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特開2022-36042水分及び環境への抵抗性を呈するセラミックマトリックス複合材料を作製する方法
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  • 特開-水分及び環境への抵抗性を呈するセラミックマトリックス複合材料を作製する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036042
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】水分及び環境への抵抗性を呈するセラミックマトリックス複合材料を作製する方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/80 20060101AFI20220225BHJP
   C04B 35/577 20060101ALI20220225BHJP
   D06M 11/80 20060101ALI20220225BHJP
   D06M 101/00 20060101ALN20220225BHJP
【FI】
C04B35/80 600
C04B35/577
D06M11/80
D06M101:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021133062
(22)【出願日】2021-08-18
(31)【優先権主張番号】16/997,094
(32)【優先日】2020-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】516257383
【氏名又は名称】ロールス-ロイス ハイ テンペラチャー コンポジッツ,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リチャード キッド
(72)【発明者】
【氏名】サンボ シム
(72)【発明者】
【氏名】ケリー クランク
(72)【発明者】
【氏名】ロバート シナフスキー
【テーマコード(参考)】
4L031
【Fターム(参考)】
4L031AA29
4L031AB01
4L031BA02
4L031BA15
4L031BA19
4L031BA21
(57)【要約】
【課題】材料性能の損失を伴わずに、水分及び環境への改善された抵抗性を呈し得るセラミックマトリックス複合材料(CMC)を作製する方法を提供すること。
【解決手段】水分及び環境への抵抗性を呈するセラミックマトリックス複合材料を作製する方法を開発した。この方法は、窒化ホウ素を含む拡散バリア層を炭化ケイ素繊維上に堆積させるステップ、及びケイ素ドープ窒化ホウ素を含む耐湿層を拡散バリア層上に堆積させるステップを含み、耐湿層の厚さは、拡散バリア層の厚さの約3~約300倍である。このようにして、耐湿層及び拡散バリア層を含むコンプライアント多層が形成される。炭化ケイ素、炭化ホウ素及び/又は熱分解炭素を含む湿潤層を、コンプライアント多層層上に堆積させる。湿潤層を堆積させた後、炭化ケイ素繊維を含む繊維プリフォームにスラリーを浸透させる。スラリー浸透の後、繊維プリフォームにケイ素を含む溶融物を浸透させ、次いで溶融物を冷却することによって、セラミックマトリックス複合材料が形成される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分及び環境への抵抗性を呈するセラミックマトリックス複合材料を作製する方法であって、
窒化ホウ素を含む拡散バリア層を炭化ケイ素繊維上に堆積させるステップ、
ケイ素ドープ窒化ホウ素を含む耐湿層を拡散バリア層上に堆積させるステップであり、耐湿層の厚さが、拡散バリア層の厚さの約3~約300倍であり、これによって、耐湿層及び拡散バリア層を含むコンプライアント多層を形成する、ステップ、
炭化ケイ素、炭化ホウ素及び/又は熱分解炭素を含む湿潤層を、コンプライアント多層層上に堆積させるステップ、
湿潤層を堆積させるステップの後、炭化ケイ素繊維を含む繊維プリフォームにスラリーを浸透させるステップ、並びに
スラリーの浸透の後、繊維プリフォームにケイ素を含む溶融物を浸透させ、次いで溶融物を冷却することによって、セラミックマトリックス複合材料を形成するステップ
を含む方法。
【請求項2】
耐湿層の厚さが拡散バリア層の厚さの約10~100倍である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
拡散バリア層の厚さが約0.01ミクロン~約0.10ミクロンの範囲内である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
耐湿層の厚さが約0.4ミクロン~約3ミクロンの範囲内である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
耐湿層が約2at.%~約30at.%の濃度においてケイ素を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
拡散バリア層が窒化ホウ素の結晶相を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
結晶相が六方晶相を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
コンプライアント多層を大気湿度に曝露するステップ、及び
コンプライアント多層を約900℃~約1150℃の範囲内の温度において熱処理することによって、結晶相を形成するステップ
をさらに含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
拡散バリア層を堆積させるステップが、炭化ケイ素繊維を、約700℃~約875℃の範囲内の温度において、
N2及びH2から選択されるキャリアガスのフロー、
窒素含有ガスのフロー並びに
ホウ素含有ガスのフロー
を含むガス雰囲気に曝露することを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
キャリアガスがH2を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
窒素含有ガスがアンモニアを含む、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
ホウ素含有ガスが三塩化ホウ素を含む、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
拡散バリア層を堆積させるステップの後、ケイ素含有ガスのフローをガス雰囲気に導入して、拡散バリア層上に耐湿層を堆積させるステップをさらに含む、請求項9から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ケイ素含有ガスが、メチルトリクロロシラン(CH3SiCl3)、トリクロロシラン(HSiCl3)、ジクロロシラン(H2SiCl2)、四塩化ケイ素(SiCl4)及びシラン(SiH4)からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
拡散バリア層を約1時間~約10時間の持続時間にわたって堆積させる、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
水分含有層を約10時間~約70時間の持続時間にわたって堆積させる、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
湿潤層を堆積させるステップの前に、溶融ケイ素に対して大きい接触角を有するバリア層を、コンプライアント多層上に堆積させるステップをさらに含む、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
バリア層が炭窒化ケイ素又は窒化ケイ素を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
炭化ケイ素繊維を拡散バリア層でコーティングする前に、炭化ケイ素繊維を含む繊維プリフォームを形成するステップをさらに含む、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
セラミックマトリックス複合材料を製造するための繊維プリフォームであって、繊維プリフォームが、
複数の機能層でコーティングされた炭化ケイ素繊維を含み、機能層が、
炭化ケイ素繊維上に堆積した、窒化ホウ素を含む拡散バリア層、
拡散バリア層上に堆積した、ケイ素ドープ窒化ホウ素を含む耐湿層であり、耐湿層の厚さが拡散バリア層の厚さの約3~約300倍であり、耐湿層及び拡散バリア層が一緒にコンプライアント多層を画定する、耐湿層、並びに
コンプライアント多層層上に堆積した、炭化ケイ素、炭化ホウ素及び/又は熱分解炭素を含む湿潤層
を含む、繊維プリフォーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に、セラミックマトリックス複合材料(CMC)の製造、より詳細には、良好な水分及び環境への抵抗性並びに好ましい機械的特性を有するCMCを製造することに関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックマトリックス複合材料は、セラミックマトリックスに埋封されたセラミック繊維を含み、この複合材料は、低重量と共に優れた熱及び機械的特性が要求される産業用途、例えばガスタービンエンジンのための有望な候補とする特性の組合せを呈する。炭化ケイ素繊維によって強化された炭化ケイ素マトリックスを含むセラミックマトリックス複合材料は、炭化ケイ素/炭化ケイ素複合材料又はSiC/SiC複合材料と呼ばれることもある。SiC/SiC複合材料の製造は、炭化ケイ素繊維プリフォームを緻密化するためのスラリー浸透及び溶融浸透ステップを含み得る。これらの浸透ステップの前に、炭化ケイ素プリフォームを構成する繊維は、繊維を保護するため及び/又は最終的な緻密化複合材料の性能を改善するために、1種以上の材料でコーティングされ得る。
【発明の概要】
【0003】
以下の図及び記載を参照することによって、実施形態がよりよく理解され得る。図面中の構成要素は、必ずしも縮尺通りではない。この他、図面において、同様の参照数字は、異なる図の全体を通じて、対応する部分を示す。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1】機能層でコーティングされた炭化ケイ素繊維の部位の断面図を示す高解像度透過型電子顕微鏡(TEM)画像である。スケールバーは500nmである。
図2】元素(例えばB、C、N、Si)プロファイルを示す電子エネルギー損失分光法(EELS)のラインスキャンを示す図である。元素のat.%が、深さ又は距離(ナノメートル)に対してプロットされている。
図3】この方法の例示的なステップを示すフローチャートである。
図4】異なるドーピングレベルにおいて、SiBNでコーティングされた繊維プリフォーム供試体の水分曝露試験の結果を示すデータプロットを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0005】
材料性能の損失を伴わずに、水分及び環境への改善された抵抗性を呈し得るセラミックマトリックス複合材料(CMC)を作製する方法を記載する。この方法は、各々が特定の機能を有する一連のコーティング又は層を、最終的なCMCにおいて強化材としての役割を果たす炭化ケイ素繊維上に制御可能に堆積させるステップを含む。特に、耐湿層を拡散バリア層上に堆積させて、下にある炭化ケイ素繊維を使用時の環境劣化から保護する、コンプライアント多層(compliant multilayer)を形成する。これらの層が適用された後、炭化ケイ素繊維を含む繊維プリフォームはスラリー浸透され、次いで溶融浸透されて、最終的なCMCを形成し得る。
【0006】
図1は、一連の機能層又はコーティングを含む例示的な炭化ケイ素繊維の断面を示す高解像度透過型電子顕微鏡(TEM)画像であり、図3はこの方法のフローチャートを提供する。図1及び3を参照して、この方法は、窒化ホウ素を含む拡散バリア層104を、「炭化ケイ素繊維」と呼ばれることもある1種以上の炭化ケイ素繊維102上に堆積させること130を必然的に伴う。拡散バリア層104は、最終的なCMCにおける弱い繊維-マトリックス界面を確保し、マトリックス亀裂の偏りを促進することに役立ち、それによって破壊靭性を改善し得る。次に、ケイ素ドープ窒化ホウ素を含む耐湿層106を拡散バリア層104上に堆積させて132、これによって、耐湿層106及び拡散バリア層104を含むコンプライアント多層108が形成される。拡散バリア層は、後続の熱処理時であろうと使用時であろうと、炭化ケイ素繊維102及び耐湿層106が相互拡散して強い結合を形成することを防止し得る。拡散バリア層104は厚さがナノスケールであり得るが、典型的には厚さは約100nm超ではなく、これを超える厚さにおいては、拡散バリア層104は、炭化ケイ素/炭化ケイ素複合材料における厚い窒化ホウ素コーティングで時折観察される水分不安定性を示すことがある。耐湿層106は、拡散バリア層104の厚さの約3~約300倍の厚さを有し得る。炭化ケイ素、炭化ホウ素(例えばBxC、式中、0≦x≦4)及び/又は熱分解炭素を含む湿潤層110を、コンプライアント多層層(compliant multilayer layer)108上に堆積させる134。いくつかの例では、下でさらに論じるように、湿潤層110を堆積させる前に、溶融ケイ素による湿潤に抵抗するように設計されたバリア層を耐湿層106上に堆積させてもよい。湿潤層110を堆積させた後、炭化ケイ素繊維102を含む繊維プリフォームに、分散媒中にセラミック(例えば炭化ケイ素)粒子を含んでもよいスラリーを浸透させる136。スラリー浸透に続いて、繊維プリフォームにケイ素を含む溶融物を浸透させ138、溶融物が冷却されると、炭化ケイ素を含むセラミックマトリックス中に炭化ケイ素繊維を含む緻密CMCが形成され得る。
【0007】
ケイ素ドープ窒化ホウ素を含む耐湿層106が加わると、使用時にCMCの環境抵抗性が増強し得るだけでなく、下にある拡散バリア層104及び炭化ケイ素繊維102を、溶融浸透時のケイ素の攻撃から保護することにも役立ち得る。上に示したように、耐湿層106の厚さは、拡散バリア層104の厚さよりも3~300倍大きく、この厚さはまた、拡散バリア層104の厚さの5~100倍であってもよい。例えば、耐湿層106の厚さは、約0.4~約3ミクロン又は約1.5ミクロン~約3ミクロンの範囲内にあってもよく、一方、拡散バリア層104の厚さは、約0.01ミクロン~約0.10ミクロン又は約0.05ミクロン~約0.10ミクロンの範囲内にあってもよい。この範囲の上端(例えば約0.05ミクロン(50nm)以上)における厚さを有する拡散バリア層は、破壊靭性及び破壊ひずみの上昇に関連付けることができる。ケイ素ドープ窒化ホウ素中のケイ素の濃度は、約2at.%~約30at.%の範囲内にあってもよい。
【0008】
「機能層」と呼ばれることもある、炭化ケイ素繊維102上に堆積させた層の各々を、堆積の順に下に記載する。炭化ケイ素繊維102上への機能層の堆積は、化学気相浸透(CVI)法を使用して行ってもよいことに留意されたい。一般に言って、CVIには、コーティングする1つ以上の多孔質供試体を含有する炉又は反応室に、高温のガス状試薬を流すことが必然的に伴う。1つ以上の多孔質供試体は、任意の配列の炭化ケイ素繊維102(下で論じるように、例えば、繊維プリフォーム及び/又は繊維トウ)を含んでよく、隣接する炭化ケイ素繊維102の間の隙間は、細孔を構成するものとして理解してもよい。CVI中に、ガス状試薬が多孔質供試体(例えば、繊維プリフォーム及び/又は繊維トウ)に浸透し、化学的に反応して、炭化ケイ素繊維102の露出表面に堆積物、コーティング又は層を形成し得る。堆積中、多孔質供試体は、器具を用いなくてもよく、器具によって固定してもよい。好適な器具は、ガス状試薬の流路のための貫通孔を含んでもよく、化学的に不活性且つ/又は耐火性である材料、例えば、堆積を行う高温において安定な、グラファイト又は炭化ケイ素で形成され得る。器具における貫通孔は、CVI中にガス状反応物が多孔質供試体に十分に流れ込むことができるサイズの直径又は幅を有し得る。器具は、所望の配置において多孔質供試体を固定するため、及びコーティングの堆積後に容易に除去するために好適な、シングルピース又はマルチピースの構造を有し得る。
【0009】
窒化ホウ素を含む拡散バリア層104を堆積させるために、炭化ケイ素繊維102を、約700℃~約875℃の範囲内の温度における、窒素含有ガス、例えばアンモニアのフロー及びホウ素含有ガス、例えば三塩化ホウ素のフローを含むガス雰囲気に曝露してもよい。ガス雰囲気は、実質的に不活性なキャリアガス、例えばN2又はH2のフローをさらに含んでもよい。一例では、拡散バリア層104は、窒化ホウ素の結晶(六方晶)相を含んでもよく、非晶質又は乱層窒化ホウ素は、高温の水分及び/又は酸素への曝露時により分解しやすいため、結晶相が好ましい。窒化ホウ素の結晶性は、大気湿度への曝露及び連続層のCVI中に任意選択で行ってもよい下に記載する熱処理によって、促進又は確保され得る。拡散バリア層104の堆積は、1~10時間の持続時間にわたって行われ得る。
【0010】
次のステップでは、水分及び環境への抵抗性を増強するため、ケイ素ドープ窒化ホウ素を含む耐湿層106を、拡散バリア層104上に堆積させる。これには、上に記載したように、実質的に不活性なキャリアガス、例えばN2又はH2と共に窒素含有ガス及びホウ素含有ガスのフローを含んでもよい、下にある拡散バリア層104を形成するために使用するガス雰囲気に、ケイ素含有ガスを組み込むことが必然的に伴い得る。特に、キャリアガスとしてN2の代わりにH2を使用することで、ケイ素ドープ窒化ホウ素の堆積速度が50%上昇し得ることが見出されており、したがって、H2が好ましい。好適なケイ素含有ガスとしては、メチルトリクロロシラン(CH3SiCl3)、トリクロロシラン(HSiCl3)、ジクロロシラン(H2SiCl2)、四塩化ケイ素(SiCl4)及び/又はシラン(SiH4)を挙げることができる。典型的には、ケイ素ドープ窒化ホウ素のCVIは、約700℃~約875℃の範囲内の温度において行われる。耐湿層106の堆積は、10~70時間の持続時間にわたって行われ得る。
【0011】
コンプライアント剥離層としての役割を果たすことに加えて、拡散バリア層104は、炭化ケイ素繊維102及び耐湿層106における炭化ケイ素繊維及び/又は残留炭素(サイジング)チャー(char)の炭素濃縮/非化学量論の間の拡散バリアとしても機能し得る。上述したように、拡散バリア層104の結晶性を促進するために(例えば、六方晶窒化ホウ素相の形成)、この方法は、拡散バリア層104及び/又はコンプライアント多層108を大気湿度に曝露するステップ、並びに次いで、拡散バリア層104及び/又はコンプライアント多層108を約900℃~約1150℃の範囲内の温度において、好ましくは不活性雰囲気において熱処理するステップをさらに含んでもよい。
【0012】
上に記載したように、湿潤層110の堆積の前に、溶融ケイ素に対して大きい接触角を有する任意選択のバリア層を、コンプライアント多層108上に堆積させてもよい。バリア層が効果的な化学的バリアとして役割を果たすためには、接触角は少なくとも約45°であることが好ましい。したがって、バリア層は窒化ケイ素又は炭窒化ケイ素(silicon nitrocarbide)、例えばSixNyCzを含んでもよく、これらはいずれも、溶融ケイ素に対して必要な接触角を呈し得る。一例では、0.1<x<0.697、0.3<y<0.6且つ0.003<z<0.33であり、すなわち、バリア層が、約0.3at.%~33at.%の濃度における炭素及び約30at.%~60at.%の濃度における窒素を含んでもよく、残りはケイ素及びいずれかの付随的な不純物である。炭窒化ケイ素は、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si3N4)及び/又は炭素(C)の混合物を含むものとして理解され得る。炭窒化ケイ素は非晶質である場合もあり、少なくとも部分的には、結晶化を抑制又は防止し得る炭素の存在に起因して、CVI処理時に非晶質のままであり得る。その結果、相当量の炭素を決して含まない非晶質窒化ケイ素に関係し得る問題である、バリア層の結晶化誘起収縮亀裂を、有益なことに回避することができる。バリア層が窒化ケイ素(例えばSi3N4)を含む場合、結晶質窒化ケイ素が好ましく、より詳細には亀裂がない結晶質窒化ケイ素が好ましい。バリア層は、約0.005ミクロン~約2ミクロンの範囲内、又はより好ましくは約0.3ミクロン~約1ミクロンの範囲内の厚さを有するように堆積させてもよい。
【0013】
バリア層がコンプライアント多層108及び湿潤層110の間に位置することで、CMCの製造及び特性の改善を生じ得る。以前の研究によって、溶融ケイ素は、炭化ケイ素の湿潤層又は硬質化層を通って拡散でき、下にある拡散バリア層及び/又は炭化ケイ素繊維を化学的に攻撃できることが示されている。ここで、バリア層を、硬質化層又は湿潤層110の前に堆積させてもよく、このように独特に配置して、湿潤層110に所望される湿潤性を犠牲にすることなく、ケイ素の攻撃に対する化学バリアを提供してもよい。
【0014】
コンプライアント多層108上へのバリア層の堆積は、ケイ素含有ガスのフロー及び窒素含有ガスのフローを含むガス雰囲気に、コンプライアント多層108を曝露することを含んでもよく、これには、ガス雰囲気へのホウ素含有ガスのフローを停止する一方で、上に記載した窒素及び/又はケイ素含有ガスを、約700℃~約1000℃の範囲内の温度において流し続けることが必然的に伴い得る。窒素及びケイ素含有ガスのフローを停止する前に、ホウ素含有ガスのフローを5~30分停止することが有益であり得る。窒化ケイ素の代わりに炭窒化ケイ素を含むバリア層を堆積させることが意図される場合、炭素含有ガスのフローがガス雰囲気に含まれてもよい。炭素含有ガスは、ケイ素含有ガス又は窒素含有ガスと同じであっても、異なってもよい。言い換えれば、ケイ素含有ガス又は窒素含有ガスが、炭素も含んでもよい。炭素を含むケイ素含有ガスの一例は、上述したメチルトリクロロシラン(CH3SiCl3)であり、これはMTSとしても知られる。個々に又は一括して反応性ガスと呼ばれることもある、ケイ素、窒素及び/又は炭素含有ガスに加えて、ガス雰囲気は、キャリアガスのフローをさらに含んでもよく、キャリアガスは、上に示したように、非反応性ガスであっても反応性ガスであってもよく、N2及びH2から選択され得る。
【0015】
任意選択のバリア層の堆積後、いくつかの場合には硬質化層としても機能し得る湿潤層110を堆積させてもよい。典型的には、湿潤層110は炭化ケイ素、炭化ホウ素及び/又は熱分解炭素を含む。堆積には、炭素をさらに含有するケイ素含有ガス又はホウ素含有ガス、例えば一例では、上述したMTSのフローを利用するCVIが必然的に伴い得る。湿潤層110のCVIの前に、キャリアガス(例えばH2又はN2)を除いたすべてのガスのフローを停止し、炉を冷却してもよい。典型的には、湿潤層110は、約0.5ミクロン~約10ミクロンの範囲内の厚さを有する。湿潤層110のCVIは、約1時間~約60時間、一般に約600℃~約1500℃の範囲内の温度において行われ得る。
【0016】
コーティングを受ける炭化ケイ素繊維102は、繊維トウ、一次元テープ、編み紐、プライ(ply)並びに/又は織布(例えば2D織物、3D織物及び/若しくは2.5D織物)に配列されてもよく、さらに、所定の形状、例えば翼形状(airfoil shape)を有する繊維プリフォームの一部であってもよい。繊維プリフォームは典型的には、レイアッププロセス(lay-up process)においてプライ、織布及び/又はテープから生成され、炭化ケイ素繊維又は繊維トウの三次元フレームワークとして記載され得る。典型的には、炭化ケイ素繊維102は、CVIの前に集合して繊維プリフォームとなる。
【0017】
機能層の堆積後、炭化ケイ素繊維はコーティングされた炭化ケイ素繊維と呼ばれることもあり、繊維プリフォームは硬質プリフォームと呼ばれることもある。機能層の堆積の後に、硬質プリフォームにマトリックス前駆体を含浸させるスラリー浸透が続いて、含浸繊維プリフォームと呼ばれ得るものを形成してもよい。好適なスラリーは、水性又は有機液体中に、セラミック粒子(例えば粒子状炭化ケイ素)及び/又は粒子状反応性元素(例えば溶融ケイ素若しくは溶融ケイ素合金に反応性の元素)、例えば炭素を含み得る。スラリーは、炭素樹脂、例えばフェノール性アルコール又はフルフリルアルコールをさらに含んでもよい。いくつかの場合、炭素樹脂は、スラリー浸透後の硬質プリフォームに別に浸透させてもよく、まったく使用しなくてもよい。炭素樹脂を用いる場合、1つ以上の追加のステップ、例えば硬化及び/又は熱分解を行って、樹脂を炭素に変換してもよい。典型的には、含浸繊維プリフォームは、セラミック粒子及び粒子状反応性元素を含めた充填レベル(loading level)の粒子状物質を約40体積%~約60体積%含み、残りは孔である。この方法は、繊維プリフォームに溶融材料(例えば溶融ケイ素又は溶融ケイ素合金)を浸透させ、続いて冷却して緻密セラミックマトリックス複合材料を形成するステップをさらに含んでもよい。バリアコーティングの存在に起因して、炭化ケイ素繊維及び拡散バリア層(又はコンプライアント多層)は、溶融ケイ素による攻撃から保護され得る。
【0018】
溶融浸透中に、硬質及び/又は含浸繊維プリフォームに浸透する溶融材料は、ケイ素から本質的になってもよく(例えば元素状ケイ素及びいずれかの付随的な不純物)、又はケイ素リッチ合金を含んでもよい。溶融浸透は、浸透させるケイ素又はケイ素合金の溶融温度以上の温度において行うことができる。したがって、溶融浸透のための温度は、典型的には約1380℃~約1700℃の範囲内である。一例では、約800℃の中間温度から約1380℃超の温度までの傾斜速度は、約10℃/分未満であってもよい。溶融浸透のための好適な持続時間は、部分的には形成されるセラミックマトリックス複合材料のサイズ及び複雑さに応じて、15分~4時間であり得る。セラミックマトリックスは、セラミック粒子、並びに繊維プリフォームにおいて、溶融材料と任意の他の粒子(例えば炭素粒子、耐熱金属粒子)との間の反応から生じるセラミック反応生成物から形成される。好ましくは、最終的なセラミックマトリックス複合材料は、独立孔を実質的に欠いている。いくつかの場合、セラミックマトリックス複合材料は、ガスタービンエンジン部品、例えばブレード又はベーン(vane)の一部又はすべてを形成し得る。
【実施例0019】
5HS Hi-Nicalon Type S布を、6.5インチ×7インチ×0.200インチパネルのプリフォームとし、拡散孔を有するグラファイト器具に入れ、炉に装填する。排出後、パネル/繊維プリフォームの熱処理のために5分~1時間、炉を1000℃に加熱する。次いで、炉の温度を750~850℃に冷却し、N2、BCl3及びNH3のフローを3時間導入して、プリフォームの炭化ケイ素繊維上に窒化ホウ素を含む拡散バリア層を適用する。次に、ガス雰囲気にMTSのフローを25~40時間加え、ケイ素ドープ窒化ホウ素を含む耐湿層を拡散バリア層上に堆積させて、コンプライアント多層を形成する。次のステップでは、BCl3を15分遮断する一方、MTS、NH3及びN2のフローを継続して、炭窒化ケイ素バリア層を形成する。最後に、N2を除いたすべてのガスのフローを停止し、炉を冷却する。続いて、SiC層を堆積させて、硬質化又は湿潤層を形成する。プリフォームにSiC含有スラリーをスラリー浸透させた後、ケイ素又はケイ素合金を溶融浸透させて、SiC/SiC複合材料を形成してもよい。
【0020】
図2に示す元素プロファイルを提供する電子エネルギー損失分光法(EELS)のラインスキャンと共に、炭化ケイ素繊維上の機能コーティングのミクロ構造を、図1の透過型電子顕微鏡(TEM)画像によって示す。このデータによって、例示的なサンプルが、約11~12at.%のケイ素を含有するケイ素ドープ窒化ホウ素(「SiBN」)を含む耐湿層を含むことが判明する。SiBN層の厚さはおよそ0.65ミクロン(650nm)であり、BNを含む拡散バリア層の厚さはおよそ0.05ミクロン(50nm)である。
【0021】
図4は、異なるドーピングレベルにおける、SiBNでコーティングされた繊維プリフォーム供試体の水分曝露試験結果のデータプロットを示す。水分試験は、65℃及び95%相対湿度において実施した。プロットにおいて示されるように、加水分解由来の重量増加は、ケイ素ドーパントレベルが約3at.%超であることによって著しく減少する。
【0022】
公への表示の使用目的を明確にするため、及びこれによって公への表示を提供するために記すと、「<A>、<B>、…及び<N>のうちの少なくとも1つ」又は「<A>、<B>、…<N>のうちの少なくとも1つ若しくはその組合せ」又は「<A>、<B>、…及び/若しくは<N>」という語句は、出願人によって最も広い意味で定義され、出願人によって明白に反対の主張をされない限り、以前又は以後の他に示唆される定義のいずれにも取って代わり、A、B、…及びNを含む群から選択される1つ以上の要素を意味する。言い換えれば、この語句は、任意の1つの要素のみ又は他の要素のうちの1つ以上と組み合わせた1つの要素を含めた、要素A、B、…又はNのうちの1つ以上の任意の組合せを意味し、これは、組合せにおいて、列挙されていない追加の要素も含むことができる。別段の指示又は別段の文脈の示唆がない限り、ここで使用する場合、「a」又は「an」は「少なくとも1つ」又は「1つ以上」を意味する。
【0023】
様々な実施形態を記載してきたが、当業者には、多くのさらなる実施形態及び具体化が可能であることは明らかであろう。したがって、ここに記載した実施形態は例であり、唯一の可能な実施形態及び具体化ではない。
【0024】
本開示の主題事項はまた、特に、以下の態様に関し得る。
【0025】
第1の態様は、水分及び環境への抵抗性を呈するセラミックマトリックス複合材料を作製する方法に関する。この方法は、窒化ホウ素を含む拡散バリア層を炭化ケイ素繊維上に堆積させるステップ、ケイ素ドープ窒化ホウ素を含む耐湿層を拡散バリア層上に堆積させるステップであり、耐湿層の厚さが、拡散バリア層の厚さの約3~約300倍であり、これによって、耐湿層及び拡散バリア層を含むコンプライアント多層を形成する、ステップ、炭化ケイ素、炭化ホウ素及び/又は熱分解炭素を含む湿潤層を、コンプライアント多層層上に堆積させるステップ、湿潤層を堆積させるステップの後、炭化ケイ素繊維を含む繊維プリフォームにスラリーを浸透させるステップ、並びにスラリーの浸透の後、繊維プリフォームにケイ素を含む溶融物を浸透させ、次いで溶融物を冷却することによって、セラミックマトリックス複合材料を形成するステップを含む。
【0026】
第2の態様は、耐湿層の厚さが拡散バリア層の厚さの約10~100倍である、第1の態様の方法に関する。
【0027】
第3の態様は、拡散バリア層の厚さが約0.01ミクロン~約0.10ミクロンの範囲内である、第1又は第2の態様の方法に関する。
【0028】
第4の態様は、耐湿層の厚さが約0.4ミクロン~約3ミクロンの範囲内である、第1~第3の態様のいずれかの方法に関する。
【0029】
第5の態様は、耐湿層が約2at.%~約30at.%の濃度においてケイ素を含む、第1~第4の態様のいずれかの方法に関する。
【0030】
第6の態様は、拡散バリア層が窒化ホウ素の結晶相を含む、第1~第5の態様のいずれかの方法に関する。
【0031】
第7の態様は、結晶相が六方晶相を含む、第6の態様の方法に関する。
【0032】
第8の態様は、コンプライアント多層を大気湿度に曝露するステップ、及びコンプライアント多層を約900℃~約1150℃の範囲内の温度において熱処理することによって、結晶相を形成するステップをさらに含む、第6又は第7の態様の方法に関する。
【0033】
第9の態様は、拡散バリア層を堆積させるステップが、炭化ケイ素繊維を、約700℃~約875℃の範囲内の温度における、N2及びH2から選択されるキャリアガスのフロー、窒素含有ガスのフロー並びにホウ素含有ガスのフローを含むガス雰囲気に曝露することを含む、第1~第8の態様のいずれかの方法に関する。
【0034】
第10の態様は、キャリアガスがH2を含む、第9の態様の方法に関する。
【0035】
第11の態様は、窒素含有ガスがアンモニアを含む、第9又は第10の態様の方法に関する。
【0036】
第12の態様は、ホウ素含有ガスが三塩化ホウ素を含む、第9~第11の態様のいずれかの方法に関する。
【0037】
第13の態様は、拡散バリア層を堆積させるステップの後、ケイ素含有ガスのフローをガス雰囲気に導入して、拡散バリア層上に耐湿層を堆積させるステップをさらに含む、第9~第12の態様のいずれかの方法に関する。
【0038】
第14の態様は、ケイ素含有ガスが、メチルトリクロロシラン(CH3SiCl3)、トリクロロシラン(HSiCl3)、ジクロロシラン(H2SiCl2)、四塩化ケイ素(SiCl4)及びシラン(SiH4)からなる群から選択される、第13の態様の方法に関する。
【0039】
第15の態様は、拡散バリア層を約1時間~約10時間の持続時間にわたって堆積させる、第1~第14の態様のいずれかの方法に関する。
【0040】
第16の態様は、水分含有層(moisture-containing layer)を約10~約70時間の持続時間にわたって堆積させる、第1~第15の態様のいずれかの方法に関する。
【0041】
第17の態様は、湿潤層を堆積させるステップの前に、溶融ケイ素に対して大きい接触角を有するバリア層を、コンプライアント多層上に堆積させるステップをさらに含む、第1~第16の態様のいずれかの方法に関する。
【0042】
第18の態様は、バリア層が炭窒化ケイ素又は窒化ケイ素を含む、第17の態様の方法に関する。
【0043】
第19の態様は、複数の炭化ケイ素繊維を拡散バリア層でコーティングする前に、炭化ケイ素繊維を含む繊維プリフォームを形成するステップをさらに含む、第1~第18の態様のいずれかに関する。
【0044】
第20の態様は、セラミックマトリックス複合材料を製造するための繊維プリフォームであって、繊維プリフォームが、複数の機能層でコーティングされた炭化ケイ素繊維を含み、機能層が、炭化ケイ素繊維上に堆積した、窒化ホウ素を含む拡散バリア層、拡散バリア層上に堆積した、ケイ素ドープ窒化ホウ素を含む耐湿層であって、耐湿層の厚さが、拡散バリア層の厚さの約3~約300倍であり、耐湿層及び拡散バリア層が一緒にコンプライアント多層を画定する、耐湿層、並びにコンプライアント多層層上に堆積した、炭化ケイ素、炭化ホウ素及び/又は熱分解炭素を含む湿潤層を含む、繊維プリフォームに関する。
【0045】
上に列挙した独立した態様の各々において言及した特性に加えて、いくつかの例は、単独で又は組み合わせて、従属する態様において言及した、並びに/又は上の記載において開示した及び図面において示した、任意選択の特性を示し得る。
【符号の説明】
【0046】
102 炭化ケイ素繊維
104 拡散バリア層
106 耐湿層
108 コンプライアント多層
110 湿潤層
図1
図2
図3
図4
【外国語明細書】