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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022035591
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】液晶光学デバイス
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/13 20060101AFI20220225BHJP
   G02F 1/1343 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G02F1/1343
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020140027
(22)【出願日】2020-08-21
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】391035038
【氏名又は名称】佐藤 進
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 進
【テーマコード(参考)】
2H088
2H092
【Fターム(参考)】
2H088EA42
2H088HA02
2H088HA03
2H088HA04
2H088HA06
2H088HA24
2H088JA04
2H088KA02
2H088LA07
2H088MA20
2H092GA13
2H092GA18
2H092GA20
2H092NA11
2H092PA06
2H092QA06
2H092RA03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低電圧で且つ周波数依存性が無く長時間安定に駆動することができ、滑らかで連続的な光学位相差特性を有し良好な光学特性を持つ液晶光学デバイスを実現する。
【解決手段】透明な電極を有する第1の基板11、透明な電極を有する第2の基板12の間に収容された液晶分子を配向させた液晶層31を備え、少なくとも第2の基板12の面における透明な電極は、それぞれが階段状となる電圧に保持された中心電極220と複数の同心円状の電極群221~229から形成され、中心電極220と複数の同心円状の電極群221~229と液晶層31の間に透明な絶縁層41を配置し、透明な絶縁層41の厚み及び液晶層31の厚みの和が同心円状の電極221~229の幅の平均値及びその電極に隣接する他の電極との間隔の平均値の和よりも大きくする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な電極を有する第1の基板、透明な電極を有する第2の基板の間に収容された液晶分子を配向させた液晶層を備え、少なくとも前記第2の基板の面における透明な電極は、それぞれが階段状となる電圧に保持された中心電極と複数の同心円状の電極群から形成され、
前記中心電極と複数の同心円状の電極群と前記液晶層の間に透明な絶縁層を配置し、前記中心電極と同心円状の電極群と前記第1の基板の前記透明な電極とが対向している各々の領域で前記液晶層の実効的な屈折率の分布を調整することで動作する液晶光学デバイスであって、
透明な絶縁層の厚み及び液晶層の厚みの和が同心円状の電極の幅の平均値及びその電極に隣接する他の電極との間隔の平均値の和よりも大きいことを特徴とする液晶光学デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の液晶光学デバイスにおいて、中心の電極及び最外側の電極各々と第1の基板の電極との間に独立した電圧を加え、前記中心の電極から隣接する電極を介して最外部の電極間が透明な抵抗膜で接続されており、前記透明な抵抗膜の抵抗値が中心から外側になるにしたがって内側に隣接する電極との間の抵抗値が等しいか、より大きな抵抗値であることを特徴とする液晶光学デバイス。
【請求項3】
請求項2に記載の液晶光学デバイスにおいて、透明な抵抗膜の抵抗値が中心からの距離を変数とする概略4次以上の関数に依存する値またはその階段近似の値であることを特徴とする液晶光学デバイス。
【請求項4】
請求項1から請求項3までに記載のいずれかの液晶光学デバイスにおいて、最外側の同心円状の電極の外部に複数の同心円状の透明な電極群を一組として少なくとも一組以上の複数の電極群を配置し、隣接する各組における光学位相差の分布特性が概略前記液晶光学デバイスの光学位相差分布特性を外挿した特性となるような電圧を加えて動作することを特徴とする液晶光学デバイス
【請求項5】
請求項1から請求項3までに記載のいずれかの液晶光学デバイスにおいて、中心の電極及び最外側の同心円状の電極またはそのいずれかの電極が前記電極群と液晶層の間に配置された透明な絶縁層の中または透明な絶縁層の液晶層側に配置されており、
前記透明な絶縁層の中または透明な絶縁層の液晶層側に配置されている電極及び前記電極以外の電極で前記透明な絶縁層の中または透明な絶縁層の液晶層側に配置されている電極に隣接する同心円状の電極と第1の基板の電極との間にさらに電圧を加えて動作することを特徴とする液晶光学デバイス。
【請求項6】
請求項5に記載の液晶光学デバイスにおいて、最外側の同心円状の電極の外部に複数の同心円状の透明な電極群を一組として少なくとも一組以上の電極群を配置し、
前記最外側の同心円状の電極とその外部に配置した前記一組の電極群の最内側の同心円状の電極の対、及び前記最外側の同心円状の電極の外部に配置した各同心円状の電極群の最外側の電極とその外側に配置した電極群の最内側の電極の対、さらに隣接する各電極群の隣り合う最外部及び最内側の電極対及び全体の最外部の電極が前記透明な絶縁層の中または透明な絶縁層の液晶層側に配置されており、
前記透明な絶縁層の中または透明な絶縁層の液晶層側に配置されている電極及び、前記電極以外の電極で前記電極に隣接する同心円状の電極各々と第1の基板の電極との間に電圧を加えて動作することを特徴とする液晶光学デバイスであって、
隣接する各電極群の組における光学位相差の分布特性が概略中心の液晶光学デバイスの光学位相差分布特性を外挿した特性となるような電圧を加えて動作することを特徴とする液晶光学デバイス。
【請求項7】
透明な電極を有する第1の基板、透明な電極を有する第2の基板の間に収容された液晶分子を配向させた液晶層を備え、少なくとも前記第2の基板の面における透明な電極は、それぞれが階段状となる電圧に保持された複数の一方向に延伸した帯状の電極群から形成され、
前記透明な電極群と前記液晶層の間に透明な絶縁層を配置し、前記透明な電極群と前記第1の基板の前記透明な電極とが対向している各々の領域で前記液晶層の実効的な屈折率の分布を調整することで動作する液晶光学デバイスであって、
透明な絶縁層の厚み及び液晶層の厚みの和が透明な帯状電極群の電極の幅の平均値及びその電極に隣接する透明な帯状電極との間隔の平均値の和よりも大きいことを特徴とする液晶光学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高抵抗膜を使用しない構造で、滑らかな屈折率分布特性を有し低電圧により光学特性を可変調整できる薄型の液晶光学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶は誘電異方性及び光学異方性を示し、比較的低い電圧印加により実効的な屈折率を概異常光に対する値から常光に対する値まで連続的に可変調整できるという特徴を持っており、例えば、第1の透明電極及び第2の透明電極の間に液晶層を設け、電極間の電圧によって液晶層の実効的な屈折率分布を制御することで動作する電圧可変型の液晶レンズ等の光学デバイスが報告されている。
【0003】
液晶を使用した可変焦点レンズとして、平板状の第1の電極と円形の開口部を有するパターン電極と前記円形の開口部内に設けられた円形状の中心電極によって構成された第2の透明電極との間に液晶層を挿入し、第2の透明電極と液晶層との間に透明絶縁層を挿入して第2の透明電極を液晶層からある一定の距離を置くように配置することで、電極の開口部分の直径をある程度大きくしても、軸対称の不均一電界が開口部の中心付近すなわち円形状の中心電極の中心付近まで広がるようになって入射光に対する液晶の実効的な屈折率を可変することで良好なレンズ効果を発揮する方法が特許文献1に提案されており、直径が数mm程度の液晶レンズが報告されている。
【0004】
しかし、前記特許文献1で報告されている液晶レンズでは、良好な光学特性を得るためにレンズの口径すなわち円形の開口部の径と透明絶縁層の厚みとの間に特別な関係があり、透明絶縁層を薄くすることができないため口径が2mmのレンズとした場合に駆動電圧が100V以上と高くなり、さらに口径が大きくなると数100V以上の高電圧を必要とするという難点があった。
【0005】
前記特許文献1で開示されている液晶レンズにおける難点を解消するものとして、円形の開口部を有するパターン電極と開口部内に設けられた円形状の中心電極によって構成された前記第2の透明電極と液晶層の間に透明な絶縁層と透明な高抵抗層からなる二重層を設けることで、透明絶縁層の厚みを薄くしても軸対称の不均一電界が高抵抗膜面の電位分布によって円形状の中心電極の中心部まで生じるようにすることが可能となり、透明絶縁層を薄くできることから低電圧で駆動できる液晶レンズとして特許文献2に報告されている。
【0006】
一方、円形状の中心電極と、中心電極の周囲に設けられた同心円状に間隔を空けて配置された複数の輪帯(円帯と称しても良い)状(以下は 輪帯状と称する)の電極パターンとによって上記の第2の透明電極(同心円状のパターン電極群)を構成し、平板状の第1の電極との間に液晶層を挿入し、前記複数の輪帯状電極に電圧を加えて中心電極から半径方向に電圧分布を形成することで、液晶層においても半径方向に屈折率分布を生じさせることができ、低電圧で動作する液晶光学デバイスが特許文献3及び特許文献4に開示されている。
【0007】
しかし、これらの複数の輪帯状のパターン電極を用いる液晶光学デバイスでは、液晶層に加わる電圧が階段状もしくは傾斜を含む階段状となるなど、連続的で滑らかな電位分布にならないため、屈折率分布が同様に階段状もしくは傾斜を含む階段状のように不連続な特性となることから、良好な光学特性を有する液晶光学デバイスを構成することが困難であり、理想的なレンズ特性とならないという問題点があった。このような問題を解決すべく、第2の透明電極と液晶層との間に絶縁層及びインピーダンス層または高抵抗層からなる二重層を配置することで、液晶層の屈折率分布を連続的で滑らかなものとし、良好な光学的特性を有し低電圧で動作できる液晶光学デバイスが特許文献5及び特許文献6に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004-4616号公報
【特許文献2】特開2008-203360号公報
【特許文献3】特開平05―53089号公報
【特許文献4】特開2004-334028号公報
【特許文献5】特開2012-137682号公報
【特許文献6】特開2018-36483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記特許文献2及び前記特許文献5及び特許文献6で開示されている液晶光学デバイス(液晶レンズ)では、透明なインピーダンス層または透明な高抵抗層を使用しているため良好な光学特性を得るために駆動電圧の周波数依存性が大きいことが難点であり、さらにインピーダンス層または高抵抗層としてデバイスの寸法にもよるが100MΩ程度の高い抵抗値が必要であることから再現性や長期間安定な抵抗値を保つことが困難であるという問題点があった。
【0010】
そこでこの発明の目的は、上記問題を解決するために高抵抗層を使用しない構造で、低電圧で動作し、連続的で滑らかな屈折率分布及び良好な光学的特性を有し、また駆動電圧の周波数に依存しない液晶光学デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願は、上記課題を解決するために、透明な電極を有する第1の基板、透明な電極を有する第2の基板の間に収容された液晶分子を配向させた液晶層を備え、少なくとも前記第2の基板の面における透明な電極は、それぞれが階段状となる電圧に保持された中心電極と複数の同心円状の電極群から形成され、
前記中心電極と複数の同心円状の電極群と前記液晶層の間に透明な絶縁層を配置し、前記中心電極と同心円状の電極群と前記第1の基板の前記透明な電極とが対向している各々の領域で前記液晶層の実効的な屈折率の分布を調整することで動作する液晶光学デバイスであって、
透明な絶縁層の厚み及び液晶層の厚みの和が同心円状の電極の幅の平均値及びその電極に隣接する他の電極との間隔の平均値の和よりも大きいことが好ましい。
【0012】
前記液晶光学デバイスにおいて、中心の電極及び最外側の電極各々と第1の基板の電極との間に独立した電圧を加え、前記中心の電極から隣接する電極を介して最外部の電極間が透明な抵抗膜で接続されており、前記透明な抵抗膜の抵抗値が中心から外側になるにしたがって内側に隣接する電極との間の抵抗値が等しいか、より大きな抵抗値を有してもよく、また前記液晶光学デバイスにおいて、透明な抵抗膜の抵抗値が中心からの距離を変数とする概略4次以上の関数に依存する値またはその階段近似の値を有することが好ましい。
【0013】
また、前記液晶光学デバイスにおいて、中心の電極及び最外側の同心円状の電極またはそのいずれかの電極が透明な絶縁層の中または透明な絶縁層の液晶層側に配置されており、前記透明な絶縁層の中または透明な絶縁層の液晶層側に配置されている電極及び前記電極に隣接する同心円状の電極各々と第1の基板の電極との間に電圧を加えて動作することができる。
【0014】
また、複数の同心円状の電極群を一組として最外側の同心円状の電極の外部に少なくとも一組以上の複数の同心円状の電極群を配置し、隣接する各組における光学位相差の分布特性が概略前記液晶光学デバイスの光学位相差分布特性を外挿した特性となるような電圧を加えて動作させることもできる。さらに、同心円状の電極群の代わりに一方向に延伸した帯状の電極群を使用することで、入射光の方向を偏向する機能を有する液晶光学デバイスとして動作させることもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、円形状の中心電極層と複数の同心円状の透明な電極群と前記液晶層の間に透明な絶縁層を配置し、透明な絶縁層の厚み及び液晶層の厚みの和が同心円状の透明な電極の幅の平均値及びその電極に隣接する他の電極との間隔の平均値の和よりも大きくすることで、再現性に難があり経年変化等が大きい透明なインピーダンス層または透明な高抵抗層を使用することなく、前記複数の同心円状の透明な電極群による不連続な電位分布に基づく不連続な、または階段状の屈折率分布特性を滑らかで連続的な分布とすることができ、周波数依存性が無く簡単な構造であって前後移動等の機械的な可動部を持たず、電気的制御により光学特性を大幅に効率よく可変することができる液晶光学デバイスを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1(A)は、本発明に係る液晶光学デバイスの一実施の形態を示す構成説明図であり、図1(B)は図1(A)の第2の基板及び電極群220~229の平面図である。
図2図2は、液晶光学デバイスに印加する電圧の直径方向での位置による変化の一例を示す。図中に6次関数での近似曲線を示し、また6次関数の近似式も示している。
図3図3は、電極群220~229に対してそれぞれ図2に示した電圧値となるような電圧を与えた場合に、透明絶縁層がない液晶光学デバイスにおける液晶層に生じる光学位相差分布の断面図である。
図4図4は、20μm厚の透明絶縁層を付与した液晶光学デバイスのそれぞれの電極群220~229に対して図2に示した電圧分布の絶対値を透明絶縁層の分だけ少し高くした電圧を印加した場合の液晶層に生じる光学位相差分布特性の断面図である。
図5図5は、透明絶縁層の厚みを50μmと厚くした場合の液晶層に生じる光学位相差分布特性の断面図である。
図6図6は、透明絶縁層の厚みをさらに120μmと厚くした場合の液晶層に生じる光学位相差分布特性の断面図である。
図7図7は、実施例3に係るフレネル構造の液晶光学デバイスにおける(A)液晶層に生じる光学位相差分布特性の断面図、及び(B)光学位相差分布特性を外挿した光学位相差分布特性の断面図である。
図8図8は、図1に示した電極構造において、中心の電極及び最外側の電極を透明な絶縁層の液晶層側に配置し、前記液晶層側に配置されている電極及び前記液晶層側に配置されている電極に隣接する同心円状の電極と第1の基板の電極との間に電圧を加えて動作する液晶光学デバイスの一実施の形態を示す構成説明図である。
図9図9は、実施例5に係るフレネル構造の液晶光学デバイスにおける(A)液晶層に生じる光学位相差分布特性の断面図、及び(B)光学位相差分布特性を外挿した光学位相差分布特性の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、従来の技術における種々の課題について解決することを目的として案出されたものである。すなわち、特許文献1の技術では、駆動電圧を低下することが課題であり、特許文献2では、駆動電圧の周波数依存性を緩和することが課題である。また特許文献3,4では、階段状の光学位相差分布を連続で滑らかな特性にすることが課題である。
【0018】
同心円状の透明な輪帯状電極群と液晶層の間に透明な絶縁層及びいずれの電極とも非接続である透明なインピーダンス層または高抵抗層による二重層を配置することで上記の課題を解決した特許文献5,特許文献6の技術では、前記透明なインピーダンス層、または高抵抗層のインピーダンスまたは抵抗値を高い値に設定することが必要とされるためデバイスの製造時における再現性や長期間の安定性が課題とされ、さらに駆動電源の周波数特性があることも課題である。
【0019】
上記の課題を踏まえて、本発明では再現性や長期間の安定性に難がある透明なインピーダンス層や高抵抗層を使用することなく、低電圧で動作し、連続的で滑らかな屈折率分布及び良好な光学的特性を有し、また駆動電圧の周波数依存性が無い液晶光学デバイスを開示する。
【0020】
次に、この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。図1において、その基本構成を述べる。
【実施例0021】
図1(A)は、この発明の一実施の形態として、液晶レンズとして動作する液晶光学デバイスの基本構成を断面から見た構成を示している。透明な電極21は第1の基板11の上に形成され、第2の基板12を所定の厚みを保つための図示されていないスペーサを介して重ね合わせることで液晶セルを構成する。第1の基板11と前記第2の基板12の間には、電極21と対向するように収容された、液晶分子を配向させた液晶層31を備える。
【0022】
前記第1の基板11の上に形成された電極21の前記液晶層31に接する面には液晶分子を配向させる効果を有する図示されていない配向膜が配置されている。
【0023】
また、第2の基板12の液晶層に面する側には電極群220~229が形成されており、さらに透明な絶縁層41、及び図示されていない配向膜がそれぞれ積層されている。
【0024】
前記透明な電極21及び透明な絶縁層41の液晶層に接する面に形成された配向膜にはアンチパラレルと呼ばれる互いに逆の方向にラビング処理を行うことで、液晶分子の長軸方向に対応するダイレクタが基板面から1度程度傾いたプレティルト角と呼ばれる角度をなして配向するような状態となっている。
【0025】
図1(B)は、図1(A)の液晶レンズを平面的に見た図であり、前記第1の基板に形成されている電極21と前記第2の基板12に形成されている電極群の中で中心の円形電極220との間に第1の電源81から第1の電圧V1を加える。また、前記電極21と第2の電極群の中で同心円状の最外部の電極229との間には第2の電源82から第2の電圧V2を印加することができるように配置されている。
【0026】
中心の円形電極220と同心円状の電極群221、~229各々の間には前記第1の電圧による電位と第2の電圧による電位の差により流れる電流により生じる電圧降下を利用して各々の電極が所定の電位となるように、それぞれ図示されていない所定の抵抗値を有する抵抗が接続されている。なお、中心の円形電極220に電圧を加えるためには、他の電極群と絶縁された引き出し線を使用する方法や、第2の基板12に微細な穴をあけて基板外に引き出し線を通して電圧を印加する方法などを適用することができる。
【0027】
なお、中心の円形電極220と同心円状の電極群221、~229と前記第1の基板に形成されている電極21との間にそれぞれ他の電極群と絶縁された引き出し線を使用して外部から所定の電圧を加えることで、電極群220、221、~229各々の間に抵抗を設けることなく液晶光学デバイスを動作させることもできる。
【0028】
液晶層31には半径方向に変化する前記電位の分布による電界が加わり、液晶分子は各々の電界強度に依存して配向する。
【0029】
電圧が加えられていない初期状態として、液晶分子の長軸方向に対応するダイレクタが電極面上の配向膜面に対してプレティルト角である1度程度傾いてラビングの方向に配向しているホモジニアス配向になっている場合を考える。V1及びV2が0の場合は、ダイレクタの方向に偏光している入射光に対して液晶層における実効的な屈折率は基板面内方向で一様になっている。
【0030】
次に、液晶のしきい値以上の電圧が加わるようにV1及びV2を適宜調整すると、電圧が高い電極下では液晶のダイレクタが電極基板面から垂直方向にある角度をなして立ち上がり、電圧が低い電極下ではダイレクタが電極基板面から立ち上がる角度が小さくなる。電極基板面に対してダイレクタが傾く角度が大きくなると液晶の実効的な屈折率が小さくなり、逆に傾く角度が小さくなると共に液晶の実効的な屈折率が大きくなるので、電圧の高低に依存してダイレクタが電極基板面になす角度が異なり、その結果として液晶層内において実効的な屈折率が分布しているという状態が得られる。
【0031】
同心円状のパターン電極群の中心の円形状の電極220の電圧が最も低く、半径方向で最外部の電極229に向かって電圧が次第に高くなるような分布を有する電圧を印加すると、実効的な屈折率が中心から周辺部に向かって次第に小さくなるような屈折率分布特性となり、液晶層は液晶のダイレクタの方向に偏光した入射光に対して収束する凸レンズ機能が得られる。
【0032】
逆に、最外部の電極220の電圧が最も低く半径方向で中心の円形状の電極220に向かって電圧が次第に高くなるような電圧分布となるような電圧を印加すると、実効的な屈折率が中心から周辺部に向かって次第に大きくなるような屈折率分布特性となり、液晶層は液晶のダイレクタの方向に偏光した入射光に対して発散する凹レンズ機能が得られる。
【0033】
なお、同心円状の電極群の構造により、半径方向での実効的な屈折率分布が2次関数を軸の周りで回転した放物面状となるように調整すると、収差が小さいレンズ特性を得ることができる。これらの液晶レンズの動作原理の詳細については特許文献1,特許文献2,特許文献3及び特許文献4において説明されている。
【0034】
さらに、図1に示した構成おいて透明な絶縁層41と液晶層31との間に透明なインピーダンス層または高抵抗層を設けた場合の液晶分子の配向効果や電界の平滑効果及び光学位相差の平滑効果などの動作原理の詳細は特許文献5,6に説明されている。
【0035】
次に、具体的な実施例について説明する。図1において、第1の基板11は300μm厚の透明ガラス板であり、液晶層31に接する内面側に、インジウム・スズ系の酸化物(ITO)からなる透明な電極21が形成されている。第2の基板12は300μm厚のガラス基板であり、第2の基板12の液晶層31に接する側には複数の透明な電極群となる中心の円形状ITO電極220及びITO電極群221~229が同心円状に形成されている。これらの電極群220~229の間には、各々の電極の電圧がそれぞれ図2に示したような値となるように調整された抵抗が接続されている。また、抵抗を設ける代わりに、引き出し線を利用して各電極に図2に示したような電圧を加えてもよい。
【0036】
最外部の同心円状の電極の幅は内側の他の電極の幅よりも広くすることもでき、さらに前記電極の内側が円形状であることが必要とされるが、全体としての形状は必ずしも同心円状ではなくてもよく、外側の形状は円形ではなく基板1の形状に合わせた任意の形状とすることもできる。
【0037】
本発明における液晶レンズでは、中心の円形電極220及び同心円状の電極群を有する第2の基板12と液晶層31の間に透明絶縁層41を配置している。また、液晶層31の液晶材料としてはRDP85475(DIC社製)を使用し、液晶層を挟む電極21及び電極群220~229の面には図示しない配向膜としてポリイミド膜を100nm程度の厚みに塗布し、熱処理を行い安定化させた後にラビング処理が施されている。
【0038】
ラビングによる配向処理を行った場合には、一般にラビング方向に対して液晶分子の長軸方向が配向膜面から一方向に1度程度のプレティルト角と呼ばれる小さな角度傾いた配向状態となることが知られており、また対向する基板上の配向膜に対するラビングの方向をそれぞれアンチパラレルと呼ばれる逆向きとなるようにラビング処理を行った場合は、電圧を加えていない場合に液晶分子は基板面に一様にプレティルト角度傾いたホモジニアス配向状態となっている。
【0039】
なお、液晶層31を所定の厚みに保つために図示していないが直径が30μmの球状スペーサを接着剤に分散したものを用い、また図示していないが各基板の周辺部等は接着剤を用いて液晶が封止されている。
【0040】
透明絶縁膜41としては、高分子膜やガラスリボンなどを使用することができる。実施例1では所定の厚みになるようにフォトレジスト(SU8)を使用したが、他の有機系・無機系を問わず透明な絶縁材料や、または誘電率が大きな材料であっても使用することができる。
【0041】
直径が約2mmの円形領域内に各電極の幅を90μmとし、各電極間隔を30μmとした9個の同心円状の電極群及び中心に直径が150μmの円形電極を設け、液晶層には図2のような電圧が加わるように、中心の電極220及び外側の電極229と電極21との間にそれぞれV1として0.87V、V2として2.8Vの電圧を印加した。ここで、V1及びV2はいずれも1kHzの正弦波で同位相であり、液晶材料であるRDP85475のしきい電圧は0.864Vである。また、光源としては半導体レーザ光(波長0.589nm)を用いている。ここで、同心円状の電極の幅と電極間の間隔の和は120μmとなる。
【0042】
なお、本願における液晶光学デバイスでは電極と液晶層の間に高抵抗膜等の抵抗成分が無いので、周波数特性を持たないという特徴があるが、駆動周波数が数100kHz以上など非常に高くなると液晶における誘電特性が変化する場合があり、周波数特性が生じることがあるが、数10kHz以下の周波数で駆動する場合には周波数特性を示さない。
【0043】
図1に示した構成から透明な絶縁層41を除いた単純な構成の液晶セルを作製し、図2に示した電圧分布となる電圧を印加した場合に液晶層に生じる光学位相差分布特性について、直径方向の断面での位相差分布特性を図3に示した。図3から分るように、階段状の電圧分布及び各電極間を隔てる間隙での実効電圧の低下に対応した極大値を伴った階段状の複雑な光学位相差分布特性となっており、良好な光学特性を有する液晶光学デバイスを構成することが困難であった。なお、この場合は透明絶縁層の厚みと液晶層の厚みの和は液晶層の厚みだけになり30μmとなる。
【0044】
次に、図1に示したように透明な絶縁層41を付与した構成の液晶レンズにおいて、透明絶縁層の厚みを20μmとして透明絶縁層を挿入した分だけ図2に示した電圧分布の値を少し高くしてV1を1.4V,V2を6.8Vとした場合の液晶層に生じる光学位相差分布特性は図4に示したようになり、透明絶縁層の厚みと液晶層の厚みの和は50μmと同心円状の電極の幅と電極間の間隔の和の値である120μmよりは小さいので、図4では図3に比べて凹凸の度合いはやや小さくなるが、良好な光学特性を有する液晶光学デバイスを構成することが困難であった。
【0045】
透明な絶縁層41の厚みを50μmとさらに厚くすると必要なV1とV2の値がそれぞれ2.3V,12.7Vとなり、透明絶縁層の厚みと液晶層の厚みの和が80μmと大きくなることから電位分布に対する平滑効果が次第に効果的となり、階段状の光学位相差分布の乱れが緩和されて来るが、光学位相差分布は図5に示したように階段状の乱れが残っている特性となった。
【0046】
透明な絶縁層41の厚みをさらに120μmと厚くすると必要なV1とV2の値がそれぞれ4.2V,V2が25Vとより高くなるが、透明絶縁層の厚みと液晶層の厚みの和は150μmと同心円状電極の幅と電極間の間隔の和の値である120μmより大きくなることから、液晶層に生じる光学位相差分布特性は図6に示したように階段状の光学位相差分布特性が平滑化され、滑らかで連続的な放物線状の位相差分布特性が得られており、極めて良好なレンズ特性を得ることができた。
【0047】
図1における電極群220~229の間には、各々の電極の電圧がそれぞれ図2に示したような値となるように調整された抵抗が接続されているが、中心の円形電極220から最外部の電極229に向かって隣接する各電極間に設けた透明な抵抗膜の抵抗値は、それぞれ10オーム,10オーム,15オーム,30オーム,30オーム,45オーム,60オーム,120オーム,240オームとなっており、中心から外側になるにしたがって内側に隣接する電極との間の抵抗値が等しいかより大きな抵抗値となっている。
【0048】
中心の円形電極220から最外部の電極229に向かって隣接する各電極間に設けた前記透明な抵抗膜の抵抗値は、図2に示したように、各電極群には図2に示した電極群の各々の電極に加わる電圧と同じように変化することから、透明な抵抗膜の抵抗値が中心から半径方向の距離を変数とする高次の関数に依存する値の階段近似の値となっている。ここで、高次関数の次数は4次以上であることが好ましい。
【0049】
なお、電位分布すなわち前記透明な抵抗膜の抵抗値の分布を中心から半径方向の距離を変数とする関数で表した場合の次数を4次よりさらに高次とすると、レンズとしての光学特性をより精密な分布形状とすることが可能となる。図2では1例として6次関数を用いた場合の電位分布を破線で示し、その各次数の係数も含めて関数の一例を欄外に示した。ここで電位分布曲線は中心対称であるので、関数の奇数次の係数は極めて小さな値となるため省略している。
【0050】
前記透明な抵抗膜の厚みが一定であり、各同心円状の電極間の間隔がそれぞれ等しい場合には、透明抵抗膜の抵抗値はその幅に逆比例するので、中心から半径方向に外側に向かって所定の抵抗値の逆数となるように抵抗膜の幅を調整することで図2に示したような電圧分布を得ることができる。また、抵抗膜の幅の逆数が4次関数や6次関数などの高次の関数に依存する値の階段近似の値となるようにすることもできる。
【0051】
本実施例では、第2の基板の電極群と液晶層の間に透明絶縁層により一定の距離を設けることにより、階段状の電圧の分布が平滑化されて液晶層には滑らかに分布した電圧が加わるため、光学位相差分布も平滑化されて滑らかになり、良好なレンズ特性が得られる。さらに、電極群と液晶層の間には透明絶縁層のみが存在し他のインピーダンス層や抵抗層などが無いことから、基本的に駆動電圧の周波数に依存しないので、広範な周波数域で動作させることが可能である。
【0052】
絶縁層が厚いほど電圧分布の平滑化の効果が大きくなるが、一方では絶縁膜の厚みが厚いほど駆動電圧が高くなるので、低電圧駆動を行うためには同心円状電極の幅及び隣接する電極間の間隔を狭くすること、すなわち同心円状電極の本数を増やすことによって必要な絶縁層の厚みを薄くすることが望ましい。
【実施例0053】
次に、他の実施例について説明する。たとえば図1の電極構成において、中心の円形電極220と最外部の電極229の間に位置する一つの同心円状の224にV1及びV2と独立の第3の電圧V3を加えて動作させることも可能であり、その場合にはV1及びV2電圧だけで駆動を行う場合に比べてより精密な電圧分布を形成することが可能となり、良好な光学特性を示すレンズを構成することができる。また、V1電圧とV2電圧の値を入れ替えることで凸レンズから凹レンズへの切り替えを行う場合においても、電圧分布の調整を行う際に有用である。
【0054】
さらに。中心から外側になるにしたがって内側に隣接する電極との間の抵抗値(以上の値であることを特徴とする)が等しいかより大きな抵抗値となるという条件、たとえば10オーム,10オーム,15オーム,30オーム,30オーム,45オーム,60オーム,120オーム,240オームという抵抗の分布がV3電圧を加える電極で一度リセットされ、隣接する電極との間の抵抗値が等しいかより大きな抵抗値となるような条件が再度10オームから設定できるので、同心円状の電極の本数が多くなり両端の抵抗値の比が非常に大きくなるような場合においても設定が可能な範囲で所要の抵抗値の分布を構成することが容易になるという利点がある。
【実施例0055】
さらに、他の実施例について説明する。直径が150μの中心の円形電極と電極の幅が100μmで間隔が50μmの同心円状電極を用いて直径を10.8mmとした内側の液晶光学デバイスの外部に電極幅と各電極の間隔が同じ同心円状電極からなる電極群を設け、実施例1と同じ液晶材料であるRDP85475液晶を使用し、液晶層の厚みを80μm、透明絶縁層の厚みを80&micro;mとして液晶光学デバイスを作製した。
【0056】
ここで、内側の液晶光学デバイスの外部に同心円状電極からなる電極群を設けた部分をフレネル部と呼ぶことにする。実施例3では、フレネル部を1個有するフレネル構造の液晶光学デバイスとなっている。中心の電極に印加する電圧をV1、内側の光学デバイスの最外側の電極に印加する電圧をV2、フレネル部の最内側に印加する電圧をV3、最外側の電極に印加する電圧をV4とし、作製した液晶光学デバイスに対して、以下の条件で電極に電圧を印加・保持し、光学位相差分布特性を測定し、光学位相差分布特性を図7(A)に、フレネル部の光学位相差の分布特性が概略前記液晶光学デバイスの光学位相差分布特性を外挿した特性となるように表した特性を図7(B)に示す。このフレネル構造の液晶光学デバイスは口径が15,4mmでレンズパワーが1.23ジオプトリの凸レンズの特性を示している。
(条件)
周波数=1kHz
V1=2.2V
V2=16.0V
V3=2.2V
V4=16.V
【実施例0057】
実施例1では、図1に示した電極構成による液晶レンズで透明な絶縁層41の厚みを120μmと厚くすることで図6に示したような滑らかな光学位相差分布特性が得られるが、V1が4.2V,V2が25V必要であった。実施例3では、同心円状の電極幅を80μm、電極間隔を40μmと狭くして透明な絶縁層の厚みを80μmと薄くすることでV1電圧が2.2V、V2電圧が16Vと低くなっているが、高電圧側の電圧V2をさらに低下させることが望ましい。
【0058】
前記高電圧側の電圧は透明な絶縁層41の厚みを薄くすること、すなわち同心円状電極の幅と隣接する電極間隔の和を小さくすること、具体的には同心円状電極の数を増すことにより低くすることができるが、高電圧側の電圧V2を加える最外側の電極220を液晶層側に近く配置することで高電圧側の電圧V2を低くすることが可能となる。
【0059】
図8は、図1に示した電極構造において中心の電極及び最外側の電極を透明な絶縁層の液晶層側に配置し、前記液晶層側に配置されている電極及び前記液晶層側に配置されている電極に隣接する同心円状の電極と第1の基板の電極との間に電圧を加えて動作する液晶光学デバイスの一実施の形態を示す構成説明図である。
【0060】
図8では、中心の電極及び最外側の電極が透明な絶縁層の液晶層側に配置されているが、液晶光学デバイスが凸レンズとして動作する場合は最外側の同心円状電極が最も高い電圧を印加することから液晶層側に配置することになるが、凹レンズとして動作する場合は最内側の中心の電極に最も高い電圧を印加することになるので、いずれの場合においても動作電圧を低くできるようにこれらの電極を液晶層側に配置した状態を示している。
【0061】
実施例1と同じ構造で図8のような電極構造の液晶光学デバイスを作製した。すなわち、液晶層厚が30μm、透明絶縁層厚が120μm、同心円状電極の幅が90μm、電極間隔が30μmである。中心の電極及び最外側の電極を透明絶縁層の中間、すなわち液晶層側から60μmの位置に配置すると、同心円状電極の最外側に加える最も高い電圧が25Vから12Vとなり、さらに液晶層側に配置すると2.3Vまで低下することができた。
【0062】
なお、液晶層側に配置されている電極と前記液晶層側に配置されている電極に隣接する同心円状の電極との間に間隔がある場合に、液晶層に加わる電界分布に乱れが生じることで光学位相差分布特性に悪影響を及ぼすことがあるので、前記液晶層側に配置されている電極に隣接する同心円状の電極を少し広げることでこれらの電極が互いに重なり合うようにすることが好ましい。
【実施例0063】
大口径且つ低電圧駆動が可能な液晶光学デバイスの実現を目指して、実施例3に示したフレネル構造の液晶光学デバイスにおけるフレネル部を3段構造とし、さらに実施例4に示したように中心の液晶光学デバイスにおける最外側の同心円状の電極とその外部に配置したフレネル部の電極群の最内側の同心円状の電極の対、及び前記最外側の同心円状の電極の外部に配置した各同心円状の電極群の最外側の電極とその外側に配置したフレネル部の電極群の最内側の電極の対、さらに隣接する各電極群の隣り合う最外部及び最内側の電極対及び全体の最外部の電極が前記透明な絶縁層の中で液晶層側から10&micro;mの位置に配置した液晶光学デバイスを作製した。
【0064】
ここでは他の実施例と同様にRDP85475液晶を使用し、液晶層厚が100μm、透明絶縁層厚が80μm、同心円状電極の幅が100μm、電極間隔が50μmであり、中心の液晶光学デバイスの直径が9.9mm、液晶光学デバイス全体の口径が19.6mmである。ここで、実施例4で説明したように、液晶層側に配置されている電極に隣接する同心円状の電極の幅を少し広げることでこれらの電極が互いに重なり合うように設定されている。
【0065】
図8に示した電極構造において各電極への印加電圧V1,V2.V3,V4及び各フレネル部の最内側の電極及び隣接する電極への印加電圧をV5,V6とし、各フレネル部の最外側の電極及び隣接する電極への印加電圧はV4,V3となる。作製した液晶光学デバイスに対して、以下の条件で電極に電圧を印加・保持し、光学位相差分布特性を測定した。(条件)
V1=1.02V
V2=2.00V
V3=14.00V
V4=3.40V
V5=1.02V
V6=1.40V
とした。ここで周波数はいずれも1kHzである。
【0066】
光学位相差分布特性を図9(A)に、隣接する各フレネル部における光学位相差の分布特性が概略中心の液晶光学デバイスの光学位相差分布特性を外挿した特性となるよう表示した特性を図9(B)に示す。全体のレンズパワーが約2ジオプトリの液晶光学デバイスを実現することができた。
【実施例0067】
液晶層側に配置する電極と液晶層の間の透明絶縁層を無くして電極が配向膜のみを介して液晶層に接するようにすると駆動電圧を最も低下できるが、フレネル構造の場合に各フレネル部間での電位分布が急変することから、ディスクリネーションと呼ばれる分子配向が反転する領域が出現して光学特性が劣化する場合があり、特にラビング処理を行った配向膜表面に生じるプレティルト角と呼ばれる液晶分子が基板面に対して立ち上がる方向と電界による液晶分子の配向効果の及ぼす力が逆になる領域でこの効果が顕著になる。
【0068】
実施例5と同じ構造寸法の液晶光学デバイスにおいて、中心の液晶光学デバイスにおける最外側の同心円状の電極及び各フレネル部の最内側及び最外側の同心円状電極と隣り合うフレネル部の同心円状電極の間に液晶分子が電極基板面に対して垂直に配向する領域を設けた液晶光学デバイスを作製した。このデバイスではディスクリネーションと呼ばれる分子配向が反転する領域の発生を抑えることができるため、良好な光学特性を有する液晶光学デバイスを構成することができた。同様に垂直配向領域の代わりに隔壁を設けることでも、このようなディスクリネーションと呼ばれる分子配向が反転する領域の発生を抑えることができる。
【実施例0069】
実施例1と同じ構造寸法を有する液晶光学デバイスにおいて、液晶分子の配向方向が軸対称状すなわち同心円状に配向させた液晶光学デバイスを作製した。このデバイスの光学特性は実施例1のデバイスとほぼ同じになるが、このような配向とすることで、1層の液晶層で特定の偏向方向に依存しない素通し状態と凸レンズ側及び凹レンズ側が可変焦点特性を有しており、固定焦点のレンズと組み合わせることで焦点距離が固定の状態と2組の可変焦点特性を有する切り替え可能な3焦点レンズを構成することができる。
【0070】
液晶分子の配向状態は同心円状のみならず、放射状の配向状態であってもよく、配向方向が互いに直交する領域を交互に配置した市松模様のような配向状態でもよく、さらには様々な方向に配向している領域を組み合わせたものでもよい。
【0071】
同心円状の配向状態は基板を回転させて同心円状にラビングすることで容易に得ることができる。また、他の配向状態は光配向技術を用いることで作製することができる。なお、液晶分子を同心円状に配向させたデバイスでは、プレティルトの方向と電界による液晶分子の立ち上がる方向が常に直交するようなっているので、ディスクリネーションの発生を抑制することができる。
【実施例0072】
さらに、第2の基板面に透明な中心対称の電極群の代わりに複数の一方向に延伸した透明な帯状の電極群を配置し、第1の基板に配置した共通となる第1の電極とそれぞれの帯状の電極との間に光学位相差分布特性が直線状に変化するように階段状となる電圧を印加することで、入射光の方向を偏向するような機能を有する光学デバイスを実現することができる。
【0073】
他の実施例と同様にRDP85475液晶を使用し、液晶層厚を30μm、透明絶縁層厚を60μm、帯状の電極の幅を45μm、電極間隔を15μm、開口幅を0.57mmとした。さらに、両端の帯状電極から隣接する帯状電極を介して他の端の帯状電極間に透明な抵抗膜を接続し、前記両端の帯状電極と共通電極となる第1の電極との間にそれぞれ1.5V、15Vの電圧を印加すると、約1度の偏向角を有する光偏向デバイスを得ることができた。
【0074】
この場合も透明な絶縁層の厚み及び液晶層の厚みの和を90μm、電極幅と電極間隔の和を60μmと設定していることから、階段状ではなく滑らかな直線状の光学位相差分布特性が得られている。
【0075】
透明な帯状電極群の各電極間に配置した透明な抵抗膜の抵抗値が片側の帯状電極から他の端に向かって距離を変数とする概略3次以上の関数に依存する値またはその階段近似の値とすると直線状の光学位相差分布特性が得られる。
【0076】
さらに、前記の液晶光偏向デバイスを複数個配置したフレネル構造とすることで、有効開口幅を広くすることができる。前記開口幅が0.57mmの液晶光偏向デバイスを5個配置したフレネル構造の液晶光偏向デバイスを作製した。この場合の開口幅は2.85mmで偏向角は約1度であった。
【0077】
またさらに、各フレネル部の境界における電極を透明な絶縁層の液晶側に配置することで駆動電圧を低くすることもできる。前記電極を透明な絶縁層の中で液晶層から15&micro;mの位置に配置すると最も高い電圧値であった15Vが4Vとなり、駆動電圧の低電圧化を行うことができた。
【0078】
本発明によると、駆動電極と液晶層の間に透明な高抵抗層やインピーダンス層が無いことから、駆動電圧の周波数に依存せず、長期間安定な動作が実現される。さらに、光学位相差分布特性が滑らかとなり、光学特性が優れた大口径の液晶レンズや光偏向デバイスのみならず、種々の光学デバイス等にも適用することが可能である。
【0079】
また、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して擬態化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよく、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の液晶光学デバイスは、電極間に電圧を印加して液晶の実効的な屈折率を可変制御することで、光学レンズ特性や光学系の収差を調節できるデバイスが実現される。駆動電圧に周波数依存性が無いので、小型レンズから中型・大型レンズなど、さまざまなレンズなどに利用可能である。
【符号の説明】
【0081】
11・・・第1の基板、12・・・第2の基板、21・・・共通電極、220・・・中心の円形状電極、221~229・・・同心円状の電極群、31・・・液晶層、41・・・透明絶縁層、81、82、83、84・・・駆動電源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2021-02-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な電極を有する第1の基板、透明な電極を有する第2の基板の間に収容された液晶分子を配向させた液晶層を備え、少なくとも前記第2の基板の面における透明な電極は、それぞれが階段状となる電圧が印加され保持された中心電極と複数の同心円状の電極群から形成され、
前記中心電極と複数の同心円状の電極群と前記液晶層の間に透明な絶縁層を配置し、前記中心電極と同心円状の電極群と前記第1の基板の前記透明な電極とが対向している各々の領域で前記液晶層の実効的な屈折率の分布を調整することで動作する液晶光学デバイスであって、
透明な絶縁層の厚み及び液晶層の厚みの和が同心円状の電極の幅の平均値及びその電極に隣接する他の電極との間隔の平均値の和よりも大きいことを特徴とする液晶光学デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の液晶光学デバイスにおいて、中心の電極及び最外側の電極各々と第1の基板の電極との間に独立した電圧を加え、前記中心の電極から隣接する電極を介して最外部の電極間が透明な抵抗膜で接続されており、前記透明な抵抗膜の抵抗値が中心から外側になるにしたがって内側に隣接する電極との間の抵抗値が等しいか、より大きな抵抗値であることを特徴とする液晶光学デバイス。
【請求項3】
請求項2に記載の液晶光学デバイスにおいて、透明な抵抗膜の抵抗値が中心からの距離を変数とする概略4次以上の関数に依存する値またはその階段近似の値であることを特徴とする液晶光学デバイス。
【請求項4】
請求項1から請求項3までに記載のいずれかの液晶光学デバイスにおいて、中心電極と複数の同心円状の電極からなる電極群を第1組の電極群とし、前記第1組の電極群における最外側の同心円状の電極の外部に、さらに前記第1組の電極群と同じ中心を有する複数の同心円状の透明な電極群を第2組の電極群として、少なくとも一組以上の電極群の組を配置し、隣接する各組における光学位相差の分布特性が概略前記液晶光学デバイスの光学位相差分布特性を外挿した特性となるような電圧を加えて動作することを特徴とする液晶光学デバイス。
【請求項5】
請求項1から請求項3までに記載のいずれかの液晶光学デバイスにおいて、中心電極と複数の同心円状の電極からなる電極群を第1組の電極群とし、前記第1組の電極群における中心の電極及び最外側の同心円状の電極またはそのいずれかの電極が前記電極群と液晶層の間に配置された透明な絶縁層の中または透明な絶縁層の液晶層側に配置されており、前記透明な絶縁層の中または透明な絶縁層の液晶層側に配置されている電極及び前記電極以外の電極で前記透明な絶縁層の中または透明な絶縁層の液晶層側に配置されている電極に隣接する同心円状の電極と第1の基板の電極との間にさらに電圧を加えて動作することを特徴とする液晶光学デバイス。
【請求項6】
請求項5に記載の液晶光学デバイスにおいて、前記第1組の電極群における中心の電極及び最外側の同心円状の電極と、さらに前記第1組の電極群の外側に同じ中心を有する複数の同心円状の透明な電極群を第2組の電極群として、少なくとも一組以上の電極群を設け前記第1組の電極群の外側に設けた前記一組以上の電極群の各組における最内側及び最外側の同心円状の電極が前記透明な絶縁層の中または透明な絶縁層の液晶層側に配置されており、前記透明な絶縁層の中または透明な絶縁層の液晶層側に配置されている電極及び、前記透明な絶縁層の中または透明な絶縁層の液晶層側に配置されている電極以外の電極で前記透明な絶縁層の中または透明な絶縁層の液晶層側に配置されている電極に隣接する同心円状の電極各々と第1の基板の電極との間に電圧を加えて動作することを特徴とする液晶光学デバイスであって、隣接する各電極群の組における光学位相差の分布特性が概略中心の液晶光学デバイスの光学位相差分布特性を外挿した特性となるような電圧を加えて動作することを特徴とする液晶光学デバイス。
【請求項7】
透明な電極を有する第1の基板、透明な電極を有する第2の基板の間に収容された液晶分子を配向させた液晶層を備え、少なくとも前記第2の基板の面における透明な電極は、それぞれが階段状となる電圧に保持された複数の一方向に延伸した帯状の電極群から形成され、
前記透明な電極群と前記液晶層の間に透明な絶縁層を配置し、前記透明な電極群と前記第1の基板の前記透明な電極とが対向している各々の領域で前記液晶層の実効的な屈折率の分布を調整することで動作する液晶光学デバイスであって、
透明な絶縁層の厚み及び液晶層の厚みの和が透明な帯状電極群の電極の幅の平均値及びその電極に隣接する透明な帯状電極との間隔の平均値の和よりも大きいことを特徴とする液晶光学デバイス。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0003
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0003】
液晶を使用した可変焦点レンズとして、平板状の第1の電極と円形の開口部を有するパターン電極構成された第2の透明電極との間に液晶層を挿入し、第2の透明電極と液晶層との間に透明絶縁層を挿入して第2の透明電極を液晶層からある一定の距離を置くように配置することで、電極の開口部分の直径をある程度大きくしても、軸対称の不均一電界が開口部の中心付近まで広がるようになって入射光に対する液晶の実効的な屈折率を可変することで良好なレンズ効果を発揮する方法が特許文献1に提案されており、直径が数mm程度の液晶レンズが報告されている。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0047
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0047】
図1における電極群220~229の間には、各々の電極の電圧がそれぞれ図2に示したような値となるように調整された透明な抵抗が接続されているが、前記透明な抵抗膜の厚みが一定であり、各同心円状の電極間の間隔がそれぞれ等しい場合には、透明抵抗膜の抵抗値はその幅に逆比例するので、中心から半径方向に外側に向かって所定の抵抗値の逆数となるように抵抗膜の幅を調整した。すなわち、中心の円形電極220から最外部の電極229に向かって隣接する各電極間に設けた前記透明な抵抗膜の抵抗値は、それぞれ10オーム,10オーム,15オーム,30オーム,30オーム,45オーム,60オーム,120オーム,240オームとなっており、中心から外側になるにしたがって内側に隣接する電極との間の抵抗値が等しいかより大きな抵抗値となっている。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0048
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0048】
中心の円形電極220から最外部の電極229に向かって隣接する各電極間に設けた前記透明な抵抗膜の抵抗値は、図2に示した各々の電極に加わる電圧と同じように変化することから、透明な抵抗膜の抵抗値が中心から半径方向の距離を変数とする高次の関数に依存する値の階段近似の値となっている。ここで、高次関数の次数は4次以上であることが好ましい。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0050
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0050】
前述したように、前記透明な抵抗膜の厚みが一定であり、各同心円状の電極間の間隔がそれぞれ等しい場合には、透明抵抗膜の抵抗値はその幅に逆比例するので、中心から半径方向に外側に向かって所定の抵抗値の逆数となるように抵抗膜の幅を調整することで図2に示したような電圧分布を得ることができる。また、抵抗膜の幅の逆数が4次関数や6次関数などの高次の関数に依存する値の階段近似の値となるようにすることもできる。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0055
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0055】
さらに、他の実施例について説明する。直径が150μの中心の円形電極と電極の幅が100μmで間隔が50μmの同心円状電極を用いて直径を10.8mmとした第1の電極群からなる内側の液晶光学デバイスの外部に電極幅と各電極の間隔が同じ同心円状電極からなる第2の電極群を設け、実施例1と同じ液晶材料であるRDP85475液晶を使用し、液晶層の厚みを80μm、透明絶縁層の厚みを80μmとして液晶光学デバイスを作製した。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0056
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0056】
ここで、内側の液晶光学デバイスの外部に同じ中心を有する同心円状電極からなる第2の電極群を設けた部分をフレネル部と呼ぶことにする。実施例3では、フレネル部を1個有するフレネル構造の液晶光学デバイスとなっている。中心の電極に印加する電圧をV1、内側の第1の電極群からなる光学デバイスの最外側の電極に印加する電圧をV2、第2の電極群からなるフレネル部の最内側の電極に印加する電圧をV3、前記フレネル部の最外側の電極に印加する電圧をV4とし、作製した液晶光学デバイスに対して、以下の条件で電極に電圧を印加・保持し、光学位相差分布特性を測定し、光学位相差分布特性を図7(A)に、フレネル部の光学位相差の分布特性が概略前記液晶光学デバイスの光学位相差分布特性を外挿した特性となるように表した特性を図7(B)に示す。このフレネル構造の液晶光学デバイスは口径が15,4mmでレンズパワーが1.23ジオプトリの凸レンズの特性を示している。
(条件)
周波数=1kHz
V1=2.2V
V2=16.0V
V3=2.2V
V4=16.V
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0063
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0063】
大口径且つ低電圧駆動が可能な液晶光学デバイスの実現を目指して、実施例3に示したフレネル構造の液晶光学デバイスにおけるフレネル部を3段構造とし、さらに実施例4に示したように第1組の電極群からなる中心の液晶光学デバイスにおける中心の電極及び最外側の同心円状の電極とその外部に配置した同じ中心を有する第2組の同心円状の電極群からなる第1のフレネル部の電極群の最内側の同心円状の電極及び最外側の同心円状の電極、その外部に配置した同じ中心を有する第3組の電極群からなる第2のフレネル部の最内側の同心円状の電極及び最外側の電極、さらにその外部に配置した同じ中心を有する第4組の電極群からなる第3のフレネル部の最内側の電極及び最外の電極前記透明な絶縁層の中で液晶層側から10μmの位置に配置した液晶光学デバイスを作製した。