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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036346
(43)【公開日】2022-03-08
(54)【発明の名称】酸素濃縮装置及び酸素濃縮方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 16/10 20060101AFI20220301BHJP
【FI】
A61M16/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2018197386
(22)【出願日】2018-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】592160582
【氏名又は名称】小林 照男
(74)【代理人】
【識別番号】100120226
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 知浩
(72)【発明者】
【氏名】小林 照男
(57)【要約】
【課題】人や動物の換気量の変動にかかわらず、人や動物に吸入されたときの空気の酸素濃度を安定させることができる酸素濃縮装置及び酸素濃縮方法を提供する。
【解決手段】大気中の空気を供給するコンプレッサ12と、コンプレッサ12で供給された空気から濃縮酸素を生成する酸素濃縮部20A、20Bと、酸素濃縮部20A、20Bから所定の対象に供給され得る濃縮酸素の一部を大気中にパージするための流量調整部30Bと、を有する酸素濃縮装置10であって、流量調整部30Bから濃縮酸素の一部を大気中にパージすることにより、対象に供給される濃縮酸素の酸素濃度が低下する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気中の空気を供給するコンプレッサと、
前記コンプレッサで供給された空気から濃縮酸素を生成する酸素濃縮部と、
前記酸素濃縮部から所定の対象に供給され得る前記濃縮酸素の一部を大気中にパージするための流量調整部と、
を有する酸素濃縮装置であって、
前記流量調整部から前記濃縮酸素の一部を大気中にパージすることにより、前記対象に供給される前記濃縮酸素の酸素濃度が低下することを特徴とする酸素濃縮装置。
【請求項2】
大気中の空気を供給するコンプレッサと、
前記コンプレッサで供給された空気から濃縮酸素を生成する酸素濃縮部と、
前記酸素濃縮部から所定の対象に供給され得る前記濃縮酸素の一部を大気中にパージするための流量調整部と、
を有する酸素濃縮装置であって、
前記流量調整部から大気中にパージされる前記濃縮酸素の流量の大きさにかかわらず、前記対象に供給される前記濃縮酸素の流量が増大することにより、前記対象に供給される当該濃縮酸素の酸素濃度が低下することを特徴とする酸素濃縮装置。
【請求項3】
大気中の空気を供給するコンプレッサと、
前記コンプレッサで供給された空気から濃縮酸素を生成する酸素濃縮部と、
前記酸素濃縮部から所定の対象に供給され得る前記濃縮酸素の一部を大気中にパージするための流量調整部と、
を有する酸素濃縮装置であって、
前記流量調整部から大気中にパージされる前記濃縮酸素の流量が増大することにより、前記対象に供給される前記濃縮酸素の流量の大きさにかかわらず、前記対象に供給される当該濃縮酸素の酸素濃度が低下することを特徴とする酸素濃縮装置。
【請求項4】
コンプレッサで供給された空気から酸素濃縮部で濃縮酸素を生成する濃縮酸素生成工程と、
前記酸素濃縮部から所定の対象に供給され得る前記濃縮酸素の一部を流量調整部で大気中にパージするパージ工程と、
前記流量調整部で大気中にパージする前記濃縮酸素の流量を調整し、前記対象に供給される前記濃縮酸素の酸素濃度を制御する制御工程と、
を有する酸素濃縮方法であって、
前記制御工程では、前記流量調整部から前記濃縮酸素の一部を大気中にパージすることにより、前記対象に供給される前記濃縮酸素の酸素濃度が低下することを特徴とする酸素濃縮方法。
【請求項5】
コンプレッサで供給された空気から酸素濃縮部で濃縮酸素を生成する濃縮酸素生成工程と、
前記酸素濃縮部から所定の対象に供給され得る前記濃縮酸素の一部を流量調整部で大気中にパージするパージ工程と、
前記流量調整部で大気中にパージする前記濃縮酸素の流量を調整し、前記対象に供給される前記濃縮酸素の酸素濃度を制御する制御工程と、
を有する酸素濃縮方法であって、
前記制御工程では、前記流量調整部から大気中にパージされる前記濃縮酸素の流量の大きさにかかわらず、前記対象に供給される前記濃縮酸素の流量が増大することにより、前記対象に供給される当該濃縮酸素の酸素濃度が低下することを特徴とする酸素濃縮方法。
【請求項6】
コンプレッサで供給された空気から酸素濃縮部で濃縮酸素を生成する濃縮酸素生成工程と、
前記酸素濃縮部から所定の対象に供給され得る前記濃縮酸素の一部を流量調整部で大気中にパージするパージ工程と、
前記流量調整部で大気中にパージする前記濃縮酸素の流量を調整し、前記対象に供給される前記濃縮酸素の酸素濃度を制御する制御工程と、
を有する酸素濃縮方法であって、
前記制御工程では、前記流量調整部から大気中にパージされる前記濃縮酸素の流量が増大することにより、前記対象に供給される前記濃縮酸素の流量の大きさにかかわらず、前記対象に供給される当該濃縮酸素の酸素濃度が低下することを特徴とする酸素濃縮方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、人又は猫、犬などの動物の酸素療法における吸入気の酸素濃度を調整するための酸素濃縮装置及び酸素濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の人に対する酸素吸入療法において、酸素濃度が約90%以上の高濃度酸素を供給するものが一般的であるが、疾病又は症状によっては、約90%以上の高濃度酸素ではなく、例えば25%程度まで下げた酸素濃度の酸素を吸入させる必要もある。
【0003】
ここで、従来の酸素濃度を下げる方法として、例えば、酸素濃度が100%の酸素の流量を低減するとともに、吸入時に相対的に増加させた外気を混合させることにより、酸素濃度を低下させ、当該混合気を人に吸入させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2016/098180
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記方法では、供給酸素流量が一定である場合、換気量が多い呼吸では外気を多く吸入し、換気量が少ない呼吸では外気が少なくなり、供給酸素流量と外気の混合比率が変動し、吸入気の酸素濃度が安定しないという問題があった。
【0006】
ここで、「換気量」とは、人や動物が呼吸しているときの空気の容量を意味するものであり、呼吸の深さなどによって変動し得るものである。
【0007】
これに対して、「肺活量」とは、人や動物が最も深く空気を吸い込んで、それを吐き出したときの空気の容量である(努力性呼吸ともいう)。このため、「換気量」と「肺活量」とは、本質的に異なる概念である。
【0008】
「換気量」は、同一人であってもその人の気分、心理状態、精神状態又は体調などによって常に変動し得るものであるのに対し、「肺活量」は、各個人においてほぼ画一的に決定されるものであり、同一人であれば基本的に一定となるものである。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑み、人や動物の換気量の変動にかかわらず、人や動物に吸入されたときの吸入気の酸素濃度を安定させることができる酸素濃縮装置及び酸素濃縮方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は、大気中の空気を供給するコンプレッサと、前記コンプレッサで供給された空気から濃縮酸素を生成する酸素濃縮部と、前記酸素濃縮部から所定の対象に供給され得る前記濃縮酸素の一部を大気中にパージするための流量調整部と、を有する酸素濃縮装置であって、前記流量調整部から前記濃縮酸素の一部を大気中にパージすることにより、前記対象に供給される前記濃縮酸素の酸素濃度が低下することを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明は、大気中の空気を供給するコンプレッサと、前記コンプレッサで供給された空気から濃縮酸素を生成する酸素濃縮部と、前記酸素濃縮部から所定の対象に供給され得る前記濃縮酸素の一部を大気中にパージするための流量調整部と、を有する酸素濃縮装置であって、前記流量調整部から大気中にパージされる前記濃縮酸素の流量の大きさにかかわらず、前記対象に供給される前記濃縮酸素の流量が増大することにより、前記対象に供給される当該濃縮酸素の酸素濃度が低下することを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明は、大気中の空気を供給するコンプレッサと、前記コンプレッサで供給された空気から濃縮酸素を生成する酸素濃縮部と、前記酸素濃縮部から所定の対象に供給され得る前記濃縮酸素の一部を大気中にパージするための流量調整部と、を有する酸素濃縮装置であって、前記流量調整部から大気中にパージされる前記濃縮酸素の流量が増大することにより、前記対象に供給される前記濃縮酸素の流量の大きさにかかわらず、前記対象に供給される当該濃縮酸素の酸素濃度が低下することを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明は、コンプレッサで供給された空気から酸素濃縮部で濃縮酸素を生成する濃縮酸素生成工程と、前記酸素濃縮部から所定の対象に供給され得る前記濃縮酸素の一部を流量調整部で大気中にパージするパージ工程と、前記流量調整部で大気中にパージする前記濃縮酸素の流量を調整し、前記対象に供給される前記濃縮酸素の酸素濃度を制御する制御工程と、を有する酸素濃縮方法であって、前記制御工程では、前記流量調整部から前記濃縮酸素の一部を大気中にパージすることにより、前記対象に供給される前記濃縮酸素の酸素濃度が低下することを特徴とする。
【0014】
請求項5の発明は、コンプレッサで供給された空気から酸素濃縮部で濃縮酸素を生成する濃縮酸素生成工程と、前記酸素濃縮部から所定の対象に供給され得る前記濃縮酸素の一部を流量調整部で大気中にパージするパージ工程と、前記流量調整部で大気中にパージする前記濃縮酸素の流量を調整し、前記対象に供給される前記濃縮酸素の酸素濃度を制御する制御工程と、を有する酸素濃縮方法であって、前記制御工程では、前記流量調整部から大気中にパージされる前記濃縮酸素の流量の大きさにかかわらず、前記対象に供給される前記濃縮酸素の流量が増大することにより、前記対象に供給される当該濃縮酸素の酸素濃度が低下することを特徴とする。
【0015】
請求項6の発明は、コンプレッサで供給された空気から酸素濃縮部で濃縮酸素を生成する濃縮酸素生成工程と、前記酸素濃縮部から所定の対象に供給され得る前記濃縮酸素の一部を流量調整部で大気中にパージするパージ工程と、前記流量調整部で大気中にパージする前記濃縮酸素の流量を調整し、前記対象に供給される前記濃縮酸素の酸素濃度を制御する制御工程と、を有する酸素濃縮方法であって、前記制御工程では、前記流量調整部から大気中にパージされる前記濃縮酸素の流量が増大することにより、前記対象に供給される前記濃縮酸素の流量の大きさにかかわらず、前記対象に供給される当該濃縮酸素の酸素濃度が低下することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、人や動物の換気量の変動による影響を受けず、人や動物に吸入されたときの空気の酸素濃度を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の酸素濃縮装置の構成図である。
図2】酸素流量と酸素濃度の関係を示すグラフである。
図3】本発明の酸素濃縮方法の実験結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態に係る酸素濃縮装置及び酸素濃縮方法について説明する。
【0019】
本発明の酸素濃縮装置及び酸素濃縮方法は、所定の対象に濃縮酸素を供給するための装置又は方法である。本発明が想定する「対象」とは、例えば、人又は動物を意味するが、以下の実施形態では、患者を対象として説明する。
【0020】
図1に示すように、酸素濃縮装置10は、主として、コンプレッサ12と、熱交換器14と、ファン16と、空気制御部18と、一対の酸素濃縮部20A、20Bと、濃縮酸素タンク22と、圧力調整部24と、複数の流量計26A、26Bと、複数の流量調整部30A、30Bと、を有している。
【0021】
コンプレッサ12は、大気中の空気を下流側へ供給する供給源である。
【0022】
熱交換器14は、コンプレッサ12で圧縮されて高温になった圧縮空気の温度を下げるためのものである。ファン16が駆動することで空冷式の放熱効果が得られる。
【0023】
空気制御部18は、例えば、二方バルブマニホールドが採用される。二方バルブマニホールドには、4個の二方バルブが組み合わされ、各サイクルに2個のバルブが作動し、空気の送り込み及び窒素の排出を行う。二方バルブマニホールドの作動は、所定時間又は所定圧力の周期で第一サイクルと第二サイクルを繰り返す。作動サイクルは、電源周波数と流量で異なる。
【0024】
一対の酸素濃縮部20A、20Bは、例えば、筐体と、筐体の内部に収容されたゼオライトと、を有する。これは、分子篩とも言われ、分子の大きさに依って分子を分離する能力がある。ゼオライトは、窒素を吸着し、酸素を通す。この理由は、窒素分子の大きさが相対的に大きく、ゼオライトの孔で捕捉されるのに対して、酸素分子の大きさが相対的に小さく、ゼオライトの孔で捕捉されないからである。この結果、圧縮空気がゼオライトを通過すれば、空気中の酸素と窒素が分離され、窒素がゼオライトに吸着され、濃縮酸素が生成される。
【0025】
生成された濃縮酸素は、濃縮酸素タンク22に貯えられ、圧力調整部24で所定値に制御されてから、流量調整部30Aの出口で枝分れする。
【0026】
すなわち、流量調整部30Aの出口側には、第1流路36と第2流路38との2つのルートが設けられている。第1流路36には供給器具28が接続され、第2流路38には流量調整部30Bを介して大気に開放されている。
【0027】
供給器具28は、例えば、人や動物などの対象に濃縮酸素を供給する際に用いる器具などであり、例えば、麻酔器、鼻腔カニューラ、マスク、動物を収容するためのケージなどを用途に応じて適宜選択することができる。
【0028】
なお、供給器具28は、麻酔器、鼻腔カニューラ、マスク、ケージに限定されるものではなく、人又は動物に濃縮酸素を供給する際に必要となる器具、その他の手段を全て含むものである。
【0029】
ここで、酸素濃度と流量の関係について考察する。
【0030】
図2に示すように、濃縮酸素を供給するときの流量が例えば2L/minで酸素濃度が約90%前後になる酸素濃縮装置を利用した場合、濃縮酸素の流量30L/minに調整すれば、濃縮酸素の酸素濃度が約25%に低下する。このため、濃縮酸素の流量と酸素濃度の関係は、反比例の関係になる。よって、高濃度酸素を患者に供給する場合には、可能な限り小さい流量で供給器具28へ濃縮酸素を供給する。また、低濃度酸素を患者に供給する場合には、可能な限り大きな流量で供給器具28へ濃縮酸素を供給する。このように、狙いとする濃縮酸素の酸素濃度の大小にあわせて、濃縮酸素の流量を変化させる必要がある。
【0031】
供給器具28は、流量計26Aと、流量調整部27Aと、を有している。流量調整部27Aにより、供給器具28に供給される濃縮酸素の流量が調整される。
【0032】
第2流路38の流量調整部30Bは、流量計26Bを有している。
【0033】
なお、流量調整部30A、30Bは、流路を流れる気体の流量を調整する。
【0034】
特に、本実施形態の酸素濃縮方法として、以下の3つの方法が提案される。
【0035】
(第1酸素濃縮方法)
第1酸素濃縮方法は、コンプレッサ12で供給された空気から酸素濃縮部20A、20Bで濃縮酸素を生成する濃縮酸素生成工程と、酸素濃縮部20A、20Bから所定の対象に供給され得る濃縮酸素の一部を流量調整部30Bで大気中にパージするパージ工程と、流量調整部30Bで大気中にパージする濃縮酸素の流量を調整し、対象に供給される濃縮酸素の酸素濃度を制御する制御工程と、を有する酸素濃縮方法であって、制御工程では、流量調整部30Bから濃縮酸素の一部を大気中にパージすることにより、対象に供給される濃縮酸素の酸素濃度が低下する酸素濃縮方法である。
【0036】
(第2酸素濃縮方法)
第2酸素濃縮方法は、コンプレッサ12で供給された空気から酸素濃縮部20A、20Bで濃縮酸素を生成する濃縮酸素生成工程と、酸素濃縮部20A、20Bから所定の対象に供給され得る濃縮酸素の一部を流量調整部30Bで大気中にパージするパージ工程と、流量調整部30Bで大気中にパージする濃縮酸素の流量を調整し、対象に供給される濃縮酸素の酸素濃度を制御する制御工程と、を有する酸素濃縮方法であって、制御工程では、流量調整部30Bから大気中にパージされる濃縮酸素の流量の大きさにかかわらず、対象に供給される濃縮酸素の流量が増大することにより、対象に供給される濃縮酸素の酸素濃度が低下することを特徴とする酸素濃縮方法である。
【0037】
(第3酸素濃縮方法)
第3酸素濃縮方法は、コンプレッサ12で供給された空気から酸素濃縮部20A、20Bで濃縮酸素を生成する濃縮酸素生成工程と、酸素濃縮部20A、20Bから所定の対象に供給され得る濃縮酸素の一部を流量調整部30Bで大気中にパージするパージ工程と、流量調整部30Bで大気中にパージする濃縮酸素の流量を調整し、対象に供給される濃縮酸素の酸素濃度を制御する制御工程と、を有する酸素濃縮方法であって、制御工程では、流量調整部30Bから大気中にパージされる濃縮酸素の流量が増大することにより、対象に供給される濃縮酸素の流量の大きさにかかわらず、対象に供給される濃縮酸素の酸素濃度が低下することを特徴とする酸素濃縮方法である。
【0038】
次に、本実施形態に係る酸素濃縮装置及び酸素濃縮方法の作用について説明する。
【0039】
図1に示すように、濃縮酸素タンク22に濃縮酸素が貯えられる。濃縮酸素タンク22の濃縮酸素の一部が第1流路36に供給され、濃縮酸素の残りが第2流路38に供給される。
【0040】
第1流路36に供給された濃縮酸素は、流量調整部27Aによって流量が適宜調整されながら、供給器具28を介して患者に供給される。
【0041】
第2流路38に供給された濃縮酸素は、流量調整部30Bによって流量が適宜調整されながら、大気中にパージされる。このようにして、濃縮酸素の一部は、大気中に放出される。
【0042】
ここで、酸素濃縮装置10の特性として、濃縮酸素の流量と濃度の関係は、図2に示される。濃縮酸素の流量が大きくなれば、当該濃縮酸素の酸素濃度が低下していくことを示している。
【0043】
従来の人に対する酸素吸入療法において、疾病又は症状によって人に供給する酸素の酸素濃度を、約90%以上の高濃度ではなく、例えば25%程度の中濃度の範囲に調整する必要があった。このとき、酸素濃度を下げる方法として、例えば、濃縮酸素の流量を低減させるとともに、所定容量の外気と混合させることにより、酸素濃度を低下させた混合気を人に吸入させていた。
【0044】
しかしながら、上記方法では、人の換気量が常に変動しているため、人に吸入されたときの空気の酸素濃度が安定しないという問題があった。
【0045】
この問題が生じる原理(メカニズム)について、具体例を用いて説明する。
【0046】
ある患者の酸素吸入時を例にとれば、患者の換気量は、呼吸の深さなどにより変動する。例えば、ある患者の呼吸が、精神的又は肉体的その他の何らかの影響により浅くなっている場合における1呼吸の換気量が700mlと仮定し、溜息などにより呼吸が深くなる場合における1呼吸の換気量が1200mlと仮定する。
【0047】
(浅い呼吸時の換気量700ml)
上記仮定のもと、例えば酸素ボンベから2L/min(2000ml)の純酸素(酸素濃度:約100%)を前記患者に供給した場合、当該患者が1分間に10回呼吸すると、1回の換気量に占める純酸素の量は、2000(ml)÷10(回)=200(ml)となる。浅い呼吸時の場合には、1呼吸の換気量が700mlと仮定したのに対し、純酸素は200mlしか供給できていない状態になる。不足分となる500mlは、患者の鼻や口を通して外気を同時に吸い込むことになる。この場合、鼻や口から吸入する外気は約21%の酸素濃度を有しているため、500mlには約100ml(500(ml)×21(%))の純酸素が含まれており、それが患者に摂取されることになる。酸素ボンベから摂取した純酸素(200ml)と外気から摂取した純酸素(100ml)とを合算すると、合計300mlの純酸素量となる。このとき、患者は、合計300mlの純酸素を摂取する。上記仮定した換気量700mlに対して純酸素量が300mlになるため、この場合の酸素濃度は約43%になる。
【0048】
(深い呼吸時の換気量1200ml)
同じ条件のもと、深い呼吸時の場合には、1呼吸の換気量が1200mlと仮定したのに対し、純酸素は200mlしか供給できていない状態になる。不足分となる1000mlは、患者の鼻や口を通して外気を同時に吸い込むことになる。この場合、鼻や口から吸入する外気は約21%の酸素濃度を有しているため、1000mlには約200ml(1000(ml)×21(%))の純酸素が含まれており、それが患者に摂取されることになる。酸素ボンベから摂取した純酸素(200ml)と外気から摂取した純酸素(200ml)とを合算すると、合計400mlの純酸素量となる。このとき、患者は、合計400mlの純酸素を摂取する。上記仮定した換気量1200mlに対して純酸素量が400mlになるため、この場合の酸素濃度は約33%になる。
【0049】
以上のように、患者の換気量によって患者に吸入されたときの空気の酸素濃度が変化することになる。従来の医療現場では、これに対応するために、患者の動脈血の酸素分圧を連続的に測定し、適切な酸素摂取量か否かを判断し、酸素分圧の測定結果に基づき患者への供給酸素の流量を調整しながら治療していた。
【0050】
これに対し、本実施形態によれば、患者の換気量にかかわらず、患者に吸入された吸入気の酸素濃度が一定となるように安定的に維持することができるため、従来の医療現場による上記煩雑さを解消するとともに、医療行為の効率性及び正確性を高めることに寄与することができる。
【0051】
すなわち、本実施形態によれば、濃縮酸素タンク22から供給される濃縮酸素の一部を、意図的に第2流路38を通しかつ供給器具28を介さずに大気中にパージ(放出)することにより、第1流路36を通しかつ供給器具28を介して患者に供給される濃縮酸素の流量及び酸素濃度を同時に低下させることができる。
【0052】
この結果、患者の換気量にかかわらず、患者に対する一定濃度の酸素供給が可能になり、治療効率と治療効果を格段に高めることができる。このように、本発明の酸素濃縮装置および酸素濃縮方法は、酸素療法に大きな変革ないしイノベーションをもたらすものである。
【0053】
また、吸入気の酸素濃度を、換気量の変動にも関係なく安定供給する方法として圧縮空気や窒素ガスを定量的に混合して用いる方法もあるが、これらの装置も不要になる。
【0054】
なお、符号32はオリフィスであり、符号34はPEバルブである。
【0055】
次に、本実施形態の酸素濃縮方法の実験例について説明する。
【0056】
図1に示す流量調整部30Bを調整して大気中にパージ(放出)される濃縮酸素の流量の変化に応じて、供給器具28に提供される濃縮酸素の酸素濃度がどのように変化するかを確認するための実験を行った。
【0057】
その実験では、図3に示すように、供給器具28に供給される濃縮酸素の流量を2L/minと5L/minで変化させた。また、第2流路38から大気中にパージ(放出)される濃縮酸素の流量を6L/min、12L/min、23L/min、30L/minと変化させた。
【0058】
図3に示すように、第2流路38から大気中にパージ(放出)される濃縮酸素の流量が6L/minのもと、供給器具28に供給される濃縮酸素の流量が2L/minの場合に濃縮酸素の酸素濃度が60%となり、5L/minの場合に濃縮酸素の酸素濃度が43%となった。
【0059】
第2流路38から大気中にパージ(放出)される濃縮酸素の流量が12L/minのもと、供給器具28に供給される濃縮酸素の流量が2L/minの場合に濃縮酸素の酸素濃度が40%となり、5L/minの場合に濃縮酸素の酸素濃度が35%となった。
【0060】
第2流路38から大気中にパージ(放出)される濃縮酸素の流量を23L/minのもと、供給器具28に供給される濃縮酸素の流量が2L/minの場合に濃縮酸素の酸素濃度が30%となり、5L/minの場合に濃縮酸素の酸素濃度が29%となった。
【0061】
第2流路38から大気中にパージ(放出)される濃縮酸素の流量を30L/minのもと、供給器具28に供給される濃縮酸素の流量が2L/minの場合に濃縮酸素の酸素濃度が25%となり、5L/minの場合に濃縮酸素の酸素濃度が23%となった。
【0062】
以上の結果から、供給器具28に供給される濃縮空気の流量と酸素濃度との関係は、第2流路38から大気中にパージ(放出)される濃縮酸素の流量の値によらず、供給器具28に供給される濃縮空気の流量が増加すれば(2L/min→5L/min)、当該濃縮酸素の酸素濃度が低下したことが判明した。これにより、供給器具28に供給される濃縮空気の流量が増加すれば、当該濃縮酸素の酸素濃度が低下することが証明された。
【0063】
また、第2流路38から大気中にパージ(放出)される濃縮酸素の流量が増大すれば、供給器具28に供給される濃縮酸素の酸素濃度が低下していくことが証明された。このことは、供給器具28に供給される濃縮空気の流量の値が2L/minと5L/minにおいて同様の傾向になることも判明した。
【0064】
しかしながら、第2流路38から大気中にパージ(放出)される濃縮酸素の流量が増大すれば、供給器具28に供給される濃縮空気の酸素濃度の差が、供給器具28に供給される濃縮空気の流量の大小間(2L/minと5L/minの値)において小さくなっていくことが証明された。すなわち、第2流路38から大気中にパージ(放出)される濃縮酸素の流量が増大すれば、供給器具28に供給される濃縮酸素の酸素濃度が、供給器具28に供給される濃縮酸素の流量の大きさによらず、一定値に低下するように収束する傾向にあることが判明した。
【0065】
以上のように、第2流路38から濃縮酸素を大気中にパージ(放出)させることが供給器具28に供給される濃縮酸素の酸素濃度の低下に大きく寄与することが判明した。
【0066】
また、第2流路38から大気中にパージ(放出)される濃縮酸素の流量の大きさにかかわらず、供給器具28に供給される濃縮酸素の流量を増大することにより、供給器具28に供給される濃縮酸素の酸素濃度が低下することが判明した。
【0067】
また、第2流路38から大気中にパージ(放出)される濃縮酸素の流量が増大すれば、供給器具28に供給される濃縮酸素の流量の大きさにかかわらず、供給器具28に供給される濃縮酸素の酸素濃度が一定値に収束するように低下していくことが判明した。
【符号の説明】
【0068】
10 酸素濃縮装置
12 コンプレッサ
14 熱交換器
16 ファン
18 空気制御部
20A 酸素濃縮部
20B 酸素濃縮部
22 濃縮酸素タンク
24 圧力調整部
26A 流量計
26B 流量計
27A 流量調整部
28 供給器具
30A 流量調整部
30B 流量調整部
32 オリフィス
34 PEバルブ
36 第1流路
38 第2流路
図1
図2
図3