(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036471
(43)【公開日】2022-03-08
(54)【発明の名称】マルチ可変サイズ整形ビーム描画装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20220301BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20220301BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20220301BHJP
H01J 37/09 20060101ALI20220301BHJP
H01J 37/147 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
H01L21/30 541D
H01L21/30 541W
H01L21/30 541Q
G03F7/20 504
H01J37/305 B
H01J37/09 A
H01J37/147 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020140694
(22)【出願日】2020-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】311003259
【氏名又は名称】株式会社PARAM
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 洋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】大饗 義久
(72)【発明者】
【氏名】柴岡 達哉
【テーマコード(参考)】
5C033
5C034
5F056
【Fターム(参考)】
5C033BB02
5C033BB03
5C033GG01
5C034BB03
5C034BB04
5C034BB10
5F056AA04
5F056AA07
5F056AA27
5F056CB05
5F056CB09
5F056CC01
5F056CC14
5F056EA02
5F056EA03
5F056EA04
5F056EA05
5F056EA06
(57)【要約】
【課題】高精度かつ高スループットで描画が行えるマルチ可変サイズ整形ビーム描画装置を提供する。
【解決手段】第1アパーチャ基板20と、第2アパーチャ基板26と、第2アパーチャ基板26からの複数の可変サイズ整形ビームを個別に偏向する位置決め偏向器アレイ30,34と、第1アパーチャ基板から第2アパーチャ基板までの空間にビームの直進方向をZとするときZ方向に均一な磁界を形成する均一磁界形成コイル54を含む。第1アパーチャ基板20からの第1整形ビームは均一磁界によりその中心軸が他の第1整形ビームの中心軸と交わることなく、第1整形ビームが均一磁界によって、再び第2アパーチャ基板26上に収束結像され照射されて複数の可変サイズ整形ビームが得られ、第2アパーチャ基板26からの複数の可変サイズ整形ビームが位置決め偏向器アレイで位置決めされて対象物に照射される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大きさを変更できるビーム形状の複数の電子ビームを用いる、マルチ可変サイズ整形ビーム描画装置であって、
前記電子ビームを放出する電子銃と、
複数の第1アパーチャ開口を有し、前記電子銃からの前記電子ビームを各第1アパーチャ開口に通過させることで限定し、複数の第1整形ビームを形成する第1アパーチャ基板と、
前記第1アパーチャ基板からの複数の第1整形ビームを個別に偏向する整形偏向器アレイと、
複数の第2アパーチャ開口を有し、前記整形偏向器アレイからの複数の第1整形ビームを各第2アパーチャ開口に通過させることで限定し、複数の可変サイズ整形ビームを形成する第2アパーチャ基板と、
前記第2アパーチャ基板からの複数の可変サイズ整形ビームを個別に偏向する位置決め偏向器アレイと、
前記第1アパーチャ基板から前記第2アパーチャ基板までの空間に均一磁界を形成する均一磁界形成部と、
を含み、
前記第1アパーチャ基板からの第1整形ビームは前記均一磁界によりその中心軸が他の第1整形ビームの中心軸と交わることなく、第1整形ビームが第1アパーチャ基板通過直後に前進しつつ広がっていく軌道が前記均一磁界によって、再び前記第2アパーチャ基板上に収束し、結像され照射されて複数の可変サイズ整形ビームが得られ、前記第2アパーチャ基板からの複数の可変サイズ整形ビームが前記位置決め偏向器アレイで位置決めされて対象物に照射される、
マルチ可変サイズ整形ビーム描画装置。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチ可変サイズ整形ビーム描画装置であって、
前記整形偏向器アレイは、
前記第1アパーチャ基板からの各第1整形ビームを個別に通過させるとともに個別に偏向させる複数の偏向用開口を有する第1整形偏向器アレイと、
前記第1整形偏向器アレイを通過した各第1整形ビームを個別に通過させるとともに個別に偏向させる複数の偏向用開口を有する第2整形偏向器アレイと、
を有し、
前記第1アパーチャ基板からの前記第1整形ビームを前記第2アパーチャ基板の所定の位置に所定の方向に入射させる、
マルチ可変サイズ整形ビーム描画装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマルチ可変サイズ整形ビーム描画装置であって、
前記位置決め偏向器は、
前記第2アパーチャ基板からの各可変サイズ整形ビームを個別に通過させるとともに個別に偏向させる複数の偏向用開口を有する第1位置決め偏向器アレイと、
各可変サイズ整形ビームを個別に通過させるとともに個別に偏向させる複数の偏向用開口を有する第2位置決め偏向器アレイと、
を有し、
前記第2アパーチャ基板からの可変サイズ整形ビームを前記対象物に所定の位置に所定の方向に入射させることを特徴とする、
マルチ可変サイズ整形ビーム描画装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載のマルチ可変サイズ整形ビーム描画装置であって、
前記均一磁界形成部は、
前記第1アパーチャ基板から前記位置決め偏向器アレイまでの空間に均一が磁界を形成する、
マルチ可変サイズ整形ビーム描画装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つに記載のマルチ可変サイズ整形ビーム描画装置であって、
前記位置決め偏向器アレイは、
前記第2アパーチャ基板からの各可変サイズ整形ビームを個別に通過させるとともに個別に偏向させる複数の偏向用開口を有する第1位置決め偏向器アレイと、
前記第1位置決め偏向器アレイからの各可変サイズ整形ビームを個別に通過させたり個別に偏向させたりしてブランキング制御する複数の偏向用開口を有する個別ブランカアレイと、
前記個別ブランカアレイを通過した各可変サイズ整形ビームを個別に通過させるとともに個別に偏向させる複数の偏向用開口を有する第2位置決め偏向器アレイと、
を有し、
前記第2アパーチャ基板からの可変サイズ整形ビームを前記対象物に所定の位置に所定の方向に入射させることを特徴とする。
とともに、選択された可変サイズ整形ビームについて個別にブランキングを制御する、
マルチ可変サイズ整形ビーム描画装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大きさを変更できるビーム形状の複数の電子ビームを用いる、マルチ可変サイズ整形ビーム描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子ビームを用いた電子ビーム描画装置として、電子ビームの形状を変更可能な可変整形ビーム(VSB:Variable Shaped Beam)を用いるものが知られている。また、この可変整形ビームを複数本用いて、スループットを改善するマルチ可変サイズ整形ビーム(MVSB:Multi Variable Shaped Beam)を用いる提案もある。
【0003】
これらの提案では、1つの矩形アパーチャアレイで複数の矩形電子ビームに分割し、得らえた矩形電子ビームについて収束した後個別に偏向し、次の矩形アパーチャアレイを通過させることで、2つのアパーチャアレイのアパーチャに個別に限定された矩形電子ビームを得、これをウェハなどの露光対象物に収束させて描画する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-15428号公報
【特許文献2】特開2010-153858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、2つのアパーチャを利用して1つ目で分割整形電子ビームを、2つ目でさらに限定し整形された分割電子ビームを所定の位置に照射するには、分割電子ビームの経路におかれる複数の磁界レンズによって分割電子ビームの収束を繰り返して経路を正確に制御する必要がある。
【0006】
しかし、複数の磁界レンズによって、分割電子ビームを収束させて後段に導くと、クーロン効果(クーロン反発)によってボケが発生するなどして、分割ビームの全ビームの相対的ビームボケの差異が大きくビーム解像度が著しく劣化し、全部のビームの相対的位置精度が著しく劣化しビーム位置制御が難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、大きさを変更できるビーム形状の複数の電子ビームを用いる、マルチ可変サイズ整形ビーム描画装置であって、
前記電子ビームを放出する電子銃と、
複数の第1アパーチャ開口を有し、前記電子銃からの前記電子ビームを各第1アパーチャ開口に通過させることで限定し、複数の第1整形ビームを形成する第1アパーチャ基板と、
前記第1アパーチャ基板からの複数の第1整形ビームを個別に偏向する整形偏向器アレイと、
複数の第2アパーチャ開口を有し、前記整形偏向器アレイからの複数の第1整形ビームを各第2アパーチャ開口に通過させることで限定し、複数の可変サイズ整形ビームを形成する第2アパーチャ基板と、
前記第2アパーチャ基板からの複数の可変サイズ整形ビームを個別に偏向する位置決め偏向器アレイと、
前記第1アパーチャ基板から前記第2アパーチャ基板までの空間に均一磁界を形成する均一磁界形成部と、
を含み、
前記第1アパーチャ基板からの第1整形ビームは前記均一磁界によりその中心軸が他の第1整形ビームの中心軸と交わることなく、第1整形ビームが第1アパーチャ基板通過直後に前進しつつ広がっていく軌道が前記均一磁界によって、再び前記第2アパーチャ基板上に収束し、結像され照射されて複数の可変サイズ整形ビームが得られ、前記第2アパーチャ基板からの複数の可変サイズ整形ビームが前記位置決め偏向器アレイで位置決めされて対象物に照射される。
【0008】
前記整形偏向器アレイは、前記第1アパーチャ基板からの各第1整形ビームを個別に通過させるとともに個別に偏向させる複数の偏向用開口を有する第1整形偏向器アレイと、前記第1整形偏向器アレイを通過した各第1整形ビームを個別に通過させるとともに個別に偏向させる複数の偏向用開口を有する第2整形偏向器アレイを有し、前記第1アパーチャ基板からの前記第1整形ビームを前記第2アパーチャ基板の所定の位置に所定の方向に入射させるとよい。
【0009】
前記位置決め偏向器アレイは、前記第2アパーチャ基板からの各可変サイズ整形ビームを個別に通過させるとともに個別に偏向させる複数の偏向用開口を有する第1位置決め偏向器アレイと、前記第1位置決め偏向器アレイからの各可変サイズ整形ビームを個別に通過させたり個別に偏向させたりしてブランキング制御する複数の偏向用開口を有する個別ブランカと、前記個別ブランカを通過した各可変サイズ整形ビームを個別に通過させるとともに個別に偏向させる複数の偏向用開口を有する第2位置決め偏向器アレイと、を有し、前記第2アパーチャ基板からの可変サイズ整形ビームを前記対象物に所定の位置に所定の方向に入射させるとともに、選択された可変サイズ整形ビームについて個別にブランキングを制御するとよい。
【0010】
第1と第2位置決め偏向器アレイの間に個別ブランカアレイを設置することを上記に書いたが個別ブランカアレイの位置は第1と第2位置決め偏向器アレイよりもZ軸方向に前方の位置に設置しても良い。また、個別ブランカアレイ位置は第1と第2位置決め偏向器アレイよりもZ軸方向の後方の位置に設置しても良い。
【0011】
前記均一磁界形成部は、前記第1アパーチャ基板から前記位置決め偏向器アレイまでの空間に均一な磁界を形成するとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、マルチ可変サイズ整形電子ビームを高解像度で、露光対象物に照射することができ、スループットを大幅に向上することができる。従来は半導体プロセスを微細化する際に電子ビームを使用するという選択肢はなかったが、本発明によって数千から数万個の可変サイズ整形ビームを使用することによりスループットが数千倍以上高速化するので、10nm以下及び5nmから1nmという超微細な半導体装置を電子ビームを使って描画することが可能になる。これは公知例において同一の目的は示されていたが、複数の離散的レンズを例えば2個のレンズで第1アパーチャの像を第2の矩形アパーチャの上に結像するという実現方法が大きな欠点を持っていた。その欠点とは全てのビームが第1アパーチャと第2アパーチャの間で交差することによって交差点で非常に強いクーロン反発力を受けビーム軌道がボケたり所定の結像位置からXY方向に大きくシフトして制御が難しかった。また、2段の整形偏向器アレイと2段の位置決め偏向器アレイの開口の間隔が全て異なり偏向器アレイを製作するのが全ての段で異なり、偏向器アレイの製作が困難であった。また、コラム内部での各段の偏向器アレイの設置位置が上下方向にわずかにずれても目的を達成しないためコラムの製作が非常に困難であった。本発明では均一磁界を用いて全てのマルチ可変サイズ整形ビームが平行な軌道を描くのでマルチビーム同士が交差せずまた、各段の偏向器アレイのビーム通過が直進できるという利点によってマルチ可変サイズ整形ビームのコラムの製作が現実的に可能となった。
【0013】
上記の利点によって微細パターンを高スループットで描画でき、装置の価格を低減し半導体製造分野での使用用途を拡大することができる。これは人工知能AI用半導体及び、ニューロン模倣型の神経模倣回路を形成し、電子頭脳技術を高度化することができる。このことでロボットの知能向上、パターン認識技術の向上、言語翻訳技術の向上、自動運転技術の知能向上などにより高度IT化社会の根源となる半導体製造技術を従来の10倍から千倍の大規模産業として発展させることができる。さらに近年スマートフォンやスマートウォッチまたは眼鏡や人体の各部に装着する各種ウェアラブルデバイスの微細化技術として大きな生産手段となる。さらに非半導体の神経回路機能を微細に創出する試みもあり、これも巨大な産業の育成拠点となる。このように本発明が半導体産業を革新的に展伸させることができ、国家と世界の基盤を根底から向上させる産業構造革新化技術となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係るマルチ可変サイズ整形ビーム描画装置のコラムの全体構成を示す説明図である。
【
図3】第1アパーチャ基板20および第2アパーチャ基板26の開口、それによって制御された可変サイズ整形ビームの形状と、XY平面で位置をずらして描画することを示す図である。
図3aは第1アパーチャと第2アパーチャの開口の重なり具合を示し、整形偏向器アレイによって可変サイズ整形ビームの縦横寸法が自由に変化でき、さらに第2アパーチャ基板を通過したビームを個別に任意の位置に露光対象物50上で40nm□内で自由な位置に偏向できることを示す図である。
図3bはマルチ可変サイズ整形ビームを形成し、全ての個別ビームのサイズを独立に変化させることを示す図である。
図3cは
図3bで形成したマルチ可変サイズ整形ビームを露光対象物上で各ビームの格子点から40nm□範囲内で自由な位置に偏向し任意のパターンデータに従った描画が忠実にできることを示す図である。
【
図4】第1アパーチャ基板20および第2アパーチャ基板26における、開口の形状例と第1アパーチャ基板20を通過したビームが第2アパーチャ基板26の開口上へ収束結像し、位置を偏向することによって第2アパーチャ基板26を通過したビームが可変サイズ整形ビームとなることを示す図である。
【
図5】電子銃から出た電子ビームが第1アパーチャ基板20に入射し、第1整形ビームを形成するまでの過程を示す図である。
【
図6】偏向器アレイ基板60の構成例を示す図である。第1位置決め偏向器アレイと個別ブランカアレイと第2位置決め偏向器アレイも8極の極数を変更することがあっても同様の構成で形成できる。
【
図7】本発明であるマルチ可変サイズ整形ビームの描画方法について示した図である。
【
図8】露光対象物50へマルチ可変サイズ整形ビームを照射するための電子レンズ44とビームを偏向するための第1静電8極偏向器45、46とステージ51とレーザー干渉計の関係を示す図である。
【
図9】300mmΦウェハをY軸方向に連続的にステージ51を移動しつつ第1静電8極偏向器45、46で小矩形領域(200~500μm□)内を位置決め偏向し、マルチ可変サイズ整形ビームを用いてフレーム81を描画し、フレーム描画終了時に隣接するフレーム82にステージが折り返し移動する93ことを示す図である。
【
図10】フレーム偏向幅が0.1mm、0.2mm、0.3mm、0.4mm、0.5mmである場合にステージの±Y方向への走査回数と総移動距離とフレーム内部のステージ移動速度と一回当たりのステージ反転時間と総反転時間を示す図である。ただし、折り返しステージの折り返し加速度は0.1G、980mm/sec
2である。
【
図11】可変サイズ整形ビームのコラムを複数本XY方向に並列させてマルチコラムを構成し300mmΦウェハを32本のコラムで描画し24枚/時の高スループットで描画することを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。なお、本発明は、ここに記載される実施形態に限定されるものではない。
【0016】
「全体構成」
図1は、本実施形態に係るマルチ可変サイズ整形ビーム描画装置のコラムの全体構成を示す説明図である。
【0017】
電子銃10は、電子エミッター(電子放出源)としての陰極10aと、Z方向(前方)に配置された陽極10bを有する。陰極10aは加熱されており、陰極10a、陽極10b間には直流電圧(例えば、5kV程度)が印加されている。陽極10bは、その中心に開口を有し、陰極10aから放出された電子ビームが、陽極10bの開口を通過してZ方向に放出される。電子ビームは陰極10aの先端から放出され、陽極10bを通過した後全体として半径方向に広がりながらZ方向に進む。
【0018】
前方には、コリメートレンズ16が配置されており、広がりながら進んでくる電子ビームを平行な円筒状の電子ビームにする。コリメートレンズ16の前方には、第1アパーチャ基板20が配置されている。陰極10aが-50kV、陽極10b,第1アパーチャ基板20が-45kV程度に電圧印加されている。なお、加速器18の後部以降は、0kVに維持されることが好適である。磁性体を用いて作るコリメートレンズ16はアース電位を印加するので、電子銃からの電子が通過する部分と第1アパーチャ基板20と加速器18などとの間で放電する危険性がある。これを避けるために高電圧部分と磁性体のコリメートレンズ16の距離が放電しない大きさであるように、コリメートレンズ16の円形開口を10mmΦから20mmΦ以上とする必要がある。一方電子ビームの第1アパーチャ基板20照射領域が約2.5mm□であるので、ここが-45kVであってもレンズ16との間には放電しないような対策があってもよい。そのためにアルミナセラミック円筒等をレンズ16の円形開口の中に設置することが好適である。また、上記の放電を避けるための工夫はコリメートレンズ16の電位をアース以外に設置するなど種々の設計変更によって実施されることが好適である。
【0019】
第1アパーチャ基板20には、矩形開口である第1アパーチャ開口が正方格子状に配置されている。例えば、16行×16列、32行×32列、64行×64列などの第1アパーチャ開口が設けられる。加速器18からの円筒状の電子ビームは、第1アパーチャ基板20の第1アパーチャ開口によって限定され、対応した複数の第1整形ビームに分割される。なお第1アパーチャ開口の大きさは8μm□、あるいは16μm□、あるいは32μm□程度である。開口の格子のピッチは開口サイズの5倍程度が好適である。
【0020】
前提として露光対象物50への電子ビームの加速電圧を最終的に50kVとする場合について述べる。電子銃からの電子をいきなり50kVに加速して第1アパーチャ基板20に照射すると例えば100mA×50kV=5KWの発熱を与えると第1アパーチャ基板20が容易に熔解してしまう。この状況は避けねばならない。そこで、第1アパーチャ基板20の前方側に隣接して、加速器18が設けられ、ここで所定の電界によって電子ビームの速度(電子の移動速度)が全体として所望の速度に加速される。これによって第1アパーチャ基板20への照射電子が5kVに抑えることができる。即ち第1アパーチャ基板20の電位をマイナス45kVとし、第1アパーチャ基板20を100mA×5kW=500Wの低発熱に抑えて第1アパーチャ基板の熔解を抑制する。第1アパーチャ基板を通過した後に50kVに加速することで第1アパーチャ基板20の熔解を防ぎつつ加速電界通過後の電子ビームを50kVに加速することができる。もちろん第1アパーチャ基板20の冷却は水冷などによる冷却が必要である。
【0021】
第1アパーチャ基板を通過するビームの角度広がりをαとする。5kVを50kVに加速することでZ方向の速度は電圧比の平方根に比例するので√10=3.162で3.162倍に加速される。なお、XY方向の速度は加速されないために第1アパーチャ基板20を通過するビームの角度広がりはα/3.162 = 0.3162αとなり、加速電界を出る時には開き角は約1/3になる。なお、加速電界は均一磁界中にあり、加速電界自身の電位勾配もXY面内で全く均一である必要があって、加速電界10mmから20mmの長さを3枚から6枚の円板電極の電位を適正に調整することにより、均一な加速電界を形成することが好適である。
【0022】
加速器18のビームの進行方向には、第1整形偏向器アレイ22が近接して配置されている。この第1整形偏向器アレイ22は、第1アパーチャ基板20の第1アパーチャ開口を通過することで分割された複数の第1整形ビームがそれぞれ通過する開口を有している。そして、各開口の周囲には開口内に所定の電界を形成する電極が形成されており、開口を通過する第1整形ビームは開口を通過する際に所定方向に所定量だけ個別に偏向される。本実施形態では、開口の周囲に、8つの電極が設けられており、これら8つの電極の電位制御によって開口に所定の静電界が形成され通過する各第1整形ビームが個別に偏向制御される。
【0023】
第1整形偏向器アレイ22を通過した第1整形ビームは、次に第2整形偏向器アレイ24を通過する。ここで、第1整形偏向器アレイ22および第2整形偏向器アレイ24が存在する空間には均一磁界が形成されている。第1整形偏向器アレイ22を通過した第1整形ビームは広がりかけるが、均一磁界によって収束され、第1整形偏向器アレイ22を通過したのとほぼ同等の大きさ(径)の電子ビーム径に収束して、その進行方向が制御された第1整形ビーム(電子ビーム)として第2整形偏向器アレイ24に至る。
【0024】
第2整形偏向器アレイ24は、第1整形偏向器アレイ22と同様の構成を有しており、静電8極電極の開口を第1整形偏向器アレイ22の開口に対応した位置に有する。従って、第2整形偏向器アレイ24によって、第1整形ビームの進行方向が制御される。これらの第1および第2整形偏向器アレイ22、24を通過する際にアパーチャ入射時に開き角αないし0.3αなどの開き角を持ったビームが偏向器のZ方向の位置に対してさらに広がるが、8極偏向器の偏向電界の中心付近を通過して均一な偏向動作を受ける必要がある。ましてやビームが8極偏向器の極板に当たったり、掠めたり不均一電界の位置を通過することは許容されない。
【0025】
第2整形偏向器アレイ24の前方には、第2アパーチャ基板26が配置されている。この第2アパーチャ基板26は、第2アパーチャ開口を有する。そして、第2整形偏向器アレイ24からの所定の進行方向の第1整形ビームがここを通過することによって、さらに個別に整形され、可変サイズ整形ビームとして通過する。例えば、第1アパーチャ開口と第2アパーチャ開口が同一の形状であっても、位置がずれれば、2つのアパーチャ開口の重なった開口部分のみに限定された電子ビームに整形される。本実施形態では、第1整形偏向器アレイ22及び第2整形偏向器アレイ24によって、各第1整形ビームが対応する第2アパーチャ開口に入射する方向位置が制御できるので、両アパーチャ開口の重ね合わせによって個別に限定された任意の形状の可変サイズ整形ビームが第2アパーチャ基板によって得られる。特に、第1アパーチャ基板20から第2アパーチャ基板26に至る経路において、均一磁界が形成されており、各第1整形ビームは互いの中心軸が交わることなく、並進する。これによって、第1アパーチャ開口を通過した第1整形ビームは対応する第2アパーチャ開口を通過して、電子ビームの形状が制御される。
【0026】
本実施形態では、コリメートレンズ16からコンデンサレンズ36までを取り囲むようにケース52を設け、その内側に均一磁界形成部を構成する均一磁界形成コイル54を配置してある。この均一磁界形成コイル54は、円筒型のケース52の内周に沿って緩解されたドーナツ状で、適宜複数のコイルにZ方向において分割されている。
【0027】
図1の54aから54gにはコイルがあり、これら7個のコイルに適切な電流を流すことによって強磁性体材料で出来たケース52の中心軸に沿った均一な一様磁界を形成する。
【0028】
本発明の場合、磁束の流路を決めるケース52は純鉄などの強磁性体で出来ている。コリメートレンズ16とコンデンサレンズ36はビームの入射側とビームの出射側に配置されコイル54aから54gまでのレンズ共にケース内の少なくとも第1アパーチャ基板20から第2アパーチャ基板26を含んだ第2位置決め偏向器アレイ34までの空間にZ軸方向の向きのXY平面の中心軸付近に強度が均一な平行磁界を形成するように各コイル電流が制御されている。本均一磁界の目的は第1アパーチャ基板20の像を第2アパーチャ基板26の上に形成することと、偏向器アレイ22、24、34の開口が同一ピッチで形成できることと、全ての第1整形ビームの中心軸が平行な軌道を進み、互いに途中で交差することを禁止することにある。
【0029】
第2アパーチャ基板26の前方には、第1位置決め偏向器アレイ30、個別ブランカアレイ32、第2位置決め偏向器アレイ34がこの順で配置されている。これら第1位置決め偏向器アレイ30、個別ブランカアレイ32、第2位置決め偏向器アレイ34は、基本的に第1及び第2整形偏向器アレイ22,24と同様の静電8極電極の偏向器アレイであり、通過する各可変サイズ整形ビームを個別に偏向する。第1位置決め偏向器アレイ30と、第2位置決め偏向器アレイ34の2つの偏向器アレイによって、可変サイズ整形ビームの位置、方向を制御して、最終的な露光対象物におけるビーム照射位置および電流密度が制御される。また、個別ブランカアレイ32は、可変サイズ整形ビームを個別に制御して、対象となる可変サイズ整形ビームをブランキングする。ここより後段の開口を通過できないように方向を変更することで、ブランキングを個別に行う。これによって、各可変サイズ整形ビームの描画対象への照射時間を個別にコントロールすることができる。個別ブランカアレイ32を使用する最終目的は電子銃の照射電流密度分布を補償し、全マルチ可変サイズ整形ビームの照射電流を所定の値に一致させることにある。
【0030】
第2位置決め偏向器アレイ34の前方には、コンデンサレンズ36が設けられており、これによって、第2位置決め偏向器アレイ34を出た可変サイズ整形ビームが全体として収束される。また、このコンデンサレンズ36のビームの進行方向には、ビームを偏向する全体ブランカ電極40aと可変サイズ整形ビームの通過する開口を有するラウンドアパーチャ40bからなる全体ブランカ40が配置されている。この全体ブランカ40は、全ビームを偏向させて、ラウンドアパーチャ40bの通過、あるいは非通過を制御して露光対象物50への電子ビームの照射、非照射を選択することを行って電子ビーム描画を達成する。一般的に電子の照射、非照射を制御することをブランキング制御と呼ぶ。
【0031】
全体ブランカ40のビーム進行方向には、2段の縮小レンズ42,露光対象物へのレンズ44が配置されており、これによって、マルチ可変サイズ整形ビームの大きさおよび全体の広がりが縮小されて、ウェハなどの露光対象物50の所定位置に個別のビームがそれぞれ描画される。例えば、縮小レンズ42の縮小率を1/40、露光対象物への投影レンズ44の縮小率を1/5にすることで、1/200の縮小が行え、所定の精密度での描画が行われる。
【0032】
特に、第1アパーチャ基板20から第2アパーチャ基板26までの区間に均一磁界を形成することが重要であり、これによって個別の第1整形ビームをその中心軸を交差することなく並進させて、各第1整形ビームの第2アパーチャ基板26への入射位置を制御することができる。ビームが交差することを無くすことの、第1の利点は交叉時に起きるクーロン効果によるボケを顕著に減少させて、第1整形ビームを第2アパーチャ基板上に結像する複数のビームのボケを低減する。第2の利点は、交叉時に起きる第2アパーチャ上への結像位置のZ方向に垂直なXY平面内での結像位置の位置ズレと、入射角度のズレを低減できる。これらの交差時のビームボケと入射角度のズレは、露光対象物50に対して、すべてのビームを結像する場合に全てのビーム毎のボケがばらつき、解像度劣化量が著しく大きいことを大幅に低減し、改善できる。さらにすべてのビーム毎のXY平面内の結像位置ズレによる精度劣化が著しいのを極小化できる。以上により公知例に比較してマルチ可変サイズ矩形ビームの解像度劣化とビームの位置ズレによる精度劣化を著しく低減できる。
【0033】
「電子ビームの進行」
図2には、電子ビームの進行軌道を示してある。陽極10b、加速器18などは図示を省略している。電子ビームの進行方向をZ軸方向とする。Z軸と垂直な平面はXY平面とする。
【0034】
電子ビームはZ軸方向の均一磁界をZ軸からわずかに離れて飛ぶ場合に第1アパーチャ基板20の開口を通過するときに交差する一点に収束した交差点8を改めてZ=0とする。
【0035】
交差点8を通過するビームは通過前にはある大きさのビーム群であり、交差点8で1点に収束し、通過後放射状に広がっていく。その理由は第1アパーチャ基板20の開口を照射する電子銃10の電子源の大きさが有限なサイズをもっているからである。すなわち有限なサイズが円形の場合、円の一端から出る電子(陰極10aからの電子の上端11a)と円形の対向する別の端(反対の端)から出る電子(陰極10aからの電子の下端11b)が共に第1アパーチャ基板20の開口の中心の一点を通過する。第1アパーチャ基板20の位置から見て電子銃の電子発生個所の違いによる角度±α分だけ第1アパーチャ通過前及び通過後の電子は進行方向に有限の広がりをもって進行する。例えば、第1アパーチャ基板のある開口の中心を直進する電子ビーム13Cは1アパーチャ基板を通過するビームの角度広がりαだけ出射角の異なる広がったビーム13a,マイナスαだけ広がったビーム13bを付随したビーム群である。
【0036】
電子ビーム軌道はXY平面内をサイン関数またはコサイン関数でA×Sin(CZ)とB×cos(CZ)と表される軌道を描く。ここでA,B,Cは一定の定数である。約50kVの電子ビームの場合、Z = 100mm近辺の場合約0.03テスラから0.05テスラの均一磁界で、CZ=2πとなることが多い。即ち50kVで0.03テスラから0.05テスラの均一磁界で約100mmZ方向に進行することで均一磁界中を一回転し、再び一点に収束する。この点が第2アパーチャ基板26の開口に一致することが必要であり、これによって可変サイズ整形ビームができる。本発明は、均一磁界中で発散するビームが一定距離の軌道進行後、再び収束することと並行に多数の発散ビームがあるときにそれらがすべて同じ距離の軌道進行後、同じZ座標の面に同時に収束することと平行な多数のビーム群の各ビームの中心ビームは全く平行に交差することなく軌道を直進するということを全面的に利用している。
【0037】
第2アパーチャ基板を通過した後再びビーム13aと13bは直進する13cに対して±αの角度で広がった軌道を飛ぶ。これらがコンデンサレンズ36で曲げられて電子銃の像(陰極上端部からの電子の上端11a、陰極の上端部からの電子の下端11bを含む)の像をラウンドアパーチャ40b上に結像する。
【0038】
コリメートレンズ16により円筒状となった電子ビームは、第1アパーチャ基板20のアパーチャ開口によってZ方向に平行に進む複数の第1整形ビームとなる。第1整形偏向器アレイ22によって紙面内での偏向角度は正または負の値を持つθ1であり、紙面に垂直な偏向角度は正または負の値を持つΦ1だけ偏向される。図では紙面内部の偏向のみしかできないように感じられるが、偏向器は8極偏向器であるために紙面内の偏向θと紙面に垂直な方向に偏向Φの角度で偏向できる。ここでは、第1整形ビームは進行方向が変わるだけであって、その形状は第1アパーチャ基板20のアパーチャ開口と同様の矩形である。
【0039】
第1整形ビームは、第2整形偏向器アレイ24に入射し、ここで、さらに紙面内の偏向角θ2と紙面に垂直な偏向角度Φ2に向けて偏向される。この2回の偏向によって、第1整形ビームの第2アパーチャ基板26に入射する位置、方向が決定されるとともに、露光対象物50上の電子ビームの電流密度が同一のまま維持される。
【0040】
第2整形偏向器アレイ24からの第1整形ビームは、第2アパーチャ基板26に入射する。もし、第2アパーチャ基板26のアパーチャ開口が入射してくる第1整形ビームをそのまま通過させるものであれば、第2アパーチャ基板26を通過した可変サイズ整形ビームは第1整形ビームと同一サイズになる。一方、第2アパーチャ基板26のアパーチャ開口によって第1整形ビームが限定されると、第2アパーチャ基板26を通過した可変サイズ整形ビームは第1整形ビームよりX軸方向の長さとY軸方向の長さは任意に小さくできる。
【0041】
第2アパーチャ基板26を通過することで得られた可変サイズ整形ビームは、第1位置決め偏向器アレイ30により紙面内の偏向角θ3と紙面に垂直な偏向角度Φ3で偏向される。第1位置決め偏向器アレイ30からの可変サイズ整形ビームは個別ブランカアレイ32を通過した後、第2位置決め偏向器アレイ34によって紙面内の偏向角θ4と紙面に垂直な偏向角度Φ4偏向され、Z軸方向に進行する電子ビームになる。このような、第1および第2位置決め偏向器アレイ30,34の偏向によって、露光対象物50上へ結像された場合の電子ビームの位置がシフト制御されるとともに電流密度が一定に維持される。
【0042】
「電子ビーム形状」
図3について説明する。
図3aは、第1アパーチャ基板20および第2アパーチャ基板26の開口、それによって制御された可変サイズ整形ビームの形状と、XY平面で位置をずらして描画することを示す図である。電子ビームの進行方向をZ軸とする。Z軸と垂直な平面はXY平面とする。
【0043】
第1アパーチャ基板20の1つの開口301は第2アパーチャ基板の1つの開口302上に均一磁界により収束結像303する。その時に整形偏向器アレイによってビームは304の方向にシフトしている。このため、第1矩形ビームの内、第2アパーチャ基板の開口302を通過できるビームは斜線表示されたビーム305となる。このようにして可変サイズ整形ビームが形成される。さらに第1位置決め偏向器アレイと第2位置決め偏向器アレイの偏向場によりビームは位置を移動306する作用を受け307のビームとして描画される。
図3bが上記のことをマルチビームについて可変サイズ整形ビームが形成できることを示している。可変サイズ整形ビーム305は全てのビームに対して個別に独立に変化させることができる。
図3cはマルチビームについて可変サイズ整形ビームを形成した後全てのビームを個別に独立して投影結像される位置を変化することができることを示している図である。以上のようにしてマルチの可変サイズ整形ビームを用いて任意のパターンデータに従って高解像度で高スループットの描画が出来ることが示される。
【0044】
さらにマルチ可変サイズ整形ビームを全体的に縮小し、全ビームを同時に偏向することによって、露光対象物50上に第1アパーチャ基板20の像を200分の1に縮小投影することによって、微細パターンが描画できる。以上に説明したように、電子ビームの第1アパーチャ基板20および第2アパーチャ基板26のアパーチャ開口および第1整形ビームの第2アパーチャ基板26への入射位置を制御することで、任意の形状および任意の位置移動を行った可変サイズ整形ビームが得られ、露光対象物50への照射位置及び形状を制御することができる。
【0045】
図4には、第1アパーチャ基板20および第2アパーチャ基板26における、アパーチャ開口の形状例が示してある。第1アパーチャ基板20の第1アパーチャ開口21は、斜め45度に傾けた正方形と長方形を合わせ全体として矢印のような形となっている。第2アパーチャ基板26の第2アパーチャ開口27は四角形とその2隅に接続される2つの五角形からなっている。両アパーチャ開口21,27の組み合わせによって、矩形の寸法をX方向とY方向の寸法を任意に切り替えることができる可変矩形ビームと斜め45度の線の長さと幅を独立して変えることのできる斜め線描画と、X軸、Y軸方向の直線部を持つ直角三角形の寸法を変更することのできる三角形描画可能な可変サイズ整形ビーム28を得ることができる。また、第1、第2アパーチャ開口21、27の形状を上記以外にも多種多様な形状にすることにより、様々な可変な形状のビームを形成できる。ちなみに斜め線45度以外の斜め線や円または弧のような図形も使用することが出来る。
【0046】
「第1整形ビームの形成」
図5は、第1整形ビームの形成について示してある。電子銃10の陰極10aからの電子ビームは、陽極10bの開口を通過して径が広がりながらコリメートレンズ16に入射して円筒状の平行ビームとなる。そして、第1アパーチャ基板20の第1アパーチャ開口21を通過することによって整形された個別の第1整形ビームになる。
【0047】
この例では、陰極10aの内部には空洞が形成されここに陰極材料が液体として保持される。陰極10aは1300℃付近に加熱されて熱電子を放出する。さらに10bの陽極との間に強電界を印加することにより強い電子流を形成する。この陰極の径は300μm程度であり、陽極10bからコリメートレンズ16までの距離は300mm程度に設定することができる。
【0048】
図5は電子銃から出る電子をコリメートレンズ16を通して平行にして第1アパーチャ基板20に照射しているが、電子銃とコリメートレンズ16の間にさらに一個ないし、複数個の電子レンズを配置し電子銃から出射する電子の中間像を形成したり、照射角を随時偏向することで第1アパーチャ基板20の照射電子流を制御しても良い。
【0049】
「偏向器の構成」
図6は、偏向器アレイ基板60の構成例を示す。第1および第2整形偏向器アレイ22,24、第1および第2位置決め偏向器アレイ30,34および個別ブランカアレイ32にこのような構成を採用できる。
【0050】
偏向器アレイ基板60は、偏向用開口62とその周囲に配置された8つの電極64を有する。8つの電極64には、所定の電圧が個別に印加され、偏向用開口62における静電界が制御され、これによってここを通過する電子ビームの偏向が制御される。
【0051】
このために、1つの電極64に対し、その電圧を制御するための偏向用8極電極へのアナログ信号の配線66が独立して接続されており、配線偏向用8極電極へのアナログ信号の配線66の電圧が独立制御されることで、偏向用開口62の静電界が制御される。
【0052】
なお、電極64の数は、多いほど形成する静電界の形成精度を高くすることができるが、それだけ偏向用8極電極へのアナログ信号の配線66の数が増えるため、8つくらいが好適で、目的に応じて4、16、20などが採用される。ここで偏向用8極電極へのアナログ信号の配線66は偏向器アレイ基板60上の静電8極電極用の偏向用開口62の総数によって決まる。偏向用開口62の総数はすなわちマルチ可変サイズ整型ビームの総数である。例えば64行×64列=4096個のマルチ可変サイズ整型ビームでは、32行のマルチ可変サイズ矩形ビーム用の配線は
図6の上部方向に配線し、残りの32行のマルチ可変サイズ矩形ビーム用の配線は
図6の下部方向に配線される。なお、各列の配線は隣接する偏向用開口62の間の間隙を左右から4本ずつ合計8本が最大32行分の配線数が必要となるため1配線領域あたり最大256本の配線が必要となる。配線に使用する領域の幅を20μmとしたとき、0.2μmライン&スペースの配線密度で配線すると50本の配線が一層でできる。そこで配線層を6層にすることで配線が可能となる。なお、偏向器アレイ基板60は基板が例えばシリコン基板をシリコン酸化膜ないし他の絶縁性被膜で被覆し金属膜を付着させて8極を分離し、金属膜を付着し、エッチングによって配線基板を形成することによって可能となる。金属配線層にさらにシリコン酸化膜ないし他の絶縁性被膜で被覆することにより多層配線を形成する。なお、偏向器アレイ基板60はビームから見てチャージアップする絶縁物であってはならないので、最上面と最下面はアース電位で接地する必要がある。また、電極64間の偏向電極間のギャップ63は十分狭くし、開口62の中心付近を通過する電子ビームから電極同士の間隙の絶縁物の側壁が十分小さくなる必要がある。例えば開口62の直径が20μmで電極の厚みが2μmの場合、電極同士の間隙の絶縁物の側壁の幅は0.5μm以下の必要がある。
【0053】
「パターン描画の方法」
図7はパターン描画の具体的方法について述べる。本節では、露光対象物50上での寸法で説明する。
図7aでは可変サイズ整型ビームの最大サイズが40nm□で200nmピッチで複数のビームが並ぶ場合について述べる。最大可変矩形ビーム40nm□のビームは73である。以後、一定時間で電子ビーム照射する可変サイズ整形ビームの図形を1ショットと呼ぶ。
【0054】
72は一つのビームで25コマのマス目を塗りつぶすための格子を表している。73は左下の40nm□のショットを表している。74は73の右に160nm離れて隣接する40nmの最大矩形ビームを表している。73と74のピッチは200nmである。ビーム74の上に160nm離れて隣接するビームが75で、ビームのピッチが200nmである。ビーム75の左方向に160nm離れて隣接するビームが76である。
【0055】
図7bはパターン描画の方法について述べる。71は描画すべき目的パターン図である。71は一つのビームで25コマのマス目を塗りつぶすための格子72によって3つの矩形に分解される。具体的には77、78、79である。
【0056】
次に、
図7cについて説明する。
図7cは目的とする描画パターンの71の内、一部分に当たる77の可変矩形ショットの寸法を変えて77の所定の位置に移動し、位置決めしてショットする1ショット目についての図である。この場合、全体のマルチ可変サイズ矩形ビーム群の位置は
図7aと一致しており、全体静電8極偏向器45、46は停止したまま、最大矩形40nm□以下のサイズの個別ビームを整形偏向器アレイ22、24で可変矩形の寸法を小さくし、30nm×30nmビームサイズにし、72の格子の右上点に一致するように第1および第2位置決め偏向器アレイ30、34の個別偏向器によって偏向されている。しかし、全体静電8極偏向器45、46は電圧変化が0である。
【0057】
次に、
図7dについて説明する。
図7dは目的とする描画パターン71のうち一部分にあたる78の可変矩形ショットの寸法を変えて78の所定の位置に移動し、位置決めしてショットする2ショット目についての図である。この場合、全体のマルチ可変サイズ矩形ビーム群の位置は
図7aと比較して右方向に40nmシフトしており、最大矩形40nm□以下のサイズの個別ビームを整形偏向器アレイ22、24で可変矩形の寸法を40nm□にして、72の格子の右上点に一致するように第1および第2位置決め偏向器アレイ30、34の個別偏向器によって偏向されている。全体静電8極偏向器45、46は電圧変化が全体ビームを全体8極偏向器で右方向に40nm偏向している。
【0058】
次に、
図7eについて説明する。
図7eは目的とする描画パターン71のうち一部分にあたる79の可変矩形ショットの寸法を変えて79の所定の位置に移動し、位置決めしてショットする3ショット目についての図である。この場合、全体のマルチ可変サイズ矩形ビーム群の位置は
図7aと比較して右方向に80nmシフトしており、最大矩形40nm□以下のサイズの個別ビームを整形偏向器アレイ22、24で可変矩形で寸法を小さくし40nm×30nmにし、72の格子の右上点に一致するように第1および第2位置決め偏向器アレイ30、34の個別偏向器によって偏向されている。全体静電8極偏向器45、46は電圧変化が全体ビームを全体8極偏向器で右方向に80nm偏向している。
このようにして、任意の図形パターンが描画できる。
【0059】
上記に述べた描画方法では、各ビームのサイズと照射位置決め偏向器アレイ及び第1静電8極偏向器45、第2静電8極偏向器46が別のアナログ値に変化する時間の間、全体ブランカがビームを露光対象物50に出ないようにしている。そのため、ビーム照射の時間の間にビームがサイズと位置を変化することなくビームのエッジは0.1nm以下で安定して動くことはない。このために本発明のマルチ可変サイズ矩形ビームは高解像度が期待できる。なお、第1静電8極偏向器45と第2静電8極偏向器46は90度偏向方向が異なっており、この2つの静電8極偏向器での合成した偏向方向へのビーム移動に対して偏向収差即ちビームボケとビーム歪み即ちビーム形状の変形が最小となる様に配慮されている。
【0060】
本発明のマルチ可変サイズビーム描画方法では解像度が劣化する箇所がある。公知例にあったように第1アパーチャ基板20と第2アパーチャ基板26の間のビーム交差点が無いのでその分は公知例に比較して圧倒的に勝っている。しかし、次のラウンドアパーチャ付近への全マルチ可変サイズ整形ビームの交差点41、縮小レンズ42で収束された全マルチ可変サイズ整形ビームの交差点43。これらの位置で電子がクーロン相互作用で反発する過程は同様に残っている。しかしながら、最終的に露光対象物50の直上でのビームボケは公知例に比べて著しく小さい。
【0061】
ラウンドアパーチャ付近への全マルチ可変サイズ整形ビームの交差点41と縮小レンズ42で収束された全マルチ可変サイズ整形ビームの交差点43でのクーロン相互作用による反発力で電子ビームは解像度が劣化する。しかし、クーロン相互作用の反発力で発生するビームのボケの80%は交差点がZ軸方向の+方向にシフトすることによっており、縮小レンズ42、44の強度を若干量強め、焦点距離を変化させることでビームボケを5分の1にすることができる。また、このクーロン相互作用はレンズ44の焦点距離を小さくし、収束半角β48を10mrad以上に大きくし、球面収差と色収差の小さなレンズを設計することで小さくできる。このためにはレンズ44の焦点距離を5mm程度とし、球面収差係数を3mmとし球面収差を3nm以下にすることで高解像度を得ることができる。同時に色収差を1nm以下とし、高解像度を得ることも可能である。
【0062】
上記のようにレンズ44の設計に加えて描画時に同時に照射する電子ビームの総数と面積と電流密度の積、すなわち同時に1本のコラム内での照射電流値の上限を一定値以下に維持するためのパターンデータのショットデータへの分割方法及びパターンデータの変形が好適である。
【0063】
また、高解像度が必要なパターンと解像度劣化が許容されるパターンを別のショットに分離するデータ処理ソフトウェアを使用するのも好適である。即ち高解像度が必要なパターン描画するためのショット(同時に露光対象物まで飛ぶビームの量)である1ショットの電子ビーム量の上限を制御すれば高解像度化と高スループット化が同時に実現できる。
【0064】
半導体プロセスにおいて等ピッチのライン&スペースであれば光描画装置と側壁エッチングと多層膜技術を用いて、如何に細かいライン&スペースといえども規則的でありさえすれば微細リソグラフィーを使用しなくても10nm以下の微細ライン&スペースを形成することができる。電子ビーム描画を使用しないとできないのは微細ライン&スペースを不規則な任意の箇所でラインを切断する描画ができないので、電子ビームを使用するのである。したがってショットの大面積、大電流が必要なのではなく、数万から数千の小さなビームが1ショットに同時に出れば半導体プロセスには最適なのである。即ち5nm□のビームを6,400本同時にショットする。このとき電子ビームの総量は162.5nA(ナノアンペア)である。この時の解像度は5nmのラインを切断するのに十分な解像度である。またスループットはシングルコラムで1時間に1枚である。後述するが、32本のマルチコラム化することで1時間に24枚のスループットが得られる。要するにラインを切断したりホールを開けたりするのがリソグラフィーの将来の使命であり、これを遂行するのにショット電流の上限値を制限する使用法のマルチ可変サイズ電子ビームは強力な手段となる。
【0065】
図8について述べる。
図8はマルチ可変サイズ矩形ビーム全体を縮小し、最後に最終段縮小投影レンズであるレンズ44によって露光対象物50上にマルチビームを結像投影する。そして、中心軸から幅250μm以下の正方形領域を第1静電8極偏向器45と第2静電8極偏向器46で全体マルチビーム可変矩形ビームの全ビームを同時に偏向し、位置偏向信号が、静定した後に全体ブランカ40が電位0となり全体ビームがラウンドアパーチャ40bを通過して露光対象物50に電子ビームが照射され露光対象物50上の感光材料(レジスト)が電子ビーム照射を受けて変質する。変質とはレジストがポジレジストの場合は電子ビームが照射されると分子量が低分子化し、レジストの溶媒に溶けやすくなるため、電子ビーム照射部分に穴が開く。逆にレジストがネガレジストの場合、電子ビームが照射されると分子量が高分子化し、レジストの溶媒に溶けにくくなるため、電子ビームの照射部分がパターンとなって基板上に残る。さらにレジストが化学増幅型レジストである場合に電子ビーム照射によってレジスト分子から酸が発生し、レジストの基本構成分子を高分子化させたり、低分子化させたりすることによりレジストの溶媒で現像した際に所望の描画パターンを得ることができる。
【0066】
この節では電子ビームの均一照射性が完全でない場合の描画方法について述べる。電子ビームに対するレジストの反応が均一になる様にする。電子照射強度が中心軸付近に比べて相対的に電子照射量が小さな電子銃の端部付近から出る電子ビームと、電子照射強度が強い電子銃中央からの電子ビームに対してマルチビームの個別の照射時間を変えてレジストに対して照射される電子の量を一定値に保つ必要がある。以上を達成するためにマルチ電子ビームの全体ブランカと独立した個々の電子ビームの個別ブランカアレイの制御を行う。
【0067】
全体ブランカ40のビーム照射時間を一定値、例えば250ns(ナノセカンド)とする。
【0068】
即ち電子銃10からの電子照射が第1アパーチャ基板20の中心付近のビームと描画に使用する周辺ビームの強度比が例えば80パーセントの照射ビーム強度劣化がある場合について述べる。この場合周辺ビームの強度比は中心ビームの80%なので、全体ブランカ40が250nsの間、電位差0でラウンドアパーチャ40bをビーム通過させる。この場合、個別ブランカアレイ32は電子ビームの照射開始時には全部のビームに対して電界が0となって全てのビームが露光対象物50上に照射される。しかし、第1アパーチャ基板20の中心部を通過するビームに対して照射開始時から200ns経過後に個別ブランカアレイ32には電界が印加されラウンドアパーチャ40bを通過することなく中心ビームは200nsの電子ビーム照射で終了する。これに対し、電子銃の周辺部から照射される電子強度は中心ビームの80%なので個別ブランカアレイは250nsの間ビームを直進させ、レジスト照射を行う。電子銃の中心付近から出た電子強度と周辺付近から出た電子ビームの間はレジストに対する総照射電流値が一定となる様に200nsから250nsのなめらかな関数値を用いた各ビーム固有の個別ブランカの開閉時間を各ビームに独立に設定し、全てのマルチビームのレジストへの電子ビーム照射時間を完全に一定値とするように個別ブランカアレイの照射時間をビームによって独立に制御する。全ての個別ブランカがビームを非照射にした後に、全体ブランカ40に電位差がかかり、露光対象物50へのビーム照射が非照射状態になる。
【0069】
以上により、電子ビームに対するレジストへのビームの照射総量が電子銃の電子照射分布を補償するように個別ブランカアレイ32の動作を制御する。
【0070】
図9は直径300mmΦウェハ80の描画方法について述べる。300mmウェハ80を搭載する試料搭載ステージ51を、フレームと呼ばれるX軸方向の幅が500μm以下ないし200μm程度のY方向に細長い領域に分割する。描画はフレーム81の描画Y方向にステージ51を移動させることにより直線的に露光する。その際、フレーム81がステージ移動により+Y方向90に移動する。X軸方向の500ないし200μmの幅の角領域91は主にステージ移動の方向に直行する方向±X方向に走査される。ステージ移動の方向90が等速度であるが、描画パターンのショット数の密度は必ずしも一定均一ではないために、描画は主にX軸方向ではあるが、±Y軸方向にも一定微小量偏向する。91の長方形範囲の描画を行うための偏向器の偏向軌跡92で描画される。上記の偏向は個別ビームのピッチの間を塗りつぶす動作と、全体のビームを例えば500から200ミクロンの一定幅を偏向させる目的に対して偏向が行われる。なお、偏向領域は概略500から200μm□であるが、ステージ移動の速度が速すぎる場合に描画しきれない場合が起こるといけないので、描画すべきパターン密度とステージ移動のスピードはあらかじめスケジュールを作成し、それを順守してフレーム81の露光が実行される。
【0071】
上記のようにスケジュールをするが、ステージ速度が遅すぎてショットの-Y方向への偏向量が一定限界値(200μm程度)以上-Y方向に偏向すべき場合に立ち至ったときには描画を停止して、ステージがショット描画が可能な範囲に到達するまで描画待ち時間をとる。
【0072】
フレーム81の描画が終了したら、ビームを完全にブランキングし、ウェハにビームが出ないようにし、ステージが次のフレーム82の上端を目指して折り返す。フレーム82はステージの移動方向が-Y方向であるため、ステージ折り返し動作93の時間内でX方向のステージ移動がフレーム幅(500μmないし200μm)だけなされる。ステージのY方向は速度が+Vymm/secであったものが-Vy mm/secとなる必要がある。これは速度を一定時間Tsecで変化させることを意味する。したがってY方向のステージの加速度は2Vy mm/sec2である必要がある。例えば秒速50mm/secでステージが移動するときフレーム間のステージの折り返し時間はステージの加速度を0.1G(980mm/sec2)とする場合に約0.1秒で折り返しが可能である。
【0073】
本マルチ可変サイズ矩形ビームの目標とするスループットは1本のコラムで1時間1枚の描画速度を目指している。微細さは最大矩形ビーム40nm□で最小矩形ビームは5nm□以下である。そのため複数のフレーム描画の折り返し時間が一時間1枚の描画目標時間に大きな影響が出ないようになるべく偏向幅を大きくし、フレームの幅を大きくすることでステージの反転時間を小さく抑える必要がある。
図10は偏向幅を100μm(0.1mm)から500μm(0.5mm)まで変化させた場合の走査回数とステージの総移動距離とフレームのステージ移動速度とフレームの反転時間及び総反転時間を記したものである。ウェハサイズは300mmΦウェハであるが、その面積の約60%を描画できれば良いものと仮定し、総移動距離は300mm□の移動距離の0.6倍にしてある。偏向幅が広いほど偏向幅に反比例してフレーム数も少なく、ステージ移動速度も小さくできるし、総反転時間も小さくできることがわかる。
【0074】
しかし、フレーム幅が大きいほど描画装置のビーム収差及びボケが大きくなるので実際には偏向幅は200μm(0.2mm)または300μm(0.3mm)程度に装置設計するのが適切である。ここでは偏向幅を200μm(0.2mm)とする。フレームの走査回数は1500回となり、総移動距離は270000mmとなる。約1時間で描画するために秒速75mm/secでステージが移動すればよい。1回あたりの反転時間は0.15秒(75×2÷980)である。総反転時間は0.15 × 1500 = 229.6秒であって1時間は3600秒であり、これに比較して229.6秒は大きくないので3600秒に比較して無視できる程度に小さい。このようにして偏向幅が200μmから300μm程度でフレーム露光すれば好適である。
【0075】
「マルチコラム」
本発明は一本のコラムの中に均一磁界を介して平行な多数の可変サイズ整型ビームを有することで一時間に300mmΦウェハのシリコン半導体を一時間に一枚描画できる高スループットで超微細化、たとえば1nmから5nmが可能な微細化パターン形成ができる電子ビーム描画装置についてその詳細を述べた。しかしながら、さらに高スループット化を目指す場合には、
図1の電子ビーム光学コラムを複数個並行して設置して描画装置コラムを形成することができる。一本のコラムの直径を50mmΦとし、300mmΦウェハ対応で
図11のように32本並列マルチコラム化する。50mmΦコラム1本で300mmΦウェハの実効描画面積600cm
2を描画するため、スループットが一時間で1枚であった。これを32本のマルチコラムで一本当たりの実効描画面積を25cm
2に縮小できる。32本のマルチコラムが同時に25cm
2の領域を描画するので全体のスループットは600÷25=24倍となり、マルチコラムではビーム精度を変えることなく24倍の高スループット化が可能であることがわかる。スループットは24枚/時間となる。
【0076】
マルチコラム化の実装構成について、
図1のケース52とコイル54はマルチコラム32本を束ねた構造にして良い。あるいは全てのマルチコラムに対して共通化するためにケース52とコイル54の直径を300mmΦ以上に広げて1本のケース52と一組のコイル54にしても良い。共通化する場合には54のコイルは適宜マルチコラム内部に分散して均一磁界を全ての32本のコラムの必要部分が均一磁界を形成できるように補助用のコイルを32本のコラムのコイル部分に適宜設置して電流制御しても良い。
【0077】
マルチコラム数は目的とするスループットとコストによって本数を8本とか12本など自由に変化さえても良い。また、24枚以上のスループットを目指すのであれば、50mmΦのコラムの直径を小さくして例えば25mmΦのコラムとして120本のマルチコラムにしても良い。この場合、スループットはさらに4倍になる。1時間100枚のウェハ描画か可能となる。
【0078】
なお、マルチコラム化すると電子銃の発熱及び第1アパーチャ基板20の発熱が大きな問題となるので、加速電圧50kVの低加速化が好適である。また、第1および第2整形偏向器アレイ22、24及び第1および第2位置決め偏向器アレイ30、34の8極偏向器へのアナログ信号が膨大な数となる。これは全体の発熱を大きくする。この問題を克服するためにコラムの内部にデジタルアナログコンバーターとアナログアンプ類をシリコン基板上に形成してデジタル信号だけを外部から導入することが好適である。また、磁界レンズである縮小レンズ42、44などは永久磁石を使用するのが好適である。また、マルチコラムでは均一磁界形成用のコイル54aから54gまでのコイルを永久磁石に置き換えて磁界形成することも好適である。
【0079】
「マルチ可変サイズ矩形ビームの利点と固定サイズビームの欠点」
過去に固定ビームを数千から数万本形成し、同時に全ビームを同一方向に走査しつつ各ビームを独立に点滅させて描画する提案があった。しかし、この方法では10nm以下の幅を持つパターンを描画する場合に走査方向の解像度を10nmから1nmの高解像度化することが不可能であった。また、必要とされるパターンが微細になればなるほど固定のビームのサイズを小さくする必要があった。例えば5nm、2nm、1nmと要求が厳しくなればなるほど一時間に1枚のスループットを維持しつつ1nmの解像度を保有する為には1.62×1010秒の時間が描画のためにかかり100万本のビームをもってしても16,000秒、すなわち1枚描画するのに4.5時間かかる。したがって固定サイズのビームを数を増やすことで点滅動作するだけで高解像度と高スループットを同時に実現することは不可能に近く本発明のマルチ可変サイズ矩形ビームは最適解であり、将来的な微細化と高スループット化には最適解である。
【0080】
本発明の重要点は第1アパーチャ基板20と第2アパーチャ基板26の間に均一磁界を発生し第1アパーチャ基板20を通過するビームの像を第2アパーチャ基板26の上にクーロンインタラクションを発生するビーム交差点を無くして等倍像を作ることで達成できる。この性質は過去の公知例には無い特徴である。交差点がない光学系であるばかりではなく、均一磁界中に第1および第2整形偏向器アレイ22、24と第1および第2位置決め偏向器アレイ30、34と個別ブランカアレイ32を同一サイズで同一ピッチのもので構成できるためにこれらの素子の製作プロセスを共通化できる。また、コラム内部での設置が単純化・容易化できる。
【0081】
「まとめ」
本実施形態は、多数の電子ビームを個別に独立して形状とサイズと照射位置を制御して照射する、多数の矩形の縦横寸法または斜め線または三角形ビームのサイズの可変なビームのMVSB(マルチ可変サイズ整形ビーム)による描画装置である。
【0082】
具体例をあげると例えば、第1アパーチャ基板20により可変長方形ビームを正方形グリッドに配置する。ビーム数はN2であり、Nは8、16,32,64、128などとすることができる。
【0083】
マルチ可変サイズ整形ビームは、第1アパーチャ基板20の第1アパーチャ開口と、第2アパーチャ基板26の第2アパーチャ開口を通過することによって複数の可変サイズ整形ビームが整形される。そして、複数のビームのうち各々の個別ビームを独立して個別に偏向する第1および第2整形偏向器アレイ22,24により、すべての整形ビームのサイズを独立して個別に変更できる。そのために、静電8極電極を備えた第1及び第2整形偏向器アレイ22,24を用意している。さらに、露光対象物50であるウェハ面上の全ビームの照射位置を自由に独立して偏向させるために、個々のビームを個別に偏向する第1及び第2位置決め偏向器アレイ30,34を有する。
【0084】
すなわち、種々の偏向によりラウンドアパーチャ40bの丸穴の通過位置が変化してビーム強度が低下せず、電流密度を一定に維持できるように、静電8極電極を備えた第1及び第2整形偏向器アレイ22,24の偏向量比率を変化させて、可変サイズ整形ビームのサイズ変更が行うが露光対象物50上での電流密度が不動であるように電流密度を一定に維持する。同様に個々のビームの第1位置決め偏向器アレイ30と第2位置決め偏向器アレイ34の偏向量比率を変化させて露光対象物50上の位置は変化させるがラウンドアパーチャ40bの通過位置を変化させないことによって電流密度が不動であるように電流密度を一定に維持する。
【0085】
1つの電子銃10ですべてのビームを照射する場合、個々のビームの均一性を得る(例えば各ビーム強度の相違を0.1%以下にする)ことは非常に難しい。本実施形態では、すべてのビームに対して均一な露光量を得るために、個別に時間制御された個別ブランカアレイ32を用意している。すなわち、個別ブランカアレイ32によるブランキングによって、照射時間を制御することで、個別ビームの総照射電流値を補償制御する。
【0086】
また、第2アパーチャ基板26を通過したマルチ可変サイズ整形ビームについての縮小率を1/200程度として、すべての個別可変サイズ整形ビームを同倍率で縮小し、ウェハに結像転写する。これによって、5nm以下の高解像度を有した要求性能に合致した描画が行える。
【0087】
また、全体ブランカを使用して、すべてのビームを同時にブランキングすることで、ビーム照射の位置、時間を制御することができる。さらに、ウェハ表面は、一般的な静電偏向器を使用してすべてのビームを所定の照射位置に偏向し、偏向器の静定後ブランカの開放によってビームがレジストの一定位置に静止して照射される。また、ステージ上のウェハ位置をレーザー干渉計で常時追跡することによりビームの照射位置をレジストの所定位置に固定して描画する。これをマルチ可変サイズ整形ビームの1ショットとする。別のショットについてはウェハを連続的に移動することで、所定のステージ座標とパターンデータの差分を計算し、ステージ上のウェハ位置をレーザー干渉計で常時追跡することによりビームの照射位置をレジストの所定位置に固定して描画する。これが第2ショット目であって、以下同様に複数の各ショットを繰り返しウェハ全体に描画することができる。
【0088】
特に、本実施形態では、Z軸方向に進む電子ビームが第1アパーチャ基板20から少なくとも第2アパーチャ基板26まであるいは第1アパーチャ基板20から第2アパーチャ基板26のビーム進行方向にある第1および第2位置決め偏向器アレイ30、34を通過するまでの空間をビーム軸に平行なZ軸方向の均一磁界を使用して、この空間内のすべてのビームの中心軸を交差せずに平行ビームとして扱う。これによって、ビームの交差点におけるクーロン効果などによるボケ発生を低減して、描画の精度を向上することができる。また、本実施形態のマルチ可変サイズ整形ビームは、高い解像度と高スループットのシステムを実現する。さらに、最大ビームサイズを微細化し、ビームのグリッド間隔を小さくして、全ビーム数を増やすことで、半導体描画の微細化と高スループット化に対応することができる。
【0089】
さらに、電子銃10の電子ビームを放出する陰極10aの中心材料として、液体状態の金属を使用することが好適である。液面はフラットであり、大電流の電子ビームを放出することが可能になる。仕事関数は2.1eVで、1350°Cで100A/cm2の電流密度が得られる。電子放出面近傍に最大5kVの高圧電源を印加すると、強電界印加効果により約2.5倍の電流密度が得られる。このような状態では、300μmΦの液体陰極の表面から5KVで140mA以上の電流値が得られる。
【0090】
マルチビームシステムを作ることは、発熱問題をいかに解決するかが課題となる。陰極10a(電子エミッター)から放出された電子ビームが50kVで第1アパーチャ基板20に照射され、多くの電子ビームに分割されると、発生する熱は大きくなる(5kW以上の熱を発生する)。したがって、第1アパーチャ基板20には、約5kVで電子を照射する必要があり、このようにして0.5kWに発熱を低減させることができる。
【0091】
一方、マルチビームが縮小されてウェハ表面に結像されると、クーロン効果の影響を受ける。5kVの電圧で50nm以下の分解能を得るのは難しい。5kVでは、電流値が大きい電子ビームリソグラフィシステムでは十分な解像度を得ることが困難である。そのため、第1アパーチャ基板20を通過した電子ビームを50kVに加速する。このことにより、ラウンドアパーチャ40bの開口の付近に出来るビーム交差点41さらに縮小レンズ42の後段にできる交差点43およびレンズ44により露光対象物50上にできる交差点でのビームボケは著しく低減される。ただし、5nm以下の解像度の描画をするためにはラウンドアパーチャ40b以降の総電流値が約500nA以下である必要がある。
【0092】
なお、本発明の実施例では、第1アパーチャ基板20から第2位置決め偏向器アレイ34までを均一磁界中に設置しているが、電子銃10およびコリメートレンズ16から第2位置決め偏向器アレイ34までの光学系構成部品を全部均一磁界中に設置しても良好な装置を製作することも可能である。
【0093】
半導体の回路形成用パターンデータは、高解像度ショットと非高解像度ショットに分割できる。解像度とスループットの両方を同時に達成するために、これら高解像度ショットと、非高解像度ショットは、別々のショットとして描画することが可能であり、効率的に高スループットと高解像度化を実現することができる。
【符号の説明】
【0094】
8 第1アパーチャ基板を通過する多数の電子が一点から広がるように軌道をとるが、その一点に収束した交差点を指す。これらのビームは電子銃の陰極の上端部からの電子の上端11aと、電子銃陰極の下端部からの電子の下端11bとの間から一定の大きさをもって出射されていることによる。
9 角度α、第1アパーチャ基板を通過するビームの角度広がりをαとする
10 電子銃
10a 陰極であり、-50kVが印加されている。
10b 陽極であり、-45kVが印加されている。
11a 電子銃陰極の上端部からの電子の上端
11b 電子銃陰極の下端部からの電子の下端
12 電子銃の中心から出てコリメートレンズ16によって曲げられ第1アパーチャ基板
20の一番上部の開口を直進し、均一磁界に沿って直進しようとするが整形偏向器アレイ
22によって、曲げられて第2アパーチャ基板26で所定のサイズの整形ビームを形成した後、第1および第2位置決め偏向器アレイ30、34により位置決め量を決められて進行する電子ビーム。
13a 電子銃陰極の上端部から出て第1アパーチャ基板を直進し、均一磁界の軸に沿って直進する電子ビーム付近を通過するビームで第1アパーチャの位置で13cと角度+αで交差する電子ビームを表す。
13b 電子銃陰極の下端部から出て第1アパーチャ基板を直進し、均一磁界の軸に沿って直進する電子ビーム付近を通過するビームで第1アパーチャの位置で13cと角度-αで交差する電子ビームを表す。
13c 電子銃陰極の中心から出て第1アパーチャ基板を直進し、均一磁界の軸に沿って直進する電子ビーム。
16 コリメートレンズ、電子銃陰極から放射状にビームが広がるのを平行電子ビーム化するためのレンズ。
18 加速器、電子ビームを-45kVから0kVの電位変化せしめることにより電子を5kVから50kVまで加速する。加速は全マルチ可変サイズ整形ビームに対して均一に行う必要があるので加速器の構造は数枚の電極板を多段化することによって均一加速電界を構成してもよい。各電極板は各々独立に電位制御しても良い。
20 第1アパーチャ基板。多数の開口が開いている。電位が-45kVを印加されている。また、電子ビームの照射による発熱を冷却するため水冷されている。
21 第1アパーチャの開口であって、実施例の1つ及びこの形に整形された第1アパーチャ通過後の電子ビーム。
22 第1整形偏向器アレイ
24 第2整形偏向器アレイ
26 第2アパーチャ基板。
27 第2アパーチャの開口の実施例の1つ。第1アパーチャ通過後の電子ビームが第2アパーチャのビーム開口を通過すると描画用の可変サイズ整形ビームとなる。
28 可変サイズ整形ビーム。第1アパーチャ通過後の電子ビームが第2アパーチャのビーム開口を通過すると描画用の可変サイズ整形ビームとなる。
30 第1位置決め偏向器アレイ
32 個別ブランカアレイ
34 第2位置決め偏向器アレイ
36 コンデンサレンズ
40 全体ブランカ
40a 全体ブランカ電極
40b ラウンドアパーチャ
41 ラウンドアパーチャ付近への全マルチ可変サイズ整形ビームの交差点
42 縮小レンズ
43 縮小レンズ42で収束された全マルチ可変サイズ整形ビームの交差点
44 露光対象物への投影レンズ。縮小機能を持つ。
45 第1静電8極偏向器
46 第2静電8極偏向器
48 露光対象物への投影レンズのビームの収束半角β。
50 露光対象物
51 ステージ
52 強磁性体で出来たケース
54 均一磁界形成コイル
54a 均一磁界形成コイル1
54b 均一磁界形成コイル2
54c 均一磁界形成コイル3
54d 均一磁界形成コイル4
54e 均一磁界形成コイル5
54f 均一磁界形成コイル6
54g 均一磁界形成コイル7
55 レーザー光発生器
56 レーザー干渉計
57 照射レーザー光
58 反射レーザー光
59 反射ミラー
60 偏向器アレイ基板
62 個別の可変サイズ整形ビームが通過し、偏向される偏向用開口
63 偏向用8極電極間の絶縁ギャップ
64 偏向用8極電極
66 偏向用8極電極へのアナログ信号の配線。
71 描画すべき目的パターン図
72 一つのビームで25コマのマス目を塗りつぶすための格子
73 左下の40nm□のショット
74 73の右に隣接する40nmの最大矩形ビーム
75 ビーム74の上に隣接するビーム
76 ビーム75の左方向に隣接するビーム
77 描画すべき目的パターン
図71を3つの矩形に分解したパターン1
78 描画すべき目的パターン
図71を3つの矩形に分解したパターン2
79 描画すべき目的パターン
図71を3つの矩形に分解したパターン3
80 300mmΦウェハ
81 +Y軸方向にステージを移動しつつ描画するフレーム
82 81に続いて描画する次のフレーム。ステージ移動は-Y軸方向に行われる。
83 82に続いて描画する次のフレーム。ステージ移動は+Y軸方向に行われる。
84 83に続いて描画する次のフレーム。ステージ移動は-Y軸方向に行われる。
90 フレーム81を描画するときのステージ移動の+Y軸方向
91 X軸方向の500ないし200μmの幅の角領域であって偏向用8極電極によるビーム走査は主にステージ移動の方向に直行する方向X軸方向に走査される。ステージ移動のY軸方向にはショットの密度によって+Y軸方向または-Y軸方向に偏向し、パターンデータに従ったマルチ可変サイズ整形ビームによる描画を遂行する長方形範囲。
92 91の長方形範囲の描画を行うための偏向器の偏向軌跡。
93 ステージ折り返し動作1
94 ステージ折り返し動作2
95 ステージ折り返し動作3
96 ステージ折り返し動作4
101 マルチコラムを構成するための1本のコラム
301 整形偏向がない場合の第1アパーチャの基板の開口の図
302 第2アパーチャ基板の開口の図
303 第1アパーチャ基板の開口通過後のビームを第2アパーチャ基板の開口302上に結像し整形偏向304を行った時の第1アパーチャ基板開口通過後の矩形ビームの像
304 整形偏向の方向
305 第2アパーチャ開口を通過する電子ビーム
306 第1位置決め偏向器アレイと第2位置決め偏向器アレイで移動する方向を示す図
307 可変サイズ整形ビームで位置決め偏向されたビームを示す図