含まれる脈波情報に基づいて第2の特徴量を算出し、
前記第1の特徴量と前記第2の特徴量との間の距離に基づいて前記患者の異常を検出し、
前記検出の結果を出力する、
ことを含むことを特徴とする検出方法。
【請求項8】
疾患が治癒した患者の脈波情報と、前記脈波情報の計測日時とを取得し、
前記疾患が治癒した治癒日時を取得して、前記治癒日時の近傍に安定期間を設定するとともに、前記安定期間の後に対象期間を設定し、
前記計測日時が前記安定期間に含まれる脈波情報に基づいて第1の特徴量を算出し、
前記計測日時が前記対象期間に含まれる脈波情報に基づいて第2の特徴量を算出し、
前記第1の特徴量と前記第2の特徴量との間の距離に基づいて前記患者の異常を検出し、
前記検出の結果を出力する、
ことをコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出装置、検出方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、心電情報や脈波情報に基づいて心不全等の疾患の兆候を検出することが検討されている。例えば、特許文献1には、脈拍間隔の変動の大きさを示す分布情報に基づいて心房細動の発生を検出する手法が記載されている。特許文献1に記載されたような手法により、患者が症状を自覚して自発的に受診することを待たずに心不全等の疾患の兆候である心拍異常を早期に検出して効果的な治療をすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような検出手法において、心不全等の疾患の再発の兆候を適切に検出することが求められている。本発明は、上述の課題を解決するべくなされたものであり、心不全の再発の兆候となる心拍異常を適切に検出する検出装置、検出方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る検出装置は、疾患が治癒した患者の脈波情報と、脈波情報の計測日時とを取得する取得手段と、疾患が治癒した治癒日時を取得して、治癒日時の近傍に安定期間を設定するとともに、安定期間の後に対象期間を設定する設定手段と、計測日時が安定期間に含まれる脈波情報に基づいて第1の特徴量を算出する第1算出手段と、計測日時が対象期間に含まれる脈波情報に基づいて第2の特徴量を算出する第2算出手段と、第1の特徴量と第2の特徴量との間の距離に基づいて患者の異常を検出する検出手段と、検出の結果を出力する出力手段と、を有することを特徴とする。
【0006】
また、本発明に係る検出装置において、設定手段は、複数の安定期間を設定し、第1算出手段は、複数の安定期間のそれぞれについて第1の特徴量を算出し、検出手段は、複数の第1の特徴量からなる特徴量群と第2の特徴量との間の距離に基づいて患者の異常を検出する、ことが好ましい。
【0007】
また、本発明に係る検出装置において、設定手段は、複数の対象期間を設定し、第2算出手段は、複数の対象期間のそれぞれについて第2の特徴量を算出し、検出手段は、第2の特徴量のうち、第1の特徴量との間の距離が所定値以上である第2の特徴量の数に基づいて患者の異常を検出する、ことが好ましい。
【0008】
また、本発明に係る検出装置は、安定期間及び複数の対象期間における患者の運動状態を取得する運動状態取得手段と、複数の対象期間のうちから、安定期間と類似する運動状態が取得された対象期間を抽出する抽出手段と、をさらに有し、検出手段は、抽出した対象期間について算出された第2の特徴量のうち、第1の特徴量との距離が所定値以上である第2の特徴量の数に基づいて患者の異常を検出する、ことが好ましい。
【0009】
また、本発明に係る検出装置は、患者が睡眠中であるか否かを示す睡眠状態を取得する睡眠状態取得手段をさらに有し、設定手段は、安定期間及び対象期間を、患者が睡眠中である時間に含まれるように設定する、ことが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る検出装置において、取得手段は、患者の心電波形を脈波情報として取得し、設定手段は、患者の退院日時を治癒日時として取得し、第1算出手段及び第2算出手段は、心電波形のRR間隔をローレンツプロットして得られる2次元データの分布のパラメータを、第1の特徴量及び第2の特徴量として算出する、ことが好ましい。
【0011】
本発明に係る検出方法は、コンピュータによって実行される検出方法であって、疾患が治癒した患者の脈波情報と、脈波情報の計測日時とを取得し、疾患が治癒した治癒日時を取得して、治癒日時の近傍に安定期間を設定するとともに、安定期間の後に対象期間を設定し、計測日時が安定期間に含まれる脈波情報に基づいて第1の特徴量を算出し、計測日時が対象期間に含まれる脈波情報に基づいて第2の特徴量を算出し、第1の特徴量と第2の特徴量との間の距離に基づいて患者の異常を検出する、ことを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明に係るプログラムは、疾患が治癒した患者の脈波情報と、脈波情報の計測日時とを取得し、疾患が治癒した治癒日時を取得して、治癒日時の近傍に安定期間を設定するとともに、安定期間の後に対象期間を設定し、計測日時が安定期間に含まれる脈波情報に基づいて第1の特徴量を算出し、計測日時が対象期間に含まれる脈波情報に基づいて第2の特徴量を算出し、第1の特徴量と第2の特徴量との間の距離に基づいて患者の異常を検出する、ことをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る検出装置、検出方法及びプログラムは、心不全の再発の兆候となる心拍異常を適切に検出することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】検出システム1の概略構成の一例を示す図である。
【
図2】検出装置2の概略構成の一例を示す図である。
【
図3】心電波形テーブル211のデータ構造の一例を示す図である。
【
図4】運動状態テーブル212のデータ構造の一例を示す図である。
【
図5】RR間隔テーブル213のデータ構造の一例を示す図である。
【
図6】特徴量テーブル214のデータ構造の一例を示す図である。
【
図7】検出処理の流れの一例を示すフロー図である。
【
図8】特徴量の算出について説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。本発明の技術的範囲はこれらの実施形態には限定されず、特許請求の範囲に記載された発明及びその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0016】
図1は、本発明に係る検出システム1の概略構成の一例を示す図である。検出システム1は、例えば、心不全等の循環器系疾患が治癒した患者についての、疾患の再発の兆候となる心拍異常を検出するために用いられる。検出システム1は、検出装置2、心電計3及び活動量計4を有する。検出装置2、心電計3及び活動量計4は、ネットワーク5を介して相互に通信可能に接続される。
【0017】
心電計3は、患者の胸部等に装着され、患者の心電波形を計測する。心電計3は、数時間以上にわたる計測が可能なホルター型心電計であることが好ましいが、他の任意の心電計であってもよい。心電計3は通信機能を有し、ネットワーク5を介して、患者の心電波形を示す時系列データを検出装置2に送信する。なお、心電波形は脈波情報の一例である。
【0018】
活動量計4は、患者の肢体等に装着され、患者の運動状態及び睡眠状態を計測する。運動状態は、各計測時刻における患者の体動の大きさを示すデータであり、睡眠状態は、各計測時刻において患者が睡眠中であるか否かを示すデータである。活動量計4は、後述するように患者の運動状態及び睡眠状態を計測する。活動量計4は通信機能を有し、ネットワーク5を介して、患者の運動状態及び睡眠状態を示すデータを検出装置2に送信する。
【0019】
図2は、検出装置2の概略構成の一例を示す図である。検出装置2は、例えばPC(Personal Computer)、サーバ、携帯電話、多機能携帯電話(スマートフォン)、タブレット端末等の情報処理装置である。検出装置2は、心電計3が計測した心電波形に基づいて特徴量を算出し、算出した特徴量に基づいて患者の異常を検出する。そのために、検出装置2は、記憶部21、通信部22及び処理部23を有する。
【0020】
記憶部21は、データ及びプログラムを記憶するための構成であり、例えば半導体メモリを備える。記憶部21は、処理部23による処理に用いられるオペレーティングシステムプログラム、ドライバプログラム、アプリケーションプログラム、データ等を記憶する。プログラムは、CD(Compact Disc)-ROM(Read Only Memory)等のコンピュータ読み取り可能且つ非一時的な可搬型記憶媒体から、セットアッププログラム等を用いて記憶部21にインストールされる。
【0021】
記憶部21は、心電波形テーブル211、運動状態テーブル212、RR間隔テーブル213及び特徴量テーブル214をデータとして記憶する。
【0022】
通信部22は、検出装置2をインターネット又はイントラネット等のネットワークを介して他の装置と通信可能にするための構成であり、例えば通信インタフェース回路を備える。通信部22が備える通信インタフェース回路は、例えば有線LAN(Local Area Network)又は無線LAN等の通信インタフェース回路である。通信部22は、処理部23から供給されたデータを他の装置に送信するとともに、他の装置から受信したデータを処理部23に供給する。
【0023】
処理部23は、検出装置2の動作を統括的に制御する構成であり、一又は複数個のプロセッサ及びその周辺回路を備える。処理部23は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、LSI(Large Scale Integration)又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)等を備える。処理部23は、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等を備えてもよい。処理部23は、記憶部21に記憶されているプログラムに基づいて検出装置2の処理が適切に実行されるように検出装置2の各構成の動作を制御するとともに、処理を実行する。
【0024】
処理部23は、第1取得手段231、第2取得手段232、設定手段233、抽出手段234、第1算出手段235、第2算出手段236、検出手段237及び出力手段238を機能ブロックとして有する。これらの機能ブロックは、処理部23が実行するプログラムによって実現される機能モジュールである。これらの機能ブロックは、ファームウェアとして検出装置2に実装されることにより実現されてもよい。なお、第2取得手段は、運動状態取得手段及び睡眠状態取得手段の一例である。
【0025】
図3は、記憶部21に記憶される心電波形テーブル211のデータ構造の一例を示す図である。心電波形テーブル211は、心電波形及びその計測日時を相互に関連付けて記憶する。心電波形は心臓の活動を示す時系列データである。
図3に示す例では、心電波形は、心臓の活動に伴って患者の身体に装着された心電計3の電極に生じた電位の時間変化を示すデータである。
【0026】
心電計3は、各計測日について、あらかじめ定められた時間帯(例えば、22時~翌朝5時)にわたって患者の心電波形を計測することにより心電波形テーブル211のデータを生成する。検出装置2は、通信部22を介してあらかじめ心電計3から心電波形テーブル211のデータを受信し、記憶部21に記憶する。
【0027】
図4は、記憶部21に記憶される運動状態テーブル212のデータ構造の一例を示す図である。運動状態テーブル212は、運動状態、睡眠状態及びその計測日時を相互に関連付けて記憶する。運動状態は、各計測時刻における患者の体動の大きさを示す時系列データである。睡眠状態は、各計測時刻において患者が睡眠中であるか否かを示す時系列データである。
【0028】
活動量計4は、各計測日について、あらかじめ定められた時間帯にわたって患者の運動状態及び睡眠状態を計測することにより運動状態テーブル212のデータを生成する。活動量計4は、加速度センサを備え、活動量計4が装着された患者の肢体の加速度を取得することにより患者の運動状態及び睡眠状態を計測する。
【0029】
例えば、計測時刻の前後において加速度センサが第1閾値以上の加速度を検知した場合には、活動量計4は、その計測時刻において患者が睡眠中でなく且つ体動が大きいことを示すデータを生成する。計測時刻の前後において加速度センサが第1閾値未満且つ第2閾値以上の加速度を検知した場合には、活動量計4は、その計測時刻において患者が睡眠中でなく且つ体動が小さいことを示すデータを生成する。計測時刻の前後において加速度センサが第2閾値未満の加速度のみを検知した場合には、活動量計4は、その計測時刻において患者が睡眠中であることを示すデータを生成する。
【0030】
なお、活動量計4は、加速度センサに加えて体温や脈拍の測定センサを備え、患者の体温や脈拍に基づいて運動状態及び睡眠状態のデータを生成してもよい。また、活動量計4は、運動状態として、検知された加速度の大きさに応じた数値データを生成してもよく、睡眠状態として、推定される睡眠の深さに応じた数値データを生成してもよい。
【0031】
図5は、記憶部21に記憶されるRR間隔テーブル213のデータ構造の一例を示す図である。RR間隔テーブル213は、RR間隔及びその計測日時を相互に関連付けて記憶する。RR間隔は、心電波形において隣接するR波の時間間隔である。
図5に示す例では、計測時間が5分間ごとに区分され、5分間におけるRR間隔の平均値が記憶されている。RR間隔テーブル213のデータは、後述する検出処理において、心電波形テーブル211に基づいて検出装置2によって生成される。
【0032】
図6は、記憶部21に記憶される特徴量テーブル214のデータ構造の一例を示す図である。特徴量テーブル214は、期間及び特徴量を相互に関連付けて記憶する。特徴量テーブル214のデータは、後述する検出処理において、RR間隔テーブル213に基づいて検出装置2によって生成される。
図6に示す例では、特徴量は、計測日ごとに算出されている。特徴量の内容及び算出方法については後述する。
【0033】
図7は、検出装置2によって実行される検出処理の流れの一例を示すフロー図である。検出処理は、上述した各テーブル及び患者の治癒日時があらかじめ記憶部21に記憶された状態で、患者の異常を検出する際に実行される。検出処理は、記憶部21によって実行されるプログラムに基づいて、処理部23が検出装置2の各構成要素と協働することにより実現される。
【0034】
まず、第1取得手段231は、疾患が治癒した患者の心電波形と、心電波形の計測日時とを取得する(S11)。第1取得手段231は、患者の心電波形及びその計測日時として、心電波形テーブル211を記憶部21から取得する。
【0035】
続いて、第2取得手段232は、患者の運動状態及び睡眠状態を取得する(S12)。第2取得手段232は、患者の運動状態及び睡眠状態として、運動状態テーブル212を記憶部21から取得する。
【0036】
続いて、設定手段233は、患者の疾患が治癒した治癒日時を取得して、治癒日時の近傍に安定期間を設定するとともに、安定期間の後に対象期間を設定する(S13)。
【0037】
設定手段233は、治癒日時として、患者の退院日時を記憶部21から取得する。設定手段233は、退院日時の直後に安定期間を設定する。例えば、設定手段233は、退院日時の翌日から始まる所定期間(例えば、14日間)の各日について、運動状態テーブル212に記憶された睡眠状態に基づいて、患者が睡眠中である期間を安定期間として設定する。
【0038】
例えば、ある計測日の所定時間(例えば、22時~翌5時)の全部にわたって患者が睡眠中である場合、設定手段233は、その所定時間をその計測日についての安定期間として設定する。所定時間のうちの一部の時間(例えば、24時~翌5時)にわたって患者が睡眠中であった場合、設定手段233は、その一部の時間をその計測日についての安定期間として設定する。所定時間の全部にわたって患者が睡眠中でなかった場合、設定手段233は、その計測日についての安定期間を設定しない。
【0039】
なお、安定期間は、患者の容体に大きな変化がないと見込まれる期間であれば、上述したような、退院日時の翌日から始まる期間に限られない。例えば、設定手段233は、安定期間として治癒日時の三日後等、治癒日時と離隔した日から始まる期間を設定してもよい。また、複数の安定期間は相互に離隔した日ごとに設定されてもよい。例えば、設定手段233は、安定期間を一日おきに設定してもよい。
【0040】
また、治癒日時は、上述したような退院日時に限られず、医師によって心不全が治癒したと診断された日時でもよい。この場合、設定手段233は、治癒日時の直前の期間(例えば、治癒日時の前日)を含む期間を安定期間として設定してもよい。
【0041】
設定手段233は、設定した安定期間の後に、対象期間を設定する。例えば、設定手段233は、安定期間の最終日の翌日から始まる所定期間(例えば、14日間)の各日について、運動状態テーブル212に記憶された睡眠状態に基づいて、患者が睡眠中である期間を対象期間として設定する。対象期間は、安定期間と同様の時間帯(例えば、22時~翌5時)に含まれるように設定されることが好ましい。
【0042】
なお、設定手段233は、対象期間として、安定期間と離隔した日(例えば、安定期間の最終日の一か月後)から始まる期間を設定してもよい。また、複数の対象期間は相互に離隔した日ごとに設定されてもよい。
【0043】
続いて、抽出手段234は、運動状態テーブル212を参照し、複数の対象期間のうちから、安定期間と類似する運動状態が取得された対象期間を抽出する(S14)。
図4に示す例では、運動状態として患者の体動が大きいことを示す情報及び患者の体動が小さいことを示す情報の何れかが記憶されている。この場合、抽出手段234は、ある対象期間において患者の体動が大きいと示された時間の割合と、安定期間において患者の体動が大きいと示された時間の割合との差が所定値以下である場合に、その対象期間を安定期間と類似する運動状態が取得された対象期間として抽出する。
【0044】
続いて、第1算出手段235は、計測日時が安定期間に含まれる心電波形に基づいて第1の特徴量を算出する(S15)。第1算出手段235は、各安定期間について、心電波形テーブル211から、計測日時が各安定期間に含まれる心電波形を取得する。第1算出手段235は、取得した心電波形におけるR波の発生時刻を特定し、RR間隔を算出する。第1算出手段235は、各安定期間を所定時間(例えば、5分)ごとの単位期間に分割し、各単位期間に発生したR波のRR間隔の平均値を、その単位期間のRR間隔として算出する。第1算出手段235は、算出した各単位期間のRR間隔をRR間隔テーブル213として記憶部21に記憶する。
【0045】
第1算出手段235は、算出したRR間隔をローレンツプロットすることにより得られる2次元データの分布のパラメータを第1の特徴量として算出する。
【0046】
図7は、特徴量の算出について説明するための模式図である。各安定期間のn番目の単位期間におけるRR間隔の平均値をR(n)とし、n+1番目の単位期間におけるRR間隔の平均値をR(n+1)とする。第1算出手段235は、XY平面上において、各単位期間について、(R(n),R(n+1))を座標とする点をプロットする。これにより、各安定期間について、
図7に示すような、y=xの式で表される直線Lに概ね沿って位置する2次元データの分布が得られる。
【0047】
第1算出手段235は、得られた2次元データの平均、直線Lに沿った方向の分散σ+及び直線Lに直交する方向の分散σ-をそれぞれ算出する。なお、分散σ+及びσ-は、原点を中心として2次元データを-45度回転した場合におけるx座標及びy座標の分散にそれぞれ相当する。第1算出手段235は、2次元データの分布のパラメータである、2次元データの平均値及びπ×(σ+)×(σ-)の値をそれぞれ、各安定期間における第1の特徴量として算出する。なお、平均値は、得られた2次元データの分布の形状を楕円Oとみなした場合の楕円Oの中心に相当し、π・σ+・σ-は、楕円Oの面積に相当するから、以降では、これらの特徴量をそれぞれ中心及び面積と称することがある。
【0048】
第1算出手段235は、各安定期間について算出した第1の特徴量を各安定期間の計測日と関連付けて特徴量テーブル214に記憶する。なお、
図7に示したように楕円の中心は概ねy=xの式で表される直線上に位置するから、第1算出手段235は、楕円の中心として、x座標又はy座標の何れか一方のみを記憶するようにしてもよい。
【0049】
第2算出手段236は、第1算出手段235と同様にして、抽出された各対象期間に計測日時が含まれる心電波形に基づいて第2の特徴量を算出する(S16)。第2算出手段236は、算出した第2の特徴量を各対象期間の計測日と関連付けて特徴量テーブル214に記憶する。
【0050】
続いて、検出手段237は、第1の特徴量と第2の特徴量との間の距離に基づいて患者の異常を検出する(S17)。例えば、検出手段237は、複数の安定期間のそれぞれについて算出された複数の第1の特徴量からなる特徴量群と、抽出手段234によって抽出された各対象期間について算出された第2の特徴量との間の距離をそれぞれ算出する。検出手段237は、算出した各距離が所定の検出水準に基づいて定められる閾値以上であるか否かを判定する。
【0051】
特徴量群と第2の特徴量との距離は、例えば、次の数式で表されるマハラノビス距離d(x)である。
【数1】
【0052】
ただし、xは第2の特徴量を示す列ベクトルであり、上述した例では特定した対象期間について算出された楕円の中心及び面積を要素とする2変数の列ベクトルである。また、μは第1の特徴量の平均を示す列ベクトルであり、上述した例では複数の安定期間のそれぞれについて算出された楕円の中心の平均値及び面積の平均値を要素とする2変数の列ベクトルである。また、Σは第1の特徴量の分散共分散行列であり、上述した例では複数の安定期間のそれぞれについて算出された楕円の中心及び面積の分散並びに中心と面積との共分散を要素とする2行2列の行列である。また、上付きのTは転置を、上付きの-1は逆行列をそれぞれ示す。
【0053】
閾値は、以下のとおり算出される。すなわち、特徴量が多次元正規分布(上述した例では2次元正規分布)に従うと仮定すると、マハラノビス距離の二乗の分布はカイ二乗分布により近似される。したがって、あらかじめ設定された検出水準α(例えば、5パーセントの異常を検出する場合は、0.95)の異常を検出するための閾値tは次の数式に基づいて算出される。ただし、χ
2
M(u)は自由度Mのカイ二乗分布の確率密度関数である。
【数2】
【0054】
検出手段237は、各対象期間についての第2の特徴量のうち、距離が閾値以上である第2の特徴量の数に基づいて患者の異常を検出する。例えば、検出手段237は、距離が閾値以上である第2の特徴量の数が所定数以上である場合に、患者の異常を検出する。所定数は、例えば対象期間7日あたり2個といったように、対象期間の数(すなわち、第2の特徴量の全数)に応じて決定される。所定数は、対象期間の数にかかわらず決定されてもよい。
【0055】
続いて、出力手段238は、検出手段237による検出の結果を出力し(S18)、検出処理を終了する。例えば、出力手段238は、通信部22を介して、異常が検出されたか否かを示す情報を他の装置に送信することにより、検出の結果を出力する。
【0056】
以上説明したように、検出装置2は、患者の疾患が治癒した治癒日時の近傍に安定期間を設定するとともに、安定期間の後に対象期間を設定する。また、検出装置2は、計測日時が安定期間に含まれる脈波情報に基づく第1の特徴量と、計測日時が対象期間に含まれる脈波情報に基づく第2の特徴量との間の距離に基づいて患者の異常を検出する。これにより、検出装置2は、心不全の再発の兆候となる心拍異常を適切に検出することを可能とする。
【0057】
すなわち、一般に正常時の心拍は患者ごとに異なる。検出装置2は、各患者の心拍を心不全が再発していない蓋然性が高い、治癒日時の近傍の安定期間におけるその患者の心拍と比較することにより心拍異常を検出する。これにより、検出装置2は、正常時の心拍が異なる複数の患者に対しても、適切に心拍異常を検出することができる。
【0058】
また、検出装置2は、複数の安定期間を設定し、複数の安定期間のそれぞれについて算出された複数の第1の特徴量からなる特徴量群と第2の特徴量との間の距離に基づいて患者の異常を検出する。これにより、検出装置2は、安定期間における特徴量の分布を考慮して、より適切に心拍異常を検出することを可能とする。
【0059】
また、検出装置2は、複数の対象期間を設定し、第2の特徴量のうち、第1の特徴量との間の距離が所定値以上である第2の特徴量の数に基づいて患者の異常を検出する。これにより、検出装置2は、心拍異常を誤検出する可能性を低減しながら、適切に心拍異常を検出することを可能とする。
【0060】
また、検出装置2は、複数の対象期間のうちから、安定期間と類似する運動状態が取得された対象期間を抽出し、抽出した対象期間について算出された第2の特徴量に基づいて患者の異常を検出する。これにより、検出装置2は、安定期間と類似した条件下で計測された脈波情報のみを用いて、より適切に心拍異常を検出することを可能とする。
【0061】
また、検出装置2は、安定期間及び対象期間を、患者が睡眠中である時間に含まれるように設定する。これにより、検出装置2は、患者の動作に影響されている可能性が低い脈波情報のみを用いて、より適切に心拍異常を検出することを可能とする。
【0062】
また、検出装置2は、患者の退院日時の直後に安定期間を設定する。患者が入院していた場合、入院中と退院後とでは生活習慣が大きく異なる。したがって、入院中に計測された脈波情報を用いた場合、生活習慣の変化に伴う心拍の変動により、異常が誤検出される可能性がある。検出装置2は、退院日時の直後に安定期間を設定することにより、生活習慣の変化に伴う影響を受けることなく、適切に心拍異常を検出することを可能とする。
【0063】
また、検出装置2は、RR間隔をローレンツプロットして得られる2次元データの分布のパラメータを、第1の特徴量及び第2の特徴量として算出する。これにより、検出装置2は、RR間隔の時間変化に関する特徴に基づいて、心拍異常を適切に検出することを可能とする。特に、上述した例において検出装置2が特徴量として用いた楕円の中心はRR間隔の計測日単位の変化を表し、面積の算出に用いられるσ-及びσ+はRR間隔の5分間単位のばらつきを表す。したがって、検出装置2は、楕円の中心と面積を用いることで、多様な時間単位における心拍の変化に基づいて適切に心拍異常を検出することを可能とする。
【0064】
なお、検出装置2は、検出処理のS12において運動状態を取得しなくてもよい。この場合、検出装置2は、S14を実行しない。また、検出装置2は、S12において睡眠状態を取得しなくてもよい。この場合、検出装置2は、S13において患者が睡眠中であるか否かにかかわらず所定時間に安定期間及び対象期間を設定してもよい。
【0065】
上述した説明では、第1算出手段235及び第2算出手段236は、RR間隔をローレンツプロットして得られた楕円の中心及び面積を特徴量として算出するものとしたが、このような例に限られない。例えば、第1算出手段235及び第2算出手段236は、RR間隔の平均値及び標準偏差(又は分散値)を特徴量として用いてもよい。また、第1算出手段235及び第2算出手段236は、RR間隔の中央値及び四分位範囲を特徴量として用いてもよい。また、中央値に代えて最頻値が用いられてもよく、四分位範囲に代えてレンジ(最大値と最小値との差)が用いられてもよい。上述した特徴量の例は何れもRR間隔の代表的な値とばらつきの指標との組合せであるが、RR間隔の分布の尖度や歪度等の指標がさらに特徴量として用いられてもよい。
【0066】
上述した説明では、第1算出手段235及び第2算出手段236は、RR間隔の5分間平均を用いて特徴量を算出するものとしたが、このような例に限られない。第1算出手段235及び第2算出手段236は、任意の期間におけるRR間隔の平均を用いてもよい。第1算出手段235及び第2算出手段236は、平均をとることなく、計測されたRR間隔をそのまま用いてもよい。
【0067】
上述した説明では、検出手段237は、マハラノビス距離に基づいて異常を検出するものとしたが、このような例に限られない。検出手段237は、第1の特徴量と第2の特徴量との間のユークリッド距離又はマンハッタン距離等に基づいて異常を検出してもよい。例えば、検出手段237は、k-近傍法、局所外れ因子法又はOCSVM(One-Class Support Vector Machine)等を用いて、ユークリッド距離又はマンハッタン距離等に基づいて異常を検出してもよい。また、検出手段237は、第1の特徴量と第2の特徴量との間のユークリッド距離等が閾値以上であるか否かに基づいて異常を検出してもよい。
【0068】
上述した説明では、設定手段233は複数の安定期間を設定するものとしたが、このような例に限られず、設定手段233は一つの安定期間のみを設定するものとしてもよい。また、設定手段233は一つの対象期間のみを設定するものとしてもよい。
【0069】
上述した説明では、第1算出手段235及び第2算出手段236は、心電波形に基づいて特徴量を算出するものとしたが、このような例に限られない。第1算出手段235及び第2算出手段236は、光電脈波計等を用いて計測された脈波信号に基づいて特徴量を算出してもよい。
【0070】
当業者は、本発明の精神及び範囲から外れることなく、様々な変更、置換及び修正をこれに加えることが可能であることを理解されたい。例えば、上述した各部の処理は、本発明の範囲において、適宜に異なる順序で実行されてもよい。また、上述した実施形態及び変形例は、本発明の範囲において、適宜に組み合わせて実施されてもよい。
【符号の説明】
【0071】
2 検出装置
231 第1取得手段
232 第2取得手段
233 設定手段
234 抽出手段
235 第1算出手段
236 第2算出手段
237 検出手段
238 出力手段