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特開2022-35193内面塗装鋼管の製造方法および内面塗装鋼管
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022035193
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】内面塗装鋼管の製造方法および内面塗装鋼管
(51)【国際特許分類】
   B24C 3/32 20060101AFI20220225BHJP
   B24C 5/06 20060101ALI20220225BHJP
   F16L 58/02 20060101ALN20220225BHJP
【FI】
B24C3/32 C
B24C5/06 B
F16L58/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020139330
(22)【出願日】2020-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000227261
【氏名又は名称】日鉄防食株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉崎 信樹
(72)【発明者】
【氏名】福田 将人
【テーマコード(参考)】
3H024
【Fターム(参考)】
3H024EA01
3H024EC01
3H024ED05
3H024EE02
(57)【要約】
【課題】ピンホールの発生を防止した内面塗装鋼管を提供する。
【解決手段】ブラスト処理により同一鋼面への一回当たりの研掃材投射密度が50kg/m以下のブラスト処理を行い、鋼面に形成した最大のへげ長さが75μm以下とすることでピンホールの発生を抑制した内面塗装鋼管が得られる。
加えて研掃材投射密度と研掃回数の積が50{(kg/m)・回}以上の条件でブラスト処理することにより鋼面の除錆能力を維持し、耐剥離性に優れた内面塗装鋼管が得られる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管内面を塗装するに先立ち行われる鋼面のインペラーブラスト処理において、研掃材投射密度Aが(1)式を満足することを特徴とする内面塗装鋼管の製造方法。
A<50 ・・・(1)
A:研掃材投射密度(kg/m
A=W/(V・L)
W:研掃材投射量(kg/min)
:鋼管回転速度(m/min)
L:研掃材投射幅(m)
【請求項2】
鋼面のインペラーブラスト処理について、研掃材投射密度Aと研掃回数nの積が(2)式を満足することを特徴とする請求項1記載の内面塗装鋼管の製造方法。
50≦A・n ・・・(2)
n:研掃回数(回)
【請求項3】
塗膜の下面である鋼管表面に存在するへげの最大長さが75μm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の内面塗装鋼管の製造方法。
【請求項4】
鋼管内面が塗装された鋼管において、塗膜の下面である鋼管表面に存在するへげの最大長さが75μm以下であることを特徴とする内面塗装鋼管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイプラインや土木用途等に使用される内面塗装鋼管の製造方法および内面塗装鋼管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パイプライン等に供試される鋼管は、一次防錆または、表面平滑化による流体流通時の圧力損失の改善を目的として内面塗装を実施する。一般的に鋼管の内面塗装では、まず付着異物、スケール及び油分等を除去し、密着性を向上させる目的でブラスト処理を行なう。鋼管内面のブラスト処理は小径サイズのノズルを鋼管に挿入し、その先端より、エアーを用いて研掃材を下向きに噴射するエアーブラスト方式が主流である。この時、投射角度を鋼面に対して垂直とした場合は鋼管内部に溜まった研掃材の上から研掃材を投射することとなり処理能力及び効率が大幅に低下する。従って、効率よく処理を行うため投射角度を鋼面に対し鋭角もしくは鈍角に設定するのが一般的である。しかしこのような投射では「へげ」と呼ばれるかさぶたの様な薄片形状部を形成することがある。図1にへげの一例を示す。
【0003】
特にへげの上に塗装する際、へげ先端部が塗膜を突き抜け、ピンホールを形成することがある。この現象は鋼管内面塗装やジンクリッチペイントのようなビヒクル成分が少ない塗料において顕著に見られる。これは塗装膜厚を増加することで、ピンホールの発生を一定量抑制することができるが、特に鋼管内面塗装は経済性の観点から薄膜化が要求されることが多く、一般的に80μm以下で塗装されるため、ピンホールの発生を完全に除去できない。
【0004】
この様に鋼管内面のブラスト処理において従来のエアーブラスト方式ではへげを抑制し、鋼管内面塗装のピンホール発生を抑えることは困難である。図2にエアーブラストによる研掃材投射の模式図を示す。エアーブラストでは投射面積が狭く、同一方向から投射される研掃材が多いため、へげが容易に成長する。
特許文献1では凹凸形状を有す鋼管内面を一様に研掃するために、鈍角と鋭角をなす方向に研掃材を噴射し、一様に研掃する方法が提案されている。しかし投射角度が垂直でないため、へげが容易に形成・成長する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-86225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では上記従来技術の問題を解決し、鋼管内面塗装においてへげを抑制し、ピンホールを形成させない内面塗装鋼管を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは塗装膜厚が40~120μm、最大へげ長さが75μm以下である時、ピンホールの発生が抑制できることを見出した。表1に最大へげ長さとピンホールの有無の関係を示す。
【0008】
【表1】
【0009】
ここで、最大へげ長さとは、塗装鋼材の断面を200倍で観察し、断面方向に連続して3視野中に存在する10μm以上のへげの内、最大の長さとした。最大へげ長さが75μmを超えるとへげ先端部が塗膜を突き抜け、ピンホールを形成する。
さらに本発明者らは最大へげ長さが75μm以下となるようなブラスト処理方法を検討した。
【0010】
ピンホールを形成させない内面塗装鋼管を得るには鋼面のへげを可能な限り抑制する必要がある。へげは同一箇所を同一方向から長時間投射されることで大きく成長する。鋼管外面の場合は、原則として鋼面に対し垂直方向から投射することでへげ形成を抑制できるが、鋼管内面の場合は研掃材が鋼管内面の下部に溜まるため困難である。
【0011】
一般的な鋼管内面のブラスト処理方法は、研掃材を圧縮エアーで噴射するエアーブラストである。エアーブラストは図2に示すように、ランス2の先端にブラストノズル4が設けられ、ブラストホース3を経由して研掃材5がブラストノズル4から投射される。この時、研掃材は常に同一角度から投射されるため、へげが容易に成長し、これを防止する手段はない。そこで、投射角度にばらつきがあるインペラーブラストの検討を行った。
インペラーブラストとは、インペラー7がインペラー回転方向8に回転し、供給される研掃材をエアーではなくインペラー(羽根車)で吹き飛ばして鋼面のブラスト処理を行うものである。図3にインペラーブラストによる研掃材投射の模式図を示す。
なお、インペラーブラストは鋼管内部に挿入する先端部が比較的大きいため、従来は、ほとんど鋼管内面へは適用されていないため基本的なところから検討を行った。
インペラーブラストではエアーブラストに比較して投射幅が大きく、同一角度ではなく種々の角度で研掃材が投射されるため、へげの成長が抑制される。まず本発明者らは投射方法と鋼管内面に投射される研掃材の投射密度に着目し、インペラーブラストにおけるへげの抑制方法とピンホール形成について鋭意検討を行った。ここで研掃材投射密度Aは鋼面に連続して投射される研掃材の鋼面単位面積当たりの投射量を表す。へげは同一箇所を同一方向(同一角度)から長時間投射されることで大きく成長するため、同一鋼面へ連続して投射される研掃材投射密度Aの上限を設けることでへげの成長を抑止できる。
【0012】
そこで、実際の内面塗装鋼管の製造ラインで研掃材投射密度Aを種々変更して最大へげ長さとの関係を求めた。図4にその結果のグラフを示す。その結果、研掃材投射密度を小さくすることでへげの成長を抑止できることが判明した。
すなわち、研掃材投射密度が50kg/m未満のブラスト処理を行えば、最大へげ長さを75μm以下に抑制することができ、ピンホールの無い優れた内面塗装鋼管が得られることを見出した。
なお、最大へげ長さが75μmを超えるとへげ先端部が塗膜を突き抜け、ピンホールを形成する。
【0013】
内面塗装鋼管の製造ライン(図6参照)においては、次の(1)式を満足する条件でブラスト処理を行うと、最大へげ長さを75μm以下に抑制できることを見出した。
A<50 ・・・(1)
A:研掃材投射密度(kg/m
A=W/(V・L)
W:研掃材投射量(kg/min)
:鋼管回転速度(m/min)
L:研掃材投射幅(m)
【0014】
さらに、本発明者らは鋼面の除錆度に着目した。研掃材投射密度Aを小さくすると鋼面の研掃能力が低下するため、表面錆を除去するには研掃材投射密度が小さい場合、複数回投射する必要がある。
一般的に鋼管内面塗装ではISO8501-1で定義されるSa2 1/2以上の除錆度を有することが好ましい。しかしながら上記のように同一鋼面への研掃材投射密度を小さくすると、研掃能力の不足により充分な除錆度が得られない懸念がある。
そこで鋼面の研掃は研掃材投射密度と同一箇所への投射回数に依存すると考え、これらと除錆度の関係を調査した。図5に鋼管内面における同一鋼面への研掃材投射密度と研掃回数の積、除錆度の関係のグラフを示す。その結果、同一鋼面への研掃材投射密度と研掃回数の積が50{(kg/m)・回}以上にあるとき、十分な除錆によりSa2 1/2以上を確保し、より耐剥離性に優れた鋼面が得られることを見出した。
以上の範囲を研掃材投射密度Aと研掃回数nを用いて表すと、次の(2)式で表すことができる。
50 ≦ A・n ・・・(2)
A=W/(V・L)
A:研掃材投射密度(kg/m
n:研掃回数(回)
【0015】
研掃材投射密度Aが50kg/m以上では同一箇所への投射量が多く、へげが大きく成長するが、一方研掃材投射密度Aと研掃回数nの積が50{(kg/m)・回}未満では鋼面に投射される研掃材の総量が少なく、十分な除錆がされず耐剥離性がやや劣る。
よって(1)及びさらに好ましくは(2)式を満足する投射条件でブラスト処理を行うことで最大へげ長さを75μm以下に抑制し、Sa2 1/2以上を確保しつつピンホールを形成させない内面塗装鋼管が得られる。
【発明の効果】
【0016】
以上述べたように、研掃材投射量、鋼管回転速度、投射幅、研掃回数を調整することによって研掃材投射密度A、および研掃材投射密度Aと研掃回数nの積をコントロールし、その結果へげの成長を抑制してピンホールを形成せずかつ耐剥離性が良好な内面塗装鋼管が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】鋼材のへげの一例である。
図2】エアーブラストによる研掃材投射の模式図である。
図3】インペラーブラストによる研掃材投射の模式図である。
図4】鋼管内面における研掃材投射密度とへげ長さの関係のグラフである。
図5】鋼管内面における研掃材投射密度と研掃回数の積と除錆度の関係のグラフである。
図6】鋼管のブラスト処理方法の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明につき詳細に説明を行なう。
本発明に使用する鋼管としては普通鋼、あるいは高合金鋼などどのような鋼種でも適用可能である。
次に、内面塗装鋼管製造方法について説明する。
ブラスト処理における研掃材の投射方法は、羽根車の遠心力によるインペラーブラスト法とする。インペラーブラストとすることで投射幅(投射面積)が大きくなって研掃材投射密度が低下し、へげの成長が抑制できる。
ブラスト処理で使用する研掃材の材質、粒径、形状については特に指定はないが、JIS Z 0311に規定される「ブラスト処理用金属系研削材」を用いることが望ましい。また研掃材の硬度は対象鋼材よりも硬いものとすることで錆やスケールの除去が効率よく行うことができる。
【0019】
研掃材投射密度Aは50kg/m未満とする。50kg/m以上では最大へげ長さが75μmを超え、剥離の起点となる部分が大きいため、へげ上の塗装がへげと共に容易に剥離する。また研掃材投射密度と研掃回数の積が50{(kg/m)・回}以上とすると好ましい。50{(kg/m)・回}未満では鋼面に投射される研掃材の総量が少なく、十分な除錆がされず耐剥離性がやや劣る。
ブラスト処理における、鋼管回転速度、投射幅、研掃回数nは(1)及び(2)式を満足する条件であれば特に制限はない。ここで、研掃回数nは研掃材の投射幅Lを鋼管1回転によって進む距離で除した値となる。
ブラスト処理後に鋼管内部に残留する研掃材は別途除去することが望ましい。除去方法は圧縮エアー、ブラシ、振動等、特に制限はない。
内面の塗装前に、ブラスト後の表面に表面処理層を形成すると、より優れた防食性が得られる。表面処理の例としては酸洗処理、クロメート処理、リン酸処理等が挙げられる。
【0020】
塗料の種類は特に限定する必要はなく、エポキシ、ポリウレタン塗料やジンクリッチペイント等の常用市販の塗料を使用して形成することができる。エポキシ樹脂系塗料の中でも低溶剤、無溶剤型の塗料を適用した場合、硬化時間が短く、VOCによる環境負荷が小さい。
また、塗装層の形成においては、必要であれば塗装前後に鋼管を加熱してもよい。加熱方法は鋼管を熱風もしくは高周波誘導加熱等、特に限定されない。鋼管温度は80℃以下とすることが好ましい。80℃を超える高温では、塗料中の溶剤の揮発が速くなり過ぎ、被膜に欠陥が生じやすい。
鋼管外面は無塗装またはエポキシ、ポリウレタン、ポリオレフィン被覆等の有機樹脂被覆、亜鉛メッキ等の金属被覆など特に限定されない。好ましくは化学的、電気的に優れたポリオレフィン被覆が望ましい。
【0021】
本発明の内面塗装鋼管は上記製造方法によって製造することができる。
また、上記製造法によって製造された本発明の内面塗装鋼管は、へげの最大長さが75μmに制御されピンホールの無い良好な塗装を有する。さらに加えて、除錆度Sa2 1/2以上が確保された耐剥離性に優れた塗装となる。
【実施例0022】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。表2に実施例、比較例の一覧を示す。
鋼管サンプルとして、外径1016mmの鋼管1を用意した。この鋼管サンプルの内面に75mm×150mm×3.2mmの鋼板サンプルを接着し、図6に示す様に鋼管をターニングロール11上で回転させながら内面ブラスト処理を行った。使用した研掃材は粒径0.5mmのスチールショット(IKKショット社製)とした。
ブラスト処理には、インペラーブラストとエアーブラストを用いた。ランス2を鋼管1内に挿入する。ランス2の先端から投射幅Lで研掃材が投射される。ターニングロール11によって鋼管1を鋼管回転方向10に回転させつつ、ランス2をランス移動方向9に移動させる。この場合、実施例においては鋼管1を管軸方向に移動させた。研掃回数nは研掃材の投射幅Lを鋼管1回転によって進む距離で除した値となる。ランス移動速度に鋼管回転周期をかけることにより鋼管1回転によって進む距離が定まる。
実施例1~10は請求項の範囲内で投射量W、鋼管回転速度V、投射幅L、研掃回数nを変化させインペラーブラスト処理を行った。
比較例1はエアーブラスト処理を行った。比較例2~3は請求項の範囲外で投射量、鋼管回転速度、投射幅、研掃回数を変化させインペラーブラスト処理を行った。
ブラスト終了後、鋼板サンプルにエポキシ塗料を80μm塗装した。60℃で3時間加熱養生した後、常温で24時間養生し、塗装サンプルとした。
【0023】
評価試験は最大へげ長さ測定、除錆度判定、ピンホール検査を実施した。
〔最大へげ長さ測定〕
上記鋼板サンプルにおいて、試験材の断面を200倍で観察し、断面方向に連続して3視野中に存在する10μm以上のへげの長さの最大値を最大へげ長さとした。
〔除錆度判定〕
上記鋼板サンプルにおいて、ブラスト終了後の鋼面をISO8501-1に従い、目視で判定した。
〔ピンホール検査〕
上記塗装鋼板サンプルにおいて、ISO15741に従い、9Vの電圧を塗膜に印加し、ピンホールの有無を確認した。
【0024】
【表2】
【0025】
実施例1~10は(1)式を満足し、最大へげ長さが75μm以下であり、ピンホールの発生は見受けられなかった。特に実施例1、8を除く実施例は(2)式も満足しており、除錆度をSa2 1/2を確保し、耐剥離性に優れた鋼面が得られた。
比較例1はエアーブラストのため、同一角度からの投射によりへげが容易に成長し、(1)式を満足しても最大へげ長さが75μm以上となり、ピンホールが発生した。比較例2、3は同一鋼面への研掃材投射密度が大きく、最大へげ長さが75μm以上に成長し、ピンホールが発生した。
【符号の説明】
【0026】
1 鋼管
2 ランス
3 ブラストホース
4 ブラストノズル
5 研掃材
L 投射幅
7 インペラー
8 インペラー回転方向
9 ランス移動方向
10 鋼管回転方向
11 ターニングロール
図1
図2
図3
図4
図5
図6