(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036054
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】架渉線の点検装置、点検方法及び点検プログラム
(51)【国際特許分類】
G06T 7/00 20170101AFI20220225BHJP
H02G 1/02 20060101ALI20220225BHJP
H02G 7/00 20060101ALI20220225BHJP
G01N 21/88 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
G06T7/00 350C
G06T7/00 610B
H02G1/02
H02G7/00
G01N21/88 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021133884
(22)【出願日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2020139658
(32)【優先日】2020-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000144991
【氏名又は名称】株式会社四国総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】501049362
【氏名又は名称】株式会社システムインテグレータ
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【弁理士】
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】新居 浩治
(72)【発明者】
【氏名】桐生 剛至
(72)【発明者】
【氏名】太田 純
【テーマコード(参考)】
2G051
5G352
5G367
5L096
【Fターム(参考)】
2G051AA90
2G051AB20
2G051AC15
2G051CA04
2G051EB05
5G352AC02
5G352AM02
5G367BB13
5L096BA03
5L096CA02
5L096FA06
5L096GA51
5L096HA11
5L096JA03
5L096KA04
5L096KA15
5L096MA07
(57)【要約】
【課題】訓練済みモデルの生成にかかるコストを低減し、かつ比較的に精度よく架渉線を点検可能にする。
【解決手段】本発明の一側面に係る架渉線の点検装置は、対象画像に写る構造物は架渉線のみであるか架渉線以外の構造物も写っているかを分類し、架渉線以外の構造物も写っていると分類された場合に対象画像を処理対象から除外するのに対して、対象画像に写る構造物が架渉線のみであると分類された場合に対象画像において架渉線の写る領域を抽出し、機械学習により訓練済みの検査モデルを使用して、抽出された領域に写る架渉線に異常があるか否かを検査する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査の対象画像を取得する画像取得部と、
取得された前記対象画像に写る構造物は架渉線のみであるか架渉線以外の構造物も写っているかを分類する分類部と、
架渉線以外の構造物も写っていると分類された場合、目視検査の対象にするために前記対象画像を処理対象から除外するのに対して、前記対象画像に写る構造物が架渉線のみであると分類された場合、前記対象画像において架渉線の写る領域を抽出する領域抽出部と、
機械学習により訓練済みの検査モデルを使用して、抽出された領域に写る架渉線に異常があるか否かを検査する検査処理部と、
前記検査の結果に関する情報を出力する出力部と、
を備える、
架渉線の点検装置。
【請求項2】
前記訓練済みの検査モデルは、異常のない架渉線の写る学習画像を用いた機械学習により、架渉線の写る領域が抽出された画像を特徴ベクトルに変換するように訓練されており、
前記検査処理部は、
前記訓練済みの検査モデルを使用して、架渉線の写る領域が抽出された前記対象画像を第1特徴ベクトルに変換し、かつ
得られた前記第1特徴ベクトルに基づいて、前記対象画像の抽出された領域に写る架渉線に異常があるか否かを検査する、
ように構成される、
請求項1に記載の点検装置。
【請求項3】
前記第1特徴ベクトルに基づいて、前記対象画像の抽出された領域に写る架渉線に異常があるか否かを検査することは、
前記訓練済みの検査モデルを使用して、異常のない架渉線の写る学習画像を変換することで得られる第2特徴ベクトルのうち、前記第1特徴ベクトルに最も類似する第2特徴ベクトルを抽出すること、
抽出された最も類似する前記第2特徴ベクトルと前記第1特徴ベクトルとの間の類似度を算出すること、及び
算出された前記類似度と閾値とを比較することにより、前記対象画像の抽出された領域に写る架渉線に異常があるか否かを検査すること、
により構成される、
請求項2に記載の点検装置。
【請求項4】
前記検査処理部は、前記類似度を式1により算出するように構成される、
請求項3に記載の点検装置。
【数1】
なお、A
iは、第1特徴ベクトルの要素を示し、B
iは、第2特徴ベクトルの要素を示し、nは、特徴ベクトルの要素数を示す。
【請求項5】
前記閾値は、前記訓練済みの検査モデルを使用して、それぞれ異常のない架渉線の写る複数のサンプル画像を変換することで得られる複数の特徴ベクトルそれぞれに対して算出される、最も類似する前記第2特徴ベクトルとの間の類似度から推定される母集団分布を基準に与えられる、
請求項3又は4に記載の点検装置。
【請求項6】
前記検査処理部は、複数のグループの中から、前記対象画像に写る架渉線の属する対象グループを特定するように更に構成され、
前記閾値は、グループ毎に与えられ、
算出された前記類似度と閾値とを比較することは、算出された前記類似度と特定された前記対象グループに応じて与えられた閾値とを比較することにより構成される、
請求項3又は4に記載の点検装置。
【請求項7】
前記検査処理部は、複数のグループの中から、前記対象画像に写る架渉線の属する対象グループを特定するように更に構成され、
前記閾値は、前記訓練済みの検査モデルを使用して、それぞれ異常のない架渉線の写る複数のサンプル画像であって、各グループに応じて用意された複数のサンプル画像を変換することで得られる複数の特徴ベクトルそれぞれに対して算出される、最も類似する前記第2特徴ベクトルとの間の類似度から推定される母集団分布を基準にグループ毎に与えられ、
算出された前記類似度と閾値とを比較することは、算出された前記類似度と特定された前記対象グループに応じて与えられた閾値とを比較することにより構成される、
請求項3又は4に記載の点検装置。
【請求項8】
前記グループは、架渉線の種類、径間、表面状態及び撮影条件の少なくともいずれかに応じて与えられる、
請求項6又は7に記載の点検装置。
【請求項9】
前記第1特徴ベクトルに基づいて、前記対象画像の抽出された領域に写る架渉線に異常があるか否かを検査することは、
前記訓練済みの検査モデルを使用して、それぞれ異常のない架渉線の写る複数の評価画像を変換することで得られる複数の評価特徴ベクトルにより構成される評価分布と前記第1特徴ベクトルとの間の類似性に関するスコア値を算出すること、及び
算出された前記スコア値と閾値とを比較することにより、前記第1特徴ベクトルが前記評価分布に属するか否かを判定することで、前記対象画像の抽出された領域に写る架渉線に異常があるか否かを検査すること、
により構成される、
請求項2に記載の点検装置。
【請求項10】
前記閾値は、前記訓練済みの検査モデルを使用して、それぞれ異常のない架渉線の写る複数のサンプル画像を変換することで得られる複数の特徴ベクトルそれぞれに対して算出される、前記評価分布との間の類似性に関するスコア値から推定される母集団分布を基準に与えられる、
請求項9に記載の点検装置。
【請求項11】
前記検査処理部は、複数のグループの中から、前記対象画像に写る架渉線の属する対象グループを特定するように更に構成され、
前記閾値は、グループ毎に与えられ、
前記複数の評価画像がグループ毎に与えられることで、前記評価分布はグループ毎に得られ、
前記スコア値を算出することは、特定された前記対象グループに応じて得られる前記評価分布と前記第1特徴ベクトルとの間の類似性に関するスコア値を算出することにより構成され、
算出された前記スコア値と閾値とを比較することは、算出された前記スコア値と特定された前記対象グループに応じて与えられた閾値とを比較することにより構成される、
請求項9に記載の点検装置。
【請求項12】
前記検査処理部は、複数のグループの中から、前記対象画像に写る架渉線の属する対象グループを特定するように更に構成され、
前記複数の評価画像がグループ毎に与えられることで、前記評価分布はグループ毎に得られ、
前記閾値は、前記訓練済みの検査モデルを使用して、それぞれ異常のない架渉線の写る複数のサンプル画像であって、各グループに応じて用意された複数のサンプル画像を変換することで得られる複数の特徴ベクトルそれぞれに対して算出される、特定された前記対象グループに応じて得られる前記評価分布との間の類似性に関するスコア値から推定される母集団分布を基準にグループ毎に与えられ、
前記スコア値を算出することは、特定された前記対象グループに応じて得られる前記評価分布と前記第1特徴ベクトルとの間の類似性に関するスコア値を算出することにより構成され、
算出された前記スコア値と閾値とを比較することは、算出された前記スコア値と特定された前記対象グループに応じて与えられた閾値とを比較することにより構成される、
請求項9に記載の点検装置。
【請求項13】
前記グループは、架渉線の種類、径間、表面状態及び撮影条件の少なくともいずれかに応じて与えられる、
請求項11又は12に記載の点検装置。
【請求項14】
前記訓練済みの検査モデルは、ニューラルネットワークにより構成される、
請求項1から13のいずれか1項に記載の点検装置。
【請求項15】
前記分類部は、機械学習により訓練済みの分離モデルを使用して、取得された前記対象画像に写る構造物は架渉線のみであるか架渉線以外の構造物も写っているかを分類するように構成され、
前記領域抽出部は、前記対象画像に写る構造物が架渉線のみであると分類された場合、画像処理により、前記対象画像において架渉線の写る領域を抽出するように構成される、
請求項1から14のいずれか1項に記載の点検装置。
【請求項16】
前記訓練済みの分類モデルは、ニューラルネットワークにより構成される、
請求項15に記載の点検装置。
【請求項17】
前記画像処理は、エッジ抽出を含む、
請求項15又は16に記載の点検装置。
【請求項18】
前記分類部による分類及び前記領域抽出部による抽出は、機械学習により訓練済みのニューラルネットワークによって一体的に実行される、
請求項1から14のいずれか1項に記載の点検装置。
【請求項19】
前記架渉線以外の構造物は、支持物、支持物の基礎、がいし装置、架線金具、付属品及びジャンパの少なくともいずれかである、
請求項1から18のいずれか1項に記載の点検装置。
【請求項20】
コンピュータが、
検査の対象画像を取得するステップと、
取得された前記対象画像に写る構造物は架渉線のみであるか架渉線以外の構造物も写っているかを分類するステップと、
架渉線以外の構造物も写っていると分類された場合、目視検査の対象にするために前記対象画像を処理対象から除外するのに対して、前記対象画像に写る構造物が架渉線のみであると分類された場合、前記対象画像において架渉線の写る領域を抽出するステップと、
機械学習により訓練済みの検査モデルを使用して、抽出された領域に写る架渉線に異常があるか否かを検査するステップと、
前記検査の結果に関する情報を出力するステップと、
を実行する、
架渉線の点検方法。
【請求項21】
コンピュータに、
検査の対象画像を取得するステップと、
取得された前記対象画像に写る構造物は架渉線のみであるか架渉線以外の構造物も写っているかを分類するステップと、
架渉線以外の構造物も写っていると分類された場合、目視検査の対象にするために前記対象画像を処理対象から除外するのに対して、前記対象画像に写る構造物が架渉線のみであると分類された場合、前記対象画像において架渉線の写る領域を抽出するステップと、
機械学習により訓練済みの検査モデルを使用して、抽出された領域に写る架渉線に異常があるか否かを検査するステップと、
前記検査の結果に関する情報を出力するステップと、
を実行させるための、
架渉線の点検プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架渉線の点検装置、点検方法及び点検プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力線(送電線)、架空地線等の架渉線は雷撃等により異常(損傷)が生じている可能性がある。従来、架渉線の異常を発見するために、ヘリコプター等から架渉線を動画撮影し、得られた動画を目視により確認することで、架渉線の点検を行っていた。この方法によれば、架渉線の点検に極めて時間及び労力がかかってしまう。そこで、近年では、自動化により架渉線の点検にかかるコストを低減するために、人工知能を用いて、架渉線の点検を行う技術の開発が試みられている。
【0003】
非特許文献1には、2つの訓練済みモデルを用いて、架空送電線を画像診断するシステムが提案されている。具体的には、1つ目の訓練済みモデル(送電線検知AI)は、画像を分割することで得られる小画像内に送電線が存在するか否かを判別するように構成される。2つ目の訓練済みモデル(送電線異常診断AI)は、送電線が存在すると判別された小画像に対して送電線の異常度を計算するように構成される。このシステムによれば、ある程度の精度で架空送電線の異常を診断することができ、これによって、架空送電線の点検にかかるコストを低減することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】宮島拓郎ら、「AIを活用した架空送電線画像診断システムの開発」、平成30年電気学会電力・エネルギー部門大会、2018年9月、305
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本件発明者らは、従来の人工知能を用いた、架空地線等の架渉線の点検方法には次のような問題点があることを見出した。すなわち、訓練済みモデルの精度は、機械学習に使用した学習データに依存する。学習データに表れる事象が豊富である、換言すると、現実に起き得るあらゆる事象に対応した学習データが得られているほど、訓練済みモデルの判定精度は高くなる。しかしながら、そのような学習データを収集することは極めて困難である。特に、異常のない架渉線の学習画像は比較的に豊富に得られるのに対して、異常の発生は稀であるため、異常のある架渉線の学習画像を豊富に得るのは困難である。そのため、従来の方法では、コストを抑えた上で、精度よく架渉線を点検する人工知能システムを構築するには限界があった。
【0006】
本発明は、一側面では、このような事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、訓練済みモデルの生成にかかるコストを低減し、かつ比較的に精度よく架渉線を点検可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するために、以下の構成を採用する。
【0008】
すなわち、本発明の一側面に係る架渉線の点検装置は、検査の対象画像を取得する画像取得部と、取得された前記対象画像に写る構造物は架渉線のみであるか架渉線以外の構造物も写っているかを分類する分類部と、架渉線以外の構造物も写っていると分類された場合、目視検査の対象にするために前記対象画像を処理対象から除外するのに対して、前記対象画像に写る構造物が架渉線のみであると分類された場合、前記対象画像において架渉線の写る領域を抽出する領域抽出部と、機械学習により訓練済みの検査モデルを使用して、抽出された領域に写る架渉線に異常があるか否かを検査する検査処理部と、前記検査の結果に関する情報を出力する出力部と、を備える。
【0009】
本件発明者らは、従来の点検方法において、架渉線の写る画像をそのまま利用していることが、訓練済みモデルの精度に限界がある理由の一つであると考えた。すなわち、撮影画像には、架渉線に加えて、架渉線以外の構造物が背景として稀に写り得る。これにより、撮影画像に表れる事象の幅が広がってしまい、豊富な学習データを収集しなければ(つまり、その他構造物も様々な状態で写っている学習画像を得なければ)、訓練済みモデルの精度の向上を図るのが困難になってしまう。加えて、仮に、架渉線以外の構造物も写る学習画像を収集した際に、収集された学習画像に写る架渉線の状態が正常又は異常のいずれかに極端に偏っていたと想定する。この場合、機械学習において、モデルは、架渉線以外の構造物も写っていることを架渉線の状態と紐付けて判定するように訓練されてしまう可能性がある。一例として、殆どの学習画像において、その他構造物と共に写る架渉線の状態が正常である場合、訓練済みモデルは、その他構造物が写っていることを架渉線の状態が正常であると判断するといったように誤った材料で判断を下すように構築される可能性がある。本件発明者らは、これらが原因で、訓練済みモデルを使用した従来の点検方法には、精度の向上を図るのに限界があると考えた。
【0010】
そこで、当該構成では、対象画像に写る構造物は架渉線のみであるか架渉線以外の構造物も写っているかを分類し、架渉線以外の構造物も写っていると分類される場合は、目視検査の対象とするために対象画像を処理対象から除外する。これにより、訓練済みの検査モデルの処理対象を架渉線のみ写る対象画像に限定することができるため、機械学習において訓練することが望ましい事象の範囲(以下、「望ましい学習範囲」とも記載する)を絞ることができる。加えて、当該構成では、対象画像において架渉線の写る領域を抽出し、抽出された領域について、訓練済みの検査モデルを使用して、架渉線に異常があるか否かを検査する。処理対象が架渉線のみ写る画像に限定されているため、架渉線の写る領域を抽出することは容易である。また、訓練済みの検査モデルの処理対象を架渉線の写る領域に限定することで、架渉線以外の領域(例えば、空等の構造物以外の背景の写る領域)に表れる事象を考慮しなくても良いようになり、これにより、望ましい学習範囲を更に絞ることができる。したがって、当該構成によれば、機械学習に使用する学習画像が比較的に少なくても、精度の良い訓練済みの検査モデルを用意することができる。よって、訓練済みの検査モデルの生成にかかるコストを低減し、かつ比較的に精度よく架渉線を点検することができる。なお、架渉線は、例えば、架空地線、電力線、遮蔽線、通信線等の支持物に架設された電線類である。
【0011】
上記一側面に係る点検装置において、前記訓練済みの検査モデルは、異常のない架渉線の写る学習画像を用いた機械学習により、架渉線の写る領域が抽出された画像を特徴ベクトルに変換するように訓練されていてもよい。前記検査処理部は、前記訓練済みの検査モデルを使用して、架渉線の写る領域が抽出された前記対象画像を第1特徴ベクトルに変換し、かつ得られた前記第1特徴ベクトルに基づいて、前記対象画像の抽出された領域に写る架渉線に異常があるか否かを検査する、ように構成されてよい。上記のとおり、異常のある架渉線の学習画像を低コストで豊富に得るのは困難である。当該構成によれば、異常のある架渉線の学習画像をほぼ用いることなく、訓練済みの検査モデルを生成することができるため、訓練済みの検査モデルの生成にかかるコストを更に低減することができる。
【0012】
なお、異常のない架渉線の写る学習画像を用いて検査モデルの機械学習を行った場合、訓練済みの検査モデルは、異常のない架渉線の写る画像については適切に特徴ベクトルに変換可能であるのに対して、異常のある架渉線の写る画像については適切に特徴ベクトルに変換することができない。したがって、異常のある架渉線の写る画像から得られる特徴ベクトルは、異常のない架渉線の写る画像から得られる特徴ベクトルに対して外れた値になり得る。よって、当該構成において、対象画像から得られる第1特徴ベクトルに基づき、対象画像に写る架渉線に異常があるか否かを検査することは可能である。
【0013】
上記一側面に係る点検装置において、前記第1特徴ベクトルに基づいて、前記対象画像の抽出された領域に写る架渉線に異常があるか否かを検査することは、前記訓練済みの検査モデルを使用して、異常のない架渉線の写る学習画像を変換することで得られる第2特徴ベクトルのうち、前記第1特徴ベクトルに最も類似する第2特徴ベクトルを抽出すること、抽出された最も類似する前記第2特徴ベクトルと前記第1特徴ベクトルとの間の類似度を算出すること、及び算出された前記類似度と閾値とを比較することにより、前記対象画像の抽出された領域に写る架渉線に異常があるか否かを検査すること、により構成されてよい。2つの特徴ベクトル間の類似度を算出する方法は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい(例えば、既存の方法が採用されてよい)。一例として、上記一側面に係る点検装置において、前記検査処理部は、前記類似度を式1により算出するように構成されてよい。
【0014】
【数1】
なお、A
iは、第1特徴ベクトルの要素を示し、B
iは、第2特徴ベクトルの要素を示し、nは、特徴ベクトルの要素(次元)数を示す。後述の実験例に示されるとおり、当該各構成によれば、比較的に精度よく架渉線を点検することができる。
【0015】
上記一側面に係る点検装置において、前記閾値は、前記訓練済みの検査モデルを使用して、それぞれ異常のない架渉線の写る複数のサンプル画像を変換することで得られる複数の特徴ベクトルそれぞれに対して算出される、最も類似する前記第2特徴ベクトルとの間の類似度から推定される母集団分布を基準に与えられてよい。当該構成によれば、比較的に精度よく架渉線を点検することができる。
【0016】
上記一側面に係る点検装置において、前記検査処理部は、複数のグループの中から、前記対象画像に写る架渉線の属する対象グループを特定するように更に構成されてよい。前記閾値は、グループ毎に与えられてよい。算出された前記類似度と閾値とを比較することは、算出された前記類似度と特定された前記対象グループに応じて与えられた閾値とを比較することにより構成されてよい。当該構成によれば、比較的に精度よく架渉線を点検することができる。なお、前記グループは、架渉線の種類、径間、表面状態及び撮影条件の少なくともいずれかに応じて与えられてよい。
【0017】
上記一側面に係る点検装置において、前記検査処理部は、複数のグループの中から、前記対象画像に写る架渉線の属する対象グループを特定するように更に構成されてよい。前記閾値は、前記訓練済みの検査モデルを使用して、それぞれ異常のない架渉線の写る複数のサンプル画像であって、各グループに応じて用意された複数のサンプル画像を変換することで得られる複数の特徴ベクトルそれぞれに対して算出される、最も類似する前記第2特徴ベクトルとの間の類似度から推定される母集団分布を基準にグループ毎に与えられてよい。算出された前記類似度と閾値とを比較することは、算出された前記類似度と特定された前記対象グループに応じて与えられた閾値とを比較することにより構成されてよい。当該構成によれば、比較的に精度よく架渉線を点検することができる。なお、前記グループは、架渉線の種類、径間、表面状態及び撮影条件の少なくともいずれかに応じて与えられてよい。
【0018】
上記一側面に係る点検装置において、前記第1特徴ベクトルに基づいて、前記対象画像の抽出された領域に写る架渉線に異常があるか否かを検査することは、前記訓練済みの検査モデルを使用して、それぞれ異常のない架渉線の写る複数の評価画像を変換することで得られる複数の評価特徴ベクトルにより構成される評価分布と前記第1特徴ベクトルとの間の類似性に関するスコア値を算出すること、及び算出された前記スコア値と閾値とを比較することにより、前記第1特徴ベクトルが前記評価分布に属するか否かを判定することで、前記対象画像の抽出された領域に写る架渉線に異常があるか否かを検査すること、により構成されてよい。当該構成によれば、架渉線の点検を適切に遂行可能である。
【0019】
上記一側面に係る点検装置において、前記閾値は、前記訓練済みの検査モデルを使用して、それぞれ異常のない架渉線の写る複数のサンプル画像を変換することで得られる複数の特徴ベクトルそれぞれに対して算出される、前記評価分布との間の類似性に関するスコア値から推定される母集団分布を基準に与えられてよい。当該構成によれば、比較的に精度よく架渉線を点検することができる。
【0020】
上記一側面に係る点検装置において、前記検査処理部は、複数のグループの中から、前記対象画像に写る架渉線の属する対象グループを特定するように更に構成されてよい。前記閾値は、グループ毎に与えられてよい。前記複数の評価画像がグループ毎に与えられることで、前記評価分布はグループ毎に得られてよい。前記スコア値を算出することは、特定された前記対象グループに応じて得られる前記評価分布と前記第1特徴ベクトルとの間の類似性に関するスコア値を算出することにより構成されてよい。算出された前記スコア値と閾値とを比較することは、算出された前記スコア値と特定された前記対象グループに応じて与えられた閾値とを比較することにより構成されてよい。当該構成によれば、比較的に精度よく架渉線を点検することができる。なお、前記グループは、架渉線の種類、径間、表面状態及び撮影条件の少なくともいずれかに応じて与えられてよい。
。
【0021】
上記一側面に係る点検装置において、前記検査処理部は、複数のグループの中から、前記対象画像に写る架渉線の属する対象グループを特定するように更に構成されてよい。前記複数の評価画像がグループ毎に与えられることで、前記評価分布はグループ毎に得られてよい。前記閾値は、前記訓練済みの検査モデルを使用して、それぞれ異常のない架渉線の写る複数のサンプル画像であって、各グループに応じて用意された複数のサンプル画像を変換することで得られる複数の特徴ベクトルそれぞれに対して算出される、特定された前記対象グループに応じて得られる前記評価分布との間の類似性に関するスコア値から推定される母集団分布を基準にグループ毎に与えられてよい。前記スコア値を算出することは、特定された前記対象グループに応じて得られる前記評価分布と前記第1特徴ベクトルとの間の類似性に関するスコア値を算出することにより構成されてよい。算出された前記スコア値と閾値とを比較することは、算出された前記スコア値と特定された前記対象グループに応じて与えられた閾値とを比較することにより構成されてよい。当該構成によれば、比較的に精度よく架渉線を点検することができる。なお、前記グループは、架渉線の種類、径間、表面状態及び撮影条件の少なくともいずれかに応じて与えられてよい。
【0022】
上記一側面に係る点検装置において、前記訓練済みの検査モデルは、ニューラルネットワークにより構成されてよい。当該構成によれば、検査モデルを比較的に簡単に構築可能である。
【0023】
上記一側面に係る点検装置において、前記分類部は、機械学習により訓練済みの分離モデルを使用して、取得された前記対象画像に写る構造物は架渉線のみであるか架渉線以外の構造物も写っているかを分類するように構成されてよい。前記領域抽出部は、前記対象画像に写る構造物が架渉線のみであると分類された場合、画像処理により、前記対象画像において架渉線の写る領域を抽出するように構成されてよい。架渉線の状態を考慮しなければ、架渉線のみ写る学習画像、及び架渉線以外の構造物も写る学習画像は比較的に低コストで簡単に用意可能である。また、架渉線の領域を抽出する能力を更に分類モデルに獲得させる場合には、学習画像において架渉線の写る領域の真値を示す正解情報(ラベル)を用意しなければならないが、分類モデルに獲得させる能力を対象画像の分類能力に留める場合には、学習画像に与える正解情報は、架渉線のみが写っているか架渉線以外の構造物も写っているかを示すように構成すれば足りる。そのため、このような分類能力を獲得するための機械学習に使用する学習データは低コストで収集可能である。加えて、架渉線の写る領域を抽出する処理対象は架渉線のみ写る画像に限定されるため、例えば、エッジ抽出、パターンマッチング等の比較的に簡単な既存の画像処理により、架渉線の写る領域を精度よく抽出可能である。したがって、当該構成によれば、対象画像の分類に機械学習モデル(分類モデル)を利用し、架渉線の写る領域の抽出に画像処理を利用するようにすることで、点検装置の構築にかかるコストを低減し、かつ比較的に精度よく架渉線を点検することができる。
【0024】
上記一側面に係る点検装置において、前記訓練済みの分類モデルは、ニューラルネットワークにより構成されてよい。また、上記一側面に係る点検装置において、前記画像処理は、エッジ抽出を含むように構成されてよい。当該各構成によれば、比較的に簡単に点検装置を構築可能である。
【0025】
上記一側面に係る点検装置において、前記分類部による分類及び前記領域抽出部による抽出は、機械学習により訓練済みのニューラルネットワークによって一体的に実行されてよい。当該構成によれば、分類処理及び抽出処理の効率化を図ることができる。
【0026】
上記一側面に係る点検装置において、前記架渉線以外の構造物は、支持物(例えば、鉄塔等)、支持物の基礎、がいし装置、架線金具、付属品(例えば、ダンパー、スペーサ、接続管等)及びジャンパの少なくともいずれかであってよい。当該構成によれば、支持物、支持物の基礎、がいし装置、架線金具、付属品及びジャンパの少なくともいずれかが表れる事象を望ましい学習範囲から除外することができる。これにより、訓練済みの検査モデルの生成にかかるコストを低減し、かつ比較的に精度よく架渉線を点検することができる。
【0027】
上記各形態に係る点検装置の別の態様として、本発明の一側面は、以上の各構成要素の全部又はその一部を実現する情報処理方法であってもよいし、プログラムであってもよいし、このようなプログラムを記憶した、コンピュータその他装置、機械等が読み取り可能な記憶媒体であってもよい。ここで、コンピュータ等が読み取り可能な記憶媒体とは、プログラム等の情報を、電気的、磁気的、光学的、機械的、又は、化学的作用によって蓄積する媒体である。
【0028】
例えば、本発明の一側面に係る架空地点の点検方法は、コンピュータが、検査の対象画像を取得するステップと、取得された前記対象画像に写る構造物は架渉線のみであるか架渉線以外の構造物も写っているかを分類するステップと、架渉線以外の構造物も写っていると分類された場合、目視検査の対象にするために前記対象画像を処理対象から除外するのに対して、前記対象画像に写る構造物が架渉線のみであると分類された場合、前記対象画像において架渉線の写る領域を抽出するステップと、機械学習により訓練済みの検査モデルを使用して、抽出された領域に写る架渉線に異常があるか否かを検査するステップと、前記検査の結果に関する情報を出力するステップと、を実行する、情報処理方法である。
【0029】
また、例えば、本発明の一側面に係る架空地点の点検プログラムは、コンピュータに、検査の対象画像を取得するステップと、取得された前記対象画像に写る構造物は架渉線のみであるか架渉線以外の構造物も写っているかを分類するステップと、架渉線以外の構造物も写っていると分類された場合、目視検査の対象にするために前記対象画像を処理対象から除外するのに対して、前記対象画像に写る構造物が架渉線のみであると分類された場合、前記対象画像において架渉線の写る領域を抽出するステップと、機械学習により訓練済みの検査モデルを使用して、抽出された領域に写る架渉線に異常があるか否かを検査するステップと、前記検査の結果に関する情報を出力するステップと、を実行させるための、プログラムである。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、訓練済みモデルの生成にかかるコストを低減し、かつ比較的に精度よく架渉線を点検可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、本発明が適用される場面の一例を模式的に例示する。
【
図2】
図2は、実施の形態に係る点検装置のハードウェア構成の一例を模式的に例示する。
【
図3】
図3は、実施の形態に係るモデル生成装置のハードウェア構成の一例を模式的に例示する。
【
図4】
図4は、実施の形態に係る点検装置のソフトウェア構成の一例を模式的に例示する。
【
図5】
図5は、実施の形態に係るモデル生成装置のソフトウェア構成の一例を模式的に例示する。
【
図6A】
図6Aは、実施の形態に係るモデル生成装置による分類モデルの機械学習の過程の一例を模式的に例示する。
【
図6B】
図6Bは、実施の形態に係るモデル生成装置による検査モデルの機械学習の過程の一例を模式的に例示する。
【
図7】
図7は、実施の形態に係るモデル生成装置の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、実施の形態に係る点検装置の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。ただし、以下で説明する本実施形態は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。つまり、本発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。なお、本実施形態において登場するデータを自然言語により説明しているが、より具体的には、コンピュータが認識可能な疑似言語、コマンド、パラメータ、マシン語等で指定される。
【0033】
§1 適用例
図1は、本実施形態に係る点検システム100の適用場面の一例を模式的に例示する。
図1に示されるとおり、本実施形態に係る点検システム100は、点検装置1及びモデル生成装置2を備えている。
【0034】
本実施形態に係る点検装置1は、機械学習により生成された訓練済みの検査モデル6を使用して、架渉線の写る画像に基づいて当該架渉線の検査処理を実行するように構成されたコンピュータである。まず、点検装置1は、検査の対象画像121を取得する。次に、点検装置1は、取得された対象画像121に写る構造物が架渉線のみであるか架渉線以外の構造物も写っているかを分類する。対象画像121の分類方法は、特に限定されなくてよく、例えば、訓練済みモデルを使用する方法、既存の画像処理等の方法から実施の形態に応じて適宜選択されてよい。本実施形態では、点検装置1は、対象画像121を分類するのに、機械学習により生成された訓練済みの分類モデル5を使用する。架渉線は、例えば、架空地線、電力線、遮蔽線、通信線等の支持物に架設された電線類である。また、架渉線以外の構造物は、訓練済みモデルによる架渉線の検査処理に影響を与え得るものから適宜選択されてよい。一例として、架渉線以外の構造物は、支持物(例えば、鉄塔等)、支持物の基礎、がいし装置、架線金具、付属品(例えば、ダンパー、スペーサ、接続管等)及びジャンパの少なくともいずれかであってよい。ジャンパは、支持物に接触しないように架渉線を曲げている部分を指す。なお、架渉線以外の構造物として選択されていない対象物が対象画像121に写っている場合、その対象画像121は、架渉線のみ写っているものとして分類されてよい。
【0035】
対象画像121に架渉線以外の構造物も写っていると分類された場合、点検装置1は、目視検査の対象にするために対象画像121を処理対象から除外する。これに対して、対象画像121に写る構造物が架渉線のみであると分類された場合、点検装置1は、対象画像121を点検処理の対象と認定し、対象画像121において架渉線の写る領域を抽出する。続いて、点検装置1は、機械学習により訓練済みの検査モデル6を使用して、抽出された領域に写る架渉線に異常があるか否かを検査する。そして、点検装置1は、検査の結果に関する情報を出力する。
【0036】
一方、本実施形態に係るモデル生成装置2は、上記点検装置1で使用する訓練済みの分類モデル5及び訓練済みの検査モデル6の生成処理を実行するように構成されたコンピュータである。モデル生成装置2は、分類用学習データ30を取得する。そして、モデル生成装置2は、分類用学習データ30を使用して、分類モデル5の機械学習を実施する。これにより、モデル生成装置2は、訓練済みの分類モデル5を生成する。同様に、モデル生成装置2は、検査用学習データ35を取得する。そして、モデル生成装置2は、検査用学習データ35を使用して、検査モデル6の機械学習を実施する。これにより、モデル生成装置2は、訓練済みの検査モデル6を生成する。生成された訓練済みの分類モデル5及び訓練済みの検査モデル6は、任意のタイミングで点検装置1に提供されてよい。
【0037】
以上のとおり、本実施形態では、対象画像121に写る構造物が架渉線のみであるか架渉線以外の構造物も写っているかを分類し、架渉線以外の構造物も写っていると分類される場合は、目視検査の対象とするために対象画像121を処理対象から除外する。これにより、訓練済みの検査モデル6の処理対象を架渉線のみ写る対象画像121に限定することができるため、モデル生成装置2での機械学習における望ましい学習範囲を絞ることができる。加えて、本実施形態では、対象画像121において架渉線の写る領域を抽出し、抽出された領域について、訓練済みの検査モデル6を使用して、架渉線に異常があるか否かを検査する。このように訓練済みの検査モデル6の処理対象を架渉線の写る領域に限定することで、架渉線以外の領域に表れる事象を考慮しなくても良いようになり、これにより、モデル生成装置2での機械学習における望ましい学習範囲を更に絞ることができる。したがって、本実施形態によれば、モデル生成装置2において、機械学習に使用する検査用学習データ35に含まれる学習画像が比較的に少なくても、精度の良い訓練済みの検査モデル6を生成することができる。よって、モデル生成装置2において、訓練済みの検査モデル6の生成にかかるコストを低減することができ、かつ点検装置1において、比較的に精度よく架渉線を点検することができる。
【0038】
なお、
図1の例では、点検装置1及びモデル生成装置2は、ネットワークを介して互いに接続されている。ネットワークの種類は、例えば、インターネット、無線通信網、移動通信網、電話網、専用網等から適宜選択されてよい。ただし、点検装置1及びモデル生成装置2の間でデータをやりとりする方法は、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、点検装置1及びモデル生成装置2の間では、記憶媒体を利用して、データがやりとりされてよい。
【0039】
また、
図1の例では、点検装置1及びモデル生成装置2は、それぞれ別個のコンピュータにより構成されている。しかしながら、本実施形態に係る点検システム100の構成は、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜決定されてよい。例えば、点検装置1及びモデル生成装置2は一体のコンピュータであってもよい。また、例えば、点検装置1及びモデル生成装置2のうちの少なくとも一方は、複数台のコンピュータにより構成されてもよい。訓練済みの分類モデル5及び訓練済みの検査モデル6は、別々のコンピュータにより生成されてよい。
【0040】
§2 構成例
[ハードウェア構成]
<点検装置>
図2は、本実施形態に係る点検装置1のハードウェア構成の一例を模式的に例示する。
図2に示されるとおり、本実施形態に係る点検装置1は、制御部11、記憶部12、通信インタフェース13、入力装置14、出力装置15、及びドライブ16が電気的に接続されたコンピュータである。なお、
図2では、通信インタフェースを「通信I/F」と記載している。以降の図でも同様の表記を用いる。
【0041】
制御部11は、ハードウェアプロセッサの一例であるCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を含み、プログラム及び各種データに基づいて情報処理を実行するように構成される。記憶部12は、メモリの一例であり、例えば、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ等で構成される。本実施形態では、記憶部12は、点検プログラム81、分類学習結果データ221、検査学習結果データ225等の各種情報を記憶する。
【0042】
点検プログラム81は、架渉線の検査に関する後述の情報処理(
図8)を点検装置1に実行させるためのプログラムである。点検プログラム81は、当該情報処理の一連の命令を含む。分類学習結果データ221は、訓練済みの分類モデル5に関する情報を示す。検査学習結果データ225は、訓練済みの検査モデル6に関する情報を示す。詳細は後述する。
【0043】
通信インタフェース13は、例えば、有線LAN(Local Area Network)モジュール、無線LANモジュール等であり、ネットワークを介した有線又は無線通信を行うためのインタフェースである。点検装置1は、通信インタフェース13を利用して、他の情報処理装置(例えば、モデル生成装置2)との間で、ネットワークを介したデータ通信を実行することができる。
【0044】
入力装置14は、例えば、マウス、キーボード等の入力を行うための装置である。また、出力装置15は、例えば、ディスプレイ、スピーカ等の出力を行うための装置である。ユーザ等のオペレータは、入力装置14及び出力装置15を利用することで、点検装置1を操作することができる。
【0045】
ドライブ16は、例えば、CDドライブ、DVDドライブ等であり、記憶媒体91に記憶されたプログラム等の各種情報を読み込むためのドライブ装置である。記憶媒体91は、コンピュータその他装置、機械等が、記憶されたプログラム等の各種情報を読み取り可能なように、当該プログラム等の情報を、電気的、磁気的、光学的、機械的又は化学的作用によって蓄積する媒体である。上記点検プログラム81、分類学習結果データ221、及び検査学習結果データ225の少なくともいずれかは、記憶媒体91に記憶されていてもよい。点検装置1は、この記憶媒体91から、上記点検プログラム81、分類学習結果データ221、及び検査学習結果データ225の少なくともいずれかを取得してもよい。なお、
図2では、記憶媒体91の一例として、CD、DVD等のディスク型の記憶媒体を例示している。しかしながら、記憶媒体91の種類は、ディスク型に限られなくてもよく、ディスク型以外であってもよい。ディスク型以外の記憶媒体として、例えば、フラッシュメモリ等の半導体メモリを挙げることができる。ドライブ16の種類は、記憶媒体91の種類に応じて任意に選択されてよい。
【0046】
なお、点検装置1の具体的なハードウェア構成に関して、実施形態に応じて、適宜、構成要素の省略、置換及び追加が可能である。例えば、制御部11は、複数のハードウェアプロセッサを含んでもよい。ハードウェアプロセッサは、マイクロプロセッサ等で構成されてよい。記憶部12は、制御部11に含まれるRAM及びROMにより構成されてもよい。通信インタフェース13、入力装置14、出力装置15及びドライブ16の少なくともいずれかは省略されてもよい。点検装置1は、複数台のコンピュータで構成されてもよい。この場合、各コンピュータのハードウェア構成は、一致していてもよいし、一致していなくてもよい。また、点検装置1は、提供されるサービス専用に設計された情報処理装置の他、汎用のサーバ装置、汎用のPC(Personal Computer)、マイクロコンピュータ等であってよい。
【0047】
<モデル生成装置>
図3は、本実施形態に係るモデル生成装置2のハードウェア構成の一例を模式的に例示する。
図3に示されるとおり、本実施形態に係るモデル生成装置2は、制御部21、記憶部22、通信インタフェース23、入力装置24、出力装置25、及びドライブ26が電気的に接続されたコンピュータである。
【0048】
モデル生成装置2の制御部21~ドライブ26及び記憶媒体92はそれぞれ、上記点検装置1の制御部11~ドライブ16及び記憶媒体91それぞれと同様に構成されてよい。制御部21は、ハードウェアプロセッサの一例であるCPU、RAM、ROM等を含み、プログラム及びデータに基づいて各種情報処理を実行するように構成される。記憶部22は、例えば、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ等で構成される。本実施形態では、記憶部22は、機械学習プログラム82、分類用学習データ30、検査用学習データ35、分類学習結果データ221、検査学習結果データ225等の各種情報を記憶する。
【0049】
機械学習プログラム82は、訓練済みモデルの生成(モデルの機械学習)に関する後述の情報処理(
図7)をモデル生成装置2に実行させるためのプログラムである。機械学習プログラム82は、当該情報処理の一連の命令を含む。分類用学習データ30は、訓練済みの分類モデル5の生成に使用される。検査用学習データ35は、訓練済みの検査モデル6の生成に使用される。分類学習結果データ221及び検査学習結果データ225はそれぞれ、機械学習プログラム82を実行した結果として生成されてよい。機械学習プログラム82、分類用学習データ30及び検査用学習データ35の少なくともいずれかは、記憶媒体92に記憶されていてもよい。また、モデル生成装置2は、機械学習プログラム82、分類用学習データ30及び検査用学習データ35の少なくともいずれかを記憶媒体92から取得してもよい。
【0050】
なお、モデル生成装置2の具体的なハードウェア構成に関して、実施形態に応じて、適宜、構成要素の省略、置換及び追加が可能である。例えば、制御部21は、複数のハードウェアプロセッサを含んでもよい。ハードウェアプロセッサは、マイクロプロセッサ等で構成されてよい。記憶部22は、制御部21に含まれるRAM及びROMにより構成されてもよい。通信インタフェース23、入力装置24、出力装置25、及びドライブ26の少なくともいずれかは省略されてもよい。モデル生成装置2は、複数台のコンピュータで構成されてもよい。この場合、各コンピュータのハードウェア構成は、一致していてもよいし、一致していなくてもよい。また、モデル生成装置2は、提供されるサービス専用に設計された情報処理装置の他、汎用のサーバ装置、汎用のPC等であってもよい。
【0051】
[ソフトウェア構成]
<点検装置>
図4は、本実施形態に係る点検装置1のソフトウェア構成の一例を模式的に例示する。点検装置1の制御部11は、記憶部12に記憶された点検プログラム81をRAMに展開する。そして、制御部11は、RAMに展開された点検プログラム81に含まれる命令をCPUにより解釈及び実行して、各構成要素を制御する。これにより、
図4に示されるとおり、本実施形態に係る点検装置1は、画像取得部111、分類部112、領域抽出部113、検査処理部114、及び出力部115をソフトウェアモジュールとして備えるコンピュータとして動作する。
【0052】
画像取得部111は、検査の対象となる対象画像121を取得するように構成される。分類部112は、取得された対象画像121に写る構造物は架渉線のみであるか架渉線以外の構造物も写っているかを分類するように構成される。本実施形態では、分類部112は、分類学習結果データ221を保持していることで、機械学習により訓練済みの分類モデル5を備えている。分類部112は、訓練済みの分類モデル5を上記分類処理に使用するように構成される。
【0053】
架渉線以外の構造物も写っていると分類された場合、対象画像121は、目視検査の対象にするために処理対象から除外される。一方、対象画像121に写る構造物が架渉線のみであると分類された場合、対象画像121は、点検処理の対象である認定される。領域抽出部113は、当該対象画像121において架渉線の写る領域を抽出するように構成される。領域の抽出方法は、特に限定されなくてよく、例えば、訓練済みモデルを使用する方法、既存の画像処理等の方法から実施の形態に応じて適宜選択されてよい。本実施形態では、領域抽出部113は、画像処理により、架渉線の写る領域を抽出するように構成される。
【0054】
検査処理部114は、検査学習結果データ225を保持していることで、機械学習により訓練済みの検査モデル6を備えている。検査処理部114は、訓練済みの検査モデル6を使用して、抽出された領域に写る架渉線に異常があるか否かを検査するように構成される。本実施形態では、検査モデル6は、後述するとおり、異常のない架渉線の写る学習画像を用いた機械学習により、架渉線の写る領域が抽出された画像を特徴ベクトルに変換するように訓練されている。これに応じて、本実施形態では、検査処理部114は、訓練済みの検査モデル6を使用して、架渉線の写る領域が抽出された対象画像121を第1特徴ベクトルに変換し、かつ得られた第1特徴ベクトルに基づいて、対象画像121の抽出された領域に写る架渉線に異常があるか否かを検査する、ように構成される。出力部115は、検査の結果に関する情報を出力するように構成される。
【0055】
(機械学習モデル)
分類モデル5及び検査モデル6は、機械学習により調整可能な演算パラメータを有する機械学習モデルにより構成される。機械学習モデルの構成及び種類はそれぞれ、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
図4に示されるとおり、本実施形態では、分類モデル5及び検査モデル6はそれぞれ、ニューラルネットワークにより構成される。これにより、各モデル(5、6)を比較的に簡単に実装可能である。
【0056】
具体的な構成の一例として、各モデル(5、6)は、全結合型ニューラルネットワークにより構成されており、入力層(51、61)、1つ以上の中間(隠れ)層(52、62)、及び出力層(53、63)を備えている。中間層(52、62)の数は、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。或いは、中間層(52、62)は省略されてもよい。各モデル(5、6)の層の数は、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0057】
本実施形態では、分類モデル5の入力層51には、対象画像121等の画像が入力され、対象画像121を分類した結果が出力層53から出力される。検査モデル6の入力層61には、架渉線の写る領域を抽出した結果(例えば、架渉線以外の領域を一定値に変換することで得られた画像)が入力され、特徴ベクトルに変換した結果が出力層63から出力される。しかしながら、各推論処理を実行可能であれば、各モデル(5、6)の入出力の形式は、このような例に限定されなくてよい。例えば、各入力層(51、61)は、上記以外の他の情報が更に入力されるように構成されてよい。また、各出力層(53、63)は、上記以外の他の情報を更に出力するように構成されてよい。
【0058】
各層(51~53、61~63)は、1又は複数のニューロン(ノード)を備える。各層(51~53、61~63)に含まれるニューロンの数は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
図4の例では、各層(51~53、61~63)に含まれる各ニューロンは、隣接する層の全てのニューロンと結合される。ただし、各ニューロンの結合関係は、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜決定されてよい。例えば、各ニューロンは、隣接する層の特定のニューロンと接続されたり、隣接する層以外の層のニューロンと接続されたりしてもよい。
【0059】
各層(51~53、61~63)の各結合には、重み(結合荷重)が設定される。各ニューロンには閾値が設定されており、基本的には、各入力と各重みとの積の和が閾値を超えているか否かによって各ニューロンの出力が決定される。閾値は、活性化関数により表現されてもよい。この場合、各入力と各重みとの積の和を活性化関数に入力し、活性化関数の演算を実行することで、各ニューロンの出力が決定される。活性化関数の種類は任意に選択されてよい。各層(51~53、61~63)に含まれる各ニューロン間の結合の重み及び各ニューロンの閾値は、各モデル(5、6)の演算処理に利用される演算パラメータの一例である。
【0060】
分類部112は、訓練済みの分類モデル5の入力層51に対象画像121を入力し、訓練済みの分類モデル5の順伝播の演算処理を実行する(すなわち、各層51~53に含まれる各ニューロンの発火判定を入力側から順に実行する)ように構成される。分類部112は、この順伝播の演算処理の実行結果として、対象画像121を分類した結果を示す情報を出力層53から取得するように構成される。同様に、検査処理部114は、訓練済みの検査モデル6の入力層61に架渉線の写る領域を抽出した結果を入力し、訓練済みの検査モデル6の順伝播の演算処理を実行するように構成される。検査処理部114は、この順伝播の演算処理の実行結果として、架渉線の写る領域が抽出された対象画像121から導出された第1特徴ベクトルを出力層63より取得するように構成される。
【0061】
<モデル生成装置>
図5は、本実施形態に係るモデル生成装置2のソフトウェア構成の一例を模式的に例示する。モデル生成装置2の制御部21は、記憶部22に記憶された機械学習プログラム82をRAMに展開する。そして、制御部21は、RAMに展開された機械学習プログラム82に含まれる命令をCPUにより解釈及び実行して、各構成要素を制御する。これにより、本実施形態に係るモデル生成装置2は、データ取得部211、学習処理部212、及び保存処理部213をソフトウェアモジュールとして備えるコンピュータとして動作する。
【0062】
データ取得部211は、機械学習に使用するための学習データを取得するように構成される。学習処理部212は、取得された学習データを使用して、モデルの機械学習を実施するように構成される。保存処理部213は、機械学習の結果(すなわち、生成された訓練済みのモデル)に関する情報を学習結果データとして生成するように構成される。学習結果データは、訓練済みのモデルを再生するための情報を含むように適宜構成されてよい。そして、保存処理部213は、生成された学習結果データを所定の記憶領域に保存するように構成される。
【0063】
訓練済みの分類モデル5を生成する場面では、データ取得部211は、分類用学習データ30を取得する。学習処理部212は、分類用学習データ30を使用して、分類モデル5の機械学習を実施する。保存処理部213は、訓練済みの分類モデル5に関する情報を分類学習結果データ221として生成し、生成された分類学習結果データ221を所定の記憶領域に保存する。
【0064】
一方、訓練済みの検査モデル6を生成する場面では、データ取得部211は、検査用学習データ35を取得する。学習処理部212は、検査用学習データ35を使用して、検査モデル6の機械学習を実施する。保存処理部213は、訓練済みの検査モデル6に関する情報を検査学習結果データ225として生成し、生成された検査学習結果データ225を所定の記憶領域に保存する。
【0065】
(分類モデルの機械学習)
図6Aは、本実施形態に係る分類モデル5の機械学習の過程の一例を模式的に例示する。データ取得部211により取得される分類用学習データ30は、画像を分類するタスクを遂行する能力を分類モデル5に獲得させるように適宜構成されてよい。
図6Aに示されるとおり、本実施形態では、分類用学習データ30は、複数件のデータセット31により構成される。各データセット31は、学習画像32及び正解情報33の組み合わせにより構成される。基本的に、分類用学習データ30に含まれる一部の学習画像32には、架渉線のみ写る画像が用いられ、他の一部の学習画像32には、架渉線に加えて、架渉線以外の構造物も写る画像が用いられる。架渉線が写っていないことを更に分類する場合には、更に他の一部の学習画像32として、架渉線が写っていない画像が用いられてよい。正解情報33は、対応する学習画像32に対する分類タスクの真値(正解)を示すように構成される。すなわち、架渉線のみ写る学習画像32には、架渉線のみ写ることを示すように構成された正解情報33が紐付けられ、架渉線以外の構造物も写る学習画像32には、架渉線以外の構造物も写ることを示すように構成された正解情報33が紐付けられる。正解情報33のデータ形式は適宜決定されてよい。なお、学習画像32は、訓練データ等と読み替えられてよく、正解情報は、ラベル、教師信号等と読み替えられてよい(検査用学習データ35も同様である)。
【0066】
分類モデル5の機械学習では、学習処理部212は、分類用学習データ30に含まれる各データセット31の学習画像32を入力層51に入力し、分類モデル5の順伝播の演算処理を実行する。この演算処理の結果、学習処理部212は、各学習画像32を分類した結果を出力層53から取得する。学習処理部212は、取得された分類結果及び対応する正解情報33により示される真値の間の誤差を算出する。学習処理部212は、各データセット31について、算出される誤差が小さくなるように、分類モデル5の各演算パラメータの値の調整を繰り返す。これにより、訓練済みの分類モデル5を生成することができる。
【0067】
保存処理部213は、上記機械学習により生成された訓練済みの分類モデル5を再生するための分類学習結果データ221を生成する。訓練済みの分類モデル5を再生可能であれば、分類学習結果データ221の構成は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜決定されてよい。例えば、分類学習結果データ221は、上記機械学習の調整により得られた分類モデル5の各演算パラメータの値を示す情報を含んでもよい。場合によって、分類学習結果データ221は、分類モデル5の構造を示す情報を更に含んでもよい。分類モデル5の構造は、例えば、ニューラルネットワークにおける入力層から出力層までの層の数、各層の種類、各層に含まれるニューロンの数、隣接する層のニューロン同士の結合関係等により特定されてよい(検査モデル6も同様である)。保存処理部213は、生成された分類学習結果データ221を所定の記憶領域に保存する。
【0068】
(検査モデルの機械学習)
図6Bは、本実施形態に係る検査モデル6の機械学習の過程の一例を模式的に例示する。データ取得部211により取得される検査用学習データ35は、架渉線が正常であるか否かを検査するタスクを遂行する能力を検査モデル6に獲得させるように適宜構成されてよい。本実施形態では、異常のない(すなわち、正常な)架渉線の写る画像を適切な特徴ベクトルに変換する能力を検査モデル6に獲得させるため、検査用学習データ35は、複数件の学習画像37により構成される。基本的に、各学習画像37には、異常のない架渉線が写り、その架渉線の領域が抽出された画像が用いられる。ただし、検査用学習データ35の構成は、このような例に限定されなくてよい。検査用学習データ35には、検査モデル6を使用した検査に支障がない程度に、異常のある架渉線の写る画像が学習画像37として含まれていてもよい。また、分類用学習データ30と同様に、各学習画像37には、例えば、架渉線の状態(正常であるか否か)の真値を示すように構成された正解情報が紐付けられてよく、これにより、検査用学習データ35は、複数件の学習データセットにより構成されてもよい。
【0069】
本実施形態では、学習処理部212は、架渉線の写る領域が抽出された画像に対して当該架渉線が正常であるか否かを判定するように、検査モデル6を入力側に含むニューラルネットワーク7を訓練することで、架渉線の写る領域が抽出された画像を特徴ベクトルに変換するように検査モデル6を訓練する。ニューラルネットワーク7は、検査モデル6の出力層63から出力側に1つ以上の層を追加することで構成される。各層は、上記各モデル(5、6)の各層(51~53、61~63)と同様に構成されてよい。1つ以上の層のうち最も出力側に配置される層がニューラルネットワーク7の出力層75である。追加する層(すなわち、検査モデル6を構成するためにニューラルネットワーク7から取り除く層)の数は、任意に決定されてよい。
【0070】
検査モデル6の機械学習では、学習処理部212は、検査用学習データ35に含まれる各学習画像37を入力層61に入力し、ニューラルネットワーク7の順伝播の演算処理を実行する。この演算処理の結果、学習処理部212は、架渉線の状態を判定した結果を出力層75から取得する。学習処理部212は、取得された判定結果及び正解情報の間の誤差を算出する。
図6Bは、異常のない架渉線が写る画像のみを学習画像37として使用する場面を想定している。この場合、学習処理部212は、出力層75から得られた判定結果と一定値(正常であることを示す値)との間の誤差を算出する。学習処理部212は、各学習画像37について、算出される誤差が小さくなるように、ニューラルネットワーク7の各演算パラメータの値の調整を繰り返す。これにより、訓練済みのニューラルネットワーク7を生成することができる。そして、この訓練済みのニューラルネットワーク7から出力側の1つ以上の層を取り除く(入力側の任意数の層を取り出す)ことで、訓練済みの検査モデル6を得ることができる。
【0071】
保存処理部213は、上記機械学習により生成された訓練済みの検査モデル6を再生するための検査学習結果データ225を生成する。訓練済みの検査モデル6を再生可能であれば、検査学習結果データ225の構成は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜決定されてよい。例えば、検査学習結果データ225は、上記機械学習の調整により得られた検査モデル6の各演算パラメータの値を示す情報を含んでもよい。場合によって、検査学習結果データ225は、検査モデル6の構造を示す情報を更に含んでもよい。保存処理部213は、生成された検査学習結果データ225を所定の記憶領域に保存する。
【0072】
<その他>
点検装置1及びモデル生成装置2の各ソフトウェアモジュールに関しては後述する動作例で詳細に説明する。なお、本実施形態では、点検装置1及びモデル生成装置2の各ソフトウェアモジュールがいずれも汎用のCPUによって実現される例について説明している。しかしながら、上記ソフトウェアモジュールの一部又は全部が、1又は複数の専用のプロセッサにより実現されてもよい。すなわち、上記各モジュールは、ハードウェアモジュールとして実現されてもよい。また、点検装置1及びモデル生成装置2それぞれのソフトウェア構成に関して、実施形態に応じて、適宜、ソフトウェアモジュールの省略、置換及び追加が行われてもよい。
【0073】
§3動作例
[モデル生成装置]
図7は、本実施形態に係るモデル生成装置2による各モデル(5、6)の機械学習に関する処理手順の一例を示すフローチャートである。ただし、以下のモデル生成装置2の処理手順は、一例に過ぎず、各ステップは可能な限り変更されてよい。また、以下のモデル生成装置2の処理手順について、実施の形態に応じて、適宜、ステップの省略、置換、及び追加が可能である。
【0074】
(A)分類モデルの機械学習
(ステップS501)
ステップS501では、制御部21は、データ取得部211として動作し、分類用学習データ30を取得する。
【0075】
本実施形態では、分類用学習データ30は、複数件のデータセット31により構成される。各データセット31は、適宜生成されてよい。一例として、ドローン、ヘリコプター等からカメラにより架渉線の存在する範囲を撮影し、必要に応じて画像処理することで、各学習画像32を生成してよい。続いて、生成された各学習画像32に対して、分類タスクの真値(正解)を示す情報を正解情報33として紐付ける。分類タスクの真値は、人手により得られてもよいし、或いは、分類器(例えば、訓練済みモデル、任意の画像処理等)により機械的に得られてもよい。これらの処理により、各データセット31を生成することができる。
【0076】
各データセット31は、コンピュータの動作により自動的に生成されてもよいし、或いは少なくとも部分的にオペレータの操作を含むことで手動的に生成されてもよい。また、各データセット31の生成は、モデル生成装置2により行われてもよいし、モデル生成装置2以外の他のコンピュータにより行われてもよい。各データセット31をモデル生成装置2が生成する場合、制御部21は、自動的に又はオペレータの操作により手動的に上記生成処理を実行することで、分類用学習データ30を取得する。一方、各データセット31を1又は複数の他のコンピュータが生成する場合、制御部21は、例えば、ネットワーク、記憶媒体92等を介して、分類用学習データ30を取得する。一部のデータセット31をモデル生成装置2が生成し、その他のデータセット31を1又は複数の他のコンピュータが生成してもよい。
【0077】
取得する分類用学習データ30を構成するデータセット31の件数は適宜決定されてよい。分類用学習データ30を取得すると、制御部21は、次のステップS502に処理を進める。
【0078】
(ステップS502)
ステップS502では、制御部21は、学習処理部212として動作し、分類用学習データ30を使用して、分類モデル5の機械学習を実施する。
【0079】
機械学習の処理の一例として、まず、制御部21は、機械学習の処理対象となる分類モデル5を構成するニューラルネットワークを用意する。ニューラルネットワークの構造、各ニューロン間の結合の重みの初期値、及び各ニューロンの閾値の初期値は、テンプレートにより与えられてもよいし、或いはオペレータの入力により与えられてもよい。また、再学習を行う場合、制御部21は、過去の機械学習により得られた学習結果データに基づいて、分類モデル5を用意してもよい。
【0080】
次に、制御部21は、各データセット31の学習画像32を訓練データ(入力データ)として使用し、正解情報33を正解データ(教師信号、ラベル)として使用して、分類モデル5の訓練処理を実行する。この訓練処理には、確率的勾配降下法、ミニバッチ勾配降下法等が用いられてよい。
【0081】
訓練処理の一例として、制御部21は、各データセット31の学習画像32を入力層51に入力し、分類モデル5の順伝播の演算処理を実行する。この演算処理の結果、制御部21は、各学習画像32を分類した結果に対応する出力値を分類モデル5の出力層53から取得する。制御部21は、各データセット31について、得られた出力値と対応する正解情報33により示される真値との間の誤差を算出する。誤差(損失)の算出には、損失関数が用いられてよい。誤差の計算に利用する損失関数の種類は、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0082】
次に、制御部21は、算出された誤差の勾配を算出する。制御部21は、誤差逆伝播法により、算出された誤差の勾配を用いて、分類モデル5の各演算パラメータの値の誤差を出力側から順に算出する。制御部21は、算出された各誤差に基づいて、分類モデル5の各演算パラメータの値を更新する。各演算パラメータの値を更新する程度は、学習率により調節されてよい。学習率は、オペレータの指定により与えられてもよいし、プログラム内の設定値として与えられてもよい。
【0083】
制御部21は、上記一連の更新処理により、分類用学習データ30の各データセット31について、算出される誤差の和が小さくなるように、分類モデル5の各演算パラメータの値を調整する。例えば、規定回数実行する、算出される誤差の和が閾値以下になる等の所定の条件を満たすまで、制御部21は、上記一連の更新処理による分類モデル5の各演算パラメータの値の調整を繰り返してもよい。
【0084】
この機械学習の結果、制御部21は、画像に写る構造物が架渉線のみであるか架渉線以外の構造物も写っているかを分類する能力を獲得した訓練済みの分類モデル5を生成することができる。分類モデル5の機械学習が完了すると、制御部21は、次のステップS503に処理を進める。
【0085】
(ステップS503)
ステップS503では、制御部21は、保存処理部213として動作し、生成された訓練済みの分類モデル5を示す分類学習結果データ221を生成する。上記のとおり、分類タスクの演算処理を実行するための情報を保持可能であれば、分類学習結果データ221の構成は適宜決定されてよい。一例として、制御部21は、分類モデル5の構造及び上記調整により得られた各演算パラメータの値を示す情報により構成された分類学習結果データ221を生成してよい。そして、制御部21は、生成された分類学習結果データ221を所定の記憶領域に保存する。
【0086】
所定の記憶領域は、例えば、制御部21内のRAM、記憶部22、外部記憶装置、記憶メディア又はこれらの組み合わせであってよい。記憶メディアは、例えば、CD、DVD等であってよく、制御部21は、ドライブ26を介して記憶メディアに分類学習結果データ221を格納してもよい。外部記憶装置は、例えば、NAS(Network Attached Storage)等のデータサーバであってよい。この場合、制御部21は、通信インタフェース23を利用して、ネットワークを介してデータサーバに分類学習結果データ221を格納してもよい。また、外部記憶装置は、例えば、外部インタフェース(不図示)を介してモデル生成装置2に接続された外付けの記憶装置であってもよい。
【0087】
分類学習結果データ221の保存が完了すると、制御部21は、本動作例に係る分類モデル5の機械学習に関する処理手順を終了する。
【0088】
(B)検査モデルの機械学習
(ステップS501)
ステップS501では、制御部21は、データ取得部211として動作し、検査用学習データ35を取得する。
【0089】
本実施形態では、検査用学習データ35は、複数件の学習画像37により構成される。各学習画像37は適宜生成されてよい。一例として、過去の画像検査(例えば、目視検査等)で得られた架渉線のみ写る画像であって、架渉線に異常がないと判定された画像を学習画像37として採用してよい。その他の一例として、架渉線のみ写るようにカメラで架渉線を撮影することで学習画像37を取得してもよい。各学習画像37において、架渉線の写る領域は適宜抽出されてよい。領域の抽出は、人手により行われてもよいし、或いは、抽出器(例えば、訓練済みモデル、任意の画像処理等)により機械的に行われてもよい。これにより、検査用学習データ35を構成する各学習画像37を生成することができる。なお、架渉線の写る領域を抽出することは、例えば、架渉線以外の領域の各画素値を一定値(例えば、0)に置き換えること、架渉線の写る領域を画像から切り出すこと等であってよい。また、この領域を抽出することには、架渉線が一定の方向を向くように画像を回転すること、画像サイズを一定に変換すること等の前処理が含まれてよい。
【0090】
上記各データセット31と同様に、各学習画像37は、コンピュータの動作により自動的に生成されてもよいし、或いは少なくとも部分的にオペレータの操作を含むことで手動的に生成されてもよい。また、各学習画像37の生成は、モデル生成装置2により行われてもよいし、モデル生成装置2以外の他のコンピュータにより行われてもよい。一部の学習画像37をモデル生成装置2が生成し、その他の学習画像37を1又は複数の他のコンピュータが生成してもよい。制御部21は、自動的に又はオペレータの操作により手動的に上記生成処理を実行することで、検査用学習データ35を取得してもよいし、或いは、例えば、ネットワーク、記憶媒体92等を介して、1又は複数の他のコンピュータから検査用学習データ35を取得してもよい。
【0091】
取得する検査用学習データ35を構成する学習画像37の件数は適宜決定されてよい。検査用学習データ35を取得すると、制御部21は、次のステップS502に処理を進める。
【0092】
(ステップS502)
ステップS502では、制御部21は、学習処理部212として動作し、検査用学習データ35を使用して、検査モデル6の機械学習を実施する。
【0093】
機械学習の処理の一例として、まず、制御部21は、機械学習の処理対象となる検査モデル6を構成するニューラルネットワークを用意する。上記のとおり、本実施形態では、制御部21は、検査モデル6を入力側に含むニューラルネットワーク7を用意する。ニューラルネットワーク7の構造、各ニューロン間の結合の重みの初期値、及び各ニューロンの閾値の初期値は、テンプレートにより与えられてもよいし、或いはオペレータの入力により与えられてもよい。また、再学習を行う場合、制御部21は、過去の機械学習により得られた学習結果データに基づいて、ニューラルネットワーク7を用意してもよい。
【0094】
次に、制御部21は、各学習画像37を訓練データ(入力データ)として使用して、ニューラルネットワーク7の訓練処理を実行する。この訓練処理には、分類モデル5と同様に、確率的勾配降下法、ミニバッチ勾配降下法等が用いられてよい。
【0095】
訓練処理の一例として、制御部21は、各学習画像37を入力層61に入力し、ニューラルネットワーク7の順伝播の演算処理を実行する。この演算処理の結果、制御部21は、架渉線が正常であるか否かを判定した結果に対応する出力値をニューラルネットワーク7の出力層75から取得する。制御部21は、各学習画像37について、得られた出力値と正解との間の誤差を算出する。異常のない架渉線が写る画像のみを学習画像37として使用する場合、制御部21は、得られた出力値と正常であることを示す所定値との間の誤差を算出してよい。誤差(損失)の算出には、損失関数が用いられてよい。誤差の計算に利用する損失関数の種類は、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0096】
次に、制御部21は、算出された誤差の勾配を算出する。制御部21は、誤差逆伝播法により、算出された誤差の勾配を用いて、ニューラルネットワーク7の各演算パラメータの値の誤差を出力側から順に算出する。制御部21は、算出された各誤差に基づいて、ニューラルネットワーク7の各演算パラメータの値を更新する。各演算パラメータの値を更新する程度は、学習率により調節されてよい。学習率は、オペレータの指定により与えられてもよいし、プログラム内の設定値として与えられてもよい。
【0097】
制御部21は、上記一連の更新処理により、検査用学習データ35の各学習画像37について、算出される誤差の和が小さくなるように、ニューラルネットワーク7の各演算パラメータの値を調整する。例えば、規定回数実行する、算出される誤差の和が閾値以下になる等の所定の条件を満たすまで、制御部21は、上記一連の更新処理によるニューラルネットワーク7の各演算パラメータの値の調整を繰り返してもよい。
【0098】
この機械学習の結果、制御部21は、検査用学習データ35の範囲で、抽出された領域に写る架渉線が正常であるか否かを判定する能力を獲得した訓練済みのニューラルネットワーク7を生成することができる。この生成過程で、ニューラルネットワーク7の中間層の演算パラメータは、このような検査タスクを遂行可能にする特徴ベクトルを出力するように調整される。つまり、ニューラルネットワーク7の入力側の一部は、このような検査タスクを遂行可能に、架渉線の写る領域が抽出された画像を特徴ベクトルに変換するように訓練される。よって、制御部21は、訓練済みのニューラルネットワーク7の入力側の一部を抽出する(出力側の一部を除外する)ことで、架渉線の写る領域が抽出された画像を特徴ベクトルに変換するように訓練済みの検査モデル6を取得することができる。検査モデル6の機械学習が完了すると、制御部21は、次のステップS503に処理を進める。
【0099】
(ステップS503)
ステップS503では、制御部21は、保存処理部213として動作し、生成された訓練済みの検査モデル6の検査学習結果データ225を生成する。上記のとおり、検査タスクの演算処理を実行するための情報を保持可能であれば、検査学習結果データ225の構成は適宜決定されてよい。一例として、制御部21は、検査モデル6の構造及び上記調整により得られた各演算パラメータの値を示す情報により構成された検査学習結果データ225を生成してよい。そして、制御部21は、生成された検査学習結果データ225を所定の記憶領域に保存する。
【0100】
上記分類学習結果データ221と同様に、所定の記憶領域は、例えば、制御部21内のRAM、記憶部22、外部記憶装置、記憶メディア又はこれらの組み合わせであってよい。検査学習結果データ225の保存先は、分類学習結果データ221と同じであってもよいし、或いは異なっていてもよい。
【0101】
検査学習結果データ225の保存が完了すると、制御部21は、本動作例に係る検査モデル6の機械学習に関する処理手順を終了する。
【0102】
(C)その他
なお、生成された分類学習結果データ221及び検査学習結果データ225は、任意のタイミングで点検装置1に提供されてよい。例えば、制御部21は、ステップS503の処理として又は当該処理とは別に、分類学習結果データ221及び検査学習結果データ225の少なくとも一方を点検装置1に転送してもよい。点検装置1は、これを受信することで、分類学習結果データ221及び検査学習結果データ225の少なくとも一方を取得してもよい。また、例えば、点検装置1は、通信インタフェース13を利用して、モデル生成装置2又はデータサーバにネットワークを介してアクセスすることで、分類学習結果データ221及び検査学習結果データ225の少なくとも一方を取得してもよい。また、例えば、点検装置1は、記憶媒体91を介して、分類学習結果データ221及び検査学習結果データ225の少なくとも一方を取得してもよい。また、例えば、分類学習結果データ221及び検査学習結果データ225の少なくとも一方は、点検装置1に予め組み込まれてもよい。
【0103】
更に、制御部21は、上記ステップS501~ステップS503の処理を定期又は不定期に繰り返すことで、分類学習結果データ221及び検査学習結果データ225の少なくとも一方を更新又は新たに生成してもよい。この繰り返しの際に、学習データの少なくとも一部の変更、修正、追加、削除等が適宜実行されてよい。そして、制御部21は、更新された又は新たに生成された分類学習結果データ221及び検査学習結果データ225の少なくとも一方を任意の方法で点検装置1に提供してもよい。これにより、点検装置1の保持する分類学習結果データ221及び検査学習結果データ225の少なくとも一方を更新してもよい。
【0104】
[点検装置]
図8は、本実施形態に係る点検装置1の処理手順の一例を示すフローチャートである。以下の点検装置1の処理手順は、架渉線の点検方法の一例である。ただし、以下の点検装置1の処理手順は、一例に過ぎず、各ステップは可能な限り変更されてよい。また、以下の点検装置1の処理手順について、実施の形態に応じて、適宜、ステップの省略、置換、及び追加が可能である。
【0105】
(ステップS101)
ステップS101では、制御部11は、画像取得部111として動作し、検査の対象画像121を取得する。対象画像121を取得する方法は、実施の形態に応じて適宜決定されてよい。一例として、ドローン、ヘリコプター等からカメラにより検査対象の架渉線を撮影してもよい。制御部11は、この撮影により得られた動画像から対象画像121を適宜取得してよい。対象画像121を取得すると、制御部11は、次のステップS102に処理を進める。
【0106】
(ステップS102)
ステップS102では、制御部11は、分類部112として動作し、分類学習結果データ221を参照して、訓練済みの分類モデル5を設定する。そして、制御部11は、訓練済みの分類モデル5を使用して、取得された対象画像121に写る構造物は架渉線のみであるか架渉線以外の構造物も写っているかを分類する。具体的に、制御部11は、訓練済みの分類モデル5の入力層51に対象画像121を入力し、訓練済みの分類モデル5の順伝播の演算処理を実行する。これにより、制御部11は、対象画像121を分類した結果を示す情報を出力層53から取得する。対象画像121の分類が完了すると、制御部11は、次のステップS103に処理を進める。
【0107】
(ステップS103)
ステップS103では、制御部11は、ステップS102の分類結果に応じて、処理の分岐先を決定する。架渉線に加えて、架渉線以外の構造物も対象画像121に写っていると分類された場合、制御部11は、目視検査の対象にするために以降のステップの処理対象から当該対象画像121を除外する。そして、制御部11は、本動作例に係る処理手順を終了する。一方、対象画像121に写る構造物が架渉線のみであると分類された場合、制御部11は、当該対象画像121を以降のステップの処理対象に認定し、次のステップS104に処理を進める。
【0108】
(ステップS104)
ステップS104では、制御部11は、領域抽出部113として動作し、対象画像121において架渉線の写る領域を抽出する。
【0109】
領域の抽出方法は、特に限定されなくてよく、例えば、訓練済みモデルを使用する方法、既存の画像処理等の方法から実施の形態に応じて適宜選択されてよい。上記ステップS102及びステップS103の処理により、ステップS104の処理対象は、架渉線のみ写る画像に限定されている。そのため、比較的に簡単な画像処理により、架渉線の写る領域を抽出可能である。そこで、本実施形態では、制御部11は、画像処理により、対象画像121における架渉線の写る領域を抽出する。画像処理は、例えば、パターンマッチング、エッジ抽出等により構成されてよい。一例として、制御部11は、エッジ抽出により架渉線の輪郭を検出し、輪郭を検出した結果に基づいて、架渉線の写る領域を抽出してよい。すなわち、架渉線の写る領域を抽出するための画像処理は、エッジ抽出を含むように構成されてよい。これにより、比較的に簡単に領域抽出部113を実装可能である。
【0110】
架渉線の写る領域の抽出が完了すると、制御部11は、次のステップS105に処理を進める。なお、本ステップS104において、架渉線の写る領域を抽出することは、例えば、架渉線以外の領域の各画素値を一定値(例えば、0)に置き換えること、架渉線の写る領域を画像から切り出すこと等であってよい。また、この領域を抽出することには、ハフ変換等により架渉線の傾きを検出すること、架渉線が一定の方向(例えば、水平)を向くように画像を回転すること、画像サイズを一定に変換すること等の前処理が含まれてよい。
【0111】
(ステップS105)
ステップS105では、制御部11は、検査処理部114として動作し、検査学習結果データ225を参照して、訓練済みの検査モデル6を設定する。そして、制御部11は、訓練済みの検査モデル6を使用して、抽出された領域に写る架渉線に異常があるか否かを検査する。
【0112】
本実施形態では、訓練済みの検査モデル6は、架渉線の写る領域が抽出された画像を特徴ベクトルに変換するように構成されている。制御部11は、訓練済みの検査モデル6を使用して、架渉線の写る領域が抽出された対象画像121を第1特徴ベクトルに変換する。すなわち、制御部11は、架渉線の写る領域が抽出された対象画像121を入力層61に入力し、訓練済みの検査モデル6の順伝播の演算処理を実行する。この演算処理の実行結果として、制御部11は、架渉線の写る領域が抽出された対象画像121から導出された第1特徴ベクトルを出力層63より取得する。制御部11は、得られた第1特徴ベクトルに基づいて、対象画像121の抽出された領域に写る架渉線に異常があるか否かを検査する。
【0113】
上記のとおり、検査モデル6の機械学習には、異常のない架渉線の写る学習画像37が用いられる。そのため、対象画像121に写る架渉線に異常がなければ(すなわち、正常であれば)、基本的には、訓練済みの検査モデル6は、学習画像37から導出される特徴ベクトルと同じような値の特徴ベクトルに対象画像121を変換する。一方、異常のある架渉線の写る画像に関しては学習が不十分である。そのため、対象画像121に写る架渉線に異常があれば、基本的には、訓練済みの検査モデル6は、学習画像37から導出される特徴ベクトルから離れた値の特徴ベクトルに対象画像121を変換する。したがって、例えば、k-近傍法等の方法により、訓練済みの検査モデル6により学習画像37から導出される第2特徴ベクトルと対象画像121から導出された第1特徴ベクトルとを比較することで、架渉線に異常があるか否かを検査することができる。或いは、例えば、1クラスサポートベクタマシン等の外れ値を検出する検出器を用いることで、架渉線に異常があるか否かを検査することができる。このような観点に基づく方法であれば、第1特徴ベクトルに基づき架渉線に異常があるか否かを検査する方法は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜決定されてよい。
【0114】
検査方法の一例として、制御部11は、訓練済みの検査モデル6を使用して、異常のない架渉線の写る学習画像37を変換することで得られる第2特徴ベクトルのうち、第1特徴ベクトルに最も類似する第2特徴ベクトルを抽出してよい。第2特徴ベクトルは予め計算されていてよく、点検装置1は、各学習画像37から導出される第2特徴ベクトルを記憶部12、記憶媒体91、外部記憶装置等から適宜取得してよい。続いて、制御部11は、抽出された最も類似する第2特徴ベクトルと第1特徴ベクトルとの間の類似度を算出してよい。類似度を算出する方法は、特徴ベクトルの類似性を評価可能な方法であれば、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜決定されてよい。一例として、制御部11は、上記式1により類似度を算出してよい。そして、制御部11は、算出された類似度と閾値とを比較することにより、対象画像121の抽出された領域に写る架渉線に異常があるか否かを検査してよい。すなわち、制御部11は、算出された類似度が閾値未満である場合は、架渉線に異常があると判定してよく、算出された類似度が閾値を超えている場合は、架渉線に異常がないと判定してよい。類似度と閾値とが等しい場合について、架渉線に異常があると判定するか異常がないと判定するかは適宜選択されてよい。第1特徴ベクトルに基づいて、架渉線に異常があるか否かを検査することは、これらの処理を実行することにより構成されてよい。この検査方法によれば、後述の実験例に示されるとおり、比較的に精度よく架渉線を点検することができる。なお、類似度は、以下の式2等により、異常度(反対の状態を示す指標)に変換されてよい。
【0115】
【数2】
ただし、類似度を異常度に変換する方法は、式2の方法に限られなくてよく、特徴ベクトルの相違性を評価するように、類似度の算出方法に応じて適宜決定されてよい。この場合、類似度と閾値とを比較することは、類似度を異常度に変換し、得られた異常度と閾値とを比較することにより構成されてよい。
【0116】
以上の処理を実行することにより、訓練済みの検査モデル6を使用した架渉線の検査が完了すると、制御部11は、次のステップS106に処理を進める。
【0117】
(ステップS106)
ステップS106では、制御部11は、出力部115として動作し、検査の結果に関する情報を出力する。
【0118】
出力先及び出力する情報の内容はそれぞれ、実施の形態に応じて適宜決定されてよい。例えば、制御部11は、ステップS105により得られた検査の結果をそのまま出力装置15に出力してもよい。検査の結果と共に、対象画像121のうちの少なくとも架渉線の写る抽出領域が出力されてもよい。また、制御部11は、得られた検査の結果に基づいて、何らかの情報処理を実行してもよい。情報処理は、例えば、検査の結果に応じてメッセージを選択する(架渉線に異常があると判定された場合に、その架渉線の現地確認を行うように指示するメッセージを選択する等)ことであってよい。この場合、制御部11は、検査の結果に応じて選択されたメッセージを検査の結果に関する情報として出力してもよい。また、出力先は、出力装置15に限られなくてよい。その他の一例として、制御部11は、他のコンピュータの出力装置に検査の結果に関する情報を出力してもよい。
【0119】
検査の結果に関する情報の出力が完了すると、制御部11は、本動作例に係る処理手順を終了する。なお、制御部11は、ステップS101~ステップS106の一連の情報処理を繰り返し実行してもよい。繰り返すタイミングは、実施の形態に応じて適宜決定されてよい。これにより、点検装置1は、上記架渉線を検査するタスクを繰り返し遂行するように構成されてよい。
【0120】
[特徴]
以上のとおり、本実施形態では、ステップS102及びステップS103の処理により、架渉線以外の構造物も写っていると分類される対象画像121は、ステップS104以降の処理対象から除外される。これにより、訓練済みの検査モデル6の処理対象を架渉線のみ写る対象画像121に限定することができるため、モデル生成装置2での機械学習における望ましい学習範囲を絞ることができる。加えて、本実施形態では、ステップS104の処理により、対象画像121において架渉線の写る領域を抽出する。これにより、訓練済みの検査モデル6の処理対象を架渉線の写る領域に限定することで、架渉線以外の領域に表れる事象を考慮しなくても良いようになり、その結果、モデル生成装置2での機械学習における望ましい学習範囲を更に絞ることができる。したがって、本実施形態によれば、モデル生成装置2において、機械学習に使用する検査用学習データ35に含まれる学習画像37が比較的に少なくても、精度の良い訓練済みの検査モデル6を生成することができる。よって、モデル生成装置2において、訓練済みの検査モデル6の生成にかかるコストを低減することができ、かつ点検装置1において、比較的に精度よく架渉線を点検することができる。
【0121】
また、異常の発生は稀であるため、異常のある架渉線の学習画像を豊富に得るのは困難である。これに対して、本実施形態では、訓練済みの検査モデル6は、異常のない架渉線の写る画像を適切に特徴ベクトルに変換する能力を有するように構成される。異常のない架渉線の写る画像のみを学習画像37として機械学習に用いて、この訓練済みの検査モデル6を生成することができる。したがって、本実施形態によれば、異常のある架渉線の写る画像をほぼ用いることなく、訓練済みの検査モデル6を生成することができるため、モデル生成装置2において、訓練済みの検査モデル6の生成にかかるコストを更に低減することができる。
【0122】
また、本実施形態では、ステップS102における対象画像121の分類には訓練済みの分類モデル5が利用され、ステップS104における架渉線の写る領域の抽出には画像処理が利用される。架渉線の状態を考慮しなければ、架渉線のみ写る画像、及び架渉線以外の構造物も写る画像は比較的に低コストで簡単に用意可能である。また、架渉線の領域を抽出する能力を更に分類モデル5に獲得させる場合には、学習画像32において架渉線の写る領域の真値を更に示すように正解情報33を構成しなければならないが、分類モデル5に獲得させる能力を画像の分類能力に留める場合には、その分類タスクの真値を示すように正解情報33を構成すれば足りる。そのため、分類用学習データ30は比較的に低コストで収集可能である。加えて、架渉線の写る領域を抽出する処理対象は架渉線のみ写る画像に限定されるため、比較的に簡単な画像処理により、架渉線の写る領域を精度よく抽出可能である。したがって、ステップS102における対象画像121の分類には訓練済みの分類モデル5を利用し、ステップS104における架渉線の写る領域の抽出には画像処理を利用するようにすることで、点検装置1の構築にかかるコストを低減し、かつ比較的に精度よく架渉線を点検することができる。
【0123】
§4 変形例
以上、本発明の実施の形態を詳細に説明してきたが、前述までの説明はあらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良又は変形を行うことができることは言うまでもない。例えば、以下のような変更が可能である。なお、以下では、上記実施形態と同様の構成要素に関しては同様の符号を用い、上記実施形態と同様の点については、適宜説明を省略した。以下の変形例は適宜組み合わせ可能である。
【0124】
<4.1>
上記実施形態では、ステップS102における対象画像121の分類には、訓練済みの分類モデル5が使用されている。しかしながら、対象画像121を分類する方法は、このような例に限定されなくてよい。その他の一例として、上記ステップS102では、点検装置1は、例えば、既存の画像処理等により、訓練済みの機械学習モデルを使用しないで、対象画像121を分類するように構成されてもよい。
【0125】
<4.2>
上記実施形態では、ステップS102における対象画像121の分類には訓練済みの分類モデル5が利用され、ステップS104における架渉線の写る領域の抽出には画像処理が利用されている。しかしながら、分類部112及び領域抽出部113の構成は、このような例に限定されなくてよい。その他の一例として、例えば、Segnet等のセグメンテーションを実行可能なニューラルネットワークを分類モデル5として採用してもよい。これにより、点検装置1は、分類部112による分類及び領域抽出部113による抽出を、機械学習により訓練済みのニューラルネットワークによって一体的に実行するように構成されてよい。この場合、正解情報33は、対応する学習画像32における架渉線の写る領域の真値を更に示すように構成される。この点を除き、上記分類モデル5と同様の方法で、訓練済みのニューラルネットワークを生成することができる。この変形例によれば、ステップS102及びステップS104の処理の効率化を図ることができる。
【0126】
<4.3>
上記実施形態では、訓練済みのニューラルネットワーク7の入力側の一部を訓練済みの検査モデル6として採用している。しかしながら、検査モデル6の生成方法は、このような例に限定されなくてよい。その他の一例として、検査モデル6には、自己符号化器のエンコーダが用いられてよい。自己符号化器は、エンコーダ及びデコーダにより構成される。この場合、検査モデル6の機械学習は、学習画像37を訓練データ及び正解データとして使用する自己教師あり学習により構成されてよい。この機械学習により訓練済みの自己符号化器のエンコーダを上記訓練済みの検査モデル6として使用してよい。更にその他の一例として、訓練済みの検査モデル6は、検査用学習データ35に含まれる学習画像37を主成分分析することで導出された固有ベクトルを用いた直交射影行列により構成されてよい。この場合、検査モデル6の機械学習は、主成分分析することにより構成されてよい。
【0127】
<4.4>
上記実施形態では、訓練済みの検査モデル6は、架渉線の写る領域が抽出された画像を特徴ベクトルに変換するように構成されている。しかしながら、検査モデル6の構成は、このような例に限定されなくてよい。その他の一例として、検査モデル6は、架渉線の検査結果を直接的に出力するように構成されてよい。この場合、検査用学習データ35は、異常のある架渉線の写る学習画像を更に含むように構成される。各学習画像には、架渉線の状態(正常であるか否か)の真値を示すように構成された正解情報が紐付けられ、これにより、検査用学習データ35は、複数件の学習データセットにより構成される。この検査モデル6の機械学習は、上記ニューラルネットワーク7と同様の方法で実施可能である。この形態によれば、ステップS105の処理を簡略化することができる。
【0128】
<4.5>
上記実施形態では、各モデル(5、6)には、全結合型ニューラルネットワークが用いられている。しかしながら、各モデル(5、6)に用いられるニューラルネットワークの種類は、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。その他の一例として、各モデル(5、6)には、例えば、畳み込みニューラルネットワーク等の他の種類のニューラルネットワークが用いられてよい。また、各モデル(5、6)は、例えば、畳み込み層、プーリング層、正規化層、ドロップアウト層等の他の種類の層を含んでもよい。
【0129】
また、上記実施形態では、各モデル(5、6)には、機械学習モデルとしてニューラルネットワークが用いられている。しかしながら、各モデル(5、6)に用いられる機械学習モデルの種類は、ニューラルネットワークに限られなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。機械学習の方法は、機械学習モデルの種類に応じて適宜選択されてよい。その他の一例として、分類モデル5には、例えば、サポートベクタマシン、決定木モデル等の機械学習モデルが用いられてよい。上記<4.3>のとおり、検査モデル6には、主成分分析により導出された固有ベクトルを用いた直交射影行列が用いられてよい。
【0130】
<4.6>
上記実施形態では、ステップS105の処理において、制御部11は、算出された類似度と閾値とを比較することで、架渉線に異常があるか否かを検査する。この検査に使用される閾値は、任意の方法で決定されてよい。一例では、閾値は、異常のない/ある架渉線の写るサンプル画像に対して算出される類似度を参考にして、手入力により与えられてよい。
【0131】
更に他の一例では、閾値は、それぞれ異常のない架渉線の写る複数のサンプル画像それぞれに対して算出される類似度から推定される母集団分布を基準に与えられてよい。この場合、複数のサンプル画像は、学習画像37とは別に用意されてよい。或いは、複数のサンプル画像の少なくとも一部には、学習画像37が用いられてもよい。サンプル画像を用意する方法は、学習画像37を用意する方法と同様であってよい。
【0132】
この閾値を決定する方法を採用する形態の一例として、訓練済みの検査モデル6を使用して、複数のサンプル画像それぞれを変換することにより、複数の特徴ベクトルが得られてよい。得られた各特徴ベクトルに最も類似する第2特徴ベクトルが、学習画像37から得られる第2特徴ベクトルから抽出されてよい。上記第1特徴ベクトルと同様の演算方法により、各特徴ベクトルと最も類似する第2特徴ベクトルとの間の類似度が算出されてよい。そして、複数の特徴ベクトルそれぞれに対して算出された類似度から母集団分布が推定されてよい。母集団分布には、例えば、正規分布等の公知の分布が採用されてよい。閾値は、この母集団分布を基準に与えられてよい。
【0133】
母集団分布を基準に閾値を決定する方法は、母集団分布の形状を評価する指標を用いて閾値を算出するものであれば、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜規定されてよい。一例として、母集団分布は、正規分布と仮定されてよい。この場合、正規分布の形状は、平均値及び標準偏差により評価可能である。そこで、閾値は、算出された類似度の平均値及び標準偏差の少なくとも一方を用いて算出されてよい。具体例として、閾値は、(平均値+標準偏差×R)の演算により算出されてよい。Rには、任意の実数が入力されてよい。例えば、Rには、2が代入されてよい。正規分布では、95%の要素が、平均値を中心として正負それぞれの方向に標準偏差の2倍の範囲に属することが知られている。そのため、理論的には、各サンプル画像から導出された特徴ベクトルに対して算出された類似度の平均値及び標準偏差の2倍の和を閾値として採用することで、異常のない架渉線を異常と判定する誤報率を2.5%まで抑えることができる。したがって、このように推定される母集団分布を基準に閾値を決定することにより、統計的な手法で、誤報率の低減を図ることができる。
【0134】
なお、母集団分布を推定する演算及び閾値を決定する演算は、点検装置1(制御部11)又は他のコンピュータにより実行されてよい。或いは、これらの演算処理の一部が他のコンピュータにより実行され、残りの演算処理が点検装置1により実行されてもよい。また、これらの演算処理は、ステップS105の演算処理を実行する前の任意のタイミングで実行されてよい。これらの演算処理は、検査処理を実行する前に予め実行されてよく、これにより、閾値は、予め算出されてよい。算出された閾値は任意の記憶領域に保持されてよく、点検装置1(制御部11)は、ステップS105の処理を実行する前の任意のタイミングで算出された閾値を取得してよい。
【0135】
<4.7>
画像に写る架渉線の種類、径間、表面状態、撮影条件等の属性が変わることで、訓練済みの検査モデル6により算出される特徴ベクトルの値が比較的に大きく変動する可能性がある。異常のない架渉線の写る画像に対して算出される特徴ベクトルの値が大きく変動すると、算出される類似度の変動も大きくなってしまう可能性があり、これに起因して、閾値を一定値に設定した場合には、検査精度の悪化を招いてしまう可能性がある。そこで、上記実施形態において、架渉線の属性をグループ分けし、閾値は、グループ毎に与えられてよい。点検装置1(制御部11)は、架渉線の検査をグループ毎に実行するように構成されてよい。これにより、検査精度の向上を図ることができる。
【0136】
一例として、検査処理部114は、複数のグループの中から、対象画像121に写る架渉線の属する対象グループを特定するように更に構成されてよい。これに応じて、制御部11は、ステップS105の演算を完了する前の任意のタイミングで、複数のグループの中から、対象画像121に写る架渉線の属する対象グループを特定してよい。各グループは、適宜設定されてよい。一例として、複数のグループは、架渉線の種類、径間、表面状態及び撮影条件の少なくともいずれかに応じて与えられてよい。表面状態は、例えば、経年による光沢のくすみ、汚れ、錆、ペイントの有無/程度等によって規定されてよい。撮影条件は、例えば、カメラの種類、明るさ、天候等により規定されてよい。
【0137】
対象グループを特定する方法は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。一例として、対象グループは、オペレータの入力により指定されてよい。他の一例として、制御部11は、任意の画像処理により架渉線の属性を分析することで、対象グループを特定してもよい。この画像処理には、任意の訓練済みモデルが用いられてよい。訓練済みの分類モデル5又は訓練済みの検査モデル6が対象グループを更に特定するように構成されてもよい。或いは、制御部11は、訓練済みの分類モデル5及び訓練済みの検査モデル6とは別の訓練済みモデルを使用して、対象グループを特定してもよい。
【0138】
閾値は、グループ毎に適宜与えられてよい。一例として、閾値は、異常のない/ある架渉線の写るサンプル画像をグループ毎に用意し、用意されたサンプル画像に対して算出される類似度を参考にして、手入力により与えられてよい。他の一例として、閾値は、上記<4.6>と同様に、それぞれ異常のない架渉線の写る複数のサンプル画像をグループ毎に用意し、推定される母集団分布を基準にグループ毎に与えられてよい。すなわち、閾値は、訓練済みの検査モデル6を使用して、各グループに応じて用意された複数のサンプル画像を変換することで得られる複数の特徴ベクトルそれぞれに対して算出される、最も類似する第2特徴ベクトルとの間の類似度から推定される母集団分布を基準にグループ毎に与えられてよい。各グループの母集団分布を推定する方法及び閾値を決定する方法は、上記<4.6>と同様であってよい。なお、基本的には、複数のグループのうちの少なくとも一部のグループの閾値は、他のグループの閾値と異なるように与えられる。しかしながら、必ずしも異なる値が各グループの閾値に設定される必要はない。場合によって、全てのグループの閾値が同一であってもよい。
【0139】
そして、上記ステップS105において、算出された類似度と閾値とを比較することは、算出された類似度と特定された対象グループに応じて与えられた閾値とを比較することにより構成されてよい。すなわち、上記ステップS105において、制御部11は、対象画像121に対して算出された類似度と特定された対象グループに応じて与えられた閾値とを比較することにより、対象画像121に写る架渉線に異常があるか否かを検査してよい。閾値との比較方法は、上記実施形態と同様であってよい。以上により、架渉線の検査をグループ毎に実行するように点検装置1を構成することができる。その結果、検査精度の向上を図ることができる。
【0140】
<4.8>
上記実施形態のステップS105における検査方法の他の一例として、制御部11は、訓練済みの検査モデル6を使用して、それぞれ異常のない架渉線の写る複数の評価画像を変換することで得られる複数の評価特徴ベクトルにより構成される評価分布と第1特徴ベクトルとの間の類似性に関するスコア値を算出してよい。そして、制御部11は、算出されたスコア値と閾値とを比較することにより、第1特徴ベクトルが評価分布に属するか否かを判定することで、対象画像121の抽出された領域に写る架渉線に異常があるか否かを検査してよい。第1特徴ベクトルに基づき架渉線に異常があるか否かを検査することは、これらの演算処理により構成されてよい。
【0141】
なお、複数の評価画像は、学習画像37とは別に用意されてよい。或いは、複数の評価画像の少なくとも一部には、学習画像37が用いられてもよい。評価画像を用意する方法は、学習画像37を用意する方法と同様であってよい。評価特徴ベクトルは、評価画像から算出される特徴ベクトルである。各評価特徴ベクトルの計算は、制御部11により実行されてもよいし、或いは他のコンピュータにより実行されてもよい。各評価特徴ベクトルは予め計算されていてよく、制御部11は、各評価画像から導出される評価特徴ベクトルを記憶部12、記憶媒体91、外部記憶装置等から適宜取得してよい。
【0142】
類似性に関するスコア値は、例えば、距離(ノルム)等により算出されてよい。算出方法の一例として、k-近傍法、局所外れ値因子法等の公知の方法が採用されてよい。閾値は、スコア値の算出方法に応じて適宜設定されてよい。一例では、閾値は、異常のない/ある架渉線の写るサンプル画像に対して算出されるスコア値を参考にして、手入力により与えられてよい。他の一例として、上記<4.6>と同様に、閾値は、訓練済みの検査モデル6を使用して、それぞれ異常のない架渉線の写る複数のサンプル画像を変換することで得られる複数の特徴ベクトルそれぞれに対して算出される、評価分布との間の類似性に関するスコア値から推定される母集団を基準に与えられてよい。この方法による閾値の算出処理は、類似度の算出をスコア値の算出に置き換えて、上記<4.6>と同様に構成されてよい。この閾値の決定方法を採用することで、誤報率の低減を期待することができる。
【0143】
更に、このスコア値による検査方法を採用する形態において、上記<4.7>と同様に、点検装置1(制御部11)は、架渉線の検査をグループ毎に実行するように構成されてよい。一例として、検査処理部114は、複数のグループの中から、対象画像121に写る架渉線の属する対象グループを特定するように更に構成されてよい。これに応じて、制御部11は、ステップS105の演算を完了する前の任意のタイミングで、複数のグループの中から、対象画像121に写る架渉線の属する対象グループを特定してよい。各グループは、適宜設定されてよい。一例として、複数のグループは、架渉線の種類、径間、表面状態及び撮影条件の少なくともいずれかに応じて与えられてよい。表面状態は、例えば、経年による光沢のくすみ、汚れ、錆、ペイントの有無/程度等によって規定されてよい。撮影条件は、例えば、カメラの種類、明るさ、天候等により規定されてよい。
【0144】
対象グループを特定する方法は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。一例として、対象グループは、オペレータの入力により指定されてよい。他の一例として、制御部11は、任意の画像処理により架渉線の属性を分析することで、対象グループを特定してもよい。この画像処理には、任意の訓練済みモデルが用いられてよい。対象グループは、スコア値を算出する過程で特定されてよい。
【0145】
複数の評価画像は、グループ毎に与えられてよい。これにより、評価分布は、グループ毎に得られてよい。
【0146】
閾値は、グループ毎に適宜与えられてよい。一例として、閾値は、異常のない/ある架渉線の写るサンプル画像をグループ毎に用意し、用意されたサンプル画像に対して算出されるスコア値を参考にして、手入力により与えられてよい。他の一例として、上記<4.6>と同様に、各グループに応じて、それぞれ異常のない架渉線の写る複数のサンプル画像が用意されてよい。訓練済みの検査モデル6を使用して、各グループに応じて用意された複数のサンプル画像を変換することで得られる複数の特徴ベクトルそれぞれに対して、特定された対象グループに応じて得られる評価分布との間の類似性に関するスコア値が算出されてよい。これらの演算により算出されるスコア値から母集団分布がグループ毎に推定されてよい。閾値は、推定される母集団分布を基準にグループ毎に与えられてよい。上記のとおり、類似度の算出をスコア値の算出に置き換える点を除き、各グループの母集団分布を推定する方法及び閾値を決定する方法は、上記<4.6>と同様に構成されてよい。なお、基本的には、複数のグループのうちの少なくとも一部のグループの閾値は、他のグループの閾値と異なるように与えられる。しかしながら、必ずしも異なる値が各グループの閾値に設定される必要はない。場合によって、全てのグループの閾値が同一であってもよい。
【0147】
そして、上記ステップS105において、スコア値を算出することは、特定された対象グループに応じて得られる評価分布と第1特徴ベクトルとの間の類似性に関するスコア値を算出することにより構成されてよい。算出されたスコア値と閾値とを比較することは、算出されたスコア値と特定された対象グループに応じて与えられた閾値とを比較することにより構成されてよい。すなわち、制御部11は、特定された対象グループに応じて用意された複数の評価画像から導出される評価分布と第1特徴ベクトルとの間の類似性に関するスコア値を算出してよい。そして、制御部11は、算出されたスコア値と特定された対象グループに応じて与えられた閾値とを比較することにより、第1特徴ベクトルが評価分布に属するか否かを判定することで、対象画像121の抽出された領域に写る架渉線に異常があるか否かを検査してよい。閾値との比較方法は、上記実施形態と同様であってよい。このグループ単位の検査方法を採用することで、検査精度の向上を期待することができる。
【0148】
<4.9>
他の形態の一例として、上記実施形態及び変形例において、点検装置1は、複数の架渉線に対して一度に検査を実行するように構成されてよい。この場合に、各架渉線の写る対象画像121を得るために取得される画像の数は、実施の形態に応じて適宜決定されてよい。1つの画像から複数の架渉線(の写る対象画像121)が抽出されてよい。或いは、1つの画像は、1つの架渉線に対応していてもよい。複数の画像を取得する場合に、ある画像から抽出される架渉線の数は、他の画像から抽出される架渉線の数と同じであってもよいし、異なっていてもよい。なお、同一の架渉線の異なる箇所は、異なる架渉線とカウントされてよい。また、この場合に、類似度と閾値と比較することは、複数の架渉線のうち、算出される類似度の下位m%又はm個(異常度の上位m%又はm個)の架渉線を抽出することにより構成されてもよい。mは、任意の実数である。mの値は、ユーザにより指定されてもよいし、或いはプログラム内の設定値により規定されてもよい。架渉線を抽出することは、対象画像121を抽出することにより構成されてよい。上記ステップS106では、点検装置1は、抽出された対象画像121に写る架渉線が異常のある蓋然性の高いものであると知らせるための情報を出力してよい。上記<4.8>における、スコア値と閾値との比較方法に関しても同様である。すなわち、架渉線に異常がある可能性が高いほどスコア値が大きくなる場合、スコア値と閾値とを比較することは、複数の架渉線のうち、スコア値の上位m%又はm個の架渉線を抽出することにより構成されてよい。架渉線に異常がある可能性が高いほどスコア値が小さくなる場合、スコア値と閾値とを比較することは、複数の架渉線のうち、スコア値の下位m%又はm個の架渉線を抽出することにより構成されてよい。架渉線に発生する異常箇所の上限数は既知であることが多い(例えば、多くの場合に、1つの径間内に発生する異常の個数は10個以下である)。当該変形例によれば、人手により検査する数を予め決定することができ、かつ架渉線の異常の見落としを防ぐことができる。
【0149】
§5実験例
上記実施形態による架渉線の点検方法の有効性を検証するために、以下の実験例及び参考例に係る検査モデルを生成した。ただし、本発明は、以下の実験例に限定されるものではない。
【0150】
まず、上記実施形態と同様の方法により、実験例に係る訓練済みの検査モデルを生成した。検査の対象となる架渉線には架空地線を採用した。検査モデルを構成するニューラルネットワークには、汎用の畳み込みニューラルネットワークを使用した。検査モデルの機械学習には、架空地線を撮影することで得られた画像から架空地線の領域を抽出した後、抽出された架空地線の領域を所定サイズ(32×32)に整形することで得られた画像を学習画像として使用した。なお、元の画像サイズは、720×420であった。上記実施形態と同様に、対象画像から導出される第1特徴ベクトルと学習画像から導出される第2特徴ベクトルのうちの最も類似する第2特徴ベクトルとの比較により、架空地線が正常であるか否かを判定する方法を採用した。類似度の算出には上記式1を採用し、上記式2により異常度を算出するように判定処理を構成した。
【0151】
一方、所定の幅の枠を動かしながら、架空地線の写る抽出領域の枠内のベクトル総和を算出し、算出されるベクトル総和に対してk-近傍法により閾値を超える変化が生じているか否かを判定するように構成された検査モデルを参考例として生成した。この参考例に係る検査モデルでは、閾値を超える変化が生じている部分に異常があると判定した。
【0152】
次に、実験例及び参考例の検査モデルの検査能力を検証するため、学習データとは別に検証データを用意した。検証データには、架空地線を撮影することで得られた画像のうち学習画像には使用しなかった画像を用いた。そして、検証データに対して異常を見逃さない(すなわち、異常を正常と誤らない/再現率が1となる)ように実験例及び参考例で用いる各閾値を調整した。以下の表1は、各閾値を調整後の検証データに対する実験例及び比較例の判定精度の結果を示す。なお、参考例の方法では、ヒレ付きの架空地線の検査は困難であった。そのため、通常の架空地線の検証データに対して実験例及び比較例で検査を行った後に、実験例に対してのみヒレ付きの架空地線の検証データを追加して、更なる検査を行った。
【0153】
【0154】
表1に示されるとおり、実験例に係る検査方法では、適合率91%(誤報率9%)の精度で架空地線を検査することができた。この実験例の検査精度は、参考例の検査精度(適合率88%/誤報率12%)及び非特許文献1の検査精度(失報率5.5%、誤報率12.3%)よりも高かった。このことから、上記実施形態の検査方法によれば、比較的に精度よく架空地線を点検することができることが分かった。
【0155】
<追加実験>
上記母集団分布による閾値の決定方法の有効性を検証するために、以下の追加実験を行った。まず、上記学習画像を取得した方法と同様の方法で、493件のサンプル画像を取得した。次に、上記実験例と同様の条件で、訓練済みの検査モデルを使用して、各サンプル画像に対して類似度を算出した。続いて、算出された類似度の平均値及び標準偏差を算出することで、母集団分布を推定した。母集団分布は、正規分布と仮定した。算出された平均値は1.38であり、標準偏差は2.86であった。そこで、平均値及び標準偏差の2倍の値の和(7.10)を閾値として設定した。
【0156】
そして、上記実験例と同様の方法で、検証データ(494件の検証画像/異常のある架渉線の写る画像は1件)を用意し、設定した閾値との比較により、各検証画像に写る架渉線に異常があるか否かを検査した。その結果、異常のある架渉線の写る検証画像に対して正しい判定結果を得ることができた(すなわち、再現率は1であった)。また、異常のない架渉線の写る493件の検証画像のうち15件の検証画像に対して異常があると誤った判定結果が得られた。すなわち、誤報率は3%であった。この結果から、上記母集団分布による閾値の決定方法によれば、誤報率を低減することができることが検証できた。
【符号の説明】
【0157】
1…点検装置、
11…制御部、12…記憶部、13…通信インタフェース、
14…入力装置、15…出力装置、16…ドライブ、
81…点検プログラム、91…記憶媒体、
111…画像取得部、112…分類部、113…領域抽出部、
114…検査処理部、115…出力部、
121…対象画像、
2…モデル生成装置、
21…制御部、22…記憶部、23…通信インタフェース、
24…入力装置、25…出力装置、26…ドライブ、
82…機械学習プログラム、92…記憶媒体、
211…データ取得部、212…学習処理部、
213…保存処理部、
221…分類学習結果データ、225…検査学習結果データ、
30…分類用学習データ、
32…学習画像、33…正解情報、
35…検査用学習データ、
37…学習画像、
5…分類モデル、
51…入力層、52…中間(隠れ)層、53…出力層、
6…検査モデル、
61…入力層、62…中間(隠れ)層、63…出力層、
7…ニューラルネットワーク、
75…出力層