(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036390
(43)【公開日】2022-03-08
(54)【発明の名称】フェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤
(51)【国際特許分類】
C04B 35/36 20060101AFI20220301BHJP
G03G 9/107 20060101ALI20220301BHJP
C01G 49/00 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
C04B35/36
G03G9/107 321
C01G49/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020140579
(22)【出願日】2020-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000231970
【氏名又は名称】パウダーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 欣浩
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【弁理士】
【氏名又は名称】根岸 宏子
(72)【発明者】
【氏名】石川 誠
(72)【発明者】
【氏名】植村 哲也
【テーマコード(参考)】
2H500
4G002
【Fターム(参考)】
2H500AB01
2H500AB04
2H500CB02
2H500CB09
2H500EA39E
2H500EA55E
2H500EA56E
2H500EA61E
2H500FA04
4G002AA06
4G002AA08
4G002AB02
4G002AD04
4G002AE05
(57)【要約】
【課題】本件発明の課題は、高強度であり、割れや欠けが少なく、キャリア飛散の発生を抑制することできるフェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤を提供することにある。
【解決手段】上記課題を解決するため、RZrO
3の組成式(但し、Rはアルカリ土類金属元素)で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を含み、走査型電子顕微鏡により撮影された粒子断面の反射電子像において個々の粒子の粒径を断面における円相当径で表したとき、最大フェレ径が前記粒径の15%より大きい内部空孔を有する粒子の含有率が4%以下であるフェライト粒子とする。また、電子写真現像剤用キャリア芯材として、当該フェライト粒子を用いる。また、これを用いて、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤を得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RZrO3の組成式(但し、Rはアルカリ土類金属元素)で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を含み、
走査型電子顕微鏡により撮影された粒子断面の反射電子像において個々の粒子の粒径を断面における円相当径で表したとき、最大フェレ径が前記粒径の15%より大きい内部空孔を有する粒子の含有率が4%以下であること、
を特徴とするフェライト粒子。
【請求項2】
当該フェライト粒子の見掛密度が以下の式で表わされる範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のフェライト粒子。
2.15≦ Y ≦ 2.45
但し、上記式においてYは当該フェライト粒子の見掛密度(g/cm3)である。
【請求項3】
当該フェライト粒子のBET比表面積が以下の式で表わされる範囲内である請求項1又は請求項2に記載のフェライト粒子。
0.08≦ X ≦ 0.300
但し、上記式においてXは当該フェライト粒子のBET比表面積(m2/g)である。
【請求項4】
前記RがSr、Ca及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素である請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のフェライト粒子。
【請求項5】
X線回折パターンのリートベルト解析により当該フェライト粒子を構成する結晶相の相組成分析を行ったときに、前記ペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を0.05質量%以上4.00質量%以下含む請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のフェライト粒子。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載のフェライト粒子を含むことを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか一項に記載のフェライト粒子と、当該フェライト粒子の表面に設けられた樹脂被覆層とを備えることを特徴とする電子写真現像剤用キャリア。
【請求項8】
請求項7に記載の電子写真現像剤用キャリアとトナーとを含むことを特徴とする電子写真現像剤。
【請求項9】
補給用現像剤として用いられる請求項8に記載の電子写真現像剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真現像方法は、現像剤中のトナーを感光体上に形成された静電潜像に付着させて現像する方法をいう。この方法で使用される現像剤は、トナーとキャリアからなる二成分系現像剤と、トナーのみを用いる一成分系現像剤とに分けられる。二成分系現像剤を用いた現像方法としては、古くはカスケード法等が採用されていたが、現在では、マグネットロールを用いる磁気ブラシ法が主流である。
【0003】
磁気ブラシ法では、現像剤が充填されている現像ボックス内においてキャリアとトナーとを攪拌・混合することによって、トナーに電荷を付与する。そして、マグネットを保持する現像ロールによりキャリアを感光体の表面に搬送する。その際、キャリアにより、電荷を帯びたトナーが感光体の表面に搬送される。感光体上で静電的な作用によりトナー像が形成された後、現像ロール上に残ったキャリアは再び現像ボックス内に回収され、新たなトナーと撹拌・混合され、一定期間繰り返して使用される。
【0004】
二成分系現像剤は、一成分系現像剤とは異なり、キャリア自体の磁気特性や電気特性をトナーと分離して設計することができるため、現像剤を設計する際の制御性がよい。そのため、二成分系現像剤は高画質が要求されるフルカラー現像装置及び画像維持の信頼性、耐久性が要求される高速印刷を行う装置等に適している。
【0005】
低速印刷時と比較すると高速印刷時には攪拌負荷が大きくなるため、キャリアの割れや欠けが生じやすくなり、いわゆるキャリア飛散が生じやすくなる。キャリア飛散は画像欠陥の原因となるだけではなく、割れや欠けの生じたキャリアが感光体や定着ローラに付着すると、その尖った部分によりこれらが損傷する場合もある。
【0006】
このような課題に対処するため、例えば、特許文献1には、所定量のSiO2を含むマグネシウムフェライト粒子をキャリア芯材として用いることが提案されている。所定量のSiO2を添加することで焼結状態を調整し、BET比表面積を所定の範囲内とすることで、割れや欠けの少ない高強度なキャリア芯材が得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のキャリア芯材では高温高湿環境下においてキャリア飛散の発生を十分に抑制することは困難であり、上記特許文献1に開示のキャリア芯材についても同様である。また、上記特許文献1に開示のキャリア芯材を用いたキャリアでは、SiO2を添加することでは異常粒成長を防止し、攪拌時の割れや欠けは抑制しているものの、内部の焼結状態を十分に制御することは困難であった。また、当該特許文献1に開示のキャリア芯材では、内部空孔を所定の程度発生させることにより、粒子内部の結晶粒界を多く存在させ、結晶粒界の強度を高めることでキャリア芯材の機械的強度の低下を防ぐものとしている。つまり、特許文献1に開示のキャリア芯材では結晶粒界を多く存在させるには、内部空孔を所定の程度発生させる必要があるが、内部空孔の大きさ等を十分に制御することはできず、そのため結晶粒界の強度にはバラツキが生じるものと考えられる。
【0009】
そこで、本件発明の課題は、高強度であり、割れや欠けが少なく、キャリア飛散の発生を抑制することできるフェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本件発明に係るフェライト粒子はRZrO3の組成式(但し、Rはアルカリ土類金属元素)で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を含み、走査型電子顕微鏡により撮影された粒子断面の反射電子像において個々の粒子の粒径を断面における円相当径で表したとき、最大フェレ径が前記粒径の15%より大きい内部空孔を有する粒子の含有率が4%以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るフェライト粒子の見掛密度が以下の式で表わされる範囲内であることが好ましい。
2.15≦ Y ≦ 2.45
但し、上記式においてYは当該フェライト粒子の見掛密度(g/cm3)である。
【0012】
本発明に係るフェライト粒子のBET比表面積が以下の式で表わされる範囲内であることが好ましい。
0.08≦ X ≦ 0.300
但し、上記式においてXは当該フェライト粒子のBET比表面積(m2/g)である。
【0013】
本発明に係るフェライト粒子において、前記RがSr、Ca及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素である請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のフェライト粒子。
【0014】
本発明に係るフェライト粒子において、X線回折パターンのリートベルト解析により当該フェライト粒子を構成する結晶相の相組成分析を行ったときに、前記ペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を0.05質量%以上4.00質量%以下含むことが好ましい。
【0015】
本発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材は、上記フェライト粒子を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明に係る電子写真現像剤用キャリアは、上記フェライト粒子と、当該フェライト粒子の表面に設けられた樹脂被覆層とを備えることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る電子写真現像剤は、上記電子写真現像剤用キャリアとトナーとを含むことを特徴とする。
【0018】
本発明に係る電子写真現像剤は、補給用現像剤として用いられることも好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本件発明によれば、高強度であり、高温高湿環境下においてもキャリア飛散の発生を抑制することできるフェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】フェライト粒子の断面を模式的に示した図であり、フェライト粒子におけるZrの分散度合いを求める方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本件発明に係るフェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤の実施の形態を説明する。なお、本明細書において、フェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤は、特記しない限り、それぞれ個々の粒子の集合体、つまり粉体を意味するものとする。まず、フェライト粒子の実施の形態を説明する。また、以下では、本件発明に係るフェライト粒子は、主として、電子写真現像剤用キャリア芯材として用いられるものとして説明する。しかしながら、本件発明に係るフェライト粒子は磁性インク、磁性流体、磁性フィラー、ボンド磁石用フィラー及び電磁波シールド材用フィラー等の各種機能性フィラー、電子部品材料等の各種用途に用いることができ、当該フェライト粒子の用途は電子写真現像剤用キャリア芯材に限定されるものではない。
【0022】
1.フェライト粒子及び電子写真現像剤用キャリア芯材
まず、本件発明に係るフェライト粒子の実施の形態を説明する。本件発明に係るフェライト粒子は、RZrO3の組成式(但し、Rはアルカリ土類金属元素)で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分を含み、走査型電子顕微鏡により撮影された粒子断面の反射電子像において個々の粒子の粒径を断面における円相当径で表したとき、最大フェレ径が前記粒径の15%より大きい内部空孔を有する粒子の含有率が4%以下であることを特徴とする。
【0023】
1-1.ペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分
まず、RZrO3の組成式(但し、Rはアルカリ土類金属元素)で表されるペロブスカイト型結晶からなる結晶相成分(ペロブスカイト型結晶相成分)について説明する。
【0024】
磁気ブラシ法に好適な二成分系の電子写真現像剤用キャリアとして、磁性粒子を芯材とし、その表面を樹脂で被覆した樹脂被覆キャリアが用いられている。芯材とする磁性粒子として、酸化第二鉄(Fe2O3)を主成分とする磁性酸化物であるフェライト粒子が主として用いられている。キャリアの小粒径化に伴うキャリア飛散を抑制するには、高磁化及び高抵抗なフェライト粒子を芯材とすることが求められる。
【0025】
近年、芯材には、Feの他に、Mg,Mn,Sr,Ca等の金属元素を含む多元フェライト粒子が広く用いられている。フェライトを製造する際には、目的とする組成の金属元素を含む金属酸化物や金属水酸化物等を原料として用いる。高磁化のフェライト粒子を得るには、原料のフェライト化反応を十分に進行させて、磁性を示さない未反応の原料(以下、「未反応原料」と称する。)がフェライト粒子中に残存しないようにすることが求められる。しかしながら、多元フェライトの場合、元素の組み合わせによってフェライトの生成温度や生成速度が異なり、フェライト反応は原料同士の接触面でしか進行しないため、一般的な焼成条件により、原料を完全にフェライト化することは困難である。そのため、フェライト粒子中には未反応原料が残存する。
【0026】
また、フェライトの原料にはNa等のフェライト反応に関与しない金属又は金属化合物が不可避不純物として含まれる。これらの不可避不純物は磁性を示さない。そのため、高磁化のフェライト粒子を得るには、不可避不純物量を低減する必要がある。しかしながら、どのように純度の高い原料を用いても、原料中に不可避不純物は微量に存在し、不可避不純物を完全に除去することは現実的ではない。
【0027】
さらに、フェライト粒子の組織構造に欠陥があると、フェライト粒子の磁化は低下する。磁化の低下要因となる構造欠陥として、フェライト粒子内の欠陥(例えば、格子欠陥等)が挙げられる。多元フェライトの場合、単元フェライトと比較すると、フェライト反応が複雑になるため、構造欠陥が生じやすい。さらに、粒子に内部空孔が生じると、特に粒径に比して最大フェレ径の大きな内部空孔が生じると、その粒子の強度は低下する。
【0028】
従って、高磁化及び高抵抗であり、さらに高強度なフェライト粒子を得るには、フェライト粒子中の不可避不純物量を低減する必要がある。しかしながら、上述のとおり、不可避不純物を完全に除去することは現実的ではない。なお、上記未反応原料(但し、不可避不純物を除く)は、金属酸化物であるため、未反応原料を含むことはフェライト粒子の低抵抗化の要因とはならない。
【0029】
ところで、フェライト粒子は単結晶の集合体である多結晶体である場合が多い。フェライト粒子の組成が同じであっても、フェライト粒子の磁気特性や電気特性はフェライト粒子の組織構造によって変化する。そこで、本件発明者らは、フェライト粒子の組織構造に着目し、高磁化及び高抵抗であり、且つ、高強度のフェライトを得るには、RZrO3の組成式(但し、Rはアルカリ土類金属元素)で表されるペロブスカイト型結晶相成分を含むことが重要であることを見出し、本件発明に想到するに至った。
【0030】
RZrO3の組成式(但し、Rはアルカリ土類金属元素)で表されるペロブスカイト型結晶相成分を含むことで、上記課題が解決できる理由は定かではないが、本件発明者らは以下のように推察する。
【0031】
フェライト粒子の粒界には、未反応原料や不可避不純物などのフェライトと固溶しない成分が存在する。また、結晶粒の成長に伴い粒界に押し出されたこれらの成分はフェライト粒子の表面にも存在する。フェライト粒子を構成する結晶粒が大きいと、粒界は、フェライト粒子の表面における一点と他の点とを結ぶ流路のようにフェライト粒子内部に連続的に形成される。フェライト粒子の表面や粒界に存在する不可避不純物は容易にイオン化する。そのため、フェライト粒子内において連続的に形成された粒界に、Na等の不可避不純物が連続的に分布すると、水分がフェライト粒子の表面に付着すると粒界が導通路のようになり、フェライト粒子の抵抗は低下する。しかしながら、上述したとおり、フェライト粒子中の未反応原料や不可避不純物を完全に除去することは困難である。
【0032】
一方、RZrO3の組成式(但し、Rはアルカリ土類金属元素)で表されるペロブスカイト型結晶相成分は例えばスピネルフェライト相等の結晶構造の異なる他の結晶相と固溶しないため、当該結晶相成分はフェライト粒子の粒界に分散する。従って、当該結晶相成分を含むフェライト粒子は、当該結晶相成分を含まない場合と比較すると、フェライト粒子における粒界体積が相対的に増加する。フェライト粒子に含まれる不可避不純物量が同じであれば、フェライト粒子の粒界体積が相対的に増加すると、粒界における不可避不純物の分布密度は相対的に低下する。粒界には、不可避不純物の他、絶縁性物質である当該結晶相成分が存在する。本件発明に係るフェライト粒子では、粒子内に粒界が複雑に分布すると共に、粒界内に不可避性不純物や当該結晶相成分などの絶縁性物質が不連続に分布するため、粒界が導通路のように機能することを抑制することができる。そのため、本件発明に係るフェライト粒子によれば、抵抗の環境依存性も小さくすることができると考えられる。
【0033】
また、当該フェライト粒子においてRZrO3の組成式(但し、Rはアルカリ土類金属元素)で表されるペロブスカイト型結晶相成分を粒子内部に均一に分散させつつ、後述する製造方法を採用することなどにより、上述のように内部空孔の少ない、或いは、内部空孔が存在する場合であっても粒径に比して最大フェレ径の小さいより強度の高いフェライト粒子を得ることが容易になる。また、本件発明によれば、上述のとおり粒界体積を相対的に大きくすることができるため、内部空孔を含まなくとも、粒界強度の高い粒子が得られる。さらに、当該ペロブスカイト型結晶相成分はスピネルフェライト相等の結晶構造の異なる他の結晶相成分と固溶しないため、これらの結晶相が偏析したり、異常粒成長するとその界面を起点として割れや欠けが生じやすくなる。
【0034】
また、フェライト粒子における粒界体積が相対的に小さいと、不可避不純物が粒界から表面に押し出される結果、フェライト粒子表面に存在する不可避不純物量が相対的に多くなる。一方、フェライト粒子における粒界体積が相対的に大きいと、フェライト粒子の表面に存在する不可避不純物量を相対的に低減することができる。そのため、フェライト粒子を高抵抗化することができる。さらにフェライト粒子表面の不可避不純物に起因する抵抗の環境依存性も小さくすることができる。
【0035】
さらに、RZrO3の組成式(但し、Rはアルカリ土類金属元素)で表されるペロブスカイト型結晶相成分は絶縁性が高く、粒界や粒子表面に当該結晶相成分が存在することで、フェライト粒子の高抵抗化を図ることができる。さらに、当該結晶相成分を含むフェライト粒子を得るには、Zrを含む化合物(例えば、ZrO2)を原料として用いる。例えば、多元フェライトがRを含む組成を有する場合、Rを含む原料と、Zrを含む化合物とが固相反応するため、フェライト粒子中の上記未反応原料の含有量を低減することができる。そのため、構造欠陥が生じるのも抑制することができ、相対的に高磁化のフェライト粒子を得ることができると共に、内部空孔が少なく、内部空孔が存在していたとしてもその最大フェレ径の小さい高強度のフェライト粒子を得ることができる。
【0036】
このような理由から、RZrO3の組成式(但し、Rはアルカリ土類金属元素)で表されるペロブスカイト型結晶相成分を含むフェライト粒子とすることで、上述した理由から、高磁化及び高抵抗であり、且つ、高強度にすることができると推察する。
【0037】
なお、当該フェライト粒子において、RzO3の組成式(但し、Rはアルカリ土類金属元素)で表されるペロブスカイト型結晶相成分を含むとは、少なくともフェライト粒子の内部に当該結晶相成分が含まれることをいい、フェライト粒子の内部における当該結晶相成分の分散が良好であることが好ましく、当該フェライト粒子の表面及び内部に当該結晶相成分が均一に分散していることがより好ましい。以下、本件発明に係るフェライト粒子についてより詳細に説明する。
【0038】
(1)R(アルカリ土類金属元素)
本件発明において、Rは、Ca、Sr、Ba及びRaからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素、すなわちアルカリ土類金属元素である。アルカリ土類金属元素はジルコニウムよりもイオン半径が十分大きく、ジルコニウムとペロブスカイト型の結晶構造を形成する。本件発明において、Rは、Sr、Ca及びBaからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の元素であることがより好ましい。これらの元素は所定の温度条件でジルコニウムと固相反応し、ペロブスカイト型の結晶構造を形成する。そのため、フェライト粒子の製造工程において焼成温度を所定の温度範囲内において制御することにより、ペロブスカイト型結晶相成分を含むフェライト粒子を得ることができる。
【0039】
(2)結晶相成分含有割合
X線回折パターンのリートベルト解析により当該フェライト粒子を構成する結晶相の相組成分析を行ったときに、上記RZrO3の組成式で表されるペロブスカイト型結晶相成分を0.05質量%以上4.00質量%以下含むことが好ましい。
【0040】
上記RZrO3の組成式で表されるペロブスカイト型結晶相成分の含有割合が上記範囲内であると、当該フェライト粒子の内部に当該結晶相成分を均一に分散させることが容易になり、構造欠陥の発生を抑制し、高磁化及び高抵抗のフェライト粒子を得ることがより容易になる。また、上記範囲内とすることで、当該結晶相成分の偏析を抑制するとともに、内部空孔の発生を抑制し、機械的ストレスを受けたときの割れや欠けが生じにくい強度の高いフェライト粒子を得ることができる。その結果、割れや欠けに起因するキャリア飛散も抑制することができる。
【0041】
これらの効果を得る上で、当該フェライト粒子は当該結晶相成分を0.10質量%以上含むことが好ましく、0.15質量%以上含むことがより好ましく、0.20質量%以上含むことがさらに好ましい。また、当該フェライト粒子は当該結晶相成分を2.00質量%以下含むことが好ましい。
【0042】
(3)ジルコニウム含有割合
当該フェライト粒子はジルコニウムを主原料に対して0.1mol%以上3.0mol%以下含むことが好ましい。当該範囲内でジルコニウムを含むことにより、上記RZrO3の組成式で表されるペロブスカイト型結晶相成分の含有割合が概ね上記範囲内となり、高磁化及び高抵抗であり、高強度のフェライト粒子を得ることができる。当該フェライト粒子におけるジルコニウムの含有割合は0.2mol%以上であることがより好ましい。また、当該フェライト粒子におけるジルコニウムの含有割合は2.0mol%以下であることがより好ましく、1.5mol%以下であることがさらに好ましい。
【0043】
(4)アルカリ土類金属元素含有割合
アルカリ土類金属元素(R)の含有割合は主原料に対して0.1mol%以上3.0mol%以下であることがより好ましい。当該範囲内でアルカリ土類金属元素(R)を含むことにより、上記RZrO3の組成式で表されるペロブスカイト型結晶相成分の含有割合が概ね上記範囲内となり、高磁化及び高抵抗であり、高強度のフェライト粒子を得ることができる。当該フェライト粒子におけるアルカリ土類金属元素(R)の含有割合は0.2mol%以上であることがより好ましい。また、当該フェライト粒子におけるアルカリ土類金属元素(R)の含有割合は2.0mol%以下であることがより好ましく、1.5mol%以下であることがさらに好ましい。
【0044】
1-2.所定粒子の含有率
上述のとおり、当該フェライト粒子では、走査型電子顕微鏡により撮影された粒子断面の反射電子像(断面SEM写真)において個々の粒子の粒径を断面における円相当径で表したとき、最大フェレ径が前記粒径の15%より大きい内部空孔を有する粒子(以下、「所定粒子」と称する。)の含有率が4%以下であることを特徴とする。ここで、円相当径とは、断面SEM写真における測定対象粒子の断面積と同面積を有する真円の直径に相当する値をいう。また、最大フェレ径は、測定対象粒子の内部空孔の射影幅をいい、測定対象とする内部空孔に外接する矩形の水平方向の辺の長さ(水平方向のフェレ径)と垂直方向の片の長さ(垂直方向のフェレ径)のうち、最大の辺長をいう。このような、最大フェレ径が前記粒径の15%より大きい内部空孔を有する粒子は粒子強度が弱く、トナーとの攪拌時などに機械的ストレスが加わったときに割れや欠けが生じやすくなる。当該フェライト粒子では、この所定粒子の含有率が4%以下であるため、機械的ストレスを受けたときに、粉体全体でみたときに割れや欠けが生じるのを防ぎ、キャリアの割れや欠けに起因するキャリア飛散を抑制することができる。当該所定粒子の含有率は後述する方法により測定することができる。
【0045】
当該所定粒子の含有率が小さくなるほど粉体全体でみたときの粒子強度が高くなる。よって、当該所定粒子の含有率は3.8%以下であることがより好ましく、3.5%以下であることがさらに好ましい。
【0046】
1-3.組成
当該フェライト粒子は、RZrO3の組成式(但し、Rはアルカリ土類金属元素)で表されるペロブスカイト型結晶相成分を含む限り、その組成は特に限定されるものではない。しかしながら、高磁化及び高抵抗のフェライト粒子を得るという観点から、当該フェライト粒子は、(MO)a(Fe2O3)b(但し、MはFe,Mg,Mn,Cu,Zn及びNiからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属元素、a+b=100(mol%))の組成式で表されるスピネル型結晶からなる結晶相成分(以下、スピネル型結晶相成分)を主成分とすることが好ましい。フェライトはスピネル型結晶構造、マグネトプランバイト型結晶構造、ガーネット型結晶構造などの結晶構造を有するが、スピネル型結晶構造を有するフェライトは軟磁性を示し、抵抗などの電気特性の調整も容易であることから、電子写真現像剤用キャリア芯材に好適である。なお、主成分とは、当該フェライトが複数の結晶相成分(上記RZrO3の組成式(但し、Rはアルカリ土類金属元素)で表されるペロブスカイト型結晶相成分を含む)を含む場合、それらの結晶相成分の中でスピネル結晶相が最も大きな割合を占めることをいい、特に当該スピネル結晶相成分が50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、80質量%以上であることが一層好ましく、90質量%以上であることがより一層好ましく、95質量%以上99質量%以下等その大部分がスピネル結晶相成分であってもよい。スピネル相結晶相成分の含有量は、原料配合時の金属元素の比率によって決定することができる。一般的にスピネル型フェライトは固相反応により製造される。その際の焼成工程で行われるフェライト化反応では、約850℃から固溶体(スピネル型結晶相)が生成しはじめ、約1250℃にて当該フェライト化反応が完了する。焼成工程における焼成温度、焼成時間、焼成雰囲気、冷却時間を適宜調整することで選択的にスピネル型結晶相を生成させることができ、それにより当該フェライト粒子におけるスピネル型結晶相の含有割合を決定することができる。
【0047】
さらに、当該フェライト粒子は、(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)z(但し、15≦x≦50、2≦y≦35、45≦z≦60、x+y+z=100(mol%))の組成式で表されるスピネル型結晶相成分を主組成とすることがさらに好ましい。上述の組成を従来のフェライト製造方法と組み合わせることでスピネル結晶相成分が50質量%以上のフェライトを得ることができる。
【0048】
Mnを含む組成とすることにより、低磁場側の磁化を高くすることができる。また、Mnを含む組成とすることにより、本焼成後の炉出の際のフェライトの再酸化を防止することができる。特にMnの含有量を15mol%以上とすることで、相対的にFeの含有量が増加するのを抑制し、当該フェライト粒子中のマグネタイト成分の含有割合が大きくなるのを抑制することができる。そのため、低磁場側の磁化の低下を抑制し、キャリア付着の発生を抑制することができる。また、電子写真印刷を行う上で良好な抵抗値に調整することが容易になるため、カブリの発生や階調性の悪化、白抜け等の画像欠陥の発生を抑制することができる。さらに、トナー消費量を適正に保つことができる。Mnの含有量を50mol%以下とすることで抵抗が高くなりすぎ、白抜け等の画像欠陥が発生するのを抑制できる。
【0049】
Mgを含む組成とすることにより、高抵抗のフェライト粒子を得ることができる。また、Mgの含有量を2mol%以上とすることで、Feの含有量に対してMnの含有量が適切になり、フェライト粒子の磁化や抵抗を電子写真印刷を行う上で良好な範囲内に調整することが容易になる。そのため、カブリの発生や階調性の悪化、はけ筋の発生、キャリア飛散等の画像欠陥の発生を抑制することができる。さらに、Mg原料として水酸化マグネシウムを用いたときに、当該フェライト粒子を製造する際の焼成温度が低いと、フェライト粒子に水酸基が残存する場合がある。Mgの含有量を35mol%以下とすることで、原料に起因して存在する残存水酸基の量を低減することができる。そのため、残存水酸基により当該フェライト粒子の帯電量や抵抗といった電気的特性が雰囲気湿度の影響を受けて変動するのを抑制し、当該フェライト粒子の電気的特性の環境依存性を良好にすることができる。
【0050】
当該フェライト粒子は酸化第二鉄を主成分とする磁性酸化物である。Feの含有量を45mol%以上60mol%以下とすることで、フェライト粒子の磁化や抵抗を電子写真印刷を行う上で良好な範囲内に調整することが容易になる。
【0051】
1-4.磁気特性
当該フェライト粒子を電子写真現像剤用キャリアの芯材として用いる場合、1K・1000/4π・A/mの磁場をかけたときのVSM測定による飽和磁化が55emu/g以上65emu/g以下であることが好ましい。飽和磁化が55emu/g以上になると、芯材の磁力が高く、低磁化に起因するキャリア飛散を良好に抑制することができる。また、飽和磁化と電気抵抗はトレードオフの関係にあるが、フェライト粒子の飽和磁化が当該範囲内であると、両者のバランスが良好になり高画質の電子写真印刷を良好に行うことのできる電子写真現像剤を得ることができる。また、磁化が高くとも抵抗が低いと、低抵抗に起因するキャリア飛散が生じることがある。飽和磁化を65emu/g以下とすることで、低抵抗に起因するキャリア飛散も良好に抑制することができる。
【0052】
1-5.電気的特性
電極間距離6.5mm及び印加電圧1000Vで測定したときの、常温常湿環境(23℃相対湿度55%)下での抵抗値Mは、1.0×106(Ω)以上1.0×109.5(Ω)以下であることが望ましい。当該フェライト粒子の抵抗値が当該範囲内であると、当該フェライト粒子を芯材とし、表面に樹脂被覆層を設けてキャリアとしたとき、トナーとの攪拌時に樹脂被覆層が剥離し、芯材が露出したときも電荷注入によるキャリア飛散を抑制することができる。
【0053】
1-6.物性
(1)見掛密度
当該フェライト粒子の見掛密度は以下の式で表される範囲内であることが好ましい。
2.15 ≦ Y ≦ 2.45
但し、上記式においてYは当該フェライト粒子の見掛密度(g/cm3)を表す。
【0054】
ここでいう見掛密度は、漏斗法によりJIS Z 2504:2012に準拠して測定した値をいう。当該フェライト粒子の見掛密度が上記式で表される範囲内であると、内部空孔が少なく、内部空孔を有していてもその最大フェレ径が小さくなり、強度が高くなる。そのため、当該フェライト粒子を芯材とするキャリアを用いれば、トナーとの混合攪拌時に機械的ストレスが加わっても割れや欠けを防ぐことができる。
【0055】
当該フェライト粒子の見掛密度が小さいと、内部空孔の数が多い、或いは内部空孔の最大フェレ径が大きくなる傾向にある。そのため当該フェライト粒子を芯材とするキャリアに、トナーとの混合攪拌時に機械的ストレスが加わると、割れや欠けが生じやすくなる。キャリアの割れや欠けが生じると、キャリア飛散による画像欠陥が生じたり、感光体ドラムや定着ローラに付着してこれらを損傷するおそれがある。一方、当該フェライト粒子の見掛密度が2.50を超えると、内部空孔は少なくなるが過焼結により結晶粒が粗大化する。このとき、ペロブスカイト型結晶相成分が粒子内に偏析していると、この場合も、機械的ストレスが加わると、上述したとおり、結晶相の界面を起点として割れや欠けが生じやすくなり、キャリア飛散に伴う画像欠陥や感光体ドラムや定着ローラの損傷等を生じるおそれがあるため好ましくない。
【0056】
これらの効果を得る上で、当該フェライト粒子の見掛密度は2.18以上であることが好ましく、2.20以上であることがより好ましい。また、当該フェライト粒子の見掛密度は2.40以下であることがより好ましく、2.35以下であることがさらに好ましい。
【0057】
見掛密度が上記範囲内のフェライト粒子を得るには、当該フェライト粒子を製造する際に用いる原料となるアルカリ土類金属元素含有化合物の及び酸化ジルコニウムの配合量、酸化ジルコニウムの粒径及び比表面積、焼成温度、焼成時間、焼成時の雰囲気酸素濃度等を適宜調整することにより調整することができる。これらを調整することで、ペロブスカイト型結晶相成分の偏析を抑制し、当該結晶相成分を粒子表面及び内部に均一に分散させることができる。また、最初に述べた理由から、構造欠陥が生じるのを防ぎ、例えばスピネルフェライト相等の他の結晶相成分の成長を抑制することができる。これらのことから、上記の条件を適宜調整することで、所望の見掛密度を有するフェライト粒子を得ることができると考えられる。
【0058】
(2)BET比表面積
当該フェライト粒子のBET比表面積は以下の式で表される範囲内であることが好ましい。
0.08≦ X ≦ 0.300
但し、上記式においてXは当該フェライト粒子のBET比表面積(m2/g)である。
【0059】
ここでいうBET比表面積は、例えば、比表面積測定装置(型式:Macsorb HM model-1208(マウンテック社製))を用いて測定した値とすることができる。当該フェライト粒子のBET比表面積が上記式で表される範囲内であるとフェライト粒子の表面の凹凸が粒径に対して適正な範囲内となる。そのため、当該フェライト粒子を芯材としたときに表面を樹脂で良好に被覆することができる。また、粒径に対する表面の凹凸差が小さくなるため、表面に機械的ストレスが加えられた際に凸部に負荷が集中するのを抑制し、割れや欠けを防ぐことができる。そのため、当該フェライト粒子を芯材として用いれば、トナーとの混合攪拌時に表面から樹脂が剥離することを抑制でき、キャリアの割れや欠けを防いで、キャリア飛散等を防ぐことができる。
【0060】
これに対して、BET比表面積が0.08未満である場合は、粒径に対するフェライト粒子表面の凹凸が少なくなり、或いは、小さくなりすぎるため、当該フェライト粒子を芯材としてその表面を樹脂で被覆した際に、樹脂がトナーとの混合時等に剥離し易くなる。キャリアの表面から樹脂が剥離すると、その部分は芯材が露出する。すなわち、フェライト粒子の表面が露出するため、キャリア飛散や帯電性低下による画像欠陥が生じ易くなる。一方、BET比表面積が大きくなるにつれて、粒径に対するフェライト粒子表面の凹凸が多く、或いは、大きくなっていくため、フェライト粒子の凸部を樹脂で被覆することが困難になり、凸部が露出する場合がある。そのため、トナーに対する十分な帯電付与性を有するキャリアを得ることができない場合がある。また、表面の凹凸が大きくなると、トナーとの混合時等にキャリア表面の凸部に機械的ストレスが加わるなどして、凸部に負荷が集中し、キャリアの割れ・欠けが生じやすくなる。これらのことからBET比表面積を0.300未満とすることで、現像剤使用時におけるキャリアの強度を良好に維持することができて好ましい。
【0061】
BET比表面積が上記範囲内のフェライト粒子は、当該フェライト粒子を製造する際の造粒条件、焼成条件を適宜制御することにより得ることができる。造粒条件として、例えば、造粒時のスラリー粒径、アトマイザーディスク回転数、スラリー吐出量、乾燥温度等が挙げられる。また、焼成条件として、焼成温度、焼成時間、焼成時の雰囲気酸素濃度等が挙げられる。これらを調整することで、RZrO3の組成式(但し、Rはアルカリ土類金属元素)で表されるペロブスカイト型結晶相成分の原料を他の原料と良好に混合分散させることができ、その結果当該結晶相成分が粒子表面及び内部に均一に分散したフェライト粒子を得ることができ、当該フェライト粒子の見掛密度を所望の範囲に調整することができると考えられる。
【0062】
(3)粒子強度指数
後述する実施例において述べる方法により粒子強度指数を求めたとき、当該フェライト粒子の粒子強度指数は0.5以下であることが好ましく、0.4以下であることがより好ましい。上記所定粒子の含有率が4%以下であるフェライト粒子は高強度であり、トナーとの攪拌時などに機械的ストレスが加わったときも割れや欠けの発生を抑制し、微粉の発生によるキャリア飛散の発生を抑制することができる。さらに、フェライト粒子を芯材とし、その表面に樹脂被覆層を有するキャリアを使用する場合、割れや欠けが生じると芯材であるフェライト粒子が露出し、キャリアの帯電性が変化して、画像濃度低下やトナー飛散を生じる場合がある。しかしながら、当該フェライト粒子によれば、粒子強度が高いため、長期間にわたってこれらの不具合を抑制し、より長寿命で信頼性の高いキャリアを実現することができる。
【0063】
(4)体積平均粒径(D50)
当該フェライト粒子を電子写真現像剤用キャリアの芯材として用いる場合、その体積平均粒径(D50)は24μm以上40μm以下であることが好ましい。但し、ここでいう体積平均粒径は、レーザ回折・散乱法によりJIS Z 8825:2013に準拠して測定した値をいう。体積平均粒径が当該範囲内であると、トナーに対する帯電付与性が高く、長期間に亘って当該帯電付与性を維持することができる。そのため、電子写真現像剤の長寿命化を図ることができる。
【0064】
これに対して、当該フェライト粒子の体積平均粒径(D50)が24μm未満であると、粒径が小さいため、キャリア飛散が生じやすくなる。また、当該フェライト粒子の体積平均粒径(D50)が24μm未満であると、粒径が小さいため、当該フェライト粒子が凝集しやすくなる。当該フェライト粒子を芯材とし、その表面に樹脂を被覆してキャリアとする際に、当該フェライト粒子が凝集していると、個々のフェライト粒子の表面を良好に樹脂で被覆することができなくなる。その後、現像剤の製造時或いは使用時に、フェライト粒子の凝集がほぐれると、当該現像剤は樹脂が被覆されていない領域の大きいキャリアの含有率が高くなる。そのため、このようなフェライト粒子を芯材とするキャリアを用いて現像剤を製造すると、トナーに対する十分な帯電付与性を得られない場合があるため好ましくない。
【0065】
一方、当該フェライト粒子の体積平均粒径(D50)が40μmを超えると、当該粉体を構成する一つ一つの粒子の粒径が大きくなる。そのため、体積平均粒径(D50)が小さいフェライト粒子と比較すると、粉体全体としてみたときにトナーとの摩擦帯電に寄与するキャリアの表面積が小さくなる。そのため、トナーに対する十分な帯電付与性が得られなくなる場合がある。これを改善するために、個々のフェライト粒子の表面に凹凸を付与して、個々のフェライト粒子の表面積を増加させると、トナーとの摩擦帯電に寄与するキャリアの表面積を増加させることができる。この場合、トナーに対する帯電付与性は向上するが、トナーとの混合時等にキャリア表面の凸部に機械的ストレスが加わるなどして、キャリアの割れ・欠けが生じやすくなるため好ましくない。すなわち、現像剤使用時におけるキャリアの強度を維持することができない場合があり、好ましくない。
【0066】
2.電子写真現像剤用キャリア
次に、本件発明に係る電子写真現像剤用キャリアについて説明する。本発明に係る電子写真現像剤用キャリアは、上記フェライト粒子と、当該フェライト粒子の表面に設けられた樹脂被覆層とを備えることを特徴とする。すなわち、上記フェライト粒子は、電子写真現像剤用キャリアの芯材として用いられることを特徴とする。フェライト粒子については上述したとおりであるため、ここでは主として樹脂被覆層について説明する。
【0067】
(1)被覆樹脂の種類
樹脂被覆層を構成する樹脂(被覆樹脂)の種類は、特に限定されるものではない。例えば、フッ素樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、フッ素アクリル樹脂、アクリル-スチレン樹脂、シリコーン樹脂等を用いることができる。また、シリコーン樹脂等をアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アルキッド樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂等の各樹脂で変性した変成シリコーン樹脂等を用いてもよい。例えば、トナーとの撹拌混合時に受ける機械的ストレスによる樹脂剥離を抑制するという観点からは、被覆樹脂は熱硬化性樹脂であることが好ましい。当該被覆樹脂に好適な熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂及びそれらを含有する樹脂等が挙げられる。但し、上述のとおり、被覆樹脂の種類は特に限定されるものではなく、組み合わせるトナーの種類や使用環境等に応じて、適宜適切なものを選択することができる。
【0068】
また、1種類の樹脂を用いて樹脂被覆層を構成してもよいし、2種類以上の樹脂を用いて樹脂被覆層を構成してもよい。2種類以上の樹脂を用いる場合は、2種類以上の樹脂を混合して1層の樹脂被覆層を形成してもよいし、複数層の樹脂被覆層を形成してもよい。例えば、フェライト粒子の表面に、フェライト粒子と密着性の良好な第一の樹脂被覆層を設け、当該第一の樹脂被覆層の表面に、当該キャリアに所望の帯電付与性能を付与するための第二の樹脂被覆層を設けることなども好ましい。
【0069】
(2)樹脂被覆量
フェライト粒子の表面を被覆する樹脂量(樹脂被膜量)は、芯材として用いるフェライト粒子に対して0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。当該樹脂被覆量が0.1質量%未満であると、フェライト粒子の表面を樹脂で十分被覆することが困難になり、所望の帯電付与能力を得ることが困難になる。また、当該樹脂被覆量が10質量%を超えると、製造時にキャリア粒子同士の凝集が発生してしまい、歩留まり低下等の生産性の低下と共に、実機内での現像剤の流動性或いは、トナーに対する帯電付与性等の現像剤特性が変動するため好ましくない。
【0070】
(3)添加剤
樹脂被覆層には、導電剤や帯電制御剤等のキャリアの電気抵抗や帯電量、帯電速度をコントロールすることを目的とした添加剤が含まれていてもよい。導電剤としては、例えば、導電性カーボン、酸化チタンや酸化スズ等の酸化物、又は、各種の有機系導電剤を挙げることができる。但し、導電剤の電気抵抗は低いため、導電剤の添加量が多くなりすぎると、電荷リークを引き起こしやすくなる。そのため、導電剤の含有量は、被覆樹脂の固形分に対して0.25質量%以上20.0質量%であることが好ましく、0.5質量%以上15.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0071】
帯電制御剤としては、トナー用に一般的に用いられる各種の帯電制御剤や、シランカップリング剤が挙げられる。これらの帯電制御剤やカップリング剤の種類は特に限定されないが、ニグロシン系染料、4級アンモニウム塩、有機金属錯体、含金属モノアゾ染料等の帯電制御剤や、アミノシランカップリング剤やフッ素系シランカップリング剤等を好ましく用いることができる。帯電制御剤の含有量は、被覆樹脂の固形分に対して好ましくは0.25質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上15.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0072】
3.電子写真現像剤
次に、本件発明に係る電子写真現像剤の実施の形態について説明する。当該電子写真現像剤は、上記電子写真現像剤用キャリアとトナーとを含む。
【0073】
当該電子写真現像剤を構成するトナーとして、例えば、重合法により製造される重合トナー及び粉砕法によって製造される粉砕トナーのいずれも好ましく用いることができる。これらのトナーは各種の添加剤を含んでいてもよく、上記キャリアと組み合わせて電子写真現像剤として使用することができる限り、どのようなものであってもよい。
【0074】
トナーの体積平均粒径(D50)は2μm以上15μm以下であることが好ましく、3μm以上10μm以下であることがより好ましい。トナーの体積平均粒径(D50)が当該範囲内であると、高画質な電子写真印刷を行うことができる電子写真現像剤を得ることができる。
【0075】
キャリアとトナーとの混合比、すなわちトナー濃度は、3質量%以上15質量%以下であることが好ましい。トナーを当該濃度で含む電子写真現像剤は、所望の画像濃度が得られやすく、カブリやトナー飛散をより良好に抑制することができる。
【0076】
一方、当該電子写真現像剤を補給用現像剤として用いる場合には、キャリア1質量部に対してトナー2質量部以上50質量部以下であることが好ましい。
【0077】
当該電子写真現像剤は、磁気ドラム等にキャリアを磁力により吸引付着させてブラシ状にしてトナーを搬送し、バイアス電界を付与しながら、感光体上等に形成された静電潜像にトナーを付着させて可視像を形成する磁気ブラシ現像法を適用した各種電子写真現像装置に好適に用いることができる。当該電子写真現像剤は、バイアス電界を付与する際に、直流バイアス電界を用いる電子写真現像装置だけでなく、直流バイアス電界に交流バイアス電界を重畳した交番バイアス電界を用いる電子写真現像装置にも用いることができる。
【0078】
4.製造方法
以下では、本件発明に係るフェライト粉、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤の製造方法について説明する。
【0079】
4-1.フェライト粉及び電子写真現像剤用キャリア芯材
本件発明に係るフェライト粉及び電子写真現像剤用キャリア芯材は、次のようにして製造することができる。
【0080】
まず、所望のフェライト組成となるように原料を適量秤量した後、ボールミル又は振動ミル等で0.5時間以上、好ましくは1時間以上20時間以下粉砕混合し、仮焼成する。
【0081】
例えば、(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)z(但し、15≦x≦50、2≦y≦35、45≦z≦60、x+y+z=100(mol%))の組成式で表されるスピネル型結晶相成分を主組成とするフェライト粒子を製造するには、x、y、zが所望の値となるように、それぞれの原料を秤量し、粉砕混合する。原料としては、例えば、Fe2O3と、Mg(OH)2及び/又はMgCO3と、MnO2、Mn2O3、Mn3O4及びMnCO3からなる群から選ばれる1種類以上のマンガン化合物を用いることが好ましい。
【0082】
本件発明に係るフェライト粒子は、RZrO3の組成式(但し、Rはアルカリ土類金属元素)で表されるペロブスカイト型結晶相成分を含む。そのため、アルカリ土類金属元素(R)については、アルカリ土類金属元素(R)の酸化物を原料とし、所望の添加量となるように秤量し、他の原料と粉砕混合する。Zrについては、ZrO2を原料とすることができる。
【0083】
ここで、当該ペロブスカイト型結晶相成分を0.05質量%以上2.50質量%以下(但し、X線回折パターンのリートベルト解析により当該フェライト粒子を構成する結晶相の相組成分析を行ったときに得られる質量分率とする)含むフェライト粒子を製造する際には、モル比で主成分原料:100に対して、ZrO2:0.1以上3.0以下配合することが好ましく、ZrO2:0.2以上1.5以下配合することがより好ましい。また、モル比で主成分原料:100に対してアルカリ土類金属元素(R)の酸化物:0.1以上3.0以下配合することが好ましく、ZrO2:0.2以上1.5以下配合することがより好ましい。当該ペロブスカイト型結晶相成分はアルカリ土類金属元素(R)の酸化物と、ZrO2との固相反応により生じる。そのため、アルカリ土類金属元素(R)の酸化物及びZrO2の添加量及び添加比率を上記好ましい配合量の範囲内において適宜変化させることにより、当該ペロブスカイト型結晶相成分の生成量を調整することができる。
【0084】
本件発明に係るフェライト粒子を製造する際に、所望の添加量となるようにZrO2を秤量し、他の原料と粉砕混合する。二酸化ジルコニウムを粒子内部に均一に分散するためには、原料の粉砕混合時に二酸化ジルコニウムを加えることが望ましい。また、ZrO2以外の原料を粉砕、混合し、大気下で仮焼成した後に、ZrO2を加え、さらに粉砕混合することも好ましい。その場合は、ZrO2以外の原料を粉砕混合した粉砕物を加圧成形機等を用いてペレット化した後、大気下で700℃以上1200℃以下の温度で仮焼成した後に、ZrO2を加える。
【0085】
ZrO2を含め全ての原料を粉砕混合した後、又は、ZrO2以外の他の原料を粉砕混合し、仮焼成した後、得られた仮焼物に所定量のZrO2を加え、さらにボールミル又は振動ミル等で粉砕した後、いずれの場合もそれらの粉砕混合物に水を加えてビーズミル等を用いて微粉砕し、スラリーを得る。メディアとして使用するビーズの径、組成、粉砕時間を調整することによって、粉砕度合いをコントロールすることができる。原料を均一に分散させる上で、1mm以下の粒径を持つ微粒なビーズをメディアとして使用することが好ましい。また、上記所定粒子の含有率が本件発明の範囲内であるフェライト粒子を得る上で、粉砕物の体積平均粒径(D50)が2.0μm以下になるように粉砕することが好ましく、1.5μm以下になるように粉砕することがより好ましい。当該方法を採用することにより、内部空孔が少なく、或いは内部空孔が存在していたとしてもその最大フェレ径の小さい粒子からなるフェライト粒子を得ることができる。また、異常粒成長を抑制するため、粒度分布の粗目側の粒径(D90)は3.5μm以下になるように粉砕することが好ましい。これらを調整することで、ペロブスカイト型結晶相成分が粒子の表面から内部までより均一に分散させることができる。
【0086】
さらに、BET比表面積及び見掛密度が上記好ましい範囲のフェライト粒子を得る上で、BET比表面積が20~150m2/gであり、且つ、体積平均粒径(D50)が0.5μm~2.5μmのZrO2を原料として用いることが望ましい。このような特性を有する原料を用いることで、ZrO2を粒子内に良好に分散させつつ、ペロブスカイト型結晶相成分の成長を均一に進めさせることができる。粒子内で当該結晶相成分の偏析や各結晶相成分の異常粒成長を抑制することができる。そのため、機械的ストレスが加わったときも互いに固溶しない異なる結晶相間の界面での割れや欠けが生じるのを抑制し、当該フェライト粒子の強度を向上させることができる。
【0087】
次いで、このようにして得られたスラリーに、必要に応じて分散剤、バインダー等を添加し、2ポイズ以上4ポイズ以下に粘度調整することが好ましい。この際、バインダーとしてポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンを用いることができる。
【0088】
上記のように調整されたスラリーを、スプレードライヤーを用いてスラリーを噴霧し、乾燥させることで造粒物を得る。この際、造粒条件としては、吐出量を20Hz以上50Hz以下、アトマイザーディスク回転数を11000rpm以上20000rpm以下、乾燥温度を100℃以上500℃以下の範囲とすることが好ましい。例えば、上記見掛密度が上記範囲内のフェライト粒子を得るには、アトマイザーディスク回転数を11000rpm以上16000rpm以下、乾燥温度を150℃以上300℃以下とすることが好ましい。
【0089】
次に、上記造粒物を焼成する前に分級し、当該造粒物に含まれる微細粒子を除去することが粒度の揃ったフェライト粉を得る上で好ましい。造粒物の分級は、既知の気流分級や篩等を用いて行うことができる。
【0090】
次に、分級された造粒物を焼成する。造粒物は必要に応じて一次焼成した後に、本焼成を行うことが好ましい。一次焼成を行う場合、その焼成温度は600℃以上900℃以下にすることが好ましい。
【0091】
また、本焼成は、不活性雰囲気又は弱酸化性雰囲気下で、850℃以上の温度で4時間以上24時間以下保持することにより、行うことが好ましい。但し、本焼成温度は、本件発明に係るフェライト粒子が得られる限り、特に限定されるものではない。ここで、不活性雰囲気又は弱酸化性雰囲気下とは、窒素と酸素の混合ガス雰囲気下において酸素濃度が0.1体積%(1000ppm)以上5体積%(50000ppm)以下であることをいい、雰囲気酸素濃度が0.1体積%(1000ppm)以上3.5体積%(35000ppm)以下であることがより好ましく、0.1体積%(1000ppm)以上2.5体積%(25000ppm)以下であることがさらに好ましく、0.1体積%(1000ppm)以上1.5体積%(25000ppm)以下であることが一層好ましく、0.1体積%(1000ppm)以上1.0体積%(25000ppm)以下であることがより一層好ましい。
【0092】
さらに、上記所定粒子の含有率が本件発明の範囲内のフェライト粒子を得る上で、本焼成温度に至るまでの昇温速度は30℃/時以上100℃/以下とすることが好ましく、40℃/時以上90℃/時以下とすることがより好ましく、50℃/時以上85℃/時以下とすることがさらに好ましい。
【0093】
例えば、(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)z(但し、15≦x≦50、2≦y≦35、45≦z≦60、x+y+z=100(mol%))の組成式で表されるスピネル型結晶相成分を主組成とするフェライト粒子を製造するには、スピネル型結晶からなるフェライト成分を十分に生成させつつ、粒界にジルコニウム成分を分散させるためにスピネル型結晶からなるフェライト成分の生成に適した温度(850℃以上1150℃以下)で3時間以上保持し、その後、例えば、ジルコン酸ストロンチウムなどのRZrO3の組成式で表されるペロブスカイト型結晶相成分を生成させるために適した温度(例えば、1150℃以上1500℃以下)で1時間以上保持することにより本焼成を行うことがより好ましい。また、その際、アルカリ土類金属元素(R)の種類と、ZrO2の配合量に応じて、焼成温度、焼成時間、焼成時の雰囲気酸素濃度を適宜制御することで、BET比表面積を本件発明の範囲内にすることができる。
【0094】
例えば、ジルコン酸ストロンチウム(SrZrO3)の場合、ペロブスカイト型結晶相成分を十分に生成させつつ、見掛密度を本件発明の範囲内とするには、焼成温度を好ましくは1170℃以上1400℃以下、より好ましくは1180℃以上1350℃以下、さらに好ましくは1200℃以上1330℃以下の温度で1時間以上保持することが好ましい。この場合、酸化ジルコニウム(ZrO2)の配合量を0.05mol~3.00molとすることが好ましい。
【0095】
また、例えば、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)やジルコン酸バリウム(BaZrO3)の場合、原料を微粉砕すると共に反応促進剤を添加した上で所定の温度下で焼成することが好ましい。ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)やジルコン酸バリウム(BaZrO3)のペロブスカイト型結晶相成分を生成させるには、反応促進剤を添加しない場合には、2000℃以上の高温で焼成する必要がある。一方、原料を数十ナノメートル程度の一次粒径まで微粉砕し、反応促進剤としてアルミニウム化合物(例えば、アルミナ(Al2O3)等)等を添加することで、1500℃以下の温度でもこれらのペロブスカイト型結晶相成分を生成させることができる。このように目的とする組成に応じて、ペロブスカイト型結晶相成分を生成する上で適した温度で保持すると共に、必要に応じてその他の条件を調整することで本件発明に係るフェライト粒子を得ることができる。
【0096】
なお、本焼成を行う際は、ロータリーキルンのように、造粒物(被焼成物)を流動させながら熱間部を通過させるような形式の焼成炉よりも、トンネルキルン或いはエレベータキルン等のように造粒物をコウ鉢等に入れて静置した状態で熱間を通過させるような形式の焼成炉で行うことが好ましい。ロータリーキルン等のように造粒物を流動させながら熱間部を通過させる形式の焼成炉では、焼成雰囲気の酸素濃度が低いと、造粒物が熱間部を通過する際に炉の内面に付着し、その内側を流動しながら通過する造粒物に十分に熱を加えることができない場合がある。その場合、造粒物を十分に焼結することができないまま、造粒物が熱間部を通過するため、得られた焼成物は表面の焼結は十分に行われていても、内部の焼結が不十分であることが多い。そのような焼成物は電子写真現像剤用キャリア芯材として要求される強度を満たさない他、内部におけるフェライト反応が不十分であるため、電子写真現像剤用キャリア芯材として要求される磁気特性及び電気特性を満たさない場合がある。さらに、焼成物の内部の焼結が不十分である場合、焼成工程においてRZrO3の組成式で表されるペロブスカイト型結晶相成分を十分に生成させることができない。そのため、本件発明に係るフェライト粒子を得ることが困難になる。
【0097】
一方、造粒物をコウ鉢等に入れて静置した状態で熱間部を通過させる形式の焼成炉で造粒物を焼成すれば、被焼成物の内部を十分に焼結させることができるため、高磁化及び高抵抗であり、且つ、RZrO3の組成式で表されるペロブスカイト型結晶相成分が十分に生成されたフェライト粒子を得ることが容易になる。これらの理由から、本焼成工程を行う際には、トンネルキルン、エレベータキルン等を用いることが好ましい。
【0098】
その後、焼成物を解砕、分級を行ってフェライト粒子を得る。分級方法としては、既存の風力分級、メッシュ濾過法、沈降法等を用いて所望の粒子径に粒度調整する。乾式回収を行う場合は、サイクロン等で回収することも可能である。粒度調整を行う際は前述の分級方法を2種類以上選んで実施してもよく、1種類の分級方法で条件を変更して粗粉側粒子と微粉側粒子を除去してもよい。
【0099】
その後、必要に応じて、フェライト粒子の表面を低温加熱することで表面酸化処理を施し、フェライト粒子の表面抵抗を調整することができる。表面酸化処理は、ロータリー式電気炉、バッチ式電気炉等を用い、大気等の酸素含有雰囲気下で、400℃以上730℃以下、好ましくは450℃以上650℃以下でフェライト粒子に熱処理を施すことにより行うことができる。表面酸化処理時の加熱温度が400℃よりも低い場合は、フェライト粒子表面を十分に酸化することができず、所望の表面抵抗特性が得られない場合がある。一方、加熱温度が730℃よりも高い場合、マンガン含有フェライトでは、マンガンの酸化が進みすぎ、フェライト粒子の磁化が低下するため好ましくない。フェライト粒子の表面に均一に酸化被膜を形成するには、ロータリー式電気炉を用いることが好ましい。但し、当該表面酸化処理は任意の工程である。
【0100】
4-2.電子写真現像剤用キャリア
本件発明に係る電子写真現像剤用キャリアは、上記フェライト粒子を芯材とし、当該フェライト粒子の表面に樹脂被覆層を設けたものである。樹脂被覆層を構成する樹脂は上述したとおりである。フェライト粒子の表面に樹脂被覆層を形成する際には、公知の方法、例えば刷毛塗り法、流動床によるスプレードライ法、ロータリドライ方式、万能攪拌機による液浸乾燥法等を採用することができる。フェライト粒子の表面に対する樹脂の被覆面積の割合(樹脂被覆率)を向上させるためには、流動床によるスプレードライ法を採用することが好ましい。いずれの方法を採用する場合であっても、フェライト粒子に対して、1回又は複数回樹脂被覆処理を行うことができる。樹脂被覆層を形成する際に用いる樹脂被覆液には、上記添加剤を含んでいてもよい。また、フェライト粒子表面における樹脂被覆量は上述したとおりであるため、ここでは説明を省略する。
【0101】
フェライト粒子の表面に樹脂被覆液を塗布した後、必要に応じて、外部加熱方式又は内部加熱方式により焼き付けを行ってもよい。外部加熱方式では、固定式又は流動式の電気炉、ロータリー式電気炉、バーナー炉などを用いることができる。内部加熱方式では、マイクロウェーブ炉を用いることができる。被覆樹脂にUV硬化樹脂を用いる場合は、UV加熱器を用いる。焼き付けは、被覆樹脂の融点又はガラス転移点以上の温度で行うことが求められる。被覆樹脂として、熱硬化性樹脂又は縮合架橋型樹脂等を用いる場合は、これらの樹脂の硬化が十分進む温度で焼き付ける必要がある。
【0102】
4-3.電子写真現像剤
次に、本発明に係る電子写真現像剤の製造方法について説明する。
本発明に係る電子写真現像剤は、上記電子写真現像剤用キャリアとトナーとを含む。トナーは上述したとおり、重合トナー及び粉砕トナーのいずれも好ましく用いることができる。
【0103】
重合トナーは、懸濁重合法、乳化重合法、乳化凝集法、エステル伸長重合法、相転乳化法等の公知の方法で製造することができる。例えば、界面活性剤を用いて着色剤を水中に分散させた着色分散液と、重合性単量体、界面活性剤及び重合開始剤を水性媒体中で混合撹拌し、重合性単量体を水性媒体中に乳化分散させて、撹拌、混合しながら重合させた後、塩析剤を加えて重合体粒子を塩析させる。塩析によって得られた粒子を、濾過、洗浄、乾燥させることにより、重合トナーを得ることができる。その後、必要により乾燥されたトナー粒子に外添剤を添加してもよい。
【0104】
さらに、この重合トナー粒子を製造するに際しては、重合性単量体、界面活性剤、重合開始剤、着色剤等を含むトナー組成物を用いる。当該トナー組成物には、定着性改良剤、帯電制御剤を配合することができる。
【0105】
粉砕トナーは、例えば、バインダー樹脂、着色剤、帯電制御剤等を、例えばヘンシェルミキサー等の混合機で充分混合し、次いで二軸押出機等で溶融混練して均一分散し、冷却後に、ジェットミル等により微粉砕化し、分級後、例えば風力分級機等により分級して所望の粒径のトナーを得ることができる。必要に応じて、ワックス、磁性粉、粘度調節剤、その他の添加剤を含有させてもよい。さらに分級後に外添剤を添加することもできる。
【0106】
次に、実施例および比較例を示して本件発明を具体的に説明する。但し、本件発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0107】
(1)フェライト粒子
実施例1では、(MnO)x(MgO)y(Fe2O3)zの組成式で表されるスピネル型結晶相成分を主成分とし、SrZrO3の組成式(R=Sr)で表されるペロブスカイト型結晶相成分を含むフェライト粒子を次のようにして製造した。まず、主成分原料として、モル比でMnO換算:38.3、MgO換算:10.4、Fe2O3:51.3となるように、MnO原料、MgO原料及びFe2O3原料をそれぞれ秤量した。また、モル比で主成分原料:100に対してSrO:0.8になるようにSrO原料を秤量した。ここで、MnO原料としては四酸化三マンガン、MgO原料としては酸化マグネシウム、Fe2O3原料として酸化第二鉄、SrO原料としては炭酸ストロンチウムをそれぞれ用いた。
【0108】
次いで、秤量した原料を乾式のメディアミル(振動ミル、1/8インチ径のステンレスビーズ)で5時間粉砕し、得られた粉砕物をローラーコンパクターにより約1mm角のペレットにした。得られたペレットを目開き3mmの振動篩により粗粉を除去し、次いで、目開き0.5mmの振動篩により微粉を除去した後、連続式電気炉で800℃で3時間加熱し、仮焼成を行った。次いで、乾式のメディアミル(振動ミル、1/8インチ径のステンレスビーズ)を用いて、平均粒径が約5μmになるまで粉砕した。このとき粉砕時間は6時間とした。
【0109】
得られた粉砕物に、水と、ZrO2原料としてのBET比表面積が30m2/g、平均粒径が2μmの二酸化ジルコニウムを加え、湿式のメディアミル(横型ビーズミル、1mm径のジルコニアビーズ)を用いて6時間粉砕した。このとき、モル比で上記主成分原料:100に対してZrO2:1.0になるように、粉砕物に二酸化ジルコニウムを加えた。得られたスラリーの粒径(粉砕の一次粒子径)をレーザ回折式粒度分布測定装置(LA-950、株式会社堀場製作所)で測定したところ、D50は0.9μmであった。
【0110】
さらに、上記のようにして調製したスラリーに分散剤を適量添加し、バインダーとしてPVA(ポリビニルアルコール)を固形分(スラリー中の仮焼成物量)に対して0.4質量%添加し、次いでスプレードライヤーにより造粒、乾燥した。得られた造粒物の粒度調整を行い、その後、ロータリー式電気炉を用い、大気雰囲気下で800℃、2時間加熱し、分散剤やバインダーといった有機成分の除去を行った。
【0111】
その後、トンネル式電気炉により、焼成温度(保持温度)1230℃、酸素濃度0.3体積%雰囲気下で3時間保持することにより造粒物の本焼成を行った。このとき、昇温速度を50℃/時、冷却速度を110℃/時とした。得られた焼成物をハンマークラッシャーにより解砕し、さらにジャイロシフター(振動篩機)及びターボクラシファイア(気流分級機)により分級して粒度調整を行い、磁力選鉱により低磁力品を分別し、フェライト粒子を得た。
【0112】
得られたフェライト粒子を、熱間部と、当該熱間部に後続する冷却部とを備えるロータリー式の電気炉により表面酸化処理を行い、続いて冷却することにより、表面酸化処理が施されたフェライト粒子を得た。表面酸化処理では、熱間部では大気雰囲気下、450℃でフェライト粒子の表面に酸化被膜を形成した。実施例1のフェライト粒子の主たる製造条件を表1に示す。
【0113】
(2)電子写真現像剤用キャリア
上記フェライト粒子を芯材とし、当該フェライト粒子に対して、以下のようにアクリル樹脂を被覆して、実施例1のキャリアを得た。
【0114】
まず、アクリル樹脂(ダイヤナールLR-269、三菱レイヨン株式会社製)とトルエンとを混合したアクリル樹脂溶液(樹脂固形分10質量%)を調製した。この樹脂溶液と上記実施例1のフェライト粒子とを万能撹拌機によって混合することによりフェライト粒子の表面を当該樹脂溶液で被覆した。その際、フェライト粒子に対して樹脂固形分が1.5質量%となる量の樹脂溶液を用いた。続いて、樹脂溶液が付着したフェライト粒子を熱交換型撹拌加熱装置を用い、145℃で3時間撹拌しながら加熱し、樹脂溶液に含まれる揮発成分を揮発させてフェライト粒子を乾燥させた。これにより、フェライト粒子の表面に樹脂被覆層を備える実施例1の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0115】
(3)電子写真現像剤
上記電子写真現像剤用キャリアとトナーとをターブラミキサーを用いて30分間撹拌して混合し、1kgの現像剤(トナー濃度7.5重量%)を得た。ここで、トナーはフルカラープリンターに使用されている市販の負極性トナー(シアントナー、富士ゼロックス株式会社製DocuPrintC3530用;平均粒径約5.8μm)を用いた。