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特開2022-35967耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株、その製造方法、及び使用
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  • 特開-耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株、その製造方法、及び使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022035967
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株、その製造方法、及び使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/01 20060101AFI20220225BHJP
   A61K 39/155 20060101ALI20220225BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20220225BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220225BHJP
   C12N 15/45 20060101ALN20220225BHJP
   C07K 14/125 20060101ALN20220225BHJP
   C12P 21/02 20060101ALN20220225BHJP
【FI】
C12N7/01
A61K39/155
A61P31/14
A61P37/04
C12N15/45 ZNA
C07K14/125
C12P21/02 C
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021067259
(22)【出願日】2021-04-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-01-05
(31)【優先権主張番号】202010839293.8
(32)【優先日】2020-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】521155449
【氏名又は名称】湖北省農業科学院畜牧獣医研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】温 国元
(72)【発明者】
【氏名】商 雨
(72)【発明者】
【氏名】李 麗
(72)【発明者】
【氏名】邵 華斌
(72)【発明者】
【氏名】羅 青平
(72)【発明者】
【氏名】王 紅琳
(72)【発明者】
【氏名】羅 玲
(72)【発明者】
【氏名】張 蓉蓉
(72)【発明者】
【氏名】汪 宏才
(72)【発明者】
【氏名】張 騰飛
(72)【発明者】
【氏名】張 文▲ティン▼
(72)【発明者】
【氏名】盧 琴
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG32
4B064CA10
4B064CA12
4B064CA19
4B064CC03
4B064CC06
4B064CC12
4B064CC15
4B064CC24
4B064CD21
4B064CE02
4B064CE06
4B064DA01
4B065AA90X
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC02
4B065BA02
4B065BA05
4B065BB25
4B065BB37
4B065BC03
4B065BC11
4B065BD01
4B065BD09
4B065BD13
4B065BD18
4B065CA24
4B065CA43
4C085AA03
4C085BA57
4C085CC08
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA01
4H045DA86
4H045EA31
4H045FA74
4H045GA10
4H045GA45
(57)【要約】      (修正有)
【課題】常用のワクチン株よりはるかに高い耐熱特性を有するニューカッスル病ウイルス突然変異株、その製造方法、及び使用を提供する。
【解決手段】ニューカッスル病ウイルスTS09-C株を母株として、そのHNタンパク質に、3番目のアルギニンからセリンへ、197番目のアルギニンからイソロイシンへ、203番目のヒスチジンからアスパラギンへ、495番目のリジンからバリンへ突然変異する4つのアミノ酸突然変異を導入した、耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株であって、中国典型培養物保蔵センターに保蔵され、保蔵アドレスは中国、武漢、武漢大学、保蔵番号はCCTCC NO:V202041であることを特徴とする耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4。
【請求項2】
前記耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4は、ニューカッスル病ウイルスTS09-C株を母株として、そのHNタンパク質に、3番目のアルギニンからセリンへ、197番目のアルギニンからイソロイシンへ、203番目のヒスチジンからアスパラギンへ、495番目のリジンからバリンへ突然変異する4つのアミノ酸突然変異を導入し、耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4を得ることを特徴とする請求項1に記載の耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4。
【請求項3】
前記耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4のHNタンパク質の遺伝子配列は配列番号1であることを特徴とする請求項1に記載の耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4。
【請求項4】
ニューカッスル病ウイルスTS09-C株の転写プラスミドを構築するステップaと、
前記TS09-C株の転写プラスミドにおけるHN遺伝子の3番目、197番目、203番目及び495番目のアミノ酸を、それぞれセリン、イソロイシン、アスパラギン酸及びバリンに突然変異するステップbと、
突然変異した転写プラスミドを3つの補助プラスミドとともに宿主細胞にトランスフェクションし、前記耐熱性突然変異株を得るステップcと、
を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4の製造方法。
【請求項5】
ニューカッスル病の耐熱性生ワクチンの製造におけることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワクチンの遺伝子工学の分野であり、具体的には、耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-NU4に関する。より具体的には、本発明は、逆遺伝子操作技術を用いて、点突然変異の方法で、ニューカッスル病ウイルスに耐熱性改変を行って得られた、耐熱性改変された新規突然変異ウイルス株、及びワクチン製造におけるこのウイルス株の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ニューカッスル病はニューカッスル病ウイルス(Newcastle disease virus、NDV)により引き起こした高度接触性伝染病であり、全世界の家禽業に巨大な脅威をもたらした。NDVはパラミクソウイルス科、禽の耳下腺炎ウイルス属のメンバーに属し、エンベロープを含む一本鎖、負鎖で、セグメント化されていないRNAウイルスである。NDVゲノムは、ヌクレオカプシドタンパク質(NP)、リン酸化タンパク質(P)、基質タンパク質(M)、ヘマグルチニンノイラミニダーゼタンパク質(HN)、融合タンパク質(Fusion protein、F)、及び依存性RNAポリメラーゼ(L)の6つの主要な構造タンパク質をコードする。一部の研究により、NDVのHNタンパク質がウイルス粒子の熱安定性を決定する重要な要素であることが明らかになった。
【0003】
現在、ニューカッスル病の予防と制御は主にワクチン接種に依存しており、従来のワクチンは主に不活化ワクチンと弱毒生ワクチンであり、ニューカッスル病の流行による危害を大幅に低減した。現在臨床で使用されている不活化ワクチンは主にLaSota株、Ulster2C株、及びClone30株の3種類であり、油乳剤不活化ワクチンは高いレベルの抗体を産生でき、しかも免疫保護期間が長いが、筋肉内注射が必要で、手間と時間がかかり、免疫コストが高く、しかも家禽肉の品質に影響を与える。弱毒生ワクチンは主に遺伝子II型ワクチン株LaSota株であり、その使いやすさ(飲水、点鼻/点眼、噴霧などの様々な方式でワクチンを投与する)のため、中国国内で最も広く利用されている。しかし、このような生ワクチンは耐熱性が悪く、冷蔵条件への要件が高いため、不適切な保存や使用が、免疫不完全、さらに免疫失敗を招くことがしばしばあり、これも非典型性ニューカッスル病が頻繁に発生する主要な理由の1つである。例えばV4、TS09-C株など、一部のニューカッスル病ウイルス弱毒株は良い熱安定特性を持っており、このようなワクチンは気温が高い区域やコールドチェーンシステムが完備されていない農村で簡便に使用でき、ニューカッスル病の予防と制御において重要な役割を発揮している。そのため、ニューカッスル病ウイルスの耐熱性機序及び従来の弱毒株の熱安定性をどのように高めるかを検討することは極めて重要である。
【0004】
NDV逆遺伝学の急速な発展はNDVに対する点突然変異修飾、外来遺伝子の挿入、遺伝子断片の交換などの遺伝子操作を可能にした。ニューカッスル病耐熱性ワクチンと逆遺伝子操作方法に関する文献は多いが、ニューカッスル病ウイルスに対して点突然変異による耐熱性改変を行う方法に関する報告はなかった。例えば、出願番号201110163109.3の特許文献「ベビーハムスター腎継代細胞に適したニューカッスル病ウイルスの耐熱性弱毒株、その製造方法及び使用」には、継代細胞株に適したニューカッスル病ウイルスの耐熱性株、及び耐熱性ワクチンの製造分野におけるその使用が開示されている。出願番号201210090099.4の特許文献「ニューカッスル病ウイルスの耐熱性又はワクチンベクター系及びその使用」には、ニューカッスル病ウイルスの耐熱性生ワクチンベクター系及びHN遺伝子交換によるウイルス熱安定性の改変方法が開示されている。HN遺伝子交換の方法で非耐熱性ウイルスの熱安定性をある程度高めることができるが、どのように既存の耐熱性ウイルス株の熱安定性を高めるかについては、交換対象となる、より耐熱性のウイルス株のHN遺伝子がないため、HN遺伝子交換方法は既存の耐熱性ウイルス株の熱安定性をさらに高めることができない。そのため、既存の耐熱性株に対してその熱安定性をさらに高める方法の開発が急務となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記技術的課題を解決するために、より熱安定性の高いニューカッスル病ウイルスの耐熱性突然変異株、その製造方法及び使用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記発明の目的を達成するために、本発明の技術案は以下の通りである。
【0007】
耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4であって、中国典型培養物保蔵センターに保蔵され、保蔵アドレスは中国、武漢、武漢大学、保蔵番号はCCTCC NO:V202041、保蔵時間は2020年7月31日である。
【0008】
好ましくは、前記耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4は、ニューカッスル病ウイルスTS09-C株を母株として、そのHNタンパク質に、3番目のアルギニンからセリンへ、197番目のアルギニンからイソロイシンへ、203番目のヒスチジンからアスパラギンへ、495番目のリジンからバリンへ突然変異する4つのアミノ酸突然変異を導入し、耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4を得る。前記耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4のHNタンパク質の遺伝子配列は配列番号1である。本発明に使用されるTS09-C株は既に2011年5月9日に中国典型微生物保蔵センターに保蔵され、保蔵番号はCCTCC V201113である。
【0009】
前記耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4の製造方法は、ニューカッスル病ウイルスTS09-C株の転写プラスミドを構築するステップaと、前記TS09-C株の転写プラスミドにおけるHN遺伝子の3番目、197番目、203番目及び495番目のアミノ酸を、それぞれセリン、イソロイシン、アスパラギン酸及びバリンに突然変異させるステップbと、突然変異した転写プラスミドを3つの補助プラスミドとともに宿主細胞にトランスフェクションし、前記耐熱性突然変異株を得るステップcとを含む。
【0010】
ニューカッスル病の耐熱性生ワクチンの製造における、前記耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4の使用である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の有益な効果は次の通りである。
【0012】
1)本発明は、ニューカッスル病ウイルスの耐熱性TS09-C株の転写プラスミドに基づき、TS09-C株の転写プラスミドにおけるHN遺伝子の3番目、197番目、203番目、及び495番目のアミノ酸を、それぞれセリン、イソロイシン、アスパラギン酸、及びバリンに突然変異させ、点突然変異した転写プラスミドを構築するものであり、ウイルスレスキューの方法により、新しいウイルス突然変異株を得る。耐熱性試験の結果から明らかなように、ウイルス突然変異株の耐熱特性は母株より明らかに高く、さらに常用のワクチン株よりはるかに高く、それは、本発明が既存の耐熱性株の熱安定性をさらに高めることを示した。
【0013】
2)他のニューカッスル病ウイルス弱毒株と比較して、耐熱性改変された弱毒株は熱安定性がより高く、これにより製造された生ワクチンは、保存や輸送過程において低温やコールドチェーン輸送設備に過度に依存することがなく、耐熱性保護剤を添加することなく、ワクチンの有効期限を延長することができ、コストを削減することができるとともに、高温地域や冷蔵設備が完備していない地域におけるワクチンの大規模な普及・応用に有利である。熱安定性に優れた生ワクチンは、噴霧や飲水などの簡便な免疫方法で使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ニューカッスル病ウイルス突然変異株のゲノムの構造模式図である。
図2】ニューカッスル病ウイルス突然変異株の細胞増殖曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面及び実施例を参照して本発明をさらに説明するが、本発明の内容は以下の実施例に限定されるものではない。
【0016】
本発明は耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4を提供する。耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4は、中国典型培養物保蔵センターに保蔵され、保蔵アドレスは中国、武漢、武漢大学、保蔵番号はCCTCC NO:V202041、保蔵時間は2020年7月31日である。
【0017】
該耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4は、ニューカッスル病ウイルスTS09-C株を母株として、そのHNタンパク質に、3番目のアルギニンからセリンへ、197番目のアルギニンからイソロイシンへ、203番目のヒスチジンからアスパラギンへ、495番目のリジンからバリンへ突然変異する4つのアミノ酸突然変異を導入し、耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4を得る。前記耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4のHNタンパク質の遺伝子配列は配列番号1である。
【0018】
本発明はさらに耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4の製造方法を提供する。製造方法は、ニューカッスル病ウイルスTS09-C株の転写プラスミドを構築するステップaと、前記TS09-C株の転写プラスミドにおけるHN遺伝子の3番目、197番目、203番目及び495番目のアミノ酸を、それぞれセリン、イソロイシン、アスパラギン酸及びバリンに突然変異するステップbと、突然変異した転写プラスミドを3つの補助プラスミドとともに宿主細胞にトランスフェクションし、前記耐熱性突然変異株を得るステップcとを含む。
【0019】
本発明はさらにニューカッスル病の耐熱性生ワクチンの製造における、前記耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4の使用を提供する。
【0020】
以下、実施例を参照して本発明を説明する。
【0021】
(実施例1)
ニューカッスル病ウイルス突然変異株の転写プラスミドの構築及びウイルスレスキュー
突然変異スキームに従って、遺伝子合成方法で4種類の突然変異HN遺伝子配列(HN-P4、HN-PU4、HN-NU4、及びHN-UP4)を得た。HN-P4の突然変異スキームは、62番目のAがR、98番目のNがK、293番目のEがK、494番目のDがGに突然変異することである。HN-PU4の突然変異スキームは、3番目のRがS、197番目のRがI、203番目のHがN、495番目のKがVに突然変異することである。HN-UP4の突然変異スキームは、62番目のAがR、280番目のQがR、353番目のQがR、570番目のGがRに突然変異することである。HN-NU4の突然変異スキームは、147番目のDがG、293番目のEがG、309番目のDがN、494番目のDがGに突然変異することである。それらをそれぞれTS09-C株の転写プラスミドにおけるHN遺伝子に置換し、図1に示すように、4種類の改変された転写プラスミド(pTS-HN-P4、pTS-HN-PU4、pTS-HN-NU4、及びpTS-HN-UP4)を得た。改変された転写プラスミドと補助プラスミドをBHK-21細胞に共トランスフェクションし、それぞれrTS-HN-P4(対照例)、rTS-HN-PU4(本発明)、rTS-HN-NU4(対照例)、及びrTS-HN-UP4(対照例)の4株の耐熱性改変されたニューカッスル病ウイルス突然変異株を得た。上記の4種類の突然変異ウイルスの構築とレスキュースキームでは、会社に送って合成する配列に違いがある以外、残りの操作はほぼ一致している。
【0022】
1.1 突然変異HN遺伝子配列
突然変異HN遺伝子配列を会社に送って合成し、突然変異HN配列を含むTベクターをテンプレートとして、突然変異HN遺伝子を増幅する上流プライマー配列を配列番号2とし、突然変異HN遺伝子を増幅する下流プライマー配列を配列番号3(1番目から15番目の塩基はInfusionクローニング連結のための相同配列である)とする特異的プライマーを設計した。高忠実度DNAポリメラーゼPrimeSTAR(登録商標)GXL DNA Polymeraseを用いて改変HN遺伝子を増幅した。PCR産物についてアガロースゲル電気泳動を行い、DNAゲル回収キットを用いて、特異的目的バンドを回収して、突然変異HN遺伝子断片を得た。
【0023】
1.2 TS09-C転写プラスミドの線形化
TS09-C転写プラスミド中のHN遺伝子以外のすべての配列を増幅するための一対のPCRプライマーを設計して合成し(プライマーの5’末端に相同配列を導入し、改変されたHN遺伝子増幅産物と線形化クローニングベクターとの間に、互いに相同組換え可能な完全に一致する配列を持たせる)、このPCRプライマーは、TS09-C転写プラスミドを増幅する上流プライマー配列を配列番号4、TS09-C転写プラスミドを増幅する下流プライマー配列を配列番号5(1番目から15番目の塩基はInfusionクローニング連結のための相同配列である)とし、これらはすべて人工配列であった。PCR反応系は、5×PrimeSTAR GXL Buffer、dNTP Mixture(各2.5mM)、上下流Primer(0.2~0.3μM)、PrimeSTAR GXL DNA Polymerase、HO及びテンプレートからなる。PCR増幅条件は98℃10秒間、60℃15秒間、68℃1分間/kb、35サイクルであった。アガロースゲル電気泳動により目的バンドを検出し、PCR増幅バンドをDNA精製キットで精製して回収し、TS09-C株転写プラスミド(HN遺伝子を除く)の線形化産物を得た。
【0024】
1.3 突然変異株の転写プラスミドの連結及び同定
In-Fusion HD Cloning Kitの取扱書に従って、突然変異したHN遺伝子断片とTS09-C株転写プラスミドの線形化断片をIn-fusion連結し、DH5αコンピテント細胞に形質転換し、LB耐性プレートに塗布し、16時間反転培養後、単コロニーを選んでPCR同定を行い、陽性コロニーに対して拡大培養とプラスミドの抽出を行った。
【0025】
1.4 突然変異株の転写プラスミドの酵素切断同定
陽性と同定された転写プラスミドをBam HI制限エンドヌクレアーゼで酵素切断同定を行ったところ、アガロースゲル電気泳動により検出されたバンドはすべて期待通りであった。転写プラスミドを会社に送ってシークエンシング分析を行ったところ、突然変異HN遺伝子を含む転写プラスミドの構築に成功したことを示した。
【0026】
1.5 突然変異株ウイルスのレスキュー
トランスフェクションの前日に生育状態の良好なBHK-21細胞を6ウェルプレートに移し、トランスフェクションの当日の細胞密度が80%程度に達することを確保し、HBSSで細胞を3回洗浄した後、2%血清を含むDMEM培地を交換し、同時に0.01MOIのポックスウイルスを加え、37℃で1時間インキュベートした。突然変異した転写プラスミドとNP、P、Lタンパク質をそれぞれ発現する3つの補助プラスミドとを、Lipofectamine3000トランスフェクション試薬を用いてBHK-21細胞にそれぞれ1.25μg、0.313μg、0.313μg、0.625μgのプラスミドの量で共トランスフェクションした。6時間のトランスフェクション後、HBSSで細胞を3回洗浄し、0.4μg/mL TPCKパンクレアチン、2%ペニスロマイシンの二重抗体を含むDMEMを交換し、細胞の病変状況を観察し、細胞が明らかな病変を示して脱落したときに、凍結融解を3回繰り返し、0.22μm孔径のフィルターを用いてポックスウイルスを除去し、9~11日齢のSPFニワトリ胚において3回継代し、HA力価測定とRT-qPCR方法を用いてニューカッスル病ウイルスを同定した。正確であると同定されたニューカッスル病ウイルス突然変異株は、後続の研究に用いることができる。
【0027】
(実施例2)
ニューカッスル病ウイルス突然変異株の熱安定性試験
それぞれ4株のニューカッスル病ウイルス突然変異株に感染した尿膜液を、100μL/本、56℃の水浴で熱処理し、3回繰り返し、それぞれ0、2、5、10、15、30、60、120、180分間でウイルス尿膜液を取り出し、速やかに氷上に置き、ウイルスの血液凝固(HA)力価を測定し、力価の変化を統計して、表1を得た。表1に示すように、母株TS09-C株に比べて、rTS-HN-P4、rTS-HN-NU4及びrTS-HN-UP4株は、いずれもHA熱安定性が著しく低下しており、rTS-HN-PU4のみはHA熱安定性が大幅に向上した。このウイルス株は56℃で180分間熱処理した後、HA力価が3logだけ低下したが、母株TS09-C株は0に低下した。対照LaSota株は5分間熱処理した後、1logまで低下した。そのため、4株のニューカッスル病ウイルス突然変異株のうち、rTS-HN-PU4のみはHA熱安定性が著しく向上した。さらに4つの突然変異株の感染力耐熱性を測定し、56℃で対応する時間処理した後、勾配希釈してBHK-21細胞に接種し、そのTCID50力価の変化状況を測定し、感染力-耐熱性曲線をプロットし、感染力が1log10(90%)低下するのに要する時間T90を算出した。その結果、rTS-HN-P4、rTS-HN-NU4、rTS-HN-UP4、及びrTS-HN-PU4のT90は、それぞれ4.3、4.0、4.5、及び25.5分間であり、対照TS09-CとLaSota株のT90は、それぞれ12.7と1.5分間であった。このため、4株の突然変異株のうち、rTS-HN-PU4株のみは、熱安定性が著しく向上し、母株TS09-C株に比べて2.7倍(25.2/12.7))上昇し、一般的なLaSota株より17倍(25.2/1.5)上昇した。
【0028】
【表1】
【0029】
(実施例3)
ニューカッスル病ウイルスrTS-HN-PU4株の細胞増殖試験
点突然変異がrTS-HN-PU4株の細胞増殖力価に影響を与えるか否かを解析するために、rTS-HN-PU4株と母株TS09-C株の細胞上での増殖状況を比較した。希釈した2株のウイルスを緻密な単層に成長したBHK-21細胞に接種し、接種してから0、24、48、72、96時間後、細胞上清をそれぞれ採取した。採取した上清を10倍勾配希釈し、希釈度ごとに100μLを単層BHK-21細胞を含む96ウェルプレートに接種し、希釈度ごとに3回繰り返して、細胞病変状況からTCID50を計算して、ウイルスの成長動態曲線をプロットした。その結果、図2に示すように、rTS-HN-PU4株は細胞感染72時間後、基本的にプラットフォーム期に達し、力価が106.86TCID50/mlであり、母株TS09-C株の成長曲線と類似していた。したがって、点突然変異はrTS-HN-PU4株の細胞増殖力価に影響を与えなかった。
【0030】
(実施例4)
ニューカッスル病ウイルスrTS-HN-PU4株の病原性解析
rTS-HN-PU4株の病原性をウイルスのニワトリ胚の最小致死量の平均死亡時間(MDT/MLD)と脳内病原性指数(ICPI)で評価した。MDT/MLDの検出方法:rTS-HN-PU4株のウイルス尿膜液を10倍勾配希釈し、SPFニワトリ胚に100μL/枚で接種し、7日間連続観察し、ニワトリ胚の死亡時間を記録し、MDT/MLD値を算出した。ICPI検出方法:10倍勾配希釈したrTS-HN-PU4株のウイルス尿膜液を1日齢のSPF雛に10羽/群、接種量50μL/羽で接種し、1日1回観察し、ニワトリについて採点し、正常ニワトリは0、発病ニワトリは1、死亡ニワトリは2とした。合計8日間観察し、ICPI値を算出した。その結果、各希釈度のウィルスをニワトリ胚に120時間接種した場合、死亡せず、rTS-HN-PU4株のMDT/MLD値は120時間よりも大きく、ICPI値は0.00であった。母株TS09-C株のMDTも120時間よりも大きく、ICPI値は0.00であった。したがって、rTS-HN-PU4株は母株TS09-C株の弱毒性を保持した。
【0031】
(実施例5)
ニューカッスル病ウイルスrTS-HN-PU4株の免疫原性解析
点突然変異がrTS-HN-PU4株の免疫原性に影響を与えるか否かを解析するために、rTS-HN-PU4株のニワトリ免疫試験を実施した。2週齢のSPF雛を点鼻や点眼により106.0EID50/羽の用量で接種し、同時に、それぞれ母株TS09-C株と未免疫群の2つの対照群を設定した。免疫してから2週間後、翅静脈を介して採血し、血清を分離し、その血液凝固抑制抗体レベルを測定した。その結果、空白対照群を除いて、残りの2群はすべてHI抗体陽性であることを示した。これらのうち、TS09-C株免疫群の平均抗体レベルは23.6、rTS-HN-PU4群の平均抗体レベルは24.8であった。したがって、rTS-HN-PU4株は、母株TS09-C株よりもニワトリに対する免疫原性が高く、ニューカッスル病の耐熱性生ワクチンの候補株とすることができる。
【0032】
(付記)
(付記1)
耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株であって、中国典型培養物保蔵センターに保蔵され、保蔵アドレスは中国、武漢、武漢大学、保蔵番号はCCTCC NO:V202041であることを特徴とする耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4。
【0033】
(付記2)
前記耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4は、ニューカッスル病ウイルスTS09-C株を母株として、そのHNタンパク質に、3番目のアルギニンからセリンへ、197番目のアルギニンからイソロイシンへ、203番目のヒスチジンからアスパラギンへ、495番目のリジンからバリンへ突然変異する4つのアミノ酸突然変異を導入し、耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4を得ることを特徴とする付記1に記載の耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4。
【0034】
(付記3)
前記耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4のHNタンパク質の遺伝子配列は配列番号1であることを特徴とする付記1に記載の耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4。
【0035】
(付記4)
ニューカッスル病ウイルスTS09-C株の転写プラスミドを構築するステップaと、
前記TS09-C株の転写プラスミドにおけるHN遺伝子の3番目、197番目、203番目及び495番目のアミノ酸を、それぞれセリン、イソロイシン、アスパラギン酸及びバリンに突然変異するステップbと、
突然変異した転写プラスミドを3つの補助プラスミドとともに宿主細胞にトランスフェクションし、前記耐熱性突然変異株を得るステップcと、
を備えることを特徴とする付記1から3のいずれか1つに記載の耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4の製造方法。
【0036】
(付記5)
ニューカッスル病の耐熱性生ワクチンの製造におけることを特徴とする付記1から3のいずれか1つに記載の耐熱性ニューカッスル病ウイルス突然変異株rTS-HN-PU4の使用。
図1
図2
【配列表】
2022035967000001.app
【外国語明細書】