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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022035297
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】矯正機能付き靴下
(51)【国際特許分類】
   A41B 11/00 20060101AFI20220225BHJP
   A61F 13/06 20060101ALI20220225BHJP
   A41D 13/06 20060101ALI20220225BHJP
   A61F 5/14 20220101ALI20220225BHJP
【FI】
A41B11/00 D
A61F13/06 F
A41D13/06
A61F5/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020139516
(22)【出願日】2020-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】520317723
【氏名又は名称】前田 賢次
(74)【代理人】
【識別番号】100092794
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 正道
(74)【代理人】
【識別番号】110000899
【氏名又は名称】特許業務法人新大阪国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 賢次
【テーマコード(参考)】
3B011
3B018
4C098
【Fターム(参考)】
3B011AA14
3B011AB11
3B011AC04
3B011AC17
3B018AA02
3B018AB07
3B018AC01
3B018AC07
3B018AD01
4C098AA02
4C098BB12
4C098BC41
4C098BC42
4C098BD02
(57)【要約】
【課題】 これを装着した状態で足部に体重をかけた際に、局所的な圧迫や皮膚への摩擦による負担がなく足のアーチを効果的に維持及び改善できることにより、足部の支持機能や緩衝機能、運動機能の維持及び改善や、足の横アーチの彎曲の低下による開帳足、浮き指などの足部の変形を効果的に予防及び改善することが可能になる靴下の実現。
【解決手段】 足底部34は、複数の、足幅方向に長く形成された帯状の引張部材部37と、それらの引張部材部37の間に隣り合うように平行して複数の伸縮部38とで構成され、前記引張部材部37は低伸縮性であり、前記伸縮部38はそれより高伸縮性であり、前記引張部材部37と前記伸縮部38は、足底アーチにおける横アーチの足底面にあたる部分の全体に渡って形成されている矯正機能付き靴下。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
足底部は、複数の、足幅方向に長く形成された帯状の引張部材部と、それらの引張部材部の間に隣り合うように平行して複数の伸縮部とで構成され、
前記引張部材部は低伸縮性であり、前記伸縮部はそれより高伸縮性であり、
前記引張部材部と前記伸縮部は、足底アーチにおける横アーチの足底面にあたる部分の全体に渡って形成されていることを特徴とする、矯正機能付き靴下。
【請求項2】
足甲部は、前記引張部材部の低伸縮性より高伸縮性である、請求項1記載の矯正機能付き靴下。
【請求項3】
前記引張部材部は、足底アーチにおける横アーチの足底面にあたる、足の第1~5中足趾節関節から第1~5中足骨、内側・中間・外側楔状骨、舟状骨、立方骨の各足底面に構成されている、請求項1記載の矯正機能付き靴下。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、足のアーチを正常な形状に保ち、足のアーチの変形による足部の機能低下を予防または改善する靴下に関する。
【背景技術】
【0002】
足のアーチの概略を説明すると、横アーチは三角形の一辺ではなくヴォールト状である。すなわち、人の足底部には図1に示すような足のアーチと呼ばれる足の甲側に凸の彎曲を持つ構造があり、第1中足骨頭1と踵骨隆起3に内側縦アーチ4、第5中足骨頭2と踵骨隆起間に外側縦アーチ5、内側縦アーチと外側縦アーチの間に形成されるアーチ構造が一方向に連続したヴォールト(vault)形状の横アーチ6の3つのアーチにより形成される。
【0003】
足のアーチの機能の概略を説明すると、足のアーチは足の甲側に凸の彎曲による立体的な曲面形状の効果により足部の高い剛性が得られ、アーチの彎曲が足底側で広がり柔軟に変化することで複雑な路面状況や身体の傾きに合わせて平衡を保って身体を支持し歩行の着地などの際には衝撃を吸収する。この足のアーチの剛性と柔軟性により足はバネのように働き、蓄えられた力学的エネルギーを放出して地面を踏み切り、その後体重がかからなくなると素早くアーチの彎曲が元の足の甲側に凸の状態に戻り次の着地の衝撃や状況変化に対応することができる。
【0004】
とくに横アーチの変化は多様で、第1中足骨頭と第5中足骨頭間に形成される前足部横アーチは、歩行の際の着地で体重がかかる場面ではアーチの彎曲が広がることで着地の衝撃を吸収する緩衝器として働き、足の指まで体重移動し踵が地面から離れ足の指が反り足のアーチが緊張することで足の剛性を高めて踏み切りに備える場面で前足部横アーチの彎曲が体重により平坦化して足の指が反る運動軸となる。踏み切り後体重がかからなくなると再び足の甲側に凸の彎曲に戻り、次の着地の衝撃や状況変化に備える。また横アーチ全体としては足底では足幅方向に柔軟に広がって緩衝器として働きつつ、アーチ上部では各骨間を靭帯が繋いで足の甲側に凸のアーチが足長方向に連続したヴォールト形状を保ち内・外縦アーチとともに足長方向の剛性を生み出している。
【0005】
このようにアーチの彎曲を柔軟に変化させ環境に適応しつつ足幅方向だけでなく足長方向の足部の剛性を生み出すなど多様な機能を持つ横アーチであるが、運動不足による筋力低下や生活習慣、生活環境により横アーチが崩れて機能が低下している人が多く存在する。足の横アーチが崩れることによる機能の低下は、立位保持や歩行などの運動に必要な支持機能や緩衝機能、駆動能力が損なわれることになるばかりでなく、開帳足や浮き指、外反母趾など足部の変形や不良姿勢などを引き起こす原因ともなる。
【0006】
この問題に関して、従来、次のような解決の仕方が行われている。すなわち、足のアーチの重要性に着目し、足のアーチを支えるための様々な靴下やサポーターが開発されている。
例えば特許文献1には、踵よりも先方であって、爪先の基部に至る足部に足裏と甲の周方向の全周にわたって伸縮素材による締め付け領域を形成し、足の土踏まずである横のアーチと、指の付け根部分における前のアーチの形成を促す靴下が開示されている。いわゆる足部全周型といえる。
【0007】
また特許文献2には、中足骨靭帯に対応する足裏部及びその両側部に当接する部分を弾性材で構成し、中足骨靭帯に対応する足表部に当接する部分を前記弾性材より弾性の低い材料で構成し、履いたときに中足靭帯の両基端部を互いに接近する方向に締め付けるが、足表部から足裏部に向かっては締め付けず、中足靭帯を所望の横アーチ状に再生する靴下が開示されている。いわゆる前足部の足底型といえる。
【0008】
また特許文献3には、上記特許文献2の靴下では、十分な横アーチ形成効果が得られないとして、上記特許文献2と同様に中足骨靭帯に対応する足裏部及びその両側部に当接する部分を弾性材で構成し、中足骨靭帯に対応する足表部に当接する部分を前記弾性材より弾性の低い材料で構成することに加え、さらに足幅方向の締め付け力を効果的に得るため、滑り止め手段を足の両側部に接触する箇所に取り付けたサポーター構造体が開示されている。いわゆる前足部足底型+滑り止め型といえる。
【0009】
また特許文献4には、靴下の土踏まず部の足長方向中央付近の位置に、低伸縮性で皮膚への着圧力が最も高い編み組織又は素材で構成された第1領域を設けるとともに、前記第1領域の周囲を囲み、かつ、足底部から足甲部を周設するように、低伸縮性の編み組織又は素材で構成された第2領域を設けた靴下であって、第1領域の周囲を囲み、足底部から足甲部を周設する第2領域によって第1領域を吊り上げる作用が働くので、的確に足底アーチ(縦アーチ、横アーチ)を捉えて押し上げ、足底アーチを矯正する靴下が開示されている。いわゆる土踏まず押し上げ型といえる。
【0010】
また特許文献5には、拇指球部と小指球部とを結んだ直線のある箇所から踵部まで長手方向連続して構成され、拇指球部と踵部の間に向かう方向に締め付ける締付部と、拇指球部と小指球部とを結んだ直線のある箇所から踵部まで長手方向連続して構成され、拇指球部から踵部まで連続して構成され、前記締付部より締付力が弱い弱締付部を有し、前記締付部と前記弱締付部は、いずれかが拇指球部と小指球部とを結んだ直線の端部に設けられ、それぞれ平行に複数列隣り合うように配されていることを特徴とし、足裏長手方向広範囲で足裏を縦アーチ形状にする靴下が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002-69701号
【特許文献2】特開2005-42213号
【特許文献3】特許第4355364号
【特許文献4】特許第5021416号
【特許文献5】特許第6403299号
【特許文献6】特開2006-225833号
【特許文献7】特開2008-31615号
【特許文献8】特許5201516号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Venkadesan, M., Yawar, A., Eng, C.M. et al. Stiffness of the human foot and evolution of the transverse arch. Nature 579, 97-100 (2020). https://doi.org/10.1038/s41586-020-2053-y
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら特許文献1に代表される足部の足幅方向の全周にわたって伸縮素材による締め付ける構造である靴下は、体重がかかっていない非荷重時は足幅方向の全周から足部中心に向かう方向への締め付け力によって横アーチの形状を保つものの、立位などで体重がかかると足底部で横アーチが広がろうとする力に加えて足甲部では足幅方向の中心に向かう力が発生し横アーチを潰す方向に力が働くため横アーチの彎曲の維持及び改善には効果的ではなく、また全周にわたる締め付けにより着脱がしにくく、長時間の使用では循環障害や末梢神経障害が生じる恐れがあるなどの問題があった。
【0014】
また特許文献2に代表される中足骨靭帯に対応する足裏部及びその両側部に当接する部分のみを弾性材で構成し中足骨靭帯の両基端部を互いに接近する方向に締め付ける靴下では、十分な横アーチ形成効果が得られず、さらに足幅方向の締め付け力を強化するため特許文献3に代表される滑り止め部にて強力に固定されれば、前足部横アーチの彎曲の変化による多様な働きが妨げられ摩擦により滑り止め部に接する皮膚面への負担が発生する問題があった。つまり、前足部足底型+滑り止め前足部では、横アーチの柔軟性阻害や皮膚に負担がかかる問題がある。
【0015】
また特許文献4に代表される靴下の土踏まず部を低伸縮性で皮膚への着圧力が高い編み組織又は素材で足底アーチ(縦アーチと横アーチ)を押し上げ足底アーチを矯正する靴下は、対象となる土踏まずは面積が小さいため履き方や使用時のちょっとしたずれなどで対象の土踏まず部から押し上げ構造が外れて効果が低下しやすく、この小さな面積を押し上げる強い圧着力を得るためには複雑な構造と足底部から足甲部を周設する支持構造が必須であり、文献1で指摘したように体重がかかった際にアーチを潰す力が発生し、全周にわたる締め付けにより着脱も困難であり長時間の使用では循環障害や末梢神経障害が生じる恐れがあるといった問題があった。つまり、土踏まず押し上げ型の構造が繊細かつ複雑であり圧迫が強いため、日常生活での長時間の使用は困難であった。
【0016】
また特許文献5に代表される足裏長手方向広範囲で足裏を縦アーチ形状にする靴下は縦アーチを形成することを主目的としているが、上記非特許文献1によると、従来足部の足長方向の剛性については内側縦アーチがその議論の中心に置かれていたが、最新の研究の結果、横アーチが足部の足長方向の剛性の40%以上を担っていることが示され、内側縦アーチの彎曲を保つ足底筋膜が足の剛性の23%を担っていることと比べても、足長方向の剛性を維持及び改善するにも横アーチの彎曲の維持及び改善が必要である。従来の足長方向の剛性を高めるための靴下は、内側縦アーチ形状をつくることに集中し荷重時に横アーチの彎曲が足底部で広がろうとする力を打ち消すことには十分な対応がなされておらず、縦アーチの底面にあたる部分は足長方向に長大であるため足長方向の長さ分の締付部を形成すると締付部とつま先部や踵部の通常の靴下素材との移行部に偏った力がかかり靴下が変形しやすく、履き口が閉じていない靴下という構造上、足底に強力な弾性の低伸縮帯を形成すると踵部がつま先方向に引っ張られて低伸縮帯の効果が低減するという問題があった。
【0017】
本発明は、上記のような従来の問題点に鑑みてなされたものであって、局所的に強力な締め付けではなく比較的弱い力であっても足のアーチ全体を包み込み、面で効率的に補正し通常の靴下のように装着し使用することで足のアーチの機能を効果的に維持及び改善する靴下を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
第1の本発明は、
足底部が、複数の、足幅方向に長く形成された帯状の引張部材部と、それらの引張部材部の間に隣り合うように平行して複数の伸縮部とで構成され、
前記引張部材部は低伸縮性であり、前記伸縮部はそれより高伸縮性であり、
前記引張部材部と前記伸縮部は、足底アーチにおける横アーチの足底面にあたる部分の全体に渡って形成されていることを特徴とする、矯正機能付き靴下である。
【0019】
第2の本発明は、足甲部が、前記引張部材部の低伸縮性より高伸縮性である、第1の本発明の矯正機能付き靴下である。
【0020】
第3の本発明は、前記引張部材部が、足底アーチにおける横アーチの足底面にあたる、足の第1~5中足趾節関節から第1~5中足骨、内側・中間・外側楔状骨、舟状骨、立方骨の各足底面に構成されている、第1の本発明の矯正機能付き靴下である。
【0021】
さらに詳述すれば、本発明の靴下は体重など上からの荷重により発生する足の横アーチが足底部で足幅方向に開こうとする力を打ち消すため、また体重がかかっていない非荷重時には横アーチの足の甲側に凸の正常な彎曲を復元または維持するため、足底アーチにおける横アーチのおおよそ全体の足底面にあたる部分、具体的には第1~5中足趾節関節から第1~5中足骨、内側・中間・外側楔状骨、舟状骨、立方骨の各足底面に、低伸縮性で足底面の足幅方向に引張力を生じさせる編み組織又は素材で形成された引張部材部を複数の帯状に構成し、その帯状の引張部材部のそれぞれの間に隣り合うように平行して引張部材部より高伸縮性の複数の伸縮部が配されていることを特徴とする靴下である。
【0022】
また引張部材部は足底部のみで足甲部には形成されていないので、立位などで体重がかかり上からの力が加わっても足甲部では足幅方向の中心に向かって横アーチを押し潰す力の発生が小さく、足底部の引張部材部で抗する力が働くので体重がかかっても必要以上に足幅方向に広がることがない。
【0023】
また前足部横アーチの彎曲は、前足部横アーチ自体ではなく第1足根中足関節22と第5足根中足関節23でそれぞれ第1中足骨12と第5中足骨16が足底方向に屈曲する運動とそれぞれの中足骨頭が近づこうとする動きによって生じるので、前足部横アーチのみの補正ではなく足根中足関節を含む横アーチ全体を補正する必要がある。
【0024】
縦アーチの底面にあたる部分は足長方向に長大であり、縦アーチの長さ分の引張部材部を形成すると引張部材部とつま先部や踵部の通常の靴下素材との移行部に偏った力がかかって靴下が変形しやすいので、足底面の足幅方向の引張部材部を複数の帯状に構成し、その帯状の引張部材部のそれぞれの間に隣り合うように平行して引張部材部より高伸縮性の複数の伸縮部を配することで縦アーチの足長方向には引張部材部と伸縮部が交互に連続した構造になり、引張部材部間の伸縮部が緩衝帯として働き力が均等に配分され、つま先部や踵部の通常の靴下素材との移行部に偏った力がかからず靴下が大きく変形しなくなる。
【0025】
横アーチの補正が重要な理由は次のとおりである。図3は非荷重時の前足部横アーチを前額面で切った断面図であるが、第2中足骨13を彎曲の頂点としたアーチ構造を形成しており、体重(荷重)26が上からかかった場合、横アーチが足幅方向に開こうとする力27が生じ、中足骨間の横中足靭帯24や母趾内転筋25などがこの横アーチが開こうとする力に抗する引張力28を生むが、この筋と靭帯は比較的弱く容易に損傷し弛緩するので、横アーチの彎曲を保つには底部に発生する横アーチが開こうとする力に抗する引張力28を生み出す引張部材部37を靴下30に形成し靭帯や筋肉を補強する必要がある。
【0026】
引張部材部の原理は次のとおりである。足のアーチと同様の力学的モデルにアーチ橋が挙げられる。アーチ橋の中には、タイドアーチ(Tied arch)(図4)と呼ばれる形式があり、底面部を引張部材(タイ)29で結んで生じる引張力28でアーチ部材が外に開こうとする力27を橋内部に閉じこめてしまう構造になっている。
【0027】
本発明の第2中足骨と中間楔状骨をアーチの頂点とした足底部に低伸縮の構造による引張部材部を形成する構造は、建築分野では従来から採用されているトラス構造やアーチ橋のタイドアーチと同じ上からの荷重により生ずる底面が開こうとする力を打ち消す引張部材部を底部に形成する信頼性が高く簡単につくりやすい構造であり足のアーチ構造を補強するには最適である。
【0028】
しかし人間の足部はアーチ橋のように固定されて一体化されてはいないので、皮膚や筋膜と同様に靴下という袋構造で組織を包み込んで足部を一体的に補正すればさらに効果的であると考えられる。例えば前足部横アーチの彎曲を維持及び改善するには前足部横アーチのみの補正では局所的で強力な圧迫が必要となり荷重時にアーチの彎曲の平坦化が必要な前足部横アーチの変化を妨げるが、靴下という袋で前足部横アーチを形成する中足趾節関節や前足部横アーチの彎曲を生ずる足根中足関節を含む横アーチ全体を包み込み面で補正すれば局所的に強力に圧迫する必要がないので荷重時のアーチの彎曲の変化を妨げることなく効果的に補正できる。
【0029】
以上の説明からあきらかなように、本発明の靴下は、足の横アーチの底面に相当する部分である、第1~5中足趾節関節から第1~5中足骨、内側・中間・外側楔状骨、舟状骨、立方骨の各足底面に、アーチ橋のタイドアーチの引張部材(タイ)に相当する構造を、足部全体を包み込める靴下の底面に形成することで、荷重時にはアーチの彎曲が広がりすぎるのを防ぐだけでなく、非荷重時にはアーチの彎曲が再び足の甲側に凸の彎曲に戻るように補正する。
【発明の効果】
【0030】
本発明の靴下を用いると、これを装着した状態で足部に体重をかけた際に局所的な圧迫や皮膚への摩擦による負担がなく足のアーチを効果的に維持及び改善できることにより、足部の支持機能や緩衝機能、運動機能の維持及び改善や足の横アーチの彎曲の低下による開帳足、浮き指などの足部の変形を効果的に予防及び改善することが可能になる。
【0031】
また本発明の靴下は、通常の靴下に低伸縮の編み組織又は素材を使用した簡単な構造で上記のような優れた効果を得られ、また足背部と足底部の全周にわたって低伸縮性の素材で構成されている場合と違い足背部の伸縮性が高いので比較的容易に着脱することができ循環障害を起こしにくいため、通常の靴下の使用方法と同様の装着方法や通常の履き物との併用が容易であり日常的に装着することによって上記のような優れた予防または改善効果をより一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明に関連する、足のアーチがヴォールト形状であることを示す図である。
図2】本発明に関連する、足部の骨格を足底側から見た図である。
図3】本発明に関連する、横アーチの断面図である。
図4】本発明に関連する、タイドアーチ橋の図である、
図5】本発明の一実施形態における靴下の底面右斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の靴下の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0034】
図5に示すように靴下30は足のアーチを含む足裏の形状を補正する靴下であって、足甲部31と母趾袋32と外趾袋33と靴下足底部34と踵部35と脚部36などから構成されている。なお本実施形態では母趾を収納する母趾袋32とそれ以外の指を収納する外指袋33を形成させたが、これに限らず5本の指をそれぞれ別々に収納する指袋を形成してもよい。この様に複数の足指袋を設けることで、靴下装着の際に指の股で止まり所望の位置に合わせることができる
図5に示すように靴下足底部34には、低伸縮の引張部材部37と足の甲側と同じ通常の伸縮素材の伸縮部38が形成されている。
【0035】
低伸縮の引張部材部37は足底部を横断するような形で第1~5中足趾節関節から第1~5中足骨、内側・中間・外側楔状骨、舟状骨、立方骨の各足底部にあたる範囲(図2グレー部)に、上から体重がかかる際に足底部が足幅方向外側に開こうとする力に抗するように形成されている。
【0036】
また足底面全面を低伸縮の引張部材で形成すると足長方向の距離が長くなり低伸縮部と通常の靴下と同様に形成された部分との境界部に力の偏りが生じ靴下の変形が大きくなるので、低伸縮の引張部材部と伸縮部を交互に連続させて緩衝帯をつくり力の偏りを分散させるため伸縮部38は4列の引張部材部37を挟んで3列で形成されている。
【0037】
具体的には引張部材部37は、中足趾節関節から踵部手前の舟状骨、立方骨の足底部にあたる範囲まで足幅方向に連続して4列で形成されるが、つま先部に近い中足趾節関節の足底面にあたる1列目の引張部材部は他の踵側3列より広い幅の帯で形成し足底側で広がりやすい中足趾節関節に対応できるよう形成されている。
また本実施の形態では引張部材部37を4列で形成させたが、これに限らず4列以外の複数列で形成してもよい。
【0038】
引張部材部を複数列にすることで全体を同じ伸縮率で形成して横アーチの彎曲を予防的に維持する目的で作成したり、扁平足の改善には予防的な時より伸縮率を全体的に強く作成したり、ハイアーチ(凹足)では低下しやすい外側縦アーチの立方骨の底面に相当する部分の伸縮率を少し強く作成する等、用途や目的を特化させて引張部材部の各列の伸縮率を変えて制作することも可能である。
【0039】
本実施形態での伸縮部38は足の甲側と同様の編み組織により編成されているので同じ伸縮率であるが、引張部材部37より伸縮率が高い構造にしてあれば伸縮部38の伸縮率を足の甲側の編み組織又は素材より低く設定してもよい。
【0040】
また本実施形態では伸縮部38を3列で形成させたが、これに限らず引張部材部37の列数に応じ引張部材部37の間に3列以外の複数列で形成させるようにしてもよい。
【0041】
次に、踵側に引っ張られることへの対策について述べる。縦アーチの底面にあたる部分は足長方向に広範囲であるため足長方向の長さ分の引張部材部を形成すると引張部材部と通常の靴下素材の移行部に偏った力がかかるので、足幅方向と違って引張部材部の間に引張部材部より伸縮性の高い緩衝帯を設けることで均等に力がかかる。また均等に力がかかるようになっても、つま先部は指袋で止められているので荷重をかけることによって踵部が引張部材部の方向に引っ張られやすくなる可能性があるが、脚部36に公知の方法で形成が簡単な着圧構造をあらかじめつくり、ずれにくくすることで、踵部を引きつけ踵部がつま先方向に引っ張られるのを防止できる。
【0042】
また足長方向には引張部材部間に緩衝帯が入ることでアーチが開こうとする力に抗する力が弱くなる可能性が考えられるが、前述の非特許文献1にあるように横アーチが足長方向の剛性に貢献するので従来のような縦アーチの強力な締め付けにより足長方向で剛性を上げる構造が必要なく、足のアーチ全体で剛性を上げる構造をつくることで十分な効果が見込めるものである。つまり、足長方向の剛性対策に横アーチを使っている。
【0043】
本発明において引張部材部37を形成する方法としては編み組織又は素材は特に限定されず、例えばポリウレタンを用いるなど素材で戻りが強いものを用いる方法、糸をニットせずにタックやミスをさせたり、別の糸を足したりすることによって伸びにくい組織を作るなど組織を用いる方法、その他樹脂等を用いる方法などが挙げられる。
【0044】
素材の具体例として上記特許文献6及び7に記載の材料を、編み組織の具体例としては上記特許文献8に記載の編み方を使用することができる。またこれらの文献には靴下などにおいて伸長率の異なる領域を形成する方法も開示されおり、これらの公報に記載の方法を応用して伸長率の調節を行うことができる。
【0045】
また上記特許文献3では、足背部の足幅方向の伸長率(A)の足底部の足幅方向の伸長率(B)に対する比(A)/(B)が1.2以上であることを特徴としているが、本発明は特許文献3に比べ広い面積に低伸縮部が作用するので比(A)/(B)が1.2未満でも効果があり、実際に試作した靴下では比(A)/(B)が約1.14でも効果が確認されたので、素材や足底部のサイズなど他の要因と併せて比(A)/(B)が1.12程度から試作し効果を確認しながら作成するのが現実的と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、足のアーチを正常な形状に保ち足のアーチの変形による足部の機能低下を予防または改善できるので、通常の靴下の使用方法と同様の装着方法や通常の履き物として有用である。
【符号の説明】
【0047】
1 第1中足骨頭
2 第5中足骨頭
3 踵骨隆起
4 内側縦アーチ
5 外側縦アーチ
6 横アーチ
7 第1中足趾節関節
8 第2中足趾節関節
9 第3中足趾節関節
10 第4中足趾節関節
11 第5中足趾節関節
12 第1中足骨
13 第2中足骨
14 第3中足骨
15 第4中足骨
16 第5中足骨
17 内側楔状骨
18 中間楔状骨
19 外側楔状骨
20 舟状骨
21 立方骨
22 第1足根中足関節
23 第5足根中足関節
24 横中足靭帯
25 母趾内転筋
26 体重(荷重)
27 アーチが開こうとする力
28 引張力
29 引張部材(タイ)
30 靴下
31 足甲部
32 母趾袋
33 外趾袋
34 靴下足底部
35 踵部
36 脚部
37 引張部材部
38 伸縮部
図1
図2
図3
図4
図5