(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022035377
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】養液土耕用装置
(51)【国際特許分類】
A01G 7/06 20060101AFI20220225BHJP
A01G 31/00 20180101ALI20220225BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20220225BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20220225BHJP
A01N 59/16 20060101ALI20220225BHJP
A01N 25/02 20060101ALI20220225BHJP
C05D 9/02 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
A01G7/06 A
A01G31/00 601A
A01P1/00
A01P21/00
A01N59/16 A
A01N25/02
C05D9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020139646
(22)【出願日】2020-08-20
(71)【出願人】
【識別番号】510067393
【氏名又は名称】アイティーエヌ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】秀城 剛
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 銀朗
(72)【発明者】
【氏名】秀城 留美子
(72)【発明者】
【氏名】松山 絵理奈
【テーマコード(参考)】
2B022
2B314
4H011
4H061
【Fターム(参考)】
2B022EA10
2B314MA14
2B314MA17
4H011AA04
4H011AB03
4H011BB18
4H011DA13
4H061AA01
4H061DD07
4H061EE32
4H061FF01
4H061HH08
4H061JJ03
4H061KK02
(57)【要約】
【課題】植物栽培において必要とされる消毒剤等に代わって、植物内部共生微生物を完全に排除することのない濃度範囲で、かつ植物の健全な成長を促進する濃度の銀イオンが供給できる養液土耕装置を提供する。また、養液土耕栽培における収穫量の増大をもたらし、かつ植物栽培における消毒剤等の薬剤の使用を不要にできる養液土耕栽培を可能にする。
【解決手段】銀イオンの状態を安定に保持できるようにするために銀イオン濃度を5mg/L以上の保存原液として調製し、それを養液土耕栽培用栄養素溶液によって希釈して、共生微生物を完全に排除しない濃度である0.0005mg/L以上0.025mg/L以下となるように銀イオンを養液土耕用栄養液に添加する装置を使用する。また、養液土耕栽培用の栄養素溶液として有機物を含む原料を発酵させて製造した有機栄養素溶液を使用することにより、養液土耕栽培による植物生産量をより増大させることを可能にする。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を養液土耕によって栽培する装置において、使用する植物栄養成分を溶解した栄養素溶液を供給する設備に加えて、植物生育活性化成分として5mg/L以上の濃度で銀イオンを含有する水溶液を当該栄養素溶液に定量的に添加する設備を別に設け、当該栄養素溶液によって希釈された後の植物生育を活性化させる成分である銀イオンの濃度が0.0005mg/L以上0.025mg/L以下で含まれることを可能にする養液土耕用装置。
【請求項2】
植物の養液土耕に供給する植物生育のための栄養成分を溶解した栄養素溶液が、有機物を含む原料を発酵させて製造した栄養素溶液であることを特徴とする請求項1及び請求項に記載の養液土耕用装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の養液土耕栽培を行う際に用いる土耕用養液にこれまで知られている植物栄養成分に加えて、植物生育活性化成分としてすくなくとも銀イオンを有効な状態と濃度で添加することを可能にする養液土耕栽培用装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銀イオンはウイルス及び細菌等の病原微生物の抗菌剤・消毒剤・除菌剤として使用され、所定の効果を持つ製品及び用法に有効に適用されてきた。したがって、銀イオンは主として健康衛生分野、医療分野、食品産業分野等において微生物病の発生を予防し阻止するための資材として使用されてきている。
【0003】
本出願人及び本発明者は、植物栽培土壌微生物及び植物栽培養液微生物及び植物の付着共生微生物及び/又は植物の内部共生微生物を不完全にしか排除できない低濃度の銀イオンを含有する水溶液が、植物育成環境改善に顕著な効果を持つことを発見し、さらに銀イオンが植物の活性化能を維持できる状態でこれを養液土耕栽培用栄養液に効果的に添加することについて検討し本装置の発明に至った。
【0004】
土壌栽培及び/又は養液栽培により生育する植物は、全くの無菌環境(微生物フリー)で生きていることは極めて特殊な環境における以外にはあり得ず、多くの場合においては細菌や古細菌及び菌類等の微生物と共存及び/又は共生して生育している。それら微生物と植物との共生は、単に生存場を共にしているだけという場合もあるが、多くのケースでは片利的或は相利的な共生関係を形成している。片利共生の関係においては、微生物が植物に対して病原性を持つ場合があるが、そうではない片利共生及び相利共生の関係が普遍的に見られことに比較して、病原性を示すに至る片利共生のケースは稀に見られるに過ぎない。したがって、土壌環境や水環境に生存する多くの微生物は植物の生育にとって無害であるか、むしろその生育を促進させる役割を有している。
【0005】
一定濃度以上の銀イオンを含有するウイルス及び細菌等の病原微生物の抗菌剤・消毒剤は、微生物を排除することによって微生物感染症の発生を防止することに有効に使われており、健康衛生分野・医療分野・食品産業分野等において重要な銀イオンの適用技術分野を形成するに至っている。しかしながら、農業・林業・園芸等の植物の栽培を必須とする産業分野においては、前述の微生物と植物との共生関係の維持が必要とされることから、ほぼ全ての微生物を排除する一定濃度以上の高濃度の銀イオンが示す制菌や殺菌といった特性は、むしろ逆効果をもたらすことが多かった。
【0006】
本発明の製品及びその適用技術は、銀イオンの抗菌剤・消毒剤として有効な最低濃度を検討する研究において得られた研究結果により発見するに至った。脱塩素水を用いて希釈した銀イオン(Ag+)濃度が0.060 mg/L以上の水溶液に30分間暴露しその後NB寒天平板培地に塗布して生残菌数を測定したところ、供試したPseudomonas属細菌、Escherichia属細菌及びBacillus属細菌はすべて増殖活性を失いこの濃度の銀イオン水は完全な消毒効果を示した。脱塩素水を用いて希釈した銀イオン(Ag+)濃度が0.050 mg/Lから0.030 mg/Lの溶液に30分間暴露した供試細菌は、用いた3種類の供試細菌によって異なるものの、この範囲の銀イオン濃度にほぼ比例して増殖活性を失い、その平均失活率は47~69%であった。つぎに、銀イオン濃度を0.025 mg/L以下に低下させて同様に暴露しその消毒効果を見たところ、3種すべての供試細菌の平均失活率は22%以下(生残率として78%以上)となった。
【0007】
次に、このようなPseudomonas属細菌、Escherichia属細菌及びBacillus属細菌を失活させることのない低濃度の銀イオンを添加した養液土耕栄養素溶液を用いることによって、植物の養液土耕栽培にどのような効果をもたらすかを、トマトを用いた養液土耕栽培実験により調べた。
【0008】
厚さ75ミリメートルの発泡スチロール板に設けた穿孔(丸型:直径40ミリメートル×深さ60ミリメートル)に発芽培土として粒径2.5ミリメートルのガラスビーズを詰め、精製水で灌水した後にトマトの種子を播種し発芽・発根させた。各ガラスビーズ培地で発芽したトマト苗は、発芽後7日目の時点でほぼ同様に生長した苗が1本だけとなるように間引きした。発芽後7日齢となったガラスビーズ培土で生長したトマト苗を、3×4の12株ごとの3つの発泡スチロールのブロックに切り分け、A、B、Cの3つの試験群として実験に用いた。その後14日間養液土耕栽培を行ったが、養液土耕栽培7日までは1株あたり10mLの養液をシリンジによって毎日朝晩の2回に分けて供給する方式で、養液土耕栽培8日目以降14日目までは1株あたり1日あたり20mLの養液をシリンジによって午前2回午後2回の4回に分けて供給する方式で養液土耕栽培を行った。A試験群の栽培容器には養液として精製水のみを供給、B試験群の栽培容器には市販無機栄養素溶液(精製水により1000倍希釈したもの)を供給、C試験群の栽培容器には同一の市販無機栄養素溶液(精製水により1000倍希釈したもの)に0.010mg/Lの濃度となるように銀イオンを添加したものを供給し、1サイクルが14時間2500 lx 白色蛍光灯照射(明条件)・10時間白色蛍光灯非照射(暗条件)に設定しかつ気温22℃及び湿度75%の恒温恒湿に設定した人工気象機に入れて、14日間トマトの養液土耕栽培を行った。その後に、A、B、Cの試験群の全てのトマトをガラスビーズ培土から取り出し、それらのトマトの根に付着したガラスビーズを水洗によって取り除いた。次に、トマトをルート部とシュート部に切り分け、その後48℃にセットした恒温乾燥機内で5日間乾燥処理し、各群の各12株のトマトのルート部とシュート部の平均全バイオマス重量(乾燥重量)を測定した。トマトの各群ごとの平均全バイオマス重量は、上記の各群ごとに求めたシュート部とルート部の合計値とした。
【0009】
14日間の養液土耕栽培後にバイオマス重量を測定したところ下記の試験結果を得た。トマトの各群ごとの平均全バイオマス重量は、A群1.87g、B群4.43g、C群6.25gであった。各12株のシュート部平均バイオマス重量(乾燥重量)は、A群1.12g、B群3.08g、C群3.14gであった。また、ルート部平均バイオマス重量(乾燥重量)は、A群0.75g、B群1.35g、C群3.11gであった。
【0010】
これらの結果より、市販無機栄養素溶液(精製水により1000倍希釈したもの)に0.010mg/Lの濃度となるように銀イオンを添加した養液土耕液を用いた場合のトマト(C試験群)は、同一の市販無機栄養素溶液のみを用いた場合のトマト(B試験群)と比較して、植物全体としてバイオマス重量を1.40倍に増大させたことが知られた。一方、トマトのルート部のバイオマス重量は、銀イオンを添加した養液土耕液を用いることにより市販無機栄養素溶液のみを用いた場合と比較して2.30倍となり、養液土耕液への銀イオンの添加はトマトの根の生長を顕著に促進させることが分かった。
【0011】
次に、トマトを上記と同じガラスビーズ培土に播種し発芽・発根させ、発芽後10日齢となった苗81株を9株ずつの第1群~第9群の9つの試験群に分けて実験に用いた。播種し発芽した各ガラスビーズ培土は、ほぼ同様に生長したトマト苗が1本となるように間引きし、そのガラスビーズ培土が埋め込まれた発泡スチロールを3×3の9株ごとの9つの発泡スチロールのブロックに切り分けた。その後、それぞれの群の養液土耕トマトには、第1群の養液土耕栽培のものには市販無機栄養素溶液(精製水により1000倍希釈したもの)を、養液土耕栽培7日までは1株あたり1日当たり10mLの養液をシリンジによって毎日朝晩の2回に分けて供給する方式で、栽培8日目以降14日目までは1株あたり1日当たり20mLの養液をシリンジによって午前2回午後2回の4回に分けて供給する方式によって灌水して養液土耕栽培を行った。一方、第2群~第9群の栽培容器には、それぞれ同一の市販無機栄養素溶液(精製水により1000倍希釈したもの)に、0.00025mg/Lの濃度となるように銀イオンを添加(第2群)、0.0005mg/Lの濃度となるように銀イオンを添加(第3群)、0.001mg/Lの濃度となるように銀イオンを添加(第4群)、0.005mg/Lの濃度となるように銀イオンを添加(第5群)、0.010mg/Lの濃度となるように銀イオンを添加(第6群)、0.025mg/Lの濃度となるように銀イオンを添加(第7群)、0.050mg/Lの濃度となるように銀イオンを添加(第8群)、0.10mg/Lの濃度となるように銀イオンを添加(第9群)した市販無機栄養素溶液(精製水により1000倍希釈したもの)を、それぞれ7日までは1株あたり1日当たり10mLの養液をシリンジによって毎日朝晩の2回に分けて供給する方式で、栽培8日目以降14日目までは1株あたり1日当たり20mLの養液をシリンジによって午前2回午後2回の4回に分けて供給する方式で灌水して養液土耕栽培を行った。これらの養液土耕栽培は、いずれも1サイクルを14時間2500 lx 白色蛍光灯照射(明条件)・10時間白色蛍光灯非照射(暗条件)に設定し、かつ気温22℃及び湿度75%の恒温恒湿に設定された人工気象機に入れて、14日間の養液土耕栽培後の各群9株ごとのトマト平均全バイオマス量を測定した。各試験群の平均全バイオマス量は、第1~第9の試験群の全てのトマトをガラスビーズ培土から取り出し、それらのトマトの根に付着したガラスビーズを水洗によって取り除いた後に、48℃にセットした恒温乾燥機内で5日間乾燥処理した後に測定した各群の9株のトマトの平均乾燥重量として求めた。
【0012】
養液土耕栽培14日後における第2~第9の試験群の各9株の平均全バイオマス重量は、市販の栄養素溶液(精製水により1000倍希釈したもの)だけの養液土耕液を用いて栽培したトマト9株の平均全バイオマス重量(乾燥重量)(第1群)と比較して、市販栄養素溶液(精製水により1000倍希釈したもの)に銀イオン濃度が0.00025mg/Lとなるように添加して栽培した第2群のトマト9株の平均全バイオマス重量(乾燥重量)は1.03倍となり、この濃度で銀イオンを添加してもトマトの生長に大きな違いは見られなかった。
【0013】
一方、同一の市販無機栄養素溶液(無機栄養素を配合して市販されている肥料液)を精製水により1000倍希釈したものに、銀イオン濃度が0.0005mg/L(第3群)、0.001mg/L(第4群)、0.005mg/L(第5群)、0.010mg/L(第6群)、0.025mg/L(第7群)となるように銀イオンを添加した養液土耕液を用いて14日間栽培した各群のトマト9株の平均全バイオマス重量(乾燥重量)は、市販の栄養素溶液(精製水により1000倍希釈したもの)だけの養液土耕液を用いて栽培したトマト9株の平均全バイオマス重量(乾燥重量)(第1群)と比較して、それぞれ1.09倍(第3群)、1.18倍(第4群)、1.33倍(第5群)、1.48倍(第6群)、1.60倍(第7群)となり、この範囲の養液土耕液中の銀イオンの濃度の増大に伴ってトマトのバイオマス量が有意に増大した。
【0014】
しかし、市販栄養素溶液(無機栄養素を配合して市販されている肥料液)を精製水により1000倍希釈したものに、銀イオン濃度が0.05mg/L(第8群)、0.10mg/L(第9群)となるように銀イオンを添加した養液土耕液を用いて14日間栽培した際の各群のトマト9株の平均全バイオマス重量(乾燥重量)は、市販栄養素溶液(無機栄養素を配合して市販されている肥料液)を精製水により1000倍希釈したものだけの養液土耕液を用いて栽培したトマト9株の平均全バイオマス重量(乾燥重量)(第1群)に比較して、それぞれ1.43倍(第8群)、1.27倍(第9群)と、銀イオンを0.025mg/L(第7群)となるように添加した第7群(1.60倍)よりもトマトの生長促進効果が減少した。
【0015】
しかし、市販栄養素溶液(無機栄養素を配合して市販されている肥料液)を精製水により1000倍希釈したものに、銀イオン濃度が0.05mg/L(第8群)、0.10mg/L(第9群)となるように銀イオンを添加した養液土耕液を用いて14日間栽培した際の各群のトマト9株の平均全バイオマス重量(乾燥重量)は、市販栄養素溶液(無機栄養素を配合して市販されている肥料液)を精製水により1000倍希釈したものだけの養液土耕液を用いて栽培したトマト9株の平均全バイオマス重量(乾燥重量)(第1群)に比較して、それぞれ1.43倍(第8群)、1.27倍(第9群)と、銀イオンを0.025mg/L(第7群)となるように添加した第7群(1.60倍)よりもトマトの生長促進効果が減少した。
【0016】
そこで、通常養液土耕栽培装置に使用される無機栄養成分を溶解した栄養素溶液を栽培植物に供給する設備に加えて、植物生育活性化成分として5mg/L以上の濃度で銀イオンを含有する水溶液を当該栄養素溶液に定量的に添加する設備を追加設置することによって、植物栄養成分を溶解した無機栄養素溶液によって希釈された後の銀イオンの濃度が安定して0.0005mg/L以上0.025mg/L以下となるようにする養液土耕栽培装置を考案した。
【0017】
次に、本発明では、上記で用いたものと同一の無機栄養素溶液(無機栄養素のみを配合して市販されている肥料液)と有機栄養素溶液(イワシを煮干に加工する際に副産物として得られる煮汁を30日間好気的に攪拌発酵させて製造した栄養素溶液)の何れが、上述の銀イオン液を植物成長促進液として用いる養液土耕栽培における栄養液として効果的かを養液栽培実験により調べた。
【0018】
この実験では、トマトを上記と同じガラスビーズ培土に播種し発芽・発根させ、発芽後10日齢となった苗48株を12株ずつのA、B、C、Dの4の試験群に分けて実施した。発芽した各ガラスビーズ培土はほぼ同様に生長したトマト苗が1本となるように間引きし、そのガラスビーズ培土が埋め込まれた発泡スチロールを3×4の12株の4つの発泡スチロールのブロックに切り分けた。それぞれの養液土耕ブロックのうち、A試験群の養液土耕栽培ブロックには前の試験で用いたものと同一の市販無機栄養素溶液(無機栄養素のみを配合して市販されている肥料液を精製水により1/1000に希釈したもの)を、養液土耕栽培7日まではトマト1株あたり1日当たり10mLをシリンジによって毎日午前2回午後2回の4回に分けて供給する方式で、栽培8日目以降14日目まではトマト1株あたり1日当たり20mLの養液をシリンジによって毎日朝晩の2回に分けて供給する方式によって灌水して養液土耕栽培を行った。B試験群の養液土耕栽培容器には有機栄養素溶液(イワシを煮干に加工する際に副産物として得られる煮汁を好気的に攪拌発酵させて製造した栄養素溶液を養液土耕用栄養素溶液を、精製水により1/1000に希釈したもの)を、養液土耕栽培7日までは1株あたり1日当たり10mLをシリンジによって毎日午前2回午後2回の4回に分けて供給する方式で、栽培8日目以降14日目までは1株あたり1日当たり20mLの養液をシリンジによって毎日朝晩の2回に分けて供給する方式によって灌水して養液土耕栽培を行った。一方、C試験群とD試験群の養液土耕ブロックのトマトには、上記の市販無機栄養素溶液(精製水により1/1000に希釈したもの)に0.010mg/Lの濃度となるように銀イオンを添加したものを、養液土耕栽培7日までは1株あたり10mLをシリンジによって毎日朝晩の2回供給する方式で、栽培8日目以降14日目までは1株あたり1日当たり20mLをシリンジによって午前2回午後2回の4回に分けて供給する方式によって灌水し養液土耕栽培を行った(C試験群)。また残り1群には、上記の有機栄養素溶液(精製水により1/1000に希釈したもの)に0.010mg/Lの濃度となるように銀イオンを添加したものを、養液土耕栽培7日までは1株あたり10mLをシリンジによって毎日朝晩の2回供給する方式で、栽培8日目以降14日目までは1株あたり20mLをシリンジによって午前2回午後2回の4回に分けて供給する方式によって灌水して養液土耕栽培を行った(D試験群)。これらの養液土耕栽培実験は、1サイクルが14時間2500 lx 白色蛍光灯照射(明条件)・10時間白色蛍光灯非照射(暗条件)に設定しかつ気温22℃及び湿度75%の恒温恒湿に設定した人工気気象機の中で行い、その後14日間の養液土耕栽培における各養液栽培実験群のトマトの生長量を記録した。各試験群の平均全バイオマス量は、A、B、C、Dの4の試験群の試験群の全てのトマトをガラスビーズ培土から取り出し、それらのトマトの根に付着したガラスビーズを水洗によって取り除いた後に、48℃にセットした恒温乾燥機内で5日間乾燥処理した後に測定した各群の12株のトマトの平均乾燥重量として求めた。
【0019】
養液土耕栽培開始14日後におけるA~Dの4の試験群の試験群の各12株の平均全バイオマス重量(乾燥重量)は、上記市販無機栄養素溶液だけを添加した養液土耕液を用いて栽培したトマト12株の平均全バイオマス重量(乾燥重量)(A試験群)と比較して、上記市販栄養素溶液の替わりに上記有機栄養素溶液を添加した養液土耕液を用いて栽培した場合のトマト12株の平均全バイオマス重量(乾燥重量)(B試験群)は1.21倍であった。また、上記市販栄養素溶液に濃度が0.010mg/Lとなるように銀イオンを添加して栽培したC試験群のトマト12株の平均全バイオマス重量(乾燥重量)は、A試験群のそれの1.49倍となった。一方、上記有機栄養素溶液に濃度が0.010mg/Lとなるように銀イオンを添加して栽培したD試験群のトマト12株の平均全バイオマス重量(乾燥重量)は、第A試験群のそれの1.86倍となった。
【0020】
上記の結果より、養液土耕栽培養液への銀イオンの添加は、無機栄養素溶液に銀イオンを添加した場合よりも、有機栄養素溶液に銀イオンを添加した場合に、より植物の生育を活性化させることができることが知られた。これとほぼ同じ実験結果は、有機栄養素溶液は大豆煮汁(味噌製造副産物)、カツオ煮汁(鰹節製造副産物)およびサバ煮汁(鯖節製造副産物)を好気的に攪拌発酵して得られた有機栄養素溶液を希釈し養液土耕栽培用栄養素溶液として用いた際にも得られた。したがって、この土耕用養液への銀イオンの添加は、栄養素溶液に有機物を含む原料を発酵させて製造した有機土耕用養液を用いた際に、特に植物生育に相乗的な効果をもたらすことが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開昭63-060904
【特許文献2】特開昭63-060905
【特許文献3】特開2001-010913
【特許文献4】特開2006-141252
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明が解決しようとする課題は、植物の養液土耕栽培において通常の土耕用養液とは別に、植物の生育活性を増大する活性化液を供給することにより、収穫量の増大を図ることである。また、植物病発生の防止のためにこれまで必要であった消毒剤等の使用量の削減を可能にすること、あるいは消毒剤の無使用化を可能にすることである。また、消毒剤や殺虫剤の継続使用によって引き起こされる消毒殺虫剤耐性植物病原微生物の新たな出現を阻止できるようにすることも解決課題とする。さらには、植物の養液土耕栽培における殺虫剤の使用量を削減するか無使用化にすることによって、養液土耕栽培農業をより環境配慮型の産業に転換する装置を開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記の課題を解決するために、本発明では植物の養液土耕栽培における収穫量の増大を過剰な栄養素の供給や消毒剤や殺虫剤等の防除薬剤の使用に頼るのではなく、植物が本来保有している生長能力と病原微生物と昆虫等による食害に対する抵抗力や免疫力を増強することを基本的手段としている。この手段の採用により、養液土耕栽培における生産量増大の課題を達成するとともに、植物の養液土耕栽培における消毒剤と殺虫剤の使用量の削減又は不要化の課題を解決する。また、この手段を実現するためには、植物が持つ栄養摂取能と生長能を最大限に引き出すことが重要と考えられる。本発明の養液土耕栽培に使用する土耕用養液に銀イオンを追加して添加することによってもたらされる植物の栄養摂取能力と生長能の増強は、養液土耕栽培における植物の健全な生育を促進させ、その結果として収穫量の増大をもたらすだけではなく、植物病原微生物への免疫力及び抵抗力と昆虫等による食害への抵抗力も付与することができる。
【0024】
しかし、養液土耕栽培液に0.0005mg/L以上0.025mg/L以下の低濃度の銀イオンを添加することでは、この0.025mg/L以下の銀イオンは4ヶ月間以上安定に一定濃度で保存することは困難であった。そこで本発明では、安定した濃度として長期間銀イオン水を保存可能にするために、銀イオン保存原液を銀イオン濃度が5mg/L以上の高濃度の水溶液として作製し、これを養液土耕栽培における植物生育活性化液として使用する際に、栄養素溶液に混合することによって希釈し、0.0005mg/L以上0.025mg/L以下の低濃度銀イオン水として土耕用養液に添加する装置を付加することによりこの課題を解決することを考えた。
【0025】
本発明では、栄養素溶液に銀イオンを追加して添加できるようにした養液土耕栽培装置を採用することによる効果は、無機栄養素のみで構成された栄養素溶液を供給する養液土耕栽培装置よりも、発酵させた有機栄養素溶液に銀イオンを添加できるようにした養液土耕栽培装置を採用した場合により高いことが知られた。このことから、本発明では、無機栄養素溶液に替えて有機物を含む原料を発酵させて製造した栄養素溶液を土耕用養液として供給することも、0.0005mg/L以上0.025mg/L以下の低濃度銀イオン水を土耕用養液に添加する装置を新たに付加することが重要な課題解決方法になると考えた。
【0026】
0.0005mg/L以上0.025mg/L以下の低濃度の銀イオンによる植物ルート部及びシュート部の伸長促進に加えて、0.001mg/L以上1.0mg/L以下の使用濃度で亜鉛イオンを添加した植物生育活性化液を使用することにより、植物の内部共生微生物の増殖活性を高めることが可能となる。これは、0.0005mg/L以上0.025mg/L以下の低濃度の銀イオンは土壌微生物や養液微生物や植物内部共生微生物の増殖活性にほぼ影響を与えないことに起因する。その銀イオンの存在とは独立して、0.001mg/L以上1.0mg/L以下の亜鉛イオンによる微生物の増殖活性特に植物内部共生微生物の増殖活性増進の効果を十分に発揮できる。この内部共生微生物の増殖が旺盛化することにより、養液土耕栽培植物の生育をさらに増進できるという利点がある。
【0027】
同様に、0.0005mg/L以上0.025mg/L以下の低濃度の銀イオンを含む養液土耕栽培液に0.001mg/L以上2.0mg/L以下の濃度でマグネシウムイオンを添加することも、亜鉛イオンの添加と同様に植物内部共生微生物の増殖活性の増進に有意な効果をもたらす。亜鉛イオンを添加した場合との相違点は、0.001mg/L以上2.0mg/L以下の濃度でマグネシウムイオンは、銀イオンとの相乗効果により植物幼苗根の伸長をさらに促進することである。この特長によって、マグネシウムイオンは銀イオンとの併用で直接的にも植物生育の増強効果を発揮することができる。
【0028】
このような植物内共生微生物の増殖の活性化は、亜鉛イオン及びマグネシウムイオンに限らず、第一鉄イオン、第二鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン、カリウムイオン、硝酸イオン、リン酸イオン、タングステン酸イオン、モリブデン酸イオンを、それぞれ使用濃度として0.001 mmol/L以上2 mmol/L以下の濃度で添加したトマト発芽発根試験の場合にも確認された。したがって、少なくとも上記10種のイオンの試験に供した範囲の濃度での添加は、0.025 mg/L以下の低濃度銀イオンによる植物生長促進とは別に、植物内部共生微生物の増殖活性を高め結果的に植物の成長を促進するための追加的手段として有効であると考えられた。
【発明の効果】
【0029】
植物が本来持っている栄養摂取能力と生長能力を最大限に引き出すことは、植物の健全な生長と収穫物の生産にとって重要である。特に、養液土耕栽培においては幼苗期における植物ルート部(根)の旺盛で健全な生育を促すことが必要である。養液土耕栽培のための栄養素溶液に0.025mg/L以下の低濃度銀イオンを添加することにより、植物根の伸長を促進させて栽培植物が養液土耕液から栄養をより多く吸収できるようにし、結果的に栽培植物全体の生長を旺盛にする。また、このような低濃度の銀イオンは植物内共生微生物(エンドファイト)を抑制あるいは排除することがないため、植物・微生物の好ましい共生関係を崩壊させることがないと考えられる。
【0030】
以上に記載したように、0.0005mg/L以上0.025mg/L以下の低濃度の銀イオンを本発明の装置によって生育期の植物に与えることで、植物の健全な生長を可能にできる。これより、植物が本来持っている病原微生物に対する免疫能力や昆虫等による食害に対する抵抗能力を引き出し、従来栽培植物の病害や食害を防止するためにどうしても必要であった消毒剤や殺虫剤等の農薬を使用することなく、あるいはそのような農薬の使用量を最小限にすることによって、植物栽培をより安全で安心なものに転換し、さらには環境配慮型に転換できる利点がある。その効果として、農業・林業・園芸・緑地造成といった植物栽培によって成立している産業の持続的な発展を可能にする。
【0031】
さらに、0.0005mg/L以上0.025mg/L以下の低濃度銀イオンを添加するようにした養液土耕栽培装置を用いて、無機栄養素溶液に代わって有機物を含む原料を発酵させて製造した有機栄養素溶液を土耕用養液として採用することにより、養液土耕栽培による植物生産量を相乗的に増大することができることが明らかになった。このことは、養液土耕栽培の有機栽培化を確立する上で重要な効果をもたらし、今後の養液土耕栽培農業の有機農業化に貢献できると考えられる。
【0032】
また、養液土耕に用いる植物栽培用培地としては、ローム土壌系、砂質土壌系等の土壌及び天然岩石系培地材料に加えて、ロックウール系材料、ポリエステル等を含む合成繊維系・プラスチック系材料、木質系材料(燻炭系を含む)、人工焼結系材料等の天然材料以外のものを用いた場合においても、上記の濃度で土耕用養液に銀イオンを添加する本発明の効果を失うことはない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】供試細菌(Pseudomonas putida, Escherichia coli, Bacillus subtilis)の各銀イオン濃度液に30分暴露した後の生残率
【
図2】銀イオン水溶液保存原液調製直後の銀イオン濃度と、その原液を90日間常温でポリエチレン瓶に密封保存した後の原液に残存する銀イオンの残存率との関係
【
図3】発芽後7日齢のトマト苗をその後14日間養液土耕栽培した際のトマト生長への銀イオン添加の効果
【
図4】発芽後10日齢トマト苗のその後14日間の養液土耕栽培による生長に対する銀イオン添加の影響
【
図5】無機栄養素溶液と有機物を含む液を好気発酵することにより得られた有機栄養素溶液を用いた際の養液土耕栽培におけるトマトの生長への銀イオン添加の効果
【
図6】植物生育活性化成分として銀イオン水溶液を添加する設備を付加した本発明の養液土耕装置
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を実施するための形態を、実施例1~4によって例示する。
【実施例0035】
<実施例1>
トマト栽培における実施例:4月下旬にウレタンフォーム培地にトマト(中玉種)を播種し、発芽・発根させ根の長さが10cm以上となった5月中旬に、培地ごと養液土耕用育成ポットに入れて砂質土壌からなる養液土耕栽培畝に移植し、室温が17~23℃に制御された温室内に設置されたドリップチューブを用いた点滴灌水方式の養液土耕装置(養液土耕畝長25m、畝幅50cm)により養液土耕栽培を行った。この際、無機栄養素養液だけを供給する従来の養液土耕装置による養液土耕畝を対照区として設け、実証区には植物生育活性化成分として10mg/Lの銀イオンの水溶液を土耕用養液に添加する設備を付加した本発明の養液土耕装置を用いた。この実証区における銀イオン水溶液の添加流量は、土耕用養液流量の1/1000となるように設定した。
その後、6月初旬から5週間に亘って生長したトマト果実の収穫を1週間に3回行なったが、銀イオン水を植物生育活性化成分として添加する本発明の装置を採用した実証区における累積収穫量(湿重量)は、本発明の装置を採用しなかった従来方式の養液土耕装置を用いた対照区における累積収穫量(湿重量)の2.14倍に増大した。また、同一温室内に設置した養液土耕畝であったにも拘らず、本発明の装置を採用しなかった従来方式の養液土耕装置によって栽培した対照区のトマトは一部にウイルス感染による黄化葉巻病が観察されたが、本発明の養液土耕装置を用いた実証区のトマトは、黄化葉巻病が全く観察されなかった。
【0036】
<実施例2>
イチゴ栽培における実施例:3月下旬にその前月まで養液土耕により栽培したイチゴ(品種「宝交早稲」)の根を約20cmの長さに切り詰め、新たに用意した点滴灌水方式の養液土耕畝に移し、室温が17~22℃に制御された温室内に設置された循環式養液土耕装置(養液土耕畝長10m、畝幅75cm)を用いて養液土耕栽培を行った。この際、無機栄養素溶液だけを供給する従来の養液土耕装置による養液土耕畝を対照区として設けた。一方、実証区には植物生育活性化成分として10mg/Lの銀イオンの水溶液を土耕用養液に添加する設備を付加した本発明の養液土耕装置を用いた。この実証区における銀イオン水溶液の添加流量は、土耕用養液流量の1/1000となるように設定した。
新たに用意した点滴灌水式養液土耕畝に移した後60日目から95日目まで、両実験区において結実し適期となったイチゴ果実を1週間に3回収穫し、その重量(湿重量)を測定した。その結果、この収穫期における銀イオン水を植物生育活性化成分として添加する本発明の装置を採用した実証区における累積イチゴ収穫量(湿重量)は、本発明の装置を採用しなかった従来方式の養液土耕装置を用いた対照区における収穫量(湿重量)の1.83倍と多かった。また、銀イオン水を添加しない従来方式の養液土耕装置を用いた対照区畝のイチゴ果実のうち1個のサイズが13g以上のものが占める比率は重量比で53.1%であったが、上記銀イオン水を添加する本発明の養液土耕装置を用いた実証区畝から収穫したイチゴ果実のサイズは、13g以上のものが占める比率は81.2%と高かった。
【0037】
<実施例3>
メロン栽培における実施例:3月初旬にウレタンフォーム培地にメロン(アールスナイト夏系)の種子を播種し発芽・発根させて育苗を行い、4月中旬にウレタンフォーム培地ごと養液土耕用育成ポットに入れて砂壌土からなる養液土耕畝に移植し、室温が18~25℃に制御された温室内に設置されたドリップチューブを用いる点滴式養液土耕装置(養液土耕畝長20m、畝幅80cm)により養液土耕栽培を行った。この際、無機栄養素養液だけを点滴する従来の養液土耕装置による養液土耕畝を対照区として設け、実証区には無機栄養素溶液に植物生育活性化成分として10mg/Lの銀イオンの水溶液を土耕用養液に添加する設備を付加した本発明の養液土耕装置を用いた。この実証区における銀イオン水溶液の添加流量は、土耕用養液流量の1/1000となるように設定した。
その後、5月上旬受粉、各株の約12節に着果させるための摘果、玉吊り等を行い、養液土耕装置に移行してした90日後に栽培したメロン果実の収穫を行なった。銀イオン水を植物生育活性化成分として添加する本発明の装置を採用した実証区において収穫したメロン果実の平均重量(湿重量)は1.69kgとなり、本発明の装置を採用しなかった従来方式の養液土耕装置を用いた対照区における収穫量(湿重量)の1.41倍であった。
上記のメロン栽培の実施例と並行して、播種から発芽・発根及び苗の砂壌土からなる点滴式養液土耕畝への移植までを前記の通りとし、室温が18~25℃に制御された温室内に設置されたドリップチューブを用いる点滴式養液土耕装置(養液土耕畝長20m、畝幅80cm)を用いる点も同じであるが、無機栄養素溶液の代わりに、イワシを煮干に加工する際に副産物として得られる煮汁を30日間好気的に攪拌発酵させて製造した栄養素溶液を地下水により1/1000に希釈した有機栄養素溶液を供給して追加のメロン養液土耕栽培試験を行った。前述の無機栄養素溶液を供給する従来の養液土耕装置による養液土耕畝を対照区とし、実証区として上記有機栄養素溶液のみを供給して従来方式でメロンを養液土耕栽培したもの、及び上記有機栄養素溶液に植物生育活性化成分として10mg/Lの銀イオンの水溶液を添加する設備を付加した本発明の養液土耕装置を用いた養液土耕栽培の3つのメロン栽培結果を比較した。また、この実証区における銀イオン水溶液の添加流量は、有機栄養素溶液流量の1/1000となるように設定した。
その後、有機栄養素溶液を用いた場合も、同様に5月上旬受粉、各株の約12節に着果させるための摘果、玉吊り等を行い、養液土耕装置に移行してした90日後に栽培したメロン果実の収穫を行なった。その結果は、無機栄養素溶液を供給した対照区に比較して、無機栄養素溶液に代えて有機栄養素養液土耕溶液を供給した試験区から収穫したメロン果実の平均重量(湿重量)は1.51kgとなり、無機栄養素溶液を供給した対照区で収穫したメロンの平均重量(湿重量)の1.26倍であった。一方、有機栄養素溶液に銀イオン水を植物生育活性化成分として添加する本発明の装置を採用した実証区において収穫したメロン果実の平均重量(湿重量)は1.82kgとなり、無機栄養素溶液を供給した対照区で収穫したメロンの平均重量(湿重量)の1.52倍と、有機栄養素溶液のみの場合よりもさらに大型のメロンとなった。また、これらの3つの養液土耕法により収穫したメロン果汁中の果糖濃度は、それぞれ13.5mg/mL(無機栄養素溶液を供給した対照区)、14.8mg/mL(有機栄養素溶液を供給した試験区)、15.6mg/mL(有機栄養素溶液と銀イオンを供給した試験区)であった。このことから、養液土耕栽培において有機栄養素溶液に添加して0.010mg/L
程度の銀イオンを供給することは果実の糖度を増大させる上でも効果的であることがわかった。
【0038】
<実施例4>
トルコギキョウ栽培における実施例:ウレタンフォーム培地にトルコギキョウの種子を播種し、播種から5週間閉鎖型育苗器によりトルコギキョウのプラグ苗を育成した。これを培地ごと養液土耕用育成ポットに入れてポリエステル合成繊維からなるドリップチューブを用いた養液土耕培地畝に移植し、室温が17~22℃に制御された温室内に設置された点滴灌水方式の養液土耕装置(養液土耕畝長20m、畝幅80cm)により養液土耕栽培を行った。この際、無機栄養素溶液だけを供給する従来の養液土耕装置による土耕畝を対照区として設け、実証区としては無機栄養素溶液に植物生育活性化成分として15mg/Lの銀イオン水溶液を添加する設備を付加した本発明の養液土耕装置を用いた。この実証区における銀イオン水溶液の添加流量は、土耕用養液流量の1/1000となるように設定した。
これら溶液土耕栽培によって切り花としてトルコギキョウを収穫できるようになるまでの栽培期間は、無機栄養素溶液だけを供給した対照区では3.0ヶ月~3.5ヶ月であったが、銀イオン水溶液を添加する設備を付加した本発明の養液土耕装置を用いた実証区では2.0ヶ月~2.5ヶ月となり、収穫までの期間が約1ヶ月短くなった。また、切り花として収穫したトルコギキョウの1株当たりの平均花弁数は従来式養液土耕装置の対照区が4.5であったのに対して、銀イオン水溶液を添加する本発明の養液土耕装置を用いた実証区では1株当たりの平均花弁数が5.7に増加した。
植物の養液土耕栽培における植物病発生防止のためにこれまで必要とされてきた消毒に代わって、0.0005mg/L以上0.025mg/L以下の低濃度の銀イオンを本発明の方法に従って伸長期の植物に与えることにより、消毒剤及び殺虫剤等の農薬の使用量を削減できるあるいは無使用化できる。これにより、植物の養液土耕栽培によって成立している産業をより安全で安心なものに転換し、さらには環境配慮型でかつ持続可能な産業に変えることに利用できる。また、養液土耕栽培における農薬使用量を減らすあるいは無くすことは、植物の栽培コストを低減できることから、植物の養液土耕栽培が関与する産業の収益性を増大することができ、かつ農薬散布等の省力化によるこれら産業の労働力削減に寄与できる。
0.0005mg/L以上0.025mg/L以下の低濃度の銀イオンを添加する本発明の養液土耕栽培装置は、農産物収穫量の増大と農業経営における増収をもたらすだけではなく、上記のように農薬使用によって繰り返されてきた農薬耐性の植物病原微生物や食害昆虫等の新規な出現を防止することにも効果的である。また、有機物を含む原料を発酵させて製造した栄養素溶液を養液土耕用栄養素溶液に使用することにより、さらにこの養液土耕栄養素液に銀イオンを添加する装置を付加することの効果を高めることができることから、養液土耕栽培の有機農業化にも利用可能である。