(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022035253
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】湿式摩擦材および湿式摩擦材を有するクラッチディスク
(51)【国際特許分類】
F16D 13/62 20060101AFI20220225BHJP
F16D 69/02 20060101ALI20220225BHJP
F16D 13/64 20060101ALI20220225BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
F16D13/62 A
F16D69/02 A
F16D13/64 Z
C09K3/14 520M
C09K3/14 520F
C09K3/14 530D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020139447
(22)【出願日】2020-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】000102784
【氏名又は名称】NSKワーナー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002435
【氏名又は名称】特許業務法人井上国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077919
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 義雄
(74)【代理人】
【識別番号】100172638
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 隆治
(74)【代理人】
【識別番号】100153899
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100159363
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 淳子
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸井 睦
(72)【発明者】
【氏名】▲らん▼ 文静
【テーマコード(参考)】
3J056
3J058
【Fターム(参考)】
3J056AA57
3J056BA02
3J056BB50
3J056CA04
3J056EA03
3J056EA12
3J056EA26
3J056EA28
3J056GA05
3J056GA12
3J058AA43
3J058BA73
3J058GA29
3J058GA59
3J058GA73
3J058GA82
3J058GA93
(57)【要約】
【課題】湿式クラッチに用いられる湿式摩擦材の相手摩擦面との静摩擦係数(μs)を向上させることができる湿式摩擦材を提供すること。
【解決手段】 繊維基材と充填剤とを用いて形成された基材ペーパーと、基材ペーパーを硬化させるための結合材とを含む湿式摩擦材であって、充填剤は、少なくとも1種類以上の親油性の高いゴム材料を用いて形成されたゴム粒子を含み、ゴム粒子は、補強用のカーボンブラックを含むことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材と充填剤とを用いて形成された基材ペーパーと、
前記基材ペーパーを硬化させるための結合材とを含む湿式摩擦材であって、
前記充填剤は、少なくとも1種類以上の親油性の高いゴム材料を用いて形成されたゴム粒子を含むことを特徴とする湿式摩擦材。
【請求項2】
前記ゴム粒子は、カーボンブラック含むことを特徴とする請求項1に記載の湿式摩擦材。
【請求項3】
前記ゴム粒子は、シリカを含むことを特徴とする請求項1に記載の湿式摩擦材。
【請求項4】
前記結合材は、前記ゴム粒子を含むことを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の湿式摩擦材。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一項に記載の湿式摩擦材を有することを特徴とするクラッチディスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の自動変速機に組み込まれる湿式クラッチに用いられる湿式摩擦材および該湿式摩擦材を有するクラッチディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、湿式摩擦材の摩擦性能或いは耐摩耗性を向上させるために、湿式摩擦材は様々な改良がなされてきた。
【0003】
特許文献1には、基材ペーパーの材料にゴム粉末を添加混合したものから従来の抄紙工程によって基材ペーパーを作製し、得られた基材ペーパーに熱硬化性樹脂を含浸させ硬化させて作製した湿式摩擦材が記載されている。特許文献1の湿式摩擦材は、摩耗量が少なく、クラッチの切れ性能の向上が図られている。
特許文献2には、基材である炭素繊維クロスに、熱硬化性樹脂、ゴム成分、およびカーボンブラックを用いた混合分散液を含浸させ硬化させて作製した湿式摩擦材が記載されている。特許文献2によれば、摺動時の相手部材とのなじみ性が向上し、動摩擦係数の高い湿式摩擦材を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-210791号公報
【特許文献2】特開2002-179811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、燃費向上の観点から、車両の軽量化の要求が高まっている。車両の軽量化を実現するためには、車両に用いられる各種装置の軽量化が必要である。車両の駆動装置の一つである自動変速機における軽量化としては、クラッチディスクの枚数の削減が考えられる。これを実現するためには、クラッチディスクに用いられる湿式摩擦材の静摩擦係数(μs)を向上させることが有効である。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、湿式クラッチに用いられる湿式摩擦材の相手摩擦面との静摩擦係数(μs)を向上させることができる湿式摩擦材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る湿式摩擦材は、
繊維基材と充填剤とを用いて形成された基材ペーパーと、
前記基材ペーパーを硬化させるための結合材とを含む湿式摩擦材であって、
前記充填剤は、少なくとも1種類以上の親油性の高いゴム材料を用いて形成されたゴム粒子を含むことを特徴とする。
また、本発明に係る湿式摩擦材は、前記ゴム粒子は、カーボンブラックを含むことを特徴とする。
また、本発明に係る湿式摩擦材は、前記ゴム粒子は、シリカを含むことを特徴とする。
また、本発明に係る湿式摩擦材は、前記結合材は、前記ゴム粒子を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、湿式クラッチに用いられる湿式摩擦材の相手摩擦面との静摩擦係数(μs)を向上させることができる湿式摩擦材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1(a)は本実施形態に係る湿式摩擦材を用いたクラッチディスクを模式的に示す正面図であり、
図1(b)は
図1(a)のb-b矢視拡大断面図であり、湿式摩擦材の断面を模式的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る湿式摩擦材およびクラッチディスクについて説明する。
図1(a)は本実施形態に係る湿式摩擦材を用いたクラッチディスクを模式的に示す正面図であり、
図1(b)は、
図1(a)のb-b矢視拡大断面図であり、湿式摩擦材の断面を模式的に示している。
【0011】
本実施形態に係る湿式摩擦材1は、自動車等の車両の自動変速機等に組み込まれる湿式クラッチ(図示省略)に用いられるものである。本実施形態に係る湿式摩擦材1およびクラッチディスク3の製法は次のとおりである。すなわち湿式摩擦材1は、繊維基材に充填剤や摩擦調整剤を配合したものを抄紙して基材ペーパーを作製し、得られた基材ペーパーに結合材として、例えば熱硬化性樹脂等を含浸させ、硬化させることにより造られる。クラッチディスク3は、上記製法によって造られた湿式摩擦材1を所定の形状に打ち抜き、環状の芯金5に接着することにより造られる。
【0012】
繊維基材としては、例えば、ガラス、シリカ等の無機化合物を含む繊維や金属を含む繊維、アラミド繊維などの有機繊維の一種又は複数を用いることができる。
【0013】
充填剤、摩擦調整剤としては、例えば、珪藻土、カーボン、炭酸カルシウム等の無機化合物、合成ゴム等の有機化合物の一種又は複数を用いることができる。
【0014】
本実施形態の湿式摩擦材1は、繊維基材に配合される充填剤としてゴム粒子を用いている。ゴム粒子は、原料であるゴム材料に補強用のカーボンブラックおよび架橋をするための薬品を混合し、シート状に成型後、該シートを粉砕することにより得られる。なお、架橋をするための薬品は用いるゴム材料によって適宜選択され、成型は従来公知の方法で行われる。ゴム材料は、少なくとも1種類以上の親油性の高いゴムを用いている。これは、湿式摩擦材は油中での使用であることから、ゴム材料の適用性として油のぬれ性を高めること、粘弾性を高めることが必要なためである。また、親油性の高いゴム材料を繊維基材に配合される充填剤として用い、さらにゴム粒子には補強用のカーボンブラックが配合されていることにより、湿式摩擦材1の油のぬれ性や粘弾性を高める効果があり、且つその効果を持続させることができる。
【0015】
繊維基材に、充填剤として上述したゴム粒子を配合し、さらに他の充填剤として珪藻土等の無機化合物を配合したものを従来と同様に抄紙して得られた基材ペーパーに、結合材として例えば熱硬化性樹脂等を含浸させ、硬化させて本実施形態の湿式摩擦材1が得られる。また、実施形態に係るクラッチディスク3は、上記の製法によって造られた湿式摩擦材1を所定の形状に打ち抜き、熱プレスによって、接着剤を塗布した基板である芯金5と一体化することにより造られる。
なお、親油性の高いゴム材料から得られる上記ゴム粒子を、基材ペーパーを結合させる結合材として用いても湿式摩擦材1のぬれ性や粘弾性を高める効果を発揮する。更に、上記ゴム粒子を、繊維基材に配合される充填剤として用いると共に、基材ペーパーを結合させる結合材として用いても同様の効果を発揮する。
また、ゴム粒子の補強のために、カーボンブラックに代えて、シリカを配合しても良い。
【0016】
このようにして得られた本実施形態の湿式摩擦材1は、基材ペーパーに親油性のゴム材料から形成したゴム粒子を配合し、さらにゴム粒子には補強用のカーボンブラック、またはシリカが配合されていることにより、湿式摩擦材1の油のぬれ性や粘弾性を高める効果があり、且つその効果が持続するので、油中においても安定した粘弾性を有し、摩擦相手面との静摩擦係数の向上を図ることができる。さらに、湿式摩擦材1の摩擦相手面との静摩擦係数が向上することにより、湿式クラッチにおいて用いられるクラッチディスク3の枚数を削減できる可能性を見出すことができる。
【0017】
(実施例)
次に本実施形態に係る湿式摩擦材の実施例と、実施例および比較例を用いた評価試験について説明する。
【0018】
本実施形態の湿式摩擦材は、上述したように、繊維基材に配合される充填剤としてゴム粒子を用いている。ゴム粒子は、原料であるゴム材料にカーボンブラックおよび架橋をするための薬品を混合し、或いはゴム材料にシリカおよび架橋をするための薬品を混合し、シート状に成型後、該シートを粉砕することにより得る。実施例においては、ゴム材料は、スチレンブタジエンゴム(以下「SBR」とする)と、ポリイソブチレンゴム(以下「IIR」とする)との2種を用い、2種の湿式摩擦材を作製した。これらのゴム材料は、何れも親油性の高いものである。繊維基材に配合される充填剤として親油性の高いゴム材料を用い、さらに補強用のカーボンブラック、またはシリカを配合することにより、湿式摩擦材に油のぬれ性や粘弾性を高める効果があり、且つその効果を持続させることができる。なお、実施例では1の材料に1種のゴム種の適用としたが、2種以上のブレンドとしても良い。
【0019】
また、上記2つのゴム材料との比較例として、ゴム材料としてニトリルゴム(以下「NBR」とする)を用いてゴム粒子を作製し、これを充填剤として繊維基材に配合した湿式摩擦材を作製した。ニトリルゴムは充填剤の配合の一部として従来用いられた実績のある材料である。また、本実施形態で用いられるSBRおよびIIRは、何れもニトリルゴムよりも親油性の高いゴム材料である。なお、親油性とは、油へのなじみやすさを示す指標であり、例えばゴムの場合は構造体内部への油の浸透性を示すものである。親油性の高いゴムは、より多くの油が内部に浸透するということである。具体的な評価として、例えば油への浸漬試験(JIS K6258)にて、優位性の判別がつくものと考える。また、ゴム粒子の具体的な粒径は1~200μmが好ましい。粒径が1μmよりも小さいとカーボンブラック等の補強剤の効果がなく、粒径が200μmよりも大きいと抄紙時における凝集が不安定となり、基材の均一性が低下してしまう。
表1に、SBR、IIR、NBRをそれぞれゴム材料とするゴム粒子1~3の成分の構成比を示す。なお、構成比は重量の割合を示している。
また、ゴム粒子中のゴム成分重量比の具体的な好ましい範囲は、30~80%とする。30%より小さい重量比ではゴム成分の効果を得難く、80%を超える重量比ではカーボンブラック等の補強材の効果が得難くなる。
【0020】
【0021】
表2に各実施例および比較例に係る湿式摩擦材の基材ペーパーの成分の構成比を示す。なお、構成比は重量の割合を示している。
実施例1に係る湿式摩擦材は、繊維基材にゴム粒子1および珪藻土等の無機化合物を充填剤として配合したものを抄紙して基材ペーパーとした。
実施例2に係る湿式摩擦材は、繊維基材にゴム粒子2および珪藻土等の無機化合物を充填剤として配合したものを抄紙して基材ペーパーとした。
比較例1に係る湿式摩擦材は、繊維基材にゴム粒子3および珪藻土等の無機化合物を充填剤として配合したものを抄紙して基材ペーパーとした。
比較例2に係る湿式摩擦材は、繊維基材に珪藻土等の無機化合物を充填剤として配合したものを抄紙して基材ペーパーとした。すなわち比較例2に係る湿式摩擦材の基材ペーパーには、ゴム粒子は配合されていない。
湿式摩擦材の基材ペーパー中のゴム粒子重量比の具体的な好ましい範囲は、1~60%とする。1%より小さい重量比ではゴム粒子の効果を得難く、60%を超える重量比では成分効果として飽和する。
【0022】
【0023】
各実施例および比較例に係る湿式摩擦材は、表2に示す基材ペーパーに結合材として例えば熱硬化性樹脂等を含浸させ、硬化させて製造した。このようにして得られた各実施例および比較例に係る湿式摩擦材を所定の形状に打ち抜き、芯金に接着することにより、クラッチディスクを製造した。
なお、上記実施例は基材ペーパーにおけるゴム粒子の配合を示したものであるが、基材ペーパーへの結合材の成分配合としてゴム粒子を適用することもできる。
【0024】
次に、各実施例および比較例に係る湿式摩擦材を用いた評価試験とその結果について説明する。
評価試験は、SAE#2試験装置を用い、静摩擦係数(μs)を測定した。表3に試験条件を示し、表4に測定結果を示す。
【0025】
【0026】
【0027】
表4に示すように、実施例1および実施例2は、何れも、比較例1および比較例2よりも静摩擦係数(μs)の向上が認められた。具体的には、実施例1は比較例1と比較して13パーセント向上し、実施例2は比較例1と比較して17パーセント向上した。これより、湿式クラッチのクラッチディスクに用いられる湿式摩擦材の基材ペーパーの充填剤として親油性のゴム材料を用いることで、静摩擦係数(μs)が向上することがわかる。
【0028】
以上説明したように、本実施形態によれば、油中においても材質の安定した粘弾性を有し、摩擦相手面との静摩擦係数の向上を図ることができる湿式摩擦材と、該湿式摩擦材を有するクラッチディスクを提供することができる。さらに、湿式摩擦材の摩擦相手面との静摩擦係数が向上することにより、湿式クラッチにおいて用いられるクラッチディスクの枚数を削減できる可能性を見出すことができる。
【符号の説明】
【0029】
1 湿式摩擦材
3 クラッチディスク
5 芯金