(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022035083
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
B23B 29/24 20060101AFI20220225BHJP
【FI】
B23B29/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020139161
(22)【出願日】2020-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000137856
【氏名又は名称】シチズンマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北沢 和敏
【テーマコード(参考)】
3C046
【Fターム(参考)】
3C046NN02
3C046NN06
3C046NN11
(57)【要約】
【課題】工具ユニットの周囲に大きな空間を確保する必要が無く、かつ、この工具ユニットの旋回する角度を制限する必要が無い工作機械を提供する。
【解決手段】自動旋盤100は、ワークWを保持する正面主軸20と、周面が複数のタレット面31n,31c,…,31kに分割されて、これらのタレット面31n,31c,…,31kに工具40,61,62,63,64,65が装着され、Z軸回りに旋回することにより選択されたいずれかの工具により、ワークWに加工を施すタレット31と、を備え、タレット31は、タレット面のうち少なくとも1つのタレット面31nが、残りの他のタレット面31c~31kに比べて、Z軸からの距離が短く設定されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを保持する主軸と、
旋回軸回りの周面及び前記旋回軸に直交する端面を有し、前記周面が複数の取付面に分割されて、前記複数の取付面に工具が装着され、前記旋回軸回りに旋回することにより選択された旋回位置で、いずれかの前記工具により、前記ワークに加工を施すタレットと、を備え、
前記タレットは、前記取付面のうち少なくとも1つの取付面が、残りの他の前記取付面に比べて、前記旋回軸からの距離が短く設定されている工作機械。
【請求項2】
前記他の取付面に比べて前記旋回軸からの距離が短く設定されている取付面に取り付けられる工具は、前記他の取付面に取り付けられた工具よりも、前記端面の側にオフセットした位置に取り付けられている請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記他の取付面に比べて前記旋回軸からの距離が短く設定されている取付面に取り付けられた工具が、前記取付け面に直交する軸回りに旋回する回転工具である請求項1又は2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記タレットは、前記主軸の軸方向に直交する面内で移動自在で、
前記他の取付面に比べて前記軸からの距離が短く設定されている取付面に取り付けられた前記回転工具が、前記タレットが前記旋回位置とは異なる位置に旋回した状態で回転可能に設定され、
前記タレットが旋回した状態における前記回転工具の傾きに対応して、前記主軸を回転させて前記ワークの位相を調整する請求項1から3のうちいずれか1項に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タレットを備えた工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
周面が複数の取付面に分割されて、各取付面に工具装着部を備えたタレットと、ワークを保持する主軸と、を備えた工作機械が知られている(例えば、特許文献1参照)。この工作機械は、タレットが、選択されたいずれかの工具装着部に装着された工具で、主軸に保持されたワークを加工できるように旋回自在に設けられている。
【0003】
また、工具装着部に、主軸に対する角度を変化させる割り出しを行うことができる、いわゆるB軸旋回(Y軸を中心とした回転)の工具ユニットを取り付けた工作機械も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-225802号公報
【特許文献2】特開2013-226611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、B軸旋回の工具ユニットは、その工具ユニットが取り付けられている取付面の軸(取付面に直交するY軸)回りに旋回するため、工具ユニットが旋回によって周囲(例えば、主軸やカバー等)と干渉しないように、周囲に大きな空間を確保する必要がある。
【0006】
また、そのような大きな空間を確保できない工作機械では、B軸旋回の工具ユニットの旋回する角度を、周囲と干渉しない範囲に制限する必要がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであって、工具ユニットの周囲に大きな空間を確保する必要が無く、かつ、この工具ユニットの旋回する角度を制限する必要が無い工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ワークを保持する主軸と、旋回軸回りの周面及び前記旋回軸に直交する端面を有し、前記周面が複数の取付面に分割されて、前記複数の取付面に工具が装着され、前記旋回軸回りに旋回することにより選択された旋回位置で、いずれかの前記工具により、前記ワークに加工を施すタレットと、を備え、前記タレットは、前記取付面のうち少なくとも1つの取付面が、残りの他の前記取付面に比べて、前記旋回軸からの距離が短く設定されている工作機械である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る工作機械によれば、工具ユニットの周囲に大きな空間を確保する必要が無く、かつ、この工具ユニットの旋回する角度を制限する必要が無い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態である自動旋盤の主要な構成を示す斜視図である。
【
図2】第1タレット刃物台のZ軸に沿った断面図である。
【
図3】第1タレット刃物台を、第1タレット刃物台の、Z軸方向の前方から見た後方を見た正面図である。
【
図4】正面主軸、第1タレット刃物台、背面主軸及び第2タレット刃物台の各一部を含む空間を加工室として仕切った様子を模式的に示した平面図であり、第1タレット刃物台が正面主軸から遠ざかった状態を示す。
【
図5】正面主軸、第1タレット刃物台、背面主軸及び第2タレット刃物台の各一部を含む空間を加工室として仕切った様子を模式的に示した平面図であり、第1タレット刃物台が正面主軸に近づいた状態を示す。
【
図6】タレットが通常ポジションにあるとき、上側ポジションにあるとき及び下側ポジションにあるときの、工具で加工することができる加工可能範囲を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る工作機械の一例である自動旋盤100について、図面を参照して説明する。
【0012】
図1は本発明の一実施形態である自動旋盤100の主要な構成を示す斜視図である。図示の自動旋盤100は、ベッド10に、正面主軸20、第1タレット刃物台30、背面主軸80及び第2タレット刃物台90が設置されている。
【0013】
正面主軸20は、先端にコレットチャックを備え、このコレットチャックにより、棒状のワークWを保持する。正面主軸20は、その軸の延びた方向であるZ軸回りに回転可能で、これにより、保持したワークWを軸(Z軸)回りに回転させることができる。
【0014】
背面主軸80は、正面主軸20のZ軸方向の前方(正面主軸20の前端よりもZ軸方向の前側)に対向して配置されている。背面主軸80も、先端にコレットチャックを備え、このコレットチャックにより、正面主軸20に保持されたワークWを背面主軸80が受け取って保持することができる。
【0015】
背面主軸80も、その主軸の延びた方向であるZ軸回りに回転可能で、これにより、保持したワークWを軸(Z軸)回りに回転させることができる。
【0016】
背面主軸80は背面主軸X軸スライド14bに設置されている。背面主軸X軸スライド14bは、背面主軸Z軸スライド14aに設置されている。背面主軸Z軸スライド14aはベッド10に対して、Z軸方向に移動自在であり、背面主軸X軸スライド14bは背面主軸Z軸スライド14aに対してX軸方向に移動自在である。X軸は水平面に対して、所定の角度(例えば、約60[度])だけ傾斜して設定されている。
【0017】
これにより、背面主軸80は、ベッド10に対して、Z軸方向とX軸方向に移動自在に設置されている。
【0018】
第1タレット刃物台30は、正面主軸20のZ軸方向の前方(正面主軸20の前端よりもZ軸方向の前側)で背面主軸80と並列に配置されている。第1タレット刃物台30は、正面主軸20に把持されたワークW(
図4参照)や背面主軸80に把持されたワークWに対して、所定の工具により機械加工を施す。
【0019】
第1タレット刃物台30は第1刃物台Y軸スライド16に設置され、第1刃物台Y軸スライド16は第1刃物台X軸スライド15に設置され、第1刃物台X軸スライド15は第1刃物台Z軸スライド17に設置されている。
【0020】
第1刃物台Z軸スライド17は、ベッド10に対してZ軸方向に沿って移動自在に設置されている。第1刃物台X軸スライド15は、Z軸方向に直交するX軸方向に沿って移動自在に、第1刃物台Z軸スライド17に設置されている。第1刃物台Y軸スライド16は、Z軸方向及びX軸方向に直交するY軸方向に沿って移動自在に、第1刃物台X軸スライド15に設置されている。
【0021】
第1タレット刃物台30は、第1刃物台X軸スライド15が第1刃物台Z軸スライド17に対してX軸方向に移動することで、正面主軸20に把持されて正面主軸20の前端から突出したワークWに対してX軸方向に移動し、第1刃物台Y軸スライド16が第1刃物台X軸スライド15に対してY軸方向に移動することで、正面主軸20に把持されて正面主軸20の前端から突出したワークWに対してY軸方向に移動する。背面主軸80に把持されて背面主軸80の前端から突出したワークWに対しても同様である。
【0022】
第2タレット刃物台90は、背面主軸80のZ軸方向の前方(背面主軸80の前端よりもZ軸方向の前側)に対向して配置されている。第2タレット刃物台90は、背面主軸80に把持されたワークWや背面主軸80に把持されたワークWに対して、工具により機械加工を施す。
【0023】
第2タレット刃物台90は第2刃物台傾斜Y軸スライド13に設置され、第2刃物台傾斜Y軸スライド13は第2刃物台X軸スライド12に設置され、第2刃物台X軸スライド12は第2刃物台Z軸スライド11に設置されている。
【0024】
第2刃物台Z軸スライド11は、ベッド10に対してZ軸方向に沿って移動自在に設置されている。第2刃物台X軸スライド12は、X軸方向に沿って移動自在に、第2刃物台Z軸スライド11に設置されている。第2刃物台傾斜Y軸スライド13は、Z軸方向に直交し、かつY軸に対して所定の角度で交差した傾斜Y軸方向に沿って移動自在に、第2刃物台X軸スライド12に設置されている。
【0025】
第2タレット刃物台90は、第2刃物台X軸スライド12が第2刃物台Z軸スライド11に対してX軸方向に移動することで、背面主軸80に把持されて背面主軸80の前端から突出したワークに対してX軸方向に移動し、第2刃物台傾斜Y軸スライド13が第2刃物台X軸スライド12に対して傾斜Y軸方向に移動することで、背面主軸80に把持されて背面主軸80の前端から突出したワークWに対して傾斜Y軸方向に移動する。
【0026】
なお、第2刃物台傾斜Y軸スライド13による傾斜Y軸方向への移動と、第2刃物台X軸スライド12によるX軸方向への移動とを組み合わせて行うことにより、第2タレット刃物台90を、あたかもY軸方向に動いているように移動させることができる。
【0027】
図2は第1タレット刃物台30のZ軸に沿った断面図、
図3は第1タレット刃物台30を、第1タレット刃物台30の、Z軸方向の前方から見た後方を見た正面図である。
【0028】
第1タレット刃物台30は、
図2に示すように、本体部35とタレット31と延長部39とを備える。本体部35とタレット31と延長部39とは、この順序でZ軸方向に沿って、前方に向かって並んだ配置となっている。
【0029】
本体部35には、Z軸方向に延びた回転軸36a及び回転軸36aと同軸の旋回軸36bを備えている。回転軸36a及び旋回軸36bは、いずれも、軸回りに回転自在である。回転軸36aと旋回軸36bとは、別個に独立して回転する。
【0030】
回転軸36aは、Z軸回りに回転することにより、タレット31に取り付けられたドリル刃等の回転工具を、その回転工具の軸回りに回転させる。
【0031】
旋回軸36bは、回転軸36aの半径方向の外側に配置された管状に形成されている。旋回軸36bは、軸回りに回転することにより、タレット31を、本体部35に対してZ軸回りに旋回させる。
【0032】
タレット31は、
図2,3に示すように、Z軸方向の前方から見た場合に、外形が角柱状に形成されている。タレット31は、その角柱の軸をZ軸に沿わせた状態で、Z軸回りに旋回軸36bを回転させることにより旋回可能に、本体部35に取り付けられている。
【0033】
タレット31の、旋回軸36bに直交する、Z軸方向の前側に位置する先端面31zには、先端面31zからZ軸方向に突出した延長部39が固定されている。延長部39はタレット31と一体に、旋回軸36b回りに回転する。延長部39の内部には、後述する回転工具ユニット40を旋回させるための動力源である旋回用モータ38が設けられている。
【0034】
タレット31は、角柱の軸回りの周面が、10個の平らなタレット面31n,31c,31d,31e,31f,31g,31h,31i,31j,31kに分割されている。タレット面31c~31kは、周方向に沿った長さが等しく、また、タレット31の旋回中心(Z軸)からの寸法も等しい。
【0035】
一方、タレット面31nは、他のタレット面31c~31kに比べて、周方向に沿った寸法が長く、かつ、タレット31の旋回中心(Z軸)からの寸法が短い。
【0036】
ここで、他の9つのタレット面31c~31kと異なる1つのタレット面31nについて、詳しく説明する。タレットは、一般的に、旋回軸回りの重量バランスが均等になるように、全てのタレット面が、周方向に沿った寸法も旋回中心からの寸法も等しく設定されている。すなわち、一般的なタレットは、正多角形の角柱状に形成されている。
【0037】
本実施形態のタレット31も、基本的な構造は、タレット面31nの代わりに、
図3において二点鎖線で示す3つの仮想的なタレット面31a,31b,31mを形成したとき、他の9つのタレット面31c~31kと合わせて、正12角形の角柱状に形成される。
【0038】
なお、3つの仮想的なタレット面31a,31b,31mは、他の9つのタレット面31c~31kと、周方向に沿った長さが等しく、また、タレット31の旋回中心(Z軸)からの寸法も等しい。
【0039】
つまり、本実施形態のタレット31は、仮想的な正12角形の角柱状の一般的なタレットにおいて、タレット面31kとタレット面31cとの間に形成される3つのタレット面31m,31a,31bに代えて、単一の平らなタレット面31nを形成したものである。
【0040】
これにより、本実施形態のタレット31は、形態的には、正12角形の角柱状の一般的なタレットを基準とした場合、角柱の周方向に連続する3つのタレット面31m,31a,31bを一つの平面によって切り欠いて、その切り欠いた平面を、単一のタレット面31nとして形成したものと表現することができる。
【0041】
ただし、この実施形態のタレット31は、正12角形の角柱状を基準とする外形に対して、切り欠いたと想定される形状であるに過ぎず、実際に、正12角形の角柱状のタレットを形成し、その後に、その正12角形の一部を切り欠く加工を行って10角形の角柱状を形成したものではない。なお、そのように、正12角形の角柱状のタレットを形成し、その後に、その正12角形の一部を切り欠く加工を行って10角形の角柱状を形成してもよい。
【0042】
10個のタレット面31n,31c~31kのうち、9個のタレット面31c~31kには、二点鎖線の想像線で示した切削用のバイトなどの工具が装着される工具ホルダ61,62,63,64,65が取り付けられる。なお、切削用の工具以外の工具を取り付けることもできる。
【0043】
第1タレット刃物台30は、第1刃物台X軸スライド15によりX軸方向に移動し、第1刃物台Y軸スライド16をY軸方向に移動し、第1刃物台Z軸スライド17をZ軸方向に移動し、旋回軸36b回りにタレット31が旋回することにより選択された旋回位置における、タレット面に取り付けられた工具を、正面主軸20に保持されて回転するワークWに接触させ、これにより、工具がワークWを加工する。
【0044】
ここで、タレット31の先端面31zから、Z軸方向の、正面主軸20方向に突出した延長部39には、タレット面31nに連なる延長タレット面39aが形成されている。延長タレット面39aは、タレット31の、Z軸方向の正面主軸20の側に、タレット面31nが延長されたように、タレット面31nと同一の面内に形成されて、延長部39の面である。
【0045】
そして、タレット面31nと延長タレット面39aとに跨って、回転工具ユニット40が取り付けられている。つまり、回転工具ユニット40は、他のタレット面に取り付けられた工具よりも、タレットの先端面31z側にオフセットした位置に取り付けられている。回転工具ユニット40は、タレット面31n及び延長タレット面39aに直交する軸B回りに旋回自在である。ここで、軸Bは、Y軸に平行な軸である。
【0046】
回転工具ユニット40は、延長部39の内部に設けられた旋回用モータ38により、同じく延長部39内に設けられた回転部材37bが軸B回りに回転することにより、軸B回りに旋回する。つまり、回転工具ユニット40は、いわゆるB軸旋回の工具ユニットである。
【0047】
そして、回転軸36aと延長部39内に設けられた回転軸37aとが常時連結され、さらに、回転軸37aと常時連結された伝達機構41を介して、回転工具42を、回転工具42の軸C0の回りを回転させる。
【0048】
これにより、回転工具ユニット40は、正面主軸20や背面主軸80に保持されたワークWに対して、いわゆるB軸旋回による加工を行うことができる。
【0049】
以上のように構成された自動旋盤100は、B軸旋回する回転工具ユニット40が、タレット31の旋回中心であるZ軸からの寸法(距離)が他のタレット面31c~31kに比べて短く設定されたタレット面31n及び延長タレット面39aに取り付けられている。これにより、タレット面31nは、他のタレット面31c~31kに比べて、タレット31の周方向の寸法が長く形成されている。
【0050】
したがって、タレット面31n(及び延長タレット面39a)に設けられた回転工具ユニット40は、他のタレット面31c~31kに設けられたものに比べて、隣接するタレット面に設けられた工具との距離を長く確保することができる。
【0051】
すなわち、
図3に示すように、タレット面31nに回転工具ユニット40が設けられているとき、このタレット面31nに隣接するのはタレット面31c,31kである。一方、回転工具ユニット40が、例えば他のタレット面31eに設けられている場合、このタレット面に隣接するのはタレット面31d,31fである。
【0052】
そして、タレット面31nに設けられたときの回転工具ユニット40と、隣接するタレット面31c,31kに設けられた工具61,65との距離は、タレット面31eに設けられたときの回転工具ユニット40と、隣接するタレット面31d,31fに設けられた工具62との距離よりも明らかに長い。
【0053】
したがって、本実施形態の自動旋盤100によれば、タレット面31n(及び延長タレット面39a)に設けられた回転工具ユニット40の周囲に、他のタレット面31c~31kに回転工具ユニット40が設けられたものに比べて、隣接するタレット面31c,31kに設置された工具61,65との隙間を十分に確保することができ、また、回転工具ユニット40の旋回範囲を制限する必要もない。
【0054】
また、自動旋盤100は、ワークWを回転工具42で加工することにより発生する切粉の飛散範囲を限定し、また、切削によって発生するワークW及び回転工具42の熱を冷却したり、ワークWと回転工具42との間の摩擦を低減したりする等の目的に吹き掛けているクーラント液の飛散範囲を限定するために、仕切られた加工室を有している。
【0055】
図4は、正面主軸20、第1タレット刃物台30、背面主軸80及び第2タレット刃物台90の各一部を含む空間を加工室として仕切った様子を模式的に示した平面図であり、第1タレット刃物台30が正面主軸20から遠ざかった状態を示す。
【0056】
図5は、正面主軸20、第1タレット刃物台30、背面主軸80及び第2タレット刃物台90の各一部を含む空間を加工室として仕切った様子を模式的に示した平面図であり、第1タレット刃物台30が正面主軸20に近づいた状態を示す。
【0057】
例えば、
図4に示すように、正面主軸20に保持されたワークWと、回転工具ユニット40が取り付けられた延長部39及びタレット31は、仕切られた加工室の内部に配置される。
【0058】
切粉やクーラント液の飛散範囲を可能な限り限定する構成においては、加工室を仕切る仕切り板51,52が、Z軸方向においてタレット31の直後(正面主軸20側を前方とした場合、タレット31の後方のうちタレット31の直近の位置)に配置される。
【0059】
従来のように、タレット31の通常のタレット面31c~31kに回転工具ユニット40が設けられていると、回転工具ユニット40がB軸旋回した際に、回転工具ユニット40が仕切り板51等に干渉することが起こり得る。
【0060】
しかし、本実施形態の自動旋盤100は、回転工具ユニット40が、タレット面31nと延長タレット面39aとに跨った位置に設けられているため、タレット面31nのみに設けられている場合に比べて、Z軸方向の正面主軸20側(先端面31z側)に偏って(オフセットして)配置されている。
【0061】
この結果、回転工具ユニット40とタレット31の後方に位置する仕切り板51との距離(Z軸方向に沿った寸法)を、通常のタレット面31c~31kに設けられているものに比べて、大きく確保することができる。
【0062】
したがって、本実施形態の自動旋盤100によれば、タレット面31n及び延長タレット面39aに設けられた回転工具ユニット40の周囲に、他のタレット面31c~31kに回転工具ユニット40が設けられたものに比べて、仕切り板51,52との隙間を十分に確保することができ、また、回転工具ユニット40の旋回範囲を制限する必要もない。
【0063】
なお、第1タレット刃物台30は、X軸方向に移動可能であるため、第1タレット刃物台30に、X軸方向に沿って連結されている仕切り板51,52は、第1タレット刃物台30のX軸方向への移動に伴って伸縮するように構成されている。
【0064】
すなわち、
図4において、第1タレット刃物台30のX軸方向の図示上方に配置されている仕切り板52は、X軸方向に2枚に分割された仕切り板片52a,52bが重複して縮んだ状態で配置され、第1タレット刃物台30のX軸方向の図示下方に配置されている仕切り板51は、X軸方向に3枚に分割された仕切り板片51a,51b,51cが、X軸方向の位置を互いにずらして伸びた状態で配置されている。
【0065】
そして、
図5に示すように、第1タレット刃物台30のX軸方向の図示下方に移動したときは、X軸方向の図示上方側に配置された2枚の仕切り板片52a,52bは互いにX軸方向の位置がずれて、X軸方向の上方側での長さが伸びた状態となり、仕切り板52による仕切り状態を確保している。
【0066】
一方、X軸方向の図示下方側に配置された3枚の仕切り板片51a,51b,51cは互いに重なって、X軸方向の下方側での長さが縮んだ状態となり、仕切り板52による仕切り状態を確保している。
【0067】
本実施形態の自動旋盤100について、正面主軸20に保持されたワークWや背面主軸80に保持されたワークWとの関係で、主に、第1タレット刃物台30について説明したが、背面主軸80に保持されたワークWや正面主軸20に保持されたワークWを加工する第2タレット刃物台90についても、第1タレット刃物台30と同様に構成されていてもよい。
【0068】
本実施形態の自動旋盤100は、B軸旋回する回転工具ユニット40が、タレット面31nと延長タレット面39aとに跨って設けられていなくてもよく、回転工具ユニット40はタレット面31nには掛からずに延長タレット面39aのみに設けられてもよいし、タレット面31nのみに設けられてもよい。
【0069】
つまり、自動旋盤100は、B軸旋回する回転工具ユニット40が、少なくとも、タレット31の旋回中心であるZ軸からの寸法(距離)が他のタレット面31c~31kに比べて短く設定されたタレット面31n(又は延長タレット面39a)に取り付けられていればよい。
【0070】
なお、回転工具ユニット40が、タレット面31nのみに設けられている構成の場合、回転工具ユニット40の旋回の中心(軸B)は、他のタレット面31c~31kに取り付けられた工具の取付位置と同じであってもよいが、他のタレット面31c~31kに取り付けられた工具の取付位置よりも、Z軸方向において正面主軸20に近い側であることが好ましい。
【0071】
図6は、タレット31が通常ポジションP1(選択された旋回位置に相当)にあるとき、上側ポジションP2(選択された旋回位置とは異なる位置に相当)にあるとき及び下側ポジションP3(選択された旋回位置とは異なる位置に相当)にあるときの、回転工具42で加工することができる加工可能範囲を示す模式図である。
【0072】
本実施形態の自動旋盤100は、
図6に示すように、回転工具ユニット40の回転工具42でワークの加工を行う場合、通常ポジションP1における、第1刃物台X軸スライド15と第1刃物台Y軸スライド16とを移動させることによる回転工具42の届く範囲である加工可能範囲は、実線で示す範囲S1である。
【0073】
一方、タレット31を上側に旋回させた上側ポジションP2における、第1刃物台X軸スライド15と第1刃物台Y軸スライド16とを移動させることによる回転工具42の届く範囲である加工可能範囲は、破線で示す範囲S2であり、タレット31を下側に旋回させた下側ポジションP3における、第1刃物台X軸スライド15と第1刃物台Y軸スライド16とを移動させることによる回転工具42の届く範囲である加工可能範囲は、二点鎖線で示す範囲S3である。
【0074】
したがって、本実施形態の自動旋盤100によれば、タレット31を通常ポジションP1以外の上側ポジションP2や下側ポジションP2においても回転工具42を回転させることができれば、加工可能範囲を範囲S1から、範囲S2~S1~S3まで広げることができる。
【0075】
上側ポジションP2や下側ポジションP3においても回転工具42を回転させるためには、タレット面31nが、タレット31の最下面(Y軸方向の最下面)に配置された状態以外のときも、回転軸36aと回転軸37aとが常時連結されていればよい。
【0076】
なお、上側ポジションP2や下側ポジションP3においては、通常ポジションP1で範囲S1におけるワークを加工する場合に比べて、ワークに対する回転工具42の傾きが異なるが、自動旋盤100の制御部が、この回転工具42の傾きに対応して(傾きを打ち消すように)、正面主軸20を回転して回転工具42に対するワークの位相を調整することにより、ワークに対する回転工具42の傾きを解消した状態で、あたかも通常ポジションP1でワークを加工しているように、加工することができる。
【0077】
上側ポジションP2や下側ポジションP3にタレット31を旋回させることで、ワークWと回転工具42の先端との距離を、通常ポジションP1における距離よりも遠ざけることが可能となるため、C0軸方向に沿った寸法が長い回転工具42を使用することができる。C0軸方向に沿った寸法が長い回転工具42を使用することにより、ワークWの径方向に貫通するような孔を開けることができる。
【0078】
本発明に係る工作機械は、自動旋盤に限定されない。また、本発明に係る工作機械は、タレットの旋回中心からの寸法が他のタレット面に比べて短く設定されたタレット面に取り付けられる工具は、B軸旋回する回転工具ユニットでなくてもよい。
【0079】
また、本発明に係る工作機械は、タレットの旋回中心からの寸法が他のタレット面に比べて短く設定されたタレット面は、一つに限定されず、2つであっても3つであってもよい。本発明に係る工作機械は、10個のタレット面を有するものに限定されない。
【0080】
以上、本発明の実施形態を図面により詳細に説明したが、実施形態は本発明の例示に過ぎず、本発明は上述した実施形態のみに限定されない。
【符号の説明】
【0081】
20 正面主軸
30 第1タレット刃物台
31 タレット
31c~31k タレット面
31n タレット面
39 延長部
39a 延長タレット面
40 回転工具ユニット
42 回転工具
100 自動旋盤
B 軸
W ワーク