(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022035246
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】漬物の過発酵抑制用組成物及び過発酵が抑制された漬物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23B 7/10 20060101AFI20220225BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20220225BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20220225BHJP
【FI】
A23B7/10 B
C12N1/20 A ZNA
A23B7/10 Z
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020139432
(22)【出願日】2020-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】000226415
【氏名又は名称】物産フードサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】藤井 匡
(72)【発明者】
【氏名】冨山 香里
(72)【発明者】
【氏名】栃尾 巧
【テーマコード(参考)】
4B065
4B169
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA30X
4B065BD27
4B065BD35
4B065CA42
4B169AA04
4B169DA11
4B169DA12
4B169DA13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】簡便、低コストかつ効果的に漬物の過発酵を抑制することのできる組成物、過発酵が抑制された漬物の製造方法及びLeuconostoc mesenteroides(リューコノストックメッセンテロイデス)増殖抑制剤の提供。
【解決手段】糖アルコールを有効成分として含有する、漬物の過発酵抑制用組成物。前記糖アルコールは、(a)単糖を40~50質量%、二糖を40~50質量%、三糖を8~13質量%、四糖を1~5質量%、五糖以上を1~5質量%含有する糖組成である還元水飴、ソルビトール、マルチトール又はエリスリトールである、又は、(b)デキストロール当量が40以上70以下の水飴を還元してなる還元水飴、ソルビトール又はエリスリトールである。糖アルコールを有効成分として含有する、Leuconostoc mesenteroides(リューコノストックメッセンテロイデス)増殖抑制用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖アルコールを有効成分として含有する、漬物の過発酵抑制用組成物。
【請求項2】
前記糖アルコールは、下記(a)又は(b)である、
ことを特徴とする請求項1に記載の組成物;
(a)単糖を40~50質量%、二糖を40~50質量%、三糖を8~13質量%、四糖を1~5質量%、五糖以上を1~5質量%含有する糖組成である還元水飴、ソルビトール、マルチトール又はエリスリトール、
(b)デキストロール当量が40以上70以下の水飴を還元してなる還元水飴、ソルビトール又はエリスリトール。
【請求項3】
漬物のpH低下を抑制するための組成物である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
漬物からのガス発生を抑制するための組成物である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
漬物のマンニトール生成量を抑制するための組成物である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の組成物を、漬物に接触させる工程を含む、過発酵が抑制された漬物の製造方法。
【請求項7】
糖アルコールを有効成分として含有する、Leuconostoc mesenteroides(リューコノストック メッセンテロイデス)増殖抑制用組成物。
【請求項8】
エリスリトールを有効成分として含有する、Lactobacillus plantarum(ラクノバチルス プランタラム)、Lactobacillus brevis(ラクノバチルス ブレビス)又はLeuconostoc mesenteroides(リューコノストック メッセンテロイデス)増殖抑制用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漬物の過発酵抑制用組成物、過発酵が抑制された漬物の製造方法、Leuconostoc mesenteroides(リューコノストック メッセンテロイデス)増殖抑制用組成物及びLactobacillus plantarum(ラクノバチルス プランタラム)、Lactobacillus brevis(ラクノバチルス ブレビス)又はLeuconostoc mesenteroides(リューコノストック メッセンテロイデス)増殖抑制用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
漬物は様々な食材を食塩、酢、味噌、醤油、調味料、米糠などに漬け込んだものである。日本では古くから浅漬け、ぬか漬け等として親しまれており、全国各地で多種多様な漬物が製造されている。その中でも、出荷額が最も高いのは浅漬けである。
【0003】
浅漬けは、その漬け込み調味液の食塩濃度が1~3%程度と比較的低い。このため、原料野菜の洗浄及び保存状態が好ましくない場合には、容易に微生物が増殖し、いわゆる「過発酵」が生じやすいといわれている。「過発酵」は、漬物の過剰な酸味発生、炭酸ガスの発生等をきたし、漬物の品質低下を招きやすくなる。
【0004】
漬物の過発酵を抑制する方法が開発され、提言されてきた。
【0005】
特許文献1には、漬物の過発酵を抑制する技術として、加熱前処理を行ってから漬物用材料を調味液に漬け込むことで、腐敗原因である微生物を死滅させ、製品化後の品質劣化を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の方法では、蒸気加熱工程を行う必要があるため、作業が煩雑になるとともに製造コストがかさむという点で課題を残していた。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、簡便、低コストかつ効果的に漬物の過発酵を抑制することのできる組成物、過発酵が抑制された漬物の製造方法、Leuconostoc mesenteroides(リューコノストック メッセンテロイデス)増殖抑制用組成物及びLactobacillus plantarum(ラクノバチルス プランタラム)、Lactobacillus brevis(ラクノバチルス ブレビス)又はLeuconostoc mesenteroides(リューコノストック メッセンテロイデス)増殖抑制用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る漬物の過発酵抑制用組成物は、
糖アルコールを有効成分として含有する。
【0010】
例えば、前記糖アルコールは、下記(a)又は(b)である、
(a)単糖を40~50質量%、二糖を40~50質量%、三糖を8~13質量%、四糖を1~5質量%、五糖以上を1~5質量%含有する糖組成である還元水飴、ソルビトール、マルチトール又はエリスリトール、
(b)デキストロール当量が40以上70以下の水飴を還元してなる還元水飴、ソルビトール又はエリスリトール。
【0011】
例えば、漬物のpH低下を抑制するための組成物である。
【0012】
例えば、漬物からのガス発生を抑制するための組成物である。
【0013】
例えば、漬物のマンニトール生成量を抑制するための組成物である。
【0014】
本発明の第2の観点に係る過発酵が抑制された漬物の製造方法は、
本発明の第1の観点に係る漬物の過発酵抑制用組成物を、漬物に接触させる工程を含む。
【0015】
本発明の第3の観点に係るLeuconostoc mesenteroides(リューコノストック メッセンテロイデス)増殖抑制用組成物は、
糖アルコールを有効成分として含有する。
【0016】
本発明の第4の観点に係るLactobacillus plantarum(ラクノバチルス プランタラム)、Lactobacillus brevis(ラクノバチルス ブレビス)又はLeuconostoc mesenteroides(リューコノストック メッセンテロイデス)増殖抑制用組成物は、
エリスリトールを有効成分として含有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡便、低コストかつ効果的に漬物の過発酵を抑制することのできる組成物、過発酵が抑制された漬物の製造方法、Leuconostoc mesenteroides(リューコノストック メッセンテロイデス)増殖抑制用組成物及びLactobacillus plantarum(ラクノバチルス プランタラム)、Lactobacillus brevis(ラクノバチルス ブレビス)又はLeuconostoc mesenteroides(リューコノストック メッセンテロイデス)増殖抑制用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施例の糖アルコールによる、in vitroにおける乳酸菌の増殖抑制効果を示したグラフ図であり、(a)はLactobacillus plantarum、(b)はLactobacillus brevis、(c)はLeuconostoc mesenteroidesに対する増殖抑制効果を示したグラフ図である。
【
図2】本実施例の糖アルコールを添加した、ナスの漬け込み調味液の解析結果を表すグラフ図であり、(a)はpHの経時的変化を表すグラフ図であり、(b)はフルクトース濃度の経時的変化を表すグラフ図であり、(c)はマンニトール濃度の経時的変化を表すグラフ図である。
【
図3】本実施例の糖アルコールを添加した、ナスの漬け込み調味液の菌叢解析結果を表すグラフ図である。
【
図4】本実施例の糖アルコールを添加した、総細菌数の測定結果を表すグラフ図である。
【
図5】(a)はLeuconostoc mesenteroides培養によるガス発生量測定の様子を表す写真図であり、(b)はSE600によるガス発生抑制効果を表すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、本発明による漬物の過発酵抑制用組成物について詳細に説明する。
【0020】
本発明の漬物の過発酵抑制用組成物は、糖アルコールを有効成分として含有する。該組成物を漬物に適用することにより、漬物の過発酵を抑制させることができ、漬物のpH低下の抑制(過剰な酸味発生の抑制)、漬物からのガスの発生抑制、漬物のマンニトール生成量の抑制等の効果を発揮することで、漬物の品質(味質を含む)低下を防ぐことができる。本明細書において「漬物の過発酵」とは、食材又は漬け込み材料若しくは漬け込み調味液(後述)において、漬物が品質(味質を含む)低下をきたす程度に過剰に発酵することをいう。なお、例えば、市販品の浅漬け等のように漬物に分類されるものの発酵によらずに製造される漬物については、保存中や店頭に陳列されている間に期せずして発酵が進むことがあるが、このような製造工程以外における“発酵”も、本明細書における「漬物の過発酵」に含まれる。
【0021】
ここで、糖アルコールは、アルデヒド基(-CHO)を持つ糖を還元し、末端をアルコール(-CH2OH)に変化させた化合物をいう。糖アルコールは、一般に、高圧下で触媒を用いて糖を還元(水素付加)することにより得られる。原料とする糖の種類に応じて糖アルコールは種々存在するが、本発明では、後述する実施例で示すように、各種の糖アルコールを用いて、漬物の過発酵を抑制させることができる。
【0022】
本発明で用いられる糖アルコールを具体的に例示すると、下記の糖組成の還元水飴、ソルビトール、マルチトール又はエリスリトールを挙げることができる;
単糖が40~50質量%、
二糖が40~50質量%、
三糖が8~13質量%、
四糖が1~5質量%、
五糖以上が1~5質量%。
【0023】
還元水飴は、水飴を還元して得られる糖アルコールの一種である。ここで、水飴はデンプンを酸や酵素などで糖化して得られるものであり、単糖(ブドウ糖)及び多糖(オリゴ糖、デキストリンなど)の混合物である。よって、還元水飴も、単糖の糖アルコール及び多糖(二糖、三糖又は四糖以上)の糖アルコールのうち、2種以上の糖アルコールを含む混合物である。
【0024】
還元水飴は、糖化の程度により高糖化還元水飴(糖の総重量を100%とした場合において単糖アルコールが30~50質量%、二糖アルコールが20~50質量%、三糖以上の糖アルコールが25質量%以下)、中糖化還元水飴(糖の総重量を100%とした場合において単糖アルコールが30質量%未満かつ五糖以上の糖アルコールが50質量%未満)及び低糖化還元水飴(糖の総重量を100%とした場合において五糖以上の糖アルコールが50質量%以上)に分けられる場合があるが、本発明においては、これらのいずれも用いることができる。好ましくは、
単糖が40~50質量%、
二糖が40~50質量%、
三糖が8~13質量%、
四糖が1~5質量%、
五糖以上が1~5質量%
の糖組成の高糖化還元水飴が用いられ得る。
【0025】
なお、本発明において、糖組成とは、糖の総質量に占める各糖の質量割合を百分率で示すものをいう。すなわち、糖の総質量を100とした場合の、各糖の質量百分率である。
【0026】
糖組成は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて確認することができる。すなわち、還元水飴や水を試料としてHPLCに供してクロマトグラムを得る。当該クロマトグラムにおいて、全ピークの面積の総和が「糖の総質量」に、各ピークの面積が「各糖の質量」に相当する。よって、試料における各糖の質量百分率は、検出された全ピークの面積の総和に対する各ピークの面積の割合として算出することができる。HPLCの条件は、定法に従って適宜設定することができるが、下記条件を例示することができる。
(HPLCの条件)
カラム:Shodex SUGAR KS-802 HQ(8.0mm ID×300mm) 2本
溶離液:高純水
流速:1.0mL/分
注入量:200μL
カラム温度:50℃
検出:示差屈折率検出器Shodex RI
【0027】
本発明において、還元水飴は、市販されているものをそのまま用いてもよく、当業者に公知の方法に従って製造して用いてもよい。還元水飴の公知の製造方法としては、原料となる水飴(原料糖)に水素を添加する還元反応を挙げることができる。
【0028】
水素添加による還元反応は、例えば、40~75質量%の原料糖水溶液を、還元触媒と併せて高圧反応器中に仕込み、反応器中の水素圧を4.9~19.6MPa、反応液温を 70~180℃として、混合攪拌しながら、水素の吸収が認められなくなるまで反応を行なえばよい。その後、還元触媒を分離し、イオン交換樹脂処理、必要であれば活性炭処理等で脱色脱塩した後、所定の濃度まで濃縮すれば、高濃度の還元水飴を作ることができる 。
【0029】
ソルビトールは、ブドウ糖のアルデヒド基をヒドロキシ基に変換して得られる糖アルコールの一種である。ソルビトールは、市販されているものをそのまま用いてもよく、当業者に公知の方法に従って製造して用いてもよい。公知の製造方法としては、ブドウ糖に水素を添加する還元反応を挙げることができる。水素添加による還元反応は、例えば、40~75質量%の原料糖水溶液を、還元触媒と併せて高圧反応器中に仕込み、反応器中の水素圧を4.9~19.6MPa、反応液温を70~180℃として、混合攪拌しながら、水素の吸収が認められなくなるまで反応を行えばよい。その後、還元触媒を分離し、イオン交換樹脂処理、必要であれば活性炭処理等で脱色脱塩した後、所定の濃度まで濃縮すれば、高濃度のソルビトール溶液を作ることができる。
【0030】
より具体的には、例えば、特開平7-145090号公報に記載されているように、含水結晶ブドウ糖150gと水125gとラネーニッケル触媒5gとを内容積550mLの電磁攪拌式オートクレーブに仕込み、水素圧12.75MPaを保ちながら130℃で2時間還元反応を行う。続いて、ラネーニッケル触媒を分離した後、活性炭処理及びイオン交換樹脂処理を行い、50質量%の濃度まで濃縮して、250gのソルビトールの糖液を作ることができる。
【0031】
マルチトールは、グルコースとソルビトールとが結合した糖アルコールであり、還元麦芽糖とも呼ばれる。マルチトールは、市販されているものを用いてもよく、当業者に公知の方法に従って製造して用いてもよい。公知の製造方法としては、デンプンから酵素糖化法により得られた二糖類のマルトースを原料として、高圧下で接触還元する方法が例示される。マルチトールとして、麦芽糖水飴を原料として製造された還元麦芽糖水飴を用いてもよく、この場合、好ましくは、単糖が1~10質量%、二糖が75~85質量%、三糖が5~15質量%、四糖が1~10質量%及び五糖以上が1~10質量%の糖組成の還元水飴が用いられる。
【0032】
エリスリトールは、化学名が1,2,3,4-Butaneterolである糖アルコールであり、エリトリトールとも呼ばれる。エリスリトールは、市販されているものを用いてもよく、当業者に公知の方法に従って製造して用いてもよい。
【0033】
公知の製造方法としては、グルコースなどを炭素源としてエリスリトール生産菌を培養して生産させ、これを精製して得る方法を挙げることができる。ここで、エリスリトール生産菌としては、例えば、トリゴノプシス属又はカンジダ属に属する微生物(特公昭47-41549号公報)、トルロプシス属、ハンゼヌラ属、ピヒア属又はデバリオミセス属に属する微生物(特公昭51-21072号公報)、モニリエラ属に属する微生物(特開昭60-110295号公報、特開平10-215887)、オーレオバシデュウム属に属する微生物(特公昭63-9831号公報)、イエロビア属に属する微生物(特開平10-215887号公報)などを挙げることができ、培養条件は、各菌に適した通常の条件で行うことができる。また、エリスリトールの精製は、菌体分離、クロマトグラフィーによるエリスリトールの分取、脱塩、脱色、晶析、結晶分解及び乾燥の工程を常法に従って行うことができる。
【0034】
本発明で用いられる糖アルコールとして、過発酵抑制効果の観点から、
単糖が40~50質量%、
二糖が40~50質量%、
三糖が8~13質量%、
四糖が1~5質量%、
五糖以上が1~5質量%
の糖組成の高糖化還元水飴;
ソルビトール、マルチトール又はエリスリトールが好適に用いられる。
【0035】
他の観点において、本発明で用いられる糖アルコールは、デキストロール当量が40以上70以下の水飴を還元してなる還元水飴、ソルビトール又はエリスリトールであってもよい。
【0036】
デキストロール当量について説明する。還元水飴は、水飴を還元して製造することから、還元水飴の糖化の程度は、水飴の糖化の程度に準じる。すなわち、原料水飴の糖化の程度が高いほど還元水飴の糖化の程度が高く、原料水飴の糖化の程度が低いほど還元水飴の糖化の程度は低い。水飴の糖化の程度の指標は、一般に、デキストロース当量(Dextrose Equivalent値:DE)が用いられる。DEは、試料中の還元糖をブドウ糖として測定したときの、当該還元糖の全固形分に対する割合(百分率)である。DEの最大値は100で、固形分の全てがブドウ糖であることを意味し、DEが小さくなるほど少糖類や多糖類が多いことを意味する。
【0037】
本発明において、還元水飴が原料とする水飴のDEは、例えば、40以上70以下であるが、DEが60以上70以下、DEが40以上50以下の水飴の還元物としてもよい。
【0038】
なお、水飴のDEは、下記の方法により測定することができる。
《DEの測定方法》
試料2.5gを正確に量り、水で溶かして200mLとする。この液10mLを量り、1/25mol/L ヨウ素溶液(注1)10mLと1/25mol/L 水酸化ナトリウム溶液(注2)15mLを加えて20分間暗所に放置する。次に、2mol/L塩酸(注3)を5mL加えて混和した後、1/25mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液(注4)で滴定する。滴定の終点近くで液が微黄色になったら、デンプン指示薬(注5)2滴を加えて滴定を継続し、液の色が消失した時点を滴定の終点とする。水を用いてブランク値を求め、次式1によりDEを求める。
(注1)1/25mol/L ヨウ素溶液:ヨウ化カリウム20.4gとヨウ素10.2gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注2)1/25mol/L 水酸化ナトリウム溶液:水酸化ナトリウム3.2gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注3)2mol/L 塩酸:水750mLに塩酸150mLをかき混ぜながら徐々に加える。
(注4)1/25mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液:チオ硫酸ナトリウム20gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注5)デンプン指示薬:可溶性デンプン5gを水500mLに溶解し、これに塩化ナトリウム100gを溶解する。
【0039】
【0040】
本発明の組成物が適用される「漬物」は、食材を食塩、砂糖、酢、酒粕、味噌、醤油、米糠などの漬け込み材料又は漬け込み調味液(水と、食塩、酢、砂糖、醤油等の調味料と、の混合物)とともにつけ込んで脱水させ、しんなりと食べやすくするとともに風味をよくした食品をいう。本発明において、漬物の食材として、野菜及び果実が好適に用いられ得る。野菜としては、例えば、根を食用部位とする根菜類(ダイコン、ニンジン、ゴボウ、カブなど)、地下あるいは地上の茎を食用部位とする茎菜類(タマネギ、アスパラガス、ウド、モヤシなど)、葉や葉柄を食用部位とする葉菜類(キャベツ、レタス、ホウレンソウ、ハクサイ、チンゲンサイなど)、花序や花弁を食用部位とする花菜類(ミョウガ、カリフラワー、ブロッコリー、食用菊など)、未熟果や熟果を食用部位とする果菜類(トマト、ナス、カボチャ、ピーマン、キュウリ、トウモロコシなど)などを例示することができる。また、果物として、食用となる果実であれば特段制限なく用いることができ、例えば、リンゴ、ナシ、ヨウナシ、ドラゴンフルーツ、サクランボ、モモ、アンズ、カキ、キウイフルーツ、パパイヤ、ビワ、イチゴ、スイカ、ブドウ、メロン、ミカン、レモン、イチジク、パイナップルなどを例示することができる。また、漬物の種類としては、浅漬け、キムチ、たくあん、梅干し、酢漬け等があるが、本発明の組成物が好適に適用され得る漬物として、例えば、市販品の浅漬けが挙げられる。
【0041】
本発明の組成物を、前述の漬物に接触させることで、過発酵抑制効果を発揮させることができる。この接触の方法としては、例えば、本発明の組成物を漬け込み調味液に一定量添加し、該漬け込み調味液中に食品を一定時間浸漬させる方法;本発明の組成物を漬物の食材にそのまま振りかける(まぶす)方法;本発明の組成物を食用に適する液体(例えば、水、調味液等)に一定量添加し、製造後の漬物に、該液体を一定量噴霧又は塗布する方法などを挙げることができる。本発明の組成物の添加量は、過発酵抑制効果の観点から、該組成物を固形分換算で、例えば、0.5重量%以上、1.0重量%以上、1.5重量%以上、2.0重量%以上、2.5重量%以上、3.0重量%以上、3.5重量%以上が好ましい。
【0042】
本明細書において、「漬物の過発酵を抑制する(過発酵抑制)」とは、漬物が品質(味質を含む)低下をきたす程度に過剰に発酵されることを抑制、阻止又は延期することを指し、より具体的には、後述するように、例えば、漬物のpH低下を抑制することによる過剰な酸味発生の抑制、漬物からのガスの発生抑制、漬物のマンニトール生成量の抑制等を指す。
【0043】
本発明の組成物は、漬物のpH低下を抑制するために用いられてもよい。漬物の過発酵により、乳酸菌の過剰増殖、乳酸及び二酸化炭素の過剰発生等をきたし、pHが低下して過剰な酸味が発生する。本発明の組成物は、漬物の過発酵を抑制するため、漬物のpH低下を抑制して酸味発生を抑制し、漬物の品質(味質を含む)低下を抑制することができる。漬物のpH低下の抑制については、例えば、漬物又は漬け込み材料若しくは漬け込み調味液のpHを公知の方法で経時的に測定することで確認でき、漬物における過剰な酸味発生の抑制については、例えば、漬物又は漬け込み材料若しくは漬け込み調味液のpHを経時的に測定する方法、官能評価等によって確認することができる。
【0044】
本発明の組成物は、漬物からのガス発生を抑制するために用いられてもよい。過発酵により、漬物又は漬け込み材料若しくは漬け込み調味液から二酸化炭素が過剰に放出されると、漬物をパッケージングして店頭で販売する場合などでは、漬物の包装パッケージが膨張してしまうことがある。本発明の組成物は、このような過発酵による漬物からのガス発生を抑制するため、漬物の包装パッケージの膨張を抑制することができる。漬物からのガスの発生抑制については、例えば、漬物の包装パッケージの膨張の有無を経時的に目視で確認する方法、漬け込み前後のガス発生量を測定し比較する方法等で確認することができる。
【0045】
本発明の組成物は、マンニトール生成量を抑制するために用いられてもよい。例えば、花ラッキョウ (ラッキョウ甘酢漬)における発酵不良時にはマンニトールが蓄積することが知られている(乳酸菌スターターを使用したラッキョウ下漬け発酵の安定化技術、福井県農業試験場 食品加工研究所 加工開発研究グループ、日本農芸化学会1997年度大会、第10回日本乳酸菌学会研究集会;Kin’s 乳酸菌と発酵 Vol.10、2012.09、カルピス株式会社)。本発明の組成物は、漬物におけるマンニトール生成量を抑制し、漬物の発酵不良を改善することができる。漬物のマンニトール生成量の抑制については、例えば、後述の実施例で示すように、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により漬物又は漬け込み材料若しくは漬け込み調味液の糖組成を分析することで測定され得る。
【0046】
漬物の過発酵抑制効果については、本発明の組成物によるLeuconostoc mesenteroides(リューコノストック メッセンテロイデス)増殖抑制効果によっても確認され得る。Leuconostoc mesenteroides(リューコノストック メッセンテロイデス)は、漬物の発酵に関与する微生物である。該菌の増殖が抑制されたか否かは、後述する実施例に示すように、培養試験により判断することができる。すなわち、一方は被検物質(本発明の組成物)を添加して、他方はこれを添加せずに、同種の培地を調製する。この両培地に植菌して所定の期間培養した後、培地の菌量を測定する。菌量の測定は、簡便には濁度法により行うことができるが、培地や培養条件、測定対象の菌種などに応じて、乾燥菌体重量法や湿重量法、リアルタイムPCR法などの公知の手法を適宜選択することができる。その結果、被検物質(本発明の組成物)を添加したものの方が、これを添加しないものよりも菌量が小さければ 、被検物質(本発明の組成物)によりこれらの菌の増殖が抑制されたと判断することができる 。
【0047】
次に、本発明の過発酵が抑制された漬物の製造方法について説明する。
【0048】
本発明の過発酵が抑制された漬物の製造方法は、前述の本発明の組成物を、漬物に接触させる工程を含む。
【0049】
本発明の組成物は、前述の糖アルコールを有効成分として含有し、その詳細については前述の通りである。また、漬物の詳細、前述の本発明の組成物を漬物に接触させる方法の詳細等についても前述の通りである。
【0050】
次に、本発明のLeuconostoc mesenteroides(リューコノストック メッセンテロイデス)増殖抑制用組成物について説明する。
【0051】
本発明のLeuconostoc mesenteroides(リューコノストック メッセンテロイデス)増殖抑制用組成物は、糖アルコールを有効成分として含有する。本発明で用いられる糖アルコールの詳細については前述の通りである。
【0052】
なお、糖アルコールとして、増殖抑制効果の観点から、
単糖が40~50質量%、
二糖が40~50質量%、
三糖が8~13質量%、
四糖が1~5質量%、
五糖以上が1~5質量%
の糖組成の高糖化還元水飴;
ソルビトール、マルチトール又はエリスリトールが好適に用いられる。
【0053】
他の観点において、糖アルコールは、デキストロール当量が40以上70以下の水飴を還元してなる還元水飴、ソルビトール又はエリスリトールであってもよい。
【0054】
Leuconostoc mesenteroides(リューコノストック メッセンテロイデス)の増殖抑制効果は、例えば、前述の培養試験による方法を用いて確認することができる。
【0055】
Leuconostoc mesenteroides(リューコノストック メッセンテロイデス)は、漬物の発酵に関与する微生物である(宮尾茂雄:漬物の微生物学の進歩(その1),日本釀造協會雜誌、82,41-47(1987);宮尾茂雄:漬物と微生物,モダンメディア,61,18-25(2015))。このため、本発明のLeuconostoc mesenteroides(リューコノストック メッセンテロイデス)増殖抑制用組成物は、漬物の過発酵を抑制し、漬物のpH低下を抑制することによる過剰な酸味発生の抑制、漬物からのガスの発生抑制、漬物のマンニトール生成量を抑制する効果を発揮することができる。
【0056】
次に、本発明のエリスリトールを有効成分として含有する、Lactobacillus plantarum(ラクノバチルス プランタラム)、Lactobacillus brevis(ラクノバチルス ブレビス)又はLeuconostoc mesenteroides(リューコノストック メッセンテロイデス)増殖抑制用組成物について説明する。
【0057】
エリスリトールの詳細については前述の通りである。また、Lactobacillus plantarum(ラクノバチルス プランタラム)、Lactobacillus brevis(ラクノバチルス ブレビス)又はLeuconostoc mesenteroides(リューコノストック メッセンテロイデス)の増殖抑制効果は、例えば、前述の培養試験による方法を用いて確認することができる。これら3種の微生物は、漬物の発酵に関与する微生物であり(宮尾茂雄:漬物の微生物学の進歩(その1),日本釀造協會雜誌、82,41-47(1987);宮尾茂雄:漬物と微生物,モダンメディア,61,18-25(2015))、該組成物は、漬物の過発酵を抑制し、漬物のpH低下を抑制することによる過剰な酸味発生の抑制、漬物からのガスの発生抑制、漬物のマンニトール生成量を抑制する効果を発揮することができる。
【0058】
以上説明したように、本発明の漬物の過発酵抑制用組成物は、糖アルコールを有効成分として含有することで、簡便、低コストかつ効果的に漬物の過発酵を抑制することができる。より具体的には、本発明の組成物は、過発酵による漬物におけるpH低下を抑制して過剰な酸味発生を抑制することができ、漬物の品質(味質を含む)低下を抑制することができる。また、過発酵により、漬物から二酸化炭素が過剰に放出されると、漬物をパッケージングして店頭で販売する場合などでは、漬物の包装パッケージが膨張してしまうことがあるが、本発明の組成物は、このような過発酵による漬物からのガスの発生を抑制するため、漬物の包装パッケージの膨張を抑制することができる。さらに、花ラッキョウ (ラッキョウ甘酢漬)における発酵不良時にはマンニトールが蓄積することが知られているが、本発明の組成物は、漬物におけるマンニトール生成量を抑制するため、漬物の品質(味質を含む)低下を抑制することができる。このように、本発明の組成物は、漬物の過発酵を抑制することで、漬物の品質(味質を含む)低下を効果的に防ぐことができるため、消費者の購買意欲を増進させるのみならず、過発酵による漬物廃棄の量を低減することもでき、食品工業において非常に有用である。
【実施例0059】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
以下の実施例では、特段の記載のない限り、百分率(%)は質量%を示す。また、本実施例において、糖アルコールのうち、ソルビトール、マルチトール及び高糖化還元水飴エスイー600(SE600)については、表1に記載の市販品(物産フードサイエンス株式会社製)を用い、エリスリトールについては、物産フードサイエンス株式会社製の製品(商品名:エリスリトール50M、形態:白色粉末)を用いた。
【0061】
【0062】
(実施例1)
(漬物発酵に関連する微生物の単離及び同定)
漬物発酵に関連する微生物を、市販の白菜漬けより単離及び同定した。より具体的には、該白菜漬けの漬け込み液を50μL採取し、MRS寒天培地(110660 Millipore MRS 寒天培地(DE MAN,ROGOSA及びSHARPEによるLactobacillus寒天培地)微生物学用 GranuCult(登録商標)、メルク社)又はLB培地(ハイポリペプトン 1w/v%、イーストエキストラクト 0.5w/v%、塩化ナトリウム 0.5w/v%、アガー 1.5w/v%、pH7.0)の寒天プレートに播種し、37℃で3日間静置培養した。出現したコロニーについて、後述のとおり、16S リボソーマルRNA遺伝子配列解析により菌の同定を行ったところ、白菜漬け中に存在した微生物は、表2のとおりの乳酸菌であることが判明した。
【0063】
【0064】
リボソーマルRNA遺伝子のシークエンス解析について説明する。
(1)ゲノムDNAの抽出
ジルコニアビーズ5φ(直径5mm)2個及び滅菌水500μLを分注した破砕用チューブに、釣菌したコロニーを入れ、破砕機(MS-100、トミー精工)を用いて4000rpm、90秒間のプログラムで破砕した。
(2)リボソーマルRNA遺伝子の増幅
Quick Taq(登録商標)HS DyeMix(TOYOBO)を用いて、PCR反応を行った。
(i)使用プライマー:リボソーマルRNA遺伝子の増幅プライマー
バクテリア用(約800bpが増幅)
10F_forBacteria:GTTTGATCCTGGCTCA(配列番号1)
800R_forBacteria:TACCAGGGTATCTAATCC(配列番号2)
(ii)反応液
水 7μL
Quick Taq(登録商標)HS DyeMix 12μL
Fored primer(50μM) 0.175μL
Reverse primer(50μM) 0.175μL
ゲノムDNA 5μL
(iii)反応条件
94℃、2分間
↓
95℃、15秒間
50℃、60秒間
72℃、60秒間 38サイクル
↓
72℃、60秒間
(iv)電気泳動
PCR反応後のサンプル各3μLを、DNA 100bp Ladder(カーク)とともに、2%ゲルを用いた電気泳動(100V、20分間)に供した。その後、SYBR Safe-DNA Gel Stain(Thermo Fisher Scientific)で染色し、DNAのバンドを確認した。この結果、バクテリア用のプライマーにより、約800bpのDNA断片が増幅されたことがわかった。
(3)残りのサンプルをFastGene(登録商標)Gel/PCR Extraction Kit(日本ジェネティクス)で精製した後、これについて、プライマー10F_forBacteria(配列番号1)を用いてファスマック株式会社にてシークエンス解析した。得られた塩基配列につて、NCBIのデータベースと照合することにより相同性検索を行い、菌株の属及び種の簡易同定を行った。
【0065】
解読した各菌株(No.1~No.3)のリボソーマルRNA遺伝子の塩基配列を以下に示す。
【0066】
No.1(配列番号3)
GAACTCTGGTATTGATTGGTGCTTGCATCATGATTTACATTTGAGTGAGTGGCGAACTGGTGAGTAACACGTGGGAAACCTGCCCAGAAGCGGGGGATAACACCTGGAAACAGATGCTAATACCGCATAACAACTTGGACCGCATGGTCCGAGCTTGAAAGATGGCTTCGGCTATCACTTTTGGATGGTCCCGCGGCGTATTAGCTAGATGGTGGGGTAACGGCTCACCATGGCAATGATACGTAGCCGACCTGAGAGGGTAATCGGCCACATTGGGACTGAGACACGGCCCAAACTCCTACGGGAGGCAGCAGTAGGGAATCTTCCACAATGGACGAAAGTCTGATGGAGCAACGCCGCGTGAGTGAAGAAGGGTTTCGGCTCGTAAAACTCTGTTGTTAAAGAAGAACATATCTGAGAGTAACTGTTCAGGTATTGACGGTATTTAACCAGAAAGCCACGGCTAACTACGTGCCAGCAGCCGCGGTAATACGTAGGTGGCAAGCGTTGTCCGGATTTATTGGGCGTAAAGCGAGCGCAGGCGGTTTTTTAAGTCTGATGTGAAAGCCTTCGGCTCAACCGAAGAAGTGCATCGGAAACTGGGAAACTTGAGTGCAGAAGAGGACAGTGGAACTCCATGTGTAGCGGTGAAATGCGTAGATATATGGAAGAACACCAGTGGCGAA
【0067】
No.2(配列番号4)
AGTCGAACGAGCTTCCGTTGAATGACGTGCTTGCACTGATTTCAACAATGAAGCGAGTGGCGAACTGGTGAGTAACACGTGGGGAATCTGCCCAGAAGCAGGGGATAACACTTGGAAACAGGTGCTAATACCGTATAACAACAAAATCCGCATGGATTTTGTTTGAAAGGTGGCTTCGGCTATCACTTCTGGATGATCCCGCGGCGTATTAGTTAGTTGGTGAGGTAAAGGCCCACCAAGACGATGATACGTAGCCGACCTGAGAGGGTAATCGGCCACATTGGGACTGAGACACGGCCCAAACTCCTACGGGAGGCAGCAGTAGGGAATCTTCCACAATGGACGAAAGTCTGATGGAGCAATGCCGCGTGAGTGAAGAAGGGTTTCGGCTCGTAAAACTCTGTTGTTAAAGAAGAACACCTTTGAGAGTAACTGTTCAAGGGTTGACGGTATTTAACCAGAAAGCCACGGCTAACTACGTGCCAGCAGCCGCGGTAATACGTAGGTGGCAAGCGTTGTCCGGATTTATTGGGCGTAAAGCGAGCGCAGGCGGTTTTTTAAGTCTGATGTGAAAGCCTTCGGCTTAACCGGAGAAGTGCATCGGAAACTGGGAGACTTGAGTGCAGAAGAGGACAGTGGAACTCCATGTGTAGCGGTGGAATGCGTAGATATATGGAAGAACACCAGTGGCGAA
【0068】
No.3(配列番号5)
ACGCACAGCGAAAGGTGCTTGCACCTTTCAAGTGAGTGGCGAACGGGTGAGTAACACGTGGACAACCTGCCTCAAGGCTGGGGATAACATTTGGAAACAGATGCTAATACCGAATAAAACTTAGTGTCGCATGACACAAAGTTAAAAGGCGCTTCGGCGTCACCTAGAGATGGATCCGCGGTGCATTAGTTAGTTGGTGGGGTAAAGGCCTACCAAGACAATGATGCATAGCCGAGTTGAGAGACTGATCGGCCACATTGGGACTGAGACACGGCCCAAACTCCTACGGGAGGCTGCAGTAGGGAATCTTCCACAATGGGCGAAAGCCTGATGGAGCAACGCCGCGTGTGTGATGAAGGCTTTCGGGTCGTAAAGCACTGTTGTATGGGAAGAACAGCTAGAATAGGAAATGATTTTAGTTTGACGGTACCATACCAGAAAGGGACGGCTAAATACGTGCCAGCAGCCGCGGTAATACGTATGTCCCGAGCGTTATCCGGATTTATTGGGCGTAAAGCGAGCGCAGACGGTTTATTAAGTCTGATGTGAAAGCCCGGAGCTCAACTCCGGAATGGCATTGGAAACTGGTTAACTTGAGTGCAGTAGAGGTAAGTGGAACTCCATGTGTAGCGGTGGAATGCGTAGATATATGGAAGAACACCAGTGGCGAAGGCGGCTTACTGGACTGCAACTGACGTTGAGG
【0069】
以上より、No.1~No.3の菌株は、そのリボソーマルRNA遺伝子の塩基配列が表2記載の菌株に100%一致したことから、下記のとおりの漬物発酵に関連する菌株と同定し、以下の試験に使用した。
・No.1:Lactobacillus plantarum(L.plantarum)
・No.2:Lactobacillus brevis(L.brevis)
・No.3:Leuconostoc mesenteroides(L.mesenteroides)
【0070】
(実施例2)
(糖アルコールによるin vitroにおける微生物の増殖抑制効果)
実施例1にて単離した3種の乳酸菌について、エリスリトール、ソルビトール、マルチトール及びSE600の添加による増殖抑制効果を検証した。なお、コントロールとしてスクロースを用いた。
【0071】
各微生物をそれぞれBD DifcoTM ラクトバシラスMRSブロス(日本ベクトン・ディッキンソン)6mLに植菌し、アネロパック(登録商標)・ケンキ (三菱ガス化学、東京)を用いて30℃で48時間嫌気培養した。
【0072】
これらの培養液20μLを96 Deep Well Plate(AxyGen Scientific、米国)に分注した本培養培地に植菌し、30℃で48時間嫌気培養した。本培養培地は、ソルビトール、マルチトール、SE600又はスクロースを各々0%、2.5%、5%又は10%含有した0.6mLのラクトバシラスMRSブロスとした。本培養した培養液20μLを、96穴平底プレート 4845-96F(ワトソン)に分注された水180μLに懸濁し、マイクロプレートリーダー SpectraMax(登録商標)M2(モレキュラーデバイスジャパン)を用いて濁度(OD660)を測定した(n=4)。
【0073】
結果を
図1に示す。
図1において、縦軸は各培養液の濁度(OD
660)を示し(n=4)、有意差検定により有意であったものを「*」で示し、また、「HSH」は「SE600」を表す。コントロールであるスクロースは、どの菌株に対しても増殖抑制効果を示さず、特にL.mesenteroides(
図1(c))については増殖を促進した。一方、エリスリトールは、L.plantarum(
図1(a))、L.brevis(
図1(b))及びL.mesenteroides(
図1(c))のいずれについても濃度依存的に増殖を抑制した。また、ソルビトール、マルチトール及びSE600は、L.mesenteroides(
図1(c))について濃度依存的に増殖を抑制した。
【0074】
(実施例3)
(糖アルコールを添加した漬け込み調味液の解析)
エリスリトール、ソルビトール、マルチトール又はSE600を添加した漬け込み調味液にてナスの漬物を作り、その漬け込み調味液について、pH測定、糖組成分析、菌叢解析及び総細菌数測定を行った。
【0075】
山梨県産のナスを購入し、縦に2等分した後、約3cm幅の半月切りにした。漬け込み調味液を、食塩2%、ブドウ糖0.2%に、エリスリトール、ソルビトール、マルチトール又はSE600を固形分濃度で3.5%加え、酒石酸を添加してpH6.0とすることで調製した。150gの切ったナスと、ナスの2倍量の漬け込み調味液と、を袋に入れ、4℃にて21日間発酵させた。コントロールとして、糖アルコール不添加以外は上記同様の漬け込み調味液を用いた。漬け込み後18日目までの漬け込み調味液のpHを測定(
図2(a))するとともに、漬け込み調味液中のフルクトース濃度(
図2(b))及びマンニトール濃度(
図2(c))を測定した。なお、
図2(a)-(c)において、「HSH」は「SE600」を表す。
【0076】
(1)pH測定
pH測定の結果を
図2(a)に示す。糖アルコールを加えていないコントロールでは、漬け込み15日目以降において、急激にpHが低下した。一方、エリスリトール、ソルビトール、マルチトール又はSE600を添加した場合では、試験期間においてpHの低下はみられなかった。このように、本実施例の糖アルコールによって、漬け込み調味液のpH低下が抑制されることが示された。
【0077】
(2)糖組成分析
漬け込み調味液を0.45μm孔フィルターで濾過して、得られた濾液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供することで、糖組成を分析し、フルクトース濃度(
図2(b))及びマンニトール濃度(
図2(c))を測定した。
・HPLCの条件
HPLCシステム:LC-2030(島津製作所)
カラム:アミネックスHPX87C(300×7.8mm)BIORAD
移動相:水
流速:0.5mL/分
温度:80℃
検出:示差屈折率検出器(RID20A;島津製作所)(ピークエリア比法)
【0078】
フルクトース濃度測定の結果を
図2(b)に示す。糖アルコールを加えていないコントロールでは、漬け込み15日目以降において、急激にフルクトース濃度が低下した。一方、エリスリトール、ソルビトール、マルチトール又はSE600を添加した場合では、コントロールでみられたようなフルクトース濃度の低下はみられなかった。コントロールで漬け込み15日目以降において急激にフルクトース濃度が低下したのは、発酵初期においては、ナスから溶出されるフルクトースの量が微生物による消費量を上回っているために、フルクトース濃度が徐々に増加しているが、その後、微生物による消費量が上回りフルクトース濃度が低下したと考えられる。
【0079】
マンニトール濃度測定の結果を
図2(c)に示す。コントロールでは、漬け込み15日目以降において、マンニトール濃度が急激に上昇していることがわかった。一方、エリスリトール、ソルビトール、マルチトール又はSE600を添加した場合では、マンニトール濃度の上昇はみられなかった。
【0080】
以上より、本実施例の糖アルコール添加によって、漬け込み調味液のpH低下が抑制された(
図2(a))ことから、本実施例の糖アルコールが漬物の過剰な酸味発生を抑えることが示された。また、コントロールでは、フルクトース濃度が低下し、マンニトール濃度が上昇していた一方で、本実施例の糖アルコール添加ではフルクトース濃度が上昇し、マンニトール濃度上昇が抑制されていた(
図2(c))。
図2(b)、(c)の結果について、コントロールで占有率が増加していたLeuconostocaceae科細菌(後述)はフルクトースをマンニトールに変換する代謝系を有していることが知られており(V.Moneder,G.et al:Perspectives of engineering lactic acid bacteria for biotechnological polyol production,Appl Environ Microbiol,69,5297-5305(2010))、コントロールでは、過発酵によってフルクトースが大量に消費されるとともに、Leuconostocaceae科細菌によってフルクトースがマンニトールに変換されたためフルクトース濃度が低下した一方で、本実施例の糖アルコール添加では、過発酵が抑制されてフルクトースの消費が進行しなかったためと考えられる。したがって、本実施例の糖アルコールは、マンニトールの生成を抑制することが示された。
【0081】
(3)菌叢解析
漬け込み後8日目及び18日目の漬け込み調味液からDNAを抽出し、16S リボソーマルRNA遺伝子を増幅するプライマーを用いたPCR増幅後、アンプリコンシークエンス解析を行うことにより、各漬け込み調味液中の菌叢解析を行った。
【0082】
保管期間8日目及び18日目における各漬け込み調味液100μLを水400μLで希釈し、テンプレートDNAを調製した。このDNAを鋳型として、2種類のプライマー(V3V4f_MIX(配列番号6)及びV3V4r_MIX(配列番号7))を用い16S rRNA遺伝子のV3/V4領域を対象にPCR増幅した。この増幅産物の塩基配列を次世代DNAシーケンサー MiSeq(Illumina、米国)で解析して、ペアエンドリードを得た。その後、Qiime2を用いてキメラ配列を除去し、97%以上一致する配列を一つのOTU(Operational taxonomy unit)としてまとめた。各OTUについて、Greengenes(Second Genome、米国)提供のデータベースをもとに系統推定した。以上の解析は、株式会社生物技研(神奈川県)で行った。
V3V4f_MIX:ACACTCTTTCCCTACACGACGCTCTTCCGATCT-NNNNN-CCTACGGGNGGCWGCAG(配列番号6)
V3V4r_MIX:GTGACTGGAGTTCAGACGTGTGCTCTTCCGATCT-NNNNN-GACTACHVGGGTATCTAATCC(配列番号7)
【0083】
結果を
図3に示す。
図3において、「HSH」は「SE600」を表す。8日目のサンプルではいずれもEnterobacteriaceae科細菌などのグラム陰性菌がほとんどを占め、L.mesenteroidesなどが含まれるLeuconostocaceae科細菌は検出されなかった。一方、18日目のサンプルでは、コントロールにおいてLeuconostocaceae科細菌の占有率が約76%であった。一方、エリスリトール、ソルビトール、マルチトール又はSE600を添加した場合ではいずれも、18日目のサンプルであってもLeuconostocaceae科細菌の占有率は小さく、特に、マルチトール添加では0%、SE600添加では1.3%とLeuconostocaceae科細菌の占有率が非常に低かった。
【0084】
(4)総細菌数測定
漬け込み後8日目及び18日目の漬け込み調味液における総細菌数を測定した。総細菌数解析について具体的に説明する。上記のテンプレートDNAを100倍希釈し、これと細菌叢解析で用いたプライマー配列中の16S rRNA遺伝子との相同配列から設計した2種類のプライマー(V3V4f_q:5’-CCTACGGGNGGCWGCAG-3’(配列番号8)及びV3V4r_q:5’-GACTACHVGGGTATCTAATCC-3’(配列番号9)) を用い、Thermal Cycler Dice(登録商標)Real Time SystemIII(タカラバイオ) を使用してTB Green(登録商標)Premix Ex Taq(登録商標)II (タカラバイオ) のプロトコルに従い、定量PCRを行った。ただし、反応プログラムは、95℃、10秒の初期変性の後、95℃、5秒の熱変性、55℃、30秒のアニーリング、72℃、30秒の伸長反応からなる40サイクルで行った。増幅中の蛍光シグナルは、伸長反応時に検出し、増幅産物の特異性は、定量PCR後の融解曲線分析により確認した。求められたCt値から、検量線を用いて算出した数値を500倍した数字を、各調味液中の総細菌数とした。なお、検量線はLactobacillus apis DSM 26264の16S rRNA遺伝子配列との相同配列から設計した2種類のプライマー (LAPISf:5’-TTAAACGACTTTAAAGAC-3’(配列番号10) 及び LAPIS:5’-TTATTCATCATCTTCGT-3’(配列番号11)) を用いて増幅したDNA(540bp)を段階希釈して測定しCt値を用いて作成した。
【0085】
結果を
図4に示す。
図4において、「HSH」は「SE600」を表す。コントロールでは、8日目のサンプルに比して、18日目のサンプルで総細菌数が大幅に増加していた。一方、エリスリトール、ソルビトール、マルチトール又はSE600を添加した場合ではいずれも、コントロールに比して、18日目のサンプルにおける総細菌数の増加が抑えられていた。
【0086】
以上より、L.mesenteroidesなどのLeuconostocaceae科細菌が漬け込み調味液で増殖することで、過発酵が促進されることが示唆された。本実施例の糖アルコールを漬け込み調味液に添加することで、細菌増殖が抑制され、特にL.mesenteroidesなどのLeuconostocaceae科細菌の増殖が抑制され、過剰な酸味の発生を抑制できることが示された。
【0087】
(実施例4)
(ガス発生抑制試験)
Leuconostocaceae科細菌はヘテロ型乳酸発酵をする微生物であり、乳酸を産生するとともに炭酸ガスも産生する。そこで、Leuconostocaceae科細菌であるL.mesenteroidesについて、SE600添加によるガス発生抑制効果を検証した。
【0088】
L.mesenteroidesをLB+0.2×MRS液体培地(1×LB+0.2×MRSで調合した培地)2mLに植菌し、37℃で低速(120rpm)24時間振盪培養した。その後、各培養液200μLを、3mLのSE600含有MRS液体培地が入ったチューブ(CELLSTAR、CELLreactor(Greiner))に分注することで植菌した。該MRS液体培地は、SE600が0%、5%又は10%濃度含むよう調製された。植菌後、チューブのキャップ(ガス透過性フィルターが付いている)に風船を付け(
図5(a))、37℃、120rpmで72時間培養した。培養終了後、各風船の内部からガスが漏れ出ないようにしながら、
図5(a)において右側に配されたボトル内に各風船を入れて、ボトル中に流入可能な水の量を測定することで、各風船内に溜まったガス発生量を測定した。
【0089】
結果を
図5(b)に示す。L.mesenteroidesによるガス発生量は、SE600濃度依存的に抑制されていることが示された。
【0090】
従来、漬物の過発酵に起因するガス発生によって包装パッケージが膨張することが問題となっていたが、本実施例の糖アルコールは過発酵によるガス発生を抑制するため、包装パッケージの膨張を抑制し、漬物の品質低下を防ぐことができる。
【0091】
以上より、本実施例の糖アルコールは、漬物の過発酵を抑制できることが示された。より具体的には、漬物における過剰な酸味発生の抑制、マンニトール生成量の抑制による発酵不良の抑制及びガス発生抑制によって、漬物の品質低下を防ぐことが示された。これらは、主に、本実施例の糖アルコールによるLeuconostocaceae科細菌増殖抑制効果によって達成され得ることが示唆された。