(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022035004
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】垂直入射透過損失測定装置及び垂直入射透過損失測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/11 20060101AFI20220225BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
G01N29/11
H04R3/00 320
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020139001
(22)【出願日】2020-08-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)日本音響学会2019年10月度建築音響研究会での発表,令和元年10月18日 (2)日本音響学会2020年春季研究発表会論文集の発行(第643-644項),令和2年3月2日
(71)【出願人】
【識別番号】390029023
【氏名又は名称】日本音響エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【弁理士】
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100220892
【弁理士】
【氏名又は名称】舘 佳耶
(74)【代理人】
【識別番号】100205589
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 和将
(74)【代理人】
【識別番号】100194478
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 文彦
(72)【発明者】
【氏名】中川 博
【テーマコード(参考)】
2G047
5D220
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047BA01
2G047BC03
2G047CA07
2G047GD02
2G047GF11
2G047GF21
5D220BA01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高い周波数まで垂直入射透過損失を測定できる垂直入射透過損失測定装置を提供する。
【解決手段】垂直入射透過損失測定装置を、音響管と、音源と、音響管における音源側の断面A上で対称配置されたマイクロホンM
A.1~M
A.4(音源側第一マイクロホン)と、断面B上で対称配置されたマイクロホンM
B.1~M
B.4(音源側第二マイクロホン)と、音響管における透過側の断面C上で対称配置されたマイクロホンM
C.1~M
C.4(透過側第一マイクロホン)と、断面D上で対称配置されたマイクロホンM
D.1~M
D.4(透過側第二マイクロホン)とを備えたものとし、音源側第一マイクロホン、音源側第二マイクロホン、透過側第一マイクロホン及び透過側第二マイクロホンの出力信号の和をそれぞれ求める処理を行うことで、試料に対して垂直な方向に進行する成分を抽出できるようにした。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に垂直な断面の形状が線対称性及び点対称性を有する管状を為し、その軸線方向中途部分に試料が配置される音響管と、
音響管の始端側に取り付けられた音源と、
音響管における試料よりも音源側で、音響管の軸線方向に所定距離を隔てた状態で配された第一マイクロホン及び音源側第二マイクロホンと、
音響管における試料よりも透過側で、音響管の軸線方向に所定距離を隔てた状態で配された透過側第一マイクロホン及び透過側第二マイクロホンと
を備えた垂直入射透過損失測定装置であって、
音源側第一マイクロホンが、音響管における試料よりも音源側の断面A上で点対称配置されたマイクロホンMA.1,MA.2、及び、断面A上でマイクロホンMA.1,MA.2に対して線対称配置されたマイクロホンMA.3,MA.4で構成され、
音源側第二マイクロホンが、音響管における断面Aから試料側に所定距離を隔てた断面B上で点対称配置されたマイクロホンMB.1,MB.2、及び、断面B上でマイクロホンMB.1,MB.2に対して線対称配置されたマイクロホンMB.3,MB.4で構成され、
透過側第一マイクロホンが、音響管における試料よりも透過側の断面C上で点対称配置されたマイクロホンMC.1,MC.2、及び、断面C上でマイクロホンMC.1,MC.2に対して線対称配置されたマイクロホンMC.3,MC.4で構成され、
透過側第二マイクロホンが、音響管における断面Cから透過側に所定距離を隔てた断面D上で点対称配置されたマイクロホンMD.1,MD.2、及び、断面D上でマイクロホンMD.1,MD.2に対して線対称配置されたマイクロホンMD.3,MD.4で構成される
とともに、
音源側第一マイクロホンを構成するマイクロホンMA.1,MA.2,MA.3,MA.4の出力信号の和、及び、音源側第二マイクロホンを構成するマイクロホンMB.1,MB.2, MB.3,MB.4の出力信号の和、並びに、透過側第一マイクロホンを構成するマイクロホンMC.1,MC.2,MC.3,MC.4の出力信号の和、及び、透過側第二マイクロホンを構成するマイクロホンMD.1,MD.2, MD.3,MD.4の出力信号の和をそれぞれ求める処理を行うことで、試料に対して垂直な方向に進行する成分を抽出できるようにした
ことを特徴とする垂直入射透過損失測定装置。
【請求項2】
音源側第一マイクロホンを構成するマイクロホンMA.1,MA.2,MA.3,MA.4の音響中心、及び、音源側第二マイクロホンを構成するマイクロホンMB.1,MB.2, MB.3,MB.4の音響中心、並びに、透過側第一マイクロホンを構成するマイクロホンMC.1,MC.2,MC.3,MC.4の音響中心、及び、透過側第二マイクロホンを構成するマイクロホンMD.1,MD.2, MD.3,MD.4の音響中心を、音響管の内部における(0,1)次音響モードの節位置に重なる箇所に配した請求項1記載の垂直入射透過損失測定装置。
【請求項3】
音源の音出力側に、音響管の(0,1)次音響モードの節位置に重ならない箇所を遮蔽して、前記節位置に重なる箇所に音透過部を有する仕切り部材を配置した請求項2記載の垂直入射透過損失測定装置。
【請求項4】
前記仕切り部材の透過側の面における音透過部に重ならない箇所に音源側吸音材を配した請求項3記載の垂直入射透過損失測定装置。
【請求項5】
前記仕切り部材における音透過部の周縁から透過側に突出して、音源側吸音材を音響管の軸線方向に貫通する二重管壁部を設け、
音源から前記仕切り部材の音透過部に入った音が、前記二重管壁部の隙間を通って音響管内に放射されるようにした
請求項4記載の垂直入射透過損失測定装置。
【請求項6】
請求項1~5いずれか記載の垂直入射透過損失測定装置を用いて試料の垂直入射透過損失を測定する垂直入射透過損失測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直入射透過損失測定装置と、これを用いた垂直入射透過損失測定方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
垂直入射透過損失の測定方法は、米国材料試験協会(America Sоciety fоr Testing and Materials)による規格「ASTM E2611」(非特許文献1)で規格化されている。同規格においては、
図1に示すように、音響管と、音源と、4本のマイクロホン(同図におけるマイク1~4)とを備えた装置を用いて、試料の垂直入射透過損失を測定する。同装置において、音源は、音響管の一端側に取り付けられる。以下においては、音響管における、音源が取り付けられる側の端部を「始端」と呼び、反対側の端部を「終端」と呼ぶことがある。また、マイクロホンは、音響管における試料よりも音源側と透過側(音響管の終端を向く側。以下同じ。)とに、それぞれ2本ずつ取り付けられる。音源側のマイクロホン(マイク1及びマイク2)は、音響管の軸線方向に所定距離を隔てた状態で配置され、透過側のマイクロホン(マイク3及びマイク4)も、音響管の軸線方向に所定距離を隔てた状態で配置される。特許文献1にも、この種の装置が記載されている。
【0003】
図1に示した装置の計算モデルを
図2に示す。音響管の音源側の2本のマイクロホン(マイク1及びマイク2)の音圧をそれぞれp
1,p
2とすると、試料のオモテ面(音源側の面のこと。以下同じ。)における音圧p
0及び粒子速度v
0は、それぞれ下記式1,2で表わすことができる。ただし、x
1は、試料のオモテ面からマイク1までの距離、x
2は、試料のオモテ面からマイク2までの距離、kは、空気中の波数、s
1は、マイク1とマイク2との距離、ρ
0は、空気の密度、C
0は、空気の音速である。
【数1】
【数2】
【0004】
また、透過側の2本のマイクロホン(マイク3及びマイク4)の音圧をそれぞれp
3,p
4とすると、試料のウラ面(透過側の面のこと。以下同じ。)における音圧p
d及び粒子速度v
dは、それぞれ下記式3,4で表わすことができる。ただし、x
3は、試料のオモテ面からマイク3までの距離、x
4は、試料のオモテ面からマイク4までの距離、s
2は、マイク3とマイク4との距離である。
【数3】
【数4】
【0005】
試料のオモテ面における音圧p
0及び粒子速度v
0と、試料のウラ面における音圧p
d及び粒子速度v
dとの関係は、T
11,T
12,T
21,T
22を成分とする2×2の伝達マトリックスを用いて、下記式5で表わすことができる。
【数5】
【0006】
上記式5における伝達マトリックスの成分T
11,T
12,T
21,T
22を決定するためには、音圧p
0,p
d及び粒子速度v
0,v
dを、異なる2つの条件下で測定する必要がある。この2つの条件としては、音響管の終端に吸音材を充填して塞いだ「吸音終端条件」と、音響管の終端を開放した「開放条件」とが採用されることが多い。このため、ここでも、吸音終端条件と開放条件とで測定を行う場合について考える。開放条件(оpen)下における試料のオモテ面の音圧及び粒子速度を、それぞれp
0о,v
0оとし、開放条件(оpen)下における試料のウラ面の音圧及び粒子速度を、それぞれp
dо,v
dоとし、吸音終端条件(clоsed)下における試料のオモテ面の音圧及び粒子速度を、それぞれp
0c,v
0cとし、吸音終端条件(clоsed)下における試料のウラ面の音圧及び粒子速度を、それぞれp
dc,v
dcとすると、上記式5から、下記式6,7が得られる。
【数6】
【数7】
【0007】
上記式6,7の関係から、伝達マトリックスの成分T
11,T
12,T
21,T
22をそれぞれ求めると、下記式8~11に示すようになる。
【数8】
【数9】
【数10】
【数11】
【0008】
以上のように、音圧p
0,p
d及び粒子速度v
0,v
dを異なる2つの条件下で測定することによって、伝達マトリックスを決定することができる。透過係数Tは、伝達マトリックスの成分T
11,T
12,T
21,T
22から、下記式12で求めることができ、垂直入射透過損失TLは、透過係数Tを用いて下記式13で求めることができる。
【数12】
【数13】
【0009】
また、この種の垂直入射透過損失測定装置では、試料のオモテ面の音響インピーダンス(剛壁密着条件)Z
0や、特性インピーダンスZ
cや、伝搬定数γも、伝達マトリックスの成分T
11,T
12,T
21,T
22から、下記式14~16に示すように求めることができる。ここで、「剛壁密着条件」とは、「試料のウラ面を剛壁に密着させたと仮定した場合」のことを意味している。
【数14】
【数15】
【数16】
【0010】
これらの値を用いることで、剛壁密着条件下での試料の垂直入射吸音率も求めることができる。すなわち、垂直入射時の音圧反射率Rは、下記式17で表わされるので、垂直入射吸音率α
0は、上記式14を用いて、下記式18で求めることができる。
【数17】
【数18】
【0011】
また、厚さdの試料のオモテ面の音響インピーダンス(剛壁密着条件)をZ
0dとすると、それは下記式19で表わすことができることから、これを上記式17の代わりに用いれば、任意の厚さの垂直入射吸音率を求めることも可能である。
【数19】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】ASTM E2611,“Standard Test Method for Measurement of Normal Incidence Sound Transmission of Acoustical Materials Based on the Transfer Matrix Method”,ASTM Internatiоnal
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、上述した従来の垂直入射透過損失測定装置では、試料に対して垂直な方向に伝搬する音波のみが存在できる条件下で測定する必要があった。というのも、試料に対して非垂直な方向(斜め方向)に伝搬する音波が存在してしまうと、測定結果には、試料に対して垂直な方向に伝搬する(0,0)次音響モードだけでなく、(1,0)次音響モードや(2,0)次音響モード等、試料に対して非垂直な方向(斜め方向)に伝搬する成分による影響が含まれてしまうからである。これら斜め方向に伝搬する成分は、入射音波の周波数が高くなると表れてくる。このため、従来の垂直入射透過損失測定装置で高い周波数まで計測しようとすると、音響管を細く(音響管の内径を小さく)する必要があり、それに応じて試料も小さくする必要があった。ところが、試料を小さくすると、垂直入射透過損失の測定結果に、試料の取り付け方による影響が大きく表れるようになり、垂直入射透過損失TLを正確に測定しにくくなることが知られている。
【0015】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、高い周波数まで垂直入射透過損失を測定できるものでありながら、音響管を太くして大きな試料を測定でき、試料の取り付け方による影響を小さく抑えることのできる垂直入射透過損失測定装置を提供するものである。また、この垂直入射透過損失測定装置を用いた垂直入射透過損失測定方法を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題は、
軸線方向に垂直な断面の形状が線対称性及び点対称性を有する管状を為し、その軸線方向中途部分に試料が配置される音響管と、
音響管の始端側に取り付けられた音源と、
音響管における試料よりも音源側で、音響管の軸線方向に所定距離を隔てた状態で配された第一マイクロホン及び音源側第二マイクロホンと、
音響管における試料よりも透過側で、音響管の軸線方向に所定距離を隔てた状態で配された透過側第一マイクロホン及び透過側第二マイクロホンと
を備えた垂直入射透過損失測定装置であって、
音源側第一マイクロホンが、音響管における試料よりも音源側の断面A上で点対称配置されたマイクロホンMA.1,MA.2、及び、断面A上でマイクロホンMA.1,MA.2に対して線対称配置されたマイクロホンMA.3,MA.4で構成され、
音源側第二マイクロホンが、音響管における断面Aから試料側に所定距離を隔てた断面B上で点対称配置されたマイクロホンMB.1,MB.2、及び、断面B上でマイクロホンMB.1,MB.2に対して線対称配置されたマイクロホンMB.3,MB.4で構成され、
透過側第一マイクロホンが、音響管における試料よりも透過側の断面C上で点対称配置されたマイクロホンMC.1,MC.2、及び、断面C上でマイクロホンMC.1,MC.2に対して線対称配置されたマイクロホンMC.3,MC.4で構成され、
透過側第二マイクロホンが、音響管における断面Cから透過側に所定距離を隔てた断面D上で点対称配置されたマイクロホンMD.1,MD.2、及び、断面D上でマイクロホンMD.1,MD.2に対して線対称配置されたマイクロホンMD.3,MD.4で構成される
とともに、
音源側第一マイクロホンを構成するマイクロホンMA.1,MA.2,MA.3,MA.4の出力信号の和、及び、音源側第二マイクロホンを構成するマイクロホンMB.1,MB.2, MB.3,MB.4の出力信号の和、並びに、透過側第一マイクロホンを構成するマイクロホンMC.1,MC.2,MC.3,MC.4の出力信号の和、及び、透過側第二マイクロホンを構成するマイクロホンMD.1,MD.2, MD.3,MD.4の出力信号の和をそれぞれ求める処理を行うことで、試料に対して垂直な方向に進行する成分を抽出できるようにした
ことを特徴とする垂直入射透過損失測定装置
を提供することによって解決される。
【0017】
このように、それぞれの断面A,B,C,Dに対称に配置された4つのマイクロホンの出力信号の和をとることによって、音響管の周方向で節が表れる(1,0)次音響モード及び(2,0)次音響モード等、試料に対して非垂直な方向(斜め方向)に伝搬する成分による影響をキャンセルすることが可能になる。換言すると、試料に対して垂直な方向に伝搬する成分を抽出することができる。このため、音響管の内径を小さくしなくても、垂直入射透過損失を高精度に測定することができる上限周波数を、(1,0)次音響モードや(2,0)次音響モード等、試料に対して非垂直な方向(斜め方向)に伝搬する成分が表れる周波数領域まで拡張することが可能になる。したがって、試料の寸法を大きくして、試料の取り付け方が測定結果に表れにくくすることも可能になる。
【0018】
ところが、入射音波の周波数が高くなるにつれて、(0,0)次音響モードと、(1,0)次音響モードと、(2,0)次音響モードとがこの順で伝搬し始めるところ、(2,0)次音響モードの次には、(0,1)次音響モードが伝搬し始める。この(0,1)次音響モードは、音響管の径方向で節が表れるモード(Radial mоde)である。このため、上記のように、それぞれの断面A,B,C,Dに対称に配置された4つのマイクロホンの出力信号の和をとるだけでは、この(0,1)次音響モードによる影響を除去することができず、高精度に測定することができる上限周波数が、(0,1)次音響モードのカットオン周波数未満に制限されてしまう。
【0019】
したがって、本発明の垂直入射透過損失測定装置においては、音源側第一マイクロホンを構成するマイクロホンMA.1,MA.2,MA.3,MA.4の音響中心、及び、音源側第二マイクロホンを構成するマイクロホンMB.1,MB.2, MB.3,MB.4の音響中心、並びに、透過側第一マイクロホンを構成するマイクロホンMC.1,MC.2,MC.3,MC.4の音響中心、及び、透過側第二マイクロホンを構成するマイクロホンMD.1,MD.2, MD.3,MD.4の音響中心を、音響管の内部における(0,1)次音響モードの節位置に重なる箇所に配することが好ましい。これにより、(0,1)次音響モードによる影響も除去することが可能になる。マイクロホンMA.1~MA.4及びマイクロホンMB.1~MB.4並びにマイクロホンMC.1~MC.4及びマイクロホンMD.1~MD.4の音響中心を音響管の内部における(0,1)次音響モードの節位置に完全に一致させることができれば、(0,1)次音響モードによる影響を完全に除去することも理論上は可能である。
【0020】
ただし、実際の垂直入射透過損失測定装置では、マイクロホンMA.1~MA.4及びマイクロホンMB.1~MB.4並びにマイクロホンMC.1~MC.4及びマイクロホンMD.1~MD.4の音響中心を音響管の内部における(0,1)次音響モードの節位置に完全に一致させることは容易ではない。マイクロホンMA.1~MA.4及びマイクロホンMB.1~MB.4並びにマイクロホンMC.1~MC.4及びマイクロホンMD.1~MD.4の音響中心が音響管における(0,1)次音響モードの節位置から僅かでもずれていると、(0,1)次音響モードによる影響が表れ始める。特に、(0,1)次音響モードが大きく励振されている場合には、僅かなずれでも、測定される垂直入射透過損失に(0,1)次音響モードによる影響が表れやすくなる。
【0021】
この点、上述した従来の垂直入射透過損失測定装置においては、音源となるスピーカの寸法が音響管の内径より小さくされることが多いが、この場合、音源自体が(0,1)次音響モードを発生してしまう。したがって、音響管内で(0,1)次音響モードが大きく励振され、垂直入射透過損失の測定結果に(0,1)次音響モードによる影響が大きく表れることが考えられる。音響管内で(0,1)次音響モードがなるべく発生しないようにするためには、音響管の内径と等しいフラット(ダイアフラム)な振動板を有する音源(スピーカ)を用いることが好ましい。しかしながら、広い周波数帯域で、このような音源を実現することは難しい。以上のことから、音源(スピーカ)の寸法にかかわらず、音響管内で(0,1)次音響モードが生じないようできる工夫について検討した。
【0022】
その結果、音源の音出力側に、音響管の(0,1)次音響モードの節位置に重ならない箇所を遮蔽して、前記節位置に重なる箇所に音透過部を有する仕切り部材を配置することを考えた。これにより、(0,1)次音響モードの節位置のみから音響管内に音が放射されるようにして、音響管内で(0,1)モードが励振されにくくすることが可能になる。したがって、マイクロホンMA.1~MA.4及びマイクロホンMB.1~MB.4並びにマイクロホンMC.1~MC.4及びマイクロホンMD.1~MD.4の音響中心が音響管の内部における(0,1)次音響モードの節位置に完全に一致していなくても、(0,1)次音響モードが、マイクロホンMA.1~MA.4及びマイクロホンMB.1~MB.4並びにマイクロホンMC.1~MC.4及びマイクロホンMD.1~MD.4に検知されにくくなり、(0,1)次音響モードによる影響が、測定される垂直入射透過損失に大きな影響を及ぼさないようにすることが可能になる。
【0023】
ところで、音源の音出力側に上記の仕切り部材を配しただけでは、反射率が高い試料(吸音率が低い試料)を測定した場合に、音響管内で大きな共鳴が発生し、コヒーレンスが低下して、垂直入射透過損失の測定結果が大きく乱れるおそれがある。このため、反射率が高い試料を測定する場合でも、音響管内で共鳴を抑制できる工夫について検討した。その結果、仕切り部材の透過側の面における音透過部に重ならない箇所に音源側吸音材を配することを考えた。これにより、試料で反射されて音源側に帰ってきた音を音源側吸音材で吸収し、音響管内に大きな共鳴が発生しないようにすることが可能になる。音源側吸音材の厚さ(音響管の軸線方向に平行な方向での吸音材の厚さ。以下同じ。)は、ある程度大きくした方が、音響管内での共鳴を抑制しやすくなる。
【0024】
ただし、音源側吸音材の厚さを大きくすると、共鳴の抑制効果は増大するものの、音源側吸音材の材料内部での音速が低下して、(0,1)次音響モードの節位置がずれ、(0,1)次音響モードが励振されるおそれがある。このため、音源側吸音材の材料内部に音が入り込まないようにする工夫について検討した。その結果、仕切り部材における音透過部の周縁から透過側に突出して、音源側吸音材を音響管の軸線方向に貫通する二重管壁部を設けることを考えた。これにより、音源から仕切り部材の音透過部に入った音が、前記二重管壁部の隙間を通って音響管内に放射されるようにし、音源側吸音材の材料内部に音が入り込まないようにすることができる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明によって、高い周波数まで垂直入射透過損失を測定できるものでありながら、音響管を太くして大きな試料を測定でき、試料の取り付け方による影響を小さく抑えることのできる垂直入射透過損失測定装置を提供することが可能になる。また、この垂直入射透過損失測定装置を用いた垂直入射透過損失測定方法を提供することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】従来の垂直入射透過損失測定装置の一例を示した図である。
【
図2】
図1に示した従来の垂直入射透過損失測定装置の計算モデルを示した図である。
【
図3】本発明の垂直入射透過損失測定装置の一例を示した図である。
【
図4】本発明の垂直入射透過損失測定装置における仕切り部材に対して音源側吸音材を組み付けている様子を示した図である。
【
図5】本発明の垂直入射透過損失測定装置による測定を数値シミュレーションする際に用いた計算モデルの概要を示した図である。
【
図6】本発明の垂直入射透過損失測定装置による測定を数値シミュレーションする際に用いた有限要素モデルを示した図である。
【
図7】本発明の垂直入射透過損失測定装置による測定を数値シミュレーションする際に用いた音源構造の有限要素モデルを示した図である。
【
図8】従来の垂直入射透過損失測定装置による測定を数値シミュレーションする際に用いた有限要素モデルを示した図である。
【
図9】弾性板からなる試料の垂直入射透過損失及び垂直入射吸音率について、本発明の垂直入射透過損失測定装置及び従来の垂直入射透過損失測定装置を用いて測定した場合における数値シミュレーションの結果を示したグラフである。
【
図10】多孔質体からなる試料の垂直入射透過損失及び垂直入射吸音率について、本発明の垂直入射透過損失測定装置及び従来の垂直入射透過損失測定装置を用いて測定した場合における数値シミュレーションの結果を示したグラフである。
【
図11】本発明の垂直入射透過損失測定装置における他の実施態様の仕切り部材に対して音源側吸音材を組み付けている様子を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
1. 本発明の垂直入射透過損失測定装置の構成
本発明の垂直入射透過損失測定装置について、図面を用いてより具体的に説明する。
図3は、本発明の垂直入射透過損失測定装置の一例を示した図である。
図3においては、音響管の内部を透視した状態で描いている。
【0028】
本発明の垂直入射透過損失測定装置は、
図3に示すように、音響管(「インピーダンス測定管」と呼ばれることもある。)と、スピーカ(音源)と、音源側第一マイクロホンM
A.1,M
A.2,M
A.3,M
A.4と、音源側第二マイクロホンM
B.1,M
B.2,M
B.3,M
B.4と、透過側第一マイクロホンM
C.1,M
C.2,M
C.3,M
C.4と、透過側第二マイクロホンM
D.1,M
D.2,M
D.3,M
D.4とを備えている。音響管は、軸線方向に垂直な断面の形状が線対称性及び点対称性を有する管状(
図3の例では円筒状)を為している。垂直入射透過損失を測定する対象の試料は、この音響管における軸線方向中途部分(
図3の例では中間部近傍)に収容される。音源は、音響管の始端側に取り付けられる。ここでは、音源としてホーンスピーカドライバユニットを用いている。上述した吸音終端条件下での測定を行うことができるよう、音響管の終端側は、透過側吸音材を取り付けて塞ぐことができるようになっている。
【0029】
音源側第一マイクロホンMA.1~MA.4は、音響管における試料よりも音源側の断面A上に配されており、音源側第二マイクロホンMB.1~MB.4は、音響管における断面Aよりも試料側の断面B上に配されている。このため、音源側第一マイクロホンMA.1~MA.4と、音源側第二マイクロホンMB.1~MB.4は、音響管における試料よりも音源側で、音響管の軸線方向に所定距離を隔てて配された状態となっている。音源側第一マイクロホンMA.1~MA.4は、断面A上で点対称配置されたマイクロホンMA.1,MA.2と、断面A上でマイクロホンMA.1,MA.2に対して線対称配置されたマイクロホンMA.3,MA.4とで構成されている。音源側第二マイクロホンMB.1~MB.4は、断面B上で点対称配置されたマイクロホンMB.1,MB.2と、断面B上でマイクロホンMB.1,MB.2に対して線対称配置されたマイクロホンMB.3,MB.4とで構成されている。
【0030】
また、透過側第一マイクロホンMC.1~MC.4は、音響管における試料よりも透過側の断面C上に配されており、透過側第二マイクロホンMD.1~MD.4は、音響管における断面Cよりも透過側の断面D上に配されている。このため、透過側第一マイクロホンMC.1~MC.4と、透過側第二マイクロホンMD.1~MD.4は、音響管における試料よりも透過側で、音響管の軸線方向に所定距離を隔てて配された状態となっている。透過側第一マイクロホンMC.1~MC.4は、断面C上で点対称配置されたマイクロホンMC.1,MC.2と、断面C上でマイクロホンMC.1,MC.2に対して線対称配置されたマイクロホンMC.3,MC.4とで構成されている。透過側第二マイクロホンMD.1~MD.4は、断面D上で点対称配置されたマイクロホンMD.1,MD.2と、断面D上でマイクロホンMD.1,MD.2に対して線対称配置されたマイクロホンMD.3,MD.4とで構成されている。
【0031】
このように、本発明の垂直入射透過損失測定装置では、試料の音源側の断面A,Bに、音源側第一マイクロホンMA.1~MA.4及び音源側第二マイクロホンMB.1~MB.4をそれぞれ対称に配置して、試料の透過側の断面C,Dに、透過側第一マイクロホンMC.1~MC.4及び透過側第二マイクロホンMD.1~MD.4をそれぞれ対称に配置するところ、音源側第一マイクロホンを構成するマイクロホンMA.1~MA.4の出力信号の和、及び、音源側第二マイクロホンを構成するマイクロホンMB.1~MB.4の出力信号の和、並びに、透過側第一マイクロホンを構成するマイクロホンMC.1~MC.4の出力信号の和、及び、透過側第二マイクロホンを構成するマイクロホンMD.1~MD.4の出力信号の和をとるようにしている。
【0032】
具体的には、音源側第一マイクロホンM
A.1~M
A.4の位置ベクトルをそれぞれr
A.1~r
A.4とし、音源側第二マイクロホンM
B.1~M
B.4の位置ベクトルをそれぞれr
B.1~r
B.4とし、透過側第一マイクロホンM
C.1~M
C.4の位置ベクトルをそれぞれr
C.1~r
C.4とし、音源側第二マイクロホンM
D.1~M
D.4の位置ベクトルをそれぞれr
D.1~r
D.4とし、位置ベクトルrで表わされる点の音圧信号をp(r)で表わすことにすると、下記式20~23で表わされる音圧信号(音圧)の和p
A,p
B,p
C,p
Dをとり、この音圧信号の和p
A,p
B,p
C,p
Dから試料の垂直入射透過損失を求めるようにしている。
【数20】
【数21】
【数22】
【数23】
【0033】
このように、それぞれの断面A,B,C,Dに対称に配置された4つのマイクロホンの出力信号の和pA,pB,pC,pDをとることによって、音響管の周方向で節が表れる(1,0)次音響モードや、(2,0)次音響モードや、(3,0)次音響モード等、試料に対して非垂直な方向(斜め方向)に伝搬する成分を、音場の対称性により相殺させ、試料に対して垂直な方向に伝搬する成分を抽出することができる。このため、音響管の内径を小さくすることなく、垂直入射透過損失を高精度に測定することができる上限周波数を高めることができる。したがって、試料の寸法を大きくして、試料の取り付け方が測定結果に表れにくくすることができる。
【0034】
断面A,B,C,Dにおける音圧信号(音圧)の和p
A,p
B,p
C,p
Dから、試料の垂直入射透過損失を求める方法について説明する。従来法で述べたように、垂直入射透過損失を求めるためには、試料に対して垂直な方向に進行する成分の音波による試料のオモテ面における音圧p
0及び粒子速度v
0並びに試料のウラ面における音圧p
d及び粒子速度v
dを、異なる2つの条件(吸音終端条件及び開放条件)下で測定する必要があるところ、音圧p
0及び粒子速度v
0並びに音圧p
d及び粒子速度v
dは、断面A,B,C,Dにおける音圧信号(音圧)の和p
A,p
B,p
C,p
Dを用いて、それぞれ下記式24~26で表わすことができる。ただし、x
A,x
B,x
C,x
Dは、それぞれ、試料のオモテ面から断面A,B,C,Dまでの距離である。また、s
1は、断面Aと断面Bとの距離であり、s
2は、断面Cと断面Dとの距離である。
【数24】
【数25】
【数26】
【数27】
【0035】
上記式24~27に示すように、断面A,B,C,Dにおける音圧信号(音圧)の和pA,pB,pC,pDから、音圧p0及び粒子速度v0並びに音圧pd及び粒子速度vdを求めることができる。このため、音圧p0及び粒子速度v0並びに音圧pd及び粒子速度vdを異なる2つの条件(吸音終端条件及び開放条件)下で測定すれば、後は、従来法と同じ上記式6~19を用いて、垂直入射透過損失を求めることができる。また、垂直入射吸音率を求めることもできる。
【0036】
しかし、既に述べたように、入射音波の周波数を高くしていくと、(2,0)次音響モードの次には((3,0)次音響モードが伝搬し始めるよりも前に)、音響管の径方向で節が表れる(0,1)次音響モードが伝搬し始めるところ、それぞれの断面A,B,C,Dに対称に配置された4つのマイクロホンの出力信号の和をとるだけでは、この(0,1)次音響モードによる影響を除去することができず、垂直入射透過損失を高精度に測定することができる上限周波数が、(0,1)次音響モードのカットオン周波数未満に制限されてしまう。
【0037】
このため、本実施形態の垂直入射透過損失測定装置では、
図3に示すように、音源側第一マイクロホンM
A.1~M
A.4、音源側第二マイクロホンM
B.1~M
B.4、透過側第一マイクロホンM
C.1~M
C.4、及び、透過側第二マイクロホンM
D.1~M
D.4の音響中心を、音響管の内部における(0,1)次音響モードの節位置に重なるように配置している。これにより、(0,1)次音響モードによる影響も除去し、(1,0)次音響モード、(2,0)次音響モード、(0,1)次音響モード及び(3,0)次音響モードが伝搬する周波数領域において、試料に対して垂直に進行する成分のみを分離して抽出することができるようになる。すなわち、垂直入射透過損失を高精度で測定できる上限周波数を、(4,0)次音響モードのカットオン周波数まで拡張することができる。
【0038】
ただし、音源側第一マイクロホンM
A.1~M
A.4及び音源側第二マイクロホンM
B.1~M
B.4並びに透過側第一マイクロホンM
C.1~M
C.4及び透過側第二マイクロホンM
D.1~M
D.4の音響中心を音響管の内部における(0,1)次音響モードの節位置に完全に一致させることは容易ではない。また、反射率が高い試料(吸音率が低い試料)を測定する場合には、音響管内で大きな共鳴が発生し、コヒーレンスが低下して、垂直入射透過損失の測定結果が大きく乱れるおそれがある。このため、本実施形態の垂直入射透過損失測定装置においては、
図3に示すように、音源の音出力側(音響管の始端側)に、仕切り部材と音源側吸音材を配置している。
【0039】
図4は、本発明の垂直入射透過損失測定装置における仕切り部材に対して音源側吸音材を組み付けている様子を示した図である。仕切り部材は、
図4に示すように、板状部と二重管壁部とを有している。仕切り部材における板状部には、円環状の音透過部(スリット)が設けられている。このスリットは、音響管の(0,1)次音響モードの節位置に重なる箇所に設けている。換言すると、仕切り部材における板状部は、音響管の(0,1)次音響モードの節位置に重ならない箇所を遮蔽するようになっている。仕切り部材における二重管壁部は、板状部のスリットの周縁から透過側に突出されており、音源側吸音材を音響管の軸線方向に貫通する状態に設けられている。
【0040】
上記のように、(0,1)次音響モードの節位置に重なる箇所にスリットを有する仕切り部材を用いることで、(0,1)次音響モードの節位置のみから音響管内に音が放射されるようにして、音響管内で(0,1)モードが励振されにくくすることが可能となっている。したがって、音源側第一マイクロホンMA.1~MA.4及び音源側第二マイクロホンMB.1~MB.4並びに透過側第一マイクロホンMC.1~MC.4及び透過側第二マイクロホンMD.1~MD.4の音響中心が音響管の内部における(0,1)次音響モードの節位置に完全に一致していなくても、(0,1)次音響モードが、音源側第一マイクロホンMA.1~MA.4及び音源側第二マイクロホンMB.1~MB.4並びに透過側第一マイクロホンMC.1~MC.4及び透過側第二マイクロホンMD.1~MD.4に検知されにくくなり、(0,1)次音響モードによる影響が、測定される垂直入射透過損失に大きな影響を及ぼさないようにすることが可能になる。
【0041】
また、上記のように、音源側吸音材を設けることで、試料で反射されて音源側に返ってきた音を音源側吸音材で吸収し、音響管内に大きな共鳴が発生しないようにすることが可能となっている。音源側吸音材の厚さ(音響管の軸線方向に平行な方向での厚さ)を大きくした方が、音響管内での共鳴を抑制しやすくなる。ただし、音源側吸音材の厚さを大きくすると、共鳴の抑制効果は増大するものの、音源側吸音材の材料内部での音速が低下して、(0,1)次音響モードの節位置がずれ、(0,1)次音響モードが励振されるおそれがある。この点、本実施形態の垂直入射透過損失測定装置では、仕切り部材の板状部におけるスリットを透過した音が二重管壁部の隙間を通って音響管内に放射されるようになっており、音源側吸音材の材料内部に音が入り込まないようにすることで、(0,1)次音響モードの節位置がずれないようにすることが可能となっている。
【0042】
ただし、仕切り部材を設けると、周波数によって、音響管内に放射される音圧レベルが低下し、測定される垂直入射透過損失のS/N比が低下するおそれがある。測定される垂直入射透過損失のS/N比を高めるためには、音響管内に放射される音圧レベルを高く維持することが好ましい。このため、上記の仕切り板を設けながらも、音響管内に放射される音圧レベルの低下を抑える工夫について検討した。
【0043】
その結果、音源と仕切り部材との間に形成される空間(音源前側空間)の直径を、音響管の内径よりも小さくすることを考えた。これにより、音響管内に放射される音圧レベルを高く維持することが可能になる。すなわち、音響管の(0,1)次音響モードが音源前側空間で励振されることがあると、音源前側空間における前記音透過部の付近で音圧が大きく低下し、前記音透過部を通じて音源前側空間から音響管内に音が放射されにくくなるところ、音源前側空間の直径を音響管の内径よりも小さくすることで、音源前側空間の固有振動数を音響管の固有振動数よりも高くして、音源前側空間における前記音透過部の付近で音圧が大きく低下しないようにすることが可能になる。
【0044】
ところで、(0,1)次音響モードを励振しない構造としては、
図4に示した構造のほか、
図11に示すように、仕切り部材の板状部における(0,1)次音響モードの節位置に重なって環状配置した複数の貫通孔で音透過部を構成したものも考えられる。
図11に示す構造の仕切り部材を用いた場合も、
図4に示す構造の仕切り部材を用いた場合と同様に、(0,1)次音響モードの節位置から音響管内に音が放射されるようになるため、(0,1)次音響モードが励振されない。また、4個以上の貫通孔(音透過部)を音響管の軸線に対して対称に配置することで、測定対象領域で伝搬可能な(1,0)次音響モード、(2,0)次音響モード及び(3,0)次音響モードも励振されなくなる。つまり、測定対象領域で(0,0)次音響モードのみが励振可能と考えられる。
【0045】
また、
図4に示す構造の仕切り部材における板状部の音透過側に二重管壁部を設けたのと同様の理由で、
図11に示す構造の仕切り部材を用いる場合には、音透過部を構成する複数の貫通孔を仕切り部材における板状部の音透過側に延長する形で、それぞれの貫通孔の外周縁から音響管内に管状に突出する複数の管状部を設けることが好ましい。これら複数の管状部が音源側吸音材を貫通する状態に設けることで、(0,1)次音響モードの節位置から音響管内に音を放射しつつ、音響管内の共鳴を抑制することができる。
【0046】
以上では、音響管の4つの断面A,B,C,Dのそれぞれにマイクロホン(音源側第一マイクロホン及び音源側第二マイクロホン、並びに、透過側第一マイクロホン及び透過側第二マイクロホン)を4つずつ配置する場合について説明したところ、断面A,B,C,Dのそれぞれには、マイクロホンを4つ以上(例えば8つずつ)配置してもよい。これにより、(4,0)次音響モードや(5,0)次音響モードによる影響も除去することが可能になる。ただし、(1,1)次音響モードで環状に形成される節の位置が(0,1)次音響モードで環状に形成される節の位置からずれるため、音響管の断面A,B,C,Dのそれぞれにマイクロホンを8つずつ配置しても、(1,1)次音響モードによる影響を除去することができない。したがって、音響管の断面A,B,C,Dのそれぞれにマイクロホンを8つずつ配置した場合には、垂直入射透過損失や垂直入射吸音率を測定することができる上限周波数は、(1,1)次音響モードのカットオン周波数になる。
【0047】
2. 数値シミュレーションによる検証
本発明の垂直入射透過損失測定装置を用いて、伝達マトリックス(上記式5~11)や、垂直入射透過損失TL(上記式13)や、垂直入射吸音率α0(上記式18)が実際に測定できるかを確認するため、数値シミュレーションを行った。
【0048】
2.1 数値シミュレーションの方法
数値シミュレーションには、シーメンスPLMソフトウェア社が提供する「Simcenter 3D」を用い、有限要素法により計算を行った。計算モデルの概要を
図5に示す。音響管は、音源側の長さ400mmの部分と透過側の長さ400mmの部分との間に長さ100mmの試料ホルダを挟む構造のものとした。音源側第一マイクロホンM
A.1~M
A.4は、試料のウラ面から音源側に220mmの位置に、音源側第二マイクロホンM
B.1~M
B.4は、試料のウラ面から音源側に200mmの位置に設置した。また、透過側第一マイクロホンM
C.1~M
C.4は、試料のウラ面から透過側に100mmの位置に、透過側第二マイクロホンM
D.1~M
D.4は、試料のウラ面から透過側に120mmの位置に設置した。音源側第一マイクロホンM
A.1~M
A.4及び音源側第二マイクロホンM
B.1~M
B.4、並びに、透過側第一マイクロホンM
C.1~M
C.4及び透過側第二マイクロホンM
D.1~M
D.4の音響中心(観測点)は、音響管の内部における(0,1)次音響モードの節位置に重なる位置に配置した。
【0049】
既に述べたように、伝達マトリックス(上記式5~11)を求めるためには、異なる2つの条件下で測定(ここでは数値シミュレーション)を行う必要があるところ、その2つの条件として吸音終端条件と開放条件とを用いる場合について既に説明した。本数値シミュレーションにおいても、音響管における透過側の端部(終端)が開放されている条件(開放条件)と、音響管における透過側の端部(終端)に長さ100mmの部分を継ぎ足し、その継ぎ足した部分に厚さ100mmの透過側吸音材を充填した条件(吸音終端条件)とのそれぞれについて数値シミュレーションを行い、各観測点における音圧を求めた。透過側吸音材は、PETフェルトで定義した。その結果から、伝達マトリクス(上記式5~11)を算出し、最終的に垂直入射透過損失TL(上記式13)及び垂直入射吸音率α0(上記式18)を算出した。
【0050】
計算に用いた有限要素モデルの例を
図6に示す。
図6は、試料を厚さ1mmの弾性板(ゴム板)とした場合のモデルである。この弾性板(ゴム板)は、非通気材料として定義した。このほか、試料として、厚さ25mmの多孔質体とした場合についても、数値シミュレーションを行った。この多孔質体は、剛な骨格(振動しない骨格)を有するメラミン樹脂フォームで定義した。試料を弾性板とした場合においては、音響モデルと構造モデルを連成して解析を行った。構造モデルは、ソリッド要素を用い、まず、実固有値解析を行った。弾性板の周囲は、音響管の内壁に固定されているものとし、弾性板のメッシュ周囲は、固定支持の境界条件を定義した。連成解析の実行時には、構造モデルに実固有値解析を読み込み、モード座標系を用いた。試料を多孔質体とした場合のモデル化には、Jоhnsоn-Champоux-Allardモデルを用いた。
図6(a)に示す開放条件の場合には、音響管の透過側の端部(終端)に球状の空間を定義し、その球面上に無反射条件を定義した。
【0051】
また、音源構造としては、
図7に示す有限要素モデルで定義されるものを採用した。これは、
図4に示される仕切り部材と音源側吸音材を再現したものである。仕切り部材は、(0,1)次音響モードの節位置に重なるスリット(音透過部)を有する板状部分と、当該板状部分におけるスリット(音透過部)の周縁から透過側に突出する二重管壁部とを有するものとした。音源側吸音材は、試料からの反射波が音源側で再び反射するのを防ぐためのものである。この音源側吸音材は、ウレタンフォーム吸音材料で定義した。
【0052】
さらに、本数値シミュレーションにおいては、従来の垂直入射透過損失測定装置(
図1)と比較できるように、
図8に示す有限要素モデルでも計算も行った。このモデルでは、従来の垂直入射透過損失測定装置を模擬するため、音源としてスピーカユニットから直接的に音を放射する場合を想定し、音響管の音源側の端部(始端)における直径60mmの領域が均一に振動する境界条件を与えた。マイクロホンは、試料のウラ面から音源側に220mmの位置と、試料のウラ面から音源側に200mmの位置と、試料のウラ面から透過側に100mmの位置と、試料のウラ面から透過側に120mmの位置とに1つずつ計4つを配置し、その音響中心(観測点)を、音響管の内壁に一致させた。従来の垂直入射透過損失測定装置において特に言及しない条件については、本発明の垂直入射透過損失測定装置の条件に揃えた。
【0053】
2.2 数値シミュレーションの結果
2.2.1 試料を弾性板とした場合
試料を弾性板(厚さ1mmのゴム板)とした場合の数値シミュレーションの結果を
図9に示す。
図9(a)は、垂直入射透過損失の計算結果を示し、
図9(b)は、垂直入射吸音率の計算結果を示す。
図9には、従来の垂直入射透過損失測定装置で数値シミュレーションを行った結果(凡例における「比較例1.1」)と、本発明の垂直入射透過損失測定装置で数値シミュレーションを行った結果(凡例における「実施例1」)とを示す。また、
図9(a)には、質量側に則って単層板の垂直入射透過損失を理論的に求めた結果(凡例における「比較例1.2」)も示している。
【0054】
図9(a)を見ると、従来の垂直入射透過損失測定装置(比較例1.1)では、2000Hzを超えたあたりから、垂直入射透過損失に細かな乱れが生じ始め、4000Hzを超えたあたりから、垂直入射透過損失が大きく乱れていることが分かる。これは、音響管内を伝搬する高次の音響モードによる影響が表れたためと考えられる。これに対し、本発明の垂直入射透過損失測定装置(実施例1)では、6000Hz付近まで、垂直入射透過損失が滑らかな曲線を描いていることに加えて、ほぼ質量則に沿った垂直入射透過損失が算出されていることが分かる。このことから、本発明の垂直入射透過損失測定装置を用いると、高周波数領域まで垂直入射透過損失を正しく測定できる可能性があることが分かった。
【0055】
また、
図9(b)を見ると、従来の垂直入射透過損失測定装置(比較例1.1)では、2000Hzを超えたあたりから、垂直入射吸音率に乱れが生じていることが分かる。弾性板を非通気性のゴム板と定義した本数値ミューレーションにおいて、垂直入射吸音率は、本来、ゼロに近い値になると考えられる。にもかかわらず、従来の垂直入射透過損失測定装置(比較例1.1)では、垂直入射吸音率がゼロから大きく乱れていることから、垂直入射吸音率について正しい評価ができていないことが分かる。これに対し、本発明の垂直入射透過損失測定装置(実施例1)では、6000Hz付近まで、垂直入射吸音率がほぼゼロに近い値をとっていることが分かる。このことから、本発明の垂直入射透過損失測定装置を用いると、高周波数領域まで垂直入射吸音率を正しく測定できる可能性があることが分かった。
【0056】
2.2.2 試料を多孔質体とした場合
次に、試料を多孔質体(厚さ25mmのメラミン樹脂フォーム)とした場合の数値シミュレーションの結果を
図10に示す。
図10(a)は、垂直入射透過損失の計算結果を示し、
図10(b)は、垂直入射吸音率の計算結果を示す。
図10には、従来の垂直入射透過損失測定装置で数値シミュレーションを行った結果(凡例における「比較例2.1」)と、本発明の垂直入射透過損失測定装置で数値シミュレーションを行った結果(凡例における「実施例2」)とを示す。また、
図10には、従来の垂直入射透過損失測定装置(比較例2.1で使用したもの)において、音響管を内径29mmの細管とした場合の結果(凡例における「比較例2.2」)も示している。
【0057】
図10(a),(b)を見ると、従来の垂直入射透過損失測定装置(比較例2.1)においては、垂直入射透過損失と垂直入射吸音率のいずれについても、4200Hzを超えたあたりから、計算結果が大きく乱れており、音響管として細管を用いた従来の垂直入射透過損失測定装置(比較例2.2)による計算結果と異なる値を取っていることが分かる。この4200Hzという値は、(0,1)次音響モードのカットオン周波数にほぼ一致している。また、従来の垂直入射透過損失測定装置(比較例2.1)においては、試料に対して非垂直な方向(斜め方向)に伝搬する成分による影響が、(1,0)次音響モードのカットオン周波数以上で表れると考えられるところ、
図10(a),(b)を見ると、従来の垂直入射透過損失測定装置(比較例2.1)による計算結果に、小さな乱れが生じている。本来、その乱れはさらに大きくなることが予想されるところ、本数値シミュレーションでは、音響管の解析モデルを、その中心軸に対して回転対称な完全な円筒として定義したため、(1,0)次音響モード等、音響管の周方向で節が表れるモードが励振されない条件となっている。このため、従来の垂直入射透過損失測定装置(比較例2.1)でも、試料に対して非垂直な方向(斜め方向)に伝搬する成分による影響がその程度に抑えられたと考えられる。
【0058】
これに対し、本発明の垂直入射透過損失測定装置(実施例2)においては、垂直入射透過損失と垂直入射吸音率のいずれについても、6000Hz付近まで滑らかな測定結果が得られており、音響管として細管を用いた従来の垂直入射透過損失測定装置(比較例2.2)による測定結果とよく一致している。このことから、本発明の垂直入射透過損失測定装置を用いると、高周波数領域((4,0)次音響モードのカットオン周波数)まで垂直入射透過損失及び垂直入射吸音率を正しく測定できる可能性があることが分かった。