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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022034998
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】負極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20220225BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20220225BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20220225BHJP
   C25B 11/04 20210101ALI20220225BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20220225BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01G11/06
H01G11/30
C25B11/06 Z
H01G11/86
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020138993
(22)【出願日】2020-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】原田 正則
(72)【発明者】
【氏名】江口 達哉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一裕
(72)【発明者】
【氏名】大瀧 光俊
(72)【発明者】
【氏名】吉田 淳
【テーマコード(参考)】
4K011
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
4K011AA69
4K011DA11
5E078BA11
5E078BA30
5E078LA08
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CB11
5H050FA17
5H050GA02
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】シリコンクラスレートIIを含有する負極活物質の新たな製造方法を提供すること。
【解決手段】Na及びSiを含有するNa-Si合金とNaトラップ剤とが接触状態で含まれる反応原料を加熱し、前記Na-Si合金に由来するNaを前記Naトラップ剤と反応させて、前記Na-Si合金におけるNa量を減少させる反応工程を有することを特徴とする、シリコンクラスレートIIを含有する負極活物質の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Na及びSiを含有するNa-Si合金とNaトラップ剤とが接触状態で含まれる反応原料を加熱し、前記Na-Si合金に由来するNaを前記Naトラップ剤と反応させて、前記Na-Si合金におけるNa量を減少させる反応工程を有することを特徴とする、シリコンクラスレートIIを含有する負極活物質の製造方法。
【請求項2】
組成式Nax1Si136で表されるシリコンクラスレートIIとNaトラップ剤とが接触状態で含まれる反応原料を加熱し、前記シリコンクラスレートIIに由来するNaを前記Naトラップ剤と反応させて、前記シリコンクラスレートIIにおけるNa量を減少させる反応工程を有することを特徴とする、組成式Nax2Si136で表されるシリコンクラスレートIIを含有する負極活物質の製造方法。
ただし、x1及びx2は、0<x1≦24、0≦x2<24、及び、x2<x1を満足する。
【請求項3】
前記反応原料は、粉末状の前記Na-Si合金および粉末状の前記Naトラップ剤が混合されたものである、請求項1に記載の負極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記反応原料は、粉末状の前記シリコンクラスレートIIおよび粉末状の前記Naトラップ剤が混合されたものである、請求項2に記載の負極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記反応工程後に洗浄を行う、請求項1~4の何れか1項に記載の負極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記Naトラップ剤が、CaCl、CaBr、CaI、Fe、FeO、MgCl、ZnO、ZnCl、MnClから選択される請求項1~5のいずれか1項に記載の負極活物質の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6の何れかに記載の製造方法で負極活物質を製造する工程、
前記負極活物質を用いて負極を製造する工程、
を有する負極の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法で負極を製造する工程、
前記負極を用いて二次電池を製造する工程、
を有する二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Siによって形成された多面体の空間の中に他の金属を包接するシリコンクラスレートなる化合物が知られている。シリコンクラスレートのうち、主にシリコンクラスレートI及びシリコンクラスレートIIについての研究が報告されている。
【0003】
シリコンクラスレートIとは、1個のNa原子を20個のSi原子で包接した12面体と、1個のNa原子を24個のSi原子で包接した14面体とが、面を共有してなるものであり、NaSi46との組成式で表わされる。シリコンクラスレートIを構成するすべての多面体のケージには、Naが存在している。
【0004】
シリコンクラスレートIIとは、Siの12面体とSiの16面体とが面を共有してなるものであり、NaSi136との組成式で表わされる。ここで、xは0≦x≦24を満足する。すなわち、シリコンクラスレートIIを構成する多面体のケージには、Naが存在してもよいし、存在しなくてもよい。
【0005】
非特許文献1には、Na及びSiを含有するNa-Si合金から、シリコンクラスレートI及びシリコンクラスレートIIを製造する方法が記載されている。具体的に述べると、10-4Torr未満(すなわち1.3×10-2Pa未満)の減圧条件下、Na-Si合金を400℃以上に加熱して、Naを蒸気として除去することで、シリコンクラスレートI及びシリコンクラスレートIIを製造したことが記載されている。そして、加熱温度の違いに因り、シリコンクラスレートI及びシリコンクラスレートIIの生成割合が変化することや、加熱温度が高くなれば、シリコンクラスレートIからNaが離脱し、シリコンクラスレートIの構造が変化することで、一般的なダイヤモンド構造であるSi結晶が生成することも記載されている。
さらに、シリコンクラスレートIIについては、Na22.56Si136、Na17.12Si136、Na18.72Si136、Na7.20Si136、Na11.04Si136、Na1.52Si136、Na23.36Si136、Na24.00Si136、Na20.48Si136、Na16.00Si136、Na14.80Si136を製造したことが記載されている。
【0006】
特許文献1にも、シリコンクラスレートの製造方法が記載されている。具体的には、シリコンウエハとNaを用いて製造されたNa-Si合金を、10-2Pa以下の減圧条件下、400℃で3時間加熱してNaを除去することで、シリコンクラスレートI及びシリコンクラスレートIIを製造したことが記載されている。
【0007】
また、シリコンクラスレートIIに包接されるNaがLi、K、Rb、Cs又はBaで置換されたシリコンクラスレートIIや、シリコンクラスレートIIのSiがGaやGeで一部置換されたシリコンクラスレートIIも報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】H. Horie, T. Kikudome, K. Teramura, and S.Yamanaka, Journal of Solid State Chemistry, 182, 2009, pp.129-135
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2012-224488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
シリコンクラスレートIIは、内包するNaが離脱しても、その構造を維持する。本発明者は、この点に着目し、内包するNaが離脱したシリコンクラスレートIIをリチウムイオン二次電池の負極活物質として利用することを想起した。
【0011】
上述した従来の技術によれば、シリコンクラスレートIIの製造には、強い減圧条件(高い真空度)が必要である。また、Na-Si合金からNaを蒸気として系外に排出するため、排出されるNaについて、特別な処置が必要となる。したがって、非特許文献1や特許文献1に記載されたシリコンクラスレートIIの製造方法は、負極活物質の製造方法として必ずしも工業的に効率的とはいえなかった。
【0012】
本発明は、かかる事情に鑑みて為されたものであり、シリコンクラスレートIIを含有する負極活物質の新たな製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者がシリコンクラスレートIIの効率的な製造方法についての検討を行ったところ、Naの蒸気を反応系内でトラップすることを想起した。具体的には、Naと反応し得るNaゲッター剤、例えば、SiO、MoO、FeO等をNa-Si合金とは非接触で反応系内に配置する。そして、Na-Si合金から生じたNaの蒸気を当該Naゲッター剤によってトラップすることに因り、反応系内におけるNaの分圧が低下して所望の反応速度の増加が想定される。加えて、当該製造方法には強い減圧条件を必要としないことも想定される。しかも、当該製造方法によると、系外に排出されるNaの量を著しく削減できると考えられる。
【0014】
本発明者は、Na-Si合金及び上記のNaゲッター剤が非接触で共存する環境下で、実際に実験を行った。そして本発明者は、弱い減圧条件下であっても所望の反応が進行したこと、系外に排出されるNaの量を削減できたこと、かつ、シリコンクラスレートIIを優先的に製造できたことを知見した。
【0015】
ところで、上記した非接触環境におけるシリコンクラスレートIIの製造方法において、製造効率を向上させるべく反応系を大型化する場合には、原料の一部であるNa-Si合金を反応系内に嵩高く配置する必要がある。
本発明の発明者は、上記のシリコンクラスレートIIの製造方法において、反応系内に原料を嵩高く配置する場合に、加熱により生じたNaの蒸気が当該原料の外部にまで排出され難く、ひいては、Na-Si合金から十分にNaが脱離しない虞があることに気づいた。この場合、Na-Si合金から生成したシリコンクラスレートIIからのNaの脱離もまた妨げられ、製造対象たる負極活物質、すなわち、内包するNaが離脱したシリコンクラスレートIIを効率的に製造し難い問題が生じる。
【0016】
本発明の発明者は、上記したシリコンクラスレートIIの製造方法をさらに発展させて、上記の負極活物質をより効率よく製造し得る製造方法を提供することを志向した。そして、Na-Si合金と反応して直接Naを受け取り得るNaトラップ剤を用い、両者を接触させつつ反応させることで、当該負極活物質の生産性を向上させ得ることを知見した。
以上の知見により、本発明は完成された。
【0017】
すなわち、上記課題を解決する本発明のシリコンクラスレートIIを含有する負極活物質の製造方法は、
Na及びSiを含有するNa-Si合金とNaトラップ剤とが接触状態で含まれる反応原料を加熱し、前記Na-Si合金に由来するNaを前記Naトラップ剤と反応させて、前記Na-Si合金におけるNa量を減少させる反応工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の負極活物質の製造方法においては、Na-Si合金とNaトラップ剤とが接触している状態でNa-Si合金に由来するNaとNaトラップ剤とが反応することにより、Na-Si合金からNaが脱離する。このように、本発明の負極活物質の製造方法においては、Na-Si合金のNaをNaトラップ剤によって直接受け取ることができるために、Naの蒸気を生成するための減圧を必要としない。
また、Na-Si合金からNaを受け取るNaトラップ剤はNa-Si合金に接触しているために、当該Naトラップ剤およびNa-Si合金を含む反応原料が嵩高くても、Naの授受は当該反応原料の全体で良好に進行する。このため、本発明の負極活物質の製造方法は、大スケールでの負極活物質の製造や工業化に適している。
さらに、本発明の負極活物質の製造方法においては、後述するように、優先的にシリコンクラスレートIIを製造することが可能であるために、本発明の負極活物質の製造方法によると二次電池などの蓄電装置に好適な負極活物質を製造できるといい得る。
【0019】
以下、必要に応じて、本発明の負極活物質の製造方法を本発明の製造方法と称する場合があり、当該本発明の製造方法で製造した負極活物質を本発明の負極活物質と称する場合がある。本発明の製造方法によると、シリコンクラスレートIIを含有する本発明の負極活物質が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1~実施例3の負極活物質のX線回折チャートを重ね書きしたものである。
図2】実施例4~実施例7の負極活物質のX線回折チャートを重ね書きしたものである。
図3】実施例13、比較例1及び比較例2の負極活物質のX線回折チャートを重ね書きしたものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x~y」は、下限xおよび上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
【0022】
本発明のシリコンクラスレートIIを含有する負極活物質の製造方法は、
Na及びSiを含有するNa-Si合金とNaトラップ剤とが接触状態で含まれる反応原料を加熱し、前記Na-Si合金に由来するNaを前記Naトラップ剤と反応させて、前記Na-Si合金におけるNa量を減少させる反応工程を有することを特徴とする。
【0023】
本発明の製造方法の技術的意義の一つは、反応工程において、Naと反応するNaトラップ剤を用い、当該Naトラップ剤とNa-Si合金とを互いに接触させた状態で、Na-Si合金からNaトラップ剤へのNaの授受を伴う反応を進行させることにある。つまり、本発明の製造方法においてはNaの蒸気を生じる必要がなく、Na-Si合金からNaトラップ剤へのNaの授受は、反応系のNa分圧にさほど関係なく進行するといい得る。これにより、本発明の製造方法では、減圧下で反応を行うための設備や反応系外へのNaの漏出を抑止するための設備等が不要となる。つまり、本発明の製造方法は、負極活物質を工業的に生産する製造方法として有利である。
【0024】
また、上記したように、本発明の製造方法における反応工程では、Naの蒸気を生じかつ当該Naの蒸気をNa-Si合金と非接触のNaゲッター剤で捕捉する必要がなくなることから、Na-Si合金からNaを脱離して負極活物質を生成する反応は、反応原料が嵩高くても好適に進行する。これにより、本発明の製造方法では、一度に比較的大量の反応原料を用い比較的大量の負極活物質を製造することが可能である。このことによっても、本発明の製造方法は、負極活物質を工業的に生産する製造方法として有利といい得る。
【0025】
本発明の製造方法における反応工程は、Naトラップ剤としてCaClを用いた場合、以下の反応式で表現できる。なお後述するとおり、CaClは、本発明の製造方法に好適に用いられるNaトラップ剤の一つである。
Na-Si合金+CaCl→NaCl+Ca+シリコンクラスレートII
Naトラップ剤としてCaClを用いる反応工程においては、Na-Si合金からNaが脱離して、Naが脱離したシリコンクラスレートIIが生じる。また、Naトラップ剤すなわちCaClは、Na-Si合金のNaと反応してNaClおよびCaを生じる。
なお、上記したNa-Si合金およびCaClは固体状で反応するために、本発明の製造方法は固相法といい得る。
【0026】
本発明の製造方法で用いるNa-Si合金は、Na及びSiの組成がNaSi136(24<y)で表されるものである。当該Na-Si合金としては、SiよりもNaが過剰に存在するもの、すなわち、Na及びSiの組成がNaSi(1<z)で表されるものを使用するのが好ましい。
Na-Si合金を製造する方法は特に限定しないが、例えば、不活性ガス雰囲気下、Na及びSiを溶融して合金化すればよい。
【0027】
Na-Si合金には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、Na及びSi以外の他の元素が存在してもよい。他の元素としては、シリコンクラスレートIIにおいて、Naと置換可能なLi、K、Rb、Cs及びBa、並びに、Siと置換可能なGa及びGeを例示できる。
【0028】
本明細書において、Naトラップ剤とは、Na-Si合金に由来するNaと反応してNaを受け取ることのできるものを意味する。当該Naトラップ剤はNa-Si合金と反応すると換言することも可能である。
【0029】
Na-Si合金と反応しやすい優れたNaトラップ剤を使用することで、本発明の製造方法における加熱温度を低くしたり反応時間を短くしたりすることが可能である。
Naトラップ剤は、Naを酸化させるがSiを酸化させない物質ということも可能である。なお、ここでいう酸化とは、対象とする物質が電子を失う反応を意味する。
【0030】
本発明の製造方法におけるNaトラップ剤は、Na-Si合金と反応してNa-Si合金からNaを受け取るものに限定されず、Na-Si合金から脱離したNa、具体的には蒸気になったNaと反応しても良い。この場合、Na-Si合金で生じたNaの蒸気は、当該Na-Si合金から非常に近い位置でNaトラップ剤に受け取られるため、この場合にも、本発明の製造方法にはNaの漏出を抑制する製造施設が不要となるかまたは簡素化することができ、また、反応系内における原料が嵩高い場合にも負極活物質を効率よく製造できる利点がある。
本明細書において、特に説明のない場合には、「Na-Si合金とNaトラップ剤とが反応する」場合と「Na-Si合金から脱離したNaとNaトラップ剤とが反応する」場合とを総称して、「Na-Si合金に由来するNaとNaトラップ剤とが反応する」と称する。
【0031】
Naトラップ剤は、Na-Si合金に由来するNaを受け取ることのできるものであれば特に限定されないが、Na-Si合金と直接的に反応してNaを受け取るものを用いるのが好ましい。この場合には、Naの蒸気を生じさせる必要がなく、また、Naの蒸気の漏出を抑制する必要もないために特殊な製造施設を要さないためである。
このようなNaトラップ剤としては、金属の酸化物またはハロゲン化物を用いるのが好ましい。
このうち金属は、反応工程における加熱温度、例えば450℃以下で、Siと合金化しないものを用いるのが好ましい。また、当該金属は、後述する水や酸の水溶液等に溶解して容易に除去できるものであるのが好適である。Naトラップ剤の金属としては、例えば、アルカリ金属以外の金属を例示できる。
【0032】
具体的なNaトラップ剤として、CaCl、CaBr、CaI、Fe、FeO、MgCl、ZnO、ZnCl、MnClを例示できる。
このうちCaCl、CaBr、CaI、Fe、FeO、ZnO、およびZnClは、金属としてSiと合金化し難いものを用いているためにNaトラップ剤として特に好適である。
Naトラップ剤の使用量は、Na-Si合金に含まれるNaの量に応じて、適宜決定すれば良い。また、Naトラップ剤は一種のみを用いても良いし、複数種を併用しても良い。
【0033】
好適なNaトラップ剤として、Na-Si合金と反応した場合のギブズエネルギー(G)の変化量が0未満となるもの、すなわちΔG<0となるものが挙げられる。ΔG<0であれば、Na-Si合金とNaトラップ剤との自発的な反応が進行するといえ、反応系を減圧雰囲気にしなくても、Naトラップ剤がNa-Si合金からNaを受け取る反応が好適に進行するといい得る。
Na-Si合金と反応した場合にΔG<0となるNaトラップ剤としては、CaCl、CaBr、CaIが例示される。
【0034】
また、Na-Si合金とNaトラップ剤との反応時に反応系が高熱となることを抑制するためには、Naトラップ剤として、Na-Si合金との反応時におけるエンタルピーの変化量、すなわち反応エンタルピーの小さいものが好適である。具体的には、Naトラップ剤は、1モルのNa-Si合金と反応する際のエンタルピー変化量ΔHが-30kJ以上であるのものが好ましい。
1モルのNa-Si合金と反応する際のエンタルピー変化量ΔHが-30kJ以上であるNaトラップ剤としては、CaCl、CaBr、CaIが例示される。
【0035】
参考までに、本明細書において上記したΔGおよびΔHは、以下のように算出した。
【0036】
Naトラップ剤を金属の酸化物またはハロゲン化物とする場合、当該Naトラップ剤はMX(Mは金属、Xは酸素またはハロゲン)で表される。Xがハロゲンの場合、当該MXとNa-Si合金との反応は以下の反応式で表現できる。
Na-Si合金+0.5MX→NaX+0.5M+シリコンクラスレートII
また、Xが酸素の場合、当該MXとNa-Si合金との反応は以下の反応式で表現できる。
Na-Si合金+0.5MX→0.5NaX+0.5M+シリコンクラスレートII
300℃にて、上記の反応が生じると仮定した場合における、Na-Si合金1モルあたりのΔGおよびΔHを種々のNaトラップ剤について算出した。300℃~400℃の間では、各種の反応のΔGおよびΔHの変化量は5kJ/モル未満であり、大きく変わることはない。
なお、シリコンクラスレートIIのΔGおよびΔHはデータベースになかったため、結晶性SiのΔGおよびΔHの値で代用した。それ以外の各物質のΔGおよびΔHはデータベースに記載されている値を用いた。データベースとしては熱力学計算ソフトFactsage(計算力学センター)を用いた。
その結果、Naトラップ剤がCaClである場合には、Na-Si合金1モルあたりのCaClのΔGは-10.7573kJであり、Na-Si合金1モルあたりのCaClのΔHは-13.4403kJであった。
また、Naトラップ剤がCaBrである場合には、Na-Si合金1モルあたりのCaBrのΔGは-26.2789kJであり、Na-Si合金1モルあたりのCaBrのΔHは-20.1409kJであった。
また、Naトラップ剤がCaIである場合には、Na-Si合金1モルあたりのCaIのΔGは-29.8145kJであり、Na-Si合金1モルあたりのCaIのΔHは-19.9134kJであった。
これらのNaトラップ剤は、いずれも、本発明の製造方法に用いるNaトラップ剤として有用といい得る。
【0037】
本発明の製造方法の反応工程において、Na-Si合金およびNaトラップ剤を含有する反応原料を加熱する温度(加熱温度t)は、Na-Si合金に由来するNaとNaトラップ剤との反応が進行する温度であれば特に限定しないが、100℃≦t≦500℃、200℃≦t≦450℃、270℃≦t≦400℃、270℃≦t<370℃、270℃≦t≦360℃を例示できる。
後述する実施例のように、加熱温度tが低ければ、負極活物質中におけるシリコンクラスレートIの含有量を低減しシリコンクラスレートIIの含有量を増大させ得る効果がある。加熱温度tが高ければ、安定なシリコンクラスレートIが生成し易いと推測される。
他方、加熱温度tが高ければ、反応時間を短縮できる利点がある。
【0038】
本発明の製造方法において、加熱温度tは400℃以下であるのが好ましい。加熱温度tが400℃以下であれば、ダイヤモンド構造のSi結晶の生成を抑制することができるし、本発明の負極活物質にリチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池の負極活物質として好適な物性を付与できるからである。
【0039】
本発明の製造方法においては、Na-Si合金に由来するNaとNaトラップ剤とを反応させてNa-Si合金におけるNa量を減少させる工程を、単一の工程として実施して、シリコンクラスレートIIを含む負極活物質を製造してもよい。
または、シリコンクラスレートIIを含む負極活物質を新たなNaトラップ剤と接触状態で再度加熱することで、負極活物質のシリコンクラスレートIIに残存するNaをNaトラップ剤に受け渡し、負極活物質のシリコンクラスレートIIに残存するNaの量をさらに減少させてもよい。このように反応工程を二段階で行う場合、洗浄は一段階目の終了後及び二段階の終了後の二回行っても良いし、二段階目の終了後に一回のみ行っても良い。
さらには、反応原料のSi源として、Na-Si合金にかえてシリコンクラスレートIIを用いても良い。当該シリコンクラスレートIIは、単品であっても良いし、副生物等を含むものであっても良い。反応原料用のシリコンクラスレートIIとして、例えば、本発明の製造方法で得られたシリコンクラスレートIIを含む負極活物質を用いても良いし、非特許文献1や特許文献1に開示されるように減圧下の加熱で製造したものを用いても良い。
反応原料としてシリコンクラスレートIIを用いる場合には、上記した反応工程を二段階で行う場合と同様に、シリコンクラスレートIIとNaトラップ剤とを接触させつつ共存させ加熱することで、シリコンクラスレートIIに残存するNaの量がさらに減少した好適な負極活物質が得られる。
【0040】
以上の事項から、以下の発明を把握できる。
組成式Nax1Si136で表されるシリコンクラスレートIIとNaトラップ剤とが接触状態で含まれる反応原料を加熱し、前記シリコンクラスレートIIに由来するNaを前記Naトラップ剤と反応させて、前記シリコンクラスレートIIにおけるNa量を減少させる反応工程を有することを特徴とする、組成式Nax2Si136で表されるシリコンクラスレートIIを含有する負極活物質の製造方法。
ただし、x1及びx2は、0<x1≦24、0≦x2<24、及び、x2<x1を満足する。
なお、上記の「組成式Nax1Si136で表されるシリコンクラスレートII」は、本発明の製造方法で得られた負極活物質に含まれるシリコンクラスレートIIであっても良いし、その他の製造方法で得られたシリコンクラスレートIIであっても良い。
いずれの場合にも、シリコンクラスレートIIを含有する本発明の負極活物質が得られる点は同様である。
【0041】
本発明の負極活物質は、リチウムイオン二次電池などの二次電池や、電気二重層コンデンサ及びリチウムイオンキャパシタなどの蓄電装置の負極活物質として使用することができる。なお、リチウムイオン二次電池は、正極、負極、電解液及びセパレータ、又は、正極、負極及び固体電解質を具備する。
【0042】
本発明の負極活物質において、シリコンクラスレートIIにおけるNa含量は低い方が好ましい。Naが離脱したシリコンクラスレートIIの多面体のケージ内に、リチウムなどの電荷担体が移動することが可能となり、その結果、負極活物質の膨張の程度が抑制されるためである。
本発明の負極活物質において、シリコンクラスレートIIの組成式NaSi136のxの範囲としては、0≦x≦10が好ましく、0≦x≦7がより好ましく、0≦x≦5がさらに好ましく、0≦x≦3がさらにより好ましく、0≦x≦2が特に好ましく、0≦x≦1が最も好ましい。
【0043】
また、本発明の負極活物質は、負極活物質としてのみならず、特許文献1に記載のとおり、熱電素子、発光素子、光吸収素子などの用途にも使用可能である。
【0044】
本発明の製造方法においては、シリコンクラスレートII以外の副生物を生じ得る。例えば、上記したようにNaトラップ剤としてCaClを用いる場合には、シリコンクラスレートII以外にもNaClやCaを副生するし、Naトラップ剤としてFe等の金属酸化物を用いる場合には、NaOやNaOH、Naを含有する複合酸化物を副生し得る。その他、遊離のNaが反応系に残存する可能性もある。本発明の製造方法における反応工程で得られた本発明の負極活物質には、これらの副生物が付着するため、本発明の製造方法は、反応工程後に洗浄を行い、本発明の負極活物質から当該副生物を除去するのが好ましい。洗浄には副生物を溶解し得る溶剤を用いるのが良く、具体的には、当該洗浄は酸性水溶液で行うのが望ましい。
【0045】
洗浄工程で用いる溶媒としては、塩基性水溶液ではシリコンクラスレートが腐食され易い点から、酸性の水溶液を用いるのが好ましい。酸性の水溶液における酸の濃度は、副生物を効率よく溶解できる濃度であるのが好ましい。
【0046】
洗浄工程後には、濾過及び乾燥にて本発明の負極活物質から水を除去することが好ましい。
【0047】
本発明の負極活物質は、粉砕や分級を経て、一定の粒度分布の粉末とするのがよい。
本発明の負極活物質の好ましい平均粒子径としては、0.5~30μmの範囲内が好ましく、0.8~20μmの範囲内がより好ましく、1~15μmの範囲内がさらに好ましい。なお、平均粒子径は、一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置で試料を測定した場合のD50を意味する。
【0048】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例0049】
以下に、実施例および比較例などを示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
・Na-Si合金の製造工程
金属NaとSi粉末とをモル比1.1:1となるように秤量し、混合して、アルゴン雰囲気下で850℃、15分保持することでこれらを溶融させた。室温まで冷却して、インゴット状のNa-Si合金を得た。当該インゴット状のNa-Si合金をグローブボックス内で粉砕及び分級して、粒子径500μm以下のNa-Si合金を得た。なお、当該Na-Si合金においては、Siに対するNaの組成比がやや高い。
【0051】
・シリコンクラスレートIIの製造工程(反応工程)
Na-Si合金およびCaClをモル比1:0.75となるように秤量し、カッターミルを用いて混合し、反応原料を得た。得られた粉末状の反応原料をステンレススチール製の反応容器に入れ、加熱炉にて窒素雰囲気下で300℃、40時間加熱した。
【0052】
加熱炉を室温まで冷却し、反応容器から生成物を回収した。当該生成物を3質量%の塩酸水溶液に投入して、Nフロー下で10分間撹拌することで、洗浄を行った。洗浄後の生成物を濾過にて分離し、80℃で減圧乾燥することで、実施例1の負極活物質を得た。
【0053】
(実施例2)
反応工程における加熱温度を330℃とし加熱時間を20時間としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の負極活物質を得た。
【0054】
(実施例3)
反応工程における加熱温度を370℃とし加熱時間を12時間としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の負極活物質を得た。
【0055】
(実施例4)
Naトラップ剤としてFeを用い、反応工程においてNa-Si合金とFeとのモル比を1.5:1としたこと以外は実施例2と同様にして、実施例4の負極活物質を得た。
【0056】
(実施例5)
実施例1と同様にして得たNa-Si合金を用い、以下のように実施例5の負極活物質を製造した。
・シリコンクラスレートIIの製造工程(反応工程)
Na-Si合金およびNaトラップ剤としてのMgClをモル比0.75:1となるように秤量し、カッターミルを用いて混合して反応原料を得た。得られた粉末状の反応原料をステンレススチール製の反応容器に入れ、加熱炉にて窒素雰囲気下で300℃、20時間加熱した。その後、加熱炉を室温まで冷却し、反応容器から生成物を回収した。
回収した生成物を純水に投入して、Nフロー下で10分間撹拌することで、洗浄を行った。洗浄後の生成物を濾過にて分離し、80℃で減圧乾燥することで、実施例5の負極活物質を得た。
【0057】
(実施例6)
Naトラップ剤としてZnOを用い、反応工程においてNa-Si合金とZnOとのモル比を0.75:1としたこと以外は実施例2と同様にして、実施例6の負極活物質を得た。
【0058】
(実施例7)
実施例1と同様にして得たNa-Si合金を用い、以下のように実施例7の負極活物質を製造した。
・シリコンクラスレートIIの製造工程(反応工程)
Na-Si合金およびNaトラップ剤としてのMnClをモル比0.75:1となるように秤量し、カッターミルを用いて混合して反応原料を得た。得られた粉末状の反応原料をステンレススチール製の反応容器に入れ、加熱炉にて窒素雰囲気下で370℃、10時間加熱した。その後、加熱炉を室温まで冷却し、反応容器から生成物を回収した。
回収した生成物を3質量%の塩酸水溶液に投入して、Nフロー下で10分間撹拌することで、洗浄を行った。洗浄後の生成物を濾過にて分離し、80℃で減圧乾燥することで、実施例7の負極活物質を得た。
実施例1~実施例7の製造方法における各種条件を表1にまとめて示す。
【0059】
【表1】
【0060】
(評価例1)
実施例1~実施例7の各負極活物質につき、粉末X線回折装置にて、X線回折測定を行った。
実施例1~実施例3の負極活物質のX線回折チャートを重ね書きしたものを図1に示し、実施例4~実施例7の負極活物質のX線回折チャートを重ね書きしたものを図2に示す。なお、図1において、黒い三角形で示したピークはシリコンクラスレートIIに由来するものであり、白い円形で示したピークはシリコンクラスレートIに由来するものであり、×で示したピークはダイヤモンド構造であるSi結晶に由来するものである。また、図2において、黒い円形で示したピークはシリコンクラスレートIIに由来するものであり、白い三角形で示したピークはシリコンクラスレートIに由来するものであり、×で示したピークはダイヤモンド構造であるSi結晶に由来するものである。アスタリスクで示したピークはFeに由来するものであり、白いひし形で示したピークはMgSiに由来するものであり、白い四角形で示したピークはMn11Si19に由来するものである。
【0061】
図1及び図2から、実施例1~実施例7の各負極活物質はいずれも主成分としてシリコンクラスレートIIを含有することがわかる。この結果から、CaCl、Fe、MgCl、ZnOおよびMnClは何れもNaトラップ剤として有用であることが裏付けられた。
また、図1に示すように、加熱温度が370℃と比較的高い実施例3の負極活物質においては、加熱温度が300℃と比較的低い実施例1の負極活物質に比べて、シリコンクラスレートIの占める割合が多かった。このことから、シリコンクラスレートIIを主成分とする負極活物質を製造するためには、反応工程における加熱温度はある程度低いほうが好ましく、具体的には370℃未満であるのが好ましいことがわかる。
【0062】
また、図2に示すように、実施例5の負極活物質や実施例7の負極活物質においては、SiがNaトラップ剤に由来する金属と反応した副生物であるMgSiやMn11Si19が確認された。これに対して、図1及び図2に示すように、実施例1~実施例4および実施例6の負極活物質については、SiがNaトラップ剤に由来する金属と反応した副生物は確認されなかった。この結果から、Naトラップ剤の金属としてはCa、FeおよびZnが、Naトラップ剤としてはCaCl、FeおよびZnOが何れも有用であるといい得る。
【0063】
(実施例8)
実施例8の製造方法では、反応工程を、以下のとおり二段階で行った。
・1段階工程
NaH粉末とSi粉末とをモル比1.05:1となるように秤量し、混合して、N雰囲気下で460℃、15分保持することでこれらを反応させた。室温まで冷却して、粉末状のNa-Si合金を得た。
上記のNa-Si合金およびNaトラップ剤としてのCaClをモル比1:0.75となるように秤量し、カッターミルを用いて混合した。得られた粉末状の混合物をステンレススチール製の反応容器に入れ、加熱炉にて窒素雰囲気下で270℃、40時間加熱した。加熱炉を室温まで冷却し、反応容器から生成物を回収した。当該生成物は、シリコンクラスレートII(Na23Si136)を含み、本発明の負極活物質とも言い得る。
【0064】
・2段階工程
上記した1段階工程の生成物を3質量%の塩酸水溶液に投入して、Nフロー下で10分間撹拌することで、洗浄を行った。洗浄後の生成物を濾過にて分離し、80℃で減圧乾燥することで、反応原料用のシリコンクラスレートIIを得た。なお、上記の洗浄により、1段階工程の生成物に含まれる副生物すなわちNaClやCa、更には、余剰のCaClが除去される。
上記のシリコンクラスレートIIおよびFeをモル比1:0.75となるように秤量し、カッターミルを用いて混合して、粉末状の反応原料を得た。当該反応原料をステンレススチール製の反応容器に入れ、加熱炉にて窒素雰囲気下で330℃、10時間加熱した。加熱炉を室温まで冷却し、反応容器から生成物を取り出した。当該生成物を37質量%の濃塩酸水溶液に投入して、Nフロー下で10分間撹拌することで、洗浄を行った。洗浄後の生成物を濾過にて分離し、純水およびアセトンでかけ洗いした後、80℃で減圧乾燥することで、シリコンクラスレートIIを含む実施例8の負極活物質を得た。なお、上記の洗浄により、2段階工程の生成物に含まれる副生物すなわちNaFeやFeが除去される。
【0065】
(実施例9)
2段階工程における反応原料として洗浄していないシリコンクラスレートIIを用いたこと以外は実施例8と同様にして、実施例9の負極活物質を得た。
【0066】
(実施例10)
2段階工程における反応原料として洗浄していないシリコンクラスレートIIを用い、加熱温度を370℃としたこと以外は実施例8と同様にして、実施例10の負極活物質を得た。
【0067】
(実施例11)
2段階工程における反応原料として洗浄していないシリコンクラスレートIIおよびNaトラップ剤としてのFeOを用いたこと以外は実施例8と同様にして、実施例11の負極活物質を得た。なお実施例11では、洗浄により、2段階工程の生成物に含まれる副生物すなわちNaFeやFeが除去される。
【0068】
(実施例12)
2段階工程における反応原料として洗浄していないシリコンクラスレートIIおよびNaトラップ剤としてのZnClを用いたこと、および、加熱温度を370℃としたこと以外は実施例8と同様にして、実施例12の負極活物質を得た。なお実施例12では、洗浄により、2段階工程の生成物に含まれる副生物すなわちNaClやZnが除去される。
実施例8~実施例12の製造方法における各種条件を表2にまとめて示す。
【0069】
【表2】
【0070】
(評価例2)
実施例8~実施例11の各負極活物質、および実施例8~実施例11で用いた反応原料としてのシリコンクラスレートIIにつき、粉末X線回折装置にて、X線回折測定を行った。得られたX線回折チャートにおいて、シリコンクラスレートIIの(311)に由来するピーク強度と(511)に由来するピーク強度から、シリコンクラスレートIIの組成式NaSi136におけるxの値を、各実施例における反応工程の前後で、それぞれ算出した。なお、シリコンクラスレートIIの組成式NaSi136におけるxの値は、(311)に由来するピーク強度に対する(511)に由来するピーク強度の比の値と相関関係にある。
結果を表3に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
表3から、反応原料として洗浄したシリコンクラスレートIIを用いる場合にも、洗浄していないシリコンクラスレートIIを用いる場合にも、反応工程を行うことで、シリコンクラスレートIIの組成式NaSi136におけるxの値が十分に低くなることがわかる。また、加熱温度が高いほど、シリコンクラスレートIIの組成式NaSi136におけるxの値が低くなることがわかる。
【0073】
(実施例13)
・シリコンクラスレートIIの製造工程(反応工程)
実施例1と同じNa-Si合金を15g、およびCaClを25g秤量し、カッターミルを用いて混合し、反応原料を得た。得られた粉末状の反応原料を直径120mm、高さ50mmのステンレススチール製の反応容器に入れ、加熱炉にて窒素雰囲気下で270℃、60時間加熱した。
【0074】
加熱炉を室温まで冷却し、反応容器から生成物を回収した。当該生成物を3質量%の塩酸水溶液に投入して、Nフロー下で10分間撹拌することで、洗浄を行った。洗浄後の生成物を濾過にて分離し、80℃で減圧乾燥することで、実施例13の負極活物質を得た。
【0075】
(比較例1)
ステンレススチール製の反応容器内部の底に、Naゲッター剤としてFe粉末を配置した。ステンレススチール製の反応容器内部の底に台座を設けて、台座の上部にステンレススチール製の坩堝を配置した。当該坩堝内に実施例1と同じNa-Si合金を配置した。なお、Na-Si合金の質量は15gであり、Naゲッター剤の質量は30gであった。
ステンレススチール製の反応容器にステンレススチール製の蓋をして、これらを真空炉内に配置した。
真空炉内を10Paまで減圧し、350℃で20時間加熱することで、比較例1の負極活物質を得た。
【0076】
(比較例2)
Na-Si合金を1g用い、Naゲッター剤を2g用いたこと以外は、比較例1と同様にして、比較例2の負極活物質を得た。
実施例13、比較例1及び比較例2の製造方法における各種条件を表4にまとめて示す。
【0077】
【表4】
【0078】
(評価例3)
実施例13、比較例1及び比較例2の各負極活物質につき、粉末X線回折装置にて、X線回折測定を行った。
実施例13、比較例1及び比較例2の負極活物質のX線回折チャートを重ね書きしたものを図3に示す。なお、図1において、黒い三角形で示したピークはシリコンクラスレートIIに由来するものであり、白い円形で示したピークはシリコンクラスレートIに由来するものであり、×で示したピークはダイヤモンド構造であるSi結晶に由来するものであり、白いひし形で示したピークはNaSiに由来するものである。
【0079】
図3から、比較例1の負極活物質がシリコンクラスレートII以外にも多くのシリコンクラスレートIおよび未反応のNa-Si合金を含有するのに対して、実施例1および比較例2の各負極活物質はいずれも主成分としてシリコンクラスレートIIを含有することがわかる。
この結果から、Na-Si合金とは非接触のNaゲッター剤を用いてNa-Si合金からシリコンクラスレートIIを生成させる反応は、比較例2のように反応系におけるNa-Si合金の量が少ない場合には好適に進行するものの、比較例1のように反応系におけるNa-Si合金の量が多くなると好適に進行するとは言い難いことがわかる。
また、この結果から、Na-Si合金とNaトラップ剤とが接触状態で共存する反応原料を用いる本発明の製造方法によると大量の反応原料を一度の反応工程に用いた場合にも、Na-Si合金からシリコンクラスレートIIが生成する反応が好適に進行することが裏付けられる。
図1
図2
図3