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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022035095
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】梁接合構造、及び建築物
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20220225BHJP
   E04B 1/24 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
E04B1/58 506F
E04B1/24 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020139183
(22)【出願日】2020-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】591205536
【氏名又は名称】JFEシビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】特許業務法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 博和
(72)【発明者】
【氏名】山岡 賢史
(72)【発明者】
【氏名】中村 信行
(72)【発明者】
【氏名】塩田 啓介
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA14
2E125AB01
2E125AC15
2E125AG43
2E125AG45
2E125BB02
2E125BB04
2E125BD01
2E125BE02
2E125CA03
2E125CA90
(57)【要約】      (修正有)
【課題】梁接合構造の周辺において床を構成する鉄筋コンクリートの破損を抑制できる梁接合構造、及び建築物を提供する。
【解決手段】梁接合構造は、第1梁2と、第1梁の長手方向の中央部に端部が接合される第2梁4と、を備え、第1梁及び第2梁は、上フランジ51、下フランジ53、及び上フランジと下フランジとを接続するウェブ52を備え、第1梁は、第1梁の長手方向の中央部において少なくともウェブに接合されたガセットプレート70を備え、第2梁の端部のウェブは、ガセットプレートに接合され、第2梁の上フランジは、第2梁の長手方向において下フランジよりも短く形成され、第1梁の上フランジは、第1梁の長手方向に対し交差する方向に張り出している応力分散プレート55を備え、応力分散プレートは、第2梁の端部の上方に位置する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1梁と、
前記第1梁の長手方向の中央部に端部が接合される第2梁と、
を備え、
前記第1梁及び前記第2梁は、
上フランジ、下フランジ、及び前記上フランジと前記下フランジとを接続するウェブを備え、
前記第1梁は、
当該第1梁の長手方向の中央部において少なくとも前記ウェブに接合されたガセットプレートを備え、
前記第2梁の端部の前記ウェブは、
前記ガセットプレートに接合され、
前記第2梁の前記上フランジは、
前記第2梁の長手方向において前記下フランジよりも短く形成され、
前記第1梁の前記上フランジは、
前記第1梁の長手方向に対し交差する方向に張り出している応力分散プレートを備え、
前記応力分散プレートは、
前記第2梁の端部の上方に位置する、梁接合構造。
【請求項2】
前記応力分散プレートは、
先端部に向かうに従い幅が狭くなる台形に形成されている、請求項1に記載の梁接合構造。
【請求項3】
前記応力分散プレートは、
前記第1梁の前記上フランジに溶接により接合される、請求項1又は請求項2に記載の梁接合構造。
【請求項4】
前記第2梁の前記下フランジに固定された圧縮力伝達部材を更に備え、
前記圧縮力伝達部材は、
一方の端部に設けられ前記第2梁の前記下フランジに固定される固定部と、
他方の端部であり前記第1梁の前記ウェブに当接する支圧部と、を備える、請求項1~請求項3の何れか1項に記載の梁接合構造。
【請求項5】
前記圧縮力伝達部材は、
長手方向に垂直な断面がL字形に形成されたアングル部材と、
前記アングル部材の長手方向の端面に板面が接合された板部材と、を備え、
前記板部材は、
ボルトが貫通するボルト孔が形成されている、請求項4に記載の梁接合構造。
【請求項6】
前記第2梁は、
前記第1梁の前記ウェブを挟んで両側に端面を対向させて2つ配置され、
一方の前記第2梁に固定されている前記圧縮力伝達部材の前記支圧部と他方の前記第2梁に固定されている前記圧縮力伝達部材の前記支圧部とは、
前記第1梁の前記ウェブを挟んで前記ボルトにより共締めされている、請求項5に記載の梁接合構造。
【請求項7】
前記第2梁の前記下フランジに固定された圧縮力伝達部材を備え、
前記第2梁は、
前記第1梁の前記ウェブを挟んで両側に端面を対向させて2つ配置され、
前記圧縮力伝達部材は、
前記第1梁の前記ウェブを貫通して配置され、
長手方向の両端部に2つの固定部を備え、
2つの前記固定部のそれぞれは、
2つの前記第2梁のそれぞれの前記下フランジに固定される、請求項1~請求項3の何れか1項に記載の梁接合構造。
【請求項8】
前記第1梁の前記ウェブは、
貫通孔が形成されており、
前記圧縮力伝達部材は、
前記貫通孔を通して配置されている、請求項7に記載の梁接合構造。
【請求項9】
前記第1梁は、
両端が柱に接続されており、
前記第1梁の高さ方向寸法は、
前記第2梁の高さ方向寸法よりも大きい、請求項1~請求項8の何れか1項に記載の梁接合構造。
【請求項10】
前記応力分散プレートの上面と前記第1梁の前記上フランジの上面とは、同一面を形成するように配置される、請求項1~請求項9の何れか1項に記載の梁接合構造。
【請求項11】
請求項1~請求項10の何れか1項に記載の梁接合構造を備える、建築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梁接合構造、及び梁接合構造を備える建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の床構造は、梁を格子状に配置し、その上に鉄筋コンクリートの床スラブが構築されることにより形成される。梁は、両端部が柱に接合されて格子の4辺を形成する。また、4辺に配置された梁の内側にさらに梁が配置される。格子の内側に配置されている梁は、端部が格子の4辺を形成する梁の長手方向の中央部に接合される。
【0003】
例えば特許文献1に開示されている梁の接合構造においては、柱と接合される梁を大梁とし、大梁の中央部に接合される梁を小梁とした場合、小梁の端部は、大梁の中央部に接合されたガセットプレートにボルトにより固定されている。大梁及び小梁は、断面形状がH形に形成されており、断面において上下の端部にフランジが形成され、2つのフランジの中央部をウェブが繋ぐ形状になっている。小梁は、大梁の上側のフランジと小梁の上側のフランジとが略同一面上に位置する様に配置される。そして、大梁の2つのフランジの間に配置され、フランジ及びウェブに接合されたガセットプレートは、小梁のウェブ部とボルトにより固定されている。
【0004】
小梁は大梁よりも断面形状が小さいため、小梁の下側フランジは、大梁の下側フランジよりも上方に位置している。そして、小梁の上側フランジは、大梁の上側フランジと略同一面を形成している。大梁及び小梁の上側フランジの上には鉄筋コンクリートの床スラブが設置される。このように、大梁及び小梁は、建築物の床を支持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-53102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている梁の接合構造は、床スラブが荷重を受けることにより、小梁が撓む。大梁と小梁との接合部において、小梁は、床スラブからの荷重を受けて撓み、大梁の上側フランジと小梁の上側フランジとが離れるように変位する。これにより、建築物の床を構成する鉄筋コンクリートは、大梁と小梁との接合部において引っ張り荷重を受ける。そして、床スラブを構成する鉄筋コンクリートの表面は、大梁の上側フランジの端縁に沿ってひび割れを生じやすく、特に大梁と小梁との接合部は、小梁の撓みにより大梁及び小梁の上側フランジの継ぎ目において特に割れが発生しやすいという課題があった。
【0007】
本発明は上記課題を解決するものであって、梁接合構造の周辺において床を構成する鉄筋コンクリートの破損を抑制できる梁接合構造、及び建築物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る梁接合構造は、第1梁と、前記第1梁の長手方向の中央部に端部が接合される第2梁と、を備え、前記第1梁及び前記第2梁は、上フランジ、下フランジ、及び前記上フランジと前記下フランジとを接続するウェブを備え、前記第1梁は、当該第1梁の長手方向の中央部において少なくとも前記ウェブに接合されたガセットプレートを備え、前記第2梁の端部の前記ウェブは、前記ガセットプレートに接合され、前記第2梁の前記上フランジは、前記第2梁の長手方向において前記下フランジよりも短く形成され、前記第1梁の前記上フランジは、前記第1梁の長手方向に対し交差する方向に張り出している応力分散プレートを備え、前記応力分散プレートは、前記第2梁の端部の上方に位置する。
【0009】
本発明に係る建築物は、上記梁接合構造を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る梁接合構造、及び建築物は、応力分散プレートにより梁接合部周辺の鉄筋コンクリートの応力を緩和し、ひび割れなどの破損を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1に係る建築物100の平面図である。
図2】実施の形態1に係る梁接合構造10の斜視図である。
図3】実施の形態1に係る梁接合構造10の変形例の斜視図である。
図4】実施の形態1に係る梁接合構造10の変形例の側面図である。
図5】実施の形態1に係る梁接合構造10の比較例である梁接合構造110を示す図である。
図6】実施の形態1に係る梁接合構造10の圧縮力伝達部材60の斜視図である。
図7】実施の形態1に係る梁接合構造10の変形例である梁接合構造210の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する実施の形態によって本発明が限定されるものではない。各図は模式的に示すものであって、各部材の相対的な大きさや板厚等は図示する寸法に限定されるものではない。また、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。
【0013】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る建築物100の平面図である。図1は、建築物100の架構の一部分の平面図である。建築物100は、複数の柱1を有し、2つの柱1の間に大梁2が配置されている。大梁2は、両端部が柱1に接合されている。実施の形態1において、大梁2は、柱1を節点として格子を形成するように配置されている。格子目90を形成する4辺は、それぞれ大梁2により形成されている。なお、実施の形態1において、格子目90は正方形となっているが、これだけに限定されるものではない。例えば、格子目90は、柱1及び大梁2の配置を適宜変更することにより、長方形、三角形、及び菱形等に変更することができる。また、実施の形態1において、x方向及びy方向は大梁2などの梁の長手方向が延びる方向に平行であり、z方向は柱1が延びる方向に平行である。
【0014】
正方形の格子目90を形成している4本の大梁2の内側の領域には、背骨梁3及び小梁4が配置されている。背骨梁3及び小梁4は、両端部が他の梁の中央部に接合されている。背骨梁3は、格子目90の中央部に配置されている。背骨梁3の両端部は、格子目90の対向する2辺を形成している2つの大梁2のそれぞれの中央に接合されている。
【0015】
また、長手方向を背骨梁3と平行にして配置されている大梁2と、背骨梁3との間には、小梁4が配置されている。実施の形態1においては、大梁2と背骨梁3との間には、3本の小梁4が配置されている。小梁4の一方の端部は、大梁2の長手方向の中央部に接続され、小梁4の他方の端部は、背骨梁3の中央部に接続されている。ここで、中央部は、大梁2及び背骨梁3の端部以外の部分を指す。
【0016】
背骨梁3と小梁4とが接合されている部分、大梁2と小梁4とが接合されている部分、大梁2と背骨梁3とが接合されている部分をそれぞれ梁接合構造10と呼ぶ。梁接合構造10において、中央部に他の梁の端部が接合されている方の梁を第1梁と称し、端部を第1梁に接合している方の梁を第2梁と称する。つまり、背骨梁3と小梁4とが接合されている梁接合構造10においては、第1梁は、背骨梁3であり、第2梁は、小梁4である。大梁2と小梁4とが接合されている梁接合構造10においては、第1梁は、大梁2であり、第2梁は、小梁4である。大梁2と背骨梁3とが接合される梁接合構造10においては、第1梁は、大梁2であり、第2梁は、背骨梁3である。第1梁と第2梁とは梁接合構造10により接合されている。なお、図1は、柱1、大梁2、背骨梁3、及び小梁4の配置を説明するものであって、梁接合構造10が備える応力分散プレート55は表示を省略している。
【0017】
図2は、実施の形態1に係る梁接合構造10の斜視図である。図2においては、H形鋼50で形成された梁同士を接合した梁接合構造10が示されている。以下の説明においては、代表として第1梁を大梁2とし、第2梁を小梁4とした梁接合構造10について説明する。ここで、第1梁は、梁接合構造10を構成する梁のうち断面形状が大きい梁である。第2梁は、梁接合構造10を構成する梁のうち断面形状が小さい梁である。第2梁の端部は、第1梁の中央部に接合される。図1に示されている梁接合構造10は、それぞれ接合されている梁の断面形状の大きさが異なるが、同じ構造を備える。
【0018】
大梁2、背骨梁3、及び小梁4は、H形鋼50により構成されており、上フランジ51、ウェブ52、及び下フランジ53を有している。上フランジ51及び下フランジ53は、梁の長手方向の断面形状において上下に平行に配置されている部分である。ウェブ52は、上フランジ51の中央部と下フランジ53の中央部とを接続する様に配置されている部分である。
【0019】
図2に示されるように、大梁2は、y方向に長手方向を向けて配置されている。大梁2は、ウェブ52の表面からx方向に延びるガセットプレート70を備える。図2においては表示が省略されているが、ガセットプレート70は、ウェブ52の両面に対称的に配置されていても良い。ガセットプレート70は、上フランジ51、ウェブ52、及び下フランジ53に溶接により接合されている。
【0020】
小梁4は、長手方向(x方向)の端部において、ガセットプレート70と接合されている。小梁4のウェブ52は、ガセットプレート70の先端部74に板面方向(y方向)に重ねられ、ボルト80を締結することにより接合される。小梁4のウェブ52とガセットプレートとは、高力ボルトを用いて接合してもよい。
【0021】
大梁2と小梁4とは、上フランジ51の上面が同一面を形成するように配置され、接合される。大梁2及び小梁4の上フランジ51の上面には、スタッドボルト85が立設されている。また、大梁2及び小梁4の上フランジ51の上方には、鉄筋86が配置されている。大梁2及び小梁4の上には、コンクリートが打設され床スラブ84が形成される。床スラブ84は、スタッドボルト85により大梁2及び小梁4と接続され、鉄筋86により補強されている。床スラブ84が荷重を受けると、鉄筋86及びスタッドボルト85を介して大梁2及び小梁4に荷重が伝達し曲げモーメントが生ずる。
【0022】
梁接合構造10は、大梁2の上フランジ51から長手方向に対し垂直方向に応力分散プレート55が張り出している。応力分散プレート55の上面は、大梁2の上フランジ51の上面と略同一面を形成するように配置されている。また、応力分散プレート55は、上方から見たときに、台形に形成されており、台形の短辺となっている先端部56を小梁4側に、台形の長辺となっている根元部57を大梁2側に位置するように設置されている。つまり、応力分散プレート55は、根元部57から先端部56に向かうに従い幅が狭くなる形状となっている。応力分散プレート55は、根元部57が大梁2の上フランジ51の端縁51aに溶接などの手段により接合されている。
【0023】
小梁4は、大梁2に設置された応力分散プレート55に対応して、長手方向の端部の上フランジ51が削除されている。つまり、小梁4の上フランジ51は、下フランジ53と比較して短く形成されている。小梁4の上フランジ51が、大梁2の上フランジ51の端縁51aと離れているが、大梁2の上フランジ51には小梁4側に向かって張り出している応力分散プレート55が設置されている。そのため、大梁2の上面と小梁4の上面との継ぎ目Kは、大梁2の端縁51aから離れた位置に形成される。
【0024】
図2に示すように、大梁2と小梁4との接合が、ガセットプレート70と小梁4のウェブ52とのボルト接合のみによって行われていた場合、小梁4の端部は、ピンにより固定されたものとみなし、自由端であるものとして強度設計が行われる。すると、床スラブ84が荷重を受けた時に、小梁4の中央部は、大きな曲げモーメントが生じる。この場合、図2に示す梁接合構造10に係る小梁4は、この曲げモーメントに対応するように断面形状が設計されるため、断面形状が大きくなる。
【0025】
図3は、実施の形態1に係る梁接合構造10の変形例の斜視図である。図4は、実施の形態1に係る梁接合構造10の変形例の側面図である。図4(a)は、接合された2つの梁のうち一方の梁の長手方向から見たときの側面図であり、図4(b)は、図4(a)に垂直に接合された他方の梁の長手方向から見たときの側面図である。実施の形態1においては、図3及び図4に示す様に、小梁4の端部には、圧縮力伝達部材60が取り付けられていても良い。小梁4は、圧縮力伝達部材60により、荷重による曲げモーメントを端部で支持できるため、中央部に生ずる曲げモーメントを低下させることができる。曲げモーメントを低下させることができれば、梁の断面形状を必要以上に大きくする必要はなくなる。
【0026】
(応力分散プレート55の作用)
図5は、実施の形態1に係る梁接合構造10の比較例である梁接合構造110を示す図である。梁接合構造110は、大梁2に応力分散プレート55が設置されていない。従って、大梁2の上フランジ51の端縁51aと小梁4の端面とにより継ぎ目Kが形成される。つまり、梁接合構造110の継ぎ目Kは、大梁2の上フランジ51の端縁51aに沿って形成される。
【0027】
図1に示される4本の大梁2により形成される格子目90の上に形成される鉄筋コンクリートの床スラブ84は、荷重を受けて撓む。このとき、床スラブ84は、柱1の近傍と比較して、梁の中央部に支持されている部分及び梁に支持されていない部分が下方に変位する。従って、床スラブ84を形成する鉄筋コンクリートは、例えば小梁4の上フランジ51の上面に設置されたスタッドボルト85を介して小梁4の端部の変位による引っ張り応力が発生する。つまり、大梁2と小梁4との梁接合構造10Aは、大梁2と小梁4との間が離れるように変位が生じる。鉄筋コンクリートのうち継ぎ目Kの上方に位置する部分は、スタッドボルト85を介して大梁2と小梁4とに引っ張られ、引っ張り応力が発生する。これにより、鉄筋コンクリートは、大梁2の上フランジ51の端縁51aに沿って破断し、割れが生じる。
【0028】
図5に示される比較例に係る梁接合構造110においては、図1に示す仮想線Lに沿って鉄筋コンクリートの割れが生じ易い。特に大梁2と小梁4との接合部分である梁接合構造110においては、小梁4が荷重をうけ、中央部が曲げモーメントを受け、端部がガセットプレート70との接合部を中心に回転変位する。これにより、大梁2と小梁4との継ぎ目Kが開く様に変位し、継ぎ目Kの上方に位置する鉄筋コンクリートは、周囲と比較して引っ張り応力を受けて破断し、割れが生じる。また、比較例における大梁2の上フランジ51の端縁51aに沿った仮想線Lの近傍の鉄筋コンクリートも、床スラブ84の撓みにより応力が生じ、割れが生じ易い。ただし、床スラブ84の鉄筋コンクリートは、特に梁接合構造110の近傍において、周辺よりも大きな応力が生じ易く、割れが生じ易い。
【0029】
一方、実施の形態1においては、図2図3、及び図4(a)に示す様に、大梁2の上フランジ51と小梁4の上フランジ51との継ぎ目Kは、大梁2の上フランジ51の端縁51aから離れた位置に形成される。これにより、鉄筋コンクリートは、大梁2と小梁4との継ぎ目Kの変位により引っ張り応力が生じる。しかし、梁接合構造10の継ぎ目Kは、図1の仮想線Lから離れた位置にある。そのため、継ぎ目Kにおける大梁2と小梁4との相対的な変位を鉄筋コンクリートの広い範囲で受けることができるため、梁接合構造10の継ぎ目Kの上方に位置する鉄筋コンクリートに生じる引っ張り応力は低くなる。これにより、実施の形態1に係る梁接合構造10は、比較例の梁接合構造110と比較して床スラブ84を構成する鉄筋コンクリートの割れが生じにくい。つまり、梁接合構造10は、継ぎ目Kの位置を大梁2の上フランジ51から離して配置することにより、鉄筋コンクリートに生じる引っ張り応力を分散させることができる。
【0030】
また、実施の形態1においては、応力分散プレート55は、平面視において台形に形成されている。応力分散プレート55は、根元部57から先端部56に向かって斜辺58を有している。応力分散プレート55の斜辺58により、応力が集中し易い大梁2の上フランジ51の端縁51aから応力分散プレート55の先端部56にかけての形状変化が緩やかになり、梁接合構造10の近傍における鉄筋コンクリートに発生する応力が低下する。
【0031】
(圧縮力伝達部材60)
図6は、実施の形態1に係る梁接合構造10の圧縮力伝達部材60の斜視図である。図4に示されるように、圧縮力伝達部材60は、小梁4のウェブ52とガセットプレート70とがボルト80により締結固定されている部分の下方に配置されている。圧縮力伝達部材60は、長手方向を小梁4の長手方向と平行にして配置されている。圧縮力伝達部材60の一方の端部は、固定部63となっている。固定部63は、小梁4の下フランジ53の下面にボルト82により固定されている。また、圧縮力伝達部材60の他方の端部は、支圧部62が形成されている。支圧部62は、板状部材であり、本体部61の端面に溶接により固定されている。支圧部62は、大梁2のウェブ52の表面に当接している。さらに、支圧部62は、ボルト83により大梁2のウェブ52の表面に固定されている。なお、圧縮力伝達部材60は、大梁2のウェブ52を挟んで対称に配置されており、2つの支圧部62が大梁2のウェブ52を挟みこんでボルト83により締結固定されている。
【0032】
圧縮力伝達部材60の支圧部62は、ボルト83によりウェブ52に締結固定されるため、表面がウェブ52に確実に当接する。そのため、圧縮力伝達部材60と大梁2のウェブ52との間に隙間が生じることがなく、圧縮力伝達部材60が曲げモーメントによる圧縮荷重を確実に受けることができる。また、ボルト83により支圧部62と大梁2のウェブ52との接触状態が安定するため、点接触又は線接触を避けることができ、圧縮荷重を受けた際に支圧部62が変形するなどの不具合を抑制できる。なお、第1梁である大梁2のウェブ52には、圧縮力伝達部材60の支圧部62を固定するためのボルト83を通すための貫通孔が設けられる。
【0033】
大梁2のウェブ52を挟んで対称的に配置されている2つの支圧部62は、ボルト83により共締めされるため、精度よく対向させて配置することができる。従って、圧縮力伝達部材60に掛かる圧縮力は、大梁2を介して隣り合って配置された小梁4に確実に伝達することができる。
【0034】
図4及び図5に示す様に、圧縮力伝達部材60の本体部61は、長手方向に垂直な断面がL字形状であるアングル部材である。これにより、本体部61は、y方向及びz方向について断面係数が大きく、座屈しにくい。なお、本体部61の断面形状は、その他の形態をとっても良い。
【0035】
実施の形態1に係る梁接合構造10は、上記の圧縮力伝達部材60を備えることにより、小梁4の端部の回転変位が減少する。これにより、大梁2と小梁4との継ぎ目Kの開き方向の変位が減少し、床スラブ84を形成する鉄筋コンクリートに発生する引っ張り応力が低減する。なお、梁接合構造10においては、小梁4の下フランジ53の下面に圧縮力伝達部材60が固定されているが、小梁4の下フランジ53の上面に圧縮力伝達部材60が固定されていても良い。図3及び図4に示される様な応力分散プレート55と圧縮力伝達部材60とが組み合わされた梁接合構造10は、圧縮力伝達部材60により継ぎ目Kの開きが抑えられ、継ぎ目Kの周辺の床スラブ84の鉄筋コンクリートの割れを抑制する効果がさらに高くなる。
【0036】
(実施の形態1の効果)
上記のように梁接合構造10は、第1梁である大梁2と、第1梁の長手方向の中央部に端部が接合される第2梁である小梁4と、を備える。第1梁及び第2梁は、上フランジ51、下フランジ53、及び上フランジ51と下フランジ53とを接続するウェブ52を備える。第1梁は、当該第1梁の長手方向の中央部において少なくともウェブ52に接合されたガセットプレート70を備える。第2梁の端部のウェブ52は、ガセットプレート70に接合される。第2梁の上フランジ51は、第2梁の長手方向において下フランジ53よりも短く形成される。第1梁の上フランジ51は、第1梁の長手方向に対し交差する方向に張り出している応力分散プレート55を備える。応力分散プレート55は、第2梁の端部の上方に位置する。
このように構成されることにより、第1梁と第2梁との継ぎ目Kの近傍における鉄筋コンクリートに発生する引っ張り応力を低減でき、建築物の床スラブ84を構成する鉄筋コンクリートに発生する割れを抑制することができる。
【0037】
また、梁接合構造10の応力分散プレート55は、先端部56に向かうに従い幅が狭くなる台形に形成されている。
このように構成されることにより、梁接合構造10の近傍における梁の形状変化が緩やかになるため、床スラブ84を構成する鉄筋コンクリートは、発生応力が分散され、割れが抑制される。
【0038】
また、応力分散プレート55は、第1梁の上フランジ51に溶接により接合される。
このように構成されることにより、通常のH形鋼50を使用した第1梁に対し容易に応力分散プレート55を追加することが可能となる。
【0039】
また、梁接合構造10は、第2梁の下フランジ53に固定された圧縮力伝達部材60を更に備える。圧縮力伝達部材60は、一方の端部に設けられ第2梁の下フランジに固定される固定部63と、他方の端部であり第1梁のウェブ52に当接する支圧部62と、を備える。さらに、梁接合構造10の圧縮力伝達部材60は、長手方向に垂直な断面がL字形に形成されたアングル部材と、アングル部材の長手方向の端面に板面が接合された板部材と、を備える。板部材は、ボルト83が貫通するボルト孔64が形成されている。
このように構成されていることにより、第1梁である大梁2のウェブ52を挟んで配置される2つの圧縮力伝達部材60の支圧部62を構成する板部材は、ボルト83により大梁2のウェブ52に締結固定されるため、圧縮力を確実に支持できる。
【0040】
また、梁接合構造10の第2梁は、第1梁のウェブ52を挟んで両側に端面を対向させて2つ配置されている。そして、一方の第2梁に固定されている圧縮力伝達部材60の支圧部62と他方の第2梁に固定されている圧縮力伝達部材60の支圧部62とは、第1梁のウェブ52を挟んでボルト83により共締めされている。
このように構成されていることにより、2つの圧縮力伝達部材60の支圧部62を構成する板部材は、ボルト83により大梁2のウェブ52に共締めして固定されている。そのため、2つの圧縮力伝達部材60は、大梁2のウェブ52を挟んで対向して配置させることができる。よって、一方の第2梁からの圧縮力を圧縮力伝達部材60から他方の第2梁の圧縮力伝達部材60に伝達させることができ、圧縮力伝達部材60は、第2梁に発生する曲げモーメントを確実に支持することができる。
【0041】
また、第1梁である大梁2は、両端が柱に接続されている。第1梁の高さ方向寸法は、第2梁である小梁4の高さ方向寸法よりも大きい。
このように、第2梁である小梁4は、高さ方向寸法が大梁2よりも小さく強度が低い。しかし、圧縮力伝達部材60は、小梁4に生じる曲げモーメントを支持することができる。そのため、第2梁である小梁4は、従来と比較して高さ方向寸法を小さく設定することができ、建築物100を構成する梁を小さくすることができ、材料の費用及び建築物を構成する部材の重量を低減させることができる。
【0042】
図7は、実施の形態1に係る梁接合構造10の変形例である梁接合構造210の側面図である。図7(a)は、大梁2の長手方向に見た側面図であり、図7(b)は、小梁4の長手方向に見た側面図である。実施の形態1の変形例に係る梁接合構造210は、圧縮力伝達部材260が板状の部材であり、大梁2のウェブ52を貫通して配置されている。圧縮力伝達部材260の両端部は固定部263となっており、大梁2を挟んで配置された2つの小梁4のそれぞれの下フランジ53に固定されている。
【0043】
圧縮力伝達部材260は、対向して配置される小梁4の下フランジ53を直接接続している。そのため、小梁4の端部に生じる曲げモーメントを他方の小梁4に伝達することができる。これにより、梁接合構造210は、梁接合構造10と同様に、小梁4の端部の回転変位が減少する。これにより、大梁2と小梁4との継ぎ目Kの開き方向の変位が減少し、床スラブ84を形成する鉄筋コンクリートに発生する引っ張り応力が低減する。
【0044】
(変形例の効果)
実施の形態1の変形例に係る梁接合構造210の第2梁である小梁4は、第1梁である大梁2のウェブ52を挟んで両側に端面を対向させて2つ配置される。圧縮力伝達部材260は、第1梁のウェブ52を貫通して配置され、長手方向の両端部に2つの固定部263を備える。2つの固定部263のそれぞれは、2つの第2梁のそれぞれの下フランジ53に固定される。
このように構成されることにより、第1梁を挟んで端部を対向させて配置されている第2梁同士の間で、圧縮力伝達部材260を介して圧縮荷重を伝達させることができる。このため、一体の部品である圧縮力伝達部材260は、第2梁の端部に生じる曲げモーメントにより生じる圧縮力を他方の第2梁に確実に伝達する。これにより、梁接合構造210を構成する第2梁の強度を過剰に大きくする必要が無い。そして、この構造により、梁接合構造210は、継ぎ目Kの開きが減少し、鉄筋コンクリートの割れを抑制することができる。
【0045】
また、変形例に係る梁接合構造210の第1梁のウェブ52は、貫通孔254が形成されており、圧縮力伝達部材60は、貫通孔254を通して配置されている。
このように構成されることにより、圧縮力伝達部材260は、第1梁と当接せずに2つの対向する第2梁同士の間で圧縮力を伝達する。そのため、梁接合構造210は、第1梁のウェブ52を損傷や変形などを生じさせることなく圧縮力を確実に支持できる。
【0046】
上記に説明した梁接合構造210は、図1の梁接合構造10に適用することができる。また、上記の説明においては、第1梁を大梁2、第2梁を小梁4として説明したが、背骨梁3と小梁4とが接合された梁接合構造10、又は大梁2と背骨梁3とが接合する梁接合構造10にも同様な構造を採用することができる。大梁2、背骨梁3、及び小梁4のそれぞれは、断面形状及び長さなどの具体的な寸法が異なるものである。従って、梁接合構造10において圧縮力伝達部材60、260は、適宜寸法を変更して適用することができる。
【0047】
なお、本発明は上述した実施の形態の構成のみに限定されるものではない。また、建築物100においては、各実施の形態に開示された梁接合構造10及び210を適宜組み合わせて採用することもできる。要するに、いわゆる当業者が必要に応じてなす種々なる変更、応用、利用の範囲をも本発明の要旨(技術的範囲)に含むことを念のため申し添える。
【符号の説明】
【0048】
1 柱、2 大梁、3 背骨梁、4 小梁、10 梁接合構造、10A 梁接合構造、10B 梁接合構造、50 H形鋼、51 上フランジ、51a 端縁、52 ウェブ、53 下フランジ、55 応力分散プレート、56 先端部、57 根元部、58 斜辺、60 圧縮力伝達部材、61 本体部、62 支圧部、63 固定部、64 ボルト孔、70 ガセットプレート、74 先端部、80 ボルト、82 ボルト、83 ボルト、84 床スラブ、85 スタッドボルト、86 鉄筋、90 格子目、100 建築物、110 梁接合構造、210 梁接合構造、254 貫通孔、260 圧縮力伝達部材、263 固定部、K 継ぎ目、L 仮想線。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7