(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036334
(43)【公開日】2022-03-08
(54)【発明の名称】ヒューズの消弧方法及びヒューズを備える電源装置
(51)【国際特許分類】
H01H 85/38 20060101AFI20220301BHJP
H01H 85/10 20060101ALI20220301BHJP
B60L 3/04 20060101ALI20220301BHJP
H02J 7/00 20060101ALN20220301BHJP
H02J 7/02 20160101ALN20220301BHJP
【FI】
H01H85/38
H01H85/10
B60L3/04 D
H02J7/00 P
H02J7/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2018186948
(22)【出願日】2018-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104949
【弁理士】
【氏名又は名称】豊栖 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100074354
【弁理士】
【氏名又は名称】豊栖 康弘
(72)【発明者】
【氏名】中原 千晴
【テーマコード(参考)】
5G502
5G503
5H125
【Fターム(参考)】
5G502AA01
5G502AA09
5G502BB05
5G502BB07
5G502BD02
5G502CC03
5G502EE07
5G502FF08
5G503AA07
5G503BA03
5G503BB01
5G503CA01
5G503DA08
5G503FA06
5H125AA01
5H125AC12
5H125CD04
5H125EE22
5H125FF30
(57)【要約】
【課題】極めて簡単な構造としながら、ヒューズ溶断時の弊害を確実に防止する。
【解決手段】溶断部2aの近傍に磁石4を配置して、磁石4の磁界によるローレンツ力でアーク5を長く引き伸ばして速やかに消弧する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶断部の近傍に磁石を配置し、前記磁石の磁界によるローレンツ力でアークを長く引き伸ばすことを特徴とするヒューズの消弧方法。
【請求項2】
請求項1に記載されるヒューズの消弧方法であって、
前記磁石に永久磁石を使用することを特徴とするヒューズの消弧方法。
【請求項3】
請求項1に記載されるヒューズの消弧方法であって、
前記磁石に、ヒューズに流れる電流で励起する電磁石を使用すると共に、前記電磁石を前記ヒューズに流れる放電電流で励起することを特徴とするヒューズの消弧方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載されるヒューズの消弧方法であって、
前記ヒューズを板状ヒューズとし、前記磁石の一方の磁極を、前記板状ヒューズの表面の対向位置に配置して、前記磁石のローレンツ力でアークを前記板状ヒューズの表面に平行な方向に引き伸ばすことを特徴とするヒューズの消弧方法。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかに記載されるヒューズの消弧方法であって、
前記ヒューズを板状ヒューズとし、前記磁石の一方の磁極を、前記板状ヒューズの側縁の対向位置に配置して、前記磁石のローレンツ力でアークを前記板状ヒューズの表面に直交する方向に引き伸ばすことを特徴とするヒューズの消弧方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載されるヒューズの消弧方法であって、
前記溶断部の近傍にひとつの前記磁石を配置してアーク領域に磁界を発生させることを特徴とするヒューズの消弧方法。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかに記載されるヒューズの消弧方法であって、
前記溶断部の両側に前記磁石を配置し、該磁石の異なる磁極面を互いに対向して配置してアーク領域に磁界を発生させることを特徴とするヒューズの消弧方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載されるヒューズの消弧方法であって、
前記磁石の磁界発生領域が、アークを引き伸ばす方向の長い領域としてなることを特徴とするヒューズの消弧方法。
【請求項9】
設定電流で溶断されるヒューズを備える電源装置であって、
前記ヒューズが、設定電流で溶断する溶断部を有し、
前記ヒューズの前記溶断部の近傍に磁界を発生させる磁石を備え、
前記磁石による前記溶断部の磁界によるローレンツ力で、前記溶断部のアークが長く引き伸ばされるようにしてなることを特徴とする電源装置。
【請求項10】
請求項9に記載される電源装置であって、
前記磁石が永久磁石であることを特徴とする電源装置。
【請求項11】
請求項9に記載される電源装置であって、
前記磁石が、励磁コイルを前記ヒューズと直列に接続してなる電磁石であることを特徴とする電源装置。
【請求項12】
請求項9ないし11のいずれかに記載される電源装置であって、
前記ヒューズが板状で、
前記磁石が、一方の磁極面を、前記ヒューズの板状表面の対向位置に配置しており、
前記磁石がローレンツ力でアークを前記板状ヒューズの表面に平行な方向に引き伸ばすことを特徴とする電源装置。
【請求項13】
請求項9ないし11のいずれかに記載される電源措置であって、
前記ヒューズが板状で、
前記磁石が、一方の磁極面を、前記ヒューズの側縁の対向位置に配置しており、
前記磁石がローレンツ力でアークを前記板状ヒューズの表面に直交する方向に引き伸ばすことを特徴とする電源装置。
【請求項14】
請求項9ないし13のいずれかに記載される電源装置であって、
ひとつの前記磁石がアーク領域に磁界を発生させてなることを特徴とする電源装置。
【請求項15】
請求項9ないし13のいずれかに記載される電源装置であって、
前記磁石は、前記溶断部の両側に異なる磁極面を互いに対向して配置して、アーク領域に磁界を発生させてなることを特徴とする電源装置。
【請求項16】
請求項9ないし15のいずれかに記載される電源装置であって、
前記ヒューズと前記磁石との間に絶縁材を配置してなることを特徴とする電源装置。
【請求項17】
請求項9ないし16のいずれかに記載される電源装置であって、
前記磁石の磁界によるローレンツ力で引き伸ばされたアークの放電スペースを設けてなることを特徴とする電源装置。
【請求項18】
請求項17に記載される電源装置であって、
前記磁石の磁界によるローレンツ力で引き伸ばされたアークを通過させる放電隙間を前記放電スペースの端部に設けてなることを特徴とする電源装置。
【請求項19】
請求項9ないし18のいずれかに記載される電源装置であって、
前記ヒューズの前記溶断部の周囲に隙間を設けて、該溶断部を周囲に対して非接触状態で配置してなることを特徴とする電源装置。
【請求項20】
請求項9ないし19のいずれかに記載される電源装置であって、
前記電源装置が車両の走行用のモータに電力を供給する電源であることを特徴とする電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大電流を遮断するヒューズの消弧方法とヒューズを備える電源装置に関し、とくに、車両の走行モータに電力を供給する電池を備える電源に最適なヒューズの消弧方法とヒューズを備える電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の電源装置は、車両を走行させるモータに供給する電力を大きくするために、多数の二次電池を内蔵して出力電流を大きくしている。この電源装置は、車両の走行時にモータに大電力を供給し、また車両の回生制動においては大電力で充電される。大電流で充放電される電池を保護し、また充分な安全性を確保するために、電池と直列にヒューズを接続して、ヒューズで過大なショート電流を遮断する電源装置が開発されている。(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電源装置は、出力端子がショートする状態で最大の放電電流が流れる。電源装置は、使用状態に接続される外部負荷には保護回路を設けているので、外部負荷を接続する状態よりも、負荷が接続されない状態、たとえば、製品の搬送時(出荷時)等において、出力端子がショートされると過大なショート電流が流れる。このショート電流は、ヒューズを溶断して安全性を確保できる。しかしながら、数百A以上と極めて大きいショート電流を遮断するヒューズは、溶断電流が極めて大きいので、溶断した瞬間にアーク放電が発生して種々の弊害が発生する。アーク放電のエネルギーは、遮断する電流の二乗と負荷インダクタンスの積に比例して大きくなるので、ヒューズの溶断電流が大きくなるに従って飛躍的に増加する。大電流を遮断するヒューズは、負荷に蓄えていた極めて大きなエネルギーを消費するために、強いアーク放電が長時間継続する。強く長いアーク放電は、周囲を発火させるなど、種々の弊害の原因となる。
【0005】
本発明の大切な目的は、極めて簡単な構造としながら、ヒューズ溶断時の弊害を確実に防止できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様のヒューズの消弧方法は、溶断部の近傍に磁石を配置し、前記磁石の磁界によるローレンツ力でアークを長く引き伸ばしてアークを消弧させる。
【0007】
本発明のある態様の電源装置は、設定電流で溶断されるヒューズを備える電源装置であって、前記ヒューズが、設定電流で溶断する溶断部を有し、前記ヒューズの前記溶断部の近傍に磁界を発生させる磁石を備え、前記磁石による前記溶断部の磁界によるローレンツ力で、前記溶断部のアークを長く引き伸ばすようにしている。
【発明の効果】
【0008】
本発明のヒューズの消弧方法は、磁石でアーク領域を所定の磁界強度とし、磁界によるローレンツ力でアーク放電の荷電粒子に力を作用させて長く引き伸ばして経路を長くするので、ヒューズを極めて簡単な構造かつ省スペースとしながら、溶断時のアークを速やかに消弧してアーク放電の弊害を防止できる特徴がある。ヒューズ溶断時のアーク放電は、負荷に蓄えられるエネルギーによって発生する。このエネルギーは電流の二乗に比例して飛躍的に増加し、アーク放電時の放電電流で消費される。ローレンツ力でアークが長く引き伸ばされると、アーク放電領域は広く拡散され、また放電電圧も高くなってアークは速やかに消弧する。したがって、アーク放電による弊害、たとえばアーク放電による発火などの弊害が防止される。
【0009】
本発明の電源装置は、磁石でヒューズの溶断部に磁界を発生させ、磁石の磁界でもってアーク放電している荷電粒子にローレンツ力を作用させて長く引き伸ばして経路を長くする。したがって、極めて簡単な構造としながら、ヒューズ溶断時のアーク放電を速やかに消弧してアーク放電の弊害を有効に防止できる特徴がある。ローレンツ力は、流れる電流に比例して大きくなるので、大電流を遮断する状態ではより強いローレンツ力が作用して、アーク5はより長く引き伸ばされる。このため、大電流で発生するアークも速やかに消弧できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係るヒューズを備える電源装置のブロック図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るヒューズを備える電源装置の概略断面図である。
【
図9】ヒューズの他の一例を示す概略斜視図である。
【
図10】ヒューズの他の一例を示す概略平面図である。
【
図11】ヒューズの他の一例を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のある態様のヒューズの消弧方法は、以下の方法により特定されてもよい。ヒューズの消弧方法は、溶断部2aの近傍に磁石4を配置し、磁石4の磁界によるローレンツ力でアーク5の方向を誘導し、その方向にアーク5が引き伸ばされることで、アーク5を速やかに消滅、すなわち消弧させる。
【0012】
本発明のある態様のヒューズの消弧方法は、磁石4に永久磁石4Aを使用してもよい。また、本発明のある態様のヒューズの消弧方法は、磁石4に、ヒューズ2に流れる電流で励起する電磁石4Bを使用すると共に、電磁石4Bをヒューズ24に流れる放電電流で励起してもよい。
【0013】
本発明のある態様のヒューズの消弧方法は、ヒューズ2を板状ヒューズ2Xとし、磁石4の一方の磁極を、板状ヒューズ2Xの表面の対向位置に配置して、磁石4のローレンツ力でアーク5を板状ヒューズ2Xの表面に平行な方向に引き伸ばしてもよい。
【0014】
以上の消弧方法は、磁石と板状ヒューズとを狭いスペースに配置できることに加えて、板状磁石の磁極面を広い面積でアーク領域に配置してアーク領域の磁界強度を強くできる特徴がある。板状磁石の磁極面で強磁界にできるアーク領域は、アークを長く引き伸ばして速やかに消弧できる特徴を実現する。この特性は、現実の使用状態において極めて大切である。それは、種々の電源装置において、ヒューズは極めて狭い領域に配置されることから、ヒューズに加えて磁石を配置する構造は、磁石を狭い領域に配置して優れた作用効果を実現することが要求されるからである。また、この構造は、磁石の磁束を有効に利用してアーク領域の磁界強度を高くできるので、低コストで弱い磁石を使用し、あるいは薄い磁石を使用してアークを長く引き伸ばしてアーク放電を速やかに消弧できる特徴も実現する。
【0015】
本発明のある態様のヒューズの消弧方法は、ヒューズ2を板状ヒューズ2Xとし、磁石4の一方の磁極を、前記板状ヒューズ2Xの側縁の対向位置に配置して、磁石4のローレンツ力でアーク5を板状ヒューズ2Xの表面に直交する方向に引き伸ばしてもよい。
【0016】
本発明のある態様のヒューズの消弧方法は、溶断部2aの近傍にひとつの磁石4を配置してアーク領域に磁界を発生させてもよい。
【0017】
以上の消弧方法は、ひとつの板状磁石をより狭いスペースに配置して、一つの板状磁石の磁極面から放射される磁束を有効に利用してアーク領域の磁界強度を強くできるので、永久磁石をさらに狭い領域に配置して、アーク領域の強い磁界でアークを長く引き伸ばしてアーク放電を速やかに消弧できる。さらに、この方法は、低コストで弱い永久磁石を使用し、あるいは薄い永久磁石を使用して磁界強度を強くできることと相乗して、永久磁石を一つとしてさらに部品コストと製造コストの両方を低減できる特徴を実現する。
【0018】
本発明のある態様のヒューズの消弧方法は、溶断部2aの両側に磁石4を配置し、磁石4の異なる磁極面を互いに対向して配置してアーク領域に磁界を発生させてもよい。
以上の消弧方法は、溶断部の両側に磁石を配置し、磁石の異なる磁極面を互いに対向して配置するので、磁石により発生する磁界を強くできる。
【0019】
さらに、本発明のある態様のヒューズの消弧方法は、磁石4の磁界発生領域14を、アーク5を引き伸ばす方向に長い領域としてもよい。
【0020】
以上の消弧方法は、磁界発生領域をアークの方向に延長するので、溶断部から外側に引き伸ばされたアークに、さらにローレンツ力を作用させることができる。引き伸ばされたアークの両側部や先端部は、外側方向であって互いに広がる方向にローレンツ力を受けるので、溶断部から引き伸ばされたアークは、外周方向に引き伸ばされてより効果的に消弧される。
【0021】
本発明のある態様のヒューズを備える電源装置は、設定電流で溶断されるヒューズを備える電源装置であって、ヒューズ2が、設定電流で溶断する溶断部2aを有し、ヒューズ2の溶断部2aの近傍に磁界を発生させる磁石4を備え、磁石4による溶断部2aの磁界によるローレンツ力で、溶断部2aのアーク5が長く引き伸ばされるようにしている。
【0022】
本発明のある態様の電源装置は、磁石4を永久磁石4Aとしてもよい。また、本発明のある態様のヒューズを備える電源装置は、磁石4を、励磁コイル16をヒューズ2と直列に接続してなる電磁石4Bとしてもよい。
【0023】
本発明のある態様の電源装置は、ヒューズ2を板状として、磁石4が一方の磁極面をヒューズ2の板状表面の対向位置に配置し、磁石4がローレンツ力でアーク5を板状ヒューズ2Xの表面に平行な方向に引き伸ばしてもよい。
【0024】
本発明のある態様の電源装置は、ヒューズ2を板状として、磁石4が一方の磁極面をヒューズ2の側縁の対向位置に配置し、磁石4がローレンツ力でアーク5を板状ヒューズ2Xの表面に直交する方向に引き伸ばすことを特徴とする電源装置。
【0025】
本発明のある態様の電源装置は、ひとつの磁石4がアーク領域に磁界を発生させてもよい。
【0026】
本発明のある態様の電源装置は、磁石4が、溶断部2aの両側に異なる磁極面を互いに対向して配置して、アーク領域に磁界を発生させてもよい。
【0027】
本発明のある態様の電源装置は、ヒューズ2と磁石4との間に絶縁材9を配置してもよい。
【0028】
本発明のある態様の電源装置は、磁石4の磁界によるローレンツ力で引き伸ばされたアーク5の放電スペース6を設けてもよい。この電源装置は、ローレンツ力で引き伸ばされたアークを放電スペースに案内するので、引き伸ばされたアークが付近の発火物やプラスチック等の非耐熱材等に接触して発火させ、あるいは損傷させるのを確実に防止できる。
【0029】
本発明のある態様の電源装置は、磁石4の磁界によるローレンツ力で引き伸ばされたアーク5を通過させる放電隙間7を放電スペース6の端部に設けてもよい。この電源装置は、アークを案内する放電隙間を放電スペースの端部に設けるので、アークが引き伸ばされる長さを制限することなく、アークを速やかに消弧できる。
【0030】
本発明のある態様の電源装置は、ヒューズ2の溶断部2aの周囲に隙間15を設けて、溶断部2aを周囲に対して非接触状態で配置してもよい。この電源装置は、ヒューズの溶断部の周囲に隙間を設けて、周囲の部品に対して非接触状態で配置するので、溶断部が周囲の部品に接触するのを抑制して異音や振動等を有効に防止できる。
【0031】
本発明のある態様の電源装置は、電源装置が車両の走行用のモータ12に電力を供給する電源としてもよい。
【0032】
以下、図面に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、及びそれらの用語を含む別の用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が制限されるものではない。また、複数の図面に表れる同一符号の部分は同一もしくは同等の部分又は部材を示す。
さらに以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するためのヒューズの消弧方法とヒューズを備える電源装置を例示するものであって、本発明を以下に限定するものではない。また、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図したものである。また、一の実施の形態、実施例において説明する内容は、他の実施の形態、実施例にも適用可能である。また、図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張していることがある。
【0033】
以下、ヒューズ溶断時のアークを速やかに消滅させる方法と、このヒューズを備える車両用の電源装置を具体的に詳述する。
【0034】
図1は、車両の走行用のモータに電力を供給する電源装置のブロック図を示している。この電源装置100は、複数の電池1を直列に接続している電池ブロック10の出力側に、ヒューズ2とコントロール回路3とを直列に接続している。コントロール回路3は、モータ12と発電機13からなる負荷11に接続されて、電池ブロック10の放電電流と充電電流をコントロールする。電池ブロック10からモータ12に電力を供給して車両を走行し、発電機13から電池ブロック10に電力を供給して電池ブロック10を回生制動して車両を減速する。コントロール回路3は、アクセルやブレーキ、さらに電池1の残容量などパラメーターとしてモータ12と発電機13への電流をコントロールして車両を走行させる。
【0035】
ヒューズ2は、電池ブロック10に過大電流が流れると溶断して電流を遮断する。
図1のヒューズ2は、設定電流で溶断する溶断部2aの両側に非溶断部2bを連結している。図のヒューズ2は板状ヒューズ2Xで、所定の電気抵抗の金属板を裁断して安価に多量生産できる。溶断部2aは切り欠き部2cを設けて非溶断部2bよりも断面積を小さくして電気抵抗を大きくしている。ヒューズ2が溶断する設定電流は、溶断部2aは切り欠き部2cの大きさで電気抵抗を調整して調整できる。切り欠き部2cの大きさが電気抵抗を特定するからであ。切り欠き部2cを大きくして電気抵抗を大きくでき、切り欠き部2cを小さくして電気抵抗を小さくできる。また、ヒューズ2となる金属板の抵抗率と厚さも溶接部の電気抵抗を特定するので、切り欠き部2cの大きさは、金属板の材質や厚さを考慮して、溶断する設定電流となるように特定される。
【0036】
図1の電源装置100は、ヒューズ2の溶断部2aに接近して、アーク領域に磁界を発生させる磁石4を配置している。図に示す磁石4は、永久磁石4Aとしている。
図1の永久磁石4Aは、対向面をN極とS極の磁極面とする板状磁石4aである。板状磁石4aは、フィライト磁石、ネオジウム磁石、サマリウム磁石、あるいはネオジウム磁石やサマリウム磁石を砕いてゴムやプラスチックに練り込んだボンド磁石である。とくに、ネオジウム磁石の板状磁石4aは、安価で強い磁界強度にできる特徴がある。また、ボンド磁石の板状磁石4aは、フィライト磁石に匹敵する磁界強度を実現しながら、可撓性があるので狭い隙間に配置でき、さらに絶縁特性を生かしてヒューズ2に接近して、あるいは接触して配置できる。
図1の板状磁石4aは、溶断部2aのほぼ全体をカバーする大きさとしている。ただし、永久磁石4Aは、その外形を、溶断部2aの全体よりも小さく、あるいは大きくすることができる。板状磁石4aは大きくして、アーク5をより強い力で引き伸ばすことができるが、小さい永久磁石4Aも磁力の強い板状磁石4aを使用して、アーク5を長く引き伸ばすことができるので、永久磁石4Aの大きさと磁力の強さは、発生するアーク5のエネルギーを考慮して最適値に設定される。
【0037】
板状磁石4aは、一方の磁極面を板状ヒューズ2Xの表面に接近して配置している。ここで、板状磁石4aの磁極面と溶断部2aとの距離も、アーク5のエネルギーと磁石4のエネルギーによって最適に設定される。
図1において板状磁石4aは、S極面を板状ヒューズ2Xの対向位置に配置している。この板状磁石4aは、N極面(図において上面)から出てS極面(図において下面)に入る磁束をアーク領域に通過させて、アーク領域に磁界を発生させる。このように、板状磁石4aは、一方の磁極面を板状ヒューズ2Xの表面に対向して配置できるので、磁束を有効にアーク領域に通過させて、アーク領域の磁界強度を強くできる。
【0038】
さらに、図の電源装置100は、板状ヒューズ2Xの片側面(図において上面)に、ひとつの板状磁石4aを配置している。板状磁石4aは、磁極面を板状ヒューズ2Xの表面に対向して配置している。この配置は、板状磁石4aの一方の磁極面からアーク領域に広い領域で磁界を発生できる。
図1の電源装置は、板状ヒューズ2Xの上面に対向して板状磁石4aを配置しているが、板状磁石4aは板状ヒューズ2Xの下面に配置することもできる。
【0039】
また、磁石4は、
図2に示すように、板状ヒューズ2Xの両面に配置することもできる。板状ヒューズ2Xの両面に配置される一対の永久磁石4Aは、対向面を異なる磁極として、永久磁石4A間の磁界強度を相当に強くできる特徴がある。
図2に示す永久磁石4Aは、板状ヒューズ2Xの上面側に配置される板状磁石4aの一方の磁極面であるS極面を板状ヒューズ2Xの上面に対向して配置し、板状ヒューズ2Xの下面側に配置される板状磁石4aの一方の磁極面であるN極面を板状ヒューズ2Xの下面に対向して配置している。この磁石4は、図に示すように、ヒューズ2の溶断部2aの近傍に、溶断部2aを下面から上面に貫く磁束による磁界を発生させる。
【0040】
永久磁石4Aによるアーク領域の磁界は、アーク5に作用してアーク5を矢印Aで示す方向に引き伸ばす。ローレンツ力がフレミングの左手の法則で示す方向に作用するからである。
図1の板状磁石4aは、板状ヒューズ2Xとの対向面をS極としているので、アーク5は矢印Aに引き伸ばされる。フレミングの左手の法則は、中指が電流の方向、人差し指が磁界の方向、親指がローレンツ力の作用する方向となるので、アーク5は矢印Aで示す方向に引き伸ばされる。ローレンツ力が作用する方向は、磁界の方向を逆にして逆転できるので、板状磁石4aの磁極を上下反転して矢印Aと反対方向にアーク5を引き伸ばすことができる。また、
図2に示す一対の永久磁石4Aは、図において板状ヒューズ2Xを下方から上方に向かって貫く上向きの磁界を発生させるので、アーク5は矢印Aで示す方向に引き伸ばされる。この磁石4も、永久磁石4Aの磁極を上下反転して矢印Aと反対方向にアーク5を引き伸ばすことができる。
【0041】
さらに、板状ヒューズ2Xの表面に沿って配置される板状磁石4aは、
図3に示すように、永久磁石4Aの磁界発生領域14を、アーク5を引き伸ばす方向に長い領域とすることもできる。図に示す板状磁石4aは、溶断部2aの表面(図においては下面)から、アーク5が引き伸ばされる方向に延長された外形としており、溶断部2a及びその側縁側に突出する領域を磁界発生領域14としている。図に示す板状磁石4aは、板状ヒューズ2Xの下面に沿って配置しているが、板状磁石4aは溶断部2aの両側であって、板状ヒューズ2Xの両面に沿って配置することもできる。このように、磁界発生領域14をアーク5の方向に延長する構造は、
図3に示すように、溶断部2aから外側に引き伸ばされたアーク5に、さらにローレンツ力を作用させることができる。ヘアピン形状に引き伸ばされたアーク5の両側部5Bは、矢印Bで示すように、互いに逆方向に広がるようにローレンツ力が作用する。また、アーク5の先端部5Aは、矢印Aで示す方ように、さらにアーク5を引き伸ばす方向にローレンツ力が作用する。これにより、溶断部2aから引き伸ばされたアーク5は、ヘアピン形状から滴状に広がる形状に引き伸ばされてより効果的に消弧される。
【0042】
図1~
図3は、ヒューズ2を板状ヒューズ2Xとすると共に、磁石4の磁極を、板状ヒューズ2Xの表面の対向位置に配置して、磁石4のローレンツ力でアーク5を板状ヒューズ2Xの表面に平行な方向に引き伸ばす状態を示している。ローレンツ力は、流れる電流に比例して大きくなるので、大電流を遮断する状態ではより強いローレンツ力が作用して、アーク5はより長く引き伸ばされる。このため、大電流を遮断して発生するアーク5は、図の鎖線で示すように長く引き伸ばされて速やかに消弧される。
【0043】
永久磁石4Aとヒューズ2との間には、プラスチックや無機材の絶縁材9を配置して、永久磁石4Aとヒューズ2とを確実に絶縁しながら、互いに接近して配置できる。板状磁石4aと板状ヒューズ2Xは、シート状あるいは板状の絶縁材9を間に配置して、対向面が互いに接近する位置に配置できるので、板状磁石4aによるアーク領域の磁界強度を強くできる特徴がある。また、車両用の電源装置のように使用状態で振動を受ける環境においても、磁石4をヒューズ2に接触させることなく、接近して配置してアーク領域の磁界強度を強くできる特徴がある。
【0044】
図1の概略ブロック図と
図4の断面図に示す電源装置100は、放電電流で引き伸ばされるアーク5の放電スペース6を設けている。放電スペース6は、アーク5を案内する中空部で、アーク5を電源装置100の構成材料に衝突させることなく長く引き伸ばす形状と大きさに設定している。たとえば、900Aの負荷電流を遮断するヒューズ2は、アーク5を2cm以上に引き伸ばして速やかに消弧できるので、放電スペース6は、アーク5が引き伸ばされる方向の長さを、たとえば2cm以上とする。さらに、
図4の断面図に示す電源装置100は、放電電流で引き伸ばされたアーク5を通過させる放電隙間7を設けている。この構造は、アーク5の一部を放電隙間7に通過させるので、放電スペース6を狭くしてアーク5を長く引き伸ばすことができる。放電スペース6や放電隙間7は、電池ブロック10の上方に配置している電池ブロック10のケース、回路基板を実装しているベース基板、電池1を接続している金属板のバスバーを定位置に配置するバスバーホルダー、電源装置のインナーケースや外装ケースなどのプラスチック部品8で設けられる。
【0045】
さらに、
図4に示す電源装置100は、ヒューズ2の溶断部2aの周囲に隙間15を設けており、溶断部2aを周囲に配置された絶縁材9やプラスチック部品8に対して非接触状態で配置している。このように、ヒューズ2の溶断部aの周囲に隙間15を設けて、周囲の部品に対して非接触状態で配置する構造は、溶断部2aが周囲の部品に接触することで発生する異音や振動等を有効に防止できる特徴がある。また、ヒューズ2の溶断時において、溶断部2aから周囲の部品への熱伝導を抑制できる。
【0046】
さらに、電源装置は、
図5に示すように、磁石4の一方の磁極を、板状ヒューズ2Xの側縁の対向位置に配置することもできる。
図5のヒューズ2は、板状ヒューズ2Xであって、溶断部2aの側縁との対向位置に永久磁石4Aを配置している。図に示す永久磁石4Aはブロック状であって、一方の磁極面(図においてはN極面)を、溶断部2aの側縁に接近して配置している。永久磁石4Aによる磁界は、アーク5にローレンツ力を作用させて、図の矢印Aで示すように、アーク5を板状ヒューズ2Xの表面に直交する方向に引き伸ばして消弧する。
図5においては、一つの磁石4を、ヒューズ2の溶断部2aの片側にのみ配置しているが、ヒューズ2の溶断部2aの両側に一対の磁石4を配置することもできる。溶断部2aの両側に配置される磁石4は、異なる磁極面を互いに対向して配置して、アーク領域に強い磁界を発生させることができる。
【0047】
以上の実施形態では、ヒューズ2の溶断部2aの近傍に配置される磁石4を永久磁石4Aとする例を示している。ただ、磁石4には、
図6~
図8に示すように、永久磁石4Aに代わって電磁石4Bを使用してもよい。これらの図に示す電磁石4Bは励磁コイル16を備えており、この励磁コイル16をヒューズ2と直列に接続している。これらの電磁石4Bは、ヒューズ2に流れる放電電流で励起されて、アーク領域に磁界を発生させる。
【0048】
図6に示す電磁石4Bは、励磁コイル16を板状ヒューズ2Xの表面に配置している。励磁コイル16からなる電磁石4Bは、コイルの端面を磁極面としており、この磁極面を溶断部2aの近傍であって、板状ヒューズ2Xの上面に対向して配置している。この構造は、電磁石4Bによる磁束が板状ヒューズ2Xを垂直方向に貫くことにより、アーク5にローレンツ力を作用させて、図の矢印Aで示すように、アーク5を板状ヒューズ2Xの表面に平行な方向に引き伸ばして消弧する。
【0049】
図7に示す電磁石4Bは、励磁コイル16の中心に磁性体からなるコア部材17を備えている。このように、励磁コイル16に磁性体を挿入することで電磁石4Bを強くしている。このような磁性体として、鉄、フェライト、ケイ素鋼等が使用できる。図の電磁石4Bは、板状ヒューズ2Xの溶断部2aの側縁の対向位置に配置している。この電磁石4Bは、磁性体であるコア部材17の端面を磁極面としており、この磁極面を溶断部2aの側縁に対向して配置している。この構造は、電磁石4Bによる磁界が、アーク5にローレンツ力を作用させて、図の矢印Aで示すように、アーク5を板状ヒューズ2Xの表面に直交する方向に引き伸ばして消弧する。
【0050】
さらに、
図8に示す電磁石4Bは、励磁コイル16の中心に磁性体からなる環状コア18を備えている。
図8に示す環状コア18は、磁性体をC字状に加工して製造している。環状コア18を備える電磁石4Bは、C字状の切断部18Aの対向面を異なる磁極面としており、互いに対向する磁極面を、ヒューズ2の溶断部2aの両側、図においては上下の両面に配置している。この構造の電磁石4Bは、環状コア18の切断部18Aをヒューズ2の溶断部2aに配置することで、溶断部2aに対して強い磁界を安定して発生させることができる。電磁石4Bによる磁束が板状ヒューズ2Xを垂直方向に貫くことにより、アーク5にローレンツ力を作用させて、図の矢印Aで示すように、アーク5を板状ヒューズ2Xの表面に平行な方向に引き伸ばして消弧する。
【0051】
以下、ヒューズ2の構造と、ヒューズ2の他の例について詳述する。
図1~
図8のヒューズは、金属板を長方形に裁断して、両端部を非溶断部2b、中央部を溶断部2aとして、溶断部2aの両側には切り欠き部2cを設けている。さらに、ヒューズ2は、
図9~
図11に示す形状に金属板を裁断して製作することもできる。
図9のヒューズ2Bは、溶断部2aの両端に非溶断部2bを連結した形状であって、平面形状において溶断部2aと非溶断部2bとを溝形に配置して、溶断部2aを溝部2dに配置している。この形状のヒューズ2は、放電電流で発生する磁束と永久磁石4の磁束を同じ方向として、アーク領域の磁束を強くできる。この形状の板状ヒューズ2Xは、アーク放電する状態で流れる放電電流で発生する磁束を永久磁石4の磁束と同じ方向として、アーク領域の磁界強度を強くできる。矢印Iで示す方向に流れる放電電流で、矢印Bで示す方向に磁束が発生するので、板状磁石4aの板状ヒューズ2Xとの対向面をS極として磁界強度を強くできる。とくに、この形状は、溝部2dの内部には、溶断部2aの電流による磁束と、一対の非溶断部2bを流れる電流による全ての磁束が同じ方向となって磁束密度が高くなって板状磁石4aの磁界強度を相当に強くできる。
【0052】
図10の平面図に示すヒューズ2Cは、全体形状を溶断部2aを折り曲げ部2eとして折り曲げられた形状として、非溶断部2bを折り曲げ部2eの両端に連結する形状としている。この板状ヒューズ2Xも金属板を裁断して安価に多量生産できる。このヒューズ2Cは、アーク放電する状態で流れる放電電流が、矢印Iで示す方向に流れて、矢印Bで示す方向に磁束が発生して板状磁石4aの磁束を強めることができる。とくに、折り曲げ部2eの内側は、溶断部2aの電流による磁束と、一対の非溶断部2bを流れる電流による全ての磁束が同じ方向となって磁束密度が高くして、磁界強度を強くできる。折り曲げ部2eの内側に集まって同じ方向に通過する磁束は、永久磁石4の磁界強度を強くして、アークを矢印Aで示す方向に引き伸ばす。この形状のヒューズ2は、折り曲げ部2eの折り曲げ角(θ)を小さくして、折り曲げ部2eの内側の磁界強度を強くできるので、折り曲げ角(θ)を小さくして、アーク5をより長く引き伸ばすことができる。
【0053】
さらに、
図11のヒューズ2Dは、溶断部2aの両端に非溶断部2bが連結されて全体の形状をループに沿う形状としている。このヒューズ2は、ループ内側の磁界強度をさらに強くして、永久磁石4の磁界強度を強くできるので、永久磁石4による磁束と、放電電流による磁束の両方でアーク領域の磁界強度を強くして、アーク5をより長く引き伸ばすことができる。それは、ループ状に流れる電流による磁束が、アーク5の内側に高密度に収束されるからである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は大電流を遮断するヒューズを装備する、たとえば車両用の電源装置などにおいて特に有効に使用できる。
【符号の説明】
【0055】
100…電源装置
1…電池
2、、2B、2C、2D…ヒューズ
2X…板状ヒューズ
2a…溶断部
2b…非溶断部
2c…切り欠き部
2d…溝部
2e…折り曲げ部
3…コントロール回路
4…磁石
4A…永久磁石
4a…板状磁石
4B…電磁石
5…アーク
6…放電スペース
7…放電隙間
8…プラスチック部品
9…絶縁材
10…電池ブロック
11…負荷
12…モータ
13…発電機
14…磁界発生領域
15…隙間
16…励磁コイル
17…コア部材
18…環状コア
18A…切断部