(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022035285
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】接合強度の推定方法、及び接合強度の推定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 3/00 20060101AFI20220225BHJP
【FI】
G01N3/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020139498
(22)【出願日】2020-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 由華
(72)【発明者】
【氏名】山口 英二
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061BA01
2G061CA01
2G061CA10
2G061CA14
2G061CB01
2G061CB18
2G061DA12
2G061EC02
(57)【要約】
【課題】複合部材に対して破壊検査を実施することなく、複合部材の接合強度を推定できる技術を提供する。
【解決手段】母材と樹脂部材とを接合した複合部材の接合強度の推定方法は、ブラスト加工された母材の表面の断面曲線を取得する工程と、取得された断面曲線と断面曲線から算出される粗さ曲線に対して所定の値に設定された粗さ曲線の基準長さとに基づいて、母材の表面の粗さパラメータを算出する工程と、算出された粗さパラメータに基づいて複合部材の接合強度を推定する工程と、を含む。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材と樹脂部材とを接合した複合部材の接合強度の推定方法であって、
ブラスト加工された前記母材の表面の断面曲線を取得する工程と、
取得された前記断面曲線と前記断面曲線から算出される粗さ曲線に対して所定の値に設定された粗さ曲線の基準長さとに基づいて、前記母材の表面の粗さパラメータを算出する工程と、
算出された前記粗さパラメータに基づいて前記複合部材の接合強度を推定する工程と、
を含む、接合強度の推定方法。
【請求項2】
前記所定の値は、前記粗さパラメータと前記接合強度とが相関関係を持つように設定される、請求項1に記載の接合強度の推定方法。
【請求項3】
前記設定された前記粗さ曲線の基準長さは0.001mm以上0.040mm以下である、請求項1又は2に記載の接合強度の推定方法。
【請求項4】
前記設定された前記粗さ曲線の基準長さは0.004mm以上0.025mm以下である、請求項1~3の何れか一項に記載の接合強度の推定方法。
【請求項5】
前記推定する工程は、前記母材と前記樹脂部材とを接合させる前に実行される、請求項1~4の何れか一項に記載の接合強度の推定方法。
【請求項6】
母材と樹脂部材とを接合した複合部材の接合強度の推定装置であって、
ブラスト加工された前記母材の表面の断面曲線を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された前記断面曲線と前記断面曲線から算出される粗さ曲線に対して所定の値に設定された粗さ曲線の基準長さにと基づいて、前記母材の表面の粗さパラメータを算出する算出部と、
算出された前記粗さパラメータに基づいて前記複合部材の接合強度を推定する推定部と、
を備える、接合強度の推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、接合強度の推定方法、及び接合強度の推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、複合部材の製造方法を開示する。この方法では、母材と樹脂部材とを接合した複合部材が製造される。母材の表面には、マイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸が形成される。樹脂部材がマイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸に入り込んで硬化することにより、ミリオーダーの凹凸の場合と比べて強いアンカー効果が生じる。このため、この方法で製造された複合部材は、優れた接合強度を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているような複合部材の接合強度を取得する場合には、複合部材の製造後において破壊検査を実施する必要がある。このため、複合部材の接合強度を取得した上で当該複合部材を製品として提供することは困難である。本開示は、複合部材に対して破壊検査を実施することなく、複合部材の接合強度を推定できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面によれば、母材と樹脂部材とを接合した複合部材の接合強度の推定方法が提供される。接合強度の推定方法は、ブラスト加工された母材の表面の断面曲線を取得する工程と、取得された断面曲線と断面曲線から算出される粗さ曲線に対して所定の値に設定された粗さ曲線の基準長さとに基づいて、母材の表面の粗さパラメータを算出する工程と、算出された粗さパラメータに基づいて複合部材の接合強度を推定する工程と、を含む。
【0006】
この接合強度の推定方法によれば、母材の表面の断面曲線が取得される。取得された断面曲線と粗さ曲線の基準長さとに基づいて、母材の表面の粗さパラメータが算出される。粗さ曲線の基準長さが所定の値に設定されることで、粗さパラメータに基づいて、複合部材の接合強度を推定できる。よって、この接合強度の推定方法によれば、複合部材に対して破壊検査を実施することなく、複合部材の接合強度を推定できる。
【0007】
一実施形態においては、所定の値は、粗さパラメータと接合強度とが相関関係を持つように設定されてもよい。この場合、粗さパラメータと複合部材の接合強度との間に相関関係が生じることにより、推定する工程において、粗さパラメータに基づいて、複合部材の接合強度を推定できる。
【0008】
一実施形態においては、設定された粗さ曲線の基準長さは0.001mm以上0.040mm以下であってもよい。
【0009】
一実施形態においては、設定された粗さ曲線の基準長さは0.004mm以上0.025mm以下であってもよい。この場合、粗さパラメータと複合部材の接合強度とは十分相関があるので、接合強度の推定方法は、より高い精度で複合部材の接合強度を推定できる。
【0010】
一実施形態においては、推定する工程は、母材と樹脂部材とを接合させる前に実行されてもよい。この場合、母材に樹脂部材が接合される前に複合部材の接合強度を推定できるため、例えば接合強度に基づき、不良品となりうる複合部材の製造を抑制できる。
【0011】
本開示の他の形態によれば、母材と樹脂部材とを接合した複合部材の接合強度の推定装置が提供される。接合強度の推定装置は、ブラスト加工された母材の表面の断面曲線を取得する取得部と、取得部によって取得された断面曲線と断面曲線から算出される粗さ曲線に対して所定の値に設定された粗さ曲線の基準長さとに基づいて、母材の表面の粗さパラメータを算出する算出部と、算出された粗さパラメータに基づいて複合部材の接合強度を推定する推定部と、を備える。
【0012】
この接合強度の推定装置によれば、取得部において、母材の表面の断面曲線が取得される。算出部において、取得された断面曲線、及び粗さ曲線の基準長さに基づいて、母材の表面の粗さパラメータが算出される。粗さ曲線の基準長さが所定の値に設定されることで、推定部において、粗さパラメータに基づいて複合部材の接合強度が推定できる。よって、この推定装置は、複合部材に対して破壊検査を実施することなく、複合部材の接合強度を推定できる。
【発明の効果】
【0013】
本開示の一側面及び実施形態によれば、複合部材に対して破壊検査を実施することなく、複合部材の接合強度を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】
図1のII-II線に沿った複合部材の断面図である。
【
図3】実施形態に係る推定装置を含む複合部材製造システムを示すブロック図である。
【
図4】複合部材の製造方法に用いるブラスト加工装置の概念図である。
【
図5】複合部材の製造方法に用いるブラスト加工装置の構成を説明する図である。
【
図7】
図6のVII-VII線に沿った金型の断面図である。
【
図9】実施形態に係る複合部材の接合強度の推定方法のフローチャートである。
【
図10】各粗さ曲線の基準長さに対する接合用表面粗さと複合部材の剪断強度との相関係数の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、実施形態について説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、本実施形態における「接合強度」は「剪断強度」として説明する。
【0016】
なお、以下の説明において、「測定曲線」、「測定断面曲線」、「断面曲線」、「粗さ曲線」、「輪郭曲線」、「カットオフ値」及び「基準長さ」とは、それぞれ以下の内容を指す。測定曲線とは、測定器の触針が資料の実表面上を走査したとき、円錐型をした先端部の軌跡が作る曲線を意味する。測定断面曲線とは、測定曲線を連続的に変化するグラフとして、一定間隔でサンプルリングした曲線を意味する。断面曲線とは、測定断面曲線にカットオフ値の位相補償形低域フィルタを適用した曲線を意味する。粗さ曲線とは、カットオフ値を通して、断面曲線の高い周波数成分だけを記録した曲線を意味する。輪郭曲線とは、測定曲線、測定断面曲線、粗さ曲線、うねり曲線などの曲線の総称を意味する。カットオフ値とは、断面曲線から除去される所定の波長を意味する。基準長さとは、輪郭曲線から抜き取った部分から粗さパラメータを求める際における、抜き取る長さを意味する。
【0017】
[複合部材]
本実施形態に係る推定方法及び推定装置は、母材と樹脂部材とを接合した複合部材の接合強度を推定する。最初に、対象となる複合部材の一例について概説する。
図1は、複合部材を示す斜視図である。
図1に示されるように、複合部材1は、複数の部材が接合により一体化された部材である。複合部材1は、金属部材2(母材の一例)及び樹脂部材3を備える。金属部材2は、一例として板状の部材である。樹脂部材3は、金属部材2の表面に直接接触している。
図1では、樹脂部材3は、金属部材2の表面の一部(金属部材2の接触面4)に直接接触しており、重ね継手構造を有する。母材の材料は、金属、ガラス、セラミックス又は樹脂である。金属部材2の材料は、例えば、アルミニウムである。樹脂部材3は、例えば、熱可塑性樹脂である。樹脂部材3の材料は、例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニルサルファイド、ポリアミド、液晶ポリマー、ポリプロピレン、アクリルニトリルブタジエンスチレンなどの樹脂である。
【0018】
図2は、
図1のII-II線に沿った複合部材1の断面図である。
図2に示されるように、金属部材2は、その表面2aの一部(接触面4)に凹凸2bを有する。凹凸2bは、マイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸である。マイクロオーダーの凹凸とは、1μm以上1000μm未満の高低差を有する凹凸である。ナノオーダーの凹凸とは、1nm以上1000nm未満の高低差を有する凹凸である。より具体的な一例として、表面2aの一部(接触面4)において、JIS B0601(1994)に規定される算術平均粗さRa、最大高さRy、及び、十点平均粗さRzは、それぞれ0.2~5.0μm、1.0~30.0μm、1.0~20.0μmとしてもよい。また、表面2aの一部(接触面4)において、JIS B0601(1994)に規定される算術平均傾斜RΔa、及び二乗平均平方根傾斜RΔqは、例えば、それぞれ0.17~0.50、0.27~0.60としてもよい。算術平均粗さRa、最大高さRy、及び、十点平均粗さRzのそれぞれが上記範囲内であれば、凹凸2bは、樹脂部材3に対するアンカー効果を十分に奏する。
【0019】
樹脂部材3は、その一部が凹凸2bに入り込んだ状態で、金属部材2に接合されている。このような構造は、後述する接合装置20を用いた射出成形により形成される。
【0020】
以上、複合部材1は、金属部材2の表面2aのマイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸に樹脂部材3が直接接触しているため、ミリオーダーの凹凸を有する金属部材の場合と比べて強いアンカー効果が生じる。このため、この複合部材1は、優れた接合強度を有する。
【0021】
[複合部材の製造方法、及び接合強度の推定方法]
複合部材1の製造方法に用いる装置概要、及び複合部材1の接合強度の推定方法に用いる装置概要を説明する。
図3は、複合部材製造システムを示すブロック図である。
図3に示される通り、複合部材製造システム5は、金属部材2に対してブラスト加工を行うブラスト加工装置10と、複合部材1を形成する接合装置20(金型)と、金属部材2の断面曲線を算出する測定装置50と、複合部材1の接合強度を推定する推定装置60と、を備えている。
【0022】
最初に、金属部材2の表面2aにブラスト加工を行う装置を説明する。ブラスト加工装置10は、重力式(吸引式)のエアブラスト装置、直圧式(加圧式)のエアブラスト装置、遠心式のブラスト装置、等何れのタイプを用いてもよい。本実施形態に係る製造方法は、一例として、いわゆる直圧式(加圧式)のエアブラスト装置を用いる。
図4は、複合部材1の製造方法に用いるブラスト加工装置10の概念図である。ブラスト加工装置10は、処理室11、噴射ノズル12、貯留タンク13、加圧室14、圧縮気体供給機15及び集塵機(不図示)を備える。
【0023】
処理室11の内部には、噴射ノズル12が収容されており、処理室11にてワーク(ここでは金属部材2)に対してブラスト加工が行われる。噴射ノズル12にて噴射された噴射材は、粉塵とともに処理室11の下部に落下する。落下した噴射材は、貯留タンク13に供給され、粉塵は集塵機へ供給される。貯留タンク13に貯留された粉塵は加圧室14に供給され、圧縮気体供給機15により加圧室14が加圧される。加圧室14に貯留された噴射材は、圧縮気体ととともに噴射ノズル12に供給される。このように、噴射材を循環させながらワークがブラスト加工される。
【0024】
図5は、実施形態に係る複合部材1の製造方法に用いるブラスト加工装置10の構成を説明する図である。
図5に示されるブラスト加工装置10は、
図4に示された直圧式のブラスト装置である。
図5では、処理室11の壁面を一部省略して示している。
【0025】
図5に示されるように、ブラスト加工装置10は、圧縮気体供給機15が接続され密閉構造に形成された噴射材の貯留タンク13及び加圧室14と、加圧室14内に貯留タンク13と連通する定量供給部16と、定量供給部16に連接管17を介して連通する噴射ノズル12と、噴射ノズル12の下方にワークを保持しながら可動する加工テーブル18と、ブラスト制御部19とを備える。
【0026】
ブラスト制御部19は、ブラスト加工装置10の構成要素を制御する。ブラスト制御部19は、一例として表示部及び処理部を含む。処理部は、CPU及び記憶部などを有する一般的なコンピュータである。ブラスト制御部19は、設定された噴射圧力及び噴射速度に基づいて貯留タンク13及び加圧室14へ圧縮気体を供給する圧縮気体供給機15のそれぞれの供給量を制御する。また、ブラスト制御部19は、設定されたワークとノズルとの間の距離、及び、ワークの走査条件(速度、送りピッチ、走査回数など)に基づいて、噴射ノズル12の噴射位置の制御をする。具体的な一例として、ブラスト制御部19は、ブラスト加工処理前に設定された走査速度(X方向)と送りピッチ(Y方向)とを用いて噴射ノズル12の位置を制御する。ブラスト制御部19は、ワークを保持する加工テーブル18を移動させることにより、噴射ノズル12の位置を制御する。
【0027】
噴射ノズル12の噴射材導入口には、ブラスト加工装置10の連接管17が接続されている。これにより、貯留タンク13、加圧室14内の定量供給部16、連接管17、及び、噴射ノズル12が順次連接された噴射材経路を形成している。
【0028】
このように構成されたブラスト加工装置10は、ブラスト制御部19により制御された供給量の圧縮気体が圧縮気体供給機15から貯留タンク13及び加圧室14に供給される。そして、一定の圧流力によって、貯留タンク13内の噴射材は、加圧室14内の定量供給部16で定量され、連接管17を介して噴射ノズル12に供給され、噴射ノズル12の噴射管よりワークの加工面に噴射される。これにより、常に一定の噴射材がワークの加工面に噴射される。そして、噴射ノズル12のワークの加工面への噴射位置がブラスト制御部19により制御され、ワークがブラスト加工される。
【0029】
また、噴射された噴射材とブラスト加工で生じた切削粉は、集塵機(不図示)により吸引される。処理室11から集塵機に向かう経路には分級機(不図示)が配置されており、再使用可能な噴射材とその他微粉(再使用できないサイズとなった噴射材やブラスト加工で生じた切削粉)とに分離される。再利用可能な噴射材は貯留タンク13に収容され、再び噴射ノズル12に供給される。微粉は集塵機にて回収される。
【0030】
次に、射出成形について説明する。射出成形は、ここではインサート成形が用いられる。インサート成形では、所定の金型にインサートを装着し、樹脂を注入して所定時間保持して硬化させる。その後、熱処理により樹脂の残留応力を取り除く。
図6は、射出成形に用いられる金型の上面図である。
図7は、
図6のVII-VII線に沿った金型の断面図である。
図6,
図7に示されるように、接合装置20は、金型本体21(上金型21a及び下金型21b)を備える。上金型21aと下金型21bとの間には、インサート(ここでは金属部材2)を装着するための空間22及び樹脂が注入される空間23を備えている。上金型21aの上面には、樹脂注入口が設けられている。樹脂注入口は、スプルー24、ランナー25及びゲート26を介して空間23に連通している。空間23には、圧力センサ27及び温度センサ28が設けられており、空間23の圧力及び温度が検出される。圧力センサ27及び温度センサ28の検出結果に基づいて、成形機(不図示)のパラメータが調整され成形品が製造される。パラメータには、金型温度、充填時の樹脂温度、充填圧力、射出率、保持時間、保持時の圧力、熱処理温度、熱処理時間などが含まれる。接合装置20で成形された成形品は、所定面積で接合する重ね継手構造となる。
【0031】
次に、測定装置50について説明する。
図8は、測定装置の一例を示す模式図である。測定装置50は、ブラスト加工装置10によってブラスト加工された金属部材2の表面2aに対する測定曲線を測定する。測定装置50は、例えば、JIS B0601(1994)に規定される線粗さを測定する装置である。測定装置50は、例えば、触針等を用いて金属部材2の表面2aに接触して表面粗さを測定する公知の接触型の測定装置である。測定装置50は、例えば、株式会社東京精密の型番SURFCOM1400Dの表面粗さ測定機である。測定装置50は、線粗さ(表面粗さ)を算出するための測定曲線及び断面曲線を取得できる。測定装置50は、例えば、ステージ51と、駆動部52と、触針55と、第1制御部56とを備える。
【0032】
ステージ51は、水平方向に延在する板状の部材である。ステージ51は、その上面に金属部材2を載置可能である。駆動部52は、触針55を支持し、上下方向及び水平方向に移動させる。駆動部52は、例えば、ステージ51の上面から上方に向かって延在する支柱53と、支柱53に上下移動可能に支持された送り装置54とを有する。支柱53には、例えばボールねじ(不図示)及びモータ(不図示)が設けられ、モータの駆動によって送り装置54が上下方向に移動する。送り装置54は、例えばボールねじ(不図示)及びモータ(不図示)を備え、モータの駆動によって触針55を水平方向に移動させる。
【0033】
触針55は、駆動部52によって金属部材2の表面2aに接触させられ、金属部材2の表面2aを走査する。触針55は、金属部材2の表面2aに触れながら移動し、金属部材2の表面2aの凹凸2bによって上下動する。触針55の上下動の変化は、電気信号に変換され第1制御部56に送られる。
【0034】
第1制御部56は、測定装置50の構成要素を制御する。第1制御部56は、例えばCPU(Central Processing Unit)などの演算装置、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などの記憶装置、及び通信装置などを有する制御装置である。第1制御部56は、駆動部52を制御し、触針55の水平方向の移動及び上下方向の移動を制御する。第1制御部56は、例えば、ステージ51上に金属部材2が載置されたとき、予め設定されたプログラムに従って触針55の移動を制御する。第1制御部56は、演算部57と、第1記憶部58と、表示部59とを有する。
【0035】
演算部57は、触針55の先端の位置を測定する。演算部57は、触針55の位置、及び触針55から得られた電気信号に基づき、金属部材2に対する触針55の水平方向の位置と、金属部材2の表面2aの凹凸2bによって変化する上下方向の位置とを測定する。演算部57は、測定された位置に基づき、測定曲線を取得する。測定曲線は、触針55が金属部材2の表面2a上を走査したとき、触針55の先端部の軌跡がつくる曲線である。例えば、演算部57は、測定曲線に対してAD変換を行い、測定断面曲線を取得する。演算部57は、形状誤差および高周波成分を除去して断面曲線を取得する。演算部57は、カットオフ値λsのローパス特性をもつ輪郭曲線フィルタによって測定断面曲線から高周波成分を除去することで断面曲線を取得する。カットオフ値λsは、例えば、予め所定の値に定められる。カットオフ値λsは、後述の粗さ曲線の基準長さLr(カットオフ値λc)より小さい値である。高周波成分とは、金属部材2の表面2aの粗さ成分より短い波長成分である。粗さ曲線の基準長さLrがそれぞれ0.08mm、0.25mm、0.8mm、2.5mm、8mmのとき、カットオフ値λsは、それぞれ2.5μm、2.5μm、2.5μm、8μm、25μmに定められる。演算部57は、断面曲線に基づき、線粗さ(算術平均粗さRa等)を算出してもよい。
【0036】
第1記憶部58は、第1制御部56の制御により、演算部57において取得された金属部材2の表面2aに対する断面曲線を記憶する。第1記憶部58は、例えば、第1制御部56の制御により、測定曲線、測定断面曲線又は線粗さを記憶してもよい。表示部59は、第1制御部56の制御により、測定曲線又は断面曲線を表示する。
【0037】
次に、推定装置60について説明する。推定装置60は、金属部材2と樹脂部材3とを接合した複合部材1の接合強度の推定を行う。推定装置60は、例えばCPUなどの演算装置、ROM、RAMなどの記憶装置、及び通信装置などを有する制御装置である。
図3に示されるように、推定装置60は、測定装置50と通信可能に接続される。推定装置60は、取得部61と、設定部63と、算出部65と、第2記憶部67と、推定部69と、出力部71とを備える。
【0038】
取得部61は、ブラスト加工装置10によってブラスト加工された金属部材2の表面2aの断面曲線を取得する。取得部61は、例えば、測定装置50の第1記憶部58から金属部材2の表面2aの断面曲線を取得する。
【0039】
設定部63は、断面曲線から算出される粗さ曲線における粗さ曲線の基準長さLrを設定する。以下、粗さ曲線の基準長さLrのことを単に「基準長さLr」と記載する場合がある。設定部63は、例えば、測定装置50により金属部材2から測定曲線を取得する前に基準長さLrを設定する。設定部63は、基準長さLrを所定の値に設定する。設定部63は、例えば、基準長さLrを0.001mm以上0.040mm以下に設定する。一例として、設定部63は、基準長さ0.004mm以上0.025mm以下に設定してもよい。一例として、設定部63は、基準長さLrを0.012mmに設定してもよい。当該基準長さLrは、作業者の操作に応じて設定されてもよい。例えば、設定部63は、入力部(不図示)を有してもよい。操作者が当該入力部を介して基準長さLrの値を入力することにより、基準長さLrが設定される。粗さ曲線の基準長さLrは、カットオフ値λcと同値であるため、設定部63は、断面曲線に対するカットオフ値λcを設定してもよい。カットオフ値λcは、断面曲線のうち、粗さ成分を示す波長の短い成分と、うねり成分を示す波長の長い成分とを分ける基準波長である。
【0040】
算出部65は、取得部61によって取得された断面曲線、及び断面曲線に対して0.001mm以上0.040mm以下に設定された基準長さLr(カットオフ値λc)に基づいて金属部材2の表面2aの粗さパラメータを算出する。算出部65は、例えば、カットオフ値λcのハイパス特性を有する輪郭曲線フィルタを、取得部61によって取得された断面曲線に適用する。これにより、算出部65は、断面曲線のうち、粗さ成分よりも長い波長成分(低周波成分)を除去し、粗さ曲線を取得できる。算出部65は、取得された粗さ曲線に基づき、粗さパラメータを算出する。本実施形態の粗さパラメータは、例えば、算術平均粗さである。算出部65において算出される算術平均粗さと、JIS B0601(1994)に規定される算術平均粗さRaとを区別するため、以下、算出部65において算出される算術平均粗さを「接合用表面粗さRaj」と記載する。なお、算出部65において算出される粗さパラメータは、算術平均粗さに限定されず、最大高さ、十点平均粗さ、中心線平均粗さ等であってもよい。
【0041】
推定部69は、算出部65によって算出された接合用表面粗さRajに基づいて複合部材1の接合強度(剪断強度)を推定する。推定には、例えば、接合用表面粗さRajを説明変数とし、剪断強度を目的変数とした単回帰分析が用いられる。設定された基準長さLrに基づいて算出された接合用表面粗さRajと、この接合用表面粗さに対する剪断強度との組み合わせは、予め取得される。なお、剪断強度は、例えば破壊検査により導出される。これにより、設定された基準長さLrに関して、接合用表面粗さRajを説明変数とし、剪断強度を目的変数とした回帰式が予め得られる。得られた回帰式は、第2記憶部67に記憶される。推定部69は、算出部65によって算出された接合用表面粗さRajと、第2記憶部67に予め記憶された回帰式とを用いて、複合部材1の接合強度を推定する。基準長さLrが適切に設定されることで接合用表面粗さRajと剪断強度とが相関関係を持つようになるため、当該回帰式が適切に導出される。
【0042】
出力部71は、推定部69において推定された複合部材1の剪断強度を出力する。出力部71は、設定部63の入力部により設定された基準長さLrを第2記憶部67に記憶させてもよい。
【0043】
次に、複合部材1の剪断強度の推定方法の一連の流れを説明する。
図9は、実施形態に係る複合部材1の接合強度の推定方法のフローチャートである。
図9に示されるように、複合部材1の剪断強度の推定方法は、例えば、複合部材1の製造方法の実施時に実行される。最初に、準備工程(S10)として、所定の噴射材がブラスト加工装置10に充填される。噴射材の粒子径は、例えば30μm~300μmである。
【0044】
ブラスト加工装置10のブラスト制御部19は、準備工程(S10)として、ブラスト加工条件を取得する。ブラスト制御部19は、ブラスト加工条件を、オペレータの操作又は記憶部に記憶された情報に基づいて取得する。ブラスト加工条件には、噴射圧力、噴射速度、ノズル間距離、ワークの走査条件(速度、送りピッチ、走査回数)などが含まれる。噴射圧力は、例えば0.5MPa~2.0MPaである。ブラスト制御部19は、ブラスト加工条件を管理することで、金属部材2の表面2aの凹凸2bの大きさや深さ、密度などをマイクロオーダー又はナノオーダーで精密にコントロールする。なお、ブラスト加工条件には、ブラスト加工対象領域を特定する条件が含まれていてもよい。この場合、選択的な表面処理が可能となる。
【0045】
続いて、ブラスト加工装置10は、ブラスト加工工程(S12)として、以下の一連の処理を行う。まず、ブラスト加工対象となる金属部材2が処理室11内の加工テーブル18上にセットされる。次に、ブラスト制御部19は、集塵機(不図示)を作動させる。集塵機(不図示)は、ブラスト制御部19の制御信号に基づいて、処理室11の内部を減圧して負圧状態とする。次に、噴射ノズル12は、ブラスト制御部19の制御信号に基づいて、噴射圧力0.5MPa~2.0MPaの範囲で、噴射材を圧縮空気の固気二相流として噴射する。次いで、ブラスト制御部19は、加工テーブル18を作動させ、金属部材2を固気二相流の噴射流中(
図5では噴射ノズルの下方)に移動させる。噴射ノズル12から金属部材2の表面2aの一部領域へ噴射材が噴射される。ここで、ブラスト制御部19は、加工テーブル18の作動を継続させて、金属部材2に対して噴射流が予め設定された軌跡を描くように作動させる。ブラスト制御部19は、加工テーブル18を所定の送りピッチで走査する軌跡に従って動作させる。これにより、金属部材2の表面2aに所望のマイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸2bが形成される。
【0046】
粒子径30μm~300μmの噴射材を用いて、噴射圧力0.5MPa~2.0MPaの範囲でブラスト加工をすることにより、金属部材2の表面2aに所望のマイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸2b(例えば、算術平均傾斜RΔa及び二乗平均平方根傾斜RΔqがそれぞれ0.17~0.50、0.27~0.60に制御された凹凸2b)が形成される。ブラスト加工装置10の作動を停止した後、金属部材2を取り出し、ブラスト加工が完了する。
【0047】
再び
図9を参照する。続いて、設定工程(S14)として、推定装置60の設定部63において基準長さLrを設定する。例えば操作者が設定部63の入力部(不図示)を介して基準長さLrの値を入力することにより、基準長さLrが0.001mm以上0.040mm以下に設定される。設定部63において、例えば、基準長さLrは0.004mm以上0.025mm以下に設定されてもよい。設定部63において、例えば、基準長さLrは0.012mmに設定されてもよい。
【0048】
続いて、測定工程(S16)として、上述した測定装置50を用いて、ブラスト加工工程(S12)によりブラスト加工された金属部材2の測定曲線を測定する。測定装置50は、測定された測定曲線に基づき、金属部材2の表面2aの断面曲線を算出する。
【0049】
続いて、取得工程(S18:取得する工程)として、推定装置60の取得部61は、ブラスト加工された金属部材2の表面2aの断面曲線を取得する。取得部61は、測定工程(S16)において測定装置50により算出された金属部材2の表面2aの断面曲線を第1記憶部58から取得する。
【0050】
続いて、算出工程(S20:算出する工程)として、推定装置60の算出部65は、取得された断面曲線と断面曲線から算出される粗さ曲線に対して0.001mm以上0.040mm以下に設定された基準長さLrとに基づいて、金属部材2の表面2aの接合用表面粗さRajを算出する。算出部65は、例えば、取得工程(S18)において取得部61により取得された断面曲線と、設定工程(S14)において設定部63により0.004mm以上0.025mm以下に設定された基準長さLrとに基づいて、接合用表面粗さRajを算出する。算出部65は、例えば、取得工程(S18)において取得部61により取得された断面曲線と、設定工程(S14)において設定部63により0.012mmに設定された基準長さLrとに基づいて、接合用表面粗さRajを算出する。
【0051】
続いて、推定工程(S22:推定する工程)として、推定装置60の推定部69は、接合用表面粗さRajに基づいて複合部材1の剪断強度を推定する。粗さ曲線の基準長さLrが0.001mm以上0.040mm以下に設定されることで、接合用表面粗さRajと複合部材1の接合強度(剪断強度)との間に相関関係が生じる。推定部69は、第2記憶部67を参照し、粗さ曲線の基準長さLrに対応する回帰式を取得する。推定部69は、算出する工程(S20)で算出された接合用表面粗さRajを当該回帰式に入力することで、複合部材1の剪断強度を推定できる。
【0052】
続いて、出力工程(S24)として、推定装置60の出力部71は、推定工程(S22)において推定部69により推定された複合部材1の剪断強度を出力する。出力部71は、例えば、第2記憶部67に当該剪断強度を出力して記憶させる。出力部71は、粗さ曲線、基準長さLr又は接合用表面粗さRajを第2記憶部67に出力し記憶させてもよい。
【0053】
続いて、接合装置20は、接合工程(S26:接合させる工程)として、金属部材2と樹脂部材3とを接合させ、複合部材1の成形を行う。まず、接合装置20(金型)が型開きされ、ブラスト加工された金属部材2が空間22に装着されて、接合装置20が型閉じされる。そして、生成機は、設定された樹脂温度を有する溶解した樹脂を樹脂注入口から接合装置20の内部に注入する。注入された樹脂は、スプルー24、ランナー25及びゲート26を通り、空間23に充填される。生成機は、圧力センサ27の検出結果に基づいて樹脂の充填圧力や射出率を制御する。生成機は、温度センサ28の検出結果に基づいて、金型温度が設定値になるように制御する。また、生成機は、圧力センサ27の検出結果に基づいて、設定された保持時間の間、圧力が設定値となるように制御する。その後、生成機は、設定された熱処理温度及び熱処理時間に基づいて、熱処理を行う。その後、生成機は、接合装置20を型開きして、金属部材2及び樹脂部材3が一体化された複合部材1を取り出す。接合工程(S26)が終了すると、
図9に示されたフローチャートが終了する。
【0054】
以上説明したように、本実施形態に係る接合強度の推定方法及び推定装置60によれば、取得工程(S18:取得する工程)において、取得部61により、金属部材2の表面2aの断面曲線が測定装置50から取得される。算出工程(S20:算出する工程)において、算出部65によって、取得された断面曲線及び粗さ曲線の基準長さLrに基づいて、金属部材2の表面2aの接合用表面粗さRajが算出される。ここで、設定工程(S14)において、設定部63により、粗さ曲線の基準長さLrは接合用表面粗さRajと剪断強度とが相関関係を持つように所定の値に設定される。例えば、設定部63により、基準長さLrは、0.001mm以上0.040mm以下に設定されている。粗さ曲線の基準長さLrが0.001mm以上0.040mm以下に設定されることで、接合用表面粗さRajと複合部材1の接合強度との間に相関関係が生じる。このため、推定工程(S22:推定する工程)において、推定部69は、接合用表面粗さRajに基づき、複合部材1の接合強度を推定できる。この接合強度の推定方法は、例えば、複合部材1の製造過程において、ブラスト加工が行われた金属部材2から得られた断面曲線に基づき、複合部材1の剪断強度(接合強度)を推定できる。また、金属部材2の断面曲線は、金属部材2に対して破壊検査を実施することなく取得できる。よって、この接合強度の推定方法及び推定装置60によれば、複合部材1に対して破壊検査を実施することなく、複合部材1の剪断強度を推定できる。
【0055】
また、本実施形態の接合強度の推定方法によれば、設定された粗さ曲線の基準長さは0.004mm以上0.025mm以下である。この場合、接合用表面粗さRajと複合部材1の接合強度とは十分相関があるので、この接合強度の推定方法は、より高い精度で複合部材1の接合強度を推定できる。さらに、本実施形態の接合強度の推定方法によれば、設定された粗さ曲線の基準長さは0.012mmである。この場合、接合用表面粗さRajと複合部材1の接合強度との間の相関関係(相関係数R)が最大となるので、この接合強度の推定方法は、より高い精度で複合部材1の接合強度を推定できる。
【0056】
また、本実施形態の接合強度の推定方法は、推定工程(S22:推定する工程)は、金属部材と樹脂部材とを接合させる接合工程(S26:接合させる工程)の前に実行される。この場合、金属部材2に樹脂部材3が接合される前に複合部材1の剪断強度を推定できるため、例えば剪断強度に基づき、不良品となりうる複合部材1の製造を抑制できる。
【0057】
以上、本実施形態について説明したが、本発明は、上記本実施形態に限定されるものでなく、本実施形態以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【0058】
[母材、樹脂部材の変形例]
上記実施形態に係る金属部材2及び樹脂部材3として、板状部材を例として示したが、形状に限定されることはなく、互いに接触可能なあらゆる形状を採用できる。上記実施形態に係る樹脂部材3は、金属部材2の表面2aの一部に接触していたが、金属部材2の表面2a全てに接触してもよい。
【0059】
[射出成形の変形例]
射出成形は、インサート成形に限定されるものではなく、アウトサート成形であってもよい。
【0060】
[測定装置の変形例]
測定装置50は、ISO 25178に規定される面粗さを測定する装置であってもよい。また、測定装置50は、レーザ等を用いて金属部材2の表面2aに接触することなく線粗さ又は面粗さを含む表面粗さを測定する非接触型の測定装置であってもよい。
【0061】
[接合強度の推定方法及び接合強度の推定装置の変形例]
取得部61は、金属部材2の測定曲線を測定装置50の第1記憶部58から取得してもよい。この場合、算出部65は、測定装置50の演算部57と同一の機能を有する。すなわち、算出部65は、金属部材2の測定曲線から断面曲線を導出する機能を有する。同様に、取得部61は、金属部材2の測定断面曲線を測定装置50の第1記憶部58から取得してもよい。この場合、算出部65は、金属部材2の測定断面曲線から断面曲線を導出する機能を有する。
【0062】
また、推定装置60は、設定部63を備えなくてもよい。接合強度の推定方法は、設定工程(S14)を含まなくてもよい。この場合、例えば、第2記憶部67は、予め設定された基準長さLr(カットオフ値λc)を記憶していてもよい。算出部65は、第2記憶部67から基準長さLrを取得し、当該基準長さLrに基づき接合用表面粗さRajを算出する。設定工程(S14)では、設定部63は、基準長さLrとして0.012mmに設定しなくてもよく、0.004mm以上0.025mm以下に設定しなくてもよい。この場合、設定部63において、基準長さLrが0.001mm以上0.040mm以下に設定されればよい。
【0063】
また、設定工程(S14)は、算出工程(S20)の前であればいつ実行されてもよい。取得工程(S18)は、算出工程(S20)の前であればいつ実行されてもよい。接合工程(S26)は、算出工程(S20)又は推定工程(S22)の前に実行されてもよい。この場合、例えば、金属部材2と樹脂部材3とを接合させる接合工程(S26)を実行している間に、算出工程(S20)又は推定工程(S22)を実行でき、剪断強度が推定された複合部材1の取得までの時間を短縮できる。
【実施例0064】
[相関係数と粗さ曲線の基準長さとの対応関係]
接合用表面粗さRajと剪断強度との相関係数Rと、基準長さLrとの対応関係について説明する。まず、剪断強度を導出するため、以下の工程により複合部材を形成した。
図4及び
図5に示されるブラスト加工装置10を用いて金属部材の表面に対してブラスト加工工程(S12)を実行した。金属部材は、アルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。噴射材は、酸化アルミニウムからなる噴射材と、ガラスからなる噴射材とを混合して用いた。噴射材の粒子径は、40μm~250μmである。加工領域の総面積に対するブラスト加工による噴射材の打痕の占める総面積の割合であるブラスト面積密度(Coverage)を50%~100%とし、噴射材の粒子径を40μm~250μmの範囲、噴射圧力を0.5Mpa~2.0MPaの範囲から適宜選択してブラスト加工を行い、金属部材2の表面に算術平均粗さRaが異なる凹凸を形成した。ここでは、互いに異なる10種類のブラスト加工条件を設定し、ブラスト加工を実施した10種類の金属部材を得た。
【0065】
続いて、基準長さLrを0.000mmから0.2mmまで値が変化するように設定した。基準長さLrは、0.000mm、0.001mm、0.004mm、0.012mm、0.020mmの順に変化させた。基準長さLrは、0.020mm以降、0.01ずつ増加させて0.2mmまで変化させた。
図8に示される測定装置50及び
図3に示される推定装置60を用いて、基準長さLrごとに各金属部材の接合用表面粗さRajを算出した。
【0066】
続いて、
図6及び
図7に示される接合装置20を用いて、ブラスト加工工程(S12)を実行した各金属部材に対して接合工程(S26)を実行した。樹脂部材3は、ポニフェニレンサルファイド(PPS)樹脂を用いた。充填時において、金型温度は140℃、樹脂温度は270℃、充填圧力は60MPa、射出率は64.2cm
3/sとした。保持時において、保持圧力は40MPa、保持時間は8sとした。熱処理時において、熱処理温度は130℃、熱処理時間は2hとした。この工程により、各金属部材に樹脂部材が接合され、複合部材が得られた。
【0067】
続いて、上記条件で作成された各複合部材の剪断強度を測定した。評価装置は、ISO 19095に準拠する試験方法で測定した。以上の工程により導出された値を用いて、各基準長さLrにおける接合用表面粗さRajと剪断強度との相関係数Rを導出した。
【0068】
図10は、接合用表面粗さRajと複合部材の剪断強度との相関係数Rと、基準長さLrとの対応情報の一例を示すグラフである。
図10に示されるように、基準長さLrが0.001mm以上0.040mm以下に設定されることで、相関係数Rは0.4以上となる。相関係数Rが0.4以上の場合、統計学的に接合用表面粗さRajと複合部材の剪断強度との間で相関があるといえる。このため、設定部63が基準長さLrを0.001mm以上0.040mm以下に設定することにより、接合用表面粗さRajに基づいて複合部材の剪断強度を導出できる。
【0069】
図10に示されるように、基準長さLrが0.004mm以上0.025mm以下に設定されることで、相関係数Rが0.6以上となる。相関係数Rが0.6以上の場合、統計学的に接合用表面粗さRajと複合部材の剪断強度との間で十分相関があるといえる。このため、設定部63が基準長さLrを0.004mm以上0.025mm以下に設定することにより、接合用表面粗さRajと複合部材の剪断強度とは十分相関があるため、接合用表面粗さRajに基づいて複合部材の剪断強度をより正確に導出できる。基準長さLrが0.012mmに設定されることで、相関係数Rが0.7以上となる。相関係数Rが0.7以上の場合、統計学的に接合用表面粗さRajと複合部材の剪断強度との間で強い相関があるといえる。このため、設定部63が基準長さLrを0.012mmに設定することにより、接合用表面粗さRajと複合部材の剪断強度とは強い相関があるため、接合用表面粗さRajに基づいて複合部材の剪断強度をより正確に導出できる。
【0070】
また、従来、粗さ曲線の基準長さLr(カットオフ値λc)は、JIS B0601(1994)に規定されており、算術平均粗さRaの値に対応して一定の値に定められていた。ここで、本実施例の複合部材及び金属部材に対してJIS B0601(1994)に規定されるカットオフ値λc及び算術平均粗さRaを導出した場合、相関係数Rが最も高い場合のカットオフ値λcは0.08となり、相関係数Rは0.15となる。相関係数Rが0.15のとき、算術平均粗さRaと複合部材の剪断強度とはほとんど相関がないことが示される。このため、当該JIS規格に従った場合、算術平均粗さRaから剪断強度を正確に推定できないことが示された。
【0071】
本実施例の複合部材において、JIS B0601(1994)によって算出される算術平均粗さRaと剪断強度とに相関がない理由を以下に考察する。基準長さLrを当該JIS規格に比べて小さく設定する事で、接合用表面粗さRajは、実施形態に示されたようなマイクロオーダー又はナノオーダーの微細な凹凸を反映できるようになる。当該凹凸が複合部材の剪断強度の増大に寄与しているため、算術平均粗さRaで示される凹凸を有する複合部材の剪断強度に比べて、実施例の複合部材の剪断強度の方が大きくなっていると考えられる。したがって、実施形態において示されている通り、基準長さLrを0.001mm以上0.040mm以下に設定することで、従来の方法に比べて剪断強度を正確に推定できる。
【0072】
さらに、基準長さLrが0.012のときに相関係数Rがピークを示している理由を考察する。基準長さLrを0.012まで小さくすることで、上記同様、接合用表面粗さRajは、実施形態に示されたようなマイクロオーダー又はナノオーダーの微細な凹凸を反映できるようになる。これにより、上記同様、実施例の複合部材の剪断強度を正確に示せるようになると考えられる。一方で、基準長さLrが0.012mm未満に設定することで捉えられる更に微細な凹凸には、金属部材2に接合する樹脂部材3の転写(充填)が不十分となることが想定される。このため、接合用表面粗さRajから推定される剪断強度に比べて実際の剪断強度が小さくなるため、相関係数Rが小さくなると考えられる。したがって、基準長さLrを0.001mm以上0.040mm以下、0.004mm以上0.025mm以下、特に0.012mmに設定することで、より高い精度で複合部材の剪断強度を推定できる。
1…複合部材、2…金属部材、2a…表面、3…樹脂部材、5…複合部材製造システム、10…ブラスト加工装置、11…処理室、12…噴射ノズル、13…貯留タンク、14…加圧室、15…圧縮気体供給機、16…定量供給部、17…連接管、18…加工テーブル、19…ブラスト制御部、20…接合装置(金型)、21a…上金型、21b…下金型、22…空間、23…空間、24…スプルー、25…ランナー、26…ゲート、27…圧力センサ、28…温度センサ、50…測定装置、51…ステージ、52…駆動部、53…支柱、54…送り装置、55…触針、56…第1制御部、57…演算部、58…第1記憶部、59…表示部、60…推定装置、61…取得部、63…設定部、65…算出部、67…第2記憶部、69…推定部、71…出力部、Lr…基準長さ(粗さ曲線の基準長さ)、R…相関係数、Raj…接合用表面粗さ、λc…カットオフ値。