(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036364
(43)【公開日】2022-03-08
(54)【発明の名称】セメント混和材、及びセメント組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 22/08 20060101AFI20220301BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
C04B22/08 Z
C04B28/02
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020137832
(22)【出願日】2020-08-18
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】森 泰一郎
(72)【発明者】
【氏名】荒野 憲之
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB00
4G112PB05
(57)【要約】
【課題】作業性、圧縮強度、貯蔵安定性、及び温度依存性に優れたセメント混和材を提供する。
【解決手段】本発明のセメント混和材は、γ-2CaO・SiO2で構成されるγ結晶相と、γ結晶相中に存在する異相と、を含み、その異相が2CaO・Al2O3・SiO2を含むように構成されるものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ-2CaO・SiO2(γ-C2S)で構成されるγ結晶相と、
前記γ結晶相中に存在する異相と、を含み、
前記異相が、2CaO・Al2O3・SiO2(C2AS)を含む、セメント混和材。
【請求項2】
請求項1に記載のセメント混和材であって、
前記C2ASの含有量が、前記γ-C2Sの100質量%対して、0.5質量%以上50質量%以下である、セメント混和材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセメント混和材であって、
前記γ-C2Sの含有量が、当該セメント混和材100質量%中、50質量%以上98質量%以下である、セメント混和材。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のセメント混和材であって、
前記γ結晶相中にAl2O3が含まれない、セメント混和材。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のセメント混和材であって、
β-2CaO・SiO2(β-C2S)で構成されるβ結晶相を含む、セメント混和材。
【請求項6】
請求項5に記載のセメント混和材であって、
前記β-C2Sの含有量は、前記γ-C2Sの100質量%対して、1.0質量%以上50質量%以下である、セメント混和材。
【請求項7】
請求項5または6に記載のセメント混和材であって、
前記β結晶相中にAl2O3が含まれる、セメント混和材。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のセメント混和材と、セメントと、を含む、セメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント混和材、及びセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでセメント混和材について様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、γ-C2Sと任意に混合された水硬性化合物よりなる粉末を用いたセメント硬化体の製造方法が記載されている(請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載のγ-C2S粉末において、作業性、圧縮強度、貯蔵安定性、及び温度依存性の点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はさらに検討したところ、γ-C2Sのγ結晶相中に所定の異相を含むように構成したセメント混和材を用いることにより、それを含むセメント組成物において、作業性、圧縮強度、貯蔵安定性、及び温度依存性をバランスよく向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明によれば、
γ-2CaO・SiO2(γ-C2S)で構成されるγ結晶相と、
前記γ結晶相中に存在する異相と、を含み、
前記異相が、2CaO・Al2O3・SiO2(C2AS)を含む、セメント混和材が提供される。
【0007】
また本発明によれば、
上記のセメント混和材と、セメントと、を含む、セメント組成物が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、作業性、圧縮強度、貯蔵安定性、及び温度依存性に優れたセメント混和材、及びそれを用いたセメント組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態のセメント混和材を概説する。
【0011】
本実施形態のセメント混和材は、γ-2CaO・SiO2(以下、γ-C2Sと呼称する。)で構成されるγ結晶相と、γ結晶相中に存在する異相と、を含み、その異相が2CaO・Al2O3・SiO2(以下、C2ASと呼称する。)を含むように構成される。
【0012】
このセメント混和材は、セメントコンクリートを形成するために用いる混和材に使用される。ここで、セメントコンクリートとは、セメントペースト、モルタル、又はコンクリートを総称するものである。
【0013】
本発明者の知見によれば、γ-C2Sのγ結晶相中にC2ASを含む異相が存在するセメント混和材を用いることによって、セメント組成物における作業性及び圧縮強度が向上しつつも、セメント混和材を所定条件下で貯蔵した場合でも作業性や圧縮強度の低減が抑制され、温度環境の変動条件下、好ましくは低温環境下でも作業性や圧縮強度の低減が抑制されること、すなわち、作業性や圧縮強度等のセメント特性における貯蔵安定性及び温度依存性を向上できることが見出された。
詳細なメカニズムは定かでないが、C2ASが非水硬化性のフィラーとして振る舞うことによって、上記の効果が得られると考えられる。
【0014】
本実施形態によれば、作業性、圧縮強度、貯蔵安定性、及び温度依存性に優れたセメント混和材を実現できる。
【0015】
また、原料に含まれるAl2O3の含有量に応じて、CaO/SiO2モル比を適切に制御することによって、全体が粉末化したセメント混和材を実現できる。
【0016】
以下、本実施形態のセメント混和材を詳述する。
【0017】
セメント混和材は、γ-C2Sを含む、25℃で粉末状の組成物である。
【0018】
γ-C2Sは、α型、β型、γ型などの結晶型が知られている。これらは結晶構造や密度が互いに異なる。この中で、γ型であるγ-C2Sは、中性化抑制効果を発揮する。γ-C2Sによって強制炭酸化を施すことで、セメント組成物の硬化物において、緻密化を高められる。
【0019】
γ-C2Sは、セメント混和材のγ結晶相を構成する。γ結晶相は、セメント混和材中、無機母材として含まれてもよい。
【0020】
γ-C2Sの含有量の下限は、セメント混和材100質量部中、例えば、50質量部以上、好ましくは60質量部以上、より好ましくは80質量部以上である。
一方、γ-C2Sの含有量の上限は、セメント混和材100質量部中、例えば、98質量部以下、好ましくは95質量部以下、より好ましくは93質量部以下である。
このような範囲ないとすることにより、作業性及び圧縮強度を向上させることができる。
【0021】
セメント混和材は、γ結晶相中に存在する異相を含む。
【0022】
異相は、セメント混和材の破断面についてのSEM画像の少なくとも一つにおいて、γ-C2Sからなるγ結晶相が構成する結晶体の結晶粒の内部、あるいは結晶粒の界面に沿って存在するものである。
SEM画像中、異相は、結晶粒中に一または二以上含まれてもよい。
【0023】
異相を構成する成分として、セメント混和材は、C2ASを含む。異相中には、C2AS以外の成分が不可避に存在してもよい。
【0024】
C2ASの含有量の下限は、γ-C2Sの100質量%に対して、例えば、0.5質量%以上、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上である。これにより、作業性、圧縮強度、貯蔵安定性、及び温度依存性を向上ができる。
一方、C2ASの含有量の上限は、γ-C2Sの100質量%に対して、例えば、50質量%以下、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。これにより、諸特性のバランスを図ることができる。
【0025】
本実施形態では、例えばセメント混和材中に含まれる各成分の種類や配合量、セメント混和材の調製方法等を適切に選択することにより、上記異相の存在や異相を構成する成分の含有量を制御することが可能である。これらの中でも、例えばCaO原料、SiO2原料、Al2O3原料を含む原料混合物を使用すること、高純度アルミ質レンガで炉内ライニングされたロータリーキルンを使用すること、及び/又はキルン内部のレンガ表面に所定濃度のアルミナモルタルを塗布すること、焼成温度、乾式粉砕、造粒サイズの条件を適切に調整すること等が、上記異相の存在や異相を構成する成分の含有量を所望の状態とするための要素として挙げられる。
【0026】
セメント混和材中の各鉱物組成の含有量は、一般の分析方法で確認することができる。例えば、粉砕した試料を粉末X線回折法で生成鉱物組成を確認するとともにデータをリートベルト法にて解析し、鉱物組成を定量することができる。また、化学成分と粉末X線回折の同定結果に基づいて、鉱物組成量を計算によって求めることもできる。
【0027】
セメント混和材は、γ結晶相中にAl2O3が含まれないように構成されてもよい。これにより、作業性、圧縮強度、貯蔵安定性、及び温度依存性を向上できる。
【0028】
セメント混和材は、さらに、β-2CaO・SiO2(β-C2Sと略記)で構成されるβ結晶相を含むように構成されてもよい。
【0029】
β-C2Sの含有量の下限は、γ-C2Sの100質量%に対して、例えば、1.0質量%以上、好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは3.0質量%以上である。これにより、圧縮強度を向上させることができる。
一方、β-C2Sの含有量の上限は、γ-C2Sの100質量%に対して、例えば、50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。これにより、セメント組成物における凝結硬化の低下を抑制できる。
【0030】
β-C2Sを含むセメント混和材は、β結晶相中にAl2O3が含まれるように構成されてもよい。これにより、作業性、圧縮強度、貯蔵安定性、及び温度依存性を向上できる。
【0031】
セメント混和材の製造方法について説明する。
【0032】
セメント混和材の製造方法は、CaO原料、SiO2原料、Al2O3原料を含む原料混合物を、例えば、キルンにより焼成する工程を含む。
【0033】
CaO原料として、工業原料として市販されているものを使用してもよいが、例えば、石灰石、石炭灰、生石灰、消石灰、及びアセチレン発生屑からなる群から選ばれる一または二以上を含んでもよい。この中でも、消石灰、副生消石灰を用いてもよい。
【0034】
SiO2原料として、工業原料として市販されているものを使用してもよいが、例えば、ケイ石、ケイ砂、石英、珪藻土などが挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、これらは、CaO原料やAl2O3原料中にSiO2が必要量含まれていれば、使用しなくてもよい。
例えば、CaO原料として、SiO2を含む石炭灰を使用する場合、上記のSiO2原料を添加しなくてもよい。
【0035】
ここで、石炭灰(フライアッシュ、他)は、例えば、火力発電所のボイラから排出される石炭燃焼灰等、石炭を燃焼させて得られた燃焼灰の総称をいう。石炭灰として、例えば、石炭火力発電所から発生する灰であり、微粉炭燃焼によって生成し、燃焼ボイラの燃焼ガスから空気余熱器、又は節炭器等を通過する際に落下採取された石炭灰、電気集塵機で採取された石炭灰、更には燃焼ボイラの炉底に落下した石炭灰等が用いられる。
【0036】
Al2O3原料として、工業原料として市販されているものを使用してもよいが、例えば、ボーキサイト、水酸化アルミニウム、及びアルミ残灰からなる群から選ばれる一または二以上を含んでもよい。アルミ残灰は水酸化アルミニウムを主体としてもよい。この中でも、ボーキサイトを用いてもよい。
【0037】
これらの原料を、焼成後に所定の鉱物組成割合となるように調合し混合粉砕し、原料混合物を得る。
【0038】
混合粉砕の方法は、特に限定されるものではなく、乾式粉砕法又は湿式粉砕法を適用することができ、湿式粉砕法の場合は、その後造粒するために脱水処理を施す必要がある。また、原料に生石灰を用いる場合は、乾式で行うことが望ましい。
また原料の仕込み割合を調整することで、セメント混和材中のγ-C2S/C2AS比を制御できる。
【0039】
原料混合物を焼成前に造粒してもよい。造粒物は、適切なサイズに調整されるが、例えば、0.5から3.0cmとしてもよい。
【0040】
焼成温度は、例えば、1,200℃~1,600℃でもよく、好ましくは1,300℃~1,550℃、より好ましくは1,400℃~1,450℃である。
【0041】
焼成には、ロータリーキルンなどのキルンを使用できる。
例えばAl2O3含有量が質量換算で99%以上の高純度アルミナ質レンガで焼成帯のレンガが構成されたロータリーキルンを使用してもよいし、及び/又は、焼成前にロータリーキルンの焼成帯のレンガ内部表面に、適当な濃度に調整したアルミナモルタルを塗布してもよい。
【0042】
焼成によってクリンカが得られる。クリンカは、公知の方法で粉砕し粉砕物としてもよい。
以上により、セメント混和材が得られる。
【0043】
セメント混和材は、原料成分を焼成してなる焼塊(クリンカ)でもよく、クリンカの粉末物であってもよい。
【0044】
本実施形態のセメント組成物は、上記のセメント混和材と、セメントと、を含む。
このセメント混和材は、セメントとは異なる成分で、セメントを含まないように構成される。
【0045】
セメント混和材の使用量は、使用する目的により異なるが、通常、セメント100質量部中、例えば、1~90質量部、好ましくは2~80質量部、より好ましくは3~70質量部でもよい。
本明細書中、「~」は、特に明示しない限り、上限値と下限値を含むことを表す。
【0046】
セメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントに高炉スラグ、フライアッシュ、又はシリカを混合した各種混合セメント、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰などを原料として製造された廃棄物利用セメント、いわゆるエコセメント(R)、及び石灰石粉末等を混合したフィラーセメント、並びに、アルミナセメント、サルフォアルミネートセメント、石灰石焼成粘土セメント(LC3)等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
水の使用量は特に限定されるものではないが、通常、セメントとセメント混和材とからなるセメント組成物に対して、水/セメント組成物比が、例えば、25~70質量%程度であり、30~60質量%でもよい。
【0048】
混練方法は、一般に用いられる方法で、特に限定されるものではない。混合装置としては、既存のいかなる撹拌装置も使用可能であり、例えば、傾胴ミキサー、オムニミキサー、V型ミキサー、ヘンシェルミキサー、及びナウターミキサー等が使用可能である。
【0049】
セメント組成物と水の混合は、それぞれの材料を施工時に混合してもよいし、あらかじめ一部を、あるいは全部を混合しておいても差し支えない。
【0050】
セメント組成物の養生方法は特に限定されるものではなく、一般に行われる常温・常圧養生、蒸気養生、高温・高圧蒸気養生、及び加圧養生等のいずれの養生方法も適用可能である。
【0051】
セメント組成物は、さらに、砂や砂利などの骨材や、膨張材、急硬材、凝結調整剤、減水剤、高性能減水剤、AE剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、水和熱抑制剤、高分子エマルジョン、ベントナイトやモンモリロナイトなどの粘土鉱物、ゼオライト、ハイドロタルサイト、及びハイドロカルマイト等のイオン交換体、硫酸アルミニウムや硫酸ナトリウムなどの硫酸塩、リン酸塩、並びに、ホウ酸等のうちの一種又は二種以上のその他の混和材を本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で併用することが可能である。
【0052】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0053】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0054】
<セメント混和材の作製>
(使用原料)
・副生消石灰:カルシウムカーバイドと水を反応させてアセチレンを発生させた後に副生する消石灰。SiO2が0.8質量%、Al2O3が0.6質量%、Fe2O3が0.3質量%、CaOが68.5質量%、MgOが0.02質量%、Na2Oが0.01質量%、K2Oが0.01質量%、SO3が0.5質量%である。強熱減量(L.O.I.)が24.1質量%である。
【0055】
・珪石:珪石微粉末、SiO2が99.3質量%、Al2O3が0.01質量%、Fe2O3が0.0質量%、CaOが0.0質量%、MgOが0.04質量%、Na2Oが0.02質量%、K2Oが0.3質量%、SO3が0.04質量%、強熱減量(L.O.I.)が0.6質量%。
【0056】
・アルミナ:Al2O3が99.03質量%、SiO2が0.14質量%、Fe2O3が<0.01質量%、CaOが<0.01質量%、TiO2が0.06質量%、強熱減量(L.O.I.)が0.82質量%。
【0057】
(製造例1)
CaO、SiO2を含む原料として、上記の副生消石灰及び珪石を、表1に示すCaO/SiO2モル比となるように配合し、乾式で混合粉砕して混合原料を得た。得られた混合原料を造粒し、直径が約1cm~2.5cmの造粒物を作製した。
得られた造粒物を、焼成帯のレンガが高純度アルミナ質レンガ(Al2O3含有量が質量換算で99%以上)で構成されたロータリーキルンに投入し、焼点温度1,400℃で焼成し、室温まで冷却する過程で粉化したクリンカを合成した。得られたクリンカ粉末物をセメント混和材として使用した。
【0058】
(製造例2、3)
珪石に代えて上記のアルミナを使用し、表1に示すCaO/SiO2モル比、Al2O3含有量を採用した以外は、製造例1と同様にして、表1に示す鉱物割合となるクリンカ粉末物を合成した。得られたクリンカ粉末物をセメント混和材として使用した。
【0059】
(製造例4)
純度99.0質量%以上の炭酸カルシウム系粉末と、純度99.0質量%以上の酸化珪素系の粉末とを、CaO/SiO2のモル比が2.00になるように混合し、1,400℃で2時間熱処理し、電気炉内で徐冷して、γ-C2S粉末を合成した。得られたγ-C2S粉末をセメント混和材として使用した。
得られたγ-C2S粉末には、C2AS及びC12A7が固溶せず含まれていなかった。
【0060】
製造例1、2で得られたクリンカの破断面について、SEMを用いて観察した。製造例1のSEM画像を
図1、製造例2のSEM画像を
図2に示す。図中、矢印A(白色領域)がC
2AS、矢印B(灰色領域)がγ-C
2Sを示す。
得られたSEM画像とエネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いて元素面分析を行った結果、実験例1~3のセメント混和材において、γ-C
2Sが構成するγ結晶相中にC
2ASが存在すること、そのγ結晶相中にはAl
2O
3が含まれないが確認された。また、実験例1~3のセメント混和材において、β-C
2Sが確認され、β-C
2Sが構成するβ結晶相中にAl
2O
3が含まれることが確認された。
【0061】
【0062】
表1中、γ-C2S:γ-2CaO・SiO2、β-C2S:β-2CaO・SiO2、C2AS:2CaO・Al2O3・SiO2を表す。
表1中、膨張組成物中の鉱物組成の割合(部)は、蛍光X線を用いて定量した化学組成の結果と、粉末X線回折による同定結果とに基づいて算出した。
【0063】
得られたセメント混和材について、以下の評価項目に基づいて評価を行った。
【0064】
<作業性、圧縮強度、貯蔵安定性、温度依存性>
(モルタルの調製)
各実施例・比較例のセメント混和材、セメント、水、及び砂を20℃の室内で混合して、セメントと混和材からなるセメント組成物100質量部中の混和材の配合量=7質量部、水/セメント組成物の配合比=1/1(質量比)、セメント組成物/砂の配合比=1/3(質量比)となるモルタルを調製した。
(使用材料)
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品
水:水道水
砂:JIS標準砂
【0065】
得られたモルタル(サンプルA)を使用して、次のようにして作業性、圧縮強度(強さ)、貯蔵安定性、温度依存性の測定を行った。
(試験方法)
・作業性:調製直後のサンプルA(貯蔵0ヶ月)を用いて、20℃環境下、JIS R 5201のフロー試験に準じて、フロー値を測定した。
・圧縮強度(強さ):調製直後のサンプルA(貯蔵0ヶ月)を用いて、20℃環境下、JIS R 5201に準じて、材齢28日の圧縮強さを測定した。
【0066】
・貯蔵安定性:作製直後のセメント混和材を、ビニール袋に入れて密閉し、温度20℃、湿度60%の条件下で3ヶ月貯蔵した。3ヶ月貯蔵したセメント混和材を使用した以外は、上記(モルタルの調製)と同様にして、モルタル(サンプルB)を調製した。得られた調製直後のサンプルB(貯蔵3ヶ月)を用いて、上記の条件にて作業性(フロー値)と圧縮強度を測定した。貯蔵0ヶ月のサンプルAの各試験結果に対する貯蔵3ヶ月のサンプルBの各試験結果の相対比を求めた。
【0067】
・温度依存性:調製直後のサンプルA(貯蔵0ヶ月)を用いて、試験温度を5℃に変更したこと以外は全て同一条件下で作業性と圧縮強度を測定し、20℃環境下での各試験結果に対する5℃環境下での各試験結果の相対比を求めた。
【0068】
表1中、作業性、圧縮強度、貯蔵安定性、温度依存性の各試験において、実用上問題なく使用できる場合を○、実用上の使用に問題が生じる恐れがある場合を×と表記する。
【0069】
実施例1~3のセメント混和材は、作業性及び圧縮強度に優れており、比較例1と比較して、貯蔵安定性が高く、温度依存性が小さいことが示された。このようなセメント混和材は、セメントの混和材料に好適に用いることができる。
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
以下、参考形態の例を付記する。
1. γ-2CaO・SiO
2
(γ-C
2
S)で構成されるγ結晶相と、
前記γ結晶相中に存在する異相と、を含み、
前記異相が、2CaO・Al
2
O
3
・SiO
2
(C
2
AS)を含む、セメント混和材。
2. 1.に記載のセメント混和材であって、
前記C
2
ASの含有量が、前記γ-C
2
Sの100質量%対して、0.5質量%以上50質量%以下である、セメント混和材。
3. 1.又は2.に記載のセメント混和材であって、
前記γ-C
2
Sの含有量が、当該セメント混和材100質量%中、50質量%以上98質量%以下である、セメント混和材。
4. 1.~3.のいずれか一つに記載のセメント混和材であって、
前記γ結晶相中にAl
2
O
3
が含まれない、セメント混和材。
5. 1.~4.のいずれか一つに記載のセメント混和材であって、
β-2CaO・SiO
2
(β-C
2
S)で構成されるβ結晶相を含む、セメント混和材。
6. 5.に記載のセメント混和材であって、
前記β-C
2
Sの含有量は、前記γ-C
2
Sの100質量%対して、1.0質量%以上50質量%以下である、セメント混和材。
7. 5.または6.に記載のセメント混和材であって、
前記β結晶相中にAl
2
O
3
が含まれる、セメント混和材。
8. 1.~7.のいずれか一つに記載のセメント混和材と、セメントと、を含む、セメント組成物。