(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036311
(43)【公開日】2022-03-07
(54)【発明の名称】微小アラミド繊維とその製造方法、アラミド繊維水分散液、不織布、二次電池用セパレータ、及び二次電池
(51)【国際特許分類】
D01F 6/60 20060101AFI20220228BHJP
H01M 50/409 20210101ALI20220228BHJP
D04H 1/4342 20120101ALI20220228BHJP
【FI】
D01F6/60 371A
H01M2/16 P
H01M2/16 L
D04H1/4342
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020140516
(22)【出願日】2020-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下川 創太
(72)【発明者】
【氏名】山川 章
【テーマコード(参考)】
4L035
4L047
5H021
【Fターム(参考)】
4L035AA04
4L035BB46
4L035DD19
4L035FF01
4L035FF05
4L035MG02
4L047AA24
4L047AB02
4L047CC12
5H021BB01
5H021BB07
5H021BB09
5H021CC01
5H021CC02
5H021EE07
5H021HH00
5H021HH01
5H021HH03
(57)【要約】
【課題】不織布層の均一性が得られやすく、バインダがなくとも不織布層と多孔質基材との密着性が高い積層体を形成できる水分散液を実現するアラミド繊維を提供する。
【解決手段】本開示の微小アラミド繊維は、平均繊維長が10~200μmであり、1質量%水分散液の粘度η1(25℃、せん断速度10s-1)が500~5000mPa、1質量%水分散液の粘度η2(25℃、せん断速度1s-1)が10000~70000mPaであって、η1に対するη2の比(η2/η1)が14~25である、微小アラミド繊維である。
また、本開示の微小アラミド繊維の製造方法は、アルカリ水溶液を用いて平均繊維200~1000μmのアラミド繊維を加熱処理した後、解繊処理して請求項1に記載の微小アラミド繊維を得る、微小アラミド繊維の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維長が10~200μmであり、1質量%水分散液の粘度η1(25℃、せん断速度10s-1)が500~5000mPa、1質量%水分散液の粘度η2(25℃、せん断速度1s-1)が10000~70000mPaであって、η1に対するη2の比(η2/η1)が14~25である、微小アラミド繊維。
【請求項2】
平均繊維長が200~1000μmのアラミド繊維をアルカリ水溶液を用いて加熱処理した後、解繊処理して請求項1に記載の微小アラミド繊維を得る、微小アラミド繊維の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の微小アラミド繊維及び水を含むアラミド繊維水分散液。
【請求項4】
請求項3に記載のアラミド繊維水分散液であり、前記アラミド繊維水分散液を多孔質基材に塗布し固化させた不織布層のJIS K5400に準拠したクロスカット試験の100マス中の剥離数が70以下である、アラミド繊維水分散液。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のアラミド繊維水分散液の固化物を含む不織布。
【請求項6】
請求項5に記載の不織布と多孔質基材との積層体を備える、二次電池用セパレータ。
【請求項7】
請求項6に記載の二次電池用セパレータを備えた二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、微小アラミド繊維とその製造方法、アラミド繊維水分散液、不織布、二次電池用セパレータ、及び二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池のような蓄電デバイスには、電解液を保持しながら正極と負極を絶縁するセパレータが用いられている。従って、セパレータには電気絶縁性を担保することが求められる。その他、リチウムイオンがこのセパレータを通過して移動することで電池が機能するため、透過性を担保することも求められる。
【0003】
更に、リチウムイオン二次電池には、電池内が異常高温となった場合に、セパレータの孔が塞がり電極間のリチウムイオンの流れを止めて安全に電池の機能を停止させる「シャットダウン機能」が求められる。また、リチウムイオンの流れを止めた後も更に電池内の温度が上昇すると、セパレータが収縮(シュリンク)又は、溶融(メルトダウン)して、電極の短絡や熱暴走が生じる恐れがある。そのため、セパレータには、異常高温環境下でも形状を保持できる耐熱性が求められる。
【0004】
近年、リチウムイオン二次電池について、軽量で高電圧・大容量という特性からスマートフォンやノートパソコンなどの情報関連機器に加え、ハイブリッド車や電気自動車にも搭載することが検討されていることから、更なる高エネルギー密度化に対応するべく、より耐熱性の高いセパレータが求められている。
【0005】
特許文献1には、多孔質基材と、特定の微小繊維とバインダとを含む不織布からなる耐熱層とを含む二次電池用セパレータについて、耐熱性に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示される水分散液には、塗布の際に高粘度となり塗膜すなわち不織布層の均一性が損なわれる場合があり、粘度を調整するために繊維の含有量を抑えると、水分散液の乾燥負荷が増大し、また、粘度を調整し不織布層と多孔質基材との密着性を向上させるためにバインダを加えると、バインダにより多孔質基材の孔が閉塞しやすくなる場合があるといった問題があった。
【0008】
従って、本開示の目的は、不織布層の均一性が得られやすく、バインダによらずとも不織布層と多孔質基材との密着性が高い積層体を形成できる水分散液を実現するアラミド繊維を提供することにある。また、本開示の他の目的は、前記水分散液を実現するアラミド繊維の製造方法を提供することにある。また、本開示の他の目的は、不織布層の均一性が得られやすく、不織布層と多孔質基材との密着性が高い積層体を形成できる水分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定の方法により解繊することによって得られ、特定の繊維長を有し、水分散液において特定の粘度挙動を示すアラミド繊維において、塗膜すなわち不織布の均一性が得られ、また、添加剤が加えられなくとも多孔質基材との密着性が高い不織布層が実現されることを見いだした。本開示に係る発明はこれらの知見に基づいて完成されたものである。
【0010】
すなわち、本開示は、平均繊維長が10~200μmであり、1質量%水分散液の粘度η1(25℃、せん断速度10s-1)が500~5000mPa、1質量%水分散液の粘度η2(25℃、せん断速度1s-1)が10000~70000mPaであって、η1に対するη2の比(η2/η1)が14~25である、微小アラミド繊維を提供する。
【0011】
本開示は、また、平均繊維長200~1000μmのアラミド繊維をアルカリ水溶液を用いて加熱処理した後、解繊処理して前記微小アラミド繊維を得る、微小アラミド繊維の製造方法を提供する。
【0012】
前記アラミド繊維水分散液は、前記微小アラミド繊維及び水を含むことが好ましい。
【0013】
前記アラミド繊維水分散液は、これを多孔質基材に塗布し固化させた不織布層のJIS K5400に準拠したクロスカット試験の100マス中の剥離数が70以下であることが好ましい。
【0014】
本開示は、また、前記アラミド繊維水分散液の固化物を含む不織布を提供する。
【0015】
本開示は、また、前記不織布と多孔質基材との積層体を備える、二次電池用セパレータを提供する。
【0016】
本開示は、また、前記二次電池用セパレータを備えた二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本開示の微小アラミド繊維を用いることにより、塗布の際に均一性が得られやすく、バインダを含有せずとも多孔質基材との密着性が高い不織布層を形成できる水分散液を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[微小アラミド繊維]
本開示の微小アラミド繊維は、平均繊維長が10~200μmであり、1質量%水分散液の粘度η1(25℃、せん断速度10s-1)が500~5000mPa、1質量%水分散液の粘度η2(25℃、せん断速度1s-1)が10000~70000mPaであって、η1に対するη2の比(η2/η1)が14~25である。
【0019】
本開示の微小アラミド繊維の繊維太さは、不織布の均一性が得られやすい点から、0.01~7μmが好ましい。なかでも、繊維太さの上限は、5μmがより好ましく、3μmが更に好ましく、2.5μmが特に好ましい。また、繊維太さの下限は、0.03μmがより好ましく、0.05μmが更に好ましい。尚、微小アラミド繊維の繊維太さは、電子顕微鏡(SEM、TEM)を用いて十分な数(例えば、100個以上)の微小アラミド繊維について電子顕微鏡像を撮影し、これらの微小アラミド繊維の太さ(直径)を計測することにより求められる。
【0020】
本開示の微小アラミド繊維の平均繊維長は、不織布の均一性が得られやすい点から、10~200μmが好ましい。なかでも、平均繊維長の上限は、170μmがより好ましく、150μmが更に好ましく、130μmが特に好ましい。また、平均繊維長の下限は、30μmがより好ましく、70μmが更に好ましい。尚、微小アラミド繊維の平均繊維長は、繊維画像分析計(バルメットオートメーション製Valmet FS5)を用いて測定できる。
【0021】
本開示の微小アラミド繊維の、1質量%水分散液、温度25℃、せん断速度10s-1における粘度η1は、水分散液の塗布が可能であって、均一な塗膜の形成を可能とする点から、500~5000mPa・sが好ましく、より好ましくは600~3000mPa・s、更に好ましくは700~2000mPa・sである。
【0022】
本開示の微小アラミド繊維の、1質量%水分散液、温度25℃、せん断速度1s-1における粘度η2は、水分散液の塗布後の垂れを抑制できる点から、10000~70000mPa・sが好ましく、より好ましくは12000~50000mPa・s、更に好ましくは15000~30000mPa・sである。
【0023】
尚、粘度η1、粘度η2は、粘弾性測定装置を用いた実施例に記載の方法により測定できる。
【0024】
本開示の微小アラミド繊維の、η1に対するη2の比(η2/η1)は、水分散液の塗布が可能であって、均一な塗膜の形成を可能とし、塗布後の垂れを抑制できる点から、14~25が好ましく、より好ましくは15~24、更に好ましくは16~23である。
【0025】
本開示の微小アラミド繊維は、2個以上の芳香環がアミド結合を介して結合した構造を有するポリマー(すなわち、全芳香族ポリアミド)からなる繊維であり、上記全芳香族ポリアミドにはメタ型及びパラ型が含まれる。上記全芳香族ポリアミドとしては、例えば、下記式(a)で表される構成単位を有するポリマーが挙げられる。
【化1】
【0026】
上記式中、Ar1、Ar2は同一又は異なって芳香環、又は2個以上の芳香環が単結合又は連結基を介して結合した基を示す。上記芳香環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環等の炭素数6~10の芳香族炭化水素環が挙げられる。また、上記連結基としては、例えば、二価の炭化水素基(例えば、炭素数1~18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基、炭素数3~18の二価の脂環式炭化水素基等)、カルボニル基(-CO-)、エーテル結合(-O-)、エステル結合(-COO-)、-NH-、-SO2-等が挙げられる。また、上記芳香環は種々の置換基[例えば、ハロゲン原子、アルキル基(例えば、C1-4アルキル基)、オキソ基、ヒドロキシル基、置換オキシ基(例えば、C1-4アルコキシ基、C1-4アシルオキシ基等)、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基(例えば、C1-4アルコキシカルボニル基)、シアノ基、ニトロ基、置換又は無置換アミノ基(例えば、モノ又はジC1-4アルキルアミノ基)、スルホ基等]を有していてもよい。更に、上記芳香環には芳香族性又は非芳香属性の複素環が縮合していてもよい。
【0027】
本開示の微小アラミド繊維は、例えば、少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸のハロゲン化物に、少なくとも1種の芳香族ジアミンを反応させる(例えば、溶液重合、界面重合等)ことにより製造できる。
【0028】
上記芳香族ジカルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、3,3’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等が挙げられる。
【0029】
上記芳香族ジアミン酸としては、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノビフェニル、2,4-ジアミノジフェニルアミン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ナフタレンジアミン、1,5-ナフタレンジアミン等が挙げられる。
【0030】
[微小アラミド繊維の製造方法]
本開示の微小アラミド繊維は、上記全芳香族ポリアミドを周知慣用の方法により(例えば、紡糸、洗浄、乾燥処理等の工程を経て)繊維状に紡糸しカットした、例えば繊維太さ0.1~100μm、平均繊維長200~1000μmのアラミド繊維を、アルカリ水溶液を用いて加熱処理した後、解繊処理を施すことにより製造できる。上記加熱処理におけるアルカリ加水分解によってアミド結合が切断されるので、上記解繊処理において容易に、より微細な繊維が得られるものと考えられる。また、上記加熱処理を施すことにより、繊維長が短くなって繊維間の絡まりが低減するとともに、繊維表面に存在するアミド結合が減少して水素結合力が低下するので、本開示の微小アラミド繊維の水分散液は上記加熱処理を施さないアラミド繊維の水分散液よりも低粘度になると考えられる。
【0031】
上記アルカリ水溶液(水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等)の濃度は、1~20質量%が好ましく、より好ましくは5~15質量%である。
【0032】
上記加熱処理は、処理温度は、好ましくは80~110℃、より好ましくは90~105℃、処理時間は、好ましくは0.5~10時間、より好ましくは1~5時間である。
【0033】
上記解繊処理は、例えば、上記加熱処理を施したアラミド繊維と水とを混合し、超高圧ホモジナイザー等を用い、処理圧30~300MPaの機械的剪断力を加えることによって行うことができる。
【0034】
[アラミド繊維水分散液]
本開示のアラミド繊維水分散液は、微小アラミド繊維と水とを含み、例えば、微小アラミド繊維と水とを混合し、撹拌することによって製造できる。
【0035】
本開示のアラミド繊維水分散液中における微小アラミド繊維の含有量は、水分散液が適度な粘度を有し、不織布層と多孔質基材との高い密着性が得られる点から、0.1~3.0重量%が好ましい。なかでも、上記微小アラミド繊維の含有量の下限値は、より好ましくは0.3重量%、更に好ましくは0.5重量%である。また、上記微小アラミド繊維の含有量の上限値は、より好ましくは3重量%、更に好ましくは2.5重量%、特に好ましくは2重量%である。
【0036】
本開示のアラミド繊維水分散液の、温度25℃、せん断速度10s-1における粘度は、水分散液の塗布が可能であって、均一な塗膜の形成を可能とする点から、50~15000mPa・sが好ましく、より好ましくは60~9000mPa・s、更に好ましくは70~6000mPa・sである。
【0037】
本開示のアラミド繊維水分散液の、温度25℃、せん断速度1s-1における粘度は、塗布後の垂れを抑制できる点から、1000~210000mPa・sが好ましく、より好ましくは1200~150000mPa・s、更に好ましくは1500~90000mPa・sである。
【0038】
尚、アラミド繊維水分散液の粘度は、粘弾性測定装置を用いた実施例に記載の方法により測定できる。
【0039】
本開示のアラミド繊維水分散液は、本開示の微小アラミド繊維を上記範囲で含有することにより、平均繊維長200~1000μmのアラミド繊維を用いた場合に比べて繊維間の絡まりと水素結合を低減することができると考えられるため、塗布の際(高いせん断速度)には著しく低い粘度を示して均一な塗膜を形成しやすくなる。
【0040】
また、本開示のアラミド繊維水分散液は、後述の多孔質基材に塗布し固化させて不織布とした不織布層と多孔質基材層とからなる積層体について、不織布層の実施例に示すJIS規格K5400に準拠したクロスカット試験の100マス中の剥離数が、好ましくは90以下、より好ましくは70以下という、優れた密着性を示す。
【0041】
また、本開示のアラミド繊維水分散液は、上記積層体とした際に、該積層体をトレース台に載置して光を透過させた透過光を目視にて観測すると、不織布層が均一であり、光の透過は殆どないものと評価される。
【0042】
本開示のアラミド繊維水分散液は、本開示の効果を損ねない範囲において、不揮発分として、本開示のアラミド繊維の他に、本開示の微小アラミド繊維以外の他の微小繊維、バインダ、添加剤(分散剤、界面活性剤等)、フィラー等を含んでもよい。
【0043】
上記他の微小繊維としては、例えば、セルロース繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリイミド繊維、フッ素繊維、ガラス繊維、炭素繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、液晶ポリマー繊維等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0044】
上記バインダには、例えば、フッ素系バインダ(例えば、ポリフッ化ビニリデン等)、ポリエステル系バインダ、エポキシ系バインダ、アクリル系バインダ、ビニルエーテル系バインダなどの非水系バインダや、多糖類誘導体(セルロース、デンプン、グリコーゲン、これらの誘導体等)、ジエン系ゴム(例えば、スチレン・ブタジエンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、メタクリル酸メチル・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム等)、アクリル系ポリマー(例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸/マレイン酸共重合体・ナトリウム塩、アクリル酸/スルホン酸共重合体・ナトリウム塩等)、アクリルアミド系ポリマー(例えば、ポリアクリルアミド、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド、ポリ-N,N-ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド系ポリマー)、ポリビニルピロリドン、ポリアルキレングリコール(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)、ポリエチレンイミンなどの水系バインダが挙げられる。
【0045】
上記セルロースの誘導体としては、具体的には、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びこれらのアルカリ金属塩(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム)等が挙げられる。
【0046】
本開示のアラミド繊維水分散液中における、上記バインダの含有量は、好ましくは1.0重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、更に好ましくは0重量%である。
【0047】
本開示のアラミド繊維水分散液中における、微小アラミド繊維の他の不揮発成分の合計の含有量は、好ましくは2.0重量%以下、より好ましくは1.0重量%以下、更に好ましくは0重量%である。
【0048】
本開示のアラミド繊維水分散液は、水以外にも分散媒として有機溶媒を含有していてもよい。上記有機溶媒の含有量は、水分散液に含まれる分散媒全量の、例えば、50重量%以下であることが好ましく、より好ましくは30重量%以下、更に好ましくは10重量%以下である。
【0049】
[不織布]
本開示の不織布は、上記アラミド繊維水分散液の固化物を含む。本開示の不織布は上記固化物以外の成分を含んでいても良いが、不織布全量における上記固化物の占める割合は、例えば95重量%以上、好ましくは97重量%以上、更に好ましくは99重量%以上である。
【0050】
本開示の不織布は、上記アラミド繊維水分散液を塗布し、固化させることにより(具体的には、揮発分を揮発させて除去することにより)、形成することができる。
【0051】
本開示の不織布は耐熱性に優れ、高温環境下でも軟化或いは溶融することなく、不織布の形状(例えば、シート状の形状)を保持することができる。
【0052】
本開示の不織布は多孔性であり、空隙率は、好ましくは30~90体積%、より好ましくは35~80体積%である。空隙率が上記範囲内であると、高温環境下において高い強度を示し、リチウムイオンの透過性に優れる傾向がある。
【0053】
本開示の不織布の厚みは、例えば0.5~20μmであり、不織布の強度を担保して、均一性と密着性を十分に発揮できる点において、好ましくは1~10μm、より好ましくは1.5~6μm、更に好ましくは2~4.5μm(mm)である。
【0054】
本開示の不織布は非常に軽量であり、その坪量は、例えば10g/m2以下であり、電池の軽量化に資する点において、好ましくは7g/m2以下、より好ましくは5g/m2以下である。また、坪量の下限値は、例えば0.1g/m2である。
【0055】
本開示の不織布は、二次電池用セパレータの構成成分として好適に使用できる。
【0056】
[二次電池用セパレータ]
本開示の二次電池用セパレータは、上記不織布と、後述する多孔質基材との積層体を含む。すなわち、本開示の二次電池用セパレータは、上記不織布からなる不織布層と、多孔質基材からなる多孔質基材層とを含む。
【0057】
本開示の二次電池用セパレータの透気度は、例えば50~4000sec/100mLである。透気度の上限値は、好ましくは1000sec/100mL、より好ましくは600sec/100mL、更に好ましくは400sec/100mLである。透気度の下限値は、好ましくは70sec/100mLである。そのため、透気度の上昇率が極めて小さく、電解液浸透性に優れる。
【0058】
上記多孔質基材は、リチウムイオン二次電池において、リチウムイオンが電極間を移動可能とする空隙を備え、且つ、二次電池内が異常高温となった場合には、軟化して上記空隙を塞ぐことで電極間のリチウムイオンの流れを停止させる「シャットダウン機能」を発揮する部材である。
【0059】
上記多孔質基材の空隙の大きさは、例えば0.01~1mm、好ましくは0.02~0.06mmである。空隙の大きさが上記範囲内であると、絶縁性に優れ短絡しにくく、かつ電気抵抗が小さくなる傾向がある。
【0060】
上記多孔質基材の空隙率は、好ましくは20~70体積%、より好ましくは30~60体積%である。空隙率が上記範囲であると、強度が十分に高くなり、かつ電気抵抗が小さくなる傾向がある。
【0061】
上記多孔質基材の透気度は、好ましくは10~600sec/100mL、より好ましくは50~400sec/100mL、更に好ましくは50~350sec/100mLである。透気度が上記範囲であると、電気抵抗が小さくなり、かつ強度が十分に高くなる傾向がある。
【0062】
上記多孔質基材は、電解液に不溶性を示す材料であって、高温環境下では軟化する材料からなる基材である。上記材料としては、例えば熱可塑性ポリマーが好ましい。上記熱可塑性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;2,6-ナイロン等の脂肪族ポリアミド等が挙げられる。
【0063】
上記多孔質基材の材料は、上記熱可塑性ポリマーのなかから、所望のシャットダウン温度に応じて適宜選択して使用することが好ましい。例えば、シャットダウン温度を150℃に設定する場合は、融点若しくは軟化温度が140~150℃である熱可塑性ポリマーを使用することが好ましい。
【0064】
上記多孔質基材の厚みは、好ましくは5~40μm、より好ましくは8~30μmである。厚みが上記範囲であると、電池の体積容量が増大し、かつ強度が十分高くなる傾向がある。
【0065】
上記多孔質基材は、例えば、上記多孔質基材の材料(例えば、ポリオレフィン)を加熱・溶融して押出しフィルムを形成し、得られたフィルムを延伸することによって多孔質化せしめる方法等によって製造できる。
【0066】
本開示の二次電池用セパレータは、例えば、上記アラミド繊維水分散液を、上記多孔質基材の表面に塗布して塗膜を形成し、塗膜を乾燥させて上記アラミド繊維水分散液の固化物からなる不織布と上記多孔質基材との積層体を形成する工程を経て製造できる。
【0067】
上記アラミド繊維水分散液を塗布する方法としては、特に制限がなく、例えば、印刷法、コーティング法等により行うことができる。具体的には、スクリーン印刷法、マスク印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法、フレキソ印刷法、グラビア印刷法、シルクスクリーン印刷法、スタンピング、ディスペンス、スキージ法、噴霧、刷毛塗り等が挙げられる。また、フィルムアプリケーター、バーコーター、ダイコーター、コンマコーター、グラビアコーター等により塗布してもよい。
【0068】
上記アラミド繊維水分散液は、多孔質基材の少なくとも一方の面に塗布すればよい。本開示に係る発明においては、なかでも、二次電池用セパレータの総厚みを薄化することができ、電池の充填密度を高めることができ、二次電池の小型化に資する点において、多孔質基材の一方の面のみに塗布することが好ましい。
【0069】
塗膜を乾燥させる方法としては、特に限定されないが、加熱、減圧、送風等の方法が挙げられる。加熱温度や加熱時間、減圧度や減圧時間、送風量、送風速度、送風温度、送風する気体の種類や乾燥度、送風する対象となる領域、送風の方向等は、任意に選択することができる。
【0070】
[二次電池]
本開示の二次電池は、正極活物質層が正極集電体に配置された正極と、負極活物質層が負極集電体に配置された負極と、セパレータと、電解液とを含む発電要素を、外装体内部に含むものである。そして、上記二次電池は、セパレータとして上述の二次電池用セパレータを使用することを特徴とする。
【0071】
本開示の二次電池は、正極、負極、及びセパレータを積層して巻回したものを、電解液と共に缶などの容器に封入した巻回型電池であっても、正極、負極、及びセパレータを積層したシート状物を、電解液と共に、比較的柔軟な外装体内部に封じ込めた積層型電池であってもよい。
【0072】
本開示の二次電池は、耐熱性(例えば、高温環境下における形状保持性)に優れた上述の二次電池用セパレータを備えるため安全性に優れる。また、上記二次電池用セパレータは軽量であり、且つ厚みが薄い。そのため、上記二次電池は軽く、その上、電極の充填密度を向上することができるので、二次電池の小型化に対応することができる
【0073】
そのため、本開示の二次電池を使用すれば、スマートフォンやノートパソコンなどの情報関連機器、ハイブリッド車や電気自動車等を、安全性を高く維持しつつ、軽量化できる。例えば、上記二次電池を利用する電気自動車は、大幅な軽量化が可能であり、それにより燃費を飛躍的に向上することができる。
【0074】
以上、本開示に係る発明の各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であって、本開示に係る発明の主旨から逸脱しない範囲において、適宜、構成の付加、省略、置換、及び変更が可能である。また、本開示に係る発明は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。
【実施例0075】
以下、実施例により本開示をより具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0076】
[実施例1]
芳香族ポリアミド繊維(東レ・デュポン(株)製)カットファイバー(繊維太さ10~14μm、平均繊維長300μm)を、10質量%水酸化ナトリウム水溶液を用いて、100℃で3時間、加熱処理してから、純水により洗浄処理し乾燥して、アルカリ処理アラミド繊維を得た。アルカリ処理アラミド繊維180gと純水17820mLとを配合し、ホモジナイザーを用いて1000rpmで10分撹拌し水分散液を得た。次いで、水分散液に対して高圧ホモジナイザーを用いてアルカリ処理アラミド繊維の解繊処理を行い(150MPa)、1.0質量%微小アラミド繊維水分散液(1)を得た。微小アラミド繊維水分散液(1)について、含有される微小アラミド繊維の繊維太さは0.1~2μm、平均繊維長は110μmであり、下記条件により測定した粘度は、1s-1において16830mPa・s、10s-1において795mPa・sであった。
【0077】
温度条件:25℃
雰囲気条件:N2
せん断速度:1s-1、10s-1
測定治具:25mmΦコーンプレート
使用装置:粘弾性測定装置(MCR302、アントンパール社製)
測定方法:定常流測定
【0078】
多孔質基材であるポリエチレン微多孔膜(ダブル・スコープ(株)製、厚み20μm、透気度235sec/100mL)の一方の面に、微小アラミド繊維水分散液(1)を自動塗工装置(テスター産業(株)製、PI-1210)を用いて、240mm/secの速度で塗布した。塗布後、恒温槽で乾燥し(90℃、6分間)、微小アラミド繊維水分散液(1)の固化物からなる不織布層とポリエチレン微多孔膜とからなる積層体(1)を得た。不織布層の厚みは3.6μmであった。
【0079】
[比較例1]
水酸化ナトリウム水溶液による加熱処理を施さない以外は、実施例1と同様にして、1質量%アラミド繊維水分散液(2)、及び、積層体(2)を得た。水分散液中のアラミド繊維の繊維太さは0.1~2μm、平均繊維長は220μmであり、水分散液の粘度は、1s-1において75370mPa・s、10s-1において5738mPa・sであった。不織布層の厚みは5.2μmであった。
【0080】
[比較例2]アラミド繊維(ダイセルファインケム(株)製、ティアラKY400S、平均繊維径0.2~0.3μm、平均繊維長430μm)を用い、水酸化ナトリウム水溶液による加熱処理を施さない以外は、実施例1と同様にして、1質量%アラミド繊維水分散液(3)、及び、積層体(3)を得た。水分散液中のアラミド繊維の繊維太さは0.1~10μm、平均繊維長は400μmであり、水分散液の粘度は、1s-1において367800mPa・s、10s-1において33180mPa・sであった。不織布層の厚みは7.5μmであった。
【0081】
実施例1、及び比較例1、2で得られた積層体(1)~(3)について、均一性、密着性について以下の方法により評価した。
【0082】
<均一性の評価>
トレース台に積層体を載置し、トレース台の光を透過させた透過光を目視にて観測し、透過の程度を評価した。
【0083】
(判断基準)
〇(良好):不織布層が均一であり、光の透過は殆どない
△(やや不良):不織布層がやや不均一であり、一部に光の透過がみられる
×(不良):不織布層が不均一であり、大半において光の透過がみられる
【0084】
<密着性の評価(クロスカット試験)>
JIS K5400に準拠し、積層体の一方の面に1mm2のクロスカットを100個形成し、ポストイット(3M製、製品番号:700RP-YN)をその上に貼り付け、1.5kg/cm2の荷重で押し付けた後、90度方向に剥離した。剥離したマス数により、不織布層と多孔質基材層との密着性を評価した。
【0085】
(判断基準)
〇(良好):剥離した数が70以下
△(やや不良):剥離した数が70超90以下
×(不良):剥離した数が90超100以下
【0086】
上記結果を表1にまとめて示す。
【0087】
【0088】
表1より、実施例1の微小アラミド繊維を用いた積層体は、不織布層の均一性、不織布層と多孔質基材層との密着性の両方に優れることがわかった。一方、比較例1の積層体は密着性にはすぐれるものの均一性に劣り、比較例2の積層体は均一性及び密着性の両方に劣るものであった。