(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022035994
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】電池用包装材
(51)【国際特許分類】
H01M 50/121 20210101AFI20220225BHJP
H01M 50/105 20210101ALI20220225BHJP
H01M 50/126 20210101ALI20220225BHJP
H01M 50/129 20210101ALI20220225BHJP
H01M 50/131 20210101ALI20220225BHJP
H01M 50/342 20210101ALI20220225BHJP
H01M 50/375 20210101ALI20220225BHJP
【FI】
H01M50/121
H01M50/105
H01M50/126
H01M50/129
H01M50/131
H01M50/342 101
H01M50/375
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021110499
(22)【出願日】2021-07-02
(31)【優先権主張番号】P 2020139411
(32)【優先日】2020-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501428187
【氏名又は名称】昭和電工パッケージング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】南堀 勇二
【テーマコード(参考)】
5H011
5H012
【Fターム(参考)】
5H011AA13
5H011CC02
5H011CC06
5H011CC10
5H011DD13
5H011KK04
5H011KK05
5H012AA03
5H012BB04
5H012FF08
5H012JJ02
(57)【要約】
【課題】電解質に起因する可燃性ガスが発生する温度でシール強度が低下してケースが開封される電池用包装材を提供する。
【解決手段】電池用包装材1は、外側層としての基材層13と、内側層としてのシーラント層20と、これら両層間に配設されたバリア層11とを含み、前記シーラント層20は単層または複層からなり、最内層である第1シーラント層21がエチレン-プロピレン共重合体を含むプロピレン系樹脂で構成され、前記エチレン-プロピレン共重合体が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ-(GPC)で測定した重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mnが1~7であり、JIS K7210に基づいて230℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレートが5g/10分~30g/10分であり、示差走査熱量分析により算出した融点が120℃~135℃である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側層としての基材層と、内側層としてのシーラント層と、これら両層間に配設されたバリア層とを含む電池用包装材であって、
前記シーラント層は単層または複層からなり、最内層である第1シーラント層がエチレン-プロピレン共重合体を含むプロピレン系樹脂で構成され、
前記エチレン-プロピレン共重合体が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ-(GPC)で測定した重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mnが1~7であり、JIS K7210に基づいて230℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレートが5g/10分~30g/10分であり、示差走査熱量分析により算出した融点が120℃~135℃であることを特徴とする電池用包装材。
【請求項2】
前記エチレン-プロピレン共重合体がメタセロン触媒由来の共重合体である請求項1に記載の電池用包装材。
【請求項3】
前記プロピレン系樹脂が、エチレン-プロピレン共重合体とポリエチレンの混合物であり、混合物中のポリエチレンの含有量が7質量%~20質量%である請求項1または2に記載の電池用包装材。
【請求項4】
前記ポリエチレンの70質量%以上がメタロセン触媒由来のポリエチレンである請求項3に記載の電池用包装材。
【請求項5】
前記シーラント層は、電池用包装材の内側からバリア層側に向かって順に、前記第1シーラント層、1層以上の第2シーラント層、第3シーラント層が順に積層された複層であり、
前記第3シーラント層がエチレン-プロピレンランダム共重合体からなり、
前記第2シーラント層の少なくとも1層を構成する樹脂のメルトフローレートが第1シーラント層のエチレン-プロピレン共重合体のメルトフローレートよりも小さい請求項1~4のいずれかに記載の電池用包装材。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載された電池用包装材が、シーラント層同士を内側に向けて合わされ、縁部をヒートシールすることにより電池要素を収納する電池要素室が形成されていることを特徴とする電池ケース。
【請求項7】
前記電池要素室の縁部のシール強度が、常温において60N/15mm以上であり、100℃において25N/15mm以上であり、130℃において6N/15mm~12N/15mmである請求項6に記載の電池ケース。
【請求項8】
請求項6または7に記載された電池ケースの電池要素室に電池要素が収納されていることを特徴とする電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車載用、定置型、ノートパソコン用、携帯電話用、カメラ用の二次電池、特に小型携帯用のリチウムイオン二次電池のケースとして好適に用いられる電池用包装材およびその関連技術に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池を代表とする蓄電デバイスは、缶やケースからアルミニウムの両面に樹脂層を貼り合わせたラミネートタイプの包装材料を用いることで、多様な形状に加工することが可能となり、さらに薄型、軽量化も可能となった。包装材料としてラミネート材を用いた蓄電デバイスでは、デバイスの高容量化に伴って電池内温度が上昇すると、電解質の揮発等によってガスが発生して内圧が上昇してケースが膨張し、あるいは破裂する。また、可燃性ガスであれば発火する危険性もある。このため、デバイスのケースには破裂を予防して穏やかにガスを放出させる対策がとられている(特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1に記載されているのはケースの構造による予防策であり、ケース内圧力が上昇した時に該圧力を低下させる弁機構と、ケース内ガスを前記弁機構に誘導する通気路が開示されている。
【0004】
特許文献2に記載されてるのはケース材料による予防策であり、ラミネート材の熱融着性樹脂層(シーラント層)を融解ピーク温度が130℃以下の樹脂で構成し、高温環境に曝された場合に電池の膨張を抑制して電池を穏やかに開封する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6540871号公報
【特許文献2】特開2019-29300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載された予防策は弁機構や通気路といった追加部材を要するものであるから、材料コストも製造コストも高くなる。また、特許文献2に記載されたラミネート材は開封温度をシーラント層の融解ピーク温度でコントロールしているために、破裂前に確実に開封させるには低い温度領域で開封するように設計する必要がある。そうすると、ガスが発生しない電池の実用温度でも開封してしまう可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述した技術背景に鑑み、電解質に起因する可燃性ガスが発生する温度でシール強度が低下してケースが開封される電池用包装材を提供するものである。
【0008】
即ち、本発明は下記[1]~[8]に記載の構成を有する。
【0009】
[1]外側層としての基材層と、内側層としてのシーラント層と、これら両層間に配設されたバリア層とを含む電池用包装材であって、
前記シーラント層は単層または複層からなり、最内層である第1シーラント層がエチレン-プロピレン共重合体を含むプロピレン系樹脂で構成され、
前記エチレン-プロピレン共重合体が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ-(GPC)で測定した重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mnが1~7であり、JIS K7210に基づいて230℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレートが5g/10分~30g/10分であり、示差走査熱量分析により算出した融点が120℃~135℃であることを特徴とする電池用包装材。
【0010】
[2]前記エチレン-プロピレン共重合体がメタセロン触媒由来の共重合体である前項1に記載の電池用包装材。
【0011】
[3]前記プロピレン系樹脂が、エチレン-プロピレン共重合体とポリエチレンの混合物であり、混合物中のポリエチレンの含有量が7質量%~20質量%である前項1または2に記載の電池用包装材。
【0012】
[4]前記ポリエチレンの70質量%以上がメタロセン触媒由来のポリエチレンである前項3に記載の電池用包装材。
【0013】
[5]前記シーラント層は、電池用包装材の内側からバリア層側に向かって順に、前記第1シーラント層、1層以上の第2シーラント層、第3シーラント層が順に積層された複層であり、
前記第3シーラント層がエチレン-プロピレンランダム共重合体からなり、
前記第2シーラント層の少なくとも1層を構成する樹脂のメルトフローレートが第1シーラント層のエチレン-プロピレン共重合体のメルトフローレートよりも小さい前項1~4のいずれかに記載の電池用包装材。
【0014】
[6]前項1~5のいずれかに記載された電池用包装材が、シーラント層同士を内側に向けて合わされ、縁部をヒートシールすることにより電池要素を収納する電池要素室が形成されていることを特徴とする電池ケース。
【0015】
[7]前記電池要素室の縁部のシール強度が、常温において60N/15mm以上であり、100℃において25N/15mm以上であり、130℃において6N/15mm~12N/15mmである前項6に記載の電池ケース。
【0016】
[8]前項6または7に記載された電池ケースの電池要素室に電池要素が収納されていることを特徴とする電池。
【発明の効果】
【0017】
上記[1]に記載の電池用包装材は、最内層であるシーラント層の第1シーラント層が規定された特性のエチレン-プロピレン共重合体を含有するプロピレン系樹脂で構成されているので、110℃~130℃でシール強度が急激に低下する。電池温度が上昇すると電解質の揮発等によりガスが発生して130℃付近でケース内の圧力が上昇して膨張し始めるが、前記電池用包装材で作製したケースを用いた電池は、ケースが膨張し始めるよりも低い110℃~130℃でシール強度が低下してシールが外れて開封され、穏やかにガスが放出されてケースの破裂や発火が防止される。
【0018】
上記[2]に記載の電池用包材は、シーラント層のエチレン-プロピレン共重合体がメタロセン触媒由来の共重合物であるからねらいどおりの温度でシール強度を低下させることができる。
【0019】
上記[3]に記載の電池用包装材は、シーラント層が所定量のポリエチレンを含有するプロピレン系樹脂で構成されているから、ねらいどおりの温度でシール強度を低下させる効果が大きい。
【0020】
上記[4]に記載の電池用包装材は、シーラント層を構成するプロピレン系樹脂中のポリエチレンの70質量%以上がメタロセン触媒由来であるから、ポリプロピレンに分散しやすくシール強度の低下温度をねらいどおりの温度に制御する効果が向上する。
【0021】
上記[5]に記載の電池用包材は、シーラント層が第1シーラント層、第2シーラント層、第3シーラント層の複層であり、第3シーラント層をエチレン-プロピレンランダム共重合体で構成することによりバリア層に対して強い接合力が得られ、第2シーラント層を第1シーラント層のエチレン-プロピレン共重合体のメルトフローレートよりも小さく融点の高い樹脂で構成することにより、第1シーラント層間のシール部で開封させることができる。
【0022】
上記[6]に記載の電池ケースによれば、上述した電池用包装材による効果が得られる。
【0023】
上記[7]に記載の電池ケースは、110℃~130℃で電池要素室の縁部のシールが外れて開封される。
【0024】
上記[8]に記載の電池によれば、上述した電池用包装材による効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の電池用包装材の一実施例の断面図である。
【
図2】
図1の電池用包装材で作製した電池ケースを備えた電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1に、本発明の電池用包装材の一実施形態を示す。
[電池用包装材]
電池用包装材1は、バリア層11の一方の面に第1接着剤層12を介して基材層13が貼り合わされ、他方の面に第2接着剤層14を介して複層のシーラント層20が貼り合わされている。前記電池用包材1は、シーラント層20同士を向かい合わせに配置され、該電池用包装材1の周囲をヒートシールすることにより電池ケースが作製される。作製された電池ケースにおいて、前記基材層13が外側層となり、前記シーラント層20が内側層となる。
[電池用包装材のシーラント層]
本発明の電池用包装材は内側層となるシーラント層の材料に特徴を有する。シーラント層は腐食性の強い電解質などに対しても優れた耐薬品性を具備させるとともに、ラミネート材にヒートシール性を付与する役割を担うものである。シーラント層は単層、複層のいずれでもよいが、最内層である第1シーラント層、即ち向かい合わせに配置した電池用包装材をヒートシールする際に互いに接触し合う層の材料を以下のように規定する。
【0027】
図示例のシーラント層20は、電池用包装材1の内側からバリア層11側に向かって順に、前記第1シーラント層21、第2シーラント層22、第3シーラント層23が積層された3層構造である。前記第3シーラント層23が第2接着剤層14に接し、第2シーラント層22が第1シーラント層21と第3シーラント層33の間の中間層である。
【0028】
前記第1シーラント層21は、プロピレン系樹脂として、少なくとも、共重合成分としてエチレンおよびプロピレンを含有するエチレン-プロピレン共重合体を含む樹脂で構成されている。
【0029】
前記エチレン-プロピレン共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、ブロック共重合体のいずれでもよいが、必須の特性として下記の3つの条件を満たしている必要がある。
(1)ゲルパーミエーションクロマトグラフィ-(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量Mnの比Mw/Mnが1~7である。好ましいMw/Mnは1.2~3.5であり、1.5~2.8であればなお一層好ましい。
(2)JIS K7210に基づいて230℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が5g/10分~30g/10分である。好ましいメルトフローレート(MFR)は5g/10分~10g/分である。
(3)示差走査熱量分析により算出した融点が120℃~135℃である。好ましい融点は122℃~133℃である。
【0030】
上記の3つの条件を満たすエチレン-プロピレン共重合体は110℃~130℃でシール強度が低下してシールが外れ易くなり、それ以下の温度ではシール強度を保っている。電池温度が上昇すると電解質の揮発等によってガスが発生し、130℃付近で電池内部の圧力が上昇してケースが膨張し始める。上述したシール強度低下の温度帯は、想定される電池の使用温度領域よりも高く、膨張が始まる温度よりも低い温度に該当する。従って、電池が急激に温度上昇し、ガスの発生により内圧が上昇し始めると、シールが外れてケースが開封される。ケースが開封されると、穏やかにガスが放出され、ケースの破裂や発火が防止される。
【0031】
上述した3つの条件を満たすエチレン-プロピレン共重合体は、例えば、共重合成分であるエチレンとプロピレンをメタロセン触媒によって共重合させることによって得ることができる。メタセロン触媒由来のエチレン-プロピレン共重合は分子量の均一性が高く、上述した3つの条件を満たす傾向があり、ねらいどおりの温度でシール強度を低下させる効果が大きい。
【0032】
また、前記プロピレン系樹脂はエチレン-プロピレン共重合体とポリエチレンの混合物であり、混合物中のポリエチレンの含有量が7質量%~20質量%であることが好ましい。ポリエチレン含有量を上記範囲に設定することにより、ねらいどおりの温度でシール強度を低下させる効果が大きい。特に好ましいエチレン含有率は10質量%~15質量%である。さらに、前記ポリエチレンのうちの70質量%以上がメタロセン触媒によって重合させたメタロセン触媒由来のポリエチレンであることが好ましい。メタロセン触媒由来のポリエチレンは、ポリプロピレンに分散しやすく、シール強度の低下温度をねらいどおりの温度に制御する効果が向上する。メタセロン触媒由来のポリエチレンの特に好ましい含有量は85質量%以上である。
【0033】
前記第1シーラント層21には滑剤やアンチブロック剤を添加することが好ましい。
【0034】
滑剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、飽和脂肪酸アミド、不飽和脂肪酸アミド、置換アミド、メチロールアミド、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミド、脂肪酸エステルアミド、芳香族系ビスアミド等が挙げられる。
【0035】
前記飽和脂肪酸アミドとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ラウリン酸アミド、パルチミン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド等が挙げられる。
【0036】
前記不飽和脂肪酸アミドとしては、特に限定されるものではないが、例えば、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等が挙げられる。
【0037】
前記置換アミドとしては、特に限定されるものではないが、例えば、N-オレイルパルチミン酸アミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、N-ステアリルオレイン酸アミド、N-オレイルステアリン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド等が挙げられる。
【0038】
前記メチロールアミドとしては、特に限定されるものではないが、例えば、メチロールステアリン酸アミド等が挙げられる。
【0039】
前記飽和脂肪酸ビスアミドとしては、特に限定されるものではないが、例えば、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’-ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’-ジステアリルセバシン酸アミド等が挙げられる。
【0040】
前記不飽和脂肪酸ビスアミドとしては、特に限定されるものではないが、例えば、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’-ジオレイルセバシン酸アミド等が挙げられる。
【0041】
前記脂肪酸エステルアミドとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ステアロアミドエチルステアレート等が挙げられる。
【0042】
前記芳香族系ビスアミドとしては、特に限定されるものではないが、例えば、m-キシリレンビスステアリン酸アミド、m-キシリレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’-システアリルイソフタル酸アミド等が挙げられる。
【0043】
前記第1シーラント層21における滑剤濃度は100ppm~3000ppmの範囲が好ましい。前記滑剤濃度が100ppm未満では成形性が不足し、3000ppmを添加すれば十分に成形性が向上するのでそれを超える多量の添加はコスト面で好ましくない。特に好ましい滑剤濃度は500ppm~2000ppmである。
【0044】
アンチブロック剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、シリカ、アクリル樹脂、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、酸化チタン、タルク、カオリン等の粒子等が挙げられる。前記アンチブロッキング剤の粒子径は、平均粒子径で0.1μm~10μmの範囲にあるのが好ましく、中でも平均粒子径で1μm~5μmの範囲にあるのがより好ましい。前記アンチブロッキング剤の濃度は100ppm~5000ppmに設定されるのが好ましく、特に好ましい濃度は500ppm~4000ppmである。
【0045】
前記アンチブロッキング剤(粒子)を電池用包装材1のシーラント層20の第1シーラント層21に含有させることにより、第1シーラント層21の表面に微小突起を形成しフィルム同士の接触面積を小さくしてシーラントフィルム同士のブロッキングを抑制できる。また、前記滑剤とともにアンチブロッキング剤(粒子)を含有させることで成形時のすべり性をさらに向上させることができる。
【0046】
前記シーラント層が単層の場合は上述した第1シーラント層21の単独層となる。
【0047】
前記シーラント層20が複層である場合、第1シーラント層21以外の層の好ましい材料は以下のとおりである。なお、本発明は第1シーラント層21以外の層の材料を限定するものではない。
【0048】
前記第3シーラント層23は第1シーラント層21と同じ組成のエチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレンランダム共重合体を例示できる。また、第3シーラント層23は第2接着剤層14とともにバリア層11とシーラント層20との接合力を高めるための層であるから、滑剤やアンチブロック剤が添加されていない方が好ましい。但し、シーラント層20の製膜時の安定性やシーラント層20の巻き取り後のブロッキング防止の観点から、滑剤として1000ppm以下のエルカ酸アミドおよびアンチブロック剤として2000ppm以下のシリカ粒子を添加してもよい。
【0049】
前記第2シーラント層22は、第1シーラント層21と第3シーラント層23の間の中間層であり、プロピレンの単独重合体、共重合成分にプロピレンおよびプロピレン以外の共重合成分を含有する共重合体のいずれも良いし、複数種の重合体の混合物であってもよい。また、第1シーラント層21と同じプロピレン系樹脂が混在していると、第2シーラント層22と第1シーラント層21の接着性が良くなる。また、第2シーラント層22は単層、複層のいずれでもよい。
【0050】
図示例のシーラント層20は3層構造であり、各層の材料を共押出しなどで複層フィルムを作製することによって得られる。また、シーラント層20は無延伸フィルムであることが好ましい。
【0051】
前記シーラント層20の厚みは20μm~100μmの範囲が好ましく、25μm~85μmであればなお一層好ましい。また、図示例の3層構造(第2シーラント層が複層の場合を含む)のシーラント層20においては、各層の厚みの好ましい比は、第1シーラント層21:第2シーラント層22:第3シーラント層23=1~3:4~8:1~3である。
【0052】
前記シーラント層20が複層である場合は、ヒートシールされた2枚の電池用包装材1の第1シーラント層21間のシール部でケースが開封されるようにシーラント層20を設計することが好ましく、第1シーラント層21間のシールが外れる前にシーラント層20内の剥離が発生しないようにする。シーラント層20内で層間剥離が発生すると、高温環境下において電池内部で発生したガスが抜けにくくなる可能性がある。具体的には、第3シーラント層23をエチレン-プロピレンランダム共重合体で構成し、第2シーラント層22(第2シーラント層が複層の場合はそれらのうちの少なくとも1層)を、メルトフローレートが第1シーラント層21のエチレン-プロピレン共重合体のメルトフローレートよりも小さく、融点の高い樹脂で構成することが好ましい。前記第3シーラント層23をエチレン-プロピレンランダム共重合体で構成することにより、バリア層11に対して強い接合力が得られる。また、前記第2シーラント層22を構成する材料の好ましい特性は、JIS K7210に基づいて230℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレートが2g/10分~7g/10分であり、示差走査熱量分析により算出した融点が120℃~165℃である。特に好ましいメルトフローレートは2g/10分~5g/10分であり、特に好ましい融点は140℃~165℃である。このように3層の材料を設定することにより、ケースは2枚の電池用包装材1のシーラント層20の第1シーラント層21間で開封される。
[電池用包装材のシーラント層以外の層]
本発明の電池用包装材において、シーラント層以外の層は周知の材料を適宜用いることができ、貼り合わせ方法も特に限定されない。以下に、シーラント層を除く層の好適材料について説明する。
(基材層)
前記基材層13には電池用包装材1をヒートシールする際のヒートシール温度で溶融しない耐熱性樹脂フィルムを用いる。前記耐熱性樹脂としては、シーラント層20を構成する樹脂の融点より10℃以上、好ましくは20℃以上高い融点を有する耐熱性樹脂を用いる。この条件を満たす樹脂として、例えば、ナイロンフィルム等のポリアミドフィルム、ポリエステルフィルム等が挙げられ、これらの延伸フィルムが好ましく用いられる。中でも、前記基材層13としては、二軸延伸ナイロンフィルム等の二軸延伸ポリアミドフィルム、二軸延伸ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム又は二軸延伸ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを用いるのが特に好ましい。前記ナイロンフィルムとしては、特に限定されるものではないが、例えば、6ナイロンフィルム、6,6ナイロンフィルム、MXDナイロンフィルム等が挙げられる。なお、前記基材層13は、単層で形成されていても良いし、或いは、例えばポリエステルフィルム/ポリアミドフィルムからなる複層(PETフィルム/ナイロンフィルムからなる複層等)で形成されていても良い。
【0053】
前記基材層13の厚さは、7μm~50μmであるのが好ましく、包装材として十分な強度を確保でき、かつ張り出し成形、絞り成形等の成形時の応力を小さくできて成形性を向上させることができる。前記基材層13のさらに好ましい厚さは9μm~30μmである。
(バリア層)
前記バリア層11は、電池用包装材1に酸素や水分の侵入を阻止するガスバリア性を付与する役割を担うものである。前記バリア層11としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルミニウム箔、SUS箔(ステンレス箔)、銅箔、ニッケル箔、チタン箔、クラッド箔等の金属箔が挙げられる。前記バリア層11の厚さは、20μm~100μmであるのが好ましい。20μm以上であることで金属箔を製造する際の圧延時のピンホール発生を防止できると共に、100μm以下であることで張り出し成形、絞り成形等の成形時の応力を小さくできて成形性を向上させることができる。前記バリア層11の特に好ましい厚さは25μm~85μmである。
【0054】
また、前記バリア層11は前記金属箔の少なくともシーラント層20側の面に、化成処理が等の下地処理が施されていることが好ましい。このような化成処理が施されていることによって内容物(電池の電解質等)による金属箔表面の腐食を十分に防止できる。
(第1接着剤層)
前記第1接着剤層12としては、特に限定されるものではないが、例えば、2液硬化型接着剤により形成された接着剤層等が挙げられる。前記2液硬化型接着剤としては、例えば、ポリウレタン系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール及びポリエステルウレタン系ポリオールからなる群より選ばれるポリオールの1種または2種以上からなる第1液(主剤)と、イソシアネートからなる第2液(硬化剤)とで構成される2液硬化型接着剤などが挙げられる。中でも、ポリエステル系ポリオール及びポリエステルウレタン系ポリオールからなる群より選ばれるポリオールの1種または2種以上からなる第1液と、イソシアネートからなる2液(硬化剤)とで構成される2液硬化型接着剤を用いるのが好ましい。前記第1接着剤層12の好ましい厚さは2μm~5μmである。
(第2接着剤層)
前記第2接着剤層14としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、エラストマー系樹脂、フッ素系樹脂、酸変性ポリプロピレン樹脂のうちの1種以上を含む接着剤を推奨できる。中でも、酸変性ポリオレフィンを主剤とするポリウレタン複合樹脂からなる接着剤が好ましい。前記第2接着剤層14の好ましい厚さは2μm~5μmである。
(電池用包装材の他の積層形態)
本発明の電池用包装材において、第1接着剤層および第2接着剤は必須の層ではなく、基材層が直接バリア層に貼り合わされていてもよく、またシーラント層が直接バリア層に貼り合わされていてもよい。
【0055】
また、本発明の電池用包装材は、前記基材層の外側および/または内側(バリア層側)に別の層を形成して、外側層を基材層を含む複数の層で構成することもできる。
【0056】
前記基材層の外側に形成する層として保護層やマットコート層を例示できる。これらの層は、電池用包装材の最外層となって基材層を保護するとともに、表面に良好な滑り性を付与して成形性を高める効果がある。
【0057】
前記保護層の材料として、フェノキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂等を推奨できる。また、前記マットコート層は樹脂にマット剤を配合した樹脂組成物からなり、上述した樹脂と、前記マット剤として、シリカ、アルミナ、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム等の無機物の微粒子、アクリルビーズ等の樹脂ビーズ等を推奨できる。
【0058】
前記保護層およびマットコート層は、溶媒で流動性を調節した液を基材層に塗布して乾燥させることにより形成するか、あるいはフィルムとして基材層に貼り合わせることによって形成できる。
【0059】
前記基材層の内側に形成する層、即ち基材層と第1接着剤層の間(第1接着剤層が存在しない場合は基材層とバリア層の間)に形成する層として着色層を例示できる。前記基材層が透明である場合は、基材層を通してその奥に形成された層を視認できるので、基材層の内側に着色層を形成することによって電池用包装材の外観に色(無彩色を含む)を付与することができる。なお、前記着色層が形成されていない電池用包装材は、バリア層を構成する金属箔の色が外観色となる。
【0060】
前記着色層として、樹脂バインダーに着色顔料を配合した着色インキ組成物の硬化膜を推奨できる。前記樹脂バインダーとして、主剤としてのポリエステル樹脂と硬化剤としての多官能イソシアネート化合物とによる二液硬化型ポリエステルウレタン樹脂バインダーを例示できる。また、前記着色顔料として、カーボンブラック、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、アルミニウム粉等の無機顔料、アゾ化合物、フタロシアニン系化合物、縮合多環化合物等の有機顔料を例示できる。
[電池ケースおよび電池]
図2の電池2は、本発明の電池用包装材で作製した電池ケース30を備えている。
【0061】
電池ケース30は、前記電池用包装材1のシーラント層20同士を内側に向けて合せ、縁部をヒートシールすることによってシーラント層20を内面とする電池要素室31を形成することによって作製される。なお、
図2における部分拡大図は電池用包装材1の第1接着剤層および第2接着剤層の図示を省略している。
【0062】
また、電池2は前記電池ケース30の電池要素室31に、正極、負極、正極と負極の間に配置される電極、セパレーターおよび電解質を含む電池要素を収納することによって作製される。前記電池2は、電池要素に起因してガスが発生する温度に達する前に、確実にシーラント20層間のシール部のシール強度が低下して開封され、内圧を上昇させることなく安全にガスがケース外に放出されるので電池の破裂や発火が予防される。
【0063】
前記電池ケース30は、電池温度が上昇しても所定の開封予定温度に達するまでは開封されないシール強度を維持している必要がある。開封予定温度が110℃~130℃である場合、前記電池要素室31の縁部の望ましいシール強度は、常温において60N/15mm以上であり、100℃において25N/15mm以上であり、130℃において6N/15mm~12N/15mmである。130℃におけるシール強度が6N/15mm~10N/15mmであればなお一層好ましい。
【実施例0064】
実施例1~7および比較例1~5として、
図1に示す3層構造のシーラント層20および電池用包装材1を作製した。
【0065】
実施例1~7よび比較例1~5は、シーラント層20の第1シーラント層21の材料のみが異なり他の材料は共通である。バリア層11、基材層13、第1接着剤層12、第2接着剤層14の材料は以下のとおりである。
【0066】
バリア層11として、厚さ35μmのA8079からなるアルミニウム箔の両面に、ポリアクリル酸(アクリル系樹脂)、クロム(III)塩化合物、水、アルコールからなる化成処理液を塗布した後、150℃で乾燥を行って、化成皮膜を形成したものを使用した。この化成皮膜のクロム付着量は片面当たり5mg/m2である。
【0067】
基材層13として厚さ25μmの二軸延伸6ナイロンフィルムを用いた。
【0068】
第1接着剤層12として、2液硬化型ウレタン系接着剤を用いた。
【0069】
第2接着剤層14として、2液硬化型マレイン酸変性プロピレン接着剤を用いた。
(シーラント層用3層フィルムの作製)
第1シーラント層21、第2シーラント層22および第3シーラント層23が積層するシーラント層20を共押し出しによって作製した。
【0070】
前記第1シーラント層21は、エチレン-プロピレンランダム共重合体とポリエチレンの混合物に、滑剤として1000ppmのエルカ酸アミドおよびアンチブロック剤として2000ppmのシリカ粒子を添加した樹脂組成物からなる。エチレン-プロピレンランダム共重合体の重合工程において、メタセロン触媒の使用の有無は表1に示すとおりである。また、各例で用いたエチレン-プロピレン共重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)、JIS K7210に基づいて測定したメルトフローレート(MFR)が(230℃/2.16kg荷重)、示差走査熱量分析により算出される融点(℃)を表1に示す。また、エチレン-プロピレンランダム共重合体とポリエチレンの合計に対するポリエチレンの含有量およびそのポリエチレン中のメタロセン触媒由来のポリエチレンの含有量は表1に示すとおりである。
【0071】
前記第2シーラント層22は、エチレン-プロピレンブロック共重合体に、滑剤として2500ppmのエルカ酸アミドを添加した樹脂組成物からなる。
【0072】
前記第3シーラント層23は、エチレン-プロピレンランダム共重合体に、滑剤として1000ppmのエルカ酸アミドおよびアンチブロック剤として2000ppmのシリカ粒子を添加した樹脂組成物からなる。
【0073】
上述した第1シーラント層21、第2シーラント層22および第3シーラント層23を構成する樹脂組成物を共押出し、3層構造のフィルムを押し出した。各層の厚さは、第1シーラント層21が6μm、第2シーラント層22が28μm、第3シーラント層23が6μmであり、総厚40μmのシーラントフィルムを作製した。なお、前記シーラント層20の各層はいずれも無延伸フィルムである。
【0074】
そして、前記バリア層11の一方の面に接着剤を塗布して厚さ3μmの第1接着剤層12を形成し、前記基材層13をドライラミネートするとともに、前記バリア層11の他方の面には、接着剤を塗布して厚さ2μmの第2接着剤層14を形成し、前記シーラント層20の第3シーラント層23を合わせてドライラミネートした。さらに、このラミネートシートをゴムニップロールと、100℃に加熱されたラミネートロールとの間に挟み込んで圧着することによりドライラミネートし、しかる後、40℃で10日間エージングする(加熱する)ことによって電池用包装材1を得た(
図1参照)。
【0075】
作製した電池用包装材について、常温、130℃、100℃の3種類の温度におけるシール強度を以下の方法で評価した。
【0076】
シール強度測定用の試験材は、電池用包装材1を幅15mm×長さ150mmに裁断した2枚の試験片を、シーラント層20同士を内側に向けて合わせ、ヒートシール装置(テスター産業株式会社製、TP-701-A)を用いて、ヒートシール温度:200℃、シール圧:0.2MPa(ゲージ表示圧)、シール時間:2秒の条件にて片面加熱によりヒートシールを行って作製した。
(常温強度)
シール強度は、JIS Z0238-1998に準拠して島津アクセス社製ストログラフ(AGS-5kNX)を使用し、試験材のシール部分のシーラント層20同士で引張速度100mm/分でT字剥離させた時の剥離強度を測定し、これをシール強度(N/15mm幅)とした。
【0077】
常温シール温度は常温の試験材に対して上記の方法で剥離強度を測定した。また、130℃および100℃シール強度は、試験材をそれぞれの温度環境下で24時間静置し後に、それぞれの温度環境下で上記の方法で剥離強度を測定した。各温度におけるシール強度を表1に示す。
【0078】
【0079】
表1より、シーラント層の最表層の特性を規定することによって、所期する温度でシール強度を低下させることができることを確認した。
本発明の電池用包装材は、車載用、定置型、ノートパソコン用、携帯電話用、カメラ用の二次電池、特に小型携帯用のリチウムイオン二次電池のケース材料として好適に利用できる。