(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022035179
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】半導体パワーモジュールおよび半導体パワーモジュールの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 25/07 20060101AFI20220225BHJP
【FI】
H01L25/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020139313
(22)【出願日】2020-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】000233273
【氏名又は名称】株式会社 日立パワーデバイス
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】安井 感
(72)【発明者】
【氏名】早川 誠一
(72)【発明者】
【氏名】守田 俊章
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 勝雄
(57)【要約】
【課題】
Si半導体チップとSiC半導体チップを同一の絶縁基板上に搭載する複合型の半導体パワーモジュールにおいて、Si半導体チップと基板との接合信頼性向上、及びSiC半導体チップと基板との接合信頼性向上の両立が可能な半導体パワーモジュールを提供する。
【解決手段】
Si半導体チップとSiC半導体チップを同一の絶縁基板上に搭載する複合型の半導体パワーモジュールにおいて、前記Si半導体チップは、はんだ接合により前記絶縁基板上の第1の配線領域に接合され、前記SiC半導体チップは、焼結接合により前記絶縁基板上の第2の配線領域に接合されることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si半導体チップとSiC半導体チップを同一の絶縁基板上に搭載する複合型の半導体パワーモジュールにおいて、
前記Si半導体チップは、はんだ接合により前記絶縁基板上の第1の配線領域に接合され、
前記SiC半導体チップは、焼結接合により前記絶縁基板上の第2の配線領域に接合されることを特徴とする半導体パワーモジュール。
【請求項2】
少なくとも2種類のチップ面積を有する複数の半導体チップを同一の絶縁基板上に搭載する半導体パワーモジュールにおいて、
前記複数の半導体チップの内、チップ面積が100mm2以上の半導体チップは、はんだ接合により前記絶縁基板上の第1の配線領域に接合され、
チップ面積が100mm2未満の半導体チップは、焼結接合により前記絶縁基板上の第2の配線領域に接合されることを特徴とする半導体パワーモジュール。
【請求項3】
請求項1に記載の半導体パワーモジュールにおいて、
前記Si半導体チップは、IGBTであり、
前記SiC半導体チップは、ショットキーバリアダイオードであることを特徴とする半導体パワーモジュール。
【請求項4】
請求項1に記載の半導体パワーモジュールにおいて、
前記Si半導体チップと前記SiC半導体チップは、互いに1.5mm以上離間して前記絶縁基板上に配置されていることを特徴とする半導体パワーモジュール。
【請求項5】
請求項1に記載の半導体パワーモジュールにおいて、
前記Si半導体チップと前記SiC半導体チップと前記絶縁基板を内包するパッケージケースと、
前記パッケージケース内に充填されたシリコーンゲルと、を備え、
前記SiC半導体チップの表面電極とボンドワイヤの接合部は前記シリコーンゲルよりもヤング率の高いワイヤ補強樹脂で被覆され、
前記Si半導体チップの表面電極とボンドワイヤの接合部は前記シリコーンゲルで被覆されることを特徴とする半導体パワーモジュール。
【請求項6】
請求項5に記載の半導体パワーモジュールにおいて、
前記ワイヤ補強樹脂は、ポリアミドイミド樹脂を含むことを特徴とする半導体パワーモジュール。
【請求項7】
請求項1に記載の半導体パワーモジュールにおいて、
前記第1の配線領域と前記第2の配線領域の間に、ソルダーレジストが前記第1の配線領域および前記第2の配線領域の境界に沿って延在して配置されていることを特徴とする半導体パワーモジュール。
【請求項8】
請求項1に記載の半導体パワーモジュールにおいて、
前記焼結接合は、銅を用いる焼結銅接合または銀を用いる焼結銀接合のいずれかであることを特徴とする半導体パワーモジュール。
【請求項9】
請求項1に記載の半導体パワーモジュールにおいて、
前記第1の配線領域上にニッケルめっきが施されており、
前記Si半導体チップは、前記ニッケルめっきを介して、はんだ接合により前記第1の配線領域に接合され、
前記SiC半導体チップは、焼結接合により前記第2の配線領域に直接接合されることを特徴とする半導体パワーモジュール。
【請求項10】
請求項1に記載の半導体パワーモジュールにおいて、
前記Si半導体チップおよび前記SiC半導体チップの少なくともいずれか一方の表面電極は、ニッケル膜または表面がニッケル膜で被覆された金属電極膜であることを特徴とする半導体パワーモジュール。
【請求項11】
請求項1に記載の半導体パワーモジュールにおいて、
前記Si半導体チップおよび前記SiC半導体チップの少なくともいずれか一方の表面電極は、銅膜または表面が銅膜で被覆された金属電極膜であることを特徴とする半導体パワーモジュール。
【請求項12】
請求項1に記載の半導体パワーモジュールにおいて、
前記Si半導体チップおよび前記SiC半導体チップの少なくともいずれか一方の表面電極は、Al膜またはAlSi膜にTa,Nb,Re,Zr,W,Mo,V,Hf,Ti,Cr,Ptの内、少なくとも一種の金属を添加した合金膜であることを特徴とする半導体パワーモジュール。
【請求項13】
請求項1に記載の半導体パワーモジュールにおいて、
前記Si半導体チップおよび前記SiC半導体チップの少なくともいずれか一方の表面電極は、スパッタリング法により形成されたAlSiTa合金膜であることを特徴とする半導体パワーモジュール。
【請求項14】
以下の工程を含む半導体パワーモジュールの製造方法;
(a)絶縁基板上の第1の配線領域に、はんだ接合によりSi半導体チップを接合する工程、
(b)前記絶縁基板上の第2の配線領域に、焼結接合によりSiC半導体チップを接合する工程。
【請求項15】
請求項14に記載の半導体パワーモジュールの製造方法において、
前記(a)工程と前記(b)工程が同時に処理されることを特徴とする半導体パワーモジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体パワーモジュールの構成とその製造方法に係り、特に、Si半導体チップとSiC半導体チップを同一の絶縁基板上に搭載する複合型の半導体パワーモジュールに適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータに代表される電力変換機器の中で、パワー半導体は整流機能やスイッチング機能をもつ主要な構成部品として使われている。パワー半導体の材料として現在はシリコン(Si)が主流であるが、物性に優れるシリコンカーバイド(SiC:炭化珪素)の適用が進んでいる。
【0003】
SiCは、シリコンに対して絶縁破壊電界強度が一桁高く高電圧用途に適することや、熱伝導率もシリコンの3倍で、かつ高温でも半導体の性質を失いにくいことから原理的に温度上昇に強く、素子の抵抗を下げられるためパワー半導体の材料として適している。
【0004】
SiCを採用した半導体パワーモジュールは、SiC-MOSFETを主要構成素子とするフルSiCモジュール、SiCダイオードのみから成るSiCモジュール、シリコン素子とSiC素子を組み合わせたSiCハイブリッドモジュールの3つに大別される。
【0005】
これらの中でも、特に、インバータを構成する半導体パワーモジュールのスイッチング素子と整流素子の内、整流素子の還流ダイオード(フリーホイーリングダイオード)をシリコンからSiCに置き換えたSiCハイブリッドモジュールの製品化が先行している。整流素子はスイッチング素子に比べて構造と動作が単純で素子開発を進めやすい。また、SiCのダイオードとシリコンのIGBTを組み合わせた場合には、SiCダイオードの損失低減のみならず、IGBTのスイッチング損失も低減できる相乗効果がある。
【0006】
次に、半導体パワーモジュールの構成を、従来のシリコン半導体素子のみからなるパワーモジュールと、SiCハイブリッドモジュールの比較を交えて説明する。
【0007】
シリコン半導体素子のみから構成される一般的な高耐圧の半導体パワーモジュールは、スイッチング素子としてシリコンのIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を用い、これと逆並列に接続する還流ダイオードとしてシリコンのPNダイオードを組み合わせていた。
【0008】
図2に、半導体パワーモジュールの外観図を、
図3に、回路構成をそれぞれ示す(G:ゲート、E:エミッタ、C:コレクタ)。ケース内には複数枚の絶縁基板10が格納され、各絶縁基板10内にスイッチング素子(シリコンIGBT21や図示しないMOS等)と還流ダイオード(SiC-SBD22)が複数チップ実装されている。各絶縁基板10は、モジュール主端子31により外部との電気的コンタクトをとる。なお、
図2では、1つの半導体パワーモジュールに一組のIGBTと一組のダイオードを電気的に組み合わせた1in1構成を例として示している。
【0009】
図2及び
図3に示すように、SiCハイブリッドモジュールでは、シリコンのPNダイオードをSiCのショットキーバリアダイオード22(SBD = Schottky Barrier Diode)に置き換える。SBDはリカバリ電流が無いためスイッチング損失が1/10程度に減る。SiCを用いることで、耐圧600V~3.3kVといった従来シリコンのSBDを適用できなかった高耐圧領域までSBDを適用することが可能になる。
【0010】
本技術分野の背景技術として、例えば、特許文献1のような技術がある。特許文献1には「第1の被接合部材と、第2の被接合部材とを金属配線を介して接合する金属配線の接合構造であって、前記第1の被接合部材と前記金属配線の一端との接合部は、導電性の焼結接合材で構成され、前記第2の被接合部材と前記金属配線の他端との接合部は、導電性の熱溶融接合材で構成されている金属配線の接合構造」が開示されている。
【0011】
また、特許文献2には「ベース板と、上記ベース板の一方の面に接合され、且つ回路用導体パターンが設けられた絶縁基板と、上記絶縁基板に実装されたSiスイッチング素子と、上記絶縁基板に実装された、複数のワイドバンドギャップ半導体素子を素子用封止材で封止した素子パッケージと、上記ベース板に覆設されるとともに、少なくとも、上記Siスイッチング素子と上記素子パッケージと上記絶縁基板とを収納したケースと、上記ケースの内部に充填されたケース用封止材とを備えた電力用半導体装置であって、上記Siスイッチング素子と上記素子パッケージとが、同一の上記絶縁基板の回路用導体パターンに搭載され、上記Siスイッチング素子の電極と上記ワイドバンドギャップ半導体素子の電極とが、上記回路用導体パターンに電気的に導通され、上記素子用封止材に、モールド樹脂が用いられた電力用半導体装置」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2016-219681号公報
【特許文献2】特開2012-43875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、SiC素子を採用することで損失低減や高速動作によるスイッチング周波数の増加、高温動作などの長所を得た一方で、SiC素子を実装した半導体パワーモジュールのパワーサイクル耐性はシリコンと比較して劣ることが報告されている。
【0014】
パワーサイクル耐性とは、半導体素子に秒単位の時間で主電流のオンとオフを繰り返し、短時間の熱的なサイクル疲労を調べるパワーサイクル試験における耐久性を指し、半導体パワーモジュールの信頼性試験としては最も厳しいものの一つとして知られている。
【0015】
SiCはヤング率がシリコンの3倍と硬いため、ダイアタッチ部(チップ下の接合層)のひずみエネルギーが大きく、また熱伝導率もシリコンの3倍と高く素子の発熱が応力の強いチップ端まで速やかに伝わるため、発熱と冷却を繰り返すパワーサイクルによる疲労でチップ下の接合層が破壊しやすく、その寿命はシリコン比でおよそ1/3に低下することが知られている。
【0016】
SiCのパワーサイクル耐性を向上するためには、寿命のボトルネックとなっているチップ下の接合層を従来のはんだから、より強固な新接合に変更する方法がある。新接合としては、銀や銅のナノ粒子を焼結する焼結銀接合および焼結銅接合や、強度の高いAu-Geはんだを用いる方法、液相拡散接合(TLP)などが知られている。
【0017】
中でも、焼結接合を用いる方法は信頼性に優れており、開発と製品化が最も進んでいる。焼結銀接合並びに焼結銅接合を適用したSiCモジュールが既に報告されているが、そのパワーサイクル耐性は従来のはんだ接合を用いたSiCモジュールの数倍から10倍以上との検証結果がある。
【0018】
一方で、焼結接合を用いる方法にも幾つかの短所がある。強固な焼結接合を形成するためには、はんだと異なり接合時にチップの加圧が必要で、シリコンIGBTなどの大型かつ場合により薄膜化されているチップで全面を均等に加圧するためのプロセス難易度が高く、歩留まりが低下しやすい。また、シリコンは不純物としての銅が拡散しやすく特性劣化を招くため、IGBTのように裏面側近傍にPN接合を形成する素子では接合に銅が隣接した状態で加圧することはキズ等から銅拡散による不良や信頼性低下につながるリスクがある。
【0019】
これらの懸念に加え、焼結接合で接合できる被接合金属膜は一般にはんだ接合を用いた場合とは異なるため、接合方法に応じて予め半導体素子の裏面仕様を作り分ける必要がある。ウエハ形態で大量生産することが基本の半導体素子では、仕様統一ができないことは顕著なコスト増を意味する。
【0020】
このため、小面積チップでも大電流を流すことが可能であり、ウエハも厚いため加圧が容易で、かつ裏面にデバイス構造が無く焼結接合からの銀や銅の拡散の懸念も少ないSiC素子から焼結接合の適用が進んでいる。現在の主流であるシリコン素子に対する適用はより難易度が高い。これらの要因からシリコン素子とSiC素子が共存するSiCハイブリッドモジュールにおいては、焼結接合を採用するとシリコン素子への適用に技術課題があり、逆に、はんだ接合を用いるとSiC素子の寿命が短くなる問題点があった。
【0021】
上記特許文献1では、半導体チップ7と基板上回路層9とをビームリード11を介して接合する際、半導体チップ7とビームリード11を焼結接合で接合し、基板上回路層9とビームリード11をはんだ接合で接合しているが、半導体チップ7と半導体チップ7が搭載される第1の基板上回路層5との間はハンダ層20により接合されており、上述したようなSiCハイブリッドモジュールにおける課題、すなわちSi半導体チップと絶縁基板との接合信頼性及びSiC半導体チップと絶縁基板との接合信頼性を両立させる必要があることについては言及されていない。
【0022】
また、上記特許文献2では、例えば
図1にSiスイッチング素子5とSiCのダイオードパッケージ6の両方をはんだ3により同一の絶縁基板2上に接合することが記載されており、さらにダイオードパッケージ6内部では、
図3及び段落[0029]等に記載があるように、SiCダイオード素子7を高耐熱接合材22によりリード端子24aに接合し、高耐熱接合材22の一例として金属焼結型接着剤を用い、Siスイッチング素子5及びSiCのダイオードパッケージ6の両方をはんだ3により絶縁基板2上に接合することが例示されている。
【0023】
しかしながら、SiCダイオード素子7を素子用封止材23により封止してダイオードパッケージ6としているので、放熱性が問題になる可能性があるとともに、SiCダイオード素子7を絶縁基板2に直接搭載するのに比べてダイオードパッケージ6としている分だけコストが上がるという問題がある。
【0024】
そこで、本発明の目的は、Si半導体チップとSiC半導体チップを同一の絶縁基板上に搭載する複合型の半導体パワーモジュールにおいて、Si半導体チップと基板との接合信頼性向上、及びSiC半導体チップと基板との接合信頼性向上の両立が可能な半導体パワーモジュール及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記課題を解決するために、本発明は、Si半導体チップとSiC半導体チップを同一の絶縁基板上に搭載する複合型の半導体パワーモジュールにおいて、前記Si半導体チップは、はんだ接合により前記絶縁基板上の第1の配線領域に接合され、前記SiC半導体チップは、焼結接合により前記絶縁基板上の第2の配線領域に接合されることを特徴とする。
【0026】
また、本発明は、(a)絶縁基板上の第1の配線領域に、はんだ接合によりSi半導体チップを接合する工程、(b)前記絶縁基板上の第2の配線領域に、焼結接合によりSiC半導体チップを接合する工程、を含む半導体パワーモジュールの製造方法である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、Si半導体チップとSiC半導体チップを同一の絶縁基板上に搭載する複合型の半導体パワーモジュールにおいて、Si半導体チップと基板との接合信頼性向上、及びSiC半導体チップと基板との接合信頼性向上の両立が可能な半導体パワーモジュール及びその製造方法を提供することができる。
【0028】
これにより、Si半導体チップとSiC半導体チップを備える半導体パワーモジュールの信頼性向上、及び歩留まり向上、コスト低減が図れる。
【0029】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の実施例1に係る半導体パワーモジュールの概略構成を示す図である。
【
図2】半導体パワーモジュールの外観図(組立図)である。
【
図3】半導体パワーモジュールの回路構成を示す図である。
【
図4】焼結銅接合のプロセスフローを示す図である。
【
図5】本発明の実施例1に係る半導体パワーモジュールの製造方法を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の実施例1に係る半導体パワーモジュールの組立段階の絶縁基板を示す図である。
【
図7】本発明の実施例1に係る半導体パワーモジュールの組立に用いる治具を示す図である。
【
図8】本発明の実施例1に係る半導体パワーモジュールの組立段階の絶縁基板を示す図である。
【
図9】本発明の実施例1に係るシリコンIGBTの断面図である
【
図10】本発明の実施例2に係る半導体パワーモジュールの製造方法を示すフローチャートである。
【
図11】本発明の実施例3に係る半導体パワーモジュールの概略構成を示す図である。
【
図12】本発明の実施例4に係る半導体チップの断面図である。
【
図13】焼結銀接合のプロセスフローを示す図である。
【
図14】本発明の実施例6に係る半導体チップの断面図である。
【
図15】本発明の実施例9に係る半導体パワーモジュールの概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお、各図面において同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【実施例0032】
図1から
図9を参照して、本発明の実施例1の半導体パワーモジュールとその製造方法について説明する。
【0033】
図1に、本実施例の半導体パワーモジュールの概略構成を示す。本実施例の半導体パワーモジュールは、
図1に示すように、セラミック板11上に金属配線12,13,14が設けられた絶縁基板10を備えており、絶縁基板10上には、半導体チップとして複数の(ここでは4個の)シリコンIGBT21と複数の(ここでは10個の)SiC-SBD22が搭載されている。
【0034】
各半導体チップ上の電極間は、ボンドワイヤ17によって接続されている。なお、
図1では煩雑さを避けるため対称的な位置にあるボンドワイヤの記載を省略している。半導体パワーモジュールの出力電流は、主端子接合領域15に超音波接合で接合された主端子により外部に取り出される。
【0035】
ここで、シリコンIGBT21を配置する領域とSiC-SBD22を配置する領域の間隔18は、1.5mm以上の距離を確保している。つまり、シリコンIGBT21とSiC-SBD22は、絶縁基板10(金属配線13)上に互いに1.5mm以上離間して配置されている。
【0036】
金属配線12,13,14は銅(Cu)で形成されているが、シリコンIGBT21を配置する領域19のみ銅の配線上にニッケル(Ni)めっきが施されている。
【0037】
シリコンIGBT21は、金属配線13のNiめっきが施された領域19上にはんだ接合で接合されている。具体的には、鉛(Pb)を主成分とする高融点はんだを用いている。一方、SiC-SBD22は、金属配線13上に焼結銅接合で接合されている。焼結銅接合については後述する。
【0038】
図2に、上記の絶縁基板10を組み入れた半導体パワーモジュール30の外観図(組立図)を示す。パッケージケース33内に、モジュール主端子31と補助端子(図示せず)、シリコンIGBT21並びにSiC-SBD22を搭載した絶縁基板10が実装される。そして、図示しないシリコーンゲル等の封止材で内部を充填した状態で、ケースフタ32で密封される。
【0039】
図2に示す半導体パワーモジュール30のモジュール組立プロセスの内、本発明の特徴的な半導体チップの接合工程について説明する。
【0040】
絶縁基板10上に、先ず、SiC-SBD22を焼結銅接合を用いて接合する。焼結銅接合の基本工程を
図4に示す。
【0041】
先ず、
図4の焼結ペーストの印刷段階40に示すように、銅(Cu)の微細粒子を有機溶媒2に分散させた焼結銅ペーストを印刷技術を用いてCu電極1(絶縁基板10上の金属配線13)の半導体チップ搭載位置に印刷する。
【0042】
次いで、
図4の半導体チップをマウントして熱処理を開始した段階41に示すように、ダイ3(半導体チップ)を焼結銅ペースト上にマウントした後に、圧力4で示すように加圧しながら炉内で還元性雰囲気中の熱処理6を行う。
【0043】
その過程で、
図4の焼結が進行した段階42に示すように、有機溶媒2が除去され、その後に銅の微細粒子同士の焼結が進む。
【0044】
最後に、
図4の焼結接合の熱処理が完了した段階43に示すように、熱処理が完了した段階で強固な焼結銅(Cu)層5が形成される。
【0045】
この焼結プロセスのポイントは、バルク状態での融点は1000℃以上となる銅や銀を、溶媒や熱処理雰囲気にも依存するが250℃から380℃といったはんだ接合と変わらない低温で反応、形成できることにある。
【0046】
一般に、金属の熱サイクルでの疲労破壊に対する耐性は、使用温度Tと融点Tmの比T/Tm(いずれも絶対温度)に依存して、融点Tmが高いほど同じ使用温度なら安定となる。はんだの融点がおよそ200℃から300℃程度であるのに対して、銅や銀の融点は1085℃乃至962℃のため、焼結銅や焼結銀の接合は大幅に安定となることがわかる。低温で接合可能となる理由は、材料に直径数十nmから数μmという微細粒子を用いることで、比表面積を増大し反応性を高めているためである。
【0047】
次に、本実施例の半導体パワーモジュール30の組立プロセスについて説明する。
図5に、本実施例の半導体パワーモジュールの組立プロセス(製造方法)を示す。
【0048】
先ず、ステップS1において、絶縁基板10の金属配線13上に、ダイ(SiC-SBD22)を焼結銅接合で接合する。
図6に、SiC-SBD22を焼結銅接合で接合した段階の絶縁基板10を示す。
【0049】
続いて、ステップS2において、絶縁基板10の金属配線13上のNiめっきが施された領域19上にシリコンIGBT21をはんだ接合で接合する。このとき、絶縁基板10上には既にSiC-SBD22が搭載されているため、シリコンIGBT21のはんだ接合に用いる
図7に示すシリコンIGBTのマウント用治具35は、SiC-SBD22への接触を避ける目的で、SiC-SBD部36をくり抜いた構造の治具を用いる。
図7に示すように、シリコンIGBTのマウント用治具35を絶縁基板10上に載置した後、シリコンIGBTチップとはんだを搭載するための穴38を介して絶縁基板10上のシリコンIGBTの搭載領域37にシリコンIGBT21をはんだ接合する。
【0050】
はんだ接合の接合条件は、ここで用いた高融点はんだの場合には温度が約350℃の水素雰囲気とする。焼結銅接合は、ひとたび形成されると銅の融点が1085℃と高いため、続くはんだ接合の熱処理温度では全く影響を受けない利点がある。
【0051】
シリコンIGBT21のはんだ接合を完了した段階を
図8に示す。続いて、ステップS3において、金属配線12、シリコンIGBT21及びSiC-SBD22上の電極、金属配線14をワイヤボンディングにより接続することで、
図1に示す半導体パワーモジュールの構成となる。
【0052】
この後は、ステップS4~S7において、従来の半導体パワーモジュールと同様に、
図2に示すように複数の絶縁基板10をベースプレート34にはんだで接合し、複数の絶縁基板10間のワイヤボンディングを行い、モジュール主端子31及び補助端子(図示せず)をパッケージケース33内に取り付けた後に、シリコーンゲルで封止し、ケースフタ32を接着して半導体パワーモジュールの組立が完了する。
【0053】
ここで、絶縁基板10の金属配線13上にNiめっきが施された領域19を設ける理由について説明する。
図9にシリコンIGBTの断面図を示す。シリコンIGBTはSiC-SBDと異なり、半導体チップ裏面近傍にpn接合50が存在する。
【0054】
例えば、ウエハのダイシングやダイシングされたチップのハンドリング時に裏面にキズ60等が生じた場合に、絶縁基板10上の金属配線13の銅が直接シリコンに接触すると、はんだ接合の熱処理中に銅とシリコンの反応生成物が生じてpn接合に欠陥61を生じる。
【0055】
また、銅はシリコン中で容易に拡散して特性を劣化させる汚染源となるため、特に避けなければならない金属でもある。そこで、対策として、
図1の絶縁基板10においてシリコンIGBT21を配置する領域19には拡散バリアとなるNiめっきを形成する。シリコンIGBT21をはんだ接合でNiめっき面に接合することで、使用するシリコンIGBTチップは、従来のはんだ品と共通化できるためコストが低減できる。
【0056】
さらに、銅の金属配線13-Niめっき-シリコンIGBT21のように、接合の組み合わせを従来と同等とすることで、すでに量産品としてフィールドでの実績がある技術を用いることからコストと時間を要する長期の信頼性試験を省略できるメリットがある。
【0057】
上述したように、シリコンIGBTはパワーサイクル耐性に優れるために、SiC-SBDのみを焼結銅接合としても両者の寿命は同程度となり、シリコンIGBTのみに従来のはんだ接合を用いることは寿命上のデメリットにはならない。
【0058】
この他に、はんだ接合と焼結銅接合を使い分けることには以下の長所がある。先ず、焼結接合は、
図4に示すように、熱処理中に半導体チップを加圧する必要がある。均一で不良を生じない加圧は大面積なシリコン半導体ほど難しくなるため、大面積チップに対しては、従来のはんだ接合を適用することで歩留まり向上や、高価な加圧焼結炉への要求仕様を緩和して設備投資を低減できる。
【0059】
また、耐圧1200V以下といった比較的低耐圧のシリコンIGBTでは、損失低減のため薄膜化したウエハが用いられる。シリコンはSiCに比べてヤング率が1/3程度と低く、すなわち柔らかいため、加圧条件がデリケートになることから、ほぼ無加圧の従来のはんだを用いる接合プロセスの方が容易である。
【0060】
以上の理由から、焼結接合とはんだ接合を、接合する半導体チップの面積を基準に使い分けても良い。加圧焼結の難易度が高くなる半導体チップの寸法は素子面積で10mm角相当である。10mm角以下であれば、焼結ペーストによっては強度は若干犠牲になるものの無加圧で焼結することさえ可能になる。
【0061】
一方、10mm角相当以上では加圧が必要となる。このため、半導体チップサイズ10mm角相当を基準に、これより大面積(チップ面積が100mm2以上)の半導体チップははんだ接合、小面積(チップ面積が100mm2未満)のチップは焼結銅接合を用いると良い。
【0062】
また、上述したように、焼結銅接合を行う半導体チップの配置領域と、はんだ接合を行う半導体チップの配置領域の間には、最小で1.5mmの間隔を設ける必要がある。これは、はんだ接合では接合時に液体の状態に溶融したはんだが半導体チップ下から流れ出て拡がるため、焼結銅接合と干渉しないマージンとして必要になるためである。
【0063】
はんだは気孔のある焼結接合層に容易に侵入し、銅と反応するため両者の接触を避ける必要がある。実測で半導体チップ下からのはんだ流れ量は最大約1mmであったことから、マージンを含めて最小で1.5mmの間隔を設けることが適切である。
実施例1に対する本実施例のプロセスの変更点について説明する。焼結銅接合では、微粒子の調整及び溶媒の調合に依存して必要な焼結温度と雰囲気を制御可能なため、はんだ接合の温度及び雰囲気と共通の条件で焼結可能な焼結銅ペーストを作成することができる。例えば、高温鉛はんだの条件である、350℃加熱、100%水素雰囲気、20分にて焼結可能な焼結銅ペーストを用いる。
絶縁基板10上で、焼結銅接合を行うSiC-SBD22の接合領域には焼結銅ペーストを予め印刷塗布する。その後、接合補助用のカーボン治具(図示せず)にセットした後、マウンタによって、シリコンIGBT21の接合領域にはシートはんだとシリコンIGBTチップを順にマウントし、SiC-SBD22の接合領域には、焼結銅ペースト上に、SiC-SBDチップのマウントを行った後に、ステップS1’において、加圧可能な炉内に投入して熱処理を行う。
2種の異なる接合を同時に行うことで各々からのアウトガスによる相互作用の悪影響が懸念されたが、発明者らの検討の結果、特に問題は発生しないことを確認した。焼結銅接合に用いる溶媒は加熱の早い段階で揮発してしまい、はんだ接合の仕上がりに影響する高温雰囲気でのはんだ溶融状態には影響しないためと考えられる。