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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022035981
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】涼感布
(51)【国際特許分類】
   A41D 31/06 20190101AFI20220225BHJP
   A41D 13/002 20060101ALI20220225BHJP
   A41D 13/11 20060101ALI20220225BHJP
   A41D 31/04 20190101ALI20220225BHJP
   A41D 1/00 20180101ALI20220225BHJP
   D06M 15/277 20060101ALI20220225BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20220225BHJP
   D06M 101/32 20060101ALN20220225BHJP
【FI】
A41D31/06
A41D13/002
A41D13/11 Z
A41D31/04 Z
A41D1/00 E
D06M15/277
B32B5/26
D06M101:32
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094485
(22)【出願日】2021-06-04
(31)【優先権主張番号】P 2020140158
(32)【優先日】2020-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】503200224
【氏名又は名称】青木 恒雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115613
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 寧司
(72)【発明者】
【氏名】青木 恒雄
【テーマコード(参考)】
3B011
3B030
4F100
4L033
【Fターム(参考)】
3B011AA01
3B011AB01
3B011AB09
3B011AC18
3B030AA00
3B030AB08
4F100AD00A
4F100AJ04B
4F100AK17A
4F100AK24A
4F100AK41A
4F100AK41B
4F100AK52A
4F100BA02
4F100DG01B
4F100DG11A
4F100DG11B
4F100DG13A
4F100GB72
4F100JB06A
4F100JD15B
4F100JJ10
4L033AA07
4L033AB04
4L033AB06
4L033AC03
4L033CA17
4L033CA22
4L033CA59
(57)【要約】
【課題】遮熱作用、又は冷感作用を有するとともにウイルス等が付着することを防止し得る涼感布と、それを用いた繊維製品を提供すること。
【解決手段】涼感性を有する生地の一方面に撥水性が付与された涼感布であり、前記生地は、セラミック含有ポリマーを含むポリエステル系繊維からなり、前記撥水性は、前記生地に付着したシリコーン系撥水剤又はフッ素系撥水剤の少なくとも何れか一方に基づく構成とした。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
涼感性を有する生地の一方面に撥水性が付与された涼感布。
【請求項2】
前記生地は、セラミック含有ポリマーを含むポリエステル系繊維からなる請求項1記載の涼感布。
【請求項3】
前記撥水性は、前記生地に付着したシリコーン系撥水剤又はフッ素系撥水剤の少なくとも何れか一方に基づく請求項1又は請求項2記載の涼感布。
【請求項4】
前記生地は、吸着拡散性を有する請求項1~請求項3何れか1項記載の涼感布。
【請求項5】
前記生地は表裏両面の構成が異なるダブルニット等の編み物からなり、前記吸着拡散性が前記生地の表裏両面の異なる構成に基づく請求項4記載の涼感布。
【請求項6】
請求項1~請求項5何れか1項記載の涼感布からなる第1層と、当該第1層の撥水性を有する前記一方面とは反対面側に、吸水性を有する生地からなる第2層が積層した涼感布。
【請求項7】
涼感性を有する生地に撥水性が付与された第1層と、吸水性を有する生地からなる第2層が積層した涼感布。
【請求項8】
前記第2層となる生地は、ポリエステル繊維の芯成分とコットン繊維の鞘成分を有する芯鞘型複合繊維からなる請求項6又は請求項7記載の涼感布。
【請求項9】
請求項1~請求項8何れか1項記載の涼感布を用いた繊維製品。
【請求項10】
防護服、白衣、手術着、若しくはTシャツの少なくとも何れかを含む衣服、カーテン若しくはのれん、又はマスクの少なくとも何れかである請求項9記載の繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば太陽光が当たった際に太陽光による熱上昇を抑制する遮熱作用、夏の暑いときに触っても冷たく感じる冷感作用等の涼感作用を有するとともに、ウイルスが付着することを防止し得る涼感布、及びこの涼感布を用いた繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
炎天下や、温度湿度が高い環境下で作業を行う場合等には、熱中症を防止するための対策が必要となる場合がある。また、熱中症のおそれがない場合であっても、冷感作用による清涼感が求められ、使用者がべとつき感の少ない衣服を求める場合がある。さらには花粉等の微粉塵が衣服に付着することも考えられ、花粉対策等として、微粉塵が付着しない衣服が求められる。
【0003】
一方、ウイルスや細菌等の感染対策としてマスクが使用されている。近年においては、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためにマスクの着用が求められている。温度湿度が高い環境下でマスクを着用する場合、熱中症対策をする必要がある。
【0004】
前記課題を解決するため、特許文献1には、べとつき感や吸汗性を向上させつつ肌へのべとつきを抑えた織編物が開示されている。特許文献1に記載の織編物を用いた衣服では肌へのべとつき感を少なくすることはできるが、ウイルス等の微粉塵の付着については検討されていない。
【0005】
また、特許文献2には、マスク本体部に冷感作用を有する冷感剤が配置されたマスクが開示されている。特許文献2に記載のマスクによれば、冷感作用を得ることはできると思われるが、ウイルス等の微粉塵の付着については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-132643号公報
【特許文献2】特開2016-176165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
太陽光が当たった際に太陽光による熱上昇を抑制する遮熱作用、暑い季節に触れても冷たく感じさせることができる冷感作用等の涼感作用が求められる。
また、花粉やウイルス等が付着することを防止し得る防着作用が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、涼感性を有する生地の一方面に撥水性が付与された涼感布である。この態様によれば、肌に触れても熱さを感じさせず、汚れやほこり、花粉やウイルス等の付着を抑えることができる。
【0009】
本発明の一態様では、前記生地は、セラミック含有ポリマーを含むポリエステル系繊維からなる涼感布である。
この態様によれば、生地がセラミック含有ポリマーを含むポリエステル系繊維からなるため、セラミック成分が赤外線や紫外線等を内部に吸収しない遮熱性を有する。そのため、肌に触れても熱さを感じさせず、また日射の入光を阻止して内部の昇温を防止し、紫外線から保護することができる。
【0010】
本発明の一態様では、前記撥水性は、前記生地に付着したシリコーン系撥水剤又はフッ素系撥水剤の少なくとも何れか一方に基づくものとすることができる。
この態様によれば、撥水性が高く、撥水機能の持続性も高い。
【0011】
本発明の一態様では、前記生地は、吸着拡散性を有する涼感布とすることができる。この態様では、生地が吸着拡散性を有するため、撥水性を備える生地の一方面側からその生地の隙間を通じて進入した粒子を吸着することができ、反対に撥水性を備える面とは反対面側からの湿気を生地の隙間を通じて前記一方面側へ向けて拡散させることができる。そのため、涼感布内側への外部からの粒子の透過を抑制し、涼感布外側へ内部からの湿気を拡散することができる。なお、吸着拡散性という場合には上述のように、生地の一方面側にある湿気を他方面側に拡散する一方で、前記他方面側から生地に進入するウイルス等の粒子を吸着する性質を言うが、そうした一方で、吸水拡散性という場合には、生地の一方面側にある湿気を他方面側に拡散する性質を言う。
【0012】
本発明の一態様では、前記生地は表裏両面の構成が異なるダブルニット等の編み物からなり、前記吸着拡散性が前記生地の表裏両面の異なる構成に基づく涼感布とすることができる。
この態様によれば、ダブルニット等の編み物からなる生地が表裏両面の構成を異ならしめるため、この構成の相違が生地に吸着拡散性をもたらす。そのため、生地の素材自体は疎水性であっても、ウイルスの捕捉に優れた生地とすることができる。
【0013】
本発明の一態様は、前記何れかの涼感布からなる第1層と、当該第1層の撥水性を有する前記一方面とは反対面側に、吸水性を有する生地からなる第2層が積層した涼感布である。
この態様によれば、第1層に加えて第2層をさらに有し、その第2層が吸水性を有するため、涼感布の第2層側における吸水性を高めることができる。そのため、第2層が第2層側の湿気を取り入れ第1層側に排出する吸水拡散性を高めることができる。
【0014】
本発明の一態様は、涼感性を有する生地に撥水性が付与された第1層と、吸水性を有する生地からなる第2層が積層した涼感布である。
この態様によれば、第1層の撥水性と第2層の吸水性の双方を有する涼感布とすることができる。即ち、第1層が、熱さを感じさせず、汚れやほこり、花粉やウイルス等の付着を抑えることができ、第2層が吸水性を有することで、第2層側の湿気を取り入れ第1層の外側に排出する吸水拡散性を高めることができる。
【0015】
本発明の一態様では、前記第2層となる生地は、ポリエステル繊維の芯成分とコットン繊維の鞘成分を有する芯鞘型複合繊維からなる涼感布とすることができる。
この態様によれば、コットン繊維が有する吸湿性、吸水性と、ポリエステル繊維が有する発散性、拡散性とにより、吸水拡散性を発揮し易い。
【0016】
本発明の一態様は、前記何れかの涼感布を用いた繊維製品である。
この態様によれば、外部から汚れやほこり、花粉やウイルス等の付着を抑えることができ、内部の湿気を外部に逃がし易い繊維製品である。
【0017】
本発明の一態様は、防護服、白衣、手術着、若しくはTシャツの少なくとも何れかを含む衣服、カーテン若しくはのれん、又はマスクの少なくとも何れかである上記繊維製品である。
この態様によれば、汚れやほこり、花粉やウイルス等が付き難く、汗や呼気による湿気を外部に逃がし易く蒸れ難い、防護服、白衣、手術着、又はTシャツ等の衣服である。また、汚れやほこり、花粉やウイルス等が付き難く、室内の湿気をこもらせ難いカーテン又はのれんである。そして、汚れやほこり、花粉やウイルス等が付き難く、呼気による湿気を外部に逃がし易く蒸れ難く、眼鏡が曇り難いマスクである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、涼感作用のある涼感布又はその涼感布からなる繊維製品を提供できる。
本発明の一態様によれば、花粉やウイルス等が付着することを防止する防着作用のある涼感布又はその涼感布からなる繊維製品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、種々の実施形態を挙げて本発明を詳細に説明するが、各実施形態において同一の材質や、作用、効果、条件等について、重複する部分はその説明を省略する。
【0020】
<第1実施形態(涼感布その1)>:
第1実施形態として説明する涼感布は、涼感性を有する生地の一方面に撥水性が付与された布であり、その一態様としては、撥水性は無いが涼感性を有する生地の一方面に撥水加工を施したものである。ここで涼感性とはヒトに対して暑く感じさせない性質であり、その意味で冷感性と遮熱性とを含む概念である。冷感性とは、ヒトが触ったときに冷たく感じさせる冷感作用を奏する性能を意味し、遮熱性とは、太陽光などの光が照射される際に日射を吸収しないように反射し、温度上昇を妨げ紫外線等を透過させない遮熱作用を奏する性能を意味する。
【0021】
涼感性を有する生地には、生地の素材自体に涼感性を有する場合と、生地の素材自体に涼感性は無いが、その素材に涼感性を付与する物質を生地に付着させた場合がある。
【0022】
遮熱性を有する素材には、太陽光に含まれる、特に赤外線や近赤外線、紫外線を遮蔽する素材を用いたものがあり、赤外線や近赤外線、紫外線を吸収するITO(酸化インジウムスズ)や酸化亜鉛、酸化チタン等の金属酸化物、セラミック等を含有させた繊維を挙げることができる。芯成分がセラミック含有ポリマーで鞘成分がポリエステル系ポリマー等の芯鞘型複合繊維や、セラミック等を練り込んだポリマーからなる繊維又はセラミック含有ポリマー糸とポリエステル糸の混合糸からなる繊維等のセラミック含有ポリマーを含むポリエステル系繊維などはこの一例である。あるいは、光の反射率の異なるポリマーの複数層からなる繊維製品もまた日射を遮蔽する。これには芯成分がポリプロピレン系ポリマーで鞘成分がポリエステル系ポリマー等の芯鞘型複合繊維が例示できる。
【0023】
こうした遮熱性を有する素材の市販品として例えば、東レ社製:ボディシェル(商品名)、クラレトレーディング社製:レクチュール(商品名)、ユニチカトレーディング社製:サラクール(商品名)、旭化成社製:キュアベール(商品名)、ユニチカ株式会社製:こかげマックス(商品名)、東洋紡STC社製:レイブロック、三菱ケミカル社製:ソルシールド(商品名)等を挙げることができる。
【0024】
一方、冷感性を有する素材には、繊維中に水分を多く含み、熱伝導率が高く、肌触りも硬いなどの性質を有するものが挙げられる。繊維種でいえばレーヨンや、キュプラ、ポリエチレン、麻、ナイロン、シルク、それに芯成分がポリエステルで鞘成分がエバールである芯鞘型複合繊維等が挙げられる。この芯鞘型複合繊維は、鞘成分のエバールに水酸基を多く含み水分が吸着し易い。
【0025】
こうした冷感性を有する素材の市販品として例えば、ユニチカトレーディング社製:打ち水(商品名)や、東洋紡製:イザナス(商品名)、東レ社製:キュープラテ(商品名)、旭化成社製:ベンベルグ(商品名)、クラレトレーディング社製:ソフィスタ(商品名)等を挙げることができる。なお、一般的な綿製のガーゼやポリプロピレン製の不織布は遮熱性や冷感性は有していない。
【0026】
遮熱性や冷熱性を有していれば、種々の生地構造を採用することが可能であり、例えば、織物、編物、不織布等の繊維集合物であってもよい。また、織物、編物、不織布等の繊維集合物と他の素材、例えば樹脂フィルムの積層生地であってもよい。織物としては、例えば平織、斜文織、朱子織、変化平織、変化斜文織、変化朱子織、変わり織、紋織、片重ね織、二重組織、多重組織、経パイル織、緯パイル織、絡み織等がある。編物としては、例えば丸編、緯編、経編(トリコット編、ラッセル編を含む)、パイル編等を含み、平編、天竺編、リブ編、スムース編(両面編)、ゴム編、パール編、デンビー組織、コード組織、アトラス組織、鎖組織、挿入組織等が挙げられる。
【0027】
生地の素材には涼感性は無いが、その素材に涼感加工を施して涼感性を付与する物質を生地に付着させる場合には、上記した赤外線や近赤外線、紫外線を遮蔽する遮熱物質や、冷感作用のある物質をバインダー樹脂とともに生地表面に付着させることで涼感性が得られる。
【0028】
本実施形態の涼感布では、その生地の一方面に撥水性が付与されている。撥水性の付与は、撥水加工によりもたらすことができ、撥水剤を生地に付着させる。撥水剤としては、例えば、シリコーン系撥水剤、フッ素系撥水剤を用いることができるが、両者を混合して用いることは好ましい一態様である。これらの撥水剤は洗濯耐久性があるので、涼感布から製造された衣服、マスク等の繊維製品を繰り返して洗濯しても撥水性を持続させることができる。撥水成分を表面に備えた涼感布は、汚れやほこり、花粉やウイルス等が付き難い。
【0029】
シリコーン系撥水剤としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、ジメチルシロキサンの分子末端あるいは側鎖に水酸基、アミノ基、エポキシ基、ポリエーテル基等を導入した変性シリコーン化合物等を挙げることができる。また、フッ素系撥水剤としては、例えば、炭素数が2~6個程度のパーフルオロアルキル基を有するフッ素系化合物、化学構造中にポリフルオロアルキル基(Rf基)を有するフッ素系化合物等を挙げることができる。Rf基とは、アルキル基の水素原子の2個以上がフッ素原子に置換された基をいう。Rf基の炭素数は2~20個が好ましく、2~8個がより好ましく、1~6個がさらに好ましい。より具体的なフッ素系撥水剤には、フルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレート重合体(一種の単量体が重合した単独重合体、及び、二種以上の単量体が重合した共重合体を含む。)、フルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートとフッ素を含まない単量体との重合体等が挙げられる。フッ素系撥水剤とシリコーン系撥水剤を塗布の観点から比較すると、フッ素系撥水剤が好ましい。
【0030】
また、フッ素系撥水剤では、炭素数が8以上のものに不純物として微量に含まれるPFOA(パーフルオロオクタン酸)が地球環境や人体に悪影響を与える懸念があり、PFOAを廃絶する観点から、このPFOAを含まないC6、C4タイプのものが好ましい。
【0031】
なお、フッ素系撥水剤がウイルス等を撥返す理由は次のように考えられる。フッ素は、テフロン(商品名)とともに、クーロン力・帯電列が極マイナスでありポリエステルも中マイナスである。またウイルスもマイナスといわれ核をもたない(また細菌もマイナスであるが核はプラスという学者もいる)。マイナスとマイナスは反発することから、フッ素系撥水剤がウイルスを撥返すのである。なお、人は極プラスなのでマイナスのウイルスは人の細胞に寄生して繁殖し易い。またフッ素は、炭素とは結合し易いが他の化合物とは結合し難いため、ほこり等も付き難い。なお、ヒトの飛沫中の水分や油分をフッ素は反発する能力が高いため、この水分や油分とともに存在するウイルスも反発し易い。
【0032】
しかしながら、撥水剤の中でもフッ素系化合物は安全性に対する懸念や、自然環境保護の見地から、その使用を控える動きが生じている。そのため、フッ素系撥水剤以外の天然ワックスや合成ワックス等のワックス類、アクリル系撥水剤、上記のシリコーン系撥水剤、あるいはまた塗布後に凹凸構造を形成し空気層を表面にもたらすような撥水剤(例えば、日華化学社製:ネオシード(商品名))を用いることも好ましい。
【0033】
生地表面への撥水処理には種々の方法を利用でき、例えば生地の一方面側のみを撥水剤液に浸漬する方法や、生地の一方面に撥水剤液を噴霧したり、塗布したりする方法を挙げることができる。その後、乾燥することで撥水剤の固形分を生地に付着させることができる。塗布方法には刷毛ぬり、ローラー塗り、印刷等が挙げられる。これらの処理方法の中では刷毛塗りやローラー塗りが好ましく、ローラー塗りがより好ましい。スプレー等による噴霧は塗布ムラが生じ易い一方で刷毛塗りやローラー塗りはそうしたことがなく、ローラー塗りのほうが刷毛塗りよりも均一性が高まるからである。なお、生地の全体を撥水剤液に浸漬する方法は、生地の全体が撥水性となるため、後述する吸着拡散性を有しない生地となる点で好ましくない。
【0034】
生地に撥水剤を施した後は、自然乾燥の他、熱処理やその他の加工を行ってもよい。熱処理は、生地に撥水剤を付着させた後、プレス又はベーキングして行う。プレスはアイロン掛けでも可能であるが、アイロン掛けの場合には念入りに行うことが好ましい。熱処理の中でも圧力をかけることができて、操作が比較的簡単なプレスが最も好ましい。
【0035】
生地に付着させる撥水剤の量については、使用する撥水剤の種類、目的とする撥水性の程度等に応じて適宜設定すればよいが、撥水剤に含まれる固形分量として、生地の1mあたり例えば、0.05~10g/m、好ましくは0.1~7g/m、とすることができ、1~3g/m、又は2g/mは好ましい一態様である。0.05g/mより少ないと撥水効果が薄く、10g/mを超えてもそれ以下と比べて大きな撥水効果が望めないからである。
【0036】
なお、シリコーン系撥水剤やフッ素系撥水剤で生地表面に撥水加工するには、前記生地は親水性よりは疎水性の生地のほうが好ましい。撥水剤の生地への接着性が高まり、生地表面へのムラが少なく付着させることができるからである。また、疎水性の生地のほうが撥水剤中のシリコーン系成分、又はフッ素系成分の濃度を高めても生地表面への付着が容易であることから、生地に付着した固形分中の撥水成分濃度を高めることができるからである。
【0037】
涼感布に用いられる生地としては、吸着拡散性を有していることが好ましい。吸着拡散性とは、ウイルス等を含む外部から侵入する粒子を吸着し、内部の湿気を外部に拡散する性質である。吸着拡散性を有するためには、繊維自体が撥水性を有する生地を用いるのではなく、吸着拡散性を有する生地の一部に撥水加工を施すことが好ましい。生地全体が撥水性であっては外部から侵入する粒子を吸着することは困難だからである。
【0038】
一方面に撥水性を有しそれ以外の部分は吸着拡散性を有する涼感布が好ましいのは、特にマスクとして利用する場合に、花粉やコロナウイルス等の極小粒子を排除し易いからである。これらの極小粒子は、マスク表面の撥水成分によりマスクに付着又は吸引され難くする一方で、ごく僅かでも涼感布内部に侵入したこれらの極小粒子を、吸着拡散性を有する涼感布内部面で吸着して、そこで不活性化させることができるからである。換言すれば、コロナウイルス等は、咳やくしゃみで放出される飛沫中の水分、あるいは油分に含まれるため、撥水成分で弾かれ易く、吸着拡散性によって吸着され易いと言えるからである。また、マスクだけなく衣服等に用いた場合でも、生地の吸着拡散性により肌側の水分が表側に拡散し、肌側には水分が残らない。そのため、発汗による水分率が高まっても肌側はべたつかずドライに保てる点で好ましい。
【0039】
素材自体に吸着拡散性が無い生地に吸着拡散性を付与する方法として、生地の構造に特徴を持たせた場合がある。例えば、繊維を編み物として生地に仕立てることで、その編み方によっては生地の表裏両面が異なる構成になるように編むことができるため、表面側から進入した粒子は吸着し易くし、裏面側から進入する水分は拡散させ易いという性質である吸着拡散性をもたらすようにできる。
【0040】
例えば、ダブルニット編等によれば表裏の構成を変えることができるし、トリコット編等によっても表裏の構成を変えることができる。ダブルニット編を採用し、裏面をメッシュ編、表面を鹿の子編とするのは好ましい一態様である。メッシュ編が裏面に凹凸をもたらし、この裏面側に存在する水分を表面側に拡散させ易い。また鹿の子編の表面で撥水成分が付着する部分以外の内側に粒子を付着させ易い。したがって、一般的には疎水性で、水系粒子が吸着し難いポリエステル系の繊維、例えば芯成分がセラミック含有ポリマーであり鞘成分がポリエステル系ポリマーである芯鞘型複合繊維等であっても、ダブルニット等で生地を製造すれば吸着拡散性のある生地として用いることができる。よって、セラミック含有ポリマーを含むポリエステル系繊維等の遮熱性繊維は、生地自体に遮熱性を有するだけでなく吸着拡散性も具備させることができる。冷熱性を有する冷熱性繊維の場合も同様にすれば冷熱性を有するだけでなく吸着拡散性も具備させることができる。
【0041】
素材が吸水性を有することは好ましい。吸水性を備えていれば疎水性の素材に比べて、外部から侵入した粒子の吸着率を高めることができるからである。吸水性の無い生地は、吸水加工することにより、生地に吸水剤を固着させて吸水性を付与できる。吸水加工があると、発生した汗を速やかに吸着し、素材固有の拡散性のある性質を利用して外気側にこの湿気を移動させることができるからである。
吸水剤には、ポリエチレングリコールや、これと熱硬化性樹脂バインダー成分を含む吸水剤、ショ糖脂肪酸エステルと水とエタノールの混合物を含む吸水剤等を挙げることができる。吸水加工は、浸漬又はパディングなどで生地に吸水剤を付与し、加熱処理して固着させる方法等を例示できる。
【0042】
ポリエチレングリコールは安全性も高いうえ、種々の分子量のものがあって利用し易い。例えば、ポリエチレングリコール6000を用いる場合には、お湯に溶解して5~15%の濃度に希釈し、生地に塗布、乾燥することで生地に吸水性を付加することができる。
【0043】
<第2実施形態(涼感布その2)>:
第2実施形態として説明する涼感布は、第1実施形態として説明した涼感布を第1層とし、この第1層の撥水性を有する面とは反対面側に、吸水性を有する生地からなる第2層を積層した少なくとも2層からなる涼感布である。
なお、ここでいう2層とは前記第1層とは別の第2層を付加したことによる2層を意味し、異なる単一構造の層が2つ重なったものだけを意味するものではない。例えば、第1層にダブルニット編からなる生地を採用する場合もあり、1層を単一構造に限ると、ダブルニット構造は含まれなくなるからである。
【0044】
吸水性を有する第2層の生地は、上述の冷感性を有する生地の一部、例えば水酸基を有している等の親水性を有する生地や、芯部がポリエステル繊維からなり鞘部がコットン繊維からなる2層構造の芯鞘型複合繊維を一例として挙げることができる。なお、2層構造糸は内層と外層を少なくとも有する二層以上の繊維層からなる糸を意味し、それぞれの層は、単層であっても多層であっても良く、内層が多層構造糸の芯部となる。層間の厳密な境界は不要である。この芯部がポリエステル繊維からなり鞘部がコットン繊維からなる芯鞘型複合繊維は、芯部がポリエステル繊維からなるため、吸水性があるといってもコットン100%の場合と異なり繊維の芯部まで吸水することなく速乾性に優れている。この芯部がポリエステル繊維からなり鞘部がコットン繊維からなる芯鞘型複合繊維の市販品としては、ユニチカ社製:PUM840(品番)等が挙げられる。
吸水性の無い生地の場合は、先の実施形態で説明したのと同様に、吸水加工することにより、生地に吸水剤を固着させて吸水性を付与できる。
【0045】
第2層には保湿剤を含めることも好ましい実施態様である。特にマスクとして利用する場合に、乾燥し易い肌であれば着用し続けることで第2層の生地と肌の接触で肌が痛み易いが、第2層が保湿剤を含んでいれば和らげることができるからである。保湿剤としては、ヒアルロン酸、キチン・キトサン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、コラーゲン、トレハロース、乳酸ナトリウム、尿素、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、乳清、アロエエキス、オウバクエキス、オトギリソウエキス、カンゾウエキス、キイチゴエキス、キウイエキス、クチナシエキス、コメヌカエキス、シソエキス、シルク末、セージエキス、タイムエキス、チャエキス、トマトエキス、納豆エキス、ハマメリスエキス、ブッチャーブルームエキス、ブドウエキス、ヘチマエキス、ベニバナエキス、モモ葉エキス、ユーカリエキス、ユキノシタエキス、ユリエキス、ヨモギエキス、ラベンダーエキス、ローズマリーエキス、加水分解ケラチン、プラセンタエキス、ローヤルゼリーエキス、トウキンセンカエキス、マロニエエキス等を挙げることができる。
【0046】
また、第2層には制菌性を付与することが好ましい。第2層にキチン・キトサン等を配合することで制菌作用が生じ、バクテリアの繁殖を防ぎ、マスクとして利用する場合には口のいやな匂いを消すこともできる。ヒアルロン酸や、キチン・キトサンは保湿性と制菌性の双方の性質を有している。制菌性を付与すれば、院内感染MRSA、黄色ぶどう状球菌、肺炎かん菌、大腸菌O-157などの繁殖を抑制することができる。キチン・キトサン等の制菌成分は、4~20g/m含ませることが好ましく、6~10g/m含ませることがより好ましい。4g/mより少ないとその効果が乏しいためであり、20g/mを超えて含ませても所望の効果の向上が望めないからである。6~10g/mがより好ましいのは、費用対効果に優れるからである。
【0047】
<第3実施形態(涼感布その3)>:
第3実施形態として説明する涼感布は、第2実施形態で説明した第2層はそのままに、第1層の生地全体が撥水性を有するものに変更した点が第2実施形態と異なる。
【0048】
こうした第1層とした場合の利点は、撥水性がより向上し、ウイルスや花粉等の微粒子を排除し易く、第1層の内部に入り込み難くすることができる。そして、第1層をウイルスや花粉が通過しても、後述する第2層に吸水性があり、そこで吸着させることができる。また撥水加工の製造コストも安く抑えることができる。
本実施形態の涼感布では、第1層には撥水性が付与されているので、汚れやほこり、花粉やウイルス等が付き難い。また第2層は吸水性を有するため、第1層と第2層との組み合わせにより、第2層側の水分を取り入れ第1層の外側に湿気を排出する吸水拡散性を備えた涼感布とすることができる。
【0049】
<第4実施形態(涼感布その4)>:
第4実施形態として説明する涼感布は、第2実施形態や第3実施形態として説明した涼感布の第1層と第2層との間にそれ以外の第3層を積層した少なくとも3層からなる涼感布である。
【0050】
第3層は、第1層と第2層の機能を補い、又は新たな機能を追加するための層である。例えば、ウイルス等の粒子を捕獲するフィルター性をより高めるための層や、衣服として利用する場合に肌に直接触れることを避けたい層、例えば肌に直接触れるべきでない薬剤等が塗布された層が挙げられる。第3層に用いられる生地の一例としては、公知の各種繊維、各種製法で製造された不織布、より具体例には、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド等の合成繊維を用いたスパンボンド不織布、サーマルボンド不織布、メルトブローン不織布、エアスルー不織布、スパンレース不織布、またはそれらの積層不織布、例えば、スパンボンド/メルトブローン/スパンボンドの積層不織布であるSMS不織布を挙げることができる。
【0051】
第3層として和紙を用いることはフィルター機能、及び吸水性を高める観点から好ましい。和紙は、直径0.4μm程度の粒子を捕集でき、通気性にも優れるからである。涼感布をマスクとして利用する場合に、和紙を挟んだ層を設けても通気性が高いことから息苦しさが増すこともなく、それでいてウイルス等の捕集性能が高まる。ウイルスは0.4μmよりも微小であるが、ウイルスは水分に分散したり、ほこりに付着したりして存在するため、0.4μmの粒子を通過させなければ、ウイルス等の捕集性能は充分である。和紙としては、楮でできた和紙が好ましく、その厚さは0.1~0.5mmとすることができる。予め4~5回もむことで小さな空気穴ができた和紙を用いると、ウイルスの吸着性、及び吸水性が高まる。
【0052】
<第5実施形態(マスクその1)>:
第5実施形態として説明するマスクは、第1実施形態~第4実施形態で説明した涼感布の少なくとも何れかをヒトの口元を覆うマスクとして利用するものである。
マスクの一形態としては、鼻及び口を含む顔面の対象部を覆うマスク本体部と、該マスク本体部の左右両側に設けられた耳に係止するための耳掛け部と、を備えたものとすることができ、そのマスク本体部に上記涼感布を用いればよい。即ち、上記マスク本体部は、第1実施形態の涼感布を用いる場合の他、着用者の顔面と接する最内層と、該最内層に積層される最外層の少なくとも2層からなる第2、第3実施形態で示した涼感布、又は3層以上からなる第4実施形態で示した涼感布を用いることができる。
【0053】
第2~第4実施形態の少なくとも2層からなる涼感布をマスクとした場合は、肌側の層が吸水性を有しているため、着用前にマスクに水をかけるか、全体を水に浸した後に軽く脱水するとより清涼感を高めることができる。全体を水に浸した後、適度に脱水し、冷蔵庫又は冷凍庫で10分程度冷却した後に着用すると強い冷感が持続する。
【0054】
上記第1実施形態の涼感布を用いたマスクは、着用した際に、べとつき感を減らし、冷感作用又は遮熱作用の少なくとも何れかを有するものとなる。更に、涼感布の一方面に撥水加工が施されているため、飛沫などで水分に含まれたウイルスが飛散してきた時にマスクにウイルスが付着せず、また、付着したとしても手で払うなどするだけで簡単に落とすことができる。更に、吸着拡散性を有していれば、生地内に入り込んだ粒子を吸着することができ、肌側の水分を外側に拡散させることができる。そのため、生地内に入り込んだウイルス等のフィルター性能を高めるとともに、肌側には水分が残り難い。暑い環境下で発汗し、マスク中の水分率が高まっても肌側のべたつきを防止し、ドライに保つことができ、眼鏡等の曇りを軽減できる。
【0055】
上記第2~第4実施形態の涼感布を用いたマスクは、第2層が吸水性を有しているため、肌側の水分を吸水し易く、吸汗性が向上する。加えて吸着拡散性を有する第1層は、第2層で捉えた湿気を即座にマスク外側に排出することができる。換言すれば、第1層表面に付着させた撥水剤でウイルス等を含む飛沫や花粉を撥ね、しかしマスク内に侵入した飛沫や花粉は、第1層裏側の吸着拡散部位や第2層表面で吸着し身体への侵入を阻止する。ポリエチレングリコール6000を吸水剤として用いた生地で、インフルエンザウイルスの吸着率が97%以上を示した実験データも存在する。
【0056】
マスク本体部以外として、耳掛け部はマスク本体部の左右側部の裏面(内側面)、又は表面に接合部を介して接合される。この接合部は、熱圧着や超音波圧着等の手段により形成できる。耳掛け部としては、ゴム製やスパンデックス(ポリウレタン)製の伸縮性を有し、かつ断面が略長方形状の平たい紐や、伸縮不織布で形成することができる。さらに耳掛け部にはその長さを調整できるストッパーを設けることができる。
【0057】
<第6実施形態(マスクその2)>:
第6実施形態として説明するマスクは、ヒトの口元を覆うマスク本体部に相当する部分に、第1実施形態~第4実施形態で説明した涼感布の少なくとも何れかを利用する点で、第5実施形態のマスクと同じであるが、マスク本体部以外の部分や、マスク本体部の形状その他に若干変更を加えたマスクである。
【0058】
本実施形態におけるマスクの一形態としては、鼻及び口を含む顔面の対象部を覆うマスク本体部が、一般的なマスク形状とは異なる矩形状等であり、その矩形の2つの頂点付近にはそこから伸ばした紐を有し、これらの頂点とは反対側の一辺側にはワイヤー等からなる重しを有している。
このマスクの使用時には、2つの頂点から伸びる紐をハチマキのようにして頭に巻いて縛り付ける。このとき矩形状のマスク本体部の上辺が鼻を隠す程度の位置にくるようにする。マスク本体部の下辺側には重しを有しているため、上辺側で頭に縛るだけで、重しの重みでマスクが垂れ下がり顔に密着させることができる。
こうしたマスクは、剣道や野球、ランニング等のスポーツ時の使用に適し、また会食時にはマスクを外さずに食事を取ることができ便利である。
【0059】
<第7実施形態(防護服、その他の衣服)>:
第7実施形態として説明する防護服は、第1実施形態~第4実施形態で説明した涼感布の少なくとも何れかを防護服として利用するものである。
一形態としては、生地に前記涼感布を単に用いた防護服とすることが挙げられる。この場合、涼感布は、撥水加工された面を肌に接触しない側、すなわち外側にして縫製する。
【0060】
また別の一態様としては、前記涼感布はマスクとしても利用できることから、両眼の部分のみを透明素材にし、それ以外の首から上の部分を、前記涼感布を利用して袋状にしたことを特徴とする防護服とすることができる。マスクをした上で防護服を着るような煩わしさを排除することができる。頭周りの部分や、口周り又は顎周りの部分にゴム等の伸縮性の素材を加えることで顔への密着性を高めることができる。また、縫製においては、本縫いミシンでの縫い合わせは、糸が表に出て細かい穴ができ、ウイルスが侵入し易くなるので、2本針ロックミシンを用いるような縫い目が裏側に出て表に出ないようにすることが好ましい。
【0061】
防護服以外に、白衣、手術着、インナー肌着、Tシャツ、ジャージ等のスポーツウエア、帽子等の衣服にも前記涼感布を用いて製造することができる。
これらの衣類は、着用した際のべとつき感が少なく、遮熱作用や冷感作用を有する。また、外側面に撥水加工が施されているため、水分に含まれたウイルスが飛散してきた時に衣服に付着し難く、また付着しても手で払うなどするだけで簡単にウイルスを落とすことができる。
【0062】
また、涼感布が吸着拡散性を有しているものであれば、肌側の水分が表側に拡散し易く、肌側に水分が残り難い。そのため、発汗により水分率が高まっても肌側のべとつき感がより少なくドライに保たれるものとなる。
【0063】
<第8実施形態(カーテン又はのれん等)>:
第8実施形態として説明するカーテンは、第1実施形態~第4実施形態で説明した涼感布の少なくとも何れかをカーテンとして利用するものである。
一形態としては、生地に前記涼感布を単に用いたカーテンとすることが挙げられる。この場合、涼感布は、撥水加工された面を室外側に配置する。カーテンとすれば表面に汚れ等が付着し難く、また室内を昇温や、紫外線の侵入を抑えることができる。
またのれんや、クリーンルームの出入り口用間仕切りとすることができる。クリーンルームの出入り口用間仕切りとする場合には、室外から室内へのウイルスの侵入を抑制するだけでなく、内外の通気性があることから、室内が密閉されることなく換気もある程度されるため、室内のヒトがウイルスを発散しても室内にウイルスが充満しないようにすることができる。
【0064】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
【実施例0065】
実施例1<Tシャツの製造>
表面側にセラミックを配合したフルダルポリエステル繊維糸、裏面側にフルダルポリエステル繊維糸をそれぞれ用いて、表面側が鹿の子編み、裏面側がメッシュ編みとなるダブルニット編みした複合生地(ユニチカトレーディング社製、品番KG2229GF、生地の厚み0.8mm、重さ194g/m)の表面側に、炭素数6のパーフルオロアルキル基を有するフッ素系化合物を、ローラーで一度だけ塗布し涼感布を作製した。撥水剤液が付着して得た撥水成分の重量は生地1mあたり2.5g/mとなった。そして、この涼感布を用いてTシャツを作製した。得られたTシャツは遮熱性、吸着拡散性を有しているので、高温下で着用した時にもべとつき感が少なく清涼感の得られるものであった。
【0066】
実施例2<マスクの製造>
第1層として実施例1でTシャツの原料として用いた涼感布を準備し、第2層として、芯部がポリエステル繊維からなり鞘部がコットン繊維からなる2層構造の構造糸を用いて、表面側を無地編みに、裏面側をメッシュ編みした生地(ユニチカ社製、品番PUM840;ポリエステル繊維とコットン繊維の比率は50vol%:50vol%、生地の厚み1.1mm、重さ224g/m)を準備して、第1層の撥水加工側とは反対側に第2層の表面側が重なるように両生地を積層してマスクを作製した。このマスクは、涼感布の一方面に撥水加工を施しているので、水分に含まれたウイルスが飛散してきた時にマスクにウイルスが付着しない。また、第2層が吸水性を有し、第1層が吸着拡散性を有しているので、第2層で吸収された肌側の水分が表側に移行し、肌側には水分が残らない。そのため、発汗し、マスク中の水分率が高まっても肌側はべたつかずドライに保たれるものであった。また、このマスクの第2層側に水をかけた後軽く脱水して着用すると清涼感を得ることができた。
【0067】
実験例<マスクの性能の検証>
実施例2で製造したマスクの第1層と第2層とした涼感布を用いて、第1層にウイルス液を接触させたときのウイルス透過性について試験した。より具体的には次のとおりである。
【0068】
A.試験品、供試ウイルス、及び供試細胞
1)試験品
マスクを想定した試験品は、上記第1層を3cm×3cmの大きさ、上記第2層を2cm×2cmの大きさとしたものを準備し、上記第1層のフッ素系化合物を塗布した面とは反対側に上記第2層を重ねて配置したものを用いた。なお、以下の説明において涼感布の第1層を1層目(上層)の生地、第2層を2層目(下層)の生地とも言う。
2)供試ウイルス
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究部門から分与を受けた株で、試験実施施設においてHRT-18G細胞及びMDBK細胞を用いて継代培養したものを由来とする、名称「牛コロナウイルスKakegawa株」(ストックウイルスの力価:MDBK細胞を用いて測定したとき約106.5TCID50/mL)を用いた。
3)供試細胞
神奈川県 家畜病性鑑定書(現 神奈川県 県央家畜保健衛生所)より分与を受けたものを由来とする、名称「MDBK細胞」を用いた。
【0069】
B.試験方法
1)供試細胞
細胞培養フラスコに単層を形成したMDBK細胞をトリプシン処理し、細胞増殖用培養液[付記1]を用いて細胞浮遊液とし、細胞濃度を1mLあたり1.5×10個に調整した。これを24ウェルプレートの各ウェルに0.5mLずつ注加し、37℃、5%COインキュベーターに接種時まで静置培養した。
2)供試ウイルス液の調製
供試ウイルス液[牛胎子血清(FBS)濃度を0%と見なす。]について、FBSを加えてFBS濃度を10%に調整した。
【0070】
3)1層目の生地の撥水性確認
試験品は、試験実施先日に、1層目の生地に滅菌MilliQ水を100μL滴下して撥水性を確認した後、再び室温に置いて乾燥させて試験に用いた。
【0071】
4)試験品の調製とウイルスの感作
(1)乾燥状態の試験
滅菌プラスチックシャーレの中央に、2層目の生地を置き、さらにその上に1層目の生地を重ねてのせた。1層目の生地の中央に、2)で調製したウイルス液を0.1mL滴下し、室温に10秒間静置した。その後、1層目の生地を垂直に保持して肉眼で見える大きさの液滴を自然落下させ、再び2層目の生地の上にのせ、室温で1分間または10分間静置して感作した。感作終了後、1層目及び2層目の生地を回収した。
【0072】
(2)湿潤状態の試験
滅菌プラスチックシャーレの中央に2層目の生地(2cm×2cm)を置き、滅菌MilliQ水を中央部に100μL滴下して生地を湿潤させた。この操作は、実際の製品では、2層目の生地は呼気に含まれる水分によって湿潤する可能性があることを考慮して行った。
湿潤させた2層目の生地の上に1層目の生地を重ねてのせた。1層目の生地の中央に、2)で調製したウイルス液を0.1mL滴下し、室温に10秒間静置した。その後、1層目の生地を垂直に保持して肉眼で見える大きさの液滴を自然落下させ、再び2層目の生地の上にのせ、室温で1分間または10分間静置して感作した。感作終了後、1層目及び2層目の生地を回収した。
【0073】
5)ウイルス含有量の測定
回収した生地を50mLチューブに移し、ウイルス希釈液[付記2]を10mL加えて生地を浸漬させた。試験管ミキサーで5秒間×3回、チューブの内容をかくはんしてウイルスを抽出して得た液を、試験試料原液とした。これをさらに細胞増殖用培養液で10-1から10-5まで10倍階段希釈した。原液を含む各希釈段階の試料を0.1mLずつ5ウェルのMDBK細胞に接種し、COインキュベーターで7日間培養した。培養最終日に各ウェルの培養液を50μL採取し、0.5vol%マウス赤血球浮遊液[付記7]を50μL加え、室温で60分間静置後、赤血球凝集の有無を観察した。赤血球凝集を認めたものをウイルス陽性とみなし、ベーレンス・ケルバー法にてウイルス含有量(TCID50/mL)を算出した。
【0074】
6)供試ウイルス液のバックタイトレーション
供試ウイルス液を細胞増殖用培養液で10-1から10-6まで10倍階段希釈し、4)に記載した方法に準じてウイルス含有量を測定した。
【0075】
7)判定
試験試料中のウイルス含有量の成績から、1層目の生地のウイルス浸透性について評価を行った。
【0076】
[付記1]細胞増殖用培養液(3%牛胎子血清加イーグルMEM)
1,000mL中
イーグルMEM[付記3] 850mL
トリプトースホスフェイトブロス[付記4] 100mL
牛胎子血清 30mL
7%炭酸水素ナトリウム液 20mL
【0077】
[付記2]ウイルス希釈液(10%牛胎子血清加イーグルMEM)
1,000mL中
イーグルMEM 780mL
トリプトースホスフェイトブロス 100mL
牛胎子血清 100mL
7%炭酸水素ナトリウム液 20mL
【0078】
[付記3]イーグルMEM
イーグルMEM「ニッスイ」(1) 9.4g
(カナマイシン含有、日水製薬株式会社 製)
MilliQ水 1L
溶解後、121℃、15分間高圧蒸気滅菌し、室温まで冷ました後、以下の試薬を加える。
L-グルタミン液[付記5] 10mL
ペニシリン・ストレプトマイシン液[付記6] 10mL
冷蔵庫にて保管する。
【0079】
[付記4]トリプトースホスフェイトブロス
1L中
トリプトースホスフェイトブロス 29.5g
MilliQ水 1L
溶解後、121℃、15分間高圧蒸気滅菌する。
冷蔵庫にて保管する。
【0080】
[付記5]L-グルタミン液
グルタミン「ニッスイ」1バイアルを10mLの局方注射用水にて溶解したもの
イーグルMEM1Lにつき、1バイアルを加える。
【0081】
[付記6]ペニシリン・ストレプトマイシン液
1mL中に、ペニシリン10,000IU、ストレプトマイシン10,000μg力価を含む液体
【0082】
[付記7]0.5vol%マウス赤血球浮遊液
健康なマウスから採血した血液をアルスバー液[付記8]に加えて冷蔵保存し、使用時にダルベッコのリン酸緩衝食塩液(PBS)[付記9]で3回遠心洗浄し、PBSに0.5vol%となるように再浮遊させたもの
【0083】
[付記8] アルスバー液
MilliQ水 1L
クエン酸 0.55g
クエン酸ナトリウム 8.0g
塩化ナトリウム 4.2g
ブドウ糖 20.5g
ポアサイズ0.45μm以下のフィルターで濾過滅菌し、冷蔵保存する。
【0084】
[付記9]ダルベッコのリン酸緩衝食塩液(PBS)
PBS(-)粉末「ニッスイ」(日水製薬株式会社 製)9.6gを1LのMilliQ水に溶解し、121℃で15分間、高圧蒸気滅菌したもの
【0085】
C.試験結果及び考察
試験成績を表1及び表2に示す。供試ウイルス液のウイルス含有量は105.3TCID50/mLであった。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
1)乾燥状態の試験
1層目及び2層目の生地から回収された試験試料のウイルス含有量は、いずれも試験系における検出限界以下(≦100.5)であった。
【0089】
2)湿潤状態の試験
1層目の生地から回収された試験試料のウイルス含有量は、感作時間が10分間の繰り返し2回中1回で100.7であったが、他の試料についてはいずれも≦100.5であった。また、2層目の生地から回収された試験試料のウイルス量はいずれも≦100.5であった。
【0090】
以上の成績から、今回使用したマスクの素材となる繊維製品は、ウイルス液の1層目への吸着量はわずかであり、かつ、2層目へとウイルスが通過しないことが示された。
【0091】
実験例からの考察
上記実験ではマスクを平らに置いた上にウイルス液を滴下して10秒間放置した後、垂直に立てるという方法を採用したが、実際にはマスクを顔につけるとほぼ垂直の状態で使用されることや、飛沫等の接触時間は1秒にも満たないため、実験で行った手法よりは撥水剤の効果が出易いと考えられる。
また、上記実験では、マスク素材へのウイルス透過性を試験するため、試験に見合う素材を用いたが、第2層目の生地には制菌加工を施したり、制菌剤を付加したりするため、ウイルスを不活性化させて透過させない可能性が高まり、ウイルスに対する安全性は増加すると考えられる。
実験で用いた牛コロナウイルスは、感染拡大が問題となっている新型コロナウイルス(COVID-19)とは異なるが、構造、大きさ等はほぼ同じであり、本実験結果が新型コロナウイルスに対しても同様に適用できると考えられる。