(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036055
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】排水処理状態監視装置および監視方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/27 20060101AFI20220225BHJP
B01D 21/30 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
G01N21/27 A
B01D21/30 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021134066
(22)【出願日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2020139219
(32)【優先日】2020-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】関本 和也
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 功
(72)【発明者】
【氏名】門脇 瑞樹
(72)【発明者】
【氏名】天野 昌志
(72)【発明者】
【氏名】小島 諒佑
(72)【発明者】
【氏名】武智 公平
(72)【発明者】
【氏名】中村 誠吾
(72)【発明者】
【氏名】新 正輝
(72)【発明者】
【氏名】松尾 奈保子
(72)【発明者】
【氏名】北川 雄秀
(72)【発明者】
【氏名】飯田 幸二
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB06
2G059EE01
2G059EE13
2G059FF01
2G059GG00
2G059KK04
2G059MM01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】排水処理設備の凝集槽において形成された、フロックの状態(沈降状態、見た目、界面状態)を監視する装置を提供する。
【解決手段】凝集処理が行われた排水が供給される光透過容器10と、前記光透過容器の背面から光を照射する照明手段12と、前記光透過容器10を透過してきた前記光を撮影し画像データを得る画像撮影機14と、
前記画像撮影機で撮影した画像データの少なくとも1か所に切り出し領域を設け、前記切り出し領域のRGB値の変化若しくは前記RGB値の変化に係る時間又は時刻を測定し、前記RGB値の変化若しくは前記RGB値の変化に係る時間又は時刻を判断基準データと比較し、その差が許容値を外れた場合に警告を発信する制御装置を有することを特徴とする排水処理状態監視装置は、透過光でフロックを評価するため、フロックが嵩高くなっても沈降状態を評価することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝集処理が行われた排水が供給される光透過容器と、
前記光透過容器の背面から光を照射する照明手段と、
前記光透過容器を透過してきた前記光を撮影し画像データを得る画像撮影機と、
前記画像撮影機で撮影した画像データの少なくとも1か所に切り出し領域を設け、
前記切り出し領域のRGB値の変化若しくは前記RGB値の変化に係る時間又は時刻を測定し、
前記RGB値の変化若しくは前記RGB値の変化に係る時間又は時刻を判断基準データと比較し、その差が許容値を外れた場合に警告を発信する制御装置を有することを特徴とする排水処理状態監視装置。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記RGB値が所定の値より大きくなった後の微小時間あたりの変化量が所定の値より小さくなる期間が一定以上続く最初の時刻を安定化時刻として測定し、
前記安定化時刻と前記判断基準データ中の基準安定化時刻を比較し、その差が許容範囲を外れた場合に警告を発することを特徴とする請求項1に記載された排水処理状態監視装置。
【請求項3】
前記制御装置は、
許容されると判断された画像データである複数の適正パターンから、撮影時刻毎の平均値と標準偏差で作成される正規分布において一定の範囲を正規分布による許容範囲として前記判断基準データに記録し、
前記RGB値の変化と、前記正規分布による許容範囲を比較し、前記RGB値の変化が前記正規分布による許容範囲を外れた場合に警告を発することを特徴とする請求項1に記載された排水処理状態監視装置。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記切り出し領域のRGB値が暗から明に変わる直前の変化前時間と、
前記切り出し領域のRGB値が暗から明に変わっている変化時間を測定し、
前記変化前時間と前記判断基準データ中の基準変化前時間を比較し、
前記変化時間と前記判断基準データ中の基準変化時間を比較し、
少なくとも何れかが許容範囲を外れた場合に警告を発することを特徴とする請求項1に記載された排水処理状態監視装置。
【請求項5】
前記制御装置は、
前記切り出し領域を水平に分割する境界を、
前記境界より下の領域から求められる画素数、RGB平均値およびRGB値の分散で構成される特性値と、
前記境界より上の領域の画素数、RGB平均値およびRGB値の分散で構成される特性値によって算出される分離度が最大となるように求め、
前記境界から前記切り出し領域の界面高さを算出し、
前記界面高さを界面高さに関する判断基準データと比較し、その差が許容値を外れた場合に警告を発信することを特徴とする請求項1に記載された排水処理状態監視装置。
【請求項6】
凝集処理が行われた排水を光透過容器にサンプリングする工程と、
前記光透過容器の背面から光を照射する工程と、
前記光透過容器を透過した前記光を撮影し画像データを得る工程と、
前記画像データの少なくとも1か所に切り出し領域を設ける工程と、
前記切り出し領域のRGB値の変化若しくは前記RGB値の変化に係る時間又は時刻を測定する工程と、
前記RGB値の変化若しくは前記RGB値の変化に係る時間又は時刻を判断基準データと比較し、その差が許容値を外れた場合に警告を発信する工程を有することを特徴とする排水処理状態監視方法。
【請求項7】
前記切り出し領域のRGB値の変化若しくは前記RGB値の変化に係る時間又は時刻を測定する工程は、
前記RGB値が所定の値より大きくなった後の微小時間あたりの変化量が所定の値より小さくなる期間が一定以上続く最初の時刻を安定化時刻として測定する工程であり、
前記RGB値の変化若しくは前記RGB値の変化に係る時間又は時刻を判断基準データと比較し、その差が許容値を外れた場合に警告を発信する工程は、
前記安定化時刻と前記判断基準データ中の基準安定化時刻を比較し、その差が許容範囲を外れた場合に警告を発する工程であることを特徴とする請求項6に記載された排水処理状態監視方法。
【請求項8】
前記切り出し領域のRGB値の変化若しくは前記RGB値の変化に係る時間又は時刻を測定する工程は、
切り出し領域のRGB値の変化若しくは前記RGB値の変化を測定する工程であり、
前記RGB値の変化若しくは前記RGB値の変化に係る時間又は時刻を判断基準データと比較し、その差が許容値を外れた場合に警告を発信する工程は、
許容されると判断された画像データである複数の適正パターンから、撮影時刻毎の平均値と標準偏差で作成される正規分布において一定の範囲を正規分布による許容範囲として前記判断基準データに記録する工程と、
前記RGB値の変化と、前記正規分布による許容範囲を比較し、前記RGB値の変化が前記正規分布による許容範囲を外れた場合に警告を発する工程を有することを特徴とする請求項6に記載された排水処理状態監視方法。
【請求項9】
前記切り出し領域のRGB値の変化若しくは前記RGB値の変化に係る時間又は時刻を測定する工程は、
前記切り出し領域のRGB値が暗から明に変わる直前の変化前時間と、
前記切り出し領域のRGB値が暗から明に変わっている変化時間を測定する工程であり、
前記RGB値の変化若しくは前記RGB値の変化に係る時間又は時刻を判断基準データと比較し、その差が許容値を外れた場合に警告を発信する工程は、
前記変化前時間と前記判断基準データ中の基準変化前時間を比較し、
前記変化時間と前記判断基準データ中の基準変化時間を比較し、
少なくとも何れかが許容範囲を外れた場合に警告を発する工程であることを特徴とする請求項6に記載された排水処理状態監視方法。
【請求項10】
さらに、
前記切り出し領域を水平に分割する境界を、
前記境界より下の領域から求められる画素数、RGB平均値およびRGB値の分散で構成される特性値と、
前記境界より上の領域の画素数、RGB平均値およびRGB値の分散で構成される特性値によって算出される分離度が最大となるように求める工程と、
前記境界から前記切り出し領域の界面高さを算出する工程と、
前記界面高さを界面高さに関する判断基準データと比較し、その差が許容値を外れた場合に警告を発信することを特徴とする請求項6に記載された排水処理状態監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理設備の凝集槽において形成された、フロックの状態(沈降状態、見た目、界面状態)を監視する装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
化学製品等を製造する場合には、大量の排水が出る。この排水は通常多くの反応物がイオンの状態で含まれており、そのまま自然環境に放流するわけにはいかない。そこでこれらの物質を取り除き、無害になった排水を自然環境に放流する。排水からイオン状態の含有物を除去する際には、凝集処理を行い、フロックとして沈殿させ、フィルタで漉し取ることで除去する方法が多用される。
【0003】
反応物を除去した排水の上澄みは、そのままの状態で自然環境中に放流される。しかし、大きな凝集槽内でのフロックの沈降状態は、把握しづらい。したがって、凝集槽内の反応液をサンプリングして、凝集処理が適切にされているか確認する作業は必要不可欠な工程と言える。
【0004】
液体をサンプリングして液体中のフロックの沈降を、光を用いて測定観測する方法は、いくつか提案されている。特許文献1では、膜分離活性汚泥法による排水処理方法において、膜分離活性汚泥槽から採取した活性汚泥を光学的手段で撮像後、撮像した画像を処理し、処理した前記画像情報から求められる管理パラメータと予め設定した管理基準範囲とを比較して膜分離活性汚泥槽の運転状況を判定することを特徴とする排水処理方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、フロックを粉砕させて新たな検水を導入する検水交換手段と、重力沈降によりフロックを再形成させて沈降させる沈降セル部と、検水中のフロックを照明する照明手段と、沈降セル部にて沈降するフロック及び背景板の画像を撮影する画像撮影手段と、画像撮影手段によって撮影された一定時間間隔毎の画像からフロック面積-時間分布を作成してフロックの沈降時間を求めるとともに、一定時間経過後の背景板輝度から処理水の透明度を求める画像処理手段と、混和槽に流れ込む原水流量を検出する流量検出器の検出値および前記画像処理手段により得られた沈降時間および透明度から、目標とする沈降時間および透明度となるように凝集剤および凝集助剤の注入量を個別に制御する凝集剤注入量制御手段と、沈降セル部の洗浄を行う洗浄手段とを有することを特徴とする凝集剤注入制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2018/181618号
【特許文献2】特開2000-102703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の方法は、膜分離活性汚泥法において、汚泥層中の微生物が作るフロックを変形させミクロ的に監視し、活性汚泥層の運転状態にフィードバックする方法である。また、特許文献2では、沈降セル内に側面方向から光を当て、フロックを白色に浮かび上がらせて、画像的に個々のフロックを識別し、その沈降時間と処理水の透明度を算出し、凝集剤の添加量を調節する方法である。いずれの方法も個々のフロックを識別し、フロックの性状を測定しようとするものである。
【0008】
しかし、フロックの形成は凝集剤の添加方法、反応液の攪拌の仕方などで大きく変化し、一見して同一条件でフロックを形成されている様に見えるが、毎回異なる状態のフロックが形成されると言っても過言ではない。
【0009】
このようなフロック形成の事情の下では、個々のフロックを監視しても、凝集剤が投入された排水全体でのフロック形成は把握しにくい。また、個々のフロックの解析は、時間がかかるだけで、効率よくフロックの状態を把握するのは容易でなかったという課題が存在した。したがって、フロック監視には、より巨視的に反応液を監視し、数値化する必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記の課題に鑑み、従来、人の視認によって判断していた凝集剤が投入された排水の見た目のフロック形成状態を、フロックの沈降状態やフロックの見た目、またフロックと上澄みとの界面状態という観点から巨視的に観測でき、数値化することで、把握できる装置を提供しようとするものである。なお、本発明での排水処理状態の監視とは、排水の状態観察や観測も包含するものである。
【0011】
具体的に本発明に係る排水処理状態監視装置は、
凝集処理が行われた排水が供給される光透過容器と、
前記光透過容器の背面から光を照射する照明手段と、
前記光透過容器を透過してきた前記光を撮影し画像データを得る画像撮影機と、
前記画像撮影機で撮影した画像データの少なくとも1か所に切り出し領域を設け、
前記切り出し領域のRGB値の変化若しくは前記RGB値の変化に係る時間又は時刻を測定し、
前記RGB値の変化若しくは前記RGB値の変化に係る時間又は時刻を判断基準データと比較し、その差が許容値を外れた場合に警告を発信する制御装置を有することを特徴とする。
【0012】
また本発明に係る排水処理状態監視方法は、
凝集処理が行われた排水を光透過容器にサンプリングする工程と、
前記光透過容器の背面から光を照射する工程と、
前記光透過容器を透過した前記光を撮影し画像データを得る工程と、
前記画像データの少なくとも1か所に切り出し領域を設ける工程と、
前記切り出し領域のRGB値の変化若しくは前記RGB値の変化に係る時間又は時刻を測定する工程と、
前記RGB値の変化若しくは前記RGB値の変化に係る時間又は時刻を判断基準データと比較し、その差が許容値を外れた場合に警告を発信する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は凝集処理を受けた排水中のフロックの見た目の形成状態を透過光によるRGB値の変化によって判断する。すなわち、個々のフロックを識別するのではなく、全体としての挙動を監視する。より具体的には、透過光による画像データを部分的に切り出して、その部分によるRGB値の変化を記録し解析するので、フロックの凝集処理状態を定量的に評価することができる。
【0014】
また、さらに画像データから切り出した領域のRGB信号を調べることで、フロックの上澄みとの界面状態(界面高さを含む)を定量的に評価することができる。界面高さの定量的な評価は、排水中の反応物の濃度がある程度わかっている場合は、予定されている沈降反応が達成されたか否かを判断する際に有用となる。
【0015】
また、界面状態(界面高さを含む)の透過光を観測することで、フロックの密度も評価することができ、凝集反応が適正に行われていたかどうかを判断することができる。
【0016】
さらに、透過光をRGBの3原色で監視することで、出来上がったフロックの色具合を定量的に評価することができ、人が定性的に判断した評価とすり合わせることで、人の判定に近い判断を行うこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る排水処理状態監視装置の構成を示す図である。
【
図2】本発明に係る排水処理状態監視装置の処理のメインフローを示す図である。
【
図3】メインフローの中の初期設定のフローを示す図である。
【
図4】初期設定の中の洗浄のフローを示す図である。
【
図5】初期設定の中の撮影機の校正のフローを示す図である。
【
図6】撮影機による画像データ中に切り出し領域を設定する図である。
【
図7】メインフローの中の解析のフローを示す図である。
【
図8】解析のフローの中の傾向のフローを示す図である。
【
図9】沈降させた時の領域aのRGB値の変化を例示する図である。
【
図10】解析のフローの中のRGB値のフローを示す図である。
【
図11】解析のフローの中の界面高さのフローを示す図である。
【
図12】沈降完了させた時の領域cの画像データを例示する例である。
【
図13】界面高さを求める一例を説明する図である。
【
図14】界面高さを求める処理のフローを示す図である。
【
図15】被監視水の安定時間の評価について説明する図である。
【
図16】安定時間の評価の処理フローを示す図である。
【
図17】安定化時刻の算出処理のフローを示す図である。
【
図18】輝度変化の評価について説明する図である。
【
図19】輝度変化の評価の処理フローを示す図である。
【
図20】標準パターンから正規分布による許容範囲を求める処理のフローを示す図である。
【
図21】プロファイルの評価について説明する図である。
【
図22】プロファイルの評価の処理フローを示す図である。
【
図23】特徴点を求める処理のフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明に係る排水処理状態監視装置および監視方法について図面を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。
【0019】
図1に本発明に係る排水処理状態監視装置1の構成を示す。排水処理状態監視装置1は、光透過容器10と、照明12と、撮影機14と、制御装置16を有する。また、排水処理状態監視装置1は、排水を凝集処理する凝集槽50に隣接して配置される。そして、凝集槽50からの被監視水を光透過容器10内に導く流入管52と光透過容器10から凝集槽50に戻す流出管54が設けられる。
【0020】
なお、流入管52には、排水を光透過容器10に送出するためのポンプ56が設けられている。また、流入管52と流出管54には、それぞれバルブ52vとバルブ54vが設けられている。
【0021】
また、光透過容器10内に洗浄水を注入する洗浄水注入管60と洗浄水を排出する洗浄水排出管62も設けられる。洗浄水注入管60と洗浄水排出管62は、洗浄水を光透過容器10中に注入し、排出するための洗浄水注入バルブ60vと洗浄水排出バルブ62vが設けられている。
【0022】
<光透過容器>
光透過容器10は、ガラス若しくは硬質プラスチック等で形成された容器で、平板状であるのが好ましいが、形状はこれに限定されるものではない。下端と上端にそれぞれ下端開口10dhと上端開口10uhが設けられている。下端開口10dhには流入管52が連結され、上端開口10uhには流出管54が連結される。光透過容器10の照明12と対向して配置される撮影機14方向の厚みは、好ましくは薄い方が望ましい。本発明に係る排水処理状態監視装置1は、透過光を評価するからである。具体的には30mm~50mm程度が好ましい。
【0023】
なお、光透過容器10には光透過容器10内の液体を排出するためのドレイン10dが設けられていてもよい。ドレイン10dは図示しない空気孔と連動し、光透過容器10内の液体を排出することができる。
【0024】
<照明>
照明12は、光透過容器10を挟んで撮影機14の反対側に配置される。なお、本明細書では、撮影機14側を光透過容器10の前方として説明を行う。したがって、照明12は光透過容器10の背面に配置されると言ってもよい。
【0025】
照明12は、可視光の範囲でできるだけフラットなスペクトル出力特性を持つものが望ましい。本発明に係る排水処理状態監視装置1は撮影機14による画像データのRGB値を監視するからである。具体的には、ハロゲンライト、タングステンライト、水銀ライト、キセノンライト、白色LED等が好適に利用できる。これらに色温度変換フィルタをつけ昼光色に変換するのが好ましい。また、ソーラシミュレータを用いてもよい。
【0026】
<撮影機>
撮影機14は、光透過容器10の前方に配置される。画像データとしてRGBの出力を取得できるものであれば特に限定されるものではない。3板方式の撮像素子を有していればより望ましい。また、光透過容器10の縦方向の全長が画面に入るように調整するのが望ましい。沈降するフロックを監視するためである。なお、RGBは映像信号における3色の信号を表し、Rは赤、Gは緑、Bは青色の信号を表す。RGB値は、RGB信号の信号強度をいい、各色信号の強度を言う場合はR値、G値、B値と呼ぶ。
【0027】
<制御装置>
制御装置16は、MPU(Micro Processor Unit)およびメモリ17で構成されるのが好適である。ただし、これ以外の構成を排除しない。入出力装置18が付加されていてもよい。制御装置16は、撮影機14からの画像データに対して、所定領域を切り出し、切り出し領域のRGB値の変化若しくは前記RGB値の変化に係る時間又は時刻を算出する。具体的には、切り出し領域のRGB値の平均値を時間的に記録し、RGB値の平均値の時間変化および変化量若しくは前記RGB値の変化に係る時間又は時刻を求める。以後、切り出し領域若しくは単に領域のRGB値とは、切り出し領域若しくは領域のRGB値の平均値をいう。
【0028】
撮影機14で撮影した画像データをそのまま記録しておき、後からRGB値の平均値の時間変化および変化量若しくは前記RGB値の変化に係る時間又は時刻を求めてもよい。RGB値の変化を撮影した画像データからRGB値の平均値の時間変化および変化量若しくは前記RGB値の変化に係る時間又は時刻を求める際に、1画像を選択する時刻を「測定時刻」と呼ぶ。測定時刻は、1画像毎であってもよいし、複数画素毎であってもよい。
【0029】
なお、本発明に係る排水処理状態監視装置では、画像データから直接値を得る場合もあるし、画像データから直接得た値に基づいて値を算出する場合もある。したがって、本明細書中では、「測定」は「算出」を含む概念としてもよい。
【0030】
制御装置16は、切り出し領域内のRGB値の強度分布も算出する。界面を求めるためである。また、「切り出し領域」は、画像データから垂直方向および水平方向に複数画素を有し、画像データ中の光透過容器10の光透過部分の全部ではない領域である。「切り出し領域」は、後述する<初期設定>中の[撮影機の校正]で詳説する。
【0031】
メモリ17には、後述する解析や評価の際に用いる閾値、許容値、平均値および信号の時間変化パターン(標準パターン)が記録されている。これらを判断基準データと呼ぶ。判断基準データは過去に人手によって得られた記録および記録の蓄積から得られたものであってもよいし、排水処理状態監視装置1が蓄積した記録から作られたものであってもよい。
【0032】
標準パターンは熟練した管理者の目視評価によって、適正な沈降であった場合のRGB値の時間変化である適正パターンから作成してもよい。例えば、複数の適正パターンの撮影画面毎の平均値等である。
【0033】
制御装置16は、撮影機14で撮影した評価対象となる被監視水の画像データ(これを評価対象パターンとも呼ぶ。)から調べたRGB値の時間変化および変化量および変化に係る時間又は時刻を判断基準データと比較し、その差が許容値の範囲外になった場合は警告を発信する。警告の発信先は特に限定されないが、入出力装置18がその発信を受け、警告表示してもよい。
【0034】
許容値とは、標準パターンから外れても許されると判断される値であって、標準パターンの値に対して幅を有していてもよい。したがって、許容値には、許容範囲が含まれる。また、許容値(許容範囲)は、後述する解析処理が有する複数の処理方法毎に設けられていてもよい。
【0035】
なお、制御装置16は排水処理状態監視装置1の全体を制御してもよい。特に排水処理状態監視装置1全体を制御する場合は、ポンプ56、凝集槽50からの排水の流入管52と流出管54に設けられたバルブ52vおよびバルブ54v、および洗浄水注入管60及び洗浄水排出管62に設けられた洗浄水注入バルブ60vと洗浄水排出バルブ62vを制御する。
【0036】
標準パターン、適正パターン、評価対象パターンは、記録開始時刻から記録終了時刻までの画像データの集合である。したがって、評価対象パターンの時間変化と判断基準データの時間変化を測定時刻毎に逐次比較する場合は、標準パターンが用いられる。
【0037】
<排水処理状態監視装置の動作>
次に排水処理状態監視装置1の動作を説明する。処理する排水Wqは、凝集槽50中に注入され、所定の凝集剤Flacが投入され、攪拌される。この攪拌によって、排水Wq中の反応物と凝集剤Flacが反応し、フロックが形成される。排水Wqに凝集剤Flacが投入され、フロックが形成された排水を反応液と呼ぶ場合がある。
【0038】
<メインフロー>
フロックが形成された排水が、排水処理状態監視装置1が監視する対象となる。フロックが形成された排水(反応液)を「被監視水」と呼ぶ。以下、排水処理状態監視装置1の動作について
図2のフローを用いて説明する。排水処理状態監視装置1の処理フローが起動されると(ステップS100)、終了判断が行われる(ステップS102)。終了判断の基準は特に限定されないが、処理の終了若しくは装置の停止指示といったものが考えられる。もちろん、以下の処理を行っている最中に、割り込みで終了指示がされてもよい。終了する場合(ステップS102のY分岐)は、終了し(ステップS104)、終了しない場合(ステップS102のN分岐)は、以下のステップに処理を移す。
【0039】
次に初期設定を行う(ステップS106)。初期設定は、光透過容器10内の洗浄、撮影機14の校正、撮影機14の設定等が行われる。初期設定のフローを抜けたら、バルブ52vとバルブ54vを開き、ポンプ56を稼働させて、凝集槽50の被監視水を光透過容器10内に通水する(ステップS108)。この通水は、流入管52、光透過容器10、流出管54内に被監視水が十分に行きわたるように一定時間行う。
【0040】
次に、バルブ52vとバルブ54vを閉じることで通水を停止し(ステップS110)、光透過容器10中に被監視水を閉じ込め、撮影機14によって画像データの記録を開始する(ステップS112)。この時の記録開始時刻をtSとする。そして所定時間の間、撮影機14で画像データの記録を継続する(ステップS114)。記録が終了する時刻を記録終了時刻tFとする。記録開始時刻tSから記録終了時刻tFまでを全記録時間と呼ぶ。
【0041】
そして、画像データの記録が終了したら、画像データの解析を行う(ステップS116)。解析では画像データから種々の評価を行い、各評価において、許容範囲から外れる項目があれば、警告を発信する。
【0042】
なお、初期設定中で示した光透過容器10内の洗浄は、監視を終了する(ステップS104)の前に、後処理工程として挿入してもよい。また、記録継続処理(ステップS114)と解析処理(ステップS116)は、同時に行ってもよい。また、通水処理(ステップS108)と解析処理(ステップS116)を一定時間毎に繰り返してもよい。以下各処理について詳説する。
【0043】
<初期設定>
図3に初期設定の処理を示す。初期設定では、光透過容器10の洗浄、撮影機14の設定等を行う。なお、それぞれの処理はスキップしてもよい。
【0044】
[洗浄]
初期設定がスタートすると(ステップS106)、光透過容器10の洗浄を行うかを判断する(ステップS200)。この判断は利用者が任意に行ってもよいし、必ず行うという自動設定にしてもよい。
【0045】
洗浄する場合(ステップS200のY分岐)なら洗浄を行う(ステップS210)。行わない場合(ステップS200のN分岐)なら、次の処理に移る。
【0046】
[撮影機]
次に撮影機14の調整を行うか否かを判断する(ステップS202)。本発明に係る排水処理状態監視装置1は画像データを用いるので、撮影機14の校正は重要である。撮影機14の校正を行う場合(ステップS202のY分岐)は、調整を行い(ステップS212)、行わない場合(ステップS202のN分岐)は、初期設定を終了しメインフロー(
図2)に戻る(ステップS204)。
【0047】
[洗浄]
図4を参照して、初期設定(
図3)における洗浄工程を説明する。洗浄工程が開始されたら(ステップS210)、流入管52のバルブ52vと流出管54のバルブ54vを閉じる(ステップS220)。そして、洗浄水注入バルブ60vと洗浄水排出バルブ62vを開き光透過容器10内に洗浄水を通水させる(ステップS222)。
【0048】
次に洗浄が終了したか否かを判断する(ステップS224)。洗浄の終了は一定時間が経過したか否かで判断してよい。洗浄が終了しない場合(ステップS224のN分岐)は、バルブを開き続け(ステップS220へ)、洗浄が終了したら(ステップS224のY分岐)、バルブを閉じる(ステップS226)。その後初期設定のフローに戻る(ステップS228)。
【0049】
[撮影機の校正]
図5を参照して、初期設定(
図3)における撮影機14の校正を説明する。撮影機14の校正がスタートしたら(ステップS212)、光透過容器10内に校正用液体を充填する(ステップS240)。校正用液体は、特に限定されるものではないが、安定的に供給される同一品質の液体が望ましい。ここでは洗浄水を使うものとする。したがって、ステップS240では、洗浄水注入バルブ60vと洗浄水排出バルブ62vを開き、洗浄水を光透過容器10内に通水させ、洗浄水排出バルブ62vと洗浄水注入バルブ60vを閉める。
【0050】
次に照明12を点灯させる(ステップS242)。そして、光透過容器10を透過する照明12の光を撮影し、RGB値の出力を得る。なお、RGB値の出力はそれぞれB(R)、B(G)、B(B)とし、まとめて示す場合はBNと記す。
【0051】
この時、画像としては、光透過容器10とその背面から投射している照明12が映っている。ここで、光透過容器10内に切り出し領域Ewを決める(ステップS244)。「切り出し領域Ew」とは、撮影機14が出力する画像データEの内で、光透過容器10の画像内の一部であり、垂直方向および水平方向に複数画素を有する領域である。
【0052】
「切り出し領域Ew」は、光透過容器10の光透過部分の全部ではない。また、切り出し領域Ewの右下の点を「切り出し領域Ewの基点wb」と呼ぶ。切り出し領域Ewの基点wbは、画像データEの中で垂直方向および水平方向の座標として与えられる。
【0053】
図6に画像データEと切り出し領域Ewの関係を示す。画像データEは撮影機14が撮影した1コマ分の画像データである。この画像データE中には光透過容器10、流入管52および流出管54が映っている。画像データEの縦方向が垂直方向であり、横方向が水平方向である。光透過容器10の光透過部分11は、左端11L、右端11R、下端11d、上端11uで囲まれた領域である。
【0054】
さて、現在扱っている排水で形成されるフロックの量は実験若しくは経験的に把握することができる。したがって、フロックが形成されれば、光透過部分11内にどれほどの状態のフロックが堆積するかを、ある程度求めることができる。この時のフロックの光透過容器10の下端11dからの高さを「平均的な界面高さHe」とする。平均的な界面高さHeより上の部分を「上澄み部Sk」といい、下の部分を「堆積部Se」と呼ぶ。
【0055】
切り出し領域Ewは、少なくとも上澄み部Skに1つ設ける。
図6では、領域aである。領域aの切り出し領域Ewの基点wbを「領域aの基点wb(a)」とする。領域aは、フロックの沈降状態を評価することができる。
【0056】
さらに、切り出し領域Ewは、平均的な界面高さHeを含むように設けることもできる。
図6では、領域cが該当する。領域cは、フロックの界面状態(界面高さを含む)を評価することができる。
【0057】
また、領域aおよび領域cの監視精度を高めるためにそれぞれの領域を複数個所設けてもよい。
図6では、領域aに対する領域bであり、領域cに対する領域dである。上澄み部Skに複数個の領域を設けることで、フロックの沈降が水平方向左右の位置によって均等に沈降しているか否かを知ることができる。また、平均的な界面高さHeを含む領域に複数個の領域を設けることで、界面高さの水平度を知ることができる。
【0058】
なお、できるフロックの状態の情報が予めない場合は、光透過部分11の下端11dから上端11uに渡る領域があるとフロック高さを求めることができる。例えば
図6では領域eである。このような領域を設けてもよい。
【0059】
各領域は、基点wbが決まっているので、光透過部分11の下端11dから領域下端までの距離Hと、左端11Lからの距離Lを求めることができる。
【0060】
図6では、領域aおよび領域bの左端11Lからの距離はL(a)およびL(b)で表され、領域cおよび領域dの下端11dからの距離はH(c)およびH(d)で表される。もちろん領域aおよび領域bについても下端11dからの距離Hは求めることができ、領域cおよび領域dの左端11Lからの距離Lも求めることができる。
【0061】
なお、この切り出し領域Ewは、一度設定したら、被監視水の種類が同じ間は、基本的には設定を変更する必要はない。
【0062】
再び
図5を参照する。次に切り出し領域Ew毎にその領域のRGB値B
N(信号出力B
N)と校正用平均値B
STとの差の絶対値が校正許容値A
BST内に収まっているか否かを調べる(ステップS246)。領域のRGB値とは、切り出し領域Ew毎の各画素におけるRGB信号毎の平均値としてよい。また、校正用平均値B
STは、切り出し領域Ew毎のRGB各信号に対してすでに与えられているもので、一部例外を除去した過去の測定の平均値若しくは人為的に生成されたもの(判断基準データ)であるとしてよい。校正用平均値B
STは校正許容値A
BSTと共にメモリ17中に判断基準データとして記録されている。
【0063】
なお、RGB各信号に対する校正用平均値BSTおよび校正許容値ABSTは、信号毎存在する。これらを信号毎に言う場合は、各記号の後に括弧付けで信号名を記載する。具体的には、R信号の校正用平均値BST(R)、G信号の校正用平均値BST(G)、B信号の校正用平均値BST(B)、R信号の校正許容値ABST(R)、G信号の校正許容値ABST(G)、B信号の校正許容値ABST(B)等である。以後の信号についても同様のルールとする。
【0064】
切り出し領域Ew毎にその領域のRGB値BNと校正用平均値BSTとの差が、校正許容値ABST内に収まっていない場合(ステップS246のN分岐)は、校正を行い(ステップS248)、再度校正用平均値BSTとの誤差が校正許容値ABST内になるか否かを確認する(ステップS246)。なお、校正時の切り出し領域Ewの調整方法は特に限定されるものではないが、一例として各信号のゲインを調整する等が考えられる。
【0065】
校正許容値ABST内に収まっている場合(ステップS246のY分岐)は、全ての切り出し領域Ewについての校正が終わったか否かを判断し(ステップS250)、終了していない場合(ステップS250のN分岐)は、ステップS246に戻り、未確認の切り出し領域Ewを調べる。終了した場合(ステップS250のY分岐)は、この処理を終了し初期設定に戻る(ステップS252)。
【0066】
<解析>
次に
図7を参照して、
図2のメインフローの画像データの解析(ステップS116)について詳説する。解析が開始されたら(ステップS116)、得られた画像データを評価対象パターンとして、「傾向」、「沈降状態」、「界面状態」、「安定時間」、「輝度変化」、「プロファイル」といったメニューで解析を行う。「傾向」が選択された場合(ステップS270のY分岐)は、処理を傾向の評価に移す(ステップS300)。
【0067】
「傾向」の評価では、領域aを使って被監視水の傾向について評価する(ステップS300)。なお、もちろん領域bがある場合は領域bを用いてもよく、両方用いてもよい。ここで「傾向」とは、領域a中で監視される被監視水中のフロック濃度の時間変化をいう。これを判断基準データと比較する。また、領域aはフロックが沈降した際の上澄みを見ているので、「傾向」の解析はフロックの「見た目」の解析といってもよい。「傾向」の評価が選択されなかった場合(ステップS270のN分岐)は、処理を次に移す。
【0068】
次に「沈降状態」の評価を行うか否かを選択する(ステップS272)。「沈降状態」の評価を行う場合(ステップS272のY分岐)は、「沈降状態」の評価に処理を移す(ステップS302)。
【0069】
「沈降状態」の評価では、領域aを使って沈降状態を評価する(ステップS302)。具体的には、領域aのRGB値が一定の閾値以上になるまでの時間を調べる。これは、沈降時間の監視である。これを判断基準データと比較する。「沈降状態」の評価が選択されなかった場合(ステップS272のN分岐)は、処理を次に移す。
【0070】
次に「界面状態」の評価を行うか否かを選択する(ステップS274)。「界面状態」の評価を行う場合(ステップS274のY分岐)は、「界面状態」の評価に処理を移す(ステップS304)。
【0071】
「界面状態」の評価では、領域cを使って、フロックと排水の界面状態(界面高さ)を評価する(ステップS304)。なお、もちろん領域dがある場合は領域dを用いてもよく、両方用いてもよい。フロックと排水の界面高さを判断基準データと比較することでフロックを定量的に判断できる。また、界面高さ付近のRGB値を判断基準データと比較することでフロックの密度や凝集反応の妥当性を判断できる。「界面状態」の評価が選択されなかった場合(ステップS274のN分岐)は、処理を次に移す。
【0072】
次に「安定時間」の評価を行うか否かを判断する(ステップS276)。「安定時間」の評価を行う場合(ステップS276のY分岐)は、「安定時間」の評価に処理を移す(ステップS500)。
【0073】
「安定時間」の評価では、いずれかの領域を使って、RGB値が暗(値がゼロ)から明(値が最大)に移行した後、安定状態になる時刻を測定する。適切に沈降が行われた場合、輝度が暗から明に移行した後、安定状態になる時刻は、記録開始時刻tSから、ほぼ同じ時刻となる。したがって、予め作成した標準パターンにおける安定化開始時刻を基準安定化時刻として判断基準データ中に記録しておき、その時刻と評価対象パターンの安定化開始時刻を比較することで沈降の妥当性を判断することができる。「安定時間」の評価が選択されなかった場合(ステップS276のN分岐)は、処理を次に移す。
【0074】
次に「輝度変化」の評価を行うか否かを判断する(ステップS278)。「輝度変化」の評価を行う場合(ステップS278のY分岐)は、「輝度変化」の評価に処理を移す(ステップS502)。
【0075】
「輝度変化」の評価では、いずれかの領域を使って、評価対象パターンにおいて、輝度が暗から明に移行する変化の仕方を判断基準データ(標準パターン)と比較する。この輝度変化の評価では、判断基準データに蓄積された過去の適切とされた適正パターンから、各測定時刻毎にRGB値の平均値と、正規分布から求めた許容範囲を正規分布による許容範囲として算出し、判断基準データ中に記録する。なお、標準パターンはRGB値の平均値で構成する。
【0076】
また、その正規分布による許容範囲に、評価対象パターンのRGB値が含まれるか否かを測定時刻毎に比較する。評価対象パターンのRGB値が正規分布による許容範囲に含まれていれば、沈降状態も適切であると判断できる。「輝度変化」の評価が選択されなかった場合(ステップS278のN分岐)は、処理を次に移す。
【0077】
次に「プロファイル」の評価を行うか否かを判断する(ステップS280)。「プロファイル」の評価を行う場合(ステップS280のY分岐)は、「プロファイル」の評価に処理を移す(ステップS504)。
【0078】
「プロファイル」の評価では、いずれかの領域を使って、輝度が暗から明に移行する時刻および変化時間を判断基準データと比較する。具体的には、標準パターンでのRGB値が暗から明に変わる直前の変化前時間を基準変化前時間とし、RGB値が暗から明に変わっている変化時間を基準変化時間として予め判断基準データ中に記録しておく。
【0079】
排液のフロックの状態は、日々の気温や湿度によって微妙に変化する。したがって、測定時刻毎に標準パターンと評価対象パターンを比較しては、厳しく判断しすぎる場合もある。そこで、記録開始時刻tSから記録終了時刻tFまでの前記録時間における輝度変化を大きく見ることで評価するものである。「プロファイル」の評価が選択されなかった場合(ステップS280のN分岐)は、処理を次に移す。
【0080】
以上の各評価において、閾値や平均値との差が許容範囲になければ、各評価毎に警告を発することとなる。これらの解析が終了したら解析処理を継続するか否かを判断する(ステップS282)。解析処理を継続する場合(ステップS282のY分岐)は、ステップS270に処理を戻す。また、解析処理を終了する場合(ステップS282のN分岐)は、メインフローに戻る(ステップS306)。以下各解析処理の詳細について説明する。
【0081】
[傾向の評価]
図8を参照して被監視水の傾向の評価について説明する。傾向の評価がスタートすると(ステップS300)、領域aのRGB信号毎にRGB値の時間変化パターンB
TPと標準パターンB
STPとの差Difを調べる。
図9に領域aのR信号のRGB値の時間変化パターンB
TP(R)について例示する。
図9を参照して横軸は時刻tであり縦軸は領域aのR信号の出力(R値)である。時刻t
Sは記録開始時刻(
図2のステップS112参照)であり、時刻t
Fは記録終了時刻である。
【0082】
実測したRGB値の時間変化パターンが符号BTP(以後「実測値BTP」と呼ぶ。)であり、標準パターンが符号BSTPである。実測値BTPは、領域aの信号出力BNの時刻毎のデータの集合(信号出力BNの時間変化)である。実測値BTPも標準パターンBSTPもRGB信号毎に存在する。ここでは、R信号のRGB値の時間変化パターンBTP(R)は、標準パターンBSTP(R)と比較して観測時間を通じて、低い状態であることを示している。具体的には、時刻tSから時刻tFまでの間の任意の時刻txにおいて、BSTP(R)はBTP(R)より大きい。
【0083】
図8のステップS310の「比較」では、時刻t
Sから記録終了時刻t
Fまでの間のデータで、実測値B
TPと標準パターンB
STPの差を観測時刻毎に求め、その中の最大値を差Difとして求める。
図9では、時刻t
xの時の差Dif(t
x)を例示した。差Difは、Dif(t
x)(t
S≦t
x≦t
F)の最大値であり、RGB信号毎に求められる。それぞれDif(R)、Dif(G)、Dif(B)と表される。
【0084】
そして、差Difの絶対値が傾向許容値AT以下であるか否かを調べる(ステップS312)。この処理はRGB各信号について求められる。つまり傾向許容値ATもRGB信号毎に存在する。それぞれAT(R)、AT(G)、AT(B)とする。傾向許容値ATは、RGB毎にメモリ17中に判断基準データとして記録されている。そして差Difの絶対値が傾向許容値AT以下でない場合(ステップS312のN分岐)は、警告を発信する(ステップS314)。これはRGB信号の何れかの信号で傾向許容値ATを超えていれば警告を発信してよい。
【0085】
差Difの絶対値が傾向許容値A
T以下であれば(ステップS312のY分岐)、処理を
図7の解析処理に戻す(ステップS316)。なお、ステップS312の判断は記録開始時刻t
Sから記録終了時刻t
Fまでの全記録時間について判断される。また、時間変化パターンおよび実測値B
TPは、評価対象パターン(よって評価対象パターンB
TPと呼んでもよい。)である。
【0086】
[沈降状態の評価]
図10を参照して、被監視水の沈降状態を用いて沈降時間および見た目の評価について説明する。沈降状態の評価は領域aのRGB値を用いて行う。沈降状態の評価がスタートすると(ステップS302)、領域aの各信号出力B
Nと信号毎の沈降閾値BW
THを比較し、信号出力B
Nが沈降閾値BW
THより大きくなる時間TW
Nを求める(ステップS330)。RGB毎の沈降閾値は、それぞれ符号BW
TH(R)、BW
TH(G)、BW
TH(B)と表される。なお、RGBの各信号出力B
Nが信号毎の沈降閾値BW
THより大きくなる時間をそれぞれTW
R、TW
G、TW
Bとする。それぞれをまとめて示す際はTW
Nとする。
【0087】
図9には領域aのR信号の実測値B
TP(R)において、領域aのR信号の出力B(R)が沈降閾値BW
TH(R)を超える時刻がtaであり、時刻t
Sからの時間がTW
Rであることを示している。時刻taは、沈降状態の評価時刻taといってよい。
【0088】
図10を再度参照して、この時間TW
Nと沈降時間平均値TW
AVの差の絶対値が沈降時間許容値AW
TBより大きければ(ステップS332のN分岐)、警告を発信する(ステップS334)。そうでなければ(ステップS332のY分岐)、処理を解析に戻す(ステップS336)。
【0089】
なお、沈降時間平均値TWAVと沈降時間許容値AWTBは、切り出し領域Ew毎のRGB各信号に対してすでに与えられているもので、過去の測定の平均値および予め定められた許容値であるとしてよい。沈降時間平均値TWAVおよび沈降時間許容値AWTBは、RGB信号毎にあり、それぞれTWAV(R)、TWAV(G)、TWAV(B)、AWTB(R)、AWTB(G)、AWTB(B)である。沈降時間平均値TWAVおよび沈降時間許容値AWTBは、共にメモリ17中に判断基準データとして記録されている。
【0090】
[界面状態]
次に
図11を参照して界面状態(界面高さ)の評価について説明する。界面状態の評価は
図9における界面状態評価時刻t
Bでの領域cの画像データを用いて行う。領域dがある場合は領域d若しくは両方を用いてもよい。界面状態評価時刻t
Bは、沈降状態の評価時刻ta以後で、記録終了時刻t
Fまでの間ならいつでもよい。記録終了時刻t
Fに行うのが好ましい。
【0091】
界面状態では、フロックが沈降した部分と、上澄みにあたる溶媒だけの部分との界面に関する評価を行う。ここでは光透過部分11の下端11d(
図6参照)からの高さを界面高さHpとして評価する方法を例示する。界面高さHpを評価することで、フロックの形成状態の判断指針となる。なお、界面高さHpは光透過部分11の下端11dからの距離H(c)を加えた高さとしてもよい。
【0092】
界面状態の評価がスタートしたら(ステップS304)、フロックの沈降した部分とフロックのない部分の境界となる界面の高さ(界面高さ)Hpを求める(ステップS370)。なお、界面高さHpを求める方法については、一例を後述する。
【0093】
図12には、界面高さ評価時刻t
Bでの領域cの画像データを示す。
図12を参照して、領域cの左下は基点wb(c)である。光透過部分11の下端11dからの距離はH(c)として求めることができる。領域cはフロックが沈降した部分FLと、ほぼ溶媒だけの部分MDに分かれる。
【0094】
被監視水は、予めある程度生成されるフロックの量が知られている。したがって、凝集し沈降したフロックによる界面高さHpは処理毎にそれほど大きく変化しない。また、界面高さHpは、フロックの嵩高さも評価することができる。つまりフロックが嵩高くなっていると、フロックが沈降した部分FLの透過率が高くなるからである。
【0095】
図11を再度参照して、次に界面高さHpと界面高さ平均値H
AVとの差が界面高さ許容値A
H以下になっているか否かを調べる(ステップS372)。なお、界面高さ平均値H
AVは、
図6で示した平均的な界面高さHeと同じであってよい。より具体的に、平均値H
AVは、領域cの下端からの距離がHe-H(c)となる(
図12参照)。
【0096】
界面高さHpと界面高さ平均値HAVとの差の絶対値が、界面高さ許容値AH以上なら(ステップS372のN分岐)、警告を発信し(ステップS374)、界面高さ許容値AH以下なら(ステップS372のY分岐)、処理を解析に戻す(ステップS376)。
【0097】
なお、界面高さ平均値HAVと界面高さ許容値AHは、切り出し領域Ew毎のRGB各信号に対してすでに与えられているもので、過去の測定の平均値および予め定められた許容値であるとしてよい。界面高さ平均値HAVおよび界面高さ許容値AHは、RGB信号毎にあり、それぞれHAV(R)、HAV(G)、HAV(B)、AH(R)、AH(G)、AH(B)である。界面高さ平均値HAVおよび界面高さ許容値AHは、共にメモリ17中に判断基準データとして記録されている。なお、界面高さ許容値AHは、界面高さに関する判断基準データである。
【0098】
以上のように本発明に係る排水処理状態監視装置1は、光透過容器10中のフロックの発生状況を予定された通りに反応できたか否かを評価することができる。
【0099】
なお、
図11のステップS370は界面高さHpを求める。界面高さHpを求める方法については、特に限定されない。しかし、一例として線形判別分析(Linear Discriminant Analysis)は好適に利用できる。この方法について、
図13および
図14のフローを用いて説明する。
【0100】
図14を参照して、ステップS370では、領域cの画像データに基づいて、まず境界Zを求め、境界Zに基づいて界面高さHpを求める。線形判断分析法は、領域内に白黒の分布が存在する時に、白黒の境界線を算出する。
図13を参照して説明する。まず領域cに仮境界Ziを設定し、領域cを仮境界Ziで水平に切る。そして、仮境界Ziの上下の領域間の分離度を求める。仮境界Ziを領域cの下端から上端まで移動させ、分離度の最大値を求め、分離度の最大値を与える仮境界Ziの位置を界面高さHpとする。
【0101】
具体的には、仮境界Ziの上下の画素数と、RGB値の平均値(以後「RGB平均値」と呼ぶ。)および分散を求める。仮境界Ziより下の画素数と上の画素数をω1、ω2とし、仮境界Ziより下のRGB平均値と上のRGB平均値をm1、m2とし、仮境界Ziより下のRGB値の分散と上のRGB値の分散を表し、σ2
1、σ2
2と表す。
【0102】
仮境界Ziを下から上に向かって移動させながら、移動の都度分離度ηを求め、分離度ηが最大になる時の仮境界Ziを境界Zとして求める。
図13では、仮境界Ziの時の分離度をη(Zi)とした。なお、分離度ηを最大にするには、結局(2)式の分子を最大にすればよいことが判っている。なお、仮境界Ziの上下の分離度ηは(1)式で求められる。
【0103】
【0104】
ここで、σ2
bはクラス間分散であり、σ2
wはクラス内分散であり、それぞれ(2)式、(3)式で表される。
【0105】
【0106】
【0107】
なお、各パラメータを再掲する。
ω1:仮境界Ziより下の画素数
ω2:仮境界Ziより上の画素数
m1:仮境界Ziより下のRGB平均値
m2:仮境界Ziより上のRGB平均値
σ2
1:仮境界Ziより下のRGB分散
σ2
2:仮境界Ziより上のRGB分散
【0108】
図14を再度参照する。ステップS370が始まると、初期設定が行われる。(ステップS400)。初期設定としては、仮境界Zi(k)、仮境界Ziの移動インデックスkおよび最大分離度η
maxを初期化する。仮境界Ziは、Z0からZnまで、n+1回のステップで移動する。
【0109】
Z0およびZnは領域c内において任意に設定することができる。例えば、Z0を領域cの下端の画素の垂直座標、Znを領域cの上端の画素の垂直座標とするなどである。領域c内の垂直座標であれば、どこからどこまでを設定してもよい。
【0110】
また、移動インデックスkは移動幅を表し、インクリメントする毎に仮境界Ziが移動する垂直方向の画素数(画素の垂直方向の画素数)である。移動インデックスkは1画素以上で領域cの垂直方向の画素数の半分以下に設定される。
【0111】
次に終了判定を行う(ステップS402)。終了判定は、仮境界Zi(k)(:k番目の仮境界を表す。)が、Znの位置まで移動したか否かで判断してよい。終了ならば(ステップS402のY分岐)、その時の境界Zから界面高さHpを求め(ステップS404)、
図11の界面状態のルーチンに戻る(ステップS406)。
【0112】
終了でなければ(ステップS402のN分岐)、仮境界Zi(k)より上の領域の特性値を調べる(ステップS410)。ここで特性値とは、画素数、RGB平均値、RGB分散である。同様に仮境界Zi(k)より下の領域の特性値を求める(ステップS412)。
【0113】
そして上記の(1)式に基づいて分離度ηを算出し(ステップS414)、最大分離度ηmaxと比較する(ステップS416)。算出した分離度ηが最大分離度ηmax以上であれば(ステップS416のY分岐)、分離度ηと最大分離度ηmaxを入れ替え、境界Zを仮境界Zi(k)とする(ステップS418)。そして、移動インデックスのkをインクリメントする(ステップS420)。ステップS418の処理によって、終了判定(ステップS402)で終了と判定された際には、最大分離度ηmaxの時の境界Zが得られている。
【0114】
一方、算出した分離度ηが最大分離度ηmax以上でなければ(ステップS416のN分岐)、ステップS418を実施せずに、ステップS420に処理を移す。そして再度終了判定を行う(ステップS402)。
【0115】
境界Zを求めた後、領域cの下端から境界Zまでの界面高さHpを求める。界面高さHpは領域cの下端からの高さでよい。この高さHpは、画素数で換算した長さであってもよいし、画素数自体であってもよい。また上述したように光透過部分11の下端11dからの距離H(c)を加えた高さとしてもよい。
【0116】
[安定時間]
図15を参照して、被監視水の安定時間の評価について説明する。
図15では横軸が時刻であり、縦軸はRGB値(まとめて「B
N値」とする。)である。以下の評価はR、G、Bそれぞれについて行われる。
図15では、いずれかの信号である旨の表記(例えば「標準パターンB
STP(R)」といった表記は省略し単に「標準パターンB
STP」と呼ぶ。
【0117】
標準パターンB
STPは暗状態からフロック等の沈降によって明状態にRGB値は変化する。そして、記録開始時刻t
Sに対して、変化が安定する時刻t
SSBが存在する。この安定化時刻t
SSBは、沈降が適切と考えらえる場合は、ほぼ一定している。一方、フロック等の沈降が適切でない場合は、この安定化時刻が大きく変化する。
図15では、評価対象パターン
1B
TPは、安定化時刻t
SBがt
SSBに対して早く、評価対象パターン
2B
TPは逆に遅い。そこで、評価対象パターンB
TPの安定化時刻t
SBが標準パターンB
STPの安定化時刻t
SSBに対して一定の範囲に含まれているか否かを評価するのが安定時間の評価である。標準パターンB
STPの安定化時刻t
SSBを基準安定化時刻t
SSBと呼ぶ。
【0118】
図16に処理のフローを示す。安定時間の評価がスタートすると(ステップS500)、標準パターンB
STPの基準安定化時刻t
SSBを算出する(ステップS510)。次に評価対象の時間変化パターンB
TPの安定化時刻t
SBを算出する(ステップS512)。次に安定化時刻の有無を確認する(ステップS514)。安定化時刻の算出においては、「安定化時刻が存在しない」という結果もあり得るからである。
【0119】
安定化時刻が存在しなければ(ステップS514のN分岐)、ステップS520の警告表示に処理を移す。安定化時刻が存在すれば(ステップS514のY分岐)、処理を次に進める。
【0120】
次に安定化時刻t
SBが標準パターンB
STPの基準安定化時刻t
SSBに対して一定の範囲に含まれているか否かを判断する(ステップS516)。この範囲は許容範囲となる(
図15参照。)。ここでは、安定化時刻t
SBと基準安定化時刻t
SSBの差の絶対値が所定時間α以内であるとして判断したが、一定の範囲の決め方はこれに限定されるものではない。上限値と下限値が基準安定化時刻t
SSBに対して非対称であってもよい。
【0121】
安定化時刻tSBが標準パターンBSTPの基準安定化時刻tSSBに対して一定の範囲に含まれていなければ(ステップS516のN分岐)、警告を発する(ステップS520)。含まれていれば(ステップS516のY分岐)、合格信号を発する(ステップS518)。そして、解析ルーチンに戻る(ステップS522)。
【0122】
図17には、安定化時刻の算出の処理を説明する。安定化時刻の算出処理が開示されると(ステップS510若しくはステップS512)、初期設定が行われる(ステップS530)。初期設定は、安定化時刻を算出する画像データの取り込みと、時刻に係る変数kの初期化(値をゼロにする)が含まれる。以後「t
k」は、時刻t
kを表し、係数kがインクリメントされる毎に測定時刻が進む。時刻t
kは、記録開始時刻t
Sから記録終了時刻t
Fまでを全記録時間内の時刻である。
【0123】
ここで画像データは、被監視水の沈降を撮影した評価対象パターンBTP若しくは標準パターンBSTPの何れかである。これらの画像データは、ともに記録開始時刻tSから記録終了時刻tFまでの前記録時間を含むデータである。
【0124】
初期設定が終了すると画像データの信号出力B
Nが中間値BM
THを超えているか否かを調べる(ステップS532)。中間値BM
THは、輝度の最高値に対して約半分の出力の値である(
図15参照。)。中間値BM
THは、輝度変化が生じたことが判ればよく、輝度の最高値の正確に半分でなくてもよい。また、輝度変化が生じたであろう時刻を想定してそれまでスキップしてもよい。中間値BM
THを超えない場合(ステップS532のN分岐)は、係数kをインクリメントし(ステップS534)、同じステップS532に戻る。
【0125】
信号出力BNが中間値BMTHを超えたら(ステップS532のY分岐)、時刻tkにおける変化量が所定の値SBより小さくなっているか否かを調べる(ステップS536)。変化量(微小時間あたりの変化量)をここではΔBN/Δtと表したが、Δt秒前の信号出力との差分であってもよい。またΔtは、測定間隔(隣接する測定時刻間の時間)であってよい。
【0126】
変化量が所定の値SBより小さくなければ(ステップS536のN分岐)、安定状態になっていないと判断し、安定化時刻tSBはリセットし(ステップS538)、係数kをインクリメントし(ステップS540)、変化量を調べる工程(ステップS536)に戻る。
【0127】
変化量が所定の値SBより小さい場合(ステップS536のY分岐)は、安定状態に入った可能性がある。その場合は、まず安定化時刻tSBがゼロか否かを判断する(ステップS542)。安定化時刻tSBがゼロであれば(ステップS542のY分岐)、安定化時刻tSBにその時の時刻tkを代入する(ステップS544)。そして係数kをインクリメントし(ステップS540)、変化量を調べる工程(ステップS536)に戻る。
【0128】
ステップS536からステップS544は、安定化する最初の時刻を安定化時刻tSBとして記録する。すなわち、仮に変化量が小さく(SB以下)なっても、その後に、大きくなったら、安定化時刻tSBはリセットされる(ステップS538)。
【0129】
安定化時刻tSBがゼロでなければ(ステップS542のN分岐)、現在の時刻tkが終了時刻tFか否かを判断する(ステップS546)。終了時刻tFでなければ(ステップS546のN分岐)、係数kをインクリメントし(ステップS540)、変化量を調べる工程(ステップS536)に戻る。
【0130】
終了時刻tFであれば(ステップS546のY分岐)、tF-tSBが所定の時間TSBより大きいか否かを判断する(ステップS548)。つまり、安定化時刻tSB以降一定の時間安定状態が継続すれば、沈降は安定していると判断する。言い換えると、安定化時刻は、その時刻以降一定期間の間変化量が小さくなければならないとする。
【0131】
したがって、tF-tSBが所定の時間TSBより大きければ(ステップS548のY分岐)、安定化時刻tSBを返し(ステップS550およびステップS554)、tF-tSBが所定の時間TSBより小さければ(ステップS548のN分岐)、観測時間(記録開始時刻tSから記録終了時刻tFまでの間)には信号出力は安定しなかったとして、「安定時刻なし」の結果を返す(ステップS552およびステップS554)。
【0132】
なお、安定化時刻tSBは画像データが標準パターンBSTPの場合は基準安定化時刻tSSBとなる。基準安定化時刻tSSBは、判断基準データに保存される。
【0133】
以上のように、安定化時刻では、輝度の変化が明になった後に、信号出力が安定化する時刻を判断基準データと比較する。
【0134】
[輝度変化]
図18を参照して「輝度変化」の評価について説明する。
図18(a)は、全記録時間を含む標準パターンB
STPと、それを中心とした許容範囲NWを示している。輝度変化の評価では、沈降が適切とされた複数の標準パターンから測定時刻t
k毎に許容範囲NW(t
k)を決め、その最大値NWuと最小値NWdの範囲に被監視水の測定結果である信号出力が含まれていれば、適切な沈降が行われたと判断する。
【0135】
ここで標準パターンBSTPは、過去に目視判断で「正常」と判断された複数の信号出力(適正パターン)の撮影時刻毎の平均μ(tk)を用いる。「tk」は時刻「tk」の意味で、μ(tk)は、時刻tkの時点での信号出力の平均値を表す。
【0136】
この標準パターンB
STPからの許容範囲NWは、測定時刻毎のデータから作成する正規分布の一定の範囲とする。ここでは、一定の範囲を80%の範囲として説明を続ける。
図18(b)は、時刻t
kの時の許容範囲NWの求め方を示す。時刻t
kに複数の適正パターンのデータがあれば、平均μ(t
k)と標準偏差σ(t
k)(時刻t
kの時点での信号出力の標準偏差)を求めることができ、平均と標準偏差が決まれば正規分布N(μ(t
k)、σ
2(t
k))を求めることができる。露わに書くと(4)式のようになる。
【0137】
【0138】
ここでx=±1.282σを代入することで、存在確率が80%となる最大値NWuと最小値NWdを得ることができる(
図18(b)参照。)。評価対象パターンが、各時刻毎にこの範囲に含まれていれば、好適な沈降が行われたと判断できる。この許容範囲を「正規分布による許容範囲」と呼ぶ。「正規分布による許容範囲」は、判断基準データ中に記録される。
【0139】
図19に輝度変化の処理を示す。輝度変化の評価がスタートすると(ステップS502)、複数の適正パターンから、撮影時刻毎に平均値μ(t
k)と、正規分布による許容範囲を求める(ステップS560)。時刻t
kでの正規分布による許容範囲の最大値はNWu(t
k)であり、最小値はNWd(t
k)である。なお、正規分布による許容範囲NWは全記録時間にわたって測定時刻毎に求められる。なお、正規分布による許容範囲の算出は、予め行っておき、判断基準データに記録しておき、それを読み込むだけであってもよい。
【0140】
次に評価対象パターン(被監視水の場合の信号出力)を読込み(ステップS562)撮影時刻毎にRGB出力BNは正規分布による許容範囲にあるか否かを判断する(ステップS564)。
【0141】
信号出力BNが正規分布による許容範囲に含まれていれば(ステップS564のY分岐)、合格信号を出し(ステップS566)、解析処理へ戻る(ステップS570)。また、信号出力BNが正規分布による許容範囲に含まれなければ(ステップS564のN分岐)、警告を発し(ステップS568)、解析処理へ戻る(ステップS570)。
【0142】
なお、ここでは、測定時刻毎に正規分布による許容範囲が決められるので、評価対象パターンの全てのRGB出力BNは正規分布による許容範囲内になければならないとした。しかし、正規分布による許容範囲から外れた数を計測し、全記録時間内の撮影枚数に対する割合が一定以下であれば、合格とする判断をしてもよい。
【0143】
図20に標準パターンから正規分布による許容範囲を求める処理を示す。許容値を求める処理がスタートすると(ステップS560)、初期設定を行う(ステップS580)。ここで、初期設定とは、時刻を表す係数kをリセットし、複数の適正パターンを読み込まれることが含まれる。複数の適正パターンは
1B
OK、
2B
OK、・・・、
NB
OKとする。なお、「
NB
OK」はN番目の適正パターンを示す。単に適正パターンを総称する場合は、符号「B
OK」を用いる。
【0144】
次に時刻tk(k=0の時の時刻は時刻tS)において、複数の適正パターンBOKから平均μ(tk)と標準偏差σ(tk)を求める(ステップS582)。具体的には(5)式および(6)式である。なお、標準偏差は分散σ2(tk)として求めている。
【0145】
【0146】
次に標準パターンBSTP(tk)として平均μ(tk)を代入する(ステップS584)。これによって、輝度変化の評価における標準パターンは複数の標準パターンの平均値の集合となる。
【0147】
次に平均μ(tk)と標準偏差σ(tk)から正規分布N(μ(tk)、σ2(tk))が求められる(ステップS586)。この正規分布は(4)式に示したものである。
【0148】
次に正規分布による許容範囲の最大値NWuおよび最小値NWdを(7)式(8)式の様に求める(ステップS588)。なお、許容範囲NWは判断基準データに記録される。
【0149】
【0150】
そして、記録終了時刻tFまで調べたか否かを判断し(ステップS590)、まだ記録終了時刻tFまで調べていなければ(ステップS590のN分岐)、係数kをインクリメントして(ステップS592)、処理をステップS582に戻す。記録終了時刻tFまで調べていれば(ステップS590のY分岐)、処理を輝度変化の評価の処理に戻る(ステップS594)。なお、ここでは記録終了時刻tFまで調べたが、記録終了時刻tFより前の時刻で終了してもよい。
【0151】
以上のように、輝度変化の評価では、複数の適正パターンから撮影時刻毎に正規分布を求め、その確率分布が80%になる範囲を正規分布による許容範囲の最大値NWuおよび最小値NWdとして、評価対象パターンの信号出力BNがこの正規分布による許容範囲に含まれるか否かで、沈降が妥当なものであるかを評価する。なお、ここでは、正規分布による許容範囲を確率分布が80%となる範囲としたが、80%以外の範囲に設定してもよい。
【0152】
[プロファイル]
図21を用いて「プロファイル」の評価について説明する。
図21は、横軸が測定時刻であり、縦軸はRGB出力B
Nである。標準パターンB
STPの場合記録開始時刻t
Sから少し経過した時刻t
p1から時刻t
p2の間の時間T
p1の間、暗状態があり、時刻t
p2から時刻t
p3までの間で暗から明にRGB出力B
Nが変化する。そして、時刻t
p3から記録終了時刻t
Fまで安定した明の状態が継続する。
【0153】
一方、被監視水が適切な沈殿が行われなかった場合は、暗から明への立ち上がり時刻が時刻tp2より早かったり、逆に遅かったりする。また、暗から明への変化の時間Tp2が標準パターンBSTPの場合より長かったり、短かったりする。したがって、標準パターンBSTPにおいて、時刻tp1、tp2、tp3および時間Tp1、Tp2を求めこれを判断基準データとし、被監視水の場合と比較する。なお、これらの時刻および時間をプロファイルの特徴点と呼ぶ。
【0154】
また、時刻tp1を変化前時刻、時刻tp2を変化開始時刻、時刻tp3を変化終了時刻、時間Tp1を変化前時間、時間Tp2を変化時間、時間Tp3を変化後安定化時間と呼ぶ。なお、変化前時間Tp1は、予め与えられる時間である。
【0155】
次に
図22にプロファイルの評価の処理フローを示す。プロファイルの評価の処理がスタートすると(ステップS500)、標準パターンB
STPにおけるプロファイルの特徴点を求める(ステップS600)。標準パターンB
STPの特徴点は、基準変化前時刻t
sp1、基準変化開始時刻t
sp2、基準変化終了時刻t
sp3および基準変化前時間T
sp1、基準変化時間T
sp2として算出される。これらの特徴点は判断基準データ中に記録される。次に同様に評価対象パターンにおけるプロファイルの特徴点を求める(ステップS602)。
【0156】
そして、評価対象パターンのRGB出力B
Nの変化前時刻t
p1と標準パターンB
STPの基準変化前時刻t
sp1との差が一定幅(ここでは±βとした)に含まれるか否かを判断する(ステップS604)。
図22では、t
p1とt
sp1との差の絶対値がβ以下であるとして表した。
【0157】
評価対象パターンの変化前時刻tp1が標準パターンBSTPの基準変化前時刻tsp1に対して一定の幅に入っていない場合(ステップS604のN分岐)は、警告を発し(ステップS610)、処理を解析処理に戻す(ステップS612)。評価対象パターンの変化前時刻tp1が標準パターンBSTPの基準変化前時刻tsp1に対して一定の幅に入っている場合(ステップS604のY分岐)は、処理を次に移す。
【0158】
次に評価対象パターンの変化時間T
p2が標準パターンB
STPの基準変化時間T
sp2に対して一定の範囲(ここでは±γとした。)に含まれるか否かを判断する(ステップS606)。
図22では、T
p2とT
sp2との差の絶対値がγ以下であるとして表した。
【0159】
評価対象パターンの変化時間Tp2が標準パターンBSTPの基準変化時間Tsp2に対して一定の範囲に含まれていない場合(ステップS606のN分岐)は、警告を発し(ステップS610)、処理を解析処理に戻す(ステップS612)。評価対象パターンの変化時間Tp2が標準パターンBSTPの基準変化時間Tsp2に対して一定の範囲に含まれている場合(ステップS606のY分岐)は、合格表示を行い(ステップS608)、処理を解析処理に戻す(ステップS612)。
【0160】
図23に、特徴点を求める処理のフローを示す。特徴点を求める処理がスタートすると(ステップS600若しくはステップS602)、初期設定が行われる(ステップS640)。初期設定としては、処理の対象となる信号出力の読込と、時刻を表す係数kのリセットを含む。信号出力とは、評価対象パターンB
TP若しくは標準パターンB
STPのRGB出力B
Nである。
【0161】
次に出力信号が暗から明に移る変化時刻tp2を探す。具体的には、出力信号の時間変化ΔBN/Δtが所定値PBより大きくなるか否かを判断する(ステップS642)。変化が大きくなければ(ステップS642のN分岐)、まだ暗から明への変化は起こっていないと判断し、係数kをインクリメントしてステップS642に戻る。
【0162】
時間変化が所定値PBより大きくなったら(ステップS642のY分岐)、暗から明への変化が生じたと判断し、その時の時刻tkを変化開始時刻tp2とする(ステップS646)。
【0163】
次に信号出力の安定化時刻tp3を調べる(ステップS648)。これは安定時間の評価のところで使ったステップS510を利用することができる。この処理は、安定化時刻があれば、その時刻tSBを返し、安定化時刻がなければ存在しないことを返す。
【0164】
そこで、次に安定化時刻が存在するか否かを調べる(ステップS650)。安定化時刻がなければ(ステップS650のN分岐)、プロファイルのステップS610に処理を戻す(ステップS652)。これは警告を発する工程であり、その後解析処理に処理を戻す。安定化時刻が存在すれば(ステップS650のY分岐)、安定化時刻tSBを変化終了時刻tp3とする(ステップS654)。
【0165】
そして、変化開始前時刻tp1は変化開始時刻tp2から変化前時間Tp1だけ早い時間とし、変化時間Tp2をtp3-tp2とし、変化後安定化時間Tp3をtF-tp3として求める(ステップS656)。そして、プロファイルの処理に戻る(ステップS658)。
【0166】
以上のように、プロファイルの評価では、記録開始時刻tSから記録終了時刻tFまでを大きくわける特徴点を算出し、それを比較することで、沈降の妥当性を評価する。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明に係る排水処理状態監視装置は、排水処理で凝集処理を行う場合に、その凝集処理が予定通り行われているか否かを評価する際に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0168】
1 排水処理状態監視装置
10 光透過容器
11 光透過部分
11u (光透過部分11の)上端
11d (光透過部分11の)下端
11L (光透過部分11の)左端
11R (光透過部分11の)右端
10dh 下端開口
10uh 上端開口
10d ドレイン
12 照明
14 撮影機
16 制御装置
17 メモリ
18 入出力装置
50 凝集槽
52 流入管
52v バルブ
54 流出管
54v バルブ
56 ポンプ
60 洗浄水注入管
60v 洗浄水注入バルブ
62 洗浄水排出管
62v 洗浄水排出バルブ
Wq 排水
Flac 凝集剤
Ew 切り出し領域
He 平均的な界面高さ
BN RGB信号出力によるRGB値の総称
Sk 上澄み部
Se 堆積部
BST RGB信号出力によるRGB値の校正用平均値
ABST RGB信号出力によるRGB値の校正許容値
BTP RGB値の時間変化パターン (=実測値BTP、評価対象パターンBTP)
BSTP RGB値の時間変化標準パターン
BMTH 中間値
tS 記録開始時刻
tF 記録終了時刻
ta 沈降状態の評価時刻
tB 界面状態評価時刻
Dif 時間変化標準パターンと実測値との差の最大値
AT 傾向許容値
BWTH RGB毎の沈降閾値
TWAV 沈降時間平均値
AWTB 許容値
TWN 時間
Hp 界面高さ
HAV 界面高さ平均値
AH 界面高さ許容値
tSSB 基準安定化時刻
tSB 安定化時刻
SB 変化量がこの値以下であれば変化がないと見なせる変化量
TSB 変化がない時間がこれより長ければ安定しているとみなせる時間
NW 輝度変化がこの範囲であれば適切とする許容範囲
NWu (許容範囲の)最大値
NWd (許容範囲の)最小値
μ(tk) 時刻tkの時点での信号出力の平均値
σ(tk) 時刻tkの時点での信号出力の標準偏差
NBOK N番目の適正パターン
tp1 変化前時刻、
tp2 変化開始時刻、
tp3 変化終了時刻、
Tp1 変化前時間、
Tp2 変化時間、
Tp3 変化後安定化時間
tsp1 基準変化前時刻
tsp2 基準変化開始時刻
tsp3 基準変化終了時刻
Tsp1 基準変化前時間
Tsp2 基準変化時間