(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036074
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】アイシング方法
(51)【国際特許分類】
A61H 33/02 20060101AFI20220225BHJP
A61F 7/00 20060101ALI20220225BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20220225BHJP
A61K 33/00 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
A61H33/02 A
A61F7/00 332
A61P21/00
A61K33/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021135143
(22)【出願日】2021-08-20
(31)【優先権主張番号】P 2020140229
(32)【優先日】2020-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000158312
【氏名又は名称】岩谷産業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【弁理士】
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】小池 国彦
(72)【発明者】
【氏名】井上 吾一
(72)【発明者】
【氏名】中島 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】牧平 尚久
(72)【発明者】
【氏名】福岡 義之
(72)【発明者】
【氏名】北條 達也
(72)【発明者】
【氏名】市川 寛
【テーマコード(参考)】
4C086
4C094
4C099
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA01
4C086HA06
4C086HA21
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA94
4C094AA01
4C094DD06
4C094DD12
4C094FF01
4C094GG03
4C099AA02
4C099CA02
4C099EA06
4C099GA30
4C099HA01
4C099LA21
4C099NA20
4C099PA01
4C099PA10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】運動後に効果的なアイシング方法を提供する。
【解決手段】運動後に行うアイシング方法であって、濃度が高濃度となる二酸化炭素及び水素を溶解させるとともに、水温を10度以上25度以下となるように調整された水素炭酸水に身体を浸漬するアイシング方法において、水素炭酸水における二酸化炭素の溶存濃度を260ppm以上、前記水素炭酸水における水素の溶存濃度を0.1ppm以上1.6ppm以下に調整したイシング方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運動後に行うアイシング方法であって、
濃度が高濃度となる二酸化炭素及び水素を溶解させるとともに、水温を10度以上25度以下となるように調整された水素炭酸水に身体を浸漬する
アイシング方法。
【請求項2】
前記水素炭酸水における二酸化炭素の溶存濃度を260ppm以上、
前記水素炭酸水における水素の溶存濃度を0.1ppm以上1.6ppm以下に調整した
請求項1に記載のアイシング方法。
【請求項3】
前記水素炭酸水における二酸化炭素の溶存濃度を600ppm以上に調整した
請求項2に記載のアイシング方法。
【請求項4】
前記水素炭酸水における二酸化炭素の溶存濃度を800ppm以上、1200ppm以下に調整した
請求項2に記載のアイシング方法。
【請求項5】
前記水素炭酸水における水素の溶存濃度を0.2ppm以上に調整した
請求項2乃至請求項4のうちのいずれかに記載のアイシング方法。
【請求項6】
前記水素炭酸水における水素の溶存濃度が0.4ppm以上0.7ppm以下に調整した
請求項5に記載のアイシング方法。
【請求項7】
前記水素炭酸水の温度を15以上22度以下に調整した
請求項1乃至請求項6のうちのいずれかに記載のアイシング方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のうちのいずれかに記載のアイシング方法を、さらに運動前にも行う
アイシング方法。
【請求項9】
請求項8に記載のアイシング方法において、
前記運動前は、運動日の前日である
アイシング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、運動後のアイシング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、プロやアマを問わずアスリートはトレーニングや試合により身体的な疲労が蓄積する。この身体的な疲労を残したままにしておくと、パフォーマンスの低下や、怪我の誘発などのおそれがあるため、蓄積された疲労をいかに回復するかが、パフォーマンスの維持や怪我の回避などにとって重要となる。
【0003】
一般的な運動後の対処方法として、マッサージや入浴がある。例えば特許文献1に、浴槽に設けたエジェクトノズルから噴き出される供給液により、入浴者を浮遊させるとともに、床や側壁に拘束されない自由な状態で入浴者の身体をマッサージすることができる入浴方法が開示されている。
【0004】
この方法によると、浴液中で浮遊状態となるとともに上昇流を身体の下面側に受けることで、要部を効果的にマッサージできるとされている。しかしながら、マッサージは適切にしなければ効果がほとんどないともいわれており、特許文献1に開示されている方法では、人によっては単なる入浴と変わらず、効果が薄くなる可能性もあった。そのため、運動後の他の効果的な対処方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、上述の問題に鑑み、運動後に効果的なアイシング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、運動後に行うアイシング方法であって、濃度が高濃度となるように二酸化炭素及び水素を溶解させるとともに、水温を10度以上25度以下となるように調整された水素炭酸水に身体を浸漬することを特徴とする。
上述の高濃度となるように二酸化炭素及び水素を溶解させるとは、意図的に二酸化炭素及び水素を水や水素炭酸水などの溶媒に溶解させ、溶解前の溶媒に比べて二酸化炭素及び水素の溶存濃度を向上させることをさす。
【0008】
上述の身体を浸漬するとは、運動を行ったヒトの身体の一部又は全部を水素炭酸水に漬からせることを含む。例えば、肩や腰上、膝上までを水素炭酸浴に浸漬している場合を含む。なお、ヒトの身体の一部として、およそ身体の4分の1以上であることが好ましく、運動で用いた筋肉が浸漬していることがより好ましい。
【0009】
この発明により、運動後の心拍数を効果的に低下させるとともに、血管拡張作用により熱放散を加速させながらも過度に体温が低下することを抑制することができ、さらには、浸漬部位をアイシングしながらも、アイシングの後の運動における無酸素運動での最大パワーの低下を抑制することができる。このように本発明により、運動後に効果的に身体を休息させて疲労を回復させることができる。
【0010】
この発明の態様として、前記水素炭酸水における二酸化炭素の溶存濃度を260ppm以上、前記水素炭酸水における水素の溶存濃度を0.1ppm以上1.6ppm以下に調整してもよい。また、前記水素炭酸水における二酸化炭素の溶存濃度を600ppm以上に調整するのが好ましく、前記水素炭酸水における二酸化炭素の溶存濃度を800ppm以上、1400ppm以下に調整するのがより好ましい。
【0011】
またこの発明の態様として、前記水素炭酸水における水素の溶存濃度を0.2ppm以上に調整することが好ましく、前記水素炭酸水における水素の溶存濃度が0.2ppm以上1.6ppm以下に調整することが好ましい。
【0012】
さらにまた、前記水素炭酸水における二酸化炭素の溶存濃度が800ppm以上1200ppm以下であり、前記水素炭酸水における水素の溶存濃度が0.4ppm以上0.7ppm以下に調整することがより好ましい。
【0013】
また、前記水素炭酸水の温度を15度以上22度以下に調整する方が好ましい。
またこの発明の態様として、上述のアイシング方法を、さらに運動前にも行ってもよいし、上述のアイシング方法において、前記運動前は運動日の前日であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
この発明により、運動後に効果的なアイシング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図4】無酸素運動における最大パワーの変化量を示す棒グラフ。
【
図5】無酸素運動後の活性酸素の消去活性の変化量を示す棒グラフ。
【
図7】有酸素性機械的効率の変化量を示す棒グラフ。
【
図9】初日と4日目の活性酸素の消去活性の変化量を示す棒グラフ。
【
図10】ヒドロキシラジカル(・OH)の消去活性の変化率と最大パワーの変化率との相関図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明者らは、鋭意努力を重ね、水素及び二酸化炭素を高濃度となるように溶解させるとともに、水温が10度以上25度以下となるように調整した水素炭酸水に、運動後に5以上25分以下身体を浸漬することにより、運動後の身体的な疲労を効果的に回復させるアイシング方法を見出した。
【0017】
ここで、『水素炭酸水』とは、水素及び二酸化炭素を溶解させた水であり、溶解前の溶媒(水又は、水素や二酸化炭素が溶解した水)に比べて水素又は二酸化炭素が溶解されていれば、その製造方法は特に限定されない。具体的には、水素及び二酸化炭素を混合させて水に溶解させてもよいし、水に水素を溶解させた水素水に対して二酸化炭素を溶解させる、あるいは、水に二酸化炭素を溶解させた炭酸水に水素を溶解させてもよい。
【0018】
本実施形態では、水素8%と二酸化炭素92%の割合で混合した混合ガスをファインバブルとし、水に分散させて溶解し水素炭酸水を製造している。
具体的には、水あるいは水素炭酸水に水素8%と二酸化炭素92%の割合で混合した混合ガスをファインバブルとして分散させて溶解させて製造した水素炭酸水を浴槽に注いでいる。また、入浴時間が長い場合などには、入浴中に、上述の方法で製造した水素炭酸水を浴槽に注ぐとともに、浴槽に張られている水素炭酸水の一部を回収し、回収された水素炭酸水に混合ガスをファインバブルとして分散させて溶解させている。このように回収された水素炭酸水に二酸化炭素及び水素を再度溶解させて循環させている。
【0019】
なお、本実施形態では、水素8%と二酸化炭素92%の割合で混合した混合ガスを用いて水素炭酸水を製造しているが、水素炭酸水の製造に用いる混合ガスは、
この比率に限定されず、水素の割合を4%以上50%以下の範囲で変更してもよい。例えば、水素4%と二酸化炭素96%の割合で混合した混合ガスや、水素50%と二酸化炭素50%の割合で混合した混合ガスを用いてもよい。
【0020】
このように、水素と二酸化炭素とを混合させた混合ガスをファインバブルとして水に溶解させることにより、水素及び二酸化炭素を溶解させやすくすることができる。また、例えば、水素及び二酸化炭素を一時的に過飽和の状態とすることができる。これにより、浸漬している身体から水素及び二酸化炭素を取り込みやすくなると考えられる。
【0021】
また、上述のように、水素炭酸水における二酸化炭素の溶存濃度が260ppm以上、水素の溶存濃度が0.1ppm以上1.6ppm以下となるように調整している。なお、水素炭酸水における二酸化炭素の溶存濃度は600ppm以上1400ppm以下が好ましく、水素の溶存濃度は0.2ppm以上1.6ppm以下が好ましい。
【0022】
二酸化炭素の溶存濃度が260ppm未満である場合、浸漬している部分から取り込まれた二酸化炭素による効果が十分に得られない。これに対して、二酸化炭素の溶存濃度を260ppm以上とすることにより、例えば血管拡張作用のような二酸化炭素による効果を得ることができる。
【0023】
また、二酸化炭素の溶存濃度を600ppm未満に調整した場合、時間が経過することにより水素炭酸水から二酸化炭素が抜けるため、水素炭酸水の製造から時間が経過している場合に二酸化炭素の効果を十分に得ることができない。これに対し、二酸化炭素の溶存濃度を600ppm以上となるように調整することにより、水素炭酸水の製造から時間が経過している場合であっても、二酸化炭素の効果を十分に得ることができる。
【0024】
また、二酸化炭素の溶存濃度を1400ppmよりも多くなるように調整した場合、水素炭酸水に溶解できる水素の量が減少するため、水素による効果が弱くなる。このため、二酸化炭素の溶存濃度を1400ppm以下に調整することにより、水素炭酸水に溶解できる水素の量を確保でき、二酸化炭素による効果に加えて水素による効果を得ることができる。
【0025】
水素の溶存濃度が0.1ppm未満となるように調整した場合には、水素炭酸水に溶解している水素濃度が低く、水素による効果が弱くなる。一方、水素の溶存濃度が0.1ppm以上となるように調整した場合、二酸化炭素の効果に加えて水素による効果を得ることができる。
【0026】
なお、水素の溶存濃度が0.2ppm未満となるように調整した場合には、時間経過により水素炭酸水から水素が抜け、水素の効果が弱くなる。一方、水素の溶存濃度が0.2ppm以上となるように調整した場合、時間が経過することにより水素炭酸水から水素が抜けたとしても、水素による効果を得ることができる。
【0027】
また、水素の溶存濃度を1.6ppmよりも多くなるように調整した場合、常圧下での水素の飽和溶解度と同じとなるため、二酸化炭素を溶解することが困難となり、二酸化炭素による効果が弱くなる。一方で、水素の溶存濃度を1.6ppm以下となるように調整した場合には、二酸化炭素を溶解することができるため、二酸化炭素による効果と水素による効果を得ることができる。
【0028】
また、水素炭酸水は、二酸化炭素の溶存濃度が800ppm以上1200ppm以に調整するとともに、水素の溶存濃度が0.4ppm以上0.7ppm以下に調整することが好ましい。
【0029】
二酸化炭素の溶存濃度を800ppm以上1200ppm以下に調整するとともに、水素の溶存濃度が0.4ppm以上0.7ppm以下に調整することにより、二酸化炭素と水素の双方を高濃度で溶解した状態とすることができる。これにより、浸漬した身体のから十分な量の二酸化炭素及び水素を取り込むことができ、二酸化炭素及び水素による効果を十分に得ることができる。
【0030】
さらにまた、二酸化炭素及び水素の双方が十分に溶解しているため、時間が経過したとしても、二酸化炭素及び水素の溶存濃度が高濃度で維持されているため、入浴による効果を長時間維持することができる。
【0031】
また、本実施形態における水素炭酸水の水温は、10度以上25度以下に調整することが好ましく、また水素炭酸水の水温が15度以上22度以下に調整することがより好ましい。
【0032】
水温が10度よりも低く調整されている場合、身体が過度に冷却されるため、後の運動におけるパフォーマンスを低下させるおそれがある。また、水温が25度よりも高い場合、水素及び二酸化炭素の溶解量が減少し、水素及び二酸化炭素による効果が低減するとともに、一定のアイシング効果が低減する。
【0033】
これに対して、水素炭酸水の水温を10度以上25度以下に調整することにより、二酸化炭素及び水素を水に十分溶解させることができるとともに、二酸化炭素及び水素による効果に加えて、アイシングの効果を得ることができる。
【0034】
また、水温を15度以上22度以下に調整することにより、体が過度に冷却されることを防止しつつ、浸漬している部分から二酸化炭素及び水素を体内に取り込むことができる。これにより、水素炭酸水に入浴する効果を得ながら、本発明のアイシング方法の後に行う運動のパフォーマンス低下を防止することができる。
【0035】
また、本実施形態では、水素炭酸水に20分間身体を浸漬しているが、浸漬時間は5以上25分以下であることが好ましい。
浸漬時間が25分よりも長い場合、身体が過度に冷却されるため、後の運動におけるパフォーマンスを低下させるおそれがある。また、浸漬時間が5分未満である場合には、水素及び二酸化炭素による効果が十分に得られないおそれがある。
これに対して、浸漬時間を5分以上25分以下とすることにおり、体が過度に冷却されることなく、二酸化炭素及び水素による効果を得ることができる。
【0036】
また、例えば、アイシング効果を重視する場合には、水素炭酸水の水温を10度以上20度以下として、浸漬時間を5分以上10分以下とすることが好ましい。また、クールダウンを重視する場合には、水素炭酸水の水温を15度以上25度以下として、浸漬時間を10分以上25分以下とすることが好ましい。
【0037】
『疲労』とは、「過度の肉体的活動及び精神的活動、又は疾病によって生じた独特の不快感と休養の願望を伴う身体の活動能力の減退状態である」と定義されており、一般的には精神的疲労と身体的疲労に分類されている。
【0038】
本実施形態において、『疲労』とは、いわゆる肉体疲労のことであり、例えば身体に負荷を与えることで筋肉などの末梢組織が疲弊し、パフォーマンスや作業効率が低下する状態を意味する。
【0039】
具体的に、パフォーマンスや作業効率が低下する状態とは、例えば、運動持続時間の短縮や反復の運動回数の減少などの持久力低下、無酸素状態における最大パワーの低下や筋持続力などの筋力低下など、運動機能が低下することを意味する。
【0040】
本発明において、運動後に効果的とは、運動により蓄積された疲労を効率的に改善し、運動負荷により低下したパフォーマンスや作業効率を、より正常な状態に改善する効果を有することをさす。
【0041】
例えば、他の方法に比べ、本発明のアイシング方法を行った後の心拍数や舌下温度の上昇率が低くなることや、血中の乳酸濃度が減少すること、抗酸化作用が向上すること、本発明のアイシング方法を行った後の運動においてパフォーマンスが向上することなどが挙げられる。
【0042】
以下、本発明である運動後の疲労回復効果に関する試験方法1及び試験方法2を挙げ、本発明について具体的に説明する。なお、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0043】
はじめに、試験方法1及び、試験方法1と対比する比較方法1-1、比較方法1-2、比較方法1-3の方法について説明するとともに、その効果について説明する。
【0044】
試験方法1の被験者は、日常的に運動を行っている男子大学生20名とし、試験日当日の激しい運動は禁止した。また、食事は水分摂取を除いて試験開始の2時間前までとし、試験中の飲食は禁止とした。
【0045】
被験者は5人ずつ4グループに分けられ、グループごとに下記の試験方法1、比較方法1-1、比較方法1-2、比較方法1-3のいずれか一つを行ってもらった。また、被験者は、適宜のタイミングで、心拍数、舌下温度、乳酸濃度、無酸素性運動能力、無酸素運動後の活性酸素の消去活性についてそれぞれ測定し、グループごとの平均値を算出した。
【0046】
[試験方法1]
所定の時間安静させた(『Initial』とする。)被験者に、有酸素運動(『AerE1』とする。)と無酸素運動(『AnaE1』とする。)を1セット実施させた。その後に、20度に調整した水素炭酸水に半身浴させた状態で20分間休息させた(『Rest』とする。)。休息後に、被験者に有酸素運動(『AerE2』とする。)と無酸素運動(『AnaE2』とする。)を2セット実施させた。
なお、半身浴させた水素炭酸水の溶存水素濃度は0.5ppmであり、溶存炭酸濃度は1000ppmであった。
【0047】
[比較方法1-1]
試験方法1における、Restに対応する『20度に調整した水素炭酸水に半身浴させた状態で20分間休息させた』の代わりに、『安静座位で20分間休息させた』以外は、試験方法1と同じである。
【0048】
[比較方法1-2]
試験方法1における、Restに対応する『20度に調整した水素炭酸水に半身浴させた状態で20分間休息させた』の代わりに、『20度に調整した水道水に半身浴させた状態で20分間休息させた』以外は、試験方法1と同じである。
【0049】
[比較方法1-3]
試験方法1における、Restに対応する『20度に調整した水素炭酸水に半身浴させた状態で20分間休息させた』の代わりに、『20度に調整した炭酸水に半身浴させた状態で20分間休息させた』以外は、試験方法1と同じである。
なお、炭酸水の溶存炭酸濃度は1000ppmであった。
【0050】
有酸素運動として、最大酸素摂取量の約50%となる強度で10分間自転車ペダリングを行った。
また、無酸素運動として、30秒間全力ペダリング(いわゆる、ウィンゲートテスト)を行った。
【0051】
心拍数は、各状態の後(Initial、AerE1、AnaE1、Rest、AerE2、AnaE2の後)に、ハートレートモニター(RS800CX、Polar Electro社製)を用いて測定した。
なお、舌下温度は、休息(Rest)前の有酸素運動(AerE1)と無酸素運動(AnaE1)を行った後、休息(Rest)後に測定した。
【0052】
血中の乳酸濃度は、安静させた後(Initial)と、安静させた後の有酸素運動(AerE1)後と、休息(Rest)後と、休息後の有酸素運動(AerE2)後とに血液を採取し、携帯型血液ガス分析機(epoc、Siemens Healthineers
社製)を用いて測定・解析した。
【0053】
無酸素性運動能力は、無酸素運動中(『AnaE1』及び『AnaE2』)に高強度対応の無酸素パワーエルゴメーター(powermax V, Combi社製)を用いて、無酸素運動時における最大パワーを測定した。
【0054】
活性酸素の測定は、安静させた後(Initial)と、有酸素運動(AerE1及びAerE2)と無酸素運動(AnaE1及びAnaE2)後と休息(Rest)後とに血液を採取し、活性酸素量(・OH)を電子スピン共鳴装置(ES series、JEOL社製)を用いて測定した。なお、活性酸素量の解析は、ESRスピントラッピング法を用いた。
【0055】
以下、試験方法1の効果について詳述する。
【0056】
<心拍数の変化について>
図1は、試験方法1及び比較方法1-1、比較方法1-2、比較方法1-3における、心拍数の変化を示す。
【0057】
試験方法1と比較方法1-3では、
図1に示すように、有酸素運動(AerE1)及び無酸素運動(AnaE1)を1セット実施した後の休息(Rest)により心拍数を90以下とすることができた。
【0058】
また、試験方法1及び比較方法1-3では、比較方法1-1及び比較方法1-2と比べ、運動前(Initial)における心拍数と休息(Rest)後の心拍数との差を低減させることができた。すなわち、炭酸水及び水素炭酸水に半身浴させた状態で20分間休息することにより、運動後の心拍数を十分に低下させることができた。したがって、心臓の負担を低減できるとともに、効率的に副交感神経を優位にできるため、身体を効果的に休息することができる。このため、他の方法(比較方法1-1、比較方法1-2)と比べて疲労を効果的に回復することができた。
【0059】
この効果の明確な理由は不明だが、半身浴による潜水性徐脈とともに、二酸化炭素の血管拡張作用が相乗したものであると解釈できる。冷水にも関わらず二酸化炭素の血管平滑筋弛緩による血管拡張作用が発揮され、動脈血の流入が増加し、結果的に静脈還流が促進し、心拍数を低下させることができたと考えられる。
【0060】
また、試験方法1では、休息(Rest)後による運動において、無酸素運動(AnaE2)後の心拍数を、休息前の無酸素運動(AnaE1)後の心拍数よりも優位に低下させることができた。このため、試験方法1では、単に心拍数を低下させるだけでなく、その後の運動における心拍数の増加も低減させることができる。したがって、休息(Rest)前の運動の疲労から、より効果的に回復できたと考えられる。
【0061】
<舌下温度の変化>
図2は、試験方法1及び比較方法1-1、比較方法1-2、比較方法1-3における、一回目の無酸素運動と休息後との舌下温度の変化を示す。なお、
図2中における数値は、無酸素運動(AnaE1)後の舌下温度に対する休息(Rest)後の舌下温度の上昇率を示す。
【0062】
図2に示すように、試験方法1、比較方法1-1、比較方法1-2、比較方法1-3のすべてにおいて、被験者の休息後の舌下温度は上昇した。具体的には、被験者の休息後の舌下温度の上昇率は、試験方法1で0.32%、比較方法1-1で1.25%、比較方法1-2で0.73%、比較方法1-3で1.08%であった。
【0063】
このことから、試験方法1及び比較方法1-2、比較方法1-3では、運動後に安静座位で休息した比較方法1-1に比べて、被験者の舌下温度の上昇を優位に低減できた。これは、冷水入浴に伴って血管収縮作用が即時に働き、冷温環境に対して体温が調節されたと考えられる。
【0064】
被験者を半身浴させた状態で休息させた試験方法1及び比較方法1-2、比較方法1-3について詳しく検討する。
被験者を炭酸水に半身浴させた状態で休息させた比較方法1-3では、被験者を水道水に半身浴させた状態で休息させた比較方法1-2に比べて、被験者の舌下温度の上昇率が高かった。これは、二酸化炭素の血管拡張作用が有効となり、皮膚血流増加にともなう熱放散が加速したことが原因であると推測される。
【0065】
これに対して、被験者を水素炭酸水に半身浴させた状態で休息させた試験方法1では、比較方法1-2及び比較方法1-3に比べて、被験者の舌下温度の上昇を優位に低減できた。このことから、水素炭酸水に半身浴した状態で休息することで、二酸化炭素による血管拡張作用を有しながら、体温を効率的に低下させるといった相乗効果を有すると考えられる。
【0066】
<乳酸濃度の変化>
図3は、試験方法1及び比較方法1-1、比較方法1-2、比較方法1-3における、血中の乳酸濃度の変化を示す。
【0067】
図3に示すように、比較方法1-1では、休息(Rest)後における被験者の血中の乳酸濃度が上昇するのに対し、半身浴をさせた試験方法1及び比較方法1-2、比較方法1-3では、休息後における被験者の血中の乳酸濃度が低減した。このことから、水温が20度の冷却水に半身浴した状態で休息することにより、血中の乳酸濃度が低減させる効果を有することが分かった。
【0068】
また、比較方法1-2及び比較方法1-3では、運動(AnaE1)後における血中の乳酸濃度に比べて休息(Rest)後における血中の乳酸濃度がそれぞれ3.22mM及び3.04mMだけ低下している。この結果から、比較方法1-2及び比較方法1-3との間で、被験者の血中の乳酸濃度の変化量に大差はなかった。
【0069】
これに対し、試験方法1では、運動(AnaE1)後における血中の乳酸濃度に比べて休息(Rest)後における血中の乳酸濃度が3.91mMと優位に低下している。このことから、運動後に水温が20度の水素炭酸水に20分半身浴することで、効率的に血中の乳酸濃度を低下させることができ、疲労を効果的に回復させることができると考えられる。
【0070】
なお、水素炭酸水に半身浴することによる血中の乳酸濃度が低下する明確な理由は分かっていないが、経皮的な水素分子の流入によって血中の乳酸緩衝能が高まった可能性が考えられる。
【0071】
<無酸素性運動能力>
図4は、試験方法1及び比較方法1-1、比較方法1-2、比較方法1-3における、一回目の無酸素運動(AnaE1)における最大パワーに対する、二回目の無酸素運動(AnaE2)における最大パワーの変化量を示す。なお、
図4中における数値は、一回目の無酸素運動(AnaE1)の最大パワーに対する二回目の無酸素運動(AnaE2)での最大パワーの上昇率を示す。
【0072】
図4に示すように、試験方法1及び比較方法1-1、比較方法1-2、比較方法1-3での無酸素運動の最大パワーを比較すると、被験者が安静座位で20分間休息した比較方法1-1を除いて、二回目の無酸素運動(AnaE2)では最大パワーが低下した。このことから、水温が20度の冷却水に半身浴した状態で休息した後は、休息前の運動に比べてパフォーマンスが低下する傾向にあることが分かった。
【0073】
これは、水温が20度の冷却水に半身浴を行うことで、体温低下及び筋温低下をまねくことに起因するものと考えられる。すなわち、水温が20度の冷却水に半身浴することにより、血管収縮が起こって循環血液量を減少し、半身浴後の運動においてパフォーマンスの低下を引き起こしている可能性が考えられる。
【0074】
一方で、被験者が半身浴を行った試験方法1と、比較方法1-2及び比較方法1-3とを比較すると、それぞれの試験における一回目の無酸素運動(AnaE1)と比べて二回目の無酸素運動(AnaE2)での最大パワーが低下率は、試験方法1で-0.97%、比較方法1-2で-6.42%、比較方法1-3で-1.80%であった。このことから、被験者が水素炭酸水に半身浴して休息した場合は、他の方法(比較方法1-2、比較方法1-3)と比べて休息後の無酸素運動での最大パワーの低下を抑制することができ、一回目の無酸素運動とほとんど差の無いパフォーマンスを発揮することができることが分かった。
【0075】
<無酸素運動後の活性酸素の消去活性>
図5は、試験方法1及び比較方法1-1、比較方法1-2、比較方法1-3における、安静状態(Initial)及び二回目の無酸素運動(AnaE2)後のヒドロキシラジカル(・OH)の消去活性を示す。なお、
図5中における数値は、安静状態(Initial)におけるヒドロキシラジカル(・OH)の消去活性に対する、二回目の無酸素運動(AnaE2)後のヒドロキシラジカル(・OH)の消去活性の上昇率を示す。
【0076】
図5に示すように、比較方法1-1及び比較方法1-2、比較方法1-3では、二回目の無酸素運動(AnaE2)後のヒドロキシラジカル(・OH)の消去活性が安静状態(Initial)に比べて低下している。これに対し、試験方法1では、二回目の無酸素運動(AnaE2)後のヒドロキシラジカル(・OH)の消去活性が安静状態に比べて23%程度向上した。
【0077】
このことから、一回目の運動と二回目の運動との間に水素炭酸水の半身浴を挟むことにより、二回目の運動において発生されるヒドロキシラジカル(・OH)による生体内のダメージを軽減できる。すなわち、一日に複数回の運動を行う場合であっても、運動の間に試験方法1の休息を挟むことにより、後の運動でのパフォーマンスを向上させることができる。
【0078】
なお、水素炭酸水に半身浴することによるヒドロキシラジカル(・OH)の消去活性の向上の明確な理由は分かっていないが、ヒドロキシラジカル(・OH)の消去活性の向上は、水素炭酸水に半身浴することにより、経皮的な水素の浸漬が起こり、多量に発生したヒドロキシラジカル(・OH)に対する消去活性が亢進することが考えられる。
【0079】
このように水温が20度の水素炭酸水に半身浴させた状態で20分間休息することで、運動後の心拍数を十分に低下させて疲労を回復させることができるとともに、被験者の舌下温度の上昇を優位に低減させ、二酸化炭素による血管拡張作用を有しながら体温を効率的に低下させることができる。さらには、運動により増加した血中の乳酸濃度を効率的に低下させることができ、運動による疲労をより効率的に回復させることができる。
【0080】
また、連続して強度の運動を行う場合であっても、運動と運動との間に水素炭酸水に半身浴させた状態で休息することにより、半身浴前の運動と遜色のないパフォーマンスを半身浴後の運動でも発揮できる。さらには、半身浴後の運動においてヒドロキシラジカル(・OH)の消去活性が顕著に向上させることができるため、半身浴後の運動におけるパフォーマンスを向上させることができる。
【0081】
次に、試験方法2及び、試験方法2と対比する比較方法2-1、比較方法2-2、比較方法2-3の方法について説明するとともに、その効果について説明する。
【0082】
試験方法2の被験者は、試験方法1と同様に、日常的に運動を行っている男子大学生20名とし、試験日当日の激しい運動は禁止した。また、食事は水分摂取を除いて試験開始の2時間前までとし、試験中の飲食は禁止とした。
【0083】
被験者は5人ずつ4グループに分けられ、グループごとに上述の試験方法2、比較方法2-1、比較方法2-2、比較方法2-3のいずれか一つを行ってもらった。各グループの被験者は、適宜のタイミングで、心拍数、有酸素性機械的効率、無酸素性運動能力についてそれぞれ測定し、グループごとの平均値を算出した。
【0084】
[試験方法2]
初日に、被験者に適当な時間だけ安静状態で待機させた後(『Initial1』とする。)に、有酸素運動(『AerE1』とする。)と無酸素運動(『AnaE1』とする。)を実施させた。この後に、水温を20度に調整した水素炭酸水に半身浴させた状態で20分間休息(『Rest1』とする。)させた。
【0085】
2日目、被験者の身体状態を確認した後(『Initial2』とする。)に、高強度トレーニング(『TP1』とする。)を実施させた。その後、水温を20度に調整した水素炭酸水に半身浴させた状態で20分間休息(『Rest2』とする。)させた。
【0086】
3日目、被験者の身体状態を確認した後(『Initial3』とする。)に、被験者は高強度トレーニング(『TP2』とする。)を実施させた。その後、水温を20度に調整した水素炭酸水に半身浴させた状態で20分間休息(『Rest3』とする。)させた。
【0087】
4日目、被験者の身体状態を確認した後(『Initial4』とする。)に、有酸素運動(『AerE2』とする。)と無酸素運動(『AnaE2』とする。)を実施させた。
なお、水素炭酸水の溶存水素濃度は0.5ppmであり、溶存炭酸濃度は1000ppmであった。
【0088】
[比較方法2-1]
試験方法2における、Rest1、Rest2、Rest3に対応する『20度に調整した水素炭酸水に半身浴させた状態で20分間休息させた』の代わりに、『安静座位で20分間休息させた』以外は、試験方法2と同じである。
【0089】
[比較方法2-2]
試験方法2における、Rest1、Rest2、Rest3に対応する『20度に調整した水素炭酸水に半身浴させた状態で20分間休息させた』の代わりに、『20度に調整した水道水に半身浴させた状態で20分間休息させた』以外は、試験方法2と同じである。
【0090】
[比較方法2-3]
試験方法2における、Rest1、Rest2、Rest3に対応する『20度に調整した水素炭酸水に半身浴させた状態で20分間休息させた』の代わりに、『20度に調整した炭酸水に半身浴させた状態で20分間休息させた』以外は、試験方法2と同じである。
なお、炭酸水の溶存炭酸濃度は1000ppmであった。
【0091】
有酸素運動として、最大酸素摂取量の約50%となる強度で10分間自転車ペダリングを行った。
また、無酸素運動として、30秒間全力ペダリング(いわゆる、ウィンゲートテスト)を行った。
【0092】
高強度トレーニングとして、20秒間の最大努力下でのペダリング運動を8回、間に休息を10秒入れながら行った。なお、被験者の最大パフォーマンスができるように随時、声掛けを行った。
【0093】
心拍数は、各状態の後(Initial1、AerE1、AnaE1、Rest1、Initial2、TP1、Rest2、Initial3、TP2、Rest3、Initial4、AerE2、AnaE2後)に、ハートレートモニター(RS800CX、Polar Electro 社製)を用いて測定した。
【0094】
有酸素性機械的効率は、有酸素運動(AerE1及びAerE2)として、最大酸素摂取量の50%となる強度で10分間の自転車ペダリングし、この際のエネルギー消費量を呼気ガスエネルギー代謝計測装置(AE-310S、Minato medical 社製)で計測し、仕事量/エネルギー消費量によって機械的運動効率を算出した。
【0095】
無酸素性運動能力は、無酸素運動中(AnaE1及びAnaE2)に高強度対応の無酸素パワーエルゴメーター(powermax V, Combi社製)を用いて、無酸素運動時における最大パワーを測定した。
【0096】
<心拍数の変化について>
図6は、試験方法2及び比較方法2-1、比較方法2-2、比較方法2-3における、心拍数の変化を示す。
【0097】
試験方法2と比較方法2-3では、
図6に示すように、運動(AnaE1、TP1、TP2)後に比べて心拍数を優位に低下させることができた。
また、試験方法2と比較方法2-3は、比較方法2-1及び比較方法2-2と比べ、運動(AerE1、TP1、TP2)前における心拍数と休息(Rest)後の心拍数との差を低減させることができた。すなわち、炭酸水及び水素炭酸水に半身浴させた状態で休息することにより、運動後の心拍数を十分に低下させることができ、疲労を効果的に回復することができた。
【0098】
<有酸素性機械的効率>
図7は、試験方法2及び比較方法2-1、比較方法2-2、比較方法2-3における、1日目及び4日目の有酸素性機械的効率を示す。なお、
図7中における数値は、1日目の有酸素性機械的効率に対する4日目の有酸素性機械的効率の上昇率を示す。
【0099】
試験方法2では、
図7に示すように、比較方法2-1、比較方法2-2、比較方法2-3に比べて、一回目の有酸素運動(AerE1)における有酸素性機械的効率に対する二回目の有酸素運動(AerE2)における有酸素性機械的効率が向上している。具体的には、一回目の有酸素運動(AerE1)に対する二回目の有酸素運動(AerE2)の有機性機械的効率の上昇率は、試験方法2で+0.36%であるのに対し、比較方法2-1で-0.69%、比較方法2-2で+0.30%、比較方法2-3で+0.27%であった。
【0100】
このことから、連続的・継続的に水温が20度の水素炭酸水に半身浴した状態で休息することにより、血流促進や酸素運搬の効率化が図ることができ、さらには有酸素性運動能力の向上が期待できると考えられる。
【0101】
<無酸素運動能力の変化>
図8は、試験方法2及び比較方法2-1、比較方法2-2、比較方法2-3における、1日目及び4日目の無酸素運動での最大パワーの変化量を示す。なお、
図8中における数値は、1日目の無酸素運動(AnaE1)での最大パワーに対する4日目の無酸素運動(AnaE2)での最大パワーの上昇率を示す。
【0102】
比較方法2-1及び比較方法2-2では、
図8に示すように、1日目の無酸素運動(AnaE1)における最大パワーに対する4日目の無酸素運動(AnaE2)での最大パワーの増加率が、それぞれ-0.27%と-1.95%であり、無酸素運動における最大パワーが低下していた。
【0103】
また、比較方法2-3における1日目の無酸素運動における最大パワーに対する4日目の無酸素運動での最大パワーの増加率は、0.75%であり、1日目と4日目でほとんど差異がなかった。
【0104】
これに対して、試験方法2では、1日目の無酸素運動における最大パワーに対する4日目の無酸素運動での最大パワーの増加率が+2.94%であり、無酸素運動における最大パワーが優位に増加し、パフォーマンスの向上が見られた。
【0105】
このことから、被験者が水温を20度とした水素炭酸水に半身浴した状態で休息することで、半身浴による休息を行った後日の運動における無酸素運動での最大パワーの低下を抑制することができることが分かった。このため、運動を行った後に水温が20度の水素炭酸水に半身浴して休息することで疲労を回復させることができ、後日での運動でパフォーマンスを向上させることができる。
【0106】
このように運動後に水温が20度の水素炭酸水に半身浴させた状態で20分間休息することで、運動後の心拍数を十分に低下させて疲労を回復させることができる。また、20度の水素炭酸水に半身浴させた状態で20分間休息した次の日の運動においても、有酸素性機械的効率を向上させることができるとともに、無酸素運動における最大パワーを上昇させることができる。したがって、連続して試合があるような場合であっても、疲労を効率よく回復させるとともに、次の日の運動においてもパフォーマンスを向上させることができる。
【0107】
また、試験方法2と同様の方法(試験方法3)を用いて、連日に運動する際に、運動後に水素炭酸水に浸漬した場合の効果について説明する。
被験者は下記に示す試験方法3を行ってもらった。
【0108】
試験方法3の被験者は、試験方法2と同様に、日常的に運動を行っている男子大学生5名とし、試験日当日の激しい運動は禁止した。また、食事は水分摂取を除いて試験開始の2時間前までとし、試験中の飲食は禁止とした。
【0109】
[試験方法3]
初日に、被験者に適当な時間だけ安静状態で待機させた後(『Initial1』とする。)に、有酸素運動(『AerE1』とする。)と無酸素運動(『AnaE1』とする。)を実施させた。この後に、水温を20度に調整した水素炭酸水に半身浴させた状態で20分間休息(『Rest1』とする。)させた。
【0110】
2日目、被験者の身体状態を確認した後に、高強度トレーニングを実施させた。その後、水温を20度に調整した水素炭酸水に半身浴させた状態で20分間休息させた。
3日目、被験者の身体状態を確認した後に、被験者は高強度トレーニングを実施させた。その後、水温を20度に調整した水素炭酸水に半身浴させた状態で20分間休息させた。
【0111】
4日目、被験者の身体状態を確認した後(『Initial4』とする。)に、有酸素運動(『AerE4』とする。)と無酸素運動(『AnaE4』とする。)を実施させた。この後に、水温を20度に調整した水素炭酸水に半身浴させた状態で20分間休息(『Rest4』とする。)させた。
なお、水素炭酸水の溶存水素濃度は0.5ppmであり、溶存炭酸濃度は1000ppmであった。
【0112】
また被験者は、初日の安静状態(Initial1)と、無酸素運動(AnaE1)、水素炭酸水に半身浴(Rest1)の後、及び、4日目の身体状態の確認時(Initial4)と、無酸素運動(AnaE4)、水素炭酸水に半身浴(Rest4)の後に血液を採取し、電子スピン共鳴装置(ES series、JEOL社製)を用いて活性酸素量(・OH)を測定した。なお、活性酸素量の解析は、ESRスピントラッピング法を用いた。なお、活性酸素量は5人の平均値を算出した。
【0113】
<初日と4日目における活性酸素の消去活性の変化>
図9は、試験方法3における、初日の安静状態(Initial1)、無酸素運動(AnaE1)と水素炭酸水に半身浴(Rest1)した後、及び、4日目の身体状態の確認時(Initial4)、無酸素運動(AnaE4)と水素炭酸水に半身浴(Rest4)した後のヒドロキシラジカル(・OH)の消去活性を示す(*p<0.05、**p<0.01)。
【0114】
図9に示すように、初日の水素炭酸水に半身浴(Rest1)した後の活性酸素の消去活性に比べ、4日目の水素炭酸水に半身浴(Rest4)した後の活性酸素の消去活性が著しく向上している。このことから、毎日の運動後に水素炭酸水に半身浴を行うことで、連日運動した場合であっても水素炭酸水に半身浴により活性酸素の消去活性が向上することが示された。
【0115】
また、
図9に示すように、4日目における無酸素運動(AnaE4)した後のヒドロキシラジカル(・OH)の消去活性に比べ、無酸素運動(AnaE4)した後に水素炭酸水に半身浴(Rest4)した後のヒドロキシラジカル(・OH)の消去活性が優位に向上している。これは、初日には見られなかったヒドロキシラジカル(・OH)の消去活性の変化である。このことから、運動後に水素炭酸水への半身浴を毎日行うことにより、運動当日において、運動後に水素炭酸水に半身浴をした後の活性酸素の消去活性が運動後の活性酸素の消去活性よりも向上することが示された。
すなわち、連日の運動において発生される活性酸素による生体内のダメージは、運動後に水素炭酸水に半身浴を連日行うことで軽減できることが示唆された。
【0116】
また、試験方法3において、初日の無酸素運動(AnaE1)と、4日目の無酸素運動(AnaE4)におけるヒドロキシラジカル(・OH)の消去活性の変化率と無酸素運動の最大パワーの変化率との相関を調べた。
図10は、5人の被験者のヒドロキシラジカル(・OH)の消去活性の変化率に対する無酸素運動の最大パワーの変化率を示す。
【0117】
なお、無酸素性運動能力は、上述と同様に、無酸素運動中(『AnaE1』及び『AnaE4』)に高強度対応の無酸素パワーエルゴメーター(powermax V, Combi社製)を用いて、無酸素運動時における最大パワーを測定した。
【0118】
図10に示すように、ヒドロキシラジカル(・OH)の消去活性の変化率が大きい人ほど、運動を連日行っていても無酸素運動の最大パワーが向上する傾向であることが示された。このことは、ヒドロキシラジカル(・OH)の消去活性が向上することにより生体ダメージが軽減されるため、その後の無酸素運動において最大パワーを十分に発揮することができると考えられる。
【0119】
すなわち、連日の運動後に水素炭酸水に半身浴を行うことで、半身浴後のヒドロキシラジカル(・OH)の消去活性を向上させる傾向があるため(
図9参照)、後日の無酸素運動において初日と同等の最大パワーが発揮できる、あるいは初日よりも最大パワーが向上することが期待できる。
【0120】
このように、連日の運動後に水素炭酸水の半身浴を行うことにより、ヒドロキシラジカル(・OH)の消去活性効果が4日目に向上していることから、運動後に水素炭酸水の半身浴を繰り返すことで、ヒドロキシラジカル(・OH)の消去活性を向上させることができるとともに、連日の運動でもパフォーマンスを維持や向上させることが期待できる。
【0121】
したがって、連続して試合があるような場合であっても、運動後に水素炭酸水に浸漬することで疲労を効率よく回復させるとともに、次の日の運動においてもパフォーマンスを維持や向上させることが期待できる。例えば、試合(運動日)の前日までの運動後に水素炭酸水に浸漬すること、試合(運動)におけるパフォーマンスを向上させることが期待できる。