(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022035493
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】睡眠の質改善材
(51)【国際特許分類】
A47G 9/10 20060101AFI20220225BHJP
A47G 9/02 20060101ALI20220225BHJP
A47G 9/06 20060101ALI20220225BHJP
A61M 21/02 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
A47G9/10 C
A47G9/02 B
A47G9/02 K
A47G9/02 F
A47G9/02 J
A47G9/06 A
A61M21/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020139857
(22)【出願日】2020-08-21
(71)【出願人】
【識別番号】000102544
【氏名又は名称】エステー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505026686
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】小澤 洋平
(72)【発明者】
【氏名】大平 雅子
【テーマコード(参考)】
3B102
【Fターム(参考)】
3B102AA01
3B102AB00
3B102BA00
3B102BA10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】長期間にわたって睡眠の質改善効果を持続し得る素材を提供すること。
【解決手段】樹木の木質部及び/または葉のマイクロ波照射減圧蒸留処理残渣からなる睡眠の質改善材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹木の木質部及び/または葉の減圧マイクロ波水蒸気蒸留処理残渣からなる睡眠の質改善材。
【請求項2】
樹木がマツ科モミ属の樹木である請求項1記載の睡眠の質改善材。
【請求項3】
マツ科モミ属の樹木がトドマツである請求項2記載の睡眠の質改善材。
【請求項4】
粉末状である請求項1~3のいずれかの項記載の睡眠の質改善材。
【請求項5】
平均粒径が1~15μmである請求項4記載の睡眠の質改善材。
【請求項6】
中途覚醒抑止用、睡眠効率改善用、入眠時間短縮用、睡眠時間増加または疲労回復感改善用である請求項1~5のいずれかの項記載の睡眠の質改善材。
【請求項7】
樹木の木質部及び/または葉の減圧マイクロ波水蒸気蒸留処理残渣を含有する合成樹脂から形成される睡眠の質改善用成形体。
【請求項8】
フィルム、シート、成型品または繊維である請求項7記載の睡眠の質改善用成形体。
【請求項9】
請求項8に記載のフィルム若しくはシートの粉砕処理物または繊維を中綿として含む睡眠の質改善用の寝具またはインテリア用品。
【請求項10】
繊維の形態が、糸、綿、織物、編物または不織布である請求項8に記載の睡眠の質改善用繊維。
【請求項11】
請求項10に記載の繊維を用いた睡眠の質改善用繊維製品。
【請求項12】
繊維製品が、寝具、インテリア用品または衣類である請求項11に記載の繊維製品。
【請求項13】
樹木の木質部及び/または葉の減圧マイクロ波水蒸気蒸留処理残渣を担持したものである請求項8に記載の睡眠の質改善用成形体。
【請求項14】
樹木の木質部及び/または葉の減圧マイクロ波水蒸気蒸留処理残渣を担持した不織布を内挿した睡眠の質改善用寝具またはインテリア用品。
【請求項15】
成形品の形状が、ビーズ、チップまたはチューブである請求項8に記載の睡眠の質改善用成型品。
【請求項16】
請求項15に記載の成型品を充填した睡眠の質改善用寝具またはインテリア用品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠の質の改善材に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会においてストレス、食物の偏食、環境等の要因により、不眠症又は睡眠不足に罹患しているヒトが増加している。睡眠不足は、肥満、高血圧、集中力低下、うつ病、糖尿病等の原因ともなるといわれており、睡眠不足の解消は重要である。
【0003】
これまで睡眠の質の改善作用を有する成分として、例えば、スチルベン系化合物および/またはオリーブエキス(特許文献1)、植物ハマナスの花弁の香りを呈する揮発性有機化合物(特許文献2)、3ヒドロキシ酪酸単量体(特許文献3)、オクラ種子の酵素分解物由来のオクラ種子抽出物(特許文献4)等が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-24774号公報
【特許文献2】特開2015-81227号公報
【特許文献3】特開2019-172642号公報
【特許文献4】特開2020-48481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記技術では、就寝の都度、経口摂取したり、寝具に噴霧等する必要があるため、煩わしく感じられたり、適用を忘れるおそれもある。そのため、就寝の都度適用する必要がなく、長期間にわたって睡眠の質改善効果を持続し得る素材が求められており、本発明はそのような睡眠の質改善材の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく種々検討した結果、樹木の木質部及び/または葉を、マイクロ波を照射しながら減圧蒸留処理した残渣が、寝具など様々な形態に利用することができ、優れた睡眠の質改善効果を長期間にわたって持続的に発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、樹木の木質部及び/または葉のマイクロ波照射減圧蒸留処理残渣からなる睡眠の質改善材である。
【0008】
また本発明は、樹木の木質部及び/または葉のマイクロ波照射減圧蒸留処理残渣を含有する合成樹脂から形成される睡眠の質改善用樹脂成形体である。
【0009】
また本発明は、樹木の木質部及び/または葉のマイクロ波照射減圧蒸留処理残渣を含有する合成樹脂から形成される睡眠の質改善用繊維及びこれを利用した繊維製品である。
【0010】
また本発明は、樹木の木質部及び/または葉のマイクロ波照射減圧蒸留処理残渣を含有する合成樹脂から形成されるフィルムまたはシート、及びこれらの粉砕処理物を用いた寝具等である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の睡眠の質改善材は、入眠までの時間及び中途覚醒の時間を短縮し、総睡眠時間を延長する効果を有し、その効果を長期間にわたって持続できるものである。そのため、この睡眠の質改善材を寝具等の構成材料として利用することにより、長期間にわたって、寝つきよく睡眠に入ることができ、途中目が覚めることなく朝まで長時間睡眠を維持し、疲労回復感を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の睡眠の質改善材は、樹木の木質部及び/または葉の減圧マイクロ波水蒸気減圧蒸留処理残渣物からなるものである。
【0013】
原料となる樹木としては、ヒノキ科ヒノキ属、ヒノキ科スギ属、マツ科モミ属、フトモモ科ユーカリ属、コウヤマキ科コウヤマキ属、ヒノキ科アスナロ属の樹木が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0014】
ヒノキ科ヒノキ属の樹木としては、ヒノキ、タイワンヒノキ、ベイヒバ、ローソンヒノキ、チャボヒバ、サワラ、クジャクヒバ、オウゴンチャボヒバ、スイリュウヒバ、イトヒバ、オウゴンヒヨクヒバ、シノブヒバ、オウゴンシノブヒバ、ヒムロスギ等が挙げられる。ヒノキ科クロベ属の樹木としては、ニオイヒバ、ネズコ等が挙げられる。ヒノキ科スギ属の樹木としては、スギ、アシウスギ、エンコウスギ、ヨレスギ、オウゴンスギ、セッカスギ、ミドリスギ等が挙げられる。
【0015】
マツ科モミ属の樹木としては、トドマツ、モミ、ウラジロモミ、シラビソ、オオシラビソ、シラベ、バルサムファー、ミツミネモミ、ホワイトファー、アマビリスファー、アオトドマツ、カリフォルニアレッドファー、グランドファー、ノーブルファー等が挙げられる。
【0016】
フトモモ科ユーカリ属の樹木としては、ユーカリ、ギンマルバユーカリ、カマルドレンシス、レモンユーカリ等が挙げられる。
【0017】
ヒノキ科アスナロ属の樹木としては、ヒバ、アスナロ、ヒノキアスナロ、ホソバアスナロ等が挙げられる。
【0018】
上記した樹木の中でも、質改善効果等の観点からマツ科モミ属の樹木が好ましく用いられ、特にトドマツが好ましい。
【0019】
本発明における樹木の木質部及び/または葉の減圧マイクロ波水蒸気蒸留処理残渣は、樹木の木質部および/または葉を、減圧下でマイクロ波により加熱して、精油および水分の少なくとも一部を除去した後の残渣として得られるものであり、繊維質の固形の成分である。
【0020】
このように樹木の木質部および/または葉を、減圧下でマイクロ波により加熱して、精油および水分の少なくとも一部を除去する方法を減圧マイクロ波水蒸気蒸留法(vacuum microwave assisted steam distillation(VMSD))という。この減圧マイクロ波水蒸気蒸留法は、マイクロ波が水分子を直接加熱する性質を利用して、素材中に元から含まれている水分や精油の除去を行う方法である。
【0021】
この減圧マイクロ波水蒸気蒸留法は、例えば、国際公開WO2010/098440号パンフレット等に記載のマイクロ波蒸留装置などを用いて実施できる。この方法においては、蒸留槽内の圧力を、3~95kPa、好ましくは3~40kPa、特に好ましくは3~20kPaとすれば良い。この際の蒸気温度は40~100℃になる。
【0022】
このような条件下で樹木の木質部および/または葉を、減圧下でマイクロ波により加熱して、精油および水分の少なくとも一部を除去して得られる残渣は、そのまま用いてもよいが、さらに常圧で水分を除去するための乾燥工程を行うことが好ましい。乾燥温度や乾燥時間は特に限定されないが、例えば、50~80℃で1~5時間程度行えばよい。残存する精油成分は0.01~10質量%、好ましくは0.1~5質量%である。また、残存する水分は20質量%以下であることが好ましい。
【0023】
このようにして得られた樹木の木質部及び/または葉の減圧マイクロ波水蒸気蒸留処理残渣(以下、「樹木VMSD処理残渣」という)には、精油が完全に取り除かれず、樹木の木質部および/または葉に含まれる一部の精油成分が残存しており、当該精油が、睡眠の質改善効果に寄与するものと考えられる。この残留した精油成分と樹木VMSD処理残渣の持つ多孔質構造とが相俟って徐放性を示し、睡眠の質改善効果が長期間にわたって持続的に発揮されるものと推測される。
【0024】
樹木VMSD処理残渣中に残存する精油成分としては、効果の持続性等の観点からモノテルペンのうち比較的沸点の高いものや、セスキテルペン、ジテルペンなどが含まれることが好ましい。このようなモノテルペンとして、例えば、α-ピネン、β-ピネン、カンフェン、トリシクレン、ミルセン、β-フェランドレン、ボルニルアセテート、δ-3-カレン、テルピノレン、リモネン、ボルネオール、サビネンなどが挙げられる。セスキテルペン類としては、例えば、β-カリオフィレン、セドレン、ゲルマクレンなどが挙げられる。ジテルペンとしては、例えば、レボピマル酸、アビエチン酸等が挙げられる。樹木VMSD処理残渣中に残存する精油は、モノテルペンの含有量が少なく且つセスキテルペン、ジテルペン及び/又はテトラテルペンをより多く含むことが好ましい。セスキテルペン、ジテルペンなどの分子量が大きいテルペン類の割合が大きいと、長期間にわたって優れた睡眠の質改善効果を維持することができる。
【0025】
上記樹木VMSD処理残渣をそのまま睡眠の質改善材として用いることもできるが、更に精密粉砕にかけ、平均粒径を1~15μmとすることが好ましい。平均粒径が、1μm以下であると成型の際に凝集してしまい成形しにくくなる場合があり、15μmより大きいとクッション効果がなくなるとともに、睡眠の質改善効果も劣る場合がある。より好ましい平均粒径は5~10μmである。また、樹木VMSD処理残渣の最大粒径が大きすぎる場合にはフィルム形成がしにくくなることがあるため、最大粒径は100μm未満であることが好ましい。なお、平均粒径や最大粒径は精密粒度分布測定装置等で測定することができ、平均粒径はメディアン径(D50)として表される値である。
【0026】
精密粉砕の方法は、特に限定されず、従来公知の精密粉砕機を用いるだけでよい。精密粉砕機としては、例えば、ターボミル、ジェットミル、ビーズミル、ブレードミル、モーターグラインダー、ローターミル、カッティングミル、ディスクミル、振動ミル等が挙げられる。
【0027】
樹木VMSD処理残渣を含有させる合成樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートおよびその共重合体等のポリエステル系樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等を含む)、ポリブテン-1、プロピレンを主たる成分とするプロピレン共重合体(プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-ブテン-1-エチレン共重合体を含む)、エチレン-アクリル酸共重合体、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ナイロン6、ナイロン12およびナイロン66等のポリアミド系樹脂が挙げられる。合成樹脂として異なる2種以上のものが含まれていてよい。
【0028】
合成樹脂に樹木VMSD処理残渣を含有する態様としては、樹木VMSD処理残渣を合成樹脂に練り込み合成樹脂内部に含有する態様及び樹木VMSD処理残渣を合成樹脂成形体の表面に担持させる態様のいずれも包む。
【0029】
樹木VMSD処理残渣を合成樹脂に練り込んで合成樹脂内部に含有する態様において、合成樹脂としては、ポリエチレン樹脂を用いることが好ましい。ポリエチレン樹脂を用いると、ペレットの製造およびこれからフィルム、シート等に成形する際、加工温度を140℃~180℃程度と比較的低温の範囲に維持することができるため、加工中、樹木VMSD処理残渣に含まれる精油成分の蒸発が抑制され、その結果、高い睡眠の質改善効果を長期間持続することができる。ポリエチレン樹脂の中でも特に低密度ポリエチレン樹脂を用いることが好ましい。低密度ポリエチレン樹脂は、成形体に柔軟性を与え、クッション性に優れたものとすることができる。
【0030】
合成樹脂中の樹木VMSD処理残渣の含有量は特に限定されないが、0.01~15質量%が好ましく、より好ましくは0.1~10質量%である。
【0031】
樹木VMSD処理残渣を合成樹脂に練り込む方法としては、例えば、樹木VMSD処理残渣を加熱溶融した合成樹脂に混合、分散させた樹脂組成物からマスターバッチペレットを作製し、このマスターバッチペレットをベース樹脂となる合成樹脂ペレットと混合、溶融する方法が挙げられ、この溶融樹脂組成物を公知の方法によって、フィルム、シート、成型品、または繊維に成形することができる。
【0032】
マスターバッチペレット中の樹木VMSD処理残渣の含有量は1~30質量%が好ましい。マスターバッチペレットを用いることにより、樹木VMSD処理残渣を合成樹脂中により均一に練り込むことができるため、樹木VMSD処理残渣の含有量を高めたり、合成樹脂中に均一に分散させる場合に好適である。
【0033】
(フィルム・シート)
フィルムまたはシートを成形する場合には、マスターバッチペレットとベース樹脂の合成樹脂ペレットとをリボンブレンダー等で混合し、インフレーション法、Tダイ法、溶液流延法、カレンダー法、延伸、共押出法、ラミネート法、ヒートシール法等の成膜方法により、樹木VMSD処理残渣を含有するフィルムまたはシートを成形することができる。フィルムまたはシートの厚さは特に制限されないが、通常5~150μm、好ましくは10~100μm、より好ましくは15~50μm、特に好ましくは20~40μmである。フィルムまたはシートの物性は特に制限されないが、粉砕処理して中綿として利用する場合に、柔軟性に優れ、嵩高くなることから、引張強度が50N/50mm~100N/50mm、破断強度が150~300%であることが好ましい。これらの物性値は、JISK7127に準じて測定することができる。
【0034】
このようにして成形されたフィルムまたはシートを粉砕した粉砕処理物は、枕、布団、枕パッド、布団パッド(敷パッド)等の寝具やクッション、座布団、敷物等のインテリア用品に充填する中綿として利用できる。粉砕処理は、例えば、従来公知の回転刃式粉砕機を用いて実施することができる。回転刃式粉砕機は、回転する刃と刃との間にフィルムまたはシートを共有して切り裂くことで粉砕処理物を得ることができる。この粉砕処理物は、薄片状、繊維状などの形状のものを含み得る。
【0035】
これらの寝具、インテリア用品の中綿として用いる場合は、粉砕処理物のみを用いてもよいが、他の中綿材料と混合して用いることもできる。他の中綿材料としては、合成繊維、天然繊維または羽毛等から選択することができ、例えば、粉砕処理物を構成する合成樹脂と同一の合成樹脂のフィルムまたはシートの粉砕物や枕等の充填材として用いられている合成樹脂の成型品(ビーズ、チップ、チューブ等)を使用できる。このように他の中綿材料と組み合わせて用いることで、クッション性、触感、および嵩高さ等を適宜調整することができる。
【0036】
また、粉砕処理物を他の中綿材料と組み合わせて用いる場合、粉砕処理物を用いた中綿を第一層とし、他の中綿材料を用いた中綿を第二層とした積層構造体とすることができ、樹木VMSD処理残渣による眠りの質改善効果に加え、他の中綿材料によって寝具等の硬さおよびクッション性等を調節し、快適で心地よい感触等とすることで、より眠りの質を向上させることができる。
【0037】
(成型品)
成型品は、押出成形、射出成形、インフレーション成形、ブロー成形等公知の成型方法によって、任意の形状とすることができる。例えば、ビーズ、チップ、チューブ等に成形することにより、上記粉砕処理物と同様に、枕やクッション等の充填材として用いることができる。
【0038】
(繊維)
繊維は、上記溶融樹脂組成物を溶融紡糸することにより得ることができる。例えば、溶融樹脂組成物を公知の溶融押出紡糸機において必要に応じて加熱溶融した後、口金から押出し、紡糸し、必要に応じて延伸し巻き取る方法により製造することができる。
【0039】
得られた繊維は、種々の形態に加工することができ、例えば、糸、綿、織物、編物、不織布等が挙げられ、さらにこれを用いて各種繊維製品とすることができる。繊維製品としては、枕、枕パッド、枕カバー、掛布団、敷布団、布団(敷パッド)、布団カバー、毛布、タオルケット、マットレスなどの寝具、クッション、座布団、ソファー、カーテン、敷物などインテリア用品、パジャマ、寝間着、肌着、ガウンなどの衣類等が挙げられる。またこの繊維を用いて上記粉砕処理物と同様に枕やクッション等の充填材として用いることができる。
【0040】
樹木VMSD処理残渣を合成樹脂成形体の表面に担持させる方法としては、糸、綿、織物、編物、不織布などの形態の繊維に、樹木VMSD処理残渣をバインダー樹脂に分散させたバインダー組成物を塗工することにより担持させることができる。
【0041】
一実施形態として、樹木VMSD処理残渣を担持し、枕パッド、布団パッド等に内挿される不織布について説明する。不織布を構成する繊維の種類は特に制限されず、合成繊維、天然繊維、半合成繊維のいずれでもよく、スパンレース法、スパンボンド法、メルトブレーン法などの従来公知の製造方法によって製造される。不織布の物性は特に制限されないが、枕パッド等に内挿される際に、引っ張り等の外力が加わることもあるため、不織布は当該外力により破断しない程度の機械的物性を有することが好ましく、例えば、縦方向(MD方向)の強度は20N/5cm以上が好ましく、30N/5cm以上がより好ましい。また横方向(CD方向)の強度は好ましくは5N/5cm以上であり、8N/5cm以上がより好ましい。不織布の引っ張り強度は、JISL1913に準じて測定できる。
【0042】
上記不織布に、樹木VMSD処理残渣をバインダー樹脂に分散させたバインダー組成物を不織布の少なくとも一方の表面に塗工する。バインダー樹脂としては、特に限定されず、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エチレンビニルアセテート系(EVA系)樹脂、ポリビニルアルコール系(PVA系)樹脂などが例示できる。バインダー樹脂100質量部に対し、好ましくは樹木VMSD処理残渣が1~200質量部、より好ましくは10~100質量部となるように混合してバインダー組成物とする。バインダー組成物は、水、有機溶剤などの溶媒を用いて適宜希釈してもよい。塗工方法としては、従来公知のスプレー法、ディッピング法、コーター法などを用いることができる。塗工後、乾燥して溶媒を除去することにより、樹木VMSD処理残渣がバインダー樹脂を介して不織布に固着して担持される。
【0043】
樹木VMSD処理残渣の担持量は特に限定されないが、不織布1m2あたり、0.1~20gが好ましく、0.3~10gがより好ましい。このような担持量であれば、睡眠の質改善効果をより持続的に得ることができる。
【0044】
このようにして樹木VMSD処理残渣を担持した不織布は、枕パッドや布団パッド等の表カバー材と裏カバー材の間に内挿されて用いられる。不織布は表カバー材と裏のカバー材の間に中綿を介して配置することもできる。
【0045】
不織布は、枕パッド等の表面または裏面に露出しないことが好ましい。不織布が露出すると、摩擦等によって樹木VMSD処理残渣の脱落が生じやすくなる場合がある。本実施形態において不織布の厚さが十分に厚く、一方の表面またはその付近に担持された粉状物が脱落しても、他方の表面にまで到達しにくい場合には、当該他方の表面を露出させて用いてもよい。本実施形態ではそのような使用形態も枕パッド等に「内挿」された形態とする。
【0046】
このようにして、就寝する際に、樹木VMSD処理残渣を含有する衣類を身に着けたり、寝具を使用することによって、睡眠の質を改善する効果が発揮される。睡眠の質の改善としては、覚醒状態から眠りに入るまでの入眠時間の短縮、夜中に目が覚めるのを防ぐ中途覚醒抑止ないし睡眠効率改善、覚醒時の疲労感を解消する疲労回復改善、睡眠状態を維持する睡眠時間増加などが含まれる。
【実施例0047】
以下、実施例、製造例等を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例等に何ら制約されるものではない。
【0048】
実 施 例 1
(1)睡眠の質改善材の製造
トドマツの葉を圧砕式粉砕機(KYB製作所製)で粉砕し、その約50kgを、マイクロ波水蒸気蒸留装置の蒸留槽に投入した。攪拌しながら蒸留槽内の圧力を、約20KPaの減圧条件下に保持し(蒸気温度は約67℃)、1時間マイクロ波照射した。発生した蒸気(油分、水分)は減圧ポンプにおいて吸引して蒸留槽内から除去し、トドマツVMSD処理残渣を得た。
【0049】
得られたトドマツVMSD処理残渣を低温乾燥装置(横山エンジニアリング社製)で60℃から70℃で2.5~3時間攪拌乾燥させた。その後回転篩分級装置(16メッシュ、篩の目開き1.0mm)で分級を行い粗粉体を得た。
【0050】
得られた粗粉体を、ジェットミル(超音速ジェット粉砕機:日本ニューマチック工業社製)に投入後、約4時間粉砕処理を行い、約81kgの平均粒径8μm(最大粒径100μm未満)のトドマツVMSD処理残渣粉末を得た。その中に残存する精油成分は1.18質量%であった。なお、平均粒径及び最大粒径は精密粒度分布測定装置(ベックマンコールター社Multisizer等)で測定した。
【0051】
(2)マスターバッチペレットの製造
上記(1)で得られたトドマツVMSD処理残渣粉末10kgと低密度ポリエチレンのペレット(日本ポリエチレン株式会社製、商品名「ハーモレックス NF464A」)90kgをミキサーで撹拌し、押出成形機に投入して押出成形したものを自然冷却した。次いで、これをペレタイザーに差込みペレット状(直径3mm、長さ3mm)にカットしトドマツVMSD処理残渣粉末を含有するポリエチレンのマスターバッチペレットを得た。
【0052】
(3)不織布の製造
芯成分がポリエチレンテレフタレート(PET:融点256℃)であり、鞘成分が高密度ポリエチレン(HPDE:融点130℃)であって、芯成分と鞘成分が同心円状に配置された同心円構造の芯鞘型複合短繊維(繊度:2.2dtex、繊維長:51mm)を準備した。次に、上記繊維を用い、ローラー式カード機にて目付約18g/m2の繊維ウェブを作製した。得られた繊維ウェブを高圧の水流を柱状に噴射して繊維を絡ませ乾燥させて不織布を得た。
【0053】
(4)トドマツVMSD処理残渣粉末担持不織布
水溶性高分子バインダー(EVAバインダー(固形分50%))に、(1)で製造した粉体をバインダー100質量部に対して12~13質量部となるように、均一に混合して塗布液を作製した。
次に、前記熱接着不織布に対して、前記塗布液を、グラビアコーターを用いて約40g/m2の量で塗布した。得られた不織布において、バインダー/トドマツVMSD処理残渣粉末の混合物は約10g/m2の量で付着しており、そのうちトドマツVMSD処理残渣粉末の量は約2g/m2の量 であった。
【0054】
(5)枕パッドの製造
この不織布を中地とし、ポリエステル100%の中綿(150g/m2)で挟み、表地はパイル(綿100%)、裏地は平織り生地(ポリエステル100%)を用いてキルティングし、50cm×60cmに裁断し、枕パッドを得た。
【0055】
試 験 例 1
睡眠の質改善試験(1):
以下の条件を満たした男性7名、女性4名の計11名を対象に試験を実施した。
対象者:寝付きに困難を抱えている高齢者(60歳以上)
選定条件:
・治療中の睡眠障害がない
・日常的に睡眠薬を服薬していない
・毎日ほぼ同じ時刻に床に就いている
・ピッツバーグ睡眠質問紙の得点が6-8点の者
・嗅覚障害のない者
【0056】
対象者11名に対し、実施例1で製造した枕パッドを装着した枕を用いて就寝した状態で、アリスPDx(Phillips社)により睡眠ポリグラフ検査を実施した。睡眠ポリグラフに基づく覚醒、入眠などの睡眠段階の判定は文献(野田明子、古池保雄:終夜睡眠ポリグラフィ、生体医工学46(2):134-143,2008)の記載に従って行った。下記の式により総睡眠時間、睡眠効率、入眠時間、中途覚醒時間についてそれぞれ平均値を求めた。また、コントロールとして、実施例1の枕パットを装着していない枕を用いて同様の試験を実施した。結果を表1に示す。
(算定式)
総睡眠時間(分)=(入眠から最終覚醒までの時間(分))-(中途覚醒時間(分))
睡眠効率(%)=((入眠から最終覚醒までの時間(分))/(総睡眠時間(分)))×100
入眠時間(分)=消灯時間から入眠(いずれかの睡眠段階が出現した時点)までの時間
中途覚醒(分)=覚醒時間の総和(分)
【0057】
【0058】
表1より、トドマツVMSD処理残渣粉末担持不織布を内挿した枕パッドを使用した場合、コントロールに比べ、総睡眠時間が長くなることが認められた。また入眠までの時間が短くなり、中途覚醒時間も短くなるため、睡眠効率も改善されることが確認された。
【0059】
試 験 例 2
睡眠の質改善試験(2)
上記実施例1で製造した枕パッドを装着した枕を用いて就寝した場合の睡眠の質について、試験例1と同じ11名を対象者として行った。
【0060】
対象者の枕に、実施例1で製造した枕パッドを装着して、午前0時頃就寝してもらい、翌日起床後午前7時から8時の間にOSA睡眠調査票(山本由華吏、田中秀樹、高瀬美紀、山崎勝男、阿住一雄、白川修一郎:中高年・高齢者を対象としたOSA睡眠感調査票(MA版)の開発と標準化.脳と精神の医学10:401-409,1999)に基づくアンケートを実施した。コントロールとして、実施例1の枕パッドを装着していない枕を使用して同様の試験を行った。実験の間隔は2日以上のインターバルを設けた。
【0061】
(起床時の睡眠内省評価)
対象者の質問の回答に対し下記表2の数値をあてはめ、質問項目ごとに全対象者の平均値を算出した。結果を表2に併せて示す。さらに表2の結果に基づき、各心理尺度における因子について評価した。結果を表3に示す。
【0062】
(香りの印象(好き嫌い・強さ等)評価)
VAS(Visual Analogue Scale)により「快不快」、「落ち着き」、「強さ」の各評価項目について、左端を0、右端を100として線分上の位置を示してもらい、その平均値としてVAS測定値を求めた。結果を表4に示す。
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
表2,3より、トドマツVMSD処理残渣粉末担持不織布を内挿した枕パッドを使用することにより、「入眠と睡眠維持」及び「疲労回復」の各因子において睡眠の質を改善することが示された。また表4に示すとおり、トドマツ精油は香りの嗜好性に優れることが確認された。
【0067】
製 品 例 1(枕)
実施例1(2)で得られたマスターバッチペレット3質量部と、ベース樹脂としてマスターバッチペレットを製造する際に用いたものと同じ低密度ポリエチレンペレット97質量部とを混合して、インフレーション成形により、厚さ40μmの低密度ポリエチレンフィルムを得た。このフィルム中には、トドマツVMSD処理残渣粉末がポリエチレン樹脂100質量部に対して、0.27質量部の量で含まれていた。
【0068】
得られたフィルムを、回転刃式粉砕機を用いて処理し、粉砕処理物を得た。この粉砕処理物には、薄片状の他、フィルムを切断等するときに加わる力によって、薄片が捩れたり、丸まることにより一部または全体が繊維状になったものが含まれることが確認された。
【0069】
この粉砕処理物約900gを縦350mm×横500mmの綿製の袋に収容し、開口部を縫い合わせて枕を製造した。この枕を用いて就寝したところ、睡眠が深く、途中目が覚めることなかった。また目覚めもさわやかで疲労回復感もあり、睡眠の質が改善できた。
【0070】
製 品 例 2(敷布団)
製品例1で製造した粉砕処理物を中綿として100cm×210cmの敷布団カバー内に入れ敷布団を製造した。この敷布団を用いて就寝したところ、睡眠が深く、途中目が覚めることなかった。また目覚めもさわやかで疲労回復感もあり、睡眠の質が改善できた。
【0071】
製 品 例 3(掛布団)
製品例1で製造した粉砕処理物を中綿として150cm×210cmの掛け布団カバー内に入掛け布団を製造した。この掛け布団を用いて就寝したところ、睡眠が深く、途中目が覚めることなかった。また目覚めもさわやかで疲労回復感もあり、睡眠の質が改善できた。
【0072】
製 品 例 4(布団パッド)
製品例1で製造した粉砕処理物を中綿として、ポリエステル100%の中綿(150g/m2)で挟み、表地はパイル(綿100%)、裏地は平織り生地(ポリエステル100%)を用いてキルティングし、90cm×200cmに裁断し、布団パッドを得た。
この布団パッドを敷布団の上にひいて睡眠したところ睡眠が深く、途中目が覚めることなかった。また目覚めもさわやかで疲労回復感もあり、睡眠の質が改善できた。