(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022035706
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】材料判別装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/10 20180101AFI20220225BHJP
【FI】
G01N23/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020140207
(22)【出願日】2020-08-21
(71)【出願人】
【識別番号】503335272
【氏名又は名称】株式会社アイビット
(74)【代理人】
【識別番号】100102783
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 高明
(72)【発明者】
【氏名】向山 敬介
(72)【発明者】
【氏名】池上 宗利
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA11
2G001CA01
2G001DA08
2G001FA03
2G001FA06
2G001HA01
2G001JA09
2G001KA06
2G001LA09
2G001PA11
(57)【要約】
【課題】被検査物にX線を透過させて得られる検出スペクトルを、特定材料にX線を透過させて得られる予め記憶された参照スペクトルと比較することにより、被検査物の材料を判別する材料判別装置を提供する。
【解決手段】被検査物2にX線を照射するX線源1と、被検査物2を透過したX線の所定帯域のスペクトルを検出する検出部10と、検出部10により得られた検出スペクトルが送られて演算する制御部20とを備え、制御部20は、検出スペクトルを、予め記憶された既知の材料のX線透過スペクトルである参照スペクトルと比較する比較部22を有し、検出スペクトルと参照スペクトルとの同一性により被検査物2の材料を推定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査物にX線を照射するX線源と、
被検査物を透過したX線の所定帯域のスペクトルを検出する検出部と、
前記検出部により得られた検出スペクトルが送られて演算する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記検出スペクトルを、予め記憶された既知の材料のX線透過スペクトルである参照スペクトルと比較する比較部を有し、前記検出スペクトルと前記参照スペクトルとの同一性により前記被検査物の材料を推定する
ことを特徴とする材料判別装置。
【請求項2】
前記参照スペクトルは、少なくとも1以上が前記比較部に予め記憶されていることを特徴とする請求項1記載の材料判別装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記検出スペクトル及び前記参照スペクトルに対数関数を施して前記同一性を判断することを特徴とする請求項1又は2記載の材料判別装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記検出スペクトル及び前記参照スペクトルにおける少なくとも2つの波長における透過率を用いて、前記同一性を判断することを特徴とする請求項1、2又は3記載の材料判別装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記検出スペクトルと前記参照スペクトルとの差異が既定の基準内である場合に、各スペクトルに同一性ありと判断することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の材料判別装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記検出スペクトルと、予め記憶されている複数の前記参照スペクトルのうちで最も前記検出スペクトルとの差異が少ない参照スペクトルとに、同一性ありと判断することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の材料判別装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記参照スペクトルと前記検出スペクトルとの各波長における比率を求め、各比率のうちの最大値を前記差異とすることを特徴とする請求項5又は6記載の材料判別装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記参照スペクトルと前記検出スペクトルとの各波長における比率を求め、各比率のうちの最大値の、予め定めた基準値に対する比率を、前記差異とすることを特徴とする請求項5又は6記載の材料判別装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記参照スペクトルと前記検出スペクトルとの各波長における差を求め、各波長における差の合計を前記差異とすることを特徴とする請求項5又は6記載の材料判別装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記参照スペクトルと前記検出スペクトルとの各波長における差を求め、各波長における差の合計の、予め定めた基準値に対する差を、前記差異とすることを特徴とする請求項5又は6記載の材料判別装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査物にX線を透過させて得られる検出スペクトルを、特定材料にX線を透過させて得られる予め記憶された参照スペクトルと比較することにより、被検査物の材料を判別する材料判別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭ゴミ及び事業ゴミの処理施設においては、発火性危険物の混入による、粉砕処理中に起こる火災事故が問題となっている。そのため、家庭ゴミ及び事業ゴミに混入した発火性危険物を自動的に判別できる判別装置へのニーズが高まっている。発火性危険物とは、例えば、使い捨てライタ(液化ブタンガス)、リチウムイオン(Li-ion)バッテリ、ニッケル水素(Ni-MH)バッテリ、アルカリ乾電池、スプレ-缶(液化可燃性ガス)など、圧力や衝撃によって発火や爆発する危険性があるものを指す。
【0003】
家庭ゴミ及び事業ゴミは、様々な形状及び大きさを有し様々な材質からなるものの混合物であり、この中から発火性危険物を見つけることは容易ではない。現状では、平場に拡げたゴミを作業員が掻き分けて、発火性危険物の有無を目視で調べている。ゴミ中にはビニール袋に包まれているものも多く、これらを一つ一つ開梱して確認しなければならず、極めて多くの手間がかかる。
【0004】
一方、X線検査機を使用すれば、ビニール袋の中を透視して撮影できるので、発火性危険物を発見できる可能性がある。
【0005】
文献1には、被検査物にX線を透過させ、その透過光を受光してX線画像を得るようにしたX線検査機が記載されている。X線画像においては、X線の透過率が低い部分では淡く、X線の透過率が高い部分では濃く撮影される。X線の透過率は、被検査物の材質及び厚さによって決まる。X線画像において、周囲よりも濃く撮影された部分があれば、これが発火性危険物などの異物である可能性がある。
【0006】
文献2には、X線を用いた元素分析により、被検査物中に本来あるべきではない材質(異物)が混入しているかを判断するX線検査装置が記載されている。このX線検査装置では、X線の波長分解能を有するマルチエナジーセンサにより、被検査物を透過したX線のスペクトルを取得し、このスペクトルに基づいて、特定の材質(異物)を特定しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-194104号公報
【特許文献2】特開2018-155643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
文献1に記載されたX線検査装置では、X線画像の濃淡から異物を検出する。しかし、例えば、携帯電話用のリチウムイオンバッテリは、比較的厚みのあるプラスチックと同程度の濃度の画像になる場合がある。したがって、X線画像の濃淡だけでは、リチウムイオンバッテリとプラスチックとの判別ができないことがあり、自動判別は困難である。
【0009】
文献2に記載されたX線検査装置では、X線画像の画素ごとのスペクトルを相互に比較して、X線画像中の異物の画素を判別する。しかし、家庭ゴミのように様々な材料のものが混在し重なっている場合には、複数種類の発火性危険物を判別することは困難である。
【0010】
そこで、本発明は、元素分析が可能なX線マルチエナジーセンサを使用し、被検査物の材料を高い精度で推定できる解析手法を提供することにより、被検査物にX線を透過させて得られる検出スペクトルを、特定材料にX線を透過させて得られる予め記憶された参照スペクトルと比較することにより、被検査物の材料を判別する材料判別装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
被検査物にX線を照射すると、被検査物に含まれる元素により、特定の波長のX線が吸収され、波長によって透過率が異なる。このように透過したX線をマルチエナジーセンサで受光すると、被検査物を構成する元素に応じた特有のスペクトルが得られる。
【0012】
そこで、第1発明に係る材料判別装置は、
被検査物にX線を照射するX線源と、
被検査物を透過したX線の所定帯域のスペクトルを検出する検出部と、
前記検出部により得られた検出スペクトルが送られて演算する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記検出スペクトルを、予め記憶された既知の材料のX線透過スペクトルである参照スペクトルと比較する比較部を有し、前記検出スペクトルと前記参照スペクトルとの同一性により前記被検査物の材料を推定する
ことを特徴とするものである。
【0013】
第2発明に係る材料判別装置は、第1発明に係る材料判別装置において、
前記参照スペクトルは、少なくとも1以上が前記比較部に予め記憶されていることを特徴とするものである。
【0014】
第3発明に係る材料判別装置は、第1又は2発明に係る材料判別装置において、
前記制御部は、前記検出スペクトル及び前記参照スペクトルに対数関数を施して前記同一性を判断することを特徴とするものである。
【0015】
第4発明に係る材料判別装置は、第1、2又は3発明に係る材料判別装置において、
前記制御部は、前記検出スペクトル及び前記参照スペクトルにおける少なくとも2つの波長における透過率を用いて、前記同一性を判断することを特徴とするものである。
【0016】
第5発明に係る材料判別装置は、第1~4のいずれかの発明に係る材料判別装置において、
前記制御部は、前記検出スペクトルと前記参照スペクトルとの差異が既定の基準内である場合に、各スペクトルに同一性ありと判断することを特徴とするものである。
【0017】
第6発明に係る材料判別装置は、第1~4のいずれかの発明に係る材料判別装置において、
前記制御部は、前記検出スペクトルと、予め記憶されている複数の前記参照スペクトルのうちで最も前記検出スペクトルとの差異が少ない参照スペクトルとに、同一性ありと判断することを特徴とするものである。
【0018】
第7発明に係る材料判別装置は、第5又は6発明に係る材料判別装置において、
前記制御部は、前記参照スペクトルと前記検出スペクトルとの各波長における比率を求め、各比率のうちの最大値を前記差異とすることを特徴とするものである。
【0019】
第8発明に係る材料判別装置は、第5又は6発明に係る材料判別装置において、
前記制御部は、前記参照スペクトルと前記検出スペクトルとの各波長における比率を求め、各比率のうちの最大値の、予め定めた基準値に対する比率を、前記差異とすることを特徴とするものである。
【0020】
第9発明に係る材料判別装置は、第5又は6発明に係る材料判別装置において、
前記制御部は、前記参照スペクトルと前記検出スペクトルとの各波長における差を求め、各波長における差の合計を前記差異とすることを特徴とするものである。
【0021】
第10発明に係る材料判別装置は、第5又は6発明に係る材料判別装置において、
前記制御部は、前記参照スペクトルと前記検出スペクトルとの各波長における差を求め、各波長における差の合計の、予め定めた基準値に対する差を、前記差異とすることを特徴とするものである。
【0022】
本発明は、例えば、発火性危険物であるLi-ionバッテリやアルカリ乾電池やスプレー缶など、材料毎のX線透過スペクトルを、参照スペクトルとして予め記憶しておき、これらと検出スペクトルとを比較することにより、被検査物の材料を推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
発明によれば、被検査物にX線を透過させて得られる検出スペクトルを、特定材料にX線を透過させて得られる予め記憶された参照スペクトルと比較することにより、被検査物の材料を判別する材料判別装置を提供することができる。
【0024】
すなわち、発明によれば、マルチエナジーセンサを使用した元素分析において、リチウムイオン(Li-ion)バッテリやアルカリ乾電池やスプレー缶など様々な材料の参照スペクトルを予め記憶しておき、未知の材料の被検査物をX線撮影して得られた検出スペクトルを参照スペクトルと比較することで、被検査物の材料を判別することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図4】参照スペクトルの例(アルミニウム(厚さ5mm、10mm))
【
図5】参照スペクトルに対数関数を施した例(アルミニウム(厚さ5mm、10mm))
【
図6】検出スペクトルと参照スペクトルとの比較・判定例(参照スペクトル:アルミニウム(厚さ5mm)、検出スペクトル:アルミニウム)
【
図7】検出スペクトルと参照スペクトルとの比較・判定例(参照スペクトル:樹脂材料、検出スペクトル:アルミニウム)
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0027】
本発明の実施形態に係る材料判別装置は、家庭ゴミや事業ゴミ等(例えば、プラスチック容器やペットボトルや紙や食品等)を被検査物として、その材料を推定する材料判別装置である。
【0028】
〔材料判別装置の構成〕
図1は、実施形態の材料判別装置の説明図である。
【0029】
この材料判別装置は、
図1に示すように、被検査物2にX線を照射するX線源1と、被検査物2を透過したX線の所定帯域のスペクトルである検出スペクトルを検出する検出部10とを備えている。検出部10は、受光部11及びメモリ12を有している。受光部11は、所定帯域のX線を波長ごとに分けて検出できるマルチエナジーセンサである。
【0030】
受光部11(マルチエナジーセンサ)は、X線波長帯における波長分解能を有している。例えば、「Detection Technology社」のマルチエナジーセンサは、20keVから160keVまでを等間隔に128分割した波長分解能を有している。様々な波長を含むX線を被検査物2に照射すると、被検査物2の構成元素により、一部波長のX線が被検査物2に吸収される。このとき、吸収されなかったX線は被検査物2を透過して、受光部11により受光され、被検査物2に特有の検出スペクトルが得られる。受光部11は、センサの素子を2次元に配列したエリアカメラや、1次元に配列したライセンサカメラ等、センサ数や配列に依らず採用可能である。
【0031】
X線源1は、被検査物2の検出スペクトル広い波長帯域で取得するため、様々な波長のX線を発するものを使用する。受光部11(マルチエナジーセンサ)の受光波長に鑑みて、主に80kV以上の管電圧を有するX線源を選定することが好ましい。
【0032】
検出部10は、受光部11でX線を受光すると、受光データをメモリ12に蓄えるとともに、制御部20に出力させる。制御部20は、送られた検出スペクトルを演算する演算部21と、演算部21の演算結果が送られる比較部22とを有している。比較部22は、演算部21から送られた検出スペクトルを、予め記憶された既知の材料のX線透過スペクトルである参照スペクトルと比較する。比較部22には、少なくとも1以上の参照スペクトルが予め記憶されている。制御部20においては、後述するように、比較部22における比較結果に基づいて、検出スペクトルと参照スペクトルとの同一性により、被検査物2の材料を推定する。
【0033】
また、この材料判別装置は、被検査物2を搬送する搬送部3を備えている。搬送部3は、一対の搬送ローラ4a、4b間に架け渡された無端搬送ベルト5上に被検査物2を載置させ、一方の搬送ローラ4aを回転操作することにより、被検査物2を搬送するコンベアとして構成されている。この搬送部3は、検出部10に対して、被検査物2を移動操作(搬送)する。被検査物2の移動中に検出部10により検出スペクトルが取得される。大量の家庭ゴミの判別作業を効率よく行うためには、搬送部3は、コンベアの形態が適しているが、フリーローラ、スロープなど、様々な搬送方法を採用してもよい。
【0034】
この材料判別装置においては、X線源1からX線を照射した状態で、搬送部3により被検査物2を搬送しながら、被検査物2を透過したX線を検出部10の受光部11により受光する。受光した情報(検出スペクトル)はデジタルデータに変換され、メモリ12を経て、制御部20の演算部21に転送される。演算部21では、被検査物2の検出スペクトルを既存の参照スペクトルと照らし合わせて、被検査物2の材料を推定する。
【0035】
【0036】
制御部20は、主にコンピュータで構成されており、
図2に示すように、X線源1、搬送部3及び検出部10が接続され、これらX線源1、搬送部3及び検出部10を制御するとともに、検出部10からの出力が入力される。また、制御部20には、ディスプレイモニタ50及び下流の装置への出力部51が接続され、ディスプレイモニタ50を制御するとともに、下流の装置への出力を行う。
【0037】
被検査物2の材料の推定結果は、ディスプレイモニタ50に表示され、作業者に被検査物2の材料が報知される。さらに、下流の装置への出力部51から、搬送部3の下流の振り分け装置に判別結果が伝えられ、それに基づいて各種材料への分別が行われる。
【0038】
【0039】
制御部20は、
図3に示すように、予め取得された種々の材料の参照スペクトルを比較部22のメモリ31に記憶させている。例えば、リチウムイオンバッテリの参照スペクトル31aが記憶され、アルカリ乾電池の参照スペクトル31bが記憶され、スプレー缶の参照スペクトル31cが記憶され、・・・となっている。
【0040】
比較部22においては、被検査物2の検出スペクトル30と各種材料の参照スペクトル31a、31b、31c・・・とを比較した結果から、被検査物2の材料を特定する判定32が導かれる。
【0041】
〔事前の準備〕
次に、演算部21における信号処理を具体的に示す。
【0042】
まず、受光部11により被検査物2の検出スペクトルを得るためには、事前に2つの補正値を求めておく必要がある。
【0043】
1つめの補正値は、X線を照射していない状態で、受光部11からの出力値を記憶しておくことである。X線を照射していない状態では、受光部11へ入射するX線がないため、いずれの波長帯でも受光量は零である。しかしながら、受光部11への通電時には、微弱な電流が流れてしまうことや電子ノイズ等により、受光部11からの出力は零とならない。そこで、X線を照射していない状態で受光部11からの出力値を読み、これを基準値IBとする。
【0044】
2つめの補正値は、被検査物2を透さない状態において、X線を照射したときの、受光部11からの出力値を記憶しておくことである。このとき、X線の管電圧、管電流や、X線源1と受光部11との距離や、無端搬送ベルト5の有無や、受光部11の露光時間など、を被検査物2の撮影条件と同一とする。X線源1からの様々な波長を含むX線は、波長毎のフォトンの量が一定ではない。さらに、無端搬送ベルト5や受光部11を覆うカバー等にX線が吸収されることもあるので、受光部11からの出力値を波長毎に予め調べておく必要がある。ここで得られる受光部11からの出力値をILとする。ILは先のIBのオフセットを含んでいるので、実際の出力値は、IBを除いたIL-IBとなる。
【0045】
〔被検査物の検出スペクトルの算出〕
X線を被検査物2に照射して、センサの出力値Iobjを取得する。Iobjは上記したIBのオフセットを含んでいるので、実際の出力値はIBを除いたIobj-IBとなる。
【0046】
このように被検査物2を透過したX線の光量I
obj-I
B と、被検査物2を透さないX線の光量I
L-I
Bとの比率は、次の〔数1〕に示すようになる。
【数1】
【0047】
この〔数1〕は、照射されたX線のフォトンの量に対して、フォトンが被検査物2に吸収されずに、どの程度、受光部11に到達したかを表している。なお、〔数1〕は、電子回路的には、オフセット回路とゲイン回路でも対応できるので、それで実現してもよい。
【0048】
図4は、参照スペクトルの例(アルミニウム(厚さ5mm、10mm))である。
被検査物2を透過したX線を受光部11により受光し、そのデータから〔数1〕を用いて計算した例として、
図4に、厚さ5mm及び10mmのアルミニウムの各々の参照スペクトルを示す。いずれのグラフにおいても、上に凸の形状をし、60keV程度の値がピークとなっている。厚さ5mmに比べて厚さ10mmのほうがグラフが全体的に低いのは、厚みが2倍であることにより、吸収されるX線の量が大きくなり、受光部11における受光量が減るのが原因である。
【0049】
一方で、強度I
0のX線が、物質固有の値である線減弱係数μの物質中をd cm進んだ場合の強度Iの関係式は次の〔数2〕のように定義される。lnは自然対数である。すなわち、制御部20は、検出スペクトル及び参照スペクトルに対数関数を施して同一性を判断する。
【数2】
【0050】
〔数2〕の右辺の括弧の中の項は、もとのX線の強度に対して、線減弱係数μで材料のトータルの厚みdcm(間に空間がある場合はそれを除いた厚さ。以下、厚さとは、空間を除いた距離を指す)の被検査物2を透過したときのX線の強度との比率を表したものであるため、〔数1〕と同じ意味である。〔数1〕と〔数2〕を合わせると次のようになる。
【数3】
【0051】
図5は、参照スペクトルに対数関数を施した例(アルミニウム(厚さ5mm、10mm))である。
〔数3〕の右辺を計算する(対数関数を施す)と、
図4のグラフは、
図5のようになる。50keVにおいて、縦軸はアルミニウム厚さ5mmでは0.43、アルミニウム厚さ10mmでは0.86であり、厚さ5mmのほぼ2倍である。また、60keVでも同様に、厚さ10mmでは厚さ5mmの約2倍となる。なお、被検査物2の材料が変わらない限りdは一定なので、
図5が波長によって曲線を描くのは、線減弱係数μが波長によって変化することを意味する。
【0052】
〔様々な材料の参照スペクトルの記憶〕
発火性危険物で分類されるリチウムイオンバッテリ、アルカリ乾電池、ボタン電池、スプレー缶、ライターや、それ以外の通常のごみであるプラスチックやアルミニウム缶、その他の参照スペクトルを予め取得し、
図3に示すように、比較部22のメモリ31に記憶しておく。このとき、記憶するのは〔数3〕の右辺の計算結果でもよいし、〔数1〕の計算結果でもよいし、各I
objやI
BやI
Lでもよい。また、被検査物2の厚みdが既知であるならば、〔数3〕の右辺をdで割った値でもよい。
【0053】
〔未知の材料である被検査物の検出スペクトルと、予め記憶された材料の参照スペクトルとの比較方法〕
【0054】
〔数3〕について、予め記憶された材料の線減弱係数をμ
ref、厚さをd
ref、右辺の計算結果をN
refと置くと〔数4〕のようになる。
【数4】
【0055】
〔数3〕について、未知の材料である被検査物2の線減弱係数をμ
obj、厚さをd
obj、右辺の計算結果をN
objと置くと〔数5〕のようになる。
【数5】
【0056】
〔数4〕を分母に、〔数5〕を分子にすると、〔数6〕が得られる。
【数6】
【0057】
〔数6〕によれば、同じ材料であれば線減弱係数μ
obj=μ
refとなり、〔数7〕が得られる。
【数7】
【0058】
〔数7〕によれば、左辺は波長により変化する線減弱係数μの項がないので、〔数7〕の右辺と左辺は波長によらず一定の値を示す。すなわち、Nobj/Nrefは一定(=厚みの比)となる。反対に、〔数6〕の線減弱係数μobj≠μrefであれば、波長によってNobj/Nrefが変化することを意味する。
【0059】
図6は、検出スペクトルと参照スペクトルとの比較・判定例(参照スペクトル:アルミニウム(厚さ5mm)、検出スペクトル:アルミニウム)である。
【0060】
N
obj/N
refの検出・演算・比較例として、厚さ5mmのアルミニウムを既知の材料とし、未知の材料である被検査物2の検出スペクトルを
図6に示す。ここで、未知の材料は厚さ10mmのアルミニウムであり、同じ材料なので、波長帯によらずほぼ一定の値を示していることがわかる。また、厚さが2倍なので、その値は既知の材料の値の約2倍となっている。
【0061】
図7は、検出スペクトルと参照スペクトルとの比較・判定例(参照スペクトル:樹脂材料、検出スペクトル:アルミニウム)である。
【0062】
一方、
図7に既知の材料を樹脂とした参照スペクトルを示す。波長によって一定の値を示していないことがわかる。
【0063】
〔第一形態〕
制御部20は、検出スペクトル及び参照スペクトルにおける少なくとも2つの波長における透過率を用いて、同一性を判断することができる。また、制御部20は、検出スペクトルと参照スペクトルとの差異が既定の基準内である場合に、各スペクトルに同一性ありと判断することができる。そして、制御部20は、参照スペクトルと検出スペクトルとの各波長における差を求め、各波長における差の合計の、予め定めた基準値に対する差を、差異とすることができる。
【0064】
図6と
図7の差異を数値で評価するために、既定の波長での値を基準として、最大の偏差値を差異とする。例えば、
図6において40keVの値が2.01であるが、そこから最も差が大きい30keVが1.75であり、その差は0.26である。一方、
図7において、40keVの値が0.78で、そこから最も差が大きい60keVで0.47であり、その差は0.31である。すなわち、樹脂よりもアルミニウムのほうが近い材料と判断できる。このときの、既定の波長の基準となる値は、すべての波長帯域の値の平均値でもよい。
【0065】
〔第二形態〕
制御部20は、参照スペクトルと検出スペクトルとの各波長における比率を求め、各比率のうちの最大値の、予め定めた基準値に対する比率を、差異とすることができる。また、制御部20は、参照スペクトルと検出スペクトルとの各波長における比率を求め、各比率のうちの最大値を差異とすることもできる。
【0066】
図6で、基準となる40keVの2.01に対して最も差が大きい30keVの1.75を割った値(比率)、1.75/2.01=0.87を差異としてもよい。この場合、1に近いほど差異が小さいと判断される。
図7の値は0.47/0.78=0.6である。このときの、既定の波長の基準となる値は、すべての波長帯域の値の平均値でもよい。
【0067】
〔第三形態〕
制御部20は、参照スペクトルと検出スペクトルとの各波長における差を求め、各波長における差の合計を差異とすることができる。
【0068】
Nobj/Nrefに既定の基準値を設けて、差の絶対値の合計が小さい場合に、既知の材料に近いと判断してもよい。例えば、偏差の絶対値の合計でもよいし、最小二乗和でもよい。
【0069】
〔第四形態〕
第二形態において、基準値を設けて、差の絶対値の合計を波長の数で割った値が1に近いほど、既知の材料に近いと判断することもできる。合計の計算は例えば、偏差の絶対値の合計でもよいし、最小二乗和でもよい。
【0070】
第一形態~第四形態において、既定の閾値を設けて、その差異が閾値内の場合は、既知の材料であると判定するようにしてもよい。
【0071】
上述のようにして、制御部20は、検出スペクトルと、予め記憶されている複数の参照スペクトルのうちで最も検出スペクトルとの差異が少ない参照スペクトルとに、同一性ありと判断することができる。また、制御部20は、上述した種々の判別手法を併用して、検出スペクトルと参照スペクトルとに同一性ありと判断することができる。この場合に、同一性ありと判別される判別手法が一以上存在する場合に同一性ありと判断してもよいし、同一性ありと判別される判別手法が複数存在する場合に同一性ありと判断してもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 X線源
2 被検査物
3 搬送部(コンベア)
4 搬送ローラ
5 無端搬送ベルト
10 検出部
11 受光部
12 メモリ
20 制御部
21 演算部
22 比較部
30 被検査物の波長スペクトル
31 メモリ
31a 既知の材質の参照スペクトル
31b 既知の材質の参照スペクトル
31c 既知の材質の参照スペクトル
32 判定結果
50 ディスプレイモニター
51 下流側の装置への出力