(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036001
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】加工方法及び加工装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/00 20060101AFI20220225BHJP
B23Q 17/12 20060101ALI20220225BHJP
B23F 19/05 20060101ALI20220225BHJP
B23F 19/06 20060101ALI20220225BHJP
B24B 41/06 20120101ALI20220225BHJP
B24B 49/10 20060101ALI20220225BHJP
B23Q 15/12 20060101ALI20220225BHJP
B23Q 17/00 20060101ALN20220225BHJP
【FI】
B23Q11/00 B
B23Q17/12
B23F19/05
B23F19/06
B24B41/06 J
B24B49/10
B23Q15/12 Z
B23Q17/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118347
(22)【出願日】2021-07-16
(31)【優先権主張番号】P 2020138874
(32)【優先日】2020-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000125853
【氏名又は名称】株式会社 神崎高級工機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】大西 洋一
【テーマコード(参考)】
3C001
3C025
3C029
3C034
【Fターム(参考)】
3C001KA01
3C001KB05
3C001TA02
3C001TB08
3C025DD10
3C029EE02
3C034AA01
3C034BB74
3C034BB92
3C034CA24
3C034CB07
3C034DD07
(57)【要約】
【課題】加工時の回転のアンバランスを抑制することができる、加工方法及び加工装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る加工方法は、被加工物を分離自在に固定可能として第1軸線周りに回転駆動させる主軸台、前記主軸台に対して前記第1軸線方向に相対的に近接離間自在とし、前記被加工物を加工する際に前記主軸台と協働して前記被加工物を回転支持する心押し台、及び前記被加工物を加工する工具、を有する加工装置を準備する、準備ステップと、主軸台及び前記心押し台により、前記被加工物を支持した状態で、前記被加工物を回転駆動させたとき、前記主軸台、前記心押し台、及び前記被加工物の少なくとも1つに起因する回転のアンバランスを補正する、補正ステップと、前記回転のアンバランスの補正後、前記工具により前記被加工物を加工する、加工ステップと、を備えている。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を分離自在に固定可能として第1軸線周りに回転駆動させる主軸台、前記主軸台に対して前記第1軸線方向に相対的に近接離間自在とし、前記被加工物を加工する際に前記主軸台と協働して少なくとも前記被加工物の回転振れを止めるように構成された心押し台、及び前記被加工物を加工する工具、を有する加工装置を準備する、準備ステップと、
主軸台及び前記心押し台により、前記被加工物を支持した状態で、前記被加工物を回転駆動させたとき、前記主軸台、前記心押し台、及び前記被加工物の少なくとも1つに起因する回転のアンバランスを補正する、補正ステップと、
前記回転のアンバランスの補正後、前記工具により前記被加工物を加工する、加工ステップと、
を備えている、加工方法。
【請求項2】
前記補正ステップは、
前記主軸台が単独で回転するときの、第1偏心位置を取得する第1ステップと、
前記心押し台が単独で回転するときの、第2偏心位置を取得する第2ステップと、
前記主軸台に支持させた前記被加工物に対し前記心押し台を連結させる第3ステップと、
前記主軸台、前記心押し台、及び前記被加工物が一体的に回転するときの第3偏心位置を取得する第4ステップと、
前記回転のアンバランスによって生じる振動を計測する第5ステップと、
前記振動が所定値以上の場合、前記主軸台と前記心押し台とを一旦離間させる、第6ステップと、
前記第1~第3の偏心位置より、前記回転のアンバランスを補正するための修正位置を算出する第7ステップと、
前記離間状態にある前記主軸台と心押し台との回転位相を調整して前記第2偏心位置を前記修正位置に移動させる第8ステップと、
を備えている、請求項1に記載の加工方法。
【請求項3】
前記補正ステップは、
前記主軸台が、前記被加工物を固定して一緒に回転するときの、第1偏心位置を取得する第1ステップと、
前記心押し台が単独で回転するときの、第2偏心位置を取得する第2ステップと、
前記主軸台に支持させた状態の前記被加工物に対して前記心押し台を連結させる第3ステップと、
前記主軸台、前記心押し台、及び前記被加工物が一体回転するときの第3偏心位置を取得する第4ステップと、
前記回転のアンバランスによって生じる振動を計測する第5ステップと、
前記振動が所定値以上の場合、前記主軸台と前記心押し台とを離間させる、第6ステップと、
前記第1~第3の偏心位置より前記回転のアンバランスを補正するための修正位置を算出する第7ステップと、
前記離間状態にある前記主軸台と心押し台との回転位相を調整して前記第2偏心位置を前記修正位置に移動させる第8ステップと、
を備えている、請求項1に記載の加工方法。
【請求項4】
前記主軸台及び前記心押し台の各々に加速度センサと角度センサとが設けられ、
前記加速度センサで計測された前記主軸台及び前記心押し台の加速度と、前記角度センサで計測された前記主軸台及び前記心押し台の回転位相と、に基づいて、前記第1~第3の偏心位置を算出する、請求項2または3に記載の加工方法。
【請求項5】
前記第5ステップで計測された前記振動が所定値より小さくなるまで、前記第3~第8ステップを繰り返す、請求項2から4のいずれかに記載の加工方法。
【請求項6】
前記主軸台及び前記心押し台の少なくとも一方に、回転のアンバランスを補正する自動パランサが設けられており、
前記補正ステップでは、前記主軸台、前記心押し台、及び前記被加工物が一体的に回転したときの、回転のアンバランスを、前記自動バランサにより補正する、請求項1に記載の加工方法。
【請求項7】
前記主軸台に、前記自動パランサが設けられている、請求項6に記載の加工方法。
【請求項8】
前記心押し台に、前記自動パランサが設けられている、請求項6に記載の加工方法。
【請求項9】
前記被加工物は、被加工歯車であり、
前記工具は、交差角を与えて前記被加工歯車に噛み合って回転駆動することで、当該被加工歯車を加工する歯車状の工具である、請求項1から8のいずれかに記載の加工方法。
【請求項10】
被加工物を第1軸線周りに回転駆動させる主軸台と、
前記主軸台に対して前記第1軸線方向に相対的に近接離間自在とし、前記主軸台と連結して協働で少なくとも前記被加工物の回転振れを止めるように構成された心押し台と、
前記被加工物を加工する工具と、
前記主軸台または心押し台に設けられ、前記被加工物を前記主軸台及び前記心押し台で支持した状態で回転させたときに生じる振動を計測する計測装置と、
前記振動が所定値以上の場合、前記主軸台と前記心押し台とを一旦離間させ、前記主軸台と心押し台との回転位相を調整した後に再び連結する動作を繰り返すことにより前記振動を生じさせる回転のアンバランスを補正する制御部であって、前記振動が所定値より小さくなったときに前記工具による前記被加工物の加工を開始させる前記制御部と、
を備えている、加工装置。
【請求項11】
被加工物を第1軸線周りに回転駆動させる主軸台と、
前記主軸台に対して前記第1軸線方向に相対的に近接離間し、前記主軸台との間で少なくとも前記被加工物の回転振れを止めるように構成された心押し台と、
前記被加工物を加工する工具と、
前記主軸台及び前記心押し台の少なくとも一方に設けられ、回転のアンバランスを補正する自動バランサと、
を備え、
前記主軸台、前記心押し台、及び前記被加工物が一体的に回転したときの、回転のアンバランスを、前記自動バランサにより補正するように構成されている、加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工方法及び加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、歯車に対する仕上げ加工として、例えばホーニング加工が知られている。これらの加工においては、加工対象となる被加工物と砥石用歯車とを互いにかみ合わせた状態で、回転させて仕上げ加工を行っている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ホーニング加工を行う歯車加工装置が記載されている。この装置では、被加工物であるワークを、主軸台と心押し台からなるワーク支持ユニットにより軸方向の両端から挟むことで支持し、両固定具の間に配置された、内歯車状の工具を有する環状の工具支持ユニットをワークに噛合させている。そして、この状態で工具支持ユニットの工具を回転させることにより、ワークと工具とを連れ周りさせ、ワークの加工を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような加工では、工具及びワークが回転するため、これらが回転軸に対して偏心している場合には、回転のアンバランスが生じる。その結果、加工時に無視できない振動が生じ、加工精度が低減するおそれがある。このような回転のアンバランスについては、種々の提案がなされているが、いまだに改良の余地がある。なお、このような問題は歯車の加工のみならず、例えば、円筒体のような回転対称体等を回転させながら加工する加工方法全般に生じる問題である。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、加工時の回転のアンバランスを抑制することができる、加工方法及び加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る加工方法は、被加工物を分離自在に固定可能として第1軸線周りに回転駆動させる主軸台、前記主軸台に対して前記第1軸線方向に相対的に近接離間自在とし、前記被加工物を加工する際に前記主軸台と協働して少なくとも前記被加工物の回転振れを止めるように構成された心押し台、及び前記被加工物を加工する工具、を有する加工装置を準備する、準備ステップと、主軸台及び前記心押し台により、前記被加工物を支持した状態で、前記被加工物を回転駆動させたとき、前記主軸台、前記心押し台、及び前記被加工物の少なくとも1つに起因する回転のアンバランスを補正する、補正ステップと、前記回転のアンバランスの補正後、前記工具により前記被加工物を加工する、加工ステップと、を備えている。
【0008】
上記加工方法において、前記補正ステップは、前記主軸台が単独で回転するときの、第1偏心位置を取得する第1ステップと、前記心押し台が単独で回転するときの、第2偏心位置を取得する第2ステップと、前記主軸台に支持させた前記被加工物に対し前記心押し台を連結させる第3ステップと、前記主軸台、前記心押し台、及び前記被加工物が一体的に回転するときの第3偏心位置を取得する第4ステップと、前記回転のアンバランスによって生じる振動を計測する第5ステップと、前記振動が所定値以上の場合、前記主軸台と前記心押し台とを一旦離間させる、第6ステップと、前記第1~第3の偏心位置より、前記回転のアンバランスを補正するための修正位置を算出する第7ステップと、前記離間状態にある前記主軸台と心押し台との回転位相を調整して前記第2偏心位置を前記修正位置に移動させる第8ステップと、を備えることができる。
【0009】
上記加工方法において、前記補正ステップは、前記主軸台が、前記被加工物を固定して一緒に回転するときの、第1偏心位置を取得する第1ステップと、前記心押し台が単独で回転するときの、第2偏心位置を取得する第2ステップと、前記主軸台に支持させた状態の前記被加工物に対して前記心押し台を連結させる第3ステップと、前記主軸台、前記心押し台、及び前記被加工物が一体回転するときの第3偏心位置を取得する第4ステップと、前記回転のアンバランスによって生じる振動を計測する第5ステップと、前記振動が所定値以上の場合、前記主軸台と前記心押し台とを離間させる、第6ステップと、前記第1~第3の偏心位置より前記回転のアンバランスを補正するための修正位置を算出する第7ステップと、前記離間状態にある前記主軸台と心押し台との回転位相を調整して前記第2偏心位置を前記修正位置に移動させる第8ステップと、を備えることができる。
【0010】
上記加工方法においては、前記主軸台及び前記心押し台の各々に加速度センサと角度センサとが設けられ、前記加速度センサで計測された前記主軸台及び前記心押し台の加速度と、前記角度センサで計測された前記主軸台及び前記心押し台の回転位相と、に基づいて、前記第1~第3の偏心位置を算出する、ように構成することができる。
【0011】
上記加工方法においては、前記第5ステップで計測された前記振動が所定値より小さくなるまで、前記第3~第8ステップを繰り返すことができる。
【0012】
上記加工方法においては、前記主軸台及び前記心押し台の少なくとも一方に、回転のアンバランスを補正する自動パランサが設けられており、前記補正ステップでは、前記主軸台、前記心押し台、及び前記被加工物が一体的に回転したときの、回転のアンバランスを、前記自動バランサにより補正するように構成することができる。
【0013】
上記加工方法においては、前記主軸台に、前記自動パランサを設けることができる。
【0014】
上記加工方法においては、前記心押し台に、前記自動パランサを設けることができる。
【0015】
上記加工方法において、前記被加工物は、被加工歯車とすることができ、前記工具は、交差角を与えて前記被加工歯車に噛み合って回転駆動することで、当該被加工歯車を加工する歯車状の工具とすることができる。
【0016】
本発明に係る第1の加工装置は、被加工物を第1軸線周りに回転駆動させる主軸台と、前記主軸台に対して前記第1軸線方向に相対的に近接離間自在とし、前記主軸台と連結して協働で少なくとも前記被加工物の回転振れを止めるように構成された心押し台と、前記被加工物を加工する工具と、前記主軸台または心押し台に設けられ、前記被加工物を前記主軸台及び前記心押し台で支持した状態で回転させたときに生じる振動を計測する計測装置と、前記振動が所定値以上の場合、前記主軸台と前記心押し台とを一旦離間させ、前記主軸台と心押し台との回転位相を調整した後に再び連結する動作を繰り返すことにより前記振動を生じさせる回転のアンバランスを補正する制御部であって、前記振動が所定値より小さくなったときに前記工具による前記被加工物の加工を開始させる前記制御部と、を備えている。
【0017】
本発明に係る第2の加工装置は、被加工物を第1軸線周りに回転駆動させる主軸台と、前記主軸台に対して前記第1軸線方向に相対的に近接離間し、前記主軸台との間で少なくとも前記被加工物の回転振れを止めるように構成された心押し台と、前記被加工物を加工する工具と、前記主軸台及び前記心押し台の少なくとも一方に設けられ、回転のアンバランスを補正する自動バランサと、を備え、前記主軸台、前記心押し台、及び前記被加工物が一体的に回転したときの、回転のアンバランスを、前記自動バランサにより補正するように構成されている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、加工時の回転のアンバランスを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る加工装置を歯車加工装置に適用した第1実施形態を示す正面図である。
【
図4】ワーク支持ユニットの一部拡大断面図である。
【
図6】第1実施形態に係る歯車加工方法を示すフローチャートである。
【
図7】回転のアンバランスの補正を説明する図である。
【
図8】本発明に係る加工装置を歯車加工装置に適用した第2実施形態におけるワーク支持ユニットの一部断面図である。
【
図9】第2実施形態に係る歯車加工方法を示すフローチャートである。
【
図10】主軸台及び心押し台の他の例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<A.第1実施形態>
以下、本発明に係る加工装置を歯車加工装置に適用した第1実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1はこの歯車加工装置の正面図、
図2は
図1のA-A線断面図、
図3は
図1のB-B線矢視図である。なお、以下の説明では、
図1の左右方向をX軸方向(第1軸線方向)、
図1の上下方向をZ軸方向、
図2の左右方向をY軸方向と称する。そして、X,Y,Z軸の標記とともに示されている向きの表示(上下前後左右)を基準に説明をしていく。但し、これらの向きは、本発明の一態様におけるものであり、他の配置も可能であるため、これらの向きに限定されない。
【0021】
<1.歯車加工装置の概要>
図1~
図3に示すように、本実施形態に係る歯車加工装置は、基台1と、その上に配置された工具支持ユニット2及びワーク支持ユニット3と、装置の駆動等を制御する制御部4と、を備えている。工具支持ユニット2は、支持体21と、この支持体21の前方に連結され、内歯車状の工具(砥石)222が取付けられた工具ハウジング22とを有しており、工具222の軸方向が、概ねX軸方向に向くように配置されている。これにより、工具222がワークWである被加工歯車と噛合するようになっている。
【0022】
一方、ワーク支持ユニット3は、ワークWを支持する主軸台31と心押し台32とで構成されており、これらは、工具支持ユニット2を挟んで、基台1の両側に配置されている。以下、各ユニット2,3及び制御部4について、詳細に説明する。
【0023】
<2.工具支持ユニット>
まず、工具支持ユニット2について、詳細に説明する。
図2に示すように、上述した支持体21には、Y軸方向に延びる軸部材211が設けられており、この軸部材211の前側に工具ハウジング22が取り付けられている。軸部材211は、Y軸周りに回転可能に支持されているため、軸部材211が回転すると工具ハウジング22がY軸周りに回転するようになっている。これによりワークWに交差角を付与することができる。
【0024】
また、図示を省略するが、支持体21は、基台1上でY軸方向に往復動可能となっており、これによって、ワークWに対し工具222が切り込みを施すことができるようになっている。支持体21を移動させる手段は特には限定されないが、例えば、支持体21を基台1に配置されたY軸方向に延びるレール上に移動可能に支持し、ボールネジ、ナット、及びモータなどの公知の手段でレールに沿って移動させることができる。
【0025】
次に、工具ハウジング22について、説明する。
図2及び
図3に示すように、工具ハウジング22は、上述した軸部材211に連結される環状の支持部221を備えており、この支持部221は、その軸方向が、概ねX軸方向に向くように配置されている。また、支持部221の内周面には、ベアリング23を介して、環状の内歯車状の工具222が回転自在に取付けられている。そして、この工具222に内側からワークWが噛み合いながら、ワークWが加工される。工具222の外周面には駆動用歯車223が取付けられており、この駆動用歯車223は、支持部235の上部に固定されたモータ224によって回転する。すなわち、モータ224と駆動用歯車223との間に減速機(図示省略)が設けられており、これによって、モータ224が駆動すると、所定の減速比によって、駆動用歯車223が工具222とともに回転する。また、このモータ224は、制御部4に電気的に接続されており、モータ224の駆動が行われるようになっている。
【0026】
<3.ワーク支持ユニット>
次に、ワーク支持ユニット3について、
図4も参照しつつ説明する。
図4はワーク支持ユニットの拡大断面図である。
図1及び
図3に示すように、ワーク支持ユニット3は、上述した主軸台31と、心押し台32とで構成されており、工具ハウジング22を挟んで、X軸方向の左側に主軸台31が配置され、右側に心押し台32が配置されている。そして、これら主軸台31と心押し台32は、X軸方向に互いに近接離間し、ワークWを回転自在に支持するようになっている。主軸台31は、ワークWに係合し、X軸方向に延びる第1軸部材311が設けられており、この第1軸部材311は、主軸台31に内蔵されたモータ312によってX軸周りに回転するようになっている。
【0027】
図4に示すように、第1軸部材311には、X軸方向に延びる通路313が形成されており、この通路313の先端開口の外周面にはX軸方向に移動可能で、且つX軸方向の移動に伴って径方向に拡縮するコレットチャック314が取り付けられている。そして、この通路3には、コレットチャック314を拡縮されるためのプッシュ・プル機構の可動部315が挿通されている。これにより、コレットチャック314にワークWを取り付けたとき、つまり、ワークWの貫通孔にコレットチャック314を挿通させたとき、可動部315を左側に引っ張ると、コレットチャック314が拡径し、ワークWがコレットチャック314を介して第1軸部材311にクランプされるようになっている。また、第1軸部材311の先端には、コレットチャック314を囲むように、円筒状の支持体316が固定されており、この支持体316は、ワークWの左側の面と接触し、ワークWを支持するようになっている。
【0028】
また、主軸台31は、基台1上に配置されX軸方向に延びる第1ガイドレール15上に配置されており、この第1ガイドレール15に沿って移動する。主軸台31の下部にはナット(図示省略)が固定されており、このナットにボールネジ(図示省略)が螺合している。ボールネジは、X軸方向に延びており、基台1に固定されたモータ(図示省略)に連結されている。したがって、モータが駆動することで、ボールネジが回転し、これに伴って、主軸台31がX軸方向に移動するようになっている。
【0029】
心押し台32も、主軸台31と同様に構成されている。すなわち、心押し台32は、主軸台31の第1軸部材311と係合可能に同一軸線上に配置されて、X方向に延びる第2軸部材321が設けられており、この第2軸部材321は、X軸周りに回転自在に支持され心押し台32に内蔵されたモータ322によってX軸周りに回転するようになっている。第2軸部材321の先端部には、第1軸部材311から突出する可動部315の先端が嵌まる凹部323が形成されている。さらに、第2軸部材321の先端部には、ワークWの右側の面に当接可能な支持体324が凹部323を囲むように取り付けられている。
【0030】
心押し台32は、基台1上に配置されX軸方向に延びる第2ガイドレール16上に配置されており、この第2ガイドレール16に沿って移動する。心押し台32も、主軸台31と同様に、図示を省略するナット、ボールネジ、及びモータにより駆動し、X軸方向に移動するようになっている。
【0031】
そして、ワークWは第1軸部材311にクランプされた後、加工に入るときにモータ312によって加工時の回転数で回転させつつ、紙面右方向へ移動させる。これと同時に、第2軸部材321もモータ322で同期回転させつつ、紙面左方向へ移動させ、所定位置で2つの支持体316,324がワークWを挟むように連結する。こうして、ワーク支持が完了する。なお、ワークWが主軸台31と心押し台32とで支持される前に、主軸台31と心押し台32の両方を先に回転駆動させておけば(主軸台31と心押し台32とを回転駆動させた状態で近接させれば)、加工前準備を早く終えるようにすることができる。
図3に示すように、ワークWを主軸台31と心押し台32によって支持した状態で、主軸台31と心押し台32が同期してX軸方向に移動することで、ワークWもX軸方向に移動するようになっている。
【0032】
さらに、
図1に示すように、主軸台31および心押し台32には、加速度センサ5a、5b及び角度センサ8a、8b(図示省略)が設けられており、主軸台31と心押し台32、それぞれが個別で回転したときに生じる固有の振動の加速度、及び第1軸部材311、第2軸部材321の位相を、それぞれ予め測定しておく。さらに、加工の際、上述したようにワークWが主軸台31と心押し台32とで回転支持されたときに生じる振動の加速度と位相も、そのどちらかの加速度センサ5a,5b及び角度センサを用いて測定する。すなわち、第1軸部材311、第2軸部材322、及びワークWが一体となって回転駆動しているときに生じる加速度及び位相も測定される。測定された加速度及び位相は、後述するように、制御部4に設けられた記憶部42に記憶させる。
【0033】
<4.制御部>
続いて、制御部4について、
図5を参照しつつ説明する。
図5に示すように、制御部4は、CPU41,RAM(図示省略),及び記憶部42を有するPLCや汎用のコンピュータによって構成することができ、歯車加工装置の各種の駆動を制御するようになっている。なお、この制御部4を、歯車加工装置の駆動を行う制御部とは別に設け、主として、後述する回転のアンバランスの補正のみを行うようにすることもできる。
【0034】
特に、この制御部4では、上述した加速度センサ5a、5b、及び角度センサ8a、8bにおいて、それぞれ主軸台31および心押し台32にて計測された加速度と位相とを受信するようになっており、これによって、ワークWの回転時のアンバランスを補正するようになっている。
【0035】
図5に示すように、制御部4の記憶部42には、ワークWの回転のアンバランスを補正するための補正プログラム421が記憶されており、このプログラム421をCPU41によって実行する。補正方法の詳細については、後述する。その他、記憶部42には、主軸台31の第1軸部材311の偏心位置及び偏心量のデータ(主軸台偏心データ)422、心押し台32の第2軸部材321の偏心位置及び偏心量のデータ(心押し台偏心データ)423、後述する主軸台31、心押し台32、及びワークWが連結したときの偏心位置及び偏心量のデータ(連結偏心データ)424、加速度センサ5で計測された加速度データ425、及び補正によって修正される偏心位置及び偏心量に関する修正目標データ426が記憶される。
【0036】
<5.回転のアンバランスの補正方法>
次に、回転のアンバランスの補正方法を含む歯車加工方法について、
図6を参照しつつ説明する。
図6は回転のアンバランスの補正方法を示すフローチャートである。
【0037】
まず、各構成部品の公差や組み立て誤差等に起因する機械固有の情報として、主軸台31の第1軸部材311の偏心位置を示す第1偏心位置(主軸台偏心データ)、及び心押し台32の第2軸部材321の偏心位置を示す第2偏心位置(心押し台偏心データ)を予め取得し、記憶部42に記憶しておく。このような偏心位置は、例えば、公知の一面修正法によって取得することができる。例えば、第1軸部材311の偏心位置を取得するには、第1軸部材311を単独で回転させ、加速度センサ5で取得された第1軸部材311の振動と、角度センサ8によって取得された位相に基づいて、一面修正法によって偏心位置を取得する。第2偏心位置、及び後述する第3偏心位置についても同様に取得することができる。
なお、本実施形態では、偏心位置に加え、偏心量も取得するが、説明の便宜のため、単に偏心位置と称することがある。
【0038】
次に、加工前に行うワークWのアンバランス補正を
図6にもとづいて説明する。まず、記憶部42に記憶された第1偏心位置及び第2偏心位置を読み出す(ステップS1)。次に、ワークWを主軸台31に固定し、第1軸部材311とともにワークWを回転させる(ステップS2)。続いて、心押し台32の第2軸部材321を回転させた後(ステップS3)、主軸台31と心押し台32とを近接させて、両者によってワークWを支持する(ステップS4)。これに続いて、所定時間内の加速度を、第1軸部材311もしくは第2軸部材321の加速度センサによって計測し(ステップS5)、計測された加速度が所定値以上であれば(ステップS6のNO)、回転のアンバランスの補正を行う。なお、このときには同時に、第1軸部材311もしくは第2軸部材321の角度センサによって位相も計測されており、この位相データと前述の加速度データに基づいて取得された第3偏心位置が記憶部42に記憶される。(ステップS7)
【0039】
すなわち、加速度が所定値以上であれば、第1軸部材311、第2軸部材321、及びワークWのそれぞれの偏心が複合されたことによって、無視できない回転のアンバランスが生じる可能性があり、これによって振動が発生していると考えられる。そこで、まず、主軸台31と心押し台32とを離間させる(ステップS8)。
【0040】
次に、制御部4によって、アンバランス補正のための修正目標位置を算出する(ステップS9)。この点について、詳細に説明する。計測された加速度からは、加速度のピーク、そのピークが生じている回転位置等を算出することができ、これによって前述したように第1~3偏心位置を取得できる。
【0041】
そこで、この第3偏心位置及び第3偏心量による回転のアンバランスを補正するための修正目標位置を、制御部4により算出する。その算出方法を概略的に
図7(a)~
図7(e)に示す。
図7(a)は主軸台31(第1軸部材311)単体で算出された第1偏心位置を、
図7(b)は心押し台32(第2軸部材321)単体で算出された第2偏心位置を、それぞれ示す。
図7(c)には第3偏心位置が示されているが、これは、ワークWの偏心状態と前記第1、2偏心位置とが複合して現れたものである。したがって、
図7(d)に示すように、第3偏心位置から既知の第2偏心位置を引くことで、ワークWを固定した状態の主軸台31の偏心位置を算出できる。そして、回転のアンバランスを相殺するため、この位置から180度反転した位置を算出し目標修正位置として制御部42に記憶させる。(ステップS9)
【0042】
次に、
図7(e)に示すように、ワークWより離間した状態の心押し台32(第2軸部材321)の回転位相を主軸台31の回転位相に対して変更し、第2偏心位置を前記目標修正位置に近づける(ステップS10)。こうして、第2偏心位置が前記目標修正位置に合致する(ステップS11のYES)と、前述したステップS4に戻る。
【0043】
すなわち、主軸台31及び心押し台32を再び近接させ、ワークWと連結した状態で、所定時間内での加速度を計測する。(ステップS5)そして、計測された加速度が所定値以上であれば(ステップS6のNO)、再度、上述した回転のアンバランスの補正を行う(ステップS7~S11)。一方、計測された加速度が所定値以下であれば(ステップS6のYES)、ワークWの加工に移る。すなわち、工具ハウジング22をY軸周りに所定角度回転(交差角を付与)させた状態で、支持体21をY軸方向に移動させ、工具236をワークWに近接させる。そして、ワークWと工具236とを噛み合わせてワークWの加工を行う。(ステップS12)
【0044】
なお、上述した補正方法において、第2偏心量が、主軸台31及びワークWの偏心量に対して大幅に小さい場合には、意図的に第2軸部材321にウエイト(図示せず)を装着してもよい。また、
図7(a)の工程を省いて、主軸台31にワークWを固定したあとに回転させ、心押し台32と連結する直前に、第1軸部材311に生じた振動の加速度と位相を測定し、これに基づいて得られた偏心位置及び偏心量を第1偏心位置とすることができる。その後は、主軸台31と心押し台32とを連結し、
図7(c)~
図7(e)の工程を行うことができる。
【0045】
<6.特徴>
本実施形態によれば、次の効果を得ることができる。
(1)第1軸部材311及び第2軸部材321の偏心位置は測定可能であるが、ワークWの偏心位置は、ワークW毎に製造上のばらつきがあり、さらには主軸台31への固定は自由であるため、全てを測定することは難しい。そこで、本実施形態では、第1軸部材311、第2軸部材321、及びワークWが一体的に回転しているときの第3偏心位置及び第3偏心量を、計測された加速度から算出してワークWを含む主軸側の偏心位置を特定している。そして、この偏心位置から修正目標位置を設定して回転のアンバランスを相殺するように、第2軸部材321の第2偏心位置を前記修正目標位置に移動した上で、第1軸部材311、第2軸部材321、及びワークWを一体的に回転させるため、回転のアンバランスの補正を自動で容易に行うことができる。したがって、ワークWの加工精度を向上することができる。
【0046】
(2)上記歯車加工装置においては、ワークWの径が、工具222の径よりも小さいため、ワークWの回転速度は、工具222よりも大きい。そのため、ワーク支持ユニット3においては、工具支持ユニット2よりも、回転のアンバランスによる振動の影響が大きくなる。しかも、大量生産のために工具222の回転数を高速にする場合はなおさらである。また、工具支持ユニット2側では製造・メンテナンス時にバランス修正しておけばアンバランス量が低く抑えられた状態を維持できるが、ワーク支持ユニット3側においては、加工する度にワークWはランダムに主軸台に取付けられるため、アンバランス量がワーク交換毎に変わるという問題がある。したがって、本実施形態のように、ワーク支持ユニット3において、回転のアンバランスを補正できるようにすると、ワークWの加工精度をより向上することができる。
【0047】
<B.第2実施形態>
次に、本発明に係る加工装置を歯車加工装置に適用した第2実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図8はこの歯車加工装置の正面図である。
【0048】
図8に示すように、この歯車加工装置では、心押し台32の第2軸部材321に公知の自動バランサ317が設けられている。自動バランサ317は、種々の構成を有することができるが、例えば、その内部に、回転軸に対して周方向に移動可能な錘を有しており、回転時に加速度を測定することで、偏心位置及び偏心量を算出する。そして、この偏心量を相殺するような錘の位置を算出し、錘を移動させる。これにより、回転のアンバランスが補正される。第1実施形態で示したように、第1軸部材311の内部にはワークをクランプするためのプッシュプル機構を収納するが、第2軸部材321側は単なる中実軸であるため、自動バランサ317を容易に配設できる。
【0049】
次に、回転のアンバランスの補正方法を含む歯車加工方法について、
図9を参照しつつ説明する。
図9は回転のアンバランスの補正方法を示すフローチャートである。
【0050】
まず、主軸台31の第1軸部材311にワークWを取り付ける。続いて、主軸台31及び心押し台32を互いに近接させ、ワークWを固定する。この状態で、第1軸部材311、第2軸部材321、及びワークWを一体的に所定時間回転させる(ステップS21)。そして、この回転中に自動バランサにより回転のアンバランスの補正を行う(ステップS22)。その後、補正が完了すれば(ステップS23のNO)、ワークWの加工を行う。すなわち、所定の交差角を付与するため、工具ハウジング22をY軸周りに所定角度回転させた状態で、支持体21をY軸方向に移動させ、工具236をワークWに近接させる。そして、ワークWと工具236とを噛み合わせ回転駆動させることで、ワークWの加工を行う(ステップS24)。
【0051】
本実施形態に係る歯車加工装置においては、第1実施形態と同様に、ワーク支持ユニット3において、回転のアンバランスを補正している。したがって、ワークWの加工精度をより向上することができる。
【0052】
<C.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、以下の変形例は、適宜組み合わせることができる。
【0053】
(1)第2実施形態では、心押し台32に自動バランサ317を設けているが、主軸台31に設けることもできる。あるいは、主軸台31及び心押し台32の両方に自動バランサを設けることもできる。
【0054】
上記のように、心押し台32の内部にはプッシュプル機構が設けられないため、心押し台32の内部には、ある程度のスペースが存在する。したがって、この観点からは、心押し台32に自動バランサを設けることが好ましい。一方、主軸台31の第1軸部材311にはワークWが設けられているため、より振動に影響のある偏心を算出することができる。したがって、この観点からは、主軸台31に自動バランサを設けることが好ましい。
【0055】
(2)上記実施形態においては、心押し台32の支持体324がワークWに当接することで、主軸台31とともに心押し台32がワークWを回転自在に支持しているが、これに限定されるものではない。例えば、
図10に示すように、主軸台31の先端に、ワークWの貫通孔に挿通される挿通部319を設ける。この挿通部319には、径方向に拡縮自在な可動係止部(図示省略、例えば、コレットチャック)が設けられておりワークWが載置される。加工に先立ち、主軸台31の回転中心上に位置する挿通部319の窪み部319aに心押し台32の先端に設けられた押圧部材329が当接し押圧する(
図10の一点鎖線参照)。これにより、可動係止部が径方向外側に開いてワークWの貫通孔を内側から押圧することで、ワークWが挿通軸部319を介して主軸台31の可動部に固定されるように構成されている。加工中においてワークWは主軸台31により回転されるが挿通部319の窪み部319aを介して同一軸線上に位置する心押し台32の押圧部材329によりワークWの回転振れが抑制される。このように、心押し台32は、主軸台31と協働してワークWを直接的に回転可能に支持する機能を必ずしも備えている必要はなく、
図10のように、少なくとも主軸台31によって回転されるワークWの回転振れを止めるように構成されていればよい。
【0056】
この場合、
図10に示すように、心押し台31に自動バランサ317を内蔵することができる。
【0057】
(3)上記各実施形態では、いわゆるホーニング加工について説明したが、本発明は、外歯車状の工具を用いるシェービング加工等、歯車の加工全般に適用することができる。
【0058】
(4)上記各実施形態では、本発明を歯車の加工に適用した例を示したが、これ以外にも、例えば、旋盤による加工に適用することもできる。すなわち、被加工物(例えば、円筒体等の回転対称体)を主軸台及び心押し台によって支持した状態で、切削バイトなどの工具によって被加工物の表面を加工する場合にも、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
21 主軸
22 心押し台
4 制御部
5 加速度センサ
W ワーク