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特開2022-36033ニオブ酸アンモニウム水和物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036033
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】ニオブ酸アンモニウム水和物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 33/00 20060101AFI20220225BHJP
【FI】
C01G33/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021132538
(22)【出願日】2021-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2020139063
(32)【優先日】2020-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】特許業務法人竹内・市澤国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 周平
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 彰記
(72)【発明者】
【氏名】和泉 智也
(72)【発明者】
【氏名】荒木 孝文
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA01
4G048AB02
4G048AD04
4G048AE05
4G048AE07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】アルカリ金属塩との反応性が高く、アルカリ金属塩と容易に反応してニオブ酸塩化合物を得ることができる新規なニオブ酸アンモニウム水和物を提供する。
【解決手段】Nb及びOのほかに、NH4 +及びOHを含有する化合物(ニオブ酸アンモニウム水和物)であり、ニオブ酸アンモニウム水和物の平均体積粒径は、超音波分散処理前(D50N)及び超音波分散処理後(D50D)においてD50Nは1μm以上100μm以下であり、かつD50N/D50Dが10以下であって、また、固体H-NMR測定において、スペクトルを化学シフト等方値7.3~7.7ppmの範囲に位置するピーク1と化学シフト等方値5.6~7.0ppmの範囲に位置するピーク2の2つのピークに分離したとき、ピーク積分値1とピーク積分値2との合計値に対するピーク積分値1の割合が40%以上であるニオブ酸アンモニウム水和物である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nb及びOのほかに、NH4 +及びOHを含有する化合物(「ニオブ酸アンモニウム水和物」とも称する)であり、
前記ニオブ酸アンモニウム水和物は、レーザー回折・散乱法粒度分布測定法による積算体積50容量%における積算体積粒径について、超音波分散処理前(D50N)及び40W、30秒間の超音波分散処理後(D50D)のそれぞれ測定したとき、D50Nが1μm以上100μm以下であり、かつD50Dに対するD50Nの比(D50N/D50D)が10以下であって、
固体H-NMR測定において、得られた信号をフーリエ変換後、位相及び化学シフト等方値を補正して得られる実測スペクトルに、化学シフト等方値に対して高さが一定なベースライン及び2個の擬フォークト関数の和で作成した計算スペクトルを、H化学シフト等方値-2~14ppmの範囲でフィッティングして、前記実測スペクトルを2つのピークに分離するとともにベースラインを定め、分離後の頂点がH化学シフト等方値7.3~7.7ppmの範囲に位置するピークをピーク1とし、分離後の頂点がH化学シフト等方値5.6~7.0ppmの範囲に位置するピークをピーク2とし、
ピーク1の擬フォークト関数をH化学シフト等方値-2~14ppmの範囲で積分した値をピーク積分値1とし、ピーク2の擬フォークト関数をH化学シフト等方値-2~14ppmの範囲で積分した値をピーク積分値2としたとき、ピーク積分値1とピーク積分値2との合計値に対するピーク積分値1の割合が40%以上であるニオブ酸アンモニウム水和物。
【請求項2】
前記ニオブ酸アンモニウム水和物と炭酸ナトリウムとをNb:Na=1.0:1.1(mol比)となるように混合し、大気中において850℃(品温)を1時間保持するように加熱すると、X線回折において、Na2Nb411に帰属する2θ=29°±0.5°のピーク強度(a)に対する、ニオブ酸ナトリウム(NaNbO3)に帰属する2θ=32°±0.5°のピーク強度(b)のX線強度比(32°±0.5°/29°±0.5°)が10以上である焼成物が得られる、請求項1に記載のニオブ酸アンモニウム水和物。
【請求項3】
フッ化ニオブ水溶液と炭酸アンモニウム塩とを混合すると共に加熱して反応させることによりニオブ酸アンモニウム水和物を得ることを特徴とするニオブ酸アンモニウム水和物の製造方法。
【請求項4】
フッ化ニオブ水溶液と炭酸アンモニウム塩とを混合してpHを7.0以上に調整することを特徴とする、請求項3に記載のニオブ酸アンモニウム水和物の製造方法。
【請求項5】
フッ化ニオブ水溶液と炭酸アンモニウム塩とを混合すると共に、55℃以上に加熱することを特徴とする請求項3又は4に記載のニオブ酸アンモニウム水和物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Nb及びOのほかにNH4 +及びOHを含有する化合物(「ニオブ酸アンモニウム水和物」とも称する)及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニオブは、それ自体は銀白色であるが、表面に不動態酸化被膜を作ると、美しい七色に輝く特性を有している。また、比較的軽量で、且つ、多くの化学物質に対して耐性を有している。融点が高く(468℃)、蒸気圧が低く、弾性率が高く、熱安定性が高く、熱膨張率が低く、あらゆる元素の中で最高の超伝導転移温度を有している。さらに、低温でも容易に成形できる上、生体適合性が高いという特性も有している。そのため、ニオブの用途は多岐にわたっており、例えば、コイン投入口、コーティング用耐食性蒸着ボート、ダイヤモンド製造のるつぼ、インプラント材料、超伝導ケーブルや磁石の材料などに利用されている。
【0003】
水酸化ニオブ、ニオブ酸化物及びニオブ水和物(これらをまとめて「ニオブ水和物類」と称する)は、ニオブ酸リチウム(LN)結晶あるいはセラミックスコンデンサなどの電子セラミックスの原料として広く用いられている。
【0004】
このようなニオブ水和物類の製造方法としては、例えば、ニオブを含有する鉱石またはスクラップ等を原料として用意し、当該原料を必要に応じて粉砕し、次にアルカリ水溶液による疎解や鉱酸洗浄などの前処理を行う。その後、フッ化水素酸などを用いてニオブを溶解し、この溶解によって得られた溶液を溶媒抽出により分離精製してフッ化ニオブ溶液を得る。そして、得られたフッ化ニオブ溶液とアンモニア水を混合して沈澱物を生成し、この沈殿物を洗浄、濾過、乾燥することにより、水酸化ニオブを得る方法が従来から知られている。そして、このように得られた水酸化ニオブを焙焼することにより酸化ニオブを得ることができる。
【0005】
ニオブ水和物類の製造方法に関する発明として、例えば特許文献1において、水酸化ニオブをフッ酸または蓚酸に溶かした溶液をpH1~4、温度60℃以下に保ち、上記化合物の酸化物換算量(Nb換算)に対し0.05wt%以上のピロリジンジチオカルバミン酸アンモニウムを添加し、生成した沈殿を除去した後、PHを6以上にすることを特徴とする水酸化ニオブの製造方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、CO2が入っているアンモニア溶液を、ニオブが入っている酸性フッ化物溶液にこの溶液のpH値が7以上になるまで導入することを特徴とするニオブ酸化物の製造方法が開示されている。
【0007】
特許文献3には、フッ化ニオブ溶液と、アンモニア、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムから選択される少なくとも1種の沈澱剤とを混合して沈澱物を生成する工程と、生成された沈澱物を分離・洗浄する工程と、得られた沈殿物を、50℃~300℃の水蒸気含有ガス雰囲気中に少なくとも0.5時間以上保持する水蒸気含有ガス処理工程と、当該水蒸気含有ガス処理により得られた処理物を、その強熱減量が理論強熱減量の20%~90%になるまで乾燥する工程と、を有する水酸化ニオブの製造方法が開示されている。
【0008】
近年、アルカリ金属などを含有するニオブ酸塩化合物は、周波数フィルターやコンデンサなどのような電子部品の原料や、スパッタリングのターゲット原料等としての使用量が増加している。最近では、代表的な圧電体セラミックスであるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の代替材料として、ニオブ酸カリウム(KNbO),ニオブ酸ナトリウム(NaNbO),ニオブ酸リチウム(LiNbO)のほか、ニオブ酸ナトリウムとチタン酸バリウムの固溶体や、ニオブ酸ナトリウムとニオブ酸カリウムとの固溶体など、ニオブ酸塩化合物が非鉛系圧電セラミクスの候補として注目されている。
【0009】
この種のニオブ酸塩化合物に関して、特許文献4には,圧電セラミックスの高性能化を目的として、ニオブ化合物と水酸化ナトリウム(NaOH)溶液から構成される懸濁液のソルボサーマル反応によるNaNbO粒子の合成方法が開示されている。
特許文献5には、NaNbO微粒子の製造方法に関し、酸化ニオブ(Nb)とNaOH水溶液と別工程で製造したNaNbOとを混合し、オートクレーブを用いて該混合物に対して高温・高圧の状態に曝露する水熱処理を施す製造方法が開示されている。
【0010】
特許文献6には、水酸化ナトリウム(NaOH)と水酸化カリウム(KOH)を含有するアルカリ性水溶液と結晶性Nbと界面活性剤から成る懸濁液を調製し、この懸濁液にオートクレーブを用いて200℃の水熱処理を施してKNaNbO・9HO粒子を合成し、次にこのKNaNbO・9HO粒子を熱処理で脱水することによってニオブ酸アルカリ金属塩を作製する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平1-313333号公報
【特許文献2】特開平8-12333号公報
【特許文献3】特開2005-1920号公報
【特許文献4】特開2010-241658号公報
【特許文献5】特開2013-224228号公報
【特許文献6】特開2011-132118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
アルカリ金属を含有するニオブ酸塩化合物を製造する際、通常のニオブ水和物類とアルカリ金属塩とを反応させるには、上述のように、オートクレーブなどを用いて高温高圧条件の下でアルカリ金属の酸化物にニオブ水和物類を溶融させるか、若しくは、ニオブ水和物類をいったん五酸化ニオブとした後、五酸化物として水酸化物イオンの溶液に溶かす必要があった。
ところが、前者のようにオートクレーブを用いて加熱することは、設備及び費用の面で負担であった。また、後者のように五酸化物を経なければならないことは生産効率が悪く、工業利用上負担であった。
【0013】
そこで本発明は、アルカリ金属塩、例えば炭酸ナトリウムとの反応性が高く、オートクレーブなどを用いて高温高圧の条件下で反応させる必要がなく、また、五酸化ニオブを経由して反応させる必要もなく、アルカリ金属塩、例えば炭酸ナトリウムと反応させてニオブ酸塩化合物を容易に得ることができる、新規なニオブ水和物類及びその製造方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、Nb及びOのほかに、NH4 +及びOHを含有する化合物(「ニオブ酸アンモニウム水和物」とも称する)であり、
前記ニオブ酸アンモニウム水和物は、レーザー回折・散乱法粒度分布測定法による積算体積50容量%における積算体積粒径について、超音波分散処理前(D50N)及び40W、30秒間の超音波分散処理後(D50D)のそれぞれ測定したとき、D50Nが1μm以上100μm以下であり、かつD50Dに対するD50Nの比(D50N/D50D)が10以下であって、
固体H-NMR測定において、得られた信号をフーリエ変換後、位相及び化学シフト等方値を補正して得られる実測スペクトルに、化学シフト等方値に対して高さが一定なベースライン及び2個の擬フォークト関数の和で作成した計算スペクトルを、H化学シフト等方値-2~14ppmの範囲でフィッティングして、前記実測スペクトルを2つのピークに分離するとともにベースラインを定め、分離後の頂点がH化学シフト等方値7.3~7.7ppmの範囲に位置するピークをピーク1とし、分離後の頂点がH化学シフト等方値5.6~7.0ppmの範囲に位置するピークをピーク2とし、
ピーク1の擬フォークト関数をH化学シフト等方値-2~14ppmの範囲で積分した値をピーク積分値1とし、ピーク2の擬フォークト関数をH化学シフト等方値-2~14ppmの範囲で積分した値をピーク積分値2としたとき、ピーク積分値1とピーク積分値2との合計値に対するピーク積分値1の割合(「ピーク1の積分比」とも称する)が40%以上であるニオブ酸アンモニウム水和物を提案する。
【0015】
本発明はまた、フッ化ニオブ水溶液と炭酸アンモニウム塩とを混合すると共に加熱して反応させることにより、ニオブ酸アンモニウム水和物を得ることを特徴とするニオブ酸アンモニウム水和物の製造方法を提案する。
【発明の効果】
【0016】
本発明が提案するニオブ酸アンモニウム水和物は、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩との反応性が高いという特徴を有している。例えば炭酸ナトリウムと混合して加熱すると、不純物の少ないニオブ酸ナトリウム(NaNbO3)を得ることができる。よって、本発明が提案するニオブ酸アンモニウム水和物は、オートクレーブなどを用いて高温高圧の条件下で反応させる必要がなく、また、五酸化ニオブを経由して反応させる必要もなく、アルカリ金属塩と反応させてニオブ酸塩化合物を容易に得ることができるから、工業上有効に利用できることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1で得たニオブ酸アンモニウム水和物(サンプル)について、600MHzNMR分光器を用いて得られた1Hスペクトルの実測スペクトル、表1の変数によって計算される各ピークのスペクトル、計算スペクトル、及び、実測と計算スペクトルの残差を示した図である。
図2】実施例2で得たニオブ酸アンモニウム水和物(サンプル)について、600MHzNMR分光器を用いて得られた1Hスペクトルの実測スペクトル、表1の変数によって計算される各ピークのスペクトル、計算スペクトル、及び、実測と計算スペクトルの残差を示した図である。
図3】比較例1で得たニオブ酸アンモニウム水和物(サンプル)について、600MHzNMR分光器を用いて得られた1Hスペクトルの実測スペクトル、表1の変数によって計算される各ピークのスペクトル、計算スペクトル、及び、実測と計算スペクトルの残差を示した図である。
図4】実施例1で得たニオブ酸アンモニウム水和物(サンプル)と炭酸ナトリウムとを混合し加熱して得られた焼成物のX線回折パターンである。
図5】実施例2で得たニオブ酸アンモニウム水和物(サンプル)と炭酸ナトリウムとを混合し加熱して得られた焼成物のX線回折パターンである。
図6】比較例1で得た水酸化ニオブ(サンプル)と炭酸ナトリウムとを混合し加熱して得られた焼成物のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0019】
<本ニオブ酸アンモニウム水和物>
本発明の実施形態の一例に係るニオブ酸アンモニウム水和物(「本ニオブ酸アンモニウム水和物」とも称する)は、Nb及びOのほかにNH4 +及びOHを含有する化合物、すなわちニオブ酸アンモニウム水和物である。
【0020】
本ニオブ酸アンモニウム水和物は、Nb及びOのほかに、NH4 +及びOHを含有する化合物(「ニオブ酸アンモニウム水和物」とも称する)であり、
レーザー回折・散乱法粒度分布測定法による積算体積50容量%における積算体積粒径について、超音波分散処理前(D50N)及び40W、30秒間の超音波分散処理後(D50D)のそれぞれ測定したとき、D50Nが1μm以上100μm以下であり、かつ、D50Dに対するD50Nの比(D50N/D50D)が10以下であるのが好ましい。
【0021】
レーザー回折・散乱法粒子径分布測定法による超音波分散処理前の積算体積50容量%における積算体積粒径(D50N)が1μm以上であれば、流動性が良いことが多く、100μm以下であれば、アルカリ金属塩との反応性が高いものとなるから、好ましい。
この観点から、D50Nは、下限値が5μm以上であるのがより好ましく、10μm以上であるのがさらに好ましい。他方、D50Nの上限値は80μm以下であるのがより好ましく、50μm以下であるのがさらに好ましい。
【0022】
前記D50Nが1μm以上の場合であって、D50N/D50Dが10以下であれば流動性が良いという効果を得ることができる。
この観点から、前記D50N/D50Dは、8以下であるのがより好ましく、5以下であるのがさらに好ましく、3以下であるのが特に好ましく、2以下であるのがなお一層好ましい。他方、前記D50N/D50Dの下限値は通常1であるが、1を下回る値になることもあり、製造容易性の観点から0.95以上であるのが好ましく、1.00以上であるのがより好ましく、1.05以上であるのがさらに好ましい。
D50N及びD50Dの測定は、例えばレーザー回折・散乱法粒子径分布測定装置として、MT3300EXII又はMT3300II(いずれもマイクロトラックべル社製)を使用可能である。測定条件の詳細は後述の実施例に記載する。
【0023】
なお、従来入手できるニオブ酸アンモニウム水和物は、流動性が低いものであったため、アルカリ金属塩と混合した際の混合性が悪く、アルカリ金属塩との反応性を高めることができない一因となっていた。また、流動性が低いため、投入ホッパーや移送配管に詰まりが生じやすいという問題点を抱えていた。これに対し、本ニオブ酸アンモニウム水和物においては、D50N及びD50N/D50D比を調整することで、かかる課題すなわち流動性を改善することができる。
【0024】
本ニオブ酸アンモニウム水和物は、さらに固体H-NMR測定において、得られた信号をフーリエ変換後、位相及び化学シフト等方値を補正して得られる実測スペクトルに、化学シフト等方値に対して高さが一定なベースライン及び2個の擬フォークト関数の和で作成した計算スペクトルを、H化学シフト等方値-2~14ppmの範囲でフィッティングして、前記実測スペクトルを2つのピークに分離するとともにベースラインを定め、分離後の頂点がH化学シフト等方値7.3~7.7ppmの範囲に位置するピークをピーク1とし、分離後の頂点がH化学シフト等方値5.6~7.0ppmの範囲に位置するピークをピーク2とし、
ピーク1の擬フォークト関数をH化学シフト等方値-2~14ppmの範囲で積分した値をピーク積分値1とし、ピーク2の擬フォークト関数をH化学シフト等方値-2~14ppmの範囲で積分した値をピーク積分値2としたとき、ピーク積分値1とピーク積分値2との合計値に対するピーク積分値1の割合(ピーク1の積分比)が40%以上であるのが好ましい。
この際、ピーク1は、NH4 +に由来するHのピークであると推定され、ピーク2は、OHに由来するHのピークであると推定される。
また、前記ピーク1の積分比は、ピーク1で特定されるHと、ピーク2で特定されるHとの合計に対する、ピーク1で特定されるHの存在比、すなわち当該プロトンの存在比を意味するものである。
【0025】
本ニオブ酸アンモニウム水和物において、ピーク1の積分比が40%以上であれば、後述するように、本ニオブ酸アンモニウム水和物の反応性を高めることができる。特に炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩に対する反応性を高めることができる。
よって、かかる観点から、本ニオブ酸アンモニウム水和物において、ピーク積分値1とピーク積分値2の合計値に対するピーク積分値1の割合(ピーク1の積分比)が40%以上であるのが好ましく、中でも50%以上、その中でも60%以上、その中でも70%以上であるのがさらに好ましい。
【0026】
なお、本ニオブ酸アンモニウム水和物は、Nb、O、NH4 +及びOH以外の成分からなる化合物であってもよいし、これら以外の成分(「他成分」と称する)を含有してもよい。
また、不可避不純物が含有される可能性もある。但し、不可避不純物の含有量は、各々0.2質量%以下であるのが好ましく、中でも各々0.1質量%以下、その中でも各々0.05質量%以下、とりわけ各々0.02質量%以下であるのが好ましい。なお、不可避不純物としては、例えばTa、Si、P、B、Sb、Mn、Fe、Ni、Cr、Co、Cuなどを挙げることができる。
【0027】
(反応性)
本ニオブ酸アンモニウム水和物は、上述のように、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩との反応性が高いことが特徴の一つである。
例えば、本ニオブ酸アンモニウム水和物と炭酸ナトリウムとを、Nb:Na=1.0:1.1(mol比)となるように混合し、大気中において850℃(品温)を1時間保持するように加熱することで焼成物を得ることができる。そしてこの際、得られる焼成物は、NaNbO3からなり、Na2Nb411などの不純物が少ないものとすることができる。具体的には、当該焼成物は、X線回折において、Na2Nb411に帰属する2θ=29°±0.5°のピーク強度(a)に対する、ニオブ酸ナトリウム(NaNbO3)に帰属する2θ=32°±0.5°のピーク強度(b)のX線強度比(32°±0.5°/29°±0.5°)が10以上となる。中でも20以上、その中でも30以上とすることができる。
このように、本ニオブ酸アンモニウム水和物は、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩との反応性が高いため、オートクレーブなどを用いて高温高圧の条件下で反応させる必要がなく、また、五酸化ニオブを経由して反応させる必要もなく、アルカリ金属塩、例えば炭酸ナトリウムと反応させてニオブ酸塩化合物を容易に得ることができる。
【0028】
<本製造方法>
次に、本ニオブ酸アンモニウム水和物の好適な製造方法(「本製造方法」と称する)について説明する。
【0029】
本製造方法の一例として、フッ化ニオブ水溶液と炭酸アンモニウム塩とを混合すると共に加熱して反応させる方法を挙げることができる。但し、この方法に限定するものではない。
なお、本製造方法は、他の工程若しくは他の処理を追加することは適宜可能である。
【0030】
(フッ化ニオブ水溶液)
ニオブ乃至ニオブ酸化物は、フッ酸(HF)と反応させてフッ化ニオブ(H2NbF7)とすると、水に溶解してフッ化ニオブ水溶液とすることができる。
フッ化ニオブ水溶液は、水(例えば純水)を加えて、ニオブをNb25換算で1~200g/L含有するように調整するのが好ましい。
【0031】
フッ化ニオブ水溶液は、フッ素(F)の元素量が30質量%以下であるのが好ましく、中でも25質量%以下、その中でも20質量%以下であるのがさらに好ましい。
フッ化ニオブ水溶液は、ニオブ(Nb)のNb25換算量が30質量%以下であるのが好ましく、中でも25質量%以下、その中でも20質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0032】
(炭酸アンモニウム塩)
炭酸アンモニウム塩としては、(NH42CO3、(NH4)HCO3などを挙げることができる。中でも、ピーク積分値1の割合が大きなニオブ酸アンモニウム水和物を得やすいという観点から、(NH4)HCO3が好ましい。
【0033】
フッ化ニオブ水溶液のNb1molに対して、NH換算で5mol以上の炭酸アンモニウム塩を混合することが好ましい。
フッ化ニオブ水溶液のNb1molに対して、NH換算で5mol以上の炭酸アンモニウム塩を混合することにより、より確実に中和することができる。かかる観点から、炭酸アンモニウム塩の混合量を、フッ化ニオブ水溶液のNb1molに対して、NH換算で7mol以上とするのがより好ましく、中でも8mol以上、中でも9mol以上、その中でも10mol以上とするのがさらに好ましい。
他方、炭酸アンモニウム塩の混合量を、フッ化ニオブ水溶液のNb1molに対して、NH換算で13mol以下とすることにより、過剰な炭酸アンモニウム塩を削減することができる。かかる観点から、炭酸アンモニウム塩の混合量を、フッ化ニオブ水溶液のNb1molに対して、NH換算で12mol以下とするのがより好ましく、中でも11mol以下とするのがさらに好ましい。
【0034】
(混合方法)
フッ化ニオブ水溶液と炭酸アンモニウム塩との混合順序は、炭酸アンモニウム塩をフッ化ニオブ水溶液に添加(正中和)して混合しても、フッ化ニオブ水溶液を炭酸アンモニウム塩に添加(逆中和)して混合してもよい。
【0035】
フッ化ニオブ水溶液と炭酸アンモニウム塩とを混合した際の溶液のpHが7.0以上であれば、より確実に中和できるから好ましい。他方、高すぎると炭酸アンモニウム塩が余剰となる可能性がある。よって、フッ化ニオブ水溶液と炭酸アンモニウム塩とを混合した際の溶液のpHが7.0以上となるように調整するのが好ましく、中でも8.0以上或いは13.0以下、その中でも9.0以上或いは12.0以下となるように調整するのがさらに好ましい。
【0036】
また、フッ化ニオブ水溶液と炭酸アンモニウム塩とを混合すると共に、混合液の液温が所定温度になるように加熱するのが好ましい。
この際、混合した後に混合液を加熱してもよいが、混合しながら混合液を加熱するのが好ましい。
この際、加熱温度は、混合液の液温が55℃以上になるように加熱するのが好ましい。炭酸アンモニウムの分解温度が約48℃であるから、55℃以上に加熱することにより、ニオブ酸のまわりの炭酸アンモニウム、おそらくニオブイオンを錯体化している炭酸アンモニウムが分解して炭酸が離脱(脱気)され、急激にアンモニア中和反応が進むことにより、NbOとNH の結合が多くなるものと推測することができる。
なお、炭酸アンモニウムの分解反応は吸熱反応であるため、溶液温度を55℃以上に保持するためには、加熱手段の温度自体はそれよりも高温とする必要がある。
かかる観点から、加熱温度は、混合液の温度が55℃以上になるように加熱するのがより好ましく、中でも65℃以上、その中でも75℃以上になるように加熱するのがさらに好ましい。
【0037】
(洗浄)
以上のように混合及び加熱してNbアンモニウム溶液を得た後、必要に応じて、フッ化アンモニウムなどの不純物を除去する洗浄を行うのが好ましい。
この際の洗浄方法は任意である。例えば、逆浸透ろ過、限外ろ過、精密ろ過などの膜を用いたろ過による方法のほか、遠心分離、その他の公知の方法を採用することができる。
【0038】
(乾燥)
そして、必要に応じて、得られたNbアンモニウム溶液を乾燥させることにより、粉末状の本ニオブ酸アンモニウム水和物を得ることができる。
この際の乾燥方法は任意である。
【0039】
<語句の説明>
本明細書において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例0040】
本発明は、以下の実施例により更に説明される。但し、以下の実施例はいかなる方法でも本発明を限定することを意図するものではない。
【0041】
<実施例1>
水酸化ニオブ(Nb濃度:93.5質量%)17.5gを22.6質量%フッ酸溶液86.7gにて溶解し、フッ化ニオブ水溶液(ニオブ酸濃度:Nb25換算151g/L、Nb濃度:15.7質量%、フッ素濃度:18.9質量%)を得た。
このフッ化ニオブ酸水溶液30mL(Nb0.0341mol)に、イオン交換水30mLを添加し希釈した。さらに炭酸水素アンモニウム塩((NH)HCO、NH濃度:22.8質量%)を20g(NH3換算0.253mol)添加し、マグネティックスターラーを用いて回転速度200rpmで撹拌しながら混合した。その後、混合液の液温が75℃を維持するように75分間加熱し、中和反応液(pH7.9)を得た。
次に、当該中和反応液を5Cろ紙を用いてヌッチェろ過し、回収したニオブ含有沈殿物を2.5質量%アンモニア水200mLでリスラリーし、前記同様にヌッチェろ過してフッ化アンモニウム等を除去洗浄した。この洗浄作業は、ろ液のフッ素量が50ppm以下になるまで繰り返した。その後、110℃に設定した乾燥器で乾燥させてニオブ酸アンモニウム水和物(サンプル)を得た。
【0042】
<実施例2>
水酸化ニオブ(Nb濃度:93.5質量%)17.5gを22.6質量%フッ酸溶液86.7gにて溶解し、フッ化ニオブ水溶液(ニオブ酸濃度:Nb25換算151g/L、Nb濃度:15.7質量%、フッ素濃度:18.9質量%)を得た。
このフッ化ニオブ酸水溶液30mL(Nb0.0341mol)に、イオン交換水70mLを添加し希釈した。さらに炭酸水素アンモニウム塩((NH)HCO、NH濃度:22.8質量%)を20g(NH3換算0.253mol)添加し、マグネティックスターラーを用いて回転速度200rpmで撹拌しながら混合した。その後、混合液の液温が75℃を維持するように75分間加熱し、中和反応液(pH8.2)を得た。
次に、当該中和反応液を5Cろ紙を用いてヌッチェろ過し、回収したニオブ含有沈殿物を2.5質量%アンモニア水200mLでリスラリーし、前記同様にヌッチェろ過してフッ化アンモニウム等を除去洗浄した。この洗浄作業は、ろ液のフッ素量が50ppm以下になるまで繰り返した。その後、110℃に設定した乾燥器で乾燥させてニオブ酸アンモニウム水和物(サンプル)を得た。
【0043】
<比較例1>
水酸化ニオブ(Nb濃度:93.5質量%)17.5gを22.6質量%フッ酸溶液86.7gにて溶解し、フッ化ニオブ水溶液(ニオブ酸濃度:Nb25換算151g/L、Nb濃度:15.7質量%、フッ素濃度:18.9質量%)を得た。
このフッ化ニオブ酸水溶液30mL(Nb0.0341mol)に、イオン交換水30mLを添加し希釈した。この希釈したフッ化ニオブ酸水溶液を25%アンモニア水25mL(NH3換算0.334mol)へ30分かけて添加して特に加熱することなく中和反応液(pH10.2)を得た。
次に、当該中和反応液を5Cろ紙を用いてヌッチェろ過し、回収したニオブ含有沈殿物を2.5質量%アンモニア水200mLでリスラリーし、前記同様にヌッチェろ過してフッ化アンモニウム等を除去洗浄した。この洗浄作業は、ろ液のフッ素量が50ppm以下になるまで繰り返した。その後、110℃に設定した乾燥器で乾燥させて、水酸化ニオブ(サンプル)を得た。
【0044】
<NMR測定>
(測定条件)
1H NMR測定は、600MHzNMR分光器(Bruker社製のAVANCE NEO)を用いて室温にて行った。
使用したNMRプローブは1.3mmCP-MASプローブで、60kHzの回転周波数のマジック角回転下でSingle pulse法で測定した。
Single pulse法のパルスには2.5μ秒の90度パルスを用い、信号の観測点の間隔は1マイクロ秒、観測点は20000点(観測時間20ミリ秒)とした。
また、信号観測後から次の測定のパルス印加までの間隔(以下、繰り返し時間)は8秒と16秒で強度に変化が見られない場合は8秒とした。変化が見られる場合は16秒と32秒で変化が見られないことを確認したうえで16秒とした。
具体的には、各試料の繰り返し時間は、ref:8秒、条件1:16秒、条件2:8秒であった。
各測定の積算回数は16回、測定前のダミースキャンを4回とした。
測定は1試料につき3回、粉末を入れ替えた測定を行った。
【0045】
なお、上記実施例及び比較例では、上記測定条件で測定して解析したところ、十分な精度が得られたが、上記の測定条件ではばらつきが大きいなど十分な精度が得られない場合は、各測定の積算回数を16回から増やすか、若しくは、粉末を入れ替えての測定を1試料について3回より増やすか、少なくともこれらの一方を行うことにより、十分な精度が得られるようにすることができる。
【0046】
(解析条件)
上記の測定で得られた信号に45536点の強度ゼロの点を追加し、フーリエ変換した。
フーリエ変換後、全ピークが上向きに見えるように1Hスペクトルの位相補正を行った。
次に、1Hスペクトルの化学シフト等方値を、外部標準物質として用いたアダマンタンの1Hのピークが1.91ppm(テトラメチルシラン0ppm基準)となるように横軸を平行移動した。
以上により得られたスペクトルを実測スペクトルと称する。
ピーク分離及びベースラインの決定は、実測スペクトルに、化学シフト等方値に対して高さが一定なベースライン及び2個の擬フォークト関数の和で作成した計算スペクトルを、H化学シフト等方値-2~14ppmの範囲でフィッティングすることにより実施した。
擬フォークト関数は、同じ半値全幅のローレンツ関数とガウス関数の和である。ピーク分離で用いた擬フォークト関数f(x)を以下に示す。
【0047】
【0048】
ここで、xはH-NMRスペクトルの横軸の値(化学シフト等方値)、x0はピーク中心の化学シフト等方値、Aは実測に合わせるためのスケーリング係数、ηは-∞(マイナス無限大)から+∞(プラス無限大)の範囲でのローレンツ関数(第1項)のピーク積分比、Hはピークの半値全幅、πは円周率、lnは自然対数、expは自然指数関数を表す。
ピーク分離では、2個の擬フォークト関数各々のx0、H、η、Aを変数として実測スペクトルと計算スペクトルの化学シフト等方値-2ppmから14ppmの範囲の平均二乗偏差が最小となるようにExcelのソルバー機能を用いてフィッティングを行った。
このように、実測スペクトルに、化学シフト等方値に対して高さが一定なベースライン及び2個の擬フォークト関数の和で作成した計算スペクトルを、H化学シフト等方値-2~14ppmの範囲でフィッティングして、前記実測スペクトルを2つのピークに分離するとともにベースラインの高さを決めた。
そして、分離後のピークの頂点がH化学シフト等方値7.3~7.7ppmの範囲に位置するピークをピーク1とし、分離後のピークの頂点がH化学シフト等方値5.6~7.0ppmの範囲に位置するピークをピーク2とした。
ピーク分離により得られたピーク1及びピーク2の擬フォークト関数の変数(x0、H、η、A)を表1に示す。
スケーリング係数Aは全ピークのAの和が100となるように規格化した数値を記載した。
また、ベースラインの高さは2つのピークのAの和(100)で割ることにより規格化した値を記載した。
【0049】
表1の数値は、3回の測定による実測スペクトルのピーク分離により得られた変数(x0、H、η、A)の平均値を示している。
また、図1,2,3には、実測スペクトル(図では「実測」と表示)と、表1の変数によって計算される各ピークのスペクトル(図では「ピーク1」「ピーク2」と表示)と、計算スペクトル(図では「計算」と表示)と、実測と計算スペクトルの残差(図では「残差」と表示)とを示した。
式(1)の変数x0、H、η、Aに、表1の数値を代入して計算したピーク1、ピーク2をH化学シフト等方値-2~14ppmの範囲で積分してピーク積分値1及びピーク積分値2を計算し、ピーク積分値の合計値に対するピーク積分値1の割合(ピーク積分比1)及びピーク積分値の合計値に対するピーク積分値2の割合(ピーク積分比2)を表2に示す。
なお、本発明の実施例及び比較例では、ピーク1のA値に対するピーク積分比1の割合及びピーク2のA値に対するピーク積分比2の割合はいずれも95%以上105%以下の範囲にあるので問題ないが、もし95%未満又は105%超であったならば、前記フィッティング及びフィッティング後の擬フォークト関数の積分を行うH化学シフト等方値の範囲を拡張して再計算することもできる。
【0050】
上記1Hスペクトルにおいて、通常O-Hピークは7.0ppmを超えることはほとんどなく、N-HのピークはO-Hピークより高い側に現れることから、6.0ppm付近のピークはOH由来のピーク、7.5ppm付近のピークはNH4 +由来のピークと推定することができる。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
(考察)
以上の結果から、実施例1及び2のニオブ酸アンモニウム水和物(サンプル)は、固体H-NMR測定において、擬フォークト関数を用いて頂点がH化学シフト等方値7.3~7.7ppmの範囲に位置するピーク(以下、ピーク1)とH化学シフト等方値5.6~6.0ppmの範囲に位置するピーク(以下、ピーク2)との2つのピークに分離し、ピーク1の擬フォークト関数をH化学シフト等方値-2~14ppmの範囲で積分した値をピーク積分値1とし、ピーク2の擬フォークト関数をH化学シフト等方値-2~14ppmの範囲で積分した値をピーク積分値2としたとき、ピーク積分値1とピーク積分値2との合計値に対するピーク積分値1の割合が40%以上であることが分かった。
【0054】
<反応性>
実施例1及び2で得たニオブ酸アンモニウム水和物(サンプル)又は比較例1で得た水酸化ニオブ(サンプル)と、炭酸ナトリウムとを、Nb:Na=1.0:1.1(mol比)となるように混合し、大気中において850℃(品温)を1時間保持するように加熱して焼成物を得た。
得られた焼成物について、装置名「リガク社製MiniFlexII」を用い、次の条件でXRD測定を行い、回折パターンを得(図4、5、6)、これに基づいてピーク強度及びピーク強度比を求めた。
【0055】
=XRD測定条件=
X線源:CuKα、操作軸:2θ/θ、測定方法:連続、計数単位:cps
開始角度:37°、終了角度:41°、
サンプリング幅:0.01°、スキャンスピード:0.1°/min、
電圧:50kV、電流:300mA
発散スリット:2/3°、発散縦:10mm
散乱スリット:2/3°、受光スリット:0.15mm
【0056】
次の基準で評価を行った。
〇(good):XRDピーク強度比(32°±0.5°/29°±0.5°)が10以上であった。
×(poor):XRDピーク強度比(32°±0.5°/29°±0.5°)が10未満であった。
【0057】
【表3】
【0058】
上記X線回折の結果、Na2Nb411に帰属する2θ=29°±0.5°のピーク強度に対する、ニオブ酸ナトリウム(NaNbO3)に帰属する2θ=32°±0.5°のピーク強度の比率すなわちX線強度比(32°±0.5°/29°±0.5°)が、比較例1に比べて、実施例1及び2は顕著に高く、10以上、中でも20以上、その中でも30以上であった。すなわち、焼成物のほとんどNaNbO3からなり、Na2Nb411などの不純物が少ないものであった。なお、NaNbO3及びNa2Nb411の同定は、それぞれのカードNo(NaNbO3:01-074-2440、Na2Nb411:01-072-1694)に基づいて行った。
これより、実施例1及び2のニオブ酸アンモニウム水和物(サンプル)は、アルカリ金属塩、例えば炭酸ナトリウムとの反応性が高く、炭酸ナトリウムとを混合して焼成すると、オートクレーブなどを用いて高温高圧の条件下で反応させなくても、また、五酸化ニオブを経由して反応させなくても、不純物の少ないニオブ酸ナトリウム(NaNbO3)を得ることができることが分かった。
【0059】
<Nb収率>
実施例で得られたニオブ酸アンモニウム水和物(サンプル)の質量(Ag)から一部を採取し(Bg)、採取物を大気中で800℃にて1時間焼成後、得られたNbの質量(Cg)を測定し、下記式よりNb収率を計算した。
Nb収率(%)=C×A÷B÷4.53×100
なお、NbをNb換算151g/L含むフッ化ニオブ酸水溶液30mLはNb換算で4.53gを含む。
【0060】
<D50Nの測定>
レーザー回折・散乱法粒子径分布測定装置MT3300EXII(マイクロトラックべル社)の循環装置及び測定セル内を分散媒(0.1質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液)で満たし、分散媒を循環させながら、試料を循環装置に装置が測定可能範囲内であると表示するまで投入した。表示が安定していることを確認後、測定した。
【0061】
<D50Dの測定>
試料2mgを100mLのガラスビーカーに入れ、0.1質量%ヘキサメタリン酸水溶液をガラスビーカーの50mLの標線まで満たし、超音波洗浄機VS-100III(アズワン社製)にて40Wの出力で3分間の超音波処理を実施して得たスラリーを試料循環装置に投入したことを除いて、D50Nの場合と同様に操作して、D50Dを測定した。
D50N/D50Dについては、上記2種の測定で得られた値を用いて計算した。
【0062】
<流動性評価>
流動性評価に供するサンプルは、各実施例及び各比較例をスケールアップして作製した。
流動性評価は、PP(ポリプロピレン)製粉末漏斗(アズワン社製、口径60mm、足長18mm、足外径15mm)に粉体500g(Nb換算)を10秒かけて投入することにより行った。
評価は、投入後の状態を観察し、詰りのあるものを「×」、無いものを「〇」とした。
【0063】
【表4】
【0064】
実施例1のNb収率は十分に高いものであった。これより、Nb収率を高めるためには、フッ化ニオブ水溶液と炭酸アンモニウム塩とを混合すると共に加熱することが好ましいことが分かった。
また、表3の反応性試験の結果も合わせて考えると、D50Nが1μm以上100μm以下、特に好ましくは10μm以上50μm以下であって、D50N/D50Dが10以下、特に好ましくは2以下であれば、流動性に優れ、アルカリ金属塩との反応性をより一層高めることができることが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2021-12-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nb及びOのほかに、NH4 +及びOHを含有する化合物(「ニオブ酸アンモニウム水和物」とも称する)であり、
前記ニオブ酸アンモニウム水和物は、レーザー回折・散乱法粒度分布測定法による積算体積50容量%における積算体積粒径について、超音波分散処理前(D50N)及び40W、30秒間の超音波分散処理後(D50D)のそれぞれ測定したとき、D50Nが1μm以上100μm以下であり、かつD50Dに対するD50Nの比(D50N/D50D)が10以下であって、
固体H-NMR測定において、得られた信号をフーリエ変換後、位相及び化学シフト等方値を補正して得られる実測スペクトルに、化学シフト等方値に対して高さが一定なベースライン及び2個の擬フォークト関数の和で作成した計算スペクトルを、H化学シフト等方値-2~14ppmの範囲でフィッティングして、前記実測スペクトルを2つのピークに分離するとともにベースラインを定め、分離後の頂点がH化学シフト等方値7.3~7.7ppmの範囲に位置するピークをピーク1とし、分離後の頂点がH化学シフト等方値5.6~7.0ppmの範囲に位置するピークをピーク2とし、
ピーク1の擬フォークト関数をH化学シフト等方値-2~14ppmの範囲で積分した値をピーク積分値1とし、ピーク2の擬フォークト関数をH化学シフト等方値-2~14ppmの範囲で積分した値をピーク積分値2としたとき、ピーク積分値1とピーク積分値2との合計値に対するピーク積分値1の割合が40%以上であるニオブ酸アンモニウム水和物。
【請求項2】
前記ニオブ酸アンモニウム水和物と炭酸ナトリウムとをNb:Na=1.0:1.1(mol比)となるように混合し、大気中において850℃(品温)を1時間保持するように加熱すると、X線回折において、Na2Nb411に帰属する2θ=29°±0.5°のピーク強度(a)に対する、ニオブ酸ナトリウム(NaNbO3)に帰属する2θ=32°±0.5°のピーク強度(b)のX線強度比(32°±0.5°/29°±0.5°)が10以上である焼成物が得られる、請求項1に記載のニオブ酸アンモニウム水和物。
【請求項3】
フッ化ニオブ水溶液と炭酸アンモニウム塩とを混合すると共に55℃以上に加熱して反応させることによりニオブ酸アンモニウム水和物を得ることを特徴とするニオブ酸アンモニウム水和物の製造方法。
【請求項4】
フッ化ニオブ水溶液と炭酸アンモニウム塩とを混合してpHを7.0以上に調整することを特徴とする、請求項3に記載のニオブ酸アンモニウム水和物の製造方法。
【請求項5】
製造されるニオブ酸アンモニウム水和物は、Nb及びOのほかに、NH4 +及びOHを含有する化合物であり、
レーザー回折・散乱法粒度分布測定法による積算体積50容量%における積算体積粒径について、超音波分散処理前(D50N)及び40W、30秒間の超音波分散処理後(D50D)のそれぞれ測定したとき、D50Nが1μm以上100μm以下であり、かつD50Dに対するD50Nの比(D50N/D50D)が10以下であって、
固体H-NMR測定において、得られた信号をフーリエ変換後、位相及び化学シフト等方値を補正して得られる実測スペクトルに、化学シフト等方値に対して高さが一定なベースライン及び2個の擬フォークト関数の和で作成した計算スペクトルを、H化学シフト等方値-2~14ppmの範囲でフィッティングして、前記実測スペクトルを2つのピークに分離するとともにベースラインを定め、分離後の頂点がH化学シフト等方値7.3~7.7ppmの範囲に位置するピークをピーク1とし、分離後の頂点がH化学シフト等方値5.6~7.0ppmの範囲に位置するピークをピーク2とし、
ピーク1の擬フォークト関数をH化学シフト等方値-2~14ppmの範囲で積分した値をピーク積分値1とし、ピーク2の擬フォークト関数をH化学シフト等方値-2~14ppmの範囲で積分した値をピーク積分値2としたとき、ピーク積分値1とピーク積分値2との合計値に対するピーク積分値1の割合が40%以上である、請求項3又は4に記載のニオブ酸アンモニウム水和物の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のニオブ酸アンモニウム水和物、または、請求項3~5の何れか1項に記載のニオブ酸アンモニウム水和物の製造方法によって製造されたニオブ酸アンモニウム水和物と、アルカリ金属とを混合し、大気中で加熱する、ニオブ酸塩化合物の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
そこで本発明は、アルカリ金属塩、例えば炭酸ナトリウムとの反応性が高く、オートクレーブなどを用いて高温高圧の条件下で反応させる必要がなく、また、五酸化ニオブを経由して反応させる必要もなく、アルカリ金属塩、例えば炭酸ナトリウムと反応させてニオブ酸塩化合物を容易に得ることができる、新規なニオブ酸アンモニウム水和物及びその製造方法を提供せんとするものである。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0036
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0036】
また、フッ化ニオブ水溶液と炭酸アンモニウム塩とを混合すると共に、混合液の液温が所定温度になるように加熱するのが好ましい。
この際、混合した後に混合液を加熱してもよいが、混合しながら混合液を加熱するのが好ましい。
この際、加熱温度は、混合液の液温が55℃以上になるように加熱する必要がある。炭酸アンモニウムの分解温度が約48℃であるから、55℃以上に加熱することにより、ニオブ酸のまわりの炭酸アンモニウム、おそらくニオブイオンを錯体化している炭酸アンモニウムが分解して炭酸が離脱(脱気)され、急激にアンモニア中和反応が進むことにより、NbOとNH の結合が多くなるものと推測することができる。
なお、炭酸アンモニウムの分解反応は吸熱反応であるため、溶液温度を55℃以上に保持するためには、加熱手段の温度自体はそれよりも高温とする必要がある。
かかる観点から、加熱温度は、混合液の温度が55℃以上になるように加熱するのがより好ましく、中でも65℃以上、その中でも75℃以上になるように加熱するのがさらに好ましい。