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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022035858
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】タイル剥離具およびタイル剥離方法
(51)【国際特許分類】
   E04F 21/00 20060101AFI20220225BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
E04F21/00 D
E04G23/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020140448
(22)【出願日】2020-08-21
(71)【出願人】
【識別番号】000219990
【氏名又は名称】東京オートマック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123526
【弁理士】
【氏名又は名称】宮川 壮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100125036
【弁理士】
【氏名又は名称】深川 英里
(72)【発明者】
【氏名】杉山 治久
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA05
2E176BB24
2E176BB36
(57)【要約】
【課題】効率よくタイルを剥離することができるタイル剥離具およびタイル剥離方法を提供すること。
【解決手段】タイル設置面に配列されて設けられたタイルTを剥離するタイル剥離具1であって、配列方向Eに隣り合う一方のタイルt1の一方側の目地部Mb1に嵌められる第1の嵌合部3と、前記配列方向Eに隣り合う他方のタイルt2の他方側の目地部Mb3に嵌められる第2の嵌合部4と、前記第1の嵌合部3が前記一方側の目地部Mb1に嵌められて前記第2の嵌合部4が前記他方側の目地部Mb3に嵌められた状態で、前記一方のタイルt1と前記他方のタイルt2との中間の目地部Mb2に嵌められて前記一方のタイルt1および前記他方のタイルt2を持ち上げて剥離する剥離板部62とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイル設置面に配列されて設けられたタイルを剥離するタイル剥離具であって、
配列方向に隣り合う一方のタイルの一方側の目地部に嵌められる第1の嵌合部と、
前記配列方向に隣り合う他方のタイルの他方側の目地部に嵌められる第2の嵌合部と、
前記第1の嵌合部が前記一方側の目地部に嵌められて前記第2の嵌合部が前記他方側の目地部に嵌められた状態で、前記一方のタイルと前記他方のタイルとの中間の目地部に嵌められて前記一方のタイルおよび前記他方のタイルを持ち上げて剥離する剥離板部と
を備えるタイル剥離具。
【請求項2】
前記第1の嵌合部が固定されており、
前記第1の嵌合部に対して接近離隔する方向に前記第2の嵌合部の位置を変更して前記第2の嵌合部を固定解除する位置変更機構部を備える請求項1に記載のタイル剥離具。
【請求項3】
前記第1の嵌合部または前記第2の嵌合部の少なくともいずれか一方が、いずれか他方の側に傾斜する傾斜部を備える請求項1または請求項2に記載のタイル剥離具。
【請求項4】
前記第1の嵌合部と前記第2の嵌合部とを連結する連結軸部を備え、
前記剥離板部に滑り防止部と貫通孔が設けられており、
前記貫通孔は、前記中間の目地部に前記剥離板部が嵌められる方向に延ばされた長孔とされ、
前記連結軸部が前記貫通孔に貫通し前記剥離板部が前記連結軸部の軸線方向にスライド可能になっている請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のタイル剥離具。
【請求項5】
前記第1の嵌合部と前記第2の嵌合部の内面および前記剥離板部の両面に、凸部が設けられている請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のタイル剥離具。
【請求項6】
前記剥離板部は磁力が働く金属からなっており、
前記剥離板部に、前記中間の目地部に嵌められるスペーサが磁力により着脱可能に設けられるようになっている請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のタイル剥離具。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のタイル剥離具を利用して、タイルを剥離するタイル剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイルを剥離するタイル剥離具およびタイル剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイル設置面に設けられたタイルが時間の経過により、欠け、ヒビ割れまたは密着力劣化など経年劣化してしまったとき、それらのタイルを剥離する作業が行われている。また、数十年経た建物の玄関、正面等の目立つ箇所において劣化などしたタイルを剥がした後の交換タイルは、可能な限り周辺のタイルと同色にしたいという要請がある。しかし、新品のタイルは周辺のタイルと同色にすることは難しいため、やむを得ず建物の裏面や下部など目立たない箇所において同色に経年変色した古い正常なタイルを剥がして交換タイルとして使用することがある。
このようなタイルを剥離するタイル剥離具としては、タイルとタイルとの間の目地部に嵌められてタイルを引き剥がして剥離するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-67483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のようなタイル剥離具では、一枚ずつタイルを剥離していくため剥離作業に時間がかかってしまうという問題がある。
【0005】
以上に鑑みて、本発明は、効率よくタイルを剥離することができるタイル剥離具およびタイル剥離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、タイル設置面に配列されて設けられたタイルを剥離するタイル剥離具であって、配列方向に隣り合う一方のタイルの一方側の目地部に嵌められる第1の嵌合部と、前記配列方向に隣り合う他方のタイルの他方側の目地部に嵌められる第2の嵌合部と、前記第1の嵌合部が前記一方側の目地部に嵌められて前記第2の嵌合部が前記他方側の目地部に嵌められた状態で、前記一方のタイルと前記他方のタイルとの中間の目地部に嵌められて前記一方のタイルおよび前記他方のタイルを持ち上げて剥離する剥離板部とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本願の一観点によれば、効率よく複数枚のタイルを剥離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態としてのタイル剥離具を示す側面図である。
図2図1のタイル剥離具を示す平面図である。
図3図1のタイル剥離具を斜め前方から見た様子を示す立体図である。
図4図1のタイル剥離具を斜め後方から見た様子を示す立体図である。
図5図1のタイル剥離具を前方の上方から見た様子を示す立体図である。
図6】平面にタイルが配列されて設けられた様子を示す図であって、(A)はスリット形成工程の前の状態を示す説明図、(B)はスリット形成工程によりスリットが形成された様子を示す説明図、(C)は他のタイル配列においてスリット形成工程によりスリットが形成された様子を示す説明図である。
図7図1のタイル剥離具を利用して、他方のタイルを剥離する様子を示す側面図である。
図8図1のタイル剥離具を利用して、一方のタイルを剥離する様子を示す側面図である。
図9図1のタイル剥離具を利用して、一つのタイルを挟持する様子を示す側面図である。
図10図1の後クランプ部をスリットに嵌め込んでタイルを挟持する過程を示す側面図である。
図11図1のタイル剥離具の変形例を示す説明図である。
図12】平面にタイルが配列されて設けられた様子を示す図であって、タイル剥離工程におけるタイル剥離の変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態におけるタイル剥離具およびタイル剥離方法について説明する。
図1は、本発明の実施形態としてのタイル剥離具1を示す側面図である。
なお、符号Wはタイル剥離具1の幅方向を示し、符号Dはタイル剥離具1の奥行方向を示し、符号Hはタイル剥離具1の高さ方向を示している。
タイル剥離具1は、高強度金属からなるものであり、連結軸部2と、前クランプ部3(第1の嵌合部)と、後クランプ部4(第2の嵌合部)と、位置変更機構部5と、剥離部6とを備えている。
連結軸部2は、棒状に延ばされて構成されている。連結軸部2の外周面のうち幅方向Wの両端部は、連結軸部2の軸線2Aに沿って延ばされた端面部21とされている。そして、連結軸部2の外周面のうち高さ方向Hの両端部には、長手方向の全長にわたって雄ネジ部22が形成されている。
連結軸部2の基端部は、利用者が把持する把持部23とされている。なお、把持部23には、延長パイプ23Aが差し込められるようになっている。
【0010】
連結軸部2の先端には、前クランプ部3が設けられている。
前クランプ部3は、連結軸部2の先端に固定されている。この前クランプ部3は、前連結板部31と、前保持板部32とを備えている。
前連結板部31は、図3に示すように、連結軸部2の先端から軸線2A方向の前方に延ばされた三角形状をなしている。前連結板部31の底辺部には前保持板部32が一体に連結されている。
前保持板部32は、前連結板部31の底辺部から厚さ方向の下方側に折り曲げられて矩形板状に形成されている。前保持板部32の先端辺部は、軸線2A方向の後方側に傾斜する傾斜部32aとされている。図1に示すように、傾斜部32aの傾斜角θ1は、側面視して前保持板部32の基端部が延在する方向に対して、後方側に5度に設定されている。
【0011】
傾斜部32aの内面32a1(後方側の面)は、タイルTに対して滑りを防止する滑り防止部32a11とされている。滑り防止部32a11は、高摩擦抵抗粒子が付着されて構成されている。この高摩擦抵抗粒子としては、例えばダイヤモンド粒子等の硬質粒子からなって電着されている。
また、前保持板部32の内面(後方側の面)のうち傾斜部32aの上方には、幅方向Wに延びる前円柱部32b(凸部)が設けられている。前円柱部32bの高さ位置は、タイルtの高さ寸法と同じ位置または近い位置に設定されている。この前円柱部32bは、前保持板部32の内面において幅方向Wの全長にわたって円柱状に延ばされ、タイル側曲面に滑り防止部が付着されている。
【0012】
この前クランプ部3に対して軸線2A方向の後方側において対向する位置に後クランプ部4が設けられている。
後クランプ部4は、図3および図4に示すように、平板状に形成されており、後連結板部41と、後保持板部42とを備えている。
後連結板部41は、上方にいくに従って幅寸法が漸次小さくなるように板状に形成されている。後連結板部41の幅方向Wの中央部には、不図示の貫通孔が形成されている。この貫通孔に、連結軸部2が貫通している。そのため、後クランプ部4は、前クランプ部3に対して接近離隔する軸線2A方向に、5°ほど前方向に傾き可能なH方向の隙間付き状態でスライド移動可能になっている。
【0013】
また、後連結板部41の下方の辺部に後保持板部42が一体に連結されている。
後保持板部42は、矩形板状に形成されている。後保持板部42の先端辺部は、軸線2A方向の前方側に傾斜する傾斜部42aとされている。図1に示すように、傾斜部42aの傾斜角θ2は、側面視して後連結板部41および後保持板部42の基端部が延在する方向に対して、前方側に5度に設定されている。
傾斜部42aの内面42a1(前方側の面)は、上記と同様に、高摩擦抵抗粒子が付着された滑り防止部42a11とされている。
また、後保持板部42の内面(前方側の面)のうち傾斜部42aの上方には、上記と同様に、幅方向Wに延びる後円柱部42b(凸部)が設けられている。後円柱部42bの高さ位置は、タイルtの高さ寸法と同じ位置または近い位置に設定されている。この後円柱部42bは、後保持板部42の内面において幅方向Wの全長にわたって円柱状に延ばされ、タイル側曲面に滑り防止部が付着されている。
【0014】
この後クランプ部4の連結軸部2における前後には、後クランプ部4を連結軸部2に固定解除する位置変更機構部5が設けられている。
位置変更機構部5は、連結軸部2において後クランプ部4の前方側に設けられた前ナット51と、後方側に設けられた後ナット52とを備えている。
これら前ナット51と後ナット52によって、後クランプ部4が挟持されている。
前ナット51および後ナット52は、内周壁に不図示の雌ネジ部が形成されており、この雌ネジ部が、連結軸部2の雄ネジ部22に噛み合わされている。これにより、前ナット51および後ナット52は、軸線2Aを回転中心として回転することにより、連結軸部2の前方または後方に移動するようになっている。なお、前ナット51および後ナット52の周面には、径方向に延びるネジ穴が形成されており、このネジ穴に六角穴付ボルト51a,52aが噛み合わされるようになっている。
【0015】
このような構成のもと、後クランプ部4を前クランプ部3に対して接近させるときは、六角ボルト51a,52aを緩めた状態で、前ナット51および後ナット52を回転させて、前ナット51、後クランプ部4および後ナット52を前方にスライド移動させる。そして、2枚のタイルを挟持するときには、剥離するタイルTの前方に傾斜部32aを入れ、タイル後方に傾斜部42aが当たる所定の位置に傾斜部42aを入れて、後ナット52をさらに締め付けて、後ナット52によって後クランプ部4を後方向から強く挟持する。なお、後述するように1枚のタイルを挟持するときは、さらに強く締め付ける。すなわち、傾斜部42aをタイル後方に入れると、図10に示すように、後連結板部41および後保持板部42が約5°まで前方向に傾く。そして、前ナット51を回転させていくと、後連結板部41の上部411が後方に移動していき軸線2Aに対して垂直近くにまで立ち上がっていく。このとき、上部411の内面部Aが前ナット51に押され下部の外面部Bを支点にして後連結板部41および後保持板部42が弾性変形し、後クランプ部4の傾斜角θ2は小さくなるとともに、前クランプ部3も弾性変形し傾斜角θ1も小さくなる。そして、六角穴付ボルト51a,52aを強く締め付け、前ナット51および後ナット52を固定する。
これによって、後クランプ部4が前クランプ部3に対して接近した所定の位置において連結軸部2に固定される。一方、剥離するタイルTのD方向における寸法が大きく、後クランプ部4を前クランプ部3に対して離隔させるときは、六角穴付ボルト51a,52aを緩めた状態で、前ナット51および後ナット52を回転させて、後クランプ部4の固定を解除し前ナット51、後クランプ部4および後ナット52を後方にスライド移動させる。そして、剥離するタイルTに傾斜部42aが当たる所定の位置において、前述と同様の手順により、剥離するタイルTを強く締め付け後クランプ部4を連結軸部2に固定する。
【0016】
また、前クランプ部3と後クランプ部4との間には、剥離部6が設けられている。
剥離部6は、把持部61と、剥離板部62とを備えている。
把持部61は、円筒状に延ばされて形成されている。なお、把持部61の長手寸法は適宜変更可能である。把持部61の先端部には、径方向の上下に貫通する2対の固定用貫通孔61fが形成されている。
また、把持部61の先端部には、把持部61の先端面から基端側に延ばされた一対の切り欠き61aが形成されている。これら切り欠き61aは、把持部61の径方向(幅方向W)に対向して形成されている。
これら切り欠き61aには、連結固定板61bが嵌め込まれている。連結固定板61bは、剥離板部62に一体に連結されている。連結固定板61bの幅方向Wの両端部は、連結軸部2の側に折り返された補強板部61cとされている。これら補強板部61cは、把持部61の先端部において幅方向Wの外方に突出している。
連結固定板61bには、不図示の貫通孔が2個形成されており、これら貫通孔と固定用貫通孔61fとにボルト61dが通されてナット61eが噛み合わされている。これにより、連結固定板61bが把持部61の先端部に固定され、この連結固定板61bを介して剥離板部62が把持部61の先端において固定されている。
【0017】
剥離板部62は、鋼系金属からなるものであり、連結固定板61bの先端辺から折り曲げられて一体に延ばされた連結板部621と、この連結板部621に一体に連結された剥離板本体部622とを備えている。なお、これら連結板部621と剥離板本体部622との連結部との外面上には、連結補強板63が設けられている。
連結板部621は、上方にいくに従って幅寸法が漸次小さくなるように板状に形成されている。連結板部621の幅方向Wの両端には、後方側に折り返された補強板部621aが設けられている。
剥離板本体部622は、矩形板状に形成されている。剥離板本体部622の先端辺部622aは、図1に示すように、側面視して連結板部621の延在方向に直線上に延ばされている。剥離板本体部622の両面は、上記と同様に、高摩擦抵抗粒子が付着された滑り防止部とされている。
また、剥離板本体部622の両面のうち先端辺部622aの上方には、上記と同様に、幅方向Wに延びる円柱部622b(凸部)が両面に設けられている。円柱部622bの高さ位置は、タイルtの高さ寸法と同じ位置または近い位置に設定されている。この円柱部622bは、剥離板本体部622の両面において幅方向Wの両端部に円柱状に延ばされ、タイル側曲面に滑り防止部が付着されている。
【0018】
連結板部621および剥離板本体部622の幅方向Wの中央部には、これら連結板部621と剥離板本体部622とにわたって延ばされた長孔623が形成されている。長孔623は、高さ方向Hに延ばされており、開口部の高さ寸法は、連結軸部2の高さ寸法より大きくなっている。この長孔623に連結軸部2が貫通している。そのため、連結軸部2が長孔623に通されることにより、剥離部6は、軸線2A方向の前後にスライド移動可能になっている。また、連結軸部2が長孔623の高さ方向に移動することにより、剥離部6は、高さ方向Hに上下にスライド移動可能になっている。
【0019】
次いで、タイル剥離具1の使用方法について説明する。
図6に示すように、壁面K(タイル設置面)にはタイルTが配列されて設けられている。タイルTの縦方向を配列方向Eとする。これらタイルTの間には目地部Mが設けられている。
配列方向Eに延びる目地部を縦目地部Maとし、配列方向Eに直交する方向に延びる目地部を横目地部Mb,Mb1,Mb2,Mb3とする。ここでは、タイルTのうちタイルt1およびタイルt2を剥離するものとする。すなわち、タイルt1,t2は、配列方向Eに隣り合うタイルであり、タイルt1は、配列方向Eに隣り合う一方のタイルとなり、タイルt2は、配列方向Eに隣り合う他方のタイルとなる。また、横目地部Mb1は、タイルt1の一方側の目地部となり、横目地部Mb2は、タイルt1とタイルt2との中間の目地部となり、横目地部Mb3は、タイルt2の他方側の目地部となる。
【0020】
(スリット形成工程)
図6(B)に示すように、タイルt1,t2の両側方の縦目地部Maにダイヤモンドディスクグラインダー等の工具によって配列方向EにスリットSを形成する。これにより、タイルt1,t2のみを剥離しやすくする。
そして、タイルt1,t2の横目地部Mb1,Mb2,Mb3にもそれぞれスリットS1,S2,S3を形成する。
【0021】
(タイル挟持工程)
図1に示すように、前クランプ部3と後クランプ部4とによって、タイルt1,t2を挟持する。すなわち、前ナット51および後ナット52を回転させ、スリットS1とスリットS3との配列E方向の距離寸法に合わせて、連結軸部2の所定の位置に後クランプ部4をスライド移動させる。そして、前クランプ部3をスリットS1に嵌め込み、後クランプ部4をスリットS3に嵌め込む。このとき、配列方向Eと奥行方向Dは同方向となり、高さ方向Hは、壁面Kに対して直交する方向になる。そして、長孔623の長手方向が高さ方向Hに向けられていることから、剥離板本体部622はスリットS2に嵌められる方向とスリットS2から引き抜かれる方向に移動可能になっている。そこで、剥離部6をスライド移動させ、長孔623の長手方向に移動させながら剥離板本体部622をスリットS2に嵌め込む。
【0022】
さらに、前クランプ部3の内面32a1をタイルt1に当接させ、後クランプ部4の内面42a1をタイルt2に当接させる。それから、後ナット52で締め付け、その後、前ナット51でさらに強く締め付ける。これにより、後クランプ部4が前ナット51と後ナット52によって挟持されて固定され、タイルt1,t2が前クランプ部3と後クランプ部4とによって強く挟持された状態になる。このとき、内面32a1,42a1は、滑り防止部とされていることから、タイルt1,t2が強固に挟持される。また、傾斜部32a,42aが設けられていることから、これら傾斜部32a,42aの先端部内側が、タイルt1,t2の深い箇所から強く当接し、タイルt1,t2が強固に挟持される。
【0023】
(剥離工程)
タイルt1,t2が前クランプ部3と後クランプ部4とによって配列方向Eから挟持された状態で、利用者が把持部23および把持部61を把持しながら、把持部61を配列方向Eの前後に動かしてタイルt1とタイルt2を剥離する。すなわち、図7に示すように、例えば、始めに前方側に把持部61を押圧し、側面視してタイルt1の上部角部r1または円柱部622bの下面を支点として回転させると、剥離板本体部622が後方側に回転する。そのため、先端辺部622aが、タイルt2を押圧して回転方向R1に持ち上げる。このとき持ち上げる力は、タイルt2の主面に平行であって配列方向Eの後方側に働く剪断力F1と、タイルt2の主面に直交する方向であってタイルt2が壁面Kに対して分断する方向に働く分断力F2とが複合されたものとなる。すなわち、このとき持ち上げる力は、先端辺部622aの傾きにもよるが、分断する方向と配列方向Eよりもタイルt2に多くかかる。なぜならば、配列方向Eの剪断力は、高さ方向Hにかかる分断力より、はるかに大きいからであり、さらに後クランプ部4に制せられているときは尚更である。この持ち上げる力には、テコの原理が働く。具体的には、剥離板本体部622の先端から支点までの長さLと、支点から把持部61を把持する部位までの長さ(通常、700mm以上)との比率でテコの原理が働く。例えば、長さLが10mmだと、20Kgの力で動かすと、1.4トンの力が持ち上げ力となる。
【0024】
なお、このとき、タイルt2は後クランプ部4によって保持されているため、タイルt2が配列方向Eに逃げることなく、剥離板本体部622からの持ち上げ力をタイルt2に効果的に与えることができるだけでなく、タイルt2が横目地部Mb3に残された目地部材に当たったりずれてしまうことが防止される。
また、このとき、先端辺部622aの両面および内面42a1が滑り防止部とされているため、剥離板本体部622とタイルt2との滑りが極力防止され、剥離板本体部622からの持ち上げ力をタイルt2に効果的に与えることができる。
これにより、タイルt2が壁面Kから剥離される。このとき、壁面Kのタイル接着モルタルがタイルt2に密着されたまま剥離されてもよい。
なお、タイルt2が剥離されるとき、円柱部622bおよび後円柱部42bが設けられていることから、タイルt2が壁面Kから剥離されてもタイルt2が円柱部622bまたは後円柱部42bに当接することにより、タイルt2の移動が規制され、タイルt2をその場にて保持することができる。タイルTおよび接着モルタルは非弾性体なので、タイルTを0.5mmでも持ち上げれば、タイルTと壁面Kとは分離される。そのため、タイルTに対する0.5mmの持ち上げでよいため、タイルTは同位置に保持され易い。特に、タイルが鉛直方向に設けられている場合、タイルの落下を防止することができる。
【0025】
さらに、利用者は、タイルt2を剥離すると、次いでタイルt1を剥離する。すなわち、図8に示すように、把持部61を後方側に引いて、元の位置にほぼ保持されているタイルt2の上部角部r2または円柱部622bの下面を支点として回転させると、剥離板本体部622が前方側に回転する。そのため、先端辺部622aが、タイルt1を回転方向R2に持ち上げる。このとき持ち上げる力は、前記と同様に、配列方向Eの前方側に働く剪断力F1と分断力F2とが複合されたものとなる。
なお、このとき、前記と同様に、前クランプ部3により、剥離板本体部622からの持ち上げ力をタイルt1に効果的に与えることができるだけでなく、タイルt1が横目地部Mb1に残された目地部材に当たったりずれたりしてしまうことが防止される。
また、このとき、前記と同様に、先端辺部622aの両面および内面32a1が滑り防止部とされているため、剥離板本体部622とタイルt1との滑りが極力防止され、剥離板本体部622からの持ち上げ力をタイルt1に効果的に与えることができる。
これにより、タイルt1が壁面Kから剥離される。このとき、壁面Kのタイル接着モルタルがタイルt1に密着されたまま剥離されてもよい。
なお、タイルt1が剥離されるとき、前記と同様に、円柱部622bおよび前円柱部32bにより、タイルt1の移動が規制され、タイルt1をその場にて保持することができる。
【0026】
以上より、本実施形態におけるタイル剥離具1およびタイル剥離方法によれば、前クランプ部3と後クランプ部4によって複数のタイルを挟持した状態で、剥離板本体部622がタイルTを持ち上げて複数のタイルを剥離することから、タイル剥離作業を短縮することができ、効率よくタイルを剥離することができる。
また、位置変更機構部5が設けられていることから、後クランプ部4の位置を変更させて後クランプ部4を固定解除することができることから、タイルのサイズや枚数に合わせて後クランプ部4の位置を調整することができ、利便性を向上させることができる。
また、傾斜部32a,42aが設けられていることから、前クランプ部3および後クランプ部4がスリットに嵌められたとき、傾斜部32a,42aの先端をタイルの深い箇所から当接させることができ、タイルを強固に挟持することができる。
また、図11に示すように、配列方向Eにおける横目地部Mb2の長さ寸法が剥離板部62の厚さよりも大きい場合、着磁済みの鋼材製のスペーサ80が円柱部622bの下方の先端辺部622aに磁力によって着脱可能に貼り付けられていてもよい。このスペーサ80は矩形板状に形成されており、配列方向Eにおける両面には滑り防止部が付着されている。このような構成のもと、スペーサ80が貼り付けられた先端辺部622aを横目地部Mb2に嵌め込むと、先端辺部622aおよびスペーサ80によって横目地部Mb2のスペースが埋められる。そして、前記と同様にして、剥離板部62の後方の回転によって、タイルt1が持ち上げられて剥離される。これにより、剥離板部62が横目地部Mb2に嵌められるときの横目地部Mb2の隙間を調整することができる。そして、図11(b)に示すように、先端辺部622aの前側にスペーサ80を吸着させて剥離板部62を前方向に回転させ、タイルt2を同じく剥離する。また、スペーサ80が磁力により先端辺部622aに設けられていることから、先端辺部622aを横目地部Mb2に嵌め込んだり引き抜いたりしても、スペーサ80が先端辺部622aに貼り付けられた状態を保持することができ、剥離工程における剥離板部62の設置や取り外しの際の操作性を向上させることができる。
【0027】
また、連結軸部2が剥離板部62の貫通孔に貫通して剥離板部62が軸線2A方向にスライド可能であることから、タイルのサイズや枚数に合わせて剥離板部62の位置を調整することができ、利便性を向上させることができる。
また、剥離板部62の貫通孔が長孔623であることから、剥離板部62を前後上下に移動させることにより操作性の自由度を向上させることができ、タイルに欠けやクラックが入っているなどの設置状況に応じて、傾斜部32a,42aの狭め方を変えることにより、タイルに効果的に持ち上げ力を与えることができる。
【0028】
なお、本発明の技術範囲は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。
例えば、前クランプ部3と後クランプ部4によって、2枚のタイルt1,t2を挟持するとしたが、これに限ることはなく、挟持するタイルの数は適宜変更可能である。例えば、図12に示すように、タイルt1とタイルt4を挟持し、タイルt2、タイルt4、タイルt3と順次剥離していき、タイルt1を残しておくこともできる。また、図9に示すように、1枚のタイルを挟持するようにしてもよい。この場合、スリットS1,S2にそれぞれ前クランプ部3および後クランプ部4を嵌めていく。このとき、後クランプ部4を5度程度前方に傾けて、図10に示すように、内面42a1とタイルt1の端面とが面接触するようにする。そして、後ナット52を回転させて締めていくことにより、タイルt1は強く締め付けられていき、さらに前ナット51を回転させて強く締め付ける。これにより、後連結板部41を介して傾斜部42aの先端部が前方側に押されていく。これにより、タイルt1が、前クランプ部3と後クランプ部4によって、深い箇所で強固に挟持される。それから、把持部23または把持部23に差し込んだ延長パイプ23Aを把持して持ち上げると、側面視して前保持板部32の先端近くにあるタイルt1の下端角部r3を回転中心として後クランプ部4とタイルt1が持ち上げられて回転していく。これは、てこの原理により、傾斜部42aの先端部がタイルt1を持ち上げていき、タイルt1を剥離することである。これにより、タイルt1が1枚であっても効率よく剥離することができる。なお、図9においては、長孔623に連結軸部2が通されたままにして剥離部6を残しているが、これに限ることはなく、タイルの設置状況等に応じて、剥離部6を取り外しておいてもよい。すなわち、位置変更機構部5、後クランプ部4および剥離部6をスライド移動させて連結軸部2の基端側から取り外した後、位置変更機構部5および後クランプ部4を連結軸部2に戻せば剥離部6を取り外すことができる。
【0029】
また、例えば、前クランプ部3と後クランプ部4によって、図12に示すように、タイルを3枚以上挟持するようにしてもよい。この場合、剥離部6をスライド移動させて、横目地部に嵌め込んでいってタイルを剥離することができる。また、図6(C)に示すように、タイルの横方向がタイル幅の半分ずれている交互の列の場合、スリットS11に前クランプ部3を挿入し、横方向に隣り合うタイルt21とタイルt22の2つのタイルのスリットS31に後クランプ部4を挿入して挟持し剥離部6によってまずタイルt11を剥離し、そしてタイル剥離具1をタイル幅の半分横方向にずらして、次にタイルt22を剥離してもよい。
【0030】
また、位置変更機構部5が設けられているとしているが、これに限ることはなく、位置変更機構部5が設けられておらず、後クランプ部4が連結軸部2に固定されていてもよい。
また、位置変更機構部5が後クランプ部4の位置を変更するとしているが、これに限ることはなく、前クランプ部3の位置を調整するようにしてもよい。
また、位置変更機構部5は、前ナット51および後ナット52を備えるとしているが、これに限ることはなく、その構成は適宜変更可能である。
また、傾斜部32a,42aが設けられているとしたが、これに限ることはなく、傾斜部32aのみ設けられていてもよいし、傾斜部42aのみ設けられていてもよい。さらには、傾斜部32a,42aが設けられていなくてもよい。
【0031】
剥離板部62の長孔623に連結軸部2が貫通されているとしているが、これに限ることはなく、その構成は適宜変更である。例えば、剥離板部62が連結軸部2に貫通されていなくてもよい。この場合、連結軸部2が幅方向Wの両端部に一対設けられ、これら一対の連結軸部2の間に剥離板部62が配されてタイルを剥離するようにしてもよい。
また、剥離板部62の長孔623に連結軸部2が貫通され剥離板部62がスライド移動可能になっているとしているが、これに限ることはなく、その構成は適宜変更である。例えば、剥離板部62が連結軸部2に固定されており、前クランプ部3と後クランプ部4が移動可能になっていてもよい。
また、剥離板部62に長孔623が設けられているとしているが、これに限ることはなく、開口部の形状は適宜変更可能である。例えば、連結軸部2の横断面形状と同じであってもよい。
【0032】
また、内面32a1,42a1および先端辺部622aの両面に滑り防止部が設けられているとしているが、これに限ることはなく、少なくとも先端辺部622aの両面に滑り防止部が設けられていればよい。
また、滑り防止部がダイヤモンド粒子等の硬質粒子からなっているとしているが、これに限ることはなく、その構成は適宜変更である。さらに、内面32a1,42a1などの滑り防止部は、高摩擦抵抗粒子でなくてもよい。例えば、ゴムや樹脂などであってもよい。
また、前円柱部32b、後円柱部42bおよび円柱部622bが設けられているとしているが、これら前円柱部32b、後円柱部42bおよび円柱部622bの形状は、適宜変更可能であり、例えば、半円柱や角柱であってもよく、奥行方向Dに突出する凸状に形成されていればよい。さらに、これら前円柱部32b、後円柱部42bおよび円柱部622bは設けられていなくてもよい。
また、これら前円柱部32b、後円柱部42bおよび円柱部622bは、タイルの移動を規制するとしているが、これに限ることはなく、以下のように利用することもできる。例えば、円柱部622bの高さ位置がタイルTの高さ寸法より少し短めに合わせて設けられることにより、これらの円柱部材が支点となって、てこの原理により、剥離板部62を回転させやすくすることができる。
また、タイル設置面として壁面Kを例示しているが、これに限ることはなく、その構成は適宜変更可能である。例えば、タイル設置面は種々の平面であってもよい。すなわち、タイル設置面が、鉛直に延びる鉛直面であってもよいし、床面や天井面などのように水平に延びる水平面であってもよいし、傾斜する傾斜面であってもよい。さらに、タイル設置面は平面でなくてもよく、例えば曲面であってもよい。
【0033】
既述の実施形態に関し、さらに以下の付記を示す。
(付記1)
タイル設置面に配列されて設けられたタイルを剥離するタイル剥離具であって、
配列方向に隣り合う一方のタイルの一方側の目地部に嵌められる第1の嵌合部と、
前記配列方向に隣り合う他方のタイルの他方側の目地部に嵌められる第2の嵌合部と、
前記第1の嵌合部が前記一方側の目地部に嵌められて前記第2の嵌合部が前記他方側の目地部に嵌められた状態で、前記一方のタイルと前記他方のタイルとの中間の目地部に嵌められて前記一方のタイルおよび前記他方のタイルを持ち上げて剥離する剥離板部と
を備えるタイル剥離具。
【0034】
(付記2)
前記第1の嵌合部が固定されており、
前記第1の嵌合部に対して接近離隔する方向に前記第2の嵌合部の位置を変更して前記第2の嵌合部を固定解除する位置変更機構部を備える付記1に記載のタイル剥離具。
【0035】
(付記3)
前記第1の嵌合部または前記第2の嵌合部の少なくともいずれか一方が、いずれか他方の側に傾斜する傾斜部を備える付記1または付記2に記載のタイル剥離具。
【0036】
(付記4)
前記第1の嵌合部と前記第2の嵌合部とを連結する連結軸部を備え、
前記剥離板部に滑り防止部と貫通孔が設けられており、
前記貫通孔は、前記中間の目地部に前記剥離板部が嵌められる方向に延ばされた長孔とされ、
前記連結軸部が前記貫通孔に貫通し前記剥離板部が前記連結軸部の軸線方向にスライド可能になっている付記1から付記3のいずれか一項に記載のタイル剥離具。
【0037】
(付記5)
前記第1の嵌合部と前記第2の嵌合部の内面および前記剥離板部の両面に、凸部が設けられている付記1から付記4のいずれか一項に記載のタイル剥離具。
【0038】
(付記6)
前記剥離板部は磁力が働く金属からなっており、
前記剥離板部に、前記中間の目地部に嵌められるスペーサが磁力により着脱可能に設けられるようになっている付記1から付記5のいずれか一項に記載のタイル剥離具。
【0039】
(付記7)
付記1から付記6のいずれか一項に記載のタイル剥離具を利用して、タイルを剥離するタイル剥離方法。
【符号の説明】
【0040】
1 タイル剥離具
2 連結軸部
3 前クランプ部
4 後クランプ部
5 位置変更機構部
32a 傾斜部
32b 前円柱部(凸部)
42a 傾斜部
42b 後円柱部(凸部)
62 剥離板部
622b 円柱部(凸部)
623 長孔(貫通孔)
E 配列方向
K 壁面(タイル設置面)
T タイル
t1 一方のタイル
t2 他方のタイル
M 目地部
Mb1 一方側の目地部
Mb2 中間の目地部
Mb3 他方側の目地部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12