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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022035715
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】補修用防せい材およびその施工方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 22/16 20060101AFI20220225BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20220225BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20220225BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20220225BHJP
   E04B 1/64 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
C04B22/16 A
C04B28/02
C04B24/26 C
E04G23/02 A
E04B1/64 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020140217
(22)【出願日】2020-08-21
(71)【出願人】
【識別番号】506242588
【氏名又は名称】株式会社イーエスティージャパン
(71)【出願人】
【識別番号】501249711
【氏名又は名称】エスアイエナジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】高梨 仁志
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 一壽
(72)【発明者】
【氏名】首藤 雅
(72)【発明者】
【氏名】掛川 寿夫
【テーマコード(参考)】
2E001
2E176
4G112
【Fターム(参考)】
2E001DH25
2E001EA01
2E001GA06
2E001HA01
2E001HA10
2E001JA06
2E001JD02
2E176AA01
2E176BB01
2E176BB04
4G112MB42
4G112PB13
4G112PB30
(57)【要約】
【課題】鉄筋コンクリート中の鉄筋におけるマクロセル腐食の発生を抑制出来、人体へも害がなく、低コストな補修用防せい材を提供する。
【解決手段】ヒドロキシアパタイトと、セメントとを含み、前記ヒドロキシアパタイトの含有量が、セメント100質量部に対し、1質量部以上20質量部以下である補修用防せい材を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシアパタイトと、セメントとを含み、
前記ヒドロキシアパタイトの含有量が、セメント100質量部に対し、1質量部以上20質量部以下である補修用防せい材。
【請求項2】
さらに珪砂を含み、当該珪砂の含有量が、セメント100質量部に対し、70質量部以下である請求項1に記載の補修用防せい材。
【請求項3】
さらに樹脂を含み、当該樹脂の含有量が、セメント100質量部に対し、20質量部以下である請求項1または2に記載の補修用防せい材。
【請求項4】
さらに混和剤を含む、請求項1から3のいずれかに記載の補修用防せい材。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の補修用防せい材を、鉄筋コンクリート中の鉄筋に塗布する補修用防せい材の施工方法。
【請求項6】
前記鉄筋コンクリートは、経年変化した鉄筋コンクリートである請求項5に記載の補修用防せい材の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート中の鉄筋を補修する為の補修用防せい材およびその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
経年変化した鉄筋コンクリートを補修する為、補修用防せい材が用いられる。そして、従来の技術に係る補修用防せい材として、亜硝酸リチウムが鉄筋腐食抑制材として配合されたものが市販されている。
【0003】
本発明者らは、焼成動物骨由来の天然ヒドロキシアパタイト(本発明において「HAp」と記載する場合がある。)を配合した防せい材を、コンクリート中に配合する構成に想到した。具体的には、HApを配合した防せい材を、コンクリート中に配合することで、当該コンクリートを強酸性溶液中に浸漬して塩基性が中和された後においても、当該コンクリート中の金属鉄の腐食が強く抑制されることを知見した。そこで、本発明者らは、HApを配合した防せい材について特許文献1を開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許5869644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの検討によれば、経年変化した鉄筋コンクリートを従来の技術に係る補修用防せい材を用いて補修した場合、元の鉄筋部分と補修用防せい材により補修された鉄筋部分とが混在することになる。そして、元の鉄筋部分と補修用防せい材により補修された鉄筋部分との間の酸化還元電位の差により局部電池(本発明において「マクロセル」と記載する場合がある。)が形成され、元の鉄筋部分または補修された鉄筋部分のどちらかの鉄筋の腐食が促進されてしまう場合があることを知見した。
【0006】
さらに、本発明者らの検討によれば、従来の技術に係る補修用防せい材に配合されている亜硝酸リチウムは、毒性およびコスト面にも課題がある。具体的には、亜硝酸が体内に摂取された場合、アミノ酸と反応してニトロソアミンを生成する。ニトロソアミンは、国際がん研究機関において“恐らく人間での発がん作用がある”(Group2A)に分類されている。また、メトヘモグロビン血症の原因物質でもある。一方、リチウムは、補修用防せい材の構成成分としてはコストの高いものである。
【0007】
本発明は上述の状況の下で為されたものであり、その解決しようとする課題は、鉄筋コンクリート中の鉄筋へ付着させる施工を行った場合、当該鉄筋におけるマクロセル腐食の発生を抑制出来、人体へも害がなく、低コストな補修用防せい材およびその施工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、金属腐食反応における鉄イオンと電子の遊離反応(所謂、アノード反応)を抑制出来る、HApを含む補修用防せい材に想到して本発明を完成した。
【0009】
即ち、上述の課題を解決する第1の発明は、
ヒドロキシアパタイトと、セメントとを含み、
前記ヒドロキシアパタイトの含有量が、セメント100質量部に対し、1質量部以上20質量部以下である補修用防せい材である。
第2の発明は、
さらに珪砂を含み、当該珪砂の含有量が、セメント100質量部に対し、70質量部以下である第1の発明に記載の補修用防せい材である。
第3の発明は、
さらに樹脂を含み、当該樹脂の含有量が、セメント100質量部に対し、20質量部以下である第1または第2の発明に記載の補修用防せい材である。
第4の発明は、
さらに混和剤を含む、第1から第3の発明のいずれかに記載の補修用防せい材である。
第5の発明は、
第1から第4の発明のいずれかに記載の補修用防せい材を、鉄筋コンクリート中の鉄筋に塗布する補修用防せい材の施工方法である。
第6の発明は、
前記鉄筋コンクリートは、経年変化した鉄筋コンクリートである第5の発明に記載の補修用防せい材の施工方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、経年変化した鉄筋コンクリート中の鉄筋であっても、当該鉄筋におけるマクロセル腐食の発生を抑制出来、人体へも害がなく、低コストな補修用防せい材およびその施工方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】鉄表面の水酸化鉄と不動態層との模式的な概念図である。
図2】鉄電極のアノード分極曲線である。
図3】鉄電極表面に形成された不動態層の透過電子顕微鏡写真、および、同一部分における、鉄、酸素、カルシウム、リンのTEM-EDX解析像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明を行う。本明細書において「~」は所定の数値以上かつ所定の数値以下を指す。
【0013】
本発明に係る補修用防せい材はHApとセメントとを含み、所望により、さらに珪砂や樹脂、混和剤を含む、1袋化が可能な粉体である。そして、当該補修用防せい材の施工時において、当該粉体と水とを混合し、スラリー化して施工する。
【0014】
これに対し、従来の技術に係る亜硝酸リチウムが配合された補修用防せい材においては、亜硝酸リチウムを水溶液として配合する為、1袋のセメントモルタル粉末と1本の亜硝酸リチウム水溶液とを組み合わせた形態となっており、取り扱いが煩雑であった。
【0015】
以下、1.HAp、2.セメント、3.珪砂、4.樹脂、5.混和剤、6.水、の順に説明し、次にこれらの成分の好ましい配合範囲について、7.配合、にて説明し、本発明に係る補修用防せい材の施工方法について、8.施工方法、にて説明する。
【0016】
1.HAp
本発明に係るHApは、水酸化燐灰石Ca(PO(OH)を主成分として構成される粒径が100μm以下の粉末である。
【0017】
HAp粉末は、非生体系由来のものであってもよいが、生体系由来のものであればコスト面でも好ましい。この「生体系由来のHAp」としては、例えば、ウシ、ブタ、鳥等の骨に由来する家畜骨由来のHApや、魚骨由来のHAp等が挙げられる。
【0018】
HApは、鉄表面の水酸化鉄と不動態層を形成する。当該不動態層の模式的な概念図を図1に示す。図1に示すように、水酸化鉄はルイス酸であり、孤立電子対を有するHApのリン酸塩基の酸素原子がルイス塩基であることによる配位結合、および、水酸化鉄の鉄と、リン酸基の酸素との間における静電的相互作用(分子間力)という、2つの強力な親和力により不動態層が形成されるものと、本発明者らは考えている。
【0019】
上述した推論に基づき、本発明者らは、鉄電極のアノード分極に対するHApの影響を検証する為、3質量%の塩化ナトリウム水溶液中における鉄電極のアノード分極曲線を測定し、図2に示す結果を得た。尚、図2において、実線は鉄電極の表面にHAp粉末を設置した場合であり、破線は鉄電極のみの場合である。
図2から解るように、鉄電極の表面にHAp粉末を設置した場合は、約-0.2V以降の電位走査に対する応答電流密度の上昇が、ほぼ完全に抑制されていた。即ち、HApはアノード反応抑制型防せい剤であり、金属鉄の腐食を強力に抑制することを知見した。
【0020】
HApによる鉄電極のアノード分極の抑制を検証後に、当該鉄電極表面に形成された不動態層の透過電子顕微鏡(TEM)写真、および、同一部分における、鉄、酸素、カルシウム、リンのTEM-EDX解析像を図3に示す。
図3において(A)は、不動態層のTEM写真、(B)は、(A)と同一部分における鉄のTEM-EDX解析像、(C)は、(A)と同一部分における酸素のTEM-EDX解析像、(D)は、(A)と同一部分におけるカルシウムのTEM-EDX解析像、(E)は、(A)と同一部分におけるリンのTEM-EDX解析像である。
図3(A)~(D)より、鉄電極表面における腐食生成物の上にHApが付着して、不動態層を形成していることが解る。
【0021】
HAp粉末の粒径は1~60μmであるのが好ましく、1~10μmであるのがより好ましい。粒径が60μm以下(特に10μm以下)であれば、鉄筋部分への防せい効果を十分に発揮する。一方、粒径が1μm以上だと粒子化する際のコストが低減される。なお、本明細書における粒径とは最大粒径のことである。最大粒径の値は、所定幅のメッシュを通過するか否かを調べることにより得られる。
【0022】
上記粒径の範囲を平均粒径で表すと、HAp粉末の平均粒径は0.1~20μmであるのが好ましい。上記平均粒径はD50であり、レーザー回折・散乱式粒度分布測定器を用いて測定可能である。
【0023】
2.セメント
用いるセメントに特に制限はないが、入手のし易さやコストの観点から、市販されている普通ポルトランドセメントを好ましく挙げることが出来る。
【0024】
3.珪砂
用いる珪砂に特に制限はないが、入手のし易さやコストの観点から、市販されている7号珪砂を好ましく挙げることが出来る。
【0025】
4.樹脂
所望により、樹脂を添加することも出来る。適宜な樹脂の添加により耐水性、耐アルカリ性などに優れたポリマーセメントモルタル製品を得ることが出来る。用いる樹脂としては多様なものが使用出来るが粉体のものが好ましい。
【0026】
添加出来る樹脂としては、ゴム類であればNR、CR、SBR、NBR、MBR、BRが、熱可塑性樹脂エマルジョンであればPAE、PVAC、PVDC、PVP、EVA、PP、熱硬化性樹脂エマルジョンであればエポキシ、瀝青質エマルジョンであればアスファルト、ゴムアスファルト、パラフィン、混合ディスパ―ジョンであれば、混合ラテックス、混合エマルジョン、粉末エマルジョンであればEVA、VAVeoVA、水溶性ポリマーであればMC、PVA、ポバール、ポリアクリル酸塩、フルフリルアルコール、液状ポリマーであれば不飽和ポリエステル、エポキシ、等を挙げることが出来る。
そして、耐水性、耐アルカリ性などに優れたポリマーセメントモルタル製品を、取り扱いに便宜な1袋型として作製できるという観点、および、バーサチック酸が炭素数9~11個の合成脂肪酸で、炭化水素鎖が長く、分岐状になっているため、疎水性が強く、加水分解され難いとの観点から、水溶性粉末樹脂である酢酸ビニル樹脂、バーサチック酸ビニル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル/アクリル酸エステル共重合体樹脂等を好ましく例示出来、中でも、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル/アクリル酸エステル共重合体樹脂を好ましく挙げることが出来る。
【0027】
5.混和剤
所望により、さらに混和剤を添加することも出来る。
主な混和剤としては、セメントモルタル内部への空気量を減らし、当該セメントモルタルの強度を維持する為の消泡剤(SNデフォーマーシリーズ(サンノプコ社)、ビスフォームシリーズ(日新化学研究所社)、アデカネートBシリーズおよびFシリーズ(株式会社ADEKA)等)、空気連行剤(マスターエア(MASTER BUILDERSポゾリス社)、等)、減水剤(マスターポゾリス、マスターポリヒード、マスターレオビルド(MASTER BUILDERSポゾリス社)、等)、早強剤・硬化促進剤(マスターエックスシード(MASTER BUILDERSポゾリス社)、等)があり、空気連行剤と減水剤の両方の機能を持つAE減水剤もある。AE減水剤としては、オキシカルボン酸塩、リグニンスルホン酸塩ポリオール誘導体、ポリカルボン酸系、ナフタリン系、アミノスルホン酸系、等がある。
【0028】
さらに、以下の混和剤も添加することが出来る。
コンクリートの流動性を増大させる為の流動化剤として、ナフタリンスルホン酸ホルムアルデヒド高縮合物塩やメラミンスルホン酸ホルムアルデヒド高縮合物塩、スチレンスルホン酸共重合物塩、等がある。
【0029】
セメント粒子と水分、また骨材とセメントペーストとの分離を抑制する為の分離低減剤として、メチルセルロース、等のセルロース系と、ポリアクリルアミドやアクリルポリマー、等のアクリル系、グリコール系高分子やバイオポリマー、等がある。
【0030】
コンクリートに気泡を混入させ、断熱性や軽量性を持たせる為の起泡剤として、アルキル硫酸エステル塩やアルキルベンゼンスルホン酸塩、等の合成界面活性剤、松脂をアルカリで鹸化したロジン石鹸、等の樹脂石鹸系、牛馬の蹄や角、等を粉末にした蛋白系がある。また、起泡剤発泡剤として、水素の発生を利用したアルミニウム粉末がある。
【0031】
コンクリートの水和による凝結速度をコントロールする為の凝結・硬化調節剤、急結剤として、無機系促進剤には硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、アルミナ、等、有機系促進剤には無水マレイン酸、酢酸やアクリル酸のカルシウム塩、アミン類、等、無機系遅延剤にはリン酸塩やホウ酸、亜鉛化合物、銅化合物、等、有機系遅延剤にはオキシカルボン酸や糖アルコール類、高分子有機酸、等がある。
【0032】
吹付けコンクリートの凝結速度を著しく速める為の急結剤として、無機塩系のアミン酸アルカリ塩や炭酸アルカリ塩、セメント鉱物系のカルシウムアルミネート、中性の水溶性アルミニウム塩、等がある。
【0033】
鉄筋コンクリートの鉄筋の錆を抑制する為の防錆剤として、無機系の亜硝酸塩やクロム酸塩、有機系のエステル塩やメルカプタン、等がある。
【0034】
コンクリートの水分透過を防ぐこと為の防水剤として、無機系の塩化カルシウムや水ガラス(ケイ酸ナトリウム)、ケイ酸質粉末、有機系の高級脂肪酸やポリマーディスパージョン、等がある。
【0035】
6.水
水は、通常の上水道水以上の水質を持つものであれば良い。
【0036】
7.配合
本発明に係る補修用防せい材における、セメントとHApと珪砂と樹脂と水との好ましい配合について説明する。
HApは、セメント100質量部に対し、1質量部以上20質量部以下含有されていることが好ましい。これは、セメント100質量部に対しHApが1質量部以上含有されていれば、本発明に係る補修用防せい材はマクロセル腐食の発生を抑制する効果を発揮することによる。一方、セメント100質量部に対しHApが20質量部を超えて含有されていても効果は飽和することから、20質量部以下の含有が好ましいことによる。また、同様の観点から、3.5質量部以上8.5質量部以下の含有がさらに好ましい。
【0037】
珪砂は、セメント100質量部に対し、70質量部以下含有されていることが好ましい。これは、セメント100質量部に対し珪砂が70質量部以下の含有であれば、安価で強度と収縮のバランスが健全なセメントモルタルを作製できることによる。一方、所望により、珪砂を含有させないで、セメントモルタルを作製することも可能である。
【0038】
樹脂は、セメント100質量部に対し、30質量部以下、好ましくは20質量部以下含有されていることが好ましい。これは、防せい効果を維持しながら、鉄筋に対する付着強さを維持できることによる。一方、所望により、樹脂を含有させないことも可能である。
【0039】
混和剤は、それぞれの混和剤の性質に応じ、適宜量を添加することが好ましい。
【0040】
8.施工方法
前記1~3または1~5にて説明した各成分を、7.で説明した配合にて有する本発明に係る補修用防せい材を施工する際には、適宜な容器へ、所定量の水を投入後、撹拌機で攪拌しながら、その他の成分の混合粉体を徐々に投入し、均一なスラリーとなるよう混錬することが好ましい。
尚、水の投入量は現場での施工性を考慮して、適宜に決定すれば良い。
【0041】
得られた本発明に係る補修用防せい材のスラリーを、鉄筋コンクリートの補修箇所へ施工する方法は、従来の技術に係る補修用防せい材の施工方法と同様の方法を用いることが出来るが、塗り付け量は、例えば1.85kg/m程度が好ましい。
具体的には、はけ、または、リシンガン等を用いて、鉄筋表面および下地コンクリートのつり面等に塗布すれば良い。
【実施例0042】
実施例を参照しながら、本発明について具体的に説明する。尚、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
1.実施例に係る補修用防せい材試料の配合および調製
実施例に係る補修用防せい材試料の成分として、(1)HAp、(2)セメント、(3)樹脂、(4)珪砂、(5)水、を準備した。以下、それぞれの成分について説明し、(6)試料の調整、について説明する
【0044】
(1)HAp
家畜骨由来のHAp粉末(粒径1~10μm)(DOWAエコシステム秋田株式会社製)を準備した。
【0045】
(2)セメント
普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント株式会社製)を準備した。
【0046】
(3)珪砂
7号珪砂(松本産業社製パール珪砂7号(KC7))を準備した。
【0047】
(4)樹脂
酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル/アクリル酸エステル共重合体樹脂(ジャパンコーティングレジン株式会社製Mowinyl―Powder DM2072P)を準備した。
【0048】
(5)水(上水道水)を準備した。
【0049】
(6)試料の調製
表1に示す配合により、実施例に係る補修用防せい材試料1、2を調製し、各々3試料に分割して試料AからCを調製した。
調製した。
【0050】
【表1】
【0051】
2.評価試験
「鉄筋コンクリート造建築物の耐久性調査・診断および補修方針(案)・同解説」1997制定 日本建築学会 編著、における186~194頁の「付1.3 鉄筋コンクリート補修用防せい材の品質基準(案)」における「付表1.3.1 品質基準」に準拠して、実施例に係る補修用防せい材試料1、2の評価試験を実施した。
【0052】
具体的には、「付表1.3.1 品質基準」に係る試験である(1)耐アルカリ性試験、(2)鉄筋に対する付着強さ試験、(3)防せい性試験、を実施した。以下、各試験の簡単な説明を行い、各試験結果について(4)まとめ、にて説明する。
尚、当該付表1.3.1を下記の表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
(1)耐アルカリ性試験
150mm×70mm×0.8mmの鋼板を6枚試験版として準備した。当該試験板に実施例に係る補修用防せい材試料1、2を、各々3試料ずつ塗布付けした。塗布付け量は1.85kg/mとし、施工方法は刷毛塗り法を用いた。
補修用防せい材試料を塗布した試験板を7日間養生してから規定のアルカリ溶液に浸漬した。アルカリ溶液への浸漬時間は24時間とし、水洗してから塗膜の状態を観察した。
試験結果(試料AからCの3試料)を下記の表3に示す。
【0055】
(2)鉄筋に対する付着強さ試験
規定の鉄筋6本へ、実施例に係る補修用防せい材試料1、2を、各々3試料ずつ塗布した後、24時間養生し、規定の標準コンクリートを打ち込み成型した。そして、コンクリート打ち込みから28日後に鉄筋を引き抜いた際の最大荷重を計測して求めた。
試験結果(試料AからCの3試料の平均値)を下記の表3に示す。
【0056】
(3)防せい性試験
規定の鉄筋6本へ、実施例に係る補修用防せい材試料1、2を、各々3試料ずつ塗布した後、24時間養生し、規定の標準コンクリートを打ち込み成型した。そして防せい率は、中性化および塩化ナトリウム溶液による促進試験を経た後、下記のように棒鋼の発せい面積を計測して求めた。
試験後、試料を割裂して棒鋼を取り出し、10%クエン酸二アンモニウム溶液中において、ブラシを用い1分間棒鉄表面の軽微なさび落としを行い、アセトンで洗浄した後、JIS A6205の附属書2の4.(3)に従って、棒鋼の発せい面積を求めた。但し、棒鋼の発せい面積は、基材(下地)部分と補修材部分とに分けて、それぞれ求めた。
棒鋼の発せい率を、式1によって計算し、有効数字3けたに丸めた。

補修用供試体の発せい率(%)=[{棒鋼の発せい面積(mm)}/{棒鋼の有効面積(mm)}]×100・・・・・・・式1

ここで、棒鋼の有効面積とは、棒鋼の発せい可能な面積(基材または補修材で被覆された部分の面積)とし、基材(下地)部分と補修材部分に分けて、それぞれ計算した。
結果の判定は、比較用のモルタルを基準とし、補修用防せい材試料に代えて、比較用のモルタルを用いて上記促進試験を経た後、式1を用いて、比較用モルタルの発せい率(%)を求めた。
そして、防せい材の効果を、式2によって求めた防せい率(%)によって判定した。但し、防せい率は、基材(下地)部分と補修材部分とに分けて、それぞれ計算した。

防せい率(%)=[{比較用モルタルの発せい率(%)-補修用供試体の発せい率(%)}/{比較用モルタルの発せい率(%)}]×100・・・・・・・式2

試験結果(試料AからCの3試料の平均値)を下記の表3に示す。
【0057】
【表3】
【0058】
(4)まとめ
表3に示す結果から明らかなように、「(1)耐アルカリ性試験」において、実施例に係る補修用防せい材試料1、2とも塗膜に異常は認められず、鉄筋コンクリート補修用防せい材品質基準(案)(本実施例において「品質基準」と略記する場合がある。)を満足していることが判明した。
【0059】
次に、「(2)鉄筋に対する付着強さ試験」において、鉄筋に対する付着強さは、補修用防せい材試料1よりも補修用防せい材試料2の方がやや大きな値を示した。尤も、補修用防せい材試料1、2とも、品質基準である7.8N/mmを大きく上回り、鉄筋に対する十分な付着強さを発揮することが判明した。
【0060】
次に、「(3)防せい性試験」において、補修用防せい材試料の防せい率は、補修用防せい材試料2よりも補修用防せい材試料1の方がやや大きな値を示した。尤も、補修用防せい材試料1、2とも、品質基準である処理部:50%以上、未処理部:-10%以上を大きく上回り、十分な防せい性を発揮することが判明した。
【0061】
以上の結果より、実施例に係る補修用防せい材試料1、2とも、品質基準を満足するばかりか、当該品質基準を大きく上回る、鉄筋に対する付着強さや防せい性を発揮することが判明した。

図1
図2
図3