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特開2022-36298チューブラー型分離膜とそれを含むチューブラー型分離膜モジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036298
(43)【公開日】2022-03-04
(54)【発明の名称】チューブラー型分離膜とそれを含むチューブラー型分離膜モジュール
(51)【国際特許分類】
   B01D 61/02 20060101AFI20220225BHJP
   B01D 63/00 20060101ALI20220225BHJP
   B01D 63/06 20060101ALI20220225BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20220225BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20220225BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20220225BHJP
   B01D 71/16 20060101ALI20220225BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20220225BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
B01D61/02 500
B01D63/00 510
B01D63/06
B01D69/02
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/16
C02F1/44 F
C02F1/44 K
B01D69/00
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004952
(22)【出願日】2022-01-17
(62)【分割の表示】P 2021528342の分割
【原出願日】2021-04-22
(31)【優先権主張番号】P 2020087127
(32)【優先日】2020-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】594152620
【氏名又は名称】ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】浜田 敏充
(72)【発明者】
【氏名】中塚 修志
(72)【発明者】
【氏名】稲田 昭夫
(57)【要約】
【課題】油含有廃水の処理に適したチューブラー型分離膜、それを使用したチューブラー型分離膜モジュールの提供。
【解決手段】管状支持体の管内表面に酢酸セルロース逆浸透膜が積層された酢酸セルロース逆浸透膜からなる、逆浸透膜またはナノろ過膜であるチューブラー型分離膜であって、前記チューブラー型分離膜の酢酸セルロース逆浸透膜の膜厚が0.05~0.4mmの範囲であり、下記式1で示される塩阻止率と透過流束の関係を満たしている、チューブラー型分離膜。
式1:Y=AX1+B
(式1中、Yは透過流束〔L/m・h〕、X1は塩化ナトリウム〔1価イオン〕の阻止率〔%〕、Aは-1.4<A<-1.0の範囲内の定数、Bは100<B<150の範囲内の定数を示す。)
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状支持体の管内表面に酢酸セルロース逆浸透膜が積層された酢酸セルロース逆浸透膜からなる、逆浸透膜またはナノろ過膜であるチューブラー型分離膜であって、
前記チューブラー型分離膜の酢酸セルロース逆浸透膜の膜厚が0.05~0.4mmの範囲であり、
下記式1で示される塩阻止率と透過流束の関係を満たしている、チューブラー型分離膜。
式1:Y=AX1+B
(式1中、Yは透過流束〔L/m・h〕、X1は塩化ナトリウム〔1価イオン〕の阻止率〔%〕、Aは-1.4<A<-1.0の範囲内の定数、Bは100<B<150の範囲内の定数を示す。)
【請求項2】
管状支持体の管内表面に酢酸セルロース逆浸透膜が積層された酢酸セルロース逆浸透膜からなる、逆浸透膜またはナノろ過膜であるチューブラー型分離膜であって、
前記チューブラー型分離膜の酢酸セルロース逆浸透膜の膜厚が0.05~0.4mmの範囲であり、
下記の測定方法により求められる塩化ナトリウム(1価イオン)阻止率、純水透過流束が、塩化ナトリウム〔1価イオン〕の阻止率〔%〕が15%から100%未満までの範囲で変化するとき、透過流束が120L/m2・hから15L/m2・hまでの範囲で変化するものであり、
塩化ナトリウム(1価イオン)阻止率が90%超で、純水透過流束の下限値が18L/m2・hである第1形態、
塩化ナトリウム(1価イオン)阻止率が80%超で、純水透過流束の下限値が33L/m2・hである第2形態、
塩化ナトリウム(1価イオン)阻止率が70%超で、純水透過流束の下限値が43L/m2・hである第3形態、
塩化ナトリウム(1価イオン)阻止率が50%超で、純水透過流束の下限値が55L/m2・hである第4形態、および
塩化ナトリウム(1価イオン)阻止率が20~40%で、純水透過流束の下限値が75L/m2・hである第5形態から選ばれるいずれか一つのものである、チューブラー型分離膜。
(1)塩化ナトリウム〔1価イオン〕の阻止率〔%〕
内径11.5mmの管状ポリエステル不織布支持体の管内表面に厚さ0.2mmの酢酸セルロース逆浸透膜を積層させた長さ2,500mmの管状膜エレメントを18本直列接続したチューブラー型分離膜を使用した。
平均圧力2.5MPa、循環流量10L/分、膜面線速1.5m/秒の運転条件で、液温25℃、各2000mg/Lの塩化ナトリウム水溶液の循環濾過運転を15分間実施し、チューブラー型分離膜の塩化ナトリウムの塩阻止率を測定した。
(2)透過流束〔L/m2・h〕
内径11.5mmの管状ポリエステル不織布支持体の管内表面に厚さ0.2mmの酢酸セルロース逆浸透膜を積層させた長さ2,500mmの管状膜エレメントを18本直列接続したチューブラー型分離膜を使用した。
平均圧力2.5MPa、循環流量10L/分、膜面線速1.5m/秒の運転条件で、液温25℃、純水の循環濾過運転を15分間実施し、チューブラー型分離膜の透過流束を測定した。
【請求項3】
請求項1または2記載のチューブラー型分離膜が複数本連結されたものがケースハウジング内に収容されているものである、チューブラー型分離膜モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、チューブラー型分離膜とそれを含むチューブラー型分離膜モジュール、チューブラー型分離膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種分野の工場などから排出される廃水には、鉱物油、雑油、ワックス、界面活性剤、懸濁物などが含まれているものがある。このような廃水を処理する方法として、チューブラー型分離膜を使用する方法が知られている。
【0003】
特開2016-179420号公報には、油含有水にアニオン界面活性剤を添加した後、膜面線速度1m/sec以上で膜分離する油含有水の膜分離方法の発明が記載されている。ろ過膜としては、精密濾過(MF)膜、限外濾過(UF)膜が例示され、内圧式チューブラー膜、スパイラル膜が好適であることが記載されている。
【0004】
特開2019-107645号公報には、排水処理において水分を回収し、最終的に乾燥された固形分のみを廃棄又は再利用する排水処理方法であって、管状逆浸透(RO)膜による処理工程を有している排水処理方法の発明が開示されている(特許請求の範囲)。RO膜の材質としては、セルロースアセテート、芳香族ポリアミド、及びスルホン化ポリエーテルスルホンから選ばれる1種以上であることが記載されている。
【0005】
特開2019-107575号公報には、被処理水タンク、複数の逆浸透膜モジュール、ろ過水タンクを備えるろ過処理装置の発明が開示されている(特許請求の範囲)。逆浸透膜モジュールとしては、筒状の外部ケーシング50内に逆浸透膜の管状膜エレメント60が複数収容されているものが示されている(図3図4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-179420号公報
【特許文献2】特開2019-107645号公報
【特許文献3】特開2019-107575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、油含有廃水の処理に適したチューブラー型分離膜、それを使用したチューブラー型分離膜モジュール、およびチューブラー型分離膜の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、その1つの実施形態において、酢酸セルロースからなり膜厚が0.05~0.4mmであるチューブラー型分離膜であって、
下記式1および式2で示される塩阻止率と透過流束の関係を満たしている、チューブラー型分離膜を提供する。
式1:Y=AX1+B
(式1中、Yは透過流束〔L/m・h〕、X1は塩化ナトリウム〔1価イオン〕の阻止率〔%〕、Aは-1.4<A<-1.0の範囲の定数、Bは100<B<150の範囲の定数を示す。)
式2:Y=CX2+D
(式2中、Yは透過流束〔L/m・h〕、X2は硫酸マグネシウム〔2価イオン〕の阻止率〔%〕、Cは-6.0<C<-4.0の範囲の定数、Dは300<D<800の範囲の定数を示す。)
【0009】
また本開示は、酢酸セルロースからなり膜厚が0.05~0.4mmであるチューブラー型分離膜であって、
塩化ナトリウム〔1価イオン〕の阻止率〔%〕が15%から100%未満の範囲内で変化するとき、
透過流束が120L/m・hから15L/m・hの範囲内で変化し、
さらにかつ硫酸マグネシウム〔2価イオン〕の阻止率〔%〕が80%から100%未満の範囲内で変化する、チューブラー型分離膜を提供する。
【0010】
本開示は別の実施形態において、上記のようなチューブラー型分離膜を使用したチューブラー型分離膜モジュールを提供する。1つの例において、チューブラー型分離膜モジュールは、ケースハウジングと、ケースハウジング内に収容され、チューブラー型分離膜が複数本連結されてなるチューブラー型分離膜の集合体を含んでいてよい。
【0011】
本開示はさらに別の実施形態において、造膜溶液調整工程、塗工工程、相分離膜化工程および後処理工程を含むチューブラー型分離膜の製造方法を提供する。1つの例では、後処理工程における熱処理温度を30℃~98℃の範囲内で変化させることで、塩化ナトリウム〔1価イオン〕の阻止率〔%〕、硫酸マグネシウム〔2価イオン〕の阻止率および透過流束〔L/m・h〕を調整する、チューブラー型分離膜の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本開示のチューブラー型分離膜およびそれを使用したチューブラー型分離膜モジュールは、塩化ナトリウム(1価イオン)の阻止率〔%〕、硫酸マグネシウム〔2価イオン〕の阻止率〔%〕および透過流束(L/m・h)をバランスよく発揮することができる。
【0013】
さらに本開示のチューブラー型分離膜およびそれを使用したチューブラー型分離膜モジュールは、塩化ナトリウム(1価イオン)の阻止率〔%〕が低下すると透過流束(L/m・h)が高くなるという性質を有しているが、その場合であっても硫酸マグネシウム〔2価イオン〕の阻止率〔%〕の変化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】チューブラー型分離膜の一実施形態を示す斜視図である。
図2図1に示すチューブラー型分離膜(濾過膜エレメント)を複数組み合わせた集合体を示す平面図である。
図3図1に示すチューブラー型分離膜(濾過膜エレメント)の複数本が筒状ケースハウジングに入れられた濾過膜モジュールを示す斜視図である。但し、実際には見えない内部が見えるように表示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態のチューブラー型分離膜)
第1実施形態のチューブラー型分離膜10は、例えば図1に示すように、酢酸セルロースの分離膜を支持するための多孔支持管11と、管状支持体の内側に形成された分離膜(分離膜層)12とを有している。多孔支持管11には、厚さ方向に貫通された多数の孔13が分散配置されている。
【0016】
分離膜(分離膜層)12は、例えば管状支持体の内側面に材料を積層する等により分離膜層が形成されたものである。分離膜(分離膜層)12は多孔支持管11の内部に配置されてよく、それによって送液時の圧力により分離膜(分離膜層)12が過度に膨張したりしないよう保護されている。
【0017】
第1実施形態のチューブラー型分離膜は、図2に示すとおり、チューブラー型分離膜10が連結管(U字管)21を介して複数本連結されたチューブラー型分離膜の集合体20の形態にすることができる。
【0018】
多孔支持管11としては、ステンレスなどの金属、繊維強化樹脂などの樹脂からなるものを好ましく使用できる。
【0019】
分離膜層を支持する管状支持体の材質は特に制限されるものではないが、例えばポリエステル、PVDF(ポリビニリデンジフロライド)、PES(ポリエーテルサルフォン)などの合成高分子製の管状の不織布、紙などが、水を良く透過させ、酢酸セルロース膜との密着性が高く、管状膜の剛性を保つことから使用することができる。管状支持体の厚みは分離膜12を支持できる厚みであればよく、例えば0.1~0.5mmにすることができる。
【0020】
分離膜12は、酢酸セルロースからなり、例えば逆浸透膜またはナノろ過膜として使用されてよい。酢酸セルロースは、原料とするセルロース素材の種類や選択する製造条件によって、アセチル基置換度、グルコース骨格の重合度分布、およびグルコース骨格純度などにおいて種々異なる性質のものが製造可能であり、選択する酢酸セルロースによってろ過性能(透過流束、塩阻止率など)が変化しうる。
【0021】
1つの実施形態では、酢酸セルロースは、好ましくは1.0~3.0の範囲内の置換度を有し、より好ましくは1.3~2.7の範囲内の置換度を有していてよい。
【0022】
被処理液(原液)が水溶性切削油加工企業、アルミダイカスト加工企業、石油精製企業などで発生する油を含有する廃水であるとき、酢酸セルロースは廃水中の油との親和性が低いため、酢酸セルロースを使用することで、ろ過性能(透過流束、塩阻止率など)を高めることができるようになる。
【0023】
分離膜12の膜厚(管状支持体の厚みは含まない)は、0.05~0.4mmであってよく、好ましくは0.1~0.3mmであってよく、より好ましくは0.15~0.25mmであってよい。分離膜12の膜厚が例えば0.05mmより小さい場合は、塩阻止率の値を安定化し難くなる場合がある。また、図2に示す、チューブラー型分離膜10が連結管(U字管)21を介して複数本連結されたチューブラー型分離膜の集合体20の形態においては、送液入口部となる最初のチューブラー型分離膜10で膜の損傷を特に受けやすくなる場合があるなどの支障がある。分離膜12の膜厚が例えば0.4mmより大きすぎると、透過流束の性能低下が著しくなる場合がある。
【0024】
第1実施形態のチューブラー型分離膜は、下記式1および式2で示される塩阻止率と透過流束の関係を満たしていてよい。
式1:Y=AX1+B
(式1中、Yは透過流束〔L/m・h〕、X1は塩化ナトリウム〔1価イオン〕の阻止率〔%〕、Aは-1.4<A<-1.0の範囲内の定数、Bは100<B<150の範囲内の定数を示す。)
式2:Y=CX2+D
(式2中、Yは透過流束〔L/m・h〕、X2は硫酸マグネシウム〔2価イオン〕の阻止率〔%〕、Cは-6.0<C<-4.0の範囲内の定数、Dは300<D<800の範囲内の定数を示す。)
【0025】
第1実施形態のチューブラー型分離膜は、式1および式2で示される塩阻止率と透過流束の関係を満たしていることによって、塩化ナトリウム〔1価イオン〕の阻止率〔%〕が高くなり透過流束〔L/m・h〕が低下したとき、または塩化ナトリウム〔1価イオン〕の阻止率〔%〕が低下して透過流束〔L/m・h〕が高くなったときでも、硫酸マグネシウム〔2価イオン〕の阻止率〔%〕の変化を抑制できる。
【0026】
例えば塩化ナトリウム〔1価イオン〕の阻止率〔%〕が20%~95%までの範囲内で変化し、透過流束〔L/m・h〕がこれに応じて変化したときでも、本開示の好ましい一態様では硫酸マグネシウム〔2価イオン〕の阻止率〔%〕の変化を5%~15%の範囲内に抑制することができる。本開示の別の好ましい一態様では、同様の場合に硫酸マグネシウム〔2価イオン〕の阻止率〔%〕の変化を8%~12%の範囲内に抑制することができる。
【0027】
(第2実施形態のチューブラー型分離膜)
第2実施形態のチューブラー型分離膜は、第1実施形態のチューブラー型分離膜12と同様な分離膜を支持するための管状支持体、および第1実施形態のチューブラー型分離膜と同様な管状支持体の内側に形成された分離膜(分離膜層)を有しているものであり、例えば、さらに多孔支持管11と同様な支持管と組み合わせた図1または図2に示すような形態にすることができる。
【0028】
第2実施形態のチューブラー型分離膜においては、塩化ナトリウム[1価イオン]の阻止率〔%〕、硫酸マグネシウム[2価イオン]の阻止率[%]および透過流束[L/m・h]の数値の増減レベルが互いに関係していてよい。
【0029】
第2実施形態のチューブラー型分離膜においては、塩化ナトリウム〔1価イオン〕の阻止率〔%〕が15%から100%未満までの範囲内で変化するとき、透過流束が120L/m・hから15L/m・hまでの範囲内で変化し、かつ硫酸マグネシウム〔2価イオン〕の阻止率〔%〕が100%未満から80%までの範囲内で変化してよい。このように第2実施形態のチューブラー型分離膜では、塩化ナトリウム〔1価イオン〕の阻止率〔%〕と透過流束は互いに広い範囲内で変化するが、硫酸マグネシウム〔2価イオン〕の阻止率〔%〕の変化は小さく、抑制されている。
【0030】
第2実施形態のチューブラー型分離膜としては、例えば次の各形態から選択されるろ過性能の異なる分離膜を使用することができる。
【0031】
塩化ナトリウム(1価イオン)阻止率が90%超、硫酸マグネシウム(2価イオン)阻止率が95%超で、純水透過流束の下限値が18L/m・hである第1形態のチューブラー型分離膜。
【0032】
塩化ナトリウム(1価イオン)阻止率が80%超、硫酸マグネシウム(2価イオン)阻止率が93%超で、純水透過流束の下限値が33L/m・hである第2形態のチューブラー型分離膜。
【0033】
塩化ナトリウム(1価イオン)阻止率が70%超、硫酸マグネシウム(2価イオン)阻止率が92%超で、純水透過流束の下限値が43L/m・hである第3形態のチューブラー型分離膜。
【0034】
塩化ナトリウム(1価イオン)阻止率が50%超、硫酸マグネシウム(2価イオン)阻止率が90%超で、純水透過流束の下限値が55L/m・hである第4形態のチューブラー型分離膜。
【0035】
塩化ナトリウム(1価イオン)阻止率が20~40%、硫酸マグネシウム(2価イオン)阻止率が85%超で、純水透過流束が75~120L/m・hである第5形態のチューブラー型分離膜。
【0036】
(チューブラー型分離膜モジュール)
チューブラー型分離膜モジュールは、上記した第1実施形態のチューブラー型分離膜または第2実施形態のチューブラー型分離膜をケースハウジング内に収容して構成されてよい。したがってチューブラー型分離膜モジュールは、ケースハウジングと、その内部に収容された1つまたはより多くのチューブラー型分離膜を含んでいてよい。
【0037】
例えば、図3に示すとおり、筒状のケーシング31であるケースハウジング内に連結管(U字管)21を介して複数本連結されたチューブラー型分離膜の集合体20が収容され、全体として1本の管状になっているチューブラー型RO膜モジュール30を使用することができる。チューブラー型RO膜モジュール30は、両端面(第1端面35と第2端面36)が閉塞された筒状のケーシング31内に集合体20が巻き込まれて円柱状になった形態で収容されている。
【0038】
筒状のケーシング31の第1端面35からは、集合体20の原水入り口33と濃縮水出口34が突き出されている。筒状のケーシング31の側面37からは、ろ過水出口38が突き出されており、さらに図示していない通気孔が形成されていてよい。
【0039】
(チューブラー型分離膜の製造方法)
本開示のチューブラー型分離膜、例えば第1実施形態および第2実施形態のチューブラー型分離膜の製造方法は、造膜溶液調整工程、塗工工程、相分離膜化工程および後処理工程を含んでいてよい。
【0040】
造膜溶液調整工程は、所定量の酢酸セルロースを所定量の溶媒に、任意選択的に所定量の添加剤および/またはナノ材料を加えて溶解(分散)させ、必要に応じて不溶解物をろ過除去する。酢酸セルロースを溶媒に溶解するときは、溶媒の種類に応じて20℃~90℃の温度で実施することができる。
【0041】
なお、酢酸セルロースは、アセチル基の置換度によって溶媒に対する溶解性が変化するため、造膜溶液調整工程はアセチル基の置換度も考慮して実施することができる。
【0042】
幾つかの実施形態によれば、造膜溶液調整工程に使用可能な溶媒は、使用する酢酸セルロースを溶解できるものであり、かつ後の相分離膜化工程で凝固液として用いられる溶媒に溶解するものであり、一般的には水に溶解するものである。こうした溶媒の例としては、アセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリドン(NMP)などを挙げることができる。
【0043】
溶媒は、製造する分離膜の性能を調整する目的で、混合組成の溶媒にしてもよい。混合組成の溶媒には、酢酸セルロースは溶解できないが、他の溶媒と混合することで酢酸セルロースを溶解可能な溶媒を使用してよい。混合溶媒に使用できる溶媒としては、水、アルコール、ジオキサンなどを挙げることができる。
【0044】
幾つかの実施形態によれば、造膜溶液調整工程に使用可能な添加剤は、後の相分離膜化工程で凝固液として用いられる溶媒に溶解する物質であり、一般的には水に溶解する物質である。こうした添加剤としては、塩化リチウム、臭化リチウム、乳酸、ホルムアミド、ポリエチレングリコール(ポリエチレンオキシド)などを挙げることができる。
【0045】
添加剤は、後の相分離膜化工程で膜化する過程において酢酸セルロースの構造膜内部で凝固液との界面に局在化しうる。これにより、酢酸セルロース膜の構造が表面側でより粗く、膜内部側でより緻密になることで、そのろ過性能(透過流束、塩阻止率など)の調整ができると考えられる。添加剤はこの見地から、ろ過性能に応じて適宜量用いることができる。
【0046】
ナノ材料としては、CNF(カーボンナノファイバー)、CNT(カーボンナノチューブ)、CNF(セルロースナノファイバー)、酸化チタン、シリカなどを挙げることができる。ナノ材料は、チューブラー型分離膜の透過流束や膜強度を向上させる目的で適宜量用いることができる。
【0047】
塗工工程は、管状支持体の内側に造膜溶液調整工程で調整した造膜溶液を塗工する工程である。幾つかの実施形態によれば、管状支持体の一方の端へ、造膜溶液調整工程で調整した造膜溶液を投入するための治具を設置し、塗工用ボブをセットする。塗工用ボブは、先端が尖った球状面で、後ろ側が円柱状のステンレス製の構造であってよい。
【0048】
塗工用ボブが管状支持体の内部を移動することにより、塗工用ボブの先端側に投入された造膜溶液を、管状支持体の内部に均一な厚みで塗工することができる。塗工用ボブを移動させるために、塗工用ボブの底部を圧縮空気で押し出す方法、塗工用ボブの先端に取り付けた糸を一定速度で巻き取る方法、および塗工用ボブを固定した状態で、管状支持体を一定速度で移動させる方法などを選択できる。
【0049】
塗工速度は、使用する造膜溶液の構造粘性などの性質や管状支持体の種類等によって適宜調整されてよいが、1つの例では0.5~5m/分の範囲内で調整されてよい。塗工速度が速すぎると、造膜溶液の塗工抵抗が大きくなり管状支持体への過剰な浸み込みが発生し、裏抜けと呼ばれる外径不良が生じる場合がある。また、塗工速度が遅すぎると管状膜の生産性が低下する場合がある。
【0050】
相分離膜化工程は、乾湿式相転換法による膜化工程であってよく、造膜溶液が塗工された管状支持体は、凝固液が仕込まれた凝固槽へ投入されてよい。これによって、造膜溶液中の溶剤および添加剤は凝固液に溶解し、管状支持体の内側へ酢酸セルロース膜が形成される。
【0051】
凝固液は、酢酸セルロースは溶解させず、溶剤および添加剤を溶解させる溶剤であり、一般的には水であってよい。凝固液組成や凝固液の温度、凝固液投入時の部屋の温湿度によって、分離膜のろ過性能(透過流束、塩阻止率など)は変化しうる。
【0052】
後処理工程は、酢酸セルロース膜へ所定の熱や圧力を、所定の方法で、所定の時間加えることにより、その管状膜性能を固定するための工程である。所定の熱や圧力は、水や圧縮空気などの流体を介して加えることができる。流体は、チューブラー型分離膜内部で停滞させた状態でもよいし、チューブラー型分離膜内部で循環流動させてもよい。さらに、図2に示すような集合体を組立てた後で、流体を用いて所定の熱や圧力を加えてもよい。
【0053】
後処理工程における熱処理温度は30℃~98℃の範囲内で増減させることで、塩化ナトリウム〔1価イオン〕の阻止率〔%〕、硫酸マグネシウム(2価イオン)阻止率および透過流束(L/m・h)を調整することができる。
【0054】
後処理工程における熱処理温度は、30℃~98℃の範囲内で変化させることで塩化ナトリウム〔1価イオン〕の阻止率〔%〕、硫酸マグネシウム(2価イオン)阻止率および透過流束(L/m・h)を調整することができる。後処理工程における熱処理時間は、10分以上120分未満とすることができる。
【0055】
幾つかの実施形態によれば、本開示の製造方法により得られたチューブラー型分離膜は、塩化ナトリウム〔1価イオン〕の阻止率〔%〕が15%から100%未満までの範囲内で変化するとき、透過流束が120L/m・hから15L/m・hまでの範囲内で変化し、さらにかつ硫酸マグネシウム〔2価イオン〕の阻止率〔%〕が100%未満から80%までの範囲内で変化するように調整されている。このように本開示の製造方法により得られたチューブラー型分離膜は、塩化ナトリウム〔1価イオン〕の阻止率〔%〕と透過流束は互いに広い範囲内で変化するが、硫酸マグネシウム〔2価イオン〕の阻止率〔%〕の変化が小さくされ、抑制されている。
【0056】
幾つかの実施形態によれば、本開示のチューブラー型分離膜は、水溶性切削油加工企業、アルミダイカスト加工企業、石油精製企業などで発生する油を含有した廃水の減容化に使用することができる。油を含有した廃水の減容化に使用する場合は、濃縮効率が高い透過流束が30L/m・Hr.以上で、硫酸マグネシウム程度の大きさの塩の塩阻止率が90%付近である性能の管状膜が求められている。
【0057】
本開示のチューブラー型分離膜は、油を含有しない廃水においても、特に限外濾過膜では完全阻止できないナノサイズの不純物を含んだ廃水の減容化に好ましく使用でき、特開2019-107645号公報における管状RO膜としても使用することができる。
【0058】
本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。各実施形態における各構成およびそれらの組み合わせなどは一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
実施例
【0059】
(1)塩化ナトリウム〔1価イオン〕、硫酸マグネシウム〔2価イオン〕の阻止率〔%〕の測定方法
図1に示すような構成のチューブラー型分離膜であって、以下に述べるようにして内径11.5mmのポリエステル不織布の管状支持体の管内表面に厚さ0.2mmの酢酸セルロース逆浸透膜を積層させた長さ2500mmの管状膜エレメント(ダイセン・メンブレン・システムズ製TR-70C3-P18A)(多孔支持管11は、繊維強化樹脂製)を18本直列接続したもの(図2参照)を使用した。
【0060】
平均圧力2.5MPa、循環流量10L/分、膜面線速1.5m/秒の運転条件で、液温25℃、各2000mg/Lの塩化ナトリウムと硫酸マグネシウムの混合水溶液の循環濾過運転を15分間実施し、管状膜エレメントの塩化ナトリウムおよび硫酸マグネシウムの塩阻止率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0061】
(2)透過流束〔L/m・h〕の測定方法
図1に示すような構成のチューブラー型分離膜であって、内径11.5mmのポリエステル不織布の管状支持体の管内表面に厚さ0.2mmの酢酸セルロース逆浸透膜を積層させた長さ2500mmの管状膜エレメント(ダイセン・メンブレン・システムズ製TR-70C3-P18A)(多孔支持管11は、繊維強化樹脂製)を18本直列接続したもの(図2参照)を使用した。
【0062】
平均圧力2.5MPa、循環流量10L/分、膜面線速1.5m/秒の運転条件で、液温25℃、純水の循環濾過運転を15分間実施し、管状膜エレメントの透過流束を測定した。測定結果を表1に示す。
【0063】
実施例1
(造膜溶液調整工程)
株式会社ダイセル製の酢酸セルロース(アセチル置換度2.5)の3.6kgと、添加剤として乳酸6.4kgを、溶媒であるアセトン10kgに室温で溶解したものを造膜溶液として使用した。
【0064】
(塗工工程)
長さ2700mmで、内径11.5mmのポリエステル不織布製管状支持体の一方の端へ、造膜溶液を投入するための治具を設置し、約70gの造膜溶液を治具へ投入した。その後、速やかに内径11.0mmのステンレス製塗工用ボブを用い、塗工用ボブの先端に取り付けた糸を2m/分で巻き取り、前記管状支持体の内側に造膜溶液を塗工した。
【0065】
(相分離膜化工程)
塗工後、速やかにベルトコンベアーを使い、1~3℃の冷水が仕込まれた凝固槽へ投入し、1時間浸漬した後、水洗を実施した。管状膜の長さが2500mmになるように両端を切断し、管状膜の長さを調整した。
【0066】
(後処理工程)
チューブラー型分離膜内部で水を循環流動できる状態で、87℃の温水を35分間継続して僅かに水が流れる程度の圧力下で流して熱処理を行った後、管状膜の温度が室温に近い温度になるように冷却し、その後は、速やかにチューブラー型分離膜内部の圧力が2.5MPaとなるように加圧処理を30分間継続して実施した。
【0067】
製造されたチューブラー型分離膜の膜厚は0.2mmで、膜面積は1.6mであった。同じ製造方法で複数の同じ管状膜を製造し、これらの膜を18本直列に接続した管状膜エレメント(図2参照)を用いて、上記したようにして管状膜エレメントの透過流束と塩化ナトリウムおよび硫酸マグネシウムの塩阻止率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0068】
実施例2~5
実施例1と同様にしてチューブラー型分離膜を製造した。但し、後処理工程における熱処理温度と温水通水時間を表1に示すように変化させた。実施例1と同様の測定を実施した。測定結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1から明らかなとおり、塩化ナトリウム(1価イオン)の阻止率〔%〕が20%~90%以上に変化すると、透過流束〔L/m・h〕は下限値が75~18に変化したが、硫酸マグネシウム(2価イオン)の阻止率〔%〕の変化は小さく、10%の範囲内に抑制されていた。
産業上の利用可能性
【0071】
本開示のチューブラー型分離膜は、水溶性切削油加工企業、アルミダイカスト加工企業、石油精製企業などで発生する油を含有した廃水の減容化に使用することができる。
符号の説明
【0072】
10 チューブラー型分離膜(ろ過膜エレメント)
11 多孔支持管
12 分離膜
20 チューブラー型分離膜集合体
30 チューブラー型分離膜モジュール
図1
図2
図3