(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022035243
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】放送装置、受信装置、及び、エコーキャンセル方法
(51)【国際特許分類】
H04H 20/59 20080101AFI20220225BHJP
H04H 40/18 20080101ALI20220225BHJP
H04B 3/20 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
H04H20/59
H04H40/18
H04B3/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020139425
(22)【出願日】2020-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】503152358
【氏名又は名称】服部 武
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(72)【発明者】
【氏名】服部 武
【テーマコード(参考)】
5K046
【Fターム(参考)】
5K046BB01
5K046HH04
5K046HH47
5K046HH79
(57)【要約】 (修正有)
【課題】簡単で安価な構成で受信音質を大幅に改善することができる放送装置、受信装置及びエコーキャンセル方法を提供する。
【解決手段】方法は、送信側の装置から周波数の異なる複数の音波信号をPNパターンのオン・オフが切替わるランダムなタイミングで切替えながらパイロット信号又はPNパターンに従ってオン・オフされた特定の周波数の音声信号をそのパイロット信号として送信するステップと、受信側の装置が、パイロット信号を受信するステップと、受信側の装置が、受信したパイロット信号をPNパターンを用いて相関検波を行いて得られた相関値を出力し、出力された相関値と所定の閾値とを比較することにより、パイロット信号の遅延時間を推定することを含むエコー消去ステップと、を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数の異なる複数の音波信号をPNパターンのオン・オフが切替わるランダムなタイミングで切替えながらパイロット信号として送信する第1の送信手段と、
前記パイロット信号の送信に続いて防災情報の音声信号を送信する第2の送信手段とを有することを特徴とする放送装置。
【請求項2】
PNパターンに従ってオン・オフされた特定の周波数の音波信号をパイロット信号として送信する第1の送信手段と、
前記パイロット信号の送信に続いて防災情報の音声信号を送信する第2の送信手段とを有することを特徴とする放送装置。
【請求項3】
前記パイロット信号は周波数が300Hz~3kHzであることを特徴とする請求項1又は2に記載の放送装置。
【請求項4】
前記第1の送信手段は、前記パイロット信号の送信に先立ち、ウェイクアップ信号を送信することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の放送装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の放送装置から送信されたパイロット信号と該パイロット信号に続いて防災情報の音声信号を受信する受信手段と、
前記受信手段により受信されたパイロット信号を前記PNパターンを用いて相関検波して得られた相関値を出力する検波手段と、
前記検波手段により出力された相関値と所定の閾値とを比較することにより、前記パイロット信号の遅延時間を推定する判定手段と、
前記判定手段により推定された遅延時間に基づいて前記パイロット信号のエコーをキャンセルするエコーキャンセルフィルタを構成する構成手段と、
前記構成手段により構成されたエコーキャンセルフィルタを前記受信手段により受信された防災情報の音声信号に適用して、前記防災情報の音声信号からエコーをキャンセルするエコーキャンセル手段とを有することを特徴とする受信装置。
【請求項6】
前記受信手段により受信された前記パイロット信号と前記防災情報の音声信号とを録音する録音手段と、
前記録音手段により録音された前記パイロット信号と前記防災情報の音声信号とを格納する格納手段と、
前記エコーキャンセル手段によりエコーがキャンセルされた前記防災情報の音声信号を再生する再生手段とをさらに有することを特徴とする請求項5に記載の受信装置。
【請求項7】
前記検波手段は、前記格納手段に格納された前記パイロット信号を用いて相関検波を行い、
前記エコーキャンセル手段は、前記格納手段に格納された前記防災情報の音声信号を用いてエコーキャンセルを行うことを特徴とする請求項6に記載の受信装置。
【請求項8】
送信側の装置から周波数の異なる複数の音波信号をPNパターンのオン・オフが切替わるランダムなタイミングで切替えながらパイロット信号として、或いは、PNパターンに従ってオン・オフされた特定の周波数の音波信号を前記パイロット信号として送信する第1の送信工程と、
受信側の装置において、前記パイロット信号を受信する第1の受信工程と、
前記受信側の装置において、前記受信されたパイロット信号を前記PNパターンを用いて相関検波を行い得られた相関値を出力する検波工程と、
前記受信側の装置において、前記検波工程において出力された相関値と所定の閾値とを比較することにより、前記パイロット信号の遅延時間を推定する推定工程と、
前記受信側の装置において、前記推定された遅延時間に基づいて前記パイロット信号のエコーをキャンセルするエコーキャンセルフィルタを構成する構成工程と、
前記送信側の装置から防災情報の音声信号を送信する第2の送信工程と、
前記受信側の装置において、前記防災情報の音声信号を受信する第2の受信工程と、
前記エコーキャンセルフィルタを前記受信された前記防災情報の音声信号に適用して、前記防災情報の音声信号からエコーをキャンセルするエコーキャンセル工程とを有することを特徴とするエコーキャンセル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放送装置、受信装置、及び、エコーキャンセル方法に関し、特に、例えば、防災用の音声情報を放送する放送装置、受信装置、及び、エコーキャンセル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然災害が頻発する日本では、各地方自治体が防災無線の整備に力を入れ、その管轄地域の多くの場所に防災用屋外拡声システムを設置している。
【0003】
しかしながら、そのようなシステムは、放送される音が地域の住民に聞こえるものの、放送される音声情報の内容が住民に聞き取れないという問題が指摘されていた(例えば、非特許文献1、非特許文献2)。そのために、複数の子局に指向性スピーカを用い、これら複数の子局から同時に拡声されても隣接する子局からの音の重なりを低減することを提案している。さらに、空気吸収による減衰に対処するためのイコライザー処理を施すことなども提案されている。
【0004】
また、音声で情報を放送することに加えて、無線により防災情報を送信するシステムも提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】防災行政無線の音声の改善、日本音響学会(ASJ)の屋外拡声システム基準について、2018年11月5日、栗栖清浩、日本音響学会、災害等非常時屋外拡声システムのあり方に関する技術調査研究委員会
【非特許文献2】ASJ屋外拡声基準の効果的な活用とシステムの音響設計について、栗栖清浩、山名一輝、松石遼太、松本 泰、日本音響学会誌、第74巻第11号、2018年、593-597頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら非特許文献1、2で提案された方法では、既存のシステムに対する改修が必要となるので、そのためのコストも当然に多額になるという問題があった。また、周囲の建造物の変化により、音波の伝搬特性が変化し、十分な対費用効果が得られないという問題もあった。
【0007】
さらに、無線により防災情報を送信する方法は、送信側の設備を大規模に改修する必要もあり、コスト面からやはり普及を妨げている。
【0008】
このように従来の方法では、システムの必要は望まれているものの、その実現は費用やシステムの複雑さ、また、対費用効果の面からの問題を解決できていない。
【0009】
本発明は上記従来例に鑑みてなされたもので、簡単で安価な構成で受信音質を大幅に改善することが可能な放送装置、受信装置、及び、そのエコーキャンセル方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明の放送装置は、次のような構成からなる。
【0011】
即ち、周波数の異なる複数の音波信号をPNパターンのオン・オフが切替わるランダムなタイミングで切替えながらパイロット信号として送信する第1の送信手段と、前記パイロット信号の送信に続いて防災情報の音声信号を送信する第2の送信手段とを有することを特徴とする。
【0012】
また、その放送装置は、PNパターンに従ってオン・オフされた特定の周波数の音声信号をパイロット信号として送信する第1の送信手段と、前記パイロット信号の送信に続いて防災情報の音声信号を送信する第2の送信手段とを有することを特徴としても良い。
【0013】
また本発明を別の側面から見れば、上記構成の放送装置から送信されたパイロット信号と該パイロット信号に続いて防災情報の音声信号を受信する受信手段と、前記受信手段により受信されたパイロット信号を前記PNパターンを用いて相関検波して得られた相関値を出力する検波手段と、前記検波手段により出力された相関値と所定の閾値とを比較することにより、前記パイロット信号の遅延時間を推定する判定手段と、前記判定手段により推定された遅延時間に基づいて前記パイロット信号のエコーをキャンセルするエコーキャンセルフィルタを構成する構成手段と、前記構成手段により構成されたエコーキャンセルフィルタを前記受信手段により受信された防災情報の音声信号に適用して、前記防災情報の音声信号からエコーをキャンセルするエコーキャンセル手段とを有することを特徴とする受信装置を備える。
【0014】
さらに本発明を別の側面から見れば、送信側の装置から周波数の異なる複数の音波信号をPNパターンのオン・オフが切替わるランダムなタイミングで切替えながらパイロット信号として、或いは、PNパターンに従ってオン・オフされた特定の周波数の音波信号を前記パイロット信号として送信する第1の送信工程と、受信側の装置において、前記パイロット信号を受信する第1の受信工程と、前記受信側の装置において、前記受信されたパイロット信号を前記PNパターンを用いて相関検波を行い得られた相関値を出力する検波工程と、前記受信側の装置において、前記検波工程において出力された相関値と所定の閾値とを比較することにより、前記パイロット信号の遅延時間を推定する推定工程と、前記受信側の装置において、前記推定された遅延時間に基づいて前記パイロット信号のエコーをキャンセルするエコーキャンセルフィルタを構成する構成工程と、前記送信側の装置から防災情報の音声信号を送信する第2の送信工程と、前記受信側の装置において、前記防災情報の音声信号を受信する第2の受信工程と、前記エコーキャンセルフィルタを前記受信された前記防災情報の音声信号に適用して、前記防災情報の音声信号からエコーをキャンセルするエコーキャンセル工程とを有することを特徴とするエコーキャンセル方法を備える。
【発明の効果】
【0015】
従って本発明によれば、簡単で安価な構成で受信音質を大幅に改善することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の代表的な実施例である防災情報を音声で放送する放送システムが用いられる環境について示す図である。
【
図2】放送システムを構成する送信局の音響機器と受信局の受信機器の機能構成を示すブロック図である。
【
図3】送信局から送信されるパイロット信号の送信パターンについて示す図である。
【
図4】検波器(DTC)の詳細な構成を示すブロック図である。
【
図5】送信側の処理と受信側の処理を示すフローチャートである。
【
図6】エコーキャンセル処理の詳細を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下添付図面を参照して本発明の好適な実施形態について、さらに具体的かつ詳細に説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には、複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられても良い。さらに添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0018】
図1は本発明の代表的な実施例である防災情報を音声で放送する放送システムが用いられる環境について示す図である。
【0019】
図1に示した放送システムは、最も基本的な構成として送信局20と受信局11とから形成される。送信局20は送信設備を備える室内部21とマストなどの屋外部分とからなる。ここで、室内部21には防災情報を放送するための音響機器22が設置される。また、屋外部分にはマストの頂上部分に拡声器であるスピーカ23が設置される。一方、受信局11には受信機器12が備えられ、受信機器12によりユーザ10は防災情報を聴取する。
【0020】
さて、送信局20から放送される音声は様々な経路を経て受信局11に到達する。例えば、送信局20から受信局11に直達する音声51もあれば、送信局20にある建築物31~35により反射され受信局11に到達する音声52~54もある。具体的には、音声52は比較的低層の建築物32~34により複数回反射されて受信局11に到達し、音声53は比較的高層の建築物35により反射されて受信局11に到達し、音声54は比較的低層の建築物31により一回反射され受信局11に到達する。
【0021】
このように、受信局11で受信される音声は、送信局20と受信局11との間にある建築物などの伝搬環境によって、直達音声と反射音声とが混じった音声となる。送信局20から受信局11までの各音声の伝搬経路長は異なり、直達音声に比べて反射音声には遅延が発生する。結果として、受信局11では位相の異なる(即ち、異なる遅延時間をもつ)複数の音声の合成音声がユーザ10により聴取される。従って、ユーザ10にとって、聴取する音声はエコーの大きい、或いは、強弱の大きいものとなり、音声情報の内容が聞き取りにくくなる。
【0022】
加えて、防災情報の放送は雲1からの降雨や風が音声の伝搬環境に影響を与えることもある。
【0023】
このため、この実施例に従う放送システムでは受信局11における音声品質を改善するための構成を備える。
【0024】
なお、
図1では説明を簡単にするために1つの送信局と1つの受信局からなる放送システムを図示したが、実際のシステムでは複数の受信局があることは言うまでもない。また、送信局についても、放送情報を生成する1つの親局と親局から放送信号を受信して増幅して拡声放送する複数の子局からなるような構成としても良い。
【0025】
図2は放送システムを構成する送信局の音響機器と受信局の受信機器の機能構成を示すブロック図である。
【0026】
図2に示すように、簡略化された放送システム100は音声を放送する音響機器22と放送音声を受信して再生する受信機器12とからなる。
【0027】
送信局の音響機器22は信号発生器(SG)22aと増幅器(AMP)22bを備え、増幅器(AMP)22bにより増幅された音声信号をスピーカ(SP)23により放送する。一方、放送された音声信号50は受信局の受信機器12で受信される。受信機器12に備えられたマイクロフォン(MIC)14は放送された音声信号を収集する。収集された音声信号は受信器(RCV)12aにより受信され検波器(DTC)12bにより検波される。なお、検波器(DTC)12bによる検波処理の詳細については後述する。そして、検波処理が施された音声信号は増幅器(AMP)12cに入力され、その増幅された信号がスピーカ(SP)13により再生音声60として出力される。
【0028】
次に、以上のような構成の放送システムにおける音声信号の送受信処理について説明する。
【0029】
まず送信側の処理について説明する。この放送システムでは、実際の防災情報の音声放送(本放送)に先立ちパイロット信号を送信側の音響機器22が放送する。
【0030】
図3は送信局から送信されるパイロット信号の送信パターンについて示す図である。
【0031】
図3(a)に示すように、パイロット信号は、例えば、300Hz~3kHzの範囲での特定周波数の音波を信号発生器(SG)22aで発生し、これを疑似雑音信号パターン(PNパターン)に従ってオン・オフさせ、これを増幅器(AMP)22bに入力する。そして、増幅器(AMP)22bにより増幅してスピーカ(SP)23から出力する。
【0032】
PNパターンとは
図3(a)から示唆されるように、“0”の出現率と“1”の出現率とがほぼ同じでありランダム雑音を模擬するビット列のことをいう。通常、PNパターンは複数のシフトレジスタとパリティジェネレータとから構成される線形帰還シフトレジスタを用いて生成される。
【0033】
このようなPNパターンを用い、その値が“1”のとき特定周波数の音波が発生し(オン)、その値が“0”のときその音波は発生しない(オフ)。
【0034】
なお、このようなオン・オフは音圧レベルの変化が大きくなり相関をとるのが難しくなる可能性がある。このため、上述のようなパイロット信号の送信をPNパターンによりオン・オフして送信する方法以外にも異なる音とのパターンの組み合わせを送信するようにしても良い。
【0035】
そこで
図3(b)に示すように、2つの周波数(f1,f2)、例えば、周波数1kHzと1.3kHzの2つの音波信号をPNパターンの“0(オフ)”と“1(オン)”とが切替わるランダムな時刻に送信するようにしても良い。もちろん、2つの音波信号の組み合わせに用いる周波数は上記のもの以外でも良く、互いの関係が整数倍にならないように、1kHzと1.5kHz、1.8kHzと2.3kHzなどの2つの信号を組み合わせて送信しても良い。
【0036】
次に、送信されたパイロット信号の受信側における処理について説明する。
【0037】
図4は検波器(DTC)の詳細な構成を示すブロック図である。
【0038】
図4に示すように、検波器12bは録音機(REC)15と、メモリ(MEM)16と、複数の音声情報の相関をとる相関器(CORR)17と、音声エコーの遅延時間を判定する判定器(DLY)18と、エコーキャンセルするフィルタ(FIR)19を含む。なお、検波器12bは送信側でパイロット信号の送信に用いたのと同じPNパターンを保持しているものとする。また、フィルタ(FIR)19として、この実施例では有限衝撃応答フィルタ(FIRフィルタ)を用いるが、FIRフィルタの構成は公知なので、その説明は省略する。もちろんFIRフィルタ以外の他のフィルタを用いても良い。
【0039】
受信機器12のフロント段にある受信器(RCV)12aで受信したパイロット信号は録音機(REC)15で録音され一旦、メモリ(MEM)16に格納される。パイロット信号は、
図3に示すように、ある程度の時間にわたり、繰り返し送信される。相関器(CORR)17では、録音したパイロット信号を入力し、PNパターンの位相(対応する時間)をずらし、互いの相関をとり相関値を出力する。判定器(DLY)18は、その相関値を入力し、所定の閾値と比較し、相関値が所定の閾値を越えたときを音声エコーによる遅延時間として判定する。そして、判定器(DLY)19によって得られた遅延時間に基づいて、フィルタ(FIR)19はエコーキャンセルフィルタを構成する。
【0040】
以上のようにして構成されたエコーキャンセルフィルタを適用し、パイロット信号に続いて入力される本放送信号の音声信号に含まれるエコーをキャンセルする。
【0041】
フィルタ(FIR)19によりエコーキャンセルされた本放送信号の音声信号は増幅器(AMP)12cに入力され増幅されてスピーカ(SP)13から再生される。
【0042】
以上説明した送信側の処理と受信側の処理は以下のようなフローチャートによりまとめられる。
【0043】
図5は送信側の処理と受信側の処理を示すフローチャートであり、
図6はエコーキャンセル処理の詳細を示すフローチャートである。
【0044】
なお、防災情報の放送がいつ発生するかは予測不可能なので、受信側の受信機器12は通常はスリープモードに設定され、受信機器12の主要部分(受信器(RCV)12a以外の部分)への電力供給は停止(OFF)になっている。この状態で送信側からのウェイクアップ信号を受信すると、受信機器12はスリープモードからアクティブモードに切り替わり、主要部分への電力供給を開始(ON)し、受信機器12は動作可能状態になる。
【0045】
以上のことを前提とし、防災情報の放送が必要になったとき、
図5によれば、まずステップS10~S20では、送信側の音響機器22はウェイクアップ信号を所定時間、送信する。これは特定周波数の音波を10秒程度スピーカ(SP)23から放送することで実現できる。そして、ステップS20において、ウェイクアップ信号の送信開始後、所定時間が経過したことが確認されたなら、処理はステップS30に進む。
【0046】
これに対して、受信側の受信機器12はステップS110において、ウェイクアップ信号の受信を確認すると、受信機器12はスリープモードからアクティブモードに切替わり、処理はステップS120に進む。そして、ステップS120では、受信機器12の主要部分への電力供給を開始し、送信側からの放送信号の受信を可能にする。
【0047】
次に、送信側の音響機器22はステップS30において、放送信号を送信するが、まず本放送信号の音声信号の送信に先立って、パイロット信号を送信する。これに応じて受信側の受信機器12ではステップS120~S130においてパイロット信号を受信し、録音機(REC)15によりメモリ(MEM)16に録音する。そして、ステップS140において、パイロット信号に基づいてエコーキャンセルフィルタを構成する。
【0048】
図6によれば、ステップS142において、この時点で、受信機器12の検波器12bは相関器(CORR)17と判定器(DLY)18とを起動してパイロット信号を用いた相関検波を実行する。さらに、ステップS144では、相関器(CORR)17と判定器(DLY)18は相関検波により遅延時間を推定する。そして、ステップS146では、その遅延時間(位相ずれ)に基づいてエコーキャンセルフィルタをフィルタ(FIR)19に構成する。
【0049】
ここで、
図5に戻って説明を続けると、送信側の音響機器22ではステップS30においてパイロット信号を所定時間送信するのに続いて本放送信号の音声信号を送信する。これに応じて、受信側の受信機器12ではステップS120における受信とステップS130における録音を続ける。
【0050】
そして、ステップS140では、より正確には、
図6のステップS148では、メモリ(MEM)16に格納された本放送信号の音声信号を読出してフィルタ(FIR)19に入力し、フィルタ(FIR)19によりエコーをキャンセルする。その結果、フィルタ(FIR)19からはエコーがキャンセルされた本放送信号が出力される。そして、ステップS150では増幅器(AMP)12cにより増幅された本放送信号がスピーカ(SP)13から再生される。
【0051】
その後、ステップS160では防災情報の放送終了かどうかを調べ、受信終了と判断されれば処理は終了し、受信継続と判断されれば、処理はステップS120に戻り、本放送の受信を継続する。
【0052】
また、送信側の音響機器22においても、処理はステップS40において防災情報の放送終了かどうかを調べ、放送終了と判断されれば処理は終了し、放送継続と判断されれば、処理はステップS30に戻り、本放送の送信を継続する。
【0053】
従って以上説明した実施例に従えば、送信側装置に対してはウェイクアップ信号とパイロット信号の付加を行うのみで既存のハードウェアにほとんど改修を加えることなく、また受信側装置は簡単な構成でシステムを実現できる。このため、安価な構成により音声信号の品質改善を実現できるという利点がある。
【0054】
また、受信側では一旦録音した音声信号を用いてエコーキャンセル処理を行うので高性能なリアルタイム処理が要求されることもないので安価な構成部品を用いることも可能になる。
【0055】
なお以上説明した実施例で用いた受信機器は防災情報の音声を受信する専用機として説明したが本発明はこれによって限定されるものではない。例えば、スマートフォンにアタッチメントとしてBluetooth(登録商標)などの近距離無線により防災情報の音声を聴取するために遠距離からの音声に対する感度の良い補助マイクを装着するなどの構成でも良い。この場合、スマートフォンに上述した実施例で実現する音声情報のエコーキャンセルを行うプログラムをインストールしておき、スタンバイモードとして起動しておくと良い。そして、ウェイクアップ信号を補助マイクで聴取し検知したタイミングでプログラムをアクティブモードに切替えて実行することができる。
【0056】
また以上説明した実施例では、ウェイクアップ信号とパイロット信号とを別信号とする構成としたが、本発明はこれにより限定されるものではない。パイロット信号にウェイクアップ信号の機能を兼用させる構成としても良い。
【0057】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0058】
1 雲、10 ユーザ、11 受信局、12 受信機器、12a 受信器(RCV)、
12b 検波器(DTC)、12c 増幅器(AMP)、13 スピーカ(SP)、
14 マイクロフォン(MIC)、15 録音機(REC)、16メモリ (MEM)、
17 相関器(CORR)、18 判定器(DLY)、19 フィルタ(FIR)、
20 送信局、21 室内部、22 音響機器、22a 信号発生器(SG)、
22b 増幅器(AMP)、23 スピーカ(SP)、31~35建築物、
51 音声、52~54 音声、60 再生音声、100 放送システム