(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022035734
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物およびその成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 33/06 20060101AFI20220225BHJP
C08L 51/06 20060101ALI20220225BHJP
C08F 265/06 20060101ALI20220225BHJP
C08F 220/12 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
C08L33/06
C08L51/06
C08F265/06
C08F220/12
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020140254
(22)【出願日】2020-08-21
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】田口 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】内藤 吉孝
【テーマコード(参考)】
4J002
4J026
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BG04W
4J002BG05W
4J002BG06W
4J002BN12X
4J002FD096
4J002GB00
4J002GC00
4J002GL00
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4J002GQ00
4J026AA45
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4J026BA05
4J026BA27
4J026BA31
4J026BA48
4J026DA03
4J026DA04
4J026DB03
4J026DB04
4J026EA04
4J026FA03
4J026GA09
4J100AL03P
4J100AL03Q
4J100DA01
4J100JA28
4J100JA43
4J100JA57
4J100JA67
(57)【要約】
【課題】発色性、耐候性、および耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)と、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)とを特定の割合で共重合した共重合体(A)に対し、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、シアン化ビニル化合物および芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体混合物(m1)をグラフト重合してなるグラフト共重合体(B)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むビニル系単量体混合物(m2)の重合反応物である共重合体(C)とを含む熱可塑性樹脂組成物。グラフト共重合体(B)は少なくとも特定の体積平均粒子径のグラフト共重合体(B)を含む。共重合体(A)は特定の体積平均粒子径と粒度分布を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)と、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)との共重合体(A)に対し、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、シアン化ビニル化合物および芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体混合物(m1)をグラフト重合してなるグラフト共重合体(B)と、
(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むビニル系単量体混合物(m2)の重合反応物である共重合体(C)と
を含む熱可塑性樹脂組成物であって、
該グラフト共重合体(B)として、少なくとも体積平均粒子径300~800nmのグラフト共重合体(B)を含み、
該共重合体(A)中の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)単位と芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)単位との合計100質量%中の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)単位の含有量が67~83質量%で、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)単位の含有量が17~33質量%であり、
該共重合体(A)の体積平均粒子径(X)が50~800nmであり、
該共重合体(A)の体積平均粒子径(X)をXで表し、粒子径分布曲線における上限からの頻度の累積値が10%になったところの粒子径を頻度上限10%体積粒子径(Y)としてYで表し、粒子径分布曲線における下限からの頻度の累積値が10%になったところの粒子径を頻度下限10%体積粒子径(Z)としてZで表したとき、体積平均粒子径(X)、頻度上限10%体積粒子径(Y)および頻度下限10%体積粒子径(Z)が、以下の(1)および(2)を満たすことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
(1) Y/X≦1.4
(2) Z/X≧0.6
【請求項2】
前記グラフト共重合体(B)と前記共重合体(C)との合計100質量部中にグラフト共重合体(B)を10~50質量部、共重合体(C)を50~90質量部含む、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ビニル系単量体混合物(m1)が、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを10~30質量%、シアン化ビニル化合物を10~30質量%、芳香族ビニル化合物を50~70質量%含む、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記グラフト共重合体(B)の共重合体(A)とビニル系単量体混合物(m1)との合計100質量%に対する共重合体(A)の割合が50~80質量%で、ビニル系単量体混合物(m1)の割合が20~50質量%である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
更に染料(D)を含む、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発色性、耐候性、および耐衝撃性、特に耐候発色性に優れた成形品を得ることができる熱可塑性樹脂組成物とその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
車輌外装部品、例えば、ドアミラー、ピラー、ガーニッシュ、モール、フェンダー、バンパー、フロントグリル、カウル類等には、耐衝撃性、耐候性に優れることだけでなく、高級な製品の意匠性に合わせた高い外観品質が求められ、具体的には、高発色性、特に漆黒の発色性が要求される。
【0003】
従来、車輌外装部品等では、成形品を塗装して高い外観品質を得ていたが、塗装によるものでは、環境への負荷が大きいこと、工程が煩雑であること、不良率が高いことから、近年、予め熱可塑性樹脂に着色剤を配合して成形品の塗装を省略することが行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、無塗装もしくはクリアコートのみでも漆黒調の高い外観を有し且つ製品内部からの光漏れがなく、耐熱性、耐衝撃性が良好で表面硬度が高い成形体を与えることができる熱可塑性樹脂組成物として、グラフト共重合体(A)と、芳香族ビニル単量体単位と、不飽和ニトリル単量体単位とを有する共重合体(B)と、アクリル樹脂(C)と、カーボンブラック(D)と、染料(E)とを含み、アセトン不溶分の含有量が5~25質量%であり、アセトン可溶分中のメタクリル酸エステル単位および/またはアクリル酸エステル単位の含有量が35~85質量%であり、アセトン可溶分中に、特定の化合物単位を所定の割合で含む熱可塑性樹脂組成物が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、耐衝撃性、耐候性、発色性等に優れる熱可塑性樹脂組成物として、硬質樹脂であるメタクリル酸エステル樹脂にAES樹脂を配合し、複数の原色合成染料が黒色になるように調合した有機染料によって黒色に着色した熱可塑性樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-93910号公報
【特許文献2】特開2005-132970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の熱可塑性樹脂組成物では、樹脂成分自体の透明性ないしは耐候透明性が不十分であるために、染料による発色性、特に漆黒の発色性、さらにはその耐候発色性に劣り、経時により漆黒調の外観が損なわれるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、発色性、耐候性、および耐衝撃性、特に耐候発色性に優れた成形品を得ることができる熱可塑性樹脂組成物とその成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)と、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)とを所定の割合で用いた、特定の平均粒子径および粒度分布を有する共重合体(A)の存在下に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、シアン化ビニル化合物および芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体混合物(m1)をグラフト重合して得られるグラフト共重合体(B)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むビニル系単量体混合物(m2)の重合反応物である共重合体(C)とを含む熱可塑性樹脂組成物により、発色性、耐候性、耐衝撃性に優れ、特に耐候発色性において顕著に優れた成形品を得ることができることを見出した。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0010】
[1] (メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)と、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)との共重合体(A)に対し、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、シアン化ビニル化合物および芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体混合物(m1)をグラフト重合してなるグラフト共重合体(B)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むビニル系単量体混合物(m2)の重合反応物である共重合体(C)とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、該グラフト共重合体(B)として、少なくとも体積平均粒子径300~800nmのグラフト共重合体(B)を含み、該共重合体(A)中の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)単位と芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)単位との合計100質量%中の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)単位の含有量が67~83質量%で、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)単位の含有量が17~33質量%であり、該共重合体(A)の体積平均粒子径(X)が50~800nmであり、該共重合体(A)の体積平均粒子径(X)をXで表し、粒子径分布曲線における上限からの頻度の累積値が10%になったところの粒子径を頻度上限10%体積粒子径(Y)としてYで表し、粒子径分布曲線における下限からの頻度の累積値が10%になったところの粒子径を頻度下限10%体積粒子径(Z)としてZで表したとき、体積平均粒子径(X)、頻度上限10%体積粒子径(Y)および頻度下限10%体積粒子径(Z)が、以下の(1)および(2)を満たすことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
(1) Y/X≦1.4
(2) Z/X≧0.6
【0011】
[2] 前記グラフト共重合体(B)と前記共重合体(C)との合計100質量部中にグラフト共重合体(B)を10~50質量部、共重合体(C)を50~90質量部含む、[1]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0012】
[3] 前記ビニル系単量体混合物(m1)が、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを10~30質量%、シアン化ビニル化合物を10~30質量%、芳香族ビニル化合物を50~70質量%含む、[1]または[2]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0013】
[4] 前記グラフト共重合体(B)の共重合体(A)とビニル系単量体混合物(m1)との合計100質量%に対する共重合体(A)の割合が50~80質量%で、ビニル系単量体混合物(m1)の割合が20~50質量%である、[1]ないし[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0014】
[5] 更に染料(D)を含む、[1]ないし[4]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0015】
[6] [1]ないし[5]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0016】
本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、発色性、耐候性および耐衝撃性に優れ、特に耐候発色性において顕著に優れた成形品が提供される。
このため、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる本発明の成形品は、車輌外装部品、例えば、ドアミラー、ピラー、ガーニッシュ、モール、フェンダー、バンパー、フロントグリル、カウル類等として好適に用いることができ、無塗装であっても、長期に亘り良好な外観を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」と「メタクリル酸」の一方または双方を意味するものであり、「(メタ)アクリレート」についても同様である。
また、「単位」とは、重合体中に含まれる、重合前の化合物(単量体、即ちモノマー)に由来する構造部分を意味し、例えば、「(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)単位」とは「(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)に由来して共重合体(A)中に含まれる構造部分」を意味する。重合体の各単量体単位の含有割合は、当該重合体の製造に用いた単量体混合物中の該単量体の含有割合に該当する。
【0018】
〔熱可塑性樹脂組成物〕
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)と、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)との共重合体(A)(以下、「本発明の共重合体(A)」と称す場合がある。)に対し、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、シアン化ビニル化合物および芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体混合物(m1)をグラフト重合してなるグラフト共重合体(B)(以下、「本発明のグラフト共重合体(B)」と称す場合がある。)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むビニル系単量体混合物(m2)の重合反応物である共重合体(C)とを含む熱可塑性樹脂組成物であり、本発明のグラフト共重合体(B)として少なくとも体積平均粒子径300~800nmのグラフト共重合体(B)を含み、本発明の熱可塑性樹脂組成物に含まれる本発明の共重合体(A)中の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)単位と芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)単位との合計100質量%中の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)単位の含有量が67~83質量%で、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)単位の含有量が17~33質量%であり、該共重合体(A)の体積平均粒子径(X)が50~800nmで、該共重合体(A)の体積平均粒子径(X)をXで表し、粒子径分布曲線における上限からの頻度の累積値が10%になったところの粒子径を頻度上限10%体積粒子径(Y)としてYで表し、粒子径分布曲線における下限からの頻度の累積値が10%になったところの粒子径を頻度下限10%体積粒子径(Z)としてZで表したとき、体積平均粒子径(X)、頻度上限10%体積粒子径(Y)および頻度下限10%体積粒子径(Z)が、以下の(1)および(2)を満たすことを特徴とする。
(1) Y/X≦1.4
(2) Z/X≧0.6
【0019】
[共重合体(A)]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)と、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)との共重合体である。
【0020】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)としては、アルキル基の炭素数が1~12である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。中でも、得られるグラフト共重合体(B)を配合してなる本発明の熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が優れることから、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸エチルが特に好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)としては、フェニル基、ベンジル基等の芳香族炭化水素基あるいは芳香族炭化水素基を含む基を有する(メタ)アクリル酸エステルであればよく、例えば(メタ)アクリル酸アリールエステルや(メタ)アクリル酸アリーロキシエステル、アルキルエステル部分の置換基としてフェニル基等のアリール基やフェノキシ基等のアリーロキシ基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)としては、得られるグラフト共重合体(B)を配合してなる本発明の熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が優れることから、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2-フェノキシエチルが特に好ましい。芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0022】
本発明の共重合体(A)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)単位と、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)単位の合計100質量%中、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)単位を67~83質量%、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)単位を17~33質量%含む。(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)単位、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)単位が上記範囲内であることにより、この共重合体(A)から得られるグラフト共重合体(B)を配合してなる本発明の熱可塑性樹脂組成は、透明性に優れるものとなり、発色性に優れ、また、耐衝撃性にも優れたものとなる。この観点から、本発明の共重合体(A)の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)単位と芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)単位の合計100質量%中の各単位の含有量は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)単位が70~80質量%で、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)単位が20~30質量%であることが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)の含有量が上記下限を下回ると、透明性と耐衝撃性が低下する傾向にあり、また、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)の含有量が上記上限を超えると、透明性が低下して発色性が低下する傾向にある。
【0023】
共重合体(A)中の(メタ)アクリル酸エステル(a)単位および芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)単位の含有量は、共重合体(A)やグラフト共重合体(B)、もしくはグラフト共重合体(B)と後述の共重合体(C)とを含む熱可塑性樹脂組成物およびその成形品を、600℃で加熱することでモノマー単位まで分解した後、GC-MS装置で成分分析することで算出することができるが、前述の通り、共重合体(A)の製造に用いた(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)と芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)との合計に占める(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)および芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)のそれぞれの含有割合が、各々、共重合体(A)中の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)単位および芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)単位の含有量に該当する。
【0024】
本発明の共重合体(A)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)と、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)以外に、架橋剤に由来する単位およびグラフト交叉剤に由来する単位のいずれか一方または両方を有する共重合体であることが好ましく、共重合体(A)がグラフト交叉剤および/または架橋剤に由来する単位を含むことでは、得られるグラフト共重合体(B)を配合してなる本発明の熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性をより一層改善する効果が奏される。
【0025】
グラフト交叉剤としては、アリル化合物、具体的には、メタクリル酸アリル、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
架橋剤としては、ジメタクリレート系化合物、具体例には、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
架橋剤および/またはグラフト交叉剤を用いる場合、本発明の共重合体(A)中の架橋剤および/またはグラフト交叉剤に由来する単位の割合は、得られるグラフト共重合体(B)を配合してなる本発明の熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が優れることから、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)単位と、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)単位と、架橋剤に由来する単位および/またはグラフト交叉剤に由来する単位との合計100質量%中、0.1~3質量%が好ましく、0.2~2質量%がより好ましい。
【0027】
なお、本発明の共重合体(A)は、本発明の目的を損なわない範囲で、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)単位、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)単位、必要に応じて用いられる架橋剤および/またはグラフト交叉剤に由来する単位以外のその他の単量体単位を含んでいてもよい。本発明の共重合体(A)に含まれていてもよいその他の単量体単位としては、後述のビニル系単量体混合物(m1)に含まれる(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)および芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)以外のビニル系単量体の1種または2種以上が挙げられるが、本発明の効果を有効に得る上で、これらのその他のビニル系単量体単位の含有量は、本発明の共重合体(A)100質量%中20質量%以下、特に10質量%以下であることが好ましい。
【0028】
本発明の共重合体(A)の製造方法としては特に制限されないが、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)と、本発明の芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)と、架橋剤および/またはグラフト交叉剤とを含む混合物を乳化重合、またはミニエマルション重合させる方法が好ましく、得られるグラフト共重合体(B)を配合してなる本発明の樹脂組成物の物性が優れることからミニエマルション重合させる方法が特に好ましい。
【0029】
共重合体(A)の乳化重合法による製造方法としては、水系溶媒にラジカル開始剤と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)と、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)と、架橋剤および/またはグラフト交叉剤とを加えて、乳化剤の存在下で共重合させる方法が挙げられる。
ラジカル開始剤と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)と、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)と、架橋剤および/またはグラフト交叉剤の添加方法は、一括、分割、連続のいずれでもよい。
【0030】
共重合体(A)を製造するミニエマルション重合は、これに限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)と、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)と、架橋剤および/またはグラフト交叉剤と、疎水性物質と、開始剤とを混合し、得られた混合物に水と、乳化剤とを加え、せん断力を付与してプレエマルション(ミニエマルション)を作製する工程、並びにこの混合物を重合開始温度まで加熱して重合させる工程を含むことができる。
【0031】
ミニエマルション化の工程では、例えば、超音波照射による剪断工程を実施することにより、前記剪断力によりモノマーが引きちぎられ、乳化剤に覆われたモノマー微小油滴が形成される。その後、開始剤の重合開始温度まで加熱することにより、モノマー微小油滴をそのまま重合し、高分子微粒子が得られる。ミニエマルションを形成させるための剪断力を加える方法は公知の任意の方法を用いることができ、ミニエマルションを形成できる高剪断装置としては、これらに限定されるものではないが、例えば、高圧ポンプおよび相互作用チャンバーからなる乳化装置、超音波エネルギーや高周波によりミニエマルションを形成させる装置等がある。高圧ポンプおよび相互作用チャンバーからなる乳化装置としては、例えば、SPX Corporation APV社製「圧力式ホモジナイザー」、(株)パウレック製「マイクロフルイダイザー」等が挙げられ、超音波エネルギーや高周波によりミニエマルションを形成させる装置としては、例えば、Fisher Scient製「ソニックディスメンブレーター」や(株)日本精機製作所製「ULTRASONIC HOMOGENIZER」等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0032】
なお、ミニエマルション化の際の水溶媒の使用量は、作業性、安定性、製造性等の観点から、重合後の反応系の固形分濃度が5~50質量%程度となるように、水以外の混合物100質量部に対して100~500質量部程度とすることが好ましい。
【0033】
ミニエマルション重合で共重合体(A)を製造する場合、疎水性物質を所定の割合で用いることが好ましい。プレエマルションを形成させる際に、疎水性物質を添加するとミニエマルション重合の製造安定性がより向上する傾向にあり、本発明に好適な共重合体(A)を製造することができる。
【0034】
疎水性物質としては、例えば炭素数10以上の炭化水素類、炭素数10以上のアルコール、質量平均分子量(Mw)10000未満の疎水性ポリマー、疎水性モノマー、例えば、炭素数10~30のアルコールのビニルエステル、炭素数12~30のアルコールのビニルエーテル、炭素数12~30の(メタ)アクリル酸アルキル、炭素数10~30(好ましくは炭素数10~22)のカルボン酸ビニルエステル、p-アルキルスチレン、疎水性の連鎖移動剤、疎水性の過酸化物等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
疎水性物質としては、より具体的には、ヘキサデカン、オクタデカン、イコサン、流動パラフィン、流動イソパラフィン、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、オリーブ油、セチルアルコール、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、500~10000の数平均分子量(Mn)を有するポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0036】
疎水性物質は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)と、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)と、架橋剤および/またはグラフト交叉剤の合計100質量部に対し、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは1~3質量部用いることが、共重合体(A)の粒子径制御の点で好ましい。
【0037】
本発明の共重合体(A)を製造する際に用いる乳化剤としては、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ロジン酸のアルカリ金属塩、アルケニルコハク酸のアルカリ金属塩等で例示されるカルボン酸系の乳化剤、アルキル硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウムなどの中から選ばれるアニオン系乳化剤等、公知の乳化剤を単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
乳化剤の添加量としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)と、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)と、架橋剤および/またはグラフト交叉剤の合計100質量部に対し、0.01~3.0質量部が好ましく、さらに好ましくは0.05~2.0質量部であることが、共重合体(A)の粒子径制御の点で好ましい。
【0039】
共重合体(A)の製造に用いられる開始剤はラジカル重合するためのラジカル重合開始剤であり、その種類に特に制限はないが、例えば、アゾ重合開始剤、光重合開始剤、無機過酸化物、有機過酸化物、有機過酸化物と遷移金属と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤等が挙げられる。これらのうち、加熱により重合を開始できるアゾ重合開始剤、無機過酸化物、有機過酸化物、レドックス系開始剤が好ましい。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
アゾ重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]フォルムアミド、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリックアシッド)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、ジメチル1,1’-アゾビス(1-シクヘキサンカルボキシレート)、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)等が挙げられる。
【0041】
無機過酸化物としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等が挙げられる。
【0042】
有機過酸化物としては、例えばペルオキシエステル化合物が挙げられ、その具体例としては、α,α’-ビス(ネオデカノイルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルペルオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシネオデカノエート、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルペルオキシネオデカノエート、t-ヘキシルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシネオデカノエート、t-ヘキシルペルオキシピバレート、t-ブチルペルオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(2-エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルペルオキシ2-ヘキシルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシ2-ヘキシルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシイソブチレート、t-ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルペルオキシマレイックアシッド、t-ブチルペルオキシ3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシラウレート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(m-トルオイルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルペルオキシ2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ヘキシルペルオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシ-m-トルオイルベンゾエート、t-ブチルペルオキシベンゾエート、ビス(t-ブチルペルオキシ)イソフタレート、1,1-ビス(t-ヘキシルペルオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロドデカン、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、n-ブチル4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレート、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、α,α’-ビス(t-ブチルペルオキシド)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、ジイソノナノイルペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、ジメチルビス(t-ブチルペルオキシ)-3-ヘキシン、ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ビス(t-ブチルペルオキシ)トリメチルシクロヘキサン、ブチル-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレラート、2-エチルヘキサンペルオキシ酸t-ブチル、ジベンゾイルペルオキシド、パラメンタンハイドロペルオキシドおよびt-ブチルペルオキシベンゾエート等が挙げられる。
【0043】
レドックス系開始剤としては、有機過酸化物と硫酸第一鉄、キレート剤および還元剤を組み合わせたものが好ましい。例えば、クメンヒドロペルオキシド、硫酸第一鉄、ピロリン酸ナトリウム、およびデキストロースからなるものや、t-ブチルヒドロペルオキシド、ナトリウムホルムアルデヒトスルホキシレート(ロンガリット)、硫酸第一鉄、およびエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを組み合わせたもの等が挙げられる。
【0044】
開始剤としては、これらのうち、特に有機過酸化物が好ましい。
【0045】
開始剤の添加量としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)と、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)と、架橋剤および/またはグラフト交叉剤の合計100質量部に対して通常5質量部以下、好ましくは3質量部以下、例えば0.001~3質量部である。
【0046】
上記のプレエマルションを調製する工程は通常常温(10~50℃程度)で行われ、ミニエマルション重合の工程は40~100℃で30~600分程度行われる。
【0047】
本発明の共重合体(A)の粒子径は、体積平均粒子径で50~800nmであり、好ましくは100~600nm、より好ましくは250~450nmである。体積平均粒子径が上記範囲内であれば、重合時の凝塊物が少なく、この共重合体(A)を用いたグラフト共重合体(B)を配合した本発明の熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性がより良好となる。
【0048】
本発明の共重合体(A)は、体積平均粒子径(X)をXで表し、粒子径分布曲線における上限からの頻度の累積値が10%になったところの粒子径を頻度上限10%体積粒子径(Y)としてYで表し、粒子径分布曲線における下限からの頻度の累積値が10%になったところの粒子径を頻度下限10%体積粒子径(Z)としてZで表したとき、下記(1),(2)の関係式を共に満たすものである。
(1) Y/X≦1.4
(2) Z/X≧0.6
上記(1)および(2)を満たすことで、粒子径分布がより狭くなり、本発明の熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、発色性が良好となる。本発明の共重合体(A)は、その粒度分布として上記(1)および(2)の関係式を満たせばよいが、特に下記(1A),(2A)の関係式を満たすことが、本発明の熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性の観点から好ましい。
(1A) 1.0≦Y/X≦1.3
(2A) 0.7≧Z/X≧1.0
【0049】
共重合体(A)の平均粒子径や粒度分布を上記好適範囲に制御する方法としては、特に制限されないが、例えば、乳化剤の種類または使用量を調整する方法が挙げられる。
【0050】
なお、本発明の共重合体(A)の体積平均粒子径(X)、頻度上限10%体積粒子径(Y)、頻度下限10%体積粒子径(Z)は、後述の実施例の項に記載される方法で、例えば上述の水性分散体に分散している共重合体(A)に対して測定される。
【0051】
[グラフト共重合体(B)]
本発明のグラフト共重合体(B)は、本発明の共重合体(A)に対し、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、シアン化ビニル化合物および芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体混合物(m1)がグラフト重合したグラフト共重合体である。
本発明のグラフト共重合体(B)は、本発明の共重合体(A)の存在下に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、シアン化ビニル化合物および芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体混合物(m1)を重合して得られる。
【0052】
ビニル系単量体混合物(m1)に含まれる(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が1~20、特に1~10のものが好ましく、そのアルキル基は直鎖アルキル基でも、分岐アルキル基でも、シクロアルキル基でもよいが、好ましくは直鎖アルキル基である。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸オクチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸デシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ベンジル等のアクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。これらの中でも、得られるグラフト共重合体(B)を配合してなる本発明の熱可塑性樹脂組成物よりなる成形品の透明性、即ち発色性と、耐衝撃性、耐候性が高まる観点から、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルが好ましく、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルがより好ましい。
【0053】
これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
ビニル系単量体混合物(m1)に含まれる(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、後述のビニル系単量体混合物(m2)に含まれる(メタ)アクリル酸アルキルエステルと同じ構造であることが、本発明の熱可塑性樹脂組成物およびその成形品の発色性、耐衝撃性、耐候性の点で特に好ましい。
【0055】
ビニル系単量体混合物(m1)に含まれる(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有率に特に制限はないが、10~30質量%であることが、本発明の熱可塑性樹脂組成物およびその成形品の耐衝撃性と発色性のバランスが優れる点で好ましい。
【0056】
ビニル系単量体混合物(m1)に含まれるシアン化ビニル化合物としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。これらの中でも、得られる成形品の透明性、即ち発色性と、耐衝撃性が高まる観点から、アクリロニトリルが好ましい。
これらのシアン化ビニル化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
ビニル系単量体混合物(m1)に含まれるシアン化ビニル化合物の含有率に特に制限はないが、10~30質量%であることが、本発明の熱可塑性樹脂組成物およびその成形品の耐衝撃性と発色性のバランスが優れる点で好ましい。
【0058】
ビニル系単量体混合物(m1)に含まれる芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-,m-もしくはp-メチルスチレン、ビニルキシレン、p-t-ブチルスチレン、エチルスチレンなどが挙げられる。これらの中でも、得られる成形品の発色性と耐衝撃性が高まる観点から、スチレンが好ましい。
これらの芳香族ビニル化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
ビニル系単量体混合物(m1)に含まれる芳香族ビニル化合物の含有率に特に制限はないが、50~70質量%であることが、本発明の熱可塑性樹脂組成物およびその成形品の耐衝撃性と発色性のバランスが優れる点で好ましい。
【0060】
ビニル系単量体混合物(m1)は、上記の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、シアン化ビニル化合物および芳香族ビニル化合物と、これらと共重合可能な他の単量体を、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルなどのアクリル酸アルキルエステルを解重合抑制のために含むことができる。
【0061】
他の単量体としては、例えば、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-n-プロピルマレイミド、N-i-プロピルマレイミド、N-n-ブチルマレイミド、N-i-ブチルマレイミド、N-tert-ブチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のN-シクロアルキルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-アルキル置換フェニルマレイミド、N-クロロフェニルマレイミド等のN-アリールマレイミド、N-アラルキルマレイミド等のマレイミド系化合物が挙げられ、これらは1種でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0062】
本発明のグラフト共重合体(B)は、本発明の共重合体(A)に(メタ)アクリル酸アルキルエステル、シアン化ビニル化合物および芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体混合物(m1)がグラフト重合している。
得られるグラフト共重合体(B)を配合してなる本発明の熱可塑性樹脂組成物および成形品の物性バランスが優れることから、グラフト共重合体(B)の製造に用いる共重合体(A)およびビニル系単量体混合物(m1)は、グラフト共重合体(B)100質量%中、共重合体(A)が50~80質量%、ビニル系単量体混合物(m1)が20~50質量%であることが好ましい。
【0063】
また、本発明のグラフト共重合体(B)は、得られるグラフト共重合体(B)を配合してなる本発明の熱可塑性樹脂組成物およびその成形品の物性バランスが優れることから、グラフト率が25~100%であることが好ましい。グラフト共重合体(B)のグラフト率は、後述の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0064】
グラフト共重合体(B)は、塊状重合法、溶液重合法、塊状懸濁重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法により製造されるが、得られるグラフト共重合体(B)を配合してなる本発明の熱可塑性樹脂組成物およびその成形品の物性バランスが良好なことから乳化重合法が好ましい。
【0065】
乳化グラフト重合の方法としては、本発明の共重合体(A)のエマルションの存在下に、ビニル系単量体混合物(m1)を一括で、または連続的、または断続的に添加してラジカル重合する方法が挙げられる。また、グラフト重合の際には、グラフト重合体(B)の分子量の調節やグラフト率を制御する目的で連鎖移動剤を使用したり、ラテックスの粘度やpHを調節する目的で公知の無機電解質等を使用したりしてもよい。また、乳化グラフト重合においては、各種の乳化剤やラジカル開始剤を必要に応じて使用することができる。
乳化剤、ラジカル開始剤の種類や添加量については特に制限されない。また、乳化剤、ラジカル開始剤としては、共重合体(A)の説明において先に例示した乳化剤、ラジカル開始剤が挙げられる。
【0066】
グラフト共重合体(B)の水性分散体から、グラフト共重合体(B)を回収する方法としては、(i)凝固剤を溶解させた熱水中にグラフト共重合体(B)の水性分散体を投入して、スラリー状態に凝析することによって回収する方法(湿式法)、(ii)加熱雰囲気中にグラフト共重合体(B)の水性分散体を噴霧することにより、半直接的にグラフト共重合体(B)を回収する方法(スプレードライ法)等が挙げられる。
【0067】
凝固剤としては、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸等の無機酸、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の金属塩等が挙げられる。凝固剤は、重合で用いた乳化剤に対応させて選定される。すなわち、脂肪酸石鹸、ロジン酸石鹸等のカルボン酸石鹸のみを用いた場合、どのような凝固剤を用いてもよい。ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の酸性領域でも安定な乳化力を示す乳化剤が含まれている場合、金属塩を用いる必要がある。
【0068】
スラリー状態のグラフト共重合体(B)から乾燥状態のグラフト共重合体(B)を得る方法としては、(i)洗浄によって、スラリーに残存する乳化剤残渣を水中に溶出させた後に、該スラリーを遠心脱水機またはプレス脱水機で脱水し、さらに気流乾燥機等で乾燥する方法、(ii)圧搾脱水機、押出機等で脱水と乾燥とを同時に実施する方法等が挙げられる。この乾燥後、グラフト共重合体(B)は、粉体または粒子状で得られる。また、圧搾脱水機または押出機から排出されたグラフト共重合体(B)を直接、熱可塑性樹脂組成物を製造する押出機または成形機に送ることもできる。
【0069】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明のグラフト共重合体(B)として、体積平均粒子径300~800nm、好ましくは350~600nmのものを少なくとも含む。体積平均粒子径300~800nmのグラフト共重合体(B)を含むことで、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性を良好なものとすることができる。
【0070】
本発明においては、耐衝撃性をより高めることができることから、グラフト共重合体(B)として、体積平均粒子径の異なる2種以上のものを混合して用いることが好ましく、この場合、体積平均粒子径が300~800nmの範囲にある比較的粒子径の大きいグラフト共重合体(B)(以下、「グラフト共重合体(Ba)」と称す場合がある。)と体積平均粒子径が50~150nmの範囲にある比較的粒子径の小さいグラフト共重合体(B)(以下、「グラフト共重合体(Bb)」と称す場合がある。)とを混合して用いることが好ましい。このように、粒子径の異なるグラフト共重合体(Ba)とグラフト共重合体(Bb)とを混合して用いることにより粒子間距離が短くなり、耐衝撃性のより一層の向上効果を得ることができる。このグラフト共重合体(Ba)の体積平均粒子径はより好ましくは350~600nmであり、グラフト共重合体(Bb)の体積平均粒子径はより好ましくは80~140nmである。
【0071】
また、比較的粒子径の大きいグラフト共重合体(Ba)と比較的粒子径の小さいグラフト共重合体(Bb)とを混合して用いることによる耐衝撃性の向上効果を有効に得るために、グラフト共重合体(Ba)とグラフト共重合体(Bb)との合計100質量%中のグラフト共重合体(Ba)の割合は20~80質量%で、グラフト共重合体(Bb)の割合は20~80質量%であることが好ましく、グラフト共重合体(Ba)の割合は30~70質量%で、グラフト共重合体(Bb)の割合は30~70質量%であることがより好ましい。
なお、グラフト共重合体(Ba)とグラフト共重合体(Bb)とを組み合わせて用いるということは、これらグラフト共重合体(Ba)の体積平均粒子径とグラフト共重合体(Bb)の体積平均粒子径との中間の体積平均粒子径を有するグラフト共重合体(B)を1種のみ用いることとは粒子間距離を短くできるという点で異なる。
【0072】
グラフト共重合体(B)、グラフト共重合体(Ba)、グラフト共重合体(Bb)の体積平均粒子径を上記好適範囲に制御する方法としては特に制限されないが、例えば、共重合体(A)製造時に乳化剤の種類または使用量を調整する方法が挙げられる。
【0073】
なお、グラフト共重合体(B)の体積平均粒子径は、後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0074】
[共重合体(C)]
共重合体(C)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むビニル系単量体混合物(m2)を重合して得られる。
【0075】
ビニル系単量体混合物(m2)は、得られる本発明の熱可塑性樹脂組成物およびその成形品の透明性、即ち発色性と、耐候性が優れることから、(メタ)アクリル酸エステルが必須成分である。
【0076】
ビニル系単量体混合物(m2)に含まれる(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、ビニル系単量体混合物(m1)に含まれる(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして前述したものが挙げられる。前述した(メタ)アクリル酸アルキルエステルの中でも、得られる本発明の熱可塑性樹脂組成物およびその成形品の発色性と耐衝撃性、耐候性が高まる観点から、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルが好ましく、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルがより好ましい。
【0077】
これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、メタクリル酸メチルとアクリル酸メチルとを1:0.01~0.2(質量比)の割合で併用することで、共重合体(C)の解重合を抑制できることから好ましい。
【0078】
ビニル系単量体混合物(m2)に含まれる(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有率は60~100質量%であることが、得られる本発明の熱可塑性樹脂組成物およびその成形品の透明性と耐候性が優れる点で好ましく、70~100質量%であることがより好ましい。
【0079】
ビニル系単量体混合物(m2)は、上記の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、これらと共重合可能な他の単量体を、熱可塑性樹脂組成物およびその成形品の物性を損なわない範囲において、含むことができる。
他の単量体としては、ビニル系単量体混合物(m1)に含まれるシアン化ビニル化合物、芳香族ビニル化合物および他の単量体として前述したものが挙げられ、他の単量体は1種でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0080】
共重合体(C)の質量平均分子量に特に制限はないが、10,000~300,000の範囲であることが好ましく、特に50,000~200,000の範囲であることが好ましい。共重合体(C)の質量平均分子量が上記範囲内であれば、本発明の熱可塑性樹脂組成物の流動性、耐衝撃性が優れる。
なお、共重合体(C)の質量平均分子量は、後述の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0081】
共重合体(C)の製造方法としては特に制限されず、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合などの公知の方法が挙げられる。得られる熱可塑性樹脂組成物の耐熱性の点からは、懸濁重合、塊状重合が好ましい
【0082】
共重合体(C)の製造時に用いる重合開始剤に特に制限はないが、例えば有機過酸化物類が挙げられる。
【0083】
共重合体(C)の製造時に、共重合体(C)の分子量を調整するため、連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤に特に制限はないが、メルカプタン類、α-メチルスチレンダイマー、テルペン類等が挙げられる。
【0084】
[染料(D)]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、発色性の効果の観点から、好ましくは染料(D)を含む。
【0085】
本発明で用いる染料(D)には特に制限はないが、例えば、メチン系合成染料、アントラキノン系合成染料、ペリノン系合成染料、アゾ系合成染料、キノリン系合成染料等の有機染料が挙げられる。これらの染料は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよいが、本発明では特に、これらの染料の2種以上を黒色になるように調合して用いることが、発色性としての漆黒性において顕著な効果が得られることから、好ましい。
【0086】
メチン系合成染料の具体例としては、Solvent Orange 80、Solvent Orenge 107、Solvent Yellow 93のカラーインデックスで市販されているメチン系合成染料が挙げられる。
【0087】
アントラキノン系合成染料の具体例としては、Solvet Blue 35、Solvent Green 3、Solvent Orange 28、Solvent Red 111、Solvent Red 168、Solvent Red 207、Disperse Red 22、Solvent Red 52、Disperse Red 60、Disperse Violet 31、Solvent Blue 36、Solvent Blue 83、Solvent Blue 97、Solvent Blue 78、Solvent Blue 94、Solvent Blue 63、Solvent Blue 87、Solvent Red 149、Solvent GREEN 28、Solvent Red 151、Solvent Red 150等のカラーインデックスで市販されているアントラキノン系合成染料が挙げられる。
【0088】
ペリノン系合成染料の具体例としては、Solvent Orange 60、Solvent Red 135、Solvent Red 179のカラーインデックスで市販されているペリノン系合成染料が挙げられる。
【0089】
アゾ系合成染料の具体例としては、Solvent Yellow 14、Solvent Yellow 16、Solvent Red 23、Solvent Red 24、Solvent Red 27のカラーインデックスで市販されているアゾ系合成染料が挙げられる。
【0090】
キノリン系合成染料の具体例としては、Solvent Yellow 33、Solvent Yellow 157、Disperce Yellow 54、Disperse Yellow 160のカラーインデックスで市販されているキノリン系合成染料が挙げられる。
【0091】
これらの合成染料はそれぞれ、一種単独では黒色ではなく、色調の異なる複数種が組み合わされることで黒色を呈する。複数種の合成染料の組み合わせおよびそれらの質量比は、各合成染料の色調に応じて、それらを混合したときに黒色を呈するように適宜設定される。色調の組み合わせの例としては、特に限定するものではないが、オレンジ色と緑色と
赤色との組み合わせが挙げられる。例えば、Solvent Orange 107とSolvent Green 3とSolvent Red 52とを、Solvent Orange 107:Solvent Green 3:Solvent Red 52=1:1:1の質量比で混合することで、黒色を呈する有機染料が得られる。
【0092】
[熱可塑性樹脂組成物]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、前述の本発明のグラフト共重合体(B)と上述の共重合体(C)とを含み、好ましくは、更に上記の染料(D)を含む。
【0093】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における本発明のグラフト重合体(B)の含有率は、グラフト共重合体(B)と共重合体(C)の合計を100質量%とした場合に、10~50質量%であることが好ましく、共重合体(C)の含有率は50~90質量%であることが好ましい。グラフト重合体(B)および共重合体(C)の含有率が上記範囲であると、本発明の熱可塑性樹脂組成物およびその成形品の透明性即ち、発色性と耐衝撃性が優れたものとなる。
【0094】
本発明の熱可塑性樹脂組成物が染料(D)を含む場合、染料(D)の含有量には特に制限はないが、本発明のグラフト共重合体(B)と共重合体(C)の合計100質量部に対して0.1~3質量部が好ましく、0.1~2.5質量部がより好ましい。染料(D)の含有量が上記範囲内であれば、得られる成形品の耐衝撃性および耐候性と発色性のバランスに優れる。
【0095】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂組成物およびその成形品の物性を損なわない範囲において、必要に応じて、他の熱可塑性樹脂を含有してもよい。他の熱可塑性樹脂としては特に制限はなく、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアセタール樹脂、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE樹脂)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリアリレート、液晶ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、フッ素樹脂およびポリアミド樹脂(ナイロン)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0096】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、熱可塑性樹脂組成物およびその成形品の物性を損なわない範囲において、熱可塑性樹脂組成物の製造時(混合時)、成形時に、慣用の他の添加剤、例えば滑剤、顔料、充填剤(カーボンブラック、シリカ、酸化チタン等)、耐熱剤、酸化劣化防止剤、耐候剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤等を配合することができる。
【0097】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、公知の装置を使用した公知の方法で製造できる。例えば、一般的な方法として溶融混合法があり、この方法で使用する装置としては、押出機、バンバリーミキサー、ローラー、ニーダー等が挙げられる。混合には回分式、連続式のいずれを採用してもよい。また、各成分の混合順序などにも特に制限はなく、全ての成分が均一に混合されればよい。
【0098】
〔成形品〕
本発明の成形品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物が成形されたものである。成形方法としては、例えば、射出成形法、射出圧縮成形機法、押出法、ブロー成形法、真空成形法、圧空成形法、カレンダー成形法およびインフレーション成形法等が挙げられる。これらのなかでも、量産性に優れ、高い寸法精度の成形品を得ることができるため、射出成形法、射出圧縮成形法が好ましい。
【0099】
〔用途〕
以上説明したように、本発明の熱可塑性樹脂組成物から得られる本発明の成形品は、発色性、耐衝撃性および耐候性に優れる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物およびその成形品の用途については特に制限はないが、本発明の熱可塑性樹脂組成物およびその成形品は、その優れた発色性、耐衝撃性、耐候性から、OA・家電分野、車輌・船舶分野、家具・建材などの住宅関連分野、サニタリー分野、雑貨、文具・玩具・スポーツ用品分野などの幅広い分野に有用であり、特に、黒色染料を配合した場合の優れた耐候性、即ち、耐候漆黒性から、車輌内装・外装部品、とりわけ、車輌外装部品、例えば、ドアミラー、ピラー、ガーニッシュ、モール、フェンダー、バンパー、フロントグリル、カウル類等において、意匠性、高級感に優れ、耐久性にも優れた製品を提供することができる。
【実施例0100】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら制限されるものではない。
なお、以下において、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を意味する。
【0101】
[測定・評価方法]
以下の実施例および比較例における各種測定および評価方法は以下の通りである。
【0102】
<共重合体(A)とグラフト共重合体(B)の体積平均粒子径>
実施例および比較例で製造した共重合体(A-1)~(A-12)と、グラフト共重合体(B-1)~(B-11)の体積平均粒子径(X)は、日機装社製のNanotrac UPA-EX150を用いて動的光散乱法より求めた。
また、共重合体(A-1)~(A-12)については、上記と同様の方法で粒子径分布を求め、頻度上限10%の粒子径を頻度上限10%体積粒子径(Y)とし、頻度下限10%の粒子径を頻度下限10%体積粒子径(Z)とし、それぞれ体積平均粒子径(X)に対する比を算出した。
【0103】
<グラフト共重合体(B)のグラフト率>
グラフト共重合体(B-1)~(B-11)1gを80mLのアセトンに添加し、65~70℃にて3時間加熱還流し、得られた懸濁アセトン溶液を遠心分離機(日立工機社製「CR21E」)にて14,000rpm、30分間遠心分離して、沈殿成分(アセトン不溶成分)とアセトン溶液(アセトン可溶成分)を分取した。そして、沈殿成分(アセトン不溶成分)を乾燥させてその質量(Q(g))を測定し、下記式(3)によりグラフト率を算出した。なお、式(3)におけるQは、グラフト共重合体(B)のアセトン不溶成分の質量(g)、WはQを求める際に使用したグラフト共重合体(B-1)~(B-11)の全質量(g)、ゴム分率はグラフト共重合体(B-1)~(B-11)の製造に用いた共重合体(A)の水性分散体における固形分濃度である。
グラフト率(質量%)={(Q-W×ゴム分率)/W×ゴム分率}
×100 …(3)
【0104】
<共重合体(C)の質量平均分子量>
共重合体(C-1)の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用い、テトラヒドロフラン(THF)に溶解して測定したものを標準ポリスチレン(PS)換算で求めた。
【0105】
[共重合体(A)の製造]
<共重合体(A-1)の製造>
以下の配合で共重合体(A-1)を製造した。
〔配合〕
アクリル酸n-ブチル (a) 45部
アクリル酸2-フェノキシエチル(b) 15部
メタクリル酸アリル 0.24部
1,3-ブチレングリコールジメタクリレート 0.12部
流動パラフィン 0.6部
アルケニルコハク酸ジカリウム 0.05部
ジラウロイルペルオキシド 0.6部
イオン交換水 406部
【0106】
試薬注入容器、冷却管、ジャケット加熱機および攪拌装置を備えた反応器に、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-フェノキシエチル、流動パラフィン、メタクリル酸アリル、ジラウロイルペルオキシド、イオン交換水、アルケニルコハク酸ジカリウム、を仕込み、常温下で(株)日本精機製作所製ULTRASONIC HOMOGENIZER US-600を用いて振幅35μmで20分間超音波処理を行うことでプレエマルションを得た。
プレエマルションを60℃に加熱し、ラジカル重合を開始した。重合により、液温は78℃まで上昇した。30分間75℃で維持し、重合を完結させ、水性分散体に分散している共重合体(A-1)を得た。共重合体(A-1)の体積平均粒子径(X)、頻度上限10%体積粒子径(Y)、頻度下限10%体積粒子径(Z)、およびY/Z、Z/Yは、表1に示す通りであった。
【0107】
<共重合体(A-2)~(A-10),(A-12)の製造>
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)、芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル(b)、アルケニルコハク酸ジカリウムの量を表1に示す通り変更したこと以外は、共重合体(A-1)と同様にして、水性分散体に分散している共重合体(A-2)~(A-10),(A-12)を得た。共重合体(A-2)~(A-10),(A-12)の体積平均粒子径(X)、頻度上限10%体積粒子径(Y)、頻度下限10%体積粒子径(Z)、およびY/Z、Z/Yは、表1に示す通りであった。
【0108】
<共重合体(A-11)の製造>
ステンレススチール製のオートクレーブ(以下、SUS製オートクレーブと略記)中に、イオン交換水(以下、単に水と略記)145部、ロジン酸カリウム1.0部、オレイン酸カリウム1.0部、水酸化ナトリウム0.06部、硫酸ナトリウム0.4部、t-ドデシルメルカプタン0.3部を仕込み、窒素置換した後、1,3-ブタジエン125部を仕込み、60℃に昇温した。
次いで、過硫酸カリウム0.3部を水5部に溶解した水溶液を圧入して重合を開始した。重合中は重合温度を65℃に調節し、12時間後内圧が4.5kg/cm2(ゲージ圧)となった時点で未反応の1,3-ブタジエンを回収した。その後、内温を80℃にして1時間保持してブタジエンゴムラテックスを得た。
【0109】
ブタジエンゴムラテックスの固形分換算で20部を5リットルのガラス製反応器に仕込み、次いでアルケニルコハク酸ジカリウム1.0部と水150部とを加えて窒素置換を行い、内温を70℃に昇温した。これに10部の水に過硫酸カリウム0.12部を溶解した水溶液を加え、引き続き予め窒素置換しておいたアクリル酸n-ブチル(a)79.5部、メタクリル酸アリル0.33部、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート0.17部からなる単量体混合物を2時間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、内温を80℃に昇温し、1時間保持して、水性分散体に分散しているブタジエンゴムとアクリルゴムとからなる共重合体(A-11)を得た。共重合体(A-11)の体積平均粒子径(X)、頻度上限10%体積粒子径(Y)、頻度下限10%体積粒子径(Z)、およびY/X、Z/Xは、表1に示す通りであった。
【0110】
【0111】
[グラフト共重合体(B)の製造]
<グラフト共重合体(B-1)の製造>
共重合体(A-1)を製造後、反応器の内温を75℃に保ったまま、共重合体(A-1)60部(固形分として)に対して、硫酸第一鉄0.001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.003部、ロンガリット0.3部、およびイオン交換水5部からなる水溶液を添加し、ついで、アルケニルコハク酸ジカリウム0.65部、およびイオン交換水10部からなる水溶液を添加した。その後、ビニル系単量体混合物(m1)としてメタクリル酸メチル8部、アクリロニトリル8部、スチレン24部の混合物と、t-ブチルヒドロペルオキシド0.18部を1時間30分にわたって滴下し、グラフト重合させた。
滴下終了後、内温を75℃に10分間保持した後、冷却し、内温が60℃となった時点で、酸化防止剤(吉富製薬工業社製、アンテージW500)0.2部およびアルケニルコハク酸ジカリウム0.2部をイオン交換水5部に溶解した水溶液を添加した。ついで、反応生成物の水性分散体を硫酸水溶液で凝固、水洗した後、乾燥してグラフト共重合体(B-1)を得た。グラフト共重合体(B-1)のグラフト率は25%、体積平均粒子径は510nmであった。
【0112】
<グラフト共重合体(B-2)~(B-11)の製造>
共重合体(A)の種類を表2に示す通り変更したこと以外は、グラフト共重合体(B-1)と同様にして、グラフト共重合体(B-2)~(B-11)を得た。
グラフト共重合体(B-2)~(B-11)のグラフト率、体積平均粒子径は、表2に示す通りであった。
【0113】
【0114】
[共重合体(C)の製造]
<共重合体(C-1)の製造>
耐圧反応容器にイオン交換水150部と、ビニル系単量体混合物(m2)としてメタクリル酸メチル99部、アクリル酸メチル1部の混合物と、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)0.2部、n-オクチルメルカプタン0.45部、カルシウムハイドロオキシアパタイト0.47部、アルケニルコハク酸カリウム0.003部を仕込み、内温を75℃まで昇温し、3時間反応を行った。その後、90℃まで昇温し、60分間保持することで反応を完結させた。内容物を遠心脱水機で洗浄、脱水を繰り返し、乾燥させて質量平均分子量124,000の共重合体(C-1)を得た。
【0115】
[実施例1~9、比較例1~9]
表3A,3Bに示す組成(質量部)で各成分を混合し、さらにそこに染料(D)としてオリエント化学工業(株)社製「NUBIAN PC-5856」を表3A,3Bに示す量混合し、30mmφの真空ベント付き2軸押し出し機(池貝社製「PCM30」)を用いて240℃で溶融混練し、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得た。得られた熱可塑性樹脂組成物についてメルトボリュームレートを以下の方法により評価した。また、得られた熱可塑性樹脂組成物を射出成形した成形品について、耐衝撃性、発色性、耐候性を以下の方法により評価した。
評価結果を表3A,3Bに示す。
【0116】
[各評価方法]
<メルトボリュームレート(MVR)の測定>
ISO 1133:1997に準拠し、220℃における熱可塑性樹脂組成物のMVRを、98N(10kg)の荷重で測定した。なお、MVRは熱可塑性樹脂組成物の流動性の目安となり、数値が高いほど流動性に優れることを意味する。
【0117】
<射出成形1>
溶融混練して得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを射出成形機(東芝機械社製、「IS55FP-1.5A」)によりシリンダー温度200~270℃、金型温度60℃の条件で、縦80mm、横10mm、厚さ4mmの成形品を成形し、シャルピー衝撃試験用成形品(成形品(Ma1))として用いた。
【0118】
<射出成形2>
溶融混練して得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを射出成形機(東芝機械社製、「IS55FP-1.5A」)によりシリンダー温度200~270℃、金型温度60℃の条件で、縦100mm、横100mm、厚さ3mmの成形品を成形し、発色性および耐候性評価用成形品(成形品(Ma2))として用いた。
【0119】
<耐衝撃性の評価:シャルピー衝撃試験>
成形品(Ma1)について、ISO 179-1:2013年度版に準拠し、試験温度23℃の条件で成形品(タイプB1、ノッチ有:形状A シングルノッチ)のシャルピー衝撃強度(打撃方向:エッジワイズ)を測定した。シャルピー衝撃強度が高いほど、耐衝撃性に優れることを意味する。
【0120】
<発色性の評価>
成形品(Ma2)について、分光測色計(コニカミノルタオプティプス社製「CM-3500d」)を用いて、SCE方式にて明度L*を測定した。測定されたL*を「L*(ma)」とする。L*が低いほど黒色となり、発色性が良好と判定した。
「明度L*」とは、JIS Z 8729において採用されているL*a*b*表色系における色彩値のうちの明度の値(L*)を意味する。
「SCE方式」とは、JIS Z 8722に準拠した分光測色計を用い、光トラップによって正反射光を除去して色を測る方法を意味する。
【0121】
<耐候性の評価>
成形品(Ma2)をサンシャインウェザーメーター(スガ試験機(株)製)を用い、ブラックパネル温度63℃、サイクル条件60分(降雨12分)の条件で1500時間処理した。この処理前後の明度L*色味a*、b*を上記の発色性の評価と同様にして測定し、その変化ΔE(ΔL*+Δa*+Δb*)を求め、下記基準で評価した。
○:ΔE*が3以下で耐候性に優れる。
△:ΔE*が3より大きく5以下で耐候性にやや劣る。
×:ΔE*が5より大きく耐候性に劣る。
【0122】
【0123】
【0124】
表3A,3Bより次のことが分かる。
比較例1,2では、グラフト共重合体(B)として体積平均粒子径の小さいもののみを用いており、耐衝撃性、耐候性が劣ると共に、比較例1では発色性も劣る。
比較例3,4で用いた体積平均粒子径500nmのグラフト共重合体(B-8)は、その製造に用いた共重合体(A-8)が、本発明で規定する粒度分布を満たさないために、比較例3,4は耐衝撃性に劣り、比較例4では更に発色性も劣る。
比較例5,6で用いた体積平均粒子径500nmのグラフト共重合体(B-9)は、その製造に用いた共重合体(A-9)のアクリル酸n-ブチル(a)と、アクリル酸2-フェノキシエチル(b)との配合比が本発明の規定範囲外であるため、比較例5,6は耐衝撃性、耐候性に劣る。
比較例7で用いた体積平均粒子径420nmのグラフト共重合体(B-10)は、その製造に用いた共重合体(A-10)がアクリル酸2-フェノキシエチル(b)を含まず、アクリル酸n-ブチル(a)のみを用いたものであるため、比較例7は耐衝撃性、耐候性に劣る。
比較例8で用いた体積平均粒子径50nmのグラフト共重合体(B-11)の製造に用いた共重合体(A-11)は、アクリル酸2-フェノキシエチル(b)を用いず、ブタジエンゴムを用いたものであるために、比較例8は耐衝撃性、耐候性に劣る。
比較例9ではグラフト共重合体ではなく、共重合体(A-12)のみを用いており、耐衝撃性に著しく劣る。
これに対して、本発明の規定を満たす実施例1~9は、耐衝撃性、発色性、耐候性のすべてに優れる。
なお、実施例9は、グラフト共重合体(B-1)1種類のみを用いた例であり、粒子径の異なる2種類のグラフト共重合体(B)を組み合わせて用いた実施例1~8に比べて耐衝撃性が若干劣るが、実用可能な範囲であり、発色性と耐候性は良好である。