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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036022
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】ガス発生器
(51)【国際特許分類】
   B60R 22/46 20060101AFI20220225BHJP
   B01J 7/00 20060101ALI20220225BHJP
   B60R 21/264 20060101ALN20220225BHJP
【FI】
B60R22/46 128
B01J7/00 A
B60R21/264
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021130480
(22)【出願日】2021-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2020139378
(32)【優先日】2020-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萩原 大介
【テーマコード(参考)】
3D018
3D054
4G068
【Fターム(参考)】
3D018MA02
3D054DD14
3D054DD28
3D054EE36
4G068DA08
4G068DB12
4G068DC06
4G068DD03
(57)【要約】
【課題】ホルダに対するカップの組付けをかしめ固定によって行なった場合にも、周方向に沿ったホルダおよびカップの組付強度が高く確保されるガス発生器を提供する。
【解決手段】ガス発生器1は、ガス発生剤50が収容されるとともに軸方向の一端が開放端41aとして構成されたカップ40と、開放端41aを閉塞するとともに点火部22がガス発生剤50に面するように点火器20を保持するホルダ10とを備える。カップ40は、開放端41aにフランジ部43を有し、ホルダ10には、フランジ部43を受け入れる環状溝部15と、先端が折り曲げられることでフランジ部43を環状溝部15の底面との間で挟み込む環状鍔部16とが設けられる。カップ40は、ホルダ10よりも硬質である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼することでガスを発生するガス発生剤と、
点火薬が装填された点火部および当該点火部に接続された端子ピンを有する点火器と、
前記ガス発生剤を収容するとともに、軸方向の一端が開放端として構成された有底略円筒状のカップと、
前記カップが同軸上に組付けられることで前記開放端を閉塞するとともに、前記点火部が前記ガス発生剤に面するように前記点火器を保持する略円柱状のホルダとを備え、
前記カップは、前記開放端から外側に向かって延びるフランジ部を有し、
前記ホルダの前記点火部に面する側の軸方向端面には、前記フランジ部を受け入れる環状溝部および当該環状溝部の外側壁面を規定する環状鍔部が設けられ、
前記フランジ部は、前記環状溝部の底面に対向する第1面とは反対側に位置する第2面を含み、
前記フランジ部が前記環状溝部によって受け入れられた状態で前記環状鍔部が内側に向けて折り曲げられることにより、前記環状鍔部の先端側の部分が、前記第2面に当接し、これによって前記フランジ部が前記カップの軸方向において前記環状鍔部の先端側の部分と前記環状溝部の底面とによって挟み込まれることにより、前記カップが、前記ホルダに組付けられ、
前記カップが、前記ホルダよりも硬質である、ガス発生器。
【請求項2】
前記カップのビッカース硬さが、130Hvを超え、
前記ホルダのビッカース硬さが、130Hv以下である、請求項1に記載のガス発生器。
【請求項3】
前記カップのビッカース硬さが、158Hv以上であり、
前記ホルダのビッカース硬さが、130Hv以下である、請求項1に記載のガス発生器。
【請求項4】
前記カップおよび前記ホルダを軸線周りに相対的に5°回転させるために必要な回転トルクが、5.92N・m以上である、請求項1から3のいずれかに記載のガス発生器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス発生器に関し、特に、作動時において比較的少量のガスが発生するように構成された小型のガス発生器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の乗員の保護の観点から、乗員保護装置であるシートベルト装置が普及している。シートベルト装置は、車両等衝突時に生じる衝撃から乗員を保護する目的で装備されるものであり、乗員の身体にベルトを巻き付けることで乗員を座席に拘束するものである。これにより、車両等衝突時に乗員が車内や車外に投げ出されることが防止される。
【0003】
シートベルト装置のうち、いわゆるプリテンショナを備えたものには、マイクロガスジェネレータと称される小型のガス発生器が組み込まれる。プリテンショナは、衣服の厚み等によって生じるシートベルトの弛みを、車両等の衝突が検知された場合に瞬時に巻き上げる装置であり、このような機能は、ガス発生器から出力されるガスの圧力によってシートベルトの一端が強く引き込まれることで実現される。
【0004】
なお、この小型のガス発生器は、エアバッグ装置に好適に組み込まれるインフレータと称される大型のガス発生器と比較した場合に、作動時において発生するガスの総量が極めて少ないものであり、これに伴ってその構造も大きく相違している。
【0005】
この種のガス発生器の具体的な構造が開示された文献としては、たとえば特開2012-91110号公報(特許文献1)が挙げられる。当該特許文献1に開示のガス発生器は、ガス発生剤が収容されてなるカップと、点火器を保持するとともに上述したカップが組付けられてなるホルダとを備えており、ホルダに対するカップの組付けが、いわゆるかしめ固定によって行なわれている。
【0006】
具体的には、上記特許文献1に開示のガス発生器においては、カップの開放端に外側に向けて延びるフランジ部が設けられるとともに、ホルダのカップ側の軸方向端部にかしめ鍔が設けられており、当該かしめ鍔が内側に向けて折り曲げられてフランジ部を係止することにより、カップがホルダに対して固定されるように構成されている。
【0007】
なお、上述したカップおよびホルダは、かしめ作業の容易化やガス発生器全体としての軽量化の観点等から、いずれもアルミニウム系材料にて構成されることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012-91110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、この種のガス発生器においては、カップがホルダに対して強固に組付けられていることが重要である。これは作動時における内圧の上昇によっても、カップがホルダから脱落しないようにするためであり、具体的には、軸方向に沿ったカップおよびホルダの組付強度が十分に確保されていることが必要である。
【0010】
一方で、上述した軸方向に沿ったカップおよびホルダの組付強度のみならず、周方向に沿ったカップおよびホルダの組付強度も十分に高く確保されていることが必要である。これは、ガス発生器のプリテンショナへの組付けにいわゆるねじ込み方式が採用される場合があるためであり、上述した周方向に沿った組付強度が十分に高く確保されていない場合には、当該ねじ込み作業の際にカップに対してホルダが回転してしまい、プリテンショナに対する組付けが行なえないためである。
【0011】
しかしながら、ホルダに対するカップの組付けを上述した如くのかしめ固定によって行なう場合には、上述した軸方向に沿ったカップおよびホルダの組付強度は比較的容易に確保できるものの、この周方向に沿ったカップおよびホルダの組付強度を高く確保することが困難になる。
【0012】
したがって、本発明は、ホルダに対するカップの組付けをかしめ固定によって行なった場合にも、周方向に沿ったホルダおよびカップの組付強度が高く確保されるガス発生器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に基づくガス発生器は、ガス発生剤と、点火器と、カップと、ホルダとを備えている。上記ガス発生剤は、燃焼することでガスを発生するものであり、上記点火器は、点火薬が装填された点火部と、当該点火部に接続された端子ピンとを有している。上記カップは、上記ガス発生剤を収容するとともに、軸方向の一端が開放端として構成された有底略円筒状の部材からなる。上記ホルダは、上記カップが同軸上に組付けられることで上記開放端を閉塞するとともに、上記点火部が上記ガス発生剤に面するように上記点火器を保持する略円柱状の部材からなる。上記カップは、上記開放端から外側に向かって延びるフランジ部を有しており、上記ホルダの上記点火部に面する側の軸方向端面には、上記フランジ部を受け入れる環状溝部と、当該環状溝部の外側壁面を規定する環状鍔部とが設けられている。上記フランジ部は、上記環状溝部の底面に対向する第1面とは反対側に位置する第2面を含んでいる。上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記フランジ部が上記環状溝部によって受け入れられた状態で上記環状鍔部が内側に向けて折り曲げられることにより、上記環状鍔部の先端側の部分が、上記第2面に当接し、これによって上記フランジ部が上記カップの軸方向において上記環状鍔部の先端側の部分と上記環状溝部の底面とによって挟み込まれることにより、上記カップが、上記ホルダに組付けられている。上記カップは、上記ホルダよりも硬質である。
【0014】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記カップのビッカース硬さが、130Hvを超えていることが好ましく、また、その場合に、上記ホルダのビッカース硬さが、130Hv以下であることが好ましい。
【0015】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記カップのビッカース硬さが、158Hv以上であることが好ましく、また、その場合に、上記ホルダのビッカース硬さが、130Hv以下であることが好ましい。
【0016】
上記本発明に基づくガス発生器にあっては、上記カップおよび上記ホルダを軸線周りに相対的に5°回転させるために必要な回転トルクが、5.92N・m以上であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ホルダに対するカップの組付けをかしめ固定によって行なった場合にも、周方向に沿ったホルダおよびカップの組付強度が高く確保されるガス発生器とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施の形態に係るガス発生器の模式断面図である。
図2図1に示す領域IIの拡大図である。
図3図1に示すガス発生器におけるカップのホルダへの組付方法を示す模式断面図である。
図4】検証試験1,2の試験条件および試験結果を示す表である。
図5】検証試験1,2におけるカップのビッカース硬さの測定ポイントを示す模式図である。
図6】検証試験1,2におけるホルダのビッカース硬さの測定ポイントを示す模式図である。
図7】検証試験3,4の試験条件および試験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。以下に示す実施の形態は、プリテンショナを備えたシートベルト装置に好適に組み込まれるガス発生器(いわゆるマイクロガスジェネレータ)に本発明を適用した場合を例示するものである。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0020】
図1は、実施の形態に係るガス発生器の模式断面図である。まず、この図1を参照して、本実施の形態に係るガス発生器1の構成について説明する。
【0021】
図1に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1は、主として、ホルダ10と、点火器20と、シール部材30と、カップ40と、ガス発生剤50とを備えている。
【0022】
ホルダ10およびカップ40は、これらが同軸上に組み合わされることでガス発生器1の外殻となるハウジングを構成している。点火器20は、ホルダ10によって保持されており、カップ40は、当該点火器20を覆うようにホルダ10に組付けられている。また、ガス発生剤50は、ホルダ10、点火器20およびカップ40によって規定される空間に収容されている。
【0023】
ホルダ10は、点火器20およびカップ40を保持するための部材であり、略円柱状の形状を有している。ここで、本実施の形態においては、ホルダ10に後述する第1凹部12、第2凹部13および開口部14aが設けられているため、ホルダ10は、実質的には略円筒状の形状を有している。
【0024】
ホルダ10は、上述したようにハウジングの一部を構成する部材でもあり、たとえばアルミニウムやアルミニウム合金等の金属材料からなる成形品にて構成される。ホルダ10は、たとえば原料となる板状金属部材または棒状金属部材に鍛造加工や打抜き加工、切削加工等が所定の順番でそれぞれ一回または複数回実施されることで図示する如くの形状に成形される。
【0025】
ホルダ10は、外周面を規定する胴部11を有しており、当該胴部11には、第1凹部12および第2凹部13が設けられている。第1凹部12および第2凹部13の間に位置する部分の胴部11には、これら第1凹部12および第2凹部13を仕切るように仕切り部14が形成されており、当該仕切り部14よりもカップ40の後述する底壁部42側に位置する部分の胴部11には、係止部15が形成されている。
【0026】
第1凹部12は、点火器20の後述する基部21を受け入れ保持するための部位であり、胴部11のカップ40に面する側の軸方向端面に設けられている。第1凹部12の周面は、係止部15によって主として規定されており、第1凹部12の底面は、仕切り部14によって規定されている。
【0027】
第2凹部13は、点火器20の後述する一対の端子ピン23が配置されるとともに、当該一対の端子ピン23を介した点火器20の外部接続のためのコネクタ(不図示)を受け入れ保持するための部位であり、胴部11のカップ40に面しない側の軸方向端面に設けられている。第2凹部13の周面は、胴部11の筒状の部位によって規定されており、第2凹部13の底面は、仕切り部14によって規定されている。
【0028】
仕切り部14には、第1凹部12と第2凹部13とに通ずるように開口部14aが設けられている。当該開口部14aは、一対の端子ピン23が挿通される部分(より厳密には、当該一対の端子ピン23とこれを覆う点火器20の基部21の下端部とが嵌め込まれる部分)である。
【0029】
係止部15は、点火器20の基部21をかしめ固定するための部位であり、環状板形状を有している。係止部15は、その先端が内側に向けて折り曲げられており、これにより第1凹部12に収容された点火器20が移動不能にホルダ10に固定されている。
【0030】
胴部11の点火部22に面する側の軸方向端面(すなわち、カップ40の底壁部42側に位置する軸方向端面)には、上述した係止部15を取り囲むように、環状溝部16および環状鍔部17が設けられている。
【0031】
環状溝部16は、カップ40の後述するフランジ部43を受け入れるための部位であり、底面16aと外側壁面16bと内側壁面16cとを有している(図2等参照)。環状鍔部17は、カップ40のフランジ部43をかしめ固定するための部位であり、環状溝部16の外側壁面16bを規定するように胴部11から点火部22側に向けて突設された環状板形状を有している。
【0032】
ここで、環状鍔部17は、その先端側の部分が内側に向けて折り曲げられており、これによりカップ40がホルダ10に移動不能に固定されることになるが、その詳細については後において説明することとする。
【0033】
点火器20は、火炎を発生させるためのものであり、スクイブとも称される。点火器20は、基部21と、点火部22と、一対の端子ピン23とを有している。基部21は、点火部22および一対の端子ピン23を保持する部位であり、ホルダ10に対して固定される部位でもある。基部21は、一対の端子ピン23が挿通されることでこれを保持している。なお、図1においては、一対の端子ピン23が紙面と直交する方向に重なって位置しているため、その一方のみが現れている。
【0034】
点火部22は、その内部に、作動時において着火して燃焼することで火炎を発生する点火薬と、この点火薬を着火させるための抵抗体(ブリッジワイヤ)とを含んでいる。一対の端子ピン23は、点火薬を着火させるために点火部22に接続されている。
【0035】
より詳細には、点火部22は、カップ状に形成されたスクイブカップを含んでおり、このスクイブカップ内に挿入された一対の端子ピン23の先端を連結するように上述した抵抗体が取付けられ、この抵抗体を取り囲むようにまたはこの抵抗体に近接するようにスクイブカップ内に点火薬が装填された構成を有している。
【0036】
ここで、抵抗体としては一般にニクロム線等が利用され、点火薬としては一般にZPP(ジルコニウム・過塩素酸カリウム)、ZWPP(ジルコニウム・タングステン・過塩素酸カリウム)、鉛トリシネート等が利用される。なお、上述したスクイブカップは、一般に金属製またはプラスチック製である。
【0037】
衝突を検知した際には、端子ピン23を介して抵抗体に所定量の電流が流れる。抵抗体に所定量の電流が流れることにより、抵抗体においてジュール熱が発生し、点火薬が燃焼を開始する。燃焼により生じた高温の火炎は、点火薬を収納しているスクイブカップを破裂させる。抵抗体に電流が流れてから点火器20が作動するまでの時間は、抵抗体にニクロム線を利用した場合に一般に2ms以下である。
【0038】
点火器20をホルダ10に組付けるに際しては、一対の端子ピン23が仕切り部14に設けられた開口部14aに挿通するように、点火器20が、ホルダ10の第1凹部12が設けられた側の軸方向端部から当該第1凹部12内に挿入される。これにより、基部21が第1凹部12内および開口部14a内に収容されるとともに、一対の端子ピン23が第2凹部13内に配置される。この状態において、係止部15の先端側の部分が基部21側に向けて折り曲げられることにより、基部21が仕切り部14と係止部15とによって挟持され、これによって点火器20がホルダ10にかしめ固定される。
【0039】
そのため、点火器20の点火部22は、ホルダ10の第1凹部12が設けられた側の軸方向端面よりもカップ40の底壁部42側に位置することになり、当該点火部22は、後述するカップ40の収容空間44に収容されたガス発生剤50に面することになる。
【0040】
ここで、ホルダ10の第1凹部12内には、予めOリング等からなるシール部材30が収容されており、このシール部材30によってホルダ10と点火器20との間に生じる隙間が封止されている。より詳細には、シール部材30は、ホルダ10の仕切り部14および係止部15と点火器20の基部21との間に介在するように位置しており、これらホルダ10および点火器20によってシール部材30が圧縮されることにより、当該シール部材30によってこれらの間のシール性が確保されることになる。
【0041】
なお、シール部材30としては、十分な耐熱性および耐久性を有する部材を使用することが好ましく、たとえばエチレンプロピレンゴムの一種であるEPDM製のOリング等が好適に利用できる。
【0042】
点火器20の点火部22と基部21の上部部分とには、予め有底略円筒状のカバー24が被せられており、ホルダ10の係止部15は、このカバー24ごと点火器20をかしめ固定している。カバー24の底壁部には、点火器20の点火部22に収容された点火薬が燃焼することによって生じる高温の火炎をガス発生剤50に向けて噴出させるための導火孔が設けられている。カバー24は、たとえばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼を含む鉄系材料等の金属材料からなる成形品にて構成される。
【0043】
カバー24は、点火器20の作動時において、点火部22にて発生する熱粒子を効率的にガス発生剤50に導くためのものであり、より詳細には、点火部22にて発生する熱粒子の進行方向に指向性を与えるものである。これにより、熱粒子の進行方向が点火器20の軸方向に絞られることになり、ガス発生器1にて発生するガスを早期に外部に向けて出力することが可能になる。
【0044】
カップ40は、軸方向の一端が開放端41aとして構成された有底略円筒状の部材からなり、側壁部41と底壁部42とフランジ部43とを有している。側壁部41および底壁部42によって規定されるカップ40の収容空間44には、ガス発生剤50が収容されている。
【0045】
上述した開放端41aは、側壁部41の一対の軸方向端部のうちの底壁部42が位置する側とは反対側の端部にて構成されている。フランジ部43は、この開放端41aから外側に向かって延びるように位置している。当該フランジ部43は、カップ40をホルダ10に固定するための部位である。
【0046】
上述したように、カップ40は、そのフランジ部43がホルダ10に設けられた環状鍔部17によってかしめ固定されることでホルダに固定されている。そのため、カップ40は、ホルダ10によって(より厳密には、これに加えて点火器20やカバー24等によって)その開放端41aが閉塞されている。
【0047】
カップ40の底壁部42には、その表面に溝状の切れ込みが形成されることでスコア42aが設けられている。このスコア42aは、底壁部42の所定位置に他の位置に比べて脆弱な脆弱部を形成するために設けられたものであり、当該スコア42aを設けることにより、ガス発生器1の作動時において当該部分を起点にカップ40が開口するように構成することができる。
【0048】
カップ40は、ハウジングの一部を構成する部材でもあり、たとえばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼を含む鉄系材料等の金属材料からなる成形品にて構成される。なお、カップ40の成形には、一般に金型を用いたプレス加工等が利用される。
【0049】
ガス発生剤50は、点火器20によって着火されて燃焼することで多量のガスを発生するものである。ガス発生剤50としては、無煙火薬(ニトロセルロース)の成形体や、有機窒素化合物と酸化剤とからなる非アジ化系組成物の成形体等が利用される。なお、近年においては、ガス発生剤50として、一酸化炭素等の有害物質の生成量が極めて少ない非ニトロセルロース系ガス発生剤を利用することが注目されている。
【0050】
ガス発生剤50の成形体としては、顆粒状、ペレット状、円柱状、ディスク状等、種々の形状のものが利用できる。また、貫通孔を有する有孔状(たとえばマカロニ状や蓮根状等)のものもガス発生剤50の成形体として利用できる。これらの形状は、ガス発生器1が組付けられるプリテンショナの仕様に応じて最適のものが選択される。また、形状の他にも、線燃焼速度、圧力指数等を考慮に入れてガス発生剤50の成形体のサイズ等が選択される。なお、ガス発生剤50の充填量は、組付けられるプリテンショナの仕様に応じて適宜変更され得るが、無煙火薬を使用した場合には、概ね0.1g~2.0g程度とされることが一般的である。
【0051】
次に、図1を参照して、本実施の形態におけるガス発生器1の作動時の動作について説明する。
【0052】
図1を参照して、本実施の形態におけるガス発生器1が搭載された車両が衝突した場合には、車両に別途設けられた衝突検知手段によって衝突が検知され、これに基づいて点火器20が作動する。点火器20が作動することにより、点火部22に収容された点火薬が着火されて燃焼し、これによってスクイブカップが破裂する。
【0053】
点火薬が燃焼することで生じた火炎は、スクイブカップが破裂することによってガス発生剤50が収容された収容空間44に向けて噴出する。この火炎により、ガス発生剤50が着火されて燃焼し、収容空間44において多量のガスが発生する。このガス発生剤50の燃焼により、収容空間44の内圧が急速に上昇し、これによりカップ40の底壁部42がスコア42aを起点に開口し、発生した多量のガスがガス発生器1の外部へと導出されることになる。
【0054】
その後、ガス発生器1から導出された多量のガスは、当該ガス発生器1が組み込まれたプリテンショナの作動空間へと導かれ、これによってプリテンショナが駆動されることでシートベルト装置に設けられたシートベルトの一端が強く引き込まれることになる。
【0055】
図2は、図1に示す領域IIの拡大図である。また、図3は、図1に示すガス発生器におけるカップのホルダへの組付方法を示す模式断面図である。次に、これら図2および図3を参照して、本実施の形態に係るガス発生器1におけるホルダ10に対するカップ40の組付構造についてより詳細に説明する。
【0056】
図2および図3を参照して、本実施の形態に係るガス発生器1においては、上述したように、カップ40がホルダ10に対してかしめ固定によって組付けられている。当該かしめ固定は、ホルダ10に設けられた環状鍔部17がカップ40のフランジ部43に向けて内側に折り曲げられることで行なわれる。
【0057】
より詳細には、図3に示すように、まず、カップ40のフランジ部43が、ホルダ10に設けられた環状溝部16に挿入される。このフランジ部43の環状溝部16への挿入は、ホルダ10とカップ40とが同軸上に位置するように配置され、その後、カップ40がホルダ10側に向けて図中に示す矢印AR1方向に向けて相対的に移動されることで行なわれる。
【0058】
これにより、カップ40のフランジ部43の軸方向に位置する一対の面のうち、ホルダ10側に位置する第1面43aが、環状溝部16の底面16aに当接することになる。なお、その際、カップ40の側壁部41の内周面は、ホルダ10の第1凹部12を規定する部分の胴部11の外周面および環状溝部16の内側壁面16cに宛がわれることになる。
【0059】
次に、ホルダ10の環状鍔部17の先端側の部分が、図中に示す矢印AR2方向に向けて、すなわち内側に向けて折り曲げられる。これにより、環状鍔部17は、その根元側の部分(すなわち、胴部11に繋がる部分)を除いてその全体が環状溝部16の底面16a側に向けて傾倒することになり、上述したようにカップ40のフランジ部43に向けて折り曲げられることになる。
【0060】
これにより、図2に示すように、環状鍔部17の外側壁面16bのうちの先端側の部分は、フランジ部43の軸方向に位置する一対の面のうちの上述した第1面43aとは反対側に位置する第2面43bに当接することになる。したがって、フランジ部43は、カップ40の軸方向において環状鍔部17の先端側の部分と環状溝部16の底面16aとによって挟み込まれることになる。
【0061】
その際、環状鍔部17は、所定の大きさの荷重をもってフランジ部43に押し付けられる。ここで、ホルダ10のビッカース硬さは、たとえば90Hv以上140Hv以下とされ、カップ40のビッカース硬さは、ホルダ10のビッカース硬さよりも大きいことを条件に、たとえば130Hv以上250Hv以下とされ、より好ましくは、たとえば140Hv以上200Hv以下とされる。そのため、上述した荷重をたとえば20kN以上30kN以下とすることにより、環状鍔部17およびフランジ部43の双方に塑性変形が生じることになる。なお、上述したホルダ10およびカップ40のそれぞれのビッカース硬さは、後述する測定方法に従って測定することができる。
【0062】
以上により、カップ40のフランジ部43がホルダ10の環状鍔部17の先端側の部分と環状溝部16の底面16aとによって軸方向において挟み込まれることになり、これによってカップ40がホルダ10に対して組付けられることになる。また、上述したように、かしめ固定に際して環状鍔部17が所定の大きさの荷重をもってフランジ部43に押し付けられることにより、フランジ部43とこれに当接する部分のホルダ10の表面とが互いに圧接触することになり、これに伴ってカップ40がホルダ10に対して強固に固定されることになる。
【0063】
ここで、本実施の形態に係るガス発生器1においては、カップ40が、ホルダ10よりも硬質である(すなわち、上述したカップ40のビッカース硬さが、ホルダ10のビッカース硬さよりも大きくなるように構成される)。このように構成することにより、上述したかしめ固定の際に塑性変形するホルダ10の環状鍔部17およびカップ40のフランジ部43のうち、特により軟質であるホルダ10の環状鍔部17により大きな塑性変形が生じることになる。
【0064】
そのため、フランジ部43の先端部の第1面43a側の角部と当該角部に対応する部分の環状鍔部17とにおいては、より硬質であるカップ40の上記角部の形状に倣うように環状鍔部17の表面が屈曲状に塑性変形することになるため、当該部分においてフランジ部43がホルダ10に食い込むことになり、特に高い接触圧力が発生して高い固着状態が実現されることになる。以下、この部分を「第1当接部A1」と称する。
【0065】
また、フランジ部43の先端部の第2面43b側の角部と当該角部に対応する部分の環状鍔部17とにおいては、より硬質であるカップ40の上記角部の形状に倣うように環状鍔部17の表面が屈曲状に塑性変形することになるため、当該部分においてフランジ部43がホルダ10に食い込むことになり、特に高い接触圧力が発生して高い固着状態が実現されることになる。以下、この部分を「第2当接部A2」と称する。
【0066】
このように、本実施の形態に係るガス発生器1においては、上述した第1当接部A1および第2当接部A2において特に高い接触圧力が生じることになるため、当該部分において高い摩擦力が発生することになる。したがって、この高い摩擦力に起因して、周方向に沿ったカップ40およびホルダ10の組付強度を高く確保することが可能になり、カップ40とホルダ10との間においてこれらに回転方向(すなわち周方向)に沿って相対的に高いトルクが印加された場合にも、容易にはホルダ10がカップ40に対して回転することがないように構成することができる。
【0067】
このような構成にてかしめ固定後のホルダ10とカップ40との間の摩擦抵抗を増加させることとすれば、環状鍔部17およびフランジ部43に予め機械加工等によって凹凸を形成することで摩擦抵抗を高める等の手法を採用する場合に比べ、製造工程を大幅に簡素化させることが可能になり、周方向に沿ったカップ40およびホルダ10の組付強度を高く確保することができるガス発生器を低コストに製造することができる。
【0068】
したがって、上述した本実施の形態の如くのガス発生器1とすることにより、ホルダ10に対するカップ40の組付けをかしめ固定によって行なった場合にも、軸方向に沿ったホルダ10およびカップ40の組付強度のみならず周方向に沿ったホルダ10およびカップ40の組付強度を高く確保することができる。
【0069】
図4は、検証試験1,2の試験条件および試験結果を示す表である。また、図5および図6は、それぞれ検証試験1,2におけるカップのビッカース硬さの測定ポイントおよびホルダのビッカース硬さの測定ポイントを示す模式図である。以下、これら図4ないし図6を参照して、本発明者が行なった検証試験1,2の詳細、ならびに、上述したホルダ10およびカップ40のそれぞれのビッカース硬さの測定方法について説明する。
【0070】
図4に示すように、検証試験1においては、異なる仕様であるタイプI~IIIの3種類のカップ(タイプIおよびタイプIIはアルミニウム合金製、タイプIIIは鉄鋼製)を準備し、これを同一の仕様であるタイプAのホルダ(アルミニウム合金製)にそれぞれ組付けた。このうちのタイプIのカップをタイプAのホルダに組付けたものが比較例1であり、タイプIIのカップをタイプAのホルダに組付けたものが比較例2であり、タイプIIIのカップをタイプAのホルダに組付けたものが実施例1である。なお、タイプI~IIIのカップのサイズ(外形寸法)は、実質的に同じである。
【0071】
また、検証試験2においては、異なる仕様である上述したタイプI,IIIの2種類のカップを準備し、これを同一の仕様であるタイプBのホルダ(アルミニウム合金製)にそれぞれ組付けた。このうち、タイプIのカップをタイプBのホルダに組付けたものが比較例3であり、タイプIIIのカップをタイプBのホルダに組付けたものが実施例2である。なお、タイプA,Bのホルダのサイズ(外形寸法)は、実質的に同じである。
【0072】
まず、タイプI~IIIのカップの各々について、ビッカース硬さを測定した。具体的には、図5に示すように、カップ40の軸線を含む断面を切削によって露出させ、この露出断面のうちのフランジ部43に該当する部分を測定ポイントとして定めてビッカース硬さを測定した。測定ポイントは、図示するQ1~Q3の合計で3点であり、測定器としては、ミツトヨ社製の自動読取硬さ試験機HM-220を用いた。なお、試験力は特に制限されるものではないが、測定対象の硬さに合わせて0.1kgfとした。
【0073】
その結果、タイプIのカップのビッカース硬さの平均値は48Hvであり、タイプIIのカップのビッカース硬さの平均値は101Hvであり、タイプIIIのカップのビッカース硬さの平均値は195Hvであった。なお、測定ポイント毎のビッカース硬さのばらつきや、サンプル毎のビッカース硬さのばらつきは、無視できる程度のものであった。
【0074】
次に、タイプA,Bのホルダの各々について、ビッカース硬さを測定した。具体的には、図6に示すように、ホルダ10の軸線を含む断面を切削によって露出させ、この露出断面のうちの環状鍔部17に該当する部分および環状溝部16の底面16aを規定する部分を測定ポイントとして定めてビッカース硬さを測定した。測定ポイントは、図示するR1~R6およびS1~S8の合計で14点であり、測定器としては、ミツトヨ社製の自動読取硬さ試験機HM-220を用いた。なお、試験力は特に制限されるものではないが、測定対象の硬さに合わせて0.3gkgfとした。
【0075】
その結果、タイプAのホルダのビッカース硬さの平均値は130Hvであり、タイプBのホルダのビッカース硬さの平均値は119Hvであった。なお、測定ポイント毎のビッカース硬さばらつきや、サンプル毎のビッカース硬さのばらつきは、無視できる程度のものであった。
【0076】
次に、これらカップおよびホルダを、前述の図3を用いて説明した手順に従ってかしめ固定によって組付けた。なお、比較例1~3および実施例1,2について、それぞれ複数のサンプルを製作することとし、そのかしめ固定の際に環状鍔部17に印加する荷重は、いずれも20kN、25kN、30kNの3種類とした。
【0077】
次に、比較例1~2および実施例1,2の各々について、周方向に沿ったカップおよびホルダの組付強度を確認するために、カップとホルダとの間においてこれらに回転方向(すなわち周方向)に沿って相対的にトルクを印加し、その回転の程度を測定した。具体的には、カップおよびホルダに印加される回転トルクを徐々に増加させ、カップおよびホルダを軸線周りに相対的に5°回転させるために必要な回転トルク(以下、これを必要回転トルクと称する)を測定した。測定器としては、アイコーエンジニアリング社製の卓上トルク試験機MODEL-5401VC/200を用い、回転速度を1rpmに設定した。
【0078】
その結果、比較例1においては、必要回転トルクの平均値が、かしめ荷重が20kNの場合に0.93N・m、かしめ荷重が25kNの場合に0.86N・m、かしめ荷重が30kNの場合に0.57N・mであり、比較例2においては、必要回転トルクの平均値が、かしめ荷重が20kNの場合に4.31N・m、かしめ荷重が25kNの場合に4.54N・m、かしめ荷重が30kNの場合に5.77N・mであり、比較例3においては、必要回転トルクの平均値が、かしめ荷重が20kNの場合に2.06N・m、かしめ荷重が25kNの場合に2.49N・m、かしめ荷重が30kNの場合に2.07N・mであった。一方、実施例1においては、必要回転トルクの平均値が、かしめ荷重が20kNの場合に6.34N・m、かしめ荷重が25kNの場合に6.70N・m、かしめ荷重が30kNの場合に7.11N・mであり、実施例2においては、必要回転トルクの平均値が、かしめ荷重が20kNの場合に5.92N・m以上、かしめ荷重が25kNの場合に6.57N・m以上、かしめ荷重が30kNの場合に6.81N・mであった。ここで、実施例2において、かしめ荷重20kN,25kNの場合に、必要回転トルクの平均値がそれぞれ「5.92N・m以上」および「6.57N・m以上」とあるのは、カップとホルダとの間においてこれらに印加される回転トルクを徐々に増加させた場合に、カップおよびホルダを軸線周りに相対的に5°回転させる前に、ホルダとカップとのかしめ固定部である上述した環状鍔部およびフランジ部以外の部分において破損が生じたために、それ以上の測定が行えなかったためである。なお、比較例1~3および実施例1,2の各々について、サンプル毎の必要回転トルクのばらつきは、無視できる程度のものであった。
【0079】
以上の結果から、ホルダよりもカップが硬質である実施例1,2において、ホルダよりもカップが軟質である比較例1~3よりも、必要回転トルクが大きくなることが確認された。そのため、以上の結果に基づけば、カップ40が、ホルダ10よりも硬質であることにより、周方向に沿ったホルダ10およびカップ40の組付強度を高く確保することができることが理解される。
【0080】
また、以上の結果に基づけば、上記の条件に加えて、カップ40のビッカース硬さが、195Hv以上であることにより、周方向に沿ったホルダ10およびカップ40の組付強度を高く確保することが可能になることが理解されるとともに、上記の条件に加えて、ホルダ10のビッカース硬さが、130Hv以下であることにより、周方向に沿ったホルダ10およびカップ40の組付強度を高く確保することが可能になることが理解される。
【0081】
図7は、検証試験3,4の試験条件および試験結果を示す表である。以下、この図7とを参照して、本発明者が行なった検証試験3,4の詳細について説明する。なお、検証試験3,4は、いずれも上述した検証試験1,2の試験結果を受けて、これら検証試験1,2を追補するために行なったものである。
【0082】
より詳細には、図7に示すように、検証試験3においては、異なる仕様であるタイプIVからVIIIの5種類のカップ(いずれも鉄鋼製)を準備し、これを上述した検証試験1において使用したタイプAのホルダ(アルミニウム合金製)にそれぞれ組付けた。このうちのタイプIVのカップをタイプAのホルダに組付けたものが実施例3であり、タイプVのカップをタイプAのホルダに組付けたものが実施例4であり、タイプVIのカップをタイプAのホルダに組付けたものが実施例5であり、タイプVIIのカップをタイプAのホルダに組付けたものが実施例6であり、タイプVIIIのカップをタイプAのホルダに組付けたものが実施例7である。なお、タイプIV~VIIIのカップのサイズ(外形寸法)は、実質的に同じである。
【0083】
また、検証試験4においては、異なる仕様である上述したタイプIVからVIIIの5種類のカップを準備し、これを上述した検証試験2において使用したタイプBのホルダ(アルミニウム合金製)にそれぞれ組付けた。このうちのタイプIVのカップをタイプBのホルダに組付けたものが実施例8であり、タイプVのカップをタイプBのホルダに組付けたものが実施例9であり、タイプVIのカップをタイプBのホルダに組付けたものが実施例10であり、タイプVIIのカップをタイプBのホルダに組付けたものが実施例11であり、タイプVIIIのカップをタイプBのホルダに組付けたものが実施例12である。
【0084】
まず、タイプIV~VIIIのカップの各々について、上述した検証試験1,2における手法と同様の手法により、そのビッカース硬さを測定した。その際、測定器としては、上述した検証試験1,2と同様にミツトヨ社製の自動読取硬さ試験機HM-220を用い、試験力は、測定対象の硬さに合わせて0.3kgfとした。
【0085】
その結果、タイプIVのカップのビッカース硬さの平均値は158Hvであり、タイプVのカップのビッカース硬さの平均値は169Hvであり、タイプVIのカップのビッカース硬さの平均値は214Hvであり、タイプVIIのカップのビッカース硬さの平均値は170Hvであり、タイプVIIIのカップのビッカース硬さの平均値は239Hvであった。なお、測定ポイント毎のビッカース硬さのばらつきや、サンプル毎のビッカース硬さのばらつきは、無視できる程度のものであった。
【0086】
次に、これらカップおよびホルダを、上述した検証試験1,2の場合と同様に、前述の図3を用いて説明した手順に従ってかしめ固定によって組付けた。なお、実施例3~12について、それぞれ複数のサンプルを製作することとし、そのかしめ固定の際に環状鍔部17に印加する荷重は、いずれも25kNとした。
【0087】
次に、実施例3~12の各々について、上述した検証試験1,2における手法と同様の手法により、必要回転トルク(すなわち、カップおよびホルダを軸線周りに相対的に5°回転させるために必要な回転トルク)を測定した。その際、測定器としては、上述した検証試験1,2と同様にアイコーエンジニアリング社製の卓上トルク試験機MODEL-5401VC/200を用い、回転速度は、1rpmに設定した。
【0088】
その結果、実施例3においては、必要回転トルクの平均値が7.54N・mであり、実施例4においては、必要回転トルクの平均値が7.89N・mであり、実施例5においては、必要回転トルクの平均値が7.72N・mであり、実施例6においては、必要回転トルクの平均値が6.59N・mであり、実施例7においては、必要回転トルクの平均値が6.40N・mであった。一方、実施例8においては、必要回転トルクの平均値が7.04N・mであり、実施例9においては、必要回転トルクの平均値が7.14N・mであり、実施例10においては、必要回転トルクの平均値が7.56N・mであり、実施例11においては、必要回転トルクの平均値が6.88N・mであり、実施例12においては、必要回転トルクの平均値が9.06N・mであった。なお、実施例3~12の各々について、サンプル毎の必要回転トルクのばらつきは、無視できる程度のものであった。
【0089】
以上の結果から、上述した実施例1,2のみならず、これらと同様にホルダよりもカップが硬質である実施例3~12においても、ホルダよりもカップが軟質である上述した比較例1~3よりも、必要回転トルクが大きくなることが確認された。そのため、以上の結果に基づけば、カップ40が、ホルダ10よりも硬質であることにより、周方向に沿ったホルダ10およびカップ40の組付強度を高く確保することができることが理解される。
【0090】
また、以上の結果に基づけば、上記の条件に加えて、カップ40のビッカース硬さが、158Hv以上であることにより、周方向に沿ったホルダ10およびカップ40の組付強度を高く確保することが可能になることが理解されるとともに、上記の条件に加えて、ホルダ10のビッカース硬さが、130Hv以下であることにより、周方向に沿ったホルダ10およびカップ40の組付強度を高く確保することが可能になることが理解される。
【0091】
ここで、上述した実施例1~13のうち、同一の仕様であるタイプAのホルダ(ビッカス硬さ:130Hv)を使用した実施例1,3~7における必要回転トルクに着目すれば、カップのビッカース硬さが48Hv、101Hv、158Hvと上昇するに連れて必要回転トルクも比例的に上昇し、カップのビッカース硬さが158Hvを超えることにより、概ね必要回転トルクが一定値に漸近していることが確認できる。
【0092】
このうち、カップのビッカース硬さの上昇に伴って必要回転トルクが比例的に上昇する範囲におけるこれらカップのビッカース硬さと必要回転トルクとの関係を示す近似式を導き出し、当該近似式に必要回転トルクの値として5.92N・mを代入したところ、その場合のカップのビッカース硬さは、約130Hvとなった。ここで、必要回転トルクの値としての5.92N・mは、ガス発生器のプリテンショナへの組付けにいわゆるねじ込み方式が採用される場合において、カップ40に対してホルダ10が回転してしまうことを十分に抑制することができる値(すなわち、プリテンショナにガス発生器を不具合なく組付けることができる値)である。
【0093】
したがって、当該結果に基づけば、ホルダのビッカース硬さが130Hv以下である場合に、ビッカース硬さが130Hvを超えるカップを使用することにより(すなわち、カップが、ホルダよりも硬質であることにより)、周方向に沿ったホルダ10およびカップ40の組付強度を高く確保することができることが実験的にも改めて確認されたと言える。
【0094】
以上において説明した実施の形態に係るガス発生器にあっては、ホルダをアルミニウム製またはアルミニウム合金製とし、カップアルミニウム製またはアルミニウム合金製あるいはステンレス鋼を含む鉄系材料製とした場合を例示して説明を行なったが、ホルダおよびカップの材質は特にこれらに限定されるものではなく、他の材質のものを利用することとしてもよい。
【0095】
また、上述した実施の形態に係るガス発生器にあっては、ホルダの環状溝部およびカップのフランジ部にシール剤を予め塗布することなく、環状溝部にフランジ部を挿入して環状鍔部をかしめた場合を例示して説明を行なったが、気密性を向上させるために、環状溝部およびフランジ部の少なくとも一方に予めシール剤を塗布しておいてもよい。
【0096】
このように、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0097】
1 ガス発生器、10 ホルダ、11 胴部、12 第1凹部、13 第2凹部、14 仕切り部、14a 開口部、15 係止部、16 環状溝部、16a 底面、16b 外側壁面、16c 内側壁面、17 環状鍔部、20 点火器、21 基部、22 点火部、23 端子ピン、24 カバー、30 シール部材、40 カップ、41 側壁部、41a 開放端、42 底壁部、42a スコア、43 フランジ部、43a 第1面、43b 第2面、44 収容空間、50 ガス発生剤、A1 第1当接部、A2 第2当接部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7