(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022036716
(43)【公開日】2022-03-08
(54)【発明の名称】高炉炉況状態判定装置、高炉の操業方法及び溶銑の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21B 7/24 20060101AFI20220301BHJP
C21B 5/00 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
C21B7/24
C21B5/00 311
C21B5/00 316
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020141068
(22)【出願日】2020-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】島本 拓幸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 友彦
(72)【発明者】
【氏名】山口 達也
【テーマコード(参考)】
4K012
4K015
【Fターム(参考)】
4K012BC03
4K012BC05
4K012BD01
4K015KA01
4K015KA03
(57)【要約】
【課題】高炉の温度分布の乱れの状態を自動で判定して分類する高炉炉況状態判定装置を提供する。また、高炉炉況状態判定装置の判定と分類の結果に基づいて高炉の温度分布の乱れを解消し、操業の自動化率を高めることが可能な高炉の操業方法及び溶銑の製造方法を提供する。
【解決手段】高炉の炉況状態を判定する高炉炉況状態判定装置1であって、高炉における原料装入面の直上の温度分布を計測する温度分布計測部2と、計測された温度分布のデータに基づいて、温度分布のパターンについて複数のクラスを出力するように学習された学習モデルを記憶する記憶部3と、記憶された学習モデルを用いて、温度分布計測部が計測する温度分布が複数のクラスのいずれであるかを判定する判定部5と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉の炉況状態を判定する高炉炉況状態判定装置であって、
前記高炉における原料装入面の直上の温度分布を計測する温度分布計測部と、
計測された前記温度分布のデータに基づいて、前記温度分布のパターンについて複数のクラスを出力するように学習された学習モデルを記憶する記憶部と、
記憶された前記学習モデルを用いて、前記温度分布計測部が計測する前記温度分布が前記複数のクラスのいずれであるかを判定する判定部と、を備える、高炉炉況状態判定装置。
【請求項2】
前記記憶部は、計測された前記温度分布のデータを記憶し、
記憶された前記データに基づいて、前記温度分布のパターンの複数のクラスを出力とする学習モデルを生成する学習モデル生成部をさらに備える、請求項1に記載の高炉炉況状態判定装置。
【請求項3】
前記学習モデル生成部は、畳み込みニューラルネットワークを用いて前記学習モデルを生成する、請求項2に記載の高炉炉況状態判定装置。
【請求項4】
前記学習モデル生成部及び前記判定部は、前記温度分布を1つ以上の閾値を用いて多値化する、請求項2又は3に記載の高炉炉況状態判定装置。
【請求項5】
前記学習モデルは、異常な前記温度分布のパターンの複数のクラスを出力とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の高炉炉況状態判定装置。
【請求項6】
前記複数のクラスは、高温部分が前記原料装入面の中心から外れた異常な前記温度分布のパターンのクラスと、前記高温部分が前記原料装入面の中心から周辺までつながる異常な前記温度分布のパターンのクラスと、を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の高炉炉況状態判定装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の高炉炉況状態判定装置によって判定された高炉の炉況状態に応じて操業条件を変更する、高炉の操業方法。
【請求項8】
請求項7に記載の高炉の操業方法によって操業される高炉を用いて溶銑を製造する溶銑の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高炉炉況状態判定装置、高炉の操業方法及び溶銑の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、低いコークス比(CR)及び高い微粉炭吹込み(PCI)流量で、高炉の操業が行われることがある。このような操業環境下において、高炉の炉況を早期かつ的確に把握ことは重要である。高炉は円筒形であるため、原料挿入の円周方向の偏り、反応の円周方向の偏り等が発生した場合に、出銑状態が円周方向にばらついて、操業状態が悪化するおそれがある。そのため、特に円周方向の偏りを早期かつ的確に検知することは重要である。
【0003】
円周方向の偏りを検知する一つの方法として、原料装入面の直上の温度分布を計測する方法がある。原料装入の偏り及び反応の偏りの少なくとも一方が発生した場合に、この温度分布の偏りとして現れることが知られている。従来、原料装入面の直上の温度分布は、炉内に差し込まれた熱電対で計測されることが多かった。熱電対は、原料挿入を邪魔しないように、通常4方向程度から差し込まれて、それぞれの半径方向おいて複数点の温度を計測する。ただし、4方向程度に限られるため、全体の温度分布を把握することは難しかった。また、耐久性がある熱電対は応答時間が遅いことが多い。そのため、高速で旋回する原料シュートによる原料の装入に対応してガスの温度変化を捉えることは難しかった。
【0004】
ここで、近年の技術向上により、原料装入面の直上の温度分布を高いサンプリング周期で収集することが可能となってきた。これにより、原料装入面の直上の温度分布をほぼリアルタイムで可視化すること、及び、温度分布の偏りなどの異常を把握することが可能になってきている。しかし、常時、温度分布の画面等の可視化情報を人間が監視するのは困難である。また、人間が異常を判断する場合、その判断基準が属人的となり、適切な判断を常に行うことも難しい。これに対し、特許文献1は、温度のばらつきを指標化することで適切な判定を行う高炉炉況状態判定装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、高炉炉況状態の異常を判定した場合に、異常解消のために高炉の操業を制御することが好ましい。しかし、温度分布の乱れの状態によって、異常解消のための高炉の制御内容は異なる。そのため、ただ異常を検知するだけでなく、人間の介在なしで温度分布の乱れの状態を判定して分類する技術が求められている。
【0007】
以上の問題を解決すべくなされた本開示の目的は、高炉の温度分布の乱れの状態を自動で判定して分類する高炉炉況状態判定装置を提供することにある。また、本開示の他の目的は、高炉炉況状態判定装置の判定と分類の結果に基づいて高炉の温度分布の乱れを解消し、操業の自動化率を高めることが可能な高炉の操業方法及び溶銑の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一実施形態に係る高炉炉況状態判定装置は、
高炉の炉況状態を判定する高炉炉況状態判定装置であって、
前記高炉における原料装入面の直上の温度分布を計測する温度分布計測部と、
計測された前記温度分布のデータに基づいて、前記温度分布のパターンについて複数のクラスを出力するように学習された学習モデルを記憶する記憶部と、
記憶された前記学習モデルを用いて、前記温度分布計測部が計測する前記温度分布が前記複数のクラスのいずれであるかを判定する判定部と、を備える。
【0009】
本開示の一実施形態に係る高炉の操業方法は、
上記の高炉炉況状態判定装置によって判定された高炉の炉況状態に応じて操業条件を変更する。
【0010】
本開示の一実施形態に係る溶銑の製造方法は、
上記の高炉の操業方法によって操業される高炉を用いて溶銑を製造する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、高炉の温度分布の乱れの状態を自動で判定して分類する高炉炉況状態判定装置を提供することができる。また、本開示によれば、高炉炉況状態判定装置の判定と分類の結果に基づいて高炉の温度分布の乱れを解消し、操業の自動化率を高めることが可能な高炉の操業方法及び溶銑の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る高炉炉況状態判定装置の構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、本開示の一実施形態に係る高炉炉況状態判定装置が実行する学習、判定及び表示の流れを示す図である。
【
図3】
図3は、畳み込みニューラルネットワークを用いた学習の流れを示す図である。
【
図5】
図5は、変形例に係る高炉炉況状態判定装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本開示を適用した高炉の炉況状態を判定する高炉炉況状態判定装置1、高炉の操業方法及び溶銑の製造方法の一実施形態について説明する。
【0014】
(装置の構成)
図1に示すように、本実施形態に係る高炉炉況状態判定装置1は、温度分布計測部2と、記憶部3と、判定部5と、表示部6と、を備える。また、高炉炉況状態判定装置1は、学習モデル生成装置10と通信可能に構成され、学習モデル生成装置10との間で後述する学習モデル及び学習用データの入出力を実行する。本実施形態において、学習モデル生成装置10は学習モデル生成部4を備える。
【0015】
温度分布計測部2は、鉄鉱石を原料として銑鉄を生産する高炉の内部において、高炉の頂部から装入された原料からなる層の最上面である原料装入面の直上にある空間の温度分布を計測する。温度分布計測部2は、高炉における原料装入面の直上の温度分布を高速に(例えば10sec以内)計測する各種のセンサ又は装置であり得る。本実施形態において、温度分布計測部2は、音速の温度依存性を利用する温度計測装置である。温度分布計測部2は、例えば高炉炉頂の円周上に8個のトランシーバを設置し、原料装入面に向けて音波を発受信し、音波の発信から受信までの時間に基づいて温度を測定する。
【0016】
記憶部3は、計測された温度分布のデータに基づいて、温度分布のパターンについて複数のクラスを出力するように学習された学習モデルを記憶する。学習モデルは、学習モデル生成部4によって生成されて(学習されて)、学習済みとなった後に記憶部3に記憶される。また、記憶部3は、温度分布計測部2によって計測された温度分布のデータを記憶する。温度分布計測部2によってリアルタイムに高炉における原料装入面の直上の温度分布が計測され、記憶部3は温度分布のデータを蓄積する。学習モデル生成部4が学習モデルを生成する場合に、記憶部3が蓄積した温度分布のデータは学習用データとして使用される。また、判定部5が高炉の炉況状態を判定する場合に、記憶部3を介して、温度分布計測部2からのリアルタイムの温度分布のデータが判定部5によって取得される。また、判定部5が高炉の炉況状態を判定する場合に、記憶部3に記憶された学習モデルが判定部5によって取得される。
【0017】
学習モデル生成部4は、記憶部3に記憶された温度分布のデータに基づいて、温度分布のパターンの複数のクラスを出力とする学習モデルを生成する。クラスは、温度分布のパターンが分類される集合又はグループである。本実施形態において使用されるクラスの詳細については後述する。
【0018】
判定部5は、記憶部3に記憶された学習モデル(学習済みモデル)を用いて、高炉の炉況状態を判定する。本実施形態において、高炉の炉況状態の異常を検知するために、判定部5は、温度分布計測部2が計測する温度分布が複数のクラスのいずれであるかを判定する。本実施形態において、複数のクラスは、異常な温度分布のパターンが分類される少なくとも2つのクラスを含む。つまり、判定部5は、異常な温度分布のデータを取得した場合に、単純に異常と判定するのでなく、パターンに応じて複数のクラスのいずれかに分類されるかを判定する。ここで、本実施形態における異常な温度分布のパターンは、高炉の円周方向における原料装入の偏り及び反応の偏りによって生じ得る温度分布のパターンを少なくとも含む。
【0019】
表示部6は、判定部5の判定結果を画像によってオペレータに提示する。表示部6は、さらに音を出力する機能を備えて、画像と共に警報をオペレータに発してよい。オペレータは例えば高炉の操業の作業者である。高炉炉況状態判定装置1によって判定された高炉の炉況状態は、高炉の操業方法において操業条件を変更することに用いられ得る。表示部6に示された画像から炉況の異常を知ったオペレータは、高炉の円周方向における原料装入の偏り及び反応の偏りを抑制するように、高炉の操業条件を変更する。高炉の操業条件の変更は、例えばコークス比の変更を含んでよい。高炉の操業条件の変更は、例えば送風流量の変更を含んでよい。また、例えば高炉の円周方向において原料をどのように装入するかといった装入物制御パターンがあらかじめ複数設定されている場合に、高炉の操業条件の変更は、装入物制御パターンの変更を含んでよい。また、上記の高炉の操業は、溶銑を製造する製造方法の一部として実行され得る。高炉において、原料の鉄鉱石が溶解、還元されて銑鉄となり、溶銑として出銑される。高炉から出銑した溶銑は、溶銑予備処理工程でイオウ、リンなどの不純物が除去される。さらに転炉で精練が行われて、炭素が除去される。
【0020】
高炉炉況状態判定装置1の記憶部3、判定部5及び表示部6は、温度分布計測部2から計測された温度分布のデータを取得するコンピュータで実現されてよい。コンピュータは、例えばメモリ(記憶装置)、CPU(処理装置)、ハードディスクドライブ(HDD)、ディスプレイなどの表示装置を制御する表示制御部を備える。オペレーティングシステム(OS)及び各種の処理を実施するためのアプリケーションプログラムは、ハードディスクドライブに格納することができ、CPUにより実行される際にはハードディスクドライブからメモリに読み出される。必要に応じてCPUは、表示制御部を制御してディスプレイに必要な画像を表示させる。また、処理途中のデータについては、メモリに格納され、必要があればHDDに格納される。各種機能は、CPU、メモリ等のハードウエアとOS及び必要なアプリケーションプログラムとを有機的に協働させることにより実現される。記憶部3は、例えばメモリ及びハードディスクドライブで実現されてよい。判定部5は、例えばCPUで実現されてよい。また、表示部6は、例えば表示制御部及びディスプレイで実現されてよい。
【0021】
学習モデル生成装置10の学習モデル生成部4は、高炉炉況状態判定装置1と別のコンピュータで実現されてよい。学習モデル生成部4は例えばCPUで実現されてよい。本実施形態において、学習済みモデルは上記のように記憶部3に記憶されるが、別の例として、学習モデル生成装置10のメモリ又はハードディスクドライブに記憶されてよい。この場合に、判定部5は、高炉の炉況状態を判定するときに、学習モデル生成装置10のメモリ又はハードディスクドライブにアクセスして学習済みモデルを読みだしてよい。また、本実施形態において、学習用データは上記のように記憶部3に記憶されるが、別の例として、学習モデル生成装置10のメモリ又はハードディスクドライブに記憶されてよい。この場合に、学習モデル生成部4は、学習モデル生成装置10のメモリ又はハードディスクドライブにアクセスして学習用データを読みだしてよい。
【0022】
ここで、
図1の高炉炉況状態判定装置1の構成は一例であり、構成要素の一部を含まなくてよい。また、高炉炉況状態判定装置1は別の構成要素を備えてよい。例えば、高炉炉況状態判定装置1は、表示部6を省略した構成であってよい。このとき、高炉炉況状態判定装置1は、判定部5の判定結果をネットワーク経由でオペレータの端末装置に出力する通信部を備えてよい。
【0023】
(高炉炉況状態判定方法)
図2は、高炉炉況状態判定装置1が実行する高炉炉況状態判定方法のおおまかな流れを示す図である。高炉炉況状態判定方法は、学習、判定及び表示の工程に分かれている。
図2において、オンラインは高炉の操業の一部として処理が実行されることを示す。逆に、オフラインは高炉の操業と切り離されて処理が実行されることを示す。
【0024】
高炉炉況状態判定装置1は、オフラインで、学習モデル生成装置10に対して学習モデルを生成させる。例えば高炉炉況状態判定装置1からの指令をトリガとして、まず学習モデル生成部4は、記憶部3に蓄積された温度分布のデータの中から選択されたものをラベル付き画像データとして取得する。学習モデル生成部4は、ラベル付き画像データを用いて学習モデルを生成する(ステップS1)。学習モデル及び学習の詳細については後述する。別の例として、学習モデル生成装置10は、高炉炉況状態判定装置1からの指令を待つことなく、学習モデルの生成を開始してよい。つまり、判定部5が炉況状態を判定する前に学習済みのモデルが記憶部3に記憶される限り、学習モデル生成装置10が主体となってステップS1を実行してよい。
【0025】
判定部5は、記憶部3から記憶された学習モデルを読みだす。また、判定部5は、温度分布計測部2からのリアルタイムの温度分布のデータを、記憶部3を介して取得する。判定部5は、オンラインで、学習モデルにリアルタイムの温度分布の画像データを入力して、高炉の炉況状態を判定する(ステップS2)。本実施形態において、判定部5は、炉況状態の判定として、リアルタイムの温度分布が異常な温度分布のパターンのクラスに分類されるか否かを判定する。
【0026】
その後、表示部6は、判定部5の判定結果を画像で表示する(ステップS3)。画像は、オペレータが異常な温度分布のパターンのクラスに分類されるか否かを把握可能なものであればよく、特定の形式に限定されない。画像から炉況の異常を知ったオペレータは、高炉の操業条件を変更してよい。
【0027】
(学習モデル)
原料が正常に装入されている場合、すなわち原料装入の偏りがない場合に、原料装入面の直上の温度分布は同心円状の分布となることが知られている。また、反応の偏りがない場合にも、同心円状の分布となることが知られている。反対に、原料の偏りがあったり、原料降下速度がばらついたりして原料装入の偏りがある場合に、温度分布に乱れが生じて同心円状とならない。したがって、温度分布の乱れを画像化して分類し、リアルタイムの温度分布の画像がどの乱れに該当するかを高炉炉況状態判定装置1に判定させることによって、人間の介在を必要としない炉況の自動判定が可能になる。本実施形態において、判定に用いられる学習モデルは、記憶部3に蓄積された温度分布のデータの中から選択される乱れた温度分布を有するものを学習用データとして学習することによって生成される。
【0028】
学習用データとして選択される温度分布のデータは、画像化した場合に、以下に説明する異常な温度分布のパターンを有するものを含む。以下に説明する異常な温度分布のパターンは、高炉の操業において異常を引き起こす可能性があることが知られている。
【0029】
第1の異常な温度分布のパターンは、高温部分が原料装入面の中心から外れている。高炉が円筒形であるため原料装入面の形状は円であるが、高温部分がその中心を含まないパターンである。高炉は操業を安定化させるために通気が重要である。そのため、高炉の中心部をガスが通過しやすいように、原料が分布される。正常な場合に、原料装入面の直上の温度分布は中心部の温度が高い。第1の異常な温度分布のパターンは、原料装入の分布の偏りによって生じ得る。例えば原料装入の分布を修正することによって、高炉の操業を正常化させることが可能である。以下において、第1の異常な温度分布のパターンに分類される温度分布のパターンが属するクラスは、第1のクラスと称される。
【0030】
第2の異常な温度分布のパターンは、高温部分が原料装入面の中心から周辺までつながる。高温部分が原料装入面の中心を含むが、その高温部分が原料装入面の周辺(円周部分)までつながっており、温度分布が同心円状ではないパターンである。上記の説明のとおり、正常な場合に中心部の温度が高いため、中間部(中心部と周辺との間)は相対的に温度が低くなる。第2の異常な温度分布のパターンは、原料装入の偏り及び反応の偏りの少なくとも1つによって生じると考えられる。以下において、第2の異常な温度分布のパターンに分類される温度分布のパターンが属するクラスは、第2のクラスと称される。
【0031】
学習用データとして選択される温度分布のデータは、上記に従って「ラベル付け」が行われる。例えば、第1のクラスに分類される温度分布の画像データに「1」とラベルが付され、第2のクラスに分類される温度分布の画像データに「2」とラベルが付されてよい。
【0032】
(学習)
図3は、学習モデル生成部4が行う学習の流れを示す図である。学習モデル生成部4は、上記の学習用データを取得し、インプットデータを作成して学習させて、学習モデルを生成する。本実施形態において、学習モデル生成部4は、ディープラーニングの一手法である畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional neural network:以下、CNN)を用いて学習する。CNNは、画像認識が可能な画像処理に特化した手法である。ここで、学習モデル生成部4の学習の手法は、CNNに限定されず、パターン画像識別が可能な他の手法であってよい。
【0033】
ここで、学習モデル生成部4は、学習用データとして選択される温度分布を1つ以上の閾値を用いて多値化してから画像データとして用いる。本実施形態において、学習モデル生成部4は2値化した画像データを用いる。
図3において学習用データとして示されている画像の例では、閾値以上の温度の部分が高温部分に対応し、黒色で表示されている。閾値は、一例として150℃であるが、これに限定されない。閾値は、正常に操業されている高炉の原料装入面の中心部の温度と中間部の温度との間の温度に設定されてよい。
【0034】
学習モデル生成部4は、上記の画像データを適当なサイズ(画素大きさ)で区切り、区切られたデータ毎に平均を取って、そのデータをCNNの入力データとする。学習モデル生成部4は、温度分布のパターンが把握可能な範囲で、区切られる画像のサイズを大きくしてよい。一例として、学習モデル生成部4は、画像データを、縦横それぞれの方向で10分割してよい。逆に、学習モデル生成部4を実現するCPUの性能が十分高いような場合であって、CNNによる学習を現実的な時間内で実行可能であるときに、学習モデル生成部4は、画像データを区切ることなく画素単位で入力データとしてよい。
【0035】
図3に示されるCNNの入力層は上記の入力データが対応する。また、中間層は特徴量が対応する。また、出力層は、温度分布のパターンが複数のクラスのいずれに分類されるかの判定に対応する。学習モデル生成部4は、このような手法によって学習モデルを生成する。学習モデル生成部4は、生成した学習モデルを、記憶部3に記憶させてよい。ここで、学習用データとして用いられる画像データは、中心対称の構造を有する高炉の原料装入面の温度分布である。そのため、原料装入面の中心を軸に、画像データを回転させたデータも学習に用いることができる。つまり、学習モデル生成部4は、もとの画像データ及びそれを回転させた画像データを用いることによって入力データの数を増やし、効率的に学習することが可能である。
【0036】
(異常の判定)
判定部5は、学習モデル生成部4によって生成された学習モデルを用いて、高炉の炉況状態を判定する。高炉の炉況状態を判定する場合に、判定部5は記憶部3から学習モデルを読みだしてよい。また、判定部5は、温度分布計測部2からのリアルタイムの温度分布のデータを、記憶部3を介して取得する。判定部5は、学習モデル生成部4と同様に、取得した温度分布を1つ以上の閾値を用いて多値化してから画像データとして用いる。また、判定部5は、画像データを学習モデル生成部4と同様に適当なサイズで区切り、区切られたデータ毎に平均を取って、そのデータを学習モデルに入力する。学習モデルの出力として、判定結果が得られる。本実施形態において、学習モデルの出力は、異常な温度分布のパターンの複数のクラス(第1のクラスに対応する「1」及び第2のクラスに対応する「2」)である。例えばリアルタイムの温度分布が、高温部分が中心から外れたパターンである場合に、学習モデルは「1」を出力する。また、例えばリアルタイムの温度分布が、高温部分が原料装入面の中心から周辺までつながるパターンである場合に、学習モデルは「2」を出力する。
【0037】
表示部6は、判定部5の判定結果を画像によってオペレータに提示する。表示部6は、例えば温度分布の画像と、該当している異常な温度分布のパターンとを表示してよい。例えば、学習モデルが「1」を出力した場合に、表示部6は、温度分布の画像とともに「第1のクラス」と表示してよい。ここで、第1のクラスにも第2のクラスにも該当しないと判定されたパターンについて、表示部6は、温度分布の画像とともに「第3のクラス」と表示してよい。
【0038】
オペレータは判定結果に基づいて高炉操作を行ってよい。オペレータは例えば第1のクラス(高温部分が中心から外れたパターン)の場合で、異なる装入物制御パターンで対応可能なとき、装入物制御パターンを変更する操作を行う。オペレータは例えば第1のクラス以外の場合に、今後の操業が安定するような操作条件の変更を実施してよい。今後の操業が安定するような操作条件の変更は、例えばコークス比の増加、PCI比の減少、送風流量の減少等である。
【実施例0039】
以下、実施例を用いて、本開示が具体的に説明される。温度分布計測部2は、上記の音速の温度依存性を利用する温度計測装置であって、銑鉄を生産する高炉に設けられている。温度分布の計測のサンプリング周期は10secである。
【0040】
本実施例において、上記の第1の異常な温度分布のパターン(高温部分が中心を含まないパターン)及び第2の異常な温度分布のパターン(高温部分が原料装入面の中心を含むが、その高温部分が原料装入面の周辺までつながっており、温度分布が同心円状ではないパターン)に対して検知が行われた。
【0041】
まず、これらの異常な温度分布のパターンについて、CNNを用いて学習が行われた。学習用データとして、記憶部3に蓄積された温度分布のデータの中から、人間によって、これらの異常な温度分布のパターンに該当するものが、それぞれ50サンプル程度選び出された。選択された温度分布のデータの画像データを30°ずつ回転させて、サンプル数を増やしてから学習が行われた。もとのサンプルと回転によって得られたサンプルを合わせた数は約7000である。また、本実施例において、異常パターンをわかりやすくするために、温度に閾値を設けて二値化が行われた。二値化の閾値は150℃とした。ただし、二値化の操作は本開示の本質的な処理でない。つまり、二値化は省略されてよい。
【0042】
上記の学習(CNN)で得られた学習モデルについて、学習用データと異なるデータを使って判定精度が検証された。検証の結果、90.3%の判定正解率が得られた。
図4は、この検証における判定結果を例示する。
【0043】
また、第1のクラスにも、第2のクラスにも当てはまらない温度分布のパターンを区別する(第3のクラスに分類する)ことが可能であることを確認した。
【0044】
以上のように、本開示による高炉炉況状態判定装置1は、高炉の温度分布の乱れの状態を自動で判定して分類することができる。また、高炉の操業方法及び溶銑の製造方法において、高炉炉況状態判定装置1の判定と分類の結果に基づいて高炉の温度分布の乱れを解消し、操業の自動化率を高めることが可能である。
【0045】
本開示を図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形及び修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形及び修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各手段、各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段及びステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0046】
上記の実施形態の学習において、第1の異常な温度分布のパターンとして、高温部分が中心を含まない画像データを選択した。すなわち、高温部分が原料装入面の中心点を含むか否かで画像データの選択が行われた。ここで、中心点ではなく、一定の大きさを有する中心部分と高温部分とが重なるか否かで画像データの選択が行われてよい。
【0047】
また、
図5に示すように、高炉炉況状態判定装置1はさらに学習モデル生成部4を備える構成であってよい。つまり、高炉炉況状態判定装置1は、温度分布計測部2と、記憶部3と、学習モデル生成部4と、判定部5と、表示部6と、を備えてよい。