(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022035831
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】衝撃付加装置及び検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/24 20060101AFI20220225BHJP
G01N 29/04 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
G01N29/24
G01N29/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020140405
(22)【出願日】2020-08-21
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(71)【出願人】
【識別番号】520320538
【氏名又は名称】株式会社熊本機械
(74)【代理人】
【識別番号】100136180
【弁理士】
【氏名又は名称】羽立 章二
(72)【発明者】
【氏名】森 和也
(72)【発明者】
【氏名】徳臣 佐衣子
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA10
2G047BA04
2G047BC03
2G047BC04
2G047BC07
2G047CA01
2G047CA03
2G047EA10
2G047GG12
2G047GG34
(57)【要約】
【課題】 衝撃弾性波法のための衝撃付加装置等に関して、安定的な弾性波を、正確な時刻に、検査対象物に入力可能とすることに適したものを提供する。
【解決手段】圧電素子1は、短時間に伸縮可能であり、衝撃盤3を介して検査対象物に面接触する。圧電素子1は、重り2と接合している。圧電素子1は、急激に伸縮して重り2を加速度運動させて、その反力を衝撃力として、検査対象物に弾性波を面で入力する。センサ21は、検査対象物に接触し、衝撃弾性波の応答弾性波を検出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物に衝撃を付加する衝撃付加装置であって、
重りと、圧電素子と、衝撃盤を備え、
前記衝撃盤は、前記検査対象物に面接触し、
前記圧電素子は、伸縮可能であって、
前記圧電素子は、前記重りと前記衝撃盤との間で伸縮して、前記衝撃盤を介して前記検査対象物に衝撃弾性波を付加し、
前記衝撃弾性波の応答弾性波は、センサによって検出される、衝撃付加装置。
【請求項2】
前記圧電素子は、信号処理装置により電圧変化が入力されて伸縮して前記重りを加速運動させ、その反力を衝撃力として前記検査対象物に入力することにより、物理的衝突を利用せずに再現性の高い衝撃力を入力する、請求項1記載の衝撃付加装置。
【請求項3】
前記圧電素子に入力する電圧変化によって、前記検査対象物に付加する弾性波形を変更する、請求項1又は2に記載の衝撃付加装置。
【請求項4】
前記重りと前記衝撃盤の間に粘性物質を介在させて、前記重りの振動の減衰を促進し、検査対象物に入力する弾性波の入力時間を短くする、請求項1から3のいずれかに記載の衝撃付加装置。
【請求項5】
前記衝撃盤と検査対象物の間に粘着性の接触媒質を塗布し、前記圧電素子を収縮させて、引張の弾性波を検査対象物に入力する、請求項1から4のいずれかに記載の衝撃付加装置。
【請求項6】
前記検査対象物に同じ波形の弾性波を複数回入力し、電圧入力時刻から得た時刻に基づいて、計測された応答振動波形を、時間領域で統計処理することによってノイズを低減することを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の衝撃付加装置。
【請求項7】
検査対象物に衝撃を付加する検査方法であって、
圧電素子が、重りと、前記検査対象物に面接触する衝撃盤との間で伸縮して、前記衝撃盤を介して前記検査対象物に衝撃弾性波を付加するステップと、
センサが、前記衝撃弾性波の応答弾性波を検出するステップを含む検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートなどの内部に存在する欠陥等を非破壊で検査するための衝撃弾性波法に用いる衝撃付加装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物は社会を支える重要な社会インフラであるが、建設時の初期点検、経年後の劣化点検、地震後の損傷点検に、検査が必要とされる。構造物の検査方法の一つに、衝撃弾性波法(インパクトエコー法)がある。
【0003】
国土交通省は衝撃弾性波法によるコンクリート構造物の非破壊検査を推進している(非特許文献1参照)。
【0004】
これまでに衝撃弾性波法によるコンクリートの内部欠陥の調査方法が幾つか提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、コンクリート構造物の内部に空洞等の欠陥が存在する場合、衝撃による弾性波を入射すると、構造物表面と欠陥との間で多重反射が発生することを利用する欠陥検査方法であって、上記反射波の周波数は、構造物表面と欠陥との距離に反比例することから、上記周波数に基づいて欠陥の位置を同定するコンクリート構造物中の欠陥検査方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、コンクリート構造物のコンクリート内部に剥離部が存在すると、たわみによるたわみ振動が発生し、コンクリート内部が健全な場合は縦弾性波やレイリー波が発生し、たわみ振動は、縦波振動やレイリー波と比較して振幅値が大きい特性を利用するコンクリート内部の剥離探査方法であって、コンクリート表面に打撃力を加えて、この打撃により発生する振動波形を測定して記録し、この測定波形を振幅値の最大値の共通化により標準化し、この標準化した測定波形の振幅値の絶対値を算出し、一定時間内での上記絶対値を加算して振幅加算値を算出し、この振幅加算値を基準値と比較して、この振幅加算値が基準より大きくなる場合に剥離があると評価するコンクリート内部の剥離探査法が開示されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、全長に亘り一定断面の鋼棒の端点を軸方向に叩くと、鋼棒は伸縮運動を発生し、その伸縮運動の周波数fは、鋼棒の長さLに対して、f=Cp(鋼棒の縦波弾性波速度)/2Lとなることを利用する打撃装置であって、上記鋼棒を介して検査対象物に衝撃を与える打撃方法であって、検査対象物に接する部分を球冠状にして、他端を平面として、上記平面を鋼球で打撃して、検査対象物に与える弾性波の周波数を所定の値にする打撃装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001-4604号公報
【特許文献2】特開2014-211333号公報
【特許文献3】特開2017-133936号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】国土交通省,「微破壊・非破壊試験におけるコンクリート構造物の強度測定要領」,平成24年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1~3のいずれにおいても、検査対象物となるコンクリートの表面に球面状物体を物理的に衝突させて、コンクリート内に弾性波を発生させている。
【0011】
しかしながら、球面状物体をコンクリート表面に衝突させると、球面状物体と平面であるコンクリートとの接触領域は小さくなる。このため、コンクリート表面の凹凸、コンクリート表面の強度、コンクリート表面近くの骨材の分布などの様々な要素によって、安定した弾性波形の入力が困難であった。
【0012】
また、特許文献1~3のいずれにおいても、弾性波発生時刻を、発生した弾性波において、弾性波の振幅のレベルがある閾値に達した時刻としている。
【0013】
しかしながら、球面状物体の衝突によって発生する弾性波の形状は打撃毎に大きく異なるため、球面状物体がコンクリート表面に接触を開始する時刻を正確に求めることは困難であった。
【0014】
そこで、本発明は、かかる問題点に鑑み、その目的は、衝撃弾性波法のための衝撃付加装置等に関して、安定的な弾性波を、正確な時刻に、検査対象物に入力可能とすることに適したものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明は、検査対象物を面加振する衝撃盤に連結された圧電素子であって、圧電素子に重りを接合することを特徴とする。なお、本願発明を、衝撃付加装置とセンサを備える検査システムとして捉えてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、衝撃弾性波法に用いる衝撃付加装置に関して、コンクリートの状態の影響を受けることなく、目的の波形の弾性波を安定的にかつ所定の時刻に検査対象物に入力することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】衝撃弾性波法に用いる検査システムの構成の例を示す図である。
【
図2】コンクリート柱の上部に衝撃付加装置7を、下部にセンサ21を設置した図である。
【
図3】衝撃付加装置7の圧電素子1に入力する電圧の例を示す図である。
【
図4】
図3の電圧を
図2の衝撃付加装置7の圧電素子1に入力したときの前記コンクリート柱の下部の変位を表す図である。
【
図5】
図2のコンクリート柱の上部に圧縮方向の衝撃力を加えたとき下部の変位を表した図である。
【
図6】
図2のコンクリート柱の上部に引張方向の衝撃力を加えたときの下部の変位を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
まず、検査システムの構成の一例を説明する。本願発明に係る衝撃弾性波法による検査システムは、
図1に示されるように、信号処理装置12と、電力増幅器11と、衝撃付加装置7と、検査対象物からの応答弾性波を計測するセンサ21と、電圧増幅器22から構成されている。
【0020】
衝撃付加装置7は、圧電素子1、重り2、衝撃盤3、及び、粘性物質6を備える。衝撃盤3は、検査対象物に面接触する。
【0021】
圧電素子1、重り2、衝撃盤3のそれぞれの重心は、一直線上にあることが望ましい。また、重心を通る直線は、圧電素子1と重り2の接する面、及び、圧電素子1と前記衝撃盤3の接する面の図心を通り、かつ、これらの面と直交することが望ましい。
【0022】
粘性物質6は、重心を通る直線に対して、線対象に配置することが望ましい。また、検査対象物に入力する弾性波を急速に減衰させる必要がある場合は、減衰物質として、高粘性材料を用いることが望ましい。
【0023】
重り2の変位が大きい場合は、接触媒質8は、粘性の高いものが望ましい。
【0024】
圧電素子1は、信号処理装置12により電圧変化が入力されると、電圧変化に伴って伸縮する。圧電素子1は、重り2と衝撃盤3との間で伸縮して重り2を加速運動させ、その反力を衝撃力として衝撃盤3を介して検査対象物に入力して衝撃弾性波を付加する。
【0025】
衝撃付加装置7は、物体の衝突によって直接的に打撃するのではなく、圧電素子1の急激な伸縮によって衝撃力を発生させ、検査対象物に対して弾性波を入力する。圧電素子1に加える電圧を急激に変化させると、圧電素子1は急激に伸縮し、重り2に急激な加速度を与える。その反力として衝撃盤3に圧縮/引張の衝撃力が作用する。この圧縮/引張の衝撃力は、衝撃盤3を介して検査対象物に面で伝達される。この発生する衝撃力は、物体の衝突現象を利用していないことと、電気信号によって発生することから、再現性の高い安定した衝撃力となる。
【0026】
また、衝撃盤3は平面で検査対象に接触するため、衝撃力は面で伝達され、コンクリート表面の凹凸、コンクリート表面の強度、コンクリート表面近くの骨材の分布などの影響を受けることなく、検査対象物に入力される弾性波も安定する。さらに、電気信号によって衝撃力を発生させるので、衝撃力の発生時刻も正確に確定できる。
【0027】
さらに、圧電素子1の伸縮の変位量は圧電素子1に加える電圧値で決定されるため、圧電素子1に適切な電圧値を入力すると、圧電素子1の伸縮量は適切に制御され、重り2の加速度運動も適切に制御される。その結果、重り2の加速度の反力として発生する衝撃力は、圧電素子1に電圧を適切に入力することによって、任意形状の弾性波形として検査対象物に入力することができる。
【0028】
さらに、重り2と衝撃盤3の間に、粘性物質6を介在させて、重り2の振動の減衰を促進し、検査対象物に入力する弾性波の入力時間を短くする。反射波の到着が速い場合などは、反射波が入力波と時間軸上で重なる場合があり、入力波の急速な減衰が必要とされることがある。
【0029】
弾性波の入力時刻が不正確であると、欠陥などから反射波が戻る時刻は毎回変動し、時間軸上で加算平均すると反射波のピークは小さくなり、ノイズに埋没する。他方、弾性波の入力時刻が正確であれば、複数回の弾性波の検査対象物への入力に対して、欠陥などからの反射波が戻るまでの時間は正確に一致する。衝撃付加装置7は、弾性波の入力時間を正確にでき、反射波の振幅波形を時間領域で加算平均すると、反射波のピークは正確に重なり、反射波のピークの大きさは一定のまま、ランダムな波形であるノイズは低減し、精度の高い欠陥検出が可能となる。
【0030】
センサ21は、検査対象物の表面に接触させ、衝撃付加装置7によって検査対象物に与えた波動の応答弾性波を電気信号に変換する。このセンサ21としては、例えば、加速度センサ、AEセンサなどを使用することができる。また、検査対象物の表面に非接触にて波動の応答弾性波を計測するものとして、レーザー振動計などを使用することができる。
【0031】
センサ21によって計測された電気信号は、電圧増幅器22で増幅され、信号処理装置12(信号発生器兼用のコンピュータ)に送られる。
【0032】
信号処理装置12は、複数の波形の電気信号に対して、時間領域での加算平均処理を行ったり、高速フーリエ変換によって周波数領域に変化し加算平均処理を行ったりして、ノイズの低減を図る。これにより、時間領域信号及び周波数領域信号に基づいて、コンクリート等の内部欠陥の有無の判断や寸法推定を行う。
【実施例0033】
図2に示すように、コンクリート柱の上部に、衝撃付加装置7を、接触媒質8を介して設置し、コンクリート柱の下部にセンサ21を設置して、
図3に示す矩形波状電圧を印加した。電圧上昇時には圧電素子1は伸長し、電圧降下時には圧電素子1は収縮する。
【0034】
図4は、前記コンクリート柱下部の変位を示している。
図3の電圧の変化に応答して変位が生じていることがわかる。
図5は、
図4の0.2405秒から0.2415秒の間を拡大したものである。圧縮波の到達によって、コンクリート柱の下部が下方向に変位していることがわかる。
図6は、
図4の0.4965秒から0.4975秒の間を拡大したものである。引張波の到達によって、コンクリート柱の下部が上方向に変位していることがわかる。