(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022035572
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】微生物用培養器材、培地成分入り微生物用培養器材、及びこれを用いた微生物数計測法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20220225BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12Q1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020140001
(22)【出願日】2020-08-21
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】520319462
【氏名又は名称】高崎 真一
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】寺村 哉
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029BB02
4B029CC02
4B029FA09
4B029GB03
4B029GB06
4B029HA02
4B063QA01
4B063QQ06
4B063QR66
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】 検体中の微生物数を、操作性が高く、かつ簡単に製造することができ、さらに、検体中の微生物数を容易に計測することができる培養器材を提供する。
【解決手段】 本発明は、培地成分を収容可能な凹部を有する第1部材と、前記凹部に嵌入し得る凸部を有する第2部材と、を有し、前記嵌入がなされた状態で前記凸部の天面が前記凹部の底面に接触状態となる構成を備える、微生物用培養器材を提供する。本発明は、前記培養器材の前記凹部に培地成分が収容された状態で前記凸部が嵌入された構成を備える、培地成分入り微生物用培養器材を提供する。本発明は、前記培地成分入り微生物用培養器材を用いて、検体中の微生物を培養し、微生物数を計測する方法を提供する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地成分を収容可能な凹部を有する第1部材と、
前記凹部に嵌入し得る凸部を有する第2部材と、を有し、
前記嵌入がなされた状態で前記凸部の天面が前記凹部の底面に接触状態となる構成を備える、微生物用培養器材。
【請求項2】
前記凹部又は前記凸部の少なくとも一方の外周領域に溝部を備える、請求項1記載の微生物用培養器材。
【請求項3】
前記溝部は、前記培地成分に添加された検体液が毛細管現象により前記凹部の外へ漏れ出することを抑制する、請求項2記載の微生物用培養器材。
【請求項4】
前記第1部材及び/又は前記第2部材は光透過性の合成樹脂材で形成される、請求項1から3のいずれか一項に記載の微生物用培養器材。
【請求項5】
前記第1部材と前記第2部材は一体成形されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の微生物用培養器材。
【請求項6】
前記第1部材と前記第2部材はヒンジ部により連設されている、請求項1から5のいずれか一項に記載の微生物用培養器材。
【請求項7】
前記ヒンジ部は、前記凸部の前記天面を前記底面に対して平行状態を維持しつつ嵌入し得る構造を備える、請求項6に記載の微生物用培養器材。
【請求項8】
前記第1部材又は前記第2部材のいずれかの外周領域に、スタッキング用凸部が形成される、請求項1から7のいずれか一項に記載の微生物用培養器材。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の培養器材の前記凹部に培地成分が収容された状態で前記凸部が嵌入された構成を備える、培地成分入り微生物用培養器材。
【請求項10】
前記培地成分は、ゲル化剤と栄養成分とを少なくとも含む、請求項9に記載の培地成分入り微生物用培養器材。
【請求項11】
前記ゲル化剤は、グアーガム、キサンタンガム、及びそれらの混合物から選択される1種以上である、請求項10に記載の培養器材。
【請求項12】
前記培地成分には、前記第1部材及び前記第2部材に対する接着性成分が含まれている、請求項9から11のいずれか一項に記載の培養器材。
【請求項13】
請求項9から12のいずれか一項に記載の培地成分入り微生物用培養器材を用いて、検体中の微生物を培養し、微生物数を計測する方法。
【請求項14】
前記培養器材の凹部に検体を添加する工程、
添加後に、前記第1部材の凹部に前記第2部材の凸部を嵌入する工程、
嵌入後に、前記検体に含まれる微生物を培養する工程、及び
培養後に、前記微生物のコロニー数を計測する工程、
を含む、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物用培養器材、培地成分入り微生物用培養器材、及びこれを用いた微生物数計測法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物数を計測する方法としては、混釈培養法や寒天平板塗抹法等が知られている(非特許文献1)。
これらの方法において微生物を培養するのに用いる寒天培地は、栄養成分や選択成分を寒天と共に加熱溶解した培地を固化させたものであり、培養・計測に先立って予め調製、滅菌しておく必要がある。特に混釈培養法においては、これらの培地調製を検体の供試前に予め完了し、培地を約50℃に保温した状態にしておく必要がある。この混釈培養法においては、比較的高温に保温された培地を検体と直接混合することから、検体中の微生物の損傷状態によっては微生物の発育に影響を与え、十分に検出できない可能性がある。一方、寒天平板塗抹法においては、熱による検体中の微生物への影響はないが、検体を平板培地に供試するに際して、培地に検体を完全に吸収させながら塗布させるため、予め検体の供試前に培地表面を乾燥させる必要があり、また塗抹操作自体が煩雑であり、時間を要するという問題もある。
【0003】
近年、微生物の検出・計測をより簡便かつ効率的に行うため、予め培地の調製が不要な乾燥培地成分入りの乾燥簡易培養器材が種々開発されている。かかる乾燥簡易培養器材では、使用時に液体検体を乾燥培地成分に添加すると、その検体中の水分により培地を形成させてそのまま培養に供することができる。
例えば、特許文献1には、防水性基体の上面部に、接着剤層、栄養成分を含む冷水可溶性ゲル化剤粉末層、及び剥がすことができるカバーシートを備えるシート状培養装置が開示されている。特許文献2には、防水性基材の上面に水溶性ゲル化剤とメッシュを有する繊維質吸水性シートとを具備する簡易培地が開示されている。特許文献3には、防水性基材の上面に、吸水性ポリマー層、多孔質マトリックス層を順次積層した、シート状培養器材が開示されている。特許文献4には、基材シート上に検体が広がる枠を設け、その枠内に接着成分、ゲル化剤を含む培地液をパターン形成した、シート状培養器材が開示されている。かかる枠は、接触角を特定の値に設定した疎水性樹脂からなり、試料液は枠内にだけ広がる。特許文献5には、上部材と凹部を有する下部材とが嵌合した状態において、上部材の凸部の上面と下部材の凹部の底面及び側面とで囲まれる空間を培地領域として有する微生物の培養器材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平2-49705号公報
【特許文献2】特開2000-325072号公報
【特許文献3】WO97/24432パンフレット
【特許文献4】特開2015-204845号公報
【特許文献5】特開2019-180369号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】第2版 微生物学実習提要 59ページ 4.3菌量の測定と培養法 東京大学医科学研究所学友会編 丸善株式会社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の培養器材では、防水性基体と上面フィルムの間に検体を供試し、上面フィルムの上からスプレッダーという器具で押さえつけて試料液を所定の面積に広げる操作を行うものである。この操作は平らな面を必要とし、かつ慎重に行わないと、試料が均一に広がるどころか、周囲へ流出する恐れがあり、操作性に難があるだけでなく、スプレッダーにより形成される培地面積が常に同一ではないため、形成された培地の濃度が変動し、培養条件が安定的でない難点がある。特許文献1記載の培養器材では、検体中の微生物を、簡便な操作で培養することができず、その数を容易に計測することができない。
【0007】
特許文献2及び3記載の培養器材には、不織布をはじめとする多孔質マトリックスが用いられているため、多孔質マトリックスを用いる都合上、その製造の際に、溶媒の乾燥状態を制御する困難さがあったり(特許文献2)、多孔質マトリックス層と培地層とを積層する手順が繁雑であったり(特許文献3)、製造する場合に難点が存在する。また、多孔質マトリックスの表面の凹凸により培地表面に生じる乱反射や、多孔質マトリックス自体の不透明さによって、培養後のコロニーが見にくくなり、特許文献2及び3記載の培養器材では、検体中の微生物の数を容易に計測することが難しい。
特許文献4記載の培養器材は多孔質マトリックスを用いていないが、液体検体が広がる際の土手となる枠から検体がこぼれないように、操作の際に平らな場所を要したり慎重性が求められたりする。また、該枠は、特定の接触角に設定した材料で形成されるが、検体の種類によっては、例えば油分やタンパク質等を含む飲食品等を検体とする場合には、枠の撥水性が変わることが想定され、培養器材としての汎用性に問題があるだけでなく、接触角を考慮した部材が必要であるため、複数の部材から構成させる必要があり製造が複雑であるともいえる。
【0008】
これらの特許文献1~4に記載の先行発明を鑑みて特許文献5には、凸部を有する上部材と凹部を有する下部材を勘合させ、上部材の凸部の上面と下部材の凹部の底面及びこれらの側面とで囲まれる空間の体積を、培地領域の空間体積分まで含ませた設計にすることで、この空間内で水分を含む検体と培地成分とを押圧しながら接触させて培地を形成できる、微生物用の培養器材が開示されている。
【0009】
特許文献5の培養器材は、上部材の凸部と下部材の凹部が嵌合した状態において、上部材の凸部の上面と下部材の凹部の底面及び側面とで囲まれた培地領域という空間を、必須の構成として設けている。ところが、特許文献5の培養器材を本発明者らが検討すると、この培地領域の空間に適切な量の培地成分を入れない場合には、上面及び底面の少なくともいずれか一方の面と培地成分との間に空気層が発生しやすくなることに、本発明者らは気がついた。当該空気層が発生した場合、培養使用時に培地ゲル上に存在する菌がゲル表面上で広がり、周囲のコロニーと重なり、計測が困難になることを本発明者らは見出した。特許文献5の培養器材を用いて、空気層が発生しないように操作することは簡便な操作とはいえず、また、空気層が発生することで検体中の微生物の数を容易に計測することが難しい。
【0010】
さらに、かかる特許文献5の培養器材を本発明者らが再現すると検体液を培地成分に適用し上部材を閉めて検体液を拡散させたと同時に、上部材と下部材が水分を介して接触することによる毛細管現象が生じた。この毛細管現象により、培地成分中のゲル化剤が検体液の水分を捕捉し固化させるよりも早い段階で、適用した検体液が上部材と下部材により構成される円筒部分の培地領域から外部に漏れ出してしまうことを本発明者らは見出した。さらに、検体液が培地領域の外部に漏れ出すことで、意図した濃度の培地を形成させることができない問題があることを本発明者らは見出した。加えて微生物が存在するかもしれない被検液が培地領域の外部に自発的に漏れ出すことで、検体中の微生物を、簡便な操作で培養することができず、その数を容易に計測することができない。微生物検査を容易に実施するという点で問題があることも本発明者らは見出した。
【0011】
さらに、本発明者らは、特許文献5の培養器材の再現において、上部材の凸部の上面積を下部材の凹部の底面積より小さくすることで、培地領域とされる部分の周囲に検体液の水分の逃げ道を設けてみた。しかしながら、このような培養器材でも、培地成分中のゲル化剤が検体液の水分を捕捉し固化するのに時間を要するため、上部材と下部材が水分を介して接触することによる毛細管現象を防ぐことはできず、水分が外部へ漏れ出すことを本発明者らは見出した。さらには特許文献5の培養器材にある培地領域の外周部分に水分が溜まるため、培地成分の濃度が培養使用時ごとに不均一になることを本発明者らは気づいた。
このように、特許文献5の培養器材では、検体中の微生物を、簡便な操作で培養することができず、その数を容易に計測することができないという弊害が生じることを本発明者らは見出した。
【0012】
このような状況を鑑みて、本発明は、検体中の微生物を簡便な操作で培養することができ、検体中の微生物数を容易に計測することができる微生物の培養器材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究の末、微生物用培養器材において、凸部が凹部に嵌入がなされた状態で凸部の天面と凹部の底部とが接触状態となる構成を備えることで、検体中の微生物を簡便な操作で培養することができ、微生物数を容易に計測することができることを見出した。さらに、本発明者は、凹部及び/又は凸部の外周領域に溝部を備えることで、凹部及び凸部により形成される空間体積や器材の嵌入時の接触角に関係なく、また器具や毛細管現象等を気にしなくとも、検体液が凹部(より具体的には使用時の培地)の外に漏れ出すことを抑制でき、培地中に均一に拡散し一定面積及び一定濃度の培地形成が可能となり、より安定的で簡便な微生物の培養及び計測を実現できることをさらに見出した。
【0014】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
培地成分を収容可能な凹部を有する第1部材と、
前記凹部に嵌入し得る凸部を有する第2部材と、を有し、
前記嵌入がなされた状態で前記凸部の天面が前記凹部の底面に接触状態となる構成を備える、微生物用培養器材。
[2]
前記凹部又は前記凸部の少なくとも一方の外周領域に溝部を備える、前記[1]記載の微生物用培養器材。
[3]
前記溝部は、前記培地に添加された検体液が毛細管現象により前期凹部の外へ漏れ出することを抑制する、前記[2]記載の微生物用培養器材。
[4]
前記第1部材及び/又は前記第2部材は光透過性の合成樹脂材で形成される、前記[1]から[3]のいずれか一つに記載の微生物用培養器材。
[5]
前記第1部材と前記第2部材は一体成形されている、前記[1]から[4]のいずれか一つに記載の微生物用培養器材。
[6]
前記第1部材と前記第2部材とはヒンジ部により連設されている、前記[1]から[5]のいずれか一つに記載の微生物用培養器材。
[7]
前記ヒンジ部は、前記凸部の前記天面を前記底面に対して平行状態を維持しつつ嵌入し得る構造を備える、前記[6]に記載の微生物用培養器材。
[8]
前記第1部材又は前記第2部材のいずれかの外周領域に、スタッキング用凸部が形成される、前記[1]から[7]のいずれか一つに記載の微生物用培養器材。
[9]
前記[1]から[8]のいずれか一つに記載の培養器材の前記凹部に培地成分が収容された状態で前記凸部が嵌入された構成を備える、培地成分入り微生物用培養器材。
[10]
前記培地成分は、ゲル化剤と栄養成分とを少なくとも含む、前記[9]に記載の培地成分入り微生物用培養器材。
[11]
前記ゲル化剤は、グアーガム、キサンタンガム、及びそれらの混合物から選択される1種以上である、前記[10]に記載の培養器材。
[12]
前記培地成分には、前記第1部材及び前記第2部材に対する接着性成分が含まれている、前記[9]から[11]のいずれか一つに記載の培養器材。
[13]
前記[9]から[12]のいずれか一つに記載の培地成分入り微生物用培養器材を用いて、検体中の微生物を培養し、微生物数を計測する方法。
[14]
前記培養器材の凹部に検体を添加する工程、
添加後に、前記第1部材の凹部に前記第2部材の凸部を嵌入する工程、
嵌入後に、前記検体に含まれる微生物を培養する工程、及び
培養後に、前記微生物のコロニー数を計測する工程、
を含む、前記[13]に記載の方法。
【0015】
なお、本明細書において「検体」とは、特に限定されないが、通常は、検体液であり、具体的には飲料水、清涼飲料水、工業用水、製薬用水、透析水、尿等の水性の液体検体等である。また、固形の検体を希釈液等により乳剤又は懸濁液としたものも含まれる。
また、本明細書において「微生物」とは、通常は、細菌類、真菌類を指し、一般細菌、枯草菌、大腸菌、大腸菌群、ブドウ球菌、ビブリオ属細菌、腸球菌、酵母、カビ等をいう。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、検体中の微生物を、簡便な操作で培養することができ、検体中の微生物数を容易に計測することができる。なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の培養器材の一態様を表す図である。
図1Aは第1部材の凹部と第2部材の凸部が嵌入していない状態の培養器材の正投影図であり、底面及び天面がみえる側の図である。
図1Bは、
図1Aの線I-I’での断面図の一例を表す。
図1Cは、第2部材の凸部を第1部材の凹部に嵌入させようとしている状態を表す断面図である。
【
図2】本発明の培養器材の一態様を表す図である。
図2Aは、第1部材の凹部と第2部材の凸部とが嵌入した状態の培養器材の正投影図であり、第2部材の外側からみたときの図である。
図2Bは、
図2Aの線I-I’での断面図の一例を示す。
図2Cは、培養器材の凹部に培地成分が収容され、凸部が嵌入された状態での断面図の一例を示す。
【
図3】本発明の培養器材の第1部材の一態様を表す図である。
図3Aは、第1部材の底面側からみたときの図であり、
図3B及び
図3Cは、それぞれ、
図3Aの線I-I’での断面図の一例を表す。
【
図4】本発明の培養器材の第2部材の一態様を表す図である。
図4Aは、第2部材の天面の反対側からみたときの上面図であり、
図4Bは、
図4Aの線I-I’での断面図の一例を表す。
【
図5】本発明の培養器材の一態様を表す図である。
図5A~
図5Cは、第1部材と第2部材とが種々のヒンジ部により連結され、第1部材の凹部と第2部材の凸部とが嵌入していない状態の断面図の一例をそれぞれ表す。
図5A~Cのヒンジ部の断面形状は、それぞれ、嵌入時に、C形状、三角形状、四角形状である。
図5Dは、第1部材と第2部材とが、一体とならず、別々に分離している状態の一例を示す。
【
図6】本発明の培養器材の一態様を表す図である。
図6は、嵌入時に断面形状が四角形状になるヒンジ部を有する培養器材であり、第1部材の凹部と第2部材の凸部とが嵌入した状態の培養器材の一例を表す図であり、当該培養器材の正面、背面、左図(断面図)、右図(断面図)、平面図、底面図をそれぞれ表す。
【
図7】本発明の培養器材の一態様を表す図である。
図7A及び
図7Bは、それぞれ、嵌入時の培養器材を第2部材の天面の反対側からみたときの図である。
図7A及び
図7Bには、溝部の外周領域にスタッキング用凸部が複数形成される態様の一例を表す。
【
図8】本発明の培養器材の一態様を表す図である。
図8A及び
図8Bは、円状の第2部材を天面の反対側からみたときの図、及びこの側面側の断面の一例をそれぞれ表す図である。
図8Cは、スタッキング用凸部が外周領域に均等間隔で第1部材に形成されたときの側面側の断面を表す図である。
図8Dは、嵌入時の培養器材の一例の側面(断面図)を表す図である。
図8Eは嵌入時の培養器材の一例を第2部材の天面の反対側からみたときの図である。
【
図9】本発明の培地成分入り培養器材の一態様を表す図である。
図9は、嵌入時の培地成分入り培養器材を、複数積み重ねたときの断面図を表す。外側に凸状になっている溝部と外側にあるスタッキング用凸部とで上下の培養器材が固定され、複数の培地成分入り培養器材の積み重ね崩れが防止されていることを表す。
【
図10】実施例1の培地成分入り培養器材を用いて、検出されたコロニーの写真を表す図である。
【
図11】実施例1の培地成分入り培養器材を用いて、検出されたコロニーの写真を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。なお、各数値範囲の上限値と下限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0019】
<1.本発明に係る微生物用培養器材>
本発明は、培地成分を収容可能な凹部を有する第1部材と、前記凹部に嵌入し得る凸部を有する第2部材と、を有し、前記嵌入がなされた状態で前記凸部の天面が前記凹部の底面に接触状態となる構成を備える、微生物用培養器材又は培地成分入り微生物用培養器材を提供することができる。
本発明の培養器材を用いることで、検体中の微生物を、簡便な操作で培養し、その数を容易に計測することができる。また、本発明の培養器材は、複雑な構成を採用しなくともよいため、製造も簡単にできる。
また、本発明の微生物用培養器材は、操作性が高く、安全に使用でき、かつ簡単に製造することができ、さらに、検体中の微生物数を容易に計測することができる。
【0020】
以下、本発明の培養器材を、図面を参照してより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
本発明の培養器材1は、培地成分を収容可能な凹部11を有する第1部材10、前記凹部11に嵌入し得る凸部21を有する第2部材20を有する(
図1及び
図2等参照)。
本発明の培養器材1は、第1部材10の凹部11に、第2部材20の凸部21を嵌入することができ、当該嵌入がなされた状態で、当該凸部21の天面22が当該凹部11の底面12に接触状態となるような構成を備えることが好適である(
図1A~C、
図2A~B)。
なお、本明細書において、培養器材の長手方向をX方向、短手方向をY方向、高さ方向をZ軸方向とする。また、線I-I’は、長手方向に沿って凹部の中心を通過する線である。
【0021】
本発明の培養器材1は、第1部材10の凹部11に第2部材20の凸部21が嵌入するように閉じることで、底面12と天面22とを内側にして、嵌入した状態の微生物用の培養器材1を得ることができる(
図1及び
図2等参照)。この嵌入した状態の微生物用の培養器材1は、これら部材の端部等を用いて開くことができ、開くときに嵌入した状態の凹部11と凸部21とを外すことができる。培養器材の開閉時に、培地成分を底面12及び/又は天面22に塗着してもよく、検体液を培地成分に適用してもよい。
【0022】
さらに、第1部材10の凹部11又は第2部材20の凸部21の少なくとも一方の外周領域に溝部30を備えることが好適である(
図1及び
図2等参照)。当該外周領域とは、凹部の外周から第1部材の端までの領域又は凸部の外周から第2部材の端までの領域をいう。
【0023】
本発明の培養器材1は、第1部材10及び第2部材20を有しており、これら部材が一体成形されていてもよいし、別々に分離した第1部材10及び第2部材20から構成されていてもよい。
【0024】
<第1部材及び第2部材>
第1部材10は、培地成分を収容可能な凹部11を有することが好適であり、当該培地成分については後述する。
図3Aは、第1部材10を、凹部11の底面12(Z軸方向)からみたときの図である。底面側にある外周領域の面は、対向面同士を良好に接触させる等の観点から、平面であることが好適である。
さらに、第1部材10の線I-I’での断面について、
図1Bの第1部材以外の例を、
図3B、
図3C、
図8C等に示すが、第1部材の断面はこれらに特に限定されない。例えば、凹部の外周領域の部材の高さ(Z軸方向)は、特に限定されず、適宜変更が可能である。また、凹部の高さ(Z軸方向)は、特に限定されず、適宜変更可能である。また、凹部11と後述する溝部30との間の幅(例えばX軸方向)は、特に限定されず、適宜変更が可能であり、当該幅部分の部材の高さ(Z軸方向)は、部材の高さに応じて、適宜変更が可能である。
【0025】
第2部材20は、凹部11に嵌入し得る凸部21を有することが好適である。
図4Aは、第2部材20を、凸部21の天面22の反対側(Z軸方向)からみたときの図である。天面側にある外周領域の面は、対向面同士を良好に接触させる等の観点から、平面であることが好適である。
さらに、第2部材20の線I-I’での断面について、
図1Bの第2部材以外の例を、
図4B、
図8B等に示すが、第2部材の断面はこれに特に限定されない。例えば、凸部の外周領域の部材の高さ(Z軸方向)は、特に限定されず、適宜変更が可能である。また、凸部の高さ(Z軸方向)は、特に限定されず、適宜変更可能であり、凹部に嵌入しやすいように、凸部の高さを適宜変更可能である。
【0026】
また、凹部11の底面12及び凸部21の天面22は、それぞれ、平面でも曲面でもよいが、操作性の観点から、平面が好適である。平面であることにより、検体液を均一に第1部材の凹部に簡便に広げることができる。
底面の及び天面の面形状は、特に限定されず、例えば、円状、楕円状、多角形状等が挙げられるが、このうち円状が、操作性及び培養計測の観点から好適である。なお、多角形には、八角形、六角形、四角形、三角形等が挙げられるがこれらに限定されない。
底面及び天面は、両方が同じ平面であって同じ面形状であることが好適であり、さらに好適には、底面の面積及び天面の面積が実質的に同じである。また、円状の底面を有する凹部は、20~30cm2の底面積を有することが、1mL検体液の適用に適しているので、好適である。
【0027】
好ましい態様では、第2部材20は、第1部材10の凹部11と互いに嵌入しうる立体形状である凸部21を有するように構成されている(
図2C)。このときの凸部及び凹部は、嵌入しうる形状であれば任意の立体形状でもよく、当該立体形状として、例えば、多角柱状(例えば六角柱等)、楕円柱状、円柱状、錐台状(例えば円錐台等)等が挙げられるが、これらに限定されない。このうち、円柱状又は円錐台状が、製造容易の観点及び嵌入のしやすさの観点から好適である。
凹部の嵌入部分の高さ(Z軸方向)は、特に限定されないが、好ましくは0.5~5mm、より好ましくは1~3mmであり、底面の最大長さは、特に限定されないが、好ましくは30~80mm、より好ましくは40~70mm、さらに好ましくは、50~60mmであり、当該最大長さは、直径であることが好適である。
【0028】
また、第2部材20は、第1部材10の凹部11と互いに完全に嵌入しうる円柱形状である凸部21を有することがさらに好適である(
図2C)。これにより、第2部材の凸部の円柱形状が、それよりやや大きい第1部材の凹部の円柱形状(中空)に嵌入し得る。この第1部材の凹部は、20~30cm
2の底面積を有することが、1mL検体液の適用に適しているので、好適である。
【0029】
本発明の培養器材1は、上述のように、嵌入がなされた状態において、凸部21の天面22が、凹部11の底面12に接触状態となるように構成されていることが好適である。当該接触状態とは、天面と底面との間に一定距離以上の空間を持たないことが好適であり、より具体的には、当該天面と当該底面との間の距離は、好ましくは0.01mm未満、より好ましくは0.005mm以下、さらに好ましくは0.001mm以下であり、完全に密着状態であることがよりさらに好適である。
【0030】
本発明の培養器材は、上述した構成を採用することにより、培地成分を凹部に収容した後に培養器材を閉じることで、第1部材及び第2部材と培地成分とがより接触状態になる。この接触状態により、培地成分の空間が独立して新たに形成されうる。そして、本発明の培養器材を採用することにより、第2部材の凸部の天面と第1部材の凹部の底面との間(Z軸方向)で、培地成分が両者によって密着した状態となる培地成分入り培養器材を提供することができる。
培地成分が各部材と接触状態になることで、培地成分に添加した検体液を、培養器材の外部から指等にて、凹部の培地成分に均一に広げる操作が容易にでき、培養に使用できる培地を簡便に容易に調製することができる。さらに、培地成分が各部材と接触状態になることで、培養使用時に、発育したコロニーが大きく広がることを防止し、コロニー数を計測するのに最適な状況を生み出すことに寄与する。
【0031】
なお、本発明の培養器材における外周領域の端部のいずれかに、第1部材及び第2部材の開閉用の取手部を設けてもよく、部材の高さの差で取手部としてもよい。また、培養器材の長手方向のいずれか一方の端部に取手部を設けてもよく、取手部はヒンジ部とは反対側の端部に設けることが好適である。また、第1部材内に配置する凹部の中心は、第1部材の長さ(X軸方向又はY軸方向)の10分の3~6に配置されていることが好適である。
【0032】
<溝部>
さらに、本発明の培養器材の好ましい態様として、第1部材の凹部11又は第2部材の凸部21の少なくとも一方の外周領域に、単数又は複数の溝部30を備えることが好適である。当該溝部は、対向する面側に形成されることが好適であり、対向する面方向に開口するように形成されることがより好適である。また、溝部の窪み部分は、Z軸方向に突起状になるように形成されることが好適であり、これにより、後述するスタッキング用凸部と併用することで、複数の培養器材を積み重ねる際の各部材の位置決めをすることができる(
図1、
図2、
図8、
図9等)。
溝部の数は、特に限定されないが、前記凹部の外周領域及び前記凸部の外周領域のそれぞれに、1つ又は2つ以上であることが好適であり、より好ましくは1つであるが、前記凹部又は前記凸部の少なくとも一方の外周領域に1つ備えてもよい。
【0033】
溝部は、培地成分に添加された検体液が毛細管現象により凹部の外へ漏れ出すことを抑制することができるように構成されている。従来の培養部材の構成のように溝部を設けない場合、培地成分に添加された検体液の水分が、接触状態の第1部材の表面と第2部材の表面とを濡らすことで、両者の間に存在する水分が直ちに凹部の外を超え部材端にまで到達する。本発明では、溝部を凹部又は凸部の外周領域に形成することで、毛細管現象によって、両部材の表面間にある検体液が端部方向に移動する現象を、溝部の手前で抑止することができる。このとき、この溝部によって、凹部(より好適には使用時の培地)の外に、検体液が漏れ出すことを抑制することができる。
培地成分に添加した検体液が凹部の外に漏れ出すことにより生じる培地濃度が不均一になるのを防ぐこともでき、これにより意図した濃度の培地を形成させることができる。このように溝部の付加的機能として、検体液の水分を溝部の手前で抑制し、外周領域へ水分の流出を隔離するための隔離用の溝部として機能させてもよい。
【0034】
溝部は、第1部材の凹部の外周領域に、当該凹部の外周の全部又は一部を囲うように備えることが好適である。また、溝部は、第2部材の凸部の外周領域に、当該凸部の外周の全部又は一部を囲うように備えることが好適である。また、第1部材の外周領域及び第2部材の外周領域の両方に、それぞれ溝部を適宜設けてもよい。
また、溝部は、凹部又は凸部の外周を少なくとも50%以上、より好適には80%以上、さらに好適には90%以上、よりさらに好適には完全に囲うことが好適である。また、溝部は、対向面側(Z軸方向)からみたときに、第1部材の凹部又は第2部材の凸部の外周に沿って、連続的に又は断続的に、形成されていてもよい。
【0035】
溝部を備える位置は、凹部又は凸部の外周(外周端:0mm)より外側(部材の端部方向)であれば、特に限定されない。溝部を備える位置は、凹部又は凸部の外周(0mm)より、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは1mm以上離れていることが好適であり、その上限値は、部材の大きさによって適宜設定することができるが、例えば10mm以下、5mm以下、又は3mm以下等である。
【0036】
溝部の溝の深さ(Z軸方向)は、毛細管現象を遮断できる程度の深さがあれば良く、容器設計上、凹部又は凸部の高さ(Z軸方向)によって適宜変更することができる。溝部の溝の深さは、例えば1~5mmが好適であり、1~3mmがより好適である。また、溝部の溝の幅(X軸方向又はY軸方向)は、特に限定されず、任意に設定することができ、例えば、好ましくは0.5~3mm程度、より好ましくは2~3mm程度である。
また、溝部の断面形状(Z軸方向)は、特に限定されないが、対向する面に向かって開口する形状が好適である。溝部の断面形状として、例えば、V字状、U字状、上向きC字状、半円状、四角形状、台形状等が挙げられるが、U字状又は上向きC字状が好適である。また、溝部の底面の形状は特に限定されないが、成形の容易性と強度の点から曲面であることが好ましい。
【0037】
本発明の培養器材に係る態様として、1mLの検体液を第1部材の凹部に収容されている培地成分に接種し、凹部に嵌入した第2部材の凸部によって検体液が培地成分に押し広げられた場合、収容されている培地成分中のゲル化剤が検体液の水分を吸収し、固化される。さらに、第1部材の凹部の外周領域に溝部を設けなかった場合、ゲル化剤が検体液中の水分を吸収するよりも早い段階で、第2部材と接触した第1部材との毛細管現象により凹部から水が周囲の外周領域方向に逃げていきやすい。このため、溝部を備えなかった場合には、水が周囲に逃げることで培地成分を膨潤させるための必要な水分がない状態で膨潤し培地が再構成され、再構成された培地が塗布面から剥離するため良好な培養結果が得られにくいだけでなく、設計通りの濃度の培地が得られにくい。一方、凹部又は凸部の外周領域に、凹部又は凸部の外周に沿って溝部を少なくとも1つ備えることで、毛細管現象が断ち切られ、凹部の外への水の流出を防ぐことが可能となる。1mLの検体液接種後に第2部材の凸部を嵌め込むだけで、第1部材の凹部全体に被検液が広がると共に培地成分中のゲル化剤が水を吸収し、設計通りの各培地成分濃度の培地を再構成させることが可能となる。
【0038】
従って、第1部材の凹部の外周領域に溝部は、第1部材に設置した凹部の外周から1mm以上離れていることが好適であるが、毛細管現象を堰き止めるために凹部の外周付近から離れすぎないようにすることが好ましい。また、第1部材の凹部と第2部材の凸部が完全に密着した状態で勘合し、空間を持たない状態の培養器材に、底面及び天面の間に培地成分をさらに入れても、適用時1mL検体液では、水の膨潤による培地成分自体の上下方向への体積増加はほとんど無視できるほど小さい。
【0039】
<ヒンジ部>
さらに、好ましい態様として、第1部材10及び第2部材20はヒンジ部50により連設されていることである。当該ヒンジ部の短手方向(Y軸方向)の長さは、部材の端部の長さよりも短く形成されていてもよい。当該ヒンジ部は、凹部の中心を通過する線I-I’上に配置してもよい。
培養器材が閉じた状態でのヒンジ部の断面形状は、特に限定されず、例えば、多角形状(例えば、四角形状、五角形状、六角形状等)、半円状、半楕円状、I字状等が挙げられる。例えば、第1部材の端部と第2部材の端部とが一辺を共有するような構成で、この一辺をヒンジ部とし、この一辺を軸として折り曲げて嵌入したときに、断面形状がI字状のヒンジ部が形成されてもよい。
【0040】
ヒンジ部50は、第2部材20の凸部21の天面22を、第1部材10の凹部11の底面12に対して略平行を維持しつつ嵌入し得る構造を備えることが、より好適である。このように嵌入させることで、培養使用時に、検体液を培地成分に適用した後に凹部に凸部を嵌入させたときに、検体液を培地成分への均一適用させること、毛細管現象の発生の抑制、空気層の発生抑制等ができる。
このような構造を備えるヒンジ部として、例えば、
図5A~
図5Cに示すような構造が挙げられるが、これらに限定されない。
図5A、
図5B、
図5Cは、それぞれ、ヒンジ部50を有する培養器材1a、1b、1cであり、第1部材及び第2部材を開いた状態でのI-I’線の断面図を表す。培養器材1a、1b、1cは閉じた状態で、ヒンジ部の断面形状は、それぞれ、C字形状、三角形状、四角形状となる。
このうち、ヒンジ部の断面形状が四角形状であることが、より簡便な操作で略平行を維持しつつ嵌入できる観点から、より好適である(例えば
図5C及び
図6)。
【0041】
なお、第2部材20の凸部21の天面22を、第1部材10の凹部11の底面12に対して略平行を維持しつつ嵌入し得る構造として、例えば、
図5Dに表すように、ヒンジ部を設けずに、第1部材と第2部材とが別々の部材として構成されている構造であってもよい。
【0042】
<スタッキング用凸部>
好ましい態様として、第1部材10又は第2部材20のいずれかの外周領域に、スタッキング用凸部60が形成されることである。
スタッキング用凸部は、第1部材及び/又は第2部材の外側(Z軸方向)の面に突起状になるように形成されることが好適である。
スタッキング用凸部の配置(XY軸方向)は、特に限定されず、例えば、部材の凹部又は凸部の周端領域に単数又は複数配置されてもよいし(例えば
図7A)、部材の端領域に単数又は複数配置されてもよし(例えば
図7B)、部材の溝部の周端領域に単数又は複数配置してもよい(例えば
図8)。
このように、培養器材ごとにスタッキング用凸部を設けることで、下に配置した培養器材が上に配置した培養器材を、支持することができ、これにより複数の培養器材を積み重ねることができる(例えば
図9)。
【0043】
スタッキング用凸部の数は、特に限定されず、単数又は複数であり、好ましくは1又は2以上、さらに好ましくは3~10程度であり、より好ましくは3~6、さらに好ましくは3又は4である。スタッキング用凸部の形状は、例えば、正方形状、長方形状、円錐形状、円錐形状等の立体形状が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0044】
なお、スタッキング用凸部が形成される面に対向する面上に、スタッキング用凸部を位置決するための支持部を形成することが好適である。当該支持部として、例えば、培養器材の外側方向(Z軸方向)の面上に、突起状になるように形成された溝部、凹部と溝部との間に形成された窪み状、外周領域に形成された窪み状や突起状等の位置決め可能な支持部等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
<部材材料>
本発明における第1部材及び/又は第2部材は、合成樹脂材で形成されることが好適であり、光透過性の合成樹脂材で形成されることがより好適である。
本発明の培養器材において、第1部材及び/又は第2部材の材料は特に限定されず、例えば、ポリスチレン系、ポリアクリル系、ポリビニル系、ポリエチレン系、ポリエステル系、ポリ乳酸系のポリマー等の合成樹脂材を採用でき、これらから1種又は2種以上を用いることができる。
【0046】
本発明において、第1部材又は第2部材のいずれか一方は透明であることが好ましく、第1部材と第2部材の両方が透明であることがより好ましい。第1部材及び/又は第2部材は、光透過性を有することが好ましい。これにより、計測対象の微生物のコロニーを、培養器材を分解することなく、外部から容易に観察・計測することができる。
なお、ここで透明(光透過性)とは、目視により部材の反対側を透視できる程度でよく、より具体的には可視光透過率が70%以上であることが好ましいが、これに限定されない。
【0047】
また、本発明の培養器材において、第1部材と第2部材は、別個に分離していてもよいし、一体となっていてもよい。
好ましい態様として、第1部材10及び第2部材20が一体成形されているものである。
例えば、第1部材の一部と第2部材の一部とが、一辺を共有する等して、連結していてもよい。例えば、後述するヒンジ部を第1部材の端部と第2部材の端部との間に設けて、これら部材を連設してもよい。
このような一体形成の態様の場合、成形した培養器材を第2部材の凸部と第1部材の凹部とに嵌入するように第1部材と第2部材とを重ね合わせて折り曲げることにより使用することが可能となり(例えば
図1及び2)、製造する上で、培地成分塗着や培養使用時の部材の開閉等の操作性等の観点からも、部材が1つで済むことは好ましい態様といえる。
【0048】
<培地成分>
本発明の培養器材の凹部に収容可能な培地成分について説明する。
本発明に用いられる培地成分は、第2部材を第1部材に被せたときに互いに接触する部分、即ち第1部材の凹部分の底面及び/又は第2部材の凸部分の天面に均一に塗着されていることが好ましい。当該培地成分は、乾燥状態のものが好適であり、検体液の水分を含むことで、培養用の培地に再構成できるような乾燥培地成分がより好適である。
この培地成分の塗着部位は、通常、検体液は、第2部材の凸部の天面を利用することにより均一に第1部材の凹部に広げられることと、広げられた検体液のスムーズな拡散と培養使用時の培地への均一な再構成を両立させる点で、第1部材の凹部分の底面及び/又は第2部材の凸部分の天面に均一に塗布又は塗着されていることが好適である。
【0049】
本発明の培養器材における培地成分は、ゲル化剤及び栄養成分を含有することが好ましい。
本発明において、培地成分は、微生物を培養するための培地を調製するためのものである。前記調製は、通常、計測対象の微生物を含む検体液中の水分をそのまま培地を構成するゲルの溶媒として、培地成分に添加し浸透させることにより行われる。
【0050】
前記ゲル化剤は、非加熱ゲル化剤が、加熱することなく検体液を培地成分に適用することで液体をゲル化できるので好ましい。寒天やカラギーナンといった加熱ゲル化剤を用いる場合、検体液を培地成分と共に固化させる際に加熱が必要であるため、培養使用時に加熱工程が必要となったり、検体中の微生物を加熱することによる死滅等にて計測にばらつきが生じやすい。
【0051】
一方、非加熱ゲル化剤は、加熱による溶解を経ずに、また冷却によらず、水分の添加のみによりゲルを形成させることができるため、培地形成の操作が簡便であり、また対象微生物の生育を妨げないという利点がある。
さらに、静置時にゲル化できる成分がより好適であり、当該静置時のゲル化成分として、増粘多糖類がさらに好適であるが、これらに限定されない。当該増粘多糖類は、培地を構成するゲル化剤の役割を担うことができ、常温(10~30℃程度)で検体液を培地成分に均一になるように押し広げて適用したときにこれらを固化でき、その後、静置状態でゲル状態を維持可能な検体を含む培地が形成できることから、好ましい。
これにより、培地成分中のゲル化剤により形成される培養使用時の培地は、流動性がほとんどなくまた水分を強固に保持できるため、微生物の存在数をその発育したコロニー数により定量的により正確に計測することができる。
【0052】
増粘多糖類として、特に限定されないが、例えば、グアーガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、アラビアガム、タマリンドガム、カードラン、タラガム、プルラン等が挙げられ、これらからなる群から選択される1種又は2種以上がより好ましい。当該増粘多糖類には、本発明の効果を妨げない限りにおいて、さらに他のゲル化剤を併用してもよい。
【0053】
増粘多糖類のうち、グアーガム、キサンタンガム、及びそれらの混合物から選択される1種又は2種以上が好ましい。混合物の方が、これらの割合を調整して培養使用時のゲル化能を調整しやすいのでより好適である。これらに、本発明の効果を妨げない限りにおいて、さらに他のゲル化剤を併用してもよい。
ここで、グアーガム及び/又はキサンタンガムは、吸水、固化の速度が比較的緩やかであるため、培地成分及びゲル化剤を早急に混合させるような操作を行わなくともよい。このため、検体液をグアーガム及び/又はキサンタンガムを含む培地成分に添加し、培地成分の全体に均一になるように拡散させる操作をしても、薄く広がったゲル培地を形成することができるため、本発明の培養器材により良好に適する。これにより、培養使用時の培地は、流動性がほとんどなくまた水分を強固に保持できるため、微生物の存在数をその発育したコロニー数により定量的に正確に計測することができる。
また、グアーガム、キサンタンガム、又はそれらの混合物にて形成されるゲルが、透明であることにより、培養後の培地中の微生物のコロニー及びその数を、培養器材を分解することなく外部から正確かつ容易に検出することができる。
【0054】
本発明に用いられるゲル化剤(より好適にはグアーガム及び/又はキサンタンガム)の使用時の濃度は、特に限定されないが、1mLの水に対する固化能の観点から、1mLの水を添加した使用時の濃度(1mL当たりの濃度)として合計量で0.01~0.2g/mLが好ましく、0.01~0.1g/mLがより好ましい。
【0055】
培地成分に含まれる栄養成分は、対象微生物を発育させるためものである。栄養成分としては、特に限定されないが、ペプトン、獣肉エキス、酵母エキス、魚肉エキス等が好ましく挙げられる。
微生物数を計測する培地には、寒天を含む寒天培地と寒天を含まない液体培地の2種の培地形態が存在するが、寒天を含まない液体培地の成分かそれと同等の成分を、本発明における培地成分に含有させることが好ましい。
【0056】
本発明に用いられる培地成分には、第1部材及び/又は第2部材に対する接着性成分が含まれることが好適である。接着性成分を含ませることで、培地成分の全ては、本発明の培養器材の凹部の底面又は凸部の天面の少なくとも片側に塗着することができる。
【0057】
接着性成分を用いることで、培地成分を、第1部材及び/又は第2部材に、安定的に塗着させる役割を果たし、さらに天面と底面とに培地成分をより密着した状態にすることができる。そして、凸部を凹部に嵌入させた状態にすることで培地成分が、凹部に収容されると共に第1部材と第2部材とが接着性成分を含む培地成分を介して接着される。これにより、第1部材の凹部に第2部材の凸部が嵌入した状態を維持した状態の培地成分入り微生物用培養器材を得ることもできる。また、培養使用時に、培地と天面と底面との間に空気層がより発生しづらくなるため、操作性がより簡便であり、培養時の、周囲のコロニーとの重なりを低減することができ、容易に計測することができる。
【0058】
接着性成分として、特に限定されないが、例えば、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、及びメチルセルロース等が挙げられ、これらから1種又は2種以上を選択することができる。
接着性成分の使用時の濃度は、特に限定されないが、培地成分を乳剤又は懸濁液として塗布する際の粘度と接着能の観点から、1mLの水を添加した使用時の濃度(1mL当たりの濃度)として接着性成分合計量で0.1~10mg/mLが好ましく、0.5~5mg/mLがより好ましい。
【0059】
本発明に用いられる培地成分は、さらに呈色試薬を含有することが好ましい。これは、培養によって生じた微生物のコロニーを有色のものとして、より検出及び/又は計測しやすくするためである。
呈色試薬としては、例えば、2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムクロライド(TTC)やテトラゾリウムバイオレット等をはじめとする酸化還元指示薬等が挙げられ、これらから1種又は2種以上を選択することができる。呈色試薬は、検体中に存在する全ての種類の微生物を計測したい場合に好ましく用いることができる。TTCを用いる場合は、1mLの水を添加した使用時の濃度(1mL当たりの濃度)として1mg~100mg/Lが好ましく、10~50mg/Lがより好ましい。
【0060】
また、呈色試薬としては、特定の微生物種のみが保有する酵素に対する基質(以下、酵素基質という)であって、分解されることにより色原体化合物を遊離し得る化合物を用いてもよい。これは、当該特定の微生物を計測したい場合に好ましく用いることができる。
ここで、色原体化合物とは、可視光下で有色のもの及び蛍光発色するもののいずれでもよい。可視光下で有色の化合物として遊離され得る官能基として、例えば5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル基等が挙げられ、遊離した5-ブロモ-4-クロロ-3-インドールは酸化縮合して2量体の5,5’-ジブロモ-4,4’-ジクロロ-インディゴとなり、青色を呈する。蛍光発色する化合物として遊離され得る官能基としては、4-メチルウンベリフェリル基等が挙げられ、遊離した4-メチルウンベリフェロンは紫外線照射下で蛍光を発する。
【0061】
酵素基質の例を挙げると、対象微生物が大腸菌群の場合は、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-β-D-ガラクトピラノシド(X-GAL)等を、大腸菌の場合は、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-β-D-グルクロン酸(X-GLUC)等を、黄色ブドウ球菌の場合は、5-ブロモ-4-クロロ-3インドキシル-リン酸(X-phos)等を、腸球菌等の場合は、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-β-D-グルコピラノシド等を、真菌の場合は、X-phos、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-酢酸や5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-酪酸等を、それぞれ好ましく用いることができる。さらに、全ての微生物種を検出したい場合には、これら全てを組み合わせて使用してもよい。
酵素基質を用いる場合には、1mLの水を添加した使用時の濃度(1mL当たりの濃度)として0.01~1.0g/Lが好ましく、0.2~0.5/Lがより好ましい。
【0062】
本発明に用いられる培地成分は、本発明の効果を妨げない限りにおいて、さらに、選択物質、抗菌性物質、無機塩類、糖類、増粘剤、pH調整剤等を任意に含有してもよい。これら任意の成分から、適宜、1種又は2種以上選択することができる。
選択物質としては、例えば、ポリミキシンBやバンコマイシンなどの抗生物質や、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)、Tween80、コール酸ナトリウム等の胆汁酸塩等の界面活性剤等が挙げられる。
抗菌性物質としては、例えば、ポリリジン、プロタミン硫酸塩、グリシン、ソルビン酸等が挙げられる。
無機塩類としては、例えば、塩化ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム等の無機酸金属塩、ピルビン酸ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム、クエン酸ナトリウム等の有機酸金属塩等が挙げられる。
糖類としては、例えば、グルコース、ラクトース、スクロース、キシロース、セロビオース、マルトース等が挙げられる。
pH調整剤としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸等が挙げられる。なお、本発明の培養器材に塗布される培地組成物は、対象微生物の生育の観点から、使用時のpHが好ましくは6.0~8.0に、より好ましくは6.5~7.5になるように調製される。
【0063】
本発明の培養器材は、任意の方法で製造することができるが、一例を説明するが、これに限定されない。
適当な大きさのアクリル板等の合成樹脂平板を用いて、第1部材及び第2部材とすることができる。第1部材の凹部及び/又は第2部材の凸部は、合成樹脂の加工成形方法を利用して作製することができ、例えば、アクリル板の接着やくり抜き、又は金型等を用いた押圧や射出による成形などにより、作製することができる。
本発明に用いられる培地成分は、非水系溶媒に溶解又は懸濁させたものを、第1部材の凹部及び/又は第2部材の凸部の面全体に均一に塗布した後、素早く強制乾燥等乾燥することにより、培養器材の第1部材の凹部及び/又は第2部材の凸部に塗着させることができる。
ここで、非水系溶媒は、常温常圧下で速やかに揮発し得る揮発性溶媒がよく、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、及びブタノール等から選択される1種又は2種以上の低級アルコール(好適には炭素数1~4)を好ましく挙げられる。これらの非水系溶媒を用いれば、製造時にゲル化剤をゲル化させることなく培地成分を塗着させることができるので、容易かつ効率良く培地成分入り培養器材を製造することができる。
【0064】
<2.本発明の実施形態に係る培養器材の例>
本発明の微生物用培養器材に関する実施形態の例を以下に説明するが、これらに限定されない。また、適宜、培地成分入り微生物用培養器材に適用してもよい。
以下、本発明の第一実施形態及び第二実施形態の培養器材の説明において、<1.本発明に係る微生物用培養器材>の構成と重複する、第1部材、第2部材、溝部、ヒンジ部、スタッキング用凸部、培地成分などの各構成などの説明については適宜省略するが、当該<1.>の説明が、本実施形態にも当てはまり、当該説明を適宜採用することができる。また、第一実施形態及び第二実施形態の構成を適宜、組み合わせてもよい。
【0065】
<本第一実施形態>
本発明の第一実施形態の培養器材として、ヒンジ部の断面形状が四角形状を有する培養器材の1例を、
図6に表すが、これに限定されない。
本第一実施形態は、ヒンジ部の断面形状が四角形状を有する培養器材であり、培地成分を収容可能な凹部を有する第1部材と、当該凹部に嵌入し得る凸部を有する第2部材と、を有し、前記嵌入がなされた状態で当該凸部の天面が前記凹部の底面に接触状態となる構成を備えることが好適である。当該ヒンジ部は、第1部材と第2部材に連設されてもよく、凹部の中心を通過する線I-I’上に配置されてもよい。
【0066】
さらに、本第一実施形態の凹部又は凸部の少なくとも一方の外周領域に溝部を単数又は複数備えることがより好適である。当該溝部は、前記凹部又は前記凸部を全周することが好適であり、溝部の数は1つが好適である。当該溝部の断面形状(線I-I’)は、底面が曲面(例えばU字状等)であることが好適である。
Z軸方向(
図6の平面方向又は底面方向)からみたときの第1部材及び第2部材の形状は、三角形状、長方形状が好適であり、長方形状がより好適である。第2部材の凸部は、天面の反対側の外部からみたときに中空の円柱状であってもよい。第1部材と第2部材との外周領域は、接触状態となる構成であることが好適であり、天面側及び底面側にある外周領域の面は平面であることがより好適である。
前記第1部材又は前記第2部材のいずれかの外周領域に、スタッキング用凸部を、単数又は複数、適宜形成してもよい。複数のスタッキング用凸部は、等間隔で配置することが好適であり、溝部の周端領域に配置することがより好適である。
【0067】
<本第二実施形態>
また、本発明の第二実施形態の培養器材において、第1部材及び第2部材は、それぞれ、複数の凸部及び凹部を有していてもよい。すなわち、嵌入時に凹部及び凸部の接触状態が複数形成される態様であってもよく、一度に複数の検体を並行して処理するのに適する。このとき、第2部材の凹部の外周領域に、溝部を一部又は全部に備えることがより好適である。
また、上記<1.>で説明した、嵌入がなされた状態の第1部材及び第2部材を1画分として、当該画分を複数有する、培養器材であってもよい。
本発明の第二実施形態として、培地成分を有用可能な凹部を複数有する第1部材と、前記凹部に嵌入し得る凸部を複数有する第2部材と、を、有し、
前記嵌入がなされた状態で前記凹部の天面が前記凹部の底面に接触状態となる構成を、複数備える微生物用培養器材を提供することができる。
より好ましい態様として、前記第1部材の凹部ごとに1対1で対応し嵌入可能なように前記凸部を、前記第2部材に複数有することが好適である。
より好ましい態様として、前記複数の凹部ごとの外周領域に溝部を単数又は複数備える、及び/又は、前記複数の凸部ごとの外周領域に溝部を単数又は複数備える。
【0068】
<3.本発明に係る培地成分入り微生物用培養器材>
本発明の別の側面として、上記培養器材の前記凹部に培地成分が収容された状態で前記凸部が嵌入された構成を備える、培地成分入り微生物用培養器材を提供することができる。
本実施形態の説明において、上述した<1.本発明に係る微生物用培養器材><2.本発明の実施形態に係る培養器材の例>と重複する、第1部材、第2部材、培地成分などの各構成などの説明については適宜省略するが、当該<1.><2.>の説明が、本実施形態にも当てはまり、当該説明を適宜採用することができる。
【0069】
<4.本発明に係る微生物数の計測方法>
本発明の別の側面として、上記説明した本発明の培養器材及び培地成分入り培養器材は、検体中の微生物を培養し、該微生物数を計測する方法に好適に用いることができる。
本発明は、培地成分を収容可能な凹部を有する第1部材と、前記凹部に嵌入し得る凸部を有する第2部材と、を有し、前記嵌入がなされた状態で前記凸部の天面が前記凹部の底面に接触状態となる構成を備える、培地成分入り微生物用培養器材を用いて、検体中の微生物を培養し、微生物数を計測する方法を提供することができる。
本実施形態の説明において、上述した<1.本発明に係る微生物用培養器材><2.本発明の実施形態に係る培養器材の例><3.本発明に係る培地成分入り微生物用培養器材>と重複する、第1部材、第2部材、培地成分などの各構成などの説明については適宜省略するが、当該<1.><2.><3.>の説明が、本実施形態にも当てはまり、当該説明を適宜採用することができる。
【0070】
該計測方法は、具体的には、培養器材の凹部に検体液を添加する工程、
添加後に、前記第1部材の凹部に前記第2部材の凸部を嵌入する工程、
嵌入後に、前記検体に含まれる微生物を培養する工程、及び
培養後に、前記微生物のコロニー数を計測する工程、を含むことが好ましい。
前記嵌入工程において、第2部材を第1部材に被せることで、第1部材の凹部に第2部材の凸部が嵌入し、嵌入することで、第1部材の凹部に添加された検体液を培地成分全体に均一に押し広げることができる。また、均一に押し広げられた検体液の水分が、培地成分中のゲル化剤により吸収され、速やかにゲル化することで、検体を含み固化した状態の培養使用時の培地が容易に形成される。
【0071】
微生物の培養条件は、特に限定されないが、対象微生物の種類により適正に選ばれるが、例えば、細菌を培養する場合等では、35±2℃で24~48時間が好ましい。
培養後の培地中には、対象微生物の生育コロニーが出現するので、これを計測する。微生物のコロニー数の計測は、培養器材を分解することなく外部から目視によって確認したり、カメラ等で撮像したものを画像解析ソフトで解析したりすることによって、計測することができる。本発明の計測方法によれば、正確にコロニー数を計測することができる。
【0072】
本発明の計測方法を適用しうる検体としては、特に限定されないが、飲料水、清涼飲料水、工業用水、製薬用水、透析水、尿等の液体検体等が好ましく挙げられる。また、固形の検体を希釈液等により乳剤としたものも含まれる。さらに、これらの検体を予めトリプトソイブイヨン等で培養した培養液であってもよい。
また、本発明の計測方法は上記検体をリン酸食塩緩衝液等の希釈液で希釈した検体にも、本発明の計測方法に好ましく供することができる。
【実施例0073】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0074】
(1)培養器材の作製
<実施例1>
実施例1の培養器材として、
図6に示す培養器材に、スタッキング用凸部を凹部の外周端部に等間隔に3箇所設けたポリスチレンシート製を作製した(
図10及び
図11参照)。具体的には、実施例1のポリスチレンシート製培養器材として、透明な0.2mm厚ポリスチレン製の長方形状のシートを成形し、直径56.43mm(
図1のD(mm)参照)、高さ2.00mmの中空円柱状の凹部(底面積25cm
2)を有する下部材と、この凹部と完全に勘合する同体積の円柱状の凸部(高さ2.00mm)を中央に有する上部材とをそれぞれ設計し作製した。下部材及び上部材は略同じ面積の長方形状に設計されている。実施例1の培養器材は、凸部が凹部に嵌入し、嵌入がなされた状態で凸部の天面が凹部の底面に接触状態となる構成に設計され、凸部の嵌入部分の高さのmmが凹部の嵌入部分の深さのmmと同じmmに設計されており、嵌入がなされた状態で天面と底面との距離0.001mm以下になるような構成に設計されている。
【0075】
実施例1の培養器材は、上部材と下部材はヒンジ部で連設され、嵌入した状態で末端部分のヒンジ部は線I-I’による断面が四角形状になるように構成されている。このヒンジ部の反対側は、培養器材の開閉用の取手部とすることができる。短手方向の部材長さの半分の位置上に凹部の中心を配置し、この中心はヒンジ部側方向にやや近いように配置され、ヒンジ部末端及び取手部末端の距離の10分の3~5に配置されている。
実施例1の培養器材は、下部材に、凹部の外周領域を完全に囲うような隔離用の溝部を設けており、溝部は、凹部の外周(0mm)から1mm以上3mm以下の範囲に配置され、溝部の深さは1~3mm、溝部の幅は2~3mmで設計されている。溝部の底面の形状は曲面であり、断面形状はU字状となっている。
【0076】
<比較例1>
一方、比較例1のポリスチレンシート製培養器材は、特許文献5(特開2019-180369号公報)の態様を再現したものであり、上部材の凸部と下部材の凹部が嵌入した状態において培地領域という空間が形成されるように、かつ下部材に溝部を設けていない。
【0077】
上述のように、実施例1のポリスチレンシート製培養器材及び比較例1のポリスチレンシート製培養器材の2種を用意した。
100mL調製用量(3g)のトリプトソイブイヨン培地粉末(ベクトン・ディッキンソン製)、0.0025gのTTC、それぞれ1.5gのキサンタンガム及びグアーガム、及び0.1gのヒドロキシプロピルセルロースを、100mLのエタノールに懸濁し、混合溶液を得た。該混合溶液1000μLを、上記作製した2種のポリスチレンシート製培養器材の下部材の凹部の底面に添加し、底面上に均一に広げた後、これをヒートブロック上に置き70℃で5分間乾燥させ、実施例及び比較例の培地成分入り培養器材をそれぞれ作製した。
【0078】
(2)菌株の供試
供試菌株はBacillus subtilis ATCC 6633及びEscherichia coli ATCC 8739を使用し、トリプトソイ寒天培地で24時間前培養した後、マクファーランド比濁#1相当(約3.0×108CFU/mL)になるように滅菌綿棒を用いて滅菌生理食塩水に懸濁し、菌原液とした。各菌原液を用いて、滅菌生理食塩水にて10倍段階希釈を10-8まで繰り返し、数10CFU/mLの菌希釈液を調製した。この菌希釈液1mLを上記「(1)培養器材の作製」で作製した実施例及び比較例の培養器材の下部材の凹部にそれぞれ接種し、すぐに上部材の凸部を嵌入して、菌希釈液を凹部に均一に広げ、培地成分に菌希釈液を浸透させて、培地を形成させた。検体を含んだ培地入り培養器材(実施例、比較例)を、35℃で24時間、インキュベータ内にて培養した後、実施例及び比較例の培養器材における菌株の発育の状況(有無、コロニー数)を確認した。
なお、使用したATCC菌株は、ATCC(American Type Culture Collection)に保存され、ここから入手可能である。
【0079】
図10にBacillus subtilis ATCC 6633菌株を用いた場合の発育コロニー状況を、
図11にEscherichia coli ATCC 8739菌株を用いた場合の発育コロニー状況を示す。このとき、
図10及び11は、実施例1のポリスチレンシート製培養器材を用いている。
【0080】
実施例として作製した本発明の培養器材では、試料液を下部材の凹部に接種し、上部材の凸部が完全に嵌入するように被せると、直ちに検体が凹部の底面全体に均一に広がり、速やかに水分が吸収され、透明な培地が形成された。このとき、凹部と凸部が完全に勘合されると1mL分の検体体積がないため、接種した試料液は外部に溢れ出ることが予想されるが、本発明の培養器材では、驚くべきことに若干凸部が持ち上がる程度で膨潤したゲルが速やかに固化し、一切の試料液の水分が溢れ出ることを認めず、均一で透明な培地が構成されることを認めた。また、ゲル化させた培地の培養後の様子は
図10及び11に示すように、明瞭な発色コロニーを形成することを認め、コロニーが離水等により拡散することを認めなかった。
本発明の培養器材に備えた溝の役割についてより詳細に観察した。検体液を添加したとき、本発明の培養器材に収容された培地成分中のゲル化剤が水にて膨潤し固化するには若干の時間差があるため、培地成分に添加した検体液の水分が凹部から若干染み出すこともあった。しかし、本発明の培養器材の溝により毛細管現象が遮断されるため、凹部から染み出した少量の水は、溝に落ち込むことなく、凹部の外周縁部と溝の内周縁部との間で止まり、その後培地成分中のゲル化剤がこの間にある水分を吸収することにより、凹部内に吸い寄せられた。このように、培地成分に添加された検体液の水分は溝に落ち込むことなく、培養使用時の培地は正確な培地濃度となると共に、培養後に観察するときの微生物コロニーは全て凹部内に形成された。
【0081】
一方、比較例として作製した、凹部を完全に囲うような隔離用の溝を設けない培養器材では、凹部と凸部が完全に勘合されると凹部に空気層が発生し、さらに上下部材が接触する際の毛細管現象により、凹部の周囲へ水分が漏れ出してしまうことを認めた。しかも、本現象は上下部材の凹凸部を相当慎重に勘合させてもゲル化よりも早い段階で周囲へ漏れ出してしまうことを認めた。これにより、塗布された培地が均一に再構成されず、きれいな培養例を作ることが困難であった。また、菌液が外部へ流出し漏れることは好ましくはない。
比較例の培養器材ではさらに培養時に培地ゲル上に存在する菌が空気層のゲル表面上で広がり、周囲のコロニーと重なり、計測が困難になる例が多数見られた。
【0082】
すなわち、本発明の培養器材を用いると、1mL検体の適用時に凹凸部により形成される空間体積や器材の接触角に関係なく、さらにスプレッダー等の器具や不織布等による毛細管現象によらずとも、上部材と下部材を完全に勘合させるだけで、凹部に空気層を発生させずに均一に凹部全体に液体試料を広げることができた。また、培地成分中のゲル化剤のゲルは速やかに固化し、試料液が溢れることなく試料液を含む使用時の培地を簡便に構築することができた。このように、簡便な操作で培養することができた。培養後は
図10及び
図11に示すように凹部のみに形成された透明なゲルの中に明瞭な赤色のコロニーが目視により確認でき、容易にそのコロニー数を計測することができた。また、本発明の培養器材は複雑な構成ではないため、容易かつ効率的に作製することができた。
【0083】
そして、本発明者らは、20~30cm2の円状の底面積の凹部を有する皿状部材と、その凹部と同体積で凹部と完全に勘合する凸部を有する蓋部材を有し、凹部又は凸部のいずれか片方を完全に囲うような隔離用の溝を有する培養器材を設け、この培養器材の凹部あるいは凸部の少なくとも片側に、培地成分を塗布することで、1mL検体液の適用時にフタを閉めるという簡単な操作のみで、凹凸部により形成される空間体積や器材の接触角に関係なく、また器具や毛細管現象等を利用せずとも、液体検体が外部に漏れ出すことなく均一に拡散し一定面積の培地形成が可能となり、より簡便な微生物の培養及び計測を実現できることに至った。そして、培地を形成するゲル化剤として、グアーガム、キサンタンガム又はそれらの混合物が、操作の簡便性や外部からの視認性の高さの観点から好適であることを見出した。
【0084】
さらに、本発明の培養器材は、真空成形法や射出成形法などの一般的な樹脂成形法により成形することができる。当該成形された器材構造自体が、従来技術の培養器材及びこれを用いた微生物計測方法に存在していた欠点をも改善できる。このため、本発明は、別の側面として、極めて簡単で安価な微生物用培養器材の製造方法を提供できる発明でもある。
【0085】
よって、本発明は、新規な微生物用培養器材、培地成分入り微生物培養用器材、及びこれを用いた微生物数計測法を提供することができる。また、本発明は、複雑な構成ではないため、製造も簡単にできる微生物用培養器材を提供することができる。
このように、本発明の微生物用培養器材は、操作性が高く、安全に使用でき、かつ簡単に製造することができ、さらに、検体中の微生物数を容易に計測することができる。
本発明によれば、検体中の微生物を、簡便な操作で培養し、その数を容易に計測することができる。また、本発明の培養器材は、複雑な構成ではないため、製造も簡単であるため、産業上有用である。
1:微生物用培養器材、10:第1部材、11:凹部、12:底面、20:第2部材、21:凸部、22天面30:溝部、40:培地成分、50:ヒンジ部、60:スタッキング用凸部、100:培地成分入り微生物用培養器材