(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036646
(43)【公開日】2022-03-08
(54)【発明の名称】アルミニウム空気電池用電解液およびアルミニウム空気電池
(51)【国際特許分類】
H01M 12/06 20060101AFI20220301BHJP
H01M 4/06 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
H01M12/06 G
H01M12/06 D
H01M4/06 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020140959
(22)【出願日】2020-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】521540715
【氏名又は名称】ジャパン・クリア・エージェント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】特許業務法人しんめいセンチュリー
(72)【発明者】
【氏名】金子 圭助
(72)【発明者】
【氏名】夏目 伸一
【テーマコード(参考)】
5H032
5H050
【Fターム(参考)】
5H032AA02
5H032AS01
5H032AS11
5H032AS12
5H032CC11
5H032CC16
5H032HH02
5H050AA08
5H050BA20
5H050CA12
5H050CB11
5H050HA10
(57)【要約】
【課題】電解液の使用量を低減させつつ、アルミニウム一般材料を用いた場合においても、放電反応を継続させ易くできるアルミニウム空気電池用電解液およびアルミニウム空気電池を提供すること。
【解決手段】塩基性の電解液5に添加される添加剤は、金属イオンに対して配位能を持ったアニオンを含む塩を含有する。これにより、かかるアニオンがアルミニウムイオンに配位してテトラヒドロキシドアルミン酸イオンの生成を抑制するので、電解液5中の水酸化物イオン濃度が減少することを抑制できる。よって、電解液5の使用量を低減しても、放電反応が継続され易くなる。更に、負極4の表面への不動態被膜の生成の要因となる金属元素などの不純物元素についても上述したアニオンによって錯体化され易くなるので、負極4がアルミニウム一般材料から構成される場合でも、放電反応が継続され易くなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性の水溶液と、その水溶液に添加される添加剤と、を含有するアルミニウム空気電池用電解液であって、
前記添加剤は、金属イオンに対して配位能を持ったアニオンを含む塩であって、KSCN、K2SO4及びKFのうちの少なくとも1つを含有することを特徴とするアルミニウム空気電池用電解液。
【請求項2】
前記添加剤の含有量が0.1mol/L以上5mol/L以下であることを特徴とする請求項1記載のアルミニウム空気電池用電解液。
【請求項3】
前記水溶液は、KOHの水溶液であることを特徴とする請求項2記載のアルミニウム空気電池用電解液。
【請求項4】
前記添加剤は、KSCN、K2SO4及びKFのうちの複数を含有し、
前記KOHの含有量が1mol/L以上6mol/L以下であり、
前記添加剤の含有量は、前記KOHの含有量よりも少なく設定され、
前記添加剤の含有量と前記KOHの含有量との和が10mol/L以下であることを特徴とする請求項3記載のアルミニウム空気電池用電解液。
【請求項5】
導電性および酸素還元能を有しカーボンを用いて形成される正極膜と、
アルミニウム合金を用いて形成される負極と、
前記正極膜および前記負極の間に介在される電解液と、を備えるアルミニウム空気電池であって、
前記電解液は、請求項4記載のアルミニウム空気電池用電解液であることを特徴とするアルミニウム空気電池。
【請求項6】
前記負極は、JIS H4000:2012に規定される5000系のアルミニウム合金であることを特徴とする請求項5記載のアルミニウム空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム空気電池用電解液およびアルミニウム空気電池に関し、特に、電解液の使用量を低減させつつ、アルミニウム一般材料を用いた場合においても、放電反応を継続させ易くできるアルミニウム空気電池用電解液およびアルミニウム空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
活性物質として大気中の酸素を利用する空気電池はエネルギー密度が高く、使用時に電解液を注入する注液型の空気電池であれば、使用開始まで負極の金属が劣化し難いため、非常用電源として優れた性質を持っている。例えば、特許文献1には、負極にマグネシウムを用いたマグネシウム空気電池が開示されている。マグネシウム空気電池は、発電時に生成される難溶性の物質が電解液に蓄積することで放電を阻害するため、特許文献1では、電解液を循環させる構成によって72時間以上の放電を可能にしている。
【0003】
一方、負極にアルミニウムを用いるアルミニウム空気電池も知られている。アルミニウム空気電池は、電解液に対するアルミニウムの反応性の高さに起因して自己放電が生じ易いため、例えば、特許文献2には、アルミニウム合金内のSnなどの含有量を調節して、アルミニウムの自己放電を抑制する技術が記載されている。また、特許文献3には、アルミニウムの自己放電抑制剤を電解液に添加する技術が記載され、特許文献4には、電解液の流速を調整することでアルミニウムの自己放電を抑制する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-033880号公報(例えば、段落0005~0008、
図1)
【特許文献2】特開2015-076221号公報(例えば、段落0020)
【特許文献3】特開2017-054743号公報(例えば、段落0011)
【特許文献4】特開2017-068934号公報(例えば、段落0032,0033、
図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種のアルミニウム空気電池において、電解液の使用量を低減させつつ、アルミニウム一般材料を用いた場合においても、放電反応を継続させ易くできる技術が求められている。
【0006】
即ち、塩基性電解液を利用したアルミニウム空気電池は、負極と正極とのそれぞれの酸化還元反応の際に生じる三価のアルミニウムイオン1個と、水酸化物イオン3個とに加え、電解液中の水酸化物イオン1個が結合してテトラヒドロキシドアルミン酸イオン([Al(OH)4]-)を生成する。このため、上述したマグネシウムや亜鉛を用いた金属空気電池と異なり、難溶性の物質が生成することが少ないので、電解液の循環供給システムを構築しやすい利点がある一方で、電解液中の自由な水酸化物イオンの個数が減るので、放電電圧の減少や放電活性の低下をもたらすという課題がある。
【0007】
この課題は、負極のアルミニウムの重量に対して十分な量の電解液を用意すれば解決できるが、そのような量の電解液を保持するためには、電池(セル)を大型化する必要がある。この場合、短時間の電力利用を想定する小電力容量の小型電池であれば、十分な量の電解液を保持できる大きさで電池(セル)を形成しても、実用上の壁にならない程度のサイズにできる。しかしながら、非常用電源など10A単位で数十時間以上の連続放電を想定する大容量の大型電池の場合、十分な量の電解液を確保しようとすると、設置面積、重量などが飛躍的に増大して実用上の大きな壁となる。
【0008】
また、大容量のアルミニウム空気電池は、アルミニウムが大量に必要となることに加え、多数のセルの形状に合わせて負極として使用できる形状にアルミニウムを加工する必要がある。そのため、入手性や加工性の面から、一般的に使用される(市販の)アルミニウム一般材料を用いることにはメリットがある。
【0009】
しかしながら、アルミニウム一般材料は、一般的な使用時における加工性、剛性、耐食性、及び耐久性などを調整するために、銅、マグネシウム、マンガン、ケイ素、クロムなど様々な元素が添加された合金であり、更には、それらの金属元素とは別に製造加工過程で混入する不純物を含んでいる。それらの合金元素や不純物は、アルミニウム空気電池の負極に使用した場合の放電反応において、負極表面への不動態被膜の生成による発電停止、難溶性水酸化物や酸化物の沈殿による電解液循環への障害、正極の酸素還元反応への触媒毒となるなど悪影響がある。
【0010】
本発明は、これらの問題点を解決するためになされたものであり、電解液の使用量を低減させつつ、アルミニウム一般材料を用いた場合においても、放電反応を継続させ易くできるアルミニウム空気電池用電解液およびアルミニウム空気電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するために本発明のアルミニウム空気電池用電解液は、塩基性の水溶液と、その水溶液に添加される添加剤と、を含有するものであり、前記添加剤は、金属イオンに対して配位能を持ったアニオンを含む塩であって、KSCN、K2SO4及びKFのうちの少なくとも1つを含有する。
【0012】
本発明のアルミニウム空気電池は、導電性および酸素還元能を有しカーボンを用いて形成される正極膜と、アルミニウム合金を用いて形成される負極と、前記正極膜および前記負極の間に介在される電解液と、を備えるものであり、前記電解液は、塩基性の水溶液と、その水溶液に添加される添加剤と、を含有し、前記添加剤は、金属イオンに対して配位能を持ったアニオンを含む塩であって、KSCN、K2SO4及びKFのうちの少なくとも1つを含有する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載のアルミニウム空気電池用電解液によれば、塩基性の水溶液に添加される添加剤は、金属イオンに対して配位能を持ったアニオンを含む塩であって、KSCN、K2SO4及びKFのうちの少なくとも1つを含有する。これにより、かかるアニオンがアルミニウムイオンに配位して錯体化され易くなり、テトラヒドロキシドアルミン酸イオンが生成され難くなるので、電解液中の水酸化物イオン濃度が減少することを抑制できる。よって、電解液の使用量を低減しても、放電反応が継続され易くなるという効果がある。
【0014】
更に、負極表面への不動態被膜の生成の要因となる金属元素、難溶性水酸化物や酸化物の沈殿の要因となる金属元素、及び正極の酸素還元反応への触媒毒となる金属元素についても、上述したアニオンによって錯体化され易くなる。よって、負極がアルミニウム一般材料から構成される場合でも、放電反応が継続され易くなるという効果がある。
【0015】
請求項2記載のアルミニウム空気電池用電解液によれば、請求項1記載のアルミニウム空気電池用電解液の奏する効果に加え、次の効果を奏する。例えば、添加剤の含有量が0.1mol/L未満であると、電解液中の水酸化物イオン濃度の減少を十分に抑制することができず、5mol/Lを超えると、放電電圧が低下し易くなる。これに対して請求項2によれば、添加剤の含有量が0.1mol/L以上5mol/L以下であるので、電解液の使用量を低減しても、十分な電圧で放電反応を継続させ易くできるという効果がある。
【0016】
請求項3記載のアルミニウム空気電池用電解液によれば、請求項2記載のアルミニウム空気電池用電解液の奏する効果に加え、KOHの水溶液を用いることにより、電解液の濃度が比較的低い場合であっても、放電電圧が低下することを抑制できるという効果がある。
【0017】
請求項4記載のアルミニウム空気電池用電解液によれば、請求項3記載のアルミニウム空気電池用電解液の奏する効果に加え、次の効果を奏する。添加剤は、KSCN、K2SO4及びKFのうちの複数を含有し、KOHの含有量が1mol/L以上6mol/L以下であり、添加剤の含有量は、KOHの含有量よりも少なく設定され、添加剤の含有量とKOHの含有量との和が10mol/L以下である。これにより、自己放電によって電池特性が低下することや、電解液粘度の上昇によって送液冷却システムへの負担が増加することを抑制できるという効果がある。
【0018】
請求項5記載のアルミニウム空気電池によれば、請求項4記載のアルミニウム空気電池用電解液を用いるので、電解液の使用量を低減させつつ、アルミニウム一般材料を用いた場合においても、放電反応を継続させ易くできるという効果がある。
【0019】
請求項6記載のアルミニウム空気電池によれば、請求項5記載のアルミニウム空気電池の奏する効果に加え、負極は、JIS H4000:2012に規定される5000系のアルミニウム合金から構成されるアルミニウム一般材料であるので、入手性および加工性の両立を図ることができる。そして、そのようなアルミニウム一般材料を用いた場合においても、放電反応が継続され易く構成されているため、例えば、1V以上15Aの放電が24時間以上継続するような大容量の空気電池を構成した場合であっても、従来のアルミニウム空気電池に比べて小型かつ安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態におけるアルミニウム空気電池の模式図である。
【
図2】実施例1及び比較例1の放電電圧の継時変化を比較したグラフである。
【
図3】実施例5の放電電圧の継時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。まず、
図1を参照して、アルミニウム空気電池1の概略構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態におけるアルミニウム空気電池1の模式図である。
【0022】
図1に示すように、アルミニウム空気電池1は、容器状の筐体2と、その筐体2の壁面の一部を構成する膜状の正極3と、その正極3に対向するようにして筐体2内に配置される負極4と、を備えている。筐体2に電解液5を注入して正極3及び負極4に負荷を接続することにより、正極3及び負極4で酸化還元反応が生じて放電が行われる。
【0023】
正極3は、導電性カーボンや酸素還元触媒を結着材料によって結着することで形成される。特に、正極3の反応面積を増大するために、導電性カーボンは微粒子化したものが用いられる。微粒子化したカーボンと結着材料とによって作成したシート状の正極3は、電解液5を筐体2の外に漏らさず、かつ、空気を筐体2(セル)内に取り込み、速やかに酸素還元反応が起こることを可能とするものである。正極3の結着材料は、フッ素系樹脂を使用することにより、耐塩基性と通気性を両立できる。
【0024】
正極3の酸素還元触媒は、遷移元素やその酸化物、窒素ドープされたグラフェンやカーボンナノチューブなどが好ましい。従って、少なくともこの中の1種を触媒として用いて正極3を形成する。
【0025】
また、大電力を取り出すアルミニウム空気電池1では、カーボンと結着材料とによって作成した正極3だけでは十分な導電性が不足しているので、正極集電体6を正極3に密着させ、正極集電体6に負荷を接続することによって高効率の放電を行う。正極集電体6は、放電に必要な空気中の酸素を正極3に送り込める十分な開口率を持っていなければならない。
【0026】
なお、正極集電体6は、正極3に対する電解液5の水圧を支える剛性を持つ構成でもよい。その構成の一例として、パンチングメタル板、エキスパンドメタル、メッシュ、スポンジ等を用いて正極集電体6を形成する形態が例示されるが、開口率と強度と導電性とのバランスからエキスパンドメタルやスポンジ構造から正極集電体6を形成することが好ましい。正極集電体6の素材は導電性の高い金属であればよく、銅、鉄、ステンレス、ニッケルなどが選択できるが、集電能力および電池保管時の安定性や、電解液5の漏れに対する耐食性の面から、特にニッケルが好ましい。
【0027】
負極4に使用するアルミニウム一般材料は、展伸材や鋳物ダイカスト合金などが使用できるが、アルミニウム組成量の多い展伸材が特に好ましい。アルミニウム展伸材は、加工性や実用時の耐食性などを目的にして、アルミニウムに加えてマグネシウム、クロム、マンガン、銅、鉄、ケイ素等の他元素が複数加えられているが、アルミニウム空気電池1には、JIS H4000:2012に規定される、純アルミニウムに近い1000系、マグネシウムを含む5000系および6000系のアルミニウム合金が好ましい。特にアルミニウム空気電池1の電解液5に対しては、5000系のアルミニウム合金が好ましい。
【0028】
電解液5は、塩基性水溶液が好ましく、電解液5の主成分の電解質は、特にアルミニウム空気電池1の放電反応時に析出や沈殿を生じない塩が好ましい。そのような塩として、特にNaOH、KOHが好ましいが、その中でも低濃度となっても反応性が高いKOHが最も好ましい。
【0029】
電解液5の主成分の電解質(塩)の濃度は限定されないが、下限としては0.5mol/L以上が好ましく、1mol/L以上であることがより好ましい。また、かかる濃度の上限は10mol/L以下が好ましく、特に6mol/L以下であることがより好ましい。
【0030】
電解液5の主成分の電解質(塩)の濃度が0.5mol/L以下であると、空気中で保管されたアルミニウム負極表面の酸化被膜を容易に突破することができず、アルミニウム空気電池1が放電開始できない恐れがある。一方、10mol/L以上の濃度では反応性が強すぎて自己放電による電池特性の低下や、電解液粘度の上昇による送液冷却システムへの負担増などにより、アルミニウム空気電池1の大型化への障害が増加する。
【0031】
電解液5に添加する添加剤は、KSCN、K2SO4又はKF等、金属イオンに対し配位能を持ったアニオンとカリウムとから成る塩を1種または複数種含むことが好ましい。なお、電解液5の主成分の電解質(塩)がNaOHの場合は、添加剤にナトリウム塩を用いてもよい。
【0032】
添加剤の濃度は限定されないが、放電時の電解液5中の水酸化物イオン濃度の低減を十分に抑制する(電解液5の使用量を低減しても放電を継続させる)ためには、0.05mol/L以上が好ましく、特に0.1mol/L以上であることがより好ましい。また、かかる濃度の上限は、上述した電解質(塩)の濃度以下であって、10mol/L以下が好ましく、特に5mol/L以下であることがより好ましい。
【0033】
また、複数の添加剤を電解液5に添加する場合には、それらの添加剤の濃度(金属陽イオン濃度)と、電解液5の主成分の電解質(塩)の濃度(陽イオン濃度)との合計を15mol/L以下にすることが好ましく、10mol/L以下にすることがより好ましい。これは、10mol/Lの濃度を超えると、反応性が強くなり自己放電によって電池特性が低下することや、電解液粘度の上昇によって送液冷却システムへの負担が増加するおそれがあり、アルミニウム空気電池1の大型化への障害が増加するためである。
【0034】
KSCN、K2SO4又はKF等の添加剤は、金属イオンに対して配位能を持ったアニオンを有している。よって、そのようなアニオンが電解液5中に存在すると、かかるアニオンがアルミニウムイオンに配位して錯体化され易くなるので、テトラヒドロキシドアルミン酸イオンの生成を妨害することができる。よって、電解液5中の水酸化物イオン濃度が減少することを防止できる。
【0035】
更に、アルミニウム一般材料から成る負極4中に、難溶性水酸化物や酸化物を生成しやすい金属元素や、正極の酸素還元触媒に触媒毒として働く金属元素が存在しても、それらの元素も上述したアニオンによって錯体化され易くなる。よって、負極4の表面に不動態被膜が生成されることや、難溶性水酸化物や酸化物が電解液5中に沈殿することを抑制できると共に、負極4中の金属元素が正極の酸素還元触媒に対して触媒毒として働くことを抑制できる。
【0036】
このように、本実施形態の添加剤によれば、電解液5中の水酸化物イオンの濃度の減少を抑制しつつ、電解液5や負極4(アルミニウム合金)中に存在する不純物元素を封鎖する効果が得られる。よって、電解液5の使用量を低減しつつ、負極4にアルミニウム一般材料を用いた場合でも、放電反応が継続され易くなり、電池性能の維持向上をもたらす。
【0037】
なお、以上に説明したアルミニウム空気電池1の構成は一例であり、正極3(正極集電体6)と、アルミニウムを主成分とした負極4との間に電解液5を介在させることができるものであれば、筐体2の形状は適宜設定できる。また、負極4の両面に正極3を備えていてもよいし、冷却器や、電解液5を移送するポンプやタンク(送液冷却システム)を備えていてもよい。
【実施例0038】
本発明を以下の実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(正極3の準備)
正極3として、マンガン化合物と炭素系素材(微粒子化したカーボン)とをフッ素系樹脂を用いてシート化し、そのシート状の正極3とニッケルメッシュ製の正極集電体6とを一体化したものを面積30×15mmで用意した。
(負極4の準備)
負極4として、厚さ5mmのA5052のアルミニウム合金の板を50×10×5mmに切り出し、表面をサンドペーパーで研磨してエタノールで洗浄した後に空気中で1か月ほど保管した。
(電解液5の準備)
KOH(富士フィルム和光純薬株式会社製)を蒸留水に溶解し25℃で2.5mol/Lの溶液になるよう調整した後、KSCN(林純薬工業株式会社製)が0.1mol/Lになるよう添加した。
(評価セルの作成)
電解液5の容量が5mlであり、かつ電解液5と正極3との接触面積が1cm2となる筐体2を塩化ビニル樹脂で作成して評価セルとした。用意した評価セルに電解液5を5ml注入し、負極4の先端側の1cmのみが電解液5中に露出するように、かつ正極3と1cmの距離で正対する位置に負極4を固定した。
(放電試験)
電気化学測定装置(Solartron analytical社製、商品名:ModuLab XM)に接続し、測定停止電圧0.1Vの設定で、100mAの定電流負荷実験を行った。
[比較例1]
電解液5を、2.5mol/LのKOHのみを含む(添加剤を添加しない)ものに調整した以外は、実施例1と同様にした。
[実施例2]
負極4のアルミニウム合金をA5083とした以外は、実施例1と同様にした。
[比較例2]
負極4のアルミニウム合金をA5083とした以外は、比較例1と同様にした。
[実施例3]
負極4のアルミニウム合金をA6005とした以外は、実施例1と同様にした。
[比較例3]
負極4のアルミニウム合金をA6005とした以外は、比較例1と同様にした。
[実施例4]
電解液5のKSCNの濃度を1mol/Lとし、放電試験において40mAの定電流負荷実験を行った以外は、実施例1と同様にした。
[比較例4]
放電試験において40mAの定電流負荷実験を行った以外は、比較例1と同様にした。
[比較例5]
電解液5を、1mol/LのKSCNのみを含むものに調整した以外は、実施例1と同様にした。
【0039】
【表1】
表1における実施例1~4及び比較例1~4において、いずれの負極4(アルミニウム合金)も電解液5中に残存しており、電解液5の放電限界まで放電が行えたと考えられる。
【0040】
表1に示すように、実施例1~3及び比較例1~3の電解液5を用いた高電流密度放電において、負極4のアルミニウム合金の種類に関わらず、添加剤を添加した場合に放電時間が延長した。なお、A5052のアルミニウム合金を用いた比較例1及び実施例1では、実施例1において放電時間がわずかに延長しただけだったものの、
図2に示す通り、放電電圧が大幅に上昇し優れた電池特性を示した。
【0041】
また、表1に示すように、実施例4及び比較例4のように低い電流密度放電、かつ高濃度の添加剤を加えた場合では、15%の放電時間の延長が可能であった。また、比較例5のように、添加剤としてKSCNのみを含む電解液5では、アルミニウム空気電池1として動作しなかった。これは、負極4の表面に生成した酸化被膜を破るだけの溶解性を持っていないためである。
【0042】
次いで、大容量のアルミニウム空気電池の実施例について説明する。
[実施例5]
(正極3の準備)
正極3として、マンガン化合物と炭素系素材(微粒子化したカーボン)とをフッ素系樹脂を用いてシート化し、そのシート状の正極3とニッケルメッシュ製の正極集電体6とを一体化したものを面積220×160mmで2枚準備した。
(負極4の準備)
負極4として、厚さ6mmのA5052のアルミニウム合金の板を230×125×6mmに切り出し、表面をサンドペーパーで研磨してエタノールで洗浄した後に空気中で1か月ほど保管した。
(電解液5の準備)
KOH(日本曹達株式会社製)を蒸留水に溶解し25℃で6mol/Lの溶液になるよう調整した後、KSCN(林純薬工業株式会社製)が0.1mol/Lになるよう添加した。
(評価セルの作成)
容積130×200×20mmの筐体2の両側面に130×190mmの開口を形成し、その開口面のそれぞれに正極3を固定した。それら2枚の正極3の中間位置において、負極4が190×125の面積で電解液5に浸るようにセットした。また、筐体2の下面に注液ポンプ、筐体2の側面にオーバーフローを設置し、動作試験時は4Lの電解液が毎分1.8Lのペースで循環するシステム(送液冷却システム)とした。
(放電試験)
電子負荷装置(菊水電子工業株式会社製、商品名:PLZ152WA)に接続し、15Aの負荷電流による発電電圧を横河電機株式会社製のMV100で記録した。
【0043】
図3は実施例5の大型アルミニウム空気電池1を15Aの負荷電流で放電させた場合の電圧変化である。1V以上の放電電圧を34.8時間維持した。これは、上述した電解液5におけるKOHや添加剤の濃度の調整により、自己放電によって電池特性が低下することと、電解液粘度の上昇によって送液冷却システムへの負担が増加することとを抑制できた結果であると考えられる。
【0044】
また、上述した通り、本発明のアルミニウム空気電池1は、電解液5に添加される添加剤により、電解液5の使用量を低減させつつ、アルミニウム一般材料を用いた場合においても、放電反応を継続させることができるものである。よって、実施例5のように、1V以上15Aの放電が24時間以上継続するような大容量の空気電池を構成した場合であっても、従来のアルミニウム空気電池に比べて小型かつ安価に製造することができる。